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  • 特許-脂質抽出物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】脂質抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/31 20060101AFI20220418BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20220418BHJP
   A61K 35/748 20150101ALI20220418BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20220418BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20220418BHJP
   A61P 3/04 20060101ALN20220418BHJP
   A61P 17/16 20060101ALN20220418BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20220418BHJP
【FI】
A61K36/31
A61K36/185
A61K35/748
A61P29/00
A61P35/00
A61P3/04
A61P17/16
A61P3/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018559600
(86)(22)【出願日】2017-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2017047042
(87)【国際公開番号】W WO2018124216
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2016254607
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】宮下 和夫
(72)【発明者】
【氏名】細川 雅史
(72)【発明者】
【氏名】黒川 皓平
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-096974(JP,A)
【文献】特公平01-050357(JP,B2)
【文献】特開平09-075012(JP,A)
【文献】特開2014-155437(JP,A)
【文献】特開2000-316531(JP,A)
【文献】Eur.Food Res.Technol,2002年,Vol.214,No.5,pp.400-404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 35/00-35/768
A61P 29/00
A61P 35/00
A61P 3/04
A61P 17/16
A61P 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物および藻類から成る群から選ばれる一種または二種以上の原料から、親水性有機溶媒を用いて脂質抽出液を得る工程、
前記脂質抽出液に含まれるクロロフィルをフェオフィチンに変換する工程、および
フェオフィチンを含有する脂質抽出液からフェオフィチンを除去して、脂質含有抽出物を得る工程
を含み、前記クロロフィルのフェオフィチンへの変換を、脂質抽出液の酸性化により行い、
前記フェオフィチンを含有する脂質抽出液を、塩化カリウムおよび/もしくは塩化ナトリウムの存在下でまたは貝殻粉末および/もしくは炭酸カルシウムの存在下で、珪藻土と接触させることにより、フェオフィチンの除去を行う、実質的にクロロフィル類を含有しない脂質含有抽出物を製造する方法。
【請求項2】
前記親水性有機溶媒がメタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロール、およびアセトン並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記親水性有機溶媒がエタノールおよび1,3-ブチレングリコール、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記脂質抽出液の酸性化は、脂質抽出液をpH5.5以下に調整することで行う、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料が、ケール、ホウレンソウ、およびスピルリナ並びにこれらの混合物から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記脂質含有抽出物は、2.0重量%以下のクロロフィル類を含有する、請求項1からのいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質抽出物の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、実質的にクロロフィル類を含有しない脂質抽出物を製造する方法に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月28日出願の日本特願2016-254607号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
陸上植物や藻類には様々な脂質成分が含まれており、例えば、α-リノレン酸、ヘキサデカテトラエン酸、オクタデカテトラエン酸、エイコサペンタエン酸などの脂肪酸類、ネオキサンチン、ビオラキサンチン、ルテイン、フコキサンチン、β-カロテンなどのカロテノイド類、およびグルコシルセラミドなどのセラミド類は、機能性を有する脂質として知られている。
【0003】
植物由来の脂質成分の機能性に関する研究には、以下のものがある。α-リノレン酸やエイコサペンタエン酸などの脂肪酸類は、アレルギー抑制効果(非特許文献1)、肺炎予防効果(非特許文献2)、血中脂質低下作用、血圧降下作用、抗血栓作用、抗炎症作用、制ガン作用(非特許文献3)を有することが報告されている。ネオキサンチンなどのカロテノイド類は、抗肥満効果(非特許文献4)、抗炎症作用(非特許文献5)、ガン細胞への高いアポトーシス誘導能(非特許文献6)を有することが報告されている。また、グルコシルセラミドは、皮膚の保護効果、皮膚の保湿効果、腸内環境改善効果および抗腫瘍効果があることが報告されている(非特許文献7から10)。
【0004】
陸上植物や藻類から、親水性有機溶媒を用いて脂質成分を抽出すると、同時に光合成色素のクロロフィルが抽出される。例えば、ホウレンソウを原料として、エタノールを用いて脂質成分を抽出すると、エタノール中には脂質成分とクロロフィルが含まれている。クロロフィルは脂質の酸化を促進するため、脂質抽出物からクロロフィルを除去しなければ、脂質成分含有製品の品質を劣化させる場合がある。また、クロロフィルは分解すると、光過敏症の原因物質であるフェオホルバイドとなるため、多量に摂取することは望ましくない。したがって、クロロフィル含有原料から脂質成分を抽出し、食品、医薬品、または化粧品に、利用する場合には、クロロフィルを除去する必要がある。
【0005】
クロロフィルを除去する方法として以下のものがある。特許文献1は、酸処理された無定形シリカ吸着剤で処理することによりグリセリドオイルからクロロフィルを除去する方法を開示する。特許文献2は、原油を常法により脱酸した脱酸油に白土を加えて脱色し、脱酸油中の緑色色素を除去した後、さらに活性炭を加えて脱色するという、2段階でクロロフィルを除去する方法を開示する。特許文献3は、疎水性クロマトグラフィーを用いて植物抽出物からクロロフィルを除去する方法を開示する。特許文献4は、クロロフィルを含む植物油にクロロフィラーゼ酵素を作用させ、酵素的に脱色する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-310635号公報
【文献】特開昭56-21554号公報
【文献】再表2005/27937号公報(WO2005/027937)
【文献】特表2008-505619号公報(WO2006/009676)
【非特許文献】
【0007】
【文献】Xie, N. et al. ,Archives of Medical Research,2011;42(3):171-81.
