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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】単結晶育成装置及び単結晶育成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20220419BHJP
   C30B 30/04 20060101ALI20220419BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C30B29/06 502E
C30B30/04
C30B29/06 502C
C30B15/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019036152
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020138887
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
(72)【発明者】
【氏名】小内 駿英
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
【審査官】山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-231969(JP,A)
【文献】特開2014-073925(JP,A)
【文献】特表2013-519617(JP,A)
【文献】特開2004-067441(JP,A)
【文献】特開2003-165790(JP,A)
【文献】国際公開第2001/057293(WO,A1)
【文献】特開2014-043386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液の入ったルツボと、前記ルツボを加熱するヒーターと、前記ヒーターの外側に配置される保温筒とを備えるCZ法単結晶育成装置であって、
前記原料融液から引き上げられる前記単結晶を同芯状に取り囲むように配置され、前記単結晶を冷却する冷却筒と、
前記冷却筒の内側に前記単結晶を同芯状に取り囲むように配置され、前記冷却筒の内面の下部を覆う冷却補助筒と、
前記ルツボの直胴部の上方に配置されるルツボ上部断熱部材と、
前記ルツボの直胴部よりも外側に配置されるルツボ外側断熱部材と、
前記ルツボの直胴部よりも内側に配置され、前記冷却筒の外面を覆うルツボ内側断熱部材と、
前記原料融液の液面の上方で前記冷却筒の底部との間に配置され、前記冷却筒の底部を覆う遮熱部材とを備え、
前記冷却筒は、主チャンバーの天井部から前記原料融液の液面に向かって延伸し、かつ前記冷却筒の下端は、前記原料融液の液面からの高さが50mm以上200mm以下の位置にあり、
前記冷却補助筒の下端は、前記原料融液の液面からの高さが50mm以上の位置にあることを特徴とする単結晶育成装置。
【請求項2】
前記冷却筒の外径は、前記単結晶の外径よりも140mm以上大きいことを特徴とする請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項3】
前記冷却補助筒の下端は、前記冷却筒の下端と同じ位置、又はそれよりも低い位置にあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の単結晶育成装置。
【請求項4】
前記冷却筒の下端及び前記冷却補助筒の下端は、それぞれ前記原料融液の液面からの高さが140mm以下の位置にあることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の単結晶育成装置。
【請求項5】
前記ルツボ上部断熱部材、前記ルツボ外側断熱部材、前記ルツボ内側断熱部材、及び前記遮熱部材の表面は、黒鉛材又は石英材により覆われていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の単結晶育成装置。
【請求項6】
前記冷却筒、前記冷却補助筒、前記ルツボ内側断熱部材、及び前記遮熱部材の少なくとも1つの部材と、前記ルツボを上昇及び下降させるルツボ軸との間に接続され、これらの部材と前記原料融液との接触を検知する安全装置をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の単結晶育成装置。
【請求項7】
前記冷却筒及び前記冷却補助筒は、前記単結晶を観察するための開口部を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の単結晶育成装置。
【請求項8】
前記冷却補助筒は、当該冷却補助筒を軸方向に貫く切れ目を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の単結晶育成装置。
【請求項9】
前記冷却補助筒の材質は、黒鉛材又は炭素複合材であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の単結晶育成装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の単結晶育成装置を用いた単結晶育成方法であって、
前記ヒーターにより前記原料融液を適温に保ちつつ、前記冷却筒により前記原料融液から引き上げられる前記単結晶を冷却し、
前記単結晶の引き上げにより減少した前記原料融液の液面の下降分を補うように前記ルツボを上昇させ、
