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特許7060042多孔質支持体-ゼオライト膜複合体及び多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】多孔質支持体-ゼオライト膜複合体及び多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20220419BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220419BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220419BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
C01B39/48
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020114324
(22)【出願日】2020-07-01
(62)【分割の表示】P 2016561913の分割
【原出願日】2015-11-25
(65)【公開番号】P2020168627
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2020-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2014237841
(32)【優先日】2014-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 亜裕子
(72)【発明者】
【氏名】山田 美樹
(72)【発明者】
【氏名】林 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】武脇 隆彦
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-066188(JP,A)
【文献】特開2002-249313(JP,A)
【文献】特開2008-018387(JP,A)
【文献】特開2014-050840(JP,A)
【文献】特開2012-045483(JP,A)
【文献】特開2005-262189(JP,A)
【文献】特開2008-253931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C01B 39/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記多孔質支持体上にゼオライト以外の粒子を付着させた後でゼオライト粒子を付着させてから多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させる、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質支持体の平均細孔径が0.02μm以上、20μm以下である、請求項1に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法
【請求項3】
前記ゼオライト以外の粒子が無機粒子である、請求項1または2に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項4】
前記無機粒子の平均一次粒径が1nm以上、30μm以下である、請求項3に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項5】
前記無機粒子を構成する元素として、SiまたはAlを含む、請求項3または4に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項6】
前記無機粒子がコロイダルシリカ、無定形アルミのシリケートゲル、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲルである、請求項3~5のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項7】
前記ゼオライト以外の粒子を前記多孔質支持体上に0.1~15g/m付着させる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に関し、具体的には分離性能が良好な多孔質支持体-ゼオライト膜複合体及びその製造方法に関する。また、前記多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いた気体または液体の混合物の分離または濃縮方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機化合物、無機化合物を含有する気体または液体の混合物の分離、濃縮は、対象となる物質の性質に応じて、蒸留法、共沸蒸留法、溶媒抽出/蒸留法、凍結濃縮分離法、吸着法、吸収法、深冷分離法などにより行われている。しかしながら、これらの方法は、多くのエネルギーを必要とする、あるいは分離、濃縮対象の適用範囲が限定的であるといった欠点がある。
【0003】
近年、これらの方法に代わる分離方法として、高分子膜やゼオライト膜などの膜を用いた膜分離、濃縮方法が提案されている。高分子膜、例えば平膜や中空糸膜などは、加工性に優れるが、耐熱性が低いという欠点がある。また高分子膜は、耐薬品性が低く、特に有機溶媒や有機酸といった有機化合物との接触で膨潤するものが多いため、分離、濃縮対象の適用範囲が限定的である。
【0004】
また、ゼオライト膜は、通常、支持体上に膜状にゼオライトを形成させたゼオライト膜複合体として分離、濃縮に用いられている。例えば有機化合物と水との混合物を、ゼオライト膜複合体に接触させ、水を選択的に透過させることにより、有機化合物を分離し、濃縮することができる。ゼオライト膜を用いた分離、濃縮は、蒸留や吸着剤による分離に比べ、エネルギーの使用量を削減できるほか、無機材料であるため高分子膜よりも広い温度範囲で分離、濃縮を実施でき、更に有機化合物を含む混合物の分離にも適用できる。
【0005】
ゼオライト膜を用いた分離法として、液分離では例えば、A型ゼオライト膜複合体を用いて水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献1)、モルデナイト型ゼオライト膜複合体を用いてアルコールと水の混合系から水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献2)や、フェリエライト型ゼオライト膜複合体を用いて酢酸と水の混合系から水を選択的に透過させて酢酸を分離・濃縮する方法(特許文献3)などが提案されている。
【0006】
また、ガス分離の例としては、火力発電所や石油化学工業などから排出される二酸化炭素と窒素の分離や、水素と炭化水素、水素と酸素、水素と二酸化炭素、窒素と酸素、パラフィンとオレフィンの分離などがある。用い得るガス分離用ゼオライト膜としては、A型膜、FAU膜、MFI膜、SAPO-34膜、DDR膜などのゼオライト膜が知られている。
【0007】
また、天然ガスの精製プラントや、生ごみなどをメタン発酵させてバイオガスを発生させるプラントでは、二酸化炭素とメタンの分離が望まれているが、これらを良好に分離するゼオライト膜としてはゼオライトの分子ふるい機能を利用した、DDR(特許文献4)、SAPO-34(非特許文献1)、SSZ-13(非特許文献2)が性能の高い膜として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開平7-185275号公報
【文献】日本国特開2003-144871号公報
【文献】日本国特開2000-237561号公報
【文献】日本国特開2004-105942号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Shiguang Li et al.,“Improved SAPO-34 Membranes for CO2/CH4 Separation”,Adv.Mater.2006,18,2601-2603
【文献】Halil Kalipcilar et al.,“Synthesis and Separation Performance of SSZ-13 Zeolite Membranes on Tubular Supports”,Chem.Mater.2002,14,3458-3464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ゼオライト膜は分離技術として非常に有用であるが、高分子膜と比較して一般的には単位面積当たりの価格が高いため、実用的に用いる場合には現状のものよりもさらに高い透過性能が望まれていた。単位体積当たりの透過量を高くすることで必要な膜面積を小さくすることができ、装置のコンパクト化、低コスト化につながる。一方で分離性能をさらに向上させることができれば、分離対象物のロスを減らすことができることから分離性能向上も同時に望まれていた。
本発明の目的は、従来の問題点が解決された、ゼオライト膜による分離、濃縮において、実用上、十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、多孔質支持体の孔中に入り込むゼオライトの量を特定範囲に制御することにより、ゼオライト膜の透過性能、分離性能向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0012】
