(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】熱伝導率推定方法、熱伝導率推定装置、半導体結晶製品の製造方法、熱伝導率演算装置、熱伝導率演算プログラム、および、熱伝導率演算方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20220419BHJP
C30B 35/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G01N25/18 L
C30B35/00
(21)【出願番号】P 2018222618
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
(72)【発明者】
【氏名】藤原 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄介
(72)【発明者】
【氏名】宇治原 徹
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-275170(JP,A)
【文献】特開2006-064413(JP,A)
【文献】特開平08-211946(JP,A)
【文献】特開2018-169818(JP,A)
【文献】ZHANG Liqiang et al.,Inverse identification of interfacial heat transfer coefficient between the casting and metal mold u,Energy Conversion and Management,2010年03月19日,Vol.51, Issue 10,pp.1898-1904
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体結晶製品の製造装置の構成部材を測定試料として準備するステップと、
測定試料の一部を所定の加熱条件で加熱して、定常状態における前記測定試料の表面の温度分布を測定するステップと、
前記測定試料と同じ形状の試料モデルの仮の熱伝導率および加熱条件の複数の組み合わせについて伝熱シミュレーションを実施して、前記複数の組み合わせのそれぞれについて前記試料モデルの表面の温度分布を計算するステップと、
前記伝熱シミュレーションで用いた前記複数の組み合わせおよび当該複数の組み合わせから得られた温度分布の計算結果を訓練データとして、入力を前記測定試料の表面の温度分布とし、出力を前記測定試料の熱伝導率とする回帰モデルを、機械学習法を用いて作成するステップと、
前記測定試料の表面の温度分布測定結果を前記回帰モデルに入力して、前記測定試料の熱伝導率を推定するステップとを備えていることを特徴する熱伝導率推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱伝導率推定方法において、
前記回帰モデルを、機械学習法を用いて作成するステップは、入力を前記測定試料の表面の温度分布と当該温度分布測定時の加熱条件とにする回帰モデルを作成し、
前記熱伝導率を推定するステップは、前記温度分布測定結果と前記温度分布測定時の加熱条件とを前記回帰モデルに入力して、前記測定試料の熱伝導率を推定することを特徴とする熱伝導率推定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱伝導率推定方法において、
前記試料モデルの表面の温度分布を計算するステップは、前記温度分布の測定時と同じ測定系を前提とした伝熱シミュレーションを実施することを特徴とする熱伝導率推定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導率推定方法において、
前記試料モデルの表面の温度分布を計算するステップは、前記表面の温度分布の測定時と同じ雰囲気を前提とした伝熱シミュレーションを実施することを特徴とする熱伝導率推定方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導率推定方法において、
前記測定試料が、前記構成部材の代替材料であることを特徴とする熱伝導率推定方法。
【請求項6】
測定試料として準備された半導体結晶製品の製造装置の構成部材の一部を所定の加熱条件で加熱して、定常状態における前記測定試料の表面の温度分布を測定する測定部と、
前記測定試料と同じ形状の試料モデルの仮の熱伝導率および加熱条件の複数の組み合わせについて伝熱シミュレーションを実施して、前記複数の組み合わせのそれぞれについて前記試料モデルの表面の温度分布を計算する計算部と、
前記伝熱シミュレーションで用いた前記複数の組み合わせおよび当該複数の組み合わせから得られた温度分布の計算結果を訓練データとして、入力を前記測定試料の表面の温度分布とし、出力を前記測定試料の熱伝導率とする回帰モデルを、機械学習法を用いて作成する機械学習部と、
前記測定試料の表面の温度分布測定結果を前記回帰モデルに入力して、前記測定試料の熱伝導率を推定する推定部とを備えていることを特徴する熱伝導率推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の熱伝導率推定装置において、
前記機械学習部は、入力を前記測定試料の表面の温度分布と当該温度分布測定時の加熱条件とにする回帰モデルを作成し、
前記推定部は、前記温度分布測定結果と前記温度分布測定時の加熱条件とを前記回帰モデルに入力して、前記測定試料の熱伝導率を推定することを特徴とする熱伝導率推定装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の熱伝導率推定装置において、
前記計算部は、前記表面の温度分布の測定時と同じ測定系を前提とした伝熱シミュレーションを実施することを特徴する熱伝導率推定装置。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の熱伝導率推定装置において、
前記計算部は、前記表面の温度分布の測定時と同じ雰囲気を前提とした伝熱シミュレーションを実施することを特徴する熱伝導率推定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の熱伝導率推定装置において、
前記測定部は、前記測定試料を収容する測定ケースを備えていることを特徴とする熱伝導率推定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の熱伝導率推定装置において、
前記測定部は、前記測定ケースの温度を一定温度に維持する温度維持部を備えていることを特徴とする熱伝導率推定装置。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の熱伝導率推定装置において、
前記測定部は、前記測定ケース内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入部を備えていることを特徴とする熱伝導率推定装置。
【請求項13】
請求項6から請求項12のいずれか一項に記載の熱伝導率推定装置において、
前記測定部は、前記測定試料を加熱する加熱部と、前記加熱部の熱が雰囲気を介して前記測定試料の表面に伝わることを抑制する伝熱抑制部とを備えていることを特徴とする熱伝導率推定装置。
【請求項14】
半導体結晶製品の製造装置の構成部材を測定試料として準備するステップと、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱伝導率推定方法、または、請求項6から請求項13のいずれか一項に記載の熱伝導率推定装置を用いて、前記構成部材の熱伝導率を推定するステップと、
前記熱伝導率の推定結果を用いて、前記半導体結晶製品の製造工程の伝熱シミュレーションを行うステップと、
前記製造工程の伝熱シミュレーションの結果に基づき前記半導体結晶製品の製造装置を制御して、半導体結晶製品を製造するステップとを備えていることを特徴とする半導体結晶製品の製造方法。
【請求項15】
半導体用の結晶成長装置の構成部材の単一または複数個所の温度を測定するための測定手段と、
複数の入力に基づいて前記構成部材の熱伝導率を出力する回帰モデルを用いて、前記測定手段で測定した温度に基づいて、前記構成部材の熱伝導率を演算する演算部とを備え
