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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】化学強化ガラスおよび化学強化用ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20220419BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20220419BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20220419BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/097
C03C21/00 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019162190
(22)【出願日】2019-09-05
(62)【分割の表示】P 2018200912の分割
【原出願日】2017-01-19
(65)【公開番号】P2019202934
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2019-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2016010002
(32)【優先日】2016-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016204745
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 優
(72)【発明者】
【氏名】大原 盛輝
(72)【発明者】
【氏名】李 清
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 周作
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5674790(US,A)
【文献】特開2002-358626(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0060465(US,A1)
【文献】国際公開第2012/131824(WO,A1)
【文献】特開2002-174810(JP,A)
【文献】特開2012-232882(JP,A)
【文献】特表2013-520388(JP,A)
【文献】特開2011-136895(JP,A)
【文献】特表2013-542159(JP,A)
【文献】特表2000-516903(JP,A)
【文献】特表2002-507538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
C03C21/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを54~62%、Alを13~20%、B~5%、Pを0~4%、LiOを5~16%、NaOを7~14%、KOを0~2%、MgOを0~10%、CaOを0~1%、SrOを0~1%、BaOを0~1%、ZnOを0~5%、TiOを0~1%、ZrOを0~4%を含有し、
SiO、Al、B、P、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO及びZrOの各成分の酸化物基準のモル百分率表示による含有量を用いて、下記式に基づき算出されるXの値が40000以上であり、Yの値が0.75以上である化学強化用ガラス。
X=SiO×329+Al×786+B×627+P×(-941)+LiO×927+NaO×47.5+KO×(-371)+MgO×1230+CaO×1154+SrO×733+ZrO×51.8
Y=SiO×0.00884+Al×0.0120+B×(-0.00373)+P×0.000681+LiO×0.00735+NaO×(-0.00234)+KO×(-0.00608)+MgO×0.0105+CaO×0.00789+SrO×0.00752+BaO×0.00472+ZrO×0.0202
【請求項2】
酸化物基準のモル百分率表示によるLiOの含有量が13%以下である、請求項1に記載の化学強化用ガラス。
【請求項3】
失透温度Tが、粘度が10dPa・sとなる温度T4以下である請求項1または2に記載の化学強化用ガラス。
【請求項4】
破壊靭性値が0.7MPa・m1/2以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス。
【請求項5】
ヤング率が74GPa以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス。
【請求項6】
表面圧縮応力(CS)が450MPa以上の化学強化ガラスであって、
前記化学強化ガラスの母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを54~62%、Alを13~20%、B~5%、Pを0~4%、LiOを5~16%、NaOを7~14%、KOを0~2%、MgOを0~10%、CaOを0~1%、SrOを0~1%、BaOを0~1%、ZnOを0~5%、TiOを0~1%、ZrOを0~4%を含有し、
前記化学強化ガラスの母組成におけるSiO、Al、B、P、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO及びZrOの各成分の酸化物基準のモル百分率表示による含有量を用いて、下記式に基づき算出されるXの値が40000以上であり、Yの値が0.75以上である化学強化ガラス。
X=SiO×329+Al×786+B×627+P×(-941)+LiO×927+NaO×47.5+KO×(-371)+MgO×1230+CaO×1154+SrO×733+ZrO×51.8
Y=SiO×0.00884+Al×0.0120+B×(-0.00373)+P×0.000681+LiO×0.00735+NaO×(-0.00234)+KO×(-0.00608)+MgO×0.0105+CaO×0.00789+SrO×0.00752+BaO×0.00472+ZrO×0.0202
【請求項7】
前記化学強化ガラスの応力プロファイル中で応力がゼロになる部分のガラス表面からの深さ(DOL)から20μmガラス表面側の深さにおける圧縮応力値CSDOL-20を用いて下記式により算出されるΔCSDOL-20(単位:MPa/μm)が0.4以上である請求項6に記載の化学強化ガラス。
ΔCSDOL-20=CSDOL-20/20
【請求項8】
前記ΔCSDOL-20(単位:MPa/μm)が4.0以下である請求項6または7に記載の化学強化ガラス。
【請求項9】
板厚tが2mm以下である請求項6~8のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項10】
ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS100)が15MPa以上である請求項6~9のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項11】
前記CS100と板厚t(mm)の二乗との積(CS100×t)が120MPa・mm以下である請求項10に記載の化学強化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、タブレット端末等のモバイル機器のディスプレイ装置の保護ならびに美観を高めるために、化学強化ガラスからなるカバーガラスが用いられている。
【0003】
化学強化ガラスにおいては、表面圧縮応力(値)(CS)や圧縮応力層の深さ(DOL)が高くなるほど強度が高くなる傾向がある。一方で、表面圧縮応力との均衡を保つために、ガラス内部には内部引張応力(CT)が発生するので、CSやDOLが大きいほどCTが大きくなる。CTが大きいガラスが割れるときには、破片数が多い激しい割れ方となり、破片が飛散する危険性が大きくなる。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1は強化ガラスの内部引張応力の許容限界を示す式(10)を開示し、下記CT’を調節することで化学強化ガラスの強度を大きくしても破片の飛散が少ない化学強化ガラスが得られるとしていた。特許文献1に記載の内部引張応力CT’はCSおよびDOL’の測定値を使用し、下記式(11)にて導出している。
CT’≦-38.7×ln(t)+48.2 (10)
CS×DOL’=(t-2×DOL’)×CT’ (11)
ここで、DOL’はイオン交換層の深さに相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第8075999号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの研究によれば、特許文献1の方法では化学強化ガラスの強度が不足する場合があった。これは、ガラス組成の影響が十分に考慮されていないこと、CT’を求める上記式では、応力プロファイルを線形で近似していること、応力がゼロとなる点をイオン拡散層深さと等しいと仮定していることなどが原因と考えられる。本発明は、これらの問題を改善し、強度をより高くした化学強化ガラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上の化学強化ガラスであって、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS90)が25MPa以上、又は、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS100)が15MPa以上であり、
前記化学強化ガラスの母組成におけるSiO、Al、B、P、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO及びZrOの各成分の酸化物基準のモル百分率表示による含有量を用いて、下記式に基づき算出されるXの値が30000以上である化学強化ガラスである。
X=SiO×329+Al×786+B×627+P×(-941)+LiO×927+NaO×47.5+KO×(-371)+MgO×1230+CaO×1154+SrO×733+ZrO×51.8
【0008】
本発明の第一の態様は、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上の化学強化ガラスであって、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS90)が25MPa以上、又は、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS100)が15MPa以上であり、
前記化学強化ガラスの母組成におけるSiO、Al、B、P、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO及びZrOの各成分の酸化物基準のモル百分率表示による含有量を用いて、下記式に基づき算出されるZの値が20000以上である化学強化ガラスでもよい。
Z=SiO×237+Al×524+B×228+P×(-756)+LiO×538+NaO×44.2+KO×(-387)+MgO×660+CaO×569+SrO×291+ZrO×510
【0009】
第一の態様の化学強化ガラスは、板厚tが2mm以下の板状であることが好ましい。
【0010】
本発明の第二の態様は、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上であり、かつ、下記式(1)及び(2)を満たす化学強化ガラスである。
StL(t)≧a×t+7000 (単位:MPa・μm) (1)
a≧30000 (単位:MPa・μm/mm) (2)
(ここで、tは板厚(mm)であり、StL(t)は板厚tのときのSt Limitの値である。)
【0011】
前記第二の態様の化学強化ガラスは、a≧35000であることが好ましい。
【0012】
また、第二の態様は、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上の化学強化ガラスであって、下記式(3)、(4)及び(5)を満たす化学強化ガラスでもよい。
CTL(t)≧-b×ln(t)+c (単位:MPa) (3)
b≧14 (単位:MPa) (4)
c≧48.4 (単位:MPa) (5)
(ここで、tは板厚(mm)であり、CTL(t)は板厚tのときのCT Limitの値である。)
【0013】
第二の態様の化学強化ガラスは、板厚tが2mm以下の板状であることが好ましい。
【0014】
第二の態様の化学強化ガラスは、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS90)が25MPa以上、又は、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS100)が15MPa以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の第三の態様は、後述する砂上落下試験による平均割れ高さが250mm以上であり、後述する圧子圧入試験による破砕数が30個以下であり、板厚tが0.4~2mmであり、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上であり、かつ、圧縮応力層の深さ(DOL)が100μm以上である化学強化ガラスである。
