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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】光ファイバおよび光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/036 20060101AFI20220419BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20220419BHJP
   C03B 37/075 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G02B6/036
G02B6/02 356A
C03B37/075 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019032023
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020134884
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2020-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-503019(JP,A)
【文献】国際公開第2004/092794(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/172714(WO,A1)
【文献】特開2014-010412(JP,A)
【文献】特開2011-203552(JP,A)
【文献】国際公開第2010/093187(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第104316994(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウム(Ge)を含む石英系ガラスからなる中心コア部と、
石英系ガラスからなり、前記中心コア部の外周に形成された中間層と、
石英系ガラスからなり、前記中間層の外周に形成されたトレンチ層と、
石英系ガラスからなり、前記トレンチ層の外周に形成されたクラッド部と、
を備え、前記クラッド部に対する、前記中心コア部の比屈折率差をΔ1、前記中間層の比屈折率差をΔ2、前記トレンチ層の比屈折率差をΔ3とすると、Δ1>Δ2>Δ3かつ0>Δ3が成り立ち、Δ1が0.35%以上0.37%以下であり、|Δ3|が0.1%以上0.25%以下であり、Δ1×|Δ3|が0.08%以下であり、Δ2が-0.04%以上0.04%以下であり、前記中心コア部のコア径を2a、前記トレンチ層の内径を2b、外径を2cとしたときに、b/aが1.8以上3.6以下であり、c/aが4.0以上5.0以下であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.8μm以上であり、波長1550nmにおける伝送損失が0.195dB/km以下である
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
(c-b)が5.81μm以上8.2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
|Δ3|が0.1%以上0.20%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
b/aが2.2以上3.4以下であり、c/aが4.0以上5.0以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項5】
b/aが2.6以上3.4以下であり、c/aが4.0以上5.0以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項6】
波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.11μm以下であり、ITU-T G.652規格を満たす標準シングルモード光ファイバとの融着接続の接続損失が0.1dB以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項7】
実効カットオフ波長が1260nm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記中心コア部のコア径は、実効カットオフ波長が1150nm以上1260nm以下になるように設定されていることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項9】
波長1310nmにおけるモードフィールド径が9.5μm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項10】
