(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】冷凍機油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 129/18 20060101AFI20220419BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20220419BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20220419BHJP
C10M 107/24 20060101ALN20220419BHJP
C10M 107/34 20060101ALN20220419BHJP
C10M 105/38 20060101ALN20220419BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20220419BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20220419BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20220419BHJP
【FI】
C10M129/18
C10M169/04
C09K5/04 F
C10M107/24
C10M107/34
C10M105/38
C10M101/02
C10N30:10
C10N40:30
(21)【出願番号】P 2017153712
(22)【出願日】2017-08-08
【審査請求日】2020-02-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡
(72)【発明者】
【氏名】牛山 知也
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-314796(JP,A)
【文献】特表2015-514827(JP,A)
【文献】特表2007-532766(JP,A)
【文献】特開平06-240279(JP,A)
【文献】特開昭50-134990(JP,A)
【文献】特開2017-125216(JP,A)
【文献】特開2017-101215(JP,A)
【文献】特開平05-105896(JP,A)
【文献】特表2016-501284(JP,A)
【文献】特開2011-046880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
C09K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン骨格を少なくとも有する脂環式エポキシ化合物(X1A
)から選択される1種以上のエポキシ化合物(X)と、基油(Y)とを含み、
前記脂環式エポキシ化合物(X1A)は、下記一般式(1)で表される化合物であり、
【化1】
[前記一般式(1)中、略円形で示す脂環式環は、環形成炭素数5~12のシクロアルカン骨格又はシクロアルケン骨格であり、R
1
は、炭素数2~10の直鎖オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であり、p=0である。]
不飽和フッ化炭化水素化合物を含む冷媒と混合して用いられる、冷凍機油組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化合物(X)の含有量が、前記冷凍機油組成物の全量基準で、0.3~5.0質量%である、請求項
1に記載の冷凍機油組成物。
【請求項3】
前記基油(Y)が、ポリビニルエーテル(PVE)、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリオールエステル(POE)、及び鉱油から選ばれる1種以上を含む、請求項1
又は2に記載の冷凍機油組成物。
【請求項4】
さらに、酸化防止剤、油性向上剤、酸素捕捉剤、極圧剤、銅不活性化剤、防錆剤、消泡剤、及び粘度指数向上剤から選ばれる添加剤を1種以上含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の冷凍機油組成物。
【請求項5】
水分含有量が800質量ppm以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の冷凍機油組成物。
【請求項6】
空調機、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、冷凍システム、給湯システム、又は暖房システムに用いられる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の冷凍機油組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の冷凍機油組成物と、不飽和フッ化炭化水素化合物を含む冷媒とを含有する、冷媒混合冷凍機油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧縮型冷凍機は、少なくとも圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁等)、及び蒸発器等で構成されると共に、密閉された系内を、冷媒と冷凍機油との混合物が循環する構造となっている。
【0003】
圧縮型冷凍機に用いられる冷媒としては、従来多く使用されていたハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)に代わり、環境負荷が低いフッ化炭化水素化合物が使用されるようになってきている。
フッ化炭化水素化合物としては、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、ジフルオロメタン(R32)、ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンとの混合物(R410A)等の飽和フッ化炭化水素化合物(Hydro-Fluoro-Carbon;以下、「HFC」ともいう。)が多く使用されている。
また、近年、地球温暖化係数が低い1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)等の不飽和フッ化炭化水素化合物(Hydro-Fluoro-Olefin;以下、「HFO」ともいう。)の使用も検討され始めている。
【0004】
例えば、特許文献1には、エーテル系化合物を含有する基油及び1,2-エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ化合物を含有し、且つ水分含有量が300~10000質量ppmである冷凍機油組成物が、HFO冷媒下において、安定性及び耐摩耗性を高水準で両立できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、冷凍機はコンパクト化や高性能化等が進んでおり、その運転条件は以前に増して過酷になっている。そのため、冷凍機油組成物には、これまで以上に高度な品質が要求されている。例えば、冷凍機のコンパクト化に伴って機器内の冷凍機油組成物の使用量の減少が進む一方で、運転条件の過酷化による圧縮機の摺動部における摩擦熱等によって、局所的に高温になる箇所が発生し得る。このような箇所に冷媒混合冷凍機油組成物が晒されると、冷凍機油組成物の酸価がより上昇しやすい状況となる。
また、高温での熱安定性が低いHFO冷媒等を使用すると、冷凍機油組成物の酸価が特に上昇しやすくなる。
したがって、冷凍機油組成物には、酸価上昇を効果的に抑制して、高温下におけるより一層の優れた酸化安定性が求められる。
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1に開示されている冷凍機油組成物は、酸価の上昇を十分に抑制することができず、高温下における酸化安定性が十分なものとはいえなかった。
【0007】
本発明は、酸価上昇を効果的に抑制することができ、高温下における酸化安定性に優れる冷凍機油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、基油と、特定の骨格を有するエポキシ化合物とを含む冷凍機油組成物が、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記〔1〕に関する。
〔1〕オレフィン骨格及びテルペン骨格の少なくとも一方を有するエポキシ化合物(X)と、基油(Y)とを含む、冷凍機油組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の冷凍機油組成物は、酸価上昇を効果的に抑制することができ、高温下における酸化安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「炭化水素基」とは、特にことわりのない限り、炭素原子及び水素原子のみから構成されている基を意味する。「炭化水素基」には、直鎖又は分岐鎖から構成される「脂肪族基」、芳香性を有しない飽和又は不飽和の炭素環を1以上有する「脂環式基」、ベンゼン環等の芳香性を示す芳香環を1以上有する「芳香族基」も含まれる。
