(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】正極活物質、リチウムイオン二次電池および正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220419BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220419BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220419BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20220419BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 A
H01M4/505
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2017088476
(22)【出願日】2017-04-27
【審査請求日】2019-09-06
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆太
(72)【発明者】
【氏名】金田 理史
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
【合議体】
【審判長】清水 稔
【審判官】井上 信一
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-131415(JP,A)
【文献】特開2001-266879(JP,A)
【文献】特開2017-103058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次粒子
を含み、
前記二次粒子は、複数の一次粒子を含み、
前記一次粒子は、リチウム含有複合金属酸化物であり、
前記二次粒子の内部において、前記一次粒子同士の粒界の少なくとも一部に、電子伝導性酸化物が配置されており、
前記電子伝導性酸化物は、ペロブスカイト構造を有し、かつ下記式(I):
ACo
x1M
x2O
3 …(I)
[ただし式中、
Aは、LaおよびSrの少なくとも一方であり、
Mは、MnおよびNiの少なくとも一方であり、
x1、x2は、0<x1≦1、0≦x2≦1、0.6≦x1+x2≦1を満たす。]
によって表される、
正極活物質。
【請求項2】
上記式(I)において、x2が0.2≦x2≦0.95を満たす、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
少なくとも正極、負極および電解液
を含み、
前記正極は、請求項1または請求項2に記載の前記正極活物質を含む、
リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
共沈法により、前駆体を調製すること、
前記前駆体とリチウム化合物とを混合することにより、混合物を調製すること、
前記混合物を加熱することにより、焼結物を調製すること、および
前記焼結物を解砕することにより、正極活物質を製造すること、
を含み、
前記前駆体は、二次粒子を含み、
前記二次粒子は、複数の一次粒子を含み、
前記一次粒子は、複合金属水酸化物であり、
前記混合物が加熱されることにより、前記一次粒子がリチウム含有複合金属酸化物になり、かつ前記一次粒子同士の粒界の少なくとも一部に、電子伝導性酸化物が析出し、
前記電子伝導性酸化物は、ペロブスカイト構造を有し、かつ下記式(I):
ACo
x1M
x2O
3 …(I)
[ただし式中、
Aは、LaおよびSrの少なくとも一方であり、
Mは、MnおよびNiの少なくとも一方であり、
x1、x2は、0<x1≦1、0≦x2≦1、0.6≦x1+x2≦1を満たす。]
によって表される、
正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質、リチウムイオン二次電池および正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2001-266879号公報(特許文献1)は、ペロブスカイト構造を有する電子伝導性酸化物によって、正極活物質の表面を被覆することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、リチウムイオン二次電池の正極活物質は、複数の一次粒子が集合した二次粒子である。特許文献1では、二次粒子の表面に電子伝導性酸化物が配置されている。この構成によれば、二次粒子同士間の電子伝導性の向上が期待される。しかし二次粒子の内部、すなわち一次粒子同士間の電子伝導性には改善の余地が残されている。
【0005】
本開示の目的は、電池抵抗の低減にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし、本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により、特許請求の範囲が限定されるべきではない。
【0007】
[1]正極活物質は、二次粒子を含む。二次粒子は、複数の一次粒子を含む。一次粒子は、リチウム含有複合金属酸化物である。二次粒子の内部において、一次粒子同士の粒界の少なくとも一部に、電子伝導性酸化物が配置されている。電子伝導性酸化物は、ペロブスカイト構造を有し、かつ下記式(I):
ACox1Mx2O3 …(I)
[ただし式中、
Aは、LaおよびSrの少なくとも一方である。
Mは、MnおよびNiの少なくとも一方である。
x1、x2は、0<x1≦1、0≦x2≦1、0.6≦x1+x2≦1を満たす。]
によって表される。
【0008】
上記の正極活物質では、二次粒子の内部において、一次粒子同士の緻密な粒界に電子伝導性酸化物が配置されている。そのため一次粒子同士間の電子伝導性の向上が期待される。