【0016】
本発明の化学強化ガラスは、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値と板厚t(mm)の二乗との積(CS100×t)が5MPa・mm以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の化学強化ガラスは、圧縮応力層の面積Sc(MPa・μm)が30000MPa・μm以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の化学強化ガラスは、内部の圧縮応力の大きさが表面圧縮応力(CS)の2分の1になる部分の深さdが8μm以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の化学強化ガラスは、圧縮応力が最大となる位置dがガラス表面から5μmの範囲にあることが好ましい。
【0020】
本発明の化学強化ガラスは、圧縮応力層の深さ(DOL)が110μm以上であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の化学強化ガラスにおいては、DOLから20μmガラス表面側の深さにおける圧縮応力値CSDOL-20を用いて下記式により算出されるΔCSDOL-20(単位:MPa/μm)が0.4以上であることが好ましい。
ΔCSDOL-20=CSDOL-20/20
【0022】
また、本発明の化学強化ガラスにおいては、CS90とCS100とを用いて下記式により算出されるΔCS100-90(単位:MPa/μm)が0.4以上であることが好ましい。
ΔCS100-90=(CS90-CS100)/(100-90)
【0023】
本発明の化学強化ガラスにおいては、化学強化ガラスの母組成を有するガラスの破壊靱性値(K1c)が0.7MPa・m1/2以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の化学強化ガラスは、内部引張層の面積St(MPa・μm)が、StL(t)(MPa・μm)以下であることが好ましい。
(ここで、tは板厚(mm)であり、StL(t)は板厚tのときのSt Limitの値である。)
【0025】
本発明の化学強化ガラスは、内部引張層応力CT(MPa)が、CTL(t)(MPa)以下であることが好ましい。
(ここで、tは板厚(mm)であり、CTL(t)は板厚tのときのCT Limitの値である。)
【0026】
本発明の化学強化ガラスは、前記化学強化ガラスの母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを50~80%、Alを1~30%、Bを0~6%、Pを0~6%、LiOを0~20%、NaOを0~8%、KOを0~10%、MgOを0~20%、CaOを0~20%、SrOを0~20%、BaOを0~15%、ZnOを0~10%、TiOを0~5%、ZrOを0~8%を含有することが好ましい。
【0027】
また、本発明は、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを63~80%、Alを7~30%、Bを0~5%、Pを0~4%、LiOを5~15%、NaOを4~8%、KOを0~2%、MgOを3~10%、CaOを0~5%、SrOを0~20%、BaOを0~15%、ZnOを0~10%、TiOを0~1%、ZrOを0~8%を含有し、
Ta、Gd、As、Sbを含有せず、
SiO、Al、B、P、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO及びZrOの各成分の酸化物基準のモル百分率表示による含有量を用いて、下記式に基づき算出されるXの値が30000以上である化学強化用ガラスにも関する。
X=SiO×329+Al×786+B×627+P×(-941)+LiO×927+NaO×47.5+KO×(-371)+MgO×1230+CaO×1154+SrO×733+ZrO×51.8
【0028】
上記化学強化用ガラスにおいては、酸化物基準のモル百分率表示によるZrOの含有量が1.2%以下であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるKOの含有量が0.5%以上であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるBの含有量が1%以下であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるAlの含有量が11%以下であることが好ましい。
また、失透温度Tが、粘度が10dPa・sとなる温度T4以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、破壊による破片の飛散が抑制された高強度の化学強化ガラスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、化学強化ガラスの応力プロファイルを表す概念図であり、(a)は化学強化ガラスの応力プロファイルの一例を示す図であり、(b)は(a)の応力プロファイルの左側半分の拡大図であり、(c)はプロファイルA及びBのそれぞれにおける圧縮応力が最大となる位置の深さを示す図である。
図2図2は、化学強化ガラスの表面圧縮応力(CS)を測定するためのサンプルを作製する様子を表す概要図であり、(a)は研磨前のサンプルを示し、(b)は研磨後の薄片化されたサンプルを示す。
図3図3は、砂上落下試験の試験方法を表す模式図である。
図4図4は、化学強化ガラスまたはガラスのDOLと平均割れ高さとの関係をプロットしたグラフである。
図5図5は、化学強化ガラスまたはガラスのCTと平均割れ高さとの関係をプロットしたグラフである。
図6図6は、化学強化ガラスのCTと平均割れ高さとの関係をプロットしたグラフである。
図7図7は、化学強化ガラスまたはガラスの、表面圧縮応力値CSと平均割れ高さとの関係をプロットしたグラフである。
図8図8は、化学強化ガラスまたはガラスの圧縮応力値CS90と平均割れ高さとの関係をプロットしたグラフである。
図9図9は、化学強化ガラスまたはガラスの、圧縮応力値CS100と平均割れ高さとの関係をプロットしたグラフである。
図10図10は、化学強化ガラスまたはガラスの、圧縮応力値CS100と板厚tの二乗との積(CS100×t)と平均割れ高さとの関係をプロットしたグラフである。
図11図11は、化学強化ガラスについての、4点曲げ試験の試験結果を表すグラフである。
図12図12は、化学強化ガラスについての、CSと曲げ強度との関係をプロットしたグラフである。
図13図13は、化学強化ガラスについての、DOLと、曲げ強度との関係をプロットしたグラフである。
図14図14は、仮想的な化学強化ガラスの応力プロファイルを示すグラフである。
図15図15は、St Limit及びCT Limitの測定例を示し、(a)は内部引張応力層の面積Stと破砕数の関係を示すグラフであり、(b)は(a)中の点線で囲まれた部分の拡大図であり、(c)は内部引張応力CTと破砕数の関係を示すグラフであり、(d)は(c)中の点線で囲まれた部分の拡大図である。
図16図16は、DCDC法による破壊靭性値測定に用いるサンプルの説明図である。
図17図17は、DCDC法による破壊靭性値測定に用いる、応力拡大係数K1とクラック進展速度vとの関係を示すK1-v曲線を示す図である。
図18図18は、化学強化ガラスについての、St LimitとX値との関係をプロットしたグラフである。
図19図19は、化学強化ガラスについての、St LimitとZ値との関係をプロットしたグラフである。
図20図20は、化学強化ガラスについての、St Limitとヤング率との関係をプロットしたグラフである。
図21図21は化学強化ガラスについての、X値とZ値との関係をプロットしたグラフである。
図22図22は、化学強化ガラスのST Limitを板厚tに対してプロットしたグラフである。
図23図23は、化学強化ガラスのCT Limitを板厚tに対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下において、本発明の化学強化ガラスについて詳細に説明する。
【0032】
<第1の態様>
まず、第1の態様に係る化学強化ガラスについて説明する。
【0033】
第1の態様は、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上であり、かつ、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS90)が25MPa以上、またはガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS100)が15MPa以上の化学強化ガラスである。
本態様は、前記化学強化ガラスの母組成におけるSiO、Al、B、P、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO及びZrOの各成分の酸化物基準のモル百分率表示による含有量を用いて、下記式に基づき算出されるXの値が30000以上、及び/又は、下記式に基づき算出されるZの値が20000以上である。
X=SiO×329+Al×786+B×627+P×(-941)+LiO×927+NaO×47.5+KO×(-371)+MgO×1230+CaO×1154+SrO×733+ZrO×51.8
Z=SiO×237+Al×524+B×228+P×(-756)+LiO×538+NaO×44.2+KO×(-387)+MgO×660+CaO×569+SrO×291+ZrO×510
【0034】
第1の態様の化学強化ガラスは、表面に化学強化処理(イオン交換処理)によって形成された圧縮応力層を有する。化学強化処理では、ガラスの表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成させる。具体的には、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス板表面付近に存在するイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)をイオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラスの表面に圧縮応力が残留し、ガラスの強度が向上する。
【0035】
第1の態様において、化学強化ガラスの表面圧縮応力(CS)は300MPa以上である。スマートフォンやタブレットPCを落下させたときには、カバーガラス表面には引張応力が発生し、その大きさは350MPa程度に達する。このとき、CSが300MPa以上であると、落下によって生じる引張応力が相殺されるために破壊しにくくなるので好ましい。化学強化ガラスのCSは、好ましくは350MPa以上であり、より好ましくは400MPa以上であり、さらに好ましくは450MPa以上である。
【0036】
一方、化学強化ガラスのCSの上限は特に限定されるものではないが、CSが大きすぎると万一破壊が生じた場合には、破片が飛び散る等の危険が大きくなるので、破壊時の安全上の観点からは、例えば2000MPa以下であり、好ましくは1500MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは800MPa以下である。
【0037】
なお、化学強化ガラスのCSは、化学強化条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0038】
また、第1の態様における化学強化ガラスのCSは、下記二種類の測定方法による値CSおよびCSにより、次のように定義される。ガラス表面からxμmの深さの部分の圧縮応力値(CS)についても同様である。
CS=CS=1.28×CS
【0039】
ここで、CSは折原製作所社製の表面応力計FSM-6000により測定され表面応力計の付属プログラムFsmVにより求められる値である。
【0040】
また、CSは株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio-IMを用いて以下の手順で測定される値である。図2に示すように10mm×10mmサイズ以上、厚さ0.2~2mm程度の化学強化ガラスの断面を150~250μmの範囲に研磨し薄片化を行う。研磨手順としては#1000ダイヤ電着砥石により目的厚みのプラス50μm程度まで研削し、その後#2000ダイヤ電着砥石を用いて目的厚みのプラス10μm程度まで研削し、最後に酸化セリウムによる鏡面出しを行い目的厚みとする。以上のように作成した200μm程度に薄片化されたサンプルに対し、光源にλ=546nmの単色光を用い、透過光での測定を行い、複屈折イメージングシステムにより、化学強化ガラスが有する位相差(リタデーション)の測定を行い、得られた値と下記式(A)を用いることで応力を算出する。
F=δ/(C×t’)・・・式(A)
式(A)中、Fは応力(MPa)、δは位相差(リタデーション)(nm)、Cは光弾性定数(nm cm-1MPa)、t’はサンプルの厚さ(cm)を示す。
【0041】
また、本発明者らは、DOLが所定値以上であり、かつ圧縮応力層内部の所定深さにおける圧縮応力値が所定値以上である化学強化ガラス(以下、高DOLガラスともいう)は、優れた砂上落下耐性を有することを見出した。また、そのような高DOLガラスは、CTが比較的大きい場合でも砂上落下耐性が高いことを見出した。
