(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】神経損傷治療用薬剤徐放シート
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20220413BHJP
A61K 31/714 20060101ALI20220413BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220413BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20220413BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220413BHJP
A61M 5/00 20060101ALI20220413BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
A61K9/70
A61K31/714
A61K47/34
A61L27/18
A61L27/54
A61M5/00 512
A61P25/00
(21)【出願番号】P 2020115903
(22)【出願日】2020-07-03
(62)【分割の表示】P 2018504470の分割
【原出願日】2017-03-06
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2016043873
(32)【優先日】2016-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017008913
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017037270
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 下記の刊行物にて公開 日本整形外科学会雑誌、第90巻、第8号(発行日:平成28年(2016年)8月31日、発行元:公益社団法人日本整形外科学会) 下記の刊行物にて公開 第35回日本運動器移植・再生医学研究会プログラム・抄録集(頒布日:平成28年(2016年)9月9日) 平成28年(2016年)9月24日に開催された第35回日本運動器移植・再生医学研究会の一般演題(口演)にて発表 下記の刊行物にて公開 第43回日本マイクロサージャリー学会学術集会プログラム・抄録集(頒布日:平成28年(2016年)10月14日) 平成28年(2016年)10月14日に開催された第31回日本整形外科学会基礎学術集会の一般演題(ポスター発表)にて発表 平成28年(2016年)11月18日に開催された第43回日本マイクロサージャリー学会学術集会の一般演題(口演)にて発表 平成29年(2017年)2月5日に下記のウェブサイトにて公開 http://www.sciencedirect.com/science/journal/aip/17427061 http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1742706117300995 平成29年(2017年)2月27日に記者会見にて公開 平成29年(2017年)2月27日に下記のウェブサイトにて公開 http://www.nims.go.jp/news/press/index.html http://www.nims.go.jp/news/press/2017/02/201702270.html 平成29年(2017年)2月27日に下記のウェブサイトにて公開 http://www.osaka-u.ac.jp/ja http://resou.osaka-u.ac.jp/ja http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research?b_start:int=10 http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017 http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170227_1
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000231796
【氏名又は名称】日本臓器製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 潔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩司
(72)【発明者】
【氏名】荏原 充宏
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第102525689(CN,B)
【文献】国際公開第2007/089259(WO,A1)
【文献】特表2014-522918(JP,A)
【文献】特表2005-528145(JP,A)
【文献】特開昭60-255726(JP,A)
【文献】国際公開第2011/162317(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/70
A61K 31/714
A61K 47/34
A61L 27/18
A61L 27/54
A61M 5/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカプロラクトンおよびその共重合体からなる群から選択される生体適合性ポリマーからなる繊維で形成された
神経損傷治療用の薬剤徐放用シートの製造における、
薬剤としてのビタミンB12の使用。
【請求項2】
神経損傷治療用の薬剤徐放用シートの製造における、
薬剤としてビタミンB12、ならびにポリカプロラクトンおよびその共重合体からなる群から選択される生体適合性ポリマーを含有する繊維の使用。
【請求項3】
薬剤としてビタミンB12、ならびにポリカプロラクトンおよびその共重合体からなる群から選択される生体適合性ポリマーを含有する繊維で形成された不織布の
、神経損傷治療用の薬剤徐放用シートとしてのヒト以外の動物への使用。
【請求項4】
前
記ビタミンB12
がメチルコバラミンである請求項1~3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記神経損傷が末梢神経の不連続性神経損傷または有連続性神経損傷である請求項1~
4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
前記有連続性神経損傷が絞扼性神経障害である請求項
5に記載の使用。
【請求項7】
前記シートの重量が1mg/cm
2~50mg/cm
2である請求項1~
6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記シートが神経損傷部位の周辺部に埋め込んで使用するものである請求項1~
7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
前記神経損傷治療が神経再生の促進によるものである請求項1~
8のいずれかに記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は神経損傷治療用薬剤徐放シート(以下、単に「本シート」ということがある。)に関する。より具体的には、神経損傷に対する治療効果のある薬剤を含有し、該薬剤を徐々に放出するシートおよびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経損傷は、損傷部での連続性が絶たれる不連続性損傷と、絞扼性神経障害(手根管症候群等)等の損傷部での連続性を有する有連続性神経損傷に大別される。不連続性損傷に対する治療法としては、直接縫合、自家神経移植等が選択される。一方で有連続性神経損傷に対する治療法としては、神経剥離術や保存治療が選択されることになる。これまで、末梢神経損傷に対する再生効果を有するデバイスとして、人工神経の開発が進められてきたが、これは不連続性神経損傷に対してのみ用いられるものである。また、それらは損傷部の欠損を単に架橋するだけであり、神経軸索再生を促進する効果は有していない。末梢神経損傷後に回復までに長期間を要すると、筋組織に不可逆的な変化が生じるために、神経軸索再生を促進させることは重要な課題となっている。また、上述のとおり、人工神経は損傷部に欠損が存在する神経損傷のみに適応があり、最も患者数の多い有連続性神経損傷に対するデバイスは存在しない。そのため、有連続性神経損傷と不連続性神経損傷のいずれにも適用でき、神経損傷の治療に効果のあるツールが医療現場において求められている。
