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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】溶接装置および溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20220419BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20220419BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20220419BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20220419BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/067
B23K26/064 Z
B23K26/00 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017080491
(22)【出願日】2017-04-14
(65)【公開番号】P2018176229
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-209925(JP,A)
【文献】特開2011-224655(JP,A)
【文献】特開平08-257773(JP,A)
【文献】特開2017-030010(JP,A)
【文献】特開2012-130946(JP,A)
【文献】特開昭62-144888(JP,A)
【文献】特開2001-047272(JP,A)
【文献】特開2007-229773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属板と第2金属板とを突き合せた突合せ部にレーザ光を照射して当該突合せ部を溶融させる溶接装置であって、
前記第1金属板および前記第2金属板を含む加工対象に照射するためのレーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器と前記加工対象との間に配置され、前記第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、前記第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、前記第1ピークおよび前記第2ピークの照射位置よりも前記レーザ光の掃引方向後方であって、前記第1金属板と前記第2金属板との突合せ面上に照射するための第3ピークと、を有するプロファイルを形成する回折光学素子と、を備え、
前記第1金属板の厚さが前記第2金属板の厚さよりも厚い場合、前記第1ピークにおけるパワー密度は、前記第2ピークにおけるパワー密度よりも高く、
前記第3ピークにおけるパワー密度は、前記第1ピークおよび前記第2ピークにおけるパワー密度よりも高く、
前記第1ピークで溶融された溶融池と前記第2ピークで溶融された溶融池とが少なくとも一部で繋がり、前記第3ピークが当該繋がった溶融池に照射される、
ことを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記第3ピークは、前記第1ピークおよび前記第2ピークの少なくともいずれか一方と重なる、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
第1金属板と第2金属板とを突き合せた突合せ部にレーザ光を照射して当該突合せ部を溶融させる溶接方法であって、
前記レーザ光のプロファイルは、前記第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、前記第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、前記第1ピークおよび前記第2ピークの照射位置よりも前記レーザ光の掃引方向後方であって、前記第1金属板と前記第2金属板との突合せ面上に照射するための第3ピークと、を有し、
前記第1ピークで溶融された溶融池と前記第2ピークで溶融された溶融池とが少なくとも一部で繋がった溶融池上に前記第3ピークを照射し、
前記第1金属板の厚さが前記第2金属板の厚さよりも厚い場合、前記第1ピークにおけるパワー密度は、前記第2ピークにおけるパワー密度よりも高
前記第3ピークにおけるパワー密度は、前記第1ピークおよび前記第2ピークにおけるパワー密度よりも高い、
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
前記レーザ光のプロファイルは、レーザ発振器と加工対象との間に配置された回折光学素子によって形成される、
ことを特徴とする請求項に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記第3ピークは、前記第1ピークおよび前記第2ピークの少なくともいずれか一方と重なる、
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置および溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を溶接する手法の一つとして、レーザ溶接が知られている。レーザ溶接とは、レーザ光を加工対象の溶接部分に照射し、レーザ光のエネルギーで溶接部分を溶融させる溶接方法である。レーザ光が照射された溶接部分には、溶融池と呼ばれる溶融した金属材料の液溜りが形成され、その後、溶融池の金属材料が固まることによって溶接が行われる。
【0003】
レーザ溶接の利用例として、突合せ溶接がある。突合せ溶接では、金属板をつき合わせて、その突合せ面を溶接するものである。このとき、突合せ溶接における金属板は、独立した2枚の金属板であることも、円筒状に成形された1枚の金属板の両端であることもある(例えば特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-115852号公報
【文献】特開2012-187590号公報
