(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1333 20060101AFI20220419BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20220419BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220419BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20220419BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20220419BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20220419BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G02F1/1333
G02F1/1335 500
G09F9/00 313
G09F9/00 302
G02B1/18
G02B1/115
G02B5/22
G02B5/02 B
(21)【出願番号】P 2017041865
(22)【出願日】2017-03-06
【審査請求日】2019-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健輔
(72)【発明者】
【氏名】森本 保
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-42537(JP,A)
【文献】特開2016-126064(JP,A)
【文献】特開2015-36734(JP,A)
【文献】特開2013-125266(JP,A)
【文献】国際公開第02/074532(WO,A1)
【文献】特開2010-21480(JP,A)
【文献】特開2016-29474(JP,A)
【文献】特開2016-124723(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0005775(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0239497(US,A1)
【文献】特許第3706105(JP,B2)
【文献】特開2006-63195(JP,A)
【文献】特開2006-138963(JP,A)
【文献】特開2008-181056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1333
G02F 1/1335
G02B 5/22
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶パネルと、当該液晶パネル上に接着剤層を介して配設されたカバー部材とを有する液晶表示装置であって、
前記カバー部材の液晶パネルと対向しない面に反射防止膜を有し、
前記反射防止膜の表面の視感反射率Rと、液晶パネル裏面と液晶パネル内部と液晶パネル-接着剤層界面とからの反射を含む視感反射率rとは、r>R/(1-R)
2の関係を満たし、
前記反射防止膜の表面の視感反射率Rが
0.6%以下であり、
前記接着剤層の内部視感透過率Tが20~85%であり、
前記接着剤層は波長580~600nmの間に吸収ピークを有する、
ことを特徴とする、液晶表示装置。
〔ここで、前記視感反射率rは下記関係式から得られる。
ra=R+r×T
2(1-R)
2 (関係式)
raは液晶表示装置
の視感反射率である。〕
【請求項2】
前記カバー部材はガラスである、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記反射防止膜は、波長550nmの光の屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmの光の屈折率が1.6以下の低屈折率層とが交互に積層されてなる膜である請求項1または2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記接着剤層は、アクリル系樹脂またはポリウレタン系樹脂の接着剤を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記カバー部材は周縁に印刷部を有し、
前記液晶表示装置における前記印刷部の領域と、前記液晶表示装置における表示部の領域とは、CIE 1976 L
*a
*b
*表色系で表される色の差ΔEが、下記式(1)を満たす
請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
0≦ΔE≦8 (1)
【請求項6】
前記カバー部材はさらに防眩層を有する
請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記カバー部材はさらに防汚膜を有する