前記冷却筒の下端と前記原料融液の液面との距離が200mm以下となる状態を維持した状態で前記単結晶の育成を行うことを特徴とする単結晶育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)において、結晶が崩落することなく安全に結晶冷却を強化しつつ、有転位化することが少なく、且つ省エネルギーである単結晶育成装置及び単結晶育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法においては、成長速度を速くして生産性を向上させる上で、また結晶欠陥の成長を抑制したり、点欠陥の拡散を抑制したりすることで品質を向上させる上で、結晶を冷却する技術が非常に重要である。結晶を冷却するには、結晶からの輻射熱をチャンバー等強制冷却された物体に吸収させる方法が有効である。
【0003】
特許文献1では、整流筒の開口面積を大きくし単結晶の熱を遮断せずに効率良くメインチャンバーの天井部に放射させて、結晶を冷却している。このような冷却方法においては、育成中の単結晶の冷却を担う水冷チャンバーとの間に、輻射を遮る黒鉛材や断熱材などの障害物を配置しないことが重要である。しかし、黒鉛材や断熱材を設置しないということは、結晶以外の原料融液(以下「メルト」と表現することがある)やヒーターからの輻射も、遮ることなく水冷チャンバーが受け取るため、エネルギーロスが大きいという問題があった。
【0004】
このエネルギーロスを低下させうる手段として、特許文献2ではルツボ上部断熱部材、ルツボ外側断熱部材、ルツボ内側断熱部材、及び遮熱部材を備えた技術が開示されている。この技術を用いれば原料溶融液の液面の保温性を維持することができる上、固化等による有転位化を抑制することができる。しかし、この技術では、発熱部と水冷チャンバーとの間に、輻射を遮る断熱材という障害物がある。しかも、断熱材は炉内の保温性を高めるので、断熱材に囲まれた炉内の温度勾配がつきにくく、結晶の冷却という点では全く不利となるので、冷却筒を有しある程度の結晶冷却は強化されているものの、成長速度の低下を招くという問題点があった。
【0005】
結晶冷却のもうひとつの手法として、特許文献3及び4では、冷却媒体で強制冷却される冷却筒と、それより下方に延伸する冷却補助部材とが開示されている。この手法では、冷却を担う冷却筒が結晶周囲にあるため、輻射が遮られることなく、直接結晶を冷却可能である。さらに、特許文献5では、軸方向に貫く切れ目があり、原料融液表面に向かって延伸する冷却補助筒を冷却筒の内側に嵌め合わせる技術が開示されている。このように、軸方向に貫く切れ目を入れた冷却補助筒を装着することで、冷却補助筒が冷却筒に密着する。更に冷却補助筒に黒鉛材を用いると、黒鉛材は輻射率が高いので結晶の熱を良く吸収し、熱伝導率が高いので吸収した熱を密着している冷却筒へよりよく伝えることができ、しかも、高純度化処理が可能なので結晶への汚染も少なく、非常に有効な手段である。
【0006】
特許文献5の技術は、特許文献6及び7に開示される輻射率の低い(反射率の高い)金属製の冷却筒を単純に湯面近くまで伸ばす技術よりも効率よく熱を吸収できる。更に、引用文献6の請求項11に記載されている、輻射率向上のために冷却筒内面を黒化処理する、という必要もないので、結晶を汚染する心配もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-013300号公報
【文献】特開2014-073925号公報
【文献】特開平06-211589号公報
【文献】国際公開第2001/057293号公報
【文献】特開2009-161416号公報
【文献】特開2000-344592号公報
【文献】特開2002-201090号公報
【文献】特開2013-193897号公報
【文献】特開2014-043386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この有効な手法を発展させ、結晶冷却を更に強化する技術が特許文献8及び9に開示されている。これらには、内側に冷却補助筒を嵌合した冷却媒体で強制冷却される冷却筒を天井部から原料融液表面に向かって延伸する技術が開示されている。これは、非常に優れた結晶冷却効果を持つ技術である。ただし、結晶冷却能力は非常に優れているが、特許文献9の請求項や実施例に示されているように、冷却の強化による結晶内部応力により結晶が崩落したり、メルト表面(以下「湯面」又は「液面」ということがある)が冷却されることによる固化が発生し単結晶が有転位化したり、という問題があった。すなわち、結晶成長速度が速くなっても、安全上や操業上の問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、結晶が崩落したり、湯面が固化して有転位化が多発したりすることなく、安全に単結晶の冷却を可能な限り強化し且つ省電力である単結晶育成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、原料融液の入ったルツボと、前記ルツボを加熱するヒーターと、前記ヒーターの外側に配置される保温筒とを備えるCZ法単結晶育成装置であって、前記原料融液から引き上げられる前記単結晶を同芯状に取り囲むように配置され、前記単結晶を冷却する冷却筒と、前記冷却筒の内側に前記単結晶を同芯状に取り囲むように配置され、前記冷却筒の内面の下部を覆う冷却補助筒と、前記ルツボの直胴部の上方に配置されるルツボ上部断熱部材と、前記ルツボの直胴部よりも外側に配置されるルツボ外側断熱部材と、前記ルツボの直胴部よりも内側に配置され、前記冷却筒の外面を覆うルツボ内側断熱部材と、前記原料融液の液面の上方で前記冷却筒の底部との間に配置される遮熱部材とを備え、前記冷却筒は、主チャンバーの天井部から前記原料融液の液面に向かって延伸し、かつ前記冷却筒の下端は、前記原料融液の液面からの高さが200mm以下の位置にあることを特徴とする単結晶育成装置を提供する。