【0009】
さらにペロブスカイト構造(一般式:ABO3)を有する電子伝導性酸化物は、BサイトにCo(コバルト)を含む。これにより電子伝導性酸化物と一次粒子との界面において、不活性相の形成が抑制され得る。不活性相は、たとえば、電子伝導性酸化物の生成過程、電池内での充放電過程等で生成されると考えられる。不活性相は電子伝導性が低いと考えられる。したがって不活性相の形成が抑制されることにより、一次粒子同士間の電子伝導性の向上が期待される。
以上の作用の相乗により、電池抵抗の低減が期待される。
【0010】
[2]上記式(I)において、x2が0.2≦x2≦0.95を満たしてもよい。
電子伝導性酸化物がBサイトにMn(マンガン)およびNi(ニッケル)の少なくとも一方を特定の比率で含むことにより、結晶構造の安定化が期待される。結晶構造の安定化により、酸素ラジカルの放出が抑制され得る。これにより電解液の酸化分解、すなわちガス発生の抑制が期待される。したがって電子伝導性の向上効果と、ガス発生の抑制効果との両立が期待される。
【0011】
[3]リチウムイオン二次電池は、少なくとも正極、負極および電解液を含む。正極は、上記[1]または[2]に記載の正極活物質を含む。したがって電池抵抗の低減が期待される。
【0012】
[4]正極活物質の製造方法は、以下の(α)~(δ)を含む。
(α)共沈法により、前駆体を調製する。
(β)前駆体とリチウム化合物とを混合することにより、混合物を調製する。
(γ)混合物を加熱することにより、焼結物を調製する。
(δ)焼結物を解砕することにより、正極活物質を製造する。
前駆体は、二次粒子を含む。二次粒子は、複数の一次粒子を含む。一次粒子は、複合金属水酸化物である。
混合物が加熱されることにより、一次粒子がリチウム含有複合金属酸化物になる。かつ一次粒子同士の粒界の少なくとも一部に、電子伝導性酸化物が析出する。
電子伝導性酸化物は、ペロブスカイト構造を有し、かつ下記式(I):
ACox1Mx2O3 …(I)
[ただし式中、
Aは、LaおよびSrの少なくとも一方である。
Mは、MnおよびNiの少なくとも一方である。
x1、x2は、0<x1≦1、0≦x2≦1、0.6≦x1+x2≦1を満たす。]
によって表される。
【0013】
上記の製造方法では、共沈法により、前駆体が調製される。この前駆体とリチウム化合物との混合物が焼結されることにより、正極活物質が製造される。焼結により、一次粒子が粒成長し、二次粒子が緻密化する。また一次粒子(複合金属水酸化物)がリチウム含有複合金属酸化物になる。
【0014】
上記の製造方法では、前駆体がリチウム含有複合金属酸化物の前駆体であり、かつ電子伝導性酸化物の前駆体でもある。焼結時、一次粒子の粒成長により形成される緻密な粒界に、電子伝導性酸化物が析出すると考えられる。
【0015】
なお、前駆体とリチウム化合物との混合物が焼結された後(すなわち二次粒子が緻密化した後)に、電子伝導性酸化物が添加された場合には、一次粒子同士の粒界に、電子伝導性酸化物が配置されないと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る正極活物質を説明するための断面概念図である。
【
図2】
図2は、二次粒子の内部の一次粒子同士の粒界を説明するための断面概念図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態に係る正極活物質の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、電極群の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と記される)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0018】
本明細書の図面では、説明の便宜上、寸法関係が適宜変更されている。したがって図面に示される寸法関係は、実際の寸法関係を示すものではない。本明細書において、たとえば「AおよびBの少なくとも一方」は、「Aのみ」、「Bのみ」および「AおよびBの両方」を含むものとする。
【0019】
<正極活物質>
図1は、本開示の実施形態に係る正極活物質を説明するための断面概念図である。正極活物質は、二次粒子2を含む。二次粒子2は、複数の一次粒子1を含む。二次粒子2の形状は、特に限定されるべきではない。二次粒子2は、たとえば、球状であってもよいし、塊状であってもよい。二次粒子2は、たとえば、3~30μm(典型的には5~15μm)の平均粒径を有してもよい。「平均粒径」は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において微粒側から累積50%の粒径を示す。二次粒子2は、多孔質であってもよい。すなわち二次粒子2は、開気孔5を有してもよい。「開気孔(オープンポア)」は、二次粒子2の外部に通じている気孔を示す。
【0020】
一次粒子1は、リチウム含有複合金属酸化物である。リチウム含有複合金属酸化物の詳細は後述される。一次粒子1は、たとえば、10nm~3μmの平均粒径を有してもよい。一次粒子1の形状は、特に限定されるべきではない。一次粒子1は、たとえば、球状、塊状、柱状、板状等であってもよい。
【0021】
二次粒子2は、焼結により緻密化している。すなわち一次粒子1が密に詰まっている。
図2は、二次粒子の内部の一次粒子同士の粒界を説明するための断面概念図である。電子伝導性酸化物3は、一次粒子1同士の粒界の少なくとも一部に配置されている。「粒界」とは、互いに隣接する一次粒子1同士の境界を示す。電子伝導性酸化物3は、一次粒子1同士の粒界の一部に配置されていてもよいし、一次粒子1同士の粒界の実質的にすべてに配置されていてもよい。一次粒子1同士の粒界の少なくとも一部に、電子伝導性酸化物3が配置されていることにより、一次粒子1同士間の電子伝導性の向上が期待される。