【0011】
本明細書において、「環形成炭素数」とは、原子が環状に結合した構造の化合物の当該環自体を構成する原子のうちの炭素原子の数を表す。当該環が置換基によって置換される場合、置換基に含まれる炭素は環形成炭素数には含まない。
また、環形成原子数とは、原子が環状に結合した構造の化合物の当該環自体を構成する原子の数を表す。環を構成しない原子(例えば環を構成する原子の結合手を終端する水素原子)や、当該環が置換基によって置換される場合の置換基に含まれる原子は環形成原子数には含まない。
【0012】
[本発明の冷凍機油組成物の実施態様]
本発明の冷凍機油組成物は、オレフィン骨格及びテルペン骨格の少なくとも一方を有するエポキシ化合物(X)と、基油(Y)とを含む。
なお、本明細書において、オレフィン骨格及びテルペン骨格の少なくとも一方を有するエポキシ化合物(X)と、基油(Y)とを含み、冷媒を含まないものを「冷凍機油組成物」と呼ぶ。また、「冷凍機油組成物」に「冷媒」を混合したものを「冷媒混合冷凍機油組成物」と呼ぶ。
【0013】
本発明者らは、高温での熱安定性が低く、酸価上昇の要因となる酸性物質等が発生しやすい冷媒としてHFO冷媒を例にして、種々の安定化剤による冷凍機油組成物の酸価上昇抑制効果について検討を行った。その結果、オレフィン骨格及びテルペン骨格の少なくとも一方を有するエポキシ化合物(X)が、顕著な酸価上昇抑制効果を発揮することを見出した。
一方で、オレフィン骨格もテルペン骨格も有しないエポキシ化合物を用いた場合には、十分な酸価上昇抑制効果は得られず、また、エポキシ骨格を有しないオレフィン系化合物やエポキシ骨格を有しないテルペン系化合物を用いた場合にも、十分な酸価上昇抑制効果は得られなかった。
これらのことから、本発明者らは、一分子中にオレフィン骨格とエポキシ骨格とを有する化合物、あるいは、一分子中にテルペン骨格とエポキシ骨格とを有する化合物が、冷凍機油の酸価上昇抑制に対して顕著な効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の一態様の冷凍機油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(X)及び(Y)以外の汎用添加剤を含有していてもよい。
【0015】
本発明の一態様の冷凍機油組成物において、上述の成分(X)及び(Y)の合計含有量は、当該冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0016】
また、本発明の一態様の冷凍機油組成物において、オレフィン骨格もテルペン骨格も有しないエポキシ化合物の含有量は、少ないことが好ましい。具体的には、成分(X)100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは5質量部未満、更に好ましくは1質量部未満、より更に好ましくは0.5質量部未満、更になお好ましくは0.1質量部未満である。
【0017】
以下、本発明の冷凍機油組成物に配合される各成分について説明する。
【0018】
[エポキシ化合物(X)]
本発明の冷凍機油組成物は、オレフィン骨格及びテルペン骨格の少なくとも一方を有するエポキシ化合物(X)を含有する。
なお、本明細書において、「オレフィン骨格」は、二重結合を有する脂肪族又は脂環式の不飽和炭化水素を意味しており、芳香族基は含まない。
【0019】
本発明の一態様の冷凍機油組成物において、エポキシ化合物(X)の含有量は、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、当該冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.2質量%以上、更になお好ましくは1.6質量%以上である。また、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下、より更に好ましくは2.0質量%以下である。
【0020】
エポキシ化合物(X)は、一分子中に、オレフィン骨格及びテルペン骨格の少なくとも一方を有し、且つ、エポキシ骨格を1つ以上有する化合物である。
エポキシ化合物(X)は、単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0021】
このようなエポキシ化合物(X)の中でも、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、エポキシ化合物(X)の炭素数は4~16であることが好ましく、4~14であることがより好ましく、4~12であることが更に好ましく、6~10であることがより更に好ましい。
また、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、エポキシ化合物(X)はエポキシ骨格を1つ有するものであることが好ましい。
また、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、エポキシ化合物(X)は、オレフィン骨格を少なくとも有するエポキシ化合物(X1)及びテルペン骨格を少なくとも有するエポキシ化合物(X2)から選ばれる1種以上であることが好ましい。オレフィン骨格を少なくとも有するエポキシ化合物(X1)は、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、オレフィン骨格を少なくとも有する脂環式エポキシ化合物(X1A)及びオレフィン骨格を少なくとも有する脂肪族エポキシ化合物(X1B)から選ばれる1種以上であることが好ましく、オレフィン骨格を少なくとも有する脂環式エポキシ化合物(X1A)であることがより好ましい。
以下、エポキシ化合物(X)について、より詳細に説明する。
【0022】
<オレフィン骨格を少なくとも有するエポキシ化合物(X1)>
オレフィン骨格を少なくとも有するエポキシ化合物(X1)は、1つ以上のオレフィン骨格を有するエポキシ化合物であればよく、本発明の効果を損なわない範囲内で、オレフィン骨格以外の他の骨格を有していてもよい。
【0023】
(オレフィン骨格を少なくとも有する脂環式エポキシ化合物(X1A))
脂環式エポキシ化合物(X1A)は、例えば、下記一般式(1)で表されるように、一分子中に、オレフィン骨格を含む置換基R1と、エポキシ基を構成する炭素原子が取り込まれた脂環式環とを有する化合物である。
【0024】
【0025】
一般式(1)中、略円形で示す脂環式環は、環形成炭素数5~12のシクロアルカン骨格又はシクロアルケン骨格である。
ここで、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、当該脂環式環は、好ましくは環形成炭素数5~10のシクロアルカン骨格又はシクロアルケン骨格であり、より好ましくは環形成炭素数5~8のシクロアルカン骨格又はシクロアルケン骨格であり、更に好ましくはシクロヘキサン骨格又はシクロヘキセン骨格であり、より更に好ましくはシクロヘキサン骨格である。
【0026】
また、一般式(1)中、R1は、炭素数2~10の直鎖又は分岐鎖オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であり、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、1,2-ジメチル-3-ペンテニル基、及び1,2-ジメチル-4-ペンテニル基等が挙げられる。
当該脂肪族炭化水素基は、エーテル結合を有していてもよい。
また、当該脂肪族炭化水素基は、置換基を有する脂肪族炭化水素基であってもよいし、置換基を有しない脂肪族炭化水素基であってもよいが、置換基を有しない脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
脂肪族炭化水素基が置換基を有する場合、当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子,ヒドロキシ基,アルコキシ基,アミノ基,イミノ基,アミド基,カルボキシル基などが挙げられる。
【0027】
ここで、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、R1は、直鎖オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖α-オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。
また、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、R1は、炭素数が2~6であることが好ましく、2~3であることがより好ましい、
