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特許7057421インプリント用硬化性組成物、離型剤、硬化物、パターン形成方法およびリソグラフィー方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】インプリント用硬化性組成物、離型剤、硬化物、パターン形成方法およびリソグラフィー方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/48 20060101AFI20220412BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20220412BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20220412BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C08F2/48
C08F2/44 Z
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020510018
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012323
(87)【国際公開番号】W WO2019188882
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2018060919
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】袴田 旺弘
(72)【発明者】
【氏名】下重 直也
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158979(WO,A1)
【文献】特開2015-179807(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104670(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104669(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002833(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152597(WO,A1)
【文献】特表2018-506863(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195586(WO,A1)
【文献】特開2015-128134(JP,A)
【文献】特開2014-090133(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025739(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)のいずれかの構造を有する単官能重合性化合物、
光重合開始剤および
下記式(I)または式(II)で表される離型剤
を含む、インプリント用硬化性組成物;
:単官能重合性化合物
(1)炭素数8以上の直鎖アルキル基
(2)炭素数10以上の分岐アルキル基
(3)炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した、脂環、芳香族環または芳香族複素環
:離型剤
-(Bx1-(Dy1-(Ez1-F :式(I)
式(I)において、Aは炭素数4~11の直鎖の脂肪族炭化水素基または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、Aがフッ素原子を有することはなく、BはAとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、x1は0または1であり、Dはアルキレンオキシド構造であり、EはFとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、Fは極性官能基であり、y1は0~30の整数であり、z1は0または1である;
-(Bx2-(Dy2-(Ez2-F :式(II)
式(II)において、Aは炭素数4~11の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、Aがフッ素原子を有することはなく、BはAとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、 は酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、-NR -、スルホニル基、-SO -若しくはこれらの組合せ、又は、芳香環構造を有する連結基であり、R は水素原子またはアルキル基であり、x2は0または1であり、Dはアルキレンオキシド構造であり、EはFとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、 は酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、-NR -、スルホニル基、-SO -若しくはこれらの組合せ、又は、芳香環構造を有する連結基であり、R は水素原子またはアルキル基であり、 は炭素数4~11の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基であり、Fがフッ素原子を有することはなく、y2は0~20の整数であり、z2は0または1である;但し、y2が0のときは、x2及びz2のいずれかが1であり、またはEが極性官能基を含む。
【請求項2】
前記E が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、-NR -、スルホニル基、-SO -若しくはこれらの組合せである、請求項1に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項3】
前記E が酸素原子又は-SO -である、請求項1又は2に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項4】
前記B が酸素原子又は-SO -である、請求項1~3のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項5】
前記F がヒドロキシル基又はカルボキシル基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項6】
前記B が芳香環構造を有する連結基である、請求項1~5のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項7】
前記z1が0である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項8】
が炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基である離型剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項9】
は炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、かつFが炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基である離型剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項10】
前記y1およびy2がそれぞれ独立に5~20の整数である、請求項1~のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項11】
前記x1およびx2が0である、請求項1~10のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項12】
式(I)において、Aは炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、y1は5~20の整数であるか、
式(II)において、Aは炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、F は炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基であり、y2は5~20の整数である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項13】
前記F が炭素数4~11の直鎖の脂肪族炭化水素基、又は炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基である、請求項1~11のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項14】
前記離型剤の重量平均分子量が300~1000である、請求項1~13のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項15】
前記離型剤の含有量が不揮発性成分中0.5質量%以上7.0質量%以下である、請求項1~14のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項16】
前記インプリント用硬化性組成物に含まれる重合性化合物が、23℃において33mN/m以上の表面張力を示す、請求項1~15のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項17】
前記インプリント用硬化性組成物に含まれる重合性化合物の粘度が20mPa・s以下であり、かつ、組成物中の溶剤含有量がインプリント用硬化性組成物の3質量%以下である、請求項1~16のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項18】
前記インプリント用硬化性組成物の23℃における表面張力が28mN/m以上38mN/mである、請求項1~17のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項20】
前記硬化物が、シリコン基板の上に設けられている、請求項19に記載の硬化物。
【請求項21】