[1] 多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下である、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[2] 多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライト膜を断面から観察したSEM像において、前記ゼオライト膜に対する、前記ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合が0.3%以上である、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[3] 前記ゼオライト膜を断面から観察したSEM像において、前記ゼオライト膜に対する、前記ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合が0.3%以上である、前記[1]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[4] 前記ゼオライト膜のSiO/Alモル比が2000以下である、前記[1]~[3]のいずれか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[5] 前記ゼオライト膜のSiO/Alモル比が20以上である、前記[1]~[4]のいずれか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[6] 前記多孔質支持体の平均細孔径が0.3μm以上である、前記[1]~[5]のいずれか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[7] 前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの細孔構造がCHAまたはMFIである、前記[1]~[6]のいずれか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[8] 気体混合物の分離に用いられる前記[1]~[7]のいずれか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[9] 前記[1]~[7]のいずれか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体または液体の混合物を接触させ、前記混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、または、透過性の高い成分を透過させて分離することにより透過性の低い成分を濃縮する、気体または液体の混合物の分離または濃縮方法。
[10] 多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、ゼオライト以外の無機粒子を付着させた多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させる、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
[11] 前記無機粒子を前記多孔質支持体上に0.1~15g/m付着させる、前記[10]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
[12] 多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、前記多孔質支持体上に種結晶を付着させた後に前記ゼオライト膜を形成し、(前記種結晶の平均粒子径)/(前記多孔質支持体の平均細孔径)で表される比が0.3~10である、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
[13] 前記多孔質支持体の平均細孔径が0.3μm以上である、前記[12]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゼオライト膜による分離、濃縮において、実用上、十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を提供できる。
特に気体の混合物の分離において二酸化炭素や水素のパーミエンスが高く、例えば二酸化炭素とメタンの分離において高い分離係数を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、気体分離に用いた測定装置の概略図である。
図2図2は、実施例1で製造したゼオライト膜のXRDパターンである。
図3図3(a)は、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の一実施形態を示す斜視図であり、図3(b)は該斜視図のX-X断面図とその拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本明細書において“質量%”と“重量%”とは同義である。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライト膜の一部が該多孔質支持体内部に入り込んでおり、前記ゼオライト膜が入り込んでいる、該多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であることを特徴とする。ここで該ゼオライト膜を断面から観察したSEM像において、前記ゼオライト膜に対する、前記ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合が0.3%以上であることが好ましい。
また、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、該ゼオライト膜を断面から観察したSEM像において、前記ゼオライト膜に対する、前記ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合が0.3%以上であることを特徴とする。
【0017】
<多孔質支持体>
まず、多孔質支持体(以下、単に「支持体」と称することがある。)について説明する。
本発明において、多孔質支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、多孔質よりなる支持体であれば如何なるものであってもよい。通常は無機多孔質支持体が好ましく、例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナなどのアルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラッミクス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0018】
これら多孔質支持体の中で、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持体(セラミックス支持体)が好ましい。無機多孔質支持体を用いれば、ゼオライトとの結合による密着性を高める効果が期待される。
【0019】
具体的には、例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナなどのアルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が好ましい。それらの中で、アルミナ、シリカ及びムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましく、特にアルミナまたはムライトからなる無機多孔質支持体が好ましい。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる。
【0020】
多孔質支持体の形状は、気体混合物または液体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状、円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状やモノリスなどが挙げられるが、管状(特に円筒管状)のものが好ましい。
【0021】
本発明において、かかる多孔質支持体上、すなわち支持体の表面などにゼオライトを膜状に形成させる。支持体の表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば、円筒管状の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0022】
多孔質支持体の平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましい。支持体の平均細孔径は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、特に好ましくは0.5μm以上、最も好ましくは0.7μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2μm以下、特に好ましくは1.5μm以下、最も好ましくは1μm以下である。平均細孔径が下限以上であることにより、透過量が大きくなる傾向があり、上限以下であることにより支持体自体の強度の問題が少なく、また緻密なゼオライト膜が形成されやすい傾向がある。
なお、多孔質支持体の平均細孔径は水銀圧入法により測定した値である。
【0023】
多孔質支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、支持体の平均厚さが下限以上であることにより多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が十分な強度を持ち多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に強くなる傾向がある。支持体の平均厚さが上限以下であることにより、透過した物質の拡散が良好で透過度が高くなる傾向がある。
なお、多孔質支持体の平均厚さ(肉厚)はノギスにより測定した値である。
【0024】
多孔質支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体を分離する際の透過流量を左右し、下限以上では透過物の拡散を阻害しにくい傾向があり、上限以下であることにより支持体の強度が向上する傾向がある。
【0025】
多孔質支持体は、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。なお、多孔質支持体の表面とはゼオライトを結晶化させる無機多孔質支持体の表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば円筒管状の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってもよい。
【0026】
<ゼオライト膜>
次にゼオライト膜について説明する。本発明ではゼオライト膜が分離膜の役割を果たす。ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機化合物、あるいは下記詳述するようなゼオライト表面を修飾するSi原子を含む材料(シリル化剤)またはその反応物などを必要に応じ含んでいてもよい。また、本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などを含んでいてもよい。しかしながら、ゼオライト膜は実質的にゼオライトのみからなるゼオライト膜が好ましい。実質的にとは、原料などに由来する本発明の効果に影響を及ぼさない程度の不純物は許容するという意味である。
尚、特に、ゼオライト膜を構成するゼオライトとしては、アルミノシリケートであるものが好ましい。
【0027】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上、特に好ましくは2.0μm以上、最も好ましくは2.5μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下の範囲である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下したりする傾向がある。
