(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】殺菌又は静菌用液状組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 37/02 20060101AFI20220414BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20220414BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220414BHJP
A01N 59/26 20060101ALI20220414BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220414BHJP
A23L 3/3517 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A01N37/02
A01N25/02
A01P3/00
A01N59/26
A01N25/00 102
A23L3/3517
(21)【出願番号】P 2019506244
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2018010105
(87)【国際公開番号】W WO2018168976
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2017050770
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 治子
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊之
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-105211(JP,A)
【文献】特開平06-217749(JP,A)
【文献】特開2005-296021(JP,A)
【文献】特開昭59-151875(JP,A)
【文献】特開平06-153882(JP,A)
【文献】特開2005-080617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/00
A01P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である、対象
に付着させ乾燥させることで該対象に抗菌性
を付与
するための液状組成物。
【請求項2】
pH1.5~3.5である、請求項
1記載の組成物。
【請求項3】
前記ウルトラリン酸塩の濃度が0.018質量%以上である、請求項
1又は2記載の組成物。
【請求項4】
さらにエタノールを含有する、請求項1~
3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
さらに水性溶媒を含有する、請求項1~
4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
対象の面積100cm
2あたり0.1~5.0mLの用量で使用される、請求項1~
5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
液状組成物を対象に噴霧もしくは塗布するか、又は該液状組成物に対象を浸漬させること
により、該液状組成物を該対象に付着させること、及び
該液状組成物が付着した対象を乾燥させること、
を含み、
該液状組成物が、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である、
対象への抗菌性付与方法。
【請求項8】
前記液状組成物がpH1.5~3.5である、請求項
7記載の方法。
【請求項9】
前記液状組成物における前記ウルトラリン酸塩の濃度が0.018質量%以上である、請求項
7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記液状組成物がさらにエタノールを含有する、請求項
7~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記液状組成物がさらに水性溶媒を含有する、請求項
7~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記液状組成物が対象の面積100cm
2あたり0.1~5.0mLの用量で使用される、請求項
7~11のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌又は静菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品製造においては、微生物の増殖による食品の腐敗や変質を防ぐための組成物が使用されている。特許文献1には、脂肪酸モノエステル、酸またはキレート化剤、食品グレードの界面活性剤及び媒体を含有する食品用殺菌剤組成物が記載されている。特許文献2には、リゾチーム、ヘキサメタリン酸ソーダ及びカプリン酸モノグリセリドからなる食品用保存料が記載されている。特許文献3には、カプリル酸モノグリセリド及び/又はカプリン酸モノグリセリドに、グリシン、酢酸ナトリウム、リゾチーム、ならびに重合リン酸塩を併用することを特徴とする食品用保存剤が記載されている。特許文献4には、ホースラディッシュ由来の抗菌性物質と、有機酸又はその塩、アミノ酸、低級脂肪酸エステル、シュガーエステル、ビタミンB1エステル、重合リン酸塩、フィチン酸、エタノール等から選択される1種又は2種以上とを含有する食品用保存剤が記載されている。特許文献5には、エタノールに、ラウリン酸、デカグリセリン脂肪酸モノエステル、ショ糖脂肪酸モノエステル及び有機酸を混合溶解させた液状の食品保存剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-296021号公報