以上の観点から、第1の態様においては、化学強化ガラスの、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS90)が25MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましい。また、化学強化ガラスの、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS100)が15MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であることがより好ましい。また、第1の態様の化学強化ガラスにおいては、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値と板厚t(mm)の二乗との積CS100×tが5MPa・mm以上であることが好ましい。
【0042】
CS90が25MPa以上であると、実用的な場面において化学強化ガラスに衝突しうる砂等の鋭角物との衝突によって生じる傷に起因する破壊に対して、十分な耐性を有することができ、すなわち、砂上落下耐性に優れる。また、本発明者らは、CS90が25MPa以上の化学強化ガラスにおいては、CTが比較的大きくとも砂上落下耐性の高い化学強化ガラスを提供できることを見出した。
【0043】
CS90は、より好ましくは30MPa以上であり、さらに好ましくは35MPa以上であり、よりさらに好ましくは40MPa以上であり、特に好ましくは45MPa以上であり、最も好ましくは50MPa以上である。
【0044】
一方、CS90の上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば250MPa以下であり、好ましくは200MPa以下であり、さらに好ましくは150MPa以下であり、特に好ましくは100MPa以下であり、最も好ましくは75MPa以下である。
【0045】
上記と同様に、CS100は、より好ましくは20MPa以上であり、さらに好ましくは23MPa以上であり、よりさらに好ましくは26MPa以上であり、特に好ましくは30MPa以上であり、最も好ましくは33MPa以上である。CS100の上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば200MPa以下であり、好ましくは150MPa以下であり、さらに好ましくは100MPa以下であり、特に好ましくは75MPa以下であり、最も好ましくは50MPa以下である。
【0046】
また、CS100×tは、好ましくは5MPa・mm以上であり、より好ましくは7MPa・mm以上であり、さらに好ましくは10MPa・mm以上であり、特に好ましく15MPa・mm以上であり、最も好ましくは20MPa・mm以上である。CS100×tの上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば120MPa・mm以下であり、好ましくは100MPa・mm以下であり、さらに好ましくは80MPa・mm以下であり、特に好ましくは60MPa・mm以下であり、最も好ましくは40MPa・mm以下である。
【0047】
第1の態様の化学強化ガラスにおいては、内部の圧縮応力の大きさが表面圧縮応力(CS)の2分の1になる部分の深さd図1(b)参照)が8μm以上であることが好ましい。dが8μm以上であると、加傷時の曲げ強度の強度低下に対する耐性が向上する。dは好ましくは8μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは12μm以上であり、特に好ましくは15μm以上である。一方、dの上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば70μm以下であり、好ましくは60μm以下であり、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下であり、特に好ましくは30μm以下である。
【0048】
第1の態様の化学強化ガラスにおいては、圧縮応力が最大となる位置の深さd図1(c)参照)がガラス表面から10μm以下の範囲にあることが好ましい。dがガラス表面から10μmより深い部分に位置する場合、化学強化処理による曲げ強度向上の効果が十分に得られず、曲げ強度低下につながる恐れがある。dは好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。
【0049】
第1の態様において、DOLは、100μm以上であることが好ましい。DOLが100μm以上であると、実用的な場面において化学強化ガラスに衝突しうる砂等の鋭角物との衝突によって生じる傷に起因する破壊に対して、十分な耐性を有することができる。DOLは、より好ましくは110μm以上であり、さらに好ましくは120μm以上であり、特に好ましくは130μm以上である。
【0050】
一方、DOLの上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば200μm以下であり、好ましくは180μm以下であり、さらに好ましくは160μm以下であり、特に好ましくは150μm以下である。
【0051】
なお、DOLは、化学強化条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0052】
本発明の化学強化ガラスにおいては、DOLから20μmガラス表面側の深さにおける圧縮応力値CSDOL-20を用いて下記式により算出されるΔCSDOL-20(単位:MPa/μm)が0.4以上であることが好ましい。
ΔCSDOL-20=CSDOL-20/20
ΔCSDOL-20を0.4以上とすることにより、鋭角物で加傷された後の曲げ強度(加傷後曲げ強度)を高くすることができる。ΔCSDOL-20は、より好ましくは、以下、段階的に、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.5以上である。一方、ΔCSDOL-20の上限は特に限定されるものではないが、破砕の安全性の観点からは、例えば4.0以下であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.7以下、典型的には1.6以下である。
【0053】
また、本発明の化学強化ガラスにおいては、CS90とCS100とを用いて下記式により算出されるΔCS100-90(単位:MPa/μm)が0.4以上であることが好ましい。
ΔCS100-90=(CS90-CS100)/(100-90)
ΔCS100-90を0.4以上とすることにより、鋭角物で加傷された後の曲げ強度(加傷後曲げ強度)を高くすることができる。ΔCS100-90は、より好ましくは、以下、段階的に、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.5以上である。一方、ΔCS100-90の上限は特に限定されるものではないが、破砕の安全性の観点からは、例えば4.0以下であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.7以下、典型的には1.6以下である。
【0054】
また、第1の態様における化学強化ガラスのDOLは応力プロファイル中で応力がゼロになる部分のガラス表面からの深さであり、折原製作所社製の表面応力計FSM-6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値である。また、株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio-IMを用いて図2(b)に示されるような薄片化サンプルを用いて測定することもできる。
【0055】
第1の態様の化学強化ガラスにおいては、圧縮応力層の面積Sc(MPa・μm)の値は30000MPa・μm以上であることが好ましい。圧縮応力層の面積Sc(MPa・μm)の値が30000MPa・μm以上であると、より大きなCSおよびDOLを導入することで、実用的な場面において化学強化ガラスに衝突しうる砂等の鋭角物との衝突によって生じる傷に起因する破壊に対して、十分な耐性を有する化学強化ガラスを得ることができる。Scは32000MPa・μm以上がより好ましく、以下、段階的に34000MPa・μm以上、36000MPa・μm以上、38000MPa・μm以上、40000MPa・μm以上、42000MPa・μm以上、44000MPa・μm以上、46000MPa・μm以上がさらに好ましい。
【0056】
また、第1の態様における化学強化ガラスのSc(MPa・μm)は、下記二種類の測定方法による値ScおよびScにより、次のように定義される。
Sc=Sc=1.515×Sc
ここで、Scは折原製作所社製の表面応力計FSM-6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値を用いて算出した値であり、Scは前述のCS測定と同様の手法である、複屈折イメージングシステムAbrio-IMおよび薄片化サンプルを用いた測定により得られる値である。
【0057】
また、第1の態様における化学強化ガラスの内部引張層の面積St(MPa・μm)は、下記二種類の測定方法による値StおよびStにより、次のように定義される。
St=St=1.515×St
ここで、Stは折原製作所社製の表面応力計FSM-6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値を用いて算出した値であり、Stは前述のCS測定と同様の手法である、複屈折イメージングシステムAbrio-IMおよび薄片化サンプルを用いた測定により得られる値である。上記と同様に二手法により応力プロファイルを作成し、StもしくはStを算出し、Stを得ることができる。
【0058】
図1(a)にScとStの概念図を示す。ScとStは原理的に等しい値であり、0.95<Sc/St<1.05となるように算出することが好ましい。
【0059】
また、第1の態様においては、化学強化ガラスの母組成におけるSiO、Al、B、P、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO及びZrOの各成分の酸化物基準のモル百分率表示による含有量を用いて、下記式に基づき算出される下記Xの値が30000以上、及び/又は、下記式に基づき算出される下記Zの値が20000以上である。
なお、化学強化ガラスの母組成とは、化学強化前のガラス(以下、化学強化用ガラスともいう)の組成である。ここで、化学強化ガラスの引張応力を有する部分(以下、引張応力部分ともいう)はイオン交換されていない部分である。そして、化学強化ガラスの厚みが十分大きい場合には、化学強化ガラスの引張応力部分は、化学強化前のガラスと同じ組成を有している。その場合には、引張応力部分の組成を母組成とみなすことができる。また、化学強化ガラスの母組成の好ましい態様については後述する。
X=SiO×329+Al×786+B×627+P×(-941)+LiO×927+NaO×47.5+KO×(-371)+MgO×1230+CaO×1154+SrO×733+ZrO×51.8
Z=SiO×237+Al×524+B×228+P×(-756)+LiO×538+NaO×44.2+KO×(-387)+MgO×660+CaO×569+SrO×291+ZrO×510
【0060】
本発明者らは、上記式に基づき算出されるX値およびZ値が、化学強化ガラスの破壊(破砕)時に生じる破片の数(破砕数)とよく相関し、X値およびZ値が大きくなるほど、ガラスの破壊時の破砕数が少なくなる傾向があることを実験的に見出した。
【0061】
前記知見に基づいて、破砕数が少なくより安全性の高いガラスとする観点から、第1の態様の化学強化ガラスにおいては、X値は30000MPa・μm以上であることが好ましく、以下、段階的に、32000MPa・μm以上、34000MPa・μm以上、36000MPa・μm以上、38000MPa・μm以上、40000MPa・μm以上、42000MPa・μm以上、44000MPa・μm以上、45000MPa・μm以上、46000MPa・μm以上であることがより好ましい。
【0062】
また、同様の観点から、Z値は20000MPa・μm以上であることが好ましく、以下、段階的に、22000MPa・μm以上、24000MPa・μm以上、26000MPa・μm以上、28000MPa・μm以上、29000MPa・μm以上、30000MPa・μm以上であることがより好ましい。
【0063】
X値およびZ値は化学強化ガラスの母組成における前記各成分量によって調整することができる。第1の態様において、化学強化ガラスの母組成は特に限定されるものではないが、化学強化後のガラスに前述した化学強化特性を与える化学強化処理を適用可能であり、かつ、前記Xの値が30000以上、及び/又は、前記Zの値が20000以上となるガラス組成を適宜選択すればよい。
【0064】
また、下記式に基づき算出されるY値が、化学強化ガラスの破壊(破砕)時に生じる破片の数(破砕数)と相関し、Y値が大きくなるほど、ガラスの破壊時の破砕数が少なくなる傾向があることを実験的に見出した。
Y=SiO×0.00884+Al×0.0120+B×(-0.00373)+P×0.000681+LiO×0.00735+NaO×(-0.00234)+KO×(-0.00608)+MgO×0.0105+CaO×0.00789+SrO×0.00752+BaO×0.00472+ZrO×0.0202
【0065】
