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特許7059441放熱シート前駆体、及び放熱シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】放熱シート前駆体、及び放熱シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20220418BHJP
   C01B 21/064 20060101ALI20220418BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220418BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
H01L23/36 M
C01B21/064 M
C01B21/064 Z
C08L101/00
C08K3/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021508721
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046394
(87)【国際公開番号】W WO2020194867
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2019061229
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國安 諭司
(72)【発明者】
【氏名】佐野 貴之
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162366(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122350(WO,A1)
【文献】特開2013-254880(JP,A)
【文献】特開2013-062379(JP,A)
【文献】特開2011-090868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
C01B 21/064
C08L 101/00
C08K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂バインダーと、無機窒化物粒子と、を含有し、
前記無機窒化物粒子の含有量が、放熱シート前駆体の全質量に対して、50質量%~80質量%であり、
空隙率が、30%~45%であり、
X線回折法によって測定される、前記無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度に対する前記無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度の比が、18以下である
放熱シート前駆体。
【請求項2】
前記無機窒化物粒子の平均アスペクト比が、5以上である請求項1に記載の放熱シート前駆体。
【請求項3】
前記無機窒化物粒子の平均粒子径が、10μm以上である請求項1又は請求項2に記載の放熱シート前駆体。
【請求項4】
加圧前の厚さT1及び加圧後の厚さT2が、0.55≦T2/T1≦0.70の関係を満たす請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の放熱シート前駆体。
【請求項5】
加圧前の密度D1及び加圧後の密度D2が、1.40≦D2/D1≦1.90の関係を満たす請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の放熱シート前駆体。
【請求項6】
前記無機窒化物粒子が、窒化ホウ素粒子である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の放熱シート前駆体。
【請求項7】
前記樹脂バインダーが、エポキシ樹脂である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の放熱シート前駆体。
【請求項8】
前記樹脂バインダーの含有量が、放熱シート前駆体の全質量に対して、20質量%~50質量%である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の放熱シート前駆体。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の放熱シート前駆体を加圧する工程を有する放熱シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放熱シート前駆体、及び放熱シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化に伴い、電子機器を構成する種々の部品において発生した熱を効率的に放熱する必要がある。例えば、パワーデバイス、CPU(Central Processing Unit)、又は発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)バックライトにおいては、150℃以上の熱を発するものがある。上記のような発熱体から発生した熱が電子機器の内部に蓄積すると、電子機器の誤作動等の不具合を引き起こす場合がある。このため、発熱体から発せられる熱を放熱するために種々の技術が検討されている。
【0003】
国際公開第2014/199650号には、特定の熱硬化性樹脂組成物を離型性基材に塗布して乾燥させる工程と、塗布乾燥物を0.5MPa以上50MPa以下のプレス圧で加圧しながら硬化させる工程とを含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法が開示されている。
【0004】
特開2015-35580号公報には、硬化性樹脂組成物と、熱伝導性繊維と、熱伝導性粒子とを含有し、40%以上の圧縮率を有する熱伝導性シートが開示されている。
【0005】
特開2013-177563号公報には、板状の窒化ホウ素粒子、及び、ゴム成分を含有する熱伝導性組成物から形成される熱伝導性シートであって、上記熱伝導性シートにおける上記窒化ホウ素粒子の含有割合が、35体積%以上であり、上記熱伝導性シートの厚み方向に対する直交方向の熱伝導率が、4W/m・K以上であることを特徴とする、熱伝導性シートが開示されている。