直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が1.59dB/m以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項11】
零分散波長が1300nm以上1324nm以下あり、前記零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm/km以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一つに記載の光ファイバの製造方法であって、
光ファイバ母材を製造する工程と、
前記光ファイバ母材を加熱溶融して線引きして前記光ファイバを製造する工程と、
を含み、前記光ファイバ母材を製造する工程において、気相軸付法を用いて、少なくとも前記中心コア部、前記中間層、前記トレンチ層、および前記クラッド部の一部となる部分を形成することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバおよび光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえばITU-T(国際電気通信連合)G.657.A2などで定義される、低曲げ損失特性を有するシングルモード光ファイバを実現するために、トレンチ構造を備える3層構造の光ファイバが開示されている(特許文献1~6)。3層構造の光ファイバは、たとえば、中心コア部と、中心コア部の外周に形成された中間層と、中間層の外周に形成されたトレンチ層と、トレンチ層の外周に形成されたクラッド部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4833071号公報
【文献】特開2008-139887号公報
【文献】特開2010-181641号公報
【文献】特開2012-212115号公報
【文献】特開2013-242545号公報
【文献】特開2013-235261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3層構造の光ファイバの光学特性は、中心コア部の比屈折率差Δ1、中間層の比屈折率差Δ2、トレンチ層の比屈折率差Δ3、中心コア部のコア径2a、トレンチ層の内径(すなわち中間層の外径)2b、外径2cなどの構造パラメータの設定によって設計される。なお、通常、Δ3は負値であり、Δ2はΔ1よりも小さい値である。特許文献1~6においても、これらの構造パラメータの値について様々な組み合わせが開示されている。
【0005】
しかしながら、開示されている光ファイバにおいても、製造性の観点から改善の余地がある。たとえば、Δ1が高い設計であると、製造の際に屈折率を高めるドーパントの使用量が多くなる。同様に、Δ3の絶対値が高い設計や、中間層の幅(外径と内径との差)が高い設計であると、製造の際に屈折率を低めるドーパントの使用量が多くなる。一方、特にΔ1については、低すぎる設計であると、ドーパントの使用量の緻密な制御が必要となり、また外乱の影響を受けやすくなるので、製造誤差が大きくなるおそれがある。
【0006】
また、光ファイバについては、伝送損失(損失係数)が低いことが常に望まれている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、低曲げ損失特性かつ低伝送損失特性を有し、さらに製造性が高い光ファイバおよび光ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光ファイバは、ゲルマニウム(Ge)を含む石英系ガラスからなる中心コア部と、石英系ガラスからなり、前記中心コア部の外周に形成された中間層と、石英系ガラスからなり、前記中間層の外周に形成されたトレンチ層と、石英系ガラスからなり、前記トレンチ層の外周に形成されたクラッド部と、を備え、前記クラッド部に対する、前記中心コア部の比屈折率差をΔ1、前記中間層の比屈折率差をΔ2、前記トレンチ層の比屈折率差をΔ3とすると、Δ1>Δ2>Δ3かつ0>Δ3が成り立ち、Δ1が0.34%以上0.37%以下であり、|Δ3|が0.1%以上0.25%以下であり、Δ1×|Δ3|が0.08%以下であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.8μm以上であり、波長1550nmにおける伝送損失が0.195dB/km以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る光ファイバは、|Δ3|が0.1%以上0.20%以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る光ファイバは、Δ2が-0.04%以上0.04%以下であり、前記中心コア部のコア径を2a、前記トレンチ層の内径を2b、外径を2cとしたときに、b/aが1.8以上3.6以