(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】粘着剤組成物及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 183/07 20060101AFI20220419BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220419BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220419BHJP
C08K 5/04 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C09J183/07
C09J7/38
C08L83/04
C08K5/04
(21)【出願番号】P 2021071217
(22)【出願日】2021-04-20
(62)【分割の表示】P 2020075294の分割
【原出願日】2015-12-01
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】稲永 誠
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-075681(JP,A)
【文献】特開平05-098239(JP,A)
【文献】特開平06-322354(JP,A)
【文献】特開平9-12722(JP,A)
【文献】特開平07-197008(JP,A)
【文献】特表平09-507677(JP,A)
【文献】特開昭60-139756(JP,A)
【文献】特開2012-41505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C08L 83/00-83/04
B32B 27/00
C08G 77/00、77/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)光活性型触媒、(B)ケイ素原子に結合した有機官能基を有し、前記光活性型触媒により硬化可能な直鎖状のオルガノポリシロキサン及び(C)分岐状のオルガノポリシロキサンを含む粘着剤組成物であり、
前記粘着剤組成物は、前記(B)直鎖状のオルガノポリシロキサンと前記(C)分岐状のオルガノポリシロキサンの合計量を100質量部としたときに、該(B)直鎖状のオルガノポリシロキサンを5~70質量部含み、
前記粘着剤組成物の130℃における溶融粘度は、10Pa・s以上5000Pa・s以下の範囲である粘着剤組成物。
【請求項2】
前記粘着剤組成物はさらに(D)架橋剤を含む、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記有機官能基が、ビニル基、及び(メタ)アクリロイルアルケニル基のいずれかである請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の粘着剤組成物から形成される粘着シート。
【請求項5】
請求項1~3の何れか一項に記載の粘着剤組成物を光照射して形成される粘着シート。
【請求項6】
請求項4または5に記載の粘着シートが光照射により硬化させることができる粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン粘着剤組成物及び当該組成物を用いた粘着物品等に関するものである。特にスマートフォンなどのモバイル端末(PDA)、タブレット、パソコン、ゲーム機、テレビ(TV)、カーナビ、タッチパネル、ペンタブレットなどのような画像表示装置、有機薄膜や色素増感などのような太陽電池モジュールあるいは有機EL素子の構成部材として好適に使用することができる、シリコーン粘着剤組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン粘着剤は、耐熱性や耐候性、電気絶縁性、耐薬品性に優れることから、過酷な環境下で使用するような場合には、これらの特性に劣るアクリル系粘着剤やゴム系粘着剤の代替として使用されている。
【0003】
一般的に、シリコーン粘着剤は、溶剤を用いて成形したのち、溶剤を飛散させ、各種特性を向上させるための硬化を施してから使用されている。
【0004】
シリコーン粘着剤としては、ベンゾイルパーオキサイド等を用いて150℃×10分程度の条件で過酸化物により硬化させるもの又は白金触媒を用いて100℃×1分程度の条件でヒドロシリル化反応により硬化させるものが挙げられる。
【0005】
しかし、このような従来の熱硬化タイプのシリコーン粘着剤は、ポットライフを確保するための反応制御剤が配合されているケースが多い。そのため高温×長時間の硬化が必要であり、薄手あるいは耐熱性の低い被着体には使用できないといった問題点があった。
【0006】
例えば、特許文献1には、室温で硬化するとともに粘着性を発現する、付加反応型の粘着性ポリオルガノシロキサン組成物について開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、室温でも硬化するとともに粘着性を発現し、かつ硬化物の柔軟性に優れ、より高温での硬化でもクラック発生が抑制された、室温硬化タイプの付加型の粘着性ポリオルガノシロキサン組成物について開示されている。
【0008】
上記特許文献1及び2に開示の熱硬化タイプのシリコーン粘着剤は、室温下での硬化が可能であるが、混合して組成物を製造する工程あるいはシート状等に成形する工程で硬化反応が進行してしまうことから、光硬化タイプのシリコーン粘着剤が求められていた。
【0009】
例えば、特許文献3には、エポキシ官能性シリコーン重合体、シリコーンMQ樹脂及びハロニウム塩からなる紫外線官能性触媒からなる無溶剤の紫外線硬化タイプの感圧粘着剤組成物が提案されている。
【0010】
また、特許文献4には、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン、メルカプト基含有ポリオルガノシロキサン及びレジン構造を有するポリオルガノシロキサンを含む、低温かつ短時間での硬化が可能な紫外線硬化タイプのシリコーン粘着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-323764号公報
【文献】特開2008-156441号公報
【文献】特公平01-28792号公報
【文献】特開2002-371261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献3に記載の発明では、ハロニウム塩がシリコーン重合体に相溶し難いため、硬化が不十分になる場合がある。また、塩基性物質や水酸基含有物質の存在で硬化が阻害される場合がある。そのため、粘着層と基材・部材との密着が不十分となったり、硬化性が低下したりするといった懸念があった。