【文献】特開2011-224655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、突合せ溶接では、溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響することがある。段差の原因には、金属板の厚さ自体が異なる場合もあれば、治具の精度によって段差が生じてしまうこともある。これら要因によって生じた段差が存在していると、照射したレーザ光による金属板の溶融が適切に裏面まで進行せず、加工速度や裏面のビード形状などの溶接結果に影響を与えることになる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することができる溶接装置および溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る溶接装置は、第1金属板と第2金属板とを突き合せた突合せ部にレーザ光を照射して当該突合せ部を溶融させる溶接装置であって、前記第1金属板および前記第2金属板を含む加工対象に照射するためのレーザ光を発振するレーザ発振器と、前記レーザ発振器と前記加工対象との間に配置され、前記第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、前記第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、前記第1ピークおよび前記第2ピークの照射位置よりも前記レーザ光の掃引方向後方であって、前記第1金属板と前記第2金属板との突合せ面上に照射するための第3ピークと、を有するプロファイルを形成する回折光学素子と、を備える、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る溶接装置は、前記第1ピークで溶融された溶融池と前記第2ピークで溶融された溶融池とが少なくとも一部で繋がり、前記第3ピークが当該繋がった溶融池に照射される、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る溶接装置は、前記第1金属板の厚さが前記第2金属板の厚さよりも厚い場合、前記第1金属板に照射されるレーザ光のエネルギーは、前記第2金属板に照射されるレーザ光のエネルギーよりも大きいまたは等しい、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る溶接装置は、前記第1金属板の厚さが前記第2金属板の厚さよりも厚い場合、前記第1ピークにおけるパワー密度は、前記第2ピークにおけるパワー密度よりも高いまたは等しい、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る溶接装置は、前記第3ピークにおけるパワー密度は、前記第1ピークおよび前記第2ピークにおけるパワー密度よりも高いまたは等しい、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る溶接方法は、第1金属板と第2金属板とを突き合せた突合せ部にレーザ光を照射して当該突合せ部を溶融させる溶接方法であって、前記レーザ光のプロファイルは、前記第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、前記第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、前記第1ピークおよび前記第2ピークの照射位置よりも前記レーザ光の掃引方向後方であって、前記第1金属板と前記第2金属板との突合せ面上に照射するための第3ピークと、を有し、前記第1ピークで溶融された溶融池と前記第2ピークで溶融された溶融池とが少なくとも一部で繋がった溶融池上に前記第3ピークを照射する、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る溶接方法は、前記第1金属板の厚さが前記第2金属板の厚さよりも厚い場合、前記第1金属板に照射されるレーザ光のエネルギーは、前記第2金属板に照射されるレーザ光のエネルギーよりも大きいまたは等しい、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る溶接方法は、前記第1金属板の厚さが前記第2金属板の厚さよりも厚い場合、前記第1ピークにおけるパワー密度は、前記第2ピークにおけるパワー密度よりも高いまたは等しい、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る溶接方法は、前記第3ピークにおけるパワー密度は、前記第1ピークおよび前記第2ピークにおけるパワー密度よりも高いまたは等しい、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光のプロファイルは、レーザ発振器と加工対象との間に配置された回折光学素子によって形成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る溶接装置および溶接方法は、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第1実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、レーザ光のプロファイルの例を示す図である。
図3図3は、レーザ光のプロファイルの例を示す図である。
図4図4は、レーザ光のプロファイルの例を示す図である。
図5図5は、レーザ光のプロファイルの例を示す図である。
図6図6は、第2実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図7図7は、第3実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る溶接装置および溶接方法を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、第1実施形態に係る溶接装置100は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例であり、ここでの加工対象Wは、第1金属板と第2金属板とを突き合せた突合せ部を想定している。図1に示すように、溶接装置100は、レーザ光を発振するレーザ発振器110と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド120と、レーザ発振器110で発振されたレーザ光を光学ヘッド120へ導く光ファイバ130とを備えている。