【0022】
電子伝導性酸化物3は、一次粒子1に複合化されていてもよい。たとえば、電子伝導性酸化物3と一次粒子1との間に、それらが相互に固溶している相が形成されていてもよい。電子伝導性酸化物3の形態は、特に限定されるべきではない。電子伝導性酸化物3は、粒子状であってもよいし、膜状であってもよい。
【0023】
一次粒子1同士間の粒界に電子伝導性酸化物3が配置されている限り、二次粒子2の表面にも電子伝導性酸化物3が配置されていてもよい。二次粒子2の開気孔5にも電子伝導性酸化物3が配置されていてもよい。ただし、二次粒子2の表面および開気孔5に配置された電子伝導性酸化物3は、一次粒子1同士間の電子伝導性の向上には寄与し難いと考えられる。
【0024】
《電子伝導性酸化物》
電子伝導性酸化物3は、ペロブスカイト構造を有する。ペロブスカイト構造は、一般式:ABO3により表される。式中「A」は、ペロブスカイト構造のAサイトに含まれる元素を示す。式中「B」は、ペロブスカイト構造のBサイトに含まれる元素を示す。本実施形態の電子伝導性酸化物3において、Aサイトは、La(ランタン)およびSr(ストロンチウム)の少なくとも一方を含む。BサイトはCoを含む。Bサイトは、MnおよびNiの少なくとも一方を含んでもよい。
【0025】
すなわち電子伝導性酸化物3は、下記式(I):
ACox1Mx2O3 …(I)
[ただし式中、
Aは、LaおよびSrの少なくとも一方である。
Mは、MnおよびNiの少なくとも一方である。
x1、x2は、0<x1≦1、0≦x2≦1、0.6≦x1+x2≦1を満たす。]
によって表される。
【0026】
上記式(I)において、LaおよびSrの合計に対するLaの組成比は、0以上0.5以下であってもよいし、0.5以上1以下であってもよい。換言すれば、LaおよびSrの合計に対するSrの組成比が、0以上0.5以下であってもよいし、0.5以上1以下であってもよい。
【0027】
電子伝導性酸化物3では、酸素の一部が欠損していることにより、電気的中性が得られている場合があり得る。すなわち上記式(I)において、酸素(O)の組成比が3よりも小さいことがあり得る。酸素欠損量は、3mоlの酸素に対して、たとえば、0~1mоl程度であってもよい。
【0028】
上記式(I)では、Bサイトの組成比(x1+x2)が0.6以上1以下である。すなわち、電子伝導性酸化物3では、Bサイトの一部が欠損した状態になることもあり得る。Bサイトの欠損量は、1mоlに対して、0mоl以上0.4mоl以下である。さらに電子伝導性酸化物3では、Aサイトの一部が欠損した状態になることもあり得る。すなわち、上記式(I)中のAの組成比は1よりも小さい場合があり得る。Aサイトの欠損量も、1mоlに対して、たとえば、0mоl以上0.4mоl以下程度であってもよい。
【0029】
上記式(I)に示されるように、電子伝導性酸化物3がBサイトにCoを含むことにより、電子伝導性酸化物3と一次粒子1との界面において、不活性相の形成が抑制され得る。不活性相は、たとえば、電子伝導性酸化物3の生成過程、電池内での充放電過程等で生成されると考えられる。不活性相は電子伝導性が低いと考えられる。したがって不活性相の形成が抑制されることにより、一次粒子1同士間の電子伝導性の向上が期待される。
【0030】
上記式(I)において、Coの組成比(x1)は、たとえば、0.05≦x1≦0.8を満たしてもよいし、0.1≦x1≦0.8を満たしてもよいし、0.2≦x1≦0.8を満たしてもよいし、0.2≦x1≦0.5を満たしてもよいし、0.5≦x1≦0.8を満たしてもよい。
【0031】
Bサイトは、MnおよびNiの少なくとも一方を含み得る。MnおよびNiの少なくとも一方がBサイトに存在することにより、結晶構造の安定化が期待される。結晶構造の安定化により、酸素ラジカルの放出が抑制され得る。これにより電解液の酸化分解、すなわちガス発生の抑制が期待される。
【0032】
上記式(I)において、x2が0.2≦x2≦0.95を満たしてもよい。M(MnおよびNiの少なくとも一方)の組成比(x2)が、0.2≦x2≦0.95を満たすことにより、電子伝導性の向上効果と、ガス発生の抑制効果との両立が期待される。x2は、たとえば、0.2≦x2≦0.8を満たしてもよいし、0.2≦x2≦0.7を満たしてもよいし、0.2≦x2≦0.5を満たしてもよい。x2は、0.5≦x2≦0.8を満たしてもよいし、0.5≦x2≦0.7を満たしてもよい。
【0033】
電子伝導性酸化物3は、たとえば、LaCoO3、LaCo0.05Mn0.95O3、LaCo0.2Mn0.8O3、LaCo0.5Mn0.5O3、LaCo0.8Mn0.2O3、LaCo0.05Ni0.95O3、LaCo0.2Ni0.8O3、LaCo0.5Ni0.5O3、LaCo0.8Ni0.2O3、LaCo1/3Ni1/3Mn1/3O3、LaCo0.05Mn0.6Ni0.35O3、LaCo0.05Mn0.35Ni0.6O3、LaCo0.4Ni0.3Mn0.3O3、LaCo0.3Ni0.4Mn0.3O3、LaCo0.3Ni0.3Mn0.4O3、LaCo0.5Mn0.3Ni0.2O3、LaCo0.3Mn0.5Ni0.2O3、LaCo0.2Mn0.5Ni0.3O3、LaCo0.5Mn0.2Ni0.3O3、LaCo0.3Mn0.5Ni0.2O3、LaCo0.2Mn0.3Ni0.5O3、LaCo0.6Mn0.2Ni0.2O3、LaCo0.2Mn0.6Ni0.2O3、および、LaCo0.2Mn0.2Ni0.6O3からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0034】