【0013】
また、特許文献4では、原料が熱劣化しやすいことから耐熱性に劣るとともに、黄変するため特に光学用途には使用しにくいといった課題があった。また、原料の臭気がきつく、ハンドリング性にも劣るといった問題点があった。
【0014】
本願発明者は、このような従来の技術について検討したところ、特許文献1及び2に記載の発明では、分岐状のポリオルガノシロキサンを大量に添加して、シリコーン系樹脂に室温での粘着(タック)特性を付与しているが、その一方で、直鎖状のポリジメチルシロキサン骨格の特徴である室温以下の低温環境下での粘着特性(以下「低温特性」と称する。)が大幅に低下する懸念があることが分かった。
【0015】
以上から、従来のシリコーン粘着剤組成物では、室温での粘着特性及び低温特性という、2つの背反特性を満足することはできず、他の成分の添加や使用用途が限定されるものであったといえる。
【0016】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、室温での粘着特性及び低温特性を同時有する、粘着剤組成物及び粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、(A)光活性型触媒、(B)ケイ素原子に結合した有機官能基を有し、前記光活性型触媒により硬化可能な直鎖状のオルガノポリシロキサン及び(C)分岐状のオルガノポリシロキサンを含む粘着剤組成物であり、前記粘着剤組成物は、前記(B)直鎖状のオルガノポリシロキサンと前記(C)分岐状のオルガノポリシロキサンの合計量を100質量部としたときに、該(B)直鎖状のオルガノポリシロキサンを5~70質量部含み、前記粘着剤組成物の130℃における溶融粘度は、10Pa・s以上5000Pa・s以下の範囲である粘着剤組成物、及び該粘着剤組成物から形成される粘着シートを提案する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の粘着剤組成物は、室温での粘着特性及び低温特性を同時に有することができ、また、光学特性や耐湿熱信頼性、低誘電率特性等に優れるので、光学用途、特に画像表示装置用途にも特に好適に使用することができるという利点がある。また、本発明の粘着剤組成物は、一般的に接着が困難な被着体、特にフッ素樹脂系成形体やシリコーン樹脂系成形体等の被着体への粘着剤としても好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明が、下記実施形態に限定されるものではない。
【0020】
(シリコーン粘着剤組成物)
本発明のシリコーン粘着剤組成物(以下、省略して「本組成物」とも称する。)は、(A)光活性型触媒(以下、省略して「成分(A)」とも称する。)、(B)ケイ素原子に結合した有機官能基を有し、該光活性型触媒により硬化可能な直鎖状のオルガノポリシロキサン(以下、省略して「成分(B)」とも称する。)、及び(C)分岐状のオルガノポリシロキサン(以下、省略して「成分(C)」とも称する。)を含む。
【0021】
本組成物は、以下の光照射条件下での光照射後に、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの損失正接(Tanδ)のピーク温度を、-140℃から-100℃以下及び-50℃から100℃以下の範囲内にそれぞれ1つ以上有することを特徴とする。
【0022】
これは、成分(B)及び成分(C)が非相溶状態であることを示し、2つのピーク温度を有することで、室温での粘着特性及び低温特性を同時に具備することができる。なお、非相溶とは、成分(B)及び成分(C)が完全には混和していない状態を意味し、部分的に混和していてもかまわない状態を表す意であって、電子顕微鏡による巨視的な観察を行うと、海島構造等のミクロ相分離構造が観察される状態をいう。なお、損失正接(Tanδ)のピーク温度の測定方法は、下述する実施例及び比較例の記載に準拠する。
[光照射条件]
高圧水銀ランプを用いて、波長365nmの積算光量が2J/cm2となるように紫外線を照射する。
【0023】
本組成物は、上記光照射条件下による光照射後に上記の損失正接(Tanδ)のピーク温度を所定範囲内に有するためには、成分(B)及び成分(C)を非相溶な組合せ(完全相溶しない組合せ)とすればよく、加えて、成分(B)の一次構造を直鎖状としたり、その溶融粘度を調整したり、また、成分(C)の一次構造を分岐状としたり、その分岐構造を選択したり、さらには、本組成物における成分(B)及び成分(C)の含有量を調整することにより、損失正接(Tanδ)ピーク温度を所定範囲内とすることができる。
【0024】
中でも成分(B)の温度130℃における溶融粘度は、50Pa・s以上10000Pa・s以下の範囲であることが好ましく、100Pa・s以上~5000Pa・s以下の範囲であることがより好ましく、200Pa・s以上~4000Pa・s以下の範囲であることが最も好ましい。
【0025】
さらに、上記と同様の理由から、成分(C)の温度130℃における軟化点は、40℃
以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることが最も好ましい。
【0026】
また、上記と同様の理由から、本組成物の130℃における溶融粘度は、10Pa・s以上5000Pa・s以下の範囲であることが好ましく、50Pa・s以上3000Pa・s以下の範囲であることがより好ましく、100Pa・s以上1000Pa・s以下の範囲であることが最も好ましい。
【0027】
なお、上記温度130℃における溶融粘度は、JISK7244に基づき測定される値であり、上記軟化点は、JISK7210に基づき測定される値である。
【0028】
成分(B)及び成分(C)の含有量は、成分(B)と成分(C)の合計量を100質量部としたときに、成分(B)を5~70質量部とすることが好ましく、10~60質量部とすることがより好ましく、20~50質量部とすることが最も好ましい。
【0029】
本組成物の温度30℃、周波数1Hzにおける貯蔵剪断弾性率(G’)は、10kPa以上5000kPa以下であり、かつ、温度100℃、周波数1Hzにおける貯蔵剪断弾性率(G’)が1kPa以上100kPa以下であることが好ましい。かかる範囲にあることにより、粘着力が得られやすく、かつ耐湿熱環境等での信頼性に優れる等の利点を有することができる。また、本組成物の温度30℃、周波数1Hzにおける貯蔵剪断弾性率(G’)と本組成物の温度100℃、周波数1Hzにおける貯蔵剪断弾性率(G’)による弾性率差[G’(30℃・1Hz)/G’(100℃・1Hz)]は大きい方が好ましく、具体的には、1.5以上1000以下であることが好ましく、2以上500以下であることがより好ましく、3以上300以下であることが最も好ましい。かかる範囲とすることにより、より優れた粘着力を有することができる。なお、貯蔵剪断弾性率(G’)の測定方法は、下述する実施例及び比較例の記載に準拠する。
