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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】波長可変レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/065 20060101AFI20220419BHJP
   H01S 5/14 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01S5/065
H01S5/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018024032
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019140308
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川北 泰雅
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 康貴
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-178283(JP,A)
【文献】特開2016-213379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/065
H01S 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子と反射フィルタ素子とにより構成されるレーザ共振器と、前記レーザ共振器内に配置された利得部と、を備える波長可変レーザ素子であって、
前記回折格子は、第1の櫛状反射スペクトルを生成し、
前記反射フィルタ素子は、
リング状導波路と、各々が前記リング状導波路と光学的に結合する2つのアーム部と、を有するリング共振器フィルタと、
光が入出力する光入出力ポートと、前記光入出力ポートから入力された光が2分岐して出力される2つの分岐ポートとを有し、前記2つのアーム部が各々前記2つの分岐ポートに接続された2分岐部と、
を備え、前記2つのアーム部の少なくともいずれか一方に位相調整部が設けられており、かつ、前記光入出力ポート側が前記回折格子と光学的に結合されており、
前記第1の櫛状反射スペクトルの波長間隔とは異なる波長間隔を有する第2の櫛状反射スペクトルを生成し、
前記回折格子と前記反射フィルタ素子は前記第1の櫛状反射スペクトルのピークの一つと前記第2の櫛状反射スペクトルのピークの一つとを波長軸上で重ね合わせ可能に構成されており、
前記位相調整部は、前記レーザ共振器における1回の光帰還中に、光が一方向にのみ通過する箇所に設けられていることを特徴とする波長可変レーザ素子
【請求項2】
前記反射フィルタ素子において、前記2つのアーム部の両方に位相調整部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ素子
【請求項3】
前記反射フィルタ素子において、前記2つのアーム部はハイメサ導波路構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の波長可変レーザ素子
【請求項4】
記反射フィルタ素子は、前記第1の櫛状反射スペクトルのピークの半値全幅よりも狭い半値全幅のピークの前記第2の櫛状反射スペクトルを生成することを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項5】
前記光入出力ポート側は、前記回折格子を有する導波路構造に対して、光の導波モードを略同等にした状態で光学的に結合されていることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項6】
半導体光増幅器が集積されていることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項7】
前記回折格子の屈折率を変化させる第1の屈折率変化器と、前記リング状導波路の屈折率を変化させる第2の屈折率変化器とを備え、前記第1の屈折率変化器および前記第2の屈折率変化器の少なくともいずれか一つを用いて、前記第1の櫛状反射スペクトルのピークの一つと前記第2の櫛状反射スペクトルのピークの一つとを波長軸上で重ね合わせることを特徴とする請求項~6のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項8】
前記回折格子は前記利得部の近傍に設けられていることを特徴とする請求項~7のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項9】
前記回折格子は前記利得部に沿って設けられていることを特徴とする請求項~8のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項10】
前記レーザ共振器は共振器モードのモード間の間隔が、前記第1の櫛状反射スペクトルのピーク内に、前記共振器モードが2本以上含まれるように構成されていることを特徴とする請求項~9のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項11】
前記第1の櫛状反射スペクトルのピークはガウシャン型の形状であり、前記第2の櫛状反射スペクトルのピークは二重指数分布型の形状であることを特徴とする請求項~10のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項12】
前記位相調整部の屈折率を調整する第3の屈折率変化器をさらに備え、前記第1、第2、および第3の屈折率変化器はそれぞれ、前記回格子、前記リング状導波路、および前記位相調整部のそれぞれの近傍に設けられ、それぞれの屈折率を熱的に変化させる抵抗ヒータであることを特徴とする請求項7に記載の波長可変レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射フィルタ素子およびこれを用いた波長可変レーザ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、波長可変レーザ素子において、レーザ共振器内の光の位相を調整し、縦モードの波長の調整を行う技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-178283号公報
【文献】特開2017-142348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような波長可変レーザ素子において、近年のコヒーレント通信に利用する場合に求められる程度の狭線幅のレーザ光を得るために、レーザ共振器を長くすると、縦モード間隔が狭くなる。その結果、単一モード発振を得るためには、位相の微調整がしやすいことが好ましい。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、位相の微調整がしやすい反射フィルタ素子を用いた波長可変レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る反射フィルタ素子は、リング状導波路と、各々が前記リング状導波路と光学的に結合する2つのアーム部と、を有するリング共振器フィルタと、光が入出力する光入出力ポートと、前記光入出力ポートから入力された光が2分岐して出力される2つの分岐ポートとを有し、前記2つのアーム部が各々前記2つの分岐ポートに接続された2分岐部と、を備え、前記2つのアーム部の少なくともいずれか一方に位相調整部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る反射フィルタ素子は、前記2つのアーム部の両方に位相調整部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る反射フィルタ素子は、前記2つのアーム部はハイメサ導波路構造を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、回折格子と、前記光入出力ポート側が前記回折格子と光学的に結合された、本発明の一態様に係る反射フィルタ素子とにより構成されるレーザ共振器と、前記レーザ共振器内に配置された利得部と、を備える波長可変レーザ素子であって、前記回折格子は、第1の櫛状反射スペクトルを生成し、前記反射フィルタ素子は、前記第1の櫛状反射スペクトルのピークの半値全幅よりも狭い半値全幅のピークで、前記第1の櫛状反射スペクトルの波長間隔とは異なる波長間隔を有する第2の櫛状反射スペクトルを生成し、前記回折格子と前記反射フィルタ素子は前記第1の櫛状反射スペクトルのピークの一つと前記第2の櫛状反射スペクトルのピークの一つとを波長軸上で重ね合わせ可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、前記光入出力ポート側は、前記回折格子を有する導波路構造に対して、光の導波モードを略同等にした状態で光学的に結合されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、半導体光増幅器が集積されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、前記回折格子の屈折率を変化させる第1の屈折率変化器と、前記リング状導波路の屈折率を変化させる第2の屈折率変化器とを備え、前記第1の屈折率変化器および前記第2の屈折率変化器の少なくともいずれか一つを用いて、前記第1の櫛状反射スペクトルのピークの一つと前記第2の櫛状反射スペクトルのピークの一つとを波長軸上で重ね合わせることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、前記回折格子は前記利得部の近傍に設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、前記回折格子は前記利得部に沿って設けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、前記レーザ共振器は、前記共振器モードのモード間の間隔が、前記第1の櫛状反射スペクトルのピーク内に、前記共振器モードが2本以上含まれるように構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、前記第1の櫛状反射スペクトルのピークはガウシャン型の形状であり、前記第2の櫛状反射スペクトルのピークは二重指数分布型の形状であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る波長可変レーザ素子は、前記位相調整部の屈折率を調整する第3の屈折率変化器をさらに備え、前記第1、第2、および第3の屈折率変化器はそれぞれ、前記回格格子、前記リング状導波路、および前記位相調整部のそれぞれの近傍に設けられ、それぞれの屈折率を熱的に変化させる抵抗ヒータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、位相の微調整がしやすい反射フィルタ素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態1に係る反射フィルタ素子を備えた波長可変レーザ素子の模式的な斜視図である。
図2A図2Aは、図1に示す波長可変レーザ素子の模式的な断面図である。
図2B図2Bは、図1に示す波長可変レーザ素子の模式的な断面図である。
図2C図2Cは、図1に示す波長可変レーザ素子の模式的な断面図である。
図3A図3Aは、第1の櫛状反射スペクトル、第2の櫛状反射スペクトルを示す図である。
図3B図3Bは、第1の櫛状反射スペクトル、第2の櫛状反射スペクトルおよび共振器モードを示す図である。
図4図4は、第1の櫛状反射スペクトル、第2の櫛状反射スペクトルおよびその重なりを示す図である。
図5図5は、図1に示す波長可変レーザ素子におけるレーザ発振波長の選択方法を説明する図である。
図6図6は、電力と位相量との関係の一例を説明する図である。
図7図7は、実施形態2に係る波長可変レーザ素子の模式的な斜視図である。
図8図8は、実施形態3に係る波長可変レーザ素子の模式的な斜視図である。
図9図9は、実施形態4に係るレーザモジュールの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、図中で適宜xyz座標軸を示し、これにより方向を説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る反射フィルタ素子を備えた波長可変レーザ素子の模式的な斜視図である。波長可変レーザ素子100は、1.55μm帯でレーザ発振し、レーザ光を出力するように構成されている。波長可変レーザ素子100は、共通の基部S1上に形成された、第1の導波路部10と第2の導波路部20とを備えている。基部S1はたとえばn型InPからなる。なお、基部S1の裏面にはn側電極30が形成されている。n側電極30は、たとえばAuGeNiを含んで構成され、基部S1とオーミック接触する。
【0022】
第1の導波路部10は、導波路部11と、半導体積層部12と、p側電極13、15と、Tiを含む抵抗ヒータであるマイクロヒータ14とを備えている。導波路部11は、半導体積層部12内にz方向に延伸するように形成されている。第1の導波路部10内には、利得部11aと、光増幅部11cと、DBR(Distributed Bragg Reflector)型の回折格子層11bとが配置されている。半導体積層部12は、半導体層が積層して構成されており、導波路部11に対してクラッド部の機能等を備える。導波路部11、半導体積層部12の構成については後に詳述する。
【0023】
p側電極13は、半導体積層部12上において、利得部11aに沿うように配置されている。p側電極15は、半導体積層部12上において、光増幅部11cに沿うように配置されている。なお、半導体積層部12には後述するSiN保護膜が形成されており、p側電極13、15はSiN保護膜に形成された開口部を介して半導体積層部12に接触している。第1の屈折率変化器としてのマイクロヒータ14は、半導体積層部12のSiN保護膜上において、回折格子層11bに沿うように配置されている。
【0024】
図2Aは、第1の導波路部10のうち利得部11aが含まれる部分を、図1のxy平面に平行な面に沿って切断した断面図である。
【0025】
利得部11aは、活性コア層である。利得部11aは、交互に積層された複数の井戸層と複数のバリア層とを含んで構成された多重量子井戸構造と、多重量子井戸構造を上下から挟む下部および上部光閉じ込め層とを有しており、電流注入により発光する。この利得部11aの多重量子井戸構造を構成する井戸層およびバリア層は各々組成が異なるInGaAsPからなる。利得部11aの発光波長帯は、本実施形態では1.55μm帯である。下部光閉じ込め層はn型InGaAsPからなる。上部光閉じ込め層はp型InGaAsPからなる。下部および上部光閉じ込め層のバンドギャップ波長は、井戸層のバンドギャップ波長より短い波長に設定されている。
【0026】
利得部11aが含まれる部分の半導体積層部12は、たとえば以下のような構成を有する。半導体積層部12は、基部S1を構成するn型InP基板上に、n型InPからなる、下部クラッド層の機能を有するバッファ層で構成されたn型半導体層12aを有している。n型半導体層12a上に利得部11aが積層されている。さらに利得部11a上には、p型InPからなるスペーサ層12bが積層されている。利得部11aおよびスペーサ層12bは、エッチング等により、1.55μm帯の光をシングルモードで光導波するのに適した幅(例えば1.8μm)にされたストライプメサ構造とされている。ストライプメサ構造の両脇(紙面左右方向)は、p型InP埋め込み層12cおよびn型InP電流ブロッキング層12dからなる電流ブロッキング構造を有した埋込み構造となっている。さらに、利得部11aおよび埋込構造の上には、p型InPからなるスペーサ層12eaと、スペーサ層12ea上に積層したp型InGaAsからなり半導体積層部12の最上層を形成するコンタクト層12ebとで構成されたp型半導体層12eが積層されている。p型半導体層12eは、少なくとも利得部11aの直上からその両脇の埋め込み構造の一部にわたって設けられている。半導体積層部12には半導体積層部12を覆うようにSiN保護膜16が形成されている。p側電極13はAuZnを含んで構成されており、コンタクト層12eb上に形成されて、SiN保護膜16の開口部16aを介してコンタクト層12ebとオーミック接触している。以上の構成により、n側電極30およびp側電極13から利得部11aへの電流注入が可能になっている。
【0027】