【文献】Dewell, A. et al. , The Journal of Nutrition, 2011;141(12):2166-71.
【文献】「AA,EPA,DHA-高度不飽和脂肪酸」鹿山光編、恒星社厚生閣
【文献】Okada, T. et al. ,Journal of Oleo Science, 2008, 57, 345-351.
【文献】Soontornchaiboon, W., Biological and Pharmaceutical Bulletin.,2012, 35, 1137-1144.
【文献】細川、Bio Industry, 21 (2004) 52-57.
【文献】間 和彦、オレオサイエンス, 7 巻 (2007) 4 号 p.141-149
【文献】Hamajima, H. et al. , SpringerPlus, 2016, 5, 1321.
【文献】Kawada, C. et al., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 2013, 77, 867-869.
【文献】Kawano, K. et al., Phytotherapy Research, 2013, 27, 775-783. 特許文献1~4及び非特許文献1~10の全記載は、ここに特に開示として援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法では、脂質抽出物から、クロロフィルのみならず、脂質成分であるカロテノイド類、リン脂質や糖脂質も同時に除去されてしまい、機能性脂質成分の収率の低下を招いていた。特許文献3に記載の方法では、高価な吸着剤を使用するため、経済性の面において実用に向かず、かつ多量の溶媒を使用するため、安全性に問題があった。特許文献4に記載の方法では、高価な酵素を使用するため、経済性の面において実用に向かないという問題があった。
【0009】
本発明は、実質的にクロロフィルを含有しない脂質抽出物の製造方法であって、上記従来の技術が有する課題を解決した新規な方法を提供することを目的とする。具体的には、植物や藻類に本来含まれる脂質成分を過度に損なうことなく、高価な吸着剤、多量の溶媒、あるいは高価な酵素を使用することなしに、実質的にクロロフィルを含有しない脂質抽出物を製造する方法を提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、陸上植物や藻類の有機溶媒による脂質抽出液において、抽出液に含まれるクロロフィルをフェオフィチンに変換後、フェオフィチンを除去することにより、実質的にクロロフィル類を含有しない脂質抽出物を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]植物および藻類から成る群から選ばれる一種または二種以上の原料から、親水性有機溶媒を用いて脂質抽出液を得る工程、
上記脂質抽出液に含まれるクロロフィルをフェオフィチンに変換する工程、および
フェオフィチンを含有する脂質抽出液からフェオフィチンを除去して、脂質含有抽出物を得る工程
を含む、実質的にクロロフィル類を含有しない脂質含有抽出物を製造する方法。
[2]上記親水性有機溶媒がメタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロール、およびアセトン並びにそれらの混合物からなる群から選択される、[1]に記載の製造方法。
[3]上記親水性有機溶媒がエタノールおよび1,3-ブチレングリコール、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]上記クロロフィルのフェオフィチンへの変換を、脂質抽出液の酸性化により行う、[1]から[3]のいずれか一に記載の製造方法。
[5]上記脂質抽出液の酸性化は、脂質抽出液をpH5.5以下に調整することで行う、[4]に記載の製造方法。
[6]上記フェオフィチンを含有する脂質抽出液からのフェオフィチン除去を、珪藻土を用いて行う、[1]から[5]のいずれか一に記載の製造方法。
[7]上記フェオフィチンを含有する脂質抽出液を、塩化カリウムおよび/または塩化ナトリウムの存在下で、珪藻土と接触させる、[6]に記載の製造方法。
[8]上記フェオフィチンを含有する脂質抽出液を、貝殻粉末および/または炭酸カルシウムの存在下で、珪藻土と接触させる、[6]に記載の製造方法。
[9]上記原料が、ケール、ホウレンソウ、およびスピルリナ並びにこれらの混合物から選択される、[1]から[8]のいずれか一に記載の製造方法。
[10]上記脂質含有抽出物は、2.0重量%以下のクロロフィル類を含有する、[1]から[9]のいずれか一に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脂質抽出液から、植物や藻類に本来含まれる脂質成分を損なうことなく、クロロフィルを除去することができる。本発明によれば、容易かつ効率よく、実質的にクロロフィル類を含有しない脂質抽出物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】珪藻土によるフェオフィチンの吸着を観察した顕微鏡写真(400倍)。ケール青汁搾汁残渣のエタノール抽出液を酸性化しクロロフィルをフェオフィチンに変換した後、エタノール濃度を40、50、60、70および80容量%に調整した。エタノール濃度50から70容量%の条件下で、フェオフィチンが珪藻土に非常によく吸着されていることがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
本発明は、以下の工程を含む、実質的にクロロフィル類を含有しない脂質含有抽出物を製造する方法に関する。
(1)植物および藻類から成る群から選ばれる一種または二種以上の原料から、親水性有機溶媒を用いて脂質抽出液を得る工程、
(2)上記脂質抽出液に含まれるクロロフィルをフェオフィチンに変換する工程、および
