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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】自動車ドア
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20220414BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C03C27/12 D
B60J1/00 J
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2016111690
(22)【出願日】2016-06-03
(65)【公開番号】P2017218331
(43)【公開日】2017-12-14
【審査請求日】2019-02-07
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤史
(72)【発明者】
【氏名】山田 大介
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】後藤 政博
【審判官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076339(WO,A1)
【文献】特開2001-219738(JP,A)
【文献】実開平3-69515(JP,U)
【文献】特表2011-504830(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第0694429(EP,A1)
【文献】特開平10-119582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B60J 1/00 - 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2枚のパネル板と、前記パネル板の各対向面のベルトラインに沿った領域に2個のシール部材を備える自動車ドアパネルの、前記2枚のパネル板間に、前記2個のシール部材間を摺動するように、開閉自在に配設される合わせガラスを備える自動車ドアであって、
前記合わせガラスは、少なくとも2枚のガラス板と、前記2枚のガラス板の間に狭持される貯蔵弾性率G'(ただし、貯蔵弾性率G'は、周波数1Hz、動的せん断歪み0.015%、温度20℃の条件下、動的粘弾性試験により測定される)が1.5×10Pa以上の中間膜とを有する合わせガラス本体と、
前記合わせガラス本体の表面に、前記合わせガラスの閉時に前記シール部材及び前記パネル板の少なくとも一方と当接して、これらと前記合わせガラス本体との間の隙間を封止する粘弾性部材を有し、
前記粘弾性部材は、前記合わせガラスの閉時に、前2個のシール部材と隙間なく接して前記合わせガラス本体と前記パネル板との隙間を密閉するように配置される、又は前記合わせガラス本体と前記パネル板との隙間を前記シール部材から前記パネル板にかけて封止するように配置される、自動車ドア
【請求項2】
前記中間膜は、1層のコア層と前記コア層を挟持する1対のスキン層からなる3層構造である、請求項1記載の自動車ドア
【請求項3】
前記スキン層の貯蔵弾性率G'が、前記コア層の貯蔵弾性率G'より大きい請求項2に記載の自動車ドア
【請求項4】
前記コア層の貯蔵弾性率G'が、1.0×104Pa以上1.0×107Pa以下である請求項2又は3に記載の自動車ドア
【請求項5】
前記スキン層の貯蔵弾性率G'が、5.0×106Pa以上1.3×108Pa以下である請求項2~4の何れか一項に記載の自動車ドア
【請求項6】
前記粘弾性部材は、前記合わせガラスの閉時において、開時に比べて厚みが減少される請求項1~5の何れか一項に記載の自動車ドア
【請求項7】
前記粘弾性部材は、前記シール部材に比べて20℃におけるヤング率E(N/m)が低い請求項1~5の何れか一項に記載の自動車ドア
【請求項8】
前記粘弾性部材は、温度20℃におけるヤング率E(N/m)と、振動数4000Hz、温度20℃における損失係数tanδが、下記式(1)を満たす請求項1~7の何れか一項に記載の自動車ドア
【数1】
【請求項9】
前記粘弾性部材は、複数の材料で構成される請求項1~8の何れか一項に記載の自動車ドア
【請求項10】
前記粘弾性部材は、発泡体からなる層を含む請求項1~9の何れか一項に記載の自動車ドア
【請求項11】
前記ガラス板の板厚みの合計が3.3mm以下である請求項1~10の何れか一項に記載の自動車ドア
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスおよび自動車ドアに関し、特には、高い剛性を有するとともに自動車ドアに設置された際に高い遮音性を達成できる自動車ドア用の合わせガラスおよび該合わせガラスを備える自動車ドアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を目的として、各種構成部材の軽量化が図られるようになった。その中で、自動車ドアにおいて開閉自在な窓ガラスとして用いる合わせガラスについても軽量化が求められている。また、自動車ドアの合わせガラスには、従来から、走行時の風切り音やボデーの振動音を遮断する遮音性が求められている。合わせガラスは、典型的には、中間膜を2枚のガラス板で挟持した構成であり、自動車ドア用の合わせガラスにおいては該中間膜の材料や構成を調整することで遮音性を高める技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
合わせガラスを軽量化するにはガラス板の板厚を減少させればよいが、ガラス板の薄板化に伴い強度も低減する点が大きな問題であった。そこで、中間膜の遮音性を維持しつつ剛性を高めることで、合わせガラスの遮音性と軽量化と強度維持の両立が図られている。しかしながら、高剛性の中間膜を用いると、特定の周波数領域において、遮音性が低減する現象が発生し問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-272937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記観点からなされたものであり、高い剛性を有することで軽量化が可能であるとともに、自動車ドアに設置された際に高い遮音性を達成できる自動車ドア用の合わせガラスおよび、該合わせガラスを備える軽量化に対応しながら遮音性能に優れる自動車ドアの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車ドアは、互いに対向する2枚のパネル板と、前記パネル板の各対向面のベルトラインに沿った領域に2個のシール部材を備える自動車ドアパネルの、前記2枚のパネル板間に、前記2個のシール部材間を摺動するように、開閉自在に配設される合わせガラスを備える自動車ドアであって、
前記合わせガラスは、少なくとも2枚のガラス板と、前記2枚のガラス板の間に狭持される貯蔵弾性率G'(ただし、貯蔵弾性率G'は、周波数1Hz、動的せん断歪み0.015%、温度20℃の条件下、動的粘弾性試験により測定される)が1.5×10Pa以上の中間膜とを有する合わせガラス本体と、
前記合わせガラス本体の表面に、前記合わせガラスの閉時に前記シール部材及び前記パネル板の少なくとも一方と当接して、これらと前記合わせガラス本体との間の隙間を封止する粘弾性部材を有し、
前記粘弾性部材は、前記合わせガラスの閉時に、前2個のシール部材と隙間なく接して前記合わせガラス本体と前記パネル板との隙間を密閉するように配置される、又は前記合わせガラス本体と前記パネル板との隙間を前記シール部材から前記パネル板にかけて封止するように配置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い剛性を有することで軽量化が可能であるとともに、自動車ドアに設置された際に高い遮音性を達成できる自動車ドア用の合わせガラスおよび、該合わせガラスを備える軽量化に対応しながら遮音性能に優れる自動車ドアが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の合わせガラスの断面図である。
