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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 163/00 20060101AFI20220414BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20220414BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20220414BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20220414BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220414BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220414BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20220414BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220414BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M137/10 A
C10M159/24
C10M133/16
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N30:10
C10N30:06
C10N40:08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018562466
(86)(22)【出願日】2018-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2018001663
(87)【国際公開番号】W WO2018135645
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2017007937
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 翔太
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎治
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-111779(JP,A)
【文献】国際公開第2006/126651(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/156325(WO,A1)
【文献】特開2003-041283(JP,A)
【文献】特開平05-105895(JP,A)
【文献】特開2015-25114(JP,A)
【文献】特開2009-227928(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101090960(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 141/10
C10M 137/10
C10M 135/10
C10M 139/00
C10M 159/24
C10N 10/04
C10N 30/00
C10N 30/06
C10N 30/10
C10N 40/04
C10N 40/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)、ジチオリン酸亜鉛(B)、金属スルホネート(C)、及び、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)を含む無灰系摩擦調整剤(D)を含有し、
前記無灰系摩擦調整剤(D)は、前記ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)のみからなり、
成分(D1)を構成するホウ素原子と窒素原子との質量比〔B/N〕が、0.6~2.0であり、
成分(D1)のホウ素原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、80~300質量ppmであり、
成分(D1)の窒素原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、50~400質量ppmであり、
湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える建設機械に用いられる油圧作動油組成物である、潤滑油組成物。
【請求項2】
成分(B)の亜鉛原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100~2000質量ppmである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
成分(B)の亜鉛原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、500~1500質量ppmである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
成分(C)が、カルシウムスルホネートを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
成分(C)の金属原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、200~4000質量ppmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
成分(C)の金属原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、1000~3500質量ppmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
金属サリシレートの含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.03質量%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
成分(D1)が、下記一般式(d-11)又は(d-12)で表される化合物のホウ素変性物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【化1】

〔前記一般式(d-11)、(d-12)中、R、RA1及びRA2は、それぞれ独立に、重量平均分子量(Mw)が500~3000のアルケニル基である。
、RB1及びRB2は、それぞれ独立に、炭素数2~5のアルキレン基である。
x1は1~10の整数であり、x2は0~10の整数である。〕
【請求項9】
さらに、重量平均分子量(Mw)が10,000~50,000の粘度指数向上剤を含有する請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
前記粘度指数向上剤の含有量が、0.01~8質量%である請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
JASO M349に準拠し、低速すべり試験装置を用いて、油温80℃、荷重0.5MPaにて動摩擦係数を計測した際、回転数1rpm時の動摩擦係数μと、回転数50rpm時の動摩擦係数μ50との比〔μ/μ50〕が、0.80以上1.00未満である、請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を用いた、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える、建設機械。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える建設機械に用いる、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル、クレーン、ホイールローダ、ブルドーザ等の建設機械に搭載されている油圧機器は、高圧、高温、高速、高荷重での稼動が要求される。そのため、建設機械用の油圧機器で使用されている油圧作動油は、高圧、高温、高速、高荷重下で長時間に渡って使用しても油圧機器の性能を損なわないような、耐摩耗性や酸化安定性が求められている。