光増幅部11cも、利得部11aと同様の構成を有する活性コア層である。光増幅部11cが含まれる部分の半導体積層部12は、利得部11aが含まれる部分の半導体積層部12と同様の構成を有している。これにより、n側電極30およびp側電極15から光増幅部11cへの電流注入が可能になっている。光増幅部11cは、波長可変レーザ素子100に集積された半導体光増幅器として機能する。
【0028】
一方、図2Bは、第1の導波路部10のうち回折格子層11bが含まれる部分を、図1のxy平面に平行な面に沿って切断した断面図である。図2Bに示すように、回折格子層11bを含む第1の導波路部10の断面構造は、図2Aに示す構造において利得部11aを光導波層である回折格子層11bに置き換え、p側電極13をマイクロヒータ14に置き換え、コンタクト層12ebを削除し、SiN保護膜16に開口部16aが形成されていない構造を有している。
【0029】
回折格子層11bは、利得部11aの近傍に設けられており、本実施形態では、導波路部11の光の導波方向(z方向)において、利得部11aに隣接して設けられている。回折格子層11bは、p型InGaAsP層にz方向に沿って標本化回折格子が形成され、回折格子の溝はInPで埋め込まれた構成を有する。回折格子層11bにおいて回折格子の格子間隔は一定であるが標本化されており、これにより波長に対し略周期的な反射応答を示す。回折格子層11bのp型InGaAsP層のバンドギャップ波長は利得部11a、光増幅部11cのバンドギャップ波長より短いことが好ましく、たとえば1.2μmである。
【0030】
以上のように、第1の導波路部10は埋込み導波路構造を有する。
【0031】
つぎに、図1に戻って、第2の導波路部20について説明する。第2の導波路部20は、2分岐部21と、2つのアーム部22、23と、リング状導波路24と、Tiを含む抵抗ヒータであるマイクロヒータ25とを備えている。
【0032】
2分岐部21は、光が入出力する光入出力ポートと、光入出力ポートから入力された光が2分岐して出力される2つの分岐ポートとを有している。本実施形態では、2分岐部21は、1×2型の多モード干渉型(MMI)導波路を含む1×2型の分岐型導波路で構成されており、2つの分岐ポートが2つのアーム部22、23のそれぞれに接続されるとともに、光入出力ポートが第1の導波路部10側に接続されている。2分岐部21により、2つのアーム部22、23は、その一端が統合され、回折格子層11bと光学的に結合される。
【0033】
アーム部22、23は、2分岐部21からY字形状に延び、さらに互いに平行になるように形成されている。アーム部22、23は、リング状導波路24を挟むように配置されている。アーム部22、23はリング状導波路24と近接し、いずれも同一の結合係数κでリング状導波路24と光学的に結合している。κの値はたとえば0.2である。アーム部22、23とリング状導波路24とは、リング共振器フィルタRF1を構成している。また、リング共振器フィルタRF1と2分岐部21とは、反射フィルタ素子としての反射ミラーM1を構成している。第2の屈折率変化器としてのマイクロヒータ25はリング状であり、リング状導波路24を覆うように形成されたSiN保護膜上に配置されている。
【0034】
また、アーム部23には、Tiを含むマイクロヒータ26と、位相調整部27とが設けられている。
【0035】
図2Cは、位相調整部27を含むアーム部23を、アーム部23の延伸方向に垂直な面に沿って切断した断面図である。図2Cに示すように、アーム部23は、基部S1上に、n型InPからなる下部クラッド層20a、InGaAsPからなる光導波層20b、およびp型InPからなる上部クラッド層20cがこの順で積層して構成されたハイメサ導波路構造を有している。SiN保護膜20dはアーム部23を覆うように形成されている。第3の屈折率変化器としてのマイクロヒータ26はSiN保護膜20d上において、位相調整部27に沿うように配置されている。なお、第2の導波路部20のその他の構成要素である2分岐部21、アーム部22、リング状導波路24も同様にハイメサ導波路構造を有しており、SiN保護膜で覆われている。
【0036】
互いに光学的に接続された回折格子層11bと反射ミラーM1とは、レーザ共振器C1を構成している。利得部11aはレーザ共振器C1内に配置される。位相調整部27は反射ミラーM1の内部に設けられ、反射ミラーM1の特性を調整する。
【0037】
つぎに、回折格子層11bと反射ミラーM1との反射特性について図3A、3Bを用いて説明する。図3A、3Bにおいて縦軸は反射率(Reflectance)を示している。回折格子層11bは、図3Aに凡例「SG」で曲線を示すように、略所定の波長間隔で略周期的な反射特性を有する第1の櫛状反射スペクトルを生成する。一方、反射ミラーM1は、図3Aに凡例「Ring」で曲線を示すように、所定の波長間隔で周期的な反射特性を有する第2の櫛状反射スペクトルを生成する。図3B図3Aの反射スペクトルの1550nm近傍を拡大して示した図である。図3Bにおいて、凡例「Mode」は、レーザ共振器C1の共振器モードを示している。共振器モードは少なくとも図3Aに示す1530nm~1570nmの波長範囲に亘って存在しているが、図面では一部のみ示している。図3A、3Bに示すように、第2の櫛状反射スペクトルは、第1の櫛状反射スペクトルのスペクトル成分SC1の半値全幅よりも狭い半値全幅のピークSC2を有し、第1の櫛状反射スペクトルの波長間隔とは異なる波長間隔で略周期的な反射特性を有する。但し、屈折率の波長分散を考慮すると、スペクトル成分は厳密には等波長間隔になっていないことに注意が必要である。
【0038】
各櫛状反射スペクトルの特性について例示すると、第1の櫛状反射スペクトルのピーク間の波長間隔(自由スペクトル領域:FSR)は光の周波数で表すと373GHzであり、各ピークの半値全幅は光の周波数で表すと43GHzである。また、第2の櫛状反射スペクトルのピーク間の波長間隔(FSR)は光の周波数で表すと400GHzであり、各ピークの半値全幅は光の周波数で表すと25GHzである。
【0039】
また、第2の櫛状反射スペクトルのピークは波長に対して急峻に変化する形状を有しており、波長に対する反射率の2次微分がピークより短波長側および長波長側で正値をとる波長域がある。第2の櫛状反射スペクトルのピークは例えば二重指数分布(ラプラス分布)型の形状である。一方、第1の櫛状反射スペクトルのピークは、第2の櫛状反射スペクトルのピークに比して、波長に対して緩やかに変化する形状を有しており、波長に対する反射率の2次微分がピークに対して短波長側および長波長側で負値をとる波長域がある。第1の櫛状反射スペクトルのピークは例えばガウシャン型の形状である。
【0040】
波長可変レーザ素子100において、レーザ発振を実現するために、第1の櫛状反射スペクトルのピークの一つと第2の櫛状反射スペクトルのピークの一つとを波長軸上で重ね合わせ可能に構成されている。図4は、第1の櫛状反射スペクトル、第2の櫛状反射スペクトルおよびその重なりを示す図である。凡例「Overlap」で示す曲線がスペクトルの重なりを示す。図4に示す例では、波長1550nmにて重なりがもっとも大きくなる。
【0041】
なお、このような重ね合わせは、マイクロヒータ14およびマイクロヒータ25の少なくともいずれか一つを用いて、マイクロヒータ14に電流を流して回折格子層11bを加熱して熱光学効果によりその屈折率を変化させて第1の櫛状反射スペクトルを波長軸上で全体的に移動させる、および、マイクロヒータ25に電流を流してリング状導波路24を加熱してその屈折率を変化させて第2の櫛状反射スペクトルを波長軸上で全体的に移動させる、の少なくともいずれか一つを行うことにより、実現することができる。
【0042】
一方、波長可変レーザ素子100において、図3Bにその一部を示すように、レーザ共振器C1による共振器モードが存在する。波長可変レーザ素子100においては、共振器モードの間隔(縦モード間隔)は25GHz以下となるようにレーザ共振器C1の共振器長が設定されている。この設定の場合、レーザ共振器C1の共振器長は1800μm以上となり、発振するレーザ光の狭線幅化が期待できる。
【0043】
