(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】送液デバイス及び送液方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2018544948
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2018015052
(87)【国際公開番号】W WO2018190336
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017077252
(32)【優先日】2017-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】木村 健一
(72)【発明者】
【氏名】月井 健
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亨
(72)【発明者】
【氏名】松永 真理子
(72)【発明者】
【氏名】徐 杰
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/091031(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/056274(WO,A1)
【文献】特開2009-106169(JP,A)
【文献】国際公開第2016/149639(WO,A1)
【文献】Journal of Laboratory Automation,2013年,Vol.18, No.6,p.530-541
【文献】Microfluid Nanofluid,2010年,Vol.8,p.263-268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
Pubmed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細粒子を収容するための少なくとも1つのウェルが形成されたチップの上面との間に閉空間を形成可能な送液デバイスであって、
前記送液デバイスの一端側に配置され、前記閉空間に液体を導入する導入部と、
前記送液デバイスの他端側に配置され、前記閉空間に供給された液体を排出する排出部と、
前記チップの上面に対向するように設けられ、前記閉空間を画定する上壁と、を備え、
前記上壁は、前記導入部側から前記排出部側に向かって前記チップとの隙間が狭くなるように設けられた斜面を有
し、
前記閉空間内に、前記導入部側から前記排出部側に向かって流れる液体の閉流路が形成され、前記閉流路は、前記斜面から前記チップの上面に向かって流れる液流れを発生させ、
前記チップは、前記チップの上面に整列配置された複数のウェルを有し、
前記斜面が、平面視において少なくとも1つのウェルに対応する位置に形成されていることを特徴とする、送液デバイス。
【請求項2】
前記斜面は、前記チップの上面に対して勾配を有する傾斜面であり、
前記傾斜面の傾斜方向に対して垂直な方向における前記閉空間の断面積が、前記導入部側から前記排出部側に向かって漸減していることを特徴とする、請求項
1に記載の送液デバイス。
【請求項3】
前記チップは、前記チップの上面に整列配置された複数のウェルを有し、
前記斜面が、平面視において前記複数のウェルの全体に対応する位置に形成されていることを特徴とする、請求項1
または2に記載の送液デバイス。
【請求項4】
前記導入部は、
外部から液体が供給される供給口と、
前記供給口に接続され、平面視において前記閉空間の幅方向に延出したチャンバと、
前記チャンバと前記閉空間とを連通すると共に、平面視において前記閉空間の幅方向に亘って延出した第1スリット部と、を有
し、
前記第1スリット部の高さが、前記閉空間の最大高さよりも小さいことを特徴とする、請求項1
に記載の送液デバイス。
【請求項5】
前記排出部は、
前記閉空間に接続され、該閉空間の液体を外部に排出する排出口と、
前記閉空間と前記排出口との間に設けられ、前記閉空間から上方に延出した第2スリット部と、を有することを特徴とする、請求項1
に記載の送液デバイス。
【請求項6】
前記チップの上面に当接すると共に、前記閉空間を囲繞するように設けられた枠状脚部を更に備え、
前記枠状脚部は、前記導入部側から前記排出部側に向かう方向の両側に配置された一対の側方側脚部と、前記導入部側に配置された導入側脚部とを有し、
前記枠状脚部の前記排出部側に間欠部が設けられることを特徴とする、請求項
5に記載の送液デバイス。
【請求項7】
前記枠状脚部に設けられた前記間欠部が前記排出口を構成し、
前記排出口が、前記一対の側方側脚部の間に設けられることを特徴とする、請求項
6
に記載の送液デバイス。
【請求項8】
前記送液デバイスの前記チップと接していない面に、前記チップの上面に向かって押圧可能な押圧面を更に備え、
前記押圧面が、前記排出部側に設けられることを特徴とする、請求項
7に記載の送液デバイス。
【請求項9】
弾性材料で一体成形されていることを特徴とする、請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の送液デバイス。
【請求項10】
微細粒子を収容するための少なくとも1つのウェルが形成されたチップの上面との間に、液体を導出入可能な閉空間を形成して、前記チップの上面に液体を導入出する
、液送デバイスを用いた送液方法であって、
前記液体の導入側から排出側に向かって前記チップとの隙間が狭くなるように閉空間を形成し、
前記閉空間に液体を導入して、前記閉空間内に、前記導入側から前記排出側に向かって流れる閉流路を形成し、
前記導入側が前記送液デバイスの一端に配置され、前記排出側が前記送液デバイスの他端に配置され、前記送液デバイスの一端と他端との間に前記ウェルを位置させ、
前記閉流路によって前記チップの上面に向かって流れる液流れを発生させ、
前記チップは、前記チップの上面に整列配置された複数のウェルを有し、