、
前記回帰モデルは、
機械学習によるモデルであり、
変数として取り扱われる物性値および各種パラメータを変動させた場合の前記構成部材の温度をシミュレーションにより求め、
前記シミュレーションで求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせを訓練データとして前記機械学習によって導出されたモデルであることを特徴とする熱伝導率演算装置。
【請求項16】
請求項1
5に記載の熱伝導率演算装置において、
変数として取り扱われる前記物性値は、前記構成部材の熱伝導率を含むことを特徴とする熱伝導率演算装置。
【請求項17】
請求項15
または請求項1
6に記載の熱伝導率演算装置において、
前記結晶成長装置内に配置されている結晶を加熱する加熱手段をさらに備え、
前記加熱手段は、前記演算部で演算された前記構成部材の熱伝導率に基づいて、前記結晶の加熱状態を制御することを特徴とする熱伝導率演算装置。
【請求項18】
請求項15から請求項1
7のいずれか一項に記載の熱伝導率演算装置において、
前記測定手段は赤外線サーモグラフィまたは熱電対であることを特徴とする熱伝導率演算装置。
【請求項19】
測定手段を備えた熱伝導率演算装置のコンピュータが読み取り可能な熱伝導率演算プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記測定手段を用いて半導体用の結晶成長装置の構成部材の単一または複数個所の温度を測定する測定処理と、
変数として取り扱われる物性値および各種パラメータを変動させた場合の前記構成部材の温度をシミュレーションにより求めるシミュレーション処理と、
前記シミュレーション処理で求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせを訓練データとして機械学習によって、複数の入力に基づいて前記構成部材の熱伝導率を出力する回帰モデルを導出する導出処理と、
前記回帰モデルを用いて、前記測定処理で測定した温度に基づいて、前記構成部材の熱伝導率を演算する演算処理とを実行させることを特徴とする熱伝導率演算プログラム。
【請求項20】
請求項
19に記載の熱伝導率演算プログラムにおいて、
変数として取り扱われる前記物性値は、前記構成部材の熱伝導率を含むことを特徴とする熱伝導率演算プログラム。
【請求項21】
請求項
19または請求項2
0に記載の熱伝導率演算プログラムにおいて、
前記演算処理で演算された前記構成部材の熱伝導率に基づいて、前記結晶成長装置内に配置されている結晶の加熱状態を制御する加熱処理を、前記コンピュータにさらに実行させることを特徴とする熱伝導率演算プログラム。
【請求項22】
請求項
19から請求項2
1のいずれか一項に記載の熱伝導率演算プログラムにおいて、
前記測定手段は赤外線サーモグラフィまたは熱電対であることを特徴とする熱伝導率演算プログラム。
【請求項23】
測定手段を用いて半導体用の結晶成長装置の構成部材の単一または複数個所の温度を測定する測定ステップと、
変数として取り扱われる物性値および各種パラメータを変動させた場合の前記構成部材の温度をシミュレーションにより求めるシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップで求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせを訓練データとして機械学習によって、複数の入力に基づいて前記構成部材の熱伝導率を出力する回帰モデルを導出する導出ステップと、
前記回帰モデルを用いて、前記測定ステップで測定した温度に基づいて、前記構成部材の熱伝導率を演算する演算ステップとを備えていることを特徴とする熱伝導率演算方法。
【請求項24】
請求項2
3に記載の熱伝導率演算方法において、
変数として取り扱われる前記物性値は、前記構成部材の熱伝導率を含むことを特徴とする熱伝導率演算方法。
【請求項25】
請求項2
3または請求項
24に記載の熱伝導率演算方法において、
前記演算ステップで演算された前記構成部材の熱伝導率に基づいて、前記結晶成長装置内に配置されている結晶の加熱状態を制御する加熱ステップをさらに備えていることを特徴とする熱伝導率演算方法。
【請求項26】
請求項2
3から請求項
25のいずれか一項に記載の熱伝導率演算方法において、
前記測定手段は赤外線サーモグラフィまたは熱電対であることを特徴とする熱伝導率演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率推定方法、熱伝導率推定装置、半導体結晶製品の製造方法、熱伝導率演算装置、熱伝導率演算プログラム、および、熱伝導率演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体単結晶、特にシリコン単結晶の育成に関する伝熱シミュレーション技術として、特許文献1に記載のような技術が知られている。
特許文献1に記載の方法では、小口径の結晶育成時の実測値で最適化させた伝熱解析プログラムを、大口径の単結晶を育成時の結晶の性質に合うように結晶成長装置内の熱パラメータを修正することにより、大口径結晶育成時の結晶温度分布を推定している。
【0003】
また、半導体単結晶や半導体基板などの半導体結晶製品の製造技術として、特許文献2~5に記載のような技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-275170号公報
【文献】特開2018-43890号公報
【文献】特開2000-52225号公報
【文献】特開2007-283435号公報
【文献】特開2010-34337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような方法では、育成された結晶の特性から、伝熱シミュレーションに用いる装置内部の部材の熱伝導率や輻射率などの熱パラメータを推定して修正している。そのため、結晶成長装置が実際に存在し、結晶の育成が実施できないと伝熱シミュレーションを行うことができない。また、結晶育成装置内の部材は、長期にわたる高温によって経時変化をおこすため、一つの結晶製造装置で経時的に多数の結晶を引き上げないと伝熱シミュレーションの精度を上げることができない。
【0006】
実際に結晶を育成しなくても、結晶育成装置内の伝熱シミュレーションを実施できるようにするためには、結晶装置内の材質の熱パラメータを精度良く測定する必要がある。しかしながら、特に熱伝導率の測定は、測定法に特化した専用の特殊な機構を有する装置が必要である。また、試料をそれぞれの測定法が要求するサイズ、形状、表面状態に加工する必要があるため、簡単には測定することができない。
【0007】
また、特許文献2~5に挙げたように熱伝導率は半導体基板、特にシリコンウェーハの製造工程においても、非常に重要な熱パラメータであり、製造に使用される部材の熱伝導率を適正化することによって、適切な伝熱シミュレーションを行うことができると期待される。
【0008】
本発明の目的は、半導体結晶製品の製造工程における様々な伝熱解析を行うに当たり、熱伝導率を簡便に推定できる熱伝導率推定方法、熱伝導率推定装置、半導体結晶製品の製造方法、熱伝導率演算装置、熱伝導率演算プログラム、および、熱伝導率演算方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱伝導率推定方法は、半導体結晶製品の製造装置の構成部材を測定試料として準備するステップと、測定試料の一部を所定の加熱条件で加熱して、定常状態における前記測定試料の表面の温度分布を測定するステップと、前記測定試料と同じ形状の試料モデルの仮の熱伝導率および加熱条件の複数の組み合わせについて伝熱シミュレーションを実施して、前記複数の組み合わせのそれぞれについて前記試料モデルの表面の温度分布を計算するステップと、前記伝熱シミュレーションで用いた前記複数の組み合わせおよび当該複数の組み合わせから得られた温度分布の計算結果を訓練データとして、入力を前記測定試料の表面の温度分布とし、出力を前記測定試料の熱伝導率とする回帰モデルを、機械学習法を用いて作成するステップと、前記測定試料の表面の温度分布測定結果を前記回帰モデルに入力して、前記測定試料の熱伝導率を推定するステップとを備えていることを特徴する。