図2】実施形態の合わせガラスを備える自動車ドアが設置された自動車の側面図である。
図3図2に示す自動車ドアにおいて図1の実施形態の合わせガラスを用いた際の閉時および開時の状態を概略的に示す図2A-A’-A”線断面図である。
図4図2に示す自動車ドアにおいて別の実施形態の合わせガラスを用いた際の閉時および開時の状態を概略的に示す図2A-A’-A”線断面図である。
図5図2に示す自動車ドアにおいてさらに別の実施形態の合わせガラスを用いた際の閉時および開時の状態を概略的に示す図2A-A’-A”線断面図である。
図6】実施例の合わせガラスを用いた自動車ドアにおける遮音性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の合わせガラスおよび自動車ドアの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
【0011】
図1は、実施形態の合わせガラスの断面図であり、図2は実施形態の合わせガラスを備える自動車ドアが設置された自動車の側面図である。図3は、図2に示す自動車ドアにおいて図1の実施形態の合わせガラスを用いた際の閉時および開時の状態を概略的に示す図2A-A’-A”線断面図である。
【0012】
図1に示す合わせガラス1は自動車ドア用の合わせガラスである。合わせガラス1は、2枚のガラス板11A、11Bと、ガラス板の間に狭持される中間膜12からなる合わせガラス本体11と、合わせガラス本体11のガラス板11A側の表面Saの、合わせガラス1が自動車ドアの構成部材となった際に下方部となる位置に粘弾性部材13を有する。粘弾性部材13は、以下に説明するとおり、合わせガラス1の閉時に自動車ドアパネルが有するシール部材またはパネル板と当接して合わせガラス本体11とこれらとの間の隙間を封止する。
【0013】
合わせガラス1において、中間膜12は、2層のスキン層12A、12Bが、コア層12Cを挟持する3層の積層構造であり、貯蔵弾性率G’(ただし、貯蔵弾性率G’は、周波数1Hz、動的せん断歪み0.015%、温度20℃の条件下、動的粘弾性試験により測定される)が1.5×10Pa以上である。中間膜の貯蔵弾性率G’が1.5×10Pa以上であれば、中間膜は高い剛性を有し、合わせガラスを共に構成するガラス板を薄くして、軽量化することが可能となる。しかし、このような合わせガラスは上記のとおり、特定周波数、具体的には、2000~5000Hz付近に遮音性能が低下する。実施形態の合わせガラス1は、合わせガラス本体11に後述の遮音構造を形成するように粘弾性部材13を配設することで、上記遮音性能の低下を抑制したものである。
【0014】
本明細書において、「貯蔵弾性率G’」は、特に断りのない限り、周波数1Hz、動的せん断歪み0.015%、温度20℃の条件下、動的粘弾性試験により測定される貯蔵弾性率G’である。貯蔵弾性率G’は、せん断法、例えば、アントンパール社製レオメーターMCR301による動的粘弾性試験により測定できる。合わせガラス1において中間膜12は3層の積層構造であるが、貯蔵弾性率G’が1.5×10Pa以上であれば、層数は限定されない。中間膜12は単層膜であってもよく、複数の層を積層した積層膜であってもよい。中間膜が複数の層からなる積層膜の場合、層数は2~5が好ましく、上記2つの特性をバランスよく実現しやすい点から3層が特に好ましい。
【0015】
合わせガラス1は、例えば、図2に示す自動車10が有する自動車ドア3の一部を構成する。自動車ドア3は、互いに対向する2枚のパネル板(図2では車外側のパネル板22のみが図示される。)と、パネル板の各対向面のベルトラインLに沿った領域(以下、「ベルトライン部」ともいう。)Lsにシール部材を備える自動車ドアパネル(以下、単に「ドアパネル」ともいう。)2と、合わせガラス1からなる。合わせガラス1は、ドアパネル2の2枚のパネル板21、22間に、シール部材41、42間を摺動するように、昇降可能に配設される(図3)。自動車10において、ベルトラインLは前後の自動車ドア3のパネル板22の上端を結ぶラインである。ベルトライン部Lsは、ベルトラインLに沿ってパネル板の上端から下方に所定の幅を有する領域である。
【0016】
合わせガラス1は、ドアパネル2に昇降可能に配設されることで開閉自在である。合わせガラス1が開閉自在であるとは、合わせガラス1が昇降することで、図2に示す自動車ドア3の上方に位置する窓開口部Wの開閉が自在であることを意味する。すなわち、合わせガラス1の閉時には窓開口部Wは合わせガラス1により閉じられ、合わせガラス1の開時には窓開口部Wは開かれた状態となる。
【0017】
図3は、合わせガラス1を有する自動車ドア3の、合わせガラス1の閉時、開時における図2A-A’-A”線断面図を概略的に示す図である。図3には、ドアパネル2が有する互いに対向する2枚のパネル板21、22と、パネル板21、22の各対向面のベルトライン部Lsに配設されたシール部材41、42が示される。合わせガラス1は、合わせガラス本体11におけるガラス板11A側の表面Saが車内側に位置し、ガラス板11B側の表面Sbが車外側に位置するようにドアパネル2に取り付けられている。閉時の合わせガラス1が矢印P1方向に下降し、下降しきった状態が開時である。また、開時の合わせガラス1が矢印P2方向に上昇し、上昇しきった状態が閉時である。
【0018】
本明細書においては、2枚のパネル板のうち車内側に位置するパネル板をインナーパネル、車外側に位置するパネル板をアウターパネルという。同様に、2個のシール部材のうち車内側に位置するシール部材をインナーシール部材、車外側に位置するシール部材をアウターシール部材という。図3に示すドアパネル2において、インナーシール部材41は、合わせガラス1側に上下に2個のリップ部、すなわち上部インナーリップ411および下部インナーリップ412を有し、アウターシール部材42は同様に合わせガラス1側に上部アウターリップ421および下部アウターリップ422を有する。
【0019】
図3に示す自動車ドア3では、合わせガラス1の閉時において、インナーパネル21と合わせガラス本体11の間の隙間が粘弾性部材13で封止される。これにより、合わせガラス1の閉時においてベルトライン部を介して車内に侵入する音の量を充分に抑制することができる。
【0020】
ここで、図3に示す自動車ドア3では、合わせガラス1が有する粘弾性部材13が、合わせガラス本体11とインナーパネル21間に拘束されることで拘束型の制振構造を形成している。そのため、合わせガラス1の振動を充分に抑制し、合わせガラス1の閉時の車内における高い遮音効果が実現できる。なお、合わせガラスの振動の原因としては、ドアパネルから合わせガラスへのロードノイズの伝播、エンジンノイズの伝播等が挙げられる。
【0021】
以下、実施形態の合わせガラスが有する各部材について、図1図3に示す合わせガラス1を例に説明する。
【0022】
[合わせガラス本体]
合わせガラス本体11は、互いに対向する1対のガラス板11A、11Bと、1対のガラス板11A、11Bに挟持されるように配置される中間膜12を有する。中間膜12は、1対のスキン層12A、12Bと、スキン層12A、12Bに挟持されるように配置されるコア層12Cの3層からなる。合わせガラス本体11において、中間膜12は、スキン層12Aがガラス板11A側に、スキン層12Bがガラス板1B側に位置するように配置されている。合わせガラス本体11において、1対のガラス板11A、11Bおよび、中間膜を構成する3層12A、12B、12Cは略同形、同寸の主面を有する。
【0023】
ここで、本明細書において、「略同形、同寸」とは、人の見た目において同じ形状、同じ寸法を有することをいう。他の場合においても、「略」は上記と同様の意味を示す。合わせガラス本体11の主面の形状、大きさは、合わせガラスの閉時において自動車ドアの窓開口部を閉じつつ、ベルトライン部の下部でインナーパネル21と合わせガラス本体11の間の隙間が粘弾性部材13で封止できる形状、大きさである。
【0024】
(ガラス板)