【0030】
本組成物の温度30℃、周波数1Hzにおける貯蔵剪断弾性率(G’)を所定範囲とするためには、成分(B)と成分(C)の配合部数を調整したり、成分(B)の溶融粘度(分子量)や硬化に寄与する有機官能基含量等を調整したり、成分(C)の分岐骨格や有機官能基含量等を調整したりすれば良い。
【0031】
本組成物に含有される成分(B)は、本組成物の硬化物に低温特性、耐衝撃性、柔軟性等を付与し、本組成物に含有される成分(C)は本組成物の硬化物に室温での粘着特性(タック性)、熱加工適性、固着強度、ハンドリング性等を付与する。
【0032】
また、本組成物中の成分(B)は、硬化時に架橋点となりうる又は付加反応により三次元網目構造を形成し得る有機官能基を有しているので、光活性型触媒の作用により、本組成物を硬化させることができる。加えて、成分(C)にも有機官能基を導入したり、以下に詳述する成分(D)として有機官能基を有する架橋剤を添加したりすれば、同様の作用により、本組成物を光照射により硬化させることができ、本組成物の硬化の程度(貯蔵剪断弾性率G’)を調整することもできる。
【0033】
(成分(A):光活性型触媒)
本組成物に含まれる光活性型触媒とは、光活性を有する触媒であって、具体的には、白金系、パラジム系、ロジウム系触媒等の白金族金属触媒、ニッケル系触媒及び光ラジカル重合触媒等を挙げることができる。これらの中でも、白金系金属触媒及びラジカル重合触媒が特に好ましく、白金系金属触媒としては、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金錯体、ビス(アセチルアセトネート)白金錯体、2,4,6,8-テトラビニル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン白金錯体、 [1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリジン][1,3-ビス(シクロヘキシル)イミダゾール-2-イリジン][1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン]白金錯体、トリメチル(アセチルアセトナト)白金錯体、トリメチル(3,5-ヘプタンジオネート)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4-ペンタンジオナト)白金錯体、ビス(2,4-へキサンジオナト)白金錯体、ビス(2,4-へプタンジオナト)白金錯体、ビス(3,5-ヘプタンジオナト)白金錯体、ビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオナト)白金錯体、ビス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト)白金錯体及び(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金を挙げることができる。
【0034】
光ラジカル重合触媒とは、光を照射されることで活性化される触媒であって、具体的には、アセトフェノン,4-メチルアセトフェノン,2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン,ベンジルジメチルケタール(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニル-エタン-1-オン),2,2-ジエトキシ-1-フェニル-エタン-1-オンなどのアセトフェノン誘導体や、ベンゾフェノン,4,4,-ジメトキシベンゾフェノン,4,4,-ジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン誘導体や、チオキサントン,2,4-ジエチルチオキサントン,2,-クロロチオキサントンなどのチオキサントン誘導体や、ベンゾイン,ベンゾインメチルエーテル,ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン誘導体やエチルアントラキノン,2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどを挙げることができる。
【0035】
上記の光活性型触媒は、いずれか一種又は二種以上を併用して使用することができる。また、その含有量としては、成分(B)と成分(C)の合計量を100質量部としたときに、0.001質量部~5質量部とすることが好ましく、0.01質量部~2質量部とすることがより好ましい。また、他の触媒、たとえば熱活性型触媒などと併用してもよい。
【0036】
(成分(B):直鎖状のオルガノポリシロキサン)
本組成物に含まれるケイ素原子に結合した有機官能基を有し、(A)光活性型触媒により硬化可能な直鎖状のオルガノポリシロキサンとは、主鎖がR2SiO単位からなる直鎖状ポリマーであり、該R2の少なくとも1つに光活性型触媒により反応する有機官能基が導入された光硬化性のシリコーンであって、具体的には、R2として、ビニル基、アリール基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、シクロヘキセニルエチル基、ビニルオキシプロピル基等のアルケニル基の他ハイドロジェン基(すなわち、付加反応に寄与するケイ素原子に結合した水素原子を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン)を挙げることができる。これらの中でもR2がビニル基、(メタ)アクリロイルアルケニル基又はハイドロジェン基であることが特に好ましい。
【0037】
これらの有機官能基(R2)は、該直鎖状のオルガノポリシロキサンの1分子中に2個以上有することが好ましい。有機官能基の含有量は、成分(B)の重量に対して、0.001wt%以上5wt%以下が好ましく、0.005wt%以上1wt%がより好ましく、0.1wt%以上0.5wt%以下がさらに好ましい。上記範囲内とすることで、硬化後の粘着剤組成物の粘着力や耐湿熱信頼性などがバランスよく得られやすくなる。
【0038】
これらケイ素原子に結合した有機官能基は、該直鎖状のオルガノポリシロキサンの分子中において、分子鎖末端および分子鎖側鎖のいずれかに存在しても、あるいはこれらの両方に存在してもよい。
【0039】
ケイ素原子に結合した有機官能基以外のケイ素原子に結合した有機官能基としては、脂肪族不飽和結合を有しないものが好ましく、例えば、非置換又は置換の、炭素原子数が1~12の一価の炭化水素基を挙げることができる。