【0006】
特開2016-127046公報には、特定の造粒粉と熱硬化性樹脂とを含む放熱用樹脂組成物、及び上記放熱用樹脂組成物からなる放熱シートが開示されている。
【0007】
国際公開第2018/181606号には、絶縁材Aを含む第一の表面層と、絶縁材Aを含む第二の表面層と、上記第一の表面層と上記第二の表面層との間に配される、絶縁材Bを含む中間層とを含み、上記絶縁材Aが、六方晶窒化ホウ素一次粒子の配向度が0.6~1.4である第一の窒化ホウ素焼結体と、上記第一の窒化ホウ素焼結体に含浸する第一の熱硬化性樹脂組成物とを含むものであり、上記絶縁材Bが、六方晶窒化ホウ素一次粒子の配向度が0.01~0.05である第二の窒化ホウ素焼結体と、上記第二の窒化ホウ素焼結体に含浸する第二の熱硬化性樹脂組成物とを含むことを特徴とする、伝熱部材が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の放熱シートにおいては、熱伝導性が低い空隙(ボイド)が形成されることがある。放熱シートに含まれる空隙の割合が増加すると、放熱シートの熱伝導性の低下を招く可能性がある。例えば、国際公開第2014/199650号に記載された熱伝導性シートの製造方法においては、塗布乾燥物を特定のプレス圧で加圧しながら硬化させている。しかしながら、上記方法によっても空隙を十分に減らすことは困難であると考えられる。さらに、空隙が発生する割合は、熱伝導性材料として無機窒化物粒子を含有する放熱シートにおいて高い傾向にある。
【0009】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされたものである。
本開示の一態様は、空隙が少なく、優れた熱伝導性を有する放熱シートを形成できる放熱シート前駆体を提供することを目的とする。
本開示の他の一態様は、空隙が少なく、優れた熱伝導性を有する放熱シートを形成できる放熱シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 樹脂バインダーと、無機窒化物粒子と、を含有し、上記無機窒化物粒子の含有量が、放熱シート前駆体の全質量に対して、50質量%~80質量%であり、空隙率が、30%~45%であり、X線回折法によって測定される、上記無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度に対する上記無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度の比が、18以下である放熱シート前駆体。
<2> 上記無機窒化物粒子の平均アスペクト比が、5以上である<1>に記載の放熱シート前駆体。
<3> 上記無機窒化物粒子の平均粒子径が、10μm以上である<1>又は<2>に記載の放熱シート前駆体。
<4> 加圧前の厚さT1及び加圧後の厚さT2が、0.55≦T2/T1≦0.70の関係を満たす<1>~<3>のいずれか1つに記載の放熱シート前駆体。
<5> 加圧前の密度D1及び加圧後の密度D2が、1.40≦D2/D1≦1.90の関係を満たす<1>~<4>のいずれか1つに記載の放熱シート前駆体。
<6> 上記無機窒化物粒子が、窒化ホウ素粒子である<1>~<5>のいずれか1つに記載の放熱シート前駆体。
<7> 上記樹脂バインダーが、エポキシ樹脂である<1>~<6>のいずれか1つに記載の放熱シート前駆体。
<8> 上記樹脂バインダーの含有量が、放熱シート前駆体の全質量に対して、20質量%~50質量%である<1>~<7>のいずれか1つに記載の放熱シート前駆体。
<9> <1>~<8>のいずれか1つに記載の放熱シート前駆体を加圧する工程を有する放熱シートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、空隙が少なく、優れた熱伝導性を有する放熱シートを形成できる放熱シート前駆体が提供される。
本開示の他の一態様によれば、空隙が少なく、優れた熱伝導性を有する放熱シートを形成できる放熱シートの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
本開示において、「全固形分質量」とは、溶媒を除いた成分の全質量を意味する。
【0014】
<放熱シート前駆体>
本開示に係る放熱シート前駆体は、樹脂バインダーと、無機窒化物粒子と、を含有し、上記無機窒化物粒子の含有量が、放熱シート前駆体の全質量に対して、50質量%~80質量%であり、空隙率が、30%~45%であり、X線回折法によって測定される、上記無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度に対する上記無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度の比が、18以下である。
【0015】
本開示において、「放熱シート前駆体」とは、加圧加工により放熱シートを形成する物を意味する。換言すると、放熱シート前駆体とは、加圧加工により放熱シートが形成される前の段階の物を指す。
【0016】
本開示に係る放熱シート前駆体によれば、空隙が少なく、優れた熱伝導性を有する放熱シートが形成される。本開示に係る放熱シート前駆体が、上記効果を奏する理由は明らかではないが、以下のように推察される。
本開示に係る放熱シート前駆体は、樹脂バインダーと、無機窒化物粒子と、を含有し、上記無機窒化物粒子の含有量が、放熱シート前駆体の全質量に対して、50質量%~80質量%であり、空隙率が、30%~45%であり、X線回折法によって測定される、上記無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度に対する上記無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度の比が、18以下であることで、加圧加工によって、樹脂バインダーとの親和性が低い無機窒化物粒子を用いた場合に形成されやすい空隙の低減効果が大きくなるため、空隙が少なく、優れた熱伝導性を有する放熱シートが形成される。
【0017】