【0028】
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が多くなるなどして選択性などを低下させる傾向がある。通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。
粒子径の測定方法については特に限定されないが、一例をあげれば、SEMによるゼオライト膜表面の観察やSEMによるゼオライト膜断面の観察、TEMによるゼオライト膜の観察などによって測定することができる。
【0029】
ゼオライト膜を構成するゼオライト(ゼオライト膜自体)のSiO/Alモル比は、通常2以上、好ましくは5以上、より好ましくは7.5以上、さらに好ましくは8以上、特に好ましくは10以上、とりわけ好ましくは12以上、最も好ましくは20以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下、特に好ましくは100以下、とりわけ好ましくは50以下である。ゼオライト膜のSiO/Alモル比がこの範囲にあるとき、ゼオライト膜は親水性に優れかつ耐酸性、耐水性も優れた膜となる。
【0030】
ゼオライト膜を構成するゼオライトのSiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により得られた数値である。SEM-EDXにおいて、X線の加速電圧を10kV程度として測定することにより、数μmの膜のみの情報を得ることができる。ゼオライト膜は均一に形成されているので、この測定により、膜自体のSiO/Alモル比を求めることができる。
【0031】
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、酸素12員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むものが好ましく、酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むものがより好ましく、酸素8員環または10員環の細孔構造を有するゼオライトを含むものが特に好ましい。ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0032】
酸素12員環以下の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFI、AFG、ANA、ATO、BEA、BRE、CAS、CDO、CHA、CON、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FAR、FAU、FER、FRA、HEU、GIS、GIU、GME、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTL、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MON、MOR、MSO、MTF、MTN、MTW、MWW、NON、NES、OFF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STI、STT、TOL、TON、TSC、UFI、VNI、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0033】
これらのうち、酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FAR、FER、FRA、HEU、GIS、GIU、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MON、MSO、MTF、MTN、MWW、NON、NES、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STI、STT、TOL、TON、TSC、UFI、VNI、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0034】
さらに、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、GIU、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTN、MAR、MEP、MER、MON、MSO、MTF、MTN、NON、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、TOL、TSC、UFI、VNI、YUGなどが挙げられる。
【0035】
本発明において、ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトの好ましい構造は、AEI、AFG、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、MFI、PAU、RHO、RTH、SOD、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、AEI、CHA、ERI、KFI、LEV、MFI、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、CHA、RHO、MFIであり、特に好ましい構造はCHA、MFIであり、最も好ましい構造はCHAである。
【0036】
なお、本明細書において、ゼオライトの構造は、上記のとおり、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードで示す。
【0037】
また、ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
【0038】
フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Åあたりの、骨格を構成する酸素以外の元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Sixth Revised Edition 2007 ELSEVIERに示されている。
【0039】
フレームワーク密度が、上記下限以上であることにより、ゼオライトの構造が脆弱となることを避け、ゼオライト膜の耐久性が高くなり、種々の用途に適用しやすくなる。また、フレームワーク密度が上記上限以下であることにより、ゼオライト中の物質の拡散が妨げられることなく、ゼオライト膜の透過流束が高くなる傾向にあり、経済的に有利である。
【0040】
<多孔質支持体-ゼオライト膜複合体>
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の第一の形態は、多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、ゼオライト膜の一部が該支持体内部に入り込んでおり、ゼオライト膜が入り込んでいる、該支持体表面から該支持体内部までの距離が、平均で5.0μm以下であることを特徴とする。ここで該距離の平均は加重平均値である。
【0041】
該多孔質支持体表面から内部までの距離(加重平均値)は好ましくは4.7μm以下、より好ましくは4.2μm以下、さらに好ましくは3.7μm以下、特に好ましくは3.2μm以下、より好ましくは2.7μm以下、とりわけ好ましくは2.2μm以下、最も好ましくは1.7μm以下であり、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.03μm以上である。
この範囲であることにより、多孔質支持体内で透過する物質の拡散が向上することなどから、透過する物質のパーミエンスが大きくなる。また、多孔質支持体表面から内部に向かって入り込む前記ゼオライトの量を適当に調節することにより、より緻密なゼオライト膜になり分離係数が向上すると考えられる。
通常、分離対象物や分離目的によって必要な透過性能、分離性能が異なるため、前記距離はそれらの条件に合った透過性能、分離性能が得られる値のものを用いるのが望ましい。
【0042】
前記距離は、クロスセクションポリッシャーで平滑化した多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の断面のSEM像を用いて算出する。断面とは図3に示すような多孔質支持体とゼオライト膜の境界を観察可能な断面であり、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の任意1か所から得る。
多孔質支持体表面は、以下1)~3)のいずれかの方法によってゼオライト膜と多孔質支持体を区別し、その境界をもって多孔質支持体表面とする。
1)SEM像のコントラスト差異、
2)EDSマッピングにおけるSi、Al信号強度比の差異、
3)エッチングレートによる形状変化の差異。
特に多孔質支持体として、アルミナやムライトを使用した場合、ゼオライト膜と多孔質支持体ではSiとAlの比の差が大きく異なることから、前記2)の方法が境界を見極めやすい。
尚、前記距離は最小視野面積:36μm×50μm以上のSEM像6枚以上から算出する。
【0043】
前記距離は、該多孔質支持体表面から多孔質支持体内部に入り込んだゼオライト膜の末端までの距離である。この末端は、多孔質支持体表面から支持体内部方向へ向かう垂線上に初めて空隙(支持体の孔による空隙)が現れる部位とする。
可能であれば、多孔質支持体表面に対して、最大限の画素単位毎に当該距離を算出することが望ましい。簡易的には多孔質支持体表面に対して1μmピッチで当該距離を算出することも可能である。
【0044】
また、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の第二の形態は、多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、該ゼオライト膜を断面から観察したSEM像において、ゼオライト膜に対する、ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合が0.3%以上であることを特徴とする。本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、この空隙の存在により、拡散が促進され、より高い透過性能が得られるものと考えられる。
【0045】