【0011】
このような単結晶育成装置によれば、冷却筒の下端を原料融液に近づけても、ルツボ内側断熱部材により冷却筒外面が、遮熱部材により冷却筒底面が覆われているので、メルト表面が過度に冷却されることがなく、結晶崩落や固化の問題が解消される。加えてルツボ上部断熱部材により主チャンバー天井部が、ルツボ外側断熱部材により主チャンバー肩部が覆われているので、更にメルト表面が冷却されることがなくなり、結晶内部応力増大や有転位化の問題が解消される。なお、この時、ルツボ外側断熱部材は保温筒が上方に伸びているものでもよい。
また、冷却筒の下端を主チャンバーの天井部から原料融液の湯面の近くまで延伸させることで、当該単結晶が主チャンバーの天井部及び肩部に対して直接露出しないようにすることができる。これにより、単結晶からの輻射を吸収する対象がほぼ冷却筒となるため、主チャンバーによる輻射熱の吸収効果を期待しなくとも十分に結晶を冷却することが可能となる。すなわち、主チャンバー天井部や肩部、冷却筒外面や底面を断熱部材で覆っても、より近距離にある冷却筒内面で結晶を十分冷却可能になるので、単結晶の成長速度を向上できる。
更には、主チャンバー天井部や肩部、冷却筒外面や底面を断熱部材で覆ったことにより、結晶以外のメルトやヒーター、ルツボなどの冷却したくない部分から余分な熱を奪うことがなくなり、省エネが達成される。
【0012】
前記冷却筒の外径は、前記単結晶の外径よりも140mm以上大きいことが好ましい。
これは以下の理由による。
【0013】
上述したように、原料融液の液面から上方に200mm以下の位置まで冷却筒を延伸することで、単結晶が主チャンバーに対して直接露出しなくなるので、断熱材を装着したことによるデメリットが解決される。ここで、この200mmという値は、実際には、育成する単結晶の外径(直径)と冷却筒の外径との差によって大きく変化する。例えば、実際には、冷却筒の骨格部は、水などの冷却媒体を流すために空洞を有するため、径方向に所定の厚さが必要であるが、仮に、冷却筒の骨格部の径方向の厚さを限りなく零に近づけたとすれば、冷却筒の下端と原料融液の液面との距離が200mm以下であっても、単結晶が主チャンバーに対して直接露出してしまうこともある。
【0014】
そこで、冷却筒の外面の位置を単結晶の表面の位置より径方向に70mm以上大きくする、すなわち、冷却筒の外径(直径)を単結晶の外径(直径)よりも140mm以上大きくすることにより、より確実に、単結晶からの輻射を吸収する対象として、主チャンバーの影響を少なくし、冷却筒の影響を大きくすることができる。従って、上記のとおり、断熱部材による冷却能力の低下を招くことなく、結晶崩落や有転位化の問題なしに単結晶の成長速度を向上できる。
【0015】
前記冷却補助筒の下端は、前記冷却筒の下端と同じ位置、又はそれよりも低い位置にあることが好ましい。
【0016】
すなわち、冷却筒の下端と同様に、冷却筒の内側に嵌め合わせ、単結晶からの輻射を吸収し、それを冷却筒に伝達する冷却補助筒の下端も、冷却筒とほぼ同等であるか、もしくは冷却補助筒の下端のほうがより低いことが好ましい。この場合、冷却補助筒の下端も、原料融液の液面からの高さが200mm以下の位置であることが好ましい。
【0017】
これにより、冷却補助筒は、単結晶から放射される熱を効率よく冷却筒に伝えることができるとともに、冷却筒から単結晶への不純物汚染も有効に防止可能となる。
【0018】
前記冷却筒の下端及び前記冷却補助筒の下端は、それぞれ前記原料融液の液面からの高さが140mm以下の位置にあることが好ましい。
【0019】
すなわち、更に冷却能力を向上させつつ、断熱材による悪影響を除去するためには、冷却筒の下端を、より原料融液の液面(湯面)近くまで伸ばすことが好ましい。また、冷却筒の内側に嵌め合わせ、単結晶からの輻射を吸収し、それを冷却筒に伝達する冷却補助筒の下端も、冷却筒とほぼ同等であるか、もしくは冷却補助筒の下端の方がより低いことが好ましい。
【0020】
なぜなら、特に、これらの下端の高さが原料融液の液面から140mm以下の位置であれば、直径300mmの単結晶を育成した場合であっても、グローンイン(Grown-in)欠陥が形成されるとされる1150℃~1080℃の温度帯の距離を30mm以下とすることが可能だからである。その結果、成長速度によっても異なるが、冷却速度1℃/minを容易に超える急冷化が可能になるので、無欠陥結晶が形成しやすくなる。
【0021】
前記冷却筒の下端及び前記冷却補助筒の下端は、それぞれ前記原料融液の液面からの高さが50mm以上の位置にあることが好ましい。
【0022】
なぜなら、上述したように、これらの下端の位置は低ければ低いほど好ましいが、冷却筒の下端及び冷却補助筒の下端と、原料融液の液面との間には、遮熱部材を配置することが必要である。従って、これらの下端がそれぞれ原料融液の液面から50mm以上の位置にあれば、遮熱部材を配置するためのスペースを十分に確保でき、上記のように、単結晶の育成中において結晶崩落や有転位化の問題が解消される。
【0023】
前記ルツボ上部断熱部材、前記ルツボ外側断熱部材、前記ルツボ内側断熱部材、及び前記遮熱部材の表面は、黒鉛材又は石英材により覆われていることが好ましい。
【0024】
すなわち、各断熱部材は、炭素繊維もしくはガラス繊維など高温で使用可能な断熱材が主に使用される。ただし、このような断熱部材の表面は繊維状になっており、劣化するとゴミが発生しやすい上、シリコンと反応して珪化してしまうことがある。従って、上記のとおり、各断熱部材の表面を、例えば、板状の黒鉛材もしくは石英材など高温で安定な物質で保護すれば、ゴミの発生や断熱部材の珪化を抑制することができる。
