(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】薄膜デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20220419BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20220419BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20220419BHJP
H01L 27/088 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01L29/78 618Z
H01L27/088 B
H01L27/088 331E
H01L29/78 617N
H01L29/78 618B
H01L29/78 618E
H01L29/78 618F
H01L29/78 619A
H01L29/78 627F
(21)【出願番号】P 2017230118
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2017029832
(32)【優先日】2017-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098073
【氏名又は名称】津久井 照保
(72)【発明者】
【氏名】中田 充
(72)【発明者】
【氏名】辻 博史
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 好英
(72)【発明者】
【氏名】武井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】越智 元隆
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕史
(72)【発明者】
【氏名】釘宮 敏洋
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-225505(JP,A)
【文献】特開2017-034266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336、21/8234
27/088、29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にゲート電極、ゲート絶縁膜、酸化物半導体膜、酸化物半導体膜を保護するエッチストップ層、ソース/ドレイン電極部、および該酸化物半導体膜中でドナーまたはアクセプタとなり得る原子または分子を含むコート層を、この順に積層してなる薄膜トランジスタであって、
前記酸化物半導体膜は、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜を備え、前記ゲート絶縁膜側からエッチストップ層側に向けて、該第2の酸化物半導体膜と該第1の酸化物半導体膜がこの順に配設されてなり、
前記第1の酸化物半導体膜の領域において、前記ソース/ドレイン電極部と上下方向に重ならない領域が、前記ソース/ドレイン電極部と上下方向に重なる領域よりも、抵抗率の低い低抵抗領域として構成されてい
る薄膜トランジスタ
を備えた薄膜デバイスであって、
前記ゲート電極が、前記ソース/ドレイン電極部を構成するソース電極側とドレイン電極側の2つの領域に各々対応するように分割され、
前記分割されたゲート電極の一方と、前記ソース電極と、上下方向に該ソース電極と重ならず、前記エッチストップ層と重なる前記酸化物半導体膜の領域とを含んで構成された第1の薄膜トランジスタ、および前記分割されたゲート電極の他方と、前記ドレイン電極と、上下方向に該ドレイン電極と重ならず、前記エッチストップ層と重なる前記酸化物半導体膜の領域とを含んで構成された第2の薄膜トランジスタとを、備えたことを特徴とする薄膜デバイス。
【請求項2】
前記第1の酸化物半導体膜と前記第2の酸化物半導体膜は、互いに密接配置されてなることを特徴とする請求項1記載の薄膜
デバイス。
【請求項3】
前記コート層はSiNxを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜
デバイス。
【請求項4】
前記酸化物半導体膜中でドナーまたはアクセプタとなり得る原子または分子が水素であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の薄膜
デバイス。
【請求項5】
前記ソース/ドレイン電極部を構成する、
前記ソース電極と
前記ドレイン電極のいずれか一方と前記エッチストップ層が、上下方向に重ならないような構成とされていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の薄膜
デバイス。
【請求項6】
前記ソース/ドレイン電極部を構成する、
前記ソース電極と
前記ドレイン電極の両者の各々と前記エッチストップ層が上下方向に重なるように構成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の薄膜
デバイス。
【請求項7】
前記第1
の酸化物半導体膜は、少なくともIn、Ga、Sn、およびOを含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の薄膜
デバイス。
【請求項8】
前記
第1の酸化物半導体膜に含まれるIn、GaおよびSnの合計原子数に対する各金属元素の原子数の比率が下記式(1)~(3)の全てを満たす構造とされていることを特徴とする請求項7に記載の薄膜
デバイス。
0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 ・・・(1)
0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(2)
0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 ・・・(3)
【請求項9】
前記酸化物半導体膜が、前記ソース/ドレイン電極部を構成する前記ソース電極側と前記ドレイン電極側の2つの領域に各々対応するように分割されたことを特徴とする請求項
1~8のいずれかに記載の薄膜デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、有機EL素子やLCDを駆動するために用いられる薄膜デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコンに比べて高いキャリア移動度を有している。また酸化物半導体は、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板等への適用が期待されている。