本開示に係る放熱シート前駆体は、上述のとおり、放熱シートを形成するための前段階の材料として利用できる。このため、上記放熱シート前駆体の熱伝導率は、通常の放熱シートよりも低い傾向にある。本開示に係る放熱シート前駆体の熱伝導率の一例は、6Wm-1-1未満である。本開示に係る放熱シート前駆体の熱伝導率は、後述する熱伝導率の測定方法と同様の方法により測定する。
【0018】
以下、本開示に係る放熱シート前駆体の各構成要素について説明する。
【0019】
[樹脂バインダー]
本開示に係る放熱シート前駆体は、樹脂バインダーを含有する。
【0020】
樹脂バインダーとしては、制限されず、公知の樹脂バインダーを利用できる。樹脂バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、クレゾール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フッ素樹脂、及びポリフェニレンオキサイド樹脂が挙げられる。
【0021】
上記の中でも、樹脂バインダーは、熱膨張率が小さく、また、耐熱性及び接着性に優れるという観点から、エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂としては、制限されず、公知のエポキシ樹脂を利用できる。エポキシ樹脂としては、例えば、二官能エポキシ樹脂、及びノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0023】
二官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びビスフェノールS型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0024】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0025】
また、樹脂バインダーは、耐熱性等の機能を付加しやすいという観点から、重合性モノマーの硬化物であることも好ましい。ここで、重合性モノマーは、熱又は光によって硬化する化合物である。
【0026】
重合性モノマーとしては、公知の重合性モノマーを利用できる。重合性モノマーとしては、例えば、特許第4118691号の段落0028に記載されたエポキシ樹脂モノマー及びアクリル樹脂モノマー、特開2008-13759号公報の段落0006~段落0011に記載されたエポキシ化合物、及び特開2013-227451号公報の段落0032~段落0100に記載されたエポキシ樹脂モノマーが挙げられる。
【0027】
重合性モノマーは、重合性基を有することが好ましい。重合性モノマーにおける重合性基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、オキシラニル基、及びビニル基からなる群より選択される少なくとも1種の重合性基が好ましい。
【0028】
重合性モノマーは、1種単独の重合性基を有していてもよく、2種以上の重合性基を有していてもよい。また、重合性モノマーにおける重合性基の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。重合性モノマーにおける重合性基の数は、硬化物の耐熱性が優れる観点から、2つ以上であることが好ましく、3つ以上であることがより好ましい。重合性モノマーにおける重合性基の数の上限は、制限されない。重合性モノマーにおける重合性基の数は、8つ以下である場合が多い。
【0029】
本開示に係る放熱シート前駆体は、1種単独の樹脂バインダーを含有していてもよく、2種以上の樹脂バインダーを含有していてもよい。
【0030】
樹脂バインダーの含有量は、熱伝導率、無機窒化物粒子の分散性、及び膜質の観点から、放熱シート前駆体の全質量に対して、10質量%~50質量%であることが好ましく、20質量%~50質量%であることがより好ましく、20質量%~40質量%であることが特に好ましい。
【0031】
[無機窒化物粒子]
本開示に係る放熱シート前駆体は、無機窒化物粒子を含有する。放熱シート前駆体が無機窒化物粒子を含有することで、熱伝導性が向上する。このため、得られる放熱シートの放熱性が向上する。
【0032】
無機窒化物粒子を構成する無機窒化物としては、例えば、窒化ホウ素(BN)、窒化炭素(C)、窒化ケイ素(Si)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化クロム(CrN)、窒化銅(CuN)、窒化鉄(FeN、又はFeN)、窒化ランタン(LaN)、窒化リチウム(LiN)、窒化マグネシウム(Mg)、窒化モリブデン(MoN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)、窒化タングステン(WN、WN、又はWN)、窒化イットリウム(YN)、及び窒化ジルコニウム(ZrN)が挙げられる。
【0033】
無機窒化物粒子は、放熱シートの熱伝導性の観点から、ホウ素原子、アルミニウム原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む無機窒化物粒子であることが好ましく、ホウ素原子、及びアルミニウム原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む無機窒化物粒子であることがより好ましく、ホウ素原子を含む無機窒化物粒子であることが特に好ましい。
【0034】
無機窒化物粒子は、放熱シートの熱伝導性の観点から、窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、及び窒化ケイ素粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機窒化物粒子であることが好ましく、窒化ホウ素粒子、及び窒化アルミニウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機窒化物粒子であることがより好ましく、窒化ホウ素粒子であることが特に好ましい。
【0035】
無機窒化物粒子としては、市販品を用いてもよい。無機窒化物粒子は、例えば、水島合金鉄株式会社製の「HP-40 MF100」(窒化ホウ素粒子)として入手可能である。
【0036】
(配向度)