電子伝導性酸化物3は、たとえば、SrCoO3、SrCo0.05Mn0.95O3、SrCo0.2Mn0.8O3、SrCo0.5Mn0.5O3、SrCo0.8Mn0.2O3、SrCo0.05Ni0.95O3、SrCo0.2Ni0.8O3、SrCo0.5Ni0.5O3、SrCo0.8Ni0.2O3、SrCo1/3Ni1/3Mn1/3O3、SrCo0.05Mn0.6Ni0.35O3、SrCo0.05Mn0.35Ni0.6O3、SrCo0.4Ni0.3Mn0.3O3、SrCo0.3Ni0.4Mn0.3O3、SrCo0.3Ni0.3Mn0.4O3、SrCo0.5Mn0.3Ni0.2O3、SrCo0.3Mn0.5Ni0.2O3、SrCo0.2Mn0.5Ni0.3O3、SrCo0.5Mn0.2Ni0.3O3、SrCo0.3Mn0.5Ni0.2O3、SrCo0.2Mn0.3Ni0.5O3、SrCo0.6Mn0.2Ni0.2O3、SrCo0.2Mn0.6Ni0.2O3、および、SrCo0.2Mn0.2Ni0.6O3からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0035】
電子伝導性酸化物3は、たとえば、La0.5Sr0.5CoO3、La0.5Sr0.5Co0.05Mn0.95O3、La0.5Sr0.5Co0.2Mn0.8O3、La0.5Sr0.5Co0.5Mn0.5O3、La0.5Sr0.5Co0.8Mn0.2O3、La0.5Sr0.5Co0.05Ni0.95O3、La0.5Sr0.5Co0.2Ni0.8O3、La0.5Sr0.5Co0.5Ni0.5O3、La0.5Sr0.5Co0.8Ni0.2O3、La0.5Sr0.5Co0.05Mn0.6Ni0.35O3、La0.5Sr0.5Co0.05Mn0.35Ni0.6O3、La0.5Sr0.5Co1/3Ni1/3Mn1/3O3、La0.5Sr0.5Co0.4Ni0.3Mn0.3O3、La0.5Sr0.5Co0.3Ni0.4Mn0.3O3、La0.5Sr0.5Co0.3Ni0.3Mn0.4O3、La0.5Sr0.5Co0.5Mn0.3Ni0.2O3、La0.5Sr0.5Co0.3Mn0.5Ni0.2O3、La0.5Sr0.5Co0.2Mn0.5Ni0.3O3、La0.5Sr0.5Co0.5Mn0.2Ni0.3O3、La0.5Sr0.5Co0.3Mn0.5Ni0.2O3、La0.5Sr0.5Co0.2Mn0.3Ni0.5O3、La0.5Sr0.5Co0.6Mn0.2Ni0.2O3、La0.5Sr0.5Co0.2Mn0.6Ni0.2O3、および、La0.5Sr0.5Co0.2Mn0.2Ni0.6O3からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0036】
電子伝導性酸化物3は、たとえば、LaCoO3、LaCo0.05Mn0.95O3、LaCo0.2Mn0.8O3、LaCo0.5Mn0.5O3、LaCo0.8Mn0.2O3、LaCo0.2Ni0.8O3、LaCo0.5Ni0.5O3、LaCo0.8Ni0.2O3、LaCo0.4Ni0.3Mn0.3O3、LaCo0.2Ni0.4Mn0.4O3、SrCo0.5Ni0.5O3、La0.5Sr0.5Co0.5Ni0.5O3、および、La0.7Co0.1Mn0.4Ni0.3O2.55からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0037】
電子伝導性酸化物3の結晶構造は、X線回折(XRD)法、電子線回折法等により特定され得る。電子伝導性酸化物3の組成は、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)法等により測定され得る。たとえば、まず正極活物質(二次粒子2)が所定の樹脂に包埋される。集束イオンビーム(FIB)加工により、二次粒子2の断面サンプルが調製される。走査型透過電子顕微鏡(STEM)-EDX装置により、断面サンプルが分析される。走査型電子顕微鏡(SEM)-EDX装置が使用されてもよい。
【0038】
断面サンプルにおいて、電子伝導性酸化物3の所在が確認される。電子伝導性酸化物3の電子線回折パターンにより、その結晶構造が特定され得る。電子伝導性酸化物3のEDX分析(スポット分析)により、電子伝導性酸化物3の組成が測定され得る。組成は、少なくとも3箇所の測定結果が相加平均されることにより決定され得る。
【0039】
電子伝導性酸化物3は、リチウム含有複合金属酸化物の物質量に対して、たとえば、0.01mоl%以上10mоl%以下の比率を有してもよいし、0.1mоl%以上5mоl%以下の比率を有してもよいし、0.5mоl%以上1mоl%以下の比率を有してもよい。
【0040】
《リチウム含有複合金属酸化物》
一次粒子1は、リチウム含有複合金属酸化物である。「リチウム含有複合金属酸化物」とは、リチウム(Li)と、その他の金属元素との複合酸化物を示す。リチウム含有複合金属酸化物は、各種の結晶構造を有し得る。リチウム含有複合金属酸化物は、たとえば、層状岩塩構造を有してもよいし、スピネル構造を有してもよいし、オリビン構造を有してもよい。
【0041】
リチウム含有複合金属酸化物は、たとえば、LiCoO2、LiCo0.2Mn0.8O2、LiCo0.5Mn0.5O2、LiCo0.8Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.2O2、LiNi0.5Co0.5O2、LiNi0.2Co0.8O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.3Co0.4Mn0.3O2、LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2、LiNi0.3Co0.3Mn0.4O2、LiNi0.2Co0.5Mn0.3O2、LiNi0.2Co0.3Mn0.5O2、LiNi0.3Co0.2Mn0.5O2、LiNi0.3Co0.5Mn0.2O2、LiNi0.2Co0.3Mn0.5O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.2Co0.6Mn0.2O2、LiNi0.2Co0.2Mn0.6O2、および、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0042】