【0003】
上記酸化物半導体をTFTの半導体層として用いる場合、TFTのスイッチング特性に優れていることが要求される。具体的には、(1)オン電流、即ち、ゲート電極とドレイン電極に正電圧をかけたときの最大ドレイン電流が大きく、(2)オフ電流、即ち、ゲート電極に負電圧を、ドレイン電圧に正電圧を夫々かけたときのドレイン電流が小さく、(3)S値(Subthreshold Swing)、即ち、ドレイン電流を1桁あげる
のに必要なゲート電圧が小さく、(4)しきい値電圧、即ち、ドレイン電極に正電圧をかけ、ゲート電圧に正負いずれかの電圧をかけたときにドレイン電流が流れ始める電圧が時間的に変化せずに安定であること、等が要求される。
ここで、オン電流を増加させるためには、電界効果移動度(以下、単に移動度と称する場合がある。)が高いこと、チャネル長が短いこと等が要求される。
【0004】
上記酸化物半導体として、例えば、下記特許文献1、2に示すように、インジウム、ガリウム、亜鉛、および酸素からなるIn-Ga-Zn系酸化物半導体やインジウム、ガリウム、錫からなるIn-Ga-Sn系酸化物半導体が良く知られている。
また、TFT構造としては、
図2に示すように基板211上にゲート電極212、ゲート絶縁膜213、酸化物半導体膜214、酸化物半導体膜214を保護するエッチストップ層215、ソース/ドレイン電極部(216、217)をこの順序で形成するエッチス
トップ構造が用いられる(特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5357342号
【文献】特開2011-174134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、オン電流を増加させるためには、チャネル長を短く設定することが有用である。
しかしながら、エッチストップ構造の場合、チャネル長は、
図2に示すようにソース電極216と酸化物半導体214が接触する位置から、ドレイン電極217と酸化物半導体214が接触する位置までの最短の距離(Lsd)であり、エッチストップ層215におけるソース電極216の領域のチャネル長方向のチャネル214A1の長さLsと、エッチストップ層215におけるドレイン電極領域のチャネル長方向のチャネル214A2の長さLdと、ソース電極216とドレイン電極217の間隔Lgの和で示される。
【0007】
したがって、フォトリソグラフィを用いてTFTを構成する各層を微細パターンに加工してTFTを作製する場合、上記Ls、Ldは共にフォトリソグラフィのアライメントマージン(アライメントずれに対して設ける必要があるマージン)Daに制限され、Lgはフォトリソグラフィの最小加工寸法Dmで制限されるので、チャネル長を2Da+Dmより短く調整することが製造上難しかった。この結果、チャネル長を短くして、オン電流を増加させることが難しい状態となっていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、エッチストップ構造のTFTにおいて、従来技術よりもチャネルの長さを短縮することができ、オン電流の増加を図ることが可能な薄膜デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る薄膜デバイスは、
基板上にゲート電極、ゲート絶縁膜、酸化物半導体膜、酸化物半導体膜を保護するエッチストップ層、ソース/ドレイン電極部、および該酸化物半導体膜中でドナーまたはアクセプタとなり得る原子または分子(以後、必要に応じてドナー等と称する)を含むコート層を、この順に積層してなる薄膜トランジスタであって、
前記酸化物半導体膜は、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜を備え、前記ゲート絶縁膜側からエッチストップ層側に向けて、該第2の酸化物半導体膜と該第1の酸化物半導体膜がこの順に配設されてなり、
前記第1の酸化物半導体膜の領域において、前記ソース/ドレイン電極部と上下方向に重ならない領域が、前記ソース/ドレイン電極部と上下方向に重なる領域よりも、抵抗率の低い低抵抗領域として形成されている薄膜トランジスタを備えた薄膜デバイスであって、
前記ゲート電極が、前記ソース/ドレイン電極部を構成するソース電極側とドレイン電極側の2つの領域に各々対応するように分割され、
前記分割されたゲート電極の一方と、前記ソース電極と、上下方向に該ソース電極と重ならず、前記エッチストップ層と重なる前記酸化物半導体膜の領域とを含んで構成された第1の薄膜トランジスタ、および前記分割されたゲート電極の他方と、前記ドレイン電極と、上下方向に該ドレイン電極と重ならず、前記エッチストップ層と重なる前記酸化物半導体膜の領域とを含んで構成された第2の薄膜トランジスタとを、備えたことを特徴とするものである。
【0009】
また、前記第1の酸化物半導体膜と前記第2の酸化物半導体膜は、互いに密接配置されてなることが好ましい。
【0010】
また、前記コート層はSiNxを含むことが好ましい。
また、前記ドナー等が水素であることが好ましい。
また、前記ソース/ドレイン電極部を構成する、前記ソース電極と前記ドレイン電極のいずれか一方と前記エッチストップ層が、上下方向に重ならないような構成してもよいし、前記ソース/ドレイン電極部を構成する、前記ソース電極と前記ドレイン電極の両者の各々と前記エッチストップ層が上下方向に重なるように構成してもよい。
また、前記第1の酸化物半導体膜は、少なくともIn、Ga、Sn、およびOを含むことが好ましい。
【0011】
また、前記第1の酸化物半導体膜に含まれるIn、GaおよびSnの合計原子数に対する各金属元素の原子数の比率が下記式(1)~(3)の全てを満たす構造とされていることが好ましい。
0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 ・・・(1)
0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(2)
0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 ・・・(3)
【0012】
また、前記酸化物半導体膜が、前記ソース/ドレイン電極部を構成する前記ソース電極側と前記ドレイン電極側の2つの領域に各々対応するように分割された構成とされることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄膜デバイスによれば、エッチストップ構造のTFTにおいて従来技術のものよりも短いチャネル長を得ることができ(第1の作用効果)、さらに、酸化物半導体として、低抵抗領域を作製し易く、電界効果移動度を高くし得る材料を選択可能(第2の作用効果)な構成とされている。