【0003】
また、これらの建設機械が備える走行モータや旋回モータ等や湿式ディスクブレーキ付ウィンチ等の湿式ブレーキや湿式クラッチの潤滑には、油圧機器に使用される油圧作動油が兼用されることが一般的である。
そのため、湿式ブレーキや湿式クラッチを備える建設機械に使用される油圧作動油には、上述の油圧作動油としての性能だけでなく、湿式ブレーキや湿式クラッチの潤滑性能も要求される。
【0004】
そのため、湿式ブレーキや湿式クラッチを備える建設機械に用いられる油圧作動油は、通常、油圧機器への適用の点からは低減が求められる摩擦係数をある程度高くし、旋回時のブレーキ制御等を行っている。
例えば、特許文献1では、亜鉛系でありながら、高温及び高圧の条件下でも耐摩耗性及びスラッジ発生抑制性に優れ、始動時や停止直前の動きを制御するために動摩擦係数を低減し、且つ、湿式ブレーキによるブレーキ性能を阻害しない程度に静止摩擦係数が高い建設機械用油圧作動油組成物について検討されている。
その上で、特許文献1には、基油、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、塩基性カルシウムサリシレート、窒素原子又は酸素原子を含有し、リン原子を含有しない無灰系摩擦調整剤を所定の範囲で含有した建設機械用油圧作動油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-218625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の建設機械用油圧作動油組成物は、高温及び高圧の条件下でのスラッジ発生の抑制のために、分散剤として、カルシウムサリシレートを含有している。実施例として具体的に開示された油圧作動油組成物は、カルシウムサリシレートを含有することによるスラッジ発生の抑制効果は認められるものの、停止直前の動摩擦係数μと稼動時の動摩擦係数μとの比〔μ/μ〕が0.750以下とかなり低い。
そのため、特許文献1に記載の建設機械用油圧作動油組成物は、湿式クラッチ試験において鳴きが発生したり、制動性の悪化といった問題が生じる恐れがあり、クレーンのような特に制動性が要求される機械への適用は不向きである。
【0007】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであって、優れた酸化安定性を有すると共に、鳴きの発生の抑制効果や制動性も良好であり、湿式ブレーキや湿式クラッチを備える機械に好適に適用し得る潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ジチオリン酸亜鉛を含むと共に、さらに金属スルホネートと、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミドを含む無灰系摩擦調整剤とを含有する潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、下記[1]~[3]に関する。
[1]基油(A)、ジチオリン酸亜鉛(B)、金属スルホネート(C)、及び、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)を含む無灰系摩擦調整剤(D)を含有し、
湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える機械に用いられる、潤滑油組成物。
[2]上記[1]に記載の潤滑油組成物を用いた、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える、機械。
[3]上記[1]に記載の潤滑油組成物を、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える機械に用いる、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、優れた酸化安定性を有すると共に、鳴きの発生の抑制効果や制動性も良好である。そのため、湿式ブレーキや湿式クラッチ油を備える機械に好適に適用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、各原子の含有量は、以下の規格に準拠して測定された値を意味する。
・亜鉛原子(Zn)、カルシウム原子(Ca)、ホウ素原子(B)、及びリン原子(P):JPI-5S-38-03に準拠して測定した。
・硫黄原子(S):JIS K2541-6に準拠して測定した。
・窒素原子(N):JIS K2609に準拠して測定した。
【0012】
〔潤滑油組成物〕
本発明の潤滑油組成物は、基油(A)、ジチオリン酸亜鉛(B)、金属スルホネート(C)、及び、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)を含む無灰系摩擦調整剤(D)を含有する。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、ジチオリン酸亜鉛(B)の含有量に応じて、さらに酸化防止剤(E)を含有してもよい。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲にて、上記成分には該当しない、他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
【0013】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、また、通常100質量%以下、好ましくは99.0質量%以下、より好ましくは98.0質量%以下である。
【0014】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、及び成分(E)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、また、通常100質量%以下、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下である。
【0015】
本発明の潤滑油組成物は、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える機械に用いられるものである。
上述のとおり、湿式ブレーキや湿式クラッチを備える機械において、油圧機器に用いられる潤滑油組成物を、当該機械が備える走行モータや旋回モータ等の湿式ブレーキや湿式クラッチに兼用されることが一般的である。
そのため、湿式ブレーキや湿式クラッチを備える機械に用いられる潤滑油組成物には、油圧作動油としての性能である優れた酸化安定性を有すると共に、湿式ブレーキや湿式クラッチの潤滑に適用し得るように、摩擦係数がある程度高く、鳴きの発生の抑制効果や制動性が良好であるという特性も要求される。
【0016】
ところで、特許文献1等に開示されたような、基油及びジチオリン酸亜鉛と共に、分散剤として金属サリシレートを配合してなる潤滑油組成物は、停止直前の動摩擦係数μと稼動時の動摩擦係数μとの比〔μ/μ〕が低くなる傾向がある。例えば、特許文献1の実施例に示された潤滑油組成物は、当該比〔μ/μ〕が0.750以下とかなり低い。
上述のとおり、このような潤滑油組成物は、湿式ブレーキや湿式クラッチに適用した際に、摩擦係数の低減に起因した、鳴きの発生や制動性の悪化が懸念され、特に制動性が要求される、クレーンのウィンチのような機械に用いた場合、ウィンチの細かい動きを制御することが難しいことが予想される。
【0017】