本発明の熱伝導率推定装置は、測定試料として準備された半導体結晶製品の製造装置の構成部材の一部を所定の加熱条件で加熱して、定常状態における前記測定試料の表面の温度分布を測定する測定部と、前記測定試料と同じ形状の試料モデルの仮の熱伝導率および加熱条件の複数の組み合わせについて伝熱シミュレーションを実施して、前記複数の組み合わせのそれぞれについて前記試料モデルの表面の温度分布を計算する計算部と、前記伝熱シミュレーションで用いた前記複数の組み合わせおよび当該複数の組み合わせから得られた温度分布の計算結果を訓練データとして、入力を前記測定試料の表面の温度分布とし、出力を前記測定試料の熱伝導率とする回帰モデルを、機械学習法を用いて作成する機械学習部と、前記測定試料の表面の温度分布測定結果を前記回帰モデルに入力して、前記測定試料の熱伝導率を推定する推定部とを備えていることを特徴する。
【0010】
本発明によれば、試料モデルの形状を測定試料と同じ形状に設定する一方で、材質を何も設定せずに、当該試料モデルの仮の熱伝導率および加熱条件の複数の組み合わせについて伝熱シミュレーションを実施する。次に、この伝熱シミュレーションの結果を訓練データとして、機械学習法を用いて回帰モデルを作成する。この後、測定試料の一部を加熱したときの表面の温度分布測定結果を回帰モデルに入力することで、測定試料の熱伝導率を推定する。
このように、回帰モデルを作成する際に、試料モデルの材質を考慮に入れていないため、当該回帰モデルを用いて材質が異なる様々な測定試料の熱伝導率を簡便に推定できる。その結果、半導体結晶製品の製造工程における様々な伝熱解析を行うに当たり、熱伝導率を簡便に推定できる。
【0011】
本発明の熱伝導率推定方法において、前記回帰モデルを、機械学習法を用いて作成するステップは、入力を前記測定試料の表面の温度分布と当該温度分布測定時の加熱条件とにする回帰モデルを作成し、前記熱伝導率を推定するステップは、前記温度分布測定結果と前記温度分布測定時の加熱条件とを前記回帰モデルに入力して、前記測定試料の熱伝導率を推定することが好ましい。
本発明の熱伝導率推定装置において、前記機械学習部は、入力を前記測定試料の表面の温度分布と当該温度分布測定時の加熱条件とにする回帰モデルを作成し、前記推定部は、前記温度分布測定結果と前記温度分布測定時の加熱条件とを前記回帰モデルに入力して、前記測定試料の熱伝導率を推定することが好ましい。
【0012】
本発明によれば、測定試料の熱伝導率の推定精度が向上する。
【0013】
本発明の熱伝導率推定方法において、前記試料モデルの表面の温度分布を計算するステップは、前記温度分布の測定時と同じ測定系を前提とした伝熱シミュレーションを実施することが好ましい。
本発明の熱伝導率推定装置において、前記計算部は、前記表面の温度分布の測定時と同じ測定系を前提とした伝熱シミュレーションを実施することが好ましい。
【0014】
本発明によれば、伝熱シミュレーションの精度が向上すると、回帰モデルの精度も向上し、その結果、測定試料の熱伝導率の推定精度が向上する。
【0015】
本発明の熱伝導率推定方法において、前記試料モデルの表面の温度分布を計算するステップは、前記表面の温度分布の測定時と同じ雰囲気を前提とした伝熱シミュレーションを実施することが好ましい。
本発明の記載の熱伝導率推定装置において、前記計算部は、前記表面の温度分布の測定時と同じ雰囲気を前提とした伝熱シミュレーションを実施することが好ましい。
【0016】
本発明によれば、伝熱シミュレーションの精度が向上すると、回帰モデルの精度も向上し、その結果、測定試料の熱伝導率の推定精度が向上する。
【0017】
本発明の熱伝導率推定方法において、前記測定試料が、前記構成部材の代替材料であっても良い。
【0018】
本発明によれば、測定試料を容易に入手できる。
【0019】
本発明の熱伝導率推定装置において、前記測定部は、前記測定試料を収容する測定ケースを備えていることが好ましい。
【0020】
本発明によれば、測定試料周辺の雰囲気が測定ケース外側の雰囲気によって変化することを抑制でき、回帰モデルの作成時に用いた雰囲気と同じ雰囲気で測定試料の温度分布を測定でき、熱伝導率の推定精度が向上する。
【0021】
本発明の熱伝導率推定装置において、前記測定部は、前記測定ケースの温度を一定温度に維持する温度維持部を備えていることが好ましい。
【0022】
本発明によれば、測定試料周辺の雰囲気温度が測定ケース外側の温度によって変化することを抑制でき、回帰モデルの作成時に用いた温度と同じ雰囲気温度で測定試料の温度分布を測定できる。
【0023】
本発明の熱伝導率推定装置において、前記測定部は、前記測定ケース内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入部を備えていることが好ましい。
【0024】
本発明によれば、測定試料表面が酸化されてしまい、当該表面の温度分布に酸化物の影響が生じることを抑制できる。
【0025】
本発明の熱伝導率推定装置において、前記測定部は、前記測定試料を加熱する加熱部と、前記加熱部の熱が雰囲気を介して前記測定試料の表面に伝わることを抑制する伝熱抑制部とを備えていることが好ましい。
【0026】
本発明によれば、伝熱抑制部によって、加熱部からの熱が輻射および周囲の雰囲気を介して測定試料の表面に伝わってしまうことを抑制でき、当該熱が測定試料の表面を不必要に温め、その温度分布を小さくしてしまうことを抑制できる。
【0027】
本発明の半導体結晶製品の製造方法は、半導体結晶製品の製造装置の構成部材を測定試料として準備するステップと、上述の熱伝導率推定方法、または、上述の熱伝導率推定装置を用いて、前記構成部材の熱伝導率を推定するステップと、前記熱伝導率の推定結果を用いて、前記半導体結晶製品の製造工程の伝熱シミュレーションを行うステップと、前記製造工程の伝熱シミュレーションの結果に基づき前記半導体結晶製品の製造装置を制御して、半導体結晶製品を製造するステップとを備えていることを特徴とする。
【0028】
本発明の熱伝導率演算装置は、半導体用の結晶成長装置の構成部材の単一または複数個所の温度を測定するための測定手段と、複数の入力に基づいて前記構成部材の熱伝導率を出力する回帰モデルを用いて、前記測定手段で測定した温度に基づいて、前記構成部材の熱伝導率を演算する演算部とを備えていることを特徴とする。
本発明の熱伝導率演算プログラムは、測定手段を備えた熱伝導率演算装置のコンピュータが読み取り可能な熱伝導率演算プログラムであって、前記コンピュータに、前記測定手段を用いて半導体用の結晶成長装置の構成部材の単一または複数個所の温度を測定する測定処理と、複数の入力に基づいて前記構成部材の熱伝導率を出力する回帰モデルを用いて、前記測定処理で測定した温度に基づいて、前記構成部材の熱伝導率を演算する演算処理とを実行させることを特徴とする。
本発明の熱伝導率演算方法は、測定手段を用いて半導体用の結晶成長装置の構成部材の単一または複数個所の温度を測定する測定ステップと、複数の入力に基づいて前記構成部材の熱伝導率を出力する回帰モデルを用いて、前記測定ステップで測定した温度に基づいて、前記構成部材の熱伝導率を演算する演算ステップとを備えていることを特徴とする。
【0029】
本発明によれば、構成部材の温度から当該構成部材の熱伝導率を演算することができる。構成部材の形状や測定環境などの制限なく熱伝導率を演算できるため、熱伝導率をその場で演算することができる。その結果、構成部材の熱伝導率を簡便に推定でき、熱伝導率の経時変化などに対応することが可能になる。
【0030】
本発明の熱伝導率演算装置において、前記回帰モデルは、変数として取り扱われる物性値および各種パラメータを変動させた場合の前記構成部材の温度をシミュレーションにより求め、前記シミュレーションで求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせから導出されたモデルであることが好ましい。