請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記防汚膜は、含フッ素有機ケイ素化合物被膜である
請求項7に記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記カバー部材は、化学強化ガラスである
請求項1~8のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等に搭載されるナビゲーションシステムやスピードメータ等の各種機器に液晶表示装置が用いられる機会が増えている。当該液晶表示装置では、液晶パネルの表示面にカバー部材を設けることで、当該液晶パネルを外部の衝撃などから保護している。
【0003】
表示パネルの表示面にカバー部材を設けると、カバー部材の表面で外光の反射や映り込みが発生するという問題が生じていた。これらを防止する手段として、表面反射を減少させる反射防止技術が知られている。例えば、液晶パネル上に接着剤層を介して光学干渉層として屈折率と光学膜厚とが適当な値を有する層をいくつか積層することにより、積層体と空気界面における光の反射を減少させることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方で、上記のようなカバー部材を有する液晶表示装置においては、当該液晶表示装置の明所コントラストが劣化してしまうという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、液晶パネルとカバー部材とを有する液晶表示装置において、カバー部材に起因した表面の反射や映り込みを抑制するとともに、明所コントラストが向上され、色再現性が高い液晶表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、カバー部材に起因した表面の反射や映り込みを低減するために、反射防止技術を利用しつつ、液晶表示装置の明所コントラストが高く、色再現性の高い液晶表示装置を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、液晶パネルと、当該液晶パネル上に接着剤層を介して配設されたカバー部材とを有する表示装置であって、前記カバー部材の液晶パネルと対向しない面に反射防止膜を有し、前記反射防止膜の表面の視感反射率Rと、前記液晶パネルの前記接着剤層との界面における視感反射率rとは、r>R/(1-R)2の関係を満たし、前記反射防止膜の表面の視感反射率Rが1%以下であり、前記接着剤層の内部視感透過率が20~85%であり、前記接着剤層は波長580~600nmの間に吸収ピークを有する、ことを特徴とする、液晶表示装置に関する。
【0009】
本発明によれば、液晶表示装置のカバー部材は反射防止膜を有し、その視感反射率Rが1%以下なので、カバー部材表面での外光の反射や映り込みを抑制できる。
【0010】
反射防止膜の視感反射率Rと、液晶パネルの接着剤層との界面における視感反射率rとが、r>R/(1-R)2の関係を満たす。そして、接着剤層の内部視感透過率が20~85%である。r>R/(1-R)2の関係を満たしている場合、外光は、カバー部材表面よりも、液晶パネルと接着剤層との界面で多く反射される。この時、接着剤層の透過率を下げることで、液晶パネルと接着剤層との界面の反射光の強さを減ずることができる。その結果、液晶表示装置の明所コントラストが高くなる。接着剤層の透過率を85%以下にすることにより、上記した効果が十分に発揮される。また、接着剤層の透過率を20%以上とすることで、液晶パネルの発光量の絶対値を高く維持できる。
【0011】
さらに、本発明においては、接着剤層は、波長580~600nmの間に吸収ピークを有する。これによって、液晶パネルの発光スペクトルのうち、赤の光と緑の光を分離できるので、液晶表示装置の色再現性を高くできる。
【0012】
なお、本発明において、視感透過率および視感反射率は、JIS Z8701に規定されている透過および反射の刺激値Yである。
【0013】
特開2014-95763号公報には、液晶パネル上に接着剤層を介してカバーガラスを配設してなる液晶表示装置であって、接着剤層中に寒色色素を含有させることが開示されている。該文献によれば、接着剤層中に寒色色素を含有させているので、例えば、当該接着剤層は、500nm前後に吸収ピークを有し、当該波長の光をカットすることができるものの、本発明のように、ネオン光をカットして色調を改善することはできない。また、本発明で規定しているような要件については何ら教示していないため、液晶表示装置の明所コントラストを向上させることはできない。
【0014】