請求項1~18のいずれか1項に記載のインプリント用硬化性組成物を、基板上またはモールド上に適用し、前記インプリント用硬化性組成物を、前記モールドと前記基板で挟んだ状態で光照射することを含むパターン形成方法。
【請求項22】
前記パターンのサイズが20nm以下のライン、ホール、ピラーのいずれかの形状を含む請求項21に記載のパターン形成方法。
【請求項23】
請求項21または22に記載のパターン形成方法で得られたパターンをマスクとしてエッチングを行う、リソグラフィー方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント用硬化性組成物、離型剤、硬化物、パターン形成方法およびリソグラフィー方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント法とは、パターンが形成された金型(一般的にモールド、スタンパと呼ばれる)を押し当てることにより、材料に微細パターンを転写する技術である。インプリント法を用いることで簡易に精密な微細パターンの作製が可能なことから、近年さまざまな分野での応用が期待されている。特に、ナノオーダーレベルの微細パターンを形成するナノインプリント技術が注目されている。
インプリント法としては、その転写方法から熱インプリント法、光インプリント法と呼ばれる方法が提案されている。熱インプリント法では、ガラス転移温度(以下、「Tg」ということがある)以上に加熱した熱可塑性樹脂にモールドをプレスし、冷却後にモールドを離型することにより微細パターンを形成する。この方法は多様な材料を選択できるが、プレス時に高圧を要すること、熱収縮等により微細なパターン形成が困難であるといった問題点も有する。
【0003】
一方、光インプリント法では、インプリント用硬化性組成物にモールドを押し当てた状態で光硬化させた後、モールドを離型する。あるいは、モールド側にインプリント用硬化性組成物を塗布し、そこに基板を押し当てる形態でもよい。いずれにせよ、未硬化物への光照射によるインプリントのため、高圧、高温加熱の必要はなく、簡易に微細なパターンを形成することが可能である。
光インプリント法では、基板(必要に応じて密着処理を行う)上にインプリント用硬化性組成物を塗布後、石英等の光透過性素材で作製されたモールドを押し当てる。モールドを押し当てた状態で光照射によりインプリント用硬化性組成物を硬化し、その後モールドを離型することで目的のパターンが転写された硬化物が作製される。
基板上にインプリント用硬化性組成物を適用する方法としては、スピンコート法やインクジェット法が挙げられる。特にインクジェット法は、インプリント用硬化性組成物のロスが少ないといった観点から、近年注目される適用方法である。
【0004】
また、転写したインプリントパターンをマスクとして微細加工を行う方法はナノインプリントリソグラフィー(NIL)と呼ばれ、現行のArF液浸プロセスに代わる次世代リソグラフィー技術として開発が進められている。そのため、NILに用いられるインプリント用硬化性組成物は、極端紫外線(EUV)レジストと同様、20nm以下の超微細パターンが解像可能であり、かつ加工対象を微細加工する際のマスクとして高いエッチング耐性が必要となる。加えて、量産時にはスループット(生産性)も重視されるため、パターン充填性(充填時間短縮)およびモールドとの離型性(離型時間短縮)といったナノインプリント適性も求められる。
【0005】
上述したインプリント法に適用できるインプリント用硬化性組成物を開示するものとしては、特許文献1~8が知られている。特許文献1~3では、エッチング耐性の高いアクリレートモノマーとしてフェニルエチレングリコールジアクリレートが用いられている。また、特許文献4では、脂環構造および芳香環構造の少なくとも一方を含む多官能アクリレートが用いられている。さらに、特許文献5および6ではエッチング耐性を向上させるため、シリコンを含んだアクリレートモノマーが用いられている。特許文献7は、液体状態と固体状態の物性を規定した、界面活性剤と重合可能な成分と応答して粘度を変化させるために刺激に応答する開始剤とを含む組成物からなるインプリント材料を開示する。特許文献8では、モールドへの充填速度と離型性を考慮して、内添型離型剤として、硬化性組成物の気液界面に偏在しないものを採用している。さらに特許文献9では離型性を改良するために炭化水素基を含んだ重合性化合物が採用させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-179807号公報
【文献】特開2016-029138号公報
【文献】特開2016-030829号公報
【文献】特開2013-189537号公報
【文献】特開2011-251508号公報
【文献】特開2015-130535号公報
【文献】特表2007-523249号公報
【文献】特開2015-128134号公報
【文献】国際公開第2016/152597号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インプリント法については、近時ますます開発が盛んになっている。それに伴い、要求される特性も格段に厳しくなっており、様々なニーズに応じた特性が高いレベルで求められるようになっている。その中の1つとして、モールドからの離型性が挙げられる。インプリント法では、上述したように、基板またはモールドにインプリント用硬化性組成物を塗布後、両者を押圧する形でインプリント用硬化性組成物に型付けし、これを硬化する。その後、モールドを、インプリント用硬化性組成物の硬化物(硬化膜、インプリント層ともいう)から離型して所望のパターンの硬化物を得る。このときに、基板と硬化物との接着力が十分に高くないと、モールド剥離時に、モールドと共に硬化物の一部または全部が剥離されてしまう。したがって、硬化物を基板側に接着させた状態で、モールドから的確に離型するために、離型剤または特定の重合性化合物が用いられている。
一方、インプリント用硬化性組成物は、モールドに忠実なパターンを形成することが求められる。そのため、モールドへの充填性が求められる。しかしながら、一般的に離型剤や特定の重合性化合物を配合するとモールドへの充填性が劣る傾向にある。
本発明は、かかる課題を解決することを目的としたものであって、離型性と充填性の両立を可能とするインプリント用硬化性組成物、離型剤、硬化物、パターン形成方法およびリソグラフィー方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる状況のもと、本発明者が検討を行った結果、インプリント用硬化性組成物に特定の離型剤を採用することで上記課題を解決できることが分かった。具体的には、下記手段<1>、好ましくは、<2>~<18>により、上記課題は解決された。
【0009】
<1>下記(1)~(3)のいずれかの構造を有する単官能重合性化合物、
光重合開始剤および
下記式(I)または式(II)で表される離型剤
を含む、インプリント用硬化性組成物;
:単官能重合性化合物
(1)炭素数8以上の直鎖アルキル基
(2)炭素数10以上の分岐アルキル基
(3)炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した、脂環、芳香族環または芳香族複素環
:離型剤
-(Bx1-(Dy1-(Ez1-F :式(I)
式(I)において、Aは炭素数4~11の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、Aがフッ素原子を有することはなく、BはAとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、x1は0または1であり、Dはアルキレンオキシド構造であり、EはFとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、Fは極性官能基であり、y1は0~30の整数であり、z1は0または1である;
-(Bx2-(Dy2-(Ez2-F :式(II)
式(II)において、Aは炭素数4~11の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、Aがフッ素原子を有することはなく、BはAとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、x2は0または1であり、Dはアルキレンオキシド構造であり、EはFとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、Fは水素原子、炭素数4~11の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基であり、Fがフッ素原子を有することはなく、y2は0~30の整数であり、z2は0または1である;但し、y2が0のときは、BまたはEが極性官能基を含む。
<2> Aが炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基である離型剤を含む、<1>に記載のインプリント用硬化性組成物。
<3> Aは炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、かつFが炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基である離型剤を含む、<1>に記載のインプリント用硬化性組成物。
<4> 上記極性官能基がヒドロキシル基、アミノ基、スルホニル基含有基、スルフィノ基、スルホンイミドイル基含有基およびカルボキシル基からなる群から選ばれる、<1>~<3>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<5> 上記y1およびy2がそれぞれ独立に5~20の整数である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<6> 上記x1およびx2が0である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<7> 式(I)において、Aは炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、y1は5~20の整数であるか、
