(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】繊維長測定用プレパラートの製造方法、繊維長測定用分散液の調製方法、繊維長測定方法、繊維長測定用プレパラート、繊維長測定装置、および繊維長測定装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20220415BHJP
G01B 11/02 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
G01N1/28 N
G01N1/28 F
G01N1/28 X
G01B11/02 H
(21)【出願番号】P 2017193770
(22)【出願日】2017-10-03
【審査請求日】2020-10-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発のうち熱可塑性CFRPの開発及び構造設計・応用加工技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】312016780
【氏名又は名称】共和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 真利子
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳彦
(72)【発明者】
【氏名】木本 幸胤
(72)【発明者】
【氏名】白木 浩司
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】島本 太介
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-233942(JP,A)
【文献】特開2014-000771(JP,A)
【文献】特開2008-190909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0079866(US,A1)
【文献】佐藤 栄治,気相成長炭素繊維の分散化と長さ評価,炭素,209号,日本,2003年,p.159-164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 33/36
G01B 11/00-11/30
G01B 21/02
C03B 37/01
C03C 13/00
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と粘度が500Pa・s~10000Pa・sの分散媒とを、密閉可能な容器中に前記繊維の濃度が0.1質量%以下となるように添加し、前記容器を振とうして予備分散液を調製する予備分散工程と、
他の密閉可能な容器に前記予備分散液の一部を分取する分取工程と、
分取した前記予備分散液に、前記繊維の濃度が0.005質量%以下となるように前記分散媒を添加し、前記容器を振とうして繊維長測定用分散液を調製する希釈工程と、
前記繊維長測定用分散液の一部を、光の透過性を有する基材上に薄く広げるキャスト工程と、
を含むことを特徴とする繊維長測定用プレパラートの製造方法。
【請求項2】
前記分散媒は、光の透過性を有し、前記繊維と異なる色彩を有していることを特徴とする請求項1に記載の繊維長測定用プレパラートの製造方法。
【請求項3】
前記分散媒は、溶媒に高分子を溶解した溶液であって、
前記高分子は、膜形成能を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維長測定用プレパラートの製造方法。
【請求項4】
前記分取工程は、前記予備分散液の全量を複数の密閉可能な容器に均等に配分し、
前記希釈工程は、前記複数の密閉可能な容器にそれぞれ配分した前記予備分散液を、前記分散媒でそれぞれ希釈することを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の繊維長測定用プレパラートの製造方法。
【請求項5】
前記キャスト工程後、加熱により分散媒中の溶媒を除去して、前記基材上に前記高分子の皮膜を形成する高分子皮膜形成工程を行うことを特徴とする請求項3に記載の繊維長測定用プレパラートの製造方法。
【請求項6】
繊維と粘度が500Pa・s~10000Pa・sの分散媒とを、密閉可能な容器中に前記繊維の濃度が0.1質量%以下となるように添加し、前記容器を振とうして予備分散液を調製する予備分散工程と、
他の密閉可能な容器に前記予備分散液の一部を分取する分取工程と、
分取した前記予備分散液に、前記繊維の濃度が0.005質量%以下となるように前記分散媒を添加し、前記容器を振とうして繊維長測定用分散液を調製する希釈工程と、
を含むことを特徴とする繊維長測定用分散液の調製方法。
【請求項7】
前記分散媒は、光の透過性を有し、前記繊維と異なる色彩を有していることを特徴とする請求項6に記載の繊維長測定用分散液の調製方法。
【請求項8】
前記分散媒は、溶媒に高分子を溶解した溶液であって、前記高分子は膜形成能を有していることを特徴とする請求項6または7に記載の繊維長測定用分散液の調製方法。
【請求項9】
前記分取工程は、前記予備分散液の全量を複数の密閉可能な容器に均等に配分し、
前記希釈工程は、前記複数の密閉可能な容器にそれぞれ配分した前記予備分散液を、前記分散媒でそれぞれ希釈することを特徴とする請求項6~8のいずれか一つに記載の繊維長測定用の分散液の調製方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一つに記載の方法により製造された繊維長測定用プレパラートを用いた繊維長測定方法であって、
前記繊維長測定用プレパラートの画像を取得する画像取得工程と、
前記画像の二値化画像を取得する画像処理工程と、
前記二値化画像から前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の繊維長を測定する測定工程と、
を含むことを特徴とする繊維長測定方法。
【請求項11】
前記測定工程で測定した前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の繊維長から、前記繊維の繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を求める算出工程を含むことを特徴とする請求項
10に記載の繊維長測定方法。
【請求項12】
前記繊維長測定用プレパラートは、
予備分散液の全量を複数の密閉可能な容器に均等に配分する分取工程と、
前記複数の密閉可能な容器にそれぞれ配分した前記予備分散液を、前記分散媒でそれぞれ希釈する希釈工程と、により製造され、
前記算出工程は、前記分取工程で配分した前記予備分散液の各系統から得た少なくとも1つの繊維長測定用分散液からそれぞれ製造された前記繊維長測定用プレパラートの前記繊維の繊維長から前記繊維長分布、前記中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を求めることを特徴とする請求項11に記載の繊維長測定方法。
【請求項13】
前記算出工程は、下記式(1)で表されるDEPが0.7~1.3である前記繊維長測定用プレパラートの前記繊維の繊維長から、前記繊維長分布、前記中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を求めることを特徴とする請求項11または12に記載の繊維長測定方法。
【数1】
Wcounted:測定により求めた前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の繊維長から算出した前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の質量の合計
Wpredicted:前記繊維長測定用プレパラートの作製に使用した前記繊維長測定用分散液の質量および濃度から予測される、前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の質量の合計
【請求項14】
