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特許7059687輸送係数の解析プログラムおよび輸送係数の解析方法
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  • 特許-輸送係数の解析プログラムおよび輸送係数の解析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】輸送係数の解析プログラムおよび輸送係数の解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/00 20060101AFI20220419BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20220419BHJP
   G16Z 99/00 20190101ALI20220419BHJP
【FI】
G01N19/00 A
G06F30/20
G16Z99/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018031932
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2019148446
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 穂高
(72)【発明者】
【氏名】泉 龍介
(72)【発明者】
【氏名】松林 伸幸
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-201009(JP,A)
【文献】特開2017-049805(JP,A)
【文献】特開2014-203262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00
G06F 30/00 - 30/398
G06Q 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送係数の解析プログラムであって、
解析対象の系を複数の領域に分割する分割部(S2)と、
前記系に含まれる原子の運動を計算する運動計算部(S3)と、
前記運動計算部の計算結果に基づいて、前記複数の領域それぞれについて前記輸送係数に対応する物理量を算出する物理量算出部(S4)と、
前記物理量の時間相関関数を算出する時間相関関数算出部(S5)と、
前記時間相関関数に基づいて、前記複数の領域それぞれについて前記輸送係数を算出する輸送係数算出部(S6)と、を備え、
前記複数の領域の数をN sub とし、
時間をtとし、
自然数をj、iとし、
前記複数の領域のうちj番目の前記領域の時間における前記輸送係数をG (t)とし、
j番目の前記領域の時間における応力テンソルのab成分をσ ab (t)とし、
i番目の前記領域の時間における応力テンソルのab成分をσ i ab (t)とし、
前記輸送係数算出部は、
【数1】
の式を用いて前記G (t)を算出し、算出した前記G (t)に基づいて、前記輸送係数を算出する輸送係数の解析プログラム。
【請求項2】
時間における前記系の全体の前記輸送係数をG(t)とし、
前記系の全体の体積をVとし、
ボルツマン定数をkとし、
前記輸送係数算出部は、前記G (t)を
【数2】
式に代入することにより、前記輸送係数を算出する請求項1に記載の輸送係数の解析プログラム。
【請求項3】
前記輸送係数は、緩和弾性率である請求項1または2に記載の輸送係数の解析プログラム。
【請求項4】
前記時間相関関数算出部は、並列処理を用いて前記時間相関関数を算出する請求項1ないし3のいずれか1つに記載の輸送係数の解析プログラム。
【請求項5】
輸送係数の解析方法であって、
解析対象の系を複数の領域に分割すること(S2)と、
前記系に含まれる原子の運動を計算すること(S3)と、
前記原子の運動を計算することの結果に基づいて、前記複数の領域それぞれについて前記輸送係数に対応する物理量を算出すること(S4)と、
前記物理量の時間相関関数を算出すること(S5)と、
前記時間相関関数に基づいて、前記複数の領域それぞれについて前記輸送係数を算出すること(S6)と、を備え、
前記複数の領域の数をN sub とし、
時間をtとし、
自然数をj、iとし、
前記複数の領域のうちj番目の前記領域の時間における前記輸送係数をG (t)とし、
j番目の前記領域の時間における応力テンソルのab成分をσ ab (t)とし、
i番目の前記領域の時間における応力テンソルのab成分をσ i ab (t)とし、
【数1】
の式を用いて前記G (t)を算出し、算出した前記G (t)に基づいて、前記輸送係数を算出する輸送係数の解析方法。