【0014】
すなわち、本発明の第1の作用効果は以下のようになっている。ドナー等を多く含むコート層を上層に形成し、このコート層からドナー等を拡散させ、ソース/ドレイン電極部
によってこの拡散が阻止されない領域は、この拡散がエッチストップ層を介して酸化物半導体膜まで進む。酸化物半導体膜内にドナー等が侵入すると、ドナー等が侵入した酸化物半導体膜の領域は、キャリア密度が大幅に上昇し、導体(低抵抗領域)となり得る。
【0015】
このように作成された低抵抗領域を介すれば、ソース電極からドレイン電極に至る電流流路(ソース電極側チャネル領域-低抵抗領域-ドレイン電極側チャネル領域)の全抵抗値を低減させることができる。
上記のような第1の作用効果を強化するためには、酸化物半導体膜の材料として、低抵抗領域が作製され易い材料を選択することが常套である。
しかしながら、低抵抗領域が作製され易い材料が、各チャネル領域において電界効果移動度を高くし得る材料であるとは限らない。低抵抗領域のために選択した酸化物半導体膜材料により各チャネル領域において電界効果移動度が低下してしまい、全体としては、上記電流流路の全抵抗値をあまり低下することができない、という事態も生じうる。
【0016】
そこで、本発明の第2の作用効果は、酸化物半導体膜を2層形成し、上層の第1の酸化物半導体膜については低抵抗領域を作製しやすい材料を選択し得る自由度を確保し、一方、下層の第2の酸化物半導体膜については、各チャネル領域における電界効果移動度を大きくし得る材料を選択し得る自由度を確保し、各々にとって都合のよい材料を独立して選択できることにある。
これにより、本発明の薄膜デバイスによれば、オン電流を大幅に増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【
図2】本発明の実施形態の変更態様1に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【
図3】本発明の実施形態の変更態様2に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【
図4】本発明の実施形態の変更態様3に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【
図5】本発明の実施形態の変更態様4に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【
図6】本発明の実施形態の変更態様5に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【
図7】本発明の実施形態の変更態様6に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【
図8】本発明の実施形態の変更態様7に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【
図9】従来技術に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタ、薄膜デバイスおよび薄膜トランジスタの製造方法を図面を参照しながら説明する。
【0019】
<実施形態>
以下、本実施形態に係る薄膜トランジスタについて
図1を参照しながら詳しく説明する。
実施形態に係る薄膜トランジスタは、
図1に示すように、基板11上にゲート電極12、ゲート絶縁膜13、第2の酸化物半導体膜14´、第1の酸化物半導体膜14、エッチストップ層15、ソース/ドレイン電極部(ソース電極16とドレイン電極17を含む)
および保護膜18をこの順に積層したものである。
なお、第1の酸化物半導体膜14においては、ソース/ドレイン電極部を構成する、ソ
ース電極16とドレイン電極17に各々接する酸化物半導体膜14の両位置間において、ソース電極16に接する半導体領域1(14A1)と、ドレイン電極17に接する半導体領域2(14A2)と、半導体領域1(14A1)および半導体領域2(14A2)の間に配された、低い抵抗率を有する低抵抗領域14Bとが形成されている。
【0020】
また、第2の酸化物半導体膜14´においては、上記半導体領域1(14A1)の下層に位置するチャネル領域1(14´A1)と、上記半導体領域2(14A2)の下層に位置するチャネル領域2(14´A2)と、上記低抵抗領域14Bの下層に位置する半導体領域3(14´B)とが形成されている。
また、第1の酸化物半導体膜14と第2の酸化物半導体膜14´とは当接した状態とされている。
このように、酸化物半導体膜が2層構造に形成されているから、電流は、ソース電極16から、チャネル領域1(14A1)、低抵抗領域14B、チャネル領域2(14A2)と低い抵抗値の領域を選んでドレイン電極17に至る。
【0021】
以下、実施形態に係る薄膜トランジスタの各層(膜、電極)11~18について、
図1を用いてさらに詳細に説明する。同時に、薄膜トランジスタの製造方法を説明する。
まず、基板11上にゲート電極12およびゲート絶縁膜13をこの順に形成する。これらの形成方法は種々の周知の手法を採用することができる。
上記ゲート電極12およびゲート絶縁膜13の構成材料として種々の周知の材料を用いることができる。ゲート電極12としては、例えば、電気抵抗率の低いAlやCuの金属、耐熱性の高いMo、Cr、Ti等の高融点金属、さらには、これら金属の合金を用いることができる。また、ゲート絶縁膜13としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、さらにはシリコン酸窒化膜等が代表的に例示される。
その他に、Al
2O
3やY
2O
3等の酸化物や、これらを積層したものを用いることもできる。
【0022】
次に、ゲート絶縁膜13上に、第2の酸化物半導体膜14´を形成する。
第2の酸化物半導体膜14´は後述する第1の酸化物半導体膜14よりも移動度の高い材料により作製することが好ましい。
また、第2の酸化物半導体膜14´上に第1の酸化物半導体膜14を形成する。
第1の酸化物半導体膜14は、金属元素としてIn、Ga、SnとOで構成される酸化物からなり、上記In、GaおよびSnの原子数の合計に対する各金属元素の原子数の比が下記式(1)~(3)を全て満足するものであることが好ましい。
なお、下記式(1)~(3)において、In、Ga、Snは、各々、In、Ga、Snの原子数を表す。
0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 ・・・(1)
0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 ・・・(2)