<正極活物質の製造方法>
上記の正極活物質は、以下の製造方法により製造され得る。
図3は、本開示の実施形態に係る正極活物質の製造方法の概略を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法は、「(α)共沈」、「(β)混合」、「(γ)焼結」および「(δ)解砕」を含む。以下、本実施形態の製造方法が順を追って説明される。
【0043】
《(α)共沈》
本実施形態の製造方法は、共沈法により、前駆体を調製することを含む。「共沈法」とは、共沈現象を利用した粉末合成法である。まず、所定のpHを有するアルカリ水溶液が調製される。アルカリ水溶液は、たとえば、水と、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液と、アンモニア水とが所定の配合で混合されることにより調製され得る。アルカリ水溶液は、たとえば、11~14のpHを有するように調製され得る。
【0044】
原料水溶液が調製される。原料水溶液は、リチウム含有複合金属酸化物および電子伝導性酸化物に含まれるべき金属イオンを含む。たとえば、水に、Coの硫酸塩等と、Laの硫酸塩等とが溶解されることにより、原料水溶液が調製され得る。
【0045】
反応槽において、アルカリ水溶液と原料水溶液とが混合される。反応槽内は、たとえば、20~60℃の温度に調整され得る。11~14のpHが保たれるように、NaOH水溶液およびアンモニア水が、混合水溶液に適時追加されてもよい。これにより沈殿物(共沈生成物)が得られる。沈殿物は、複合金属水酸化物である。
【0046】
本実施形態では、複合金属水酸化物が、
(i)LaおよびSrの少なくとも一方と;Coと;を含むか、または
(ii)LaおよびSrの少なくとも一方と;Coと;MnおよびNiの少なくとも一方と;を含む。
【0047】
複合金属水酸化物は、リチウム含有複合金属酸化物の前駆体であり、かつ電子伝導性酸化物の前駆体でもある。複合金属水酸化物(一次粒子)は、凝集しながら沈殿すると考えられる。すなわち前駆体は二次粒子を含む。二次粒子は、複数の一次粒子を含む。一次粒子は、複合金属水酸化物である。
【0048】
《(β)混合》
本実施形態の製造方法は、前駆体とリチウム化合物とを混合することにより、混合物を調製することを含む。上記で得られた前駆体(複合金属水酸化物)が水洗され、乾燥される。乾燥温度は、たとえば、50~120℃程度でよい。次いで、たとえば、ボールミル等により、前駆体とリチウム化合物とが混合される。リチウム化合物は、たとえば、炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)等であってもよい。前駆体とリチウム化合物とは、たとえば、モル比で「Li:Me=0.8:1~1.2:1」となるように混合され得る。「Me」は、LaおよびSr以外の金属元素(Co、Mn、Ni)の合計を示す。
【0049】
《(γ)焼結》
本実施形態の製造方法は、混合物を加熱することにより、焼結物を調製することを含む。混合物は、たとえば、電気炉等により加熱され得る。混合物は、たとえば、酸素雰囲気中で加熱され得る。加熱は、一段階であってもよいし、多段階であってもよい。多段階の場合は、加熱温度が段階的に高くされ得る。加熱温度は、たとえば、500~1100℃であってもよいし、700~1100℃であってもよい。加熱時間は、たとえば、5~20時間程度であってもよい。
【0050】
加熱により、Liが固体内に拡散すると考えられる。これにより、複合金属水酸化物からリチウム含有複合金属酸化物(たとえばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等)が生成されると考えられる。すなわち一次粒子がリチウム含有複合金属酸化物になる。一次粒子の粒成長により、二次粒子が緻密化する。さらに電子伝導性酸化物が一次粒子同士の粒界の少なくとも一部に析出すると考えられる。電子伝導性酸化物は、ペロブスカイト構造を有し、かつ上記式(I)によって表される。
【0051】
《(δ)解砕》
本実施形態の製造方法は、焼結物を解砕することにより、正極活物質を製造することを含む。焼結物は、冷却後、解砕される。たとえば、ボールミル、ジェットミル等により、焼結物が解砕され得る。正極活物質(二次粒子)は、たとえば、3~30μmの平均粒径を有するように解砕され得る。
以上より、本実施形態の正極活物質が製造され得る。
【0052】
<リチウムイオン二次電池>
以下、本実施形態の正極活物質を含むリチウムイオン二次電池が説明される。以下の説明では、リチウムイオン二次電池が「電池」と略記される場合がある。
【0053】
図4は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す概略図である。電池101は、角形(扁平直方体)である。電池101は、円筒形であってもよい。電池101は、筐体50を含む。筐体50は、たとえば、アルミニウム(Al)合金製である。筐体50は、たとえば、アルミラミネートフィルム製の袋等であってもよい。筐体50は、電流遮断機構(CID)、ガス排出弁、および注液孔等を含んでもよい。
【0054】
筐体50は密閉されている。筐体50は、電極群100および電解液を収納している。電解液は、電極群100に含浸されている。電極群100は、正極端子51および負極端子52に電気的に接続されている。
【0055】