下であり、c/aが3.2以上5.2以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る光ファイバは、実効カットオフ波長が1260nm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記中心コア部のコア径は、実効カットオフ波長が1150nm以上1260nm以下になるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る光ファイバは、波長1310nmにおけるモードフィールド径が9.5μm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る光ファイバは、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が1.59dB/m以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る光ファイバは、零分散波長が1300nm以上1324nm以下あり、前記零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm/km以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、前記光ファイバの製造方法であって、光ファイバ母材を製造する工程と、前記光ファイバ母材を加熱溶融して線引きして前記光ファイバを製造する工程と、を含み、前記光ファイバ母材を製造する工程において、気相軸付法を用いて、少なくとも前記中心コア部、前記中間層、前記トレンチ層、および前記クラッド部の一部となる部分を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれは、低曲げ損失特性かつ低伝送損失特性を有し、さらに製造性が高い光ファイバを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態1に係る光ファイバの模式的な断面図である。
図2図2は、図1に示す光ファイバの屈折率プロファイルを示す図である。
図3図3は、Δ1とMFDとの関係を示す図である。
図4図4は、|Δ3|とMFDとの関係を示す図である。
図5図5は、Δ3とMFDとの関係を示す図である。
図6図6は、b/aまたはc/aとMFDとの関係を示す図である。
図7図7は、Δ1と伝送損失との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付し、適宜説明を省略している。また、本明細書においては、カットオフ(Cutoff)波長とは、実効カットオフ波長であり、ITU-T(国際電気通信連合)G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長を意味する。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0020】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る光ファイバの模式的な断面図である。光ファイバ10は、石英系ガラスからなり、中心コア部11と、中心コア部11の外周に形成された中間層12と、中間層12の外周に形成されたトレンチ層13と、トレンチ層13の外周に形成されたクラッド部14と、を備える。
【0021】
図2は、光ファイバ10の屈折率プロファイルを示す図である。プロファイルP11は中心コア部11の屈折率プロファイルであり、いわゆるステップインデックス型を有する。プロファイルP12は中間層12の屈折率プロファイルである。プロファイルP13はトレンチ層13の屈折率プロファイルである。プロファイルP14はクラッド部14の屈折率プロファイルである。
【0022】
光ファイバ10の構造パラメータについて説明する。まず、中心コア部11のコア径は2aである。また、中間層12の外径すなわちトレンチ層13の内径は2bであり、トレンチ層13の外径は2cである。したがって、トレンチ層13の幅(トレンチ幅)は(c-b)である。また、クラッド部14の屈折率に対する中心コア部11の最大屈折率の比屈折率差はΔ1である。クラッド部14の屈折率に対する中間層12の屈折率の比屈折率差はΔ2である。クラッド部14の屈折率に対するトレンチ層13の屈折率の比屈折率差はΔ3である。Δ1、Δ2、Δ3については、Δ1>Δ2>Δ3かつ0>Δ3が成り立つ。すなわち、Δ3は負値であり、これによりトレンチ層13は光ファイバ10の低曲げ損失特性を向上させる。
【0023】