一方で、本発明の潤滑油組成物は、基油(A)及びジチオリン酸亜鉛(B)と共に、分散剤として金属サリシレートではなく、金属スルホネート(C)を含有し、さらに、摩擦調整剤として、窒素原子及び酸素原子を含むホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)を含む無灰系摩擦調整剤(D)を含有することで、優れた酸化安定性を維持すると共に、鳴きの発生の抑制効果が高く、制動性も向上させている。
【0018】
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分について説明する。
<基油(A)>
本発明の潤滑油組成物に含まれる基油(A)としては、鉱油であってもよく、合成油であってもよく、鉱油と合成油との混合油を用いてもよい。
【0019】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の精製処理を1つ以上施した鉱油;天然ガスをフィッシャー・トロプシュ法等による合成で得られるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(GTL)等が挙げられる。
これらの鉱油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
これらの中でも、本発明の一態様で用いる鉱油としては、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の精製処理を1つ以上施した鉱油、又はGTLワックスを異性化することで得られる鉱油を含むことが好ましい。
また、当該鉱油としては、米国石油協会(API:American Petroleum institute)基油カテゴリーのグループ2又はグループ3に分類される鉱油、又はGTLワックスを異性化することで得られる鉱油を含むことが好ましく、当該グループ3に分類される鉱油、又はGTLワックスを異性化することで得られる鉱油を含むことがより好ましい。
【0021】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリオールエステル、二塩基酸エステル等のエステル;ポリフェニルエーテル等のエーテル;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン等の合成油等が挙げられる。
これらの合成油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、本発明の一態様で用いる合成油としては、ポリα-オレフィン、各種エステル、及びポリアルキレングリコールから選ばれる1種以上の合成油を含むことが好ましい。
【0022】
基油(A)の40℃における動粘度としては、好ましくは10~150mm/s、より好ましくは12~120mm/s、更に好ましくは15~100mm/sである。
【0023】
基油(A)の粘度指数としては、好ましくは80以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上である。
【0024】
なお、本明細書において、「40℃における動粘度」及び「粘度指数」は、JIS K 2283に準拠して測定された値を意味する。
また、基油(A)が、鉱油及び合成油から選ばれる2種以上の混合油である場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であればよい。
【0025】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常55質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上であり、また、好ましくは98質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、より更に好ましくは93質量%以下である。
【0026】
<ジチオリン酸亜鉛(B)>
本発明の潤滑油組成物では、ジチオリン酸亜鉛(B)を含有しているため、耐摩耗性及び酸化安定性を向上させ、使用に伴い発生する金属摩耗や酸化劣化を効果的に抑制させている。
本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれるジチオリン酸亜鉛(B)としては、下記一般式(b-1)で表される化合物が好ましい。
なお、ジチオリン酸亜鉛(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化1】
【0027】
上記式(b-1)中、R~Rは、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
~Rとして選択し得る具体的な当該炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基等のアルケニル基;シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等のアリール基;トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、メチルベンジル基、ジメチルナフチル基等のアルキルアリール基;フェニルメチル基、フェニルエチル基、ジフェニルメチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。
これらの中でも、R~Rとしては、アルキル基が好ましい。
なお、当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよいが、分岐鎖アルキル基が好ましい。
【0028】
なお、R~Rとして選択し得る炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは3~16、更に好ましくは4~12、より更に好ましくは5~10である。
【0029】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、より酸化安定性を向上させ、スラッジ析出の抑制効果を高めると共に、耐摩耗性に優れた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)の亜鉛原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは150質量ppm以上、より好ましくは200質量ppm以上、更に好ましくは250質量ppm以上であり、より耐摩耗性を向上させる観点から、より更に好ましくは500質量ppm以上、特に好ましくは600質量ppm以上である。
なお、成分(B)の亜鉛原子換算での含有量が500質量ppm以上であれば、別途、後述の酸化防止剤(E)を配合しなくても、スラッジ析出の抑制効果が高い潤滑油組成物に調製可能となる。
また、摩擦係数を所定値以上に調整し、鳴きの発生や制動性の悪化といった弊害を抑制し得る潤滑油組成物とする観点から、成分(B)の亜鉛原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1500質量ppm以下、更に好ましくは1200質量ppm以下、より更に好ましくは1000質量ppm以下である。
【0030】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)の含有量(配合量)としては、亜鉛原子換算での含有量が上記範囲となるように調製されればよいが、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常0.01~2.00質量%、好ましくは0.01~1.50質量%、より好ましくは0.01~1.00質量%、更に好ましくは0.05~0.90質量%、より更に好ましくは0.10~0.85質量%、特に好ましくは0.20~0.80質量%である。
【0031】
<金属スルホネート(C)>
本発明の潤滑油組成物では、金属スルホネート(C)を含有しているため、成分(B)の添加による酸化安定性の向上効果を効果的に発現させると共に、制動性の悪化といった弊害を抑制することができる。