【0025】
前記冷却筒、前記冷却補助筒、前記ルツボ内側断熱部材、及び前記遮熱部材の少なくとも1つの部材と、前記ルツボ軸との間に接続され、これらの部材と前記原料融液との接触を検知する安全装置をさらに備えることが好ましい。
【0026】
本技術では、冷却水などの冷却媒体を通した冷却筒を原料融液の液面(湯面)近くまで近づける必要がある。もし、誤動作等によって冷却筒がメルトに浸かり、冷却水が漏れだした場合には、水蒸気爆発の危険性がある。すなわち、水蒸気爆発の危険性を回避するためには、冷却筒、冷却補助筒、ルツボ内側断熱部材、及び遮熱部材のいずれかの部材がメルトに接触した場合にいち早く危険性を認識することが重要である。
【0027】
そこで、冷却筒、冷却補助筒、ルツボ内側断熱部材、及び遮熱部材のいずれか一つ以上と、ルツボ軸との間に電気回路を設け、これらの部材と原料融液の液面との接触を検知する安全装置が付いていることが好ましい。特に、冷却筒より先にメルトに接触する可能性の高い遮熱部材で検知すれば、冷却水が通っている冷却筒がメルトに浸る前に危険性を認識することが可能である。
【0028】
なお、ここでは、電気回路による接触確認を記載したが、その他の方法で上記部材と原料融液との接触を検知してもよい。例えば、温度による接触確認や物理的な接触確認など、上記部材と原料融液との接触又は接近を何らかの方法で確認できれば、当該接触又は接近の確認方法が限定されることはない。
【0029】
前記冷却筒及び前記冷却補助筒は、前記単結晶を観察するための開口部を有することが好ましい。
【0030】
なぜなら、育成される単結晶は冷却筒及び冷却補助筒内を通過するが、本技術では、冷却筒及び冷却補助筒を原料融液の液面(湯面)近くまで近づけるので、そのままだと単結晶を観察することが難しくなる。すなわち、本技術において、更に単結晶を観察可能であり、育成する単結晶の直径を測定することにより単結晶の直径制御や温度制御といった、単結晶を製造するために必要な制御が行えれば、より好ましい。
【0031】
そこで、上記のように、必要に応じて、冷却筒及び冷却補助筒に結晶観察用の開口部が設けられていれば、結晶観察用の開口部を介して単結晶を製造するために必要な制御も行うことができる。なお、開口部の大きさは、単結晶の冷却効果が低下してしまわない必要最小限の大きさであることが好ましい。
【0032】
前記冷却補助筒は、当該冷却補助筒を軸方向に貫く切れ目を有することが好ましい。
【0033】
冷却補助筒の外径は、冷却筒の内径と概略同じにして、冷却補助筒を冷却筒内に嵌め合せることで、単結晶からの輻射を効率的に吸収し、冷却筒内を流れる冷却媒体で熱を排除することが好ましい。ここで、単に、冷却筒の内径と冷却補助筒の外径とを概略同じにしただけでは、冷却補助筒を装着するのが困難な上、熱膨張差により冷却補助筒が割れてしまう可能性がある。そこで、上記のとおり、冷却補助筒に切れ目(スリット)を入れることで、冷却補助筒の装着が容易化される上、単結晶からの熱を受け膨張しようとする冷却補助筒が冷却筒に密着するので、効率よく冷却補助筒から冷却筒への伝熱を行うことが可能となる。
【0034】
前記冷却補助筒の材質は、黒鉛材又は炭素複合材であることが好ましい。
【0035】
冷却補助筒の役割は、冷却筒内に嵌め合せることで、単結晶からの輻射を吸収し、それを冷却筒に伝えて冷却筒で熱を排除することである。従って、冷却補助筒として最適な材質は、高輻射率で、高熱伝導率の材質である。この点で優れているのが黒鉛材、炭素複合材である。これらの材質であれば、加工性に優れており、高純度化処理が可能なので、単結晶への汚染も少なく、非常に有用な材質である。
【0036】
また、上記目的を達成するために、本発明では、上述の各単結晶育成装置を用いた単結晶育成方法であって、前記ヒーターにより前記原料融液を適温に保ちつつ、前記冷却筒により前記原料融液から引き上げられる前記単結晶を冷却し、前記単結晶の引き上げにより減少した前記原料融液の液面の下降分を補うように前記ルツボを上昇させ、前記冷却筒の下端と前記原料融液の液面との距離が200mm以下となる状態を維持した状態で前記単結晶の育成を行うことを特徴とする単結晶育成方法を提供する。
【0037】
このような単結晶育成方法によれば、冷却筒の下端を原料融液に近づけても、ルツボ内側断熱部材により冷却筒外面が、遮熱部材により冷却筒底面が覆われているので、メルト表面が過度に冷却されることがなく、結晶崩落や固化の問題が解消される。加えてルツボ上部断熱部材により主チャンバー天井部が、ルツボ外側断熱部材により主チャンバー肩部が覆われているので、更にメルト表面が冷却されることがなくなり、結晶内部応力増大や有転位化の問題が解消される。なお、この時、ルツボ外側断熱部材は保温筒が上方に伸びているものでもよい。
また、冷却筒の下端を主チャンパーの天井部から原料融液の湯面の近くまで延伸させることで、当該単結晶が主チャンバーの天井部及び肩部に対して直接露出しないようにすることができる。これにより、単結晶からの輻射を吸収する対象がほぼ冷却筒となるため、主チャンバーによる輻射熱の吸収効果を期待しなくとも十分に結晶を冷却することが可能となる。すなわち、主チャンバー天井部や肩部、冷却筒外面や底面を断熱部材で覆っても、より近距離にある冷却筒内面で結晶を十分冷却可能になるので、単結晶の成長速度を向上できる。
