(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】永久電流スイッチ及び超電導マグネット装置
(51)【国際特許分類】
H01L 39/16 20060101AFI20220419BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01L39/16
H01F6/06
(21)【出願番号】P 2018040316
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】中井 昭暢
(72)【発明者】
【氏名】坂本 久樹
【審査官】西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/164918(WO,A1)
【文献】特開2013-074082(JP,A)
【文献】特開2002-134798(JP,A)
【文献】特開2017-038748(JP,A)
【文献】特開2015-043358(JP,A)
【文献】特開2016-051833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/16
H01F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基材に中間層と超電導層がこの順で形成されてなる超電導線材に対する加熱部材による加熱の有無により前記超電導線材を常電導状態と超電導状態との間で遷移させて開閉状態を得る永久電流スイッチであって、
前記加熱部材と前記超電導線材を冷却する冷却部材との間に熱電変換素子が配設されており、
前記永久電流スイッチを開状態にする際には、前記加熱部材で前記超電導線材を加熱するとともに、前記熱電変換素子が、前記加熱部材側を高温にし、前記冷却部材側を低温にするように動作することを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項2】
前記熱電変換素子は、ペルチェ素子で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の永久電流スイッチ。
【請求項3】
前記加熱部材は、前記超電導線材と共巻きされて構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の永久電流スイッチ。
【請求項4】
支持部材の周囲に設けられた前記加熱部材に前記超電導線材が巻き付けられており、
前記熱電変換素子は、前記支持部材と前記冷却部材との間に配設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の永久電流スイッチ。
【請求項5】
支持部材の周囲に巻き付けられた前記超電導線材の外側に前記加熱部材が配置されており、
前記熱電変換素子は、前記支持部材と前記冷却部材との間に配設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の永久電流スイッチ。
【請求項6】
前記永久電流スイッチを閉状態にする際には、前記加熱部材による前記超電導線材の加熱を停止するとともに、前記熱電変換素子が、前記加熱部材側を低温にし、前記冷却部材側を高温にするように動作することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の永久電流スイッチ。
【請求項7】
前記加熱部材に電流を供給する電源と前記熱電変換素子に電流を供給する電源とが共通とされており、
前記加熱部材には、一方向にのみ電流が流れるように構成されており、
前記永久電流スイッチを開状態にする際には、電流を前記一方向に流すことで、前記加熱部材に電流が流れて前記加熱部材が前記超電導線材を加熱することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の永久電流スイッチ。
【請求項8】
前記永久電流スイッチを閉状態にする際には、前記電源が前記一方向とは逆方向に電流を流すことで、前記加熱部材に電流が流れなくなって前記加熱部材による前記超電導線材の加熱が停止されるとともに、前記熱電変換素子が、前記加熱部材側を低温にし、前記冷却部材側を高温にするように動作することを特徴とする請求項7に記載の永久電流スイッチ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の永久電流スイッチと、
前記永久電流スイッチにより常電導状態と超電導状態との間で遷移させられる前記超電導線材で構成され、又は前記超電導線材と接続された超電導線材で構成される超電導コイルと、