図5は、電極群の構成の一例を示す概略図である。電極群100は、正極10、セパレータ30、および負極20を含む。すなわち電池101は、少なくとも正極10、負極20および電解液を含む。
【0056】
電極群100は、巻回型の電極群である。すなわち電極群100は、セパレータ30を間に挟んで、正極10と負極20とが積層され、さらにこれらが渦巻状に巻回されることにより構成されている。巻回後、電極群100は、扁平状に成形され得る。電極群は、積層型の電極群であってもよい。積層型の電極群は、セパレータを間に挟みながら、正極と負極とが交互に積層されることにより構成され得る。
【0057】
《正極》
正極10は、帯状のシートである。正極10は、集電体11と正極活物質層12とを含む。集電体11は、たとえば、Al箔等であってもよい。集電体11は、たとえば、10~30μmの厚さを有してもよい。
【0058】
正極活物質層12は、集電体11の表面に配置されている。正極活物質層12は、集電体11の表裏両面に配置されていてもよい。正極活物質層12は、たとえば、正極活物質を含むペーストが集電体11の表面に塗布され、乾燥されることにより形成され得る。正極活物質層12は、たとえば、10~100μmの厚さを有してもよい。
【0059】
正極活物質層12は、前述の正極活物質を含む。1種の正極活物質が単独で使用されてもよいし、2種以上の正極活物質が組み合わされて使用されてもよい。正極活物質層12は、導電材および結着材をさらに含んでもよい。正極活物質層12は、たとえば、75~98質量%の正極活物質と、1~20質量%の導電材と、1~5質量%の結着材とを含んでもよい。
【0060】
導電材は、特に限定されるべきではない。導電材は、たとえば、アセチレンブラック、サーマルブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛等であってもよい。1種の導電材が単独で使用されてもよいし、2種以上の導電材が組み合わされて使用されてもよい。結着材も特に限定されるべきではない。結着材は、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)等であってもよい。1種の結着材が単独で使用されてもよいし、2種以上の結着材が組み合わされて使用されてもよい。
【0061】
《負極》
負極20は、帯状のシートである。負極20は、集電体21と負極活物質層22とを含む。集電体21は、たとえば、銅(Cu)箔等であってもよい。集電体21は、たとえば、5~30μmの厚さを有してもよい。
【0062】
負極活物質層22は、集電体21の表面に配置されている。負極活物質層22は、集電体21の表裏両面に配置されていてもよい。負極活物質層22は、たとえば、負極活物質を含むペーストが集電体21の表面に塗布され、乾燥されることにより形成され得る。負極活物質層22は、たとえば、10~100μmの厚さを有してもよい。
【0063】
負極活物質層22は、負極活物質を含む。負極活物質層22は、結着材をさらに含んでもよい。負極活物質層22は、たとえば、95~99質量%の負極活物質と、1~5質量%の結着材とを含んでもよい。負極活物質は、特に限定されるべきではない。負極活物質は、たとえば、黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、珪素、酸化珪素、錫、酸化錫等であってもよい。1種の負極活物質が単独で使用されてもよいし、2種以上の負極活物質が組み合わされて使用されてもよい。結着材も特に限定されるべきではない。結着材は、たとえば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、PAA等であってもよい。1種の結着材が単独で使用されてもよいし、2種以上の結着材が組み合わされて使用されてもよい。
【0064】
《セパレータ》
セパレータ30は、帯状のシートである。セパレータ30は、電気絶縁性の多孔質膜である。セパレータ30は、たとえば、10~30μmの厚さを有してもよい。セパレータ30は、たとえば、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製等であり得る。セパレータ30は、多層構造を有してもよい。たとえば、セパレータ30は、PP多孔質膜と、PE多孔質膜と、PP多孔質膜とがこの順序で積層されることにより構成されていてもよい。セパレータ30は、その表面に耐熱層を含んでもよい。耐熱層は、たとえば、アルミナ等の無機フィラーを含み得る。
【0065】
《電解液》
電解液は、液体電解質である。電解液は、溶媒とLi塩とを含む。電解液は、たとえば、0.5~2mоl/lのLi塩を含んでもよい。Li塩は、たとえば、LiPF6、LiBF4、Li[N(FSO2)2]等であってもよい。
【0066】
溶媒は非プロトン性である。溶媒は、たとえば、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒でよい。混合比は、たとえば、体積比で「環状カーボネート:鎖状カーボネート=1:9~5:5」でよい。環状カーボネートは、たとえば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等であってもよい。鎖状カーボネートは、たとえば、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等であってもよい。環状カーボネートおよび鎖状カーボネートは、それぞれ1種単独で使用されてもよいし、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0067】
