IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本水産株式会社の特許一覧

特許7059416流動性のある内容物を包んだオムレツ及びオムライスの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】流動性のある内容物を包んだオムレツ及びオムライスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20220418BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20220418BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20220418BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20220418BHJP
   A23L 29/275 20160101ALI20220418BHJP
【FI】
A23L15/00 D
A23L3/36 A
A23L29/212
A23L29/269
A23L29/275
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021039072
(22)【出願日】2021-03-11
(62)【分割の表示】P 2017009120の分割
【原出願日】2017-01-23
(65)【公開番号】P2021087458
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 正彦
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 遥
(72)【発明者】
【氏名】石井 久雄
(72)【発明者】
【氏名】門脇 正典
(72)【発明者】
【氏名】村木 照幸
(72)【発明者】
【氏名】江口 拳太
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-178419(JP,A)
【文献】特開2007-043927(JP,A)
【文献】特開2000-004838(JP,A)
【文献】特開2004-033181(JP,A)
【文献】特開2016-002024(JP,A)
【文献】特開2008-188007(JP,A)
【文献】特開2011-115055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水卵熱凝固物と卵成分を含有しないBrix8以上の増粘剤含有調味液を卵シートで包むことを特徴とする、流動性のある内容物を包んだオムレツの冷凍品の製造方法。
【請求項2】
オムレツの型に卵シートを敷き、含水卵熱凝固物と卵成分を含有しない増粘剤含有調味液の混合物を載せ、卵シートで包み、そのまま凍結することを特徴とする、請求項1の流動性のある内容物を包んだオムレツの冷凍品の製造方法。
【請求項3】
含水卵熱凝固物と卵成分を含有しない増粘剤含有調味液の混合物の粘度が500~50000mPa・sである請求項1又は2のオムレツの冷凍品の製造方法。
【請求項4】
含水卵熱凝固物が、増粘剤を含む65℃以上に加熱した湯中に増粘剤を含む卵液を投入して製造したものである請求項1ないし3いずれかのオムレツの冷凍品の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないしいずれかの方法で製造したオムレツとご飯を組合わせることを特徴とするオムライスの冷凍品の製造方法。
【請求項6】
請求項の方法で製造したオムレツとご飯の重量比を10:6~10:30になるように組み合わせることを特徴とするオムライスの冷凍品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オムレツの中身が特に柔らかく、表面に切り目を入れると中身がとろけだすようなオムレツの製造方法に関する。また、それを用いたオムライスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オムレツ、オムライス等の卵加工食品は定番で人気がある商品である。焼き立てのオムレツは中が半熟でとろりと柔らかいのが魅力となる。しかしながら、これを冷凍食品として提供する場合、製造工程における加熱、冷凍流通、喫食時のレンジ加熱などを経るため、焼き立ての食感を保持するのが難しい。特に近年、「ふわとろオムライス」、「とろとろオムライス」等と呼ばれる特に内容物が柔らかいオムレツを載せたオムライスが人気となっている。チキンライス等の上に載せられたそれらオムレツの表面に切り目を入れると中身がとろけ出すほどの柔らかさである。