同様に、特開2006-201376号公報には、波長495nm~507nmの間に吸収ピークを有する青色改善色素と、波長585nm~600nmの間に吸収ピークを有する赤色改善色素とを含有する液晶ディスプレイ用フィルターが開示されているが、該文献においては、フィルターを液晶パネル自体に組み込んでおり、本発明のように、液晶パネルとカバーガラスとを接着させる接着剤層中に含有させて、当該接着剤層にフィルター機能を持たせるようなことについては何ら教示していない。また、本発明で規定しているような要件については何ら教示していないため、液晶表示装置の明所コントラストを向上させることはできない。
【0015】
さらに、特開2009-211062号公報には、プラズマパネルに対して別途フィルター組立体を設け、このフィルター組立体中に吸収色素を含有させてフィルター機能を持たせることが開示されているが、本発明で規定しているような要件については何ら教示していないため、液晶表示装置の明所コントラストを向上させることはできない。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、液晶パネルとカバー部材とを有する液晶表示装置において、カバー部材に起因した表面の反射や映り込みを抑制するとともに、明所コントラストを向上させ、色再現性を高くできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細及びその他の特徴について、発明の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
本実施形態の液晶表示装置は、液晶パネルと、カバー部材を有し、当該カバー部材は接着剤層を介して、液晶パネルの表示面に接合されている。ここで、カバー部材は透明である。
【0019】
本実施形態の前記カバー部材は、液晶パネルと対向しない面に反射防止膜を有する。また、本実施形態において、前記反射防止膜は視感反射率Rが1%以下である。これによって、カバー部材表面での外光の反射や映り込みを低減できる。同様の理由で、前記反射防止膜の視感反射率Rは、0.6%以下であることが好ましく、0.4%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
なお、反射防止膜の視感反射率Rの下限値は特に限定されるものではないが、例えば、0.05%以上とすることができる。これより視感反射率Rが低いと液晶表示装置における画像の色味が全体的に黒くなって、色調が劣化してしまう場合がある。
【0021】
上述のような視感反射率Rを満足する反射防止膜としては、波長550nmの光の屈折率が1.9以上の相対的に屈折率が高い層(以下、高屈折率層という)と、波長550nmの光の屈折率が1.6以下の相対的に屈折率が低い層(以下、低屈折率層という)とが交互に積層されてなる膜が好ましい。このような膜であれば、上述した視感反射率Rの条件を満たす反射防止膜を簡易に製造できる。
【0022】
反射防止膜における高屈折率層と低屈折率層との層数は、それぞれを1層ずつ含む構成でもよく、それぞれを2層以上含む構成でもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ1層含む構成の場合は、カバー部材側から高屈折率層、低屈折率層の順に積層したものが好ましい。また、高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む構成の場合は、カバー部材側から高屈折率層、低屈折率層の順に交互に積層した形態であることが好ましい。
【0023】
反射防止性能を高めるためには、反射防止膜は複数の層が積層された積層体であることが好ましく、該積層体は、例えば、全体で2層以上8層以下の層が積層されたものが好ましく、2層以上6層以下の層が積層されたものがより好ましく、2層以上4層以下の層が積層されたものがさらに好ましい。ここでの積層体は、上記のように、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものが好ましい。また、光学特性を損なわない範囲での層の追加を行ってもよい。例えば、カバー部材がガラスである場合、ガラスを構成する成分、例えばNaイオン等の拡散を防ぐために、カバーガラスの主面と第1層との間にSiO2膜を挿入してもよい。
【0024】
高屈折率層、低屈折率層を構成する材料は、特に制限されるものではなく、要求される反射防止性の程度や生産性を考慮して選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化ケイ素(SiN)等が挙げられる。これらの材料から選択される1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素SiO2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料等が挙げられる。これら材料から選択される1種以上を好ましく使用できる。
【0025】
生産性や屈折率の観点から、高屈折率層が、酸化ニオブ、酸化タンタル、窒化ケイ素から選択される1種からなり、低屈折率層が、酸化ケイ素からなる層であることが好ましい。