光ファイバ10の構成材料について説明する。中心コア部11は、屈折率を高める屈折率調整用のドーパントであるゲルマニウム(Ge)を含む石英ガラスからなる。トレンチ層13は、たとえば、フッ素(F)などの屈折率を低めるドーパントが添加された石英ガラスからなる。クラッド部14は、たとえば、GeやFなどの屈折率調整用のドーパントを含まない純石英ガラスからなる。中間層12は、純石英ガラスからなってもよいし、屈折率調整用のドーパントがある程度添加されていてもよい。ただし、構成材料やドーパントは、上述したΔ1、Δ2、Δ3に関する不等式が成立すれば、特に限定はされない。
【0024】
この光ファイバ10では、Δ1、Δ2、Δ3、GeによってΔ1が0.34%以上0.37%以下となっており、Δ3の絶対値である|Δ3|が0.1%以上0.25%以下であり、Δ1×|Δ3|が0.08%以下である。このように、Δ1が0.34%以上0.37%以下であることによって、製造の際に屈折率を高めるドーパントであるGeの使用量を抑制でき、かつドーパントの使用量の制御が容易であり、外乱に対しても比較的強くなるので製造誤差を抑制できる。さらには、Geの使用量を抑制できることで、後に詳述するように、中心コア部11における光損失が低減され、波長1550nmにおける伝送損失を0.195dB/km以下とできる。また、|Δ3|が0.25%以下であることによって、屈折率を低めるドーパントの使用量を抑制できる。|Δ3|が、0.10%以上であることによって、屈折率を低めるドーパントの使用量の制御が容易であり、製造誤差を抑制できる。その結果、光ファイバ10は一層製造性が高いものとなる。さらには、Δ1×|Δ3|が0.08%以下であることによって、ドーパントの使用量の抑制の効果と制御の容易性の効果と製造誤差の抑制の効果とを効果的に高めることができるので、光ファイバ10は製造性が高いものとなる。さらには、光ファイバ10の波長1310nmにおけるモードフィールド径(MFD)を8.8μm以上と大きい値にでき、様々な使用用途に対応するものとできる。
【0025】
|Δ3|については、0.25%未満、さらには0.20%以下であれば、ドーパントの使用量を一層抑制できる。なお、|Δ3|が0.10%以上の場合、Δ1×|Δ3|は0.034%以上である。したがって、Δ1×|Δ3|は0.034%以上であることがより好ましい。
【0026】
後に詳述するが、その他の構造パラメータに関して、好ましい範囲を例示すると、Δ2は、たとえば-0.04%以上0.04%以下である。b/aは、たとえば1.8以上3.6以下である。c/aは、たとえば3.2以上5.2以下である。
【0027】
これらの構造パラメータの値を適宜組み合わせることによって、後に詳述するように、光ファイバ10の実効カットオフ波長を1260nm以下とできる。光ファイバ10の波長1310nmにおけるMFDを9.5μm以下とできる。また、光ファイバ10を直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失(以下、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失を、単にマクロベンド損失と記載する場合がある)を1.59dB/m以下とできる。さらには、光ファイバ10の零分散波長を1300nm以上1324nm以下、かつ零分散波長での分散スロープを0.092ps/nm/km以下とできる。その結果、光ファイバ10を、たとえばITU-T G.652に規定される規格(以下、G.652規格と記載する場合がある)を満たすものとできる。さらに、MFDを9.2μm以下とすれば、光ファイバ10を、G.657A規格、特にG.657A2規格を満たすものとできる。なお、マクロベンド損失の1.59dB/mという値は、G.657A2規格における0.1dB/turnの値を、単位を変換して表したものである。また、構造パラメータの値を適宜組み合わせて、実効カットオフ波長が1530nm以下になるようにし、G.654規格を満たすものにしてもよい。
【0028】
以下、シミュレーション計算結果を用いて具体的に説明する。図3は、シミュレーション計算に基づく、Δ1と波長1310nmにおけるMFDとの関係を示す図である。なお、データ点は、構造パラメータであるΔ1、Δ2、Δ3、2a、2b、2cを、G.657A規格を満たすように様々に設定して計算した結果を示す。図3に示すように、Δ1とMFDとの間には高い相関があり、8.8μm以上のMFDを得るには、Δ1が0.34%以上0.37%以下であることが必要である。なお、上述したように、このような比較的低いΔ1とすれば、伝送損失の低減の上でも好ましい。
【0029】
図4は、|Δ3|とMFDとの関係を示す図である。なお、データ点は、Δ1を0.37%に固定して、|Δ3|、Δ2、2a、2b、2cを、G.657A規格を満たすように様々に設定して計算した結果を示す。図4に示すように、|Δ3|は0.25%以下が好ましく、0.20%以下がより好ましいことが確認された。
【0030】