前記算出工程は、前記繊維長測定用プレパラートの前記DEPが0.7~1.3でない場合、前記繊維長測定用プレパラートに使用した繊維長測定用分散液と同じ系統の予備分散液から再度調製した繊維長測定用分散液を用いて製造された繊維長測定用プレパラートの前記繊維の繊維長を測定して、前記繊維長分布、前記中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を求めることを特徴とする請求項13に記載の繊維長測定方法。
【請求項15】
光の透過性を有する基材と、
前記基材上に積層され、繊維を内包し、光の透過性を有する高分子皮膜と、
を備え、前記高分子皮膜は前記繊維と異なる色彩を有するとともに、
下記式(1)で表されるDEPが0.7~1.3であることを特徴とする繊維長測定用プレパラート。
【数2】
Wcounted:測定により求めた前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の繊維長から算出した繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の質量の合計
Wpredicted:前記繊維長測定用プレパラートの作製に使用し
た繊維長測定用分散液の質量および濃度から予測される、前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の質量の合計
【請求項16】
前記基材は、厚さが50μm~3000μmの高分子フィルムであり、
前記高分子皮膜の厚さは
、繊維径の1/2以上であることを特徴とする請求項15に記載の繊維長測定用プレパラート。
【請求項17】
前記高分子皮膜は、前記繊維と粘度が500Pa・s~10000Pa・sの分散媒とを含み、前記繊維の濃度が0.005質量%以下である繊維長測定用分散液を前記基材上に伸展した後、溶媒を除去してなることを特徴とする請求項16に記載の繊維長測定用プレパラート。
【請求項18】
請求項1~5のいずれか一つに記載の方法により製造された繊維長測定用プレパラートのデジタル画像を取得する画像取得部と、
前記デジタル画像を画像処理して二値化画像を生成する画像処理部と、
前記二値化画像から前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の繊維長を測定する繊維長測定部と、
測定した前記繊維の繊維長から繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を算出する繊維長算出部と、
下記式(1)で表される前記繊維長測定用プレパラートのDEPを算出するDEP算出部と、
【数3】
Wcounted:測定により求めた前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の繊維長から算出した前記繊維長測定用プレパラートの前記繊維の質量の合計
Wpredicted:前記繊維長測定用プレパラートの作製に使用した前記繊維長測定用分散液の質量および濃度から予測される、前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の質量の合計
前記繊維長測定用プレパラートのDEPが0.7~1.3であるか否かを判定する判定部と、
DEPが0.7~1.3である前記繊維長測定用プレパラートの繊維長のみを、記憶部に記憶させる制御部と、
を備え、
前記繊維長算出部は、前記記憶部に記憶された繊維長のみを用いて、前記繊維長分布、前記中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を算出することを特徴とする繊維長測定装置。
【請求項19】
請求項1~5のいずれか一つに記載の方法により製造された繊維長測定用プレパラートのデジタル画像を取得する画像取得手順と、
前記デジタル画像を画像処理して二値化画像を生成する画像処理手順と、
前記二値化画像から前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の繊維長を測定する繊維長測定手順と、
前記繊維の繊維長から数平均繊維長および/または重量平均繊維長を算出する繊維長算出手順と、
下記式(1)で表される前記繊維長測定用プレパラートのDEPを算出するDEP算出手順と、
【数4】
Wcounted:測定により求めた前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の繊維長から算出した前記繊維長測定用プレパラートの前記繊維の質量の合計
Wpredicted:前記繊維長測定用プレパラートの作製に使用した前記繊維長測定用分散液の質量および濃度から予測される、前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の質量の合計
前記繊維長測定用プレパラートのDEPが0.7~1.3であるか否かを判定する判定手順と、
DEPが0.7~1.3である前記繊維長測定用プレパラートの繊維長のみを、記憶部に記憶させる制御手順と、
を実行させ、
前記繊維長算出手順は、前記記憶部に記憶された繊維長のみを用いて
、繊維長分布
、中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を算出することを特徴とする繊維長測定装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維等の非連続強化繊維の繊維長測定用プレパラートの製造方法、繊維長測定用分散液の調製方法、繊維長測定方法、繊維長測定用プレパラート、繊維長測定装置、および繊維長測定装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維等の繊維をプラスチックに配合して強度を向上した繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics、以下「FRP」ともいう)は種々の用途に使用されているが、プラスチック中に配合する強化繊維の長さは、FRPの物性と成形時の現象把握に重要な技術情報である。
【0003】
FRP中のガラス繊維長の測定方法として、FRPの樹脂を溶出または熱分解して得られたガラス繊維を、1000倍以上の液体中に均一分散させ、分散液から一部を取り出して、さらに希釈等して、ガラス繊維の重量が0.1~2mgとなる均一分散液を取り出して、ろ過または分散によりガラス繊維を取り出して繊維長を測定する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、繊維長の測定対象である炭素繊維を所定濃度の高分子溶液に添加し、高速撹拌して均一分散液を得た後、この均一分散液の全部、または、一部をディスポトレイにキャストし、シート状のサンプルを作製し、このシート状サンプルを画像解析することにより繊維長分布を計測する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】寺田真利子、山中淳彦、島本太介、堀田裕司、第7回日本複合材料会議(JCCM-7)前刷原稿集、1D‐13(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、ガラス繊維を所定量以上の液体中に均一分散させ、均一分散液から一部の均一分散液を取り出すことによりサンプルの代表を短時間で抽出可能であるとしている。
【0008】
しかしながら、特許文献1は、ガラスを分散させる液体として水または水と有機溶剤との混合物を使用するものであり、ガラス繊維を分散させるためには非常に大きな物理的な力を必要とするため、繊維が破損するおそれがある。また、分散した場合であっても、短時間で沈降してしまい分散液から代表的な均一分散液を取り出すことは非常に困難である。
【0009】