0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 ・・・(3)
【0023】
以下、上記式(1)で表される、酸素Oを除くIn、GaおよびSnの原子数の合計に対するInの含有原子数(原子%)をIn原子数比と称する場合がある。同様に、上記式(2)で表される、酸素Oを除くIn、GaおよびSnの原子数の合計に対するGaの含有原子数(原子%)をGa原子数比と称する場合がある。同様に、上記式(3)で表される、酸素Oを除く全金属元素であるIn、GaおよびSnの原子数の合計に対するSnの含有原子数(原子%)をSn原子数比と称する場合がある。
【0024】
<In原子数比について>
Inは電気伝導性の向上に寄与する元素である。上記式(1)で示すIn原子数比が大きくなるほど、即ち、In、GaおよびSnの金属元素の合計原子数に占めるInの原子数の割合が多くなるほど、第1の酸化物半導体膜14の導電性が増加するため電界効果移動度は増加する。
【0025】
上記作用効果をより良好なものとするためには、上記In原子数比を0.30以上とする必要がある。上記In原子数比は、好ましくは0.31以上、さらに好ましくは0.35以上、さらに好ましくは0.40以上である。ただし、In原子数比が大き過ぎると、キャリア密度が増加しすぎて、しきい値電圧が低下する等の問題があるため、0.50以下とする。また、In原子数比は、好ましくは0.48以下、より好ましくは0.45以下である。
【0026】
<Ga原子数比について>
Gaは、酸素欠損の低減およびキャリア密度の制御に寄与し得る元素である。上記式(2)に示すGa原子数比が大きいほど、第1の酸化物半導体膜14の電気的安定性が向上し、キャリアの過剰発生を抑制する効果が良好なものとなる。上記効果を奏するためには、Ga原子数比を0.20以上とすることが必要である。上記Ga原子数比は、好ましくは0.22以上、より好ましくは0.25以上である。ただし、Ga原子数比が大き過ぎると、酸化物半導体膜14の導電性が低下して電界効果移動度が低下しやすくなるので、Ga原子数比は、0.30以下とする。さらに好ましくは0.28以下とする。
【0027】
<Sn原子数比について>
Snは酸エッチング耐性の向上に寄与し得る元素である。上記式(3)で示すSn原子数比が大きいほど、第1の酸化物半導体膜14における無機酸エッチング液に対する耐性は向上する。上記作用効果をより良好なものとするためには、Sn原子数比は0.25以上とする必要がある。Sn原子数比は、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.31以上、さらに好ましくは0.35以上である。一方、Sn原子数比が大きくなり過ぎると、第1の酸化物半導体膜14の電界効果移動度が低下すると共に、酸エッチング液に対する耐性が必要以上に高まり、酸化物半導体膜14自体の加工が困難になる。よってSn原子数比は0.45以下とする。Sn原子数比は、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.38以下である。
【0028】
酸化物半導体膜14の膜厚としては、上限値として、好ましくは10nm以上、より好
ましくは20nm以上であり、下限値として、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
酸化物半導体膜14は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲットを用いて、例えばDCスパッタリング法またはRFスパッタリング法により、成膜することが好ましい。
【0029】
以下、スパッタリングターゲットを単に「ターゲット」ということがある。スパッタリング法によれば、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成することができる。また、塗布法等の化学的成膜法によって酸化物を形成してもよい。
スパッタリング法に用いられるターゲットとして、前述したIn、Ga、SnおよびOの元素を含み、所望の酸化物と同一組成のターゲットを用いることが好ましく、これにより、組成ズレが少なく、所望の成分組成の薄膜を形成することができる。
具体的には、金属元素として、In、GaおよびSnの原子数の合計に対する各金属元素の原子数の比が上記式(1)~(3)を満たすターゲットを用いることが推奨される。
【0030】
あるいは、組成の異なる2つのターゲットを同時放電するコンビナトリアルスパッタ法を用いて成膜してもよい。例えばIn2O3、Ga2O3、SnO2等、In、Ga、および
Snの各元素の酸化物ターゲット、または上記元素の2種以上を含む混合物の酸化物ターゲットを用いることもできる。上記金属元素を含む純金属ターゲットや合金ターゲットを、単数または複数用い、雰囲気ガスとして酸素を供給しながら成膜する手法も可能である。
【0031】
また、上記ターゲットは、例えば粉末焼結法によって製造することができる。
上記ターゲットを用いてスパッタリング法で成膜する場合、前述した成膜時のガス圧の他に、酸素の分圧、ターゲットへの投入パワー、基板11の温度、ターゲットと基板11との距離であるT-S間距離等を適切に制御することが好ましい。
具体的には、例えば、下記スパッタリング条件で成膜することが好ましい。
酸素添加量は、半導体として動作を示すよう、上記酸化物半導体膜14のキャリア密度が1×1015 ~1017 /cm3の範囲内となるようにすることが好ましい。
最適な酸素添加量はスパッタリング装置、ターゲットの組成、薄膜トランジスタ作製プロセス等に応じて、適切に制御する。
【0032】
成膜時のパワー密度は高い程良く、DCまたはRFで略2.0W/cm2以上に設定す
ることが推奨される。ただし、成膜時のパワー密度が高すぎると酸化物ターゲットに割れや欠けが生じて破損することがあるため、上限は50W/cm2程度である。
第1の酸化物半導体膜14は、In、Ga、SnおよびOで構成される酸化物に限定されず、上記酸化物に他の元素を添加したり、他の金属に替えた酸化物半導体膜14を用いてもよい。
【0033】
成膜時の基板11の温度は、室温~200℃の範囲内に制御することが推奨される。さらに、酸化物半導体膜14中の欠陥量は、成膜後の熱処理条件によっても影響を受けるため、適切に制御することが好ましい。
成膜後の熱処理条件は、例えば、大気雰囲気下にて、250~400℃で10分~3時間行うことが好ましい。上記熱処理として、例えば、後述するプレアニール処理(酸化物半導体膜14をウェットエッチングした後のパターニング直後に行われる熱処理)が挙げられる。
【0034】
第1の酸化物半導体膜14を形成した後、ウェットエッチングによりパターニングを行う。パターニングの直後には、酸化物半導体膜14の膜質改善のために熱処理(プレアニール)を行うことが好ましく、これにより、トランジスタ特性のオン電流および電界効果