を備えることを特徴とする超電導マグネット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久電流スイッチ及び超電導マグネット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液体ヘリウム温度(約4K)に冷却されて使用される低温超電導線材を用いたNMR(Nuclear Magnetic Resonance)分析装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)分析装置等が実用化されている。
一方、近年、臨界温度が液体窒素温度(約77K)よりも高い高温超電導線材(例えばRE系超電導線材)が注目されており、高温超電導線材(以下、単に超電導線材という。)を用いたNMR分析装置やMRI分析装置等の実用化に向けて開発が進められている。
【0003】
NMR分析装置等の超電導マグネット装置100は、例えば
図9に示すように、超電導コイル101と永久電流スイッチ102とが励磁電源103に並列に接続されて構成されている。そして、超電導コイル101に電流を流す際には、最初に、永久電流スイッチ102が開状態で(すなわち永久電流スイッチ102を切った状態で)、冷却して超電導状態にした超電導コイル101に励磁電源103から電流を流す。
そして、超電導コイル101に流す電流を徐々に上げていき、電流が所定の値になった時点で、永久電流スイッチ102を閉状態にして(すなわち永久電流スイッチ102をつなぎ)、その後、励磁電源103の電流値を下げていき電源を切る。
【0004】
このようにして超電導マグネット装置100の超電導コイル101に電流を流す状態では、超電導コイル101と永久電流スイッチ102では超電導線材が超電導状態になっており、電気抵抗がほぼ0である。そのため、超電導コイル101と永久電流スイッチ102で形成されるループを電流(永久電流)が半永久的に流れる状態になり、超電導コイル101で安定した磁場が形成される。
また、超電導マグネット装置100を停止する際には、励磁電源103の電流値を上げていき、永久電流スイッチ102を開状態にする。そして、その後、励磁電源103の電流値を下げていくことで超電導コイル101での電流の流れを止める。
このように、超電導マグネット装置100の起動、停止は、通常、永久電流スイッチ102を開閉させて行われるように構成される。
【0005】
そして、従来、永久電流スイッチ102は、例えば
図10に示すように、冷却部材104で冷却される超電導線材105に接するようにヒータ等の加熱部材106を配置して構成されていた。この場合、加熱部材106で超電導線材105を加熱せずに冷却部材104による冷却のみを行うと、超電導線材105が超電導状態になるため、永久電流スイッチ102は閉状態になる。また、加熱部材106で超電導線材105を加熱すると、超電導線材105は常電導状態に遷移するため、電気抵抗が高くなり、永久電流スイッチ102は開状態になる。
このように、加熱部材106による超電導線材105の加熱と加熱の停止とを切り換えることで永久電流スイッチ102の開閉を行うように構成されていた(例えば特許文献1、2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-153619号公報
【文献】特開平8-203723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、永久電流スイッチ102を
図10に示したように構成すると、永久電流スイッチ102を開状態にするために加熱部材106で発生させた熱が冷却部材104に逃げてしまい、超電導線材105を効率良く加熱することができなくなる。
そのため、超電導線材105が超電導状態から常電導状態になるまでに時間がかかり、永久電流スイッチ102が開状態になるまでに時間がかかる。また、加熱部材106による加熱の時間が長くなるため、加熱に要する電力の消費量が増大してしまうといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、加熱部材で超電導線材を効率良く加熱して、閉状態から速やかに開状態にすることが可能な永久電流スイッチ及びそれを用いた超電導マグネット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