式(II)において、Aは炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、Fは水素原子、炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基であり、y2は5~20の整数である、<1~6のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<8> 上記離型剤の重量平均分子量が300~1000である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<9> 上記離型剤の含有量が不揮発性成分中0.5質量%以上7.0質量%以下である、<1>~<8>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<10> 上記インプリント用硬化性組成物に含まれる重合性化合物が、23℃において33mN/m以上の表面張力を示す、<1>~<9>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<11> 上記インプリント用硬化性組成物に含まれる重合性化合物の粘度が20mPa・s以下であり、かつ、組成物中の溶剤含有量がインプリント用硬化性組成物の3質量%以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<12> 上記インプリント用硬化性組成物の23℃における表面張力が28mN/m以上38mN/mである、<1>~<11>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物。
<13> 下記式(I)または式(II)で表される離型剤;
-(Bx1-(Dy1-(Ez1-F :式(I)
式(I)において、Aは炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、Aがフッ素原子を有することはなく、BはAとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、x1は0または1であり、Dはアルキレンオキシド構造であり、EはFとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、Fは極性官能基であり、y1は5~20の整数であり、z1は0または1である;
-(Bx2-(Dy2-(Ez2-F :式(II)
式(II)において、Aは炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基を表し、Aがフッ素原子を有することはなく、BはAとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、x2は0または1であり、Dはアルキレンオキシド構造であり、EはFとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、Fは水素原子、炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基であり、Fがフッ素原子を有することはなく、y2は5~20の整数であり、z2は0または1である;但し、y2が0のときは、BまたはEが極性官能基を含む。
<14> インプリント用硬化性組成物用である、<13>に記載の離型剤。
<15> <1>~<12>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物を硬化してなる硬化物。
<16> 上記硬化物が、シリコン基板の上に設けられている、<15>に記載の硬化物。
<17> <1>~<12>のいずれか1つに記載のインプリント用硬化性組成物を、基板上またはモールド上に適用し、上記インプリント用硬化性組成物を、上記モールドと上記基板で挟んだ状態で光照射することを含むパターン形成方法。
<18> 上記パターンのサイズが20nm以下のライン、ホール、ピラーのいずれかの形状を含む<17>に記載のパターン形成方法。
<19> <17>または<18>に記載のパターン形成方法で得られたパターンをマスクとしてエッチングを行う、リソグラフィー方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、優れた離型性と良好な充填性の両立を可能とするインプリント用硬化性組成物、離型剤、硬化物、パターン形成方法およびリソグラフィー方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。
本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを表し、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルを表し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルおよびメタクリロイルを表す。「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシおよびメタクリロイルオキシを表す。
本明細書において、「インプリント」は、好ましくは、1nm~10mmのサイズのパターン転写をいい、より好ましくは、およそ10nm~100μmのサイズ(ナノインプリント)のパターン転写をいう。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「光」には、紫外、近紫外、遠紫外、可視、赤外等の領域の波長の光や、電磁波だけでなく、放射線も含まれる。放射線には、例えばマイクロ波、電子線、極端紫外線(EUV)、X線が含まれる。また248nmエキシマレーザー、193nmエキシマレーザー、172nmエキシマレーザーなどのレーザー光も用いることができる。これらの光は、光学フィルタを通したモノクロ光(単一波長光)を用いてもよいし、複数の波長の異なる光(複合光)でもよい。
本発明における沸点測定時の気圧は、特に述べない限り、1013.25hPa(1気圧)とする。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本発明のインプリント用硬化性組成物は、特定の重合性化合物、光重合開始剤および後述の式(I)または式(II)で表される離型剤を含むことを特徴とする。以下、本発明の詳細について、説明する。
【0013】
<インプリント用硬化性組成物>
<<重合性化合物>>
<<<単官能重合性化合物>>>
本発明のインプリント用硬化性組成物は下記(1)~(3)のいずれかの構造を有する単官能重合性化合物(以下、これを「特定の単官能重合性化合物」と呼ぶことがある)を含有する。
(1)炭素数8以上の直鎖アルキル基
(2)炭素数10以上の分岐アルキル基
(3)炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した、脂環、芳香族環または芳香族複素環(すなわち、炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した脂環、炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した芳香族環、あるいは炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した芳香族複素環)
【0014】
(1)炭素数8以上の直鎖アルキル基
炭素数8以上の直鎖アルキル基は、炭素数10以上のものがより好ましく、炭素数11以上がさらに好ましく、炭素数12以上が一層好ましい。また、炭素数20以下が好ましく、炭素数18以下がより好ましく、炭素数16以下がさらに好ましく、炭素数14以下が一層好ましい。
(2)炭素数10以上の分岐アルキル基
上記炭素数10以上の分岐アルキル基は、炭素数10~20のものが好ましく、炭素数10~16がより好ましく、炭素数10~14がさらに好ましく、炭素数10~12が一層好ましい。
(3)炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した脂環、炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した芳香族環、あるいは炭素数1以上の直鎖の分岐のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基が置換した芳香族複素
炭素数1以上の直鎖のアルキル基または炭素数3以上の分岐のアルキル基は、炭素数1以上の直鎖の直鎖のアルキル基がより好ましい。炭素数1以上の直鎖の直鎖のアルキル基の炭素数は4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。分岐のアルキル基の炭素数は4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましい。炭素数1以上の直鎖のアルキル基の炭素数は、14以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
脂環、芳香族環または芳香族複素環の環は、単環であっても縮環であってもよいが、単環であることが好ましい。縮環である場合は、環の数は、2つまたは3つが好ましい。環は、3~8員環が好ましく、5員環または6員環がより好ましく、6員環がさらに好ましい。環の具体例としては、後述する環Czの例が挙げられる。
【0015】
(3)の構造は下記式(A1)で表される構造であることが好ましい。
【化1】
式中、Arは芳香族環であり、炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい。具体的には、ベンゼン環またはナフタレン環が好ましい。Arは本発明の効果を奏する範囲で置換基Tを有していてもよい。Rは、(3)で規定される直鎖のアルキル基または分岐のアルキル基であり、好ましい範囲も同じである。*は結合位置を表す。
【0016】
特定の単官能重合性化合物の分子量は、50以上が好ましく、100以上がより好ましく、150以上がさらに好ましい。分子量は、また、1000以下が好ましく、800以下がより好ましく、300以下がさらに好ましく、270以下が一層好ましい。分子量を上記下限値以上とすることで、揮発性を抑制できる傾向がある。分子量を上記上限値以下とすることで、粘度を低減できる傾向がある。
特定の単官能重合性化合物の沸点は、85℃以上であることが好ましく、110℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。沸点を上記下限値以上とすることで、揮発性を抑制することができる。沸点の上限値については、特に定めるものでは無いが、例えば、沸点を350℃以下とすることができる。
特定の単官能重合性化合物の少なくとも一部は23℃で液体であることが好ましく、インプリント用硬化性組成物に含まれる重合性化合物の15質量%以上が23℃で液体であることがさらに好ましい。