更には、主チャンバー天井部や肩部、冷却筒外面や底面を断熱部材で覆ったことにより、結晶以外のメルトやヒーター、ルツボなどの冷却したくない部分から余分な熱を奪うことがなくなり、省エネが達成される。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明によれば、結晶が崩落したり、湯面が固化して有転位化が多発したりすることなく、安全に単結晶の冷却を可能な限り強化し且つ省電力である単結晶育成装置の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の単結晶育成装置の概略図である。
図2】冷却筒、冷却補助筒、ルツボ内側断熱部材、遮熱部材のいずれか一つ以上と、ルツボ軸との間に電気回路を設けた概略図である。
図3】冷却筒及び冷却補助筒に結晶観察用の開口部を設けた概略図である。
図4】軸方向に貫く切れ目の入った冷却補助筒の概略図である。
図5】本発明の単結晶育成方法の例を示す図である。
図6】比較例としての単結晶育成装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
従来技術(例えば、特許文献8及び9)で述べてきた通り、冷却媒体で強制冷却される冷却筒を天井部から原料融液表面に向かって延伸し、その内側に輻射率が高く、熱伝導率が高い冷却補助筒を嵌め合わせることで、非常に高い結晶冷却能力を得ることができる。しかし、これだけでは結晶が崩落したり、単結晶が有転位化したり、という問題があり、急冷による成長速度の向上があっても、崩落や有転位化による生産性の低下分もあり、メリットは少なかった。
そこで、本発明者らは、まず、原料融液表面に向かって延伸する冷却筒と冷却補助筒とを備える冷却構造と、ルツボ上部断熱部材、ルツボ外側断熱部材、ルツボ内側断熱部材、及び遮熱部材を有する断熱構造との組合せを検討した。
【0041】
従来技術の特許文献2で述べたように、このような断熱部材を炉内に配置することは、水冷されたチャンバー、特にメインチャンバー天井部による冷却を阻害するうえ、炉内温度勾配を緩和することになるので、結晶冷却を強化することに主点を置いた場合には、上記冷却構造において上記断熱構造を採用することは、通常ありえない。しかし、本発明者らは、逆転の発想により、上記冷却構造において、あえて上部断熱部材、ルツボ外側断熱部材、ルツボ内側断熱部材、及び遮熱部材を用いることで、メルトの保温性を保つことが可能であり、かつ冷却筒をメルト側に延伸して冷却だけを強化した場合の、結晶崩落や特にメルトの固化による単結晶の有転位化という問題を解決できる可能性があるのではないかという結論に至った。
【0042】
そこで、発明者らは、上記冷却構造に、上部断熱部材、ルツボ外側断熱部材、ルツボ内側断熱部材、及び遮熱部材からなる上記断熱構造を組み合わせた場合に、結晶崩落や有転位化の問題が解消されるとともに、原料融液から引き上げられた単結晶の冷却能力の強化により単結晶の成長速度の向上を図ることが可能な条件を検討した。
【0043】
本発明者らは、上記条件について鋭意検討を重ねた結果、単結晶の育成中において、冷却筒の下端が原料融液の液面(湯面)から200mm以下の位置にある状態を保持することで、結晶が崩落したり、湯面が固化して有転位化が多発したりすることなく、単結晶の成長速度を向上できることを見出した。
【0044】
すなわち、冷却筒の下端を上記のように原料融液に近づけても、ルツボ内側断熱部材により冷却筒外面が、遮熱部材により冷却筒底面が覆われているので、メルト表面が過度に冷却されることがなく、結晶崩落や固化の問題が解消される。加えてルツボ上部断熱部材により主チャンバー天井部が、ルツボ外側断熱部材により主チャンバー肩部が覆われているので、更にメルト表面が冷却されることがなくなり、結晶内部応力増大や有転位化の問題が解消される。また、上部断熱部材、ルツボ外側断熱部材、及びルツボ内側断熱部材により引き上げられる単結晶の熱が主チャンバーの天井部に放射し難くなるという問題は、冷却筒の下端を上記のように当該天井部から原料融液の湯面の近くまで延伸させ、当該単結晶を主チャンバーの天井部に対して直接露出させないようにすることで解消される。これにより、単結晶からの輻射を吸収する対象がほぼ冷却筒となるため、主チャンバーによる輻射熱の吸収効果を期待しなくとも十分に結晶を冷却することが可能となる。すなわち、主チャンバー天井部や肩部、冷却筒外面や底面を断熱部材で覆っても、より近距離にある冷却筒内面で結晶を十分冷却可能になるので、単結晶の成長速度を向上できる。
【0045】
つまり、本発明者らは、冷却筒を延伸するという、結晶崩落や有転位化を悪化させる方向性を更に強化することで、断熱部材の配置による主チャンバー内での冷却が妨げられるという問題を解決し、同時に、冷却筒を延伸することで結晶崩落や有転位化を悪化させるという問題点を、遮熱部材を配置することで炉内温度勾配の緩和とメルトの保温性向上により解決する、ことを思い付くに至った。また、これらの技術を組み合せることで、生産性を向上できるだけでなく、省エネルギーによる電力原単位の削減をも可能にできる、と本発明者らは結論するに至った。
【0046】
すなわち、本発明は、原料融液の入ったルツボと、前記ルツボを加熱するヒーターと、前記ヒーターの外側に配置される保温筒とを備えるCZ法単結晶育成装置であって、前記原料融液から引き上げられる前記単結晶を同芯状に取り囲むように配置され、前記単結晶を冷却する冷却筒と、前記冷却筒の内側に前記単結晶を同芯状に取り囲むように配置され、前記冷却筒の内面の下部を覆う冷却補助筒と、前記ルツボの直胴部の上方に配置されるルツボ上部断熱部材と、前記ルツボの直胴部よりも外側に配置されるルツボ外側断熱部材と、前記ルツボの直胴部よりも内側に配置され、前記冷却筒の外面を覆うルツボ内側断熱部材と、前記原料融液の液面の上方で前記冷却筒の底部との間に配置される遮熱部材とを備え、前記冷却筒は、主チャンバーの天井部から前記原料融液の液面に向かって延伸し、かつ前記冷却筒の下端は、前記原料融液の液面からの高さが200mm以下の位置にあることを特徴とする単結晶育成装置である。