ゼオライト膜に対する空隙の割合は、断面のSEMにより面積比として測定することができ、通常0.3%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは1%以上、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは3%以上であり、通常20%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。あまり大きすぎるとゼオライト膜の強度が不十分になるので適当ではない。この範囲であることにより、ゼオライト膜部分における拡散が起こりやすくなる等により、透過する物質のパーミエンスが大きくなる。なお、先述した第一の形態における多孔質支持体-ゼオライト膜複合体においては、該空隙の割合は0.3%未満であってもよいが、0.3%以上が好ましく、より好ましい空隙の割合の範囲は上記第二の形態と同様である。
空隙の割合は最小視野面積:36μm×50μm以上のSEM像6枚以上を得て、得た像を2値化し、bit数で比較する方法によって算出する。
【0046】
該空隙は、1つの空隙の外周上の2点から得られる最も長い直線の距離が通常8μm以下、好ましくは7μm以下、より好ましくは6μm以下、さらに好ましくは5μm以下、特に好ましくは4μm以下、とりわけ好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下である。また、通常0.05μm以上であり、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.15μm以上である。
ここでいう外周上の2点から得られる最も長い直線とは、空隙が円の場合は直径、楕円の場合は長直径、四角形の場合は対角線となる。この距離が大きすぎると、ゼオライト膜自体の強度が低下してしまうことがある。一方、小さすぎるとゼオライト膜部分において透過する物質の拡散が生じ難くなる場合がある。
【0047】
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法は特に限定されるものではないが、以下の様な方法を適用することができる。
例えば、多孔質支持体上に無機粒子を付着させた後でゼオライト膜を形成する方法が挙げられる。
付着させる無機粒子を構成する元素としては特に限定されないが、SiまたはAlが含まれるものが好ましい。Si、Alはゼオライトの構成元素であり、得られるゼオライト膜の組成への影響が小さく、また膜成長への阻害も生じにくいと考えられる。また、付着させた無機粒子はゼオライトの製膜過程でゼオライト膜の原料として機能しゼオライト膜の一部となることがある。
付着させる無機粒子の種類としてはゼオライト以外の無機粒子が好ましく、より好ましいものは、フュームドシリカ、コロイダルシリカ、無定形アルミのシリケートゲル、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等があり、フュームドシリカ、コロイダルシリカ、アルミナゾルが好ましく、フュームドシリカがより好ましい。
【0048】
付着させる無機粒子の平均一次粒子径については、特に限定されないが、通常1nm以上、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは8nm以上、特に好ましくは10nm以上、とりわけ好ましくは15nm以上である。一次粒子径が小さいと、付着した後の表面の平滑性が高くなり好ましい。また、上限は、通常30μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下、とりわけ好ましくは5μm以下である。粒子が大きすぎないことにより、付着した後の表面の凹凸が大きくなりにくく、製膜した際に膜の欠陥になりにくい。なお、無機粒子の平均一次粒子径とは粒度分布計によって測定される値である。
【0049】
無機粒子の大きさの最適値は支持体の細孔径分布によっても変化する。このような観点からは、多孔質支持体としてムライトを用いた場合にその細孔構造から効果が大きい場合があるので好ましい。
付着させる無機粒子の重量は通常0.1g/m以上、好ましくは0.3g/m以上、より好ましくは0.5g/m以上、さらに好ましくは0.8g/m以上、特に好ましくは1.0g/m以上である。付着させる無機粒子の重量が小さすぎるとゼオライト膜の入り込みを抑制させる効果が小さくなる傾向がある。また、通常15g/m以下、好ましくは12.5g/m以下、より好ましくは10g/m以下、さらに好ましくは8g/m以下、特に好ましくは6g/m以下、とりわけ好ましくは5g/m以下である。付着させる無機粒子が多すぎると、製膜後の欠陥が増加する傾向がある。
【0050】
無機粒子を付着させる方法は特に限定されないが、多孔質支持体に直接擦り込むように付着させる方法、無機粒子を含有する分散液を用いて付着させる方法などが挙げられる。
分散液を用いて付着させる方法としては、多孔質支持体に分散液をスポイトで滴下して付着させる方法、分散液に多孔質支持体を浸漬して付着させる方法、分散液を多孔質支持体に吹き付ける方法等がある。無機粒子を多孔質支持体に付着させた後、通常乾燥を行う。乾燥温度は通常、室温以上、好ましくは30℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下である。
【0051】
無機粒子の分散液中の濃度としては、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。濃度が低すぎると付着する無機粒子の量が少なくなりゼオライト膜の入り込みを抑制する効果が小さくなる場合があり、高すぎると製膜後の欠陥が増加する場合がある。
【0052】
また、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する別の方法としては、多孔質支持体上に種結晶を付着させた後にゼオライト膜を形成する方法であって、前記多孔質支持体の平均細孔径と、下記詳述するゼオライト膜の形成において使用する種結晶の大きさ(平均粒子径)との関係を調整する方法が挙げられる。
この場合、種結晶の平均粒子径と支持体の平均細孔径の比(種結晶の平均粒子径/支持体の平均細孔径)は、通常、0.3以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、特に好ましくは0.8以上、最も好ましくは1以上であり、通常、10以下、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、特に好ましくは3以下である。この方法により、水熱合成の条件が適正化され、多孔質支持体内へ入り込むゼオライトの量を調整することができる。また、支持体の平均細孔径の好ましい範囲は先述した範囲と同様である。
【0053】
このようにして無機粒子または種結晶を付着させた多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する。
ゼオライト膜は従来公知の方法で製造することができるが、特に水熱合成によって製造されることが均一な膜を製造する上で好ましい。
例えば、ゼオライト膜は、組成を調整して均一化した水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱することにより調製できる。
【0054】
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、アルカリ源、および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレートを含んでいてもよい。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミノシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、水性反応混合物は、他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
【0055】
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができる。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性、耐水蒸気性が向上する。
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許出願公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
【0057】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。アルカリの種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Li、Na、Kが好ましく、Kがより好ましい。また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとK、LiとKを併用するのが好ましい。
【0058】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO/Alモル比として表わす。SiO/Alモル比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上である。また、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
【0059】
SiO/Alモル比がこの範囲内にあるときゼオライト膜が緻密に生成し、分離性能が高い膜となる。更に生成したゼオライトに適度にAl原子が存在するため、Alに対して吸着性を示す気体成分や液体成分では分離能が向上する。またAlがこの範囲にある場合には耐酸性、耐水蒸気が高いゼオライト膜が得られる。
【0060】
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiOモル比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
有機テンプレート/SiOモル比が上記範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性、耐水蒸気性に強くなる。
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
【0061】
Si元素源と水の比は、SiOに対する水のモル比(HO/SiOモル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得る。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが緻密な膜ができやすい傾向にある。
【0062】
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を加えることで、ゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0063】