テープ状の基材に中間層と超電導層がこの順で形成されてなる超電導線材に対する加熱部材による加熱の有無により前記超電導線材を常電導状態と超電導状態との間で遷移させて開閉状態を得る永久電流スイッチであって、
前記加熱部材と前記超電導線材を冷却する冷却部材との間に熱電変換素子が配設されており、
前記永久電流スイッチを開状態にする際には、前記加熱部材で前記超電導線材を加熱するとともに、前記熱電変換素子が、前記加熱部材側を高温にし、前記冷却部材側を低温にするように動作することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の永久電流スイッチにおいて、前記熱電変換素子は、ペルチェ素子で形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の永久電流スイッチにおいて、前記加熱部材は、前記超電導線材と共巻きされて構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の永久電流スイッチにおいて、
支持部材の周囲に設けられた前記加熱部材に前記超電導線材が巻き付けられており、
前記熱電変換素子は、前記支持部材と前記冷却部材との間に配設されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の永久電流スイッチにおいて、
支持部材の周囲に巻き付けられた前記超電導線材の外側に前記加熱部材が配置されており、
前記熱電変換素子は、前記支持部材と前記冷却部材との間に配設されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の永久電流スイッチにおいて、前記永久電流スイッチを閉状態にする際には、前記加熱部材による前記超電導線材の加熱を停止するとともに、前記熱電変換素子が、前記加熱部材側を低温にし、前記冷却部材側を高温にするように動作することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の永久電流スイッチにおいて、
前記加熱部材に電流を供給する電源と前記熱電変換素子に電流を供給する電源とが共通とされており、
前記加熱部材には、一方向にのみ電流が流れるように構成されており、
前記永久電流スイッチを開状態にする際には、電流を前記一方向に流すことで、前記加熱部材に電流が流れて前記加熱部材が前記超電導線材を加熱することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の永久電流スイッチにおいて、前記永久電流スイッチを閉状態にする際には、前記電源が前記一方向とは逆方向に電流を流すことで、前記加熱部材に電流が流れなくなって前記加熱部材による前記超電導線材の加熱が停止されるとともに、前記熱電変換素子が、前記加熱部材側を低温にし、前記冷却部材側を高温にするように動作することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、超電導マグネット装置において、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の永久電流スイッチと、
前記永久電流スイッチにより常電導状態と超電導状態との間で遷移させられる前記超電導線材で構成され、又は前記超電導線材と接続された超電導線材で構成される超電導コイルと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加熱部材で発生した熱が、冷却部材に逃げずに超電導線材に的確に伝わるようになるため、加熱部材で超電導線材を効率良く加熱することが可能となる。そのため、永久電流スイッチの部分の超電導線材を速やかに超電導状態から常電導状態に遷移させることが可能となり、永久電流スイッチを閉状態から速やかに開状態にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る超電導マグネット装置の構成を表す回路図である。
【
図3】本実施形態に係る永久電流スイッチの基本的な構成を表す図である。
【
図4】(A)永久電流スイッチの構成例1を表す図であり、(B)(A)のX-X線に沿う断面図である。
【
図5】永久電流スイッチの構成例2を表す図である。
【
図6】永久電流スイッチの構成例3を表す図である。
【
図7】電源に加熱部材と熱電変換素子とを並列に接続した回路構成を表す回路図である。
【
図8】
図7の回路構成においてダイオードを加熱部材に直列に接続した回路構成を表す回路図である。
【
図9】従来の超電導マグネット装置の構成を表す回路図である。
【