【0003】
本シートに含有される薬剤のひとつとしてビタミンB12がある。ビタミンB12は神経系の正常な機能のために重要であり、その欠乏は、「subacute combined degeneration of the spinal cord」と呼ばれる全身性の神経障害を引き起こすことが知られている(非特許文献1)。本発明者らは、100nM以上の濃度のメチルコバラミンは、神経突起伸長およびニューロンの生存を促進すること、これらの効果はメチル化に関する反応であるメチル化サイクルによって媒介されること、メチルコバラミンがメチル化サイクルを通してErk1/2およびAktの活性を増大させること、ならびに、ラット坐骨神経損傷モデルにおいて、メチルコバラミンの高用量の連続投与は、神経再生と機能回復を向上させることを報告している(非特許文献2)。
【0004】
特許文献1には、水溶性ガラス繊維とポリカプロラクトン等の生体適合性結合材料とを備える、体内への埋め込みのための柔軟なシート形態の生物分解性複合材料が記載されている。この柔軟なシート形態の生物分解性複合材料は、治癒を促進するために組織の欠陥区域の周りに巻きつけて用いられること、および、外科手術後の癒着形成を防ぐために用いられることが記載されている。また、当該生物分解性複合材料は神経移植片の代替物として用いることができることが記載されており、不連続性神経損傷に適用されることが想定されているが、神経軸索再生を促進する効果は有していない。
【0005】
本シートに含有させることができる薬剤としては、他にワクシニアウイルス接種ウサギ炎症皮膚抽出物(以下「本抽出物」という。)またはその分画物がある。本抽出物またはこれを含有する製剤については、非常に多岐に及ぶ作用・効果が知られているが、これを含有する神経損傷治療用のシートについてはこれまで知られていない。
【0006】
本シートに含有される薬剤としては、さらに神経成長因子(nerve growth factor:NGF)や脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)等が挙げられる。これらは、ニューロトロフィン-3(neurotrophin-3:NT-3)等と共にニューロトロフィンファミリー(神経栄養因子ファミリー)に属し、種々の細胞、例えば神経細胞(ニューロン)、神経膠細胞等(ミクログリア、星状細胞、乏突起膠細胞等)で産生される分泌性タンパク質である。ニューロトロフィンは、神経細胞の生存維持、神経突起の伸長促進、神経伝達物質の合成促進等の作用を示す。NGFはニューロンの投射する標的細胞(ニューロンや筋肉等)で合成・分泌され、ニューロンの軸索末端のTrkA受容体を介して取り込まれ、逆行性に細胞体に運ばれて機能する。NGFは、末梢神経系では感覚ニューロン(後根神経節の小型細胞)や交感神経節後ニューロンに、中枢神経系では大脳皮質や海馬に投射する前脳基底部コリン作動性ニューロンに特異的に作用する。BDNFは海馬を中心として中枢神経系に偏在し、神経細胞の生存・維持、神経突起の形態調節、シナプスの機能調節、神経可塑性の制御等、神経系において種々の生理活性を示すことが知られている。しかしながら、これらニューロトロフィンを含有する神経損傷治療用のシートについてはこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Scalabrino et al. , Lab. Invest., 62 (1990), 297- 304
【文献】Okada et al. , Experimental Neurology, 222 (2010), 191-203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、損傷部位の薬剤濃度を長期間適切な高さに維持でき、かつ神経損傷部位の周辺部に埋め込んでも神経に悪影響を及ぼすような刺激を与えずに神経再生を促進させる、神経損傷治療用の薬剤徐放シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために以下の各発明を包含する。なお、これらの発明についてのさらに詳しい内容は後述する。
[1]神経損傷治療用の薬剤および生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーで形成された不織布からなる薬剤徐放シート。
[2]薬剤がビタミンB12である前記[1]に記載の薬剤徐放シート。
[3]薬剤がワクシニアウイルス接種ウサギ炎症皮膚抽出物またはその分画物である前記[1]に記載の薬剤徐放シート。
[4]薬剤がニューロトロフィンである前記[1]に記載の薬剤徐放シート。
[5]ニューロトロフィンがNGFまたはBDNFである前記[4]に記載の薬剤徐放シート。
[6]生体適合性ポリマーが生分解性脂肪族ポリエステルまたはポリアクリルアミド誘導体である前記[1]~[5]のいずれかに記載の薬剤徐放シート。
[7]生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトンまたはその共重合体、ポリ乳酸またはその共重合体、ポリグリコール酸またはその共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択される前記[6]に記載の薬剤徐放シート。
[8]ポリアクリルアミド誘導体が、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)またはその共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)またはその共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドおよび2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体ならびにそれらの混合物からなる群から選択される前記[6]に記載の薬剤徐放シート。
[9]シートのヤング率が100kPa~100MPaである前記[1]~[8]のいずれかに記載の薬剤徐放シート。
[10]シートの重量が1mg/cm2~100mg/cm2である前記[1]~[9]のいずれかに記載の薬剤徐放シート。
[11]シートが薬剤および生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーで形成された不織布からなり、ヤング率が100kPa~100MPa、重量が1mg/cm2~100mg/cm2である薬剤徐放シート。
[12]薬剤がビタミンB12である前記[11]に記載の薬剤徐放シート。
[13]薬剤がワクシニアウイルス接種ウサギ炎症皮膚抽出物またはその分画物である前記[11]に記載の薬剤徐放シート。
[14]薬剤がニューロトロフィンである前記[11]に記載の薬剤徐放シート。
[15]ニューロトロフィンがNGFまたはBDNFである前記[14]に記載の薬剤徐放シート。
[16]生体適合性ポリマーが生分解性脂肪族ポリエステルまたはポリアクリルアミド誘導体である前記[11]~[15]のいずれかに記載の薬剤徐放シート。
[17]生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトンまたはその共重合体、ポリ乳酸またはその共重合体、ポリグリコール酸またはその共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択される前記[16]に記載の薬剤徐放シート。
[18]ポリアクリルアミド誘導体が、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)またはその共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)またはその共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドおよび2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体ならびにそれらの混合物からなる群から選択される前記[16]に記載の薬剤徐放シート。