X線回折法によって測定される、無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度に対する無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度の比([無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度]/[無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度])は、18以下である。以下、無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度に対する無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度の比を「無機窒化物粒子の配向度」と称することがある。無機窒化物粒子の配向度が18以下であることで、放熱シートの熱伝導性が向上する。
【0037】
無機窒化物粒子の配向度は、放熱シートの熱伝導性の観点から、小さいほど好ましい。無機窒化物粒子の配向度は、17以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、14以下であることが特に好ましい。
【0038】
無機窒化物粒子の配向度の下限は、制限されない。無機窒化物粒子の配向度は、例えば、0.1以上の範囲で適宜設定できる。
【0039】
無機窒化物粒子の配向度は、X線回折法により測定する。具体的には、放熱シート前駆体に対してCuKα線(特性X線)を照射することにより得られるX線回折パターンに基づいて、無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度に対する無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度の比を求める。X線回折法に用いる装置としては、公知のX線回折装置(例えば、XRD-6100、株式会社島津製作所製)を利用できる。また、X線回折法において、管電圧は30kVであり、管電流は15mAである。
【0040】
無機窒化物粒子の配向度を調節する方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。例えば、アスペクト比が大きな無機窒化物粒子を使用することにより、無機窒化物粒子の配向度を小さくできる。また、無機窒化物粒子の平均粒子径を適宜調節する方法、及び後述する樹脂組成物に含まれ得る溶媒の種類を適宜選択する方法も挙げられる。
【0041】
(アスペクト比)
無機窒化物粒子の平均アスペクト比は、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、8以上であることが特に好ましい。無機窒化物粒子の平均アスペクト比が5以上であることで、放熱シートの熱伝導性を向上できる。
【0042】
無機窒化物粒子の平均アスペクト比の上限は、制限されない。無機窒化物粒子の平均アスペクト比は、後述する樹脂組成物における粒子分散性の観点から、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0043】
無機窒化物粒子の平均アスペクト比は、以下の方法によって測定する。
(1)収束イオンビーム(FIB)を照射することにより、放熱シート前駆体を切断する。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、上記放熱シート前駆体の断面を観察し、次いで、無作為に選択した100個の無機窒化物粒子の画像を得る。
(3)上記各無機窒化物粒子の長径及び短径をそれぞれ測定する。本開示において、「無機窒化物粒子の長径」とは、無機窒化物粒子の輪郭線上の任意の2点間を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さをいう。例えば、上記画像において無機窒化物粒子が真円である場合、無機窒化物粒子の長径とは、無機窒化物粒子の直径をいう。また、本開示において、「無機窒化物粒子の短径」とは、長径を規定する線分に直交し、かつ、無機窒化物粒子の輪郭線上の任意の2点間を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さをいう。
(4)上記各無機窒化物粒子の短径に対する長径の比(長径/短径)を求める。
(5)得られた値の算術平均値を、無機窒化物粒子の平均アスペクト比とする。
【0044】
(平均粒子径)
無機窒化物粒子の平均粒子径は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが特に好ましい。無機窒化物粒子の平均粒子径が10μm以上であることで、放熱シートの熱伝導性をさらに向上できる。
【0045】
無機窒化物粒子の平均粒子径は、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。無機窒化物粒子の平均粒子径が100μm以下であることで、表面凹凸を小さくすることができ、結果的に放熱性が大きくなる。
【0046】
無機窒化物粒子の平均粒子径は、以下の方法により測定する。
(1)収束イオンビーム(FIB)を照射することにより、放熱シート前駆体を切断する。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、上記放熱シート前駆体の断面を観察し、次いで、無作為に選択した100個の無機窒化物粒子の画像を得る。
(3)上記各無機窒化物粒子の長径を測定する。
(4)上記各無機窒化物粒子の長径に基づく個数基準の粒子径分布において、個数基準累積が50%となるときの粒子径(D50)を、無機窒化物粒子の平均粒子径とする。
【0047】
本開示に係る放熱シート前駆体は、1種単独の無機窒化物粒子を含有していてもよく、2種以上の無機窒化物粒子を含有していてもよい。
【0048】
無機窒化物粒子の含有量は、放熱シート前駆体の全質量に対して、50質量%~80質量%である。無機窒化物粒子の含有量が50質量%~80質量%であることで、空隙が少なく、優れた熱伝導性を有する放熱シートが形成される。また、無機窒化物粒子の含有量が80質量%以下であることで、放熱シートの膜質も向上できる。無機窒化物粒子の含有量は、放熱シートの熱伝導性の観点から、放熱シート前駆体の全質量に対して、60質量%~80質量%であることが好ましい。
【0049】