本発明の熱伝導率演算プログラムにおいて、変数として取り扱われる物性値および各種パラメータを変動させた場合の前記構成部材の温度をシミュレーションにより求めるシミュレーション処理と、前記シミュレーション処理で求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせから前記回帰モデルを導出する導出処理とを前記コンピュータにさらに実行させることが好ましい。
本発明の熱伝導率演算方法において、変数として取り扱われる物性値および各種パラメータを変動させた場合の前記構成部材の温度をシミュレーションにより求めるシミュレーションステップと、前記シミュレーションステップで求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせから前記回帰モデルを導出する導出ステップとをさらに備えていることが好ましい。
【0031】
本発明の熱伝導率演算装置において、変数として取り扱われる前記物性値は、前記構成部材の熱伝導率を含むことが好ましい。
本発明の熱伝導率演算プログラムにおいて、変数として取り扱われる前記物性値は、前記構成部材の熱伝導率を含むことが好ましい。
本発明の熱伝導率演算方法において、変数として取り扱われる前記物性値は、前記構成部材の熱伝導率を含むことが好ましい。
【0032】
本発明の熱伝導率演算装置において、前記回帰モデルは機械学習によるモデルであり、前記回帰モデルは、前記シミュレーションで求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせを訓練データとして前記機械学習によって導出されたモデルであることが好ましい。
本発明の熱伝導率演算プログラムにおいて、前記回帰モデルは機械学習によるモデルであり、前記導出処理は、前記シミュレーション処理で求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせを訓練データとして前記機械学習によって前記回帰モデルを導出することが好ましい。
本発明の熱伝導率演算方法において、前記回帰モデルは機械学習によるモデルであり、前記導出ステップは、前記シミュレーションステップで求められた前記物性値と前記パラメータと前記温度との組み合わせを訓練データとして前記機械学習によって前記回帰モデルを導出することが好ましい。
【0033】
本発明の熱伝導率演算装置において、前記結晶成長装置内に配置されている結晶を加熱する加熱手段をさらに備え、前記加熱手段は、前記演算部で演算された前記構成部材の熱伝導率に基づいて、前記結晶の加熱状態を制御することが好ましい。
本発明の熱伝導率演算プログラムにおいて、前記演算処理で演算された前記構成部材の熱伝導率に基づいて、前記結晶成長装置内に配置されている結晶の加熱状態を制御する加熱処理を、前記コンピュータにさらに実行させることが好ましい。
本発明の熱伝導率演算方法において、前記演算ステップで演算された前記構成部材の熱伝導率に基づいて、前記結晶成長装置内に配置されている結晶の加熱状態を制御する加熱ステップをさらに備えていることが好ましい。
【0034】
本発明の熱伝導率演算装置において、前記測定手段は赤外線サーモグラフィまたは熱電対であることが好ましい。
本発明の熱伝導率演算プログラムにおいて、前記測定手段は赤外線サーモグラフィまたは熱電対であることが好ましい。
本発明の熱伝導率演算方法において、前記測定手段は赤外線サーモグラフィまたは熱電対であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る熱伝導率推定装置の構成および熱伝導率推定方法を示す図。
【
図2】前記第1実施形態における熱伝導率推定装置を構成する測定部の模式図。
【
図3】前記第1実施形態および本発明の第2実施形態で用いるニューラルネットワークの階層構造を示す図。
【
図4】前記第2実施形態に係る結晶成長システムの構成を示す模式図。
【
図5】前記第2実施形態における熱伝導率演算方法を示すフローチャート。
【
図6】本発明の実施例における回帰モデルの評価結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、円柱状の測定試料の熱伝導率を推定する場合を例示するが、測定試料の形状は円柱状以外の形状であってもよい。
【0037】
〔熱伝導率推定装置の構成〕
図1に示すように、熱伝導率推定装置1は、円柱状の測定試料10(
図2参照)の熱伝導率を推定する装置であって、測定部2と、計算部3と、機械学習部4と、推定部5とを備えている。測定試料10としては、特に限定されないが、シリコン単結晶やシリコンウェーハなどの半導体結晶製品の製造装置の構成部材そのものや、当該構成部材と同じ材質あるいは類似した伝熱特性を持つ代替材料の試料を例示できる。シリコン単結晶の製造装置としては、チョクラルスキー法による単結晶引き上げ装置を例示できる。シリコンウェーハの製造装置としては、シリコン単結晶のスライス装置、シリコンウェーハの研磨装置、エピタキシャルシリコンウェーハの気相成長装置を例示できる。上述の製造装置の構成部材としては、単結晶引き上げ装置のホットゾーンを構成するパーツ(チャンバ、坩堝、ヒータ、引き上げケーブル、熱遮蔽体、断熱材)、単結晶引き上げ装置や気相成長装置の内壁材、気相成長装置のサセプタ、スライス装置や研磨装置の各部品を例示することができる。
【0038】
測定部2は、
図2に示すように、測定ケース21と、加熱部22と、伝熱抑制部23と、温度維持部24と、不活性ガス導入部25と、熱電対26と、測定手段27と、制御部28と備えている。なお、本実施形態では、測定ケース21、加熱部22、伝熱抑制部23および測定試料10の形状および配置が、軸対称の円筒形状、つまり上から見たときに円形かつその中心が一致するような配置となっている場合を例示するが、各構成要素10,21,22,23の形状は軸対称や円筒形状でなくてもよいし、少なくとも1つの構成要素10,21,22,23の中心が他の構成要素の中心からずれているような配置であってもよい。
本実施形態のように、測定系、すなわち測定部2の構成要素10,21,22,23を軸対称の円筒形状にすることによって、計算部3における伝熱シミュレーションモデルの構築が容易になる。
【0039】
測定ケース21は、外形がほぼ円柱の中空箱状に形成されている。測定ケース21の一側面には、観察窓211が設けられている。
【0040】
加熱部22は、ホットプレートであり、測定ケース21の底面中央に配置されている。加熱部22は、面積が測定試料10の下面11よりも大きい円形の加熱面221を有している。
【0041】
伝熱抑制部23は、加熱部22の熱が測定試料10の表面(側面)12に伝わることを抑制する。伝熱抑制部23は、熱伝達部材231と、断熱部材232とを備えている。
【0042】
熱伝達部材231は、アルミニウム製の円板状の部材であり、測定試料10が載置される第1接触面としての上面231Aと、加熱部22と接触する第2接触面としての下面231Bと、上面231Aおよび下面231Bの間に位置する側面231Cとを備えている。上面231Aおよび下面231Bは、測定試料10の接触面としての下面11と同じ形状を有している。熱伝達部材231は、加熱面221の中央に配置されている。熱伝達部材231は、加熱部22からの熱を測定試料10の下面11に可能な限り多く伝える機能を有することが好ましい。このような観点から、熱伝達部材231の熱伝導率は高い方が好ましく、例えば200W/mK以上であることが好ましい。
【0043】
断熱部材232は、カーボン製の部材であり、厚さが熱伝達部材231とほぼ同じ、かつ、中空部の直径が熱伝達部材231の外径とほぼ同じ大きさの円環板状に形成されている。断熱部材232の中空部には、熱伝達部材231が嵌め込まれる。つまり、断熱部材232は、熱伝達部材231の側面231C全体を覆うように、かつ、その中心が加熱面221の中心と一致するように設けられている。このような構成によって、断熱部材232は、加熱部22からの熱と、熱伝達部材231からの熱とが輻射および周囲の雰囲気を介して測定試料10の表面12に伝わってしまうことを抑制できる。このような観点から、断熱部材232の熱伝導率は低い方が好ましく、例えば1W/mK以下であることが好ましい。また、断熱部材232は、熱伝達部材231の側面231C全体を覆う円環板状の部分に加えて、加熱部22の側面全体を覆う円筒状の部分を備えていてもよい。
【0044】