波長可変レーザ素子100は、n側電極30およびp側電極13から利得部11aへ電流を注入し、発光させると、第1の櫛状反射スペクトルのスペクトル成分のピーク、第2の櫛状反射スペクトルのスペクトル成分のピーク、およびレーザ共振器の共振器モードの一つが一致した波長、たとえば1550nmでレーザ発振し、回折格子層11bの側からレーザ光を出力する。このレーザ光は、n側電極30およびp側電極15から電流を注入されて半導体光増幅器として機能する光増幅部11cによって光増幅され、レーザ光L1(図1参照)として出力する。なお、レーザ共振器C1の共振器モードの波長は、マイクロヒータ26に電流を流して位相調整部27を加熱してその屈折率を変化させて反射ミラーM1の特性を変化させ、その結果共振器モードの波長を波長軸上で全体的に移動させることにより微調整することができる。すなわち、位相調整部27は、反射ミラーM1内で光の位相を調整することで反射ミラーM1の特性を変化させ、その結果レーザ共振器C1内でレーザ共振器C1の光路長を制御するための部分である。
【0044】
レーザ光の狭線幅化のために共振器長を長くすると、共振器モード間の間隔が狭くなっていくが、特に、第1の櫛状反射スペクトルのピークの半値全幅内に複数の共振器モードが存在するほどに共振器モードのモード間の間隔が狭くなると、通常の場合はレーザ発振させる共振器モードの選択が困難となってしまう。
【0045】
しかし、波長可変レーザ素子100では、このように共振器モード間の間隔が狭い場合であっても、第1の櫛状反射スペクトルの半値全幅の広いピークの中に、これよりも半値全幅の狭い第2の櫛状反射スペクトルのピークを存在させることとなるため、共振器モードを選択する制御が容易となる。したがって、波長可変レーザ素子100では、レーザ共振器C1は、共振器モードのモード間の間隔が、第1の櫛状反射スペクトルのピーク内に共振器モードが2本以上含まれるような長い共振器長に構成されていても、共振器モードを選択する制御が容易となる。
【0046】
さらに、第2の櫛状反射スペクトルのピークが二重指数分布型の形状であれば、第1の櫛状反射スペクトルのピークがガウシャン型の形状の場合に、第1の櫛状反射スペクトルのピークに対するピークの先鋭度を大きくすることができる。これにより、第1の櫛状反射スペクトルのピークの高さよりも第2の櫛状反射スペクトルのピークが突出して高くなり、第2の櫛状反射スペクトルのピークの反射率を、第1の櫛状反射スペクトルのピークの反射率よりも容易に高くできる。したがって、安定した単一モード発振をより容易に実現できる。
【0047】
つぎに、図3A、3B、4、5を用いて、波長可変レーザ素子100におけるレーザ発振波長の選択方法を説明する。波長可変レーザ素子100では、バーニア効果を利用してレーザ発振波長の選択を行っている。
【0048】
図3A、3B、4にも示すように、第1の櫛状反射スペクトルと第2の櫛状反射スペクトルとのFSRは、わずかに異なるように設計されている。なお、ピークがより鋭い第2の櫛状反射スペクトルのFSRの方を大きくすることで、スペクトルの重なりのピークが最も高い1550nmに隣接する重なり(例えば、1547nm付近の重なり)のピークの高さが相対的に小さくなる。その結果、スペクトルの重なりのピークが最も高い波長に隣接する重なりのピークの波長でのレーザ発振が抑制されることとなるので、サイドモード抑圧比を高くできる。
【0049】
波長可変レーザ素子100における可変波長範囲は、バーニア効果により、FSRの最小公倍数で決定される。第1の櫛状反射スペクトルのピークの一つと第2の櫛状反射スペクトルのピークの一つが重ね合わせられ、そのピークが一致した波長で反射率が最大となり、レーザ発振が起こる。つまり、回折格子層11bと反射ミラーM1のバーニア効果により大まかなレーザ発振波長が決定される(スーパーモード)。より精密には、レーザ発振波長は、レーザ共振器C1内において、回折格子層11bから、2分岐部21、リング共振器フィルタRF1のアーム部22、23のうちの一方、リング状導波路24、アーム部22、23のうちの他方、2分岐部21を順に経由して回折格子層11bに帰還する経路(共振器長)で定義される共振器モードの波長とスーパーモードとの重なりで決定される。すなわち、重ね合わされた第1の櫛状反射スペクトルのピークと第2の櫛状反射スペクトルのピークの重なり領域に、レーザ共振器C1の共振器モードの一つを一致させ、その一致した共振器モードの波長でレーザ発振することとなる。したがって、波長可変レーザ素子100では、回折格子層11bに対するマイクロヒータ14とリング共振器フィルタRF1に対するマイクロヒータ25とにより第1の櫛状反射スペクトルと第2の櫛状反射スペクトルとをそれぞれチューニングすることで粗調を行い、位相調整部27に対するマイクロヒータ26により共振器長をチューニングすることで微調を行う波長可変動作が実現される。
【0050】
図3A、3Bに示す状態(第1の状態とする)では、第1の櫛状反射スペクトルと第2の櫛状反射スペクトルとは波長1550nmで重なりが最も大きい(スーパーモード)。第1の状態ではレーザ発振波長は1550nm付近に粗調されている状態である。第1の状態で位相調整部27をチューニングすることで共振器モードを微調することで、波長1550nmでのレーザ発振を得ることができる。
【0051】
つぎに、レーザ発振波長を変更する場合は、リング共振器フィルタRF1のチューニングを固定した状態で、回折格子層11bのみマイクロヒータ14で加熱する。すると、熱光学効果により回折格子層11bの屈折率が上昇し、回折格子層11bの反射スペクトル(第1の櫛状反射スペクトル)は、図5に矢印で示すように全体的に長波側にシフトする。その結果、1550nm付近の反射ミラーM1の反射スペクトル(第2の櫛状反射スペクトル)のピークとの重なりが解かれ、長波側に存在する別のピーク(1556nm付近)に重なる。これにより、別のスーパーモードへの遷移が実現する。さらに、位相調整部27をチューニングして共振器モードを微調することで、1556nm付近でのレーザ発振を実現できる。なお、レーザ発振波長を短波側に変更する際は、回折格子層11bのチューニングを固定し、反射ミラーM1のみマイクロヒータ25で加熱して、反射ミラーM1の櫛状反射スペクトルを全体的に長波側にシフトさせればよい。
【0052】
波長可変レーザ素子100では、波長可変動作を実現するために、マイクロヒータによる熱光学効果を利用しているが、波長可変動作を実現するために電流注入によるキャリアプラズマ効果も利用可能にするようにしてもよい。この場合は電流注入により屈折率が下がるため、櫛状反射スペクトルは全体的に短波側にシフトし、それまでスーパーモードが形成されていた波長より短波側に存在する別のスペクトル成分において重なりが生じ、新たなスーパーモードを形成することが可能である。
【0053】
なお、波長可変レーザ素子100では、スーパーモードの遷移が行われた後、位相調整部27をチューニングして共振器モードの微調整を行っている。ここで、共振器モードの間の間隔が狭く、回折格子層11bの櫛状反射スペクトルのピークの半値全幅よりも狭い場合は、回折格子層11bのピークの中に複数本の共振器モードが存在することも有りうる。しかし、波長可変レーザ素子100では、反射ミラーM1の櫛状反射スペクトルのピークの半値全幅の方が、回折格子層11bの櫛状反射スペクトルのピークの半値全幅よりも狭い。そのため、反射ミラーM1の櫛状反射スペクトルのピークに、複数本の共振器モードが競合する可能性は低く、一本のみの共振器モードを反射ミラーM1のピークに一致するように、位相調整部27をチューニングして共振器モードの微調整を行うのは容易である。
【0054】
ここで、波長可変レーザ素子100では、レーザ共振器C1内の光帰還は、回折格子層11bから、2分岐部21、アーム部22、23のうちの一方、リング状導波路24、アーム部22、23のうちの他方、2分岐部21を順に経由して回折格子層11bに帰還する経路で行われ、かつ1回の光帰還中にリング状導波路24内を周回する。なお、光帰還の光路として、時計周りの光路と反時計周りの光路の2つが存在する。これにより、光帰還長が長くなるので、実効的な共振器長を長くでき、レーザ光L1の狭線幅化を実現できる。
【0055】
このとき、位相調整部27はアーム部23に設けられているため、1回の光帰還中に、光は位相調整部27を一方向にのみ通過する。そのため、1回の光帰還中に光が位相の調整を受ける光路長は、位相調整部27における光路長に相当する。一方、たとえば特許文献1に記載の実施形態1の波長可変レーザ素子(以下、従来構造の波長可変レーザ素子と記載する)のように、位相調整部が第1の導波路部に配置されている場合は、1回の光帰還中に、光は位相調整部を往復する。そのため、1回の光帰還中に光が位相の調整を受ける光路長は、位相調整部における光路長の2倍に相当し、位相がより多く変化することとなる。なお、位相調整部が、1回の光帰還中に光が位相調整部を往復するような位置に設けられている場合は、同様に位相がより多く変化する。