【請求項6】
時間における前記系の全体の前記輸送係数をG(t)とし、
前記系の全体の体積をVとし、
ボルツマン定数をkとし、
前記G (t)を
【数2】
式に代入することにより、前記輸送係数を算出する請求項5に記載の輸送係数の解析方法。
【請求項7】
前記輸送係数は、緩和弾性率である請求項5または6に記載の輸送係数の解析方法。
【請求項8】
前記時間相関関数を算出することでは、並列処理を用いて前記時間相関関数を算出する請求項5ないし7のいずれか1つに記載の輸送係数の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送係数の解析プログラムおよび輸送係数の解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、緩和弾性率、粘度、電気伝導度、熱伝導度、拡散係数等の輸送係数の解析については、測定による方法の他、シミュレーションによる方法が提案されている。例えば非特許文献1では、イオン間の距離に基づいて電気伝導度を解析する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K.-M. Tu, R. Ishizuka, N. Matubayasi, "Spatial-decomposition analysis of electrical conductivity in concentrated electrolyte solution", The Journal of Chemical Physics 141, 044126 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接着面等の界面、特にナノオーダーの凹凸が形成された界面の特性が強調されるモデルでは、輸送係数の空間不均一性が系全体の特性に大きく影響すると予想され、このようなモデルの接着、電気伝導、熱伝導等の現象の解析は、産業上重要である。また、接着面、フィラー周りの電気特性、熱特性などの解析は、不具合の解明や新たな接着処理、フィラー処理等の実現、新規材料の創出等に役立つと考えられる。
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、このような不均一系の輸送係数を解析することができない。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、不均一系の輸送係数を解析することが可能な輸送係数の解析プログラムおよび輸送係数の解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、輸送係数の解析プログラムであって、解析対象の系を複数の領域に分割する分割部(S2)と、系に含まれる原子の運動を計算する運動計算部(S3)と、運動計算部の計算結果に基づいて、複数の領域それぞれについて輸送係数に対応する物理量を算出する物理量算出部(S4)と、物理量の時間相関関数を算出する時間相関関数算出部(S5)と、時間相関関数に基づいて、複数の領域それぞれについて輸送係数を算出する輸送係数算出部(S6)と、を備え、複数の領域の数をN sub とし、時間をtとし、自然数をj、iとし、複数の領域のうちj番目の領域の時間における輸送係数をG (t)とし、j番目の領域の時間における応力テンソルのab成分をσ ab (t)とし、i番目の領域の時間における応力テンソルのab成分をσ i ab (t)とし、輸送係数算出部は、下記式を用いてG (t)を算出し、算出したG (t)に基づいて、輸送係数を算出する
【数1】
【0008】
このように、系を複数の領域に分割し、各領域について輸送係数に対応する物理量を算出することにより、不均一系の輸送係数を解析することができる。
【0009】
また、請求項に記載の発明では、輸送係数の解析方法であって、解析対象の系を複数の領域に分割すること(S2)と、系に含まれる原子の運動を計算すること(S3)と、原子の運動を計算することの結果に基づいて、複数の領域それぞれについて輸送係数に対応する物理量を算出すること(S4)と、物理量の時間相関関数を算出すること(S5)と、時間相関関数に基づいて、複数の領域それぞれについて輸送係数を算出すること(S6)と、を備え、複数の領域の数をN sub とし、時間をtとし、自然数をj、iとし、複数の領域のうちj番目の領域の時間における輸送係数をG (t)とし、j番目の領域の時間における応力テンソルのab成分をσ ab (t)とし、i番目の領域の時間における応力テンソルのab成分をσ i ab (t)とし、下記式を用いてG (t)を算出し、算出したG (t)に基づいて、輸送係数を算出する。