前記閉空間が、平面視において少なくとも1つのウェルに対応する位置に形成されていることを特徴とする送液方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞などの微細粒子が一粒子単位で収容されるウェルが形成されたチップに載置されて、該チップとの間に閉空間を形成可能な送液デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細粒子のスクリーニング装置は、細胞などの微小物検体を識別、分取するための装置として、医療分野の研究・検査などで広く使用されている。そして近年、研究・検査機関において、検体破壊を伴わない識別、分取を実現すると共に、これらの処理をより正確に行うことで研究・検査の効率を高めたいとの要望がある。特に、所定分野においては、一細胞単位で識別・分取したいとの要望が高まっていることから、このような一細胞単位での識別・分取処理においても、正確性の向上や高効率化が求められている。
【0003】
例えば、細胞を一細胞単位で識別、分取処理を正確且つ効率的に行う方法の一つとして、チップ上に形成されたマイクロチャンバーと呼ばれる複数の微小なウェルに複数の細胞を一つずつ収容する方法が挙げられる。これにより、スクリーニング装置における計測感度が高くなると共に、一細胞単位で吸引・吐出可能なキャピラリを用いて目的検体のみを回収することができ、また、細胞懸濁液に含まれる目的検体の取りこぼしを少なくすることが可能となっている。
【0004】
上記のようなマイクロチャンバーチップに適用される従来の送液デバイスとして、複数のマイクロウェルが形成されたチップと、複数のマイクロチャンバーチップ上にマイクロ流路が形成されるように配置された流路形成枠体と、流路形成枠体に設けられた入口部と、入口部からマイクロ流路に導入された細胞懸濁液をマイクロ流路から導出させるために流路形成枠体に設けられた出口部とを備える細胞展開用デバイスが提案されている(特許文献1)。このデバイスでは、チップ上にマイクロ流路を形成し、該マイクロ流路にてチップ上面に略平行な液流れを発生させている。
【0005】
また、他の従来の送液デバイスとして、本体と、該本体の上部に着脱可能に取り付けられる蓋部とを有し、培養室が本体に形成されると共に培地排出流路が蓋部に形成され、更に多孔質フィルタが本体と蓋部の間に配置された細胞培養デバイスが提案されている(特許文献2)。このデバイスでは、培養室に足場材(細胞培養担体)をコーティングして細胞培養を行った場合に、使用中に剥離した足場材が多孔質フィルタによって捕捉できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5825460号公報
【文献】特許第5686310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
チップ上に試薬や洗浄液を送液する際には、試薬の流速を上げないと反応にばらつきが出たり、細胞と均一に反応せず、また、洗浄液の流速が遅いと洗浄力が弱く、ウェルに収容されなかった細胞を洗浄することができないため、チップ上で流速を上げる必要がある。しかしながら、特許文献1の技術では、液体の流速をある程度以上に上げるとウェル内に収容された細胞が浮き上がって抜け出してしまう場合があり、目的検体となる細胞の回収効率が低下するという問題がある。
【0008】
また、特許文献2の技術では、本体に設けられた1つの孔部が培養室を形成しており、蓋部を閉じることで培養室が閉空間となる構造が設けられている程度であり、複数の細胞を一つずつ収容可能な複数のウェルが形成されたチップ上に送液する構成とは基本的に異なる。
【0009】
特に、希少細胞を目的検体として回収する場合、例えば数十万細胞から数個しかないような細胞を回収することになるため、目的検体を回収対象とするためにはチップ上の複数のウェルに一細胞単位で収容される細胞の収容数を多くすることが非常に重要である。細胞の収容数を多くするため、通常はウェル数よりも多い例えば1.5~2倍の数の細胞を含む細胞懸濁液をチップ上に導入して、複数のウェル内に一細胞単位で収容し、ウェル内に収容されなかった残りの細胞は、チップ上面に洗浄液を導入することによりチップ上から除去される。しかしながら、上記従来技術では、チップ洗浄時に各ウェルに収容された細胞までもが洗浄液によってウェルから抜け出して除去されてしまう場合があるため、チップでの上記収容数の低下を招き、希少細胞を効率的に回収することができず、貴重な細胞を喪失してしまうという問題がある。
【0010】
また、開空間にてウェル内に細胞が収容された状態でチップ上面を洗浄液で洗浄する際、チップ上面の洗浄液を抜き取ることでチップ上面に平行な方向の液流れを生じさせ、ウェル内に収容されなかったチップ上の細胞を除去している。しかしながら、この方法では開空間ゆえに流れ易いところを洗浄液が流れるため、抵抗の大きいチップ上面付近には液体が抜ける瞬間にしか十分な液流れが生じず、チップ上の細胞を1回では十分に除去することができない。そのため、再びチップ上面に洗浄液を供給し、チップ上面の洗浄液を抜き取る洗浄を複数回繰り返す必要があるが、このチップ上面への洗浄液供給の際に、開空間ゆえにウェル内では上方向に巻き上げる液流れが生じ易く、その結果ウェル内に収容された細胞が抜け出してしまう場合がある。つまり洗浄力が弱いために洗浄を繰り返し、洗浄を繰り返すほどウェルに収容される細胞の数が低下するため、希少細胞の回収効率の低下、喪失を招く。
【0011】
本発明の目的は、作業性の向上を実現しつつ、微細粒子の一粒子単位での回収効率を向上することができる送液デバイス及び送液方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の送液デバイスは、微細粒子を収容するための少なくとも1つのウェルが形成されたチップの上面との間に閉空間を形成可能な送液デバイスであって、前記送液デバイスの一端側に配置され、前記閉空間に液体を導入する導入部と、前記送液デバイスの他端側に配置され、前記閉空間に供給された液体を排出する排出部と、前記チップの上面に対向するように設けられ、前記閉空間を画定する上壁と、を備え、前記上壁は、前記導入部側から前記排出部側に向かって前記チップとの隙間が狭くなるように設けられた斜面を有することを特徴とする。
【0013】