したがって、脂環式エポキシ化合物(X1A)における脂肪族炭化水素基は、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等が挙げられ、好ましくは、ビニル基及びアリル基であり、より好ましくはビニル基である。
【0028】
なお、一般式(1)中、R2は、脂環式環におけるR1基以外の置換基である。当該置換基としては、例えば、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子,ヒドロキシ基,アルコキシ基,アミノ基,イミノ基,アミド基,カルボキシル基などが挙げられる。
また、pは、0以上の整数であるが、好ましくは0である。すなわち、R1基以外の置換基を有しない脂環式環であることが好ましい。
【0029】
ここで、オレフィン骨格を少なくとも有する脂環式エポキシ化合物(X1A)は、以下の一般式(1a)で表される化合物であってもよい。
【0030】
【0031】
一般式(1a)中、略円形で示す脂環式環は、環形成炭素数5~12のシクロアルケン骨格である。
ここで、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、当該脂環式環は、好ましくは環形成炭素数5~10のシクロアルケン骨格であり、より好ましくは環形成炭素数5~8のシクロアルケン骨格であり、更に好ましくはシクロヘキセン骨格である。
一般式(1a)中のR2及びpは、一般式(1)と同様であり、pは好ましくは0である。すなわち、置換基を有しない脂環式環であることが好ましい。
【0032】
(オレフィン骨格を少なくとも有する脂肪族エポキシ化合物(X1B))
脂肪族エポキシ化合物(X1B)は、下記一般式(2)で表されるように、一分子中に、オレフィン骨格を含む置換基R2と、エポキシ基とを有する化合物である。
【0033】
【0034】
一般式(2)中、R3は、炭素数2~14の直鎖又は分岐鎖オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であり、例えば、R1と同様の基等が挙げられる。
また、当該脂肪族炭化水素基は、置換基を有する脂肪族炭化水素基であってもよいし、置換基を有しない脂肪族炭化水素基であってもよいが、置換基を有しない脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
脂肪族炭化水素基が置換基を有する場合、当該置換基としては、R1において上述した置換基を用いることができる。
【0035】
なお、一般式(2)中、R2は一般式(1)と同様である。qは、0~3の整数であるが、0であることが好ましい。すなわち、R3基以外の置換基を有しないエポキシ基であることが好ましい。
【0036】
ここで、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、R3は、直鎖オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖α-オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。
また、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、R3は、炭素数が2~10であることが好ましく、3~6であることがより好ましく、3~4であることが更に好ましい。
したがって、R3は、好ましくはビニル基、アリル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、及び5-ヘキセニル基であり、より好ましくは、アリル基及び3-ブテニル基であり、更に好ましくはアリル基である。
【0037】
ここで、一般式(2)で表される脂肪族エポキシ化合物(X1B)において、R3はエーテル結合を有していてもよく、例えば一般式(2a)で表される脂肪族エポキシ化合物であってもよい。
【0038】
【0039】
一般式(2a)中、R4は、炭素数2~13の直鎖又は分岐鎖オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であり、例えば、R1と同様の基等が挙げられる。
なお、一般式(2a)中、R2及びqは一般式(2)と同様である。qは、0であることが好ましい。すなわち、R4-O-CH2-基以外の置換基を有しないエポキシ基であることが好ましい。
ここで、R4は、R3と同様、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、直鎖オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖α-オレフィン構造を有する脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。
また、酸価上昇抑制効果をより優れたものとする観点から、R4は、炭素数が2~10であることが好ましく、3~6であることがより好ましく、3~4であることが更に好ましい。
したがって、R4は、好ましくはビニル基、アリル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、及び5-ヘキセニル基であり、より好ましくは、アリル基及び3-ブテニル基であり、更に好ましくはアリル基である。
【0040】
<テルペン骨格を少なくとも有するエポキシ化合物(X2)>
テルペン骨格を少なくとも有するエポキシ化合物(X2)は、1つ以上のテルペン骨格を有するエポキシ化合物であればよく、本発明の効果を損なわない範囲内で、テルペン骨格以外の他の骨格を有していてもよい。
【0041】
(テルペン骨格を少なくとも有するエポキシ化合物(X2))
エポキシ化合物(X2)は、一分子中に、テルペン骨格とエポキシ基とを有する化合物である。
本発明の冷凍機油組成物の一態様において、エポキシ化合物(X2)は、イソプレンの二量体である二環式モノテルペン又はイソプレンの三量体である多環式セスキテルペンの二重結合部位をエポキシ化した化合物が好ましく、二環式モノテルペンの二重結合部位をエポキシ化した化合物が好ましい。具体的には、例えば、二重結合を有する二環式モノテルペンであるα-ピネン、カレン、及びカンフェン等の二重結合部位をエポキシ化した化合物である、α-ピネンオキシド、3-カレンオキシド、及びカンフェンオキシド等が好ましく、これらの中でもα-ピネンオキシドが特に好ましい。
また、本発明の冷凍機油組成物の他の一態様において、エポキシ化合物(X2)は、イソプレンの二量体である二環式モノテルペン又はイソプレンの三量体である多環式セスキテルペンとエポキシ基とをリンカーを介して結合した化合物であることが好ましく、二環式モノテルペンとエポキシ基とをリンカーを介して結合した化合物であることがより好ましい。
リンカーとしては、例えば、炭素数1~4の二価の脂肪族炭化水素基、例えばメチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、及びn-ブチレン基等が挙げられる。
二環式モノテルペンとしては、ピナン、カラン、及びイソカンファン等が挙げられ、好ましくはピナンである。また、二環式モノテルペンは二重結合を有していてもよい。したがって、α-ピネン、β-ピネン、カレン、及びカンフェン等であってもよい。
【0042】
[基油(Y)]
本発明の冷凍機油組成物は、基油(Y)を含有する。
本発明の一態様の冷凍機油組成物において、基油(Y)の含有量は、当該冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、好ましくは99.7質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下である。
【0043】
基油(Y)としては、冷凍機油用途で用いられる合成油及び鉱油から選ばれる1種以上を用いることができる。
ここで、本発明の一態様の冷凍機油組成物において、冷凍機油組成物の熱安定性向上の観点から、基油(Y)は、ポリビニルエーテル類(PVE)、ポリアルキレングリコール類(PAG)、ポリオールエステル類(POE)、及び鉱油から選ばれる1種以上の基油(Y1)を含むことが好ましく、基油(Y1)の中でも、冷媒との相溶性向上の観点、耐加水分解性向上の観点、及び冷凍機油組成物の熱安定性向上の観点から、ポリビニルエーテル類(PVE)及びポリアルキレングリコール類(PAG)から選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。
また、冷媒との相溶性向上の観点、耐加水分解性向上の観点、及び冷凍機油組成物のさらなる熱安定性向上の観点から、ポリアルキレングリコール類(PAG)を含むことが更に好ましい。
以下、PVE、PAG、POE、及び鉱油について、詳細に説明する。
【0044】
<ポリビニルエーテル類(PVE)>
ポリビニルエーテル類(PVE)としては、ビニルエーテル由来の構成単位を1種以上有する重合体であればよい。なお、基油(Y)中にPVEが含まれる場合、当該PVEは、単独で又は2種以上を併用してもよい。