【0040】
この非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基や、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基や、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基や、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部が塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された、クロロメチル基、3-クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。
【0041】
なお、直鎖状とは、完全な直鎖状だけではなく、一部に分岐鎖を有する直鎖状であっても良い意味であり、分岐鎖が主鎖の分子量よりも少なければ直鎖状とする。
【0042】
本組成物に含まれるケイ素原子に結合した有機官能基を有し、該光活性型触媒により硬化可能な直鎖状のオルガノポリシロキサン、すなわち、成分(B)は、成分(B)と成分(C)の合計量100質量部としたときに、5~70質量部含有することが好ましく、10~60質量部含有することがより好ましく、20~50質量部含有することが最も好ましい。
【0043】
(成分(C):分岐状のオルガノポリシロキサン)
本組成物に含まれる分岐状のオルガノポリシロキサンとは、その分子中に1以上のR1aSiO(4-a)/2で示される単位を有する三次元網目構造(レジン構造)を有するポリマーであり、具体的には、R13SiO1/2で示される1官能性単位(M単位)とSiO4/2で示されるQ単位からなるオルガノポリシロキサン(MQレジン)、M単位とR1SiO3/2で示されるT単位とQ単位からなるオルガノポリシロキサン(MTQレジン)、M単位と式:R12SiO2/2で示される2官能性単位(D単位)とQ単位からなるオルガノポリシロキサン(MDQレジン)、M単位とD単位とT単位とQ単位からなるオルガノポリシロキサン(MDTQレジン)、T単位のみからなるオルガノポリシロキサン(Tレジン)が挙げられる。これらの中でも、成分(B)との混練した際の相溶性や外観(透明性)の観点からMQレジンが最も好ましく、また、MQ比は0.1~2.0であることが好ましく、0.3~1.5であることがより好ましく、0.5~1.0であることが最も好ましい。
【0044】
上記R1としては、置換若しくは非置換の一価炭化水素基又はアルコキシ基を挙げることができ、一価炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基や、ビニル基、アリール基、ヘキセニル基等のアルケニル基や、フェニル基、ナフチル基等のアリール基や、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ノナフルオロブチルエチル基等のハロゲン化アルキル基や、4-クロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基等のハロゲン化アリール基や、4-クロロメチルフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基等のハロゲン化アルキル基置換アリール基を挙げることができる。また、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基が挙げられる。
【0045】
上記の中でも、R1は、アルケニル基としてはビニル基が好ましく、アルケニル基以外の一価炭化水素基としてはメチル基が好ましく、アルコキシ基としては、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。また、特にR1は光活性型触媒により架橋可能な有機官能基(例えば、ビニル基等のアルケニル基)であることが最も好ましい。
【0046】
本組成物に含まれる分岐状のオルガノポリシロキサン、すなわち、成分(C)は、成分(B)と成分(C)の合計量を100質量部としたときに、30~95質量部含有することが好ましく、40~90質量部含有することがより好ましく、50~80質量部含有することが最も好ましい。
【0047】
(架橋剤)
本組成物には、成分(D)として架橋剤を添加することがより好ましい。架橋剤を添加することで、成分(B)又は成分(C)に含まれる硬化可能な有機官能基と結合したり、あるいは架橋剤同士が結合したりして、三次元網目構造を形成しやすくなる。
【0048】
本組成物に用いる架橋剤としては、光照射により三次元網目構造を形成して硬化する性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、ビニル基、アリール基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、シクロヘキセニルエチル基、ビニルオキシプロピル基等のアルケニル基の他ハイドロジェン基(すなわち、付加反応に寄与するケイ素原子に結合した水素原子を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン)等の有機官能基を有する架橋剤を挙げることができる。これらの中でもビニル基、(メタ)アクリロイルアルケニル基又はハイドロジェン基等の有機官能基を有する架橋剤が特に好ましい。
【0049】
また、架橋剤は、ハンドリング性や組成物の硬化後の物性、透明性等の観点から、シリコーンモノマーあるいはオリゴマーの骨格に、有機官能基を2個以上有していることが好ましい。
【0050】
架橋剤に含まれる有機官能基の添加量は、成分(D)の重量に対して、0.01wt%以上10wt%以下が好ましく、0.05wt%以上8wt%がより好ましく、0.1wt%以上5wt%以下がさらに好ましい。上記範囲内とすることで、硬化後の粘着剤組成物の粘着力や耐湿熱信頼性などがバランスよく得られやすくなる。
【0051】
成分(D)としての架橋剤の含有量は、成分(B)と成分(C)の合計量を100質量部としたときに、成分(D)を0.1~20質量部とすることが好ましく、0.3~15質量部とすることがより好ましく、0.5~10質量部とすることが最も好ましい。
【0052】
(他の成分)
本組成物に含有することのできる他の成分としては、耐熱向上剤としての金属酸化物、酸化防止剤、難燃助剤、導電付与剤、帯電防止剤、加工助剤、防錆剤を挙げることができ、また、アルコキシシリル基を含有するアルコキシシラン系化合物、シランカップリング剤、チタン系やジルコニウム系等の縮合触媒などを架橋補助剤として本組成物に含有させることもできる。