合わせガラス本体11における1対のガラス板11A、11Bの板厚は、それぞれ0.3mm~1.8mmの範囲にあることが好ましい。ガラス板11A、11Bの板厚が、0.3mm以上であることで以下の中間膜と組み合わせて合わせガラスとした際の剛性を確保しやすい。ガラス板11A、11Bの板厚が1.8mm以下であることで、合わせガラスとした際の軽量化が達成しやすい。ガラス板11A、11Bの板厚は、それぞれ1.0mm~1.8mmの範囲にあることが好ましく、1.5mm~1.8mmの範囲にあることがより好ましい。
【0025】
1対のガラス板11A、11Bの板厚は、互いに同じであってもよく、異なってもよい。ガラス板11A、11Bにおいて板厚が異なる場合には、合わせガラス1がドアパネル2に設置される際に車内側に位置するガラス板の板厚が車外側に位置するガラス板の板厚より小さいことが好ましい。
【0026】
例えば、合わせガラス1を、図3に示すようにドアパネル2に取り付けた場合、車内側に位置するガラス板はガラス板11Aである。この場合、車内側のガラス板11Aの板厚は、0.3mm~1.8mmが好ましく、1.0mm~1.8mmがより好ましく、1.5mm~1.8mmがさらに好ましい。また、ガラス板11Aの板厚は、車外側のガラス板11Bの板厚より小さいことが好ましい。ガラス板11Aの板厚とガラス板11Bの板厚の差は0.0~1.5mmが好ましく、0.0~1.3mmがより好ましい。この場合、車外側に位置するガラス板11Bの板厚は0.3mm~1.8mmが好ましく、1.0mm~1.8mmがより好ましく、1.5mm~1.8mmがさらに好ましい。
【0027】
合わせガラスの使用に際して車内側に位置するガラス板が車外側に位置するガラス板より小さい板厚を有すると、耐飛び石性の点で好ましい。
【0028】
合わせガラス本体11における1対のガラス板11A、11Bの板厚は、軽量化の観点から、合計で3.3mm以下であることが好ましく、3.0mm以下がより好ましい。
【0029】
合わせガラス本体11に用いるガラス板11A、11Bの材質としては、透明な無機ガラスや有機ガラス(樹脂)が挙げられる。無機ガラスとしては通常のソーダライムガラス(ソーダライムシリケートガラスともいう)、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が特に制限なく用いられる。これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。成形法についても特に限定されないが、例えば、フロート法等により成形されたフロート板ガラスであってもよい。また、ガラス板11A、11Bが風冷強化や化学強化といった強化処理がなされていることが好ましい。
【0030】
上記ガラスとしては、着色成分を添加しない無色透明な材質を用いてもよく、あるいは、本発明の効果を損なわない範囲で着色された着色透明な材質を用いてもよい。
【0031】
合わせガラス本体11に用いる1対のガラス板11A、11Bは、互いに異なった種類の材質から構成されてもよいが、同一であることが好ましい。ガラス板11A、11Bの形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。ガラス板11A、11Bには、大気に晒される表出面に、撥水機能、親水機能、防曇機能等を付与するコーティングが施されていてもよい。また、ガラス板11A、11Bの互いに対向する対向面には、低放射性コーティング、赤外線遮蔽コーティング、導電性コーティング等の通常金属層を含む機能コーティングが施されていてもよい。
【0032】
なお、ガラス板11A、11Bの対向面が上記機能コーティングを有する場合には、以下の中間膜12のスキン層12A、12Bはガラス板11A、11Bの対向面上の該機能コーティングに接する構成となる。
【0033】
(中間膜)
合わせガラス本体11における中間膜12は、1対のスキン層12A、12Bと、スキン層12A、12Bに挟持されるように配置されるコア層12Cの3層からなる。中間膜12は、ガラス板11A、11Bの間に配置され、ガラス板11A、11Bを接着して合わせガラス本体11として一体化する機能を有するものである。
【0034】
中間膜12は、貯蔵弾性率G’が1.5×10Pa以上である。貯蔵弾性率G’は中間膜12の剛性を示す指標であり、中間膜12の貯蔵弾性率G’が1.5×10Pa以上であれば、上記板厚のガラス板11A、11Bと組み合わせて合わせガラス本体11とした場合であっても、充分に高い剛性が確保できる。中間膜12の貯蔵弾性率G’は、2.0×10Pa以上が好ましく、3.0×10Pa以上がより好ましく、4.0×10Pa以上がさらに好ましい。
【0035】
中間膜12の貯蔵弾性率G’の上限は特に制限されるものではない。ただし、中間膜12の貯蔵弾性率G’が高くなると、上記板厚の1対のガラス板11A、11Bと組み合わせて合わせガラス本体11とした際に、以下に説明する所定の遮音性能を併せて有することができない場合がある。また、中間膜12の貯蔵弾性率G’が高すぎると、切断等の加工において特殊な機器を要する等、生産性が低下することがある。さらに中間膜が脆くなり耐貫通性が低下する。このような点を考慮すると、中間膜12の貯蔵弾性率G’は、1.3×10以下が好ましい。
【0036】
さらに、中間膜12は、上記板厚の1対のガラス板11A、11Bと組み合わせて合わせガラス本体11とした際に、周波数3~6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点における損失係数を0.2以上とする遮音性能を有する中間膜であることが好ましい。中間膜の遮音性能は、上記条件において損失係数を0.25以上とできることがより好ましく、0.3以上とできることがさらに好ましい。
【0037】
中間膜の遮音性能を示す上記条件における損失係数の上限は特に制限されるものではない。ただし、中間膜12の遮音性能が高くなると、上に説明した所定の貯蔵弾性率G’を満足できない場合がある。この点を考慮すると、中間膜12の遮音性能を示す上記条件における損失係数は、最大でも0.6以下が好ましい。
【0038】
なお、本明細書における中間膜の遮音性能は、評価対象の中間膜について、該中間膜を上記板厚の1対のガラス板と組み合わせて合わせガラスとして、周波数3~6KHz、温度20℃における損失係数を、例えば小野測器社製、中央加振法測定システム(MA-5500、DS-2000)により測定した値をもとに評価される。
【0039】
合わせガラス本体11における中間膜12は、コア層12Cとコア層12Cを挟持する1対のスキン層12A、12Bの3層からなり、これらが一体化された中間膜12として、本発明の合わせガラスの中間膜における所定の貯蔵弾性率G’および所定の遮音性能を満足するものである。
【0040】
上記性能を有する中間膜12を構成する3層の特性については、中間膜12として上記性能を確保できる限り特に制限されないが、コア層12Cの貯蔵弾性率G’は、1対のスキン層12A、12Bの貯蔵弾性率G’より小さいことが好ましい。例えば、コア層12Cの貯蔵弾性率G’は、1.0×10Pa以上1.0×10Pa以下が好ましく、1.0×10Pa以上5.0×10Pa以下がより好ましい。
【0041】
スキン層12A、12Bの貯蔵弾性率G’は、それぞれ、コア層12Cの貯蔵弾性率G’より大きいという条件を確保した上で、5.0×10Pa以上1.3×10Pa以下が好ましく、1.0×10Pa以上1.3×10Pa以下がより好ましい。1対のスキン層12A、12Bの貯蔵弾性率G’は、コア層12Cの貯蔵弾性率G’より大きい値を有する限り、同一であってもよく、異なってもよい。樹脂成形の容易さの観点から同一であることが好ましい。
【0042】
なお、コア層12Cの貯蔵弾性率G’とスキン層12A、12Bの貯蔵弾性率G’の関係は、コア層12Cの貯蔵弾性率G’に対するスキン層12A、12Bの貯蔵弾性率G’の比の値として、10~10000が好ましく、100~3000がより好ましい。コア層12Cの貯蔵弾性率G’とスキン層12A、12Bの貯蔵弾性率G’を上記関係とすることで、中間膜12における貯蔵弾性率G’および遮音性能を上記所定の範囲内に調整することが容易となる。
【0043】