【文献】特開昭59-151875号公報
【文献】特開平6-217749号公報
【文献】特開平6-153882号公報
【文献】特開2005-080617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品、又はそれを取り扱う機器もしくはそれが存在する環境の殺菌又は静菌のための組成物においては、その殺菌又は静菌効果が重要であるだけでなく、安全性や食品の風味に与える影響も無視できない。一方で、食品分野で微生物の増殖制御に従来使用されている組成物は、安全性の基準は満たすが、水溶性が低く均質な液状とすることが難しいため、機器等の洗浄や殺菌には使いづらいことが多い。さらに、従来の食品保存料組成物には、乳化剤や酸がしばしば使用されているが、一般に乳化剤は強い苦味を有しており、また酸には酸味がある。これらが洗浄や殺菌後に機器等に残留すると、食品の風味に影響するおそれがある。反面、食品の風味を考慮して組成物の使用量を制限すると、充分な殺菌又は静菌効果が得られなくなるおそれがある。したがって、均質な液状を呈し、かつ高い殺菌又は静菌効果を有しながらも苦味や酸味が少なく食品の風味に影響を与えにくい、食品、又はそれを取り扱う機器もしくはそれが存在する環境の殺菌又は静菌に有用な組成物が求められている。
【0005】
さらに、食品を取り扱う機器においては、殺菌処理直後だけでなく、機器の使用中にわたって減菌された状態を維持することも望まれる。したがって、素材についた微生物を殺菌又は静菌した後、そのまま継続的に該素材における微生物の増殖を抑えることを可能にする組成物の開発は、非常に有用であると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定量のカプリル酸モノグリセリド及び/又はカプリン酸モノグリセリドを含む組成物にウルトラリン酸塩を添加して、そのpHを3.5以下に調整することにより、高い殺菌又は静菌作用を有しながらも、苦味の少ない液状組成物が得られることを見出した。さらに本発明者らは、当該液状組成物を素材に噴霧又は塗布することで、該素材における微生物の増殖を長時間にわたって抑制できることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である、殺菌又は静菌用液状組成物を提供する。
また本発明は、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である、対象への抗菌性付与用液状組成物を提供する。
【0008】
さらに本発明は、液状組成物を対象に噴霧もしくは塗布するか、又は該液状組成物に対象を浸漬させることを含み、該液状組成物が、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である、殺菌又は静菌方法を提供する。
さらに本発明は、液状組成物を対象に噴霧もしくは塗布するか、又は該液状組成物に対象を浸漬させることを含み、該液状組成物が、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である、対象への抗菌性付与方法を提供する。
【0009】
さらに本発明は、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である液状組成物の、殺菌又は静菌のための使用を提供する。
さらに本発明は、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である液状組成物の、対象への抗菌性付与のための使用を提供する。
【0010】
さらに本発明は、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である液状組成物の、殺菌又は静菌用液状組成物の製造のための使用を提供する。
さらに本発明は、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有し、該カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドの合計濃度が0.05質量%以上であり、かつpH3.5以下である液状組成物の、対象への抗菌性付与用液状組成物の製造のための使用を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の殺菌又は静菌用液状組成物は、液状であるため使用しやすく、また高い殺菌又は静菌効果を有しながらも苦味が少なく食品の風味に影響を与えにくいので、食品、又はそれを取り扱う機器もしくはそれが存在する環境の殺菌又は静菌に有効である。また、本発明の液状組成物は、素材に適用すれば、該素材についた微生物を殺菌又は静菌することができ、さらにその後長時間にわたって、該素材における微生物の増殖を継続的に抑えることができる。したがって、本発明は、恒常的に微生物増殖抑制が望まれる分野、例えば、食品の製造、加工、保存等の分野において有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、殺菌又は静菌用組成物を提供する。本発明の殺菌又は静菌用組成物は、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とを含有する。