なお、前記のように支持体に無機粒子を付着させる方法を用いる場合、種結晶の付着は、通常、支持体への無機粒子の付着の後で行うが、場合によっては、先に種結晶を担持させてから、無機粒子を付着させる、あるいは、無機粒子を付着させ、種結晶を担持させ、その後に再び無機粒子を付着させる方法など適宜、組み合わせてもかまわない。また、種結晶と無機粒子を同時に付着させることもできる。
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。
【0064】
種結晶の粒子径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは50nm以上、最も好ましくは100nm以上、とりわけ好ましくは300nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものや種結晶そのものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性よく多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。
【0065】
分散液を用いる場合に、分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のあるゼオライト膜となる可能性がある。ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
塗り込みよって付着させる方法が、不要な種結晶を除去できることなどにより、ゼオライト膜を形成させる場合のゼオライトの支持体へ入り込みを抑制することがあり好ましい場合がある。
【0066】
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上、更に好ましくは1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下、特に好ましくは5g以下である。
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、ゼオライト膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上のゼオライト膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0067】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
【0068】
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、求めるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0069】
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、求めるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0070】
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性気体を加えても差し支えない。
水熱合成により得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。水洗には熱水を用いてもよい。ここで、加熱処理とは、熱をかけて多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
【0071】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。また、テンプレートの焼成を目的とする場合、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、さらに好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下、さらに好ましくは750℃以下である。
【0072】
テンプレートの焼成を目的とする場合には、加熱処理の温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離・濃縮の際の透過度が減少する可能性がある。加熱処理温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0073】
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。テンプレートの焼成を目的とする場合の加熱処理は空気雰囲気で行えばよいが、窒素などの不活性気体や酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0074】
テンプレートの焼成を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0075】
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0076】
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換してもよい。イオン交換は、テンプレートを用いて合成した場合は、通常、テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などの第2族元素イオン、Fe、Cuなどの遷移金属のイオン、Al、Ga、Znなどのその他の金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Fe、Al、Gaのイオンが好ましい。
【0077】
イオン交換は、焼成後(テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NHNO、NaNOなどアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200℃~500℃で焼成してもよい。
【0078】
かくして得られる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(加熱処理後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体)の空気透過量[L/(m・h)]は、通常1400L/(m・h)以下、好ましくは1200L/(m・h)以下、より好ましくは1000L/(m・h)以下、より好ましくは900L/(m・h)以下、さらに好ましくは800L/(m・h)以下、特に好ましくは700L/(m・h)以下、最も好ましくは600L/(m・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m・h)以上、好ましくは0.1L/(m・h)以上、より好ましくは1L/(m・h)以上である。
【0079】
ここで、空気透過量とは、後述するとおり、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
尚、得られたゼオライト膜は、さらにケイ素を含む化合物などで表面処理を施してもよい。
また、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、温度50℃、差圧0.10MPaの条件における二酸化炭素の透過度(パーミエンス)が好ましくは1×10-7[mol/(m・s・Pa)]以上、より好ましくは7×10-7[mol/(m・s・Pa)]以上、さらに好ましくは1×10-6[mol/(m・s・Pa)]以上、特に好ましくは2×10-6[mol/(m・s・Pa)]以上である。上限は特に限定されず、通常3×10-4[mol/(m・s・Pa)]以下である。
尚、パーミエンス(Permeance)とは透過する物質量を、膜面積と時間と透過する物質の供給側と透過側の分圧差の積で割ったものである。
また、同様に温度50℃、差圧0.10MPaの条件におけるメタンのパーミエンスが通常3×10-7[mol/(m・s・Pa)]以下、好ましくは5×10-8[mol/(m・s・Pa)]以下、より好ましくは8×10-9[mol/(m・s・Pa)]以下であり、理想的にはパーミエンスは0である。
さらに、二酸化炭素とメタンを温度50℃、差圧0.10MPaで透過させた場合の理想分離係数は、通常10以上、好ましくは20以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上、特に好ましくは150以上である。上限は特に限定されないが10万以下である。
また、二酸化炭素とメタンの体積比1:1の混合ガスを、温度50℃、全圧での差圧0.3MPaで透過させた場合の理想分離係数は、通常10以上、好ましくは20以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上、特に好ましくは150以上である。上限は特に限定されないが10万以下である。
【0080】
<分離方法、濃縮方法>
本発明の多孔質支持体-ゼオライト複合体は、気体混合物の分離等に好ましく用いられる。
例えば、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、複数の成分(物質)からなる気体または液体の混合物を接触させて、該混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、または、該混合物から透過性の高い成分を透過させて分離することにより、透過性の低い成分を濃縮することができる。
【0081】
ゼオライト膜を備えた多孔質支持体を介し、支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に複数の成分からなる気体または液体の混合物を接触させ、その逆側を混合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって混合物から、ゼオライト膜に透過性が高い物質(透過性が相対的に高い混合物中の物質)を選択的に、すなわち透過物質の主成分として透過させる。これにより、混合物から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、混合物中の特定の成分(透過性が相対的に低い混合物中の物質)の濃度を高めることで、特定の成分を分離回収、あるいは濃縮することができる。
【0082】
分離または濃縮の対象となる混合物としては、本発明における多孔質支持体-ゼオライト膜複合体によって、分離または濃縮が可能な複数の成分からなる気体または液体の混合物であれば特に制限はなく、如何なる混合物であってもよい。