【0056】
このため、位相調整のために位相調整部のマイクロヒータに与える電力Wと、これにより調整される光の位相量φとの関係は、たとえば図6に示す特性となる。ここで、線X1は従来構造の波長可変レーザ素子の特性を示し、線X2は波長可変レーザ素子100の特性を示す。
【0057】
図6からわかるように、微少量の位相量Δφだけ光の位相を調整したい場合、従来構造の波長可変レーザ素子では、ΔW1のように微少量の電力の調整が必要となる。これに対して、波長可変レーザ素子100では、ΔW1より大きいΔW2のような電力の調整量で、位相量Δφだけ調整を行うことができる。言い換えれば、波長可変レーザ素子100では、位相調整部のマイクロヒータに与える電力の調整分解能に比して、より細かく位相量の調整ができる。
【0058】
このように、波長可変レーザ素子100では、反射フィルタ素子としての反射ミラーM1内において、位相調整部27がアーム部23に設けられているため、光の位相を調整する場合、すなわちレーザ共振器C1の共振器長を調整する場合に、より微調整がしやすくなる。
【0059】
波長可変レーザ素子100では、狭線幅化のために共振器長が長くされるので、縦モードの間隔が比較的狭い。そのため、波長可変レーザ素子100が、より微調整がしやすい構成であることは、レーザ発振波長の正確な調整、または調整のためのマイクロヒータ(第3の屈折率変化器)の制御を容易にするために効果的である。
【0060】
また、波長可変レーザ素子100では、位相調整部27が設けられたアーム部23がハイメサ導波路構造を有しているため、マイクロヒータ26からの熱が光導波層20bに効率的かつ早く到達するため、レーザ発振波長の制御上好ましい。
【0061】
以上説明したように、波長可変レーザ素子100は、位相の微調整がしやすい反射ミラーM1を備えているため、レーザ発振波長をより正確に調整でき、また調整のための制御を容易にできる。
【0062】
なお、特許文献1の波長可変レーザ素子では、位相調整部と利得部とが隣接しているので、利得部の動作により発生する熱が位相調整部に伝達する。その結果、位相調整部のマイクロヒータに、所望の位相調整のために必要な熱量を加えても、利得部から伝達してきた熱が干渉して、所望の位相調整を実現しにくい。これに対して、波長可変レーザ素子100は、位相調整部27およびマイクロヒータ26が、アーム部23における利得部11aから離間した位置に配置されているので、特許文献1の波長可変レーザ素子の構成に比べて、利得部11aが発生する熱の干渉が防がれ、所望の位相調整をより一層容易に実現できる。
【0063】
また、波長可変レーザ素子100は、たとえば特許文献1に記載の従来構造の波長可変レーザ素子と同様な方法で製造できる。また、第1の導波路部10と第2の導波路部20との接続部は、互いに異なる導波路構造の接続部であるため、たとえば特許文献2に開示される光導波構造を採用し、損失が少なく、製造誤差に対するトレランスが高いものとすることが好ましい。これにより、2分岐部21の光入出力ポート側は、回折格子層11bを有する導波路構造(埋込み導波路構造)に対して、光の導波モードを略同等にした状態で光学的に結合される。ここで、光の導波モードを略同じにした状態とは、2つの導波路構造の間の接続損失の低減を目的として、導波する光のスポットサイズを変換し、光の導波モードを近づけるように設計された状態を意味するものであり、導波モードが同じ場合だけでなく、接続損失が所望値以下に低減される程度に相違がある場合も含まれる。なお、特許文献1に対応するUS Patent Application NO. 15/708,994はここにその全ての開示において挿入されているものとする(US Patent Application NO. 15/708,994 are hereby incorporated by reference in their entireties.)。
【0064】
第1の導波路部10と第2の導波路部20との接続部の光導波路構造(以下、接続光導波路構造と適宜記載する)は、特許文献2に開示される光導波構造と同様に、第1部と、第2部と、第3部と、第4部と、を備えている。これらの導波路は、長手方向(光導波方向)において、第1部、第3部、第4部、第2部の順に配列している。
【0065】
第1部は、埋込み導波路構造を有する、利得部11aを含む第1の導波路部10の部分である。
【0066】
第2部は、2つのハイメサ導波路構造である、2分岐部21の2つの分岐ポートおよび2つのアーム部22、23の部分である。
【0067】
第3部は、埋め込み導波路構造を含むメサストライプ構造を有する、利得部11aを含む第1の導波路部10の部分である。すなわち、第3部は、埋め込み導波路構造がメサストライプ形状となっている部分である。
【0068】
第3部の埋め込み導波路構造における幅方向の光の閉じ込めは、主に埋め込み構造の部分により規定され、メサストライプ構造の幅方向両側に存在する媒質の光閉じ込めへの影響は無視できるほど小さくなるように、第3部の設計がなされている。
【0069】
第4部は、ハイメサ導波路構造を有する、2分岐部21の光入出力ポートと2つの分岐ポートとの間の部分、すなわちMMI導波路の部分である。
【0070】
第2部の各ハイメサ導波路構造および第4部のハイメサ導波路構造の幅方向両側は、光導波層よりも屈折率が低い材料、たとえばSiO、空気、ポリイミドなどが存在する。
【0071】
第4部は、第2部の2つのハイメサ導波路構造と、第3部の埋め込み導波路構造とを光学的に接続する。具体的には、第4部のハイメサ導波路構造の、第3部の埋め込み導波路構造との接続端における導波路幅は、第3部の埋め込み導波路構造の導波路幅(利得部11aの幅)よりも広くなっている。なお、第1部の埋め込み導波路構造の導波路幅は第3部の埋め込み導波路構造の導波路幅と同じである。また、第4部のハイメサ導波路構造の、第2部の2つのハイメサ導波路構造との接続端における導波路幅は、2つのハイメサ導波路構造の導波路幅の合計よりも広い。そして、第4部のハイメサ導波路構造の一方の端部において第4部の光導波層が第2部の2つの光導波層と接続し、第4部のハイメサ導波路構造の他方の端部において光導波層が第3部の利得部11aと接続することにより、第4部のハイメサ導波路構造と第3部の埋め込み導波路構造とが光学的に接続される。
【0072】
また、この接続光導波路構造において、第3部のメサストライプ構造の幅は、第4部のハイメサ導波路構造の導波路幅と等しい。その構造において、第4部が第3部と接続することにより、ハイメサ導波路構造から埋め込み導波路構造へと遷移する。
【0073】
この接続光導波路構造は、第1部から入力された光を、第4部によりマルチモードで導波し、かつ第2部の2つのハイメサ導波路構造のそれぞれとの接続部に光のスポットを結像させ、2分岐して出力するように動作する。また、この接続光導波路構造は、第2部の2つのハイメサ導波路構造のそれぞれから入力された光を、第4部によりマルチモードで導波し、合波して第3部の埋め込み導波路構造との接続部に光のスポットを結像させ、第1部から出力するように動作する。
【0074】
この接続光導波路構造は、上記構造を有することにより、製造誤差等により、第4部のハイメサ導波路構造の光導波層の長手方向に垂直な方向(幅方向)における中心軸と、第3部の埋め込み導波路構造の利得部11aの幅方向における中心軸および第1部の埋め込み導波路構造の利得部11aの幅方向における中心軸とが、幅方向で位置ずれしてしまったとしても、この位置ずれにより発生する過剰損失を小さくすることができる。すなわち、この接続光導波路構造は、異なる導波路構造の接続部における損失が少なく、製造誤差に対するトレランスが高いものである。
【0075】
(実施形態2)
つぎに、実施形態2について説明する。本実施形態2では、第2の導波路部がシリコン(Si)フォトニクス導波路からなるなど点で実施形態1と異なる。
【0076】
図7は、実施形態2に係る波長可変レーザ素子の模式的な斜視図である。波長可変レーザ素子200は、1.55μm帯でレーザ発振し、レーザ光を出力するように構成されている。波長可変レーザ素子200は、第1の導波路部210と第2の導波路部220とを備えている。
【0077】