(3)フェオフィチンを含有する脂質抽出液からフェオフィチンを除去して、脂質含有抽出物を得る工程。
【0016】
本発明の脂質含有抽出物の製造方法によれば、クロロフィルを含有する植物および/または藻類原料から、実質的にクロロフィル類を含有しない脂質含有抽出物を製造することができる。
「クロロフィル」は、光合成をおこなう植物や藻類が有する色素であり、葉緑素とも呼ばれる。代表的なクロロフィルには、クロロフィルa、クロロフィルb、クロロフィルc1、クロロフィルc2、クロロフィルd、クロロフィルfがあり、本発明ではこれらの総称としてクロロフィルを使用する。
本発明において「クロロフィル類」は、クロロフィルと、クロロフィル誘導体であるフェオフィチンの両方を指す場合に使用する。後述するように、本発明においては、クロロフィルをフェオフィチンに変換して除去するため、本発明ではフェオフィチンの除去とクロロフィルの除去は、実質的に同義である。
【0017】
本発明の「脂質含有抽出物」および「脂質抽出物」は、脂質成分を含む抽出物であり、具体的には陸上植物や藻類に由来する脂質成分を含む抽出物である。脂質成分とは、例えば、α-リノレン酸、ヘキサデカテトラエン酸、オクタデカテトラエン酸、エイコサペンタエン酸などの脂肪酸類、ネオキサンチン、ビオラキサンチン、ルテイン、フコキサンチン、β-カロテンなどのカロテノイド類、およびグルコシルセラミドなどのセラミド類である。本発明の「脂質含有抽出物」および「脂質抽出物」は、実質的にクロロフィル類を含有しない。
実質的にクロロフィル類を含有しないこととする場合、当業者に公知の一般に許容される検出方法で、クロロフィル類が検出されないか、検出されても脂質含有抽出物の2.0重量%以下であることが好ましく、特に1.0重量%以下であることがより好ましい。脂質含有抽出物中の脂肪酸の酸化を防ぐためである。
【0018】
工程(1)
工程(1)では、植物および藻類から成る群から選ばれる一種または二種以上の原料から、親水性有機溶媒を用いて脂質抽出液を得る。原料と親水性有機溶媒を混合した後、この混合物をろ過して固形分を除去し、ろ液として脂質抽出液を得てもよい。脂質抽出液には、脂質成分とともにクロロフィルが含まれる。
【0019】
本発明において原料として利用できる植物は、クロロフィルを含む被子植物、裸子植物、シダ植物、およびコケ植物から選択される任意の生物である。植物を原料とする場合は、植物体全体を使用することができるが、特に葉、葉柄や茎を使用することが好ましい。葉、葉柄や茎は、クロロフィルとともに、機能性を有する脂質成分を豊富に含む場合が多いためである。原料として利用できる藻類は、特に限定されるものではないが、緑藻類、褐藻類、珪藻、黄緑藻から選択される任意の生物であり、加えて、系統分類学上の位置は明らかにされていないがクロロフィルを有する微生物を含む。藻類を原料とする場合は、大型の藻類であれば葉部、茎部や仮根部などのすべてを使用することができ、微細藻類であれば、細胞をそのまま使用することができる。原料は、人体に対し毒性を有しない植物および藻類であるか、または食用可能な植物および藻類であることが好ましい。これらの植物および藻類から抽出される脂質成分は、健康および美容の保持・増進の目的で利用されるためである。
【0020】
本発明の原料としては、限定されるものではないが、植物では、例えば、ケール、ホウレンソウ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ビート葉、大麦若葉、明日葉、桑葉、大豆の葉、コーンの葉、およびイチョウ葉など、藻類では、例えば、アサクサノリ、テングサ、コンブ、ワカメ、アカモク、ヒジキ、アオサ、などの海藻類、ヘマトコッカス、スピルリナ、クロレラ、ユーグレナ、ドナリエラ、およびボツリオコッカスなどの微細藻類を挙げることができ、これらからなる群から選択された任意の一種あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。上記の植物および藻類の例は、食用、健康補助食品やサプリメントとしての利用実績があるものである。上記の例以外にも、クロロフィル類を除去することにより、特に機能性成分(健康および美容の保持・維持成分)として有効な脂質成分を抽出することができる植物および藻類であれば、原料として使用することができる。
本発明において原料として利用する植物および藻類は、食経験の豊富さ、入手の容易さの面より、ケール、ホウレンソウ、大麦若葉、スピルリナ、クロレラ、ユーグレナおよびドナリエラが好ましい。
本明細書中では、植物を陸上植物と記載する場合があるが、これは藻類が水中に生活することを考慮した記載であり、本発明で原料として使用できる植物から、陸上以外の場所(水中)に生育する被子植物、裸子植物、シダ植物、およびコケ植物を除くことを意図する記載ではない。
【0021】
原料である植物および藻類は、生、冷凍、塩蔵、乾燥などのいずれの状態でも使用できる。原料である植物および藻類は、そのままでも使用できるが、粉砕物、細断物、ペースト状、ジュース状などいずれの形態でも使用でき、粉砕処理などの程度は、適宜、調整し選択することができる。例えば、原料である植物および藻類は、親水性有機溶媒と混合する前に、液体窒素で凍結し乳鉢で粉砕してもよい。例えば、原料である植物および藻類は、親水性有機溶媒と混合した後に、ミキサーでジュースにしてもよい。原料は、特に限定されるわけではないが、ケールや大麦若葉を原料とした青汁製造時に発生する搾汁残渣を使用することができる。
【0022】
本発明で使用する親水性有機溶媒は、水溶性有機溶媒あるいは水と相溶性を有する有機溶媒である。親水性有機溶媒は、特に限定されるものではなく、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロール、アセトンなどから選択された一種あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。安全性の面からエタノール、アセトン、1,3-ブチレングリコールが好ましく、取扱いの容易さの面より、エタノールおよび1,3-ブチレングリコールがより好ましい。脂質抽出に利用する親水性有機溶媒の量は、親水性有機溶媒の種類、並びに原料として使用する植物および藻類の種類などを考慮して適宜決定できる。