【0013】
カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドはいずれも、従来、乳化剤として食品等に適用されている物質であり、市販されている。例えば、カプリル酸モノグリセリドは、サンソフト(登録商標)700p-2(太陽化学株式会社)、ポエムM-100(理研ビタミン株式会社)など、カプリン酸モノグリセリドは、サンソフト(登録商標)760(太陽化学株式会社)、ポエムM-200(理研ビタミン株式会社)などの商品名で販売されている。
【0014】
本発明において、カプリル酸モノグリセリドとカプリン酸モノグリセリドは、いずれか一方を用いてもよいが、組み合わせて使用してもよい。本発明の組成物におけるカプリル酸モノグリセリドとカプリン酸モノグリセリドの合計濃度は、該組成物全量中、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上が望ましい。この濃度が低いと、本発明の組成物は充分な殺菌又は静菌特性を得られない。一方、溶解性、経済性の観点から、本発明の組成物におけるカプリル酸モノグリセリドとカプリン酸モノグリセリドの合計濃度は、該組成物全量中、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下、なお好ましくは0.5%質量以下である。よって、本発明の組成物におけるカプリル酸モノグリセリドとカプリン酸モノグリセリドの合計濃度の範囲の例としては、該組成物全量中、好ましくは0.05~10.0質量%、より好ましくは0.05~2.0質量%、さらに好ましくは0.05~1.0質量%、さらに好ましくは0.05~0.5質量%、さらに好ましくは0.1~0.5質量%が挙げられる。
【0015】
ウルトラリン酸は、酸性ヘキサメタリン酸とも称される。本発明で使用されるウルトラリン酸塩としては、ウルトラリン酸ナトリウムが好ましい。ウルトラリン酸ナトリウムは、従来、結着剤、pH調整剤等として食品等に適用されている。ウルトラリン酸塩は、市販されており、例えばウルトラポリホス(株式会社ポリホス化学研究所)、ウルトラポリン(太平化学産業株式会社)などの商品名で販売されている。
【0016】
本発明の組成物におけるウルトラリン酸塩の濃度は、カプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリドの濃度によっても異なり得るが、該組成物全量中、好ましくは0.015質量%以上、より好ましくは0.018質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上である。ウルトラリン酸塩の濃度が低いと、本発明の組成物が充分な殺菌又は静菌特性を得られない。他方、本発明の組成物におけるウルトラリン酸塩の濃度は、該組成物全量中、好ましくは3.8質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。ウルトラリン酸塩の濃度が高すぎると、本発明の組成物のpHが低くなり、金属の腐食など、本発明の組成物の適用環境に悪影響を及ぼすおそれがある。よって、本発明の組成物におけるウルトラリン酸塩の濃度の範囲の例としては、該組成物全量中、好ましくは0.015~3.8質量%、より好ましくは0.018~2.5質量%、さらに好ましくは0.02~1.0質量%が挙げられる。
【0017】
本発明の殺菌又は静菌用組成物に含まれ得るカプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、及びウルトラリン酸塩は、いずれも食品添加物として許容されている物質である。したがって、本発明の組成物は、一般的な洗浄剤や殺菌剤と比べて人体に対する安全性が高い。また、本発明の組成物は、従来の食品保存料や殺菌成分のような強い苦味がないため、食品とともに摂取しても、該食品の風味に影響しにくい。したがって、本発明の組成物は、食品関連分野への適用、例えば、食品、又はそれを取り扱う機器もしくはそれが存在する環境の殺菌又は静菌に有用である。
【0018】
本発明の組成物は、カプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、ウルトラリン酸塩以外の他の成分、例えば、ウルトラリン酸以外のリン酸(ポリリン酸、ピロリン酸、メタリン酸)、フィチン酸、クエン酸、グルコン酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸、塩酸などの、ウルトラリン酸以外の有機酸及び無機酸、ならびにそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種、食品に使用可能なpH調整剤、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリド以外の脂肪酸エステルなどを含有していてもよい。ただし、これらの他の成分の種類及び含有量は、本発明の組成物に必要な殺菌又は静菌特性が失われない程度に制限される。成分の溶解性又は組成物の品質の安定性の観点からは、本発明の組成物は、C11以上の鎖長の脂肪酸エステルを含有しないことが好ましい。カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリド以外の脂肪酸エステルの含有量としては5質量%以下が好ましい。より好ましくは、本発明の組成物における当該他の成分の含有量は、5質量%以下である。