【0053】
(光照射後の本組成物の特性)
本組成物は、上述した光照射条件下での光照射後のガラスに対する粘着力が、-30℃で3N/cm以上でありかつ30℃で3N/cm以上であることが好ましく、-30℃で5N/cm以上でありかつ30℃で5N/cm以上であることがより好ましく、-30℃で8N/cm以上でありかつ30℃で8N/cm以上であることが最も好ましい。かかる特性を有することにより、広い範囲の温度条件での信頼性に優れる等の利点があり、光学用途や画像表示装置用途、特に過酷な環境で用いられる用途等に好適に使用することができる。なお、かかる粘着力を具備する為には、成分(B)と成分(C)の配合部数を調整したり、成分(B)の溶融粘度(分子量)や硬化に寄与する有機官能基含量等を調整したり、成分(C)の分岐骨格や有機官能基含量等を調整したりすれば良い。なお、粘着力の測定方法は、下述する実施例及び比較例の記載に準拠する。
【0054】
本組成物は、上記条件下での光照射後の厚み150μmにおけるヘーズが2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが最も好ましい。かかる特性を有することにより、透明性が高くなり視認性に優れる等の利点があり、光学用途等に好適に使用することができる。なお、かかるヘーズを具備する為には、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の種類や配合量を調整したりすれば良い。なお、ヘーズの測定方法は、下述する実施例及び比較例の記載に準拠する。
【0055】
本組成物は、上記条件下での光照射後の屈折率が1.30~1.60であることが好ましく、1.35~1.55であることがより好ましく、1.40~1.50であることが最も好ましい。かかる特性を有することにより、一般的なガラスや樹脂製の被着体に貼合する際に反射損失を低減でき、視認性が向上する等の利点があり、光学用途等に好適に使用することができる。なお、かかる屈折率を調整する為には、成分(B)又は成分(C)若しくは両方の成分にフェニル基を導入すれば良い。
【0056】
(本組成物の製造方法)
本組成物を製造する場合には、成分(A)、成分(B)及び成分(C)をそれぞれ所定量混合(必要に応じて成分(D)を追加する。)することにより得られる。これらの混合方法としては、特に制限されず、例えば、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を単に混合することができ、各成分の添加順序は特に限定されない。なお、混合物製造時に熱処理工程を入れることが好ましく、この場合は、予め、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び必要に応じてその他の成分を混合し、熱処理を行うことが望ましい。いくつかの成分を予め混ぜ合わせたものを供給してもよく、添加成分を濃縮してマスターバッチ化したものを供給してもよい。
【0057】
熱処理温度は、通常40~150℃で行うことができ、このような熱処理工程を導入するとで、各成分を均一に混合できるため、光学特性などの特性がより安定した組成物を得ることができる。
【0058】
また、混合方法としても特に制限されず、例えば、万能混練機、プラネタリミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ゲートミキサー、加圧ニーダー、三本ロール、二本ロールを用いることができる。必要に応じて溶剤を用いて混合してもよい。成分(C)に軟化点の高いものを用いる場合には特に、有機溶剤に溶解させてから投入することで、各成分をより短時間・低温で均一に混合させることもできる。
【0059】
(粘着物品)
本組成物は、そのまま粘着剤組成物として使用できるが、本組成物の硬化物による成形体としての粘着物品とすることも可能である。かかる成形体としての粘着物品の製造方法としては、圧縮成形や注入成形、射出成形等により成形する方法や、インサート成形により金属基材、樹脂基材上に成形する方法、あるいはディッピング、コーティング、スクリーン印刷などにより基材と一体化した成形体を得る方法などがある。これらの硬化条件としては、紫外線や可視光線などの光を照射して硬化する方法が挙げられるが、中でも光学装置構成用部材へのダメージ抑制や反応制御の観点から紫外線が好適である。また、光の照射エネルギー、照射時間、照射方法などに関しては特に限定されず、光活性型触媒である成分(A)を活性化させて、架橋を進行させることで、本組成物を硬化させればよい。光の照射方法としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプなどが挙げられる。
【0060】
また、本組成物は、溶剤を含まない無溶剤系として使用することできる。無溶剤系として使用することで溶剤が残存せず、耐熱性及び耐光性が高まるという利点を備えることができる。
【0061】
さらに、本組成物は、直接被着体に塗布・硬化して使用する以外にも離型フィルム上に単層又は多層のシート状に成型した離型フィルム付き粘着シートとしての粘着物品とすることもできる。かかる離型フィルムの材質としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、アクリルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、フッ素樹脂フィルム等を挙げることができる。これらの中でも、ポリエステルフィルム及びポリオレフィンフィルムが特に好ましい。
【0062】
上記離型フィルムは、離型性を十分に有していれば、離型層を施すことなくフィルム単独で用いてもよいが、被着体に粘着シートを貼り付ける際における一方の離型フィルムを剥すときの泣き別れを防止するために剥離力の異なる離型層を形成しておくことがより好ましい。また、離型フィルムに使用される離型剤としては、シリコーン、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アルキル基を有する樹脂等やこれらの変性体又は混合物等が挙げられる。これらの中でも、優れた離型性を得ることができるフロロシリコーンが特に好ましい。離型フィルム又は離型フィルム付き粘着シートに、エンボス加工や金型プレス加工等を施してもよい。
【0063】
本組成物の硬化物による成形体としての粘着物品を光学装置構成装置用等に使用する場合は、シート状に成形したものを使用し、貼り合わせる方法により得られる粘着物品を使用することが、施工性に優れ、より好ましい。
【0064】