【0032】
上記観点から、金属スルホネート(C)としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子を含有する金属スルホネートが好ましく、ナトリウム原子、カルシウム原子、マグネシウム原子、及びバリウム原子から選ばれる金属原子を含有する金属スルホネートがより好ましく、特に、高速度領域の摩擦係数を適度に高め、制動性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、カルシウムスルホネートを含むことが更に好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、「アルカリ金属原子」とは、リチウム原子(Li)、ナトリウム原子(Na)、カリウム原子(K)、ルビジウム原子(Rb)、セシウム原子(Cs)、及びフランシウム原子(Fr)を指す。
また、「アルカリ土類金属原子」とは、ベリリウム原子(Be)、マグネシウム原子(Mg)、カルシウム原子(Ca)、ストロンチウム原子(Sr)、及びバリウム原子(Ba)を指す。
【0034】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)中のカルシウムスルホネートの含有量としては、潤滑油組成物中に含まれる成分(C)の全量(100質量%)に対して、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0035】
本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる金属スルホネート(C)としては、下記一般式(c-1)で表される化合物が好ましい。
なお、金属スルホネート(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化2】
【0036】
上記一般式(c-1)中、Mは、金属原子であり、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、ナトリウム原子、カルシウム原子、マグネシウム原子、又はバリウム原子がより好ましく、カルシウム原子又はマグネシウム原子が更に好ましく、カルシウム原子がより更に好ましい。
pはMの価数であり、1又は2である。
Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0037】
金属スルホネート(C)は、中性塩、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物のいずれであってもよいが、過塩基性塩を含むことが好ましい。
金属スルホネート(C)が中性塩である場合、当該中性塩の塩基価としては、好ましくは0~30mgKOH/g、より好ましくは0~25mgKOH/g、更に好ましくは0~20mgKOH/gである。
金属スルホネート(C)が塩基性塩又は過塩基性塩である場合、当該塩基性塩又は過塩基性塩の塩基価としては、好ましくは100~600mgKOH/g、より好ましくは120~550mgKOH/g、更に好ましくは160~500mgKOH/g、より更に好ましくは200~480mgKOH/gである。
なお、本明細書において、「塩基価」とは、JIS K2501「石油製品および潤滑油-中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0038】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、高速度領域の摩擦係数を適度に高め、制動性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(C)の金属原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは200質量ppm以上、より好ましくは300質量ppm以上、より好ましくは400質量ppm以上、更に好ましくは500質量ppm以上、更に好ましくは1000質量ppm以上、より更に好ましくは1200質量ppm以上である。
また、鳴きの発生をより効果的に抑制し得る潤滑油組成物とする観点から、成分(C)の金属原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは4000質量ppm以下、より好ましくは3500質量ppm以下、更に好ましくは2500質量ppm以下、より更に好ましくは2000質量ppm以下である。
【0039】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)の含有量(配合量)としては、金属原子換算での含有量が上記範囲となるように調製されればよいが、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~3.0質量%、より好ましくは0.05~2.7質量%、更に好ましくは0.10~2.4質量%、より更に好ましくは0.20~2.0質量%である。
【0040】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で、金属サリシレートを含有してもよいが、高速度領域の摩擦係数を適度に高め、制動性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、金属サリシレートの含有量は、極力少ない方が好ましい。
具体的な金属サリシレートの含有量としては、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.03質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0.001質量%未満、より更に好ましくは0.0001質量%未満である。
また、前記潤滑油組成物に含まれる成分(C)の全量(100質量%)に対する、金属サリシレートの含有量としては、好ましくは10質量%未満、より好ましくは6質量%未満、更に好ましくは3質量%未満、より更に好ましくは1質量%未満である。
【0041】
<無灰系摩擦調整剤(D)>
本発明の潤滑油組成物は、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)を含む無灰系摩擦調整剤(D)を含有するため、成分(B)の添加による酸化安定性の向上効果を効果的に発現させると共に、鳴きの発生や制動性の悪化といった弊害を抑制することができる。
特に、成分(D1)を含有することで、鳴きの発生や制動性の悪化といった弊害の抑制効果は、成分(C)のみを用いた場合に比べて、顕著に向上し得る。
【0042】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)の添加による酸化安定性の向上効果をより効果的に発現させると共に、鳴きの発生や制動性の悪化といった弊害をより抑制する観点から、成分(D)が、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)と、アルケニル基を有する不飽和アミン(D2)とを含むことが好ましい。
成分(D1)と成分(D2)との含有量比〔(D1)/(D2)〕としては、質量比で、好ましくは2~100であり、より好ましくは3~80、より好ましくは4~60、更に好ましくは5~50、より更に好ましくは7~40である。
前記質量比〔(D1)/(D2)〕が2以上であれば、制動性の悪化の抑制効果がより発現し易くなる。一方、質量比〔(D1)/(D2)〕が100以下であれば、鳴きの発生の抑制効果がより発現し易くなる。
【0043】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、無灰系摩擦調整剤(C)として、成分(D1)及び(D2)以外の他の無灰系摩擦調整剤を含有してもよい。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D1)の含有量は、当該潤滑油組成物中に含まれる成分(D)の全量(100質量%)に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上である。