前記閉空間内に、前記導入部側から前記排出部側に向かって流れる液体の閉流路が形成される。
【0014】
前記閉流路は、前記斜面から前記チップの上面に向かって流れる液流れを発生させる。
【0015】
前記斜面は、前記チップの上面に対して勾配を有する傾斜面であり、前記傾斜面の傾斜方向に対して垂直な方向における前記閉空間の断面積が、前記導入部側から前記排出部側に向かって漸減しているのが好ましい。
【0016】
前記チップは、前記チップの上面に整列配置された複数のウェルを有し、前記斜面が、平面視において前記複数のウェルの全体に対応する位置に形成されているのが好ましい。
【0017】
前記導入部は、外部から液体が供給される供給口と、前記供給口に接続され、平面視において前記閉空間の幅方向に延出したチャンバと、前記チャンバと前記閉空間とを連通すると共に、平面視において前記閉空間の幅方向に亘って延出した第1スリット部と、を有する。
【0018】
前記第1スリット部の高さが、前記閉空間の最大高さよりも小さいのが好ましい。
【0019】
前記排出部は、前記閉空間に接続され、該閉空間の液体を外部に排出する排出口と、前記閉空間と前記排出口との間に設けられ、前記閉空間から上方に延出した第2スリット部と、を有する。
【0020】
前記送液デバイスは、前記チップの上面に当接すると共に、前記閉空間を囲繞するように設けられた枠状脚部を更に備え、前記枠状脚部は、前記導入部側から前記排出部側に向かう方向の両側に配置された一対の側方側脚部と、前記導入部側に配置された導入側脚部とを有し、前記枠状脚部の前記排出部側に間欠部が設けられる。
【0021】
前記枠状脚部に設けられた前記間欠部が前記排出口を構成し、前記排出口が、前記一対の側方側脚部の前記排出部側において、当該一対の側方側脚部の間に設けられる。
【0022】
前記送液デバイスの前記チップと接していない面に、前記チップの上面に向かって押圧可能な押圧面を更に備え、前記押圧面が、前記排出部側に設けられる。
【0023】
前記送液デバイスは、弾性材料で一体成形されているのが好ましい。
【0024】
上記目的を達成するために、本発明の送液方法は、微細粒子を収容するための少なくとも1つのウェルが形成されたチップの上面との間に、液体を導出入可能な閉空間を形成して、前記チップの上面に液体を導入出する送液方法であって、前記液体の導入側から排出側に向かって前記チップとの隙間が狭くなるように閉空間を形成し、前記閉空間に液体を導入して、前記閉空間内に、前記導入側から前記排出側に向かって流れる閉流路を形成することを特徴とする。
【0025】
前記送液方法において、前記閉流路によって前記チップの上面に向かって流れる液流れを発生させる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、作業性の向上を実現しつつ、微細粒子の一粒子単位での回収効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る送液デバイスの構成を概略的に示す斜視図であり、(a)は上方から見た全体図、(b)は下方から見た全体図、(c)は(a)の線I-Iに沿う断面を示す図である。
【
図2】
図1の送液デバイスによってチップ上の閉空間内に形成される閉流路を説明するための図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【
図3】
図2の閉流路においてウェル近傍で生じる液流れを説明するための部分断面図である。
【
図4】
図1の送液デバイスをチップ上に固定するホルダーを示す斜視図である。
【
図5】送液デバイスを用いてチップ上に送液する際に
図4のホルダーを固定する固定器具を示す分解斜視図である。
【
図6】(a)~(e)は、
図1の送液デバイスを用いた送液方法を説明する断面図である。
【
図7】
図6の送液方法にて送液を行ったチップ上の細胞から目的検体を識別・分取処理するスクリーニング装置を説明する斜視図である。
【
図8】(a)~(c)は、
図1の送液デバイスを用いた送液方法の変形例を説明する断面図である。
【
図9】(a)~(d)は、
図1の送液デバイスを用いた送液方法の他の変形例を説明する断面図である。
【
図10】(a)~(b)は、
図1の送液デバイスの変形例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
[送液デバイスの構成]
図1は、本発明の実施形態に係る送液デバイスの構成を概略的に示す斜視図であり、(a)は上方から見た全体図、(b)は下方から見た全体図、(c)は(a)の線I-Iに沿う断面を示す図である。
図1の送液デバイス1は、少なくとも1つのウェルが形成されたチップの上面との間に閉空間を形成可能なデバイスである。尚、
図1に示す送液デバイスの構成は一例を示すものであり、本発明の送液デバイスは
図1に示すものに限られない。
【0030】
送液デバイス1は、
図1(a)~(c)に示すように、該送液デバイスの一端部1a(図中の矢印A側)に配置され、閉空間Sに液体を導入する導入部2と、送液デバイス1の他端部1b(図中の矢印B側)に配置され、閉空間Sに供給された液体を排出する排出部3と、チップ4の上面4aに対向するように設けられ、閉空間Sを画定する上壁5とを備える。この送液デバイス1は、樹脂やエラストマーなどの弾性材料で一体成形されている。上記弾性材料は、例えばシリコーン樹脂(PDMS:dimethylpolysiloxane)である。
【0031】
送液デバイス1が用いられるチップ4は、その上面4aに整列配置され、細胞などの微細粒子を一対一で収容可能な複数のウェル4b,4b,・・・を有している(
図2参照)。ここで、上面4aは、微細粒子の収容するために微細粒子を投入する側を指す。また、複数のウェルの整列配置とは、例えばマトリックス状、蜂の巣状(ハニカム構造)などが挙げられる。このチップ4は、例えばマイクロウェルチャンバーやイムノチャンバーであり、ウェル4bは一つの細胞に対応する大きさを有しているのが好ましい。ウェル径/細胞径の比は、1.0~3.0が好ましく、1.5~2.0がより好ましい。チップ4の上面4aに液体を送液する際、送液デバイス1は、複数のウェル4b,4b,・・・を含むチップ4の上面4aを覆うように配置されることで、チップ4の上面4aと送液デバイス1の上壁5との間に閉空間Sが形成される。