【0017】
特定の単官能重合性化合物が有する重合性基の種類は特に定めるものでは無いが、エチレン性不飽和基、エポキシ基等が例示され、エチレン性不飽和基が好ましい。エチレン性不飽和基としては、なかでも(メタ)アクリロイル基が好ましく、アクリロイル基がより好ましい。
【0018】
特定の単官能重合性化合物を構成する原子の種類は特に定めるものでは無いが、炭素原子、酸素原子、水素原子およびハロゲン原子から選択される原子のみで構成されることが好ましく、炭素原子、酸素原子および水素原子から選択される原子のみで構成されることがより好ましい。
【0019】
特定の単官能重合性化合物は、炭素数4以上の直鎖または分岐の炭化水素鎖と重合性基が、直接にまたは連結基を介して結合している化合物が好ましく、上記(1)~(3)の基のいずれか1つと、重合性基が直接に結合している化合物がより好ましい。連結基としては、-O-、-C(=O)-、-CH-またはこれらの組み合わせが例示される。本発明で用いる単官能重合性化合物としては、(1)炭素数8以上の直鎖アルキル基と、(メタ)アクリロイルオキシ基とが直接結合している、直鎖アルキル(メタ)アクリレートが、特に好ましい。
【0020】
特定の単官能重合性化合物は下記式(I-1)で表される化合物が好ましい。
【化2】
12は、上記(1)~(3)のいずれかの構造を表す。R11は水素原子またはメチル基を表す。L11は単結合または後述する連結基Lを表し、単結合、アルキレン基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)またはアルケニレン基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい)が好ましい。R12とL11は連結基Lを介してまたは介さずに結合して環を形成していてもよい。R12、L11は上記置換基Tを有していてもよい。置換基Tは複数が結合して環を形成してもよく、R12と結合して、またはL11と結合して環を形成してもよい。置換基Tが複数あるとき互いに同じでも異なっていてもよい。R12の(3)の構造における、脂環、芳香族環または芳香族複素環の好ましい範囲としては、下記の環aCy、hCy、fCyが挙げられ、これらを総称して環Czと称する。R12が(3)の構造であるとき、式(A1)で表される基であることが好ましい。
脂環fCyとしては炭素数3~22が好ましく、4~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい。その具体例としては、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロブテン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、ジシクロペンタジエン環、テトラヒドロジシクロペンタジエン環、オクタヒドロナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、ヘキサヒドロインダン環、ボルナン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、イソボルナン環、トリシクロデカン環、テトラシクロドデカン環、アダマンタン環などが挙げられる。
芳香族環aCyとしては、炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい。芳香族環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フェナレン環、フルオレン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、インデン環、インダン環、トリフェニレン環、ピレン環、クリセン環、ペリレン環、テトラヒドロナフタレン環などが挙げられる。なかでも、ベンゼン環またはナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。芳香族環は複数が連結した構造を取っていてもよく、例えば、ビフェニル環、ビスフェニル環が挙げられる。
芳香族複素環hCyとしては、炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~5がさらに好ましい。その具体例としては、チオフェン環、フラン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、イソインドール環、インドール環、インダゾール環、プリン環、キノリジン環、イソキノリン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサジン環などが挙げられる。
【0021】
特定の単官能重合性化合物として下記の実施例で使用した化合物を例示できるが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0022】
本発明のインプリント用硬化性組成物においては、上記特定の単官能重合性化合物((1)、(2)などの比較的大きな炭素数を持つ飽和脂肪族を有する重合性化合物あるいは(3)などの飽和脂肪族の置換基を持つ芳香族環もしくは芳香族複素環を有する重合性化合物)とAまたはAで規定される部位を有する離型剤を併用することで、気液界面への上記特定の重合性化合物の過剰な偏析が抑制され、充填性が向上するものと考えられる。ただし、上記の作用は推定を含み、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0023】
インプリント用硬化性組成物に用いる特定の単官能重合性化合物の全重合性化合物に対する含有量は、含有する場合、6質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、12質量%以上が一層好ましい。また、上記含有量は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下であってもよい。特に、本発明においては、下記多官能重合性化合物と共用し、多官能重合性化合物が主成分であることが好ましい。
本発明では特定の単官能重合性化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。インプリント用硬化性組成物には、上記特定の単官能重合性化合物とともに、その他の単官能重合性化合物を含んでいてもよい。
【0024】
<<<多官能重合性化合物>>>
インプリント用硬化性組成物には、上記のように、特定の単官能重合性化合物とともに、多官能重合性化合物を含んでいることが好ましい。多官能重合性化合物は、特に定めるものではないが、脂環、芳香族環および芳香族複素環の少なくとも1種を含むことが好ましく、芳香族環および芳香族複素環の少なくとも1種を含むことがより好ましい。脂環、芳香族環および芳香族複素環の少なくとも1種を含む化合物を、以下の説明において、環含有多官能重合性化合物ということがある。
【0025】
インプリント用硬化性組成物に用いる環含有多官能重合性化合物の分子量は、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、500以下がさらに好ましく、350以下が一層好ましい。分子量の上限値を1000以下とすることで、粘度を低減できる傾向がある。分子量の下限値については、特に定めるものでは無いが、例えば、200以上とすることができる。
【0026】
インプリント用硬化性組成物に用いる環含有多官能重合性化合物が有する重合性基の数は、2以上であり、2~7が好ましく、2~4がより好ましく、2または3がさらに好ましく、2が一層好ましい。
【0027】
インプリント用硬化性組成物に用いる環含有多官能重合性化合物が有する重合性基の種類は特に定めるものでは無いが、エチレン性不飽和基、エポキシ基等が例示され、エチレン性不飽和基が好ましい。エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましく、アクリロイル基がさらに好ましい。1つの分子中に2種以上の重合性基を含んでいてもよいし、同じ種類の重合性基を2つ以上含んでいてもよい。
【0028】
インプリント用硬化性組成物に用いる環含有多官能重合性化合物を構成する原子の種類は特に定めるものでは無いが、炭素原子、酸素原子、水素原子およびハロゲン原子から選択される原子のみで構成されることが好ましく、炭素原子、酸素原子および水素原子から選択される原子のみで構成されることがより好ましい。
【0029】
インプリント用硬化性組成物に用いる環含有多官能重合性化合物に含まれる環は、単環であっても縮環であってもよいが、単環であることが好ましい。縮環である場合は、環の数は、2つまたは3つが好ましい。環は、3~8員環が好ましく、5員環または6員環がより好ましく、6員環がさらに好ましい。また、環は、脂環であっても、芳香族環または芳香族複素環であってもよいが、芳香族環または芳香族複素環であることが好ましく、芳香族環であることがさらに好ましい。環の具体例としては、環Czの例が挙げられる。
インプリント用硬化性組成物に用いる環含有多官能重合性化合物における環の数は、1つであっても、2つ以上であってもよいが、1つまたは2つが好ましく、1つがより好ましい。尚、縮合環の場合は、縮合環を1つとして考える。
インプリント用硬化性組成物に用いる環含有多官能重合性化合物の構造は、(重合性基)-(単結合または2価の連結基)-(環を有する2価の基)-(単結合または2価の連結基)-(重合性基)で表されることが好ましい。ここで、連結基としては、アルキレン基がより好ましく、炭素数1~3のアルキレン基がさらに好ましい。
【0030】
インプリント用硬化性組成物に用いる環含有多官能重合性化合物は、下記式(I-2)で表されることが好ましい。
【化3】
Qは、脂環(炭素数3~24が好ましく、3~12がより好ましく、3~6がさらに好ましい)、芳香族環(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)および芳香族複素環(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~5がさらに好ましい)から選ばれる少なくとも1種を有する1+q価の基を表す。R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。L21およびL22はそれぞれ独立に単結合または後述する連結基Lを表す。QとL21またはL22は連結基Lを介してまたは介さずに結合して環を形成していてもよい。Q、L21およびL22は上記置換基Tを有していてもよい。置換基Tは複数が結合して環を形成してもよく、Qと結合して、またはL21またはL22と結合して環を形成してもよい。置換基Tが複数あるとき互いに同じでも異なっていてもよい。Qにおける脂環、芳香族環または芳香族複素環の好ましい範囲は、上記環Czと同様である。qは1~5の整数であり、1~3の整数が好ましく、1または2がより好ましく、1がさらに好ましい。