第1の導波路部210は、導波路部211と、半導体積層部212と、n側電極213と、マイクロヒータ214とを備えている。導波路部211は、半導体積層部212内にz方向に延伸するように形成されている。第1の導波路部210内には、利得部211aとDBR型の回折格子層211bとが配置されている。半導体積層部212は、半導体層が積層して構成されており、導波路部211に対してクラッド部の機能等を備える。利得部211aは、実施形態1における利得部11aと同一の材料からなる多重量子井戸構造と光閉じ込め層とを有する。また、回折格子層211bは、実施形態1における回折格子層11bと同一の材料からなる標本化回折格子で構成されている。また、半導体積層部212は、利得部211aが含まれる部分においては、実施形態1における半導体積層部12の利得部11aが含まれる部分と同様の材料、構造からなるが、y方向において利得部211aを挟んでp型半導体層とn型半導体層との位置が逆転した積層構造を有する点とで異なる。また、半導体積層部212は、回折格子層211bが含まれる部分においては、実施形態1における半導体積層部12の回折格子層11bが含まれる部分と同様の材料、構造からなるが、y方向において回折格子層211bを挟んでp型半導体層とn型半導体層との位置が逆転した積層構造を有する点とで異なる。第1の導波路部210は埋込み導波路構造を有する。
【0078】
n側電極213は、半導体積層部212上において、利得部211aに沿うように配置されている。なお、半導体積層部212にはSiN保護膜が形成されており、n側電極213はSiN保護膜に形成された開口部を介して半導体積層部212に接触している。第1の屈折率変化器としてのマイクロヒータ214は、半導体積層部212のSiN保護膜上において、回折格子層211bに沿うように配置されている。また、半導体積層部212のn側電極213が形成された面と反対側の面には、不図示のp側電極が形成されている。
【0079】
つぎに、第2の導波路部220について説明する。第2の導波路部220は、SOI(Silicon On Insulator)基板S2で構成されている。第2の導波路部220は、2分岐部221と、アーム部222、223と、リング状導波路224と、マイクロヒータ225と、SiOからなるオーバークラッド層230とを備えている。また、アーム部223には、マイクロヒータ226と、位相調整部227とが設けられている。
【0080】
2分岐部221は、光が入出力する光入出力ポートと、光入出力ポートから入力された光が2分岐して出力される2つの分岐ポートとを有している。本実施形態では、2分岐部221は、1×2型のMMI導波路を含む1×2型の分岐型導波路で構成されており、2つの分岐ポートが2つのアーム部222、223のそれぞれに接続されるとともに、光入出力ポートが第1の導波路部210側に接続されている。2分岐部221により、2つのアーム部222、223は、その一端が統合され、回折格子層211bと光学的に結合される。2分岐部221の光入出力ポート側には、第1の導波路部210に向かって幅が細くなるテーパ部が形成されている。テーパ部の外周には、SiOより屈折率の高い、たとえばSiNからなるオーバークラッド層が形成されており、スポットサイズ変換器構造となっている。
【0081】
アーム部222、223は、2分岐部221からY字形状に延び、さらに互いに平行になるように形成されている。アーム部222、223は、リング状導波路224を挟むように配置されている。アーム部222、223はリング状導波路224と近接し、いずれも同一の結合係数κでリング状導波路224と光学的に結合している。アーム部222、223とリング状導波路224とは、リング共振器フィルタRF2を構成している。また、リング共振器フィルタRF2と2分岐部221とは、反射フィルタ素子としての反射ミラーM2を構成している。第2の屈折率変化器としてのマイクロヒータ225はリング状であり、オーバークラッド層230上でリング状導波路224の直上に配置されている。また、第3の屈折率変化器としてのマイクロヒータ226は、オーバークラッド層230上に位相調整部227に沿って配置されている。
【0082】
アーム部222は、SOI基板S2のSiの支持基板からなる支持層と、支持層上に位置するSiOからなるBOX(Buried OXide)層とで構成された下層と、BOX層上に位置するSiからなるデバイス層と、からなるハイメサ導波路構造を有する。デバイス層が光導波層として機能し、ハイメサ導波路構造はオーバークラッド層230で覆われている。なお、第2の導波路部220のその他の構成要素である2分岐部221、アーム部223、リング状導波路224も同様にハイメサ導波路構造を有している。
【0083】
また、第1の導波路部210は、ゲインチップとして公知の方法で別途作製され、第2の導波路部220を構成するSOI基板S2においてデバイス層とBOX層と支持基板の一部とが除去されることにより形成された凹部CCに実装されている。このとき、第1の導波路部210の利得部211aと、第2の導波路部220の2分岐部221の光入出力ポートとはバットジョイント接続されている。
【0084】
互いに光学的に接続された回折格子層211bと反射ミラーM2とは、レーザ共振器C2を構成している。利得部211aはレーザ共振器C2内に配置され、位相調整部227は反射ミラーM2内に配置されている。
【0085】
この波長可変レーザ素子200においても、実施形態1、2と同様に、回折格子層211bは、略所定の波長間隔で略周期的な反射特性を有する第1の櫛状反射スペクトルを生成する。また、反射ミラーM2は、第1の櫛状反射スペクトルのスペクトル成分の半値全幅よりも狭い半値全幅のピークを有し、第1の櫛状反射スペクトルの波長間隔とは異なる波長間隔で略周期的な反射特性を有する第2の櫛状反射スペクトルを生成する。そして、第1の櫛状反射スペクトルのピーク、第2の櫛状反射スペクトルのピーク、およびレーザ共振器C2の共振器モードの一つが一致した波長でレーザ発振する。また、レーザ共振器C2の共振器モードのモード間の間隔が、第1の櫛状反射スペクトルのスペクトル成分の半値全幅よりも狭い。さらには、レーザ共振器C2内の光帰還は、回折格子層211bから、2分岐部221、リング共振器フィルタRF2のアーム部222、223のうちの一方、リング状導波路224、アーム部222、223のうちの他方、2分岐部221を順に経由して回折格子層211bに帰還する経路で行われ、かつ1回の光帰還中にリング状導波路224内を周回する。これにより、波長可変レーザ素子200によれば、光帰還長が長くなるので、実効的なレーザ光の狭線幅化が可能となる。また、実施形態1と同様に、安定した単一モード発振を実現できる。
【0086】
また、波長可変レーザ素子200においても、レーザ発振波長については、実施形態1の場合と同様に、回折格子層211bに対するマイクロヒータ214とリング状導波路224に対するマイクロヒータ225とにより第1の櫛状反射スペクトルと第2の櫛状反射スペクトルとをそれぞれチューニングすることで粗調、位相調整部227に対するマイクロヒータ226により共振器長をチューニングすることで微調を行うことにより、波長可変動作が実現される。
【0087】
波長可変レーザ素子200によれば、実施形態1と同様に、レーザ光の狭線幅化および安定した単一モード発振を実現できる。さらに、波長可変レーザ素子200は、第2の導波路部220がSiフォトニクス導波路で構成されている。Siフォトニクス導波路は、導波路閉じ込めが強いため曲げに強い。したがって、直径の小さなリング状導波路224を容易に実現できる。これにより、FSRの大きいリング状導波路224が実現でき、リング共振器フィルタRF2の設計自由度が向上するということを意味する。これにより、波長可変レーザ素子200によれば、フットプリントが小さくコンパクトであり、且つサイドモード抑圧比の高いレーザ光を出力することができる。
【0088】
さらに、波長可変レーザ素子200では、反射フィルタ素子としての反射ミラーM2内において、位相調整部227がアーム部223に設けられているため、光の位相を調整する場合、すなわちレーザ共振器C2の共振器長を調整する場合に、より微調整がしやすくなる。そして、レーザ発振波長の正確な調整、または調整のためのマイクロヒータ226の制御を容易にするために効果的である。
【0089】