【0032】
導入部2は、外部から液体が供給される供給口21と、供給口21に接続され、平面視、すなわち略水平に設置されたチップ4上に送液デバイス1を載置した状態で該送液デバイス1を上部1c側から見たときに、閉空間Sの幅方向Dに延出したチャンバ22と、チャンバ22と閉空間Sとを連通すると共に、平面視において閉空間Sの幅方向Dに亘って延出した第1スリット部23とを有する。
【0033】
供給口21は、送液デバイス1の一端部1aであって且つ上部1cに設けられた円形孔であり、管状部材等の器具が挿入されて、外部からバッファ(緩衝液)、細胞懸濁液、洗浄液、試薬などの液体が供給される。
【0034】
チャンバ22は、送液デバイス1の一端部1a且つ下部1dに設けられた直方体の凹部であり、その上部が供給口21に接続されると共に、他端部1b側の側部が第1スリット部23に接続されている。送液デバイス1がチップ4上に載置された状態において、チャンバ22は、供給口21から供給された液体を一時的に保持し、チャンバ22内の液体を徐々に第1スリット部23に供給することが可能になっている。
【0035】
第1スリット部23は、送液デバイス1の一端部1a且つ下部1dに設けられた凹部であり、一端部1a側の側部がチャンバ22に接続されると共に、他端部1b側の側部が閉空間Sに接続される。送液デバイス1がチップ4上に載置された状態において、チップ4の上面4aからの第1スリット部23の高さが、閉空間Sの最大高さよりも小さくなるように構成されるのが好ましい(
図2参照)。これにより、チャンバ22から供給された液体が第1スリット部23を通過する際に規制され、閉空間S内で、該閉空間Sの幅方向Dに関してほぼ同じ速度の液流れFを発生させることが可能となっている。換言すれば、導入部2にはチップ4の上面4aとの間に僅かなクリアランスを有する堰部が設けられており、チップ4の上面4aと堰部との間の僅かなクリアランスが第1スリット部23を構成する。この堰部によって、チャンバ22から第1スリット部23に流れる液流れが規制される。クリアランスのサイズは幅方向Dの長さと流路の抵抗により決定されるが、例えば幅方向Dが15mm程度であればクリアランスは1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。
【0036】
排出部3は、閉空間Sに接続され、該閉空間Sの液体を排出する排出口31と、閉空間Sと排出口31との間に設けられ、閉空間Sから上方に延出した第2スリット部32とを有する。
【0037】
排出口31は、後述する枠状脚部に設けられた貫通孔であり、閉空間Sの液流れを妨げること無く、閉空間Sの液体が排出口31を介して外部に排出される。
【0038】
第2スリット部32は、送液デバイス1の他端部1b側に設けられた貫通孔であり、その下部が閉空間Sに接続されると共に、上部が送液デバイス1の上部1cに設けられた凹部6に接続されている。閉空間S内に溜まった空気は、閉空間Sの液流れに伴って、排出口31および第2スリット部32を介して外部に排出される。第2スリット部32は、平面視において閉空間Sの幅方向Dに沿って延出しているのが好ましく、また、閉空間Sの幅全体に亘って延出しているのが好ましい。これにより、閉空間S内に溜まった空気を確実に排出することができる。
【0039】
上壁5は、導入部2側から排出部3側に向かってチップ4との隙間が狭くなるように設けられた斜面5aを有する。この斜面5aは、チップ4の上面4aに対して勾配を有する傾斜面であるのが好ましく、また、該傾斜面の傾斜方向に対して垂直な方向における閉空間Sの断面積が、導入部2側から排出部3側に向かって漸減しているのが好ましい。
【0040】
斜面5aは、例えば傾き一定の一様な平面や、傾きの異なる複数の平面で構成される。この場合、複数の平面の傾きは、導入部2側から排出部3側に向かって傾きの度合いが大きくなるのが好ましい。また、斜面5aは、平面のみならず、曲面、或いは曲面及び平面の双方で構成されてもよく、更には、断面略波形などの微小凹凸面で構成されてもよい。
【0041】
斜面5aは、平面視、すなわち略水平に設置されたチップ4上に送液デバイス1を載置した状態で該送液デバイス1を上部1c側から見たときに、複数のウェル4bの全体に対応する位置に形成されているのが好ましい。具体的には、斜面5aは、導入部2側から排出部3側に向かう方向に関して上壁5の全体に形成され、また、導入部2側から排出部3側に向かう方向に対して垂直な方向(幅方向)に関して上壁5の全体に亘って形成されているのが好ましい。但し、チップ4上の複数のウェル4bに対応する位置、すなわち複数のウェル4bの直上に配置されていることを条件として、上壁5の一部に形成されていてもよい。
【0042】
また、送液デバイス1は、チップ4の上面4aに当接すると共に、閉空間Sを囲繞するように設けられた枠状脚部7を備えている。この枠状脚部7は、導入部2側から排出部3側に向かう方向の両側に配置された一対の側方側脚部71,71と、導入部2側に配置された導入側脚部72とを有する。枠状脚部7は、送液デバイス1がチップ4上に載置されたときに、送液デバイス1とチップ4との間をシールするシール部として機能する。
【0043】
一対の側方側脚部71,71は、閉空間Sの幅方向端部を画定する側壁をなしており、導入側脚部72は、チャンバ22の一端部1a側の端部を画定する側壁をなしている。排出口31は、一対の側方側脚部71,71の排出部3側において、少なくとも当該一対の側方側脚部71,71の間に、平面視において閉空間Sの幅方向Dに沿って延出して設けられている。
【0044】
枠状脚部7は排出部3側に脚部を有していないが(
図1(a),(b))、排出口31の延出長さを小さくして、枠状脚部7が排出部3側に配置された排出側脚部を有するように構成されてもよい。この場合、上記排出側脚部は例えば橋状に設けられて、その下方の空間が排出口31を構成する。排出口31の側面視形状は、矩形などの多角形であってもよいし、アーチ型であってもよい。