[19]さらにヒアルロン酸を含有させたことを特徴とする前記[1]~[18]のいずれかに記載の薬剤徐放シート。
【0011】
[20]以下の工程(1)および(2)を含む薬剤徐放シートの製造方法:
(1)薬剤と、生体適合性ポリマーと、溶媒を含む溶液を調製する工程
(2)該溶液を電界紡糸法に供して紡糸し、不織布を形成させる工程。
[21]以下の工程(1)および(2)を含む薬剤徐放シートの製造方法:
(1)薬剤と、生体適合性ポリマーと、溶媒と、ヒアルロン酸を含む溶液を調製する工程
(2)該溶液を電界紡糸法に供して紡糸し、不織布を形成させる工程。
[22]以下の工程(1)、(2)および(3)を含む薬剤徐放シートの製造方法:
(1)薬剤と、生体適合性ポリマーと、溶媒と、ヒアルロン酸を含む溶液を調製する工程
(2)該溶液を電界紡糸法に供して紡糸し、不織布を形成させる工程
(3)不織布にヒアルロン酸をコーティングする工程。
[23]生体適合性ポリマーが生分解性脂肪族ポリエステルまたはポリアクリルアミド誘導体である前記[20]~[22]のいずれかに記載の薬剤徐放シートの製造方法。
[24]生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトンまたはその共重合体、ポリ乳酸またはその共重合体、ポリグリコール酸またはその共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択される前記[23]に記載の製造方法。
[25]ポリアクリルアミド誘導体が、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)またはその共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)またはその共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドおよび2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体ならびにそれらの混合物からなる群から選択される前記[23]に記載の製造方法。
[26]以下の工程(1)および(2)を含む薬剤徐放シートの製造方法:
(1)薬剤と、ポリカプロラクトンまたはその共重合体と、TEF (2, 2, 2-トリフルオロエタノール)、HFIP (1, 1, 1, 3, 3, 3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール)、クロロホルムおよびDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)から選択される溶媒を含む溶液を調製する工程
(2)電圧10~30kV、流速0.1~1m/h、ニードルサイズ18~24Gの条件で(1)で調製した溶液を電界紡糸法に供して紡糸し、電極面で不織布を形成させる工程。
[27]ポリカプロラクトンまたはその共重合体が、重量平均分子量1000~300000、1分子当たりの分岐数1~8、および、DL-ラクチドを0~50モル%含む前記[26]に記載の製造方法。
[28]薬剤がビタミンB12である前記[20]~[27]のいずれかに記載の製造方法。
[29]薬剤がワクシニアウイルス接種ウサギ炎症皮膚抽出物またはその分画物である前記[20]~[27]のいずれかに記載の製造方法。
[30]薬剤がニューロトロフィンである前記[20]~[27]のいずれかに記載の製造方法。
[31]ニューロトロフィンがNGFまたはBDNFである前記[30]に記載の製造方法。
【0012】
[32]治療が必要な患者に、神経損傷治療効果を有する薬剤および生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーで形成された不織布からなる薬剤徐放シートを適用することからなる神経損傷の治療方法。
[33]薬剤がビタミンB12である前記[32]に記載の方法。
[34]薬剤がワクシニアウイルス接種ウサギ炎症皮膚抽出物またはその分画物である前記[32]に記載の治療方法。
[35]薬剤がニューロトロフィンである前記[32]に記載の治療方法。
[36]ニューロトロフィンがNGFまたはBDNFである前記[35]に記載の治療方法。
[37]生体適合性ポリマーが生分解性脂肪族ポリエステルまたはポリアクリルアミド誘導体である前記[32]~[36]のいずれかに記載の治療方法。
[38]生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトンまたはその共重合体、ポリ乳酸またはその共重合体、ポリグリコール酸またはその共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択される前記[37]に記載の治療方法。
[39]ポリアクリルアミド誘導体がポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)またはその共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)またはその共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドおよび2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体ならびにそれらの混合物からなる群から選択される前記[37]に記載の治療方法。
[40]シートのヤング率が100kPa~100MPaである前記[32]~[39]のいずれかに記載の治療方法。
[41]シートの重量が1mg/cm2~100mg/cm2である前記[32]~[40]のいずれかに記載の治療方法。
[42]適用が神経損傷部位の周辺部に埋め込むことによるものである前記[32]~[41]のいずれかに記載の治療方法。
【0013】
[43]神経損傷治療効果を有する薬剤および生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーで形成された不織布からなる薬剤徐放シートの製造のための、ビタミンB12の使用。
[44]神経損傷治療効果を有する薬剤および生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーで形成された不織布からなる薬剤徐放シートの製造のための、ワクシニアウイルス接種ウサギ炎症皮膚抽出物またはその分画物の使用。
[45]神経損傷治療効果を有する薬剤および生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーで形成された不織布からなる薬剤徐放シートの製造のための、ニューロトロフィンの使用。
[46]ニューロトロフィンがNGFまたはBDNFである前記[45]に記載の使用。
[47]生体適合性ポリマーが生分解性脂肪族ポリエステルまたはポリアクリルアミド誘導体である前記[43]~[46]のいずれかに記載の使用。
[48] 生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトンまたはその共重合体、ポリ乳酸またはその共重合体、ポリグリコール酸またはその共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択される前記[47]に記載の使用。
[49]ポリアクリルアミド誘導体が、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)またはその共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)またはその共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドおよび2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体ならびにそれらの混合物からなる群から選択される前記[47]に記載の使用。
[50]シートのヤング率が100kPa~100MPaである前記[43]~[49]のいずれかに記載の使用。