移動度が上昇し、トランジスタ性能が向上する。プレアニールとして、例えば、水蒸気雰囲気または大気雰囲気にて、350~400℃で30~60分行うことが好ましい。
【0035】
この後、酸化物半導体膜14上に、エッチストップ層15を形成する。エッチストップ層15の形成方法は特に限定されず、従来より周知のエッチストップ層形成の手法を用いることができる。
また、エッチストップ層15の構成材料の種類としては、従来より周知の種々の材料を用いることができる。例えば構成材料としてはSiOx等を用いることができる。
この後、ソース/ドレイン電極部(ソース電極16、ドレイン電極17)を形成する。
このソース/ドレイン電極部の構成材料としては特に限定されず、従来より周知のものを
用いることができる。例えば、ゲート電極12と同様にAl、MoあるいはCu等の金属または合金を用いてもよい。
【0036】
ソース/ドレイン電極部の形成手法としては、例えばマグネトロンスパッタリング法に
よって金属薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィによりパターニングし、ウェットエッチングを行って電極を形成する。また、図示されない保護膜(通常、ソース/ドレイン電
極部上に積層膜の保護のために形成される)の形成前に、酸化物表面のダメージ回復のため、必要に応じて熱処理(200℃~300℃)やN2Oプラズマ処理を施してもよい。
【0037】
次に、酸化物半導体膜14の上に保護膜18をCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって成膜する。
また、保護膜18として、SiNx(シリコン窒化膜)を含む保護膜を用いることが好ましい。具体的には、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などが挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、併用してもよいし、これらを積層して用いることもできる。或いは、後述する実施例に示すように上層をSiNx、下層をSiOx(シリコン酸化膜)とした積層膜を用いてもよい。
【0038】
保護膜18の形成後、200℃以上の温度でポストアニールを行う。ポストアニールを施すことで、上記保護膜18に含有される水素が、保護膜18の配設位置を上方向としたとき、上下方向に、上記ソース/ドレイン電極部が重ならない第1の酸化物半導体膜14
の領域に拡散されて、浅い不純物準位が形成されることから、抵抗率が低下し、導体化する。
この結果、上下方向に、上記ソース/ドレイン電極部が重ならない第1の酸化物半導体
膜14の領域に導体化された上記低抵抗領域14Bが形成される。
【0039】
一方、上下方向に、上記ソース/ドレイン電極部が重なる酸化物半導体14の領域では
、上部にソース部16またはドレイン電極17が存在し、保護膜18からの水素の透過が阻止されることから、上記領域への水素の供給量が少なくなり、半導体の状態が維持される。
この結果、上下方向に、上記ソース/ドレイン電極部が重なる酸化物半導体膜14の領
域は、半導体としての性質が維持される。
前記ソース/ドレイン電極部が重ならない第1の酸化物半導体領域に導体化された前記
低抵抗領域が形成される。
【0040】
上記ポストアニールの温度が200℃未満では上記低抵抗領域14Bが形成され難い。熱処理温度の好ましい下限は250℃以上であり、より好ましくは270℃以上である。ただし、熱処理温度が高過ぎると、上記ドレイン電極17が重なる酸化物半導体膜14の領域の抵抗も低減し、オフ電流が増加してしまうため、その上限を300℃以下とすることが好ましい。より好ましい上限は280℃である。
【0041】
最適なポストアニール温度は第1および第2の酸化物半導体膜14、14´、エッチストップ層15、および保護膜18の各々の膜厚や成膜条件に依存することから、これらの値を勘案して適宜設定することが肝要である。さらに上記ポストアニールでは、処理時間を例えば、30~90分の範囲内に制御することが好ましい。なお、雰囲気は特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、大気雰囲気等を採用し得る。
【0042】
本実施形態のTFTは、
図1に示すようにソース電極16-ドレイン電極17間の第1の酸化物半導体膜(領域)14において、上下方向に、ソース電極16と重なる半導体領域1(14A1)、ソース電極16とドレイン電極17の何れにも重ならない低抵抗領域14B、およびドレイン電極17と重なる半導体領域2(14A2)の3領域に分けることができる。
【0043】
ゲート電極16に正の電圧を印加するとゲート絶縁膜13と第2の酸化物半導体膜14´の界面に電子が蓄積し、第2の酸化物半導体膜14´の抵抗が低下し、ソース電極16-ドレイン電極17間に電圧を印加すると、ドレイン電流が増加する。ここで、低抵抗領域14Bの抵抗値が半導体領域3(14´B)の抵抗値に比べて無視できるほど小さい場合、ドレイン電流は、主に、チャネル領域1(14´A1)、低抵抗領域14Bおよびチャネル領域2(14´A2)の流路を流れ、これらの各領域を直列接続したときの合計抵抗値に反比例することになる。
【0044】
本実施形態のTFTのチャネル長は実効的にチャネル領域1(14´A1)とチャネル領域2(14´A2)の長さの和であるLs+Ldで表わされ、従来のエッチストップ構造のチャネル長であるLs+Lg+Ldと比べてLgの分だけ短くすることができる。このため、高いオン電流を得ることができる。例えば、フォトリソグラフィを用いてTFTを作製する場合、最小のチャネル長はフォトリソグラフィのアライメントマージンDaを用いて2Daで表わせる。
【0045】
さらに、第2の酸化物半導体膜14´は、第1の酸化物半導体膜14とは分離して形成されているので、第1の酸化物半導体膜14とは異なる材料を選択することができるので、第2の酸化物半導体膜14´を、チャネル領域1、2(14´A1、2)の電界効果移動度を大きくし得る材料によって構成することができる。
第2の酸化物半導体膜14´としてはIn、Sn、ZnおよびOを含む酸化物半導体やZn、OおよびNを含む酸化物半導体等が挙げられる。
【0046】
上記オン電流増加の作用効果を良好なものとするためには上記低抵抗領域14Bの抵抗率は1.5Ω・cm未満、さらに好ましくは0.1Ω・cm以下にする。
ただし、低抵抗領域14Bの適切な抵抗率は、Ls、Lg、Ldの各長さ、第1の酸化物半導体膜14の膜厚、ゲート絶縁膜13の膜厚と容量、TFTを駆動するために印加するドレイン電圧やゲート電圧等の各条件によって変化することから、これらの値を勘案して適宜設定することが肝要である。