一方、非特許文献1では、高分子溶液を分散媒とし、分散状態が特許文献1より良好、且つ、保持しやすいため、均一分散液により近い分散液を代表として分取可能である。しかしながら、非特許文献1では、スターラで高速撹拌しているため、繊維長の測定対象である炭素繊維が撹拌により破損してしまい、FRPに含まれた状態での炭素繊維の繊維長を測定することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、サンプリングの偏りが少なく、かつ効率的に強化繊維の繊維長を測定することが可能な繊維長測定用プレパラートの製造方法、繊維長測定用分散液の調製方法、繊維長測定方法、繊維長測定用プレパラート、繊維長測定装置、および繊維長測定装置の制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法は、繊維と粘度が500Pa・s~10000Pa・sの分散媒とを、密閉可能な容器中に前記繊維の濃度が0.1質量%以下となるように添加し、前記容器を振とうして予備分散液を調製する予備分散工程と、他の密閉可能な容器に前記予備分散液の一部を分取する分取工程と、分取した前記予備分散液に、前記繊維の濃度が0.005質量%以下となるように前記分散媒を添加し、前記容器を振とうして繊維長測定用分散液を調製する希釈工程と、前記繊維長測定用分散液の一部を、光の透過性を有する基材上に薄く広げるキャスト工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法は、上記発明において、前記分散媒は、光の透過性を有し、前記繊維と異なる色彩を有していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法は、上記発明において、前記分散媒は、溶媒に高分子を溶解した溶液であって、前記高分子は膜形成能を有していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法は、上記発明において、前記分取工程は、前記予備分散液の全量を複数の密閉可能な容器に均等に配分し、前記希釈工程は、前記複数の密閉可能な容器にそれぞれ配分した前記予備分散液を、前記分散媒でそれぞれ希釈することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法は、上記発明において、前記キャスト工程後、加熱により分散媒中の溶剤を除去して、前記基材上に前記高分子の皮膜を形成する高分子皮膜形成工程を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の繊維長測定用分散液の調製方法は、繊維と粘度が500Pa・s~10000Pa・sの分散媒とを、密閉可能な容器中に前記繊維の濃度が0.1質量%以下となるように添加し、前記容器を振とうして予備分散液を調製する予備分散工程と、他の密閉可能な容器に前記予備分散液の一部を分取する分取工程と、分取した前記予備分散液に、前記繊維の濃度が0.005質量%以下となるように前記分散媒を添加し、前記容器を振とうして繊維長測定用分散液を調製する希釈工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の繊維長測定用分散液の調製方法は、上記発明において、前記分散媒は、光の透過性を有し、前記繊維と異なる色彩を有していることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の繊維長測定用分散液の調製方法は、上記発明において、前記分散媒は、溶媒に高分子を溶解した溶液であって、前記高分子は膜形成能を有していることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の繊維長測定用分散液の調製方法は、上記発明において、前記分取工程は、前記予備分散液の全量を複数の密閉可能な容器に均等に配分し、前記希釈工程は、前記複数の密閉可能な容器にそれぞれ配分した前記予備分散液を、前記分散媒でそれぞれ希釈することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の繊維長測定方法は、上記のいずれか一つに記載の方法により製造された繊維長測定用プレパラートを用いた繊維長測定方法であって、前記繊維長測定用プレパラートの画像を取得する画像取得工程と、前記画像の二値化画像を取得する画像処理工程と、前記二値化画像から前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の繊維長を測定する測定工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の繊維長測定方法は、上記発明において、測定した前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の繊維長から、前記繊維の繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を求める算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の繊維長測定方法は、上記発明において、前記繊維長測定用プレパラートは、予備分散液の全量を複数の密閉可能な容器に均等に配分する分取工程と、前記複数の密閉可能な容器にそれぞれ配分した前記予備分散液を、前記分散媒でそれぞれ希釈する希釈工程と、により製造され、前記算出工程は、前記分取工程で配分した前記予備分散液の各系統から得た少なくとも1つの繊維長測定用分散液からそれぞれ製造された前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の繊維長から前記繊維長分布、前記中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を求めることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の繊維長測定方法は、上記発明において、前記算出工程は、下記式(1)で表されるDEPが0.7~1.3である前記繊維長測定用プレパラートの前記繊維の繊維長から、前記繊維長分布、前記中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を求めることを特徴とする。
【数1】
Wcounted:測定により求めた前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の繊維長から算出した前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の質量の合計
Wpredicted:前記繊維長測定用プレパラートの作製に使用した前記繊維長測定用分散液の質量および濃度から予測される、前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の質量の合計
【0024】
また、本発明の繊維長測定方法は、上記発明において、前記算出工程は、前記繊維長測定用プレパラートの前記DEPが0.7~1.3でない場合、前記繊維長測定用プレパラートに使用した繊維長測定用分散液と同じ系統の予備分散液から再度調製した繊維長測定用分散液を用いて製造された繊維長測定用プレパラートの前記繊維の繊維長を測定して、前記繊維長分布、前記中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を求めることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の繊維長測定用プレパラートは、光の透過性を有する基材と、前記基材上に積層され、繊維を内包し、光の透過性を有する高分子皮膜と、を備え、前記高分子皮膜は前記繊維と異なる色彩を有することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の繊維長測定用プレパラートは、上記発明において、前記基材は、厚さが50μm~3000μmの高分子フィルムであり、前記高分子皮膜の厚さは、前記繊維の径の1/2以上であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の繊維長測定用プレパラートは、上記発明において、前記高分子皮膜は、前記繊維と粘度が500Pa・s~10000Pa・sの分散媒とを含み、前記繊維の濃度が0.005質量%以下である繊維長測定用分散液を前記基材上に伸展した後、溶媒を除去してなることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の繊維長測定用プレパラートは、上記発明において、下記式(1)で表されるDEPが0.7~1.3であることを特徴とする。