分離または濃縮の対象となる混合物が、例えば、有機化合物と水との混合物(以下これを、「含水有機化合物」と略称することがある。)の場合、ゼオライト膜を構成するゼオライトのSiO/Alモル比によるが、通常水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水が分離され、有機化合物は元の混合物中で濃縮される。
パーベーパレーション法(浸透気化法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる分離または濃縮方法は、本発明の方法におけるひとつの実施形態である。パーベーパレーション法は、液体の混合物をそのまま分離膜に導入する分離または濃縮方法であるため、分離または濃縮を含むプロセスを簡便なものにすることができる。
【0083】
含水有機化合物としては、適当な水分調節方法により、予め含水率を調節したものであってもよい。また、水分調節方法としては、それ自体既知の方法、例えば、蒸留、圧力スイング吸着(PSA)、温度スイング吸着(TSA)、デシカントシステムなどが挙げられる。
さらに、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離してもよい。これにより、より高度に水を分離し、含水有機化合物をさらに高度に濃縮することができる。
【0084】
有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2-プロパノール)などのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機化合物)、酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
【0085】
分離または濃縮の対象となる混合物としては、気体の混合物(混合気体)であってもよい。
液体の混合物からの脱水では、例えばパーベーパレーション法の場合、当初より多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が被処理液(液体の混合物)に浸されており、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が水を含むような状態となっている。また通常は、ゼオライト膜はゼオライト膜のSiO/Alモル比にもよるが、水との親和性は高い。そのため、分離開始後、水はゼオライト膜の細孔に吸着される形で取り込まれ、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に含まれている水が吸着により取り込まれた水の分だけ押し出される形で処理が行われる。この時、ゼオライト膜の中では主に液体状態であるため、分子の移動速度は遅く、比較的ゼオライト膜が抵抗にならずに処理が行われると考えられる。しかしながら、気体の混合物の分離の場合、ゼオライト膜の中に入った分子は分子、圧力温度にもよるが主に気体状態で存在し、移動速度が大きいため、液体分離と比較しゼオライト膜が抵抗になると考えられる。特に支持体内部に入り込んだ部分では、ゼオライト膜の面積が小さくなることから、より抵抗が大きくなると考えられる。そのためゼオライト膜が支持体に入り込んだ部分を出来る限り少なくするように設計しないと被処理気体の透過がスムーズに進行せず、透過量を向上させることができない。
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体はゼオライト膜の支持体内部への入り込みを少なくすることで透過の抵抗が少なくなるよう設計にしており、このような点から、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は特に気体の混合物の分離に適していると言える。
混合気体としては、例えば、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、硫化水素水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。これらの気体成分のうち、パーミエンスの高い気体成分は、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を透過し分離され、パーミエンスの低い気体成分は供給気体側に濃縮される。
【0086】
特に混合気体としては、ゼオライト膜の構造にもよるがkinetic直径が4Å以下の気体分子を少なくとも1種類含有することが好ましい。本発明によれば、特に成分の少なくとも一つにkinetic直径が4Å以下の成分を含む気体においても、透過性の高い成分の分離、または透過性の高い成分を透過させることによる透過性の低い成分の濃縮を高い分離性能で行うことが可能となる。
【0087】
混合気体としては、上記成分の少なくとも2種の成分を含む。この場合、2種の成分としては、パーミエンスの高い成分とパーミエンスの低い成分の組合せが好ましい。
【0088】
混合気体として具体的には、酸素を含有する混合気体、メタン及びヘリウムを含有する混合気体、二酸化炭素及び窒素を含有する混合気体などが挙げられ、空気、天然ガス、燃焼気体やコークスオーブンガス、ごみ埋め立て場から発生するランドフィルガスなどのバイオガス、石油化学工業で生成、排出されるメタンの水蒸気改質ガスなどの分離または濃縮に使用することができる。
酸素を含有する混合気体を用いる場合は、該混合気体から酸素を分離する、または、該混合気体から酸素を透過させるために使用されることが好ましい。酸素を含有する混合気体としては空気などが挙げられる。
【0089】
メタン及びヘリウムを含有する混合気体を用いる場合は、該混合気体から、ヘリウムを分離する、または、該混合気体からヘリウムを透過させるために使用されることが好ましい。メタン及びヘリウムを含有する混合気体としては、天然ガスなどが挙げられる。
二酸化炭素及び窒素を含有する混合気体を用いる場合は、該混合気体から、二酸化炭素を分離する、または、該混合気体から二酸化炭素を透過させるために使用されることが好ましい。二酸化炭素及び窒素を含有する混合気体としては、燃焼気体などが挙げられる。
【0090】
本発明で用いるゼオライト膜に対して、酸素は高い透過性を有する。そのため、このゼオライト膜に酸素を含有する混合気体を接触させ分離させることにより、酸素を含有する混合気体、例えば空気中の酸素濃度を高めることができ、高酸素濃度の混合気体を製造することができる。
例えば、混合気体として空気を用いた場合、酸素濃度を30%以上、さらには35%以上とすることが可能である。
【0091】
また、本発明で用いるゼオライト膜に対して、ヘリウムは高い透過性を有する。そのため、このゼオライト膜に、例えばヘリウムやメタンを含有する天然ガスを接触させることにより、ヘリウムを分離することができる。
また、本発明で用いるゼオライト膜に対して、二酸化炭素は高い透過性を有する。そのため、このゼオライト膜に、例えば二酸化炭素や窒素を含有する燃焼気体を接触させることにより、二酸化炭素を分離することができる。
また、このゼオライト膜に例えば二酸化炭素やヘリウムを含有する天然ガスを接触させることにより、二酸化炭素を分離することは特に好ましい実施態様である。
これら混合気体の分離や濃縮の条件は、対象とする気体種や組成等に応じて、それ自体既知の条件を採用すればよい。
【0092】
混合気体の分離に用いる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を有する分離膜モジュールの形態としては、平膜型、スパイラル型、ホロウファーバー型、円筒型、ハニカム型等が考えられ、適用対象に合わせて最適な形態が選ばれる。
なお、モジュールはプロセスに応じて、多段にしたり、処理したガスを前段のモジュールに戻したりしてもかまわない。また、多段の場合に、ゼオライト膜の種類を変えてもよい。プロセスに応じて、適宜公知の方法を組み合わせて採用できる。
【0093】
モジュールの一つである円筒型分離膜モジュールを説明する。
図1において、円筒型の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で、恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料気体の温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
円筒型の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の一端は、円柱状または円形のエンドピン3で密封されている。他端は、接続部4で接続され、接続部4の他端は耐圧容器2と接続されている。円筒型の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の内側と透過気体8を排出する配管11が、接続部4を介して接続されており、配管11は、耐圧容器2の外側に伸びている。また、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1には、配管11を経由して、スイープ気体9を供給する配管12が挿入されている。さらに、耐圧容器2に通ずるいずれかの箇所には、試料気体(混合気体)の供給側の圧力を測る圧力計5、供給側の圧力を調整する背圧弁6が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0094】
試料気体(供給気体7)を、一定の流量で耐圧容器2と多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の間に供給し、背圧弁6により供給側の圧力を一定とする。気体は多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の内外の分圧差に応じて該多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1を透過し、配管11を通じて排出気体10として排出される。
混合気体からの気体分離温度としては、0から500℃の範囲内で行なわれる。ゼオライト膜の分離特性から考えると通常室温から100℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、特に好ましくは30℃以下の範囲内である。混合気体中に凝縮の恐れのある成分が含まれる場合には、各成分の凝縮点、分圧に応じて凝縮しない温度設定とすることが望ましい。
【0095】
混合気体から分離する場合、混合気体の圧力に特に制限はないが、通常は圧力が高いほど駆動力が大きくなるので好ましい。通常、大気圧以上、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上、特に好ましくは1MPa以上であり、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは8MPa以下、特に好ましくは6MPa以下である。