また、枠状脚部7の排出部3側に、当該枠状脚部7の延在方向に関して間欠的に形成された間欠部が設けられてもよい。この場合、枠状脚部7に設けられた間欠部が排出口31を構成し、排出口31が、一対の側方側脚部71,71の間に設けられる。
このような構成とすることで、送液デバイス1に対して上部1b側から下部1d側に向かって押圧力を加えたとき、枠状脚部7の排出部3側を導入部2側よりも弾性変形し易くすることができる。
【0045】
図2は、
図1の送液デバイス1によってチップ4上の閉空間S内に形成される閉流路を説明するための図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
図2(a)に示すように、複数のウェル4bが形成されたチップ4の上面4aに送液デバイス1が載置されると、チップ4の上面4aと送液デバイス1の斜面5aとの間に閉空間Sが形成され、この閉空間S内に、導入部2側から排出部3側に向かって流れる液体の閉流路8が形成される。閉流路8に液体を供給すると、導入部2側から排出部3側に向かって、閉空間Sの幅方向に関してほぼ同じ速度の液流れFが生じる(
図2(b))。
【0046】
このとき、ウェル4b近傍を微視的に見ると、
図3に示すように、閉流路8において液流れFが斜面5aに衝突し、該衝突によって斜面5aに対して垂直な方向に反力が生じる。この反力の作用によって、斜面5aからチップ4の上面4a、特に斜面5aからチップ4上のウェル4bに向かって流れる液流れfが形成される。この液流れfは、細胞Mの上方から、該細胞Mをウェル4b内に押し込む力を与える。
【0047】
よって、例えばチップ4の各ウェル内に細胞Mが収容された状態で閉流路8に液体を供給した場合、閉流路8は、液流れFと斜面5aとの衝突によって斜面5aからチップ4上のウェル4bに向かって流れる液流れfを発生させ、細胞Mがこの液流れfによってウェル4b内に押し込まれることでウェル4b内に留まり、ウェル4bからの細胞Mの脱離が抑制される。
【0048】
また、チップ4の各ウェル内に細胞Mが収容されてない状態で閉流路8に液体を供給した場合、閉流路8は、上記の場合と同様、液流れFと斜面5aとの衝突によって斜面5aからチップ4上のウェル4bに向かって流れる液流れfを発生させる。よって、この液流れfによって当該液体をウェル4b内に押し込むことで、ウェル4b内の気泡等をウェル4b外に押し出すことができ、液体がウェル4b内に十分に供給される。
【0049】
また、斜面5aが導入部2側から排出部3側に向かってチップ4との隙間が狭くなるように設けられているため、導入部2側から排出部3側に向かうに従って、液流れFの流速が大きくなる。よって、液流れFと斜面5aとの衝突によって生じる液流れfによって、下流側に位置するウェル4b内の細胞Mを、当該ウェル4b内に更に強く押し込むことができ、ウェル4bからの細胞Mの脱離が抑制される。
【0050】
図4は、
図1の送液デバイス1をチップ4上に固定するホルダーを示す斜視図である。
同図に示すように、ホルダー100は、上下に2分割可能な略枠体構造の固定部材101,102を有しており、平面視中央部に開口部103を有する。チップ4の外周部4cは、上下方向からホルダー100の内周部100aに挟持されており、これによりホルダー100の開口部103にウェル4bが露出するようにチップ4が固定されている。
【0051】
開口部103に送液デバイス1を挿入し、ホルダー100に固定されたチップ4上に送液デバイス1を載置することにより、送液デバイス1がチップ4に支持される。また、送液デバイス1の横方向への移動がホルダー100によって規制され、送液デバイス1がチップ4の面内方向に位置決めされる。
【0052】
送液デバイス1は、該送液デバイス1とチップ4との間をシールするために、送液デバイス1の上部1cの高さと固定部材102の上面102aと高さとを管理、調節した状態で、チップ4上に載置される。これにより、送液デバイス1の上部1cが固定部材102の上面102aと後述する固定器具にて任意の押し代をもって圧接される。
【0053】
また、ホルダー100は、外周部100bに段付き部104を有しており、この段付き部104が後述する固定器具と係合する。固定部材102の長さ及び幅は、固定部材101の長さ及び幅よりも大きく、固定部材101,102を上下方向に組み合わせた状態で、ホルダー100の外周部100bに段付き部104が形成される。
【0054】
図5は、送液デバイス1を用いてチップ4上に送液する際に
図4のホルダー100を固定する固定器具を示す分解斜視図である。
同図に示すように、固定器具200は、上下に2分割可能なベース部材210及びカバー部材220を有している。ベース部材210は、平面視略多角形の板状体であり、その中央部に開口部211を有している。カバー部材220も同様、平面視多角矩形の板状体であり、その中央部に開口部221を有している。カバー部材220の厚みは、送液デバイス1の一端部1a側から他端部1b側に向かって増大しており、カバー部材220の上面220aが水平に配置されたとき、カバー部材220の下面220bが下方に傾斜して配置される。
【0055】
ベース部材210は、その内周部212に段付き部213を有しており、ホルダー100が開口部211に挿入された状態で、段付き部213がホルダー100の段付き部104と係合する。これによりホルダー100の横方向の移動が規制される。また、段付き部213と段付き部104を係合させた状態でベース部材210にカバー部材220を載置することで、ホルダー100の上下方向への移動が規制されると共に、送液デバイス1の上下方向の移動が規制される。
【0056】