【数2】
Wcounted:測定により求めた前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の繊維長から算出した前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の質量の合計
Wpredicted:前記繊維長測定用プレパラートの作製に使用した前記繊維長測定用分散液の質量および濃度から予測される、前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の質量の合計
【0029】
また、本発明の繊維長測定装置は、上記のいずれか一つに記載の方法により製造された繊維長測定用プレパラートのデジタル画像を取得する画像取得部と、前記デジタル画像を画像処理して二値化画像を取得する画像処理部と、前記二値化画像から前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の繊維長を測定する繊維長測定部と、前記繊維の繊維長から繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を算出する繊維長算出部と、を備えることを特徴とする。
【0030】
また、本発明の繊維長測定装置は、上記発明において、下記式(1)で表される前記繊維長測定用プレパラートのDEPを算出するDEP算出部と、
【数3】
Wcounted:測定により求めた前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の繊維長から算出した前記繊維長測定用プレパラート内の前記繊維の質量の合計
Wpredicted:前記繊維長測定用プレパラートの作製に使用した前記繊維長測定用分散液の質量および濃度から予測される、前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の質量の合計
前記繊維長測定用プレパラートのDEPが0.7~1.3であるか否かを判定する判定部と、DEPが0.7~1.3である前記繊維長測定用プレパラートの繊維長のみを、記憶部に記憶させる制御部と、を備え、前記繊維長算出部は、前記記憶部に記憶された繊維長のみを用いて、前記繊維長分布、前記中央値、前記数平均繊維長および/または前記重量平均繊維長を算出することを特徴とする。
【0031】
また、本発明の繊維長測定装置の制御プログラムは、上記のいずれか一つに記載の方法により製造された繊維長測定用プレパラートのデジタル画像を取得する画像取得手順と、前記デジタル画像を画像処理して二値化画像を取得する画像処理手順と、前記二値化画像から前記繊維長測定用プレパラート内に含まれる前記繊維の繊維長を測定する繊維長測定手順と、前記繊維の繊維長から、繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を算出する繊維長算出手順と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法、繊維長測定用分散液の調製方法、繊維長測定方法、繊維長測定用プレパラート、繊維長測定装置、および繊維長測定装置の制御プログラムは、ロットからのサンプリングの偏りが少なく、かつ効率的に繊維の繊維長を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態にかかる繊維測定用プレパラートの製造工程の一例を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態にかかる繊維測定用プレパラートの製造工程を説明する概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定用プレパラートの拡大断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定用プレパラートの製造を説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定用プレパラートの製造を説明する図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定用プレパラートの製造を説明する図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定装置のブロック図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定方法を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定用プレパラートの画像の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、繊維長3ミリの繊維を含む繊維長測定用プレパラートの繊維長さと相対頻度および累計の関係を示す図である。
【
図14】
図14は、繊維長3ミリの繊維を含む繊維長測定用プレパラートの繊維長さと体積分率および累計の関係を示す図である。
【
図15】
図15は、繊維長6ミリの繊維を含む繊維長測定用プレパラートの繊維長さと相対頻度および累計の関係を示す図である。
【
図16】
図16は、繊維長6ミリの繊維を含む繊維長測定用プレパラートの繊維長さと体積分率および累計の関係を示す図である。
【
図17】
図17は、繊維長測定用分散液間の希釈条件(分岐点)の濃度と数平均繊維長の変動係数の関係を示す図である。
【
図18】
図18は、繊維長測定用分散液間の希釈条件(分岐点)の濃度と重量平均繊維長の変動係数の関係を示す図である。
【
図19】
図19は、繊維長測定用分散液間の希釈条件(分岐点)の濃度と繊維長の中央値の変動係数の関係を示す図である。
【
図20】
図20は、繊維長測定用分散液間の希釈条件(分岐点)の濃度とDEPの変動係数の関係を示す図である。
【
図21】
図21は、繊維長測定用分散液の希釈条件(分岐点)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
FRPの中に存在する強化繊維の長さは、多くの場合、一定値をとらずに分布している(本明細書中、繊維長が一定値をとらず分布している強化繊維を「非連続強化繊維」という)。非連続強化繊維の繊維長分布を、信頼性の高い代表値として測定するためには、非連続強化繊維からのサンプリングの偏りを抑制する必要がある。
【0035】
強化繊維を含むペレットを用いた射出成形品の中の非連続強化繊維の繊維長を測定する場合、成形品から小片を切り出し、樹脂を溶出または熱分解して得られた非連続強化繊維を取り出し(ロット)、その中のごく一部をサンプルとして取り出して、顕微鏡下で拡大し、拡大された非連続強化繊維の中の数百程度の繊維長を測定し、繊維長分布等を算出するのが一般的であった。
【0036】
しかしながらロットからサンプルを取り出す際、ロットとサンプルの大きさの隔たりが大きいほど、分取する際の誤差が大きくなる。また、ロットの中身(繊維長のバラツキ)が不均一であるほど誤差が大きくなる。
【0037】
本発明は、はじめに、測定対象となる非連続強化繊維のロットの全体、またはロットに対するサンプル量を従来に比して非常に大きな割合となる予備分散液を調製し、この予備分散液の分取と希釈、すなわち多段階で希釈を行うことにより繊維長測定用分散液とし、インクリメント(測定対象サンプル)のロットとの誤差を低減できるものである。なお、本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法、繊維長測定用分散液の調製方法、繊維長測定方法、繊維長測定用プレパラート、繊維長測定装置、および繊維長測定装置の制御プログラムは、非連続強化繊維の繊維長の測定に好適に使用可能であるが、繊維長が制御された強化繊維や、強化繊維以外の繊維の繊維長の測定にも使用可能である。
【0038】