【0044】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D1)及び(D2)の合計含有量は、当該潤滑油組成物中に含まれる成分(D)の全量(100質量%)に対して、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%である。
【0045】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)の含有量(配合量)としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.05~7.0質量%、より好ましくは0.10~5.0質量%、更に好ましくは0.20~4.0質量%、より更に好ましくは0.30~3.2質量%である。
【0046】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)に由来する窒素原子の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは15~900質量ppm、より好ましくは40~700質量ppm、更に好ましくは55~500質量ppm、より更に好ましくは100~350質量ppmである。
【0047】
[ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)]
本発明で用いるホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)としては、アルケニルコハク酸イミドのホウ素変性物であり、当該ホウ素変性物としては、例えば、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ酸のアンモニウム塩等が挙げられる。
【0048】
本発明の一態様において、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)としては、下記一般式(d-11)又は(d-12)で表される化合物のホウ素変性物であることが好ましい。
なお、成分(D1)としては、下記一般式(d-11)又は(d-12)で示される化合物と、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、エポキシ化合物、及び有機酸等から選ばれる1種以上の化合物とを反応させたポリブテニルコハク酸イミドのホウ素変性物であってもよい。
【0049】
【化3】
【0050】
上記一般式(d-11)、(d-12)中、R、RA1及びRA2は、それぞれ独立に、重量平均分子量(Mw)が500~3000(好ましくは1000~3000)のアルケニル基である。
、RB1及びRB2は、それぞれ独立に、炭素数2~5のアルキレン基である。
x1は1~10の整数であり、好ましくは2~5の整数、より好ましくは3又は4である。
x2は0~10の整数であり、好ましくは1~4の整数、より好ましくは2又は3である。
【0051】
、RA1及びRA2として選択し得るアルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン単位を含む基等が挙げられ、これらの中でも、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が好ましい。
【0052】
前記一般式(d-11)で表される化合物は、例えば、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることで製造することができる。
上記ポリオレフィンは、例えば、炭素数2~8のα-オレフィンから選ばれる1種又は2種以上を重合して得られる重合体が挙げられるが、イソブテンと1-ブテンとの共重合体が好ましい。
また、上記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、及びペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン;アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体;等が挙げられる。
【0053】
前記一般式(d-12)で表される化合物は、例えば、上述のポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物を、上述のポリアミンと反応させることで製造することができる。
【0054】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D1)を構成するホウ素原子と窒素原子との質量比〔B/N〕としては、鳴きの発生や制動性の悪化といった弊害を効果的に抑制させる観点から、好ましくは0.2~3.0、より好ましくは0.4~2.5、更に好ましくは0.6~2.0、より更に好ましくは0.7~1.5である。
【0055】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D1)のホウ素原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは30~600質量ppm、より好ましくは50~500質量ppm、更に好ましくは60~400質量ppm、より更に好ましくは80~300質量ppmである。
【0056】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D1)の窒素原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは10~800質量ppm、より好ましくは30~600質量ppm、更に好ましくは50~400質量ppm、より更に好ましくは80~300質量ppmである。
【0057】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D1)の含有量(配合量)としては、ホウ素原子換算での含有量が上記範囲となるように調製されればよいが、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.05~4.0質量%、より好ましくは0.10~3.0質量%、更に好ましくは0.20~2.5質量%、より更に好ましくは0.30~2.0質量%である。
【0058】
[アルケニル基を有する不飽和アミン(D2)]
本発明の一態様で用いるアルケニル基を有する不飽和アミン(D2)としては、アルケニル基を1~3個有する第1級~第3級の不飽和アミンが挙げられる。
当該アルケニル基の炭素数としては、好ましくは2~30、より好ましくは4~26、更に好ましくは8~24、より更に好ましくは10~20である。
なお、アルケニル基は、直鎖アルケニル基であってもよく、分岐鎖アルケニル基であってもよいが、直鎖アルケニル基が好ましい。
【0059】
本発明の一態様において、不飽和アミン(D2)は、炭素数2~30のアルケニル基を有する第1級不飽和アミン(D21)を含むことが好ましい。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D2)中の第1級不飽和アミン(D21)の含有量としては、潤滑油組成物中に含まれる成分(D2)の全量(100質量%)に対して、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0060】
第1級不飽和アミン(D21)としては、下記一般式(d-2)で表される化合物が好ましい。
【化4】
【0061】
上記一般式(d-2)中、z1及びz2は、それぞれ独立に0以上の整数であり、z1+z2が0~28の整数である。なお、z1+z2は、好ましくは2~24、更に好ましくは6~22、より更に好ましくは7~18である。