図5は、|Δ2|とMFDとの関係を示す図である。なお、データ点は、|Δ3|を0.2%に固定して、Δ2、Δ1、2a、2b、2cを、G.657A規格を満たすように様々に設定して計算した結果を示す。図5に示すように、Δ2は-0.02%以上0.04%以下が好ましいことが確認された。なお、図5では|Δ3|を0.2%に固定しているが、本発明者が、Δ1、Δ2、Δ3、2a、2b、2cを適宜組み合わせて計算を行ったところ、G.657A規格を満たしながら8.8μm以上のMFDを得るには、Δ2が-0.04%以上0.04%以下であることが好ましいことを確認した。
【0031】
以上のような計算結果の検討に基づいて、光ファイバ10の構造パラメータの最適化を行ったところ、Δ1が0.34%以上0.37%以下であり、Δ2が-0.04%以上0.04%以下であり、|Δ3|が0.25%以下(さらには0.20%以下0.1%以上)であり、Δ1×|Δ3|が0.08%以下の場合に、波長1310nmにおけるMFDが8.8μm以上であり、マクロベンド損失、零分散波長、分散スロープ、カットオフ波長についても良好な特性(たとえば、G.657A2規格を満たす特性)が得られることが確認された。
【0032】
図6は、b/aまたはc/aとMFDとの関係を示す図である。図6は、Δ1が0.34%以上0.37%以下、Δ2が-0.04%以上0.04%以下、|Δ3|が0.25%以下,Δ1×|Δ3|が0.08%以下であり、かつマクロベンド損失、零分散波長、分散スロープ、カットオフ波長が、G.657A2規格を満たす場合を示している。四角のデータ点はb/aについてのデータ点であり、右上から左下に延びる斜線で示す領域が、MFDが8.8μm以上を満たすデータ点の存在領域である。また、菱形のデータ点はc/aについてのデータ点であり、左上から右下に延びる斜線で示す領域が、MFDが8.8μm以上を満たすデータ点の存在領域である。
【0033】
図6に示すように、MFDが8.8μm以上を満たすには、b/aが1.8以上3.6以下であり、c/aが3.2以上5.2以下であることが好ましいことが確認された。
【0034】
なお、b/aが1.8以上3.6以下、c/aが3.2以上5.2以下という範囲は、好ましい一例あって、本発明がこれに限定されるものではない。たとえば、図5から解るように、b/aおよびc/aとMFDとは高い相関性が見られない。しがたって、上記範囲以外のb/a、c/aとして、Δ1が0.34%以上0.37%以下であり、|Δ3|が0.1%以上0.25%以下であり、Δ1×|Δ3|が0.08%以下であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.8μm以上であり、波長1550nmにおける伝送損失が0.195dB/km以下であるという特性を実現してもよい。ただし、b/aが1.8以上3.6以下、c/aが3.2以上5.2以下という範囲は、製造上実施が容易な値であるので、製造性を考慮しても好ましい値である。
【0035】
なお、本発明者の検討によれば、中心コア部11のコア径である2aについては、実効カットオフ波長が1260nm以下になる範囲でなるべく大きくにすることが、MFDの拡大やマクロベンド損失低の減の側面から望ましいことが確認された。たとえば、実効カットオフ波長が1150nm以上1260nm以下になるような2aの値を選択することが望ましい。このような2aの範囲を用いることによって、G.657A2規格を満たすような特性、あるいはそれに近い良好な特性を、大きなMFD(波長1310nmにて8.8μm以上)と両立して実現できることが確認された。
【0036】
なお、本実施形態に係る光ファイバ10は、光ファイバ母材を製造する工程と、光ファイバ母材を加熱溶融して線引きして光ファイバを製造する工程とを含む公知の製造方法にて製造できる。
【0037】
このとき、光ファイバ母材は、光ファイバ10の中心コア部11、中間層12、トレンチ層13、およびクラッド部14となる部分を含むものである。光ファイバ母材は、気相軸付(VAD)法、内付気相堆積(MCVD)法、プラズマ気相堆積(PCVD)法、ゾルゲル法などを用いて製造できる。たとえば、VAD法を用いて、光ファイバ10の中心コア部11、中間層12、トレンチ層13、およびクラッド部14の一部となる部分を形成し、これにクラッド部14の残りの部分となるガラス層をたとえば外側気相堆積(OVD)法を用いて形成することで、光ファイバ母材を製造できる。
【0038】
また、この光ファイバから線引して光ファイバを製造する際には、公知の方法によってUV硬化樹脂からなる被覆層を形成する。このような被覆層は2層構造であるものが好ましい。また、クラッド部14の外径(クラッド径)はたとえば125μmであり、被覆層の外径(被覆径)は250μmであるが、特に限定されない。たとえば、伝送損失、マイクロベンド損失、ハンドリング性、機械強度等の特性が問題なければこれよりも細いものや太いものとしても問題ない。また、被覆層も2層構造には限定されない。たとえば、公知のように、高密度な光ファイバケーブルを実現する為に,被覆径を200μmよりも細くしてもよいし、クラッド径を125μmよりも細くしてもよい。