以下、さらに詳しく本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法、繊維長測定用分散液の調製方法、繊維長測定方法、繊維長測定用プレパラート、繊維長測定装置、および繊維長測定装置の制御プログラムについて説明する。
【0039】
<繊維長測定用分散液の調製>
図1は、本発明の実施の形態にかかる繊維測定用プレパラートの製造工程を説明するフローチャートである。繊維長測定用分散液の調製工程は、
図1のステップS1~ステップS3に該当する。本発明において、繊維長測定用分散液の調製は、繊維と粘度が500Pa・s~10000Pa・sの分散媒とを、密閉可能な容器中に繊維の濃度が0.1質量%以下となるように添加し、容器を振とうして予備分散液を調製する予備分散工程(ステップS1)と、他の密閉可能な容器に予備分散液の一部を分取する分取工程(ステップS2)と、分取した予備分散液に、繊維の濃度が0.005質量%以下となるように分散媒を添加し、前記容器を振とうして繊維長測定用分散液を調製する希釈工程(ステップS3)と、により行う。なお、「濃度」は一般に溶液中の溶質の割合を意味するが、本明細書では、分散媒分散液(予備分散液、繊維長測定用分散液を含む)中の繊維の割合として「濃度」を使用する。なお、本明細書では、繊維を直接(最初に)分散媒に分散させた分散液を予備分散液と呼び、繊維の濃度を所定値以下まで希釈し、繊維長の測定が可能となった分散液を繊維長測定用分散液と呼ぶ。
【0040】
本発明で使用する繊維は、繊維長が0.1mm~30mm程度のものである。特に1mm~10mm程度の長さであって、繊維長分布を有する(長さが異なる繊維を含む)サンプルに使用できる。
【0041】
繊維長測定の対象である繊維は、粘度が500Pa・s~10000Pa・sの分散媒に分散して予備分散液とする。分散媒の粘度を500Pa・s以上とすることにより、繊維と分散媒との間にせん断力が働き、分散がしやすくなる。また、分散後の繊維の沈降も遅くなる。また、分散媒の粘度10000Pa・s以下とすることにより、予備分散液を入れた容器を振とうした際、予備分散液の流動により分散しやすくなる。
【0042】
分散媒は、粘度が500Pa・s~10000Pa・sであればよく、グリセリン等の有機溶剤を単独で使用することもできるが、溶媒に高分子を溶解した溶液を使用することが好ましい。溶媒としては、使用する高分子が溶解するものであればよく、水やアルコール等の有機溶剤を好適に使用することができる。高分子は、ポリビニルアルコール等を使用することができる。また、分散媒は、光の透過性を有することが好ましい。繊維長測定用プレパラートとして観察する際の観察が容易であるためである。また、分散媒は、繊維と異なる色彩を有しているものが好ましい。さらに、分散媒には、消泡剤が添加されていてもよい。
【0043】
予備分散液の繊維の濃度は、0.1質量%以下とする。0.1質量%以下とすることで、予備分散液の均一性を向上しうる。また、予備分散液の濃度を0.1質量%以下とすることで、予備分散液を複数の容器に分取して複数の系統の繊維長測定用分散液を調製する際、繊維長測定用分散液間の濃度差が小さくなり、繊維長測定用プレパラートを製造する際のサンプリングの偏りも低減できる。予備分散液の濃度は、0.1質量%以下、好ましくは0.085質量%以下であるが、あまり小さくしすぎると調製する予備分散液量が大きくなり、容器による振とうが困難となる。予備分散液の濃度は、0.02質量%以上とすることが好ましい。
【0044】
予備分散液の調製は、密閉可能な容器で行う。容器は、調製する予備分散液の1.5~2倍程度の容量を有し、底面の直径の2倍以上の高さのある概略円筒形状の容器、例えば、プラスチック製のボトルを使用することにより、振とう操作が容易となる。容器は予備分散液の均一性を目視で確認するために、無色透明のものが好ましい。また、繊維や分散媒の添加のためには、広口であることが好ましい。予備分散液の調製は、容器内に繊維と分散媒を入れ、蓋をして密閉した後、振とうする。振とうは、手で容器を上下や左右方向に振るほか、振とう器により、往復、旋回、8の字等に振とうすることにより行えばよい。振とうは、分散媒の進行方向が逐次変更する、乱流状となるように行うことが好ましい。スターラ等による撹拌は、繊維が凝集し、分散を妨げる。また、繊維が破損するおそれも高いため、本発明では、スターラによる撹拌は行わない。
【0045】
予備分散液の調製後(ステップS1)、他の密閉可能な容器に予備分散液の一部を分取する(ステップS2)。予備分散液を分取する際、振とう後直ちに分取することが好ましい。予備分散液を分取する密閉可能な容器は、予備分散液を調製する容器と同様のものを使用することができる。予備分散液を分取する密閉可能な容器は、予備分散液を調製する容器と異なる大きさのものであってもよい。
【0046】
予備分散液の分取後(ステップS2)、繊維の濃度が0.005質量%以下となるように分散媒を添加し、容器を振とうして繊維長測定用分散液を調製する(ステップS3)。添加する分散媒は、予備分散液に使用した分散媒と同様のものを使用することができる。繊維長測定用分散液の繊維の濃度を0.005質量%以下とすることにより、繊維測定用プレパラートでの繊維の観察が容易となる。希釈工程で使用する分散媒は、予備分散工程で使用する分散媒と同一のものを使用することが好ましいが、後述するキャスト工程での分散媒のキャストを考慮すると、より低い粘度の分散媒、例えば、粘度が低い分散媒で希釈し、繊維長測定用分散液の粘度を500Pa・s~4000Pa・sに調製することが好ましい。繊維長測定用分散液の粘度を500Pa・s~4000Pa・sとすることにより、後述する繊維長測定用プレパラートを製造する際、繊維長測定用分散液が基材上からこぼれにくく、かつ広りやすくなる。
【0047】
分取工程と希釈工程は、1段階で行うこともできるが、多段階、すなわち、分取工程と希釈工程とを複数回行うことにより、最終的に繊維長測定用分散液の濃度を0.005質量%以下としてもよい。
【0048】
また、分取工程は、予備分散液の一部を他の容器に分取して行えばよいが、サンプリングの偏りの影響をさらに減少させるためには、他の複数の密閉容器に予備分散液の全量を均等に配分し、希釈工程で、複数の密閉容器に配分された予備分散液を分散媒でそれぞれ希釈して複数の系統の繊維長測定用分散液を調製することが好ましい。複数の系統の繊維長測定用分散液から繊維長測定用プレパラートを製造し、繊維長を測定し、繊維長分布等を算出することにより、繊維長分布等の精度をさらに向上させることができる。また、予備分散液の全量を複数の密閉容器に配分する際、振とう後直ちに配分を行うことが好ましい。さらに、配分は、1つの容器に1回で全量を配分するのではなく、複数回に分けて行うことが好ましい。例えば、複数の容器にそれぞれ100mL配分する場合、各容器にそれぞれ20mL配分した後、さらに予備分散液を振とうし、次いで各容器に20mL配分する。このような小分けの配分を連続して行い、最終的に100mL配分することでサンプリングの偏りを低減できる。
【0049】
図2は、本発明の実施の形態にかかる繊維測定用プレパラートの製造工程を説明する概略図である。
図2では、1gの繊維と999gの分散媒により、濃度0.1質量%の予備分散液を調製し、予備分散液の全量を、容器A~Fに均等に配分している。容器A~Fに配分された予備分散液は、分散液媒で5倍に希釈され、濃度0.02質量%の分散液(第1世代、A-1~F-1)に調製される。他の容器に第1世代の分散液を一部分取し、分散媒で5倍に希釈し、濃度0.004質量%の繊維長測定用分散液(第2世代、A-1-1~F-1-1)を調製する。
図2では、容器Aに配分された予備分散液から分取・希釈されたA系統の繊維長測定用分散液A-1-1、容器Bに配分された予備分散液から分取・希釈されたB系統の繊維長測定用分散液B-1-1、容器Cに配分された予備分散液から分取・希釈されたC系統の繊維長測定用分散液C-1-1、容器Dに配分された予備分散液から分取・希釈されたD系統の繊維長測定用分散液D-1-1、容器Eに配分された予備分散液から分取・希釈されたE系統の繊維長測定用分散液E-1-1、容器Fに配分された予備分散液から分取・希釈されたF系統の繊維長測定用分散液F-1-1、と6系統の繊維長測定用分散液が調製され、各系統の繊維長測定用分散液から繊維長測定用プレパラートを製造し、繊維長を測定することで、サンプリングの偏りによる影響をさらに低減した繊維長分布を算出することができる。