前記知見に基づいて、ガラスが破壊する場合であっても破砕数が少なくより安全性の高いガラスとする観点から、第1の態様の化学強化ガラスにおいては、Y値は0.7以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましく、0.77以上であることがさらに好ましく、0.80以上であることが特に好ましく、0.82以上であることが最も好ましい。
【0066】
本発明の化学強化用ガラスは、失透温度Tが、粘度が10dPa・sとなる温度T4以下であることが好ましい。失透温度TがT4より高い場合には、フロート法等によるガラス板成形時に失透による品質低下が生じやすいからである。
【0067】
第1の態様の化学強化ガラスは、板状(ガラス板)である場合、その板厚(t)は、特に限定されるものではないが、化学強化の効果を高くするためには、例えば2mm以下であり、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは0.9mm以下であり、特に好ましくは0.8mm以下であり、最も好ましくは0.7mm以下である。また、当該板厚は、化学強化処理による十分な強度向上の効果を得る観点からは、例えば0.1mm以上であり、好ましくは0.2mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。
【0068】
なお、第1の態様の化学強化ガラスは、適用される製品や用途等に応じて、板状以外の形状でもよい。またガラス板は、外周の厚みが異なる縁取り形状などを有していてもよい。また、上記ガラス板は、2つの主面と、これらに隣接して板厚を形成する端面とを有し、2つの主面は互いに平行な平坦面を形成していてもよい。ただし、ガラス板の形態はこれに限定されず、例えば2つの主面は互いに平行でなくともよく、また、2つの主面の一方又は両方の全部又は一部が曲面であってもよい。より具体的には、ガラス板は、例えば、反りの無い平板状のガラス板であってもよく、また、湾曲した表面を有する曲面ガラス板であってもよい。
【0069】
第1の態様によれば、CTもしくはStが大きくても破砕数がより少なく、安全性が高い化学強化ガラスが得られる。
たとえば、スマートフォン等のモバイル機器は、誤って落下した際に、砂などの、角度の小さい衝突部分を有する衝突物(以下、鋭角物ともいう)に衝突し、カバーガラスとしての化学強化ガラスが破損してしまう機会が比較的高いため、鋭角物に衝突した場合でも破損しにくい化学強化ガラスが求められている。
第1の態様に係る化学強化ガラスは、実用的な場面において衝突しうる砂等の鋭角物との衝突によって生じる傷に起因する破壊に対する耐性(砂上落下耐性)にも優れる。
【0070】
<第2の態様>
つづいて、第2の態様に係る化学強化ガラスについて説明する。
第2の態様の化学強化ガラスの一つは、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上であり、かつ、下記式(1)及び(2)を満たす化学強化ガラスである。
StL(t)≧a×t+7000 (単位:MPa・μm) (1)
a≧30000 (単位:MPa・μm/mm)(2)
(ここで、tは板厚(mm)であり、StL(t)は板厚tのときのSt Limitの値である。)
【0071】
ここで、StL(t)は、次の測定により求められる値である。25mm×25mm×板厚t(mm)のガラスに対して、内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)が変化するように種々の化学強化処理条件で化学強化処理を行って、種々の内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)を有する化学強化ガラスを作製する。そして、対面角の圧子角度60度を有するダイヤモンド圧子を用いて、3~10kgfの荷重を15秒間保持する圧子圧入試験により、これら化学強化ガラスをそれぞれ破壊させて、破壊後の化学強化ガラスの破片の数(破砕数)をそれぞれ計測する。そして、破砕数が10個となった内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)を、板厚t(mm)のときのSt Limit値=StL(t)と規定する。破砕数が10個をまたぐ場合、10個未満となる最大破砕数n個のSt値であるStn値と、10個超となる最小破砕数m個のSt値であるStm値を用いて、下式によってStL(t)値を規定する。
StL(t)値 = Stn+(10-n)×(Stm-Stn)/(m-n)
25mm×25mmより大きなサイズの化学強化ガラスを用いるときは、化学強化ガラス内に25mm×25mmの領域を表示し、その領域内で上記のStL(t)測定を行う。
【0072】
また、StL(t)は板厚t(mm)、およびaに依存し、aはガラス組成に依存するパラメータである。StL(t)はtに対して線形的に変化し、かつその傾きは組成で変化するパラメータaで記述できる。また、aの値を30000MPa・μm/mm以上とすることにより、より大きなCSおよびDOLを導入したときでも、より破砕数が少なく安全性の高い破砕様式とすることができる。
【0073】
aの値は、より好ましくは32000MPa・μm/mm以上であり、以下、段階的に、34000MPa・μm/mm以上、36000MPa・μm/mm以上、38000MPa・μm/mm以上、40000MPa・μm/mm以上、42000MPa・μm/mm以上、44000MPa・μm/mm以上、46000MPa・μm/mm以上、48000MPa・μm/mm以上、50000MPa・μm/mm以上がより好ましい。
【0074】
また、本実施形態の化学強化ガラスにおいて、aが53000MPa・μm/mmより大きい場合は、ガラスの失透温度が高くなり、ガラス製造において生産性が悪化するおそれがある。したがって、aの値は53000MPa・μm/mm以下であることが好ましい。
【0075】
また、第2の態様の化学強化ガラスの一つは、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上であり、かつ、下記式(3)、(4)及び(5)を満たす化学強化ガラスである。
CTL(t)≧-b×ln(t)+c (単位:MPa) (3)
b≧14 (単位:MPa) (4)
c≧48.4 (単位:MPa) (5)
(ここで、tは板厚(mm)であり、CTL(t)は板厚tのときのCT Limitの値である。)
【0076】
ここで、CTL(t)は次の測定により求められる値である。具体的には、25mm×25mm×板厚t(mm)のガラスに対して、内部引張応力CT(単位:MPa)が変化するように種々の化学強化処理条件で化学強化処理を行って、種々の内部引張応力CT(単位:MPa)を有する化学強化ガラスを作製する。そして、対面角の圧子角度60度を有するダイヤモンド圧子を用いて、3~10kgfの荷重を15秒間保持する圧子圧入試験により、これら化学強化ガラスをそれぞれ破壊させて、破壊後の化学強化ガラスの破片の数(破砕数)をそれぞれ計測する。そして、破砕数が10個となった内部引張応力CT(単位:MPa)を、板厚t(mm)のときのCT Limit値=CTL(t)と規定する。破砕数が10個をまたぐ場合、10個未満となる最大破砕数n個のCT値であるCTn値と、10個超となる最小破砕数m個のCT値であるCTm値を用いて、下式によってCTL(t)値を規定する。
CTL(t)値 = CTn+(10-n)×(CTm-CTn)/(m-n)
25mm×25mmより大きなサイズの化学強化ガラスを用いるときは、化学強化ガラス内に25mm×25mmの領域を表示し、その領域内で上記のCTL(t)測定を行う。
【0077】
また、CTL(t)は板厚t(mm)、b、及びcに依存し、b及びcはガラス組成に依存するパラメータである。CTL(t)はtの増加に対して減少し、式(3)のように自然対数を用いて記述できる。本実施形態によれば、b及びcの値をそれぞれ14MPa以上及び48.4MPa以上とすることにより、従来よりも大きなCSおよびDOLを導入したときでも、より破砕数が少なく安全性の高い破砕様式とすることができる。
【0078】
bの値は、より好ましくは14MPa以上であり、以下、段階的に、15MPa以上、16MPa以上、17MPa以上、18MPa以上、19MPa以上、20MPa以上、21MPa以上、22MPa以上、23MPa以上、24MPa以上、25MPa以上、26MPa以上、27MPa以上、28MPa以上、29MPa以上、30MPa以上であることが好ましい。
【0079】
cの値は、より好ましくは48.4MPa以上であり、以下、段階的に、49MPa以上、50MPa以上、51MPa以上、52MPa以上、53MPa以上、54MPa以上、55MPa以上、56MPa以上、57MPa以上、58MPa以上、59MPa以上、60MPa以上、61MPa以上、62MPa以上、63MPa以上、64MPa以上、65MPa以上であることが好ましい。
【0080】
本実施形態の化学強化ガラスにおいて、bが35MPaより大きく、またcが75MPaより大きい場合、一般にガラスの失透性が悪くなり、ガラス製造において生産性が悪化するおそれがある。したがって、CTL(t)は-35×ln(t)+75より小さい方が好ましい。
【0081】
なお、St値及びCT値は、折原製作所社製の表面応力計FSM-6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値St及びCT、もしくは複屈折イメージングシステムAbrio-IMおよび薄片化サンプルを用いた測定により得られる値St及びCTを用いて、それぞれ次のように定義される。
St=St=1.515×St
CT=CT=1.28×CT
ここで、CTはFsmVにて解析される値CT_CVと等しい値であり、下記式(11)で求められるCT’とは異なるものである。
CS×DOL’=(t-2×DOL’)×CT’ (11)
ここで、DOL’はイオン交換層の深さに相当する。CT’を求める上記式は、応力プロファイルを線形で近似しており、また、応力がゼロとなる点をイオン拡散層深さと等しいと仮定している為、実際の内部引張応力よりも大きく見積もってしまうという問題があり、本実施形態における内部引張応力の指標としては不適である。
【0082】
第2の態様の化学強化ガラスは、表面に化学強化処理(イオン交換処理)によって形成された圧縮応力層を有する。
【0083】
第2の態様の化学強化ガラスは、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上である。ここで、第2の態様の化学強化ガラスにおけるCSの限定理由及び好ましい数値範囲は第1の態様と同様である。
【0084】
また、第2の態様の化学強化ガラスにおけるCS90、CS100及びCS100×tの好ましい数値範囲及びそれに付随する技術的効果は、第1の態様と同様である。特に、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS90)が25MPa以上、又は、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS100)が15MPa以上であれば、実用的な場面において化学強化ガラスに衝突しうる砂等の鋭角物との衝突によって生じる傷に起因する破壊に対して、十分な耐性を有することができ、すなわち、砂上落下耐性にも優れた化学強化ガラスとできる。
また、第2の態様の化学強化ガラスにおけるd及びdの好ましい数値範囲及びそれに付随する技術的効果は、第1の態様と同様である。
また、第2の態様の化学強化ガラスにおけるDOLの好ましい数値範囲及びそれに付随する技術的効果は、第1の態様と同様である。
さらに、第2の態様の化学強化ガラスにおけるSc及びStの好ましい数値範囲及びそれに付随する技術的効果は、第1の態様と同様である。
【0085】
また、第2の態様の化学強化ガラスは、板厚tが2mm以下の板状であることが好ましい。第2の態様の化学強化ガラスにおける板厚tの好ましい数値範囲及びそれに付随する技術的効果は、第1の態様と同様である。
また、第2の態様の化学強化ガラスは、第1の態様の化学強化ガラスと同様に、板状以外の各種形状をとりうる。
【0086】
<第3の態様>
つづいて、第3の態様に係る化学強化ガラスについて説明する。
【0087】
第3の態様は、下記条件での砂上落下試験による平均割れ高さが250mm以上であり、
下記条件での圧子圧入試験による破砕数が30個以下であり、
板厚tが0.4~2mmであり、
表面圧縮応力(CS)が300MPa以上であり、かつ、
圧縮応力層の深さ(DOL)が100μm以上である化学強化ガラスに関する。
【0088】
第3の態様における化学強化ガラスの砂上落下試験による平均割れ高さは、優れた砂上落下耐性を有するとの観点から、250mm以上であり、好ましくは300mm以上であり、より好ましくは350mm以上である。ここで、第3の態様における化学強化ガラスの平均割れ高さは、下記条件での砂上落下試験により測定されるものとする。
【0089】
砂上落下試験条件:
硬質ナイロン製のモック板(50mm×50mm、重量:54g)に化学強化ガラス(50mm×50mm×板厚t(mm))をスポンジ両面テープ(50mm×50mm×厚み3mm)を介して貼り合わせ、測定試料を作製する。次に、15cm×15cmのサイズのSUS板上に、1gのけい砂(竹折社製5号けい砂)を均一となるようにまき、作製した測定試料を、化学強化ガラスを下にして、けい砂がまかれたSUS板の表面に所定の高さ(落下高さ)から落下させる。落下試験は、落下高さ:10mmから開始して、10mmずつ高さを上げて実施し、化学強化ガラスが割れた高さを割れ高さ(単位mm)とする。落下試験は各例について5回以上実施し、落下試験での割れ高さの平均値を、平均割れ高さ(単位:mm)とする。