【0019】
本発明の組成物は、さらにアルコール類を含有していてもよい。本発明の組成物に使用されるアルコール類としては、例えばエタノールなどの食品に使用可能なアルコール類が挙げられる。アルコール類の添加により、カプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリドの溶解性が向上し、本発明の組成物の品質が安定する。本発明の組成物におけるアルコール類の含有量は、上述したカプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、ウルトラリン酸塩及び他の成分の残部以下であればよく、好ましくは該カプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、ウルトラリン酸塩及び他の成分の残部であり、より好ましくは、該組成物全量中20~60質量%である。
【0020】
本発明の組成物は、さらに水性溶媒を含有していてもよい。好ましい水性溶媒としては、例えば水が挙げられる。本発明の組成物における該水性溶媒の含有量は、上述したカプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、ウルトラリン酸塩及び他の成分の残部以下であればよく、好ましくは該カプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、ウルトラリン酸塩、他の成分及びアルコール類の残部であり、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0021】
本発明の組成物の一例は、上記水性溶媒に、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とが溶解した液状組成物である。本発明の組成物の別の一例は、上記アルコール類に、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とが溶解した液状組成物である。本発明の組成物の別の一例は、上記アルコール類と水性溶媒との混合溶媒に、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とが溶解した液状組成物である。本発明の組成物の好ましい一例は、エタノール/水の混合溶媒に、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種と、ウルトラリン酸塩とが溶解したエタノール水溶液である。該エタノール/水の混合溶媒としては、20~60質量%エタノール水溶液が望ましい。該アルコール類と水性溶媒との混合溶媒、又は該エタノール/水の混合溶媒の本発明の組成物における含有量は、上述したカプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、ウルトラリン酸塩及び他の成分の残部であればよい。
【0022】
本発明の組成物のpHは、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3.0以下である。pHが高くなると、本発明の組成物が充分な殺菌又は静菌特性を得られない。他方、本発明の組成物のpHは1.5以上が好ましい。pHが低くなると、金属の腐食など、本発明の組成物の適用環境に悪影響を及ぼすおそれがある。よって、本発明の組成物のpHの範囲の例としては、好ましくは1.5~3.5、より好ましくは1.5~3.0が挙げられる。
【0023】
本発明の組成物のpHは、主にウルトラリン酸塩の添加によって調整され得る。当該pH調整には、ウルトラリン酸塩以外の他の酸や、食品に使用可能なpH調整剤を用いてもよい。
【0024】
本発明の組成物は、優れた殺菌又は静菌作用を有しており、各種物質の殺菌又は静菌に使用することができる。本明細書において、殺菌とは、微生物を死滅させること(但し完全な死滅に限られない)をいい、また静菌とは、微生物の増殖を抑制することをいう。したがって、本発明の殺菌又は静菌用組成物を適用された対象においては、微生物の増殖が抑制されるか、又は微生物の数が減少する。
【0025】
本発明の組成物により殺菌又は静菌される微生物の種類としては、特に限定されないが、例えば、Weissella属、Leuconostoc属等の乳酸菌、Klebsiella属、Enterobacter属等の大腸菌群、Candida属、Cryptococcus属等の酵母、Cladosporium属等のカビ、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、などが挙げられる。特に、乳酸菌等の耐酸性菌は、通常の微生物が生育を阻害される低pH領域でも生存するため従来除去しにくいものであったが、これらも本発明の組成物により殺菌又は静菌することができる。このように、本発明の組成物は、耐酸性菌等の従来除去しにくかった微生物種にも有用であるため、利用価値が高い。
【0026】