本組成物をシート状に成型した粘着物品を使用する場合には、粘着物品は、本組成物からなる粘着剤層(I層)を少なくとも1層以上有していればよく、単層構成か積層構成かについては限定されない。単一の組成からなる単層構成にすれば、粘着物品の製膜工程を簡略化することが可能である。また、粘着物品を組成内容や組成比が異なる他の層(II層)を有する積層構成にすれば、透明封止層に要求される各種特性をバランスよく達成させることが可能である。
【0065】
粘着物品を積層構成にする場合には、粘着物品は、本組成物からなる粘着層(I層)が表層にあることが好ましい。これにより、粘着物品に低温特性と室温での粘着特性を両立させることが容易となる。粘着物品において、前記II層は異種材料との積層構成でもよい。たとえば、SiO2やAl2O3などの透明無機酸化膜やバリアフィルム、ディスプレイ用位相差フィルムを中間層に有する構成、公知の粘着剤や粘着剤を有する構成等が挙げられる。
【0066】
積層構成としては、I層/II層のような2層構成、I層/II層/I層のような2種3層構成が挙げられる。更に層数としては4層、5層、6層、7層と必要に応じて増やしても良い。また、粘着物品は、片面又は両面に離型フィルムを積層してなる離型フィルム付の形態(離型フィルム付粘着物品)としてもよい。
【0067】
(光学装置構成用積層体)
光学装置構成用積層体は、例えば、本組成物又は上記の粘着物品と、タッチパネル、画像表示パネル及び表面保護パネルからなる群のうちいずれか1種以上を選択して得られる組み合わせからなる光学装置構成用部材とを用いて作製される。より具体的には、かかる本組成物又は粘着物品を介して、2つの画像表示装置構成用部材を貼り合わせることで得られる。なお、1つずつ貼り合わせても2つ同時に貼り合わせても良く、貼り合わせ方法・順序はなんら制限されない。また、2つの光学装置構成用部材を貼り合わせた後に、かかる光学装置構成用部材側から、さらに、光を照射して、かかる本組成物又は粘着物品を硬化することもできる。このような方法を採用することで、硬化前の本組成物の優れた段差吸収性能によって、凹凸を有する光学装置構成用部材であっても平滑に貼合し易い、あるいは貼合後の信頼性に優れる等の利点がある。このような方法を採用する場合には、例えば、光学装置構成用部材の貼合前に本組成物を光照射により一次硬化させ、次いで、例えば、光活性型触媒としての成分(A)が活性化しないように遮光処理し、部材貼合後に再度光照射することで成分(A)を活性化させて二次硬化されば良い。
【0068】
上記光学装置構成用部材としては、表面保護パネル、タッチパネル及び画像表示パネルを挙げることができ、例えば、一方が表面保護パネルであって他方が画像表示パネル、一方が表面保護パネルであって他方がタッチパネル及び一方がタッチパネルであって他方が画像表示パネルの組み合わせを挙げることができる。
【0069】
表面保護パネルの材質としては、ガラスの他、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマー等のプラスチックであっても良い。
【0070】
また、表面保護パネルは、タッチパネル機能が一体化したものであってもよく、例えば、タッチオンレンズ(TOL)型やワンガラスソリューション(OGS)型であっても良い。また、表面保護パネルは、その周縁部に枠状に印刷された印刷段差部を有していてもよい。
【0071】
タッチパネルとしては、抵抗膜方式、静電容量方式、電磁誘導方式等のいずれであっても良い。
【0072】
画像表示パネルは、偏光フィルムその他位相差フィルム等の他の光学フィルム、液晶材料及びバックライトシステムから構成される(通常、本組成物又は粘着物品の画像表示パネルに対する被着面は光学フィルムとなる。)ものであり、液晶材料の制御方式によりSTN方式やVA方式やIPS方式等があるが、何れの方式であっても良い。また、画像表示パネルは、タッチパネル機能をTFT-LCD内に内蔵したインセル型であっても、偏光板とカラーフィルタを設けたガラス基板の間にタッチパネル機能を内蔵したオンセル型であっても良い。
【0073】
(太陽電池モジュール)
太陽電池モジュールは、太陽光受光側から順に、前面保護パネル、封止材層、太陽電池セル、封止材層、裏面保護パネルが積層されてなるものであるが、本発明においては、かかる封止材として、本組成物又は上記の粘着物品を使用することができる。よって、本発明の太陽電池モジュールは、本組成物又は上記の粘着物品と、太陽電池セル、表面保護パネル及び裏面保護パネルかなる群のうちいずれか1種以上を選択して得られる組合せからなる部材とを用いて作製されたものである。
【0074】
(有機EL素子)
有機EL素子は、視認側から順に、表面保護基板、粘着剤層、有機EL素子基板、粘着剤層、裏面保護基板が積層されてなるものであるが、本発明においては、かかる粘着剤層として、本組成物又は上記の粘着物品を使用することができる。よって、本発明の有機EL素子は、本組成物又は上記の粘着物品と、表面保護基板、有機EL素子基板、裏面保護基板からなる群のうちいずれか1種以上を選択して得られる組合せからなる基板との組合せからなるものである。
【0075】
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
光活性型触媒としてA-1(トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金錯体)を0.2g、直鎖状ポリオルガノシロキサンとしてB-1(ビニル基含有ポリジメチルシロキサン、ビニル含量0.073質量%、130℃溶融粘度2700Pa・s、屈折率1.403)を400g、分岐状ポリオルガノシロキサンとしてC-1(MQレジン、M/Q=0.72)を600g、架橋剤としてD-1(ハイドロジェン基含有シリコーンオイル、ハイドロジェン含量0.69質量%、25℃粘度100Pa・s)を36g混合して、シリコーン粘着剤組成物1(溶融粘度(130℃):640Pa・s、G’(30℃):15kPa、G’(100℃):1.8kPa)を作製した。
【0077】
離型フィルムとして、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(藤森工業社製「バイナYB100」、厚さ:100μm)の上に、前記シリコーン粘着剤組成物1を厚さが150μmとなるようシート状に賦形した。更に、前記離型フィルムの上に新たな離型フィルムとして、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(藤森工業社製「バイナSF75」、厚さ:75μm)を被覆することで、シリコーン粘着剤組成物1の両面に離型フィルムを積層させた3層のシリコーン粘着シート積層体を作製した。この積層体に、高圧水銀ランプを用いて、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるように離型フィルム越しに照射し、23℃、40%RHの環境で24時間静置することで、シート状の離型フィルム付粘着物品1を得た。