図10】従来の永久電流スイッチの構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る永久電流スイッチ及び超電導マグネット装置について説明する。ただし、以下に述べる各実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の各実施形態や図示例に限定するものではない。
【0021】
[超電導マグネット装置]
図1は、本実施形態に係る超電導マグネット装置10の構成を表す回路図である。
本実施形態では、超電導マグネット装置10は、
図9に示した従来の超電導マグネット装置100と同様に、超電導コイル11と永久電流スイッチ1とが励磁電源12に並列に接続されて構成されている。
この場合、少なくとも超電導コイル11と永久電流スイッチ1とを結ぶループの部分の線材は超電導線材で構成される。
【0022】
その際、超電導コイル11を構成する超電導線材13は、永久電流スイッチ1を構成する超電導線材2(すなわち後述するように永久電流スイッチ1により常電導状態と超電導状態との間で遷移させられる超電導線材2)で構成されていてもよく(すなわち永久電流スイッチ1の部分の超電導線材2と超電導線材13とが1本の超電導線材で形成されていてもよく)、また、超電導線材13と超電導線材2とを接続して構成することも可能である。
【0023】
そして、本実施形態の超電導マグネット装置10は、
図9に示した従来の超電導マグネット装置100の場合と同様に、超電導コイル11に電流を流す際には、最初に、永久電流スイッチ1が開状態で、冷却して超電導状態にした超電導コイル11に励磁電源12から電流を流し、超電導コイル11に流す電流を徐々に上げていき、電流が所定の値になった時点で永久電流スイッチ1を閉状態にした後、励磁電源12の電流値を下げていき電源を切るようにして超電導コイル11に電流(永久電流)を流すことができる。
また、超電導コイル11での電流の流れを停止する際には、励磁電源12の電流値を上げていき、後述するように永久電流スイッチ1の部分の超電導線材2に熱を加えて常電導状態に遷移させて、永久電流スイッチ1を開状態にした後、励磁電源12の電流値を下げていくことで、超電導コイル11での電流の流れを止めることができるようになっている。
【0024】
[超電導線材]
ここで、超電導線材2について説明する。なお、超電導コイル11を構成する超電導線材13も同じように構成されている。
超電導線材2は、例えば
図2に示すように、テープ状の基材2Aの片方の主面(すなわち厚み方向における一方の面)上に中間層2B、超電導層2C、保護層2Dがこの順に形成された積層体と、その積層体の周囲を被覆する銅安定化層2Eを備えて構成されている。なお、
図2における各層の相対的な厚さは、必ずしも実際の厚さを反映していない。
【0025】
基材2Aは、例えばハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル基合金やステンレス鋼等で形成されている。
中間層2Bは、超電導層2Cの下地となる層であり、例えばLaMnO3(LMO)等で形成されている。
超電導層2Cは、例えば液体窒素温度以上で超電導を示すRE系超電導体(RE:希土類元素)、例えば化学式YBa2Cu3O7-y(yは酸素不定比量)で表されるイットリウム系超電導体で形成されている。
保護層2Dは、超電導層2Cの表面を覆う金属層であり、例えば銀で形成されている。
【0026】
[永久電流スイッチ]
次に、本実施形態に係る永久電流スイッチ1について説明する。
本実施形態では、永久電流スイッチ1では、超電導線材2に対する加熱部材による加熱の有無により超電導線材2を常電導状態と超電導状態との間で遷移させて開閉状態を得るようになっている。
【0027】
[永久電流スイッチの基本的な構成]
以下、
図3を用いて、本実施形態に係る永久電流スイッチ1の基本的な構成について説明する。
図3に示すように、本実施形態では、永久電流スイッチ1は、超電導線材2と、それを加熱する加熱部材3と、超電導線材2等を冷却する冷却部材4とを備えている。そして、加熱部材3と冷却部材4との間に熱電変換素子5が配設されており、熱電変換素子5が、加熱部材3と冷却部材4との間に介在するように構成されている。
【0028】
加熱部材3は、通電により発熱するヒータ等で構成されており、超電導線材2と接するように配置されている。
冷却部材4は、熱電変換素子5を介して超電導線材2や加熱部材3を支持するとともに、接続されている図示しない冷凍機により液体窒素温度近くまで冷却されており、超電導線材2等から熱を奪うことで超電導線材2等を冷却するようになっている。