【0090】
また、第3の態様における化学強化ガラスの圧子圧入試験による破砕数は、万が一破壊(破砕)してもより安全な破壊(破砕)となるとの観点から、30個以下であり、好ましくは20個以下であり、より好ましくは10個以下であり、さらに好ましくは5個以下であり、特に好ましくは2個以下である。ここで、第3の態様における化学強化ガラスの破壊数は、下記条件での圧子圧入試験により測定されるものとする。
【0091】
圧子圧入試験条件:
25mm×25mm×板厚t(mm)の化学強化ガラスに対して、対面角の圧子角度60度を有するダイヤモンド圧子を用いて、3~10kgfの荷重を15秒間保持する圧子圧入試験により、化学強化ガラスを破壊させて、破壊後の化学強化ガラスの破砕数を計測する。25mm×25mmより大きなサイズの化学強化ガラスを用いるときは、化学強化ガラス内に25mm×25mmの領域を表示し、その領域内で圧子圧入試験および破砕数の計測を行う。化学強化ガラスが曲面形状を持つときは、投影面積で25mm×25mmのサイズを化学強化ガラスの曲面上に表示させ、その領域内で圧子圧入試験および破砕数の計測を行う。
【0092】
また、第3の態様の化学強化ガラスは、板状(ガラス板)であり、その板厚(t)は、化学強化により顕著な強度向上を可能にするとの観点から、例えば2mm以下であり、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは0.9mm以下であり、特に好ましくは0.8mm以下であり、最も好ましくは0.7mm以下である。また、当該板厚は、化学強化処理による十分な強度向上の効果を得る観点からは、例えば0.3mm以上であり、好ましくは0.4mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上である。
【0093】
第3の態様の化学強化ガラスは、表面圧縮応力(CS)が300MPa以上である。ここで、第3の態様の化学強化ガラスにおけるCSの限定理由及び好ましい数値範囲は第1の態様と同様である。
【0094】
また、第3の態様の化学強化ガラスにおけるDOLは、実用的な場面において化学強化ガラスに衝突しうる砂等の鋭角物との衝突によって生じる傷に起因する破壊に対して、十分な耐性を有するとの観点より、100μm以上である。DOLは、より好ましくは110μm以上であり、さらに好ましくは120μm以上であり、特に好ましくは130μm以上である。
【0095】
また、第3の態様の化学強化ガラスにおけるCS90、CS100及びCS100×tの好ましい数値範囲及びそれに付随する技術的効果は、第1の態様と同様である。
また、第3の態様の化学強化ガラスにおけるd及びdの好ましい数値範囲及びそれに付随する技術的効果は、第1の態様と同様である。
さらに、第3の態様の化学強化ガラスにおけるSc及びStの好ましい数値範囲及びそれに付随する技術的効果も、第1の態様と同様である。
【0096】
第3の態様に係る化学強化ガラスは、CTもしくはStが大きくても破砕数が少なく、安全性が高い化学強化ガラスである。
【0097】
<化学強化用ガラス>
つづいて、本発明の化学強化用ガラスについて説明する。
【0098】
以下において化学強化用ガラスのガラス組成を、化学強化ガラスの母組成ということがある。
化学強化ガラスの厚みが十分大きい場合には、化学強化ガラスの引張応力を有する部分(以下、引張応力部分ともいう)は、イオン交換されていない部分であるから、化学強化ガラスの引張応力部分は、化学強化前のガラスと同じ組成を有している。その場合は、化学強化ガラスの、引張応力部分の組成を化学強化ガラスの母組成とみなすことができる。
【0099】
ガラスの組成は、簡易的には蛍光エックス線法による半定量分析によって求めることも可能であるが、より正確には、ICP発光分析等の湿式分析法により測定できる。
なお、各成分の含有量は、特に断りのない限り、酸化物基準のモル百分率表示で表すものとする。
【0100】
本発明の化学強化用ガラス用の組成(本発明の化学強化ガラスの母組成)としては、例えば、SiOを50~80%、Alを1~30%、Bを0~5%、Pを0~4%、LiOを3~20%、NaOを0~8%、KOを0~10%、MgOを3~20%、CaOを0~20%、SrOを0~20%、BaOを0~15%、ZnOを0~10%、TiOを0~1%、ZrOを0~8%を含有するものが好ましい。
たとえば、SiOを63~80%、Alを7~30%、Bを0~5%、Pを0~4%、LiOを5~15%、NaOを4~8%、KOを0~2%、MgOを3~10%、CaOを0~5%、SrOを0~20%、BaOを0~15%、ZnOを0~10%、TiOを0~1%、ZrOを0~8%を含有し、Ta、Gd、As、Sbを含有しないガラスが挙げられる。
本化学強化用ガラスは、X=SiO×329+Al×786+B×627+P×(-941)+LiO×927+NaO×47.5+KO×(-371)+MgO×1230+CaO×1154+SrO×733+ZrO×51.8に基づき算出されるXの値が30000以上であることが好ましい。
また、Z=SiO×237+Al×524+B×228+P×(-756)+LiO×538+NaO×44.2+KO×(-387)+MgO×660+CaO×569+SrO×291+ZrO×510に基づき算出されるZの値が20000以上であることが好ましい。
【0101】
SiOはガラスの骨格を構成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、ガラス表面に傷(圧痕)がついた時のクラックの発生を低減させる成分であり、SiOの含有量は50%以上であることが好ましい。SiOの含有量は、より好ましくは、以下、段階的に、54%以上、58%以上、60%以上、63%以上、66%以上、68%以上である。一方、SiOの含有量が80%超であると溶融性が著しく低下する。SiOの含有量は80%以下であり、より好ましくは78%以下、さらに好ましくは76%以下、特に好ましくは74%以下、最も好ましくは72%以下である。
【0102】
Alは化学強化ガラスの破砕性を向上する成分である。ここでガラスの破砕性が高いとは、ガラスが割れた際の破片数が少ないことをいう。破砕性の高いガラスは、破壊した時に破片が飛び散りにくいことから、安全性が高いといえる。また、Alは化学強化の際のイオン交換性能を向上させ、強化後の表面圧縮応力を大きくするために有効な成分であるため、Alの含有量は1%以上であることが好ましい。AlはガラスのTgを高くする成分であり、ヤング率を高くする成分でもある。Alの含有量は、より好ましくは、以下、段階的に、3%以上、5%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上である。一方、Alの含有量が30%超であるとガラスの耐酸性が低下し、または失透温度が高くなる。また、ガラスの粘性が増大し溶融性が低下する。Alの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは18%以下、最も好ましくは15%以下である。一方、Alの含有量が大きい場合はガラス溶融時の温度が大きくなり生産性が低下する。ガラスの生産性を考慮する場合は、Alの含有量は好ましくは11%以下であり、以下、段階的に、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下であることが好ましい。
【0103】
は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分である。Bは必須ではないが、Bを含有させる場合の含有量は、溶融性を向上するために好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Bの含有量が5%を超えると溶融時に脈理が発生し化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため5%以下が好ましい。Bの含有量は、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには含有しないことが好ましい。
【0104】
は、イオン交換性能およびチッピング耐性を向上させる成分である。Pは含有させなくてもよいが、Pを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Pの含有量が4%超では、化学強化ガラスの破砕性が低下する、また耐酸性が著しく低下する。Pの含有量は、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには含有しないことが好ましい。
【0105】
LiOは、またイオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分である。
ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換し、上記CS90が30MPa以上になるような化学強化処理を行う場合、LiOの含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは6%以上、典型的には7%以上である。一方、LiOの含有量が20%超ではガラスの耐酸性が著しく低下する。LiOの含有量は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは13%以下である。
一方、ガラス表面のNaイオンをKイオンに交換し、上記CS90が30MPa以上になるような化学強化処理を行う場合、LiOの含有量が3%超であると、圧縮応力の大きさが低下し、CS90が30MPa以上を達成することが難しくなる。この場合、LiOの含有量は、3%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下であり、最も好ましくはLiOを実質的に含有しない。
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。具体的には、ガラス組成中の含有量が、0.1モル%未満であることを指す。
【0106】
NaOはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる成分である。
ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換し、上記CS90が30MPa以上になるような化学強化処理を行う場合、NaOは含有しなくてもよいが、ガラスの溶融性を重視する場合は含有してもよい。NaOを含有させる場合の含有量は1%以上であると好ましい。NaOの含有量は、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。一方、NaOの含有量が8%超ではイオン交換により形成される表面圧縮応力が著しく低下する。NaOの含有量は、好ましくは8%以下であり、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは6%以下、特に好ましくは5%以下、最も好ましくは4%以下である。
一方、ガラス表面のNaイオンをKイオンに交換し、上記CS90が30MPa以上になるような化学強化処理を行う場合にはNaは必須であり、その含有量は5%以上である。NaOの含有量は、好ましくは5%以上であり、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは9%以上、特に好ましくは11%以上、最も好ましくは12%以上である。一方、NaOの含有量が20%超ではガラスの耐酸性が著しく低下する。NaOの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは14%以下である。
硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合溶融塩に浸漬する等の方法により、ガラス表面のLiイオンとNaイオン、NaイオンとKイオンを同時にイオン交換する場合には、NaOの含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下、最も好ましくは5%以下である。また、NaOの含有量は、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは4%以上である。
【0107】
Oは、イオン交換性能を向上させる等のために含有させてもよい。KOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上である。一方、KOの含有量が10%超であると、化学強化ガラスの破砕性が低下するため、KOの含有量は10%以下であることが好ましい。KOの含有量は、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下であり、最も好ましくは2%以下である。
【0108】
MgOは、化学強化ガラスの表面圧縮応力を増大させる成分であり、破砕性を改善する成分であり、含有させることが好ましい。MgOを含有させる場合の含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上である。一方、MgOの含有量が20%超であると化学強化用ガラスが溶融時に失透しやすくなる。MgOの含有量は20%以下が好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、18%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下である。