【0047】
また、第2の酸化物半導体膜14´に第1の酸化物半導体膜14よりも電界効果移動度の大きい材料を適用することで、低抵抗領域14Bを良好に作製しつつ、チャネル領域1、2(14´A1、2)の電界効果移動度を大きくすることができる。
すなわち、酸化物半導体膜を2層形成し、上層の第1の酸化物半導体膜14については低抵抗領域14Bを作製しやすい材料を選択し得る自由度を確保し、一方、下層の第2の酸化物半導体膜14´については、各チャネル領域14´A1、14´A2における電界効果移動度を大きくし得る材料を選択し得る自由度を確保し、各々にとって都合のよい材料を独立して選択することができる。
これにより、本実施形態のTFTおよびその製造方法によれば、オン電流を大幅に増加
することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の薄膜トランジスタについて、以下の実施例により検証する。
(概要)
図1に示すTFTをベースとして、それぞれの下記手法により、実施例を作製した。各部材の符号としては、
図1に示す符号を用いる。
【0049】
まず、ガラス製の基板(コーニング社製イーグル2000、直径100mm×厚さ0.7mm)11上に、ゲート電極12A、BとしてMo薄膜を100nm、ゲート絶縁膜13としてSiO2(膜厚200nm)を順次成膜した。ゲート電極12A、Bは純Moの
スパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタリング法により形成した。スパッタリング条件は、成膜温度:室温、成膜パワー密度:3.8W/cm2、キャリアガス:Ar
、成膜時のガス圧:2mTorr(0.267Pa)、Arガス流量:20sccmとした。ま
た、ゲート絶縁膜13はプラズマCVD法を用い、キャリアガス:SiH4とN2Oの混合ガス、成膜パワー密度:0.96W/cm2、成膜温度:320℃、成膜時のガス圧:1
33Paの条件で成膜した。
次に、第2の酸化物半導体膜(In-Sn-Zn-O膜、膜厚20nm)14´をスパッタリング法によって成膜した。
【0050】
この後、下記組成の第1の酸化物半導体膜(In-Ga-Sn-O膜、膜厚40nm)14を下記条件に設定したスパッタリング法によって成膜した。
スパッタリング装置:株式会社アルバック製「CS-200」
基板温度 :室温
ガス圧 :1mTorr(0.133Pa)
キャリアガス :Ar
酸素分圧 :100×O2/(Ar+O2)=4体積%
成膜パワー密度:1.27、2.55、3.83W/cm2
使用スパッタリングターゲット:In:Ga:Sn=42.7:26.7:30.6原子%
【0051】
上記のようにして第1の酸化物半導体膜14を成膜した後、フォトリソグラフィおよびウェットエッチングにより、第1の酸化物半導体膜14および第2の酸化物半導体膜14´を同時に、パターニングした。ウェットエッチャントとして、関東化学株式会社製「ITO-07N」を使用した。本実施例では、実験を行った全ての酸化物半導体膜14、14´について、ウェットエッチングによる残渣は検出されず、適切にエッチングできたことを確認している。
上記の通り、第1の酸化物半導体膜14および第2の酸化物半導体膜14´をパターニングした後、膜質を向上させるためにプレアニールを行った。プレアニールは、大気雰囲気にて400℃で1時間行った。
【0052】
上記プレアニールの後、エッチストップ層15としてSiOx膜(膜厚100nm)を上記第1の酸化物半導体膜14上に成膜した。上記SiOx膜の成膜は、N2OおよびS
iH4の混合ガスを用い、プラズマCVD法で行った。成膜条件は、成膜パワー密度:0
.32W/cm2、成膜温度:230℃、成膜時のガス圧:133Paとした。上記Si
Ox膜の成膜後、フォトリソグラフィおよびドライエッチングによりエッチストップ層15のパターニングを行った。
次に、ソース/ドレイン電極部(ソース電極16とドレイン電極17)を形成するため
、膜厚200nmの純Mo膜を、スパッタリング法によって上記酸化物半導体膜14上に成膜した。上記純Mo膜の成膜条件は、投入パワー:DC300W(成膜パワー密度:3
.8W/cm2)、キャリアガス:Ar、ガス圧:2mTorr(0.267Pa)、基板温度:室温とした。
【0053】
次いで、フォトリソグラフィおよびウェットエッチングにより、ソース/ドレイン電極
部のパターニングを行った。具体的には、リン酸:硝酸:酢酸=70:2:10(質量比)の混合液からなり、液温が40℃の混酸エッチャントを用いた。
このようにしてソース/ドレイン電極を形成した後、TFTを保護する保護膜18とし
て、膜厚100nmのSiOx膜と膜厚150nmのSiNx膜を積層させた合計膜厚が250nmの積層膜をプラズマCVD法を用いて形成した。
上記SiO2膜の形成にはSiH4、N2およびN2Oの混合ガスを用い、前記SiNx膜の形成にはSiH4、N2、NH3の混合ガスを用いた。いずれの場合も成膜条件を、成膜
パワー密度:0.32W/cm2、成膜温度:150℃、成膜時のガス圧:133Paと
した。
【0054】
次にフォトリソグラフィ、およびドライエッチングにより、保護膜18にトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホールを形成した。その後、ポストアニールとして、270℃で30分の熱処理を行って実施例1のTFTを作製した。これにより
図1に示すように、上下方向に、ソース/ドレイン電極と重ならない第1の酸化物半導体膜14の領域に、導体化された低抵抗領域14Bが形成される。
【0055】
本発明の薄膜トランジスタ、薄膜デバイスおよび薄膜トランジスタの製造方法としては、上記実施形態に記載したものに限られるものではなく、その他の種々の態様の変更が可能である。
例えば、上記実施形態における各層の間にその他の層を挟むように構成することも可能である。
また、上記実施形態においては、コート層として保護膜を用いているが、名称として保護膜と指称されないものであっても、実質的にドナー等を含み得るものであって、上記保護膜と同様の作用を奏するものであればコート層に含まれる。
また、コート層に含まれる、酸化物半導体膜中でドナーまたはアクセプタとなり得る原子または分子(ドナー等)の種類としては、コート層からエッチストップ層を介して酸化物半導体膜に拡散することができるとともに、この拡散により酸化物半導体膜の所定領域(低抵抗領域)を導体化し得るものであればよい。
【0056】
前述したように、本実施形態においては、第1の酸化物半導体膜14として低抵抗領域を作製しやすい材料とし、第2の酸化物半導体膜14´としてチャネル領域の電界効果移動度を大きくしやすい材料とすることが望ましいが、必ずしも、これに限られるものではなく、種々の観点から、それぞれの酸化物半導体膜14、14´毎に、任意の構成材料を用いることができる。