中間膜12における遮音性能は、スキン層12A、12Bおよびコア層12Cの各層の貯蔵弾性率G’と厚みにより調整される。中間膜12の膜厚は、合わせガラス用等に通常用いられる中間膜と同様に、0.1~1.6mmが好ましく、0.5~1.2mmがより好ましい。中間膜12の膜厚が0.1mm未満であると、強度が不十分となることがあり、また、ガラスミスマッチが大きい場合、剥離が発生しやすくなる。中間膜12の膜厚が1.6mmを超えると、後述する合わせガラス本体11作製時の圧着工程や、耐久試験(実暴試験や高温試験)おいて、これが挟み込まれる1対のガラス板11A、11Bのずれが生じる現象、いわゆる板ずれ現象が発生することがある。
【0044】
コア層12Cの層厚は、コア層Cの貯蔵弾性率G’や組み合わせるスキン層12A、12Bの層厚および貯蔵弾性率G’にもよるが、0.05~0.30mmが好ましく、0.07~0.27mmがより好ましい。また、スキン層12A、12Bの層厚は、スキン層12A、12Bの貯蔵弾性率G’や組み合わせるコア層Cの層厚および貯蔵弾性率G’にもよるが、それぞれ、0.1~0.7mmが好ましく、0.2~0.5mmがより好ましい。
【0045】
コア層12Cの層厚と、スキン層12A、12Bの層厚の関係は、3層の合計厚みとして、上記中間膜12の膜厚として好ましいとされる範囲とすることが好ましい。さらに、コア層12Cの層厚は、スキン層12A、12Bの層厚よりも小さいことが好ましい。スキン層12A、12Bの層厚は、それぞれコア層12Cの層厚の1~5倍の範囲にあることが好ましい。
【0046】
スキン層12A、12Bの層厚は、同一であっても異なってもよい。例えば、合わせガラス本体11において、車内側に位置するガラス板がガラス板11Aである場合、スキン層12Aが内側に位置するスキン層となる。この場合、内側のスキン層12Aの層厚が、外側のスキン層12Bの層厚より小さくてもよく、スキン層12Aの層厚はスキン層12Bの層厚の、0.3~1.0倍の範囲にあることが好ましい。
【0047】
コア層12C、スキン層12A、12Bは、合わせガラスに通常用いられる中間膜を構成する主材料である熱可塑性樹脂から、各層ごとに上記好ましい貯蔵弾性率G’が得られるように樹脂を適宜選択して構成される。上記好ましい貯蔵弾性率G’に調整できれば、用いる熱可塑性樹脂の種類は特に制限されない。
【0048】
このような熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、例えば、可塑剤量等を調整することで、上記好ましい貯蔵弾性率G’に調整できる。熱可塑性樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0049】
また、熱可塑性樹脂は、貯蔵弾性率G’の条件に加えて、合わせガラスの用途に応じて、透明性、耐候性、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性等の諸性能のバランスを考慮して選択される。このような観点から、コア層12Cを構成する熱可塑性樹脂としては、PVB、EVA、ポリウレタン樹脂等が好ましい。また、スキン層12A、12Bは、それぞれ、PVB、EVA、ポリウレタン樹脂等が好ましい。
【0050】
コア層12C、スキン層12A、12Bの作製には、このような熱可塑性樹脂を主成分として含有する熱可塑性樹脂含有組成物が用いられる。該熱可塑性樹脂含有組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で各種目的に応じて、例えば、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、脱水剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上を含有していてもよい。これらの添加剤はコア層12C、スキン層12A、12Bにおいて、全体に均一に含有される。
【0051】
なお、上記添加剤のうちでも特に、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、蛍光剤等のコア層12C、スキン層12A、12Bに追加の機能を付与するための添加剤の含有については、3層において、いずれか1層のみが含有する構成であっても、2層以上が含有する構成であってもよく、さらに2層以上が含有する場合、同種の添加剤を同量、または異なる量含有してもよく、異なる添加剤をそれぞれ含有してもよい。
【0052】
中間膜12は、例えば、コア層12C、スキン層12A、12Bを、それぞれに適した熱可塑性樹脂含有組成物からシート状に製膜して準備し、得られたスキン層12A、12Bの間にコア層12Cを挟持させて、加圧下に加熱することで作製される。加熱、加圧の条件は熱可塑性樹脂の種類により適宜選択される。
【0053】
(合わせガラス本体)
合わせガラス本体11は、上記所定の板厚の1対のガラス板11A、11Bと、その間に挟持されるように配置される、上記特性を有する中間膜12を有する。これにより合わせガラス本体11は、軽量でありながら、剛性と遮音性をともに有する合わせガラスである。
【0054】
合わせガラス本体は、上記のとおり、周波数3~6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点における損失係数が0.2以上であることが好ましい。合わせガラス本体の該特性は上記のとおり中間膜の遮音性能によるところが大きい。合わせガラス本体は、該特性を有することで、1対のガラス板が上記板厚であっても充分な遮音性を有する。
【0055】
合わせガラス本体の温度20℃、周波数3~6KHzの範囲での共振点における損失係数は、例えば、上記中間膜の遮音性能で示したのと同様の方法で測定できる。なお、合わせガラス本体において、周波数3~6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点における損失係数は0.25以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。また、合わせガラス本体の周波数3~6KHz、温度20℃で測定される共振点における損失係数は、最大でも0.6以下が好ましい。
【0056】
合わせガラス本体はさらに、三点曲げ剛性が100N/mm以上であることが好ましい。三点曲げ剛性は、三点曲げ試験により得られる剛性であり、例えば、圧縮引張試験機により測定できる。三点曲げ剛性は120N/mm以上が特に好ましい。合わせガラス本体の三点曲げ強度剛性が100N/mm以上であれば、自動車高速走行時のガラス開閉を妨げないレベルの剛性であり好ましい。
【0057】
合わせガラス本体は、また、SAE J1400に準拠して測定されるコインシデンス領域における音響透過損失が25dB以上であることが好ましく、30dB以上であることが特に好ましい。合わせガラスの音響透過損失が25dB以上であれば、遮音性に優れると評価できる。
【0058】
(その他の層)
合わせガラス本体は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の層として、1対のガラス板の間に機能フィルムを有してもよい。機能フィルムを有する場合は、例えば、中間膜を複数層で構成し、中間膜の間に機能フィルムを挟持させる構成が好ましい。
【0059】
合わせガラス本体は、その他の層として、例えば、合わせガラス本体の枠体等への取り付け部分や配線導体等を隠蔽する目的で、その周縁部の一部または全部に帯状に、黒色セラミックス層を有してもよい。
【0060】
(合わせガラス本体の製造)
合わせガラス本体は、一般的に用いられる公知の技術により製造できる。合わせガラス本体11においては、上記のようにしてスキン層12A、12Bの間にコア層12Cを挟持させて中間膜12を作製し、これを1対のガラス板11A、11Bの間に挿入して、ガラス板11A、中間膜12(スキン層12A/コア層12C/スキン層12B)、ガラス板11Bの順に積層された圧着前の合わせガラス本体である合わせガラス前駆体を準備する。その他の層を有する場合も、同様に得られる合わせガラス本体と同様の積層順にガラス板と各層を積層してガラス前駆体を準備する。
【0061】