【数1】
【0010】
このように、系を複数の領域に分割し、各領域について輸送係数に対応する物理量を算出することにより、不均一系の輸送係数を解析することができる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態が適用される不均一系の概略構成を示す図である。
図2図1のII部分の拡大図である。
図3】輸送係数の解析処理のフローチャートである。
図4】輸送係数の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。ここでは、図1に示す系について、輸送係数の1つである緩和弾性率を算出する場合について説明する。
【0015】
図1に示す系は、金属層1の表面に接着剤2が塗布され、接着剤2に対して金属層1とは反対側の領域が真空とされたものである。金属層1は、ここではアルミニウムで構成されており、接着剤2は、ここでは炭素、酸素、水素で構成された樹脂とされている。
【0016】
図2に示すように、金属層1と接着剤2との界面付近は空間的に不均一な構成とされており、このような構成の系については、従来の方法では輸送係数の解析が困難である。なお、接着剤2のうち金属層1との界面から離れた部分は均一な構成とされているが、この部分の輸送係数にも、金属層1との界面付近の特性が影響すると考えられる。
【0017】
本実施形態では、図3に示すステップS1~S6を順に実行することで、図1に示す系の緩和弾性率を算出し、界面付近の特性、および、界面から離れた部分の特性の解析を可能とする。なお、図3に示す処理は、例えばLAMMPS、Python等を用いた解析プログラムによって実行することができるが、他のソフトウェアおよびプログラミング言語を用いて解析を行ってもよい。
【0018】
ステップS1では、解析対象の系のデータを取得する。このデータには、図2に示すような金属層1、接着剤2を構成する複数の原子の種類および初期位置の他、原子の初速度等が含まれている。なお、ステップS1では、このようなデータを解析プログラムの外部から取得してもよいし、解析プログラム内で設定してもよい。
【0019】
ステップS2では、系を複数の領域に分割する。例えば、図1の紙面左右方向、奥行き方向、上下方向をx方向、y方向、z方向として、系をx方向およびy方向に20分割し、z方向に100分割する。
【0020】
ステップS3では、MD(分子動力学)法等に基づいて系に含まれる複数の原子の運動を計算し、計算の開始から終了までの複数の時刻における各原子の位置および速度を取得する。
【0021】
ステップS4では、各時刻における各原子の位置および速度に基づいて、各時刻における各領域の輸送係数に対応する物理量を算出する。本実施形態では、各領域の応力テンソルを算出し、緩和弾性率に対応する物理量としてせん断応力を用いる。
【0022】
ステップS5では、せん断応力のTCF(時間相関関数)を算出する。そして、ステップS6では、ステップS5で求めたTCFに基づいて各領域の緩和弾性率を算出する。ステップS5およびステップS6では、具体的には、次のようにして緩和弾性率を求める。
【0023】
すなわち、複数の領域の数をNsubとし、時間をtとし、複数の領域のうちj番目の領域の時間tにおける緩和弾性率をG(t)とする。また、j番目の領域の時間tにおける応力テンソルのab成分をσ ab(t)とし、k番目の領域の時間tにおける応力テンソルのab成分をσ ab(t)とし、数式1を用いてG(t)を求める。応力テンソルのab成分は、例えば応力テンソルのxy成分、yz成分、zx成分等である。なお、TCFの算出にはmulti-tau相関法などのスムージング手法を用いてもよい。
【0024】
【数1】
【0025】
ステップS5では、ステップS4で算出された各時刻の応力テンソルについて順次計算を行ってもよいが、処理効率の向上のために、各時刻の応力テンソルについて並列処理を行うことが望ましい。
【0026】
例えば、ステップS4において、応力テンソルを1fs毎に算出し、算出結果のデータを100ps毎に出力する。そして、ステップS5にて、100ps毎に分割された複数のデータを取得し、複数のデータそれぞれについて並列にTCFを算出する。なお、TCFを算出する際には、遅れ時間に応じて、計算対象としているデータに、このデータに続く次の100psのデータを追加して用いる。そして、100ps毎のTCFの計算結果を平均化する。
【0027】
なお、G(t)を用いて、数式2により、時間tにおける系全体の緩和弾性率G(t)を算出することができる。ここで、Vは系全体の体積、kはボルツマン定数である。数式1、数式2の導出方法については後述する。