【0078】
[実施例2]
光活性型触媒としてA-1を0.2g、直鎖状ポリオルガノシロキサンとしてB-1を350g、分岐状ポリオルガノシロキサンとしてC-1を650g、架橋剤としてD-1を32g混合して、シリコーン粘着剤組成物2(溶融粘度(130℃):710Pa・s、G’(30℃):170kPa、G’(100℃):2.3kPa)を作製した。
【0079】
実施例1と同様の方法で、前記シリコーン粘着剤組成物2の両面に離型フィルムを積層させた3層のシリコーン粘着シート積層体を作製した。その後、高圧水銀ランプを用いて、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるように離型フィルム越しに照射し、23℃、40%RHの環境で24時間静置することで、シート状の離型フィルム付粘着物品2を得た。
【0080】
[実施例3]
光活性型触媒としてA-1を0.2g、直鎖状ポリオルガノシロキサンとしてB-1を300g、分岐状ポリオルガノシロキサンとしてC-1を700g、架橋剤としてD-1を28g混合して、シリコーン粘着剤組成物3(溶融粘度(130℃):941Pa・s、G’(30℃):4300kPa、G’(100℃):3.6kPa)を作製した。
【0081】
実施例1と同様の方法で、前記シリコーン粘着剤組成物3の両面に離型フィルムを積層させた3層のシリコーン粘着シート積層体を作製した。その後、高圧水銀ランプを用いて、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるように離型フィルム越しに照射し、23℃、40%RHの環境で24時間静置することで、シート状の離型フィルム付粘着物品3を得た。
【0082】
[実施例4]
光活性型触媒としてA-2(2,4,6,8-テトラビニル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン白金錯体)を0.2g、直鎖状ポリオルガノシロキサンとしてB-1を350g、分岐状ポリオルガノシロキサンとしてC-1を650g、架橋剤としてD-1を32g混合して、シリコーン粘着剤組成物4(溶融粘度:720Pa・s、G’(30℃):160kPa、G’(100℃):2.4kPa)を作製した。
【0083】
実施例1と同様の方法で、前記シリコーン粘着剤組成物4の両面に離型フィルムを積層させた3層のシリコーン粘着シート積層体を作製し、シート状の離型フィルム付粘着物品4を得た。該粘着物品4は、作製後に低温で遮光保管したものを以降の評価に用いた。
【0084】
[比較例1]
2-エチルヘキシルアクリレート77質量部、酢酸ビニル19質量部及びアクリル酸4質量部をランダム共重合させてなるアクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:40万)を1kgに対して、イソシアヌル酸εカプロラクタム変性トリアクリレートを50g添加して混合してアクリル系組成物を得た。該アクリル系組成物に対し、光活性型触媒としてA-3(2,4,6-トリメチルベンゾフェノンと4-メチルベンゾフェノンの混合物)を12g加えて混合して、アクリル系粘着剤組成物5(溶融粘度:170Pa・s)を作製した。
【0085】
離型フィルムとして、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製「MRA100」、厚さ:100μm)の上に、前記アクリル系粘着剤組成物5を厚さが150μmとなるようシート状に賦形した。更に、前記離型フィルムの上に新たな離型フィルムとして、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製「MRF75」、厚さ:75μm)を被覆することで、アクリル系粘着剤組成物5の両面に離型フィルムを積層させた3層のアクリル系粘着シート積層体を作製した。この積層体に、高圧水銀ランプを用いて、紫外線を365nmの積算光量が1J/cm2となるように離型フィルム越しに照射し、23℃、40%RHの環境で1日静置することで、シート状の離型フィルム付粘着物品5(G’(30℃):55kPa、G’(100℃):7.2kPa)を得た。
【0086】
[比較例2]
光活性型触媒としてA-1を0.2g、直鎖状ポリオルガノシロキサンとしてB-1を960g、分岐状ポリオルガノシロキサンとしてC-1を40g、架橋剤としてD-1を100g混合して、シリコーン粘着剤組成物6(溶融粘度(130℃):2300Pa・s、G’(30℃):20kPa、G’(100℃):7.1kPa)を作製した。
【0087】
実施例1と同様の方法で、前記シリコーン粘着剤組成物6の両面に離型フィルムを積層させた3層のシリコーン粘着シート積層体を作製した。その後、高圧水銀ランプを用いて、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるように離型フィルム越しに照射し、23℃、40%RHの環境で24時間静置することで、シート状の離型フィルム付粘着物品6を得た。
【0088】
[各種評価結果]
(貯蔵剪断弾性率G’)
貯蔵剪断弾性率G’は、レオメータ(英弘精機株式会社製「MARS」)を用いて、実施例及び比較例において作製した各粘着物品を試料(厚み1~2mm、直径20mmの円状)として用いて以下の測定条件下で測定し、得られたデータから、30℃における貯蔵剪断弾性率G’(30℃)、100℃における貯蔵弾性率G’(100℃)を求めた。なお、実施例4で作製した粘着物品4及び比較例1で作製した粘着物品5については、オートクレーブ処理を施した後、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるよう硬化した後、23℃、40%RHで24時間養生したものを測定用の試料とした。測定結果を表1に掲載した。
<測定条件>
・粘着治具:Φ25mmパラレルプレート、
・歪み:0.5%
・周波数:1Hz
・測定温度:-50~200℃
・昇温速度:3℃/分の条件
【0089】
(損失正接(Tanδ)のピーク温度)
損失正接(Tanδ)のピーク温度は、粘弾性測定装置(アイティ計測株式会社製「粘弾性スペクトロメータDVA-200」)を用いて、実施例及び比較例において作製した各粘着物品を試料(縦4mm、横60mm)とし、以下の測定条件下で貯蔵引張弾性率E‘を測定し、得られたデータから各測定温度での損失正接(Tanδ)及び損失正接(Tanδ)のピーク温度(℃)を求めることにより測定した。なお、実施例4で作製した粘着物品4及び比較例1で作製した粘着物品5については、オートクレーブ処理を施した後、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるよう硬化した後、23℃、40%RHで24時間養生したものを測定用の試料とした。測定結果を表1に掲載した。
