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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20220419BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C08L101/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019067583
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167302
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】池田 英行
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 匠
(72)【発明者】
【氏名】杉山 翔太
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-321285(JP,A)
【文献】特開2011-021097(JP,A)
【文献】特開2010-126709(JP,A)
【文献】特開2009-079119(JP,A)
【文献】特開2017-110063(JP,A)
【文献】特開2007-084595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C08L 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
290℃以上の融点を有する結晶性熱可塑性樹脂である第1の樹脂成分とガラス転移温度が150℃以上である第2の樹脂成分との樹脂複合体であり、
前記第1の樹脂成分の結晶化度が、前記樹脂複合体全体の5.0%超である熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
前記第1の樹脂成分が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン及び脂肪族ポリケトンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記第2の樹脂成分が、芳香族ポリエステル樹脂を含む請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
前記第2の樹脂成分が、エーテル結合を有する非晶質熱可塑性樹脂を含む請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
前記樹脂複合体が、前記第1の樹脂成分を含むマトリックス部と、該マトリックス部に分散して含まれる前記第2の樹脂成分を含むドメイン部と、からなる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向に対して直交方向の切断面における前記ドメイン部の平均直径が、10μm以下である請求項5に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
前記樹脂複合体の引張弾性率が、260℃において、1.0×10Pa以上である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
前記樹脂複合体の波長375nmの紫外線の透過率が、0.50%超である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
前記樹脂複合体の面内方向の最大寸法変化率が、260℃において、2.0%以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
前記第1の樹脂成分の結晶化度が、前記樹脂複合体全体の30%以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程に用いる、粘着層が塗布されている粘着テープ用の基材フィルムであり、リフロー工程を含む複数の工程に使用できる粘着テープ用の基材フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶性熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン樹脂は、耐熱性、剛性等に優れているので、プリント配線板の基板、電子部品のキャリヤテープ、画像形成装置の半導電性ベルト等の電子部品に利用されている。例えば、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンとポリエーテルサルフォンとを含有する樹脂組成物からなる耐熱性フィルムを画像形成装置の半導電性ベルトに用いることで、耐熱性に加えて、優れた耐屈曲疲労性を有する半導電性ベルトとすることができることが提案されている(特許文献1)。
【0003】
一方、半導体ウエハをダイシングする前には、半導体ウエハの薄型化のためにバックグラインド工程が行われ、半導体製造工程用テープにて半導体ウエハをグラインドから保護している。また、半導体ウエハをダイシングして得た半導体チップをピックアップする際には、通常、ピックアップ前に、半導体チップの間隔を広げるために、半導体製造工程用テープを広げるエキスパンド工程を行う。また、半導体チップをピックアップする際には、半導体製造工程用テープに塗布された粘着層を紫外線で硬化させて粘着層の粘着性を低下させる。これらの工程から、従来、半導体製造工程で使用されてきた半導体製造工程用テープは、引っ張り時の伸び特性、紫外線透過性、耐擦傷性等に優れたポリオレフィン/ポリエステル系樹脂を基材フィルムとするものが多かった。
【0004】
一方で、近年、半導体デバイスはマルチチップ化が進んでおり、その製造工程内に、260℃程度の熱でワークを加熱処理するリフロー工程が導入されることがある。しかし、上記したポリオレフィン/ポリエステル系樹脂は、リフロー工程に耐える耐熱性を有していない。このため、リフロー工程に対応するために、耐熱性を有するポリイミドを基材フィルムとした半導体製造工程用テープが導入されている。しかし、ポリイミドフィルムは、引っ張り時の伸び特性、紫外線透過性、耐擦傷性、吸水率等に問題があり、半導体製造工程においてリフロー工程以外の工程には適用できないという問題がある。
【0005】
このため、半導体製造工程では、リフロー工程と、バックグラインド工程、ダイシング工程及びピックアップ工程等のリフロー工程以外の工程との間で、半導体製造工程用テープの貼替操作が必要となる。半導体製造工程用テープの貼替操作は、半導体製造工程の工数増大及び煩雑化をもたらし、半導体デバイスの製造歩留まりの低下につながる。このため、リフロー工程の導入を必要とする半導体デバイスの製造では、製造コストの増大等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-266418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、リフロー工程を含む複数の工程に使用できる半導体製造工程に用いる粘着テープ用の基材フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]290℃以上の融点を有する結晶性熱可塑性樹脂である第1の樹脂成分とガラス転移温度が150℃以上である第2の樹脂成分との樹脂複合体であり、前記第1の樹脂成分の結晶化度が、前記樹脂複合体全体の5.0%超である熱可塑性樹脂フィルム。