このようなPVEの中でも、冷媒との相溶性の観点から、ビニルエーテル由来の構成単位を1種以上有し、側鎖に炭素数1~4のアルキル基を有する重合体が好ましい。なお、当該アルキル基としては、冷媒との相溶性をより向上させる観点から、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0045】
また、PVEの中でも、下記一般式(A-1)で表される構成単位を1種以上有する重合体(A-1)であることが好ましい。
【0046】
【0047】
上記式(A-1)中、R1a、R2a、及びR3aは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~8の炭化水素基を示す。R4aは、炭素数2~10の2価の炭化水素基を示す。R5aは、炭素数1~10の炭化水素基を示す。
また、rは、OR4aの繰り返し単位の数であって、0~10の数を示すが、好ましくは0~5の数、より好ましくは0~3の数、更に好ましくは0である。
なお、前記一般式(A-1)で表される繰り返し単位中にOR4aが複数存在する場合、複数のOR4aは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0048】
R1a、R2a、及びR3aとして選択し得る炭素数1~8の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、及び各種オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、及び各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、及び各種ジメチルフェニル基等のアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、及び各種メチルベンジル基等のアリールアルキル基;等が挙げられる。
当該炭化水素基の炭素数としては、好ましくは1~6、より好ましくは1~3である。
【0049】
R1a、R2a、及びR3aとしては、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
なお、R1a、R2a、及びR3aは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
R4aとして選択し得る炭素数2~10の2価の炭化水素基としては、例えば、エチレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種ヘプチレン基、各種オクチレン基、各種ノニレン基、及び各種デシレン基等の2価の脂肪族基;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、及びプロピルシクロヘキサン等の二価の脂環式基;各種フェニレン基、各種メチルフェニレン基、各種エチルフェニレン基、各種ジメチルフェニレン基、及び各種ナフチレン等の2価の芳香族基;トルエン、キシレン、及びエチルベンゼン等のアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分と芳香族部分とにそれぞれ一価の結合部位を有する2価のアルキル芳香族基;キシレン及びジエチルベンゼン等のポリアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分に結合部位を有する2価のアルキル芳香族基;等が挙げられる。
当該炭化水素基の炭素数としては、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
R4aとしては、炭素数2~10の2価の脂肪族基が好ましく、炭素数2~4の2価の脂肪族基がより好ましい。
【0051】
R5aとして選択し得る炭素数1~10の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、及び各種デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、及び各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、及び各種ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、及び各種フェニルブチル基等のアリールアルキル基;等が挙げられる。
R5aとして選択し得る前記炭化水素基の炭素数としては、好ましくは1~8、より好ましくは1~6である。
R5aとしては、冷媒との相溶性をより向上させる観点から、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましく、メチル基がより更に好ましい。
【0052】
前記一般式(A-1)で表される構成単位の単位数(重合度数)は、基油(Y)に要求される動粘度に応じて適宜選択される。
また、前記一般式(A-1)で表される構成単位を有する重合体は、当該構成単位を1種のみ有する単独重合体であってもよく、当該構成単位を2種以上有する共重合体であってもよい。
なお、当該重合体が共重合体である場合、共重合の形態としては、特に制限はなく、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0053】
重合体(A-1)の末端部分には、飽和の炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、アミド、ニトリル等に由来の一価の基を導入してもよい。
これらの中でも、重合体(A-1)について、一方の末端部分が下記一般式(A-1-i)で表される基であることが好ましい。
【0054】
【0055】
上記一般式(A-1-i)中、*は前記一般式(A-1)で表される構成単位中の炭素原子との結合位置を示す。
上記一般式(A-1-i)中、R6a、R7a、及びR8aは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~8の炭化水素基を示すが、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
なお、R6a、R7a、及びR8aは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
R6a、R7a、及びR8aとして選択し得る炭素数1~8の炭化水素基としては、前記一般式(A-1)中のR1a、R2a、及びR3aとして選択し得る炭素数1~8の炭化水素基として列挙したものと同じものが挙げられる。
【0056】
上記一般式(A-1-i)中、R9aは、炭素数2~10の2価の炭化水素基を示すが、炭素数2~6の2価の炭化水素基が好ましく、炭素数2~4の2価の脂肪族基がより好ましい。
また、r1は、OR9aの繰り返し単位の数であって、0~10の整数を示すが、好ましくは0~5の整数、より好ましくは0~3の整数、更に好ましくは0である。
なお、前記一般式(A-1-i)で表される繰り返し単位中にOR9aが複数存在する場合、複数のOR9aは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
R9aとして選択し得る炭素数2~10の2価の炭化水素基としては、前記一般式(A-1)中のR4aとして選択し得る炭素数2~10の2価の炭化水素基として列挙したものと同じものが挙げられる。
【0057】
上記一般式(A-1-i)中、R10aは、炭素数1~10の炭化水素基を示すが、炭素数1~8の炭化水素基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
なお、R10aとしては、前記一般式(A-1-i)中のr1が0である場合には、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、r1が1以上である場合には、炭素数1~4のアルキル基が好ましい
R10aとして選択し得る炭素数1~10の炭化水素基としては、前記一般式(A-1)中のR5aとして選択し得る炭素数1~10の炭化水素基として列挙したものと同じものが挙げられる。
【0058】
また、重合体(A-1)について、一方の末端部分が前記一般式(A-1-i)で表される基であるとき、他方の末端部分としては、前記一般式(A-1-i)で表される基、下記一般式(A-1-ii)で表される基、下記一般式(A-1-iii)で表される基、オレフィン性不飽和結合を有する基のいずれかであることが好ましい。
【0059】
【0060】
上記一般式(A-1-ii)及び(A-1-iii)中、R6a、R7a、R8a、R9a、R10a、及びr1は、前記一般式(A-1-i)中の規定と同じである。
また、上記一般式(A-1-ii)中、R11a、R11a、及びr2は、それぞれ前記一般式(A-1-i)中のR9a、R10a、及びr1の規定と同じである。
【0061】
<ポリアルキレングリコール類(PAG)>