無機窒化物粒子の含有量は、放熱シートの熱伝導性の観点から、樹脂バインダー100質量部に対して、200質量部~400質量部であることが好ましく、250質量部~350質量部であることがより好ましい。
【0050】
[空隙率]
本開示に係る放熱シート前駆体の空隙率は、30%~45%である。放熱シート前駆体の空隙率が30%~45%であることで、加圧加工によって放熱シートに含まれる空隙を低減できる。本開示に係る放熱シート前駆体の空隙率は、35%~45%であることが好ましく、40%~45%であることがより好ましい。放熱シート前駆体の空隙率が上記範囲内であることで、放熱シートに含まれる空隙をさらに低減できる。この結果、放熱シートの熱伝導率も向上できる。
【0051】
放熱シート前駆体の空隙率は、以下の方法により測定する。
(1)収束イオンビーム(FIB)を照射することにより、放熱シート前駆体を切断する。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、上記放熱シート前駆体の断面の画像を得る。具体的に、上記放熱シート前駆体の断面のうち、任意に選択した5視野の画像を得る。各画像の視野範囲は、空隙を意図的に除外することなく、断面の面積及び空隙の面積を適切に算出できるように調節する。具体的に、各画像の視野範囲は、20,000μm~200,000μmの範囲内で設定することが好ましい。
(3)上記各画像から、断面の面積に対する空隙の面積の割合(空隙の面積/断面の面積)を求める。
(4)得られた値の算術平均値(百分率)を、放熱シート前駆体の空隙率とする。
【0052】
放熱シート前駆体の空隙率を調節する方法としては、例えば、無機窒化物粒子の含有量を適宜調整する方法、及び後述する樹脂組成物に含まれ得る溶媒の種類を適宜選択する方法が挙げられる。
【0053】
[形状]
本開示に係る放熱シート前駆体の形状は、制限されない。本開示に係る放熱シート前駆体の形状は、加工性の観点から、シート状であることが好ましい。
【0054】
[厚さ]
本開示に係る放熱シート前駆体の厚さは、制限されず、例えば、用途に応じて適宜設定すればよい。本開示に係る放熱シート前駆体の厚さは、放熱性、及び絶縁性の観点から、50μm~400μmであることが好ましく、100μm~250μmであることがより好ましい。本開示に係る放熱シート前駆体の厚さは、後述する加圧前の厚さT1の測定方法と同様の方法により測定する。
【0055】
[厚みの変化率]
本開示に係る放熱シート前駆体においては、加圧前の厚さT1及び加圧後の厚さT2が、0.50≦T2/T1≦0.70の関係を満たすことが好ましく、0.55≦T2/T1≦0.70の関係を満たすことがより好ましく、0.58≦T2/T1≦0.68の関係を満たすことが特に好ましい。本開示に係る放熱シート前駆体は、加圧前の厚さT1及び加圧後の厚さT2が上記関係を満たすことで、得られる放熱シートに含まれる空隙をさらに低減できる。この結果、放熱シートの熱伝導率も向上できる。
【0056】
加圧前の厚さT1は、以下の方法により測定する。
(1)収束イオンビーム(FIB)を照射することにより、放熱シート前駆体を切断する。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、放熱シート前駆体の断面の画像を得る。
(3)上記画像から、放熱シート前駆体の厚さを3か所測定する。
(4)得られた値の算術平均値を、加圧前の厚さT1とする。
【0057】
加圧後の厚さT2は、以下の方法により測定する。
(1)温度:25℃、線圧:100kN/m、及び搬送速度:5m/分の条件で、放熱シート前駆体をカレンダー加工する。カレンダー加工において使用するロールとしては、金属製のロールと、樹脂製のロールと、を有する一対のロールを用いる。
(2)上記加圧前の厚さT1の測定方法に従って、加圧された放熱シート前駆体の厚さを3か所測定する。
(3)得られた値の算術平均値を、加圧後の厚さT2とする。
【0058】
[密度の変化率]
本開示に係る放熱シート前駆体において、加圧前の密度D1及び加圧後の密度D2は、1.40≦D2/D1≦1.90の関係を満たすことが好ましく、1.45≦D2/D1≦1.85の関係を満たすことがより好ましく、1.45≦D2/D1≦1.80の関係を満たすことが特に好ましい。本開示に係る放熱シート前駆体は、加圧前の密度D1及び加圧後の密度D2が上記関係を満たすことで、加圧加工により空隙を低減できるため、得られる放熱シートに含まれる空隙をさらに低減できる。この結果、放熱シートの熱伝導率も向上できる。
【0059】
加圧前の密度D1は、アルキメデス法により測定する。
【0060】
加圧後の密度D2は、以下の方法により測定する。
温度:25℃、線圧:100kN/m、及び搬送速度:5m/分の条件で、放熱シート前駆体をカレンダー加工する。カレンダー加工後の放熱シート前駆体の密度をアルキメデス法により測定する。得られた値を、加圧後の密度D2とする。
【0061】
[放熱シート前駆体の製造方法]
本開示に係る放熱シート前駆体の製造方法としては、例えば、上記樹脂バインダーと、上記無機窒化物粒子と、を含有する樹脂組成物を用いる方法が挙げられる。本開示に係る放熱シート前駆体の製造方法は、基材上に、上記樹脂バインダーと、上記無機窒化物粒子と、を含有する樹脂組成物を塗布する工程と、上記基材上に塗布された上記樹脂組成物を硬化させる工程と、を含むことが好ましい。
【0062】
(樹脂組成物)
樹脂組成物は、上記樹脂バインダーと、上記無機窒化物粒子と、を含有する。
【0063】
樹脂組成物中の樹脂バインダーの含有量は、樹脂組成物中の全固形分質量に対して、10質量%~50質量%であることが好ましく、20質量%~50質量%であることがより好ましく、20質量%~40質量%であることが特に好ましい。
【0064】
樹脂組成物中の無機窒化物粒子の含有量は、樹脂組成物中の全固形分質量に対して、50質量%~80質量%であることが好ましく、60質量%~80質量%であることがより好ましい。
【0065】
樹脂組成物は、上記樹脂バインダー、及び上記無機窒化物粒子に加えて、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、硬化剤、硬化促進剤、重合開始剤、及び溶媒が挙げられる。
【0066】
-硬化剤-