【0047】
このように、生産性向上という観点においては、上記冷却構造と上記断熱構造とは一見相容れない技術ではあるが、これらを「単結晶の育成中において、冷却筒の下端が原料融液の液面から200mm以下の位置にある状態を保持する」という条件の下で組み合わせることで、お互いの欠点(結晶内部応力の増大やメルト固化発生、成長速度の低下)と考えられていた点同士を補い合い、同時に解消することができる。また、上記冷却構造と上記断熱構造とを組み合わせることで、お互いのメリット(成長速度の向上による生産性向上、結晶崩落や有転位化の防止による生産性向上)を享受し合う上、更には強め合う(省エネルギー化による電力原単位の削減)ことが可能となった。
【0048】
なお、ここでは、冷却筒の下端について上述したが、冷却筒の内側に嵌め合わせ、単結晶からの輻射を吸収し、それを冷却筒に伝達する冷却補助筒の下端も、冷却筒とほぼ同等であるか、もしくは冷却補助筒の下端のほうがより低いことが好ましい。この場合、冷却補助筒の下端も、原料融液の液面からの高さが200mm以下の位置であることが好ましい。
【0049】
以下、本発明の実施の形態について、添付した図面に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0050】
図1は、本発明の単結晶育成装置の概略図である。
単結晶育成装置の主チャンバー1内に黒鉛ルツボ6で保持された石英ルツボ5が設置され、該黒鉛ルツボ6は底部中心で回転し、上下動するルツボ軸(支持軸)18により支持される。主チャンバー1の上方には、原料融液(例えば、シリコン融液)4から引き上げられた単結晶(例えば、シリコン単結晶)3を取り出しする開口扉が設けられたプルチャンバー2が設けられる。
【0051】
プルチャンバー2の上方には、雰囲気ガス(例えば、Arガス)の導入管9が設けられ、主チャンバー1の底部には、導入された雰囲気ガスを排出するための排ガス管8が設けられる。また、黒鉛ルツボ6の外周には、原料融液4を適温に保つための黒鉛ヒーター7が設置される。そして、導入管9から雰囲気ガスを導入しながら、原料融液4に種結晶19を浸し、引き上げワイヤー20を回転させながら巻き上げて、単結晶3を引き上げていく。
【0052】
このような単結晶育成装置において、黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5は、ルツボ軸18を介して結晶成長軸方向に上昇/下降が可能であり、結晶成長中に結晶化して減少した原料融液4の液面の下降分を補うように上昇する。ここで、ヒーター外側断熱部材13、ルツボ下部断熱部材14、ルツボ上部断熱部材15、及びルツボ外側断熱部材16は、黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5を取り囲み、黒鉛ヒーター7により溶融された原料融液4の熱ロスを防止する。
【0053】
また、単結晶3の成長速度を向上させるためには、当該単結晶3を急速冷却する必要があり、そのために冷却筒10が設けられる。冷却筒10は、例えば、金属製であり、引き上げられた単結晶3を同軸状に取り囲む。また、冷却筒10の骨格部は、内部が空洞となっており、当該空洞には水などの冷却媒体が流れる。冷却筒10は、主チャンバー1の天井部Tから原料融液4の表面に向かって延伸し、冷却筒10の外径は、引き上げられる単結晶3の外径(直径)よりも140mm以上大きいことが好ましい。また、冷却筒10の下端は、原料融液4の液面(湯面)からの高さDが200mm以下の範囲内、より好ましくは、50mm以上、140mm以下の範囲内の位置にある。
【0054】
冷却補助筒11は、冷却筒10の内側に嵌合される。冷却補助筒11の役割は、引き上げられた単結晶3からの輻射を吸収し、それを冷却筒10に伝えること、及び引き上げられる単結晶3の汚染を防止することにある。そのために、冷却補助筒11は、例えば、高輻射率及び高熱伝導率を有し、単結晶3への汚染が少ない材質、例えば、黒鉛材、炭素複合材などから構成され、冷却筒10の内面の中央部から下部までを覆い、冷却筒10の内面に密着していることが好ましい。ただし、冷却補助筒11が冷却筒10の内面を覆う範囲は、これに限定されず、少なくとも冷却筒10の下部を覆っていればよい。
【0055】
冷却補助筒11の下端は、例えば、冷却筒10の下端と同じ位置、又はそれよりも低い位置にある。なお、同図では、冷却筒10の下端と冷却補助筒11の下端とは、同じ位置として描かれている。従って、冷却補助筒11の下端も、原料融液4の液面(湯面)からの高さDが200mm以下の範囲内、より好ましくは、50mm以上、140mm以下の範囲内の位置にあることが好ましい。
【0056】
遮熱部材12及びルツボ内側断熱部材17は、冷却筒10及び冷却補助筒11による熱ロス防止及び湯面やルツボの冷却防止するために設けられる。そのために、遮熱部材12は、冷却筒10の下端を覆い、ルツボ内側断熱部材17は、冷却筒10の外面を取り囲む。すなわち、冷却筒10は、冷却補助筒11とルツボ内側断熱部材17とにより挟み込まれる。また、ルツボ上部断熱部材15、ルツボ外側断熱部材16は、主チャンバー天井部T及び肩部Kによる熱ロス防止及び湯面やルツボ、ヒーターの冷却防止するために設けられる。更に、ルツボ上部断熱部材15、ルツボ外側断熱部材16、及びルツボ内側断熱部材17により形成された空間Sは、黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5を結晶成長軸方向に上昇/下降させるときに、黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5の直胴部Xを収めるための空間である。