【0029】
本実施形態では、熱電変換素子5は、ペルチェ素子で形成されている。ペルチェ素子は、2種類の金属の接合部に電流を流すと一方の金属から他方の金属に熱が移動するペルチェ効果を利用した素子であり、直流電流をある方向に流すと、一方の面側を低温にして外部から熱を吸収し、他方の面側を高温にして発熱する。また、電流を反転させると、各面の高温と低温が逆になり、吸熱と発熱が逆になるように構成されている。
そして、本実施形態では、永久電流スイッチ1を開状態にする際には、加熱部材3で超電導線材2を加熱するとともに、熱電変換素子5が、超電導線材2や加熱部材3側(
図3等でAで示される側)を高温にし、冷却部材4側(
図3等でBで示される側)を低温にするように動作するようになっている。
【0030】
[永久電流スイッチの構成例]
ここで、本実施形態に係る永久電流スイッチ1の具体的な構成例をいくつか挙げて説明する。
例えば、超電導コイル11(
図1参照)が大型であるような場合には、超電導線材2の比較的長い区間(数十cm程度)を常電導状態にしないと永久電流を止めることが困難になる場合がある。そのため、以下では、超電導線材2を常電導状態に遷移させる区間を長くすることができるように構成された構成例を示す。
【0031】
[構成例1]
例えば、
図4(A)に示すように、永久電流スイッチ1の部分の超電導線材2をループ状に引き回し、加熱部材3を超電導線材2と共巻きするように構成する。そして、
図4(B)に示すように、共巻きされた超電導線材2及び加熱部材3と冷却部材4との間に熱電変換素子5を配設するように構成することが可能である。なお、
図4(A)、(B)や後述する
図5、
図6では、超電導コイル11等の図示が省略されている。
このように構成すると、引き回す超電導線材2の長さを長くし、それと共巻きする加熱部材3の長さを長くすることで、後述するように加熱部材3で超電導線材2を加熱して超電導線材2を常電導状態に遷移させる区間を長くすることができる。
【0032】
[構成例2]
また、
図5に示すように、例えば円柱形の支持部材6の周囲に設けられた加熱部材3に超電導線材2を巻き付けるように構成する。そして、熱電変換素子5を、支持部材6と冷却部材4との間に配設するように構成することが可能である。
【0033】
[構成例3]
また、
図6に示すように、例えば円柱形の支持部材6の周囲に巻き付けられた超電導線材2の外側に加熱部材3を配置するように構成する。そして、熱電変換素子5を、支持部材6と冷却部材4との間に配設するように構成することが可能である。
【0034】
そして、構成例2や構成3のように構成すると、支持部材6に巻き付ける超電導線材2の長さを長くし、加熱部材3と接する部分の長さを長くすることで、後述するように加熱部材3で超電導線材2を加熱して超電導線材2を常電導状態に遷移させる区間を長くすることができる。
そのため、超電導コイル11が大型であるような場合であっても、常電導状態に遷移させる超電導線材2の区間を長くすることが可能となり、的確に永久電流を止めることが可能となる。
【0035】
[作用]
次に、本実施形態に係る永久電流スイッチ1や超電導マグネット装置10の作用について説明する。
超電導マグネット装置10(
図1参照)の超電導コイル11に永久電流が流れている状態(この状態では永久電流スイッチ1は閉状態になっており励磁電源12は切られている。)で、永久電流スイッチ1を開状態にする場合、加熱部材3に電流を流す等して加熱部材3が発熱して超電導線材2を加熱すると、加熱部材3で加熱された超電導線材2の部分が超電導状態から常電導状態に遷移して非常に抵抗が高い状態になる。そのため、超電導コイル11に流れていた電流が流れなくなり、超電導マグネット装置10が停止する。
【0036】
そして、その際、前述したように従来の永久電流スイッチ102(
図10参照)では、加熱部材106で発生させた熱がより低温の冷却部材104側に逃げてしまうため、超電導線材105を効率良く加熱することができない等の問題が生じた。
それに対し、本実施形態に係る永久電流スイッチ1では、永久電流スイッチ1を開状態にするために上記のように加熱部材3を発熱させて超電導線材2を加熱する際に、加熱部材3と冷却部材4との間に介在する熱電変換素子5の加熱部材3や超電導線材2側(
図3等のA参照)を高温にし、冷却部材4側を低温にするように動作する。
【0037】
そのため、本実施形態では、高温の加熱部材106に熱電変換素子5の高温側が対向しているため、加熱部材3の熱は、熱電変換素子5側(すなわち冷却部材4側)には逃げずに超電導線材2に伝わるようになり、超電導線材2が加熱部材3の熱で効率良く加熱される。