[51]シートの重量が1mg/cm2~100mg/cm2である前記[43]~[50]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、損傷部位の周辺部に埋め込んで適用して、該部位における薬剤濃度を長期間適切な高さに維持することにより、神経再生を促進させることを可能とする、神経損傷治療用の薬剤徐放シートならびにその製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】作製したポリカプロラクトンシートを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示す図である。
【
図2】作製したポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)シートをSEMで観察した結果を示す図である。
【
図3】作製したポリ(NIPAAm-co-HMAAm)シートをSEMで観察した結果を示す図である。
【
図4】作製した磁性ナノ粒子を含有したポリカプロラクトンシートをSEMで観察した結果を示す図である。
【
図5】作製したヒアルロン酸コーティングポリカプロラクトンシートをSEMで観察した結果を示す図である。
【
図6】作製した本抽出物含有ポリカプロラクトンシートをSEMで観察した結果を示す図である。
【
図7】作製した3種類のビタミンB12を含有する本シートをSEMで観察した結果を示す図である。
【
図8】作製した3種類のビタミンB12を含有する本シートの徐放性を確認した結果を示す図である。
【
図9】ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いてビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後6週目にビタミンB12血中濃度を測定した結果を示す図である。
【
図10】ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いてビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後6週目にsciatic function index(SFI)を測定し、運動機能を評価した結果を示す図である。
【
図11】ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いてビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後6週目にvon Frey filament testを行い、感覚機能を評価した結果を示す図である。
【
図12】ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いて本抽出物を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後3週目にvon Frey filament testを行い、感覚機能を評価した結果を示す図である。
【
図13】ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いて、ビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後6週目に電気生理学的評価を行った結果を示す図であり、(A)はCompound muscle action potential(CMAP)の結果を、(B)はTerminal latency(TL)の結果を、(C)はNerve conduction velocity(NCV)の結果をそれぞれ示すものである。
【
図14】ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いて、ビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後6週目に坐骨神経を採取し、髄鞘の指標である抗Myelin Basic Protein(MBP)抗体で免疫染色した結果を示す図である。
【
図15】ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いて、ビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後6週目に組織学的評価を行った結果を示す図であり、(A)は全軸索数の結果、(B)はMBP陽性軸索数/全軸索数の結果である。
【
図16】ラット坐骨神経欠損モデルを用いて、神経再生誘導チューブ(Nerve Regeneration Conduits ; NRC)で接合した神経におけるビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後12週目にvon Frey filament testを行い、感覚機能を評価した結果を示す図である。
【
図17】ラット坐骨神経欠損モデルを用いて、NRCで接合した神経におけるビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後12週目に電気生理学的評価(TL)を行った結果を示す図である。
【
図18】ラット坐骨神経欠損モデルを用いて、NRCで接合した神経におけるビタミンB12を含有する本シートの薬効を評価する実験において、術後12週目に電気生理学的評価(NCV)を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、神経損傷治療用の薬剤徐放シートを提供する。本発明の薬剤徐放シートは、ビタミンB12等の薬剤および生分解性脂肪族ポリエステル等の生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーで形成された不織布からなり、神経損傷部位の周辺部に埋め込んで使用される。本発明の薬剤徐放シートに含有させる薬剤としては、神経損傷治療効果を有するものであればよく、ビタミンB12、ワクシニアウイルス接種組織抽出物またはその分画物、NGF、BDNF等のニューロトロフィン等から選択することが可能であり、これらの薬剤が神経損傷部位に作用して神経の再生を促進することにより、神経損傷を効果的に治療することができる。さらに、本発明の薬剤徐放シートには、上記薬剤に加えて、ヒアルロン酸を含有させたものも含まれる。
【0017】
本シートの適応対象疾患は神経損傷である。本発明の薬剤徐放シートは神経再生促進作用を有するので、有連続性神経損傷および不連続性神経損傷のいずれも治療対象とすることができる点で非常に有用である。有連続性神経損傷としては、例えば絞扼性神経障害(神経が周囲組織により圧迫を受けている状態)が挙げられる。また、神経縫合後の神経(神経損傷後に直接縫合した状態)、神経剥離術後の神経、神経移植術後の神経(欠損を有する神経損傷部に神経移植を行って連続性を持たせた状態)の再生促進にも、本発明の薬剤徐放シートは有効である。また、不連続性神経損傷についても、本発明薬剤徐放シートは単独で、または人工神経と併用するなどして、治療を促進する効果を有する。
【0018】
本シートに含有される薬剤であるビタミンB12には、コバラミンおよびその誘導体が含まれる。具体的には、メチルコバラミン、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、スルフィトコバラミン、アデノシルコバラミン、またはそれらの塩が挙げられ、いずれも本発明の徐放剤の有効成分として好適に使用することができる。なかでもメチルコバラミン、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、またはそれらの塩が好ましく、メチルコバラミンまたはその塩がより好ましい。ビタミンB12の含量は、終濃度として約1%~約30%が好ましく、約2%~約10%がより好ましい。
【0019】