以上説明したように、波長可変レーザ素子200は、位相の微調整がしやすい反射ミラーM2を備えているため、レーザ発振波長をより正確に調整でき、また調整のための制御を容易にできる。
【0090】
なお、波長可変レーザ素子200は、たとえば特許文献1の実施形態3の波長可変レーザ素子と同様な方法で製造できる。
【0091】
(実施形態3)
つぎに、実施形態3について説明する。本実施形態3でも、実施形態2と同様に第2の導波路部がシリコンフォトニクス導波路からなるが、第2の導波路部に回折格子が設けられる点と、第1の導波路部がU字形状の導波路を備える点などで実施形態3と異なる。
【0092】
図8は、実施形態3に係る波長可変レーザ素子の模式な斜視図である。波長可変レーザ素子300は、1.55μm帯でレーザ発振し、レーザ光を出力するように構成されている。波長可変レーザ素子300は、第1の導波路部310と第2の導波路部320とを備えている。
【0093】
第1の導波路部310は、導波路部311と、半導体積層部312と、n側電極313とを備えている。導波路部311は、半導体積層部312内においてその一部がz方向に延伸するようなU字形状に形成されている。第1の導波路部310内には、利得部311aと光導波層311bとが配置されている。半導体積層部312は、半導体層が積層して構成されており、導波路部311に対してクラッド部の機能等を備える。利得部311aは、z方向に延伸しており、実施形態1における利得部11aと同一の材料からなる多重量子井戸構造を有する。また、光導波層311bは、InGaAsPからなる光導波層である。光導波層311bでの光損失を低減し、光を効果的に閉じ込めるために、光導波層311bのバンドギャップ波長は利得部311aのバンドギャップ波長より短いことが好ましく、たとえば1.3μm以下である。光導波層311bは、利得部311aとともにU字形状を形成している。また、半導体積層部312は、利得部311aが含まれる部分においては、実施形態1における半導体積層部12の利得部11aが含まれる部分と同様の材料、構造からなるが、y方向において利得部311aを挟んでp型半導体層とn型半導体層との位置が逆転した積層構造を有する点とで異なる。また、半導体積層部312は、光導波層311bが含まれる部分においては、実施形態1における半導体積層部12の回折格子層11bが含まれる部分と同様の材料、構造からなるが、y方向において利得部311aを挟んでp型半導体層とn型半導体層との位置が逆転した積層構造を有する点とで異なる。第1の導波路部310は埋込み導波路構造を有する。
【0094】
n側電極313は、半導体積層部312上において、利得部311aに沿うように配置されている。なお、半導体積層部312には半導体積層部312を覆うようにSiN保護膜が形成されており、n側電極313はSiN保護膜に形成された開口部を介して半導体積層部312に接触している。また、半導体積層部312のn側電極313が形成された面と反対側の面には、不図示のp側電極が形成されている。
【0095】
つぎに、第2の導波路部320について説明する。第2の導波路部320は、SOI基板で構成されている。第2の導波路部320は、2分岐部321と、アーム部322、323と、リング状導波路324と、マイクロヒータ325、333と、SiOからなるオーバークラッド層330と、導波路部331と、回折格子部332と、を備えている。また、アーム部323には、マイクロヒータ326と、位相調整部327とが設けられている。
【0096】
2分岐部321は、光が入出力する光入出力ポートと、光入出力ポートから入力された光が2分岐して出力される2つの分岐ポートとを有している。本実施形態では、2分岐部321は、1×2型のMMI導波路を含む1×2型の分岐型導波路で構成されており、2つの分岐ポートが2つのアーム部322、323のそれぞれに接続されるとともに、光入出力ポートが第1の導波路部310側に接続されている。2分岐部321により、2つのアーム部322、323は、その一端が統合され、回折格子部332と光学的に結合される。2分岐部321の光入出力ポート側には、第1の導波路部310に向かって幅が細くなるテーパ部が形成されている。テーパ部の外周には、SiOより屈折率の高い、たとえばSiNからなるオーバークラッド層が形成されており、スポットサイズ変換器構造となっている。
【0097】
アーム部322、323は、2分岐部321からY字形状に延び、さらに互いに平行になるように形成されている。アーム部322、323は、リング状導波路324を挟むように配置されている。アーム部322、323はリング状導波路324と近接し、いずれも同一の結合係数κでリング状導波路324と光学的に結合している。アーム部322、323とリング状導波路324とは、リング共振器フィルタRF3を構成している。また、リング共振器フィルタRF3と2分岐部321とは、反射ミラーM3を構成している。第2の屈折率変化器としてのマイクロヒータ325はリング状であり、オーバークラッド層330上のリング状導波路324の直上に配置されている。
【0098】
導波路部331は、z方向に延伸する導波路であり、一端が第1の導波路部310の光導波層311b側に接続されており、他の一端が回折格子部332に接続されている。第1の屈折率変化器としてのマイクロヒータ333は、オーバークラッド層330上において回折格子部332に沿うように配置されている。
【0099】
なお、第2の導波路部320の構成要素である2分岐部321、アーム部322、323、リング状導波路324、位相調整部327、導波路部331、回折格子部332は、実施形態2の対応する要素と同様のハイメサ導波路構造を有している。なお、回折格子部332は、光導波層として機能するデバイス層にz方向に沿って標本化回折格子が形成され、回折格子の溝はオーバークラッド層330のSiOで埋め込まれた構成を有する。
【0100】
また、第1の導波路部310は、ゲインチップとして公知の方法で別途作製され、第2の導波路部320を構成するSOI基板においてデバイス層とBOX層と支持基板の一部とが除去されることにより形成された凹部CCに実装されている。このとき、第1の導波路部310の利得部311aと第2の導波路部320の2分岐部321の光入出力ポート側とがバットジョイント接続され、かつ第1の導波路部310の光導波層311bと第2の導波路部320の導波路部331とがバットジョイント接続されている。なお、実施形態2の場合と同様に、第2の導波路部320の2分岐部321の1ポート側は、第1の導波路部310に向かって幅が細くなるテーパ部とされ、その外周にたとえばSiNからなるオーバークラッド層が形成され、スポットサイズ変換器構造となっていることが好ましい。
【0101】
互いに光学的に接続された回折格子部332と反射ミラーM3とは、レーザ共振器C3を構成している。利得部311aはレーザ共振器C3内に配置され、位相調整部327は反射ミラーM3内に配置されている。
【0102】
この波長可変レーザ素子300においても、実施形態1、2と同様に、回折格子部332は、略所定の波長間隔で略周期的な反射特性を有する第1の櫛状反射スペクトルを生成する。また、反射ミラーM3は、第1の櫛状反射スペクトルのピークの半値全幅よりも狭い半値全幅のピークを有し、第1の櫛状反射スペクトルの波長間隔とは異なる波長間隔で略周期的な反射特性を有する第2の櫛状反射スペクトルを生成する。そして、第1の櫛状反射スペクトルのピーク、第2の櫛状反射スペクトルのピーク、およびレーザ共振器C3の共振器モードの一つが一致した波長でレーザ発振する。また、レーザ共振器C3の共振器モードのモード間の間隔が、第1の櫛状反射スペクトルのスペクトル成分の半値全幅よりも狭い。さらには、レーザ共振器C3内の光帰還は、回折格子部332から、2分岐部321、リング共振器フィルタRF3のアーム部322、323のうちの一方、リング状導波路324、アーム部322、323のうちの他方、2分岐部321を順に経由して回折格子部332に帰還する経路で行われ、かつ1回の光帰還中にリング状導波路324内を周回する。これにより、実施形態1、2と同様に、本実施形態3に係る波長可変レーザ素子300によれば、レーザ光の狭線幅化および安定した単一モード発振を実現できる。
【0103】
また、波長可変レーザ素子300においても、レーザ発振波長については、実施形態1、2の場合と同様に、回折格子部332に対するマイクロヒータ333とリング共振器フィルタRF3に対するマイクロヒータ325とにより第1の櫛状反射スペクトルと第2の櫛状反射スペクトルとをそれぞれチューニングすることで粗調、位相調整部327に対する第3の屈折率変化器としてのマイクロヒータ326により共振器長をチューニングすることで微調を行うことにより、波長可変動作が実現される。