【0050】
<繊維長測定用プレパラートの製造>
繊維長測定用プレパラートの製造工程は、
図1のステップS4~ステップS5に該当する。繊維長測定用プレパラートは、分取工程および希釈工程により調製した繊維の濃度が0.005質量%以下の繊維長測定用分散液の一部を、光の透過性を有する基材上に薄く広げるキャスト工程(ステップS4)と、加熱により分散媒中の溶媒を除去して、基材上に高分子の皮膜を形成する高分子皮膜形成工程(ステップS5)と、を含む。
【0051】
図3は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定用プレパラート1の拡大断面図である。繊維長測定用プレパラート1は、光の透過性を有する基材2と、基材2上に積層され、繊維4を内包し、光の透過性を有する高分子皮膜3と、を備える。高分子皮膜3は、分散媒に溶解した高分子5から主としてなる皮膜である。高分子皮膜3は、繊維4と異なる色彩を有する。また、繊維4は、高分子皮膜3内で単糸分散している。繊維長測定用分散液を均一分散させることにより、繊維4は、高分子皮膜3内で単糸分散し、画像による繊維長測定が容易となる。さらに、高分子皮膜3が基材2上に密着した繊維長測定用プレパラート1は、簡単に搬送でき、保管も容易であり、また、少ないスペースで長期にわたっての保管が可能となる。
【0052】
基材2は、高分子皮膜3の形成領域全体にわたって単糸分散している繊維4を視認できる程度の光の透過性、および色彩を有する。基材2は、分散媒に溶解せず、高分子皮膜3が密着するものであれば材料は限定されないが、取扱い性、および保管等の観点から、厚さが50μm~3000μmの高分子フィルムであることが好ましい。基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂からなるOHP(Over Head Projector)フィルムを使用することができる。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、高分子皮膜3との密着性がよく、基材2として好適に使用することができる。繊維長測定用プレパラート1は、大きいほど内包する繊維4の量が多くなるためサンプルの誤差を小さくできるが、画像取得の観点からA5サイズとすることが好ましい。また、繊維長測定用プレパラート1は、取扱い性および保管等の観点から、基材2に高分子皮膜3が密着したものが好ましいが、繊維長を測定するという観点では、かならずしも基材2上に高分子皮膜3が積層されたものに限定されるものではなく、スライドガラスやシャーレを基材2とし、基材2上に繊維長測定用分散液を薄く広げたものであってもよい。
【0053】
また、高分子皮膜3の厚さは、繊維4の径の1/2以上であることが好ましい。高分子皮膜3の膜厚を、繊維4の径の1/2以上とすることにより、繊維4を高分子皮膜3内に保持することができる。また、高分子皮膜3の膜厚の上限は、使用する繊維長測定用分散液の濃度等を考慮して適宜設定すればよいが、繊維長測定のしやすさ等の観点から3000μm以下とすることが好ましい。
【0054】
基材2上への高分子皮膜3の形成は、例えば、
図4~
図6に示すようにして行うことができる。
図4~
図6は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定用プレパラート1の製造を説明する図である。
【0055】
例えば、
図4に示すように、ステンレスバット6上に基材2を載せ、ステンレスバット6を磁石等で固定した状態で、直前に振とうし、均一分散した繊維長測定用分散液3aを滴下する。A5サイズの基材2を使用する場合は、5g程度の繊維長測定用分散液3aを使用することが好ましい。繊維長測定用分散液のキャスト量は、秤量することが好ましい。繊維長測定用分散液3aは粘度が高いため、ステンレスバット6を傾けることにより、基材2上に繊維長測定用分散液3aを薄く広げる(ステップS4)。
【0056】
繊維長測定用分散液3aが載った基材2を、乾燥器内で70℃で乾燥させ、分散媒中の溶媒を除去して、基材2上に高分子皮膜3が密着し積層した繊維長測定用プレパラートを製造する(ステップS5)。乾燥は、高分子皮膜3が形成されて、基材2に密着できればよく、使用する溶媒と高分子等に合わせて適宜設定すればよい。また、繊維長測定用分散液3aを基材2上に滴下する以外に、
図5に示すように、繊維長測定用分散液3aを注いだステンレスバット6内に、基材2を巻き付けたドラム7を浸漬させ、ドラム7を回転させて基材2上に繊維長測定用分散液3aを薄く広げることもできる。また、
図6に示すように、基材2を巻き付けたドラム7上に口金8を介して繊維長測定用分散液3aを滴下し、ドラム7を回転させて基材2上に繊維長測定用分散液3aを薄く広げてもよい。
【0057】
<繊維長測定方法>
図7は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定装置100のブロック図である。
【0058】
繊維の繊維長は、
図7に示す繊維等測定装置100で測定することができる。繊維等測定装置100は、繊維長測定用プレパラート1のデジタル画像を取得する画像取得部10と、各部を制御する制御部20と、各種情報を入力する入力部30と、を備える。
【0059】
画像取得部10は、繊維長測定用プレパラート1のデジタル画像を取得するスキャナー等を使用することができる。
【0060】
制御部20は、画像処理部21と、繊維長測定部22と、繊維長算出部23と、DEP算出部24と、判定部25と、記憶部26とを有する。制御部20は、各種処理プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、各種処理プログラム等が予め記憶されたROMと、各処理の演算パラメータ等を記憶するRAMとを用いて実現される。制御部20は、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータを使用することができる。
【0061】
画像処理部21は、画像取得部10が取得したデジタル画像を画像処理して二値化画像を取得する。
【0062】
繊維長測定部22は、画像処理部21が取得した二値化画像から針状分離計測により繊維長測定用プレパラート1内に含まれる繊維4の繊維長を測定する。
【0063】
繊維長算出部23は、繊維長測定部22が測定した繊維4の繊維長から繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を算出する。
【0064】
DEP算出部24は、繊維長測定用プレパラート1の下記式(1)で表されるDEP(分散性評価パラメータ:Dispersibility Evaluation Parameter)を算出する。
【数4】
Wcounted:測定により求めた繊維長測定用プレパラート1内の繊維4の繊維長から算出した繊維4の質量の合計であり、下記式(2)より算出することができる。
【0065】
【数5】
式(2)中、A
fは繊維4の断面積(m
2)、P
fは繊維4の密度(Kg/m
3)、l
iはi番目に計測された繊維4の長さ(m)である。また、A
fは下記式(3)より算出される。
【0066】
【数6】
式(3)中、texは繊維4の繊度(g/Km)、n
fbはフィラメントである。
【0067】
Wpredicted:繊維長測定用プレパラート1の作製に使用した繊維長測定用分散液3aの質量および濃度から予測される、繊維長測定用プレパラート1内に含まれる繊維4の質量の合計であり、下記式(4)から算出することができる。
【数7】
式(4)中、C
fは分散液3aの濃度、W
clは繊維長測定用プレパラート1の作製に使用した繊維長測定用分散液3aの質量(Kg)である。
【0068】
判定部25は、DEP算出部24が算出した繊維長測定用プレパラート1のDEPが0.7~1.3であるか否かを判定する。
【0069】