本シートは、薬剤および生体適合性ポリマーを含有するナノファイバーで形成された不織布からなる。ナノファイバーは、直径が約10nm~約1000nmであり、長さが直径の100倍以上の繊維状物質を意味する。本発明に用いる生体適合性ポリマーとしては、生分解性脂肪族ポリエステルおよびポリアクリルアミド誘導体等が挙げられる。好ましい生分解性脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリグリセロール酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、これらの共重合体、これらの誘導体等が挙げられる。より好ましくは、柔軟性等の点から、ポリカプロラクトンまたはその共重合体、ポリ乳酸またはその共重合体、ポリグリコール酸またはその共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択される生分解性脂肪族ポリエステルが挙げられる。上記共重合体の例としては、ポリ乳酸-ポリカプロラクトン共重合体、ポリ(ε-カプロラクトン-co-DL-ラクチド)等が挙げられる。また、ポリアクリルアミド誘導体としては、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)もしくはその共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)もしくはその共重合体またはそれらの混合物等が挙げられる。上記共重合体の例としては、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、N-イソプロピルアクリルアミドと2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体等が挙げられる。
また、前記ナノファイバーとしては、前記生体適合性ポリマーの少なくとも1種を含んでいればよく、前記生体適合性ポリマー以外の生体適合性ポリマーとこれら前記生体適合性ポリマーの共重合体であってもよい。また、前記生体適合性ポリマーを複数含む共重合体であってもよい。これらの場合、共重合の形式はブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合又はグラフト共重合のいずれであってもよい。
【0020】
本発明の薬剤徐放シートを構成するシートは、そのヤング率が約100kMPa~約100MPaであることが好ましく、約1MPa~約50MPaであることがより好ましい。ヤング率は、市販の引張試験器(例えば、EZ-S500N(嶋津製作所製)等)を用いて得られた測定値に基づく応力-歪み曲線から求めることができる。シートの重量は、1mg/cm2~100mg/cm2であることが好ましく、1mg/cm2~50mg/cm2であることがより好ましい。シートの厚さは、約100μm~約1mmが好ましく、約100μm~約500μmがより好ましい。シートの面積は特に制限はなく、使用時に患部の大きさに合わせてカッ卜すればよい。また、使用しやすい大きさに成形しておいてもよい。成形する大きさとしては、例えば、0.1cm2~10cm2が好ましく、1cm2~4cm2がより好ましい。
【0021】
本シートは、神経損傷部位の周辺部に埋め込んで使用する。本シートは柔軟性を有するように成形されているので、使用態様は適宜選択することが可能である。具体的には、例えば周囲が剥離され、神経が露出された状態の神経損傷部位については、本シートを巻きつけるか、覆うように留置するのが好ましい。その後、周辺組織を元に戻し皮膚を縫合する。本シートは柔軟に成形することにより、神経損傷部位に留置しても、神経や周辺組織に悪影響を及ぼす刺激を与えない。それゆえ、本シートは、神経損傷部位の周辺部に埋め込んで使用することが可能である。そして、損傷部位の処置後も取り除く必要がない。なお、本シートは滅菌処理を行って使用することが好ましい。滅菌方法は、薬剤が分解されず、シートの形状や物性を損なわない方法を選択することが好ましい。例えば、放射線滅菌、プラズマ滅菌等が挙げられる。
【0022】
本シートは、ビタミンB12等の薬剤と生分解性脂肪族ポリエステル等の生体適合性ポリマーを含有する溶液を調製し、この溶液を原料として電界紡糸法、セルフアッセンブリー法、フェイズ・セパレーション法等の公知の紡糸方法でナノファイバーを作製し、公知の方法で不織布を形成させることにより、製造することができる。ビタミンB12等の薬剤と生分解性脂肪族ポリエステル等の生体適合性ポリマーを含有する溶液(原料溶液)の調製には適当な溶媒を用いることができる。原料溶液に使用する溶媒は、紡糸工程で除去されて不織布には残存しない。原料溶液に使用する溶媒としては、TEF、HFIP、クロロホルム、DMF等が挙げられる。好ましくは、TEF等が挙げられる。
【0023】
不織布が所望の柔軟性を有するように、生分解性脂肪族ポリエステルには柔軟性を付与するためのモノマー成分を含んでいてもよい。このようなモノマー成分としては、例えば、DL-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D-乳酸、L-乳酸等が挙げられる。柔軟性を付与するためのモノマー成分の含量は、用いる生体適合性ポリマーの種類、柔軟性を付与するためのモノマー成分の種類、および所望の柔軟性レベルに応じて、その都度設定することが好ましい。また、生体適合性ポリマーの分子量を調整することや、ポリマー分子に分岐構造を作ることで不織布の柔軟性を高めることができる。分子量および分岐数は、用いる生体適合性ポリマーの種類に応じて適宜設定することが好ましい。
【0024】
生体適合性ポリマーのうち、例えば、生分解性脂肪族ポリエステルとしては、ポリカプロラクトンまたはその共重合体を用い、電界紡糸法でシートを製造する場合、以下の工程(1)および(2)を含む製造方法を用いることが好ましい。
(1)薬剤と、ポリカプロラクトンまたはその共重合体と、TEF、HEIP、クロロホルムおよびDMFから選択される溶媒を含む溶液を調製する工程
(2)電圧10~30kV、流速0.1~1mL/h、ニードルサイズ18~24Gの条件で(1)で調製した溶液を電界紡糸法に供して紡糸し、電極面で不織布を形成させる工程。
【0025】
工程(1)で用いるポリカプロラクトンまたはその共重合体は、重量平均分子量1000~300000、1分子当たりの分岐数1~8、DL-ラクチド含量0~50モル%であることが好ましい。より好ましくは、重量平均分子量10000~100000、1分子当たりの分岐数2~7、DL-ラクチド含量20~45モル%のポリカプロラクトン共重合体であり、さらに好ましくは、重量平均分子量30000~600000、1分子当たりの分岐数3~6、DL-ラクチド含量30~45モル%のポリカプロラクトン共重合体である。用いる溶媒は、好ましくはTEFである。
【0026】
工程(2)では、工程(1)で調製した溶液(原料溶液)を電界紡糸法に供して紡糸し、電極面で不織布を形成させる。電界紡糸法の条件は、電圧10~30kV、流速0.1~1mL/h、ニードルサイズ18~24Gが好ましい。より好ましくは、電圧10~15kV、流速0.3~0.7mL/h、ニードルサイズ22~24Gである。
【0027】
生体適合性ポリマーのうち、ポリアクリルアミド誘導体としては、例えばポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)もしくはその共重合体、またはN-イソプロピルアクリルアミドおよび2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体を用い、電界紡糸法でシートを製造する場合、以下の工程(1)および(2)を含む製造方法を用いることが好ましい。
(1)薬剤と、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)もしくはその共重合体またはN-イソプロピルアクリルアミドおよび2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体と、TEF、HEIP、クロロホルムおよびDMFから選択される溶媒を含む溶液を調製する工程
(2)電圧10~30kV、流速0.1~1mL/h、ニードルサイズ18~24Gの条件で(1)で調製した溶液を電界紡糸法に供して紡糸し、電極面で不織布を形成させる工程。
【0028】
工程(2)では、工程(1)で調製した溶液(原料溶液)を電界紡糸法に供して紡糸し、電極面で不織布を形成させる。電界紡糸法の条件は、電圧10~30kV、流速0.1~1mL/h、ニードルサイズ18~24Gが好ましい。より好ましい電圧と流速は、電圧10~20kV、流速0.3~1mL/hである。
【0029】