【0026】
反射防止膜は、表面に無機薄膜を直接形成する方法、エッチング等の手法により表面処理する方法や、乾式法、例えば、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、特に物理蒸着法の一種である真空蒸着法やスパッタ法により好適に形成できる。
【0027】
また、反射防止機能を有する透明樹脂フィルムをカバー部材の主面に貼合する方法によって反射防止膜を設けることもできる。
【0028】
反射防止膜の厚さは、全体で100~500nmが好ましい。反射防止膜の厚さを100nm以上とすることで、効果的に外光の反射を抑制できるため好ましい。
【0029】
本発明において、カバー部材は、樹脂またはガラスを使用できる。表面硬度、耐熱性または質感を高める点で、カバー部材は、ガラスを用いることが好ましい。ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、無アルカリガラス、サファイアガラス等が挙げられる。
【0030】
カバー部材は、液晶パネルを保護する観点から機械的強度が高く、割れ耐久性が高いことが好ましい。カバー部材がガラス(以下、カバーガラスという)である場合、カバーガラスの機械的強度を高める方法としては、ガラスの強化処理が挙げられる。
【0031】
強化処理としては、カバーガラスを高温下に晒した後に風冷する物理強化、または、カバーガラスを、アルカリ金属を含む溶融塩中に浸漬させ、カバーガラスの表面に存在する原子径の小さなアルカリ金属(イオン)を、溶融塩中に存在する原子径の大きなアルカリ金属(イオン)と置換する化学強化が挙げられる。
【0032】
カバーガラスの板厚が薄い場合には、前記強化処理は、化学強化が好ましい。
【0033】
化学強化処理したカバーガラス(以下、化学強化ガラスともいう)は、以下の条件を満たすことが好ましい。すなわち、カバーガラスの表面圧縮応力(以下、CSという)が、400MPa以上1200MPa以下であることが好ましく、700MPa以上900MPa以下であることがより好ましい。CSが400MPa以上であれば、実用上の強度として十分である。
【0034】
またCSが1200MPa以下であれば、カバーガラスが表面圧縮応力に対応して自身の内部に生じる引張応力に耐えることができ、自然に破壊してしまう懸念がない。本発明では、カバーガラスのCSは700MPa以上850MPa以下であることが好ましい。
【0035】
さらに、カバーガラスの圧縮応力深さ(以下、DOLという)は、15~50μmが好ましく、20~40μmがより好ましい。DOLが15μm以上であれば、容易に傷がついて破壊する懸念がない。
【0036】
また、DOLが50μm以下であれば、表面圧縮応力に対応して自身の内部に生じる引張応力に耐えることができ、自然に破壊してしまう懸念がない。本発明では、カバーガラスのDOLは25μm以上35μm以下であることが好ましい。
【0037】
カバー部材の形状は、限定されず、液晶表示装置のデザイン、表示装置の取り付け位置等に応じて任意に変更できる。例えば、正面図は矩形、台形、円形、楕円形などが挙げられる。また、断面図は、矩形、一部が曲がった形状などが挙げられる。
【0038】
カバー部材の大きさは、液晶表示装置の大きさや表示装置の用途によって適宜決定される。例えば、モバイル機器の場合は、カバー部材は、30mm×50mm~300mm×400mmで、厚さが0.1~2.5mmが好ましい。ディスプレイ装置、カーナビゲーション、コンソールパネル、計器盤などの表示装置の場合、カバー部材は、50mm×100mm~2000mm×1500mmで、厚さが0.5~4mmであることが好ましい。
【0039】
カバー部材の厚さは、特に限定されるものではなく、厚さ10mm以下とできる。カバー部材として、ガラスを使用する場合、機械的強度や透明性等の点から、カバーガラスの厚さは0.1~6mmが好ましい。特に、車載用表示装置で使用する場合は、カバーガラスには安全性が求められるため機械的強度の点から、0.2~2mmが好ましい。
【0040】
化学強化ガラスを用いる場合は、化学強化処理を行うために、ガラス板の厚さは通常5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
【0041】
本発明の液晶表示装置においては、反射防止膜の視感反射率Rと、液晶パネルの接着剤層との界面における視感反射率rとが、r>R/(1-R)2の関係を満たす。そして、接着剤層の内部視感透過率を20~85%とし、前記接着剤層が波長580~600nmの間に吸収ピークを有する。これにより、液晶表示装置の明所コントラスト向上と、色再現性の向上を実現できる。
【0042】