制御部20は、判定部25によりDEPが0.7~1.3であると判定された繊維長測定用プレパラート1の繊維長のみを、記憶部26に記憶させる。繊維長算出部23は、記憶部26に記憶された繊維長のみ、すなわち、DEPが0.7~1.3である繊維長測定用プレパラート1の繊維長を用いて、繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を算出する。
【0070】
入力部30は、各種情報の入力を受け付ける。入力部30が受け付ける情報は、例えば、DEP算出に必要な繊維4の断面積、密度、繊度、フィラメントや、繊維長測定用プレパラート1の作製に使用した繊維長測定用分散液3aの質量および濃度等である。
【0071】
次に
図8を参照して、繊維長測定方法について詳細に説明する。
図8は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定方法を説明するフローチャートである。
【0072】
まず、繊維長測定用プレパラート1のデジタル画像を、GT-X830等の画像取得部10により取得する(ステップS11)。デジタル画像の解像度は、測定するサンプルにより適宜選択すればよいが、600~3600dpi程度とすることが好ましい。
【0073】
デジタル画像を取得後(ステップS11)、「Photoshop(登録商標)」等の画像編集ソフトを用いて二値化画像を取得する(ステップS12)。デジタル画像の二値化は、デジタル画像をグレースケールとし、自動コントラスト処理、トリミング、輝度ムラを調整した後、所定の閾値(例えば、128)で二値化したものである。二値化して得られた画像は、ステップS11で取得したデジタル画像と、乗算で合成し、上から新規レイヤーを追加する。このレイヤーを使用し、二値化画像を添削する。添削終了後、合成方法を乗算から通常に切り替え、レイヤーを結合して二値化画像として保存する。
【0074】
図9は、本発明の実施の形態にかかる繊維長測定用プレパラート1の画像の一例を示す図である。
図10は、
図9の拡大図である。
図11は、
図9の二値化画像であり、
図12は、
図10の二値化画像である。上記のようにして二値化画像を取得することにより、繊維測定用プレパラート1内の繊維4を明確に視認することができる。
【0075】
得られた二値化画像から、WinRoof等の画像解析ソフトを使用し、繊維長を測定する(ステップS13)。繊維長の測定は、デジタル画像の解像度に応じてキャリブレーション値を設定し、二値化画像の黒の領域を認識させ、いわゆる円形度0.7以上の領域を削除する。円形度0.7以上の像は、繊維4でない可能性が高いため削除する。キャリブレーション値は、解像度をx(dpi)とすると、25.4/x(mm/pixel)とする。
【0076】
黒の領域として認識させた領域について、最小計測長さ12pixel、最大計測幅12pixelを閾値として針状分離計測を行う。黒の領域として認識させた領域が所望する領域でない場合は、ステップS12の画像処理をやり直すか、二値化領域を添削する。なお、針状分離計測の際、黒の領域として認識させた領域を、2pixel膨張させて行うことが好ましい。2pixel膨張させると、撓んだ繊維4が直線として認識されやすくなる為である。また、上記の閾値は、繊維4の顕微鏡画像から測定された値との比較結果に基づき設定した値である。
【0077】
ステップS13で測定した繊維長から、DEP算出部24は、下記(1)式で表されるDEPを算出する(ステップS14)。
【数8】
Wcountedは、ステップS13で測定した繊維長測定用プレパラート1内の繊維4の繊維長から算出した繊維4の質量の合計であり、Wpredictedは、繊維長測定用プレパラート1の作製に使用した繊維長測定用分散液3aの質量および濃度から予測される、繊維長測定用プレパラート1内に含まれる繊維4の質量の合計である。WcountedおよびWpredictedの算出に必要な繊維4の断面積、密度、繊度、フィラメントや、繊維長測定用プレパラート1の作製に使用した繊維長測定用分散液3aの質量および濃度等の情報は、入力部30により入力が受け付けられ、該情報および測定した繊維長から、DEPを算出する。繊維長測定の際(ステップS13)、領域を膨張させて行った場合は、測定された繊維長から、4pixel(0.042332mm)差し引くことで、実際の繊維長となる。
【0078】
判定部25は、DEPが0.7~1.3であるか否かを判定する(ステップS15)。DEPは、繊維長測定用分散液3aの分散性の評価パラメータであり、判定部25は、繊維長測定用分散液3aを調製する際にサンプリングの偏りがあったか否かを判定する。DEPが1に近い場合、均一に分散する予備分散液から偏りなくサンプリングができたことを意味し、DEPが1より小さい場合は、予備分散液の濃度の薄い部分からサンプリングされ、DEPが1より大きい場合は、予備分散液の濃度が濃い部分からサンプリングされたことを意味する。
【0079】
制御部20は、繊維長測定用プレパラート1のDEPが0.7~1.3である場合(ステップS15:Yes)、ステップS13で測定した繊維長データを記憶部26に記憶させる(ステップS16)。制御部20は、繊維長測定用プレパラート1のDEPが0.7~1.3でない場合(ステップS15:No)、ステップS13で測定した繊維長データを廃棄する(ステップS17)。
【0080】
製造したすべての繊維長測定用プレパラート1の繊維長の測定が終了したか否かを確認し(ステップS18)、終了した場合は(ステップS18:Yes)、繊維長算出部23は、記憶部26に記憶された繊維長データから繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を算出して繊維長測定が終了する(ステップS19)。すべての繊維長測定用プレパラート1について繊維長の測定が終了していない場合は(ステップS18:No)、ステップS11から繰り返す。
【0081】
上記した繊維長の測定方法では、DEPを算出することにより、繊維長測定用分散液3aの調製の際のサンプリングの偏りを評価でき、繊維長分布等を算出する際のデータとしてサンプリングに偏りがあるものを使用しないため、誤差の少ない繊維長分布等を得ることができる。
【0082】
なお、DEPが0.7~1.3でない繊維長測定用プレパラート1の繊維長から繊維長分布等を算出してもよい。例えば、
図2に示すように、予備分散液の全量を配分して調製した複数の系統の繊維長測定用分散液(A-1-1~F-1-1)から繊維長測定用プレパラート1A~1Fを製造し、この繊維長測定用プレパラート1A~1Fの繊維長を測定する場合、サンプルの偏りは、濃度の高い予備分散液から容器A~Fへの配分の際に発生する可能性が高い。予備分散液から容器A~Fへの配分の際に、サンプリングの偏りが発生した場合であっても、予備分散液の全量が容器A~Fに配分され、この予備分散液を使用して、系統(A~F)毎に繊維長測定用分散液(A-1-1~F-1-1)を調製すれば、サンプリングの偏りによる影響が平均化されるためである。
【0083】
また、たとえば、繊維長測定用プレパラート1のDEPが0.7~1.3でない場合、繊維長測定用プレパラート1に使用した繊維長測定用分散液と同じ系統であって、より世代の若い分散液と同じ系統の予備分散液から再度調製した繊維長測定用分散液を用いて繊維長測定用プレパラート1を製造し、測定した繊維長データから繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を求めることもできる。
【0084】
例えば、
図2に示す繊維長測定用分散液A-1-1のDEPが0.7~1.3でない場合、第1世代の分散液A-1から分取および希釈する際に、サンプリングの誤差が生じたおそれがある。したがって、同じ系統の第1世代の分散液A-1から再度一部分取して、分散媒で希釈して繊維長測定用分散液A-1-2を調製し、調製した繊維長測定用分散液A-1-2から繊維長測定用プレパラート1A’を製造する。繊維長測定用プレパラート1A’の繊維長データと、他の繊維長測定用プレパラート1B~1Fの繊維長データとに基づき、繊維長分布、中央値、数平均繊維長および/または重量平均繊維長を求めることにより、第1世代以降の分取、希釈工程で発生したサンプリングの偏りの影響を低減することができる。また、予備分散液から分取および希釈する際にも、サンプリングの誤差が生じる場合もある。係る場合は、