【0057】
なお、遮熱部材12、ヒーター外側断熱部材13、ルツボ下部断熱部材14、ルツボ上部断熱部材15、ルツボ外側断熱部材16、及びルツボ内側断熱部材17は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などの断熱材やCC材などの断熱性の高い材料を用いることができる。これら断熱材は、その表面が黒鉛材、石英材など高温で安定な物質で覆われていることが好ましい。
【0058】
図2は、冷却筒、冷却補助筒、ルツボ内側断熱部材、遮熱部材のいずれか一つ以上と、ルツボ軸との間に電気回路を設けた概略図である。
【0059】
同図の単結晶育成装置が図1の単結晶育成装置と異なる点は、冷却筒10、冷却補助筒11、ルツボ内側断熱部材17、及び遮熱部材12の少なくとも1つの部材と、ルツボ軸18との間に安全装置21が接続され、かつ当該安全装置21によりこれらの部材と原料融液4との接触の有無が検知される点にある。
【0060】
なお、同図では、安全装置21は、冷却筒10とルツボ軸18との間に接続される。その他の構成要素は、図1と同じであるため、図1と同じ符号を付すことによりその詳細な説明を省略する。
【0061】
このように、安全装置21を付加すれば、例えば、誤動作等によって遮熱部材12が原料融液4に接触したか否かを検知し、もし、遮熱部材12が原料融液4に接触したことを検知した場合には、直ちに単結晶の育成動作を停止し(単結晶育成装置を停止し)、冷却筒10が原料融液4に浸かることを防止できる。すなわち、冷却筒10が原料融液4によって溶け、冷却筒10から冷却媒体(例えば、水)が漏れ出し、水蒸気爆発を起こすことを回避できる。
【0062】
このように、本例によれば、結晶崩落や有転位化の問題なく、かつ安全に単結晶の冷却を行うことが可能な単結晶育成装置を実現できる。
【0063】
図3は、冷却筒及び冷却補助筒に結晶観察用の開口部を設けた概略図である。
冷却筒10及び冷却補助筒11は、図1の冷却筒10及び冷却補助筒11に対応する。冷却筒10及び冷却補助筒11は、単結晶3を同軸状に取り囲む。すなわち、単結晶3、冷却筒10、及び冷却補助筒11は、軸AXを中心として配置される。
【0064】
冷却筒10及び冷却補助筒11は、単結晶3を観察するための開口部OPを有する。開口部OPは、冷却筒10及び冷却補助筒11の下部に設けられているが、これに限られない。また、開口部OPの数も、1つに限られず、複数あってもよい。
【0065】
本例によれば、結晶観察用の開口部OPを介して引き上げる単結晶3を観察可能なため、単結晶3を製造するために必要な制御を行うことができる。なお、開口部の大きさは、単結晶3の冷却効果が低下してしまわない必要最小限の大きさであることが好ましい。
【0066】
図4は、軸方向に貫く切れ目の入った冷却補助筒の概略図である。
冷却補助筒11は、図1の冷却補助筒11に対応する。冷却補助筒11は、当該冷却補助筒11を軸方向(軸AXに平行な方向)に貫く切れ目(スリット)SLを有する。
【0067】
切れ目SLは、基本的に外径が冷却筒内径と等しい冷却補助筒11を冷却筒10に装着する際に当該装着を容易化する効果がある。また、単結晶の育成中において、冷却補助筒11が当該単結晶から熱を受けると膨張しようとして、冷却筒10に密着するため、冷却補助筒11から冷却筒10への熱伝達を効率よく行うことが可能となる。
【0068】
図5は、本発明の単結晶育成方法の例を示す。
この単結晶育成方法は、図2の単結晶育成装置を用いて実行される。なお、後述するステップST2を省略すれば、図1の単結晶育成装置により本発明の単結晶育成方法を実行することも可能である。また、以下の説明において、各構成要素に付される符号は、図1又は図2に示される構成要素の符号に対応する。
【0069】
まず、黒鉛ヒーター7により原料融液4を適温に保ちつつ、冷却筒10により原料融液4から引き上げられる単結晶3を冷却し、かつ単結晶3の引き上げにより減少した原料融液4の液面の下降分を補うように黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5を上昇させる。また、冷却筒10の下端と原料融液4の液面との距離が200mm以下となる状態を維持した状態で単結晶3の育成を行う(ステップST1)。
【0070】
次に、安全装置21により異常が検知されたか否かを確認する(ステップST2)。
安全装置21により異常が検知された場合には、直ちに、単結晶育成装置を停止し、単結晶3の育成動作を終了する。
【0071】
一方、安全装置21により異常が検知されなかった場合には、単結晶3の育成が終了したか否かを確認する(ステップST3)。
単結晶3の育成が終了した場合には、単結晶育成装置を停止し、本フローを終了する。また、単結晶3の育成が終了していない場合には、ステップST2に戻り、単結晶3の育成動作を継続しつつ、安全装置21により異常が検知されたか否かを再び確認する。
【0072】
このような単結晶育成方法によれば、結晶崩落や有転位化の問題なしに、冷却筒10による冷却能力を強化して単結晶の成長速度を向上できる省電力操業を、安全に行なうことができる。
【0073】
以上、説明したように、本発明によれば、結晶が崩落したり、湯面が固化して有転位化が多発したりすることなく、安全に単結晶の冷却を可能な限り強化し且つ省電力である単結晶育成装置の実現が可能となる。
【実施例
【0074】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、これらは、本発明を限定するものではない。