【0062】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D2)の窒素原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは5~100質量ppm、より好ましくは10~80質量ppm、更に好ましくは15~60質量ppm、より更に好ましくは20~50質量ppmである。
【0063】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D2)の含有量(配合量)としては、窒素原子換算での含有量が上記範囲となるように調製されればよいが、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~3.0質量%、より好ましくは0.005~2.0質量%、更に好ましくは0.01~1.5質量%、より更に好ましくは0.02~1.2質量%である。
【0064】
[成分(D1)、(D2)以外の無灰系摩擦調整剤(D)]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、無灰系摩擦調整剤(C)として、成分(D1)及び(D2)以外の他の無灰系摩擦調整剤を含有してもよい。
他の無灰系摩擦調整剤としては、例えば、成分(D1)及び(D2)以外の、炭素数2~30のアルキル基を有する脂肪族アミン;脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、及び脂肪族エーテルから選ばれる炭素数2~30のアルケニル基又はアルキル基を有する化合物;リン酸エステル;非ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド等が挙げられる。
【0065】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で、非ホウ素変性アルケニルコハク酸イミドを含有していてもよいが、当該非ホウ素変性アルケニルコハク酸イミドの含有量は少ない方が好ましい。
具体的な非ホウ素変性アルケニルコハク酸イミドの含有量としては、前記潤滑油組成物に含まれる成分(D1)の全量(100質量%)基準で、好ましくは10質量%未満、より好ましくは6質量%未満、更に好ましくは3質量%未満、より更に好ましくは1質量%未満である。
【0066】
<酸化防止剤(E)>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、ジチオリン酸亜鉛(B)の含有量に応じて、さらに酸化防止剤(E)を含有してもよい。
酸化防止剤(E)としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、モリブデン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
本発明の一態様において、酸化防止剤(E)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、本発明の一態様において、より酸化安定性を向上させる観点から、酸化防止剤(E)が、フェノール系酸化防止(E1)及びアミン系酸化防止剤(E2)を含むことが好ましい。
【0067】
フェノール系酸化防止剤(E1)としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤;4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)等のジフェノール系酸化防止剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;等を挙げられる。
【0068】
アミン系酸化防止剤(E2)としては、芳香族アミン化合物であることが好ましく、ジフェニルアミン化合物及びナフチルアミン系化合物から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
前記ジフェニルアミン系化合物としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等の炭素数1~30(好ましくは4~30、より好ましくは8~30)のアルキル基を1つ有するモノアルキルジフェニルアミン系化合物;4,4’-ジブチルジフェニルアミン、4,4’-ジペンチルジフェニルアミン、4,4’-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’-ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、4,4’-ジノニルジフェニルアミン等の炭素数1~30(好ましくは4~30、より好ましくは8~30)のアルキル基を2つ有するジアルキルジフェニルアミン化合物;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等の炭素数1~30(好ましくは4~30、より好ましくは8~30)のアルキル基を3つ以上有するポリアルキルジフェニルアミン系化合物;4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等が挙げられる。
前記ナフチルアミン系化合物としては、例えば、1-ナフチルアミン、フェニル-1-ナフチルアミン、ブチルフェニル-1-ナフチルアミン、ペンチルフェニル-1-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-1-ナフチルアミン、ヘプチルフェニル-1-ナフチルアミン、オクチルフェニル-1-ナフチルアミン、ノニルフェニル-1-ナフチルアミン、デシルフェニル-1-ナフチルアミン、ドデシルフェニル-1-ナフチルアミン等が挙げられる。
【0069】
モリブデン系酸化防止剤としては、例えば、三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネイト等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、例えば、ホスファイト、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル等が挙げられる。
【0070】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、より酸化安定性を向上させる観点から、成分(E1)成分(E2)との質量比〔(E1)/(E2)〕は、好ましくは1/6~6/1であり、より好ましくは1/5~5/1、更に好ましくは1/4~4/1、より更に好ましくは1/3.5~3.5/1である。
【0071】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(E1)及び(E2)の合計含有量は、当該潤滑油組成物中に含まれる成分(E)の全量(100質量%)に対して、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%である。
【0072】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(E)の含有量(配合量)としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.05~7.0質量%、更に好ましくは0.10~5.0質量%、より更に好ましくは0.20~3.0質量%である。
【0073】
なお、成分(B)の亜鉛原子換算での含有量が500質量ppm以上である潤滑油組成物においては、酸化防止剤(E)を配合しなくても、スラッジ析出の抑制効果が高いものとすることができる。
そのため、当該潤滑油組成物においては、酸化防止剤(E)を含有しなくてもよい。
【0074】
<他の潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分(B)~(E)には該当しない、他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