【0023】
本発明において、上記脂質抽出液は水を含んでいてもよい。水を含む場合、脂質抽出液中の親水性有機溶媒の濃度は、原料として使用する植物および/または藻類に本来含まれる(固形分以外の)水分とメスアップなどで加えた水と親水性有機溶媒との合計を100容量%とした場合の、親水性有機溶媒の容量%(v/v %)を意味する。本明細書中で、容量%と記載した場合は、v/v %である。
本発明のある実施形態において、親水性有機溶媒としてエタノールを使用する場合、工程(1)において、脂質成分を抽出する際のエタノール濃度は、特に限定されない。脂質成分の抽出の点からは、一定量、例えば脂質抽出液中に30容量%以上のエタノールが含まれていればよい。本発明は特定の理論に限定されるものではないが、脂質成分の抽出効率は、エタノール濃度よりも、原料中の脂質成分含有量や原料の粉砕状態に、影響をうける場合がある。脂質成分抽出の際のエタノール濃度、例えば、50容量%以上であることができ、好ましくは70容量%以上である。工程(1)の脂質抽出の際のエタノール濃度を40~70容量%とすれば、後の工程(2)および(3)においてエタノール濃度の調整が不要であるという利点がある。
【0024】
工程(2)
工程(2)では、脂質抽出液に含まれるクロロフィルがフェオフィチンに変換される。
本発明において、脂質抽出液に含まれるクロロフィルをフェオフィチンに変換する方法は、特に限定されるものではないが、例えば上記脂質抽出液を酸性化する方法および脂質抽出液を加熱する方法からなる群から選択できる。脂質成分の安定性の面より、脂質抽出液を酸性に調整する方法が好ましい。脂質抽出液を酸性化する方法は、工程(1)で得た抽出液に塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸などから選択された一種あるいは二種以上を組み合わせて使用することにより実施できる。抽出液を酸性化することで、クロロフィルに含まれるMgが離脱し、Mgが2個の=NHに置換したフェオフィチンが生成される。クロロフィルをフェオフィチンに変換する場合、脂質抽出液のpHを5.5以下に調整すればよく、pH1~5の範囲が好ましく、pH2~4の範囲がより好ましい。このpH条件下では、クロロフィルに含まれるMgの=NHへの置換が容易に生じるためである。
【0025】
工程(3)
工程(3)では、フェオフィチンを含有する脂質抽出液からフェオフィチンを除去して、脂質含有抽出物を得る。
本発明の製造方法において、脂質抽出液からのフェオフィチンの除去には、フェオフィチンを脂質抽出液から分離するための任意の方法を使用することができる。フェオフィチンをそのまま固液分離してもよいし、フェオフィチンを吸着剤に吸着させて分離してもよい。
本発明で使用できる吸着剤としては、活性炭、珪藻土、活性白土、活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライトなどがある。
本発明の好ましい実施形態において、脂質抽出液からのフェオフィチンの除去には珪藻土を用い、珪藻土にフェオフィチンを吸着させ、フェオフィチンを吸着した珪藻土を抽出液から固液分離により除去することで、脂質含有抽出物を得ることができる。本発明で利用できる珪藻土は、特に限定されるものではなく、焼成品、融剤焼成品、酸処理品など、各社より販売されている珪藻土を使用できる。固液分離方法としては、特に限定されるものではなく、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心分離、フィルタープレスなど公知の方法を用いることができる。
【0026】
本発明の製造方法において、脂質抽出液に含まれるフェオフィチンを珪藻土に良好に吸着させるためには、脂質抽出液中の親水性有機溶媒の濃度を調整することが好ましい。脂質抽出液中には、親水性有機溶媒の他に、主に、原料に由来する水分やメスアップなどに使用した水が含まれる。親水性有機溶媒がエタノールの場合、エタノール濃度が60~80容量%の範囲であってもよく、65~75容量%の範囲であってもよい。クロロフィル類の除去効率の点から、エタノール濃度が40~70容量%の範囲が好ましく、50~70容量%の範囲がより好ましい。有機溶媒がエタノールの場合、本発明者は、特にエタノール50~70容量%の条件下で、フェオフィチンが珪藻土に非常によく吸着されることを観察している(図1)。エタノール濃度の調整は、工程(2)において脂質抽出液に含まれるクロロフィルをフェオフィチンに変換する前に実施してもよいし、または変換した後に実施してもよい。エタノール濃度の調整は、エタノール濃度が高い場合は蒸留水の添加により実施され、低い場合には高い濃度のエタノールを添加することにより実施される。
【0027】
本発明のある実施形態では、クロロフィルから変換されたフェオフィチンを含有する脂質抽出液を、塩化カリウムおよび/または塩化ナトリウムの存在下で、珪藻土と接触させることができる。脂質抽出液に塩化カリウムおよび塩化ナトリウムから成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物と珪藻土を共存させることにより、脂質抽出液からのフェオフィチンの除去が促進されるためである。本発明は特定の理論に限定されるものではないが、フェオフィチンの凝集は、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムなどの無機物の存在下で促進される(塩析効果)と考えられる。
【0028】