本発明の組成物は、各種素材の殺菌又は静菌に使用することができる。本発明の組成物の適用対象は、本発明の組成物との接触が許容されるものである限り、特に限定されない。本発明の組成物の適用対象の好ましい例としては、食品、食品を取り扱う機器、及び食品が存在する環境が挙げられる。該食品を取り扱う機器としては、製造、加工、流通、保存、調理等の過程で食品と接触する可能性のある機器、例えば、食品の製造もしくは加工工場の製造ラインの機器、食品の保存もしくは運搬用の容器、調理器具、調理台、作業者の手袋やエプロン、作業着、などが挙げられる。食品が存在する環境としては、食品を取り扱う環境、例えば食品の製造、加工、流通、保存、調理などが行われる環境、より詳細には、食品の製造もしくは加工工場、食品保管庫、調理場等の壁、床、天井、柱、ドア、窓、換気孔などが挙げられる。
【0027】
本発明の殺菌又は静菌用組成物による対象の殺菌又は静菌は、該本発明の組成物を該対象に接触させることによって行われ得る。本発明の殺菌又は静菌用組成物は、液状であるため、殺菌又は静菌すべき対象への適用が容易である。例えば、本発明の液状組成物は、殺菌又は静菌対象の物質(例えば食品など)中に混合されてもよい。また例えば、本発明の液状組成物を、殺菌又は静菌対象の物質に噴霧もしくは塗布するか、又は本発明の液状組成物に該対象の物質を浸漬させてもよい。好ましくは、本発明の液状組成物は、殺菌又は静菌すべき対象に対して噴霧又は塗布される。本発明の液状組成物と接触した対象は、殺菌又は静菌される。
【0028】
本発明の好ましい態様においては、殺菌又は静菌すべき対象に対して本発明の組成物を噴霧もしくは塗布するか、又は浸漬させることで、該本発明の組成物と該対象とを接触させる。さらに、該本発明の組成物と接触させた対象を乾燥させてもよい。乾燥の方法としては、静置による乾燥、風乾、乾燥機による乾燥などが挙げられるが、特に限定されない。該乾燥により、本発明の組成物に含まれる揮発性成分、例えば水性溶媒やエタノールは、揮発して該対象から除去される。該揮発性成分が除去された後でも、本発明の組成物を適用した対象においては、殺菌又は静菌作用が持続する。したがって、本態様において、本発明の組成物は、液体の状態で対象に対して殺菌又は静菌力を発揮するだけでなく、乾燥物状態でも、該対象における微生物の増殖を抑える。
【0029】
したがって、本発明の組成物の別の態様は、対象への抗菌性付与用液状組成物であり得る。本発明の組成物を、抗菌性を付与したい対象に噴霧、塗布、浸漬等により付着させることにより、該対象に抗菌性が付与される。必要に応じて又は好ましくは、さらに該本発明の組成物を付着させた対象を乾燥させる。本明細書において、対象の「抗菌性」とは、該対象の表面に付着又は内部に侵入した微生物を殺菌又は静菌することができるという、該対象の性質をいう。本態様は、恒常的に微生物増殖を防止したい環境、又はそこで使用される素材や機器、例えば、食品を取り扱う環境又はそこで使用される食品取り扱い用機器に対して、非常に有用である。
【0030】
本発明の組成物は、対象の殺菌又は静菌に用いる場合、及び対象への抗菌性付与に用いる場合のいずれにおいても、対象の面積100cm2あたり0.1~5.0mL程度の用量で使用されることが好ましく、対象の面積100cm2あたり0.5~1.0mL程度の用量で使用されることがより好ましい。好ましくは、この用量の組成物を、対象に対して、好ましくは噴霧又は塗布により、均等に付着させる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0032】
参考例
室温下で、カプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリドと精製水を混合して、表1に示す組成の液状組成物を調製した。得られた組成物の呈味性(苦味)を評価した。評価は、訓練を受けた10名のパネルにより下記評価基準にて評価し、平均点を求めた。
(呈味性の評価基準)
5点:苦味がごくわずかで気にならない
4点:少しの苦味があるが許容できる
3点:苦味が感じられる
2点:苦味を感じ、口に入れると支障がある
1点:明らかな苦味があり、食べることに抵抗がある
【0033】
結果を表1に示す。カプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリドの濃度が上がるほど、組成物はより強い苦味を呈し、濃度0.1質量%以上では食用に許容できないほどの苦みを有していた。
【0034】
【0035】
試験例1
室温下で、カプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリドと精製水を混合し、これに各種の酸を加えてpHを調整して、表2に示す組成の液状組成物を調製した。得られた組成物の呈味性(苦味)を、参考例と同様の基準で評価した。
【0036】
結果を表2~3に示す。ウルトラリン酸塩以外の酸を含む組成物は、苦味が強かった。また、ウルトラリン酸塩以外のリン酸塩を使用した場合、多量に使用しても組成物のpHが充分に下がらなかった。
【0037】
【0038】
【0039】
試験例2
室温下で、カプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリド、エタノール及び滅菌済み精製水を1:2:2の割合で混合して溶液を調製し、これにウルトラリン酸塩又は他のリン酸塩、及び残余のエタノールと滅菌済み精製水を添加して表4~5記載の液状組成物(溶液)を得た。得られた各液状組成物について、下記の手順で殺菌又は静菌特性を評価した。
【0040】
〔殺菌又は静菌特性評価〕
(1)サンプル菌液の調製