【0096】
なお、このような分離を行う場合に、前処理として、加熱や減圧などの処理による脱水や、吸着などの方法による、液状物質や高沸点化合物の除去、固形物を取り除くためのフィルターなど、プロセスに応じて適宜、処理方法、処理装置を工夫することができる。
【実施例
【0097】
以下、実験例(実施例、比較例)に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実験例により限定されるものではない。
【0098】
なお、以下の実施例において、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体における多孔質支持体及び/又はゼオライト膜の物性及び分離性能は、次の方法で測定した。
【0099】
(1)X線回折(XRD)
XRD測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X’PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:
封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit(0.04rad)
Divergence Slit(Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’ Celerator)Ni-filter
Soller Slit(0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
【0100】
・測定条件
X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0-70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic-DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
【0101】
なお、X線は円筒管状の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体と、試料台表面に平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面に接するラインではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data,Inc.のXRD解析ソフトJADE 7.5.2(日本語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
【0102】
(2)SEM
SEM測定は以下のいずれかの条件に基づき行った。多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の断面の測定を行う際にはクロスセクションポリッシャーで平滑化した断面を用いた。
機種名:ULTRA55(Zeiss社製)
加速電圧:10kV
検出器:チャンバーSE検出器、反射電子検出器(Centaurus)
機種名:S-4500(日立ハイテク社製)
加速電圧:15kV、10kV
検出器:上方検出器、下方検出器
【0103】
(3)EDSマッピング
機種名:Quantax200(Bruker社製)
検出器:XFlash
マッピング積算時間:6000秒
検出元素:Si、Al
【0104】
(4)単成分ガス透過試験
単成分ガス透過試験は、図1に模式的に示す装置を用いて、以下のとおり行った。用いた試料ガスは、それぞれ、二酸化炭素(純度99.9%、高圧ガス工業社製)、メタン(純度99.999%、ジャパンファインプロダクツ製)、水素(純度99.99%以上、HORIBA STEC製水素発生器OPGU-2200より発生)、窒素(純度99.99%、東邦酸素工業製)である。
【0105】
図1において、円筒形の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料ガスの温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
【0106】
円筒形の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の一端は、円柱状のエンドピン3で密封されている。他端は接続部4で接続され、接続部4の他端は、耐圧容器2と接続されている。円筒形の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の内側と、透過ガス8を排出する配管11が、接続部4を介して接続されており、配管11は、耐圧容器2の外側に伸びている。耐圧容器2には、試料ガスの供給側の圧力を測る圧力計5が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0107】
図1の装置において、試料ガス(供給ガス7)を、一定の圧力で耐圧容器2と多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の間に供給し、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を透過した透過ガス8を、配管11に接続されている流量計(図示せず)にて測定する。
【0108】
さらに具体的には、水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥、及び、排気若しくは使用する供給ガスによるパージ処理をした後、試料温度及び多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧を一定として、透過ガス流量が安定したのちに、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1を透過した試料ガス(透過ガス8)の流量を測定し、ガスのパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を算出する。パーミエンスを計算する際の圧力は、供給ガスの供給側と透過側の圧力差(差圧)を用いる。
【0109】
上記測定結果に基づき、理想分離係数αを下記式(1)により算出する。
α=(Q/Q)/(P/P) (1)
〔式(1)中、QおよびQは、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの透過量[mol・(m・s)-1]を示し、PおよびPは、それぞれ、供給ガスである透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの圧力[Pa]を示す。〕
【0110】
[実施例1]
無機粒子としてフュームドシリカ(アエロジル300、日本アエロジル社製)をムライト製の多孔質支持体上に付着させた後、CHA型アルミノシリケートのゼオライトを直接水熱合成することにより多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
水熱合成用の反応混合物は次のとおり調製した。
【0111】
1mol/L-NaOH水溶液1.4g、1mol/L-KOH水溶液5.8gに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.195gを加えて撹拌し溶解させ、さらに脱塩水を114g加えて撹拌し透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」と称する。)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.4gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック-40)110.8gを加えて30分間撹拌し、水性反応混合物とした。
【0112】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.014/0.02/0.08/100/0.04、SiO/Al=70である。
【0113】
多孔質支持体としては、多孔質ムライトチューブ(ニッカトー社製、外径12mm、内径9mm、平均細孔径1.46μm)を80mmの長さに切断した後に脱塩水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
フュームドシリカを水中に分散させた0.5質量%の分散液を、スポイトで多孔質支持体の外表面全体に滴下することにより、フュームドシリカを多孔質支持体に付着させた。その後、120℃で2時間乾燥させた。乾燥後の重量変化は1.9g/mであった。
【0114】
種結晶として、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/40/0.07のゲル組成(モル比)で160℃、2日間水熱合成して結晶化させたCHA型ゼオライトを用いた。この種結晶を1質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬してディップ法で種結晶を付着させ、140℃で1時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。乾燥後の質量増加は2.2g/mであった。
【0115】
種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で18時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、120℃で1時間以上乾燥させた。
焼成後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の質量と多孔質支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は123g/mであった。
【0116】
生成したゼオライト膜のXRDパターンを図2に示す。XRD測定からCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。
また、任意の一部分の断面を切り出しクロスセクションポリッシャーにて作製した平滑面を倍率2000倍でSEM観察して得た10視野の像から多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の多孔質支持体表面からの距離の加重平均値を測定すると2.1μmであった。この値から、ゼオライト膜の支持体への入り込みが小さいことがわかった。
また、断面SEM像5視野からゼオライト膜に存在する空隙のゼオライト膜に対する面積割合を測定すると平均値は3.2%であった。
【0117】