Qは、複数の脂環、複数の芳香族環、複数の芳香族複素環、脂環と芳香族環、脂環と芳香族複素環、芳香族環と芳香族複素環が連結した構造を有していてもよい。芳香族環が連結した構造としては、下記式AR-1またはAR-2の構造が挙げられる。
【0031】
【化4】
式中、Ar~Arはそれぞれ独立に芳香族環、芳香族複素環、または脂環であり、その好ましい例としては、環Czが挙げられる。Aは連結基であり、連結基Lの例が挙げられ、-CH-、-O-、-S-、-SO-、およびハロゲン原子(特にフッ素原子)で置換されてもよい-C(CH-からなる群から選択される2価の基であることが好ましい。Ar~Arは置換基Tを有していてもよい。置換基Tは複数あるとき互いに結合して、あるいは連結基Lを介してまたは介さずに式中の環Ar~Arと結合して環を形成していてもよい。また、置換基Tは、連結基Aや下記連結基L21,L22と連結基Lを介してまたは介さずに結合して環を形成していてもよい。*はL21、L22との結合位置を表す。n3~n6はそれぞれ独立に1~3の整数であり、2または3であることが好ましく、1がより好ましい。ただし、n3+n4、n5+n6は、それぞれ、1+qとなる。
【0032】
インプリント用硬化性組成物に用いる多官能重合性化合物としては、下記第1群および第2群を例示することができる。しかし、本発明がこれらに限定されるものでは無いことは言うまでもない。第1群の方がより好ましい。
第1群
【化5】
第2群
【化6】
【0033】
インプリント用硬化性組成物は、上記環含有多官能重合性化合物以外の他の多官能重合性化合物を含んでいてもよい。他の多官能重合性化合物としては、下記式(I-3)で表される化合物が好ましい。
【化7】
30は、直鎖もしくは分岐のアルカン構造の基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましい)、直鎖もしくは分岐のアルケン構造の基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましい)、直鎖もしくは分岐のアルキン構造の基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましい)から選ばれる少なくとも1種を有する1+r価の基を表す。R25およびR26はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。L25およびL26はそれぞれ独立に単結合または後述する連結基Lを表す。L30とL25またはL26とは連結基Lを介してまたは介さずに結合して環を形成していてもよい。L25、L26およびL30は上記置換基Tを有していてもよい。置換基Tは複数が結合して環を形成してもよく、他の連結基と結合して環を形成してもよい。置換基Tが複数あるとき互いに同じでも異なっていてもよい。rは1~5の整数であり、1~3の整数が好ましく、1または2がより好ましく、1がさらに好ましい。なお、L30にはヘテロ原子を有する連結基(O、S、NR)が介在していてもよい。ヘテロ原子を有する連結基が介在する数は、L30の炭素数1~6個に1つの割合であることが好ましい。
【0034】
インプリント用硬化性組成物に用いる他の多官能重合性化合物としては、特開2014-170949号公報に記載の重合性化合物のうち、環を有さない多官能重合性化合物が例示され、これらの内容は本明細書に含まれる。より具体的には、例えば、下記化合物が例示される。
【化8】
【0035】
多官能重合性化合物は、インプリント用硬化性組成物中の全重合性化合物に対して、30質量%以上含有することが好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上、55質量%以上であってもよい。また、上限値は、95質量%未満であることが好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましく、85質量%以下、70質量%以下とすることもできる。多官能重合性化合物のうち、環含有多官能重合性化合物とその他の多官能重合性化合物との質量比率は、環含有多官能重合性化合物:その他の多官能重合性化合物で、30~90:10~70であることが好ましく、50~85:15~50であることがより好ましく、60~80:20~40であることがさらに好ましい。
インプリント用硬化性組成物は、多官能重合性化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0036】
本発明で用いるインプリント用硬化性組成物は、組成物の85質量%以上が重合性化合物であることが好ましく、90質量%以上が重合性化合物であることがより好ましく、93質量%以上が重合性化合物であることがさらに好ましい。
【0037】
置換基Tとしては、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい)、シクロアルキル基(炭素数3~24が好ましく、3~12がより好ましく、3~6がさらに好ましい)、アリールアルキル基(炭素数7~21が好ましく、7~15がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい)、シクロアルケ二ル基(炭素数3~24が好ましく、3~12がより好ましく、3~6がさらに好ましい)、ヒドロキシル基、アミノ基(炭素数0~24が好ましく、0~12がより好ましく、0~6がさらに好ましい)、チオール基、カルボキシル基、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、アシル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アシルオキシ基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリーロイル基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、アリーロイルオキシ基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、カルバモイル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、スルファモイル基(炭素数0~12が好ましく、0~6がより好ましく、0~3がさらに好ましい)、スルホ基、アルキルスルホニル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アリールスルホニル基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、ヘテロ環基(炭素数1~12が好ましく、1~8がより好ましく、2~5がさらに好ましい、5員環または6員環を含むことが好ましい)、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、オキソ基(=O)、イミノ基(=NR)、アルキリデン基(=C(R)などが挙げられる。Rは水素原子またはアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、メチル基が一層好ましい)を表す。各置換基に含まれるアルキル部位およびアルケニル部位は直鎖でも分岐でもよく、鎖状でも環状でもよい。上記置換基Tが置換基を取りうる基である場合にはさらに置換基Tを有してもよい。例えば、アルキル基はハロゲン化アルキル基となってもよいし、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、アミノアルキル基やカルボキシアルキル基になっていてもよい。置換基がカルボキシル基やアミノ基などの塩を形成しうる基の場合、その基が塩を形成していてもよい。
【0038】
連結基Lは、直鎖または分岐のアルキレン基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい)、アリーレン基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、-O-、-S-、-SO-、-CO-、-NR-、およびそれらの組み合わせにかかる連結基が挙げられる。アルキレン基は上記置換基Tを有していてもよい。例えば、アルキレン基がフッ素原子を有するフッ化アルキレン基になっていてもよい。連結基Lに含まれる原子数は1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい。
【0039】
<<離型剤>>
本発明のインプリント用硬化性組成物は下記式(I)または式(II)で表される離型剤を含む。
-(Bx1-(Dy1-(Ez1-F :式(I)
式(I)において、Aは炭素数4~11(好ましくは4~9)の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18(好ましくは6~16)の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11(環状構造の炭素数を含む)の脂肪族炭化水素基を表し、Aがフッ素原子を有することはなく、BはAとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、x1は0または1であり、Dはアルキレンオキシド構造であり、EはFとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、Fは極性官能基であり、y1は0~30の整数であり、z1は0または1である。
-(Bx2-(Dy2-(Ez2-F :式(II)