本シートには、ビタミンB12等の薬剤に加えて、ヒアルロン酸を含有させたものも含まれる。ヒアルロン酸は、工程(1)で溶液に添加してもよく、工程(2)で形成された不織布をヒアルロン酸に浸漬してコーティングしてもよい。
【0030】
上記のような製造方法により、薬剤および生体適合性ポリマーからなるナノファイバーで形成された不織布からなり、ヤング率が100kPa~100MPa、重量が1mg/cm2~100mg/cm2である生体内埋め込み用の本シートを製造することができる。このような本シートの製造方法、あるいは、このような本シートの製造のための薬剤またはナノファイバーもしくは不織布の使用も本発明に含まれる。
【0031】
本シートに含有させることができるビタミンB12、ニューロトロフィンといった薬剤は、適宜公知の方法によって製造してもよいし、市販のものを購入してもよい。また、ヒアルロン酸も同様に、適宜公知の方法によって製造してもよいし、市販のものを購入してもよい。
【0032】
本シートに含有させることができる本抽出物は、ワクシニアウイルスを接種して発痘した動物の炎症組織から抽出分離した非蛋白性の活性物質を含有する抽出物である。
本抽出物はワクシニアウイルスを接種して発痘した炎症組織を破砕し、抽出溶媒を加えて組織片を除去した後、除蛋白処理を行い、これを吸着剤に吸着させ、次いで有効成分を溶出することによって得ることができる。即ち、例えば、以下のような工程である。
(A)ワクシニアウイルスを接種し発痘させたウサギ、マウス等の皮膚組織等を採取し、発痘組織を破砕し、水、フェノール水、生理食塩液またはフェノール加グリセリン水等の抽出溶媒を加えた後、濾過または遠心分離することによって抽出液(濾液または上清)を得る。
(B)前記抽出液を酸性のpHに調整して加熱し、除蛋白処理する。次いで除蛋白した溶液をアルカリ性に調整して加熱した後に濾過または遠心分離する。
(C)得られた濾液または上清を酸性とし活性炭、カオリン等の吸着剤に吸着させる。
(D)前記吸着剤に水等の抽出溶媒を加え、アルカリ性のpHに調整し、吸着成分を溶出することによってワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を得ることができる。その後、所望に応じて、適宜溶出液を減圧下に蒸発乾固または凍結乾燥することによって乾固物とすることもできる。
【0033】
ワクシニアウイルスを接種し炎症組織を得るための動物としては、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、ラット、マウス等ワクシニアウイルスが感染する種々の動物を用いることができ、炎症組織としてはウサギの炎症皮膚組織が好ましい。ウサギはウサギ目に属するものであればいかなるものでもよい。例としては、アナウサギ、カイウサギ(アナウサギを家畜化したもの)、ノウサギ(ニホンノウサギ)、ナキウサギ、ユキウサギ等がある。これらのうち、カイウサギが使用するには好適である。日本では過去から飼育され家畜または実験用動物として繁用されている家兎(イエウサギ)と呼ばれるものがあるが、これもカイウサギの別称である。カイウサギには、多数の品種(ブリード)が存在するが、日本白色種やニュージーランド白色種(ニュージーランドホワイト)といった品種が好適に用いられ得る。
【0034】
ワクシニアウイルス(vaccinia virus)は、いかなる株のものであってもよい。例としては、リスター(Lister)株、大連(Dairen)株、池田(Ikeda)株、EM-63株、ニューヨーク市公衆衛生局(New York City Board of Health)株等が挙げられる。
【0035】
本抽出物は、製造された時点では液体であるので、適宜濃縮・希釈することによって所望の濃度のものにすること、凍結乾燥することもできる。また、本抽出物を分画することにより、より神経損傷の治療効果の高い分画物を得て、これを本シートに使用することも可能である。
なお、本抽出物のより具体的な製造方法は、例えば国際公開WO2016/194816号公報の段落番号[0024]~[0027]、[0031]等に記載されている。
【0036】
本発明により、従来の人工神経の適用対象でなかった有連続性神経損傷を治療するための薬剤徐放シートを提供することができる。有連続性神経損傷は末梢神経損傷のなかで最も患者数が多いので、本発明の貢献度は非常に高いと考えられる。また、不連続性神経損傷についても、本シート単独で、あるいは人工神経と併用して用いることができる。本シートは、神経損傷部位の周辺部に埋め込んで使用するものである。そのため、高用量の薬剤を連続投与することにより血中の薬剤濃度を上昇させる必要がなく、薬剤を局所で持続的に放出することにより神経再生を促進することができる。さらに、本シートは生体適合性ポリマーを用いて成形されるので、神経損傷の処置後も取り除く必要がない。また、非常に柔軟に成形することが可能であるので、神経損傷部位の周辺部に埋め込んでも神経に悪影響を及ぼすような刺激を与えず、非常に使いやすいものである。また、人工神経使用時には手術用顕微鏡が必要であるが、本シート単独使用時には手術用顕微鏡は不要であり、操作が非常に簡便であるという利点もある。すなわち、本シートは、有効性と安全性を兼ね備えると共に、利便性が高い点で非常に有用である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1:ビタミンB12含有シート等の作製〕
(1)ポリカプロラクトンシート等の作製
ポリカプロラクトン900 mgにHEIP4.5mLを加え、3時間超音波処理を行うことで分散溶液(ポリマー溶液濃度20wt%)を調製した。
次に、この分散溶液すべてを5 mLシリンジを用いて、1.0 mL/hの速度で送り出しながら20kVの電圧を印加した。アルミホイルを敷いた金属基盤上に紡糸された繊維を積層させて捕集し、ポリカプロラクトンシートを作製した(使用したシリンジ針: 22G、シリンジ-金属基盤距離: 13cm)。
図1の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像に示したように、ナノファイバーで形成された不織布からなるポリカプロラクトンシートを製造することができた。
同様に、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、N-イソプロピルアクリルアミドと2-ヒドロキシエチルメタクリルアミドの共重合体(以下、「ポリ(NIPAAm-co-HMAAm)」)を用いたファイバーシートについても同様に作製した(
図2および
図3参照)。
【0038】
(2)磁性ナノ粒子を含有したポリカプロラクトンシートの作製
ポリカプロラクトン900mgとγ―Fe
2O
3からなる磁性ナノ粒子270 mgに、HEIP4.5 mLを加え、12時間超音波処理を行うことで分散溶液(ポリマー溶液濃度20wt%)を調製した。
次に、この分散溶液すべてを5mLシリンジを用いて、1.0 mL/hの速度で送り出しながら20kVの電圧を印加した。アルミホイルを敷いた金属基盤上に紡糸された繊維を積層させて捕集し、磁性ナノ粒子を含有したポリ(NIPAAm-co-HMAAm)シートを作製した(使用したシリンジ針: 22G、シートに対する磁性ナノ粒子含有量30%)。
図4の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像に示したように、ナノファイバーで形成された不織布からなる磁性ナノ粒子を含有したポリカプロラクトンシートを製造することができた。
【0039】
(3)ヒアルロン酸コーティングポリカプロラクトンシートの作製
ヒアルロン酸128mgを純水2.5mLに溶解し、5wt%のヒアルロン酸溶液を調製した。実施例1(1)で作製したポリカプロラクトンシートをヒアルロン酸溶液に浸漬させ、24時間静置した。凍結乾燥を72時間行い、ヒアルロン酸コーティングポリカプロラクトンシートを作製した。
図5に作製されたヒアルロン酸でコーティングされたポリカプロラクトンシートの走査型電子顕微鏡(SEM)観察像を示した。
【0040】
(4)ビタミンB12含有シートの作製