硬化剤としては、制限されず、公知の硬化剤を利用できる。硬化剤としては、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、カルボキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、及び無水カルボン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物であることが好ましく、ヒドロキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物であることがより好ましい。
【0067】
硬化剤は、上記官能基を2つ以上有する化合物であることが好ましく、上記官能基を2つ又は3つ有する化合物であることがより好ましい。
【0068】
具体的な硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、グアニジン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、アクリル系硬化剤、酸無水物系硬化剤、活性エステル系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤、及びシアネートエステル系硬化剤が挙げられる。上記の中でも、硬化剤は、イミダゾール系硬化剤、アクリル系硬化剤、フェノール系硬化剤、又はアミン系硬化剤であることが好ましい。
【0069】
樹脂組成物は、1種単独の硬化剤を含有していてもよく、2種以上の硬化剤を含有していてもよい。
【0070】
樹脂組成物が硬化剤を含有する場合、硬化剤の含有量は、樹脂組成物の全固形分質量に対して、1質量%~50質量%であることが好ましく、1質量%~30質量%であることがより好ましい。
【0071】
-硬化促進剤-
硬化促進剤としては、制限されず、公知の硬化促進剤を利用できる。硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、三フッ化ホウ素アミン錯体、及び1-ベンジル-2-メチルイミダゾールが挙げられる。
【0072】
樹脂組成物は、1種単独の硬化促進剤を含有していてもよく、2種以上の硬化促進剤を含有していてもよい。
【0073】
樹脂組成物が硬化促進剤を含有する場合、硬化促進剤の含有量は、樹脂組成物の全固形分質量に対して、0.1質量%~20質量%であることが好ましい。
【0074】
-重合開始剤-
樹脂組成物が重合性モノマーを含有する場合、樹脂組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。樹脂組成物が重合性モノマー及び重合開始剤を含有することで、重合性モノマーの硬化反応を効率よく進行させることができる。
【0075】
重合開始剤としては、制限されず、公知の重合開始剤を利用できる。重合性モノマーが、アクリロイル基、又はメタクリロイル基を有する場合、重合開始剤としては、特開2010-125782号公報の段落0062に記載された重合開始剤、又は特開2015-052710号公報の段落0054に記載された重合開始剤であることが好ましい。
【0076】
樹脂組成物は、1種単独の重合開始剤を含有していてもよく、2種以上の重合開始剤を含有していてもよい。
【0077】
樹脂組成物が重合開始剤を含有する場合、重合開始剤の含有量は、樹脂組成物中の全固形分質量に対して、0.1質量%~50質量%であることが好ましい。
【0078】
-溶媒-
溶媒としては、制限されず、公知の溶媒を利用できる。溶媒は、有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、及びテトラヒドロフランが挙げられる。
【0079】
樹脂組成物は、1種単独の溶媒を含有していてもよく、2種以上の溶媒を含有していてもよい。
【0080】
溶媒の含有量は、制限されず、例えば、樹脂組成物に含まれる各成分の組成、及び塗布方法に応じて適宜設定すればよい。溶媒の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、30質量%~80質量%であることが好ましく、50質量%~70質量%であることがより好ましい。
【0081】
-樹脂組成物の製造方法-
樹脂組成物の製造方法としては、例えば、上記各成分を混合する方法が挙げられる。例えば、溶媒、樹脂バインダー、及び無機窒化物粒子を混合することによって樹脂組成物を得ることができる。混合方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。
【0082】
(基材)
基材としては、例えば、金属基板、及び剥離ライナーが挙げられる。
【0083】
金属基板としては、例えば、鉄基板、銅基板、ステンレス基板、アルミニウム基板、マグネシウム含有合金基板、及びアルミニウム含有合金基板が挙げられる。上記の中でも、金属基板は、銅基板であることが好ましい。
【0084】
剥離ライナーとしては、例えば、紙(例えば、クラフト紙、グラシン紙、及び上質紙)、樹脂フィルム(例えば、ポリオレフィン、及びポリエステル)、及び紙と樹脂フィルムとを積層したラミネート紙が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、及びポリプロピレンが挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。
【0085】
剥離ライナーとして使用される紙は、剥離処理が施された紙であってもよい。剥離処理が施された紙は、例えば、目止め処理が施された紙の片面又は両面に剥離処理をさらに施すことによって形成できる。目止め処理は、例えば、クレイ、又はポリビニルアルコールを用いて行うことができる。剥離処理は、例えば、シリコーン系樹脂を用いて行うことができる。
【0086】
基材の厚さは、制限されず、例えば、10μm~300μmの範囲で適宜設定すればよい。
【0087】
(塗布方法)
塗布方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。塗布方法としては、例えば、ロールコーティング法、グラビア印刷法、スピンコート法、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法、スプレー法、コンマコーティング法、ブレード法、及びインクジェット法が挙げられる。