ポリアルキレングリコール類(PAG)としては、下記一般式(B-1)で表される重合体(B-1)であることが好ましい。なお、基油(Y)中にPAGが含まれる場合、当該PAGは、単独で又は2種以上を併用してもよい。
R1b-[(OR2b)m-OR3b]n (B-1)
【0062】
上記式(B-1)中、R1bは、水素原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数2~10のアシル基、炭素数1~10の2~6価の炭化水素基、又は置換もしくは無置換の環形成原子数3~10の複素環基を示す。R2bは、炭素数2~4のアルキレン基を示す。R3bは、水素原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数2~10のアシル基、又は置換もしくは無置換の環形成原子数3~10の複素環基を示す。
当該複素環基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~10(好ましくは1~6、より好ましくは1~3)のアルキル基;環形成炭素数3~10(好ましくは3~8、より好ましくは5又は6)のシクロアルキル基;環形成炭素数6~18(好ましくは6~12)のアリール基;ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;アミノ基等が挙げられる。
これらの置換基は、さらに上述の任意の置換基により置換されていてもよい。
【0063】
nは、1~6の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1である。
なお、nは、前記一般式(B-1)中のR1bの結合部位の数に応じて定められる。例えば、R1bがアルキル基やアシル基の場合には、nは1となり、R1bが炭化水素基又は複素環基であり、当該基の価数が2、3、4、5、及び6価である場合、nはそれぞれ2、3、4、5、及び6となる。
mは、OR2bの繰り返し単位の数であって、1以上の数を示し、好ましくはm×nが6~80となる数である。なお、当該mの値は、基油(Y)の100℃における動粘度が2~50mm2/sの範囲に属するように適宜設定される値であり、当該動粘度が所定の範囲内に属するように調整されていれば、特に制限はない。
なお、複数のR2bは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nが2以上の場合、1分子中の複数のR3bは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0064】
R1b及びR3bして選択し得る前記1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、及び各種デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、及び各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、及び各種ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、及び各種フェニルブチル基等のアリールアルキル基;等が挙げられる。なお、上記アルキル基は直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよい。
当該1価の炭化水素基の炭素数としては、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~3である。
【0065】
R1b及びR3bとして選択し得る前記炭素数2~10のアシル基が有する炭化水素基部分は、直鎖、分岐鎖、及び環状のいずれであってもよい。当該アルキル基部分としては、上述のR1b及びR3bとして選択し得る炭化水素基のうち炭素数1~9のものが挙げられる。
なお、当該アシル基の炭素数としては、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは2~10、より好ましくは2~6である。
【0066】
R1bとして選択し得る前記2~6価の炭化水素基としては、上述のR1bとして選択し得る1価の炭化水素基から更に水素原子を1~5個除いた残基や、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、1,2,3-トリヒドロキシシクロヘキサン、1,3,5-トリヒドロキシシクロヘキサン等の多価アルコールから水酸基を除いた残基等が挙げられる。
なお、当該2~6価のアシル基の炭素数としては、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは2~10、より好ましくは2~6である。
【0067】
R1b及びR3bして選択し得る前記複素環基としては、酸素原子含有複素環基、又は硫黄原子含有複素環基が好ましい。なお、当該複素環基は、飽和環であってもよく不飽和環であってもよい。
当該酸素原子含有複素環基としては、例えば、エチレンオキシド、1,3-プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、及びヘキサメチレンオキシド等の酸素原子含有飽和複素環や、アセチレンオキシド、フラン、ピラン、オキシシクロヘプタトリエン、イソベンゾフラン、及びイソクロメン等の酸素原子含有不飽和複素環が有する水素原子を1~6個除いた残基が挙げられる。
また、当該硫黄原子含有複素環基としては、例えば、エチレンスルフィド、トリメチレンスルフィド、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン、及びヘキサメチレンスルフィド等の硫黄原子含有飽和複素環や、アセチレンスルフィド、チオフェン、チアピラン、及びチオトリピリデン等の硫黄原子含有不飽和複素環等が有する水素原子を1~6個除いた残基が挙げられる。
【0068】
また、R1b及びR3bして選択し得る前記複素環基は、置換基を有していてもよく、当該置換基が前記一般式(B-1)中の酸素原子と結合してもよい。当該置換基としては、上述のとおりであるが、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
なお、当該複素環基の環形成原子数としては、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは3~10、より好ましくは3~6である。
【0069】
R2bとして選択し得る前記アルキレン基としては、例えば、ジメチレン基(-CH2CH2-)、エチレン基(-CH(CH3)-)等の炭素数2のアルキレン基;トリメチレン基(-CH2CH2CH2-)、プロピレン基(-CH(CH3)CH2-)、プロピリデン基(-CHCH2CH3-)、及びイソプロピリデン基(-C(CH3)2-)等の炭素数3のアルキレン基;テトラメチレン基(-CH2CH2CH2CH2-)、1-メチルトリメチレン基(-CH(CH3)CH2CH2-)、2-メチルトリメチレン基(-CH2CH(CH3)CH2-)、及びブチレン基(-C(CH3)2CH2-)等の炭素数4のアルキレン基が挙げられる。
なお、R2bが複数存在する場合、複数のR2bは、互いに同一であってもよく、2種以上のアルキレン基の組み合わせであってもよい。
これらの中でも、R2bとしては、プロピレン基(-CH(CH3)CH2-)が好ましい。
【0070】
なお、前記一般式(B-1)で表される重合体(B-1)において、オキシプロピレン単位(-OCH(CH3)CH2-)の含有量は、重合体(B-1)中のオキシアルキレン(OR2b)の全量(100モル%)基準で、好ましくは50モル%以上、より好ましくは65モル%以上、更に好ましくは80モル%以上である。
【0071】
前記一般式(B-1)で表される重合体(B-1)の中でも、下記一般式(B-1-i)で表されるポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、下記一般式(B-1-ii)で表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、下記一般式(B-1-iii)で表されるポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びポリオキシプロピレングリコールジアセテートからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0072】
【化8】
(上記式(B-1-i)中、m1は、1以上の数を示し、好ましくは6~80である。)
【0073】
【化9】
(上記式(B-1-ii)中、m2及びm3は、それぞれ独立に、1以上の数を示し、好ましくはm2+m3の値が6~80となる数である。)
【0074】
【化10】
(上記式(B-1-iii)中、m4は、1以上の数を示し、好ましくは6~80の数である。)
【0075】