この合わせガラス前駆体をゴムバッグのような真空バッグの中に入れ、この真空バッグを排気系に接続して、真空バッグ内の圧力が約-60~-100kPaの減圧度(絶対圧力)となるように減圧吸引(脱気)しながら温度約70~110℃で接着することで合わせガラス本体を得ることができる。さらに、例えば、100~140℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラス本体を得ることができる。
【0062】
なお、合わせガラス本体は、JIS R3212(1998年)にしたがって測定される可視光線透過率が70%以上であることが好ましく、74%以上であることがより好ましい。ISO13837-2008にしたがって測定されるTts(Total solar energy transmitted through a
glazing)が66%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【0063】
[粘弾性部材]
図1図3に示す合わせガラス1において、粘弾性部材13は、合わせガラス本体11のガラス板11A側の表面Saに、合わせガラス1の閉時(以下、単に「閉時」ともいう。)にインナーパネル21と当接して合わせガラス本体11とインナーパネル21との間の隙間を封止できる位置に設けられている。粘弾性部材13の形状は閉時に、合わせガラス本体11とインナーパネル21との間の隙間を封止できる形状、すなわち、合わせガラス本体11とインナーパネル21との間に拘束され得る形状であれば特に限定されない。
【0064】
なお、粘弾性部材13は、合わせガラスの上下方向に沿って切断された断面の形状が、その上端に向けて、すなわち、合わせガラス1を閉める際の合わせガラス1の進行方向(P2方向)に先細るテーパー形状であることが好ましい。このようにすれば、合わせガラス1の開時から、合わせガラス1を閉める際に、粘弾性部材13が、合わせガラス本体11とインナーパネル21の隙間に侵入し易くなり、また、粘弾性部材13が、合わせガラス本体11とインナーパネル21の隙間を密閉し易くなる。
【0065】
ここで、合わせガラスが有する粘弾性部材は、例えば、図4に示すように、閉時にシール部材と当接して合わせガラス本体とシール部材との間の隙間を封止するものであってもよい。さらに、合わせガラスが有する粘弾性部材は、例えば、図5に示すように、閉時にシール部材およびパネル板の両方と当接して合わせガラス本体とシール部材およびパネル板との間の隙間を封止するものであってもよい。
【0066】
また、図1図3に示す合わせガラス1において、粘弾性部材13は、合わせガラス本体11のガラス板11A側(車内側)の表面Saのみに、閉時に合わせガラス本体11とインナーパネル21との間の隙間を封止できる形状に設けられているが、これに加えて、合わせガラス本体11のガラス板11B側(車外側)の表面Sbにも、粘弾性部材13を、閉時に合わせガラス本体11とアウターパネル22との間の隙間を封止できる形状に配設してもよい。また、粘弾性部材13は、合わせガラス本体11の車外側表面Sbにのみ設けられる構成であってもよい。遮音性向上の観点から言えば、少なくとも合わせガラス本体11の車内側表面Saに粘弾性部材13を有する合わせガラス1が好ましい。
【0067】
同様に、合わせガラスが有する粘弾性部材が、閉時にシール部材と当接して合わせガラス本体とシール部材との間の隙間を封止するもの、閉時にシール部材およびパネル板の両方と当接して合わせガラス本体とシール部材およびパネル板との間の隙間を封止するものである場合においても、粘弾性部材は合わせガラス本体の車内側表面、車外側表面のいずれか一方、または両方に配設されてもよいが、少なくとも合わせガラス本体の車内側表面に粘弾性部材を有する合わせガラスが好ましい。
【0068】
図4は、合わせガラス1Aを有する自動車ドア3の、合わせガラス1Aの閉時、開時における図2A-A’-A”線断面図を概略的に示す図である。図4におけるドアパネル2は、合わせガラス1Aの開時(以下、単に「開時」ともいう。)において、インナーシール部材41およびアウターシール部材42について、それぞれ下部インナーリップ412および下部アウターリップ422が下方向にその先端部を向けている以外は、図3に示すドアパネル2と同様の構成である。合わせガラス1Aは、合わせガラス本体11におけるガラス板11A側の表面Saが車内側に位置し、ガラス板11B側の表面Sbが車外側に位置するようにドアパネル2に取り付けられている。
【0069】
図4に示す合わせガラス1Aは、図1図3に示す合わせガラス1と同様の合わせガラス本体11を有する。合わせガラス1Aの全体断面図は、図4の開時の図に示される。合わせガラス1Aは、合わせガラス本体11と、その車内側表面Saの下方部に粘弾性部材13Aを、その車外側表面Sbの下方部に粘弾性部材13Bを備える。
【0070】
図4において、閉時の合わせガラス1Aが矢印P1方向に下降し、下降しきった状態が開時である。開時の合わせガラス1Aが矢印P2方向に上昇し、上昇しきった状態が閉時である。合わせガラス1Aを閉める際に、すなわち、合わせガラス1AがP2方向に上昇する際に、下部インナーリップ412および下部アウターリップ422の先端部は、例えば、粘弾性部材13Aおよび粘弾性部材13Bがインナーシール部材41およびアウターシール部材42の2つのリップ間にそれぞれ挿入されるのに伴って、それぞれ部材の近傍に示す矢印の方向に向きを変え、最終的に閉時の状態となる。合わせガラス1Aが有する粘弾性部材13Aおよび粘弾性部材13Bは、閉時において、それぞれが上部インナーリップ411と下部インナーリップ412の間および上部アウターリップ421と下部アウターリップ422の間に位置するように、合わせガラス本体11の車内側表面Sa下方部および車外側表面Sb下方部のそれぞれ所定の位置に配設されている。
【0071】
図4に示す合わせガラス1Aの閉時において、合わせガラス1Aが有する粘弾性部材13Aはインナーシール部材41の上部インナーリップ411および下部インナーリップ412の間に位置し、さらに、粘弾性部材13Aの外周面がインナーシール部材41の合わせガラス1A側の内周面の略全面に接している。また、同様に、合わせガラス1Aが有する粘弾性部材13Bはアウターシール部材42の上部アウターリップ421および下部アウターリップ422の間に位置し、さらに、粘弾性部材13Bの外周面がアウターシール部材42の合わせガラス1A側の内周面の略全面に接している。以下、図4に示す構成について説明するが、粘弾性部材13Aが下部インナーリップ412のみに当接した構成であってもよいし、粘弾性部材13Bも併せて下部アウターリップ422に当接した構成であってもよい。
【0072】
図4に示すように、合わせガラス1Aの閉時には、粘弾性部材13Aがインナーシール部材41と隙間なく接し、さらに、粘弾性部材13Bがアウターシール部材42と隙間なく接することで、合わせガラス本体11とドアパネル2との隙間を密閉している。そのため、自動車ドア3は、合わせガラスの閉時においてベルトライン部を介して車内に侵入する音の量を充分に抑制することができる。
【0073】
このように合わせガラスが有する粘弾性部材が、閉時にシール部材と当接して合わせガラス本体とシール部材との間の隙間を封止する場合、粘弾性部材は当接するシール部材よりヤング率が低いことが好ましい。図4に示す合わせガラス1Aにおいては、粘弾性部材13Aはインナーシール部材41よりヤング率が低く、粘弾性部材13Bはアウターシール部材42よりヤング率が低いことが好ましい。
【0074】
粘弾性部材が当接するシール部材よりヤング率が低いと、図4に示す自動車ドア3においては、合わせガラス1Aが有する粘弾性部材13Aが、合わせガラス本体11と、インナーシール部材41およびインナーパネル21とで拘束されることで、拘束型の制振構造を形成し、さらには、粘弾性部材13Bが、合わせガラス本体11と、アウターシール部材42およびアウターパネル22とで拘束されることで、拘束型の制振構造を形成できる。これにより、合わせガラス1Aの振動を充分に抑制し、合わせガラス1Aの閉時の車内における高い遮音効果が実現できる。
【0075】