また、本発明の薄膜トランジスタとしては、低抵抗領域14Bの一方側にのみチャネル領域14´A1、14´A2が存在するようにしてもよい。これにより、チャネル長を短縮することができる。
【0057】
また、上記実施形態に示す薄膜トランジスタの変更態様1として、
図2に示すように、ソース電極316がエッチストップ層315と上下方向(積層方向)に重ならない状態とすることも可能である。なお、
図2において、変更態様1の各部材には、上記実施形態に係る
図1に示す、対応する各部材に付した符号に300を加えた符号を付している。
【0058】
例えば、ソース電極316(ドレイン電極317としてもよい)がエッチストップ層(315)と重ならない状態とした場合、図示するように、ソース電極316とエッチストップ層315の間がどうしても空いてしまう。そうすると、この部分の直下に位置する酸
化物半導体領域314は、エッチストップ層315からの水素の供給を受けることができず、ソース電極316とエッチストップ層315の間の領域の直下の領域を低抵抗化することができず、低抵抗化されない領域の長さを短縮することができない。しかし、最上層に保護膜318を積層し、この保護膜318によってソース電極316とエッチストップ層の間を埋めて、この部分の直下に位置する酸化物半導体領域314に対して、保護膜318から水素の供給が行われるようにすれば、低抵抗化されない領域(チャネル領域)の長さを短縮することができる。
【0059】
そのような理由から、この変更態様1では、ソース/ドレイン電極部316、317の
形成後、保護膜318を形成している。保護膜318の構成材料として、SiNx(シリ
コン窒化膜)を含む構成材料を用いることが好ましい。具体的には、シリコン窒化膜やシリコン酸窒化膜等を用いることが好ましく、これらは単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよいし、これらを積層して用いてもよい。あるいは、上層をSiNx、下層をSiOx(シリコン酸化膜)とした積層膜を用いてもよい。
なお、酸化物半導体膜が2層構造に形成されているから、電流は、ソース電極316から、低抵抗領域314B、そしてチャネル領域314´Aへと低い抵抗値の領域を選んでドレイン電極317に至る。
【0060】
本変更態様1のTFTのチャネル長は実効的にチャネル領域の長さであるLdで表され、
図9に示す、従来のエッチストップ構造のチャネル長であるLs+Lg+Ldと比べてLs+Lgの分だけ短くすることができる。このため、高いオン電流を得ることができる。例えば、フォトリソグラフィを用いてTFTを作製する場合、最小のチャネル長はフォトリソグラフィのアライメントマージンDaで表わせる。
上記オン電流増加の作用効果を良好なものとするためには上記低抵抗領域314Bの抵抗率は1.5Ω・cm未満、さらに好ましくは0.1Ω・cm以下にする。
【0061】
また、上記実施形態に示す薄膜トランジスタの変更態様2として、
図3に示すように、上記変更態様1の特徴に加えて、エッチストップ層を2層から構成するようにしてもよい。なお、
図3において、変更態様2の各部材には、上記実施形態に係る
図1に示す、対応する各部材に付した符号に400を加えた符号を付している。
すなわち、酸化物半導体膜414上に、SiNxをより少なく含むエッチストップ層2(415B)およびSiNxをより多く含むエッチストップ層1(415A)をこの順に積層したものである。
【0062】
エッチストップ層1(415A)が構成材料としてSiNxを含むことが重要である。SiNxを含むエッチストップ層1(415A)を用いることによって、酸化物半導体膜414への水素拡散による低抵抗領域の形成を効率良く行うことができる。エッチストップ層1(415A)としては、SiNx膜を有する限り、SiNx膜以外の任意の膜を積層してもよい。
例えば、SiNx膜のみを単層で用いてもよく、複数のSiNx膜を積層して用いてもよい。また、SiNx膜とSiOxNy膜、SiOx膜、Al
2O
3膜、Ta
2O
5などの膜の少なくとも一つの膜を積層してもよく、例えば、
図1に示すように積層膜にして上層のエッチストップ層1(415A)をSiNx膜、下層のエッチストップ層2(415B)をSiOx膜とした積層膜を用いてもよい。
【0063】
エッチストップ層1(415A)におけるSiNx膜の膜厚は50~250nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましい。なお、SiNx膜が複数層積層されたエッチストップ層の場合、上記SiNx膜の膜厚は、全てのSiNx膜の膜厚の合計を意味する。
なお、エッチストップ層1(415A)から酸化物半導体膜414へ水素を拡散させる
際に、その拡散範囲を拡げることが望ましいが、エッチストップ層2(415B)は、そのための上下間隔を確保する、という意味からも配設される。
このように構成された変更態様2の薄膜トランジスタによれば、上記実施形態の薄膜トランジスタと比べてチャネル長が短くなり、高いオン電流を得ることができる。
なお、
図3では、保護膜418を最上層に設ける態様とされているが、ソース電極416がエッチストップ層1(415A)およびエッチストップ層2(415B)と上下方向(積層方向)に重なるようにした場合、あるいは、ソース電極416が、エッチストップ層2(415B)から露出している低抵抗領域414Bを覆うようにした場合には、保護膜418は必ずしも設けなくてもよい。
【0064】
また、上記実施形態に示す薄膜トランジスタの変更態様3として、
図4に示すような薄膜トランジスタとして構成することもできる。すなわち、変更態様2のものと同様に、エッチストップ層515A、515Bを2層に構成しつつ、上記実施形態に示す薄膜トランジスタと同様に、ソース電極516およびドレイン電極517がエッチストップ層515と上下方向(積層方向)に重なる状態とすることも可能である。なお、
図4において、変更態様3の各部材には、上記実施形態に係る
図1に示す、対応する各部材に付した符号に500を加えた符号を付している。
このように構成された変更態様3の薄膜トランジスタによれば、上記実施形態の薄膜トランジスタと比べてチャネル長が短くなり、高いオン電流を得ることができる。
【0065】
また、上記実施形態に示す薄膜トランジスタの変更態様4として、
図5(a)に示すように、間を空けて配したゲート電極1(612A)およびゲート電極2(612B)を基板611上に配するようにしてもよい。なお、変更態様4の各部材には、上記実施形態に係る
図1に示す、対応する各部材に付した符号に600を加えた符号を付している。