なお、上記式(B-1-i)中のm1、上記式(B-1-ii)中のm2及びm3、並びに上記式(B-1-iii)中のm4は、基油(Y)に要求される動粘度に応じて適宜選択される。
【0076】
<ポリオールエステル類(POE)>
ポリオールエステル類(POE)としては、例えば、ジオール又はポリオールと、脂肪酸とのエステルが挙げられる。なお、基油(Y)中にPOEが含まれる場合、当該POEは、単独で又は2種以上を併用してもよい。
このようなPOEの中でも、ジオール又は水酸基数が3~20のポリオールと、炭素数3~20の脂肪酸とのエステルが好ましい。
【0077】
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、及び1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0078】
ポリオールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2~20量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、及びメレンジトース等の糖類;並びに、これらの部分エーテル化物及びメチルグルコシド(配糖体)等が挙げられる。
これらの中でも、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、及びトリ-(ペンタエリスリトール)等のヒンダードアルコールが好ましい。
【0079】
脂肪酸の炭素数としては、潤滑性能の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、より好ましくは8以上であり、また、冷媒との相溶性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下、より更に好ましくは10以下である。
なお、上記の脂肪酸の炭素数には、当該脂肪酸が有するカルボキシ基(-COOH)の炭素原子も含まれる。
また、脂肪酸としては、直鎖状脂肪酸、分岐状脂肪酸の何れであってもよいが、潤滑性能の観点から、直鎖状脂肪酸が好ましく、加水分解安定性の観点から、分岐状脂肪酸が好ましい。更に、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の何れであってもよい。
【0080】
脂肪酸としては、例えば、イソ酪酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、及びオレイン酸等の直鎖又は分岐のもの、あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸等が挙げられる。
さらに具体的には、イソ酪酸、吉草酸(n-ペンタン酸)、カプロン酸(n-ヘキサン酸)、エナント酸(n-ヘプタン酸)、カプリル酸(n-オクタン酸)、ペラルゴン酸(n-ノナン酸)、カプリン酸(n-デカン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、イソペンタン酸(3-メチルブタン酸)、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸等が好ましい。
【0081】
POEとしては、ポリオールの全ての水酸基がエステル化されずに残った部分エステルであってもよく、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであってもよい。また、部分エステルと完全エステルの混合物であってもよいが、完全エステルであることが好ましい。
【0082】
POEの中でも、より加水分解安定性に優れるとの観点から、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、及びトリ-(ペンタエリスリトール)等のヒンダードアルコールのエステルが好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、及びペンタエリスリトールのエステルがより好ましく、さらに冷媒との相溶性及び加水分解安定性が特に優れるとの観点から、ペンタエリスリトールのエステルが更に好ましい。
【0083】
好ましいPOEの具体例としては、例えば、ネオペンチルグリコールとイソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのジエステル;トリメチロールエタンとイソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールプロパンとイソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールブタンとイソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;ペンタエリスリトールとイソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのテトラエステル等が好ましい。
【0084】
なお、二種以上の脂肪酸とのエステルとは、一種の脂肪酸とポリオールのエステルを二種以上混合したものでもよい。POEの中でも、低温特性の向上、及び冷媒との相溶性の観点から、二種以上の混合脂肪酸とポリオールのエステルが好ましい。
【0085】
<鉱油>
鉱油としては、例えば、パラフィン系、中間基系、若しくはナフテン系原油を常圧蒸留するか、又は原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1つ以上の処理を行って精製した油、鉱油系ワックスを異性化することによって製造される油、又はフィシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化することによって製造される油等が挙げられる。
なお、基油(Y)中に鉱油が含まれる場合、当該鉱油は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0086】
本発明の一態様の冷凍機油組成物において、ポリビニルエーテル類(PVE)、ポリアルキレングリコール類(PAG)、ポリオールエステル類(POE)、及び鉱油から選ばれる1種以上の基油(Y1)は、基油(Y)における主成分である。好ましくは、ポリビニルエーテル類(PVE)及びポリアルキレングリコール類(PAG)から選ばれる1種以上の基油(Y2)が、基油(Y)における主成分である。より好ましくは、ポリアルキレングリコール類(PAG)(Y3)が、基油(Y)における主成分である。
基油(Y)中における、基油(Y1)、基油(Y2)、又は基油(Y3)の含有量は、基油(Y)の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~100質量%以上、より好ましくは60~100質量%以上、更に好ましくは70~100質量%以上、より更に好ましくは80~100質量%以上、更になお好ましくは90~100質量%である。
また、本発明の一態様の冷凍機油組成物において、基油(Y1)、基油(Y2)、又は基油(Y3)の含有量は、基油(Y)の全量(100質量%)基準で、100質量%である。
【0087】
基油(Y)は、本発明の効果を損なわない範囲内で、基油(Y1)、基油(Y2)、又は基油(Y3)に加えて、更に他の基油を含有してもよい。
当該他の基油としては、例えば、前述のPVE、PAG、POEには該当しない、ポリエステル類、ポリカーボネート類、α-オレフィンオリゴマーの水素化物、脂環式炭化水素化合物、及びアルキル化芳香族炭化水素化合物、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体(ECP)等の合成油が挙げられる。
なお、「ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体(ECP)」とは、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルに由来の構成単位と、ポリビニルエーテルに由来の構成単位とを有する共重合体であり、「ポリ(オキシ)アルキレングリコール」とは、ポリアルキレングリコール及びポリオキシアルキレングリコールの両方を指す。
【0088】
[添加剤]
本発明の冷凍機油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、さらに一般的な添加剤を含有してもよい。
そのような添加剤として、冷凍機油組成物の安定性向上の観点から、酸化防止剤、油性向上剤、酸素捕捉剤、極圧剤、銅不活性化剤、防錆剤、消泡剤、及び粘度指数向上剤より選ばれる1種以上の添加剤を含有することが好ましく、少なくとも酸化防止剤及び極圧剤を含有することがより好ましい。