[2]前記第1の樹脂成分が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン及び脂肪族ポリケトンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む[1]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[3]前記第2の樹脂成分が、芳香族ポリエステル樹脂を含む[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[4]前記第2の樹脂成分が、エーテル結合を有する非晶質熱可塑性樹脂を含む[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[5]前記樹脂複合体が、前記第1の樹脂成分を含むマトリックス部と、該マトリックス部に分散して含まれる前記第2の樹脂成分を含むドメイン部と、からなる[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[6]前記熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向に対して直交方向の切断面における前記ドメイン部の平均直径が、10μm以下である[5]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[7]前記樹脂複合体の引張弾性率が、260℃において、1.0×10Pa以上である[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[8]前記樹脂複合体の波長375nmの紫外線の透過率が、0.50%超である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
[9]前記樹脂複合体の面内方向の最大寸法変化率が、260℃において、2.0%以下である[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの態様によれば、290℃以上の融点を有する結晶性熱可塑性樹脂である第1の樹脂成分とガラス転移温度が150℃以上である第2の樹脂成分との樹脂複合体であり、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が樹脂複合体全体の5.0%超であることにより、耐熱性を備えつつ、引っ張り時の伸び特性、紫外線透過性、耐擦傷性、加熱時の耐変形性に優れている。従って、リフロー工程を含む複数の工程に使用できる半導体製造工程に用いる粘着テープ用の基材フィルムとして使用することができる。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの態様によれば、第1の樹脂成分が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン及び脂肪族ポリケトンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含むことにより、耐熱性と引っ張り時の伸び特性が確実に向上する。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの態様によれば、第2の樹脂成分が、芳香族ポリエステル樹脂またはエーテル結合を有する非晶質熱可塑性樹脂を含むことにより、引っ張り時の伸び特性が確実に向上する。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの態様によれば、樹脂複合体が、第1の樹脂成分を含むマトリックス部とマトリックス部に分散して含まれる第2の樹脂成分を含むドメイン部からなることにより、引っ張り時の伸び特性、紫外線透過性、耐擦傷性、加熱時の耐変形性がさらに向上する。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの態様によれば、熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向に対して直交方向の切断面における前記ドメイン部の平均直径が、10μm以下であることにより、引っ張り時の伸び特性、加熱時の耐変形性がさらに確実に向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、290℃以上の融点を有する結晶性熱可塑性樹脂である第1の樹脂成分とガラス転移温度が150℃以上である第2の樹脂成分との樹脂複合体である。従って、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、上記第1の樹脂成分と上記第2の樹脂成分とが併用されてアロイ化されている樹脂複合体である。また、第1の樹脂成分の結晶化度が、アロイ化されている樹脂複合体全体の5.0%超となっている。
【0015】
第1の樹脂成分は、主に、本発明の熱可塑性樹脂フィルムに耐熱性を付与する。第1の樹脂成分としては、290℃以上の融点を有する結晶性熱可塑性樹脂であれば、樹脂種は特に限定されず、例えば、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等のポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂、脂肪族ポリケトン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、半導体製造工程用テープとして耐熱性だけではなく引っ張り時の伸び特性にも優れる点から、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂が好ましく、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂が特に好ましい。
【0016】
第1の樹脂成分の融点は290℃以上であれば、特に限定されないが、その下限値は、約260℃のリフロー工程に確実に連続使用できる点から300℃が好ましく、320℃が特に好ましい。一方で、第1の樹脂成分の融点の上限値としては、例えば、340℃が挙げられる。
【0017】
第1の樹脂成分の結晶化度は樹脂複合体全体の5.0%超であれば、特に限定されないが、その下限値は、熱可塑性樹脂フィルムの耐熱性が確実に向上して熱の負荷を受けても耐変形性が確実に得られる点から、7%が好ましく、9%が特に好ましい。一方で、第1の樹脂成分の結晶化度の上限値は、熱可塑性樹脂フィルムの脆化を確実に防止し、かつより優れた紫外線透過性を確保する点から、樹脂複合体全体の30%が好ましく、25%が特に好ましい。なお、第1の樹脂成分の結晶化度は広角X線回折によって得られる非晶ハローと結晶による回折ピークの面積比より算出できる。