送液デバイス1は、該送液デバイスのチップ4と接していない面、例えば送液デバイス1の枠状脚部7とは反対側の上部1cに設けられ、チップ4の上面4aに向かって押圧可能な押圧面9を更に備えてもよい。押圧面9は、例えば枠状脚部7全体に対応して設けられた枠状面であるが、排出部3側に設けられてもよい。また、カバー部材220の下面220bには、押圧面9に対応する位置に設けられ且つ押圧面9に接するような凸面を備えていてもよい。ベース部材210にカバー部材220が載置されたときに、押圧面9がカバー部材220の下面220bによって任意の押圧量で押圧され、送液デバイス1がチップ4と圧接する。このとき、一対の側方側脚部71,71の排出部3側には排出口31が設けられておりチップ4の上面4aに接する脚部が無いため、枠状脚部7のうち排出側が導入側よりも相対的に大きく撓むため、チップ4の上面4aに対する上壁5の斜面5aの斜めの度合いを調整することができる。この斜面5aの斜めの度合いを調整するために、排出部3側の押圧量が導入部2側の押圧量よりも大きくなるように相対的な押圧量を設定してもよく、また、導入部2側の押圧量を0或いはほぼ0とし、排出部3側の押圧量のみを設定してもよい。
【0057】
[送液デバイスを用いた送液方法]
図6(a)~(e)は、
図1の送液デバイスを用いた送液方法を説明する断面図である。先ず、チップ4をホルダー100に固定すると共に、更にチップ4上に送液デバイス1を載置した状態でホルダー100と送液デバイス1を固定器具200に固定して、送液デバイスの斜面5aと複数のウェル4bが形成されたチップ4の上面4aとの間に、液体の導入側(導入部2側)から排出側(排出部3側)に向かってチップ4との隙間が狭くなるように閉空間Sを形成する。このとき、送液デバイス1の枠状脚部7がチップ4上に当接又は圧接する。
【0058】
次に、供給口21に管状部材301を挿通してチャンバ22にバッファL1を供給し、第1スリット部23を介して閉空間SにバッファL1を導入する。これによりチャンバ22、第1スリット部23、閉空間SにバッファL1が充填される。また、バッファL1の導入により、チャンバ22、第1スリット部23及び閉空間Sの空気或いは気泡が、排出口31または第2スリット部32を介して外部に除去される。
【0059】
次いで、供給口21に管状部材302を挿通してチャンバ22に複数の細胞Mを含む細胞懸濁液L2を供給し、第1スリット部23を介して閉空間Sに細胞懸濁液L2を導入する(
図6(b))。これにより、細胞懸濁液L2に含まれる複数の細胞Mが1つずつ複数のウェル4b内に収容され、ウェル4b内に収容されなかった残りの細胞M’(ウェル外細胞ともいう)は、チップ4の上面4a等に堆積する。
【0060】
次いで、供給口21に管状部材303を挿通してチャンバ22に洗浄液L3を供給し、第1スリット部23を介して閉空間Sに洗浄液L3を導入し、閉空間S内におけるチップ4の上面4aと斜面との間に、上記導入側から排出側に向かって流れる閉流路を形成する(
図6(c))。このとき、チップ4の上面4a上では洗浄液L3による液流れFと上壁5の斜面5aとの衝突により、斜面5aから細胞Mに向かって流れる液流れfが生じる(
図2参照)。これにより、ウェル4b内に収容された細胞Mは洗浄液L3によって洗い流されることなくウェル4b内に保持され、一方、チップ4の上面4aの細胞M’は洗浄液L3によって洗い流される。第2スリット部32は排出口31に比べて流路抵抗が大きく作られており、細胞M’の一部を含む洗浄液L3は、第2スリット部32を介して外部に逆流すること無く、排出口31を介して外部に排出され、管状部材304から排液として除去される。洗浄液L3は例えばバッファや、細胞培養液である。
【0061】
次に、排出口31近傍に管状部材305を挿入して、排出口31に溜まった細胞M’を除去する(
図6(d))。管状部材304の吸引時には外部の空気が第2スリット部32を介して閉空間Sに導入される。これにより、閉空間S内の洗浄液L3が吸引されず、細胞Mがウェル4b内に収容された状態を維持することができる。
【0062】
その後、固定器具200を取り外して送液デバイス1をチップ4上から除去し、上面4a上及びウェル4b内にバッファL1を充填する(
図6(e))。これにより、各ウェルに1つの細胞Mを含むバッファL1が収容されたチップ4の作製が完了する。
【0063】
尚、上記送液方法において、各種液体の供給口21への供給及び排出口31からの排出は、ピペットなどを用いて手動で行われてもよいし、後述するスクリーニング装置などの設備機器に設けられた導入管/排出管を供給口21/排出口31にそれぞれ接続し、各種液体が自動的に供給口21に供給され、また、自動的に排出口31から排出されてもよい。
【0064】
[スクリーニング装置の構成]
図6に示す送液方法が実行された後、例えば
図7に示すようなスクリーニング装置によってチップ4上の微細粒子から目的検体が識別・分取処理される。スクリーニング装置とは、チップ4内の細胞などの複数の微細粒子が発する蛍光に基づいて目的検体となる所定の微細粒子を探索して、回収条件を満たした微細粒子をチップ4から選択的に吸引、回収する装置である。
【0065】
スクリーニング装置400は、例えば移動部410と、回収部420と、計測部430と、画像解析部440(解析部)と、制御部450を備えている。
【0066】
移動部410は、X方向および/又はY方向に沿って移動可能な搭載用テーブル411を有しており、搭載用テーブル411上の収容プレート412及びチップ4を、X方向および/又はY方向に沿って移動して位置決めすることが可能となっている。収容プレート412は、板状の部材であり、収容プレート412には多数のウェル413がX方向とY方向に沿って等間隔でマトリックス状に配列されている。これらのウェル413は、生物細胞等の微細粒子が後述する吸引・吐出キャピラリから順次排出されてくるときに、順次排出されてくる微細粒子を別々に回収して格納することができる回収格納部である。
【0067】
回収部420は、装置本体に固定された基部421と、基部421にZ方向に移動可能に取り付けられた操作部422とを有している。操作部422は、アクチュエータ部423(ポンプ)と、識別された微細粒子を目的検体として分取する吸引・吐出キャピラリ424とを備えている。吸引・吐出キャピラリ424は、複数のウェル4bのうちの選択されたウェル、すなわち所定の回収条件を満たした微細粒子が収容されたウェル内から一の微細粒子を吸引することが可能となっている。また、吸引・吐出キャピラリ424は、上記選択された一の微細粒子を、収容プレート412の所定のウェル413に吐出することが可能となっている。
【0068】