本発明の液晶表示装置においては、反射防止膜の視感反射率Rと、液晶パネルの接着剤層との界面における視感反射率rとが、r>R/(1-R)2の関係を満たす。この関係は、外光が、カバー部材表面よりも、液晶パネルと接着剤層との界面で多く反射されることを意味する。上記した関係を満たしていれば、接着剤の特性を制御することにより、表示装置の明所コントラストを高くし、色再現性を向上できる。
【0043】
液晶表示装置において、上記のr>R/(1-R)2の関係を満たすことは、種々の方法で実現できる。例えば、液晶パネルと接着剤層との界面における視感反射率rを測定し、上記した関係式を満足するような視感反射率Rが得られるように反射防止膜を設計して、カバー部材に製膜する方法が挙げられる。
【0044】
本発明においては、接着剤層の内部視感透過率が20%~85%である。前記内部視感透過率は、30%~83%であることが好ましく、50%~80%であることがさらに好ましい。接着剤層の内部視感透過率が85%を超えると、前記視感反射率Rと前記視感反射率rが前記した関係を満たしても、液晶表示装置の明所コントラストを十分に向上できない。一方、内部視感反射率が20%未満であると、液晶表示装置の色味が全体的に黒くなって、色調が低下するおそれがある。また、液晶パネルの発光量の絶対値が小さくなり、すなわち、バックライトの光のうち、液晶パネルの表示面から出射される光が少なくなり、エネルギーロスが大きくなるおそれがある。
【0045】
接着剤層の内部視感透過率を20%~85%とする方法として次の構成が挙げられる。当該接着剤層中に光吸収剤を含有させる。光吸収剤としては、カーボンブラック、チタンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛等の顔料および色素等の染料が挙げられる。内部視感透過率の制御には、例示した光吸収剤の種類と含有量とを適宜選択して決定する。例えば、カーボンブラック等は比較的少量でも内部視感透過率の低減に効果があるので、このような光吸収剤を使用する場合は、当該光吸収剤の含有量を低減することができ、接着剤層の接着力を劣化させることがないため、好ましく用いることができる。
【0046】
本発明においては、接着剤層は、波長580nm~600nmの間に吸収ピークを有する。これによって、液晶パネルから発せられる光のうち、緑と赤の光を明確に分離することができ、液晶表示装置の色再現性を高くできる。
【0047】
接着剤層が580nm~600nmの間に吸収ピークを有する構成としては、接着剤層に、580nm~600nmの間に吸収ピークを有する色素等の染料または顔料を含有する方法が挙げられる。前記色素としては、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、ITO系色素、ATO系色素等が挙げられ、有機系顔料及び有機系染料としては、例えばアミニウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、アズレニウム系色素、ポリメチン系色素、ナフトキノン系色素、ピリリウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ナフトラクタム系色素、アゾ系色素、縮合アゾ系色素、インジゴ系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、キナクリドン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、ピロール系色素、チオインジゴ系色素、金属錯体系色素、ジチオール金属錯体系色素、インドールフェノール系色素、又はトリアリルメタン系色素等が挙げられる。この中でも、金属錯体系色素、アミニウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ピロール系色素などが好ましい。
【0048】
接着剤層の内部視感透過率を20%~85%とし、波長580~600nmに吸収ピークを有するために、接着剤層に一種の色素を含むことが好ましい。これにより、高温または高湿の条件に液晶表示装置が置かれた場合に、接着剤層から色素がブリードアウトすることなどの不具合の発生を低減できる。
【0049】
本発明において、接着剤層は、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等から構成することができる。種々の色素を分散させることができ、ブリードアウトを防止できる樹脂として、接着剤層は、アクリル系樹脂またはポリウレタン系樹脂から構成することが好ましい。
【0050】
本発明においては、カバー部材の周縁に印刷部を有してもよい。印刷部を設けることで、カバー部材に装飾を施すことができる。印刷部は、枠状印刷、ロゴ印刷等目的や用途に応じた印刷パターンを適宜選択された色で印刷して形成することができる。このような印刷部を設けることにより、液晶パネルに配設された配線などを遮蔽できるとともに、液晶パネルに関連する記号や文字を設けることができる。印刷方法は既知のいずれの方法も適用可能であるが、たとえば、スクリーン印刷が好適である。