熱伝達部材231と断熱部材232とで構成された伝熱抑制部23によって、加熱部22からの熱を測定試料10の下面11のみに多く伝えるとともに、加熱部22からの熱が測定試料10の表面12に輻射および周囲の雰囲気を介して伝わってしまうことを抑制する必要がある。このような観点から、熱伝達部材231と断熱部材232の材質および厚さを、加熱部22の加熱量に応じて適切に選択することが好ましい。
【0045】
温度維持部24は、測定ケース21を一定温度に維持するために測定ケース21を水冷する。測定ケース21を一定温度に維持するための方式としては、水冷に限らず空冷やヒートシンクを用いてもよい。
【0046】
不活性ガス導入部25は、測定ケース21内を不活性ガスに置換する。不活性ガスとしては、窒素やアルゴンが例示できるが、これらに限られない。
【0047】
熱電対26は、加熱部22の加熱面221と熱伝達部材231の下面231Bとの間に配置されている。熱電対26は、制御部28に電気的に接続されている。なお、
図2において、構成を理解しやすくするために、加熱面221が熱電対26と同じ形状に凹んでいるように図示しているが、実際は、加熱面221はほぼ平面となっている。しかし、熱電対26が極めて薄いため、熱電対26が配置された状態でも、加熱面221と下面231Bとが密着している。
【0048】
測定手段27は、サーモビューアであり、測定ケース21の観察窓211に対向する位置に配置されている。測定手段27は、制御部28に電気的に接続されている。測定手段27は、測定試料10の温度分布を測定し、その測定結果を制御部28に出力する。
【0049】
制御部28は、温度維持部24が水冷や空冷で温度を制御する構成の場合、測定ケース21が一定温度となるように温度維持部24を制御する。制御部28は、不活性ガス導入部25を制御して、測定ケース21内を不活性ガス雰囲気にする。制御部28は、熱電対26における温度測定結果に基づいて加熱部22を制御する。制御部28は、定常状態となったときの測定試料10の温度分布を測定手段27から取得して、推定部5に出力する。
【0050】
計算部3は、訓練データを作成する。訓練データとは、目標とするネットワークの関数を定めるために、「ある入力xに対する望ましい出力d」というような、関数の入力と出力のペアの集合である。訓練データは、機械学習部4において、機械学習法を利用した回帰モデルの作成に用いられる。
回帰モデルの作成には大量の訓練データの収集が必要であるが、実験による収集は難しい。そこで、本実施形態では、解析ソフトを用いたシミュレーションにより訓練データを作成する。
計算部3は、測定試料10と同じ形状の試料モデルの仮の熱伝導率および加熱条件の複数の組み合わせについて伝熱シミュレーションを実施して、当該複数の組み合わせのそれぞれについて試料モデルの表面の温度分布を計算する。この計算に際し、計算部3は、測定ケース21内および内外の電熱を熱伝導、熱伝達、熱輻射の観点から考慮して、既知の物理モデルに基づき伝熱シミュレーションを実施する。
計算部3は、表面の温度分布の計算結果、表面の温度分布の計算に用いた仮の熱伝導率および加熱条件の組み合わせを、訓練データとして機械学習部4に出力する。計算部3に用いる解析ソフトとしては、特に限定されず、市販されているものを用いることができる。
【0051】
機械学習部4は、計算部3から入力された訓練データを用いて、入力を測定試料10の温度分布、出力を測定試料10の熱伝導率とする回帰モデルを、機械学習法を用いて作成する。機械学習部4は、作成した回帰モデルを推定部5に出力する。機械学習部4で行う機械学習法としては、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムを用いた方法が例示できるが、特に限定されず周知の方法(サポートベクターマシンや、スパースモデルなど)を用いることができる。
【0052】
機械学習法とは、大量のデータの規則性をコンピュータにより発見し、得られた規則性を用いることで、データの解析や予測に役立てる方法である。機械学習法の大きな特徴として、学習に成功していれば、訓練時に学習していない未知の情報からも結果の予測が可能になる点が挙げられる。回帰とは、出力に数値などの連続値を取るような関数を対象に、訓練データをよく再現するような関数を定めることをいう。
【0053】
本実施形態では、機械学習部4は、ニューラルネットワークを用いて回帰モデルを作成する。ニューラルネットワークは生物の神経回路網を模倣した技術である。
ニューラルネットワークによって回帰モデルの回帰を行った際の使用モデルについて説明する。
図3に示すように、本実施形態のニューラルネットワークは、l層、m層、n層を含む階層構造を備えている。l層は入力層である。m層は隠れ層である。n層は出力層である。l層には、測定試料10の温度分布が入力される。隠れ層は、2層、ニューロン数は128個とした。n層は、測定試料10の熱伝導率を出力する。本実施形態では、活性化関数にはシグモイド関数を使用し、学習率の調整にはAdam(Adaptive Moment Estimation)を用いた。
【0054】
推定部5は、測定部2から測定試料10の表面12の温度分布測定結果を取得し、当該温度分布測定結果を回帰モデルに入力して、測定試料10の熱伝導率を推定する。
【0055】
〔熱伝導率推定方法〕
次に、上述の熱伝導率推定装置1を用いた熱伝導率推定方法について説明する。
図1に示すように、作業者は、上述の構成を有する測定部2を構築する(ステップS1)。
【0056】
ステップS1の処理の前後、または、ステップS1の処理と並行して、計算部3は、作業者の設定入力に基づいて、測定部2を模擬したシミュレーションモデルを構築する(ステップS2)。シミュレーションモデルを構築するに際し、構成要素のサイズや物性値を既知の値として設定する。サイズが設定される構成要素としては、測定ケース21の内部空間の形状、測定試料10、加熱部22、熱伝達部材231および断熱部材232の外形状が例示できる。設定される物性値としては、測定ケース21内の温度、圧力、雰囲気および対流の発生状況、熱伝達部材231および断熱部材232の熱伝導率が例示できる。以下において、シミュレーションモデルにおいて測定試料10に相当する構成を、「試料モデル」という。
【0057】
ステップS2の処理の後、計算部3は、シミュレーションモデルに基づく伝熱シミュレーションを実施して、訓練データを生成する(ステップS3)。このステップS3の処理に際し、計算部3は、作業者の設定入力に基づいて、試料モデルの仮の熱伝導率の範囲と加熱温度の範囲とを設定した後、上記範囲内において、仮の熱伝導率と加熱温度とを任意に組み合わせた複数の計算条件を設定する。機械学習部4における回帰モデルの精度を向上させるという観点から、ここで設定する計算条件は多い方が好ましい。
計算部3は、この複数の計算条件のそれぞれに対して伝熱シミュレーションを実施し、試料モデルの下面のみを加熱した場合における定常状態での表面12の温度分布を計算する。このとき、機械学習部4における回帰モデルの精度を向上させるという観点から、測定部2と同じ測定系や温度分布測定時と同じ雰囲気を前提とした計算を行うことが好ましい。計算部3は、仮の熱伝導率と、加熱温度と、これらに基づき得られた表面12の温度分布との組み合わせを、訓練データとして機械学習部4に出力する。なお、訓練データは、作業者の設定入力によって機械学習部4に入力されてもよい。
【0058】
ステップS3の処理の後、機械学習部4は、訓練データを用いて、入力を測定部2からの測定試料10の表面12の温度分布測定結果および温度分布測定時の加熱条件とし、出力を測定試料10の熱伝導率とする回帰モデルを作成し(ステップS4)、当該回帰モデルを推定部5に出力する。なお、回帰モデルは、作業者の設定入力によって推定部5に入力されてもよい。
【0059】
ステップS2~S4の処理の前後、または、ステップS2~S4の処理と並行して、測定部2は、計算部3で構築されたシミュレーションモデルと同じ条件下において、試料モデルと同じ形状の測定試料10の温度分布を測定する(ステップS5)。