【0021】
レーザ発振器110は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、レーザ発振器110は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
【0022】
光学ヘッド120は、レーザ発振器110から導かれたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド120は、内部にコリメートレンズ121と集光レンズ122とを備えている。コリメートレンズ121は、光ファイバ130によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ122は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0023】
光学ヘッド120は、加工対象Wにおけるレーザ光Lの照射位置を掃引させるために、加工対象Wとの相対位置を移動可能に設けられている。加工対象Wとの相対位置を移動する方法としては、光学ヘッド120自身を移動することや、加工対象Wを移動することなどが含まれる。
【0024】
第1実施形態に係る光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間に回折光学素子123を備えている。回折光学素子123は、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、第1金属板と第2金属板との突合せ面上に照射するための第3ピークとを有するプロファイルを形成するためのものである。なお、レーザ光Lのエネルギーは、第1ピークで溶融された溶融池と第2ピークで溶融された溶融池とが少なくとも一部で繋がる大きさである。また、回折光学素子123は、回転可能に設ける構成とすることができる。また、交換可能に設ける構成とすることもできる。
【0025】
加工対象W上としての第1金属板と第2金属板とを突き合せた突合せ部に照射するレーザ光のプロファイルが、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、第1金属板と第2金属板との突合せ面上に照射するための第3ピークとを有することの作用を、図2から図5を参照しながら以下で説明する。図2から図5は、レーザ光のプロファイルの例を示す図である。
【0026】
図2は、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークとを有し、さらに、第1金属板と第2金属板との突合せ面上に照射される第3ピークを有するプロファイルのレーザ光の照射の例を示す模式図であり、図2(a)および図2(b)は、それぞれ上面および断面を示している。なお、図2(a)において、レーザ光の掃引方向が図中矢印にて記されている。
【0027】
図2(a)に示すように、レーザ光の第1ピークP1は第1金属板W1に照射され、第1金属板W1に第1溶融池WP1を形成する。一方、レーザ光の第2ピークP2は第2金属板W2に照射され、第2金属板W2に第2溶融池WP2を形成する。そして、第1ピークP1で溶融された第1溶融池WP1と第2ピークP2で溶融された第2溶融池WP2とが、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ部にて繋がっている。
【0028】
図2(a)に示すように、レーザ光の第3ピークP3は、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ面上に照射される。このレーザ光の第3ピークP3の作用は、第1ピークP1と第2ピークP2とで溶融された溶融池の深さを確保し、第1金属板W1および第2金属板W2の厚さ方向に関する溶接を確実なものとすることである。したがって、第3ピークP3の照射位置は、第1ピークP1と第2ピークP2とで溶融されて繋がった溶融池であることが好ましい。また、溶融池の深さを確保するために、第3ピークP3におけるパワー密度は、第1ピークP1および第2ピークP2におけるパワー密度よりも高いまたは等しいことが好ましい。さらに、第1ピークP1と第2ピークP2とで溶融された溶融池が形成される位置を考えれば、第3ピークP3の照射位置は、第1ピークP1および第2ピークP2の照射位置よりもレーザ光の掃引方向後方であることが好ましい。
【0029】
図2(a)に示すように、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ面上に照射される第3ピークP3を有する場合、第3ピークP3が独立しているので、第1ピークP1と第2ピークP2とで溶融された溶融池の領域を広く確保しながらも、第3ピークP3におけるパワー密度を高くすることが可能である。したがって、単一のピークを有するレーザ光のビーム径を大きくして(デフォーカスして)突合せ面における段差の影響を抑制する溶接方法と比較すると、第3ピークP3による溶融の効率および速度は高い状態を維持することが可能であり、レーザ溶接のエネルギー効率および加工速度を向上させることが可能である。
【0030】
図2(b)に示すように、この例では、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚いために段差がある場合を想定している。このとき、レーザ光の第1ピークP1と第2ピークP2とが同一の焦点距離であれば、第1ピークP1が第1金属板W1の表面に合焦しても、第2ピークP2が第2金属板W2の表面に合焦しない(デフォーカスする)。この場合、第1ピークP1におけるパワー密度は、第2ピークP2におけるパワー密度よりも高いことになる。結果、第1ピークP1の方が、第2ピークP2よりも、溶融池の深さ(板の厚さ方向)がより深くなる。すなわち、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚いことの不具合を相殺する方向に溶融の進み方が修正され、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することが可能になる。
【0031】