<測定条件>
・振動周波数:1Hz
・歪み:0.1%
・昇温速度:3℃/分
・測定温度:-150℃~200℃
・チャック間25mm
【0090】
(粘着力)
実施例及び比較例で作製した各粘着物品の一方の離型フィルムを剥がし、裏打ちフィルムとして50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製「ダイアホイルT100」、厚さ50μm)を貼合して積層品を作製した。測定結果を表1に掲載した。
【0091】
該各積層品を長さ150mm、巾10mmに裁断した後、残る離型フィルムを剥がして、露出した粘着面をソーダライムガラスにロール圧着した。該ガラス貼合品にオートクレーブ処理(80℃,ゲージ圧0.3MPa,20分)を施して仕上げ貼着し、粘着力測定用サンプルを作製した。なお、実施例4で作製した粘着物品4及び比較例1で作製した粘着物品5については、オートクレーブ処理を施した後、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるよう硬化した後、23℃、40%RHで24時間養生したものを粘着力測定用サンプルとした。
【0092】
前記各粘着力測定用サンプルを、-30℃及び30℃の環境に2時間静置した後、以下の測定条件下で剥離力を測定し、得られた値を粘着力とした。測定結果を表1に掲載した。
<測定条件>
・試験温度:-30℃及び30℃
・剥離速度:60mm/分
・剥離角:180°
【0093】
(ヘーズ)
実施例及び比較例で作製した各粘着物品の離型フィルムを順次剥がして、両面にソーダライムガラス(82mm×53mm×0.5mm厚、ヘーズ0.2%)をロール貼合した。貼合品にオートクレーブ処理(80℃,ゲージ圧:0.3MPa,20分)を施して仕上げ貼着し、光学特性測定用サンプルとした。なお、実施例4で作製した粘着物品4及び比較例1で作製した粘着物品5については、オートクレーブ処理を施した後、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるよう硬化した後、23℃40%RHで24時間養生したものを光学特性測定用サンプルとした。
【0094】
前記光学特性測定用サンプルについて、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH5000)を用いて、JIS K7136に準じてヘーズを測定した。測定結果を表1に掲載した。
【0095】
(耐湿熱信頼性)
実施例及び比較例で作製した各粘着物品の離型フィルムを順次剥がして、ソーダライムガラス(82mm×53mm×0.5mm厚)と、透明プラスチック板(三菱ガス化学社製「MR58」、厚み1mm)とで挟み込んでロール貼合した後、真空ラミネーター(日清紡メカトロニクス株式会社製「PVL0505S」)を用いて、温度:80℃、プレス時間:5分、プレス圧力:0.04MPaの条件でプレス貼合した。貼合品にオートクレーブ処理(80℃、ゲージ圧:0.3MPa、20分)を施して仕上げ貼着し、耐湿熱信頼性測定用サンプルとした。また、実施例4で作製した粘着物品4及び比較例1で作製した粘着物品5については、該仕上げ貼着後に、高圧水銀ランプを用いて365nmの紫外線を積算光量が2J/cm2となるよう、サンプルにガラス面から照射して貼合品を硬化させた。23℃、40%RHで24時間養生したものを耐湿熱信頼性測定用サンプルとした。なお、各耐湿熱信頼性測定用サンプルはそれぞれ3枚ずつ作製した。
【0096】
上記耐湿熱信頼性測定用各サンプルを、80℃、90%RHの恒温恒湿槽にて300時間静置した後、23℃、40%RHの環境下にて2時間静置させた際の、3枚のサンプルの外観を観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表1に掲載した。
<外観観察基準>
◎:全てのサンプルで白化、発泡、反りなどが発生しておらず、湿熱試験前後で外観にほとんど変化がみられない。
〇:湿熱試験後に多少白化している様子が確認できるが、外観は比較的良好である。
×:少なくとも1つのサンプルが、中央部もしくは端部に発泡・剥離・反り等が生じており、明らかに外観が悪化している。
【0097】
(比誘電率)
実施例及び比較例で作製した作製した各粘着物品の一方の離型フィルムを剥離し、SUS板にロール圧着した後、オートクレーブ処理(80℃、ゲージ圧0.3MPa、20分)を施して貼着した。次に、残りの離型フィルムを剥離して45mmΦのアルミ箔をロール圧着し、比誘電率測定用サンプルを作製した。なお、実施例4で作製した粘着物品4及び比較例1で作製した粘着物品5については、オートクレーブ処理を施した後、紫外線を365nmの積算光量が2J/cm2となるよう硬化した後、23℃、40%RHで24時間養生したものを比誘電率測定用サンプルとした。
【0098】
前記比誘電率測定用サンプルを用いて、LCRメータ(アジレントテクノロジー社製「HP4284A」)にて、JIS C2138に準拠して23℃、40%RH、周波数100kHzにおける比誘電率を測定した。測定結果を表1に掲載した。
【0099】
【0100】
実施例1~4で作製した粘着剤組成物1~4を、光硬化させて得られる粘着物品1~4は、低温(-30℃)と室温付近(30℃)での粘着特性を同時に有し、かつ光学特性、耐湿熱信頼性、低誘電率特性等に優れたものであった。また、実施例4では、光学装置構成用部材貼合後に光照射させることで、より耐湿熱信頼性に優れるものとなった。
【0101】
一方、アクリル系粘着組成物からなる粘着物品の比較例1では、損失正接(Tanδ)ピークを-18℃に有することで室温での粘着力は十分に有するものの、低温での粘着特性が得られず、低温環境下で用いたり、落下させる等の衝撃を加えたりすると剥離が生じやすいものであった。
【0102】
また、比較例2の粘着物品は、-50~100℃の範囲に損失正接(Tanδ)ピークを有しないため、特に室温での粘着力が極めて低いものであった。結果として、耐湿熱信頼性等での剥離や浮きが発生しやすいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のシリコーン粘着剤組成物は、室温での粘着特性及び低温特性を同時有することができ、光学特性や耐熱信頼性、耐候信頼性、低誘電率特性等に優れるので、光学用途、特に画像表示装置用途にも適用できる。また、本発明のシリコーン粘着剤組成物は、一般的に接着が困難な被着体、特にフッ素樹脂系成形体やシリコーン樹脂系成形体等の被着体への粘着剤としても好適に使用することができる。