他の潤滑油用添加剤としては、例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤、耐摩耗剤、極圧剤、金属系摩擦調整剤、防錆剤、金属不活性化剤、抗乳化剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの各潤滑油用添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
これらの潤滑油用添加剤の各含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~8質量%である。
【0076】
なお、本明細書において、粘度指数向上剤や消泡剤等の添加剤は、ハンドリング性や基油(A)への溶解性を考慮し、上述の基油(A)の一部に希釈し溶解させた溶液の形態で、他の成分と配合してもよい。このような場合、本明細書においては、消泡剤や粘度指数向上剤等の添加剤の上述の含有量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量を意味する。
【0077】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
これらの粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)としては、通常500~1,000,000、好ましくは5,000~100,000、より好ましくは10,000~50,000であるが、重合体の種類に応じて適宜設定される。
本明細書において、各成分の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0078】
流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0079】
耐摩耗剤又は極圧剤としては、例えば、成分(B)以外のリン化合物であるリン酸亜鉛やジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、ポリサルファイド類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等の硫黄及びリン含有化合物が挙げられる。
【0080】
金属系摩擦調整剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、モリブテン酸のアミン塩等のモリブデン系摩擦調整剤等が挙げられる。
【0081】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
【0082】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。
【0083】
抗乳化剤としては、例えば、ひまし油の硫酸エステル塩、石油スルフォン酸塩等のアニオン性界面活性剤;第四級アンモニウム塩、イミダゾリン類等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシアルキレンポリグリコール及びそのジカルボン酸のエステル;アルキルフェノール-ホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物;等が挙げられる。
【0084】
消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0085】
〔潤滑油組成物の各種性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは10~100mm/s、より好ましくは13~75mm/s、更に好ましくは25~55mm/sである。
【0086】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上である。
【0087】
本発明の潤滑油組成物は、優れた酸化安定性を有すると共に、鳴きの発生の抑制効果や制動性も良好であるため、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える機械に好適に適用し得る。
本発明の一態様の潤滑油組成物について、JIS K 2514-1に準拠した内燃機関用潤滑油酸化安定度試験(ISOT)を試験温度150℃にて、168時間行った際、JIS B 9931に準拠して測定した試験後に発生したスラッジ量としては、好ましくは2.0mg/100ml未満、より好ましくは1.5mg/100ml未満、更に好ましくは1.0mg/100ml未満である。
当該スラッジ量が少ないほど、高温下でも優れた酸化安定性を有する潤滑油組成物であるといえる。
なお、本明細書において、上記のスラッジ量は、後述の実施例に記載の方法に準拠して測定された値を意味する。
【0088】
本発明の一態様の潤滑油組成物について、JCMAS P045に準拠し、高圧ピストンポンプ試験装置(ポンプ:BOSCH-REXROTH A2F10)を用いて、ポンプ圧力35MPa、試料油温度80℃、空気吹込量1.0L/hの条件下にて、高圧ピストンポンプ試験を500時間行った際、JIS B 9931に準拠して測定した試験後に発生したスラッジ量としては、好ましくは3.0mg/100ml未満、より好ましくは2.0mg/100ml未満、更に好ましくは1.0mg/100ml未満である。
当該スラッジ量が少ないほど、高圧下でも優れた酸化安定性を有する潤滑油組成物であるといえる。
なお、本明細書において、上記のスラッジ発生量は、後述の実施例に記載の方法に準拠して測定された値を意味する。
【0089】
本発明の一態様の潤滑油組成物について、JASO M349に準拠し、低速すべり試験装置を用いて、油温80℃、荷重0.5MPaにて動摩擦係数を計測した際、回転数1rpm時の動摩擦係数μと、回転数50rpm時の動摩擦係数μ50との比〔μ/μ50〕としては、鳴きの発生の抑制効果や制動性を良好とする観点から、好ましくは0.80以上1.00未満、より好ましくは0.80以上0.95未満、更に好ましくは0.81以上0.90未満である。
【0090】
回転数1rpm時の動摩擦係数μは、好ましくは0.100以上0.150未満、より好ましくは0.105以上0.140未満、更に好ましくは0.110以上0.130未満である。
【0091】
なお、動摩擦係数μは、停止直前の動摩擦係数とみなすことができ、一方、動摩擦係数μ50は、稼動時の動摩擦係数とみなすことができる。比〔μ/μ50〕は、制動性の指標となる物性値であり、上記範囲であれば制動性が良好であるといえる。
また、本明細書において、上記の動摩擦係数μ及び比〔μ/μ50〕は、上述の実施例に記載の方法に準拠して測定された値を意味する。
【0092】
本発明の一態様の潤滑油組成物について、ASTM D2882に準拠し、後述の実施例に記載の条件下で測定された、ベースポンプ(ビッカース社製、製品名「V-104C」)を100時間運転した際の、ベーンとカムリングの摩耗量としては、好ましくは40mg未満、より好ましくは36mg未満、更に好ましくは30mg未満、より更に好ましくは25mg未満である。
【0093】
〔潤滑油組成物の用途〕
本発明の潤滑油組成物は、湿式ブレーキや湿式クラッチの潤滑に適用しても鳴きの発生を抑制し、制動性を良好とすることができるため、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える機械に用いられ、油圧作動油組成物として用いられることが好ましい。
当該機械としては、建設機械が好ましく、クレーンがより好ましい。
ここでいう建設機械としては、例えば、移動式クレーン、定置式クレーン、デリック等のクレーン;油圧ショベル、ミニショベル、ホイール式油圧ショベル等の掘削機械;ブルドーザ等の整地機械;、ホイールローダ等の積込機械;不整地運搬車等の運搬機械;振動ローラ等の締固め機械;ブレーカ等の解体用機械;バイルドライバ、アースオーガ等の基礎工事用機械;コンクリートポンプ車等のコンクリート・アスファルト機械;高所作業車、舗装機械、シールド、掘進機、除雪機等が挙げられる。