6mLのTEFに、600mgのポリ(ε-カプロラクトン-co-DL-ラクチド)およびメチルコバラミン(Sigma社製)を溶解した。ポリ(ε-カプロラクトン-co-DL-ラクチド)は重量平均分子量が40000、分岐数が4/分子、ε-カプロラクトンとDL-ラクチドのモル比が60:40のものを自製して使用した。メチルコバラミンの終濃度が1%、2%または3%になるように、それぞれ6.5mg、13mgまたは20mgを溶解し、3種類の溶液を調製した。次に、電界紡糸法を用いてナノファイバーを製造し、これを網目状に形成して不織布を作製した。具体的には、24Gのニードルから0.5mL/hの流速で溶液を押し出し、12kVの電圧を印加して紡糸し、電極面にナノファイバーを集積させて捕捉することにより、不織布を作製した。
図7の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像に示したように、ナノファイバーで形成された不織布からなるビタミンB12含有シートを製造することができた。このシートの厚さは約300μm、重量は約10mg/cm
2あった。
同様にして、薬剤としてNGFおよびBDNFについても、それぞれを含有するシートを作製することができた。
【0041】
(5)本抽出物含有シートの作製
ポリカプロラクトン900mgと本抽出物凍結乾燥粉末270mgに、HEIP4.5 mLを加え、3時間超音波処理を行うことで分散溶液(ポリマー溶液濃度20wt%)を調製した。
次に、この分散溶液すべてを5mLシリンジを用いて、0.5mL/hの速度で送り出しながら20kVの電圧を印加した。アルミホイルを敷いた金属基盤上に紡糸された繊維を積層させて捕集し、本抽出物含有シートを作製した(使用したシリンジ針: 18G、シートに対する本抽出物担持量30%)。
図6に作製した本抽出物を含有したポリカプロラクトンシートの走査型電子顕微鏡(SEM)観察像を示した。
【0042】
〔実施例2:ビタミンB12含有シート等の徐放性の確認〕
チューブに3mLのPBSを入れ、その中に10mgのシートを浸漬して37℃に保温し、経時的にサンプリングしてビタミンB12濃度を測定した。1回あたりのサンプル量は100μLとし、ビタミンB12濃度は紫外可視吸光度測定法により行った。
結果を
図8に示した。3種類のシートは、いずれも25日目まで徐放性を示した。理論最大値を考慮すれば、含有するメチルコバラミン量が多いほど、徐放期聞が長くなると考えられる。なお、図には示さないが、3種類のシートはその後も8週間にわたり(56日目まで)徐放性を示すことを確認した。
同様にして、本抽出物、NGFまたはBDNFを含有させたシートについても、それぞれ薬剤の徐放性を確認した。
【0043】
〔実施例3:ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いた薬効評価〕
1.ラット坐骨神経圧挫損傷モデルの作製
すべての動物実験は大阪大学動物実験施設の倫理委員会の承認を得て進めた。6週齢の雄のWistar系ラット(体重約200g)を使用した。すべての手術は、midazolam(2mg/kg)、butorphanol(2.5mg/kg)、medetomidine(0.15mg/kg)の混合麻酔薬で深鎮静をかけて行った。清潔操作下に左坐骨神経を展開し、坐骨切痕から遠位5mmの位置に鑷子で圧挫損傷を加えた。圧挫時間は10秒間、圧挫回数は3回とし、圧挫操作の間隔は10秒間とした。筋膜および皮膚を4-0ナイロンで縫合した。実験ラットは以下の5群に分類した。すなわち、坐骨神経を圧挫損傷せず展開のみ行ったsham群、坐骨神経を圧挫損傷せず展開のみ行いメチルコバラミンを含有していないシートを移植したCTR sheet群、圧挫損傷し治療を行わなかったuntreated群、圧挫損傷しメチルコバラミン含有シート(実施例1で作製した3%メチルコバラミン含有シート)を移植したMeCbl sheet群、圧挫損傷しメチルコバラミンを全身投与(1mg/kg/day)したMeCbl pump群を設けた。メチルコバラミンの全身投与は、osmotic minipump(Model 2ML2; Alzet, Cuperitino, CA, USA)を背部皮下に留置することにより行った。すべての手術は同一の術者が行った。
薬剤として本抽出物を含有したシートについても同様に検討した。実験ラットは以下の4群に分類した。すなわち、坐骨神経を圧挫損傷せず展開のみ行ったsham群、坐骨神経を圧挫損傷せず展開のみ行い本抽出物を含有していないシートを移植したCTR sheet群、圧挫損傷し治療を行わなかったuntreated群、圧挫損傷し本抽出物含有シート(実施例1で作製した本抽出物含有シート)を移植したNTP sheet群を設けた。
薬剤として、NGFまたはBDNFを含有したシートについても、同様に坐骨神経を圧挫損傷したモデルラットに移植することができた。
【0044】
2.評価項目および実験方法
(1)ビタミンB12血中濃度
術後6週時に、麻酔鎮静下にてラット左心室から血液を1mL採取した。採取した血液を800×gで20分間遠心分離し上清を回収した。血中ビタミンB12濃度測定はBML社(東京)に依頼した。
【0045】
(2)運動機能および感覚機能評価
運動機能の評価のため、術後6週時点でsciatic function index(SFI)を測定した。SFI測定のため、ラットの後足にインクをつけ40cm四方の水平台の上に置いたoffice paper上を歩行させfoot printを記録した。以下の項目を計測しSFIを計算した。SFI=0が正常、SFI=-100が機能低下を示す。また、術後経過中に足趾の壊死・欠損を生じた個体は除外した。SFIは以下の数式で計算した。各項目は以下に示すとおりである。
SFI=-38*((EPL-NPL)/NPL+109.5*((ETS-NTS)/NTS)+13.3* ((EITS-NITS)-8
EPL: experimental print length
NPL: normal print length
ETS: experimental toe spread
NTS: normal toe spread
EIT: experimental intermediary toe spread
NIT: normal intermediary toe spread
【0046】
感覚機能の評価のため、術後6週時点でvon Frey filament(0.008g‐26g; TouchTest, North Coast Medical Inc, Gilroy, CA, USA)を用いてmechanical hind paw withdrawal thresholdを測定した。金属網の上を歩かせて、足底部中央をフィラメントが曲がり始めるまで圧を加え逃避行動を起こした値を記録した。
【0047】
(3)電気生理学的評価
術後3週または6週経過したラットを麻酔薬で鎮静をかけ、手術台に腹臥位とした。左坐骨神経および左前脛骨筋を展開した。Compound muscle action potential(CMAP)とTerminal latency(TL)は、坐骨神経近位を双極電極で刺激して測定した。Nerve conduction velocity(NCV)は坐骨神経圧挫損傷部の近位側および遠位側をそれぞれ双極電極で刺激して、各測定値から算出した。測定および評価には、AD Instruments Power Lab 2/26、Stimulus isolater、Bio AmpおよびChart&Scope software(いずれも、AD Instruments,Bel la Vista,NSW,Australis)を用いた。
【0048】
(4)組織学的評価
術後6週経過したラットを麻酔薬で鎮静をかけ、左坐骨神経を採取して4%PFAで5日間、20%スクロースで24時間固定後に凍結包埋した。包埋した組織を神経短軸方向に5μm厚でスライスしglass slideに置いた。1時間乾燥させて、95%メタノールで30分間固定した。ブロッキング後に1次抗体を4℃で一夜反応させた。二次抗体は室温で1時間反応させ、核をDAPIで標識した。一次抗体は軸索の指標であるanti-neurofilament 200(NF200)antibody produced in rabbit(1:1000;102M4784,SIGMA)および髄鞘の指標であるAnti-Myelin Basic Protein(MBP)Mouse mAb(1:1000;NE1018,CALIOCHEM)を使用した。二次抗体はAlexa 488 _ labeled goat anti-rabbit IgG antibody(1:1000;Lifetechnologies)およびAlexa 568 _ labeled goat anti-mouse IgG antibody(1:1000;Lif etechnologies)を使用した。全軸索数、MBP陽性軸索数/全軸索数を評価した。