なお、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚い場合において、第1金属板W1に照射されるレーザ光のエネルギーを、第2金属板W2に照射されるレーザ光のエネルギーよりも大きくすることでも、上記同様の作用により、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚いことの不具合を相殺する方向に溶融の進み方が修正され、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することが可能になる。
【0032】
図3は、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークとを有し、さらに、第1金属板と第2金属板との突合せ面上に照射される第3ピークを有するプロファイルのレーザ光の照射のその他の例を示す模式図であり、図3(a)および図3(b)は、それぞれ上面および断面を示している。なお、図3(a)において、レーザ光の掃引方向が図中矢印にて記されている。
【0033】
図3(a)に示すように、レーザ光の第1ピークは、第1ピークP11と第1ピークP12とに分かれており、それらが第1金属板W1に照射され、第1金属板W1に第1溶融池WP1を形成する。一方、レーザ光の第2ピークは、第2ピークP21と第2ピークP22とに分かれており、そして、第1ピークP11と第1ピークP12とで溶融された第1溶融池WP1と、第2ピークP21と第2ピークP22で溶融された第2溶融池WP2とが、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ部にて繋がっている。
【0034】
図3(a)に示すように、レーザ光の第3ピークP3は、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ面上に照射される。このレーザ光の第3ピークP3の作用は、第1ピークP11,P12と第2ピークP21,P22とで溶融された溶融池の深さを確保し、第1金属板W1および第2金属板W2の厚さ方向に関する溶接を確実なものとすることである。したがって、第3ピークP3の照射位置は、第1ピークP11,P12と第2ピークP21,P22とで溶融されて繋がった溶融池であることが好ましい。また、溶融池の深さを確保するために、第3ピークP3におけるパワー密度は、第1ピークP11,P12および第2ピークP21,P22におけるパワー密度よりも高いまたは等しいことが好ましい。さらに、第1ピークP11,P12と第2ピークP21,P22とで溶融された溶融池が形成される位置を考えれば、第3ピークP3の照射位置は、第1ピークP11,P12および第2ピークP21,P22の照射位置よりもレーザ光の掃引方向後方であることが好ましい。
【0035】
本例も上記例と同様に、単一のピークを有するレーザ光のビーム径を大きくして(デフォーカスして)突合せ面における段差の影響を抑制する溶接方法と比較すると、第3ピークP3による溶融の効率および速度は高い状態を維持することが可能であり、レーザ溶接のエネルギー効率および加工速度を向上させることが可能である。
【0036】
図3(b)に示すように、この例でも、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚いために段差がある場合を想定している。この場合も、上記同様の作用により、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚いことの不具合を相殺する方向に溶融の進み方が修正され、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することが可能になる。さらに、第1ピークが第1ピークP11と第1ピークP12とに分かれており、第2ピークが第2ピークP21と第2ピークP22とに分かれているので、照射位置が、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ部から多少ずれたとしても、その影響を受けることが少ないというメリットがある。なお、ここでの例示は2つのピークに分離するものであるが、任意の複数のピークに分離する構成を採用することが可能である。
【0037】
図4は、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークとを有し、さらに、第1金属板と第2金属板との突合せ面上に照射される第3ピークを有するプロファイルのレーザ光の照射のその他の例を示す模式図であり、図4(a)および図4(b)は、それぞれ上面および断面を示している。なお、図4(a)において、レーザ光の掃引方向が図中矢印にて記されている。
【0038】
図4(a)に示すように、レーザ光の第1ピークは、第1ピークP11と第1ピークP12と第1ピーク13とに分かれており、それらが第1金属板W1に照射され、第1金属板W1に第1溶融池WP1を形成する。一方、レーザ光の第2ピークは、第2ピークP21と第2ピークP22と第2ピークP23とに分かれており、それらが第2金属板W2に照射され、第2金属板W2に第2溶融池WP2を形成する。そして、第1ピークP11と第1ピークP12と第1ピーク13とで溶融された第1溶融池WP1と、第2ピークP21と第2ピークP22と第2ピークP23とで溶融された第2溶融池WP2とが、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ部にて繋がっている。
【0039】
図4(a)に示すように、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ面上に照射される。このレーザ光の第3ピークP3の作用は、第1ピークP11,P12,P13と第2ピークP21,P22,P23とで溶融された溶融池の深さを確保し、第1金属板W1および第2金属板W2の厚さ方向に関する溶接を確実なものとすることである。したがって、第3ピークP3の照射位置は、第1ピークP11,P12,P13と第2ピークP21,P22,P23とで溶融されて繋がった溶融池であることが好ましい、また、溶融池の深さを確保するために、第3ピークP3におけるパワー密度は、第1ピークP11,P12,P13および第2ピークP21,P22,P23におけるパワー密度よりも高いまたは等しいことが好ましい。