オムレツの半熟感を持たせた冷凍食品等を提供するための、解決策の一つが薄く焼いた卵シートと半熟様に加工した卵加工品を組合せる方法である(特許文献1~4等)。半熟様の卵加工品には冷凍耐性、電子レンジ加熱耐性を与えるための澱粉や油脂が添加され、柔らかさを保持する工夫がされている。また、半熟感のある卵加工品の製造方法としては、特許文献5、6などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-327437号
【文献】特開2001-178419号
【文献】特開2008-167661号
【文献】特開2007-43927号
【文献】特開2001-157561号
【文献】特許第2946503号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、従来のオムレツよりもさらに半熟感、液状感の強い内容物が包み込まれ、切り目をいれたら内容物がこぼれ出るかのような、流動性のある内容物を包んだふわとろオムレツを冷凍食品として提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、液状感の強い、流動性のある内容物を包んだオムレツを製造する方法を検討し、本願発明の方法を見出した。
本願発明は、下記(1)~(5)の流動性のある内容物を包んだオムレツの製造方法を要旨とする。また、(6)~(7)のオムライスの製造方法を要旨とする。
(1)含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液を卵シートで包むことを特徴とする、流動性のある内容物を包んだオムレツの製造方法。
(2)オムレツの型に卵シートを敷き、含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物を載せ、卵シートで包み、そのまま凍結することを特徴とする、(1)の流動性のある内容物を包んだオムレツの冷凍品の製造方法。
(3)含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物の粘度が500~50000mPa・sである(1)又は(2)のオムレツの製造方法。
(4)含水卵熱凝固物が、増粘剤を含む65℃以上に加熱した湯中に増粘剤を含む卵液を投入して製造したものである(1)ないし(3)いずれかのオムレツの製造方法。
(5)増粘剤含有調味液のBrixを8以上に調製することを特徴とする(1)ないし(4)いずれかのオムレツの製造方法。
(6)(1)ないし(5)いずれかの方法で製造したオムレツとご飯を組合せることを特徴とするオムライスの製造方法。
(7)(5)の方法で製造したオムレツとご飯の重量比を10:6~10:30になるように組み合わせることを特徴とするオムライスの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法で製造した冷凍オムレツは、冷凍、電子レンジ解凍を経ても、切り目をいれると内容物に流動性があり、柔らかい。また、増粘剤含有調味液にさらに粉末水飴を含有させることにより解凍時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の「流動性のある内容物を包んだオムレツ」とは、オムレツの表面の卵シートに切り目をいれたら、中に流動性を有する柔らかい内容物が包み込まれているオムレツである。
卵の成分は熱で凝固するため、加熱、冷凍、解凍等を経る加工食品として柔らかい卵料理を提供するのは容易ではない。従来技術は卵自体の半熟感を維持することに観点が集中していたが、本発明では、卵成分を含む含水卵熱凝固物は65℃以上に加熱してしっかり凝固させたものを用い、流動感を与える部分には卵成分を用いず、増粘剤を含有し、バターや牛乳などのオムレツに風味を付ける成分を配合した調味液として存在させたものである。液状部に卵を用いないことにより、加熱、冷凍、解凍、再加熱の工程を経ても、液状感に変化はなく、全体として風味の付与されたオムレツに仕上げたものである。
【0008】
本発明において、卵シートとは、卵液に調味料等を添加して、薄い膜状に加熱したものであり、薄焼き卵に代表される。どのような配合、製造方法で製造されたものでもよく、形状も問わないが、一辺あるいは直径が15~30cm程度の四角形、円形、楕円形等が好ましく、厚みが0.3~2.0mm程度のものが適している。
大量生産するには、焼成ドラムに卵液を供給し、連続的に卵シートを焼成して用いるのが好ましい。卵シート用卵液には、通常、澱粉、油脂、乳化油脂、糖、糖アルコール、食塩、pH調製剤、卵粉末、乾燥卵白、色素、水などが副原料として添加される。これらにより、卵シートに好ましい外観、風味、保湿性、弾力などが付与される。その他の副原料も卵シートの焼成に影響を与えないものであれば、何を添加してもよい。
【0009】