本発明の別のある実施形態では、クロロフィルから変換されたフェオフィチンを含有する脂質抽出液を、貝殻粉末および/または炭酸カルシウムの存在下で、珪藻土と接触させることができる。脂質抽出液に貝殻粉末および炭酸カルシウムから成る群から選ばれる少なくとも1種の物質と珪藻土を共存させることにより、脂質抽出液からのフェオフィチンの除去が促進されるためである。貝殻粉末は、特に限定されるものではなく、例えば、ホタテ、カキなどの貝殻粉末を使用できる。塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび炭酸カルシウムは、特に限定されるものではなく、各社より販売されている市販品を使用できる。安全性の面より食品添加物等級が好ましい。
【0029】
工程(3)では、実質的にクロロフィル類を含有しない脂質含有抽出物が得られる。本発明の製造方法で得られる脂質含有抽出物は、クロロフィル類を2.0重量%以下含有してもよく、特にクロロフィル類を1.0重量%以下含有することが好ましい。本発明の製造方法で得られる脂質含有抽出物に含まれるクロロフィル類は特にフェオフィチンであり、その含有量は2.0重量%以下であり、特に1.0重量%以下であることが好ましい。
【0030】
本発明における脂質抽出物は、特に限定されるものではないが、食品、飲料、飼料、化粧品、医薬品などに使用できる。
上記食品としては、例えば、パン類、菓子類、麺類、米飯類、パスタ類、ドレッシング類、健康食品、病者用あるいは高齢者用食品などを挙げることができる。上記病者用あるいは高齢者用食品には、嚥下食あるいは咀嚼困難者用食などの半固形食や流動食が含まれる。
脂質抽出物を飲料用途で用いた場合、ジュース類、乳飲料、アルコール飲料、茶飲料などを挙げることができる。
脂質抽出物を飼料用途で用いた場合、例えばペット用飼料、家畜用飼料あるいは魚介類用飼料を挙げることができる。
【0031】
脂質抽出物を化粧品用途で用いた場合、保湿剤、美容剤などとして使用することができる。それらの形態としては、乳液、クリームおよびエマルジョンなどである。
脂質抽出物を医薬品用途で用いた場合、例えば抗肥満剤、血糖値上昇抑制剤、ガン細胞増殖抑制剤、抗炎症剤などを挙げることができ、それらの形態としては、錠剤、粉剤、カプセル剤等、必要に応じ種々選択することができる。
【実施例
【0032】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
(原料の保存)
ケール青汁搾汁残渣は、搾汁後、-20℃で冷凍し、使用するまで-20℃で保存した。
ホウレンソウ粉末および乾燥スピルリナは、使用するまで室温、暗所で保存した。
【0034】
(水分含有量の測定)
各原料について105℃、24時間の乾燥を行い、乾燥前後の重量変化より、乾燥前の原料の水分含有量を算出した。
実施例1から11および比較例1から6で使用したケール青汁搾汁残渣、ホウレンソウ粉末、および乾燥スピルリナの水分含有量は、それぞれ、83.1%、22.6%および4.3%であった。
【0035】
(脂質抽出物に含まれるクロロフィルおよびフェオフィチンの測定)
HPLCを使用してクロロフィルおよびフェオフィチンの測定を行った。クロロフィルa、クロロフィルb、フェオフィチンaおよびフェオフィチンbの各標準品(和光純薬工業株式会社製)で検量線を作り、クロロフィル含有量(クロロフィルa+クロロフィルb)およびフェオフィチン含有量(フェオフィチンa+フェオフィチンb)を算出した。
また、クロロフィル含有量およびフェオフィチン含有量を合計したものをクロロフィル類含有量とした。
【0036】
HPLC用試料調製
ケール青汁搾汁残渣を原料とした場合、得られた脂質抽出物をアセトン30.5mlに溶解し、HPLC用試料とした。ホウレンソウ粉末または乾燥スピルリナを原料とした場合、得られた脂質抽出物をアセトン40mlに溶解し、HPLC用試料とした。サンプル調製後、速やかにHPLC分析に供した。
【0037】
HPLC条件
ポンプ:LC-20AD(株式会社 島津製作所)
検出器:フォトダイオードアレイ分光光度計SPD-M20A(株式会社 島津製作所)
カラム:Devesoil ODS-UG-5 (250mmL×4.6mm I.D.)+ガードカラム
ODS-UG-5 (10mmL×4.6mm I.D.)(野村化学株式会社)
カラムオーブン:CTO-20AC (株式会社 島津製作所)
オートサンプラー:SIL-20AC (株式会社 島津製作所)
移動相:A(アセトニトリル:メタノール:水=84:9:7、v/v/v)
B(メタノール:酢酸エチル=68:32、v/v)
B濃度:0%(8分保持)-100%(濃度勾配10%/分)-100%(10分保持)
サンプル注入量:ケール青汁搾汁残渣 40μl
ホウレンソウ粉末 5μl
乾燥スピルリナ 2μl
流速:1.2ml/min
カラム温度:25℃
検出波長:431nm(クロロフィルa)、465nm(クロロフィルb)
666nm(フェオフィチンa)、436nm(フェオフィチンb)
【0038】
(実施例1)
(脂質抽出液を得る工程)
解凍したケール青汁搾汁残渣100gに、エタノール(特級、和光純薬工業株式会社製)600mlを加え、6時間、室温、暗所に静置し、脂質成分の抽出を行った。抽出の際のエタノール濃度は88容量%であった。なお、静置中に、数回攪拌を行った。抽出後、ろ紙(No.2、東洋濾紙株式会社製)でろ過することにより固液分離を行い、ろ液を回収した。次に、得られたろ液を88%エタノール水溶液で1200mlにメスアップし、脂質抽出液を得た。
【0039】
(クロロフィルをフェオフィチンに変換する工程)
次に、脂質抽出液120mlに蒸留水を加え、エタノール濃度を60容量%に調整した。エタノール濃度調整後の抽出液のpHは6.2であった。エタノール濃度60容量%の脂質抽出液にクエン酸0.2gを添加した。クエン酸添加後の抽出液のpHは3.4であった。pH調整後、1時間、室温で撹拌し、クロロフィルをフェオフィチンに変換した。HPLCを使用した測定ではクロロフィルは検出されなかった。