式(II)において、Aは炭素数4~11(好ましくは4~9)の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18(好ましくは6~16)の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11(環状構造の炭素数を含む)の脂肪族炭化水素基を表し、Aがフッ素原子を有することはなく、BはAとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、x2は0または1であり、Dはアルキレンオキシド構造であり、EはFとの結合部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基であり、Fは水素原子、炭素数4~11(好ましくは4~9)の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18(好ましくは6~16)の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11(環状構造の炭素数は含まない)の脂肪族炭化水素基であり、Fがフッ素原子を有することはなく、y2は0~30の整数であり、z2は0または1である;但し、y2が0のときは、BまたはEが極性官能基を含む。
【0040】
炭化水素基について(A、A
離型剤が特定の炭化水素基A、Aを有することにより離型剤が適度に気液界面に存在するため、上記の炭化水素鎖を有する疎水的な重合性化合物の界面への過剰偏析を防ぎ、疎水的成分の偏析により充填性が悪化してしまうことを抑制する。重合性化合物が気液界面への偏析能が高い炭素数8以上の直鎖アルキル基を有する場合、特に効果的に機能する。
、Aにおいて、直鎖の脂肪族炭化水素基は炭素数4~11であり、炭素数5以上が好ましく、炭素数6以上がより好ましい。また、炭素数9以下が好ましい。
分岐の脂肪族炭化水素基は、炭素数5~18であり、炭素数6以上が好ましく、炭素数7以上がより好ましく、炭素数8以上がさらに好ましく、炭素数9以上であってもよい。また、炭素数17以下が好ましく、炭素数16以下であってもよい。
炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基は、環状構造のみからなっていてもよいし、環状構造と直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基からなっていてもよい。環状構造は、5員環または6員環の脂環である。また、環状構造は、単環であっても縮合環であってもよい。A、Aにおいて、炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基は、下記式(A2)で表される基であることが好ましい。
【0041】
【化9】
式中、Arは芳香族環であり、炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい。具体的には、ベンゼン環またはナフタレン環が好ましい。Arは本発明の効果を奏する範囲で置換基を有していてもよい。Rは、炭素数4~11(4~9が特に好ましい)の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18(6~16が特に好ましい)の分岐の脂肪族炭化水素基が好ましい。Lは単結合またはアルキレン基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)である。*は結合位置を表す。
【0042】
、Aは、飽和炭化水素基であり、置換基を有さないものが好ましい。
、Aの炭素数が上記の下限値を下回ると疎水性が弱いためモールドの表面エネルギーを充分に低減できず離型性が低下する。逆に上記の上限値を上回ると疎水性が強すぎてモールド表面の濡れ性が低下し充填性が悪化する。なお、直鎖と分岐で炭素数の範囲が異なるのは、分岐の脂肪族炭化水素基は直鎖に比べて表面エネルギーの低減能が低下するため、必要となる炭素数が大きくなるためである。なお、本明細書における離型剤に関するこのような作用記載は推定を含むものであり、これにより本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
、Aはフッ素原子を有することはない。フッ素原子を有さないことにより、モールド表面の過剰な低表面エネルギー化を防ぎ、充填性を下げることなく離型性を向上することが可能となる。さらに、A、Aは、炭素原子および水素原子のみから構成されていることが好ましい。炭素原子および水素原子のみから構成されていることにより、適度に表面エネルギーを低下させることが可能となる。
【0043】
連結基について(B、B、E、E
連結基は、離型剤中に含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。したがって、式中のx1、x2、z1およびz2は、0または1であり、x1、x2、z1およびz2は、0であることが好ましい。
、B、E、Eは、それぞれ、A、F、A、Fとの連結部位が脂肪族炭化水素基でない2価の連結基である。
連結基の第一の実施形態としては、脂肪族炭化水素以外の環構造を有する連結基が挙げられる。連結基を構成する環構造としては、芳香環が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環などの炭素数6~18(より好ましくは炭素数6~10)の芳香族環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾピロール環、トリアジン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、トリアゾール環、チアジアゾール環、チアゾール環等のヘテロ環が好ましい。
連結基の第二の実施形態としては、極性官能基を含む基が例示される。
特に、式(II)では、y2が0のときは、BまたはEが極性官能基を含むことが好ましい。すなわち、x2およびz2の少なくともいずれかは1である。BまたはEが極性官能基を含む連結基の場合、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、-NR-、スルホニル基、-SO-またはこれらの組合せがより好ましい。
【0044】
アルキレンオキシド構造について(D、D
本離型剤は化合物内の親疎水性比を調整するという観点でアルキレンオキシド構造を有することが好ましい。アルキレンオキシド構造は、直鎖アルキレン基(好ましくはエチレン基)と酸素原子のみからなる構造であることが好ましい。
アルキレンオキシド構造の具体例としては、メチレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどが挙げられる。
アルキレンオキシド構造の繰り返し数y1およびy2は、それぞれ独立に、0以上であり、1以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。また、30以下であり、25以下が好ましく、20以下がより好ましい。y1およびy2は特に5~20の整数であることが好ましい。y1およびy2が小さすぎると離型剤化合物中の疎水性基の比率が上昇しモールドとの濡れ性が低下して充填性が悪化することがある。逆にy1およびy2が大きすぎると疎水性基の比率が低下し離型性が悪化することがある。
【0045】
末端基について(F、F
本離型剤の末端基は、F(極性官能基)またはF(水素原子、炭素数4~11(好ましくは4~9)の直鎖の脂肪族炭化水素基、炭素数5~18の分岐の脂肪族炭化水素基、または炭素数5または6の環状構造を含む炭素数5~11の脂肪族炭化水素基であり、フッ素原子を有することはない)である。
極性官能基の具体例としてはヒドロキシル基、アミノ基、スルホニル基含有基、スルフィノ基、スルホンイミドイル基含有基、カルボキシル基が挙げられる。特に、実用性の観点でヒドロキシル基、アミノ基、スルホニル基含有基(特にスルホニル基、スルホ基またはスルホンアミド基)、カルボキシル基が好ましい。スルホニル基含有基はスルホニル基(-SOR)、スルホンアミド基(R-SO-NH-)、スルファモイル基(-SONH)、またはスルホ基(-SOH)であることが好ましい。スルホンイミドイル基含有基は-SO(NH)Rであることが好ましい。Rはアルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい)またはアリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)である。
の好ましい範囲は、Aと同様である。
【0046】
式(I)において、Aは、炭素数4~9直鎖の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。式(II)において、Aは炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基であり、かつFが炭素数4~9の直鎖の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0047】
式(I)においては、末端に極性官能基を有することで、離型剤がモールド表面へ偏在しやすくなり離型性が向上する効果が期待できる。
【0048】
式(I)は下記の式(I-1)または(I-2)であることが好ましく、式(I-1)であることがより好ましい。
【化10】
はメチレン基、エチレン基、プロピレン基、またはブチレン基を表す。
はAと同義の基を表し、好ましい範囲も同じである。
n1はy1と同じ数であり、好ましい範囲も同じである。
はAと同義の基を表し、好ましい範囲も同じである。ただし、脂肪族炭化水素基の鎖中にヘテロ原子を含む連結基(O,S,NH等)を炭素原子2つに1つ以下の割合で含んでもよい。
【0049】
式(II)は下記の式(II-1)~(II-3)のいずれかであることが好ましく、式(II-1)であることがより好ましい。
【化11】
はメチレン基、エチレン基、プロピレン基、またはブチレン基を表す。
およびRはそれぞれ独立にAと同義の基を表し、好ましい範囲も同じである。
n2はy2と同じ数であり、好ましい範囲も同じである。
およびRはそれぞれ独立にAと同義の基を表し、好ましい範囲も同じである。
およびRはそれぞれ独立にAと同義の基を表し、好ましい範囲も同じである。
【0050】
離型剤の分子量は、重量平均分子量で、300以上であることが好ましく、350以上であることがより好ましく、400以上であることがさらに好ましく、450以上であることが一層好ましく、500以上であることがより一層好ましい。分子量の上限は、1,500以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましく、950以下であってもよく、920以下であってもよい。
【0051】