本発明において、含水卵熱凝固物とは、調味料、増粘剤などを添加した卵液を卵が凝固する温度である65℃以上の熱水中に投入し、加熱して、粒状に熱凝固させたものであり、水分を含有した状態で熱凝固させたものである。熱水にはとろみを出すために0.1~5重量%程度の増粘剤を添加しておくのが好ましい。また、卵液には、キサンタンガムなどの増粘剤を0.2~2.0重量%程度添加しておくと、卵が薄皮状にならず、粒状に凝固するので好ましい。
含水卵熱凝固物の原料となる卵液には、製造後の凝固卵の外観、風味、食感をよくし、冷凍耐性、電子レンジ耐性などを付与するため、澱粉、油脂、乳化油脂、糖、糖アルコール、食塩、調味エキス、pH調製剤、乾燥卵白、色素、水などを添加するのが好ましい。
熱水中で凝固した含水卵熱凝固物は、水を切ってから、用いてもよいし、熱水ごと、増粘剤含有調味液と混合して用いてもよい。
【0010】
本発明において、増粘剤含有調味液とは、オムレツに風味やうま味を付与する調味液に増粘剤を添加して、粘度を持たせた調味液である。調味成分は目的とするオムレツによって、バター、牛乳、エキス、コンソメ、ブイヨン、フレーバーなどの洋風の調味成分でも、出汁、エキス、醤油のような和風の調味成分でもよい。
オムレツの内容物として適度な粘度を付与するのが重要であり、増粘剤を添加して、加熱することにより、含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物の粘度を500~50000mPa・sになるように調製する。好ましくは、800~20000mPa・s、さらに好ましくは、1000~10000mPa・sである。粘度は、回転式粘度計(リオン株式会社製ビスコテスタVT-04Fなど)を用いて、喫食時に想定される温度(本明細書では60℃)で測定する。用いる増粘剤は食用の一般的な増粘剤であればよく、澱粉、増粘多糖類、増粘タンパク質などを使用する。具体的には、馬鈴薯、とうもろこし、米、小麦、タピオカなどの各種澱粉・加工澱粉、キタンサンガム、ペクチン、アラビアガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、サイリュームシードガム、食物繊維、セルロース誘導体などが例示される。
【0011】
上述した、卵シート、含水卵熱凝固物及び増粘剤含有調味液を組合せて、オムレツを製造する。含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液を混合したものを卵シートで包むだけでよい。大量生産する場合、製造したいオムレツの形の型に卵シートをかぶせ、中央部に含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物をのせ、卵シートを折りたたみ、包むのがよい。その型のまま、凍結すれば、卵シートが破れたり、混合物がもれたりすることもない。
卵シート、含水卵熱凝固物及び増粘剤含有調味液の量比は製造したいオムレツのタイプによるが、例えば、卵シート:含水卵熱凝固物及び増粘剤含有調味液の重量比を1:3~6程度、含水卵熱凝固物:増粘剤含有調味液の重量比を1:2~4程度で組み合わせることができる。
オムレツには、含水卵熱凝固物及び増粘剤含有調味液以外の調理済みの具材を一緒に配合してもよい。具体的にはオムレツの具材としてよく用いられる、チーズ、ハム、ベーコン、コーン、野菜、キノコなどが例示される。
【0012】
上記の冷凍オムレツをチキンライスなどのご飯の上にのせると、とろける内容物を含んだオムレツを載せたオムライスを製造することができる。オムライスに用いるご飯は白飯でもよいが、味付けご飯が好ましく、白飯にバターを絡めたバターライス、スープで炊いたご飯、トマトケチャップ等で味付けしたチキンライスなど、オムレツに合う味付けがされたご飯である。
冷凍食品としては、トレイに盛り付けた味付けご飯の上に凍結したオムレツをのせ、適宜デミグラスソースなどを掛けて、トレイごと凍結することによって、オムライスの冷凍品を提供することができる。
【0013】
本発明のオムレツは、液状部分が多いため、オムレツと味付けご飯の量比によっては、電子レンジ解凍に要する時間がオムレツとご飯に差がでてしまい、具合よく解凍することができない場合がある。この場合、オムレツの増粘剤含有調味液部分に塩、糖、アミノ酸類等を添加することにより、Brixを8以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは、15以上、20以上に調製することにより、オムレツの解凍時間を短縮することができる。添加するのは、上記の他、Brixを高めることができる成分であれば何でもよいが、味に影響が少ない成分、量を選択するのが好ましい。具体的には、水飴、粉末水飴、デキストリン、ポリデキストロース等が例示される。
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
卵シートの製造