対象菌には、4種の乳酸菌Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、及びLeuconostoc pseudomesenteroidesを用いた。対象菌のシングルコロニーを白金耳を用いて数コロニー釣菌し、TSB培地に植菌して30℃で20時間種培養したものを乳酸菌液(107cfu/mL)とした。得られた乳酸菌液を、滅菌済み精製水10mLに0.1mL混合し、さらにこれを10倍希釈した。4種の乳酸菌の10倍希釈液を等量混合してサンプル菌液を調製した。
【0041】
(2)液状組成物の適用及び菌数測定
塗布直後及び18時間後の液状組成物による静菌特性を調べた。滅菌プラスチックシャーレを二群に分けた。一方の群では、各液状組成物を1.0mLずつ空のシャーレに入れ、コンラージ棒で均一に塗布し、次いでこれにサンプル菌液を1.0mL接種し、20秒間コンラージ棒で混合しながら塗り広げた(0h群)。もう一方の群では、各液状組成物を1.0mLずつ空のシャーレに入れ、コンラージ棒で均一に塗布した後、安全キャビネット内で18時間風乾し、水分とエタノールを完全に蒸発させた。これにサンプル菌液を1.0mL接種し、20秒間コンラージ棒で混合しながら塗り広げた(18h群)。初発菌数は105~106cfu/mLに調整した。サンプル菌液を塗布したシャーレを、5分間静置後、シャーレ内の液体を採取し、MRS寒天培地を用いて菌数を測定した。
【0042】
(3)殺菌又は静菌特性評価
(2)で測定した菌数をもとに、下記評価基準にて各組成物の殺菌又は静菌特性を評価した。
A:初発の1/1000以下に菌数が減少
B:初発の1/100以下~1/1000超に菌数が減少
C:初発の1/10以下~1/100超に菌数が減少
D:菌数が初発の1/10よりも多い
【0043】
結果を表4~5に示す。ウルトラリン酸塩以外のリン酸塩を含む組成物は、殺菌又は静菌作用を持続できなかった。
【0044】
【0045】
【0046】
試験例3
試験例2と同様の手順で、ただしカプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリドの濃度を変更して、表6~7記載の液状組成物を調製した。得られた組成物について、参考例と同様の手順で呈味性(苦味)を評価し、また試験例2と同様の手順で殺菌又は静菌特性を評価した。結果を表6~7に示す。カプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリドを0.05質量%以上含有する組成物は、苦味がなく、かつ持続的な殺菌又は静菌作用を有していた。
【0047】
【0048】
【0049】
試験例4
試験例2と同様の手順で、ただしウルトラリン酸塩の濃度を変更して、表8~9記載の液状組成物を調製し、試験例3と同様の手順で、呈味性、及び殺菌又は静菌特性を評価した。結果を表8~9に示す。ウルトラリン酸塩の濃度が低い組成物は苦味を有し、また持続的な殺菌又は静菌作用を示さなかった。
【0050】
【0051】
【0052】
試験例5
室温下で、C8~C12脂肪酸モノグリセリドと精製水を混合し、これにウルトラリン酸Naを加えてpHを調整し、表10に示す組成の液状組成物を調製した。得られた組成物の呈味性(苦味)及び液の均質さ(成分の溶解性)を評価した。呈味性については、参考例と同様の基準で評価した。液の均質さについては、調製直後又は冷蔵庫で一晩放置後の組成物について、成分の析出(白濁又は沈殿)の有無を目視で確認した。
【0053】
結果を表10に示す。カプリル酸(C8)モノグリセリド及びカプリン酸(C10)モノグリセリドを含む組成物は、成分が水に容易に溶解して均質な溶液となったが、ラウリン酸(C12)モノグリセリドを含む組成物は、成分が水に難溶であり、均質な溶液にはならなかった。
【0054】
【0055】
試験例6
様々な素材上における液状組成物の殺菌又は静菌作用を調べた。
試験例2と同様の手順で、液状組成物を調製した(カプリル酸モノグリセリド 0.15%、ウルトラリン酸Na 0.40%、エタノール 40.00%、水 残余;単位は質量%;pH2.4)。サンプル菌液は、試験例2と同様の手順で4種の菌を用いて調製した。
対象素材として、金属(ステンレス板)、ゴム(ゴム手袋)、プラスチック(番重ふた)を準備した。ステンレス板及び番重ふたは、10cm四方に切断して使用した。ゴム手袋は、10cm四方のプラスチック板に皺のないように伸ばして両面テープで貼り、余った部分はカットして使用した。
【0056】
菌数の測定は、各素材につき以下の手順で行った。各対象素材を3群に分けた。第一の群では、液状組成物0.5mLを、コンラージ棒で対象素材の上に均一に塗布し、次いでサンプル菌液0.1mLを接種し、40秒間コンラージ棒で混合しながら塗り広げた(0h群)。残りの2群では、液状組成物0.5mL又は1.0mLを、コンラージ棒で対象素材の上に均一に塗布した後、安全キャビネット内で18時間風乾し、水分とエタノールを完全に蒸発させた。これにサンプル菌液1.0mLを接種し、40秒間コンラージ棒で混合しながら塗り広げた(18h群)。サンプル菌液の初発菌数は105~106cfu/mLに調整した。
サンプル菌液を塗布した対象素材を5分間静置後、無菌パウチに入れ、上から滅菌水10mLを加え、熱シールして上下に5回程度軽く振った。パウチを開封して中の液体を採取し、MRS寒天培地で菌数を測定した。
【0057】
結果を表11に示す。本発明の組成物が、液状及び乾燥状態のいずれにおいても、各種素材の殺菌又は静菌に有効であることが分かった。
【0058】