【0075】
(実施例1)
図1に示す単結晶育成装置において、直径32インチ(約813mm)のルツボを装備して、磁場印加チョクラルスキー法(MCZ法)を用いて約直径12インチ(約305mm)の単結晶を育成した。この時、冷却筒10の外径(直径)を単結晶3の狙い直径より210mm(半径で105mm)大きくし、また、冷却筒10の下端及び冷却補助筒11の下端を原料融液4の液面から105mmの位置に設定した。また、冷却補助筒11の材質としては、等方性黒鉛材を用い、かつ冷却補助筒11に軸方向に貫く切れ目SL(図4)を設けた。また、冷却筒10及び冷却補助筒11には、結晶観察用の開口部OP(図3)を設けた。
【0076】
CZ法では、原料融液4が充填されたルツボ5,6と、ルツボ5,6を取り囲むように配置された黒鉛ヒーター7とを用いる。このルツボ5,6中に種結晶19を浸漬した後、原料融液4から棒状の単結晶3を引き上げる。ルツボ5,6は、ルツボ軸18を介して、結晶成長軸方向に昇降可能であり、結晶成長中に減少した原料融液(メルト)4の液面の下降分を補うように、且つ所望の湯面位置となるように該ルツボ5,6を上昇させる。
【0077】
この引上げ機を用いて、無欠陥結晶を育成した。無欠陥結晶では、無欠陥を得られる成長速度マージンが非常に狭いので、適正な成長速度が判断しやすい。そこで、この引上げ機を用いて、全量無欠陥結晶が得られるような結晶成長速度を求めた。そして、育成された単結晶3からサンプルを切り出し、無欠陥結晶になったかどうかを、選択エッチングにより確認した。
【0078】
その結果、全量無欠陥結晶が得られるような結晶成長速度は、後述する比較例1で示す成長速度に比較して約17%の成長速度の高速化が得られることが判明した。さらに、この装置を用いて連続して5本の単結晶を育成したところ、有転位化が1回発生したのみであり、有転位化率は、0.2回/本であり、後述する比較例2で示す有転位化率に比較して、非常に良い値が得られた。
【0079】
(比較例1)
図6に示す単結晶育成装置を用いて単結晶103の育成を行った。
ここで、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、及び118は、それぞれ図1における主チャンバー1、プルチャンバー2、単結晶3、原料融液4、石英ルツボ5、黒鉛ルツボ6、黒鉛ヒーター7、排ガス管8、導入管9、冷却筒10、冷却補助筒11、遮熱部材12、ヒーター外側断熱部材13、ルツボ下部断熱部材14、ルツボ上部断熱部材15、ルツボ外側断熱部材16、ルツボ内側断熱部材17、及びルツボ軸18に対応する。
【0080】
比較例1では、冷却筒110の長さを短め(下端の位置が原料融液104の液面から350mmの位置)に設定し、かつ冷却筒110に内接させた冷却補助筒111を下方に延伸(下端の位置が原料融液104の液面から230mmの位置)に設定することで、冷却筒および冷却補助筒を湯面近くまで延伸して単結晶103の冷却を強化することを除いては、上記実施例と同じ条件で、無欠陥結晶を育成し、そのときの単結晶103の成長速度を求めた。
【0081】
その結果、実施例1に比べて17%結晶成長速度が遅かった。すなわち、本発明に係る上記実施例1では、冷却筒及び冷却補助筒を原料融液の液面に向かって延伸することにより、無欠陥結晶成長速度の向上が図られていることが確認できた。
【0082】
(比較例2)
図1に示す単結晶育成装置を用いて単結晶3の育成を行った。
ただし、比較例2では、図1の単結晶育成装置から、ルツボ上部断熱部材15、ルツボ外側断熱部材16、及びルツボ内側断熱部材17を外したことを除いては、実施例1と同じ方法で、無欠陥結晶を育成した。
【0083】
その結果、有転位化が発生し、実施例1と同じ長さの無欠陥結晶を得ることができなかった。また、2本の単結晶3を試作した結果、有転位化率は1.5回/本と実施例1に比較して、大きく増加してしまい、成長速度の向上による生産性向上分よりも、有転位化による生産性低下分の方が上回る結果となった。更に、結晶育成にかかる電力も、実施例1に比較して約15%大きくなってしまい、単位製品量当りの電力(電力原単位)は比較例1を大きく上回る結果となった。
【0084】
以上の結果から分かるように、本発明では、冷却筒10及び冷却補助筒11が主チャンバー1の天井部から原料融液4の液面の近くまで延伸した構造において、更に上部断熱部材15、ルツボ外側断熱部材16、及びルツボ内側断熱部材17を設けることで、有転位化を大きく抑制でき、しかも省エネルギーを達成できることが確認できた。
【0085】
以上、説明してきたように、本発明によれば、結晶が崩落したり、湯面が固化して有転位化が多発したりすることなく、安全に単結晶の冷却を可能な限り強化し且つ省電力である単結晶育成装置の実現が可能となる。
【0086】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0087】
1…主チャンバー、 2…プルチャンバー、 3…単結晶、 4…原料融液、 5…石英ルツボ、 6…黒鉛ルツボ、 7…黒鉛ヒーター、 8…排ガス管、 9…導入管、 10…冷却筒、 11…冷却補助筒、 12…遮熱部材、 13…ヒーター外側断熱部材、 14…ルツボ下部断熱部材、 15…ルツボ上部断熱部材、 16…ルツボ外側断熱部材、 17…ルツボ内側断熱部材、 18…ルツボ軸、 19…種結晶、 20…引き上げワイヤー、 21…安全装置、 D…冷却筒の下端と原料融液の液面との距離、 S…石英ルツボ及び黒鉛ルツボの直胴部が収まる空間、 T…主チャンバーの天井部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6