【0018】
第2の樹脂成分は、主に、本発明の熱可塑性樹脂フィルムに紫外線透過性及び加熱時の耐変形性を付与する。第2の樹脂成分は、結晶性の熱可塑性樹脂でも非晶質の熱可塑性樹脂でもよい。第2の樹脂成分としては、ガラス転移温度(Tg)が150℃以上の樹脂であれば、樹脂種は特に限定されず、例えば、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエステルなどが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、半導体製造工程用テープとして紫外線透過性及び加熱時の耐変形性がバランスよく向上する点から、エーテル結合を有する非晶質熱可塑性樹脂、ポリアリレート、芳香族ポリエステルが好ましい。また、エーテル結合を有する非晶質熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルサルフォンが特に好ましい。
【0019】
第2の樹脂成分のガラス転移温度は150℃以上であれば、特に限定されないが、その下限値は、第1の樹脂成分が結晶化する際に第2の樹脂成分が軟化することを防止することで、引っ張り時の伸び特性と加熱時の耐変形性をさらに向上する点から170℃が好ましく、180℃が特に好ましい。一方で、第2の樹脂成分のガラス転移温度の上限値としては、例えば、260℃が挙げられる。
【0020】
第1の樹脂成分と第2の樹脂成分の配合割合は、特に限定されないが、耐熱性と、引っ張り時の伸び特性、紫外線透過性、耐擦傷性及び加熱時の耐変形性と、をバランスよく向上させる点から、第1の樹脂成分100質量部に対して、第2の樹脂成分が20質量部以上160質量部以下含まれるのが好ましく、30質量部以上120質量部以下含まれるのがより好ましく、40質量部以上100質量部以下含まれるのが特に好ましい。
【0021】
アロイ化されている樹脂複合体としては、第1の樹脂成分を含むマトリックス部と、該マトリックス部に分散して含まれる第2の樹脂成分を含むドメイン部と、からなる構造を有しているものが挙げられる。すなわち、樹脂複合体として、第1の樹脂成分の海相と第2の樹脂成分の複数個の島相とからなる海島構造を有しているものが挙げられる。本発明のアロイ化されている樹脂複合体は、マトリックス部とドメイン部との分離性が高い相分離構造を有している。第2の樹脂成分の独立した島相が、第1の樹脂成分の海相に、多数、分散していることにより、半導体製造工程用テープとして紫外線透過性及び加熱時の耐変形性が特にバランスよく向上するのに加えて、引っ張り時の伸び特性と耐擦傷性も得られる。
【0022】
このうち、第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部と、該マトリックス部に分散して含まれる第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部と、からなる構造が好ましく、第1の樹脂成分からなるマトリックス部と、該マトリックス部に分散して含まれる第2の樹脂成分からなるドメイン部と、からなる構造が特に好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向に対して直交方向の切断面におけるドメイン部の平均直径は、特に限定されないが、ドメイン部の優れた分散性によって半導体製造工程用テープとして引っ張り時の伸び特性、紫外線透過性、耐擦傷性及び加熱時の耐変形性が特にバランスよく向上する点から、10μm以下が好ましく、5.0μm以下が特に好ましい。また、ドメイン部の上記平均直径の下限値は、低ければ低いほど好ましいが、例えば、0.5μmが挙げられる。
【0024】
なお、第1の樹脂成分の海相と第2の樹脂成分の島相とからなる海島構造は走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察することで確認でき、ドメイン部の上記平均直径はASTMD3576-77に準じて決定する。
【0025】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、特に限定されないが、リフロー工程と、バックグラインド工程、ダイシング工程及びピックアップ工程等のリフロー工程以外の工程を通じて、半導体ウエハをより確実に保護する点から、その下限値は、10μmが好ましく、25μmが特に好ましい。一方で、熱可塑性樹脂フィルムの厚みの上限値は、エキスパンド工程をより円滑化して半導体チップを確実にピックアップできる点から、200μmが好ましく、100μmが特に好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されず、公知のフィルム形成方法を使用できる。例えば、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分を所定割合で混合後、押出機で押出成形する方法により製造することができる。また、フィルム状に形成後、アニーリング処理をしてもよい。
【0027】
上記した本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、260℃における引張弾性率が半導体製造工程用テープとして優れている。例えば、本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、260℃における樹脂複合体の引張弾性率は、リフロー工程における熱可塑性樹脂フィルムの伸びの発生を抑えて、ワークの位置精度を確実に維持する点から、高いほど好ましく、例えば、その下限値は、1.0×10Paが好ましく、1.0×10Paがより好ましく、1.0×10Paが特に好ましい。一方で、260℃における樹脂複合体の引張弾性率の上限値は、例えば、2.0×10Paである。なお、引張弾性率とは、JIS K7127に準じて測定された引張弾性率である。
【0028】
上記した本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、紫外線透過率が半導体製造工程用テープとして優れている。例えば、本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、半導体チップのピックアップを円滑化する点から、波長375nmの紫外線の透過率が、0.50%超であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることが特に好ましい。
【0029】