【0039】
本発明者は、本発明の実施形態に係る光ファイバの伝送損失について調べるために、VAD法を用いて光ファイバ母材を製造し、さらにこの光ファイバ母材を線引きし、UV硬化樹脂からなる2層構造の被覆層を有し、クラッド径が125μm、被覆径が250μmのファイバを試作した。試作した光ファイバは、Δ1が0.34%以上0.37%以下、Δ2が-0.04%以上0.04%以下、|Δ3|が0.25%以下,Δ1×|Δ3|が0.08%以下、b/aが1.8以上3.6以下、c/aが3.2以上5.2以下、かつ波長1310nmにおけるMFDが8.8μmとなる様々な構造パラメータを設定し、かつΔ1だけを0.33%から0.44%の範囲の様々な値に設定しものである。そして、これらの光ファイバの波長1550nmにおける伝送損失を確認した。
【0040】
図7は、Δ1と伝送損失との関係を示す図である。図5に示すように、他の構造パラメータの影響によるばらつきはあるものの、Δ1は波長1550nmにおける伝送損失との間には高い相関がある。たとえば、Δ1を0.42%と高くすると、伝送損失も増大した。この理由は、Δ1を高くするためにドーパントとしてGeの添加量を多くしたので、レイリー散乱損失や構造不整損失が増大したためと考えられる。逆に、Δ1を小さくすると、レイリー散乱損失は下げられても、屈折率プロファイルの設計によってはマイクロベンド損失が大きくなり、たとえばボビンに巻き付けただけで伝送損失が増大してしまうという問題が起こる。また、Δ1をたとえば0.33%と低くすると、伝送損失のばらつきが大きくなった。この理由は、Δ1が低いと、光ファイバの特性の変化が、屈折率プロファイルの形状の変化に対して、より敏感になるためと考えられる。この場合、製造誤差などによる屈折率プロファイルのばらつきによって光ファイバの特性もばらつきやすいので、製造性の低下の可能性がある。
【0041】
これに対して、本発明の実施形態に係る光ファイバ10は、GeによってΔ1が0.34%以上0.37%以下となっているので、波長1310nmでのMFDを8.8μmと大きくできるとともに、0.195dB/km以下の低伝送損失が安定して得られるという利点がある。
【0042】
つづいて、構造パラメータを変化させたときの光ファイバ10の光学特性の変化の具体例について、シミュレーション計算結果を用いて説明する。まず、表1に示すNo.1~No.9までの構造パラメータの組み合わせについて、その光学特性の変化を計算した。No.1からNo.9では、Δ1は0.34%~0.37%で変化させている。Δ2は0%~0.04%で変化させている。|Δ3|は0.12%~0.20%、Δ1×|Δ3|は0.0444%~0.0740%で変化させている。b/aは2.2~3.4で変化させている。c/aは4.0~5.0で変化させている。2aは7.9μm~8.5μmで変化させている。
【0043】
【表1】
【0044】
つづいて、表1の構造パラメータの組み合わせについて光学特性を計算した。さらに、各組み合わせを設計値として、VAD法を用いて光ファイバ母材を製造し、光ファイバ母材を線引きし、UV硬化樹脂からなる2層構造の被覆層を有し、クラッド径が125μm、被覆径が250μmのファイバを試作した。
【0045】
表2は、No.1~No.9についてシミュレーション計算した結果(Simulation)としての光学特性のうち、零分散波長、分散スロープ、MFD、Cutoff波長、マクロベンド損失の値を示す。また、表2では、試作したNo.1~No.9の光ファイバについて、上記光学特性に加え、伝送損失も示している。なお、表2では、規格として、G.657A2規格の規格値も合わせて示してある。表2から解るように、No.1~No.9のいずれも、シミュレーション計算結果がG.657A2規格を満たすことが確認された。さらに、MFDについては8.8μm以上、伝送損失については0.195dB/km以下であることが確認された。また、零分散波長、分散スロープ、MFD、Cutoff波長、マクロベンド損失については、シミュレーション計算による光学特性と、試作した光ファイバの光学特性とが殆ど一致していることも確認した。
【表2】
【0046】
さらに、試作した光ファイバはMFDが8.8μm以上であるため、光ファイバ中の非線形光学効果の発生を抑制でき、かつ接続性もよい。試作した光ファイバと、G.652規格を満たす標準シングルモード光ファイバとを融着接続する実験を行ったところ、いずれの試作した光ファイバについても、問題なく0.1dB以下の接続損失が安定して得られた。
【0047】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 光ファイバ
11 中心コア部
12 中間層
13 トレンチ層
14 クラッド部
P11、P12、P13、P14 プロファイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7