図2に示すように、予備分散液の全量を使用して分散液A~Fを調製せず、残存する予備分散液から新たな容器Gに予備分散液を分取し、分散媒での希釈を繰り返し、繊維測定用分散液G-1-1を調製し、調製した繊維長測定用分散液G-1-1から繊維長測定用プレパラート1Gを製造し、繊維長測定用プレパラート1Gの繊維長データと、他の繊維長測定用プレパラート1B~1Fの繊維長データとに基づき、繊維長分布等を算出してもよい。
【実施例】
【0085】
(1)繊維長測定用プレパラート製造における繊維破断
炭素繊維の長さが制御されたマット(繊維長(公称値)3mm、6mm)を、いわゆる抄紙法で作製し、そのマットから炭素繊維を採取し、繊維長測定用プレパラート製造において生じる炭素繊維の破断について調べた。0.23gの炭素繊維を分散媒(ポバール(登録商標)PVA-217SBの15質量%水溶液)に分散し、濃度0.080質量%、287.5gの予備分散液を調製した。予備分散液は、密閉可能な容器中に炭素繊維と分散媒を添加し、蓋をした状態で容器を上下に振とうさせて調製した。
【0086】
予備分散液を振とうし、目視で均一に分散したことを確認した後、別の容器に予備分散液を40g注ぎいれる。この容器にさらに4倍量の分散媒(PVA-217SBの15質量%水溶液)を注ぎ、濃度0.017質量%の分散液(第1世代)を調製する。
【0087】
濃度0.017質量%の分散液(第1世代)を振とうし、目視で均一に分散したことを確認した後、別の容器に40g注ぎいれる。この容器にさらに4倍量の分散媒(PVA-217SBの10質量%水溶液)を注ぎ、濃度0.0033質量%の繊維長測定用分散液(第2世代)を調製する。
【0088】
濃度0.0033質量%の繊維長測定用分散液を振とうし、目視で均一に分散したことを確認した後、A5サイズに切られたOHPフィルム(PET、厚さ100μm)上に5g滴下し、薄く広げる。OHPフィルムを70℃で乾燥して、繊維長測定用プレパラートを得た。
【0089】
製造した繊維等測定用プレパラートを、GT-X830にて解像度2400dpiでスキャンし、デジタル画像を得た。デジタル画像について、Photoshopで二値化画像を取得し、WinRoofで二値化画像から繊維長を測定した。得られた繊維長データについて相対頻度および体積分率を求めた。結果を
図13~
図16に示す。
図13は、繊維長3ミリの繊維を含む繊維長測定用プレパラートの繊維長さと相対頻度および累計の関係を示す図であり、
図14は、繊維長さと体積分率および累計の関係を示す図である。
図15は、繊維長6ミリの繊維を含む繊維長測定用プレパラートの繊維長さと相対頻度および累計の関係を示す図であり、
図16は、繊維長さと体積分率および累計の関係を示す図である。
【0090】
繊維長3ミリ(公称値)の炭素繊維を含むマットの結果によれば、
図13および14に示すように、公称値の80%に該当する2.4mmを超える炭素繊維が繊維数で87%、質量で95%を占めた。また、繊維長6ミリ(公称値)の炭素繊維を含むマットの結果によれば、
図15および16に示すように、公称値の80%に該当する4.8mmを超える炭素繊維が繊維数で78%、質量で89%を占めた。繊維長が長いほど、炭素繊維が破断するおそれが高くなるが、本発明の繊維長測定用プレパラートの製造方法によれば、繊維の破断が十分に抑制できることが確認された。
【0091】
(2)繊維長測定用分散液の希釈条件と精度
繊維長測定用分散液を予備分散液から多段階希釈により調製し、繊維長測定用プレパラートを製造した際の、繊維長測定用分散液の希釈条件と精度について確認した。
図17は、繊維長測定用分散液間の希釈条件(分岐点)の濃度と数平均繊維長の変動係数の関係を示す図である。
図18は、繊維長測定用分散液間の希釈条件(分岐点)の濃度と重量平均繊維長の変動係数の関係を示す図である。
図19は、繊維長測定用分散液間の希釈条件(分岐点)の濃度と繊維長の中央値の変動係数の関係を示す図である。
図20は、繊維長測定用分散液間の希釈条件(分岐点)の濃度とDEPの変動係数の関係を示す図である。
図21は、分散液の希釈条件(分岐点)を説明する図である。
【0092】
例えば、
図21に示すように、濃度C
0の予備分散液の全量を容器A~Dに配分し、分散媒で希釈して、濃度C
A~C
Dの第1世代の分散液A~Dを調製する。分散液Aの一部を2つの容器A-1、A-2に分取して、それぞれ分散媒で希釈して、濃度C
A-1、C
A-2の第2世代の分散液A-1、A-2を調製する。分散液Aの残りは保存しても、廃棄してもよい。さらに分散液A-1の一部を4つの容器A-1-1~A-1-4に分取して、それぞれ分散媒で希釈して、濃度C
A-1-1~C
A-1-4の第3世代の繊維長測定用分散液A-1-1~A-1-4を調製する。また、分散液A-2の一部を4つの容器A-2-1~A-2-4に分取して、それぞれ分散媒で希釈して、濃度C
A-2-1~C
A-2-4の第3世代の繊維長測定用分散液A-2-1~A-2-4を調製する。同様にして、分散液B~Dから、第2世代の分散液B-1~D-1をそれぞれ調製し、分散液B-1~D-1から第3世代の繊維長測定用分散液B-1-1~B-1-4、C-1-1~C-1-4、D-1-1~D-1-4を調製する。
【0093】
繊維長測定用分散液A-1-1~A-1-4、A-2-1~A-2-4、B-1-1~B-1-4、C-1-1~C-1-4、D-1-1~D-1-4から繊維長測定用プレパラートをそれぞれ複数枚n枚ずつ製造し、製造した繊維長測定用プレパラートの繊維長を測定し、繊維長測定用プレパラート毎に数平均繊維長、重量平均繊維長、繊維長中央値、およびDEPを算出し得られた変動係数と、希釈条件(分岐点)との関係を示したのが
図17~
図20である。
【0094】
例えば、繊維長測定用分散液A-1-1とA-1-2間の希釈条件の精度を確認する場合、A-1-1とA-1-2は、同じA-1から分取され調製されているので、希釈条件(分岐点)は、目標とする濃度(C
A-1-1、C
A-1-2)となる。C
A-1-1およびC
A-1-2が、0.005質量%(繊維量g/分散媒量g=1:20000=0.00005)である場合、数平均繊維長の変動係数は、
図17に示すように、3~10である。繊維長測定用分散液A-1-1とA-2-1間の希釈条件の精度を確認する場合、A-1-1とA-2-1は、A-1とA-2から分取され調製されているので、希釈条件(分岐点)は、目標とするA-1とA-2の濃度(C
A-1、C
A-2)となる。C
A-1およびC
A-2が、0.083質量%(繊維量g/分散媒量g=1:1200=0.0083)である場合、数平均繊維長の変動係数は、
図17に示すように、1~10である。また、分散液A-1-1とB-1-1間の希釈条件の精度を確認する場合、A-1-1とB-1-1は、AとBから分取され調製されているので、希釈条件(分岐点)は、目標とするAとBの濃度(C
A、C
B)となる。C
AおよびC
Bが、0.67質量%(繊維量g/分散媒量g=1:150=0.067)である場合、数平均繊維長の変動係数は、
図17に示すように、3~38である。
【0095】
図17~
図20に示すように、分岐点濃度が高いほど変動係数のばらつきが大きく、精度が安定しないことがわかる。予備分散液の濃度C
0を0.1質量%以下(
図17~
図20では、繊維量g/分散媒gで示すため、0.001g/g)とすることにより、変動係数が15~35%程度となる。予備分散液の濃度C
0を0.083質量%以下(0.00083g/g)とすれば、変動係数は20%以下となりさらに好ましい。
【符号の説明】
【0096】
1 繊維長測定用プレパラート
2 基材
3 高分子皮膜
4 繊維
5 高分子
6 ステンレスバット
7 ドラム
8 口金
10 画像取得部
20 制御部
21 画像処理部
22 繊維長測定部
23 繊維長算出部
24 DEP算出部
25 判定部
26 記憶部
30 入力部
100 繊維長測定装置