インプリント用硬化性組成物中の離型剤の配合量は、不揮発性成分中、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、不揮発性成分中、7.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。離型剤の量が上記下限値以上とすることにより、離型性が効果的に発揮され、上限値以下とすることにより、充填性が向上し、パターン表面の荒れを効果的に抑制できる。
インプリント用硬化性組成物は、離型剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0052】
離型剤の具体例としては後記実施例に例示した化合物C-1~C-15が挙げられるが、さらに下記のC-31~C-37の化合物も例示することができる。
【化12】
【0053】
<<光重合開始剤>>
本発明のインプリント用硬化性組成物は、光重合開始剤を含む。
本発明で用いられる光重合開始剤としては、光照射により上述の重合性化合物を重合する活性種を発生する化合物であればいずれのものでも用いることができる。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤が好ましく、光ラジカル重合開始剤がより好ましい。
【0054】
本発明で使用される光ラジカル重合開始剤としては、例えば、市販されている開始剤を用いることができる。これらの例としては、例えば、特開2008-105414号公報の段落番号0091に記載のものを好ましく採用することができる。特に、この中でもアセトフェノン系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、オキシムエステル系化合物が硬化感度、吸収特性の観点から好ましい。
【0055】
具体的には、以下の光重合開始剤が挙げられる。
【化13】
【0056】
なお、光重合開始剤は、1種単独で用いてもよいが、2種以上を併用して用いることも好ましい。2種以上を併用する場合、光ラジカル重合開始剤を2種以上併用することがより好ましい。
【0057】
本発明に用いられる光重合開始剤の含有量は、溶剤を除く全組成物中、0.01~15質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましく、0.5~7質量%であることがさらに好ましく、1~5質量%であることが一層好ましい。2種以上の光重合開始剤を用いる場合、その合計量が上記範囲となる。光重合開始剤の含有量を0.01質量%以上にすると、感度(速硬化性)、解像性、ラインエッジラフネス性、塗膜強度がより向上する傾向にあり好ましい。また、光重合開始剤の含有量を15質量%以下にすると、光透過性、着色性、取り扱い性などがより向上する傾向にあり、好ましい。
【0058】
<その他の成分>
本発明で用いるインプリント用硬化性組成物は、上述の他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、界面活性剤、増感剤、酸化防止剤、重合禁止剤(例えば、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル)、紫外線吸収剤、溶剤等が例示される。これらの化合物は、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。これらの詳細については、特開2014-170949号公報の段落0061~0064の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0059】
本発明のインプリント用硬化性組成物は、上述のとおり、溶剤を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、インプリント用硬化性組成物の3質量%以下であることをいい、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。
このように、本発明のインプリント用硬化性組成物は、必ずしも、溶剤を含むものではないが、組成物の粘度を微調整する際などに、任意に添加してもよい。本発明の硬化性組成物に好ましく使用できる溶剤の種類としては、インプリント用硬化性組成物やフォトレジストで一般的に用いられている溶剤であり、本発明で用いる化合物を溶解および均一分散させるものであればよく、かつ、これらの成分と反応しないものであれば特に限定されない。本発明で用いることができる溶剤の例としては、特開2008-105414号公報の段落番号0088に記載のものが挙げられ、この内容は本明細書に組み込まれる。
また、本発明のインプリント用硬化性組成物は、分子量2000以上の成分を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、インプリント用硬化性組成物の不揮発性成分の3質量%以下であることをいい、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。
【0060】
<インプリント用硬化性組成物の特性>
本発明のインプリント用硬化性組成物の大西パラメータは5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.9以下であることがさらに好ましく、3.7以下であることが一層好ましく、3.6以下であることがより一層好ましい。大西パラメータを5.0以下とすることにより、エッチング耐性がより向上する傾向にある。
上記大西パラメータの下限値は、3.0以上であってもよく、さらには3.5以上であってもよい。
【0061】
インプリント用硬化性組成物の23℃における粘度は、20mPa・s以下且つ、溶剤含有量がインプリント用硬化性組成物の3質量%以下であることが好ましい。粘度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0062】
インプリント用硬化性組成物は、に含まれる成分のうち、重合性化合物のみを、上記インプリント用硬化性組成物に含まれる比率で含む組成物が、23℃において33mN/m以上の表面張力を示すものとすることが好ましい。表面張力は後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0063】
本発明のインプリント用硬化性組成物は、使用前にろ過をしてもよい。ろ過は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルタやNylon(ナイロン)フィルタを用いることができる。また、ろ過の際の孔径は、0.003μm~5.0μmが好ましい。ろ過の詳細は、特開2014-170949号公報の段落0070の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0064】
本発明は、また、本発明のインプリント用硬化性組成物を硬化してなる硬化物を開示する。上記硬化物は、シリコン基板の上に設けられていることが好ましい。
本発明のパターン形成方法は、本発明のインプリント用硬化性組成物を、基板上またはモールド上に適用し、上記インプリント用硬化性組成物を、上記モールドと上記基板で挟んだ状態で光照射することを含む。
また、基板の表面に、下層膜や密着膜、プライマ膜(液膜)を形成し、その表面にインプリント用硬化性組成物を適用してもよい。
【0065】
本発明のパターン形成方法によって形成されたパターンは、エッチングレジスト(リソグラフィー用マスク)としても有用である。パターンをエッチングレジストとして利用する場合には、まず、基板として例えばSiO等の薄膜が形成されたシリコン基板(シリコンウェハ等)等を用い、基板上に本発明のパターン形成方法によって、例えば、ナノまたはマイクロオーダーの微細なパターンを形成する。本発明では特にナノオーダーの微細パターンを形成でき、さらにはサイズが25nm以下、特には20nm以下のパターンも形成できる点で有益である。本発明のパターン形成方法で形成するパターンサイズの下限値については特に限定されるものでは無いが、例えば、10nm以上とすることができる。ここで、パターンサイズとは、本発明のパターン形成方法によって形成されるパターンのうち、最も細い寸法をいう。ラインパターンではパターンの線幅であり、ピラー/ホールパターンであれば、パターンの直径を意味する。
その後、ウェットエッチングの場合にはフッ化水素等、ドライエッチングの場合にはCFやCHF/CF/Ar混合ガス等のエッチングガスを用いてエッチングすることにより、基板上に所望のパターンを形成することができる。パターンは、特にドライエッチングに対するエッチング耐性が良好である。すなわち、本発明の製造方法で得られたパターンは、リソグラフィー用マスクとして好ましく用いられる。
パターン形成方法の詳細については、特開2015-185798号公報の段落0057~0071の記載を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0067】
<インプリント用硬化性組成物の調製>
表1~3に示した各種化合物を混合し、さらに重合禁止剤として4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル(東京化成社製)を重合性化合物の合計量に対して200質量ppm(0.02質量%)となるように加えた。これを孔径0.02μmのNylonフィルタおよび孔径0.01μmのPTFEフィルタおよび孔径0.001μmのUPEフィルタでろ過して、インプリント用硬化性組成物を調製した。
【0068】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
離型剤の重量平均分子量をLC-MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計)を用いて算出した。LCのカラムはTOSOH製TSKgel ODS-80Ts、溶離液はHO/MeOH(共に酢酸アンモニウム溶解品)を使用した。MSのイオン化法はESI-Posiを選択した。MSスペクトルから分子量分布を把握することで、重量平均分子量Mwを算出した。なお、MeOHはメタノールのことである。
TOSOH製TSKgel ODS-80Ts、直径2.0 mm(内径)・150 mm
溶離液: A液: H2O (10 mM CH3COONH4)、B液: MeOH (10 mM CH3COONH4)
グラジエント条件: Bconc. 50% (0 min.) → 100% (20 min.) → 100% (40 min.)