【0088】
基材上に塗布された樹脂組成物は、必要に応じて乾燥してもよい。乾燥方法としては、例えば、基材上に塗布された樹脂組成物に対して、40℃~140℃の温風を1分間~30分間付与する方法が挙げられる。
【0089】
(硬化方法)
硬化方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。例えば、硬化方法は、樹脂組成物の組成に応じて適宜選択すればよい。
【0090】
硬化方法としては、熱硬化反応、又は光硬化反応が好ましく、熱硬化反応が好ましい。
【0091】
熱硬化反応における加熱温度は、制限されず、例えば、50℃~200℃の範囲で適宜設定すればよい。
【0092】
熱硬化反応における加熱時間は、制限されず、例えば、加熱温度に応じて適宜設定すればよい。
【0093】
また、硬化反応は、半硬化反応であってもよい。つまり、得られる硬化物が、いわゆるBステージ状態(半硬化状態)であってもよい。
【0094】
本開示に係る放熱シート前駆体の製造方法においては、必要に応じて、硬化反応を複数回にわたって実施してもよい。硬化反応を複数回にわたって実施する場合、各硬化反応の条件は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0095】
<放熱シートの製造方法>
本開示に係る放熱シートの製造方法は、上記放熱シート前駆体を用いる方法であれば制限されないが、上記放熱シート前駆体を加圧する工程(以下、「加圧工程]と称する。)を有することが好ましい。
【0096】
放熱シート前駆体の表面に上述した基材が配置されている場合、放熱シート前駆体から基材を剥離した後、放熱シート前駆体を加圧してもよく、又は放熱シート前駆体から基材を剥離せずに、放熱シート前駆体を基材と共に加圧してもよい。加圧工程においては、加工の容易性の観点から、放熱シート前駆体から基材を剥離した後、放熱シート前駆体を加圧することが好ましい。
【0097】
加圧方法としては、放熱シート前駆体を加圧できる方法(すなわち、放熱シート前駆体に含まれる空隙の割合を減少できる方法)であれば制限されず、公知の方法を利用できる。加圧方法としては、例えば、プレス加工、及びカレンダー加工が挙げられる。上記の中でも、加圧方法は、生産性、及び空隙率の減少性の観点から、カレンダー加工であることが好ましい。
【0098】
加圧工程における圧力は、制限されず、例えば、加圧方法、放熱シート前駆体の組成、及び放熱シート前駆体の空隙率に応じて適宜設定すればよい。例えば、加圧方法がカレンダー加工である場合、圧力(線圧)は、50N/m~200N/mであることが好ましく、100N/m~150N/mであることがより好ましい。
【0099】
加圧工程における温度は、制限されず、例えば、加圧方法、放熱シート前駆体の組成、及び放熱シート前駆体の空隙率に応じて適宜設定すればよい。温度は、20℃~150℃であることが好ましく、25℃~120℃であることがより好ましい。
【0100】
加圧方法がカレンダー加工である場合、放熱シート前駆体の搬送速度は、制限されず、例えば、1m/分~100m/分の範囲で適宜設定すればよい。
【0101】
本開示に係る放熱シート前駆体を用いて得られる放熱シートは、空隙が少ないため、熱伝導率にも優れる。よって、本開示に係る放熱シート前駆体を用いて得られる放熱シートは、種々の発熱体に接触させることで、発熱体において発生した熱を効率的に放熱できる。例えば、電子機器を構成する種々の部品に上記放熱シートを接触させることで、上記部品において発生した熱を効率的に放熱できる。上記部品としては、例えば、パワーデバイス、及びCPUが挙げられる。また、本開示に係る放熱シート前駆体を用いて得られる放熱シートは、パワーデバイス等の発熱体と、ヒートシンク等の放熱体と、の間に配置して使用されてもよい。
【実施例
【0102】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに制限されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0103】
<実施例1>
[樹脂組成物Aの調製]
下記成分を混練することによって、樹脂組成物Aを調製した。
【0104】
(成分)
・モノマーA1(下記構造を有する化合物:エポキシ樹脂の原材料、QE-2405、コンビブロックス社製):17質量部
【0105】
【化1】
【0106】
・モノマーB(下記構造を有する化合物:エポキシ樹脂の原材料、YX4000、三菱ケミカル株式会社製):34質量部
【0107】
【化2】
【0108】
・メチルエチルケトン:65質量部
・TPP(トリフェニルホスフィン:硬化促進剤):0.5質量部
・窒化ホウ素粒子(無機窒化物粒子、HP-40 MF100、水島合金鉄株式会社製):51質量部
【0109】
[放熱シート前駆体の作製]
アプリケーターを用いて、ポリエステルフィルム(NP-100A、厚さ100μm、パナック株式会社製)の離型面上に、上記樹脂組成物Aを乾燥後の厚さが250μmになるように塗布し、次いで、130℃の温風で5分間乾燥させることによって塗膜を形成した。180℃、1時間の条件で上記塗膜を硬化させることにより、ポリエステルフィルム付き放熱シート前駆体を作製した。
【0110】
[放熱シートの作製]
上記ポリエステルフィルム付き放熱シート前駆体からポリエステルフィルムを剥離した。次に、放熱シート前駆体に対して以下の条件でカレンダー加工を施すことにより、放熱シートを作製した。カレンダー加工においては、ゴム製のロールと、SUS(ステンレス鋼)製のロールと、を有する一対のロールを用いた。
【0111】
(カレンダー加工の条件)
・線圧:100N/m
・温度:80℃
・搬送速度:5m/分
【0112】
<実施例2>
実施例1において、樹脂組成物A中の固形分に対する窒化ホウ素粒子の含有量を65質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0113】
<実施例3>
実施例1において、樹脂組成物A中の固形分に対する窒化ホウ素粒子の含有量を80質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0114】