なお、粘弾性部材13Aの外周面の形状は、インナーシール部材41の合わせガラス1A側の内周面の形状による。図4に示す閉時において、粘弾性部材13Aはその外周面がインナーシール部材41の合わせガラス1A側の内周面の略全面に接する形状である。ただし、自動車ドア3において、必ずしも、粘弾性部材13Aの外周面がインナーシール部材41の合わせガラス1A側の内周面の全面に接する必要はなく、粘弾性部材13Aは閉時において2つのインナーリップの間に位置し粘弾性部材13Aがインナーシール部材41の少なくとも一部に当接すればよい。この構成により、合わせガラス本体11とドアパネルの間の隙間の閉塞が得られる。また、粘弾性部材13Aがインナーシール部材41よりヤング率が低い場合には、上記構成により、合わせガラス本体11に対する拘束型の制振構造が得られる。なお、該隙間の閉塞と合わせガラスの制振による高い遮音性能が得られることから、粘弾性部材13Aの外周面がインナーシール部材41の合わせガラス1A側の内周面の全面と接する構成が好ましい。粘弾性部材13Bとアウターシール部材42の関係も同様である。
【0076】
図4に示す自動車ドア3において、粘弾性部材13Aはその外周面が合わせガラス本体11の車内側表面Saに略平行する面13Aaを有し、インナーシール部材41は上部インナーリップ411と下部インナーリップ412の間に合わせガラス本体11の車内側表面Saに対向する略平行な面41aを有し、閉時に、粘弾性部材13Aの面13Aaが、インナーシール部材41の面41aと略全体が一致するように接している。また、同様に粘弾性部材13Bはその外周面が合わせガラス本体11の車外側表面Sbに略平行する面13Baを有し、アウターシール部材42は上部アウターリップ421と下部アウターリップ422の間にド合わせガラス11の車外側表面Sbに対向する略平行な面42aを有し、閉時に、粘弾性部材13Bの面13Baが、アウターシール部材42の面42aと略全体が一致するように接している。合わせガラスに対する拘束型の制振構造においては、このように合わせガラス本体の表面と該表面に対して平行する面との間に粘弾性部材を挟持させる構成が好ましい。
【0077】
この場合、例えば、インナーシール部材が有する合わせガラス本体の車内側表面に対向する略平行な面の略全面と粘弾性部材が接すれば、上部インナーリップ部の下辺や下部インナーリップリップ部の上辺が必ずしも粘弾性部材と接していなくともよく、アウターシール部材と粘弾性部材の関係も同様であるが、より好ましくは図4に示される構成である。
【0078】
図5は、合わせガラス1Bを有する自動車ドア3の、合わせガラス1Bの閉時、開時における図2A-A’-A”線断面図を概略的に示す図である。図5におけるドアパネル2は、図3に示すドアパネル2と同様の構成である。合わせガラス1Bは、合わせガラス本体11におけるガラス板11A側の表面Saが車内側に位置し、ガラス板11B側の表面Sbが車外側に位置するようにドアパネル2に取り付けられている。
【0079】
図5に示す合わせガラス1Bは、図1図3に示す合わせガラス1と同様の合わせガラス本体11を有する。合わせガラス1Bの全体断面図は、図5の開時の図に示される。合わせガラス1Bは、合わせガラス本体11と、その車内側表面Saの下方部に粘弾性部材13Cを備える。
【0080】
図5において、閉時の合わせガラス1Bが矢印P1方向に下降し、下降しきった状態が開時である。開時の合わせガラス1Bが矢印P2方向に上昇し、上昇しきった状態が閉時である。合わせガラス1Bが有する粘弾性部材13Cは、閉時において、合わせガラス本体11とドアパネル2の車内側の隙間を、下部インナーリップ412からインナーパネル21にかけて封止できるように、合わせガラス本体11の車内側表面Sa下方部の所定の位置に配設されている。
【0081】
合わせガラス1Bが有する粘弾性部材13Cは、図1図3に示す合わせガラス1における粘弾性部材13と形状が異なる以外は同様である。粘弾性部材13Cは、合わせガラス本体11とドアパネル2の車内側の隙間を、下部インナーリップ412からインナーパネル21にかけて封止できる断面形状であれば特に制限されない。
【0082】
図3図5に示す合わせガラス1、合わせガラス1A、合わせガラス1Bにおける、粘弾性部材13、粘弾性部材13A、13B、粘弾性部材13Cは、断面形状を除いて、構成材料等のその他に特性については同様とできる。以下、合わせガラス1における粘弾性部材13を例にして、粘弾性部材の特性を詳細に説明する。
【0083】
合わせガラス1において粘弾性部材13は適度に弾性変形可能であることが好ましい。粘弾性部材13が弾性変形可能であれば、合わせガラス1の開時から、合わせガラス1を閉める際に、粘弾性部材13が、合わせガラス1とインナーパネル21の間に挿入されて拘束される過程で、その進行方向(P2方向)前方側から後方に徐々に減少するように弾性変形される。その結果、粘弾性部材13は、合わせガラス1の閉時において、開時に比べて厚みが減少される。これにより、合わせガラス1の閉時における、合わせガラス本体11とインナーパネル21の隙間をより密閉するとともに、より安定した拘束型の制振構造を形成することができる。このため、粘弾性部材13による遮音効果が向上される。
【0084】
粘弾性部材13の厚さは合わせガラス1とインナーパネル21間に拘束され得る厚さであれば特に限定されず、合わせガラス1とインナーパネル21の間隔に応じて適宜設定することができる。また、粘弾性部材13の、上下幅については、合わせガラスの閉時において、粘弾性部材13の上端がインナーシール部141の下端に到達するまでの範囲で、充分な遮音効果を得られるように設定される。
【0085】
粘弾性部材13は、合わせガラス本体11の車内側表面Saの下方部の所定位置に設けられる。粘弾性部材13は、水平方向には合わせガラス本体11の左右両端間に水平に、すなわちベルトラインLと平行して延在していることが好ましいが、連続的に延在している必要は必ずしも無い。合わせガラス本体とドアパネルの間の隙間の閉塞と合わせガラスに対する拘束型の制振構造による遮音効果を高いレベルで得る観点からは、粘弾性部材13は合わせガラス本体11の車内側表面Saの上下方向における所定位置に、左右両端間にわたって連続して設けられることが好ましい。
【0086】
なお、合わせガラス本体11の車外側表面Sb下方部の所定位置に粘弾性部材13が設けられる場合には、遮音効果を高いレベルで得る観点からは、粘弾性部材13は合わせガラス本体11の車外側表面Sbの上下方向における所定位置に、左右両端間にわたって連続して設けられることが好ましい。しかしながら、合わせガラス1の車外側においては合わせガラス本体11とアウターシール部材42の間には雨水等が侵入する。そのため、雨水等の良好な排水を考慮すれば、粘弾性部材が車外側に設けられる場合は、該粘弾性部材は水平方向において、部分的に切れ目を有していてもよい。
【0087】
粘弾性部材13は、粘弾性体で構成される限り、材質は特に制限されない。なお、粘弾性部材が、閉時にシール部材と当接して合わせガラス本体とシール部材との間の隙間を封止するような粘弾性部材、例えば、図4に示される粘弾性部材13A、13Bの場合、粘弾性部材はシール部材に比べてヤング率が低いことが好ましい。なお、本明細書におけるヤング率は、特に断りのない限り20℃で測定されるヤング率(N/m)である。
【0088】
粘弾性部材13を構成する粘弾性体としては、具体的には、エチレン・プロピレンゴム(EPDMゴム)などの合成ゴム、ポリオレフィン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂シリコーンゲル、ポリノルボルネン等を用いることができる。
【0089】
また、粘弾性部材13は、発泡体で構成されていてもよい。粘弾性部材13が発泡体で構成される場合、粘弾性部材13は、例えば、発泡原料を常法により発泡させて形成することができる。これにより、粘弾性部材13のヤング率や損失係数を所望の値に調節することができる。
【0090】
また、粘弾性部材13は、複数の材料から構成されてもよい。すなわち、粘弾性部材13は、例えば、上記合成ゴムや熱可塑性エラストマー樹脂、あるいは発泡体等の単独の材料で構成されてもよく、これらの2種以上を組み合わせた複数の材料で構成されてもよい。また、上記合成ゴムや熱可塑性エラストマー樹脂、あるいは発泡体等に、有機充填材、鉱質充填材等の充填材を添加して粘弾性体としてもよい。