流速: 0.2 mL/min.、注入量: 2 μL、カラム温度: 40 ℃
MSイオン化法: ESI positive
検出: 1TICモード、2SIMモード 標品から検出した2成分のピークで定量を実施
1m/z = 616, 664
[H(C3H6O)n+OH+NH4]+(n=10,11)由来
【0069】
<粘度の測定>
粘度は、東機産業(株)製のE型回転粘度計RE85L、標準コーン・ロータ(1°34’×R24)を用い、サンプルカップを23℃に温度調節して測定した。単位は、mPa・sで示した。測定に関するその他の詳細はJISZ8803:2011に準拠した。1水準につき2つの試料を作製し、それぞれ3回測定した。合計6回の算術平均値を評価値として採用した。
【0070】
<表面張力の測定>
各組成物または化合物の表面張力は、協和界面科学(株)製、表面張力計SURFACE TENS-IOMETER CBVP-A3を用い、ガラスプレートを用いて23℃で行った。単位は、mN/mで示した。1水準につき2つの試料を作製し、それぞれ3回測定した。合計6回の算術平均値を評価値として採用した。
【0071】
<離型性>
石英モールドとして、線幅20nm、深さ55nmのライン(Line)/スペース(Space)[L:S=1:1]を有する石英モールドを使用した。インクジェット装置として、FUJIFILM Dimatix社製インクジェットプリンター DMP-2831を用いてシリコンウェハ(シリコン基板)上に、上記インプリント用硬化性組成物をインクジェット法により適用後、ヘリウム雰囲気下で、上記モールドで挟んだ。インクジェットによる吐出パターンは、配列を菱形格子状とし、間隔を対角線:140μm/80μmとし、吐出量を1pLとした。石英モールド側から高圧水銀ランプを用いて、100mJ/cmの条件で露光した後、石英モールドを離型することでパターンを得た。
【0072】
上記で得られたパターンにおいて、石英モールドを離型する際の離型に必要な力(離型力F、単位:N)を測定した。詳細は、特開2011-206977号公報の段落番号0102~0107に記載の比較例に記載の方法に準じて測定を行った。
A:F≦15N
B:15N<F≦18N
C:18N<F≦20N
D:F>20N
【0073】
<インクジェット(IJ)吐出性(インクジェット適性)>
IJ吐出性の評価は、FUJIFILM Dimatix社製インクジェットプリンター DMP-2831を用いて行った。23℃に温度調整した組成物の吐出の様子をCCDカメラ(シーシーディーイメージセンサカメラ)で観察しながら、吐出波形、吐出電圧等の吐出条件を最適化した。最も安定した吐出を行った吐出口を5つ選択し、組成物をシリコンウェハ上に100μm間隔(正方配列)で吐出した(吐出面積5mm角、2500ドット)。インクジェットノズルを交換することで、吐出量を1pL、6pLに変更して検討した。
上記検討を5回連続で行った際のCCDカメラによる吐出状態の観察と、吐出液滴の正方配列からのずれを評価した。
A:全てのノズルが安定して吐出し、吐出領域全面で液滴配置のずれは見られなかった。
B:一部ノズルに飛翔曲がり、吐出口の汚れが見られ、一部で液滴配置のずれが発生した。
C:50%以上のノズルで飛翔曲がり、吐出口の汚れが見られ、吐出領域全域に渡って液滴配置のずれや液滴の抜けが見られた。
【0074】
<パターン形成性>
上記離型力の評価で作製したパターンを観察し、以下の通り評価した。
A:全面に渡って、良好なパターン転写を確認した。
B:パターン表面の荒れまたはパターン抜けがみられた。
C:パターン表面の荒れとパターン抜けの両方がみられた。
【0075】
<充填性>
石英モールドとして、それぞれの開口部が半径1μmの円で、その深さが2μmの凹型構造を有する石英モールド(配列:正方配列、ピッチ:4μm)を使用した。インクジェット装置として、FUJIFILM Dimatix社製インクジェットプリンター DMP-2831を用いてシリコンウェハ上に上記インプリント用硬化性組成物をインクジェット法により適用後、ヘリウム雰囲気下で、上記モールドで挟んだ。
石英モールドの凹部のインプリント用硬化性組成物の充填の様子をCCDカメラにて観察し、充填の完了に要する時間を測定した。
A:3秒未満
B:3秒以上5秒未満
C:5秒以上10秒未満
D:10秒以上
【0076】
【表1】

【表2】

【表3】
【0077】
重合性化合物
【表4】
【0078】
重合開始剤
【表5】
【0079】
離型剤
【表6】

【表7】

【表8】
【0080】
上記の結果から分かるとおり、本発明において特定された(1)~(3)のいずれかの構造を有する単官能重合性化合物と式(I)または式(II)を満たす離型剤とを使用したインプリント用硬化性組成物では、優れた離型性と良好な充填性を両立することができることが分かった(実施例1~19)。また、インクジェット適性やパターン形成性においても高い性能が得られることが分かった。
これに対して、(1)~(3)のいずれかの構造を含まない単官能重合性化合物、または式(I)および式(II)の規定を満たさない離型剤を用いたものでは(比較例1~10)、離型性および充填性のいずれかの性能に劣り、これらを両立することはできなかった。