このステップS5の処理に際し、測定部2の制御部28は、熱電対26における温度測定結果に基づいて、測定試料10の下面11の温度を推定する。このとき、熱伝達部材231として熱伝導率が高い(200W/mK)アルミニウム製の部材を用いているため、熱電対26に基づく下面11の推定温度は、下面11の実際の温度とほぼ同じになる。制御部28は、この推定温度が作業者の設定入力に基づき設定された加熱温度(設定加熱温度)と同じになるように、加熱部22を制御する。
制御部28は、測定手段27を制御して、測定試料10の温度分布測定結果を所定間隔で取得し、下面11の推定温度と設定加熱温度との差が許容範囲内になり、かつ、温度分布の経時変化がなくなったときの(定常状態になったときの)温度分布を、推定部5に出力する。
【0060】
推定部5において測定試料10の熱伝導率を高精度に推定するためには、温度勾配が一方向となるように、測定試料10の1箇所のみを加熱したときの温度分布を用いることが好ましく、本実施形態においては、測定試料10の下面のみを加熱したときの温度分布を用いることが好ましい。
測定試料10を加熱部22の加熱面221上に載置して加熱する場合には、加熱部22からの輻射熱も測定手段27で測定されてしまい、測定試料10の温度分布測定結果に影響を及ぼす可能性がある。
本実施形態では、測定試料10が熱伝達部材231上に載置されているため、加熱部22から測定試料10下部までの距離を長くすることができ、加熱部22の熱が測定試料10の周囲の雰囲気に伝わってしまうことを抑制できる。特に、熱伝達部材231の側面231C全体が断熱部材232で覆われているため、測定試料10の下部の周囲の雰囲気に伝わる加熱面221からの熱をより効果的に低減できる。したがって、測定試料10表面12のみの温度を反映させた温度分布を測定手段27で測定でき、測定試料10の熱伝導率を高精度に推定できる。
【0061】
制御部28は、シミュレーションモデルにおいて、測定ケース21の温度が所定温度に設定されている場合、温度維持部24を制御して、測定ケース21の温度を設定温度に調整することが好ましい。このような構成にすれば、測定試料10周辺の雰囲気温度が測定ケース21外側の温度によって変化することを抑制でき、シミュレーションモデルと同じ条件で測定試料10の温度分布を測定できる。
制御部28は、シミュレーションモデルにおいて、測定ケース21内が不活性ガス雰囲気に設定されている場合、不活性ガス導入部25を制御して、測定ケース21内を不活性ガスに置換することが好ましい。このような構成にすれば、加熱によって測定試料10の表面12が酸化されてしまうことを抑制でき、当該表面12の温度分布に酸化物の影響が生じることを抑制できる。
【0062】
ステップS4およびステップS5の処理の後、推定部5は、測定部2からの温度分布測定結果および温度分布測定時の加熱条件を回帰モデルに入力して、測定試料10の熱伝導率を推定する(ステップS6)。
【0063】
〔熱伝導率の推定結果の利用方法〕
測定試料10として、半導体単結晶や半導体基板などの半導体結晶製品の製造装置の構成部材を採用し、上述の熱伝導率推定方法を実施することによって、当該構成部材の熱伝導率を簡便に推定できる。
この熱伝導率の推定結果を、半導体単結晶や半導体基板の製造工程の伝熱シミュレーションに用い、この製造工程の伝熱シミュレーション結果に基づき半導体単結晶や半導体基板の製造装置を制御することによって、所望の特性を有する製品を容易に製造できる。
構成部材の代わりに、類似した伝熱特性を持つ代替材料を測定試料10として用いることもできる。
【0064】
〔第1実施形態の作用効果〕
第1実施形態によれば、熱伝導率推定装置1は、試料モデルの形状を測定試料10と同じ形状に設定する一方で、材質を何も設定せずに、仮の熱伝導率を入力して伝熱シミュレーションを実施する。熱伝導率推定装置1は、伝熱シミュレーション結果に基づき、機械学習法を用いて回帰モデルを作成し、当該回帰モデルに測定試料10の表面12の温度分布測定結果を入力することで、測定試料10の熱伝導率を推定する。
このように、回帰モデルを作成する際に、試料モデルの材質を考慮に入れていないため、当該回帰モデルを用いて材質が異なる様々な測定試料10の熱伝導率を簡便に推定できる。さらに、半導体結晶製品の製造工程における様々な伝熱解析を行うに当たり、熱伝導率を簡便に推定できる。
特に、回帰モデルに温度分布測定結果および温度分布測定時の加熱条件を入力するため、熱伝導率の推定精度が向上する。
【0065】
〔第1実施形態の変形例〕
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0066】
例えば、ホットプレートを用いて測定試料10を下から加熱する構成を例示したが、上や横から加熱してもよい。ただし、伝熱シミュレーションの条件設定のしやすさの観点から、本実施形態のように下から加熱することが好ましい。
測定試料10の測定は、測定ケース21内で行われなくてもよい。
熱伝達部材231は熱伝導率が高ければ、アルミニウム製でなくてもよい。
断熱部材232は熱伝導率が低ければ、カーボン製でなくてもよい。
熱伝達部材231の周囲に断熱部材232を配置しなくてもよいし、測定試料10の下面11と加熱部22の加熱面221とを直接接触させて測定試料10を加熱してもよい。
測定部2は、温度維持部24および不活性ガス導入部25のうち少なくとも一方を備えていなくてもよい。
測定部2は、熱電対26を備えていなくてもよい。
測定手段27として、測定試料10の下端から上端にかけて複数箇所に取り付けられた熱電対を適用してもよい。
【0067】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図面を参照して説明する。
【0068】
〔結晶成長システムの構成〕
図4に示すように、結晶成長システム100は、結晶成長装置110と、熱伝導率演算装置120とを備えている。
【0069】
結晶成長装置110は、SiC結晶を液相成長させる装置である。結晶成長装置110は、筐体111と、坩堝収容部112と、回転部113と、結晶支持部114と、高周波コイル115と、坩堝116とを備えている。筐体111は、円筒外面の外壁面を有し、高周波コイル115および坩堝収容部112を格納している。坩堝収容部112は、坩堝116を収容している。坩堝収容部112の表面は、断熱材で覆われている。坩堝116は炭素素材(黒鉛)で形成されている。回転部113は、坩堝収容部112および坩堝116を回転させる部位である。結晶支持部114は、種結晶117および成長したSiC結晶119を回転可能に支持する部材である。高周波コイル115は、不図示の電源装置からの電源供給を受けて、坩堝116を誘導加熱する。
【0070】
坩堝116には融液118が収容される。融液118は、Siの溶液である。坩堝116から炭素原子が溶融する。したがって、SiCテンプレートである種結晶117を起点に、SiC結晶119を成長させることができる。
【0071】
熱伝導率演算装置120は、サーモカメラ(赤外線サーモグラフィ)121と、情報取得部122と、演算部123と、記憶部124と、温度制御部125とを備えている。サーモカメラ121は、結晶成長装置110が備えている構成部材の単一または複数個所の温度を測定するための測定手段である。具体的には、サーモカメラ121は、坩堝収容部112が備えている断熱材の表面温度分布を測定する。便宜上、
図4では、サーモカメラ121が高周波コイル115および筐体111を透過して測定している図を記載している。しかし実際には、筐体111や高周波コイル115の一部に、サーモカメラ121で測定するための窓部(不図示)を配置している。情報取得部122は、サーモカメラ121での測定結果を取得するインターフェースである。
【0072】
演算部123は、例えばCPUである。演算部123は、例えば記憶部124に記憶された熱伝導率演算プログラムに基づいて、機械学習により回帰モデルを作成したり、作成した回帰モデルを用いて坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率を演算する部位である。回帰モデルは、複数の入力に基づいて坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率を出力するために使用されるモデルである。複数の入力には、サーモカメラ121で測定した温度分布が含まれる。記憶部124は、後述するシミュレーション結果や、演算部で用いる各種データを記憶する部位である。記憶部124は、RAMやフラッシュメモリ、HDDなどの組み合わせであってもよい。