計測部430は、チップ4およびチップ4に収容された微細粒子に少なくとも1つ以上の光源より導かれる光を照射することによって、透過光、反射光もしくは蛍光による形状および位置情報、並びに蛍光・化学発光等の輝度情報を個々の微細粒子の平均サイズより細かい分解能で取得すると共に、チップ4自体の形状や、チップ4上のウェル4bの位置座標や大きさ等の情報を取得する。
【0069】
画像解析部440は、計測された形状情報および光情報を解析することで、少なくとも各ウェル4b内に、測定者によって設定できる輝度条件を満たす微細粒子が存在することを確認するためのデータを取得する。そして、画像解析部440は、透過光もしくは反射光によるウェル4bの位置座標情報と蛍光・化学発光の光情報とを合わせ照合することにより微細粒子からの光情報を抽出する。また、計測部430はオートフォーカス機能を有しており、所定位置で合焦した状態で計測を行なうと共に、吸引・吐出キャピラリ424の先端部424aとチップ4の上面4aとの位置関係を、両者に対するオートフォーカスの実施により判断することができる。
【0070】
制御部450は、スクリーニング装置400の各種構成要素を統括的に制御する。また、制御部450は、回収条件を満たした最大輝度の蛍光を発する微細粒子が収納されているウェル4bの位置を検知する。そして制御部450は、移動部410に対して制御駆動信号を与えることで、チップ4のウェル4b又は収容プレート412のウェル413を、吸引・吐出キャピラリ424の先端部424aの真下に位置させることが可能となっている。
【0071】
このようなスクリーニング装置400では、スクリーニング処理を実行する際にチップ4のウェル4bにできるだけ多くの微細粒子を一対一で収容することで、目的検体となる微細粒子の回収効率を向上することが可能となる。よって、送液デバイス1を用いて上記送液方法にて数多くの微細粒子を複数のウェル4bに1つずつ収容することで、スクリーニング処理における目的検体の回収効率を向上することが可能となる。この場合、スクリーニング装置400が着脱可能に取り付けられる送液デバイス1を構成要素として備えていてもよいし、スクリーニング装置400と送液デバイスとで構成される一のシステムが設けられてもよい。
【0072】
上述したように、本実施形態によれば、送液デバイス1が、チップ4の上面4aに対向するように設けられ且つ閉空間Sを画定する上壁5を備えており、上壁5は、導入部2側から排出部3側に向かってチップ4との隙間が狭くなるように設けられた斜面5aを有するので、閉空間S内に、導入部2側から排出部3側に向かって流れる液体の閉流路8を形成することができる。よって、閉空間Sに液体を供給したとき、斜面5aからウェル4の上面4a、特に斜面5aからウェル4bに向かう液流れfが形成され、この液流れfによってウェル4b内の細胞Mが上方から圧力を受けることで、当該細胞Mがウェル4bから脱離するのを抑制することができる。また、閉空間S内での液流れFの流速を上げることで、試薬と細胞Mの正確な反応を計測したり、ウェル4bに収容されなかった余分な細胞M’を強力に洗浄することができ、洗浄回数を少なくすることができる。したがって、作業性の向上を実現しつつ、目的検体となる細胞Mの一粒子単位での回収効率を向上することができる。特に、チップ4の洗浄時に各ウェルに収容された細胞Mがウェル4bから抜け出し難くなるので、希少細胞を目的検体として回収する場合に、チップ4での細胞Mの収容数を増大して、希少細胞を効率的に回収することが可能となる。
【0073】
図8(a)~(c)は、
図1の送液デバイスを用いた送液方法の変形例を説明する断面図である。上記実施形態では、細胞Mをウェルに収容した後の洗浄工程に着目して送液方法を説明したが、これに限らず、
図8に示すように、ウェル4bに試薬を充填してチップ4の表面処理を行う際にも本発明の送液方法を適用することができる。
図8の構成は基本的に
図6の構成と同一であるので、重複説明を省略する。
【0074】
具体的には、
図6の送液方法と同様、先ずチップ4上に送液デバイス1を載置して、送液デバイスの斜面5aと複数のウェル4bが形成されたチップ4の上面4aとの間に、液体の導入側から排出側に向かってチップ4との隙間が狭くなるように閉空間Sを形成する。そして、供給口21に管状部材301を挿通してチャンバ22にバッファL1を供給し、第1スリット23を介して閉空間SにバッファL1を導入する(
図8(a))。これによりチャンバ22、第1スリット部23、閉空間SにバッファL1が充填される。また、バッファL1の導入により、チャンバ22、第1スリット部23及び閉空間Sの空気或いは気泡が、排出口31または第2スリット部32を介して外部に除去される。
【0075】
次いで、供給口21に管状部材306を挿通してチャンバ22に試薬L4を供給し、第1スリット23を介して閉空間Sに試薬L4を導入し、閉空間S内におけるチップ4の上面4aと斜面5aとの間に、上記導入側から排出側に向かって流れる閉流路を形成する(
図8(b))。試薬L4は、例えばイムノチャンバーのウェル表面に固定される一次抗体を含む液体や、或いは細胞懸濁液等に対して親水性を発現するためのウェル表面改質用の液体である。このとき、閉空間S内では、試薬L4による液流れFと上壁5の斜面5aとの衝突により、斜面5aからウェル4bに向かって流れる液流れfが生じる(
図2参照)。この液流れfより、ウェル4bの内壁面に試薬L4を到達させることができ、ウェル4bの内壁面に一次抗体を十分に固定させ、また、ウェル4bの内壁面を十分に改質処理することができる。
【0076】
次に、供給口21に管状部材301を挿通してチャンバ22にバッファL1を供給し、第1スリット23を介して閉空間SにバッファL1を導入し、閉空間S内を洗浄して、該閉空間S内から試薬L4を除去する(
図8(c))。試薬L4は排出口31を介して外部に排出され、管状部材307にて排液として除去される。
【0077】
このように本変形例によれば、閉空間Sに試薬L4を導入した場合に、斜面5aからチップ4のウェル4bに向かって流れる液流れfが生じ、これによりウェル4bの内壁面の全体に試薬L4を到達させることができるので、ウェル4bの内壁面の全体を十分に表面処理することができる。また、チップ4上にマトリックス状に整列配置された全てのウェル4bに試薬L4を到達させることができる。したがって、目的検体となる細胞Mの取りこぼしを抑制して、細胞Mの一粒子単位での回収効率を更に向上することが可能となる。