<実施例4>
実施例2において、使用する溶媒(メチルエチルケトン)をシクロヘキサノンに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0115】
<実施例5>
実施例2において、使用する窒化ホウ素粒子の平均粒子径(D50)を分級操作によって表1に記載された値に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0116】
<実施例6>
実施例2において、使用する窒化ホウ素粒子の平均粒子径(D50)を分級操作によって表1に記載された値に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0117】
<実施例7>
実施例1において、使用するモノマーA1を下記モノマーA2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0118】
モノマーA2の構造を以下に示す。
【0119】
【化3】
【0120】
<実施例8>
実施例1において、使用する窒化ホウ素粒子を、窒化ホウ素粒子(SGPS、デンカ株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0121】
<比較例1>
実施例1において、樹脂組成物A中の固形分に対する窒化ホウ素粒子の含有量を47質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0122】
<比較例2>
実施例1において、樹脂組成物A中の固形分に対する窒化ホウ素粒子の含有量を82質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0123】
<比較例3>
実施例1において、樹脂組成物A中の固形分に対する窒化ホウ素粒子の含有量を65質量%に変更したこと、及びメチルエチルケトンの質量部を130質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により放熱シートを作製した。
【0124】
<評価>
上記各放熱シートの空隙率、膜質、及び熱伝導性を以下の方法により評価した。
【0125】
[空隙率(加工後)]
以下の(1)~(4)に記載された手順に従って各放熱シートの空隙率を測定した。評価結果を下記表1に示す。
(1)収束イオンビーム(FIB)を照射することにより、放熱シートを切断した。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、上記放熱シートの断面の画像を得た。具体的に、上記放熱シートの断面のうち、無作為に選択した5視野の画像を得た。20,000μm~200,000μmの範囲内で断面の面積及び空隙の面積を適切に算出できるように調節した。
(3)上記各画像から、断面の面積に対する空隙の面積の割合(空隙の面積/断面の面積)を求めた。
(4)得られた値を算術平均し、次いで、百分率に換算することによって、放熱シートの空隙率を求めた。
【0126】
[膜質]
以下の基準に従って、各放熱シートの膜質(脆さ)を評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0127】
(基準)
A:放熱シートを曲げ半径5cm以下で90度に曲げても割れない。
B:放熱シートを曲げ半径5cm以下で90度に曲げると割れる。
C:放熱シートをわずかに曲げただけで割れてしまう。
【0128】
[熱伝導性]
以下の方法により各放熱シートの熱伝導率を測定し、以下の基準に従って各放熱シートの熱伝導性を評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0129】
(熱伝導率の測定方法)
(1)NETZSCH社製の「LFA467」を用いて、レーザーフラッシュ法で熱伝導性シートの厚み方向の熱拡散率を測定した。
(2)メトラー・トレド株式会社製の天秤「XS204」(「固体比重測定キット」使用)を用いて、各放熱シートの比重を測定した。
(3)セイコーインスツル株式会社製の「DSC320/6200」を用い、10℃/分の昇温条件の下、25℃における各放熱シートの比熱をDSC7のソフトウエアを用いて比熱を求めた。
(4)得られた熱拡散率に比重及び比熱を乗じることで、各放熱シートの熱伝導率を算出した。
【0130】
(基準)
A:14Wm-1-1以上
B:8Wm-1-1以上、14Wm-1-1未満
C:8Wm-1-1未満
D:測定不可
【0131】
【表1】
【0132】
表1において、「配向度」は、無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度に対する無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度の比([無機窒化物粒子の(002)面の回折ピークの強度]/[無機窒化物粒子の(100)面の回折ピークの強度])を表す。配向度は、既述の方法で測定した。
【0133】
表1において、「T2/T1」は、加圧前の放熱シート前駆体の厚さT1に対する加圧後の放熱シート前駆体の厚さT2の比(T2/T1)を表す。T2/T1は、既述の方法で測定した。
【0134】
表1において、「D2/D1」は、加圧前の放熱シート前駆体の密度D1に対する加圧後の放熱シート前駆体の密度D2の比(D2/D1)を表す。D2/D1は、既述の方法で測定した。
【0135】
表1において、「空隙率(加工前)」は、カレンダー加圧前の放熱シート前駆体の空隙率を表す。空隙率(加工前)は、既述の方法で測定した。
【0136】
表1より、実施例1~実施例8の各放熱シート前駆体を用いて得られた各放熱シートは、比較例1~比較例3の各放熱シート前駆体を用いて得られた各放熱シートと比較して、空隙が少なく、熱伝導性に優れることがわかった。さらに、実施例1~実施例8の各放熱シート前駆体を用いて得られた各放熱シートは、比較例1の各放熱シート前駆体を用いて得られた各放熱シートと比較して、優れた膜質を有することがわかった。
【0137】
2019年3月27日に出願された日本国特許出願2019-061229号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。