【0109】
CaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上させる成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、CaOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。CaOの含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0110】
SrOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。SrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、SrOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。SrOの含有量の含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0111】
BaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、BaOの含有量が15%超となるとイオン交換性能が著しく低下する。BaOの含有量は15%以下であることが好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0112】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、ZnOの含有量が10%超となるとガラスの耐候性が著しく低下する。ZnOの含有量は10%以下であることが好ましく、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは2%以下であり、最も好ましくは1%以下である。
【0113】
TiOは、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。TiOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.2%以上である。一方、TiOの含有量が5%超であると溶融時に失透しやすくなり、化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。TiOの含有量は1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.25%以下である。
【0114】
ZrOは、イオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分であり、化学強化用ガラスの破砕性を改善する効果があり、含有させてもよい。ZrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、ZrOの含有量が8%超であると溶融時に失透しやすくなり、化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。ZrOの含有量は8%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下であり、特に好ましくは2%以下であり、最も好ましくは1.2%以下である。
【0115】
、La、Nbは、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。一方、Y、La、Nbの含有量はそれぞれ8%超であると溶融時にガラスが失透しやすくなり化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。Y、La、Nbの含有量はそれぞれ、8%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは4%以下であり、最も好ましくは3%以下である。
Ta、Gdは、化学強化ガラスの破砕性を改善するために少量含有してもよいが、屈折率や反射率が高くなるので1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。
【0116】
さらに、ガラスに着色を行い使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co、MnO、Fe、NiO、CuO、Cr、V、Bi、SeO、TiO、CeO、Er、Nd等が好適なものとして挙げられる。
【0117】
着色成分の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、合計で7%以下の範囲が好ましい。7%を超えるとガラスが失透しやすくなり望ましくない。この含有量は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。ガラスの可視光透過率を優先させる場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0118】
ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。Asは含有しないことが好ましい。Sbを含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0119】
また、本発明の化学強化ガラスは、銀イオンを表面に有することで、抗菌性を付与することができる。
【0120】
また、本発明の化学強化用ガラスは、破壊靱性値(K1c)が0.7MPa・m1/2以上であることが好ましく、0.75MPa・m1/2以上であることがより好ましく、0.77MPa・m1/2以上であることがさらに好ましく、0.80MPa・m1/2以上であることが特に好ましく、0.82MPa・m1/2以上であることが最も好ましい。当該破壊靱性値(K1c)が0.7MPa・m1/2以上であると、ガラスの破壊時の破砕数を効果的に抑制できる。
【0121】
なお、本明細書における破壊靱性値(K1c)とは、後述の実施例にて詳述されるDCDC法によりK1-v曲線を測定して求められる破壊靱性値である。
【0122】
また、本発明の化学強化ガラスは、内部引張層の面積St(MPa・μm)がStL(t)(MPa・μm)以下であることが好ましい。StがStL(t)以下であれば、実際に破壊されても破砕数が少なくなる。
【0123】
また、本発明の化学強化ガラスにおいては、内部引張応力CT(MPa)が、CTL(t)(MPa)以下であることが好ましい。CTがCTL(t)以下であれば、実際に破壊されても破砕数が少なくなる。
【0124】
また、本発明においては、化学強化用ガラスのヤング率が70GPa以上であるとともに、化学強化ガラスの最表面における圧縮応力値(CS)とガラス表面から1μmの深さの部分の圧縮応力値(CS)との差が50MPa以下であることが好ましい。このようにすれば、化学強化処理後にガラス表面の研磨処理を行ったときの反りが生じにくいので好ましい。
【0125】
化学強化用ガラスのヤング率は、より好ましくは74GPa以上、特に好ましくは78GPa以上、さらに好ましくは82GPa以上である。ヤング率の上限は特に限定されるものではないが、例えば90GPa以下であり、好ましくは88GPa以下である。ヤング率は、たとえば超音波パルス法により測定できる。
【0126】
また、CSとCSの差は、好ましくは50MPa以下であり、より好ましくは40MPa以下であり、さらに好ましくは30MPa以下である。
【0127】
また、CSは、好ましくは300MPa以上であり、より好ましくは350MPa以上であり、さらに好ましくは400MPa以上である。一方、CSの上限は特に限定されるものではないが、例えば1200MPa以下であり、好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは800MPa以下である。
【0128】
また、CSは、好ましくは250MPa以上であり、より好ましくは300MPa以上であり、さらに好ましくは350MPa以上である。一方、CSの上限は特に限定されるものではないが、例えば1150MPa以下であり、好ましくは1100MPa以下であり、さらに好ましくは1050MPa以下である。
【0129】
本発明の化学強化ガラスは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0130】
まず、化学強化処理に供するガラスを用意する。化学強化処理に供するガラスは、本発明の化学強化用ガラスが好ましい。化学強化処理に供するガラスは通常の方法で製造することができる。例えば、ガラスの各成分の原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、公知の方法によりガラスを均質化し、ガラス板等の所望の形状に成形し、徐冷する。
【0131】
ガラス板の成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大量生産に適したフロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、すなわち、フュージョン法およびダウンドロー法も好ましい。
【0132】
その後、成形したガラスを必要に応じて研削および研磨処理して、ガラス基板を形成する。なお、ガラス基板を所定の形状及びサイズに切断したり、ガラス基板の面取り加工を行う場合、後述する化学強化処理を施す前に、ガラス基板の切断や面取り加工を行えば、その後の化学強化処理によって端面にも圧縮応力層が形成されるため、好ましい。
【0133】
得られたガラス板に化学強化処理を施した後、洗浄および乾燥することにより、本発明の化学強化ガラスを製造することができる。
【0134】
化学強化処理は、従来公知の方法によって行うことができる。化学強化処理においては、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、Kイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に、浸漬などによってガラス板を接触させることにより、ガラス板中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオンと置換される。
【0135】
化学強化処理(イオン交換処理)は、特に限定されるものではないが、例えば、360~600℃に加熱された硝酸カリウム等の溶融塩中に、ガラス板を0.1~500時間浸漬することによって行うことができる。なお、溶融塩の加熱温度としては、375~500℃が好ましく、また、溶融塩中へのガラス板の浸漬時間は、0.3~200時間であることが好ましい。
【0136】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。塩化物としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0137】
本発明において、化学強化処理の処理条件は、特に限定されず、ガラスの特性・組成や溶融塩の種類、ならびに、最終的に得られる化学強化ガラスに所望される表面圧縮応力(CS)や圧縮応力層の深さ(DOL)等の化学強化特性などを考慮して、適切な条件を選択すればよい。
【0138】
また、本発明においては、化学強化処理を一回のみ行ってもよく、あるいは2以上の異なる条件で複数回の化学強化処理(多段強化)を行ってもよい。ここで、例えば、1段階目の化学強化処理として、CSが相対的に低くなる条件で化学強化処理を行った後に、2段階目の化学強化処理として、CSが相対的に高くなる条件で化学強化処理を行うと、化学強化ガラスの最表面のCSを高めつつ、内部引張応力面積(St)を抑制でき、結果として内部引張応力(CT)を低めに抑えることができる。
【0139】
本発明の化学強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、タブレット端末等のモバイル機器等に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ(TV)、パーソナルコンピュータ(PC)、タッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲げ加工や成形により板状でない曲面形状を有する筺体等の用途にも有用である。
【実施例
【0140】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、表中の各測定結果について、空欄は未測定であることを表す。
【0141】
(化学強化ガラスの作製)
表1~9に示される例S-1~S-13、S-15~S-29及びS-31~S-53の各化学強化ガラスと、例S-14及びS-30のガラスを、以下のようにして作製した。
【0142】
まず、例S-1~S-6、S-13~S-23、S-30~S-33について、表中に示される酸化物基準のモル百分率表示の各ガラス組成となるようにガラス板をフロート窯で作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択して溶解窯にて溶解し、フロート法で板厚が1.1~1.3mmtとなるように成形した。得られた板ガラスを切断、研削し、最後に両面を鏡面に加工して、縦50mm×横50mm×板厚t(mm)の板状ガラスを得た。なお、板厚t(mm)は、表中に示されている。
【0143】