【0078】
図9(a)~(d)は、
図1の送液デバイスを用いた送液方法の他の変形例を説明する断面図である。上記変形例では、本発明の送液方法を用いてウェル4b内に試薬を充填して表面処理を行う方法を説明したが、これに限らず、ウェル4b内の細胞Mに試薬を供給して細胞Mを反応させる場合にも、本発明の送液方法を適用することができる。
図9の構成は基本的に
図8の構成と同一であるので、重複説明を省略する。
【0079】
本他の変形例では、先ず、
図6(a)~(e)で示す工程と同様の工程を行い、複数のウェル4bに細胞Mが一つずつ収容された状態とする(
図9(a))。その後、供給口21に管状部材306を挿通してチャンバ22に試薬L5を供給し、第1スリット23を介して閉空間Sに試薬L5を導入し、閉空間S内におけるチップ4の上面4aと斜面5aとの間に、上記導入側から排出側に向かって流れる閉流路を形成する(
図9(b))。試薬L5は、例えば細胞から産生される被産生物質等に結合する蛍光付き二次抗体などの蛍光分子を含む液体や、或いは特定の細胞に反応する刺激薬Aであり、刺激薬Aは例えば味細胞に対して味覚を刺激する甘味エキスなどが挙げられる。このとき、閉空間S内では、試薬L5による液流れFと上壁5の斜面5aとの衝突により、斜面5aからウェル4bに向かって流れる液流れfが生じる(
図2参照)。この液流れfにより、ウェル4bに収容されている細胞Mに試薬L5を確実に到達させることができ、ウェル4b内の細胞Mを正確に反応させることができる。例えば試薬L5が細胞に反応する刺激薬Aであった場合、刺激薬Aを送液しながら光情報を計測・解析することで、ウェル4b内の細胞Mでも同じ刺激を与えることができることから、反応の度合いを正確に捉えて目的の細胞を特定することができる。
【0080】
次いで、供給口21に管状部材301を挿通してチャンバ22にバッファL1を供給し、第1スリット23を介して閉空間SにバッファL1を導入し、閉空間S内を洗浄して、該閉空間S内から試薬L5を除去する(
図9(c))。試薬L5は排出口31を介して外部に排出される。
【0081】
次に、供給口21に管状部材309を挿通してチャンバ22に試薬L6を供給し、第1スリット23を介して閉空間Sに試薬L6を導入し、閉空間S内に試薬L6を充填する(
図8(d))。試薬L6は、例えば特定の細胞に反応する別の刺激薬Bであり、刺激薬Bは例えば味細胞に対して味覚を刺激する酸味エキスなどが挙げられる。このように、特定の刺激薬Aと刺激薬Bを用いることで、さらに複合的に目的の細胞を選定することができる。
【0082】
このように本変形例によれば、閉空間Sに試薬L5を導入した場合に、斜面5aからチップ4のウェル4bに向かって流れる液流れfが生じ、これによりウェル4bに収容された細胞Mに試薬L5を到達させることができるので、ウェル4b内の細胞Mを正確に反応させることができる。また、チップ4上の複数のウェル4bに1つずつ収容された全ての細胞Mに試薬L5を到達させることができる。したがって、目的検体となる細胞Mの取りこぼしを抑制して、細胞Mの一粒子単位での回収効率を更に向上することが可能となる。
【0083】
以上、本実施形態に係る送液デバイス及び送液方法について述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0084】
上記実施形態では、送液デバイス1の上壁5は斜面5aを有しているが、これに限られず、上壁が斜面を有しておらず、送液デバイスが外力を受けた状態で上壁が斜面を有するように構成されてもよい。
例えば、
図10(a)に示すように、送液デバイス1’は、チップ4の上面4aに対向するように設けられ、閉空間Sを画定する上壁5’を備え、上壁5’が、チップ4とほぼ平行な面5a’を有していてもよい。この送液デバイス1’において、ホルダー100に固定されたチップ4上に載置された状態では面5a’はチップ4の上面4aとほぼ平行であり、固定器具200にホルダー100及び送液デバイス1’を固定した状態では、送液デバイス1’の押圧面9がカバー部材220によって下方に押圧され、枠状脚部7のうち排出側が最も撓むことで、面5a’が、導入部2側から排出部3側に向かってチップ4との隙間が狭くなるように斜めに配置される(
図10(b))。本構成によっても、閉空間S内に、導入部2側から排出部3側に向かって流れる液体の閉流路が形成され、作業性の向上を実現しつつ、目的検体となる細胞Mの一粒子単位での回収効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 送液デバイス
1’送液デバイス
1a 一端部
1b 他端部
1c 上部
1d 下部
2 導入部
3 排出部
4 チップ
4a 上面
4b ウェル
5 上壁
5’上壁
5a 斜面
5a’ 面6 凹部
7 枠状脚部
8 閉流路
9 押圧面
71,71 一対の側方側脚部
72 導入側脚部
21 供給口
22 チャンバ
23 第1スリット部
31 排出口
32 第2スリット部
100 ホルダー
100a 内周部
100b 外周部
101 固定部材
102 固定部材
102a 上面
103 開口部
104 段付き部
200 固定器具
210 ベース部材
211 開口部
212 内周部
213 段付き部
220 カバー部材
220a 上面
220b 下面
221 開口部
301 管状部材
302 管状部材
303 管状部材
304 管状部材
305 管状部材
306 管状部材
307 管状部材
308 管状部材
309 管状部材
400 スクリーニング装置
410 移動部
411 搭載用テーブル
412 収容プレート
413 ウェル
420 回収部
421 基部
422 操作部
423 アクチュエータ部
424 吸引・吐出キャピラリ
424a 先端部
430 計測部
440 画像解析部
450 制御部
L1 バッファ
L2 細胞懸濁液
L3 洗浄液
L4 試薬
L5 試薬
L6 試薬
F 液流れ
f 液流れ
M 細胞
M’細胞
S 閉空間