【0091】
有機充填材として、例えば架橋ポリエステル、ポリスチレン、スチレン-アクリル共重合体樹脂、または尿素樹脂等の樹脂から形成された樹脂粒子、合成繊維、天然繊維が用いられる。鉱質充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化バリウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレーおよび焼成クレー等のクレー、マイカ、ケイソウ土、カーボンブラック、シリカ、ガラス繊維、カーボン繊維、繊維状フィラー、ガラスバルーン等の無機フィラー等が用いられる。このような粘弾性材料に充填剤が添加された材料を用いることで、粘弾性部材13のヤング率や損失係数を所望の値に調節することができる。
【0092】
また、粘弾性部材13は、20℃におけるヤング率E(N/m)と、20℃、振動数4000Hzにおける損失係数tanδが、下記式(1)を満たすことが好ましい。以下、特に断りのない限り、損失係数は、20℃、振動数4000Hzにおける値を示すものとする。
【0093】
【数1】
【0094】
上記において、ヤング率Eは、粘弾性部材13の硬さを計る指標であり、損失係数tanδは、粘弾性部材13の粘性を計る指標である。ヤング率Eと損失係数tanδが上記式(1)を満たす範囲であることで、粘弾性部材13は、音の侵入阻止効果と、合わせガラス1に対する制振効果とをバランスよく発揮して、優れた遮音効果を有するものとなる。特に、上記のような拘束型の制振構造において合わせガラス1に対する制振効果を充分に発揮できる。
【0095】
また、粘弾性部材13は、上記損失係数tanδが、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【数2】
【0096】
粘弾性部材13は、単一の層からなる単層構造または複数の層からなる積層構造であってもよい。粘弾性部材13は、積層構造である場合、例えば、合わせガラス本体側から車内側の方向に積層される。粘弾性部材13は、積層構造の場合、積層構造全体のヤング率と損失係数の関係が上記式(1)を満たすことが好ましい。粘弾性部材13は、積層構造の場合、ヤング率が相対的に低い軟質層の少なくとも一方の表面に軟質層以外のその他の層(以下、単に「その他の層」ともいう。)を備える2層の積層構造、軟質層の両表面側にその他の層を備える3層以上の積層構造等で構成することができる。軟質層のヤング率が相対的に低いとは、粘弾性部材13を構成するその他の層に比べて軟質層のヤング率が低いことを意味する。
【0097】
粘弾性部材13を、軟質層の両表面側にその他の層を備える3層以上の積層構造とする場合には、合わせガラス本体11またはインナーパネル21に接するその他の層である最表層に合わせガラス本体11またはインナーパネル21との密着性を持たせてもよい。これにより、粘弾性部材13と、合わせガラス本体11またはインナーパネル21との密着性を高めることができるので、隙間からの音の侵入を阻止することができる。さらに、より安定した拘束型の制振構造を形成できるため、遮音効果を向上させることができる。
【0098】
合わせガラス本体11の車内側表面Saへの粘弾性部材13の配設は、接着により行う。接着方法としては、合わせガラス1の開閉により粘弾性部材13が合わせガラス本体11とインナーパネル21との隙間に挿入されたり、外されたりする際に生じる粘弾性部材13を引き剥がそうとする力に耐えうる接着強度を有する方法であれば特に制限されない。具体的には、公知の両面テープ、接着剤等により接着できる。
【0099】
実施形態の合わせガラスは、自動車ドア用の合わせガラスに求められる、吸い出し時の剛性、および窓を閉じた際の高い遮音性の両方を満足しながら、軽量化にも対応可能な合わせガラスである。
【0100】
本発明の実施形態の自動車ドアは、上記本発明の合わせガラスを備える。実施形態の自動車ドアとしては、例えば、図3~5に示すように、ドアパネル2と、合わせガラス1、合わせガラス1Aまたは合わせガラス1Bを備える構成が挙げられる。
【0101】
(ドアパネル)
合わせガラス1、合わせガラス1Bと組み合わせるドアパネル2は、通常の自動車サイドドアを構成するドアパネルであれば特に制限されない。通常の自動車サイドドアを構成するドアパネルにおいては、パネル板は粘弾性部材よりヤング率が高く、図3図5に示される閉時において、合わせガラス本体11とパネル板(インナーパネル)21間に粘弾性部材13、粘弾性部材13Cが拘束されることで拘束型の制振構造が形成できる。また、シール部材においては、通常のシール部材と同様の構成をとることができる。通常のシール部材の構成においては、例えば、リップ部は少なくとも1個でよい。
【0102】
合わせガラス1Aと組み合わせるドアパネル2においては、該ドアパネル2が有するインナーパネル21およびアウターパネル22は、通常、自動車サイドドアのドアパネルを構成するパネル板であれば、材質および形状は特に制限されない。図4を参照しながら、インナーパネル21およびアウターパネル22がそれぞれ対向面のベルトラインLに沿った領域に有する、インナーシール部材41およびアウターシール部材42について説明する。なお、以下の説明は車内側のインナーシール部材41についてのみ行うが、車外側のアウターシール部材42はインナーシール部材41と同様にできる。
【0103】
図4に示す自動車ドア3において、ドアパネル2が有するインナーシール部材41は、通常ベルトライン部に用いられるシール部材と同様に機能する適度なヤング率を有する材料、好ましくは、粘弾性部材13Aを構成する材料よりヤング率が高い材料で構成され、合わせガラス1A側に上下に2個のリップ部、すなわち上部インナーリップ411および下部インナーリップ412を有する。インナーシール部材41は、合わせガラス1Aの閉時において、粘弾性部材13Aの少なくとも一部に当接しながら、粘弾性部材13Aを挟み込むように位置する少なくとも2個のリップ部を有すればよい。インナーシール部材41が有するリップ部の数は2個以上であれば特に制限されないが、粘弾性部材13Aを挟み込む空間の体積を大きく確保できる点、および製造コスト等の点から2個が好ましい。
【0104】
インナーシール部材41は、合わせガラス1A側に上下に2個有するリップ部、すなわち上部インナーリップ411および下部インナーリップ412により、合わせガラス1Aの閉時に、インナーパネル21および合わせガラス本体11の間を封止できる形状であれば特に制限されない。上部インナーリップ411および下部インナーリップ412の形状は、閉時にインナーパネル21および合わせガラス本体11の間を封止するとともに、上部インナーリップ411および下部インナーリップ412の間に、粘弾性部材13Aを挟持できる形状である。
【0105】
図4に示す自動車ドア3においては、合わせガラス1Aの閉時に、粘弾性部材13Aはその外周面がインナーシール部材41の合わせガラス1側の内周面の略全面に接する形状である。ここで、インナーシール部材41の合わせガラス1側の内周面は、上部インナーリップ411の下辺、下部インナーリップ412の上辺、および上部インナーリップ411と下部インナーリップ412の間に位置する合わせガラス本体11の車内側表面Saに対向する略平行な面41aで構成されている。
【0106】
このように、インナーシール部材41はその内周面が粘弾性部材13Aの外周面と一致する形状であることが好ましい。また、上部インナーリップ411と下部インナーリップ412の間に合わせガラス本体11の車内側表面Saに対向する略平行な面41aを有することが好ましい。このような構成をとることで、合わせガラス1A閉時に合わせガラス本体11とドアパネル2との間の隙間、具体的には合わせガラス本体11とインナーシール部材41の間の隙間も充分に閉塞されるとともに、合わせガラス本体11とインナーシール部材41とが粘弾性部材13Aを拘束した合わせガラス本体11に対する制振構造を構築することができる。
【0107】