表1の配合の卵液を調製した。この卵液を春巻の皮の焼成装置(大英技研株式会社製HT-45)に供給し、卵シートを製造した。幅16cmのシートを連続的に焼成し、長さ17cmでカットして用いた。厚さは0.4~0.8mm程度であった。
【0015】
【表1】
【実施例2】
【0016】
含水卵熱凝固物の製造
加工澱粉を2重量%含む80℃以上の熱水中に、表2の配合の卵液を投入し、卵を加熱凝固させた。
【0017】
【表2】
【実施例3】
【0018】
含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物の製造
実施例2の熱水中の含水卵熱凝固物に、表3の配合の調味液を加え、加熱混合し、とろみのある含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物を製造した。また、オムライスに用いるために、粉末水飴を配合した表4の配合でも、同様に含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物を製造した。表3の配合の調味液のBrixは6であり、表4の配合の調味液のBrixは20であった。
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
上記、表4の配合で製造した含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物の粘度の温度による変化をリオン株式会社製ビスコテスタVT-04F(ローターNo.1)を用いて測定した。
結果を表5に示す。喫食に適した温度50-65℃でも、また、弁当等室温で食する場合の温度20-30℃でも流動性を保持できる程度の粘度であることが確認された。
【0022】
【表5】
【実施例4】
【0023】
オムレツの製造
実施例1で製造した卵シートをオムレツ用の型に敷き、実施例3の含水卵熱凝固物と増粘剤含有調味液の混合物を80g載せ、卵シートを折りたたみ、包み込んだ。型のまま凍結し、冷凍オムレツを製造した。この冷凍オムレツを電子レンジにより解凍・加熱したところ、内容物の流動性が維持されたオムレツを復元することができた。
実施例3の表4の配合で製造したオムレツは表3の配合に比べて、短時間で解凍することができた。
【実施例5】
【0024】
オムライスの製造
常法にしたがって、チキンライスを調製した。150gのチキンライスに実施例4で製造した冷凍オムレツをのせ、チキンライスと共に凍結し、冷凍オムライスを製造した。この冷凍オムライスを電子レンジにより解凍したところ、実施例3の表3の配合で製造したオムレツはチキンライスと比べて解凍に要する時間が長く、オムレツが解凍するまで加熱すると、チキンライスが過加熱になり、バランスよく解凍できなかった。
一方、表4の配合で製造したオムレツを用いたオムライスは、オムレツの解凍時間が短縮されているため、オムレツとチキンライスの加熱のバランスがよく、より好ましい出来上がりとなった。チキンライスとオムレツをセットにした製品を製造する場合には、必要に応じて、粉末水飴等でBrixを高め、解凍時間を調整したものを組合せるのが好ましい。
【実施例6】
【0025】
解凍の程度に及ぼすBrixの影響
常法にしたがって、チキンライス及びデミグラスソースを調製した。トレイに150gのチキンライスを入れ、60gのデミグラスソースをかけ、実施例3の表3の配合で製造した冷凍オムレツを載せ、袋にいれて凍結し、冷凍オムライスを製造した。表3の水分の一部を表6に示す量の粉末水飴を含有するように置換して製造した冷凍オムレツを用いて同様に、冷凍オムライスを製造した。
それぞれのオムレツのBrixと、冷凍オムライスを袋のまま、500Wの電子レンジで6分間加熱調理し、1分間袋のまま蒸らした後の品温を表6に示した。冷凍オムライスは-18℃で冷凍されていたものであり、加熱調理前の品温は-15.8℃であった。品温は、オムレツの左右の端と中心部、チキンライスの中心部及びデミグラスソースの上部について測定した。
結果を表6に示す。粉末水飴の添加量の増加に伴い、Brixが上昇し、6分間の加熱で昇温しにくかったオムレツ中心部の温度が昇温することがわかる。オムレツの中心部の昇温のしにくさは、オムレツの水分量、ご飯の有無、オムレツ:ご飯の量比、オムレツの形状(特に厚み)などによる大きく影響されるため、適するBrixの値は製品設計によって調節するのが好ましい。また、本実施例では、電子レンジ加熱時間を6分間に設定したが、この時間の設定によっても必要となるBrixは異なる。
【0026】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の方法により、冷凍、電子レンジ解凍を経ても、表面に切り目をいれると流動性が維持された柔らかい内容物が現れる冷凍オムレツを提供することができる。また、このオムレツを用い、流動性のある内容物を包んだオムレツを載せたオムライスなどを容易に調理、提供することができる。