【0073】
第1実施形態で説明したように、熱伝導率を演算する回帰モデルの作成には、訓練データの収集が必要である。訓練データとは、関数の入力と出力のペアの集合である。訓練データの入力の一例としては、材料物性値および結晶成長条件が挙げられる。訓練データの出力の一例としては、坩堝収容部112の断熱材の表面温度分布、坩堝116内の融液118の温度分布、などが挙げられる。
【0074】
訓練データの入力である材料物性値の具体例としては、融液118、SiC結晶119、坩堝収容部112の物性値が挙げられる。融液118の物性値の具体例としては、熱伝導率、粘性係数、密度、比熱、輻射率、潜熱、接触角度、表面張力などが挙げられる。SiC結晶119の物性値の具体例としては、熱伝導率、比熱、電気伝導率、密度、弾性係数、膨張係数、輻射率などが挙げられる。坩堝収容部112の物性値の具体例としては、断熱材の仮の熱伝導率、比熱、密度、輻射率などが挙げられる。
【0075】
また訓練データの入力である結晶成長条件の具体例としては、坩堝116の回転速度、結晶支持部114の回転速度、坩堝116のサイズ、高周波コイル115に供給する電力、融液118の温度、筐体111内の気温などが挙げられる。
【0076】
第1実施形態で説明したように、大量の訓練データの実験による収集は難しいため、本実施形態でも、解析ソフトを用いたシミュレーションにより訓練データを収集する。
まず、CADデータから、結晶成長装置110の3次元モデルを作成する。本実施形態では、坩堝収容部112の3次元モデルを作成し、仮想的に格子(メッシュ)を設定する。
【0077】
次に、入力パラメータセットを複数設定する。入力パラメータセットは、材料物性値および結晶成長条件を含んでいる。本実施形態では、入力パラメータセットの材料物性値として、坩堝収容部112の断熱材の仮の熱伝導率を使用する。また入力パラメータセットの結晶成長条件として、坩堝収容部112の断熱材の表面温度、坩堝116の回転速度、結晶支持部114の位置や回転速度、坩堝116のサイズ、高周波コイル115に供給する電力、融液118の温度、筐体111内の気温を使用した。そして、これらの材料物性値や結晶成長条件を様々に異ならせた組み合わせを有する複数の入力パラメータセットを設定する。
【0078】
材料物性値(坩堝収容部112の断熱材の仮の熱伝導率)は、物質の物理的性質を示す数値であるため、本来は一定値である。しかし本実施形態では、複数の入力パラメータセットを設定する際に、材料物性値を変動させる。すなわち、材料物性値を変数として取り扱っている。これにより本実施形態に係る回帰モデルでは、材料物性値が変化する場合にも対応可能である。材料物性値が変化する場合の一例としては、坩堝収容部112の断熱材の劣化により、断熱材の熱伝導率が変化する場合が挙げられる。変数とする材料物性値の変化幅は、±10%の範囲内であることが好ましい。
【0079】
そして入力パラメータセットを用いて、シミュレーション計算を実施する。シミュレーションを実施する度に、1つの入力パラメータセットに対する1つの出力結果(坩堝収容部112の断熱材の表面温度分布)が得られる。シミュレーションを繰り返すことにより、例えば、10パターン以上10000パターン以下の結果が得られる。それらの結果は、記憶部124に記憶される。
【0080】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、ニューラルネットワークを用いて回帰モデルを作成する。具体的には、演算部123は、前述のシミュレーションにより記憶部124に蓄積された訓練データを用いて機械学習を行い、回帰モデルを作成する。
【0081】
本実施形態では、
図3に示すニューラルネットワークを用いる。ニューラルネットワークのl層には、サーモカメラ121の測定温度(坩堝収容部112の断熱材の表面温度)、坩堝116の回転速度、結晶支持部114の位置および回転速度、筐体111内の気温が入力される。n層は、坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率を出力する。本実施形態でも、活性化関数にはシグモイド関数を使用し、学習率の調整にはAdamを用いた。
【0082】
温度制御部125は、結晶成長装置110内に配置されている高周波コイル115に流す電流を制御する部位である。温度制御部125から高周波コイル115には、制御信号CSが出力されている。温度制御部125は、演算部123で演算された坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率に基づいて、坩堝116の加熱状態を制御する。
【0083】
〔熱伝導率演算方法〕
次に、回帰モデルを用いて熱伝導率を演算する手順を説明する。
図5に示すように、情報取得部122は、サーモカメラ121を用いて、坩堝収容部112の断熱材の表面温度分布を測定する(ステップS11)。次に、演算部123は、測定された表面温度分布内の複数座標について、温度情報を取得する(ステップS12)。この後、演算部123は、取得した複数座標の温度情報、筐体111内の気温、坩堝116の回転速度、結晶支持部114の位置および回転速度を、回帰モデルに入力する(ステップS13)。これにより、坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率の推定値を演算することができる。
【0084】
その後、温度制御部125は、演算された坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率に基づいて、高周波コイル115に供給する電力を制御する(ステップS14)。例えば、融液118の温度を一定に維持する場合には、断熱材の熱伝導率が大きくなるに従って(すなわち劣化が進むに従って)、供給電力を大きくしてもよい。そして、S11~S14の処理が繰り返される。
【0085】
〔第2実施形態の作用効果〕
熱伝導率を測定する方法として、レーザフラッシュ法などが知られている。しかし、これらの既存の測定方法では、試料状態や測定条件に様々な制約が存在する。例えば、測定試料が緻密で表面が均一な平板であるという制約や、真空断熱状態で測定を行うという制約などである。これにより、例えば、結晶成長装置110の様々な構成部材(例:坩堝収容部112の断熱材)の熱伝導率を測定することは困難であった。
第2実施形態の結晶成長システム100では、熱伝導率を出力する回帰モデルを用いることで、結晶成長装置110の構成部材の表面温度分布から、その構成部材の熱伝導率の推定値を簡便に演算することができる。試料状態や測定条件などの制限なく熱伝導率を演算できるため、結晶成長装置110の構成部材の熱伝導率の変化をその場で観察することが可能になる。
【0086】
結晶成長装置110では、融液118は2000℃を超える高温に加熱される。ある程度の時間が経過すると坩堝収容部112の断熱材の断熱性が使用中に劣化していくため、当初設定した条件が変化するため、融液118の温度を一定に維持することが困難である。
結晶成長システム100では、坩堝収容部112の表面温度分布から、坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率の変化を、その場で観察することができる。そして、その場で観察した熱伝導率に応じて坩堝116の加熱状態を制御することで、融液118の温度を一定に維持することができる。SiC結晶119を均一に成長させることが可能になる。
【0087】
〔第2実施形態の変形例〕
温度の測定対象や、熱伝導率の演算対象は、坩堝収容部112に限られず、結晶成長装置110の様々な構成部材であってもよい。例えば、坩堝116の表面温度を測定して坩堝内部の融液118の熱伝導率を演算してもよい。また坩堝116の表面温度を測定して坩堝116の熱伝導率を演算してもよい。
【0088】
熱伝導率の演算対象は、結晶成長装置110の構成部材であるとしたが、この形態に限られず、様々な装置の構成部材に対しても本明細書の技術を適用可能である。
【0089】