インナーシール部材41およびアウターシール部材42が有するリップ部は、例えば、合わせガラス1Aの昇降に合わせて先端部の方向が変更可能な形状である、および/または材料で形成されることが好ましい。該観点から、インナーシール部材41、アウターシール部材42は、EPDMゴム等の合成ゴムやポリオレフィン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー等で形成できる。なお、インナーシール部材41、アウターシール部材42の構成材料は、それぞれ粘弾性部材13A、粘弾性部材13Bの構成材料に比べてヤング率が高い材料であることが好ましい。
【0108】
なお、インナーシール部材41において、リップ部のみを上記と異なる材料で構成することも可能であるが、経済性の点から、インナーシール部材41においてはリップ部を含む全体として同一材料で構成されることが好ましい。アウターシール部材42においても同様である。
【0109】
本発明の実施形態の自動車ドアは、本発明の合わせガラスを用いることにより、合わせガラスの吸い出し時の剛性、および窓を閉じた際の高い遮音性の両方を満足しながら、軽量化も可能である。
【実施例
【0110】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下で説明する実施形態および実施例に何ら限定されるものではない。
【0111】
[実施例1]
図5に示すのと同様の構成の合わせガラス1Bをドアパネル2に取り付けた自動車ドア3を製造し、遮音性能を評価した。なお、合わせガラス1Bに用いた合わせガラス本体11は、図1に示す合わせガラス1の合わせガラス本体11の構成と同様にした。
【0112】
(合せガラス本体11の製造)
(1)中間膜12の製造
車内側スキン層12Aおよび車外側スキン層12B用の樹脂膜として、積水化学工業株式会社製、通常中間膜(S-LEC Clear Film(商品名))を100℃、200時間静置し、可塑剤を飛散させることで硬質PVB膜を準備した。硬質PVB膜の、後述の中間膜12と同様の条件で測定される貯蔵弾性率G’は1.2×10Paであった。
【0113】
コア層12C用の樹脂膜として、積水化学工業株式会社製、遮音中間膜(S-LEC Sound Acoustic Film)のコア層を単離し、100℃、100時間静置し、可塑剤を飛散させることで軟質PVB膜を準備した。軟質PVB膜の、後述の中間膜12と同様の条件で測定される貯蔵弾性率G’は0.3×10Paであった。
【0114】
得られた硬質PVB膜および軟質PVB膜を用いて、車内側スキン層12A/コア層12C/車外側スキン層12Bとして、硬質PVB膜/軟質PVB膜/硬質PVB膜の順に積層し、ホットプレス成形機にて、150℃で、300秒間、プレス圧50kg/cmでプレスし調整して、車内側スキン層12Aおよび車外側スキン層12Bである硬質PVB膜の膜厚がともに350μm、コア層12Cである軟質PVB膜の膜厚が150μmの中間膜12を製造した。
【0115】
得られた中間膜12について、アントンパール社製、レオメーターMCR301を用いて周波数1Hz、動的せん断歪み0.015%、温度20℃の条件下、せん断法で測定される動的粘弾性試験における貯蔵弾性率G’を測定したところ、貯蔵弾性率G’は4.0×10Paであった。
【0116】
(2)合わせガラス本体11の製造
板厚2mmのガラス板11A、中間膜12(ただし、車内側スキン層12A側をガラス板11A側とする)、板厚2mmのガラス板11Bを積層し、この積層体を真空バッグに入れ、絶対圧力-60kPa以下の減圧下で脱気しながら110℃で圧着を行った後、温度140℃、圧力1.3MPaの条件でさらに圧着を行うことにより合わせガラスを得た。なお、用いたガラス板11A、11Bはソーダライムガラスであった。
【0117】
(合わせガラス1Bの製造)
粘弾性部材13Cとして、遮音シートMTS-20(商品名、早川ゴム株式会社製)を準備した。なお、MTS-20の温度20℃におけるヤング率E(N/m)と、振動数4000Hz、温度20℃における損失係数tanδは上記式(1)を満たすものである。粘弾性部材13Cは、長さ約850mm、断面形状が図5に示すのと同様に、合わせガラス1Bの閉時にシール部材41およびパネル板21の両方と当接して合わせガラス本体1Bとシール部材41およびパネル板21との間の隙間を封止する形状であった。
【0118】
合わせガラス本体11の車内側表面Saの下方部の所定位置に、粘弾性部材13Cの長さ方向がベルトラインと平行となるように、接着剤で貼り付けた。なお、所定位置とは、合わせガラス1Bを以下のドアパネル2に取り付けて合わせガラス1Bを閉じた状態で、粘弾性部材13Cが、合わせガラス本体11とドアパネル2の車内側の隙間を、下部インナーリップ412からインナーパネル21にかけて封止できる位置である。また、粘弾性部材13Cは合わせガラス本体11の左右両端間に延在するものであった。
【0119】
(自動車ドア3の製造)
ドアパネル2としては、自動車のフロントドア用の図5に示すのと同様のベルトライン部Ls断面を示すドアパネル2、すなわち、互いに対向する2枚のパネル板21、22と、パネル板21、22の各対向面のベルトライン部Lsに配設されたシール部材41、42を有するドアパネル2を用いた。該ドアパネル2のシール部材41、42の間に合わせガラス1Bが位置するように合わせガラス1Bを昇降可能に取り付けた。
【0120】
[自動車ドアの遮音性測定]
得られた自動車ドア3について、合わせガラス1Bを閉じた状態(閉時の状態)で、SAE J1400に準拠して、音源を車外に置いた場合として、20℃、50%RHにて、車内側での音響透過損失(STL)を測定した。なお、本測定は自動車ドア3全体の遮音性を測定するものである。
【0121】
[比較例1]
実施例1における合わせガラス本体11を比較例1の合わせガラスとして、すなわち、実施例1における合わせガラス1Bにおいて粘弾性部材13Cを有しないものを比較例1の合わせガラスとして、実施例1と同様のドアパネル2に取り付けて自動車ドアを製造した。得られた比較例1の自動車ドアについて実施例1同様の遮音性測定を行った。
【0122】
[参考例1]
比較例1における合わせガラスの中間膜を、積水化学工業株式会社製、遮音中間膜(S-LEC Sound Acoustic Film(商品名)、上記実施例1と同様に測定される貯蔵弾性率G’は1.4×10Paである。に代えて、参考例1の合わせガラス(粘弾性部材13Cを有しない)を得た。得られた参考例1の合わせガラスを実施例1と同様のドアパネル2に取り付けて自動車ドアを製造した。得られた参考例1の自動車ドアについて実施例1同様の遮音性測定を行った。
得られた結果を以下の表1および、図6に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
上記結果から、実施例1の合わせガラスは、中間膜が高い剛性を有することから軽量化にも対応可能であり、かつ、窓を閉じた際に高い遮音性を有することがわかる。実施例1の合わせガラスでは、例えば、ガラス板11A、11Bの板厚を本発明の好ましい範囲にして、軽量化した場合であっても、窓を閉じた際に高い遮音性を有しながら剛性も充分である。比較例1の合わせガラスは、中間膜が高い剛性を有することから軽量化には対応可能であるが、窓を閉じた際に遮音性に問題がある。参考例1の合わせガラスは、窓を閉じた際の遮音性に優れるが、中間膜の剛性が充分でなく軽量化への対応は困難である。
【符号の説明】
【0125】
10…自動車、L…ベルトライン、Ls…ベルトライン部、
1,1A,1B…合わせガラス、2…ドアパネル、3…自動車ドア、
11…合わせガラス本体、Sa…車内側表面、Sb…車外側表面、11A,11B…ガラス板、12…中間膜、12A,12B…スキン層、12C…コア層、
13,13A,13B,13C,13D,13E,13F…粘弾性部材、
21…インナーパネル、22…アウターパネル、
41…インナーシール部材、42…アウターシール部材、411…上部インナーリップ、412…下部インナーリップ、421…上部アウターリップ、422…下部アウターリップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6