【0028】
【数2】
【0029】
このようにして、系の輸送係数を求めることができる。なお、ステップS2は分割部に対応し、ステップS3は運動計算部に対応し、ステップS4は物理量算出部に対応し、ステップS5は時間相関関数算出部に対応し、ステップS6は輸送係数算出部に対応する。
【0030】
図3に示す処理によって、例えば図4に示すような結果が得られる。なお、図4において、黒丸は、金属層1と接着剤2との界面付近の輸送係数の算出結果であり、実線は、この算出結果の近似曲線である。また、黒四角は、接着剤2のうち金属層1との界面から離れた部分の輸送係数の算出結果であり、破線は、この算出結果の近似曲線である。
【0031】
図4に示す結果では、金属層1と接着剤2との界面付近が、接着剤2のうち金属層1との界面から離れた部分に比べて、G(t)の減衰が遅く、弾性的になっている。金属層1の表面処理の方法や、接着剤2を構成する樹脂の種類等を様々に変化させて図3に示す処理を実行し、得られた結果を比較することで、用途に適した緩和弾性率が得られる材料等の条件を導き出すことができる。
【0032】
数式1、数式2の導出方法について説明する。均一な系の緩和弾性率は、数式3で表され、せん断応力のTCFに対応することが知られている。
【0033】
【数3】
【0034】
また、原子にポテンシャルUが働く場合、マクロな応力は、各原子からの寄与の和として、数式4のように表されることが知られている。vi1は、系に含まれる複数の原子のうちi番目の原子の速度であり、ri1i2はi番目の原子とi番目の原子との間の距離である。
【0035】
【数4】
【0036】
ここで、系全体の応力のうちi番目の原子からの寄与は、local atomic stress elementsと呼ばれる以下の量si1 abで表される。
【0037】
【数5】
【0038】
i1 abを用いると、系全体の応力は数式6で表される。なお、si1 abとしてはLAMMPS等において具体的に定義されたものを用いればよい。
【0039】
【数6】
【0040】
系を複数の領域に分割し、各領域についてsi1 abの和を求めるようにすると、数式6は数式7のように変形される。Nはj番目の領域に含まれる原子の個数、si1,j abはj番目の領域に含まれる複数の原子のうちi番目の原子のlocal atomic stress elementsである。
【0041】
【数7】
【0042】
ここで、j番目の領域の応力をσ abとすると、σ abは、数式8のようにsi1、j abの和で表されるので、系全体の応力σabは、σ abを用いて数式9のように表される。
【0043】
【数8】
【0044】
【数9】
【0045】
数式9を数式3に代入して変形すると、緩和弾性率G(t)は、数式10のように表される。
【0046】
【数10】
【0047】
このように、系全体の緩和弾性率G(t)は、領域ごとの相関関数の和で表される。そこで、数式10のうち相関関数で表された部分を各領域の緩和弾性率G(t)とし、数式1のように定義すれば、系全体の緩和弾性率G(t)は、数式2に示すようになる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態では、系を複数の領域に分割し、各領域について輸送係数に対応する物理量を算出することで、各領域の輸送係数を算出することができる。これにより、不均一系について、界面付近の特性、および、界面から離れた部分の特性を解析することが可能となる。
【0049】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0050】
例えば、上記第1実施形態では緩和弾性率の解析方法について説明したが、粘度、電気伝導度、熱伝導度、拡散係数等の他の輸送係数についても、第1実施形態と同様に、ステップS1~S6の処理により解析することができる。
【0051】
すなわち、系全体の物理量を数式6のように各原子からの寄与の和で表すことができれば、寄与の和の部分を数式7のように領域ごとの和に分割して、系全体の物理量を数式9のように各領域の物理量の和を用いて表すことができる。また、輸送係数は、数式3と同様に、対応する物理量のTCFを用いて表されるので、数式9に相当する式を、輸送係数を表す式のTCFの部分に代入して変形すれば、各領域の物理量のTCFの和を用いて輸送係数を表すことができる。そして、各領域についてのTCFの部分を各領域の輸送係数とすれば、第1実施形態と同様に不均一系の輸送係数を解析することができる。
【符号の説明】
【0052】
S2 分割部
S3 運動計算部
S4 物理量算出部
S5 時間相関関数算出部
S6 輸送係数算出部
図1
図2
図3
図4