【0104】
波長可変レーザ素子300も、実施形態2に係る波長可変レーザ素子200と同様にして製造できる。すなわち、SOI基板を用いて第2の導波路部320に関連する部分を作製し、その凹部CCに、別途作製した第1の導波路部310をフリップチップボンディングにより実装する。これにより波長可変レーザ素子300が完成する。
【0105】
本実施形態3に係る波長可変レーザ素子300によれば、実施形態1、2と同様に、レーザ光の狭線幅化および安定した単一モード発振を実現できるとともに、実施形態2と同様に、フットプリントが小さくコンパクトであり、且つサイドモード抑圧比の高いレーザ光を出力することができる。
【0106】
さらに、波長可変レーザ素子300では、反射フィルタ素子としての反射ミラーM3内において、位相調整部327がアーム部323に設けられているため、光の位相を調整する場合に、より微調整がしやすくなる。そして、レーザ発振波長の正確な調整、または調整のためのマイクロヒータ326の制御を容易にするために効果的である。
【0107】
以上説明したように、波長可変レーザ素子300は、位相の微調整がしやすい反射ミラーM3を備えているため、レーザ発振波長をより正確に調整でき、また調整のための制御を容易にできる。
【0108】
(実施の形態4)
つぎに、実施の形態4に係るレーザモジュールについて説明する。図9は、本実施形態4に係るレーザモジュールの模式図である。レーザモジュール1000は、実施形態1に係る波長可変レーザ素子100と、コリメートレンズ1001と、光アイソレータ1002と、ビームスプリッタ1003と、集光レンズ1005と、光ファイバ1006と、受光素子としてのパワーモニタPD(Photo Diode)1009と、エタロンフィルタ1010と、パワーモニタPD1011と、を備えている。また、波長可変レーザ素子100は、波長可変レーザ素子100の温度を調節するための不図示の電子冷却素子に載置されている。波長可変レーザ素子100、パワーモニタPD1009、1011および電子冷却素子は外部の制御部に接続されている。
【0109】
波長可変レーザ素子100は、制御部から駆動電流を供給され、制御部によりマイクロヒータ14、25、26を制御することにより調整された回折格子層11b、リング共振器フィルタRF1、位相調整部27などの条件で決定される波長のレーザ光を光増幅部11cにて所望の出力強度まで増幅してレーザ光L2として出力する。コリメートレンズ1001は、波長可変レーザ素子100から出力されたレーザ光L2を平行光線とする。光アイソレータ1002は、コリメートレンズ1001による平行光線とされたレーザ光L2を一方向のみに透過する。ビームスプリッタ1003は、光アイソレータ1002を透過したレーザ光L2の大部分を透過しつつ一部をパワーモニタPD1009側に分岐する。パワーモニタPD1009は、ビームスプリッタ1008により分岐されたレーザ光L2の一部を受光し、その受光強度に応じた値の電流を出力する。エタロンフィルタ1010は、多重干渉の次数に応じて周期的に変化するピークを有する透過波長特性を有しており、ビームスプリッタ1008を透過したレーザ光L2をレーザ光L2の波長における透過波長特性に応じた透過率で透過する。エタロンフィルタ1010の周期はたとえば光の周波数で50GHzである。パワーモニタPD1011は、エタロンフィルタ1010を透過したレーザ光L2を受光し、その受光強度に応じた値の電流を出力する。集光レンズ1005は、ビームスプリッタ1003を透過したレーザ光L2を集光して光ファイバ1006に結合する。光ファイバ1006は結合されたレーザ光L2を外部に伝搬する。レーザ光L2はたとえば光ファイバ通信用の信号光として使用される。エタロンフィルタ1010はバルクのものを使用しているが、それに代えて、導波路型のフィルタを用いることもできる。
【0110】
このレーザモジュール1000によれば、波長可変レーザ素子100を備えることで、レーザ光L2の狭線幅化および安定した単一モード発振を実現し、レーザ光L2をより高いパワーで出力し、さらにレーザ発振波長の正確な調整や容易な制御ができる。さらに、パワーモニタPD1009、1011から出力される電流をモニタすることにより受光強度をモニタし、制御部による波長ロック制御を行うことができる。
【0111】
具体的には、波長ロック制御では、制御部は、パワーモニタPD1009によってモニタされたレーザ光の強度と、パワーモニタPD1011によってモニタされた、エタロンフィルタ1010透過後のレーザ光の強度との比が、レーザ光L2の波長が所望の波長になるときの比になるように、波長可変レーザ素子100Aの駆動電流と温度とを変化させる制御をする。これにより、レーザ光L2の波長を所望の波長(ロック波長)に制御することができる。
【0112】
なお、上記実施形態1、2では、第1の導波路部において、回折格子層は、導波路部の光の導波方向において利得部に隣接して設けられている。しかしながら、本発明はこれに限られず、回折格子層を、第1の導波路部における半導体層の積層方向(y方向)において利得部の近傍に利得部に沿って設け、DFB(Distributed FeedBack)型のレーザ構造を構成してもよい。
【0113】
また、上記実施形態1~3では、2つのアーム部の一方に位相調整部が設けられている。しかながら、本発明はこれに限られず、2つのアーム部の両方に位相調整部を設け、一つ当たりの位相調整部の長さを、実施形態1~3の場合より短くしてもよい。この場合も、1回の光帰還中に、光は一つの位相調整部を一方向にのみ通過するので、本発明の効果を得られるとともに、必要な位相調整量を与えるための位相調整部およびアーム部の長さをより短くできる。
【0114】
また、上記実施形態2、3の第1の導波路部であるゲインチップは、上述したものに限定されない。たとえば、InPまたはGaAs基板上に量子井戸構造または量子ドット構造を有するものであってもよい。量子井戸構造を構成する化合物半導体材料としては、InGaAs、InGaAsN、AlInGaAs、InGaAsなどのIII-V族化合物半導体を使用できる。また、量子ドット構造を構成する化合物半導体材料としては、InAs、InGaA、またはその他のIII-V族化合物半導体を使用できる。
【0115】
また、上記実施形態では、回折格子は標本化回折格子であるが、回折格子の種類はこれに限られず、超構造回折格子(Superstructure Grating)や重畳回折格子(Superimposed Grating)でもよい。
【0116】
また、上記実施形態では、アーム部はリング状導波路と近接することでリング状導波路と光学的に結合しているが、ハイメサ導波路構造のMMI導波路や、方向性結合型の導波路によって、アーム部とリング状導波路とを光学的に結合してもよい。
【0117】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0118】
10、210、310 第1の導波路部
11、211、311、331 導波路部
11a、211a、311a 利得部
11b、211b 回折格子層
11c 光増幅部
12、212、312 半導体積層部
12a n型半導体層
12b スペーサ層
12c p型InP埋め込み層
12d n型InP電流ブロッキング層
12e p型半導体層
12eaスペーサ層
12eb コンタクト層
13、15 p側電極
14、25、26、214、225、226、325、326、333 マイクロヒータ
16、22d SiN保護膜
16a 開口部
20、220、320 第2の導波路部
22、23、222、223、322、323 アーム部
22a 下部クラッド層
22b、311b 光導波層
22c 上部クラッド層
24、224、324 リング状導波路
27、227、327 位相調整部
30、213、313 n側電極
100、200、300 波長可変レーザ素子
230、330 オーバークラッド層
332 回折格子部
C1、C2、C3 レーザ共振器
CC 凹部
L1 レーザ光
M1、M2、M3 反射ミラー
RF1、RF2、RF3 リング共振器フィルタ
S1 基部
S2 SOI基板
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9