【0051】
カバー部材に印刷部を設ける場合、液晶表示装置の印刷部を含む領域の、CIE 1976 L*a*b*表色系で表される色と、液晶表示装置の表示部(非印刷部)を含む領域の、CIE 1976 L*a*b*表色系で表される色との差ΔEが、下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(2)を満たすことがより好ましく、下記式(3)を満たすことがさらに好ましい。
0≦ΔE≦8 (1)
0≦ΔE≦6 (2)
0≦ΔE≦4 (3)
これによって、液晶表示装置の印刷部を含む領域と表示部(非印刷部)を含む領域との色差が低減されるので、液晶表示装置全体の色調が向上する。
【0052】
ここで、ΔEは、CIE 1976 L*a*b*表色系における液晶表示装置の印刷部を含む領域のL*,a*,b*と、液晶表示装置の表示部(非印刷部)を含む領域のL*,a*,b*との差の2乗した値の平方根(ΔE=√{(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2})として表すことができる。
【0053】
本発明において、カバーガラスは防眩層をさらに有することが好ましい。これによって、液晶表示装置に防眩機能を付すことができるようになる。防眩層は、カバーガラスの表面に防眩処理を施すことで形成できる。前記防眩層は、カバーガラスと反射防止膜との間に設けることが好ましい。
【0054】
化学的に防眩処理を行う方法としては、ガラス板のフロスト処理が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムとの混合溶液に、被処理体であるガラス基板を浸漬することで実現できる。また、物理的に防眩処理を行う方法としては、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気でガラス基板の主面に吹き付けるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせたものを用いて擦る方法等を利用できる。
【0055】
防眩層を有するカバーガラスの表面は、表面粗さ(二乗平均粗さ、RMS)が0.01~0.5μmであることが好ましい。表面粗さ(RMS)は、0.01~0.3μmがより好ましく、0.02~0.2μmがさらに好ましい。表面粗さ(RMS)を上記範囲とすることで、防眩層を有する透明基板のヘイズ値を1~30%に調整することができる。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136(2000)で規定される値である。
【0056】
本発明では、カバー部材にさらに防汚膜を有することが好ましい。これによって、カバーガラス上の反射防止膜に対して、指紋跡のみならず汗や埃など様々な汚れの付着を抑えたり、汚れを拭き取りやすくしたり、汚れを目立ちにくくしたりするといった機能を付与することができ、表示面をきれいに保つことができる。また、タッチパネル操作の際にひっかかりのないスムーズな指滑り性を得ることが可能となる。防汚膜は、反射防止膜のカバー部材と対向しない面に設けることが好ましい。
【0057】
防汚膜としては、防汚性、撥水性、撥油性を付与できる含フッ素有機ケイ素化合物被膜などが挙げられる。具体的には、含フッ素有機ケイ素化合物や、含フッ素加水分解性ケイ素化合物等が挙げられる。
【0058】
含フッ素有機ケイ素化合物としては、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロ(ポリオキシアルキレン)鎖を含むフルオロアルキル基等のフルオロアルキル基を有する化合物が挙げられる。
【0059】
フッ素含有加水分解性ケイ素化合物は、具体的には、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。これらは、撥水性、撥油性等の防汚性を有する。
【0060】
防汚膜は、含フッ素有機ケイ素化合物や、含フッ素加水分解性ケイ素化合物等を含む組成物をスピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレーコート法等により塗布した後加熱処理する方法が挙げられる。また、含フッ素有機ケイ素化合物を気相蒸着させた後加熱処理する真空蒸着法等によっても防汚膜を形成できる。ガラス板と防汚膜との密着性を高くするには、真空蒸着法により防汚膜を形成することが好ましい。
【0061】
防汚膜の層厚は、特に制限されないが、2~20nmであることが好ましく、2~15nmであることがより好ましく、3~10nmであることがさらに好ましい。層厚が2nm以上であれば、防汚膜によって反射防止膜の表面が均一に覆われた状態となり、耐擦り性の簡単で実用に耐えるものとなる。また、層厚が20nm以下であれば、防汚膜が積層された状態での視感反射率やヘイズ値等の光学特性が良好である。