【0040】
本例も上記例と同様に、単一のピークを有するレーザ光のビーム径を大きくして(デフォーカスして)突合せ面における段差の影響を抑制する溶接方法と比較すると、第3ピークP3による溶融の効率および速度は高い状態を維持することが可能であり、レーザ溶接のエネルギー効率および加工速度を向上させることが可能である。
【0041】
さらに、図4(a)に示すように、本例では、第1ピークP11と第1ピークP12と第1ピーク13と第2ピークP21と第2ピークP22と第2ピークP23とが回転対称に配置されている。レーザ溶接におけるレーザ光の掃引方向は、必ずしも直線状ではなく、折れ曲がったり曲線状になったりすることがある。図4(a)に示すように、レーザ光のピーク位置が回転対称に配置されていれば、レーザ溶接の途中で掃引方向が変わっても、光学ヘッドの向きを変えることなく対処可能となる。なお、図4(a)に示される掃引方向の場合、第3ピークP3の照射位置は、第1ピークP1および第2ピークP2の照射位置よりもレーザ光の掃引方向後方であるが、レーザ光の掃引方向が変われば、第1ピークP11,P12,13および第2ピークP21,P22,P23のうち適切な第1ピークおよび第2ピークの組み合わせを選択することにより、第3ピークP3の照射位置が第1ピークおよび第2ピークの照射位置よりもレーザ光の掃引方向後方となる。
【0042】
図4(b)に示すように、この例でも、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚い場合を想定し、上記例と同様の作用により、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚いことの不具合を相殺する方向に溶融の進み方が修正され、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することが可能になる。
【0043】
図5は、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークとを有し、さらに、第1金属板と第2金属板との突合せ面上に照射される第3ピークを有するプロファイルの設計例を示す模式図であり、図5(a)および図5(b)は、それぞれ設計上の構成および見かけ上の構成を示している。なお、図5(a)において、レーザ光の掃引方向が図中矢印にて記されている。
【0044】
図5(b)に示すように、円弧状にレーザ光を照射する場合、図5(a)に示すように、複数のレーザ光のピークを連続的に配置することによって、見かけ上のレーザ光の照射領域を円弧状にすることがある。このような場合も、図5(a)に示された複数のレーザ光のピークのうち何れかが、第1金属板W1を溶融するためのパワー密度の第1ピークP1であり、第2金属板W2を溶融するためのパワー密度の第2ピークP2であり、しかも、第1ピークP1で溶融された第1溶融池WP1と第2ピークP2で溶融された第2溶融池WP2とが繋がっている。
【0045】
したがって、この例でも、上記同様の作用により、第1金属板W1の厚さが第2金属板W2の厚さよりも厚いことの不具合を相殺する方向に溶融の進み方が修正され、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することが可能になる。
【0046】
さらに、本例では、図5(a)に示すように、レーザ光の第3ピークP3は、第1金属板W1と第2金属板W2との突合せ面上に照射される。したがって、上記例と同様に、単一のピークを有するレーザ光のビーム径を大きくして(デフォーカスして)突合せ面における段差の影響を抑制する溶接方法と比較すると、第3ピークP3による溶融の効率および速度は高い状態を維持することが可能であり、レーザ溶接のエネルギー効率および加工速度を向上させることが可能である。
【0047】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。図6に示すように、第2実施形態に係る溶接装置200は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例であり、ここでの加工対象Wは、第1金属板と第2金属板とを突き合せた突合せ部を想定している。第2実施形態に係る溶接装置200は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置200の装置構成の説明のみを行う。
【0048】
図6に示すように、溶接装置200は、レーザ光を発振するレーザ発振器210と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド220と、レーザ発振器210で発振されたレーザ光を光学ヘッド220へ導く光ファイバ230とを備えている。
【0049】
レーザ発振器210は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、レーザ発振器210は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
【0050】
光学ヘッド220は、レーザ発振器210から導かれたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド220は、内部にコリメートレンズ221と集光レンズ222とを備えている。コリメートレンズ221は、光ファイバ230によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ222は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0051】
光学ヘッド220は、集光レンズ222と加工対象Wとの間に、ガルバノスキャナを有している。ガルバノスキャナとは、2枚のミラー224a,224bの角度を制御することで、光学ヘッド220を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を掃引させることができる装置である。図6に示される例では、集光レンズ222から出射したレーザ光Lをガルバノスキャナへ導くためにミラー226を備えている。また、ガルバノスキャナのミラー224a,224bは、それぞれモータ225a,225bによって角度が変更される。