溶媒は、たとえば、ラクトン、環状エーテル、鎖状エーテル、カルボン酸エステル等を含んでもよい。ラクトンとしては、たとえば、γ-ブチロラクトン(GBL)、δ-バレロラクトン等が挙げられる。環状エーテルとしては、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、1,2-ジメトキシエタン(DME)等が挙げられる。カルボン酸エステルとしては、たとえば、メチルホルメート(MF)、メチルアセテート(MA)、メチルプロピオネート(MP)等が挙げられる。
【0068】
電解液は、溶媒およびLi塩に加えて、各種の機能性添加剤を含み得る。電解液は、たとえば、1~5質量%の機能性添加剤を含んでもよい。機能性添加剤としては、たとえば、ガス発生剤(過充電添加剤)、被膜形成剤等が挙げられる。ガス発生剤としては、たとえば、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、ビフェニル(BP)等が挙げられる。被膜形成剤としては、たとえば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、Li[B(C2O4)2]、LiPO2F2、プロパンサルトン(PS)、エチレンサルファイト(ES)等が挙げられる。
【0069】
《用途》
電池101は、低い電池抵抗を有し得る。すなわち電池101は、高出力を有し得る。正極10が本実施形態の正極活物質を含むためである。高出力が要求される用途としては、たとえば、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)等の動力電源等が挙げられる。ただし電池101の用途は、こうした車載用途に限定されるべきではない。電池101は、あらゆる用途に適用可能である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0071】
<実施例1>
1-1.(α)共沈
反応槽が準備された。25質量%のNaOH水溶液と、25質量%のアンモニア水とが準備された。反応槽に、水と、NaOH水溶液と、アンモニア水とが投入され、これらが攪拌された。これによりアルカリ水溶液が調製された。アルカリ水溶液のpHは、11~14に調整された。
【0072】
Coの硫酸塩と、Mnの硫酸塩と、Niの硫酸塩と、Laの硫酸塩とが水に溶解された。各硫酸塩は所定の比で配合された。これにより、原料水溶液が調製された。原料水溶液が反応槽に供給された。原料水溶液とアルカリ水溶液との混合液が攪拌された。11~14のpHが保たれるように、25質量%のNaOH水溶液と、25質量%のアンモニア水とが反応槽に適時供給された。これにより、複合金属水酸化物の沈殿物が得られた。沈殿物は粉末状であった。
【0073】
複合金属水酸化物が濾別された。濾別された複合金属水酸化物が水洗された。さらに複合金属水酸化物が乾燥された。以上より前駆体(複合金属水酸化物)が調製された。前駆体は、二次粒子であった。
【0074】
1-2.(β)混合
ボールミルにより、上記で得られた複合金属水酸化物と、Li2CO3(リチウム化合物)とが混合された。これにより混合物が調製された。
【0075】
1-3.(γ)焼結
上記で得られた混合物が900℃で15時間加熱された。これにより焼結物が調製された。焼結物が冷却された。
【0076】
1-4.(δ)解砕
ボールミルにより、上記で得られた焼結物が解砕された。以上より正極活物質が製造された。正極活物質(二次粒子)は、10μmの平均粒径を有するものであった。正極活物質(二次粒子)の断面サンプルが調製された。STEM-EDX装置により、断面サンプルが分析された。
【0077】
一次粒子は、層状岩塩構造のLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(リチウム含有複合金属酸化物)により構成されていた。二次粒子の表面、開気孔、および一次粒子の粒界において、電子伝導性酸化物の存在が確認された。電子伝導性酸化物は、ペロブスカイト構造を有するものであった。電子伝導性酸化物は、LaNi0.2Co0.4Mn0.4O3の組成を有していた。
【0078】
2-1.正極の製造
以下の材料が準備された。
導電材 :アセチレンブラック
結着材 :PVdF
溶媒 :NMP
集電体 :Al箔
【0079】
プラネタリミキサにより、正極活物質と導電材と結着材と溶媒とが混合された。これにより正極活物質を含むペーストが調製された。ペーストの固形分比率は50質量%とされた。固形分の組成は、質量比で「正極活物質:導電材:結着材=84:12:4」とされた。ダイコータにより、ペーストが集電体の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥された。これにより、正極活物質層が形成された。ロール圧延機により、正極活物質層が圧縮された。スリッタにより、正極活物質層および集電体が帯状に裁断された。以上より正極が製造された。
【0080】
2-2.負極の製造
以下の材料が準備された。
負極活物質:黒鉛
結着材 :SBR、CMC
溶媒 :水
集電体 :Cu箔
【0081】
プラネタリミキサにより、負極活物質と結着材と溶媒とが混合された。これにより負極活物質を含むペーストが調製された。ダイコータにより、ペーストが集電体の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥された。これにより、負極活物質層が形成された。ロール圧延機により、負極活物質層が圧縮された。スリッタにより、負極活物質層および集電体が帯状に裁断された。以上より負極が製造された。
【0082】
2-3.組み立て
帯状のセパレータが準備された。セパレータを間に挟んで、正極と負極とが積層され、さらにこれらが渦巻状に巻回された。これにより電極群が構成された。平板プレス機により、電極群が扁平状に成形された。角形の筐体が準備された。電極群が正極端子および負極端子に電気的に接続された。電極群が筐体に収納された。筐体に所定の電解液が注入された。筐体が密閉された。以上よりリチウムイオン二次電池が製造された。