【実施例】
【0062】
<実施例1>
HYDIS社製の液晶パネル、旭硝子株式会社製のガラス板(ドラゴントレイル(登録商標))、および株式会社巴川製紙所製の接着剤(商品名:MK64)に吸収ピーク波長が585nmとなるように色素を混ぜた接着剤1(厚さが100μm)を準備した。
【0063】
まず、ガラス板の一面に以下の貼順により、反射防止膜を形成した。
真空チャンバー内で、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、酸化ニオブターゲット(AGCセラミックス社製、商品名:NBOターゲット)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、ガラス基板の一方の面上に、厚さ13nmの酸化ニオブからなる高屈折率層を形成した。
【0064】
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記高屈折率層上に厚さ35nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
【0065】
次いで、1層目と同様にして、前記低屈折率層上に厚さ115nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。次いで、2層目と同様にして、厚さ90nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)と酸化ケイ素(シリカ)とが合計4層積層された反射防止膜を形成した。
【0066】
ガラス板の反射防止膜を有しない面に、CLIMB PRODUCT株式会社製(装置名:SE650aaa)を用いて接着剤1を貼り付けた。次に、接着剤1が貼り付いているガラス板と前記液晶パネルの表示面とを当該接着剤1を介して貼り合わせた。その後、これをオートクレーブ内に入れて、貼合界面から気泡を除去した。これにより、反射防止膜を有するガラス板が、接着剤1を介して液晶パネル上に配設された液晶表示装置を作製した。
【0067】
液晶表示装置の各特性は以下のようにして評価した。
【0068】
(反射防止膜表面の視感反射率R)
液晶パネルに配設していない反射防止膜を有するガラス板を用いて、反射防止膜表面の視感反射率Rを求めた。
反射防止膜表面の視感反射率をR、反射防止膜を有するガラス板の視感反射率をRa、ガラス板の反射防止膜を有さない面(裏面)と空気との界面の視感反射率をRbとすると、反射防止膜に吸収がない場合、これらは、Ra=R+Rb×(1-R)2の関係式で表される。
ここで、Rbは、ガラス板の屈折率より既知である。分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、商品名:CM-2600d)を用いて、分光反射率をSCIモードで測定し、その反射率から、視感反射率Ra(JIS Z 8701(1999年)において規定されている反射の刺激値Y)を算出する。なお、視感反射率Raの測定において、波長間隔は10nmとし、光源はD65光源とした。
前記式と、RaとRbの値から、反射防止膜表面の視感反射率Rを算出する。
【0069】
(接着剤層の内部視感透過率)
厚さ100μmの接着剤1をガラス板に貼り合わせ、その上から厚さ100μmの透明接着剤(リンテック株式会社製、商品名:SY粘着剤)を貼り合わせて評価サンプルを作製した。評価サンプルの作製に用いたものと同じガラス板に厚さ100μmの透明接着剤(リンテック株式会社製、商品名:SY粘着剤)を貼り合わせて参照サンプルを作製した。
評価サンプルと参照サンプルをそれぞれ透過率測定し、これらの比(評価サンプルの透過率/参照サンプルの透過率)を取ることで、接着剤1の内部視感透過率を計算した。なお、測定は、波長が360~740nmの範囲の内部視感透過率を測定し、内部視感透過率の測定は紫外可視近赤外分光光度計(株式会社 島津製作所社製、商品名:SolidSpec3700)を使用した。測定波長間隔は5nmで行った。
【0070】
(接着剤層の吸収ピーク波長)
内部視感透過スペクトルのうち、400nm~700nmの範囲で最小の透過率の波長を、吸収ピーク波長とした。
【0071】
(液晶パネルと接着剤層との界面の視感反射率r)
液晶表示装置を用いて、液晶パネルと接着剤1との界面の視感反射率rを求めた。
前記視感反射率r、液晶表示装置の反射防止膜を有するガラス板の視感反射率ra、接着剤層の内部視感透過率T、および反射防止膜の表面の反射率Rとすると、これらは、ra=R+r×T2(1-R)2の関係が成立する。
ここで、R及びTは、上述のようにして測定された値を用いる。分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、商品名:CM-2600d)を用いて、分光反射率をSCIモードで測定し、その反射率から、視感反射率ra(JIS Z 8701(1999年)において規定されている反射の刺激値Y)を求めた。なお、波長間隔は10nmとし、光源はD65光源とした。