これらの添加剤の合計含有量は、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0089】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤から選ばれる1種以上が好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、及び2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン及びN,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。
これらの中でも、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)がより好ましい。
酸化防止剤の含有量は、安定性及び酸化防止性能の観点から、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.05~3質量%である。
【0090】
<油性向上剤>
油性向上剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸;ダイマー酸、及び水添ダイマー酸等の重合脂肪酸;リシノレイン酸及び12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ脂肪酸;ラウリルアルコール及びオレイルアルコール等の脂肪族飽和又は不飽和モノアルコール;ステアリルアミン及びオレイルアミン等の脂肪族飽和又は不飽和モノアミン;ラウリン酸アミド及びオレイン酸アミド等の脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸アミド;グリセリン及びソルビトール等の多価アルコールと脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸との部分エステル;等が挙げられる。
【0091】
<酸素捕捉剤>
酸素捕捉剤としては、例えば、脂肪族不飽和化合物、二重結合を有するテルペン類等が挙げられる。
脂肪族不飽和化合物としては、不飽和炭化水素が好ましく、具体的には、オレフィンや、ジエン、トリエン等のポリエン等が挙げられる。なお、上記オレフィンとしては、酸素との反応性が高いとの観点から、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、及び1-オクタデセン等のα-オレフィンが好ましい。
また、上記以外の脂肪族不飽和化合物としては、酸素との反応性が高いとの観点から、分子式C20H30Oで表されるビタミンA((2E,4E,6E,8E)-3,7-ジメチル-9-(2,6,6-トリメチルシクロヘキセ-1-イル)ノナ-2,4,6,8-テトラエン-1-オール)等の共役二重結合を有する不飽和脂肪族アルコールが好ましい。
二重結合を有するテルペン類としては、二重結合を有するテルペン系炭化水素が好ましく、酸素との反応性が高いとの観点から、α-ファルネセン(C15H24:3,7,11-トリメチルドデカ-1,3,6,10-テトラエン)及びβ-ファルネセン(C15H24:7,11-ジメチル-3-メチリデンドデカ-1,6,10-トリエン)がより好ましい。
【0092】
<極圧剤>
前記極圧剤としては、リン系極圧剤、カルボン酸の金属塩、及び硫黄系極圧剤が好ましい。
リン系極圧剤としては、例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、及びこれらのアミン塩等が挙げられる。
これらの中でも、極圧性及び摩擦特性の向上の観点から、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、及び2-エチルヘキシルジフェニルホスファイトから選ばれる1種以上が好ましく、トリクレジルホスフェート(TCP)がより好ましい。
カルボン酸の金属塩としては、例えば、炭素数3~60(好ましくは3~30)のカルボン酸の金属塩等が挙げられる。
これらの中でも、炭素数12~30の脂肪酸、及び炭素数3~30のジカルボン酸の金属塩から選ばれる1種以上が好ましい。
また、金属塩を構成する金属としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類等が挙げられる。
極圧剤の含有量は、潤滑性及び安定性の観点から、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.005~3質量%である。
【0093】
<銅不活性化剤>
銅不活性化剤としては、例えば、N-[N,N’-ジアルキル(炭素数3~12のアルキル基)アミノメチル]トリアゾール等が挙げられる。
【0094】
<防錆剤>
防錆剤としては、例えば、金属スルホネート、脂肪族アミン類、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機スルフォン酸金属塩、有機リン酸金属塩、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0095】
<消泡剤>
消泡剤としては、例えば、シリコーン油、及びフッ素化シリコーン油等のシリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0096】
<粘度指数向上剤>
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ジエン水素化共重合体等が挙げられる。
【0097】
[本発明の冷凍機油組成物の物性]
本発明の一態様の冷凍機油組成物は、水分含有量が800質量ppm以下であり、好ましくは700質量ppm以下であり、より好ましくは500質量ppm以下であり、更に好ましくは300質量ppm以下(好ましくは300質量ppm未満)であり、より更に好ましくは200質量ppm以下であり、更になお好ましくは100質量ppm以下である。
本発明の冷凍機油組成物は、水分含有量が十分に低い場合であっても、優れた酸価上昇抑制効果が奏されるため、酸価上昇を抑える上で一定量以上の水分を含有する必要がない。
【0098】
[冷媒]
本発明の冷凍機油組成物は、冷媒と混合し、冷媒混合冷凍機油組成物として使用される。
冷媒としては、フッ化炭化水素冷媒、並びに、自然系冷媒であるハイドロカーボン(HC)系冷媒、二酸化炭素、及びアンモニアからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
冷媒混合冷凍機油組成物中、冷媒及び冷凍機油組成物の使用量は、冷凍機油組成物/冷媒の質量比で好ましくは1/99以上90/10以下、より好ましくは5/95以上70/30以下である。冷凍機油組成物/冷媒の質量比を該範囲内とすると、潤滑性及び冷凍機における好適な冷凍能力を得ることができる。
【0099】
<フッ化炭化水素冷媒>
フッ化炭化水素冷媒としては、飽和フッ化炭化水素化合物(HFC)や不飽和フッ化炭化水素化合物(HFO)が挙げられる。
ここで、不飽和フッ化炭化水素化合物は高温での熱安定性が低いため、冷媒として使用した場合、フッ化水素(HF)等の酸性物質が発生し、酸価が上昇しやすいという欠点があるが、本発明の冷凍機油組成物を用いることで、酸価が上昇しやすいという不飽和フッ化炭化水素化合物の欠点を解消し、不飽和フッ化炭化水素化合物を冷媒として用いた冷凍システム等の安定性を確保することができる。
したがって、本発明の一態様の冷凍機油組成物において、冷媒は、不飽和フッ化炭化水素化合物(HFO)を含む冷媒であることが好ましく、不飽和フッ化炭化水素化合物(HFO)のみからなる冷媒であることがより好ましい。
【0100】
不飽和フッ化炭化水素化合物としては、直鎖状又は分岐状の炭素数2以上6以下の鎖状オレフィンや炭素数4以上6以下の環状オレフィンのフッ素化物等、炭素-炭素二重結合を有するものが挙げられる。
より具体的には、1個以上3個以下のフッ素原子が導入されたエチレン、1個以上5個以下のフッ素原子が導入されたプロペン、1個以上7個以下のフッ素原子が導入されたブテン、1個以上9個以下のフッ素原子が導入されたペンテン、1個以上11個以下のフッ素原子が導入されたヘキセン、1個以上5個以下のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1個以上7個以下のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1個以上9個以下のフッ素原子が導入されたシクロヘキセン等が挙げられる。
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、好ましくはプロペンのフッ化物、より好ましくは3個以上5個以下のフッ素原子が導入されたプロペン、更に好ましくは4個のフッ素原子が導入されたプロペンである。例えば、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ze)、及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)が好ましい化合物として挙げられる。