つまり、本発明の潤滑油組成物は、優れた制動性を有するため、制動性が特に要求される建設機械に用いられる油圧作動油組成物であることが好ましく、具体的には、クレーンに用いられる油圧作動油組成物であることがより好ましい。
【0094】
すなわち、本発明は、以下に示す機械、及び、潤滑油組成物の使用方法も提供し得る。
(1)基油(A)、ジチオリン酸亜鉛(B)、金属スルホネート(C)、及び、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)を含む無灰系摩擦調整剤(D)を含有する、潤滑油組成物を用いた、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える機械。
(2)基油(A)、ジチオリン酸亜鉛(B)、金属スルホネート(C)、及び、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)を含む無灰系摩擦調整剤(D)を含有する、潤滑油組成物を、湿式ブレーキ及び湿式クラッチの少なくとも一方を備える機械に用いる、潤滑油組成物の使用方法。
なお、上記(1)及び(2)で規定の潤滑油組成物の好適な態様は、上述のとおりである。
また、前記機械としては、建設機械が好ましく、クレーンがより好ましい。
【0095】
〔潤滑油組成物の製造方法〕
本発明は、下記工程(I)を有する潤滑油組成物の製造方法も提供する。
工程(I):基油(A)に、ジチオリン酸亜鉛(B)、金属スルホネート(C)、及び、ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド(D1)を含む無灰系摩擦調整剤(D)を配合する工程。
【0096】
上記工程(I)において、配合する成分(A)、(B)、(C)及び(D)、並びに、必要に応じて配合される成分(E)や他の潤滑油用添加剤は、上述のとおりであり、好適な成分の種類、各成分の含有量も上述のとおりである。
また、本工程において、これらの成分以外の他の潤滑油用添加剤も同時に配合してもよい。
なお、工程(I)で配合する各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で、配合してもよい。各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
【実施例
【0097】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた各成分及び得られた潤滑油組成物の各種性状は、下記に方法に準拠して測定した。
【0098】
<40℃及び100℃における動粘度>
JIS K 2283に準拠して測定した。
<粘度指数>
JIS K 2283に準拠して測定した。
【0099】
<亜鉛原子、カルシウム原子、ホウ素原子、及びリン原子の含有量>
JPI-5S-38-03に準拠して測定した。
<窒素原子の含有量>
JIS K2609に準拠して測定した。
<硫黄原子の含有量>
JIS K2541-6に準拠して測定した。
【0100】
<塩基価(過塩素酸法)>
JIS K2501に準拠して測定した。
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)>
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
【0101】
実施例1~3、比較例1~3
以下に示す鉱油及び各種添加剤を、表1に示す配合量にて添加して、十分に混合して、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。
実施例及び比較例で用いた鉱油及び各種添加剤の詳細は、以下に示すとおりである。
【0102】
(成分(A))
・「鉱油」:APIカテゴリーでグループ3に分類される100N鉱油と、グループ2に分類される500N鉱油との混合鉱油(100N鉱油/500N鉱油=86/14(質量比))、40℃動粘度=23.57mm/s、粘度指数=118。
(成分(B))
・「ZnDTP」:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(前記一般式(b-1)中のR~Rが2-エチルヘキシル基である化合物)、亜鉛原子の含有量=9.9質量%、リン原子の含有量=8.0質量%、硫黄原子の含有量=16.6質量%。
(成分(C))
・「Caスルホネート」:過塩基性カルシウムスルホネート、塩基価(過塩素酸法)=450mgKOH/g、カルシウム原子の含有量=20.0質量%、硫黄原子の含有量=1.4質量%。
(成分(D1))
・「ホウ素変性アルケニルコハク酸イミド」:数平均分子量(Mn)1000のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸モノイミドのホウ素変性物(前記一般式(d-11)で表される化合物のホウ素変性物)。ホウ素原子の含有量=3.1質量%、窒素原子の含有量=3.8質量%。ホウ素原子と窒素原子の質量比(B/N)=0.82。
(成分(D2))
・「オレイルアミン」:前記一般式(b-2)中、z1=z2=8である第1級不飽和アミン、窒素原子の含有量=5.2質量%。
(成分(E1))
・「フェノール系酸化防止剤」:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)。
(成分(E2))
・「アミン系酸化防止剤」:アルキル化ジフェニルアミン、窒素原子の含有量=4.6質量%。
(他の添加剤)
・「粘度指数向上剤」:重量平均分子量(Mw)30,000~45,000のポリメタクリレート。
・「その他の添加剤」:流動点降下剤、極圧剤、防錆剤、銅不活性化剤、抗乳化剤、及び消泡剤の混合添加剤。
【0103】
実施例及び比較例で調製した潤滑油組成物について、以下の試験を行った。これらの結果を表1に示す。
(1)内燃機関用潤滑油酸化安定度試験(ISOT)
JIS K 2514-1に準拠した内燃機関用潤滑油酸化安定度試験(ISOT)を試験温度150℃にて、168時間行った。そして、JIS B 9931に準拠して、試験後に発生したスラッジ量(mg/100ml)を測定した。
【0104】
(2)高圧ピストンポンプ試験
JCMAS P045に準拠し、高圧ピストンポンプ試験装置(ポンプ:BOSCH-REXROTH A2F10)を用いて、ポンプ圧力35MPa、試料油温度80℃、空気吹込量1.0L/h)の条件下にて、高圧ピストンポンプ試験を500時間行った。そして、JIS B 9931に準拠して、試験後に発生したスラッジ量(mg/100ml)を測定した。
【0105】
(3)低速すべり摩擦試験
JASO M349-12に準拠し、低速すべり試験装置(製品名「L.V.F.A」、オートマックス株式会社製)を用いて、油温80℃、荷重0.5MPaの条件下にて、回転数1rpm時の動摩擦係数μと、回転数50rpm時の動摩擦係数μ50を測定した。そして、動摩擦係数μとμ50との比〔μ/μ50〕を算出した。
【0106】
(4)ベーンポンプ摩耗試験
ベーンポンプ(ビッカース社製、製品名「V-104C」)を用いて、ASTM D2882に準拠し、ポンプ圧力13.8MPa、油温66℃、回転数1200rpm、試料油量60L、流量25L/分の条件下で、100時間運転した際の、ベーンとカムリングとの摩耗量(単位:mg)を測定した。
【0107】
【表1】
【0108】
表1から、実施例1~3で調製した潤滑油組成物は、ISOT及び高圧ピストンポンプ試験でのスラッジ量が少ないため、高温下及び高圧下における酸化安定性が高いものであるといえる。、また、μ/μ50の値が0.80以上1.00未満であることから、鳴きの発生の抑制効果も高く、制動性も良好であると考えられる。さらに、耐摩耗性にも優れている。
一方、比較例1~3で調製した潤滑油組成物は、μ/μ50の値が低いため、鳴きが発生し易く、制動性にも問題があると考えられ、また、実施例1~3に比べて、耐摩耗性も劣る結果となった。