前記式と、R、Tおよびraの値から、液晶パネルと接着剤1との界面の視感反射率rを算出する。
【0072】
(明所コントラスト)
照度を300ルクスに調整した屋内に液晶表示装置を設置し、分光放射輝度計(コニカミノルタ株式会社製、商品名CS-1000)を液晶表示装置の表示面から60cmの位置に設置した。画面に黒と白を発色させてそれらの発光強度比を取ることにより、明所コントラストを測定した。
【0073】
(NTSC比)
色再現性を評価する指標として、NTSC比を利用した。NTSC比は以下の方法で測定した。
照度を300ルクスに調整した室内に液晶表示装置を設置し、分光放射輝度計(コニカミノルタ株式会社製、商品名CS-1000)を液晶表示装置の表示面から60cmの位置に設置した。その後、液晶表示装置の画面で、RGB値が(255、0、0)、(0、255、0)、(0、0、255)の色をそれぞれ発色させ、分光放射輝度計で各色を発色させた場合の発光スペクトルを測定した。各発光スペクトルからJIS Z 8701に規定されているx、yをそれぞれ求めた。3点の(x、y)を結んで得られる三角形の面積と、(0.67、0.33)、(0.21、0.71)、(0.14、0.08)を結んで得られる三角形の面積の比から、NTSC比を算出した。
【0074】
(印刷部と表示部(非印刷部)との色差)
まず、液晶表示装置の表示部を4×4等分した格子の交点、計9点において以下のようにして色を測定した。次に、表示部の周囲の印刷部の四隅の4点と、各四辺の中点の4点の計8点を、以下のようにして色を測定した。
【0075】
分光測色計(コニカミノルタ株式会社製、形式:CM-2600d)により、液晶表示装置の反射防止処理を施された側の面の分光反射率をSCIモードで測定し、その反射率から、印刷部及び表示部における視感反射率(JIS Z 8729において規定されている色指標L*、a*、b*)を求めた。そして、印刷部及び表示部のL*、a*、b*の平均値の差(ΔL*
ave、Δa*
ave、Δb*
ave)によって、印刷部及び表示部の色差ΔEを下記計算式によって求めた。
ΔE=√{(ΔL*
ave)2+(Δa*
ave)2+(Δb*
ave)2}
【0076】
<実施例2>
反射防止膜の各層の厚さをガラス板側から順に、酸化ニオブ(NBO)が13nm、二酸化ケイ素が36nm、酸化ニオブ(NBO)が130nmおよび二酸化ケイ素が75nmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。
【0077】
<実施例3>
接着剤として、株式会社巴川製紙所製の接着剤(商品名:MK64)に吸収ピーク波長が595nmとなるように色素を混ぜた接着剤2(厚さが100μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を作製した。
【0078】
<比較例1>
接着剤として、株式会社巴川製紙所製の接着剤(商品名:MK64)に色素を混ぜないものを使用したこと以外は、実施例1と同様に液晶表示装置を作製した。
【0079】
<比較例2>
反射防止膜を厚さ120nmのMgF2単層で構成し、接着剤として、株式会社巴川製紙所製の接着剤(商品名:MK64)に吸収ピーク波長が590nmとなるように色素を混ぜた接着剤3(厚さが100μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を作製した。
【0080】
<比較例3>
接着剤として、株式会社巴川製紙所製の接着剤(商品名:MK64)に吸収ピーク波長が500nmとなるように色素を混ぜた接着剤4(厚さが100μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様に液晶表示装置を作製した。
【0081】
<参考例>
実施例1の液晶表示装置における明所コントラスト、NTSC比及び印刷部と表示部(非印刷部)との色差を評価して表1に示した。
【0082】
【0083】
表1に示されたとおり、実施例1~3は、明所コントラストが高く、色再現性の指標となるNTSC比が大きい。また、印刷部と表示部との色差が小さい。これに対し、接着剤の中に色素を含まないため、接着剤の内部透過率が高く、吸収ピークを有さない比較例1は、明所コントラストが相対的に低く、印刷部と表示部との色差が大きい。反射防止膜の視感反射率Rが1%を超える比較例2は、明所コントラストが相対的に低い。接着剤の吸収ピークが580nmよりも短い波長にある比較例3は、相対的に明所コントラストが低く、また、NTSC比が小さいので色再現性が低い。
【0084】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。