【0040】
(フェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程)
次に、酸性化した脂質抽出液に珪藻土(#100F、中央シリカ株式会社製)を0.5g加え、1時間、室温で撹拌後、ろ紙を用いた減圧ろ過により固液分離を行った。得られたろ液はロータリーエバポレーターを用い、50℃で溶媒を留去し、脂質含有抽出物を得た。
(フェオフィチン含有量の分析)
分液ロートに、得られた脂質含有抽出物、クロロホルム50ml、メタノール25mlおよび蒸留水15mlを順に溶かし入れ、液液分配を行った。液液分配後、下層(クロロホルム層)を回収した。得られた下層はロータリーエバポレーターを用い、50℃で溶媒を留去した。さらに、窒素気流により完全に溶媒を留去し、脂質抽出物0.0696gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は1.5重量%であった。
【0041】
(比較例1)
脂質抽出液を得る工程を実施例1と同様の手順で行った。
脂質抽出液120mlに蒸留水を加え、エタノール濃度を60%に調整した。1時間、室温で撹拌し、ロータリーエバポレーターを用い、50℃で溶媒を留去し、脂質含有抽出物を得た。
クロロフィル類含有量の分析のため、分液ロートに、得られた脂質含有抽出物、クロロホルム50ml、メタノール25mlおよび蒸留水15mlを順に分液ロートに溶かし入れ、液液分配を行った。液液分配後、下層を回収した。得られた下層はロータリーエバポレーターを用い、50℃で溶媒を留去した。さらに、窒素気流により完全に溶媒を留去し、脂質抽出物0.0734gを得た。脂質抽出物のクロロフィル類含有量は9.2重量%であった。
【0042】
(比較例2)
クエン酸によるpH調整を行わない以外は、実施例1と同様に行い、脂質抽出物0.0640gを得た。脂質抽出物のクロロフィル類含有量は6.5重量%であった。
【0043】
(比較例3)
珪藻土を加えなかった以外は、実施例1と同様に行い、脂質抽出物0.0683gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は4.8重量%であった。
【0044】
(比較例4)
珪藻土に替えて活性炭(太閤Sタイプ、フタムラ化学株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、脂質抽出物0.0652gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は4.2重量%であった。
【0045】
(実施例2)
クロロフィルをフェオフィチンに変換し、ホタテ貝殻粉末(北海道立工業技術センター製)0.3gを添加した後、珪藻土を添加した以外は、実施例1と同様に行い、脂質抽出物0.0582gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.8重量%であった。
【0046】
(実施例3)
クロロフィルをフェオフィチンに変換し、炭酸カルシウム(特級、和光純薬工業株式会社製)0.3gを添加した後、珪藻土を添加した以外は、実施例1と同様に行い、脂質抽出物0.0638gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.5重量%であった。
【0047】
(実施例4)
クエン酸に替えて、50%リン酸(特級、和光純薬工業株式会社製)水溶液0.1ml添加によるpH調整を行った以外は、実施例1と同様に行い、脂質抽出物0.0572gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は1.3重量%であった。リン酸添加後の抽出液のpHは3.4であった。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、実施例1における脂質抽出物のフェオフィチン含有量は1.5重量%であった。一方、比較例1に含まれるクロロフィル類含有量は9.2重量%であり、実施例1に含まれるフェオフィチン含有量の6.1倍であった。また、比較例2に含まれるクロロフィル類含有量は6.5重量%であり、実施例1に含まれるフェオフィチン含有量の4.3倍であった。比較例3に含まれるフェオフィチン含有量は4.8重量%であり、実施例1の3.2倍であった。このことより、クエン酸を用いてpH5.5以下に調整し、クロロフィルをフェオフィチンに変換した後、珪藻土に接触させることにより、フェオフィチンを除去できることが明らかとなった。すなわち、実質的にはクロロフィル類の除去が可能であることが明らかとなった。また、比較例4に含まれるフェオフィチン含有量は4.2重量%であり、実施例1の2.8倍であった。このことより、クロロフィルをフェオフィチンに変換した後、珪藻土を用いることがフェオフィチンの除去効果に優れていることが明らかとなった。すなわち、クロロフィル類の除去には珪藻土が有効であることが明らかとなった。
【0050】
実施例2および実施例3より、ホタテ貝殻粉末または炭酸カルシウムを添加することにより、さらにフェオフィチン除去効果が向上することが明らかとなった。
実施例4より、リン酸を使用してpH5.5以下に調整し、クロロフィルをフェオフィチンに変換した後、珪藻土に接触させることにより、フェオフィチンを除去できることが明らかとなった。すなわち、リン酸を使用してpH調整を行った場合においても、実質的にはクロロフィル類の除去が可能であることが明らかとなった。
【0051】
(実施例5)
実施例1と同じ手順で、脂質抽出液を得る工程、クロロフィルをフェオフィチンに変換する工程、およびフェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程を実施した。クロロフィルをフェオフィチンに変換する工程では、実施例1と同じく、エタノール濃度を60容量%に調整した。クエン酸添加後の抽出液のpHは3.4であり、HPLCを使用した測定ではクロロフィルは検出されなかった。