上記で作製した多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、単成分ガス透過試験を行った。前処理として、二酸化炭素(供給ガス7)を耐圧容器2と多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1との円筒の間に導入して、50℃で、圧力を約0.2MPaに保ち、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の円筒の内側を0.1MPa(大気圧)として、二酸化炭素の透過量が安定するまで、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を乾燥させた。
【0118】
その後、供給側の圧力を0.2MPaとし、供給ガスを各評価ガスに変更した。評価したガスは二酸化炭素、メタン、水素、窒素である。このとき、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧は、0.1MPaであった。
得られた各ガスのパーミエンスを表1に示す。50℃での二酸化炭素のパーミエンスは3.3×10-6[mol/(m・s・Pa)]と高い値となった。また水素においても1.5×10-6[mol/(m・s・Pa)]と高い値が得られており、パーミエンスの高い多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が得られたことがわかる。また50℃における二酸化炭素とメタンの理想分離係数αは77であった。
【0119】
【表1】
【0120】
[実施例2]
フュームドシリカ(アエロジル300、日本アエロジル社製)を付着させる条件を変更した以外は実施例1と同様の方法で多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
フュームドシリカを水中に分散させた0.3質量%の分散液に多孔質支持体を浸漬し、ディップ法フュームドシリカを付着させた。その後、140℃で1時間乾燥させた。乾燥後の重量変化は0.42g/mであった。また、種結晶を付着させ、乾燥させた後の質量増加は2.3g/mあり、製膜し焼成した後の重量増加から算出したCHA型ゼオライトの質量は121g/mであった。
【0121】
また、任意の一部分の断面を切り出しクロスセクションポリッシャーにて作製した平滑面を倍率2000倍でSEM観察して得た9視野の像から多孔質支持体表面からの距離の加重平均値を測定すると4.6μmであった。この値から、ゼオライト膜の支持体への入り込みが小さいことがわかった。
【0122】
上記で作製した多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、実施例1と同様の方法で単成分ガス透過試験を行った。得られた各ガスのパーミエンスを表2に示す。50℃での二酸化炭素のパーミエンスは1.4×10-6[mol/(m・s・Pa)]、水素のパーミエンスは4.2×10-7[mol/(m・s・Pa)]となった。また、50℃における二酸化炭素とメタンの理想分離係数αは195であった。実施例1よりも付着フュームドシリカ量が少ないため、透過性能の向上の程度は実施例1よりも小さいものの、分離性能は高いことが得られたことがわかる。多孔質支持体への入り込みの制御することで分離性能向上が可能であることがわかった。
【0123】
【表2】
【0124】
[実施例3]
セラミックス焼結体のチューブを80mmの長さに切断した後に脱塩水で洗浄したのち乾燥させたものを多孔質支持体として用いる。この多孔質支持体の平均細孔径は約0.9μmである。
種結晶として、平均粒子径が1.2μm程度のCHA型ゼオライトを用いる。この種結晶を1質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬してディップ法で種結晶を付着させ、140℃で1時間以上乾燥させて種結晶を付着させる。
種結晶を付着させた支持体を、実施例1と同様の水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で約18時間、静置状態で、自生圧力下で加熱する。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、約120℃で1時間以上乾燥させる。
【0125】
任意の一部分の断面を切り出しクロスセクションポリッシャーにて作製した平滑面を倍率2000倍でSEM観察して得た10視野の像から多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の多孔質支持体表面からの距離の加重平均値を測定すると0.7μm程度である。この値から、ゼオライト膜の支持体への入り込みが小さいことがわかる。
【0126】
上記で作製した多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、単成分ガス透過試験を行う。前処理として、二酸化炭素(供給ガス7)を耐圧容器2と多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1との円筒の間に導入して、50℃で、圧力を約0.2MPaに保ち、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の円筒の内側を0.1MPa(大気圧)として、二酸化炭素の透過量が安定するまで、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を乾燥させる。
その後、供給側の圧力を0.2MPaとし、供給ガスを各評価ガスに変更する。評価したガスは二酸化炭素、メタン、水素、窒素である。このとき、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧は、0.1MPa程度である。
50℃での二酸化炭素のパーミエンスは2.0×10-6[mol/(m・s・Pa)]程度と高い値となる。また水素においても6.0×10-7[mol/(m・s・Pa)]程度と高い値が得られ、パーミエンスの高い多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が得られる。また50℃における二酸化炭素とメタンの理想分離係数αは200程度である。
【0127】
[比較例1]
多孔質支持体上に無機粒子を付着させずに、CHA型アルミノシリケートのゼオライトを直接水熱合成することにより多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
水熱合成用の反応混合物は次のとおり調製した。
【0128】
1mol/L-NaOH水溶液1.4g、1mol/L-KOH水溶液5.8gに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.195gを加えて撹拌し溶解させ、さらに脱塩水を114g加えて撹拌し透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」と称する。)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.4gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック-40)110.8gを加えて30分間撹拌し、水性反応混合物とした。
【0129】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.067/0.15/0.1/100/0.04、SiO/Al=15である。
【0130】
多孔質支持体としては、多孔質アルミナチューブ(ノリタケ社製、外径12mm、内径9mm、平均細孔径1.3μm)を80mmの長さに切断した後に脱塩水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0131】
種結晶は実施例1と同様の方法で得たCHA型ゼオライトを用いた。この種結晶を0.3質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬してディップ法で種結晶を付着させ、140℃で1時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。乾燥後の質量増加は0.70g/mであった。
【0132】
種結晶を付着させた支持体と上記水性反応混合物から、実施例1と同様の方法で多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
焼成後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の質量と多孔質支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は130g/mであった。
【0133】
また、任意の一部分の断面を切り出しクロスセクションポリッシャーにて作製した平滑面をSEM観察して得た1視野の像から多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の多孔質支持体表面からの距離の加重平均値を測定すると5.9μmであった。この値から、ゼオライト膜の支持体への入り込みが大きいことがわかった。
また、断面SEM像1視野からゼオライト膜に存在する空隙を観察したが空隙は確認できなかった。
【0134】
上記と支持体長さを400mmとした以外は同条件で作製した多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体を80mmに切断して、前処理温度を140℃とした以外は、実施例1と同様に単成分ガス透過試験を行った。得られた各ガスのパーミエンスを表3に示す。50℃での二酸化炭素のパーミエンスは7.2×10-7[mol/(m・s・Pa)]であり、水素のパーミエンスは2.6×10-7[mol/(m・s・Pa)]であった。実施例1、2と比較するとパーミエンスは低いことがわかった。また50℃における二酸化炭素とメタンの理想分離係数αは101であった。
【0135】
【表3】
【0136】
本発明を詳細に、また特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2014年11月25日出願の日本特許出願(特願2014-237841)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0137】
1. 多孔質支持体-ゼオライト膜複合体
2. 耐圧容器
3. エンドピン
4. 接続部
5. 圧力計
6. 背圧弁
7. 供給気体(供給ガス)
8. 透過気体(透過ガス)
9. スイープ気体
10. 排出気体
11. 配管
12. 配管
20. 多孔質支持体-ゼオライト膜複合体
21. 管状多孔質支持体
22. ゼオライト膜
図1
図2
図3