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいし、不飽和フッ化炭化水素化合物以外の冷媒と組み合わせて使用してもよい。ここで、不飽和フッ化炭化水素化合物以外の冷媒と組み合わせて用いる場合の例として、飽和フッ化炭化水素化合物と不飽和フッ化炭化水素化合物の混合冷媒が挙げられる。該混合冷媒としては、R32とR1234yfの混合冷媒や、R32とR1234zeとR152aの混合冷媒(AC5、混合比は13.23:76.20:9.96)等が挙げられる。
【0101】
飽和フッ化炭化水素化合物としては、好ましくは炭素数1以上4以下のアルカンのフッ化物、より好ましくは炭素数1以上3以下のアルカンのフッ化物、更に好ましくは炭素数1又は2のアルカン(メタン又はエタン)のフッ化物である。該メタン又はエタンのフッ化物としては、例えば、トリフルオロメタン(R23)、ジフルオロメタン(R32)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1,2-トリフルオロエタン(R143)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(R125)が挙げられ、これらの中ではジフルオロメタン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタンが好ましい。
これらの飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。ここで、2種以上組み合わせて用いる場合の例として、炭素数1以上3以下の飽和フッ化炭化水素化合物を2種以上混合した混合冷媒や、炭素数1以上2以下の飽和フッ化炭化水素化合物を2種以上混合した混合冷媒が挙げられる。
該混合冷媒としては、例えば、R32とR125の混合物(R410A)、R125とR143aとR134aの混合物(R404A)、R32とR125とR134aの混合物(R407A、R407C、R407E等)、R125とR143aの混合物(R507A)が挙げられる。
【0102】
<自然系冷媒>
自然系冷媒としては、ハイドロカーボン(HC)系冷媒、二酸化炭素(CO2)、及びアンモニアからなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくはハイドロカーボン(HC)系冷媒である。これらの1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいし、自然系冷媒以外の冷媒と組み合わせてもよい。ここで、自然系冷媒以外の冷媒と組み合わせて用いる場合の例としては、飽和フッ化炭化水素化合物及び/又は不飽和フッ化炭化水素化合物との混合冷媒が挙げられる。具体的な混合冷媒としては、二酸化炭素とR1234zeとR134aの混合冷媒(AC6、配合比は5.15:79.02:15.41)等が挙げられる。
【0103】
ハイドロカーボン(HC)系冷媒としては、好ましくは炭素数1以上8以下の炭化水素、より好ましくは炭素数1以上5以下の炭化水素、更に好ましくは炭素数3以上5以下の炭化水素である。炭素数が8以下であると、冷媒の沸点が高くなり過ぎず冷媒として好ましい。該ハイドロカーボン系冷媒としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、プロピレン、n-ブタン、イソブタン(R600a)、2-メチルブタン、n-ペンタン、イソペンタン、シクロペンタンイソブタン、及びノルマルブタンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、これらの1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該ハイドロカーボン系冷媒としては、前述の炭化水素だけで使用してもよく、前述のとおり、R134a等のフッ化炭化水素冷媒、及び二酸化炭素等のハイドロカーボン系冷媒以外の冷媒と混合した混合冷媒としても用いることができる。
【0104】
[冷凍機]
本発明の冷凍機油組成物は、冷媒とともに、冷凍機内部に充填して使用される。ここで、冷凍機とは、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁等)、及び蒸発器、又は圧縮機、凝縮器、膨張機構、乾燥器、及び蒸発器を必須とする構成からなる冷凍サイクルを有する。本発明の冷凍機油組成物は、例えば、圧縮機等に設けられる摺動部分を潤滑するために使用されるものである。
したがって、本発明は、冷凍機内部の潤滑部分に、本発明の冷凍機油組成物を使用する潤滑方法も提供する。
また、本発明の冷凍機油組成物は、例えば、空調機、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、冷凍システム、給湯システム、又は暖房システムに用いることができる。
なお、空調機としては、開放型カーエアコン及び電動カーエアコン等のカーエアコン;ガスヒートポンプ(GHP)エアコン;等が挙げられる。
【実施例】
【0105】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0106】
実施例及び比較例の冷凍機油組成物の調製に用いた各成分の種類を以下に示す。
(1)基油
40℃動粘度72.0mm2/sのポリビニルエーテル類(PVE)及び40℃動粘度47.0mm2/sのポリアルキレングリコール類(PAG)のいずれかを基油として使用した。
なお、40℃動粘度の測定はJIS K2283:2000に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
【0107】
(2)酸化防止剤
2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)を使用した。
【0108】
(3)極圧剤
・トリクレジルホスフェート(TCP)を使用した。
【0109】
(4)安定化剤
以下のいずれかの化合物を使用した。
・β-ピネン
・1-ヘキサデセン
・2-エチルヘキシルグリシジルエーテル
・アリルグリシジルエーテル
・1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン
・α-ピネンオキシド
【0110】
(5)冷媒
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)を単独で、又はジフルオロメタン(R32)と組み合わせて使用した。
【0111】
[実施例1~13及び比較例1~4]
表1及び表2に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、表1及び表2に示す組成の冷媒と混合した後、以下に示す方法により、冷凍機油組成物と冷媒との混合物に対してオートクレーブ試験を実施した。オートクレーブ試験後の冷凍機油組成物と冷媒との混合物の酸価を表1及び表2に示す。
なお、表1及び表2中の数値の単位は「質量%」である。
【0112】
<オートクレーブ試験>
オートクレーブ容器(容積:200ml)に、触媒としてFe、Cu、及びAlを入れ、更に実施例1~13及び比較例1~4の冷凍機油組成物30gと冷媒30gとの混合物をそれぞれ充填するとともに、水分500質量ppm及び空気25mlを充填し、175℃で14日間保持した後、酸価(mgKOH/g)の評価を行った。
酸価は、JIS K2501に準じ、指示薬光度滴定法(左記JIS規格における付属書1参照)により測定した。
そして、試験後酸価が0.8mgKOH/g以下の場合は、酸価上昇抑制効果ありと判断した。
【0113】
【0114】
【0115】
表1及び表2より、以下のことがわかる。
表1の実施例1~11及び13より、オレフィン骨格を有する脂肪族エポキシ化合物であるアリルグリシジルエーテルや、オレフィン骨格を有する脂環式エポキシ化合物である1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサンを用いることで、酸価上昇が抑制されることがわかる。
また、表1の実施例12より、テルペン骨格を有する脂環式エポキシ化合物であるα-ピネンオキシドを用いることでも、酸価上昇が抑制されることがわかる。
以上のことから、オレフィン骨格を有するエポキシ化合物(X1)及びテルペン骨格を有するエポキシ化合物(X2)のいずれを用いても、酸価上昇が抑制されることがわかる。
一方で、表2の比較例1~4より、安定化剤を用いない場合や、テルペン系化合物であるβ-ピネン、オレフィン系化合物である1-ヘキサデセン、又は、オレフィン骨格もテルペン骨格も有しないエポキシ化合物である2-エチルヘキシルグリシジルエーテルを用いた場合には、酸価が大きく上昇することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の冷凍機油組成物は、例えば、不飽和フッ化炭化水素化合物、飽和フッ化炭化水素化合物、ハイドロカーボン、二酸化炭素、及びアンモニアから選ばれる1種以上の冷媒を用いた冷凍機に好適に使用される。