最終的に、脂質抽出物0.0588gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.8重量%であった。
【0052】
(実施例6)
クロロフィルをフェオフィチンに変換する工程およびフェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程を、エタノール濃度70容量%で実施した以外は、実施例5と同様に抽出と分離を行った。
最終的に、脂質抽出物0.0607gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は1.8重量%であった。
【0053】
(実施例7)
クロロフィルをフェオフィチンに変換する工程およびフェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程を、エタノール濃度50容量%で実施した以外は、実施例5と同様に抽出と分離を行った。
最終的に、脂質抽出物0.0507gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は1.0重量%であった。
【0054】
【表2】
表2の結果から、フェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程を、抽出液のエタノール濃度50~70容量%で実施することにより、フェオフィチン濃度を著しく低減できることが明らかとなった。すなわち、実質的にはクロロフィル類の除去が可能であることが明らかとなった。
【0055】
(実施例8)
(脂質抽出液を得る工程)
乾燥スピルリナ100gに、エタノール600mlを加え、6時間、室温、暗所に静置し、脂質成分の抽出を行った。抽出の際のエタノール濃度は99容量%であった。なお、静置中に、数回攪拌を行った。抽出後、ろ紙でろ過することにより固液分離を行い、ろ液を回収した。次に、得られたろ液を99容量%エタノール水溶液で1200mlにメスアップし、脂質抽出液を得た。
【0056】
(クロロフィルをフェオフィチンに変換する工程)
次に、脂質抽出液120mlに蒸留水を加え、エタノール濃度を60容量%に調整した。エタノール濃度調整後の抽出液のpHは6.3であった。エタノール濃度60容量%抽出液にクエン酸0.2gを添加した。クエン酸添加後の抽出液のpHは3.8であった。pH調整後、1時間、室温で撹拌し、クロロフィルをフェオフィチンに変換した。HPLCを使用した測定ではクロロフィルは検出されなかった。
(フェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程)
次に、珪藻土0.5gを加え、実施例1と同じ手順で、フェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程を実施した。脂質抽出物0.1495gを得た。
分析の結果、脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.2重量%であった。
【0057】
(比較例5)
クエン酸添加によるpH調整を行わない以外は、実施例8と同様に抽出と分離を行い、脂質抽出物0.1543gを得た。脂質抽出物のクロロフィル類含有量は6.2重量%であった。
【0058】
(実施例9)
クロロフィルをフェオフィチンに変換する工程およびフェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程を、エタノール濃度70容量%で実施した以外は、実施例8と同様に抽出と分離を行い、脂質抽出物0.1785gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.5重量%であった。
【表3】
【0059】
表3に示すように、実施例8における脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.2重量%であった。一方、比較例5に含まれるクロロフィル類含有量は6.2重量%であり、実施例8の31倍であった。また、エタノール濃度を70容量%に調整した場合(実施例9)におけるフェオフィチン含有量は0.5重量%であった。表3の結果から、クエン酸を用いてpH5.5以下に調整し、クロロフィルをフェオフィチンに変換した後、珪藻土に接触させることにより、フェオフィチンを除去できることが明らかとなった。すなわち、実質的にはクロロフィル類の除去が可能であることが明らかとなった。
【0060】
(実施例10)
(脂質抽出液を得る工程)
ホウレンソウ粉末100gに、エタノール600mlを加え、6時間、室温、暗所に静置し、脂質成分の抽出を行った。抽出の際のエタノール濃度は96容量%であった。なお、静置中に、数回攪拌を行った。抽出後、ろ紙でろ過することにより固液分離を行い、ろ液を回収した。次に、得られたろ液を96%エタノール水溶液で1200mlにメスアップし、抽出液を得た。
【0061】
(クロロフィルをフェオフィチンに変換する工程)
次に、抽出液120mlに蒸留水を加え、エタノール濃度を60容量%に調整した。エタノール濃度調整後の抽出液のpHは6.4であった。エタノール濃度60%抽出液にクエン酸0.2gを添加した。クエン酸添加後の抽出液のpHは3.4であった。pH調整後、1時間、室温で撹拌し、クロロフィルをフェオフィチンに変換した。HPLCを使用した測定ではクロロフィルは検出されなかった。
(フェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程)
次に、珪藻土0.5gを加え、実施例1と同様にフェオフィチンを除去して脂質含有抽出物を得る工程を実施した。脂質抽出物0.0928gを得た。分析の結果、脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.6重量%であった。