【0083】
<比較例1>
Laの硫酸塩が添加されないことを除いては、実施例1と同様に、複合金属水酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)が調製された。その後、実施例1と同様に、正極活物質が製造され、電池が製造された。比較例1は、正極活物質が電子伝導性酸化物を含まない例である。
【0084】
<比較例2>
ランタンアルコキシドと、ニッケルアルコキシドと、コバルトアルコキシドと、マンガンアルコキシドとが準備された。ランタンアルコキシドと、ニッケルアルコキシドと、コバルトアルコキシドと、マンガンアルコキシドとが溶媒に溶解された。これにより金属アルコキシド溶液が調製された。
【0085】
比較例1で製造された正極活物質が準備された。上記で得られた金属アルコキシド溶液に正極活物質(二次粒子)が投入された。攪拌羽根により、正極活物質が攪拌された。乾燥により、溶媒が除去された。これにより乾燥粉末が回収された。乾燥粉末が700℃に加熱された。STEM-EDX装置により、正極活物質が分析された。比較例2では、二次粒子の表面において、電子伝導性酸化物(LaNi0.2Co0.4Mn0.4O3)の存在が確認された。しかし、二次粒子の開気孔、一次粒子同士の粒界では、電子伝導性酸化物の存在が確認されなかった。これ以降、実施例1と同様に、電池が製造された。
【0086】
<比較例3>
比較例2と同様に、金属アルコキシド溶液に正極活物質(二次粒子)が投入された。超音波振動により、正極活物質が攪拌された。乾燥により、溶媒が除去された。これにより乾燥粉末が回収された。乾燥粉末が700℃に加熱された。STEM-EDX装置により、正極活物質が分析された。比較例3では、二次粒子の表面および開気孔において、電子伝導性酸化物(LaNi0.2Co0.4Mn0.4O3)の存在が確認された。超音波振動により、開気孔の内部まで、金属アルコキシドが拡散するためと考えられる。しかし、一次粒子同士の粒界では、電子伝導性酸化物の存在が確認されなかった。これ以降、実施例1と同様に、電池が製造された。
【0087】
<実施例2~12、比較例4、5>
下記表1の電子伝導性酸化物が生成されるように、金属の硫酸塩の配合、熱処理条件等が変更されることを除いては、実施例1と同様に、正極活物質が製造され、電池が製造された。
【0088】
<評価>
1.電池の活性化および初期容量の測定
25℃において、以下の定電流-定電圧方式充電(CCCV充電)により、電池が満充電にされた。次いで以下の定電流方式放電(CC放電)により、電池が放電された。このときの放電容量が初期容量とされた。なお「1C」は、満充電容量を1時間で放電する電流を示す。
【0089】
CCCV充電:CC電流=1/3C、CV電圧=4.2V、終止電流=1/50C
CC放電 :電流=1/3C、終止電圧=3.0V
【0090】
2.電池抵抗の評価
電池のSOC(State Of Charge)が56%に調整された。25℃環境において、端子間電圧が3.0Vになるまで、電池が放電された。放電はCC放電とされた。放電開始から5秒後の端子間電圧の降下量が測定された。端子間電圧の降下量が、放電電流で除されることにより、電池抵抗が算出された。結果は下記表1の「電池抵抗」の欄に示されている。ここに示される値は、比較例1の電池抵抗が「100」とされた場合の相対値である。値が小さい程、電池抵抗が低減していることを示している。
【0091】
3.ガス発生量の評価
60℃環境において、2Cの電流により充放電が1000サイクル繰り返された。1000サイクル後の電池が絶縁オイル中に浸漬された。絶縁オイル中において、電池の筐体が開放された。筐体内で発生していたガスが、メスシリンダに捕集された。これによりガスの体積(ガス発生量)が測定された。結果は下記表1の「ガス発生量」の欄に示されている。ここに示される値は、比較例1のガス発生量が「100」とされた場合の相対値である。
【0092】
【0093】
上記表1中、比較例2、3、実施例1~12において、リチウム含有複合金属酸化物の物質量に対する電子伝導性酸化物の比率は、すべて同じであると考えられる。
【0094】
上記表1中、「所在」の欄に示される「P(positive)」は、STEM-EDX装置により、該当箇所に電子伝導性酸化物の存在が確認されたことを示す。「N(negative)」は、該当箇所に電子伝導性酸化物の存在が確認されなかったことを示す。
【0095】
<結果>
上記表1に示されるように、実施例1~12は、比較例1~3に比して、電池抵抗が低減している。実施例1~12では、一次粒子同士の緻密な粒界に、電子伝導性酸化物が配置されているためと考えられる。
【0096】
実施例1~12は、比較例4および5に比して、電池抵抗が低減している。ペロブスカイト構造のBサイトにCoが含まれることにより、不活性相の形成が抑制されるためと考えられる。
【0097】
実施例1、3~12は、実施例2に比してガス発生量が少ない。ペロブスカイト構造のBサイトに、Coに加えて、MnおよびNiの少なくとも一方が特定の比率で含まれることにより、結晶構造が安定化するためと考えられる。
【0098】
上記の実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。特許請求の範囲によって定められる技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0099】
1 一次粒子、2 二次粒子、3 電子伝導性酸化物、5 開気孔、10 正極、11,21 集電体、12 正極活物質層、20 負極、22 負極活物質層、30 セパレータ、50 筐体、51 正極端子、52 負極端子、100 電極群、101 電池(リチウムイオン二次電池)。