すなわち、基板611の上部には、ソース電極616側に対応してゲート電極1(612A)が、ドレイン電極617側に対応してゲート電極2(612B)が、絶縁層(ゲート絶縁膜613と同一材料を用いて、ゲート絶縁膜613と同時に形成してもよい)により互いに分離して設けられている点において、上記実施形態のものと相違している。
【0066】
図5(a)、(b)((b)は等価回路)に示すように、ゲート電極部分をゲート電極1(612A)とゲート電極2(612B)の2つに分けることで、
図9に示すTFT1つ分のスペースで、2つの短チャネルTFTの直列接続構造(等価回路図である
図5(b)を参照)を形成することができる。
【0067】
このようにして得られた本変更態様4に係る、2つの短チャネルTFTの直列接続構造からなる薄膜デバイスは、低抵抗領域を有しない
図9に示すTFTと比較して、TFT1個当たりのチャネル長が短くなり、高いオン電流を得られるとともに、TFT1個当たりの必要スペースは、上述した低抵抗領域を有しないTFTの半分になる。
【0068】
また、上記実施形態に示すような薄膜トランジスタの変更態様5として
図6(a)に示すような薄膜デバイスに構成することもできる。すなわち、変更態様4のものと同様に、
図6(a)に示すように、間を空けて配したゲート電極1(712A)およびゲート電極2(712B)を基板711上に配しつつ、上記実施形態に示す薄膜トランジスタと同様に、エッチストップ層715を単層により構成するようにしてもよい。なお、変更態様5の各部材には、上記実施形態に係る
図1に示す、対応する各部材に付した符号に700を加えた符号を付している。
このように構成された変更態様5の薄膜トランジスタによれば、上記実施形態の薄膜トランジスタと比べ、ゲート電極712A、712Bを2つに分離することで、TFT1つ分のスペースで、2つの短チャネルTFTの直列構造(等価回路図である
図6(b)を参照
)を形成することができる。
【0069】
また、上記実施形態に示す薄膜トランジスタの変更態様6として、
図7(a)に示すように、2層の酸化物半導体膜部分において、第1の酸化物半導体膜814と第2の酸化物半導体膜814´とを中間領域で分離するようにしてもよい。すなわち、
図7(a)に示すように、第1の酸化物半導体膜814は、ソース電極816側に位置する電極部隣接領域814C1、半導体領域1(814A1)および低抵抗領域1(814B1)からなる領域と、ドレイン電極817側に位置する電極部隣接領域814C2、半導体領域3(814A2)および低抵抗領域2(814B2)からなる領域とが、絶縁層(エッチストップ層815)によって分離されている。
【0070】
また、第2の酸化物半導体膜814´は、ソース電極816側に位置する電極部隣接領域814´C1、チャネル領域1(814´A1)および半導体領域2(814´B1)からなる領域と、ドレイン電極817側に位置する電極部隣接領域814´C2、チャネル領域2(814´A2)および半導体領域4(814´B2)からなる領域とが、絶縁層(エッチストップ層)815によって分離されている。
なお、変更態様7の各部材には、上記実施形態に係る
図1に示す、対応する各部材に付した符号に800を加えた符号を付している。
【0071】
すなわち、
図7(a)、(b)((b)は等価回路)に示すように、第1の酸化物半導体膜1(814)と第2の酸化物半導体膜2(814´)を各々2つに分けることで、
図9に示すTFT1つ分のスペースで、2つの短チャネルTFT(L1、L2)を、各々独立に形成することができる(等価回路図である
図7(b)を参照)。このとき、低抵抗領域1(814B1)をドレイン電極として、低抵抗領域2(814B2)をソース電極として利用する。
【0072】
すなわち、このようにして得られた本変更態様6に係る薄膜デバイスは、2つの単チャンネルTFTを独立して駆動させることができるので、2つのTFTが直列に配された上記変更態様4、5の場合と比較して、回路応用の範囲を拡大することができる。
【0073】
また、上記実施形態に示すような薄膜トランジスタの変更態様7として
図8(a)に示すような薄膜デバイスに構成することもできる。すなわち、変更態様6のものと同様に、
図8(a)に示すように、2層の酸化物半導体膜部分において、第1の酸化物半導体膜914と第2の酸化物半導体膜914´を各々中間領域で分離しつつ、上記変更態様2~4に示す薄膜トランジスタと同様に、エッチストップ層915A、915Bを2層により構成するようにしてもよい。なお、変更態様7の各部材には、上記実施形態に係る
図1に示す、対応する各部材に付した符号に900を加えた符号を付している。
【0074】
このように構成された変更態様7の薄膜デバイスによれば、上記変更態様2~4に示す薄膜トランジスタと比べ、2つの単チャンネルTFTを独立して駆動させることができるので、2つのTFTが直列に配された上記変更態様4、5の場合と比較して、回路応用の範囲を拡大することができる。
【符号の説明】
【0075】
11、211、311、411、511、611、711、811、911 基板
12、212、312、412、512、612、712、812、912 ゲート電極
13、213、313、413、513、613、713、813、913 ゲート絶縁膜
214 酸化物半導体膜
14、314、414、514、614、714、814、914 第1の酸化物半導
体膜
14´、314´、414´、514´、614´、714´、814´、914´ 第2の酸化物半導体膜
14A1、314A1、414A1、514A1、614A1、714A1、814A1、914A1 半導体領域1
14A2、414´B、514A2、614A2、714A2、814´B、914´B1 半導体領域2
14´B、514´B、614´B、814A2、914A2 半導体領域3
814´B2、914´B2 半導体領域4
314´A、414´A、 チャネル領域
14´A1、514´A1、614´A1、714´A1、814´A1、914´A1
チャネル領域1
14´A2、514´A2、614´A2、714´A2、814´A2、914´A2
チャネル領域2
14B、314B、414B、514B、614B、714B 低抵抗領域
814B1、914B1 低抵抗領域1
814B2、914B2 低抵抗領域2
814C1、814C2、814´C1、814´C2 電極部隣接領域
15、215、315、715、815 エッチストップ層
415A、515A、615A エッチストップ層1
415B、515B、615B エッチストップ層2
16、216、316、416、516、616、716、816、916 ソース電極
17、217、317、417、517、617、717、817、917 ドレイン電極
18、318、418、718、818 保護膜