【0062】
(比較例6)
クエン酸添加によるpH調整を行わない以外は、実施例10と同様に抽出と分離を行い、脂質抽出物0.0863gを得た。脂質抽出物のクロロフィル類含有量は5.0重量%であった。
【0063】
(実施例11)
クロロフィルをフェオフィチンに変換し、塩化カリウム(特級、和光純薬工業株式会社製)2gを添加した後、珪藻土を添加した以外は、実施例10と同様に抽出と分離を行い、脂質抽出物0.0817gを得た。脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.2重量%であった。塩化カリウム添加後のpHは3.4であった。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示すように、実施例10における脂質抽出物のフェオフィチン含有量は0.6重量%であった。一方、比較例6に含まれるクロロフィル類含有量は5.0重量%であり、実施例10の8.3倍であった。このことより、クエン酸を用いてpH5.5以下に調整し、クロロフィルをフェオフィチンに変換した後、珪藻土に接触させることにより、フェオフィチンを除去できることが明らかとなった。すなわち、実質的にはクロロフィル類の除去が可能であることが明らかとなった。実施例11の結果から、塩化カリウムを添加することにより、さらにフェオフィチン除去効果が向上することが明らかとなった。
【0066】
(実施例12:脂質抽出物中の脂肪酸組成・含有量およびカロテノイド含有量の分析)
ケール青汁搾汁残渣から、実施例1(クロロフィル類除去処理済みの脂質抽出物)および比較例1(未処理の脂質抽出物)と同じ方法で脂質抽出物を製造し、その脂肪酸組成および含有量、並びにカロテノイド類の含有量を、HPLCにより分析した。結果を表5および6に示す。
【表5】
【表6】
【0067】
表5および6から、クロロフィル類除去処理を行っていない脂質抽出物と比較して、クロロフィル類除去処理を行った脂質抽出物においては、オメガ3高度不飽和脂肪酸のα-リノレン酸(18:3n-3)やカロテノイド類が減少していないことがわかる。本発明の脂質抽出物の製造方法では、脂質成分の含有量を損なうことなく、クロロフィル類を除去することができる。
【0068】
(実施例13:エタノールに替えて1,3-ブチレングリコールを使用)
本実施例で使用したケール青汁搾汁残渣は、水分含有量が81.99重量%であり、脂質(α-リノレン酸)含有量が34.7mg/g乾燥重量、クロロフィル類含有量が3.27mg/g乾燥重量であった。これらの値は、ケール青汁搾汁残渣に10倍量のメタノールを加えて一晩放置する抽出操作を2回行い、クロロホルム/メタノール/水(10:5:3,v/v/v)を加えて得た脂質抽出液を分析して得たものである。
【0069】
ケール青汁搾汁残渣5gに、1,3-ブチレングリコール(以下、1,3-BG)(特級、和光純薬工業株式会社製)8gを加えて攪拌した後、50℃で4時間静置し、脂質成分の抽出を行った。ケール青汁搾汁残渣と1,3-BGの混合物をろ紙(No.2、東洋濾紙株式会社製)でろ過し、固形物を除去してろ液を回収し、脂質抽出液Aを得た。脂質抽出液Aを2本用意し、1本の脂質抽出液Aをクロロフィル含有量および脂肪酸含有量測定の試料とした。
次に、残る1本の脂質抽出液Aに、クエン酸を0.05gと珪藻土(#100F、中央シリカ株式会社製)を2g加え、室温で5分間攪拌した。クエン酸添加後の脂質抽出液は、pH試験紙で酸性(pH5以下)であることを確認した。ろ紙を用いた減圧ろ過により固液分離を行い、脂質抽出液Bを得た。
【0070】
脂質抽出液AおよびBについて、クロロフィル含有量と脂肪酸含有量をHPLCで測定した。脂肪酸含有量を分析するため、マルガリン酸(17:0)を内部標準物質として使用し、一定量を脂質抽出液に添加した。ケール残渣脂質中の主要な脂肪酸はα-リノレン酸(18:3n-3)であり、マルガリン酸(17:0)はほとんど含まれていない。抽出溶液中の脂肪酸組成のα-リノレン酸とマルガリン酸の比率から、α-リノレン酸の含有量を求めた。
クロロフィル類除去処理をしていないケール青汁搾汁残渣の脂質(α-リノレン酸)含有量およびクロロフィル類含有量をもとに、脂質抽出液AおよびB中の脂質抽出効率およびクロロフィル類除去率を算出した。結果を、表7に示す。
【0071】
【表7】
表7に示すように、エタノールに替えて1,3-ブチレングリコールを使用しても、クロロフィル類を除去できることがわかる。脂質抽出液Aの分析結果から、1,3-BGを用いることで、脂質が効率よく抽出できることが示された。脂質抽出液Bの分析結果から、クロロフィル類除去処理を実施することで、クロロフィル類をほぼ除去できることが示された。また、1,3-ブチレングリコールを使用することで、脂質抽出液は濃縮などしなくてもそのまま化粧品原料として利用することができる。
【0072】
以上のように、本発明によれば、陸上植物または藻類より選択される一種または二種以上を原料として、脂質抽出物を製造する場合、エタノールや1,3-ブチレングリコールのような親水性有機溶媒を使用して脂質成分を抽出した抽出液を酸性に調整し、クロロフィルをフェオフィチンに変換した後、珪藻土を接触させることにより、フェオフィチンを効果的に除去することができ、容易、かつ、効果的に、フェオフィチン含有量2.0重量%以下であり、実質的にクロロフィル類を除去した脂質抽出物を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、脂質抽出物の製造方法に関する。さらに詳しくは、クロロフィルをフェオフィチンに変換した後、フェオフィチンを除去することにより得られる、実質的にクロロフィルが除去された脂質抽出物の製造方法に関する。本発明における脂質抽出物は、特に限定されるものではないが、食品、飲料、飼料、化粧品、医薬品などに使用できる。
図1