また、例S-7~S-12、S-24~S-29、S-34~S-53のガラスについて、表中に示される酸化物基準のモル百分率表示の各ガラス組成となるようにガラス板を白金るつぼ溶融にて作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして1000gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の抵抗加熱式電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡、均質化した。得られた溶融ガラスを型材に流し込み、ガラス転移点+50℃の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られたガラスブロックを切断、研削し、最後に両面を鏡面に加工して、縦50mm×横50mm×板厚t(mm)の板状ガラスを得た。なお、板厚t(mm)は、表中に示されている。
【0144】
つづいて、例S-1~S-13、S-15~S-29及びS-31~S-53の各ガラスに対して、化学強化処理を行うことにより、化学強化ガラスを得た。各ガラスの化学強化処理条件に関しては、表中に示されている。
なお、例S-14及びS-30のガラスについては、化学強化処理は行わなかった。
【0145】
例S-1~S-13及びS-15~S-27の各化学強化ガラスについて、表面圧縮応力CS(単位:MPa)、圧縮応力層の厚みDOL(単位:μm)、内部引張応力CT(単位:MPa)、ガラス表面からxμmの深さの部分の圧縮応力値CS(単位:MPa)、ガラス表面からxμmの深さの部分の圧縮応力値と板厚t(mm)の二乗との積CS×t(単位:MPa・mm)、圧縮応力値が表面圧縮応力の2分の1となるガラス表面からの深さd(単位:μm)を、折原製作所社製の表面応力計FSM-6000および付属プログラムFsmVにより測定した。例S-28~S-29及びS-31~S-37、S-39、S-42、S-44については、前述した株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio-IMおよび薄片サンプルを用いた手法により、CS、DOL、CT、CS、CS×t、dを測定した。S-38、S-40、S-41、S-43、S-45~S-53については、折原製作所社製の表面応力計FSM-6000によりCSを測定し、また、上述したAbrio-IMおよび薄片サンプルを用いた手法により、DOL、CT、CS、CS×t、dを測定した。これらの結果を表中に示す。
また、いくつかの例については、Sc値(単位:MPa・μm)、ΔCS100-90(単位:MPa/μm)、CSDOL-20(単位:MPa)、ΔCSDOL-20(単位:MPa/μm)をあわせて示す。
【0146】
また、例S-1~S-53の各例について、ガラスの組成に基づいて、X、Z値を算出した。なお、例S-1~S-13、S-15~S-29及びS-31~S-53の各化学強化ガラスについては、化学強化処理前のガラス組成(化学強化ガラスの母組成)に基づきX、Z値を算出した。これらの結果を表中に示す。
【0147】
<失透温度T>
化学強化前のガラスを粉砕し、4mmメッシュと2mmメッシュの篩を用いて分級し、純水で洗浄した後、乾燥してカレットを得た。2~5gのカレットを白金皿に載せて一定温度に保った電気炉中で17時間保持し、室温の大気中に取り出して冷却した後、偏光顕微鏡で失透の有無を観察する操作を繰り返して、失透温度Tを見積もった。その結果を表1中に示す。ここで、失透温度TがT1~T2の記載は、T1で失透有、T2で失透なしを意味する。
【0148】
<T4>
化学強化前のガラスについて、回転粘度計(ASTM C 965-96に準ずる)により粘度が10dPa・sとなる温度T4を測定した。結果を表中に示す。なお、*を付している数値は、計算値である。
【0149】
<砂上落下試験>
つづいて、例S-1~S-13、S-15~S-29及びS-31~S-45の各化学強化ガラス及び例S-14、S-30のガラスについて、以下の試験方法により砂上落下試験を行い、平均割れ高さ(単位:mm)を測定した。
【0150】
図3に砂上落下試験の試験方法を表す模式図を示す。なお、以下の砂上落下試験の試験方法に関する説明においては、化学強化ガラスについても「ガラス」として記載する。
まず、硬質ナイロン製のモック板11(50mm×50mm×厚み18mm、重量:54g)にガラス13(50mm×50mm×板厚t(mm))をスポンジ両面テープ12(積水化学社製の#2310、50mm×50mm×厚み3mm)を介して貼り合わせ、測定試料1(総重量:61g)を作製した。次に、15cm×15cmのサイズのSUS板21上に、1gのけい砂22(竹折社製5号けい砂)を均一となるようにまき、作製した測定試料1を、ガラス13を下にして、けい砂22がまかれたSUS板21の表面に所定の高さ(落下高さ)から落下させた。落下試験は、落下高さ:10mmから開始して、10mmずつ高さを上げて実施し、ガラス13が割れた高さを割れ高さ(単位mm)とした。落下試験は各例について5~10回実施し、落下試験での割れ高さの平均値を、平均割れ高さ(単位:mm)とした。これらの結果を表中に示す。
【0151】
図4に、例S-1~S-35の化学強化ガラスまたはガラスのDOL(単位:μm)と平均割れ高さ(単位:mm)との関係をプロットしたグラフを示す。
図5に、例S-1~S-35の化学強化ガラスまたはガラスのCT(単位:MPa)と平均割れ高さ(単位:mm)との関係をプロットしたグラフを示す。
また、図6に例S-1~S-35の化学強化ガラスのうち、DOLが50μm未満の例について、ガラスのCT(単位:MPa)と平均割れ高さ(単位:mm)との関係をプロットしたグラフを示す。
図7に、例S-1~S-35の化学強化ガラスまたはガラスの、表面圧縮応力値CS(単位:MPa)と平均割れ高さ(単位:mm)との関係をプロットしたグラフを示す。また、図8に、例S-1~S-35の化学強化ガラスまたはガラスの、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値CS90(単位:MPa)と平均割れ高さ(単位:mm)との関係をプロットしたグラフを示す。さらに、図9に、例S-1~S-35の化学強化ガラスまたはガラスの、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値CS100(単位:MPa)、と平均割れ高さ(単位:mm)との関係をプロットしたグラフを示す。
図10に、例S-1~S-35の化学強化ガラスまたはガラスの、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値CS100(単位:MPa)と板厚t(mm)の二乗との積(CS100×t)(単位:MPa・mm)と平均割れ高さ(単位:mm)との関係をプロットしたグラフを示す。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
【表3】
【0155】
【表4】
【0156】
【表5】
【0157】
【表6】
【0158】
【表7】
【0159】
【表8】
【0160】
【表9】
【0161】
表1~9及び図4~6の結果より、DOLが0~50μm付近の領域では、DOLが大きくなるにつれて平均割れ高さはやや低くなる傾向にあることが把握される。また、DOLが50μm未満の領域においては、CTが大きくなるほど平均割れ高さが低くなる傾向が分かる。一方、DOLが100μm以上の例では、平均割れ高さが高くなっている傾向にあることが把握される。
図7~9より、平均割れ高さはCSとの相関性が小さく、内部の圧縮応力CS90、CS100との相関性が高いことが分かる。CS90、CS100がそれぞれ、30MPa、20MPaを超えると平均割れ高さが300mm程度以上となり、大幅な強度向上を達成できることが分かる。
図10より、平均割れ高さはCS100×tとの相関性が高いことが分かる。CS100×tが5MPa・mmを超えると平均割れ高さが300mm程度以上となり、大幅な強度向上を達成できることが分かる。
【0162】
<圧子圧入試験>
25mm×25mm×板厚t(mm)のサイズを有する例S-19及び例S-36~S-53の化学強化ガラスに対して、対面角の圧子角度60度を有するダイヤモンド圧子を用いて、3~10kgfの荷重を15秒間保持する圧子圧入試験により、化学強化ガラスを破壊させて、破壊後の化学強化ガラスの破砕数を計測した。これらの結果を表4及び表7~9に示す。
【0163】
<加傷後又は未加傷時の4点曲げ試験>
例S-1と同じガラス組成を有し、厚み1.1~1.3mmのガラス板を、例S-1と同じ条件でフロート法により作製した。得られた板ガラスを切断、研削し、最後に両面鏡面に加工して、縦5mm×横40mm×厚み1.0mmの板状ガラスを得た。その後、表10の例4PB-1~4PB-6の欄に示される各化学強化条件で化学強化処理を行って例4PB-1~4PB-6の各化学強化ガラスを作製した。
また、例S-7と同じガラス組成を有するガラスブロックを、例S-7と同じ条件で白金るつぼ溶融により作製した。得られたガラスブロックを切断、研削し、最後に両面を鏡面に加工して、縦5mm×横40mm×厚み0.8mmの板状ガラスを得た。その後、下記表10の例4PB-7~4PB-9の欄に示される各化学強化条件で化学強化処理を行って、例4PB-7~4PB-9の各化学強化ガラスを作製した。
なお、表10中の強化温度(単位:℃)とは、化学強化処理の際の溶融塩の温度である。また、塩濃度とは、化学強化処理の際に使用した溶融塩中の重量基準でのKNOの割合=(KNO/KNO+NaO)×100(単位:%)を示す。また、強化時間とは、溶融塩中へのガラスの浸漬時間(単位:時間)を表す。
【0164】
また、例4PB-1~4PB-9の各化学強化ガラスについて、表面圧縮応力(CS、単位:MPa)及び圧縮応力層の厚み(DOL、単位:μm)を折原製作所社製の表面応力計FSM-6000および付属プログラムFsmVにより測定した。また、得られたCS及びDOLに基づき、内部引張応力(CT、単位:MPa)を算出した。これらの結果を表10及び表11に示す。
【0165】
【表10】
【0166】
例4PB-1~4PB-9の各化学強化ガラスに対して、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重0.5Kgf、1Kgf、1.5Kgf又は2Kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した。次に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行い、各加傷条件における破壊応力(MPa)を測定した。未加傷時、および各圧子圧入荷重時の4点曲げ試験を行った場合の破壊応力値(曲げ強度、単位:MPa)を表11及び図11に示す。なお、図11中、(a)~(i)は、それぞれ、例4PB-1~4PB-9の各化学強化ガラスに対する試験結果を表している。
【0167】
【表11】
【0168】
図12に未加傷時の破壊強度とCSの関係をプロットしたものを示す。図12より、CSが300MPa以上であると、未加傷時の破壊強度は350MPa以上を達成できることが分かる。スマートフォンやタブレットPCを落下させたときには、カバーガラス表面には引張応力が発生し、その大きさは350MPa程度に達する。この為、CSが300MPa以上であることが望ましい。図13に例4PB-1~4PB-9の2kgf加傷時の破壊強度とDOLの関係をプロットしたものを示す。DOLが100μm以上の化学強化ガラスでは、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)による2kgfでの加傷後においても破壊強度が200MPa以上であり、より高い荷重での加傷後においてもより高い破壊強度を保ち、たとえ傷ついた状態でもカバーガラスとしてより高い信頼性をもつことが示される。DOLは、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは110μm以上、さらに好ましくは120μm以上、特に好ましくは130μm以上である。
【0169】
以上の結果より、CS90、CS100、およびCS100×tがそれぞれ、30MPa超、20MPa超、5MPa・mm超のとき、砂上落下試験に対し明確な強度向上を達成できることが分かる。また、CS90、CS100、およびCS100×tがそれぞれ、50MPa超、30MPa超、7MPa・mm超のとき、砂上落下試験に対し大幅な強度向上を達成できることが分かる。また、CSが300MPa超のとき、破壊強度が350MPaを十分に超え、カバーガラスとして十分な破壊強度を達成できることが分かる。
【0170】
図14に、板厚1mmの仮想的な化学強化ガラスの応力プロファイルを示す。また、表12にそれぞれのプロファイルのCS、DOL、CT、Sc、Stを示す。図14および表12の強化プロファイルは下式により作成したものである。
F(x)=α+ERFC(β×x)-CT
なお、xはガラス表面からの深さ、関数ERFC(c)は相補誤差関数である。定数α、βの値は表12に示してある。
【0171】
【表12】
【0172】
これらのプロファイルをもつ化学強化ガラスは、上記結果より、砂上落下試験および端面曲げに対して高い強度を達成することが予想される。より高いCS値およびより高いCS90、CS100を導入した化学強化ガラスほど、高強度となることが予想され、表12より、本発明の化学強化ガラスのSc値は30000MPa・μm程度以上となることが分かる。このとき、St値は前述のようにSc値と等しい値である。万が一破壊が起きた時、ガラスがより安全な破砕となることが望ましく、このためには後述するSt Limit値がより大きな値であることが望ましい。