また、本実施形態では、熱電変換素子5はこのように加熱部材3から冷却部材4に熱が伝導しないようにするためのものであるが、例えば
図4(A)、(B)に示したように熱電変換素子5と超電導線材2とが接するように構成した場合は、熱電変換素子5の高温側からの熱が超電導線材2に伝わるため、熱電変換素子5自体が超電導線材2の加熱に関与する場合もある。
【0038】
このように、本実施形態では、永久電流スイッチ1を開状態にする際に、超電導線材2が加熱部材3(及び熱電変換素子5)の熱で効率良く加熱されるため、永久電流スイッチ1の部分の超電導線材2を速やかに超電導状態から常電導状態に遷移させることが可能となる。そのため、永久電流スイッチ1を閉状態から速やかに開状態にすることが可能となる。
また、加熱部材3で超電導線材2を加熱する時間が短くなるため、超電導線材2の加熱に要する電力がより少ない電力で済み、電力の消費量を低く抑えることが可能となる。
【0039】
また、熱電変換素子5は、上記のように加熱部材3等の側を高温にすると同時に、冷却部材4側(
図3等のB参照)を低温にする。
そのため、上記のように加熱部材3が超電導線材2を加熱している間、加熱部材3の熱が熱電変換素子5を介して冷却部材4側に流れ出ることはなく、むしろ冷却部材4は熱電変換素子5によって冷却される。あるいは、少なくとも熱電変換素子5と接している冷却部材4の部分で温度上昇が生じることはない。
【0040】
従来の永久電流スイッチ102(
図10参照)では、上記のように加熱部材106で発生させた熱が冷却部材104側に逃げてしまうため、永久電流スイッチ102の部分の冷却部材104の温度が上昇してしまい、それを冷却するために冷凍機で無駄な電力が消費されていた。
しかし、本実施形態に係る永久電流スイッチ1では、上記のように、加熱部材3が超電導線材2を加熱している間も、冷却部材4の温度が上昇することがない。そのため、冷凍機は、上記の従来の場合のように温度が上昇した冷却部材4の温度を下げるための余分な仕事をする必要がない。そのため、本実施形態の永久電流スイッチ1は、この点でも、永久電流スイッチ1を開状態にするために要する電力の消費量をより低く抑えることが可能となり効率良くスイッチの開動作を行うことが可能となる。
【0041】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る永久電流スイッチ1によれば、加熱部材3等と冷却部材4との間に熱電変換素子5が配設し、永久電流スイッチ1を開状態にする際には、加熱部材3で超電導線材2を加熱するとともに、熱電変換素子5が、加熱部材3等の側を高温にし、冷却部材4側を低温にするように動作する。
そのため、加熱部材3で発生した熱が、冷却部材4に逃げずに超電導線材2に的確に伝わるようになるため、加熱部材3で超電導線材2を効率良く加熱することが可能となる。そのため、永久電流スイッチ1の部分の超電導線材2を速やかに超電導状態から常電導状態に遷移させることが可能となり、永久電流スイッチ1を閉状態から速やかに開状態にすることが可能となる。
【0042】
なお、上記の実施形態において「加熱部材3で超電導線材2を加熱する」という場合、超電導線材2を超電導状態から常電導状態に遷移させるための加熱であるため、超電導線材2を超電導状態から常電導状態に遷移する温度(例えばイットリウム系超電導体では約90K)以上の温度(例えば100K等)になるように加熱すればよく、例えば、超電導線材2を0℃(約273K)や室温にまで加熱したりさらに高温になるように加熱することを意味するものではない。
また、例えば「熱電変換素子5の加熱部材3側)を高温にする」という場合も同様であり、上記のように、熱電変換素子5は、加熱部材3から冷却部材4に熱が伝導しないようにするためのものであるため、熱電変換素子5の「高温」側の温度は、加熱部材3を発熱させた際の温度と同程度の温度であればよく、上記と同様に、例えば、熱電変換素子5の高温側の温度を0℃や室温にしたりさらに高温にすることを意味するものではない。
【0043】
また、上記の実施形態では、超電導コイル11が大型である場合を想定して、永久電流スイッチ1の部分の超電導線材2を常電導状態に遷移させる区間を長くすることを可能にするための構成例1~3を示した。
しかし、上記の区間を長くする必要がない場合には、上記の区間が適宜の長さになるように構成されることは言うまでもなく、そのように構成された場合にも、本発明を適用することができる。
【0044】