【0049】
〔実施例4:ラット坐骨神経欠損モデルを用いた薬効評価〕
1.ラット坐骨神経欠損モデルの作製
6週齢の雄のWistar系ラット(体重約200g)を使用した。すべての手術は、midazolam(2mg/kg)、butorphanol(2.5mg/kg)、medetomidine(0.15mg/kg)の混合麻酔薬で深鎮静をかけて行った。清潔操作下に左坐骨神経を展開し、坐骨切痕から遠位5mmの位置と、そこからさらに遠位10mmの位置で坐骨神経を切断し10mmの欠損モデルを作成した。
実験ラットは以下の4群に分類した。(i) 神経再生誘導チューブ+MeCblシート群;径1.5mm×長さ12mmの神経再生誘導チューブの両端に坐骨神経断端をそれぞれ1mmずつ引き込むように10-0 ナイロンで縫合し、その周りに幅10mm×長さ14mmのメチルコバラミン含有シートを覆うように留置した。(ii) 神経再生誘導チューブ群;神経再生誘導チューブの両端に坐骨神経断端をそれぞれ1 mmずつ引き込むように10-0 ナイロンで縫合した。(iii) 自家移植片群;切断した坐骨神経を反転して10-0 ナイロンで縫合した。(iv) sham群;坐骨神経の展開のみを行った。筋膜および皮膚を4-0 ナイロンで縫合した。すべての手術は同一の術者が行った。
薬剤として本抽出物、NGFまたはBDNFを含有したシートについても、同様に坐骨神経欠損モデルラットに移植することができた。
【0050】
2.評価項目および実験方法
(1)感覚機能評価
感覚機能の評価のため、術後12週時点で実施例3-2(2)と同様にmechanical hind paw withdrawal thresholdを測定した。
【0051】
(2)電気生理学的評価
術後12週時点で実施例3-2(3)と同様にTLおよびNCVを算出した。
【0052】
(3)組織学的評価
術後12週経過したラットを麻酔薬で鎮静させ、左坐骨神経を採取して4%PFAで7日間、20%スクロースで24時間固定後に凍結包埋した。実施例3-2(4)と同様に全軸索数、MBP陽性軸索数/全軸索数を評価した。
【0053】
(4)統計処理
すべての数値はmean±SEMで表記した。実施例3-2(1)乃至(4)、実施例4においては、統計処理はJMP software version 11(SAS Institute社)を用いてTukey-Kramer HSD検定にて施行した。
試験例3-2(5)においては、統計解析は、SAS System Version 9.1.3(SAS Institute社)を用いて2群間比較はF検定にて施行し、等分散の場合はStudentのt検定、不等分散の場合はWelchの検定にて施行した。
【0054】
3.結果
A. ラット坐骨神経圧挫損傷モデルを用いた薬効評価
(1)ビタミンB12等の血中濃度
結果を
図9に示した。MeCbl pump群(18.35±2.27ng/mL)では血中濃度の有意な上昇を認めたが、MeCbl sheet群(1.73±0.05ng/mL)では血中濃度の上昇を認めなかった。薬剤非投与群(sham群:1.99±0.33ng/mL、CTR sheet群:1.48±0.05ng/mLおよびuntreated群:1.50±0.07ng/mL)はいずれも血中濃度上昇を認めなかった。
薬剤として本抽出物、NGFまたはBDNFを用いた場合も、同様に血中濃度の上昇を認めなかった。
【0055】
(2)運動機能および感覚機能評価
SFIの結果を
図10に示した。untreated群(-20.6±4.2)と比較してMeCbl sheet群(-9.0±2.0)は有意に改善を認め、MeCbl pump群(-10.5±2.0)で回復傾向を認めた。
von Frey filament testの結果を
図11に示した。untreated群(117.8±11.7g)と比較してMeCbl sheet群(80±7.6g)はMeCbl pump群(77.8±7.0g)と同様に有意な改善を認めた。
薬剤として本抽出物を含有したシートのvon Frey filament testの結果を
図12に示した。untreated群(2.75±0.41)と比較してNTP sheet群(1.35±0.13)は有意な改善を認めた。
薬剤としてNGFまたはBDNFを含有したシートの移植でも、運動機能および感覚機能において改善が認められた。
【0056】
(3)電気生理学的評価
結果を
図13に示した。(A)がCMAPの結果、(B)がTLの結果、(C)がNCVの結果である。CMAPおよびTLにおいては、untreated群(CMAP:19.5±2.3mV、TL:3.45±0.08ms)と比較してMeCbl sheet群(CMAP:18.5±1.5mV、TL:3.27±0.09ms)、MeCbl pump群(CMAP:19.5±1.5mV、TL:3.24±0.07ms)ともに有意な改善は認めなかった。一方、NCVにおいては、untreated群(28.2±2.5m/s)と比較して、MeCbl sheet群(44.4±2.8m/s)はMeCbl pump群(43.2±2.5m/s)群と同様に有意に改善を認めた。
薬剤として本抽出物、NGFまたはBDNFを含有したシートの移植でも、同様に改善が認められた。
【0057】
(4)組織学的評価
結果を
図14および
図15に示した。
図7は抗MBP抗体を用いて髄鞘を免疫染色した顕微鏡画像であり、図中白みを帯びて見える部分が染色された髄鞘である。
図15(A)は全軸索数の結果、
図15(B)はMBP陽性軸索数/全軸索数の結果である。
1平方ミリメートル当たりの再生軸索の本数は、untreated群(2843±68本/mm
2)、MeCbl sheet群(2733±142/mm
2)、MeCbl pump群(2735±77/mm
2)で有意な差を認めなかった。一方、髄鞘化率(MBP陽性軸索数/全軸索数)はuntreated群(85.0±0.9%)と比較して、MeCbl sheet群(91.0±0.8%)はMeCbl pump群(91.5±0.6%)と同様に有意に改善を認めた。
薬剤として本抽出物、NGFまたはBDNFを含有したシートの移植でも、同様に改善が認められた。
【0058】
B. ラット坐骨神経欠損モデルを用いた薬効評価
(1)感覚機能評価
結果を
図16に示した。von Frey filament testにおいて、神経再生誘導チューブ群(172.0±36.7g)と比較して神経再生誘導チューブ+MeCblシート群(84.0±9.80g)は有意に改善を認めた。
薬剤として、本抽出物、NGFまたはBDNFを含有したシートでも、同様に改善を認めた。
【0059】
(2)電気生理学的評価
TLの結果を
図17に、NCVの結果を
図18に示した。TLにおいて、神経再生誘導チューブ群(4.67±0.37m/s)と比較して神経再生誘導チューブ+MeCblシート群(3.43±0.12m/s)は改善を認めた。NCVにおいては、神経再生誘導チューブ群(16.3±3.13m/s)と比較して神経再生誘導チューブ+MeCblシート群(29.5±4.50m/s)は改善傾向を認めた。
薬剤として、本抽出物、NGFまたはBDNFを含有したシートでも、同様に改善を認めた。
【0060】
(3)組織学的評価
1平方ミリメートル当たりの再生軸索の本数および髄鞘化率(MBP陽性軸索数/全軸索数)において、神経再生誘導チューブ群と比較して神経再生誘導チューブ+MeCblシート群は改善を認めた。
薬剤として、本抽出物、NGFまたはBDNFを含有したシートでも、同様に改善を認めた。
【0061】
薬剤含有シートを神経損傷部局所へ移植することで、血中薬剤濃度を上昇させることなく、神経損傷後の回復促進が認められた。すなわち、神経損傷後の運動機能、感覚機能、電気生理学的機能回復が認められ、歩行解析においても改善が認められた。また、組織学的にも有髄軸索数の増加が認められた。以上より、本発明は末梢神経損傷後の機能回復において非常に有益である。
【0062】
なお、本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。