【0173】
<X、Y、Z値とガラスの破砕数の関係>
ガラス組成と化学強化ガラスの破砕性の関係を評価するため、種々の化学強化条件により種々のSt値をもった化学強化ガラスを作製し、破壊時の破砕数とSt値の関係を調査した。具体的には、25mm×25mm×厚みt(mm)のガラスに対して、内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)が変化するように種々の化学強化処理条件で化学強化処理を行って、種々の内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)を有する化学強化ガラスを作製した。そして、破砕数が10個となった内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)を、St Limit値、また、破砕数が10個となった内部引張り応力CT(単位:MPa)を、CT Limit値、と規定した。破砕数が10個をまたぐ場合、10個未満となる最大破砕数n個のSt値であるStn値と、10個超となる最小破砕数m個のSt値であるStm値を用いて、下式によってSt Limit値を規定した。
StLimit値 = Stn+(10-n)×(Stm-Stn)/(m-n)
また、破砕数が10個をまたぐ場合、10個未満となる最大破砕数n個のCT値であるCTn値と、10個超となる最小破砕数m個のCT値であるCTm値を用いて、下式によってCT Limit値を規定した。
CTLimit値 = CTn+(10-n)×(CTm-CTn)/(m-n)
【0174】
なお、St値、およびCT値は折原製作所社製の表面応力計FSM-6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値St、CTもしくは複屈折イメージングシステムAbrio-IMおよび薄片化サンプルを用いた測定により得られる値St、CTを用いて次のように定義される。
St=St=1.515×St
CT=CT=1.28×CT
ここで、CTFはFsmVにて解析される値CT_CVと等しい値である。
【0175】
図15および表13にtが1mmのときの測定例を示す。図15は、St LimitおよびCT Limitの測定例を示し、(a)は板厚(t)が1mmのときの内部引張応力層の面積St(MPa・μm)と破砕数の関係を示すグラフであり、(b)は(a)中の点線で囲まれた部分の拡大図である。また、(c)は板厚(t)が1mmのときの内部引張応力CT(MPa)と破砕数の関係を示すグラフであり、(d)は(c)中の点線で囲まれた部分の拡大図である。(b)のStL10および(d)のCTL10は、それぞれ、破砕数が10個となるときの内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)、および内部引張応力(CT;単位MPa)を示す。
【0176】
【表13】
【0177】
St Limit値やCT Limit値が大きなガラスほど、破砕性が改善されたガラスである。なお、St Limit値やCT Limit値は破砕性の程度を表すための指標であり、破砕様式の許容限界を規定するものではない。
【0178】
上記の手法と同様にして、St limit値を求めた。表14~15に示す。
【0179】
化学強化前のガラスについて、ヤング率E(単位;GPa)、DCDC法によって破壊靱性値K1c(単位;MPa・m1/2)を測定した結果を表14~15にあわせて示す。
なお、ヤング率Eは、超音波パルス法(JIS R1602)により測定した。
また、破壊靭性値は、M.Y. He, M.R. Turner and A.G. Evans, Acta Metall. Mater. 43 (1995) 3453.に記載の方法を参考に、DCDC法により、図16に示される形状のサンプルおよびオリエンテック社製のテンシロンUTA-5kNを用いて、図17に示されるような、応力拡大係数K1(単位:MPa・m1/2)とクラック進展速度v(単位:m/s)との関係を示すK1-v曲線を測定し、得られたRegionIIIのデータを一次式で回帰、外挿し、0.1m/sの応力拡大係数K1を破壊靭性値K1cとした。
【0180】
例CT-1~CT-27の各例について、化学強化前のガラスの組成(化学強化ガラスの母組成)に基づいて、下記式からX、Y、Z値を算出した。これらの結果を表14~15に示す。
X=SiO×329+Al×786+B×627+P×(-941)+LiO×927+NaO×47.5+KO×(-371)+MgO×1230+CaO×1154+SrO×733+ZrO×51.8
Y=SiO×0.00884+Al×0.0120+B×(-0.00373)+P×0.000681+LiO×0.00735+NaO×(-0.00234)+KO×(-0.00608)+MgO×0.0105+CaO×0.00789+SrO×0.00752+BaO×0.00472+ZrO×0.0202
Z=SiO×237+Al×524+B×228+P×(-756)+LiO×538+NaO×44.2+KO×(-387)+MgO×660+CaO×569+SrO×291+ZrO×510
【0181】
例CT-1、CT-5、CT-7~CT-12、CT-14~CT-19及びCT-21~CT-24の化学強化ガラスについて、厚みtが1mmのときのSt LimitとX値との関係をプロットしたグラフを図18に、厚みtが1mmのときのSt LimitとZ値との関係をプロットしたグラフを図19に、厚みtが1mmのときのSt Limitとヤング率との関係をプロットしたグラフを図20に、X値とZ値との関係をプロットしたグラフを図21に、それぞれ示す。
【0182】
【表14】
【0183】
【表15】
【0184】
表14~15及び図18~21の結果より、X値およびZ値と1mm時のSt Limitとは高い精度で相関しており、化学強化ガラス破壊時の破砕性を高精度で表わすパラメータであることが分かる。また、X値およびZ値が大きくなるほど、St Limitが大きくなることが分かった。ここで、化学強化ガラスのSt Limitが大きいほど、たとえ化学強化ガラスが破壊したとしても破砕数の少ないより安全な破壊となることを表す。例えば、X値およびZ値が、それぞれ30000以上及び20000以上である化学強化ガラスであれば、St Limitが30000MPaよりも大きく、例えば、上述のようにScもしくはStが30000MPa以上である1mmの高強度化学強化ガラスの例においても、ガラスの破壊時の破砕数が十分に少ないより安全性の高いガラスが実現できるといえる。
【0185】
表16~20の例2-1~2-53に示される酸化物基準のモル百分率表示の各ガラス組成となるようにガラスを次のように作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして1000gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の抵抗加熱式電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡、均質化した。得られた溶融ガラスを型材に流し込み、ガラス転移点+50℃の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られたガラスブロックを切断、研削、研磨加工し下記の測定を行った。
【0186】
密度測定は液中ひょう量法(JISZ8807 固体の密度及び比重の測定方法)で行った。
線膨張係数αおよびガラス転移点Tg測定はJISR3102『ガラスの平均線膨張係数の試験方法』の方法に準じて測定した。
ヤング率Eおよび合成率Gおよびポアソン比測定は超音波パルス法(JIS R1602)により測定した。
また、例2-1~2-53についてX値、Y値及びZ値を示す。
また、上記同様に、失透温度Tを見積もるとともに、粘度が10dPa・sとなる温度T4を測定した。
これらの結果を表16~20に示す。
【0187】
なお、例2-51に記載の例は、米国特許出願公開第2015/0259244号明細書に記載の実施例である。
【0188】
例2-1、2-3~2-50、2-52についてはX値が30000以上であり、より大きなCS、DOLを導入したときにおいても、ガラスの破壊時の破砕数が十分に少ないより安全性の高いガラスが実現できる例である。一方、例2-2、例2-51においてはX値が30000以下である。
例2-1、2-3~2-50、2-52についてはZ値が20000以上であり、より大きなCS、DOLを導入したときにおいても、ガラスの破壊時の破砕数が十分に少ないより安全性の高いガラスが実現できる例である。一方、例2-2、例2-51においてはZ値が20000以下である。
【0189】
【表16】
【0190】
【表17】
【0191】
【表18】
【0192】
【表19】
【0193】
【表20】
【0194】
<ガラス板厚とSt、CTおよびガラスの破砕数の関係>
ガラス板厚と化学強化ガラスの破砕性の関係を評価するため、種々の組成および化学強化条件により種々のSt値、CT値をもった化学強化ガラスを作製し、破壊時の板厚、破砕数、St値およびCT値の関係を調査した。具体的には、25mm×25mm×厚みt(mm)のガラスに対して、内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)、もしくは内部引張り応力CT(単位:MPa)が変化するように種々の化学強化処理条件で化学強化処理を行って、種々の内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)もしくは内部引っ張り応力CT(単位:MPa)を有する化学強化ガラスを作製した。そして、対面角の圧子角度60度を有するダイヤモンド圧子を用いて、3kgfの荷重を15秒間保持する圧子圧入試験により、これら化学強化ガラスをそれぞれ破壊させて、破壊後のガラスの破片の数(破砕数)をそれぞれ計測した。そして、破砕数が10個となった内部引張応力面積(St;単位MPa・μm)を、St Limit値、また、破砕数が10個となった内部引張り応力CT(単位:MPa)を、CT Limit値、と規定した。破砕数が10個をまたぐ場合、10個未満となる最大破砕数n個のSt値であるStn値と、10個超となる最小破砕数m個のSt値であるStm値を用いて、下式によってSt Limit値を規定した。
StLimit値 = Stn+(10-n)×(Stm-Stn)/(m-n)
また、破砕数が10個をまたぐ場合、10個未満となる最大破砕数n個のCT値であるCTn値と、10個超となる最小破砕数m個のCT値であるCTm値を用いて、下式によってCT Limit値を規定した。
CTLimit値 = CTn+(10-n)×(CTm-CTn)/(m-n)
【0195】
なお、St値、およびCT値は折原製作所社製の表面応力計FSM-6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値St、CTもしくは複屈折イメージングシステムAbrio-IMおよび薄片化サンプルを用いた測定により得られる値St、CTを用いて次のように定義される。
St=St=1.515×St
CT=CT=1.28×CT
ここで、CTFはFsmVにて解析される値CT_CVと等しい値である。
【0196】
表21及び22に、例CT-5、CT-16、CT-17及びCT-26の各化学強化ガラスおよび板厚に関する、St LimitおよびCT Limitの値を示す。また、図22及び23に、例CT-5、CT-16、CT-17及びCT-26の各化学強化ガラスのST LimitおよびCT Limitをそれぞれ板厚t(mm)に対してプロットした図を示す。
【0197】
表21および図22より、St Limitは板厚に対し線形的に増加する傾向があり、下記式によって近似的にあらわされることがわかる。
St(a,t)= a×t+7000 (単位:MPa・μm)
【0198】
また、上記式中の定数aは化学強化ガラスによって変化することがわかる。ここで、aの値が大きなほど各板厚においてST Limitが大きく、より大きなCSおよびDOLを導入しても、より破砕数の少ない化学強化ガラスとして用いることができる。
【0199】
表22および図23より、CT Limitは板厚の増加に対して減少する傾向があり、下記式によって近似的にあらわされることがわかる。
CT(b、c、t)= -b×ln(t)+c (単位:MPa)
【0200】
また、上記式中の定数b及びcは化学強化ガラスによって変化し、bはcに対して単調増加の傾向にあることがわかる。図23より、b及びcの値が大きなほど各板厚においてCT Limitが大きく、より大きなCSおよびDOLを導入しても、より破砕数の少ない化学強化ガラスとして用いることができる。
【0201】
【表21】
【0202】
【表22】
【0203】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2016年1月21日付けで出願された日本特許出願(特願2016-010002)及び2016年10月18日付けで出願された日本特許出願(特願2016-204745)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0204】
1 測定試料
11 モック板
12 スポンジ両面テープ
13 ガラス
21 SUS板
22 けい砂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23