[永久電流スイッチを閉状態にする際の構成について]
一方、上記の場合とは逆に、超電導コイル11に永久電流を流す際のように、永久電流スイッチ1を閉状態にする際には、加熱部材3による超電導線材2の加熱が停止されるが、それとともに、熱電変換素子5が、加熱部材3等の側を低温とし、冷却部材4側Bを高温とするように動作するように構成することが可能である。
加熱部材3による超電導線材2の加熱を停止しただけでは、超電導線材2の温度低下が緩慢になり、超電導線材2がなかなか超電導状態に遷移せず、永久電流スイッチ1が閉状態になるまでに時間がかかる場合があり得る。
【0045】
しかし、上記のように構成すれば、熱電変換素子5の超電導線材2側が低温になるため、熱電変換素子5が能動的に超電導線材2から熱を奪い、その熱を冷却部材4に逃がすように機能する。そのため、熱電変換素子5のこの作用により、冷却部材4による超電導線材2の冷却が促進される。
そのため、超電導線材2の温度を急速に低下させることが可能となり、超電導線材2が速やかに超電導状態に遷移するようになるため、永久電流スイッチ1が閉状態になるまでに時間を短縮することが可能となる。
なお、本実施形態のように熱電変換素子5をペルチェ素子で構成すると、ペルチェ素子は金属と比較すると熱伝導率が低い。しかし、上記のように熱電変換素子5が超電導線材2から奪った熱を冷却部材4に逃がすように機能するため、熱電変換素子5を設けたために超電導線材2から冷却部材4への熱の流れが阻害されることはない。
【0046】
[熱電変換素子を動作させるための構成について]
ところで、永久電流スイッチ1の開閉時に、加熱部材3への電流の供給と熱電変換素子5への電流の供給をそれぞれ別回路で別々の電源から行うように構成することも可能であるが、1つの電気回路で共通の電源から加熱部材3と熱電変換素子5に電流をそれぞれ供給するように構成することも可能である。
具体的には、例えば
図7に示すように、電源20に加熱部材3と熱電変換素子5とを並列に接続すれば、共通の電源20から加熱部材3と熱電変換素子5に電流をそれぞれ供給することが可能となる。
【0047】
一方、前述したように、本実施形態では、永久電流スイッチ1を開状態にする際には加熱部材3に通電して発熱させるとともに、熱電変換素子5の加熱部材3等の側を高温にし、冷却部材4側を低温にする。また、上記のように、永久電流スイッチ1を閉状態にする際には加熱部材3への通電を停止して発熱を停止するとともに、熱電変換素子5では上記とは反対に熱電変換素子5の加熱部材3等の側を低温にし、冷却部材4側を高温にする。
そして、これらの動作は、
図8に示すように、
図7の回路構成で加熱部材3にダイオード21を直列に接続して、加熱部材3には一方向にのみ電流が流れるように構成することで容易に実現することができる。
【0048】
すなわち、永久電流スイッチ1を開状態にする際には、電源20から一方向(図中右向き)に電流を流すことで、電流がダイオード21を流れるため、加熱部材3に電流が流れ、加熱部材3が発熱して超電導線材2を加熱する。
また、熱電変換素子5に図中左向きに電流が流れるため、熱電変換素子5の加熱部材3等の側A(
図3等におけるAに対応する。)を高温にし、冷却部材4側B(
図3等におけるBに対応する。)を低温にすることができる。
【0049】
そして、永久電流スイッチ1を閉状態にする際には、電源20から上記の一方向とは逆方向(図中左向き)に電流を流すことで、電流がダイオード21を流れないため、加熱部材3には電流がながれなくなって加熱部材3による超電導線材2の加熱が停止される。
また、それとともに、熱電変換素子5に図中右向きに電流が流れるため、上記とは反対に、熱電変換素子5の加熱部材3等の側Aを低温にし、冷却部材4側Bを高温にするように動作させることができる。
【0050】
このように、
図8に示した回路構成を採用すれば、永久電流スイッチ1を開状態にする際の各部材の動作と、永久電流スイッチ1を閉状態にする際の各部材の動作を1つの回路構成で容易に実現することが可能となる。
そして、1つの回路構成で、永久電流スイッチ1を開状態にしたり閉状態にしたりする際に、各部材の動作を適切に同期させて行わせることが可能となる。
【0051】
なお、本発明が上記の実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 永久電流スイッチ
2 超電導線材
2A 基材
2B 中間層
2C 超電導層
3 加熱部材
4 冷却部材
5 熱電変換素子
6 支持部材
10 超電導マグネット装置
11 超電導コイル
13 超電導線材
20 電源