【0052】
第2実施形態に係る光学ヘッド220は、コリメートレンズ221と集光レンズ222との間に回折光学素子223を備えている。回折光学素子223は、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、を有するプロファイルを形成するためのものである。なお、レーザ光Lのエネルギーは、第1ピークで溶融された溶融池と第2ピークで溶融された溶融池とが少なくとも一部で繋がる大きさである。つまり、回折光学素子223は、図2から図5に例示されるような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように設計されている。また、回折光学素子223は、回転可能に設ける構成とすることができる。また、交換可能に設ける構成とすることもできる。
【0053】
第2実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、を有するプロファイルのレーザ光を用いることにより、第1金属板の厚さが第2金属板の厚さよりも厚いことの不具合を相殺する方向に溶融の進み方が修正され、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することが可能になる。さらに、第1金属板と第2金属板との突合せ面上に照射される第3ピークを有する場合、単一のピークを有するレーザ光のビーム径を大きくして(デフォーカスして)突合せ面における段差の影響を抑制する溶接方法と比較すると、第3ピークによる溶融の効率および速度は高い状態を維持することが可能であり、レーザ溶接のエネルギー効率および加工速度を向上させることが可能である。
【0054】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。図7に示すように、第3実施形態に係る溶接装置300は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例であり、ここでの加工対象Wは、第1金属板と第2金属板とを突き合せた突合せ部を想定している。第3実施形態に係る溶接装置300は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものであり、光学ヘッド320以外の構成(レーザ発振器310および光ファイバ330)は、第2実施形態と同様である。したがって、以下では、光学ヘッド320の装置構成の説明のみを行う。
【0055】
光学ヘッド320は、レーザ発振器310から導かれたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド320は、内部にコリメートレンズ321と集光レンズ322とを備えている。コリメートレンズ321は、光ファイバ330によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ322は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0056】
光学ヘッド320は、コリメートレンズ321と集光レンズ322との間に、ガルバノスキャナを有している。ガルバノスキャナのミラー324a,324bは、それぞれモータ325a,325bによって角度が変更される。光学ヘッド320では、第2実施形態と異なる位置にガルバノスキャナを設けているが、同様に、2枚のミラー324a,324bの角度を制御することで、光学ヘッド320を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を掃引させることができる。
【0057】
第3実施形態に係る光学ヘッド320は、コリメートレンズ321と集光レンズ322との間に回折光学素子323を備えている。回折光学素子323は、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、を有するプロファイルを形成するためのものである。なお、レーザ光Lのエネルギーは、第1ピークで溶融された溶融池と第2ピークで溶融された溶融池とが少なくとも一部で繋がる大きさである。つまり、回折光学素子323は、図2から図5に例示されるような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように設計されている。また、回折光学素子323は、回転可能に設ける構成とすることができる。また、交換可能に設ける構成とすることもできる。
【0058】
第3実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、第1金属板を溶融するためのパワー密度の第1ピークと、第2金属板を溶融するためのパワー密度の第2ピークと、を有するプロファイルのレーザ光を用いることにより、第1金属板の厚さが第2金属板の厚さよりも厚いことの不具合を相殺する方向に溶融の進み方が修正され、突合せ溶接する金属板間における段差が溶接結果に影響するのを抑制することが可能になる。さらに、第1金属板と第2金属板との突合せ面上に照射される第3ピークを有する場合、単一のピークを有するレーザ光のビーム径を大きくして(デフォーカスして)突合せ面における段差の影響を抑制する溶接方法と比較すると、第3ピークによる溶融の効率および速度は高い状態を維持することが可能であり、レーザ溶接のエネルギー効率および加工速度を向上させることが可能である。
【0059】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明の範疇に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
100,200,300 溶接装置
110,210,310 レーザ発振器
120,220,320 光学ヘッド
121,221,321 コリメートレンズ
122,222,322 集光レンズ
123,223,323 回折光学素子
224a,224b,226,324a,324b ミラー
225a,225b,325a,325b モータ
130,230,330 光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7