回帰モデルの入力として、サーモカメラ121の測定温度、筐体111内の気温、坩堝116の回転速度、結晶支持部114の位置および回転速度を用いる場合を説明したが、この形態に限られない。入力の一例で列挙した材料物性値および結晶成長条件のうちから選択された任意の組み合わせを、回帰モデルの入力として使用してもよい。
【0090】
回帰モデルの出力が、坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率である場合を説明したが、この形態に限られず、様々なパラメータを回帰モデルの出力とすることができる。例えば、融液118の熱伝導率、融液118の温度、などを出力としてもよい。
【0091】
結晶成長装置110の構成部材の温度を測定する手段は、サーモカメラ121に限られず、様々な手段を使用することが可能である。例えば、熱電対を用いてもよい。この場合、熱電対を構成部材(例:坩堝収容部112)の表面に貼り付ければ表面温度を測定することができ、構成部材の内部に差し込めば内部温度を測定することができる。他の測定手段として、ひずみゲージ等で部材の寸法変化等から、構成部材温度を逆算することもできる。
【0092】
機械学習の一例としてニューラルネットワークを使用する場合を説明したが、この形態に限られない。例えば、サポートベクターマシンや、スパースモデルなど、他の多くの方法を使用してもよい。
【0093】
結晶成長装置110で成長させる半導体結晶は、SiCに限られない。
【0094】
サーモカメラ121は測定手段の一例である。坩堝収容部112の断熱材の熱伝導率は、変数として取り扱われる物性値の一例である。高周波コイル115に供給する電力、融液118の温度、筐体111内の気温、坩堝116の回転速度、結晶支持部114の回転速度、坩堝116のサイズは、各種パラメータの一例である。温度制御部125は加熱手段の一例である。
【実施例】
【0095】
次に、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0096】
[実験1:回帰モデルの評価]
〔回帰モデルの作成〕
測定試料10の熱伝導率を推定するための回帰モデルを作成した。
まず、計算部3を用いて、測定部2を模擬したシミュレーションモデルを構築した。計算部3に用いるソフトウェアとして、STR社製の「CGSim」を採用した。
モデルを構築するに際し、以下の表1に示す条件を設定した。
【0097】
【0098】
次に、試料モデルの仮の熱伝導率の範囲を10W/mK以上150W/mK以下に設定し、加熱温度の範囲を試料モデルの下面の温度が90℃以上110℃以下となるような範囲に設定した。この設定した範囲内で、仮の熱伝導率と加熱温度とを任意に組み合わせた1875通りの計算条件を設定した。計算部3を用いて、各計算条件に対してシミュレーションモデルに基づく伝熱シミュレーションを実施して、試料モデルの下面のみを加熱した場合における定常状態での表面温度分布を計算した。この計算結果のうち、試料モデルを上下方向に等間隔で20分割し、この分割により得られた各領域の上端および下端の合計21箇所の温度を、訓練データとして用いる温度分布として抽出した。この抽出した温度分布と、この温度分布の計算に用いた仮の熱伝導率および加熱温度の組み合わせを訓練データとして機械学習部4に入力した。
【0099】
機械学習部4に訓練データを入力し、試料モデルの仮の熱伝導率と表面の温度分布との関係を機械学習させることで、入力を測定試料10の温度分布および加熱条件、出力を測定試料10の熱伝導率とする回帰モデルを作成した。この作成を行うに際し、ニューラルネットワークを用いた機械学習を実施し、機械学習のパラメータとして、以下のものを採用した。また、機械学習に用いるソフトウェアライブラリとして、Google社のTENSORFLOW(登録商標)を用いた。
隠れ層:2層
ニューロン数:128
学習法:Adam
エポック数:1000
活性化関数:Sigmoid
モジュール:Keras
【0100】
〔回帰モデルの評価〕
次に、回帰モデルの評価を行った。
まず、回帰モデルの作成に用いなかった(訓練データとして用いなかった)仮の熱伝導率と加熱温度との50通りの組み合わせを、評価条件として設定した。この評価条件の仮の熱伝導率および加熱温度は、回帰モデルの作成時に設定した範囲内から選出した。
次に、各評価条件に対して、シミュレーションモデルに基づく伝熱シミュレーションを実施して、表面温度分布を計算した。この計算結果のうち、回帰モデル作成時と同様の21箇所の表面温度を抽出し、この抽出した表面温度分布と加熱条件を回帰モデルに入力し、各評価条件に対応する熱伝導率の推定結果を得た。
【0101】
評価条件として設定された仮の熱伝導率(熱伝導率入力値)を横軸、この仮の熱伝導率に基づく伝熱シミュレーション結果から得られた表面温度分布を回帰モデルに入力することで得られた熱伝導率の推定結果を縦軸にプロットした散布図を
図6に示す。
図6に示すように、熱伝導率入力値と熱伝導率推定結果とは非常に高い精度で一致しており、両者の重相関係数は0.999944であった。このことから、本発明の回帰モデルは、高い精度で測定試料10の熱伝導率を推定できる可能性があることを確認できた。
【0102】
[実験2:熱伝導率の実測値と推定結果との比較]
〔測定試料の選定〕
測定試料として、アルミニウム青銅製の試料と、SUS製の試料とを準備した。その理由は以下の通りである。
半導体結晶製品であるシリコン単結晶やシリコンウェーハの製造装置において、頻繁に使用されている構成部材の材料として、SUS、グラファイトが挙げられる。SUSは、単結晶引き上げ装置や気相成長装置のチャンバの内壁、シリコン単結晶のスライス装置やシリコンウェーハの研磨装置の多くの部品などとして用いられている。グラファイトは、単結晶引き上げ装置のホットゾーンを構成する部材や、気相成長装置のサセプタなどとして用いられている。
上述の用途において、グラファイトは、1400K程度の高温で利用される。しかしながら、熱伝導率推定装置1の測定部2においては測定可能な温度領域が90℃以上110℃以下に限られたため、1400Kにおける測定は不可能である。そこで代替となる材料の検討を行った。1400Kのグラファイトの熱伝導率は、約50W/mKと推定される。よって、本実験2では、熱伝導率が1400Kのグラファイトに近く、かつ、成形品を比較的入手し易い部材として、アルミニウム青銅を選定した。また、SUSについては、シリコン単結晶やシリコンウェーハの製造装置の構成部材の材料そのものの例として、選定した。
【0103】
〔比較例1〕
まず、レーザフラッシュ法によって熱伝導率を測定する熱伝導率測定器(アルバック株式会社製、型式:TC7000)を準備した。
次に、直径が10mm、厚さが2mmの円板状のアルミニウム青銅製の試料を準備し、この試料の熱伝導率を熱伝導率測定器を用いて測定した。
【0104】
〔比較例2〕
比較例1と同じ形状のSUS製の試料を準備し、この試料の熱伝導率を比較例1と同様の条件で測定した。
【0105】
〔実施例1〕
表1に示す構成を有する測定部2と、直径が20mm、高さが70mmの円柱状のアルミニウム青銅製の測定試料とを準備した。この測定試料を下面の温度が100℃となるように加熱し、このときの表面温度分布を測定部2を用いて測定した。この測定結果を実験1で作成した回帰モデルに入力することで、熱伝導率を推定した。
【0106】
〔実施例2〕
実施例1と同じ形状のSUS青銅製の測定試料を準備し、この測定試料の熱伝導率を実施例1と同様の条件で推定した。
【0107】
〔評価〕
比較例1,2の実測値および実施例1,2の推定値を表2に示す。
表2に示すように、推定誤差((実測値-推定値)/実測値)は、アルミニウム青銅、SUSのいずれにおいても約10%であった。本発明の回帰モデルは、測定試料の温度分布測定結果に基づいて、高い精度で熱伝導率を推定できることが確認できた。
【0108】
【符号の説明】
【0109】
1…熱伝導率推定装置、2…測定部、3…計算部、4…機械学習部、5…推定部、10…測定試料、11…下面(接触面)、12…表面、21…測定ケース、23…伝熱抑制部、24…温度維持部、25…不活性ガス導入部、110…結晶成長装置、115…高周波コイル(加熱手段)、120…熱伝導率演算装置、121…サーモカメラ(測定手段)、123…演算部。