上記した本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、260℃における面内方向の最大寸法変化率が半導体製造工程用テープとして優れている。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、260℃における耐変形性に優れている。例えば、本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、リフロー工程時にワークが半導体製造工程用テープから脱落することを確実に防止する点から、260℃における面内方向の最大寸法変化率が、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることが特に好ましい。
【0030】
従って、本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、熱可塑性樹脂フィルムの流れ方向の寸法変化率及び流れ方向に対して直交方向の寸法変化率は、いずれも低減されており、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることが特に好ましい。
【0031】
また、上記した本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、引張破断伸びが半導体製造工程用テープとして優れている。例えば、本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、引張破断伸びの下限値は、半導体チップのピックアップ時におけるエキスパンドを円滑化する点から、50%が好ましく、75%がより好ましく、100%が特に好ましい。なお、引張破断伸びは、JIS K6251に準じて測定された引張破断伸びである。
【0032】
また、上記した本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、弾性変形領域の範囲が半導体製造工程用テープとして優れている。例えば、本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、半導体チップのピックアップ時におけるエキスパンドを円滑化する点から、4.0%以上が好ましく、5.0%以上が特に好ましい。なお、弾性変形領域の範囲は降伏点までの領域とした。
【0033】
また、上記した本発明の熱可塑性樹脂フィルムでは、耐擦傷性を有する点でダイシング工程に使用できることから、半導体製造工程用テープとして優れている。
【実施例
【0034】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例の態様に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
第1の樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点334℃)60質量%、第2の樹脂成分としてポリアリレート(ガラス転移温度195℃)40質量%を用い、押出成形にて熱可塑性樹脂フィルムを作製した。得られた熱可塑性樹脂フィルムに対し、フロート式フィルムアニール炉にて結晶化処理を行った。結晶化処理後の熱可塑性樹脂フィルムは、SEMによる構造観察を行って海島構造を有することを確認し、また、分散相の平均直径は0.5~1.0μmであった。なお、フロート式フィルムアニール炉での結晶化処理条件は、以下の通りとした。
加熱温度 :220℃
炉内テンション:1N(300mm幅フィルム)
線速 :示差走査熱量測定(DSC)にて結晶化ピークが確認できなくなる速度
【0036】
実施例2
第2の樹脂成分としてポリエーテルスルフォン(ガラス転移温度200℃超)を用いた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂フィルムを作製した。得られた熱可塑性樹脂フィルムは、海島構造を有することを確認し、また、分散相の平均直径は1.0~10μmであった。
【0037】
実施例3
第1の樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)40質量%、第2の樹脂成分としてポリアリレート(ガラス転移温度195℃)60質量%とした以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂フィルムを作製した。得られた熱可塑性樹脂フィルムは、海島構造を有することを確認し、また、分散相の平均直径は1.0~10μmであった。
【0038】
比較例1では、ポリイミド樹脂(PI)のみを用いて、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
比較例2では、ポリオレフィン樹脂(PO)のみを用いて、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
比較例3では、ポリエチレンテレフタレート(PET)のみを用いて、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
比較例4では、ポリエチレンナフタレート(PEN)のみを用いて、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
比較例5では、市販のポリエーテルエーテルケトン製結晶化フィルムであるSepla結晶化グレード(50μm)を使用した。
比較例6では、ポリエチレンナフタレート(PEN)90質量部にタルク10質量部を添加し、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
比較例7では、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)60質量部にポリカーボネート(PC)40質量部を添加し、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作成した。実施例1と同じく、結晶化処理を実施した。
比較例8では、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のみを用いて、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
【0039】
評価項目と評価方法は、以下の通りである。
(1)熱可塑性樹脂フィルム中における第1の樹脂成分の結晶化度(%)
各樹脂フィルムについて、広角X線回折により求めた。二次元測定器により15度から27度の回折パターンを解析範囲として設定し、非晶部ハローと結晶による回折ピークの比率より結晶化度を求めた。
【0040】
(2)260℃の寸法変化率(260℃の耐変形性)(%)
260℃の恒温槽中に各樹脂フィルムを10分間保管し、保管前後の各樹脂フィルムの長手方向(MD方向)及び長手方向に対して直交方向(TD方向)の寸法変化率を求めた。
【0041】
(3)260℃の引張弾性率(Pa)
各樹脂フィルムについて、TAインスツルメンツ社製DMA850の引張モードにより測定を行った。この測定方法は、JIS K7127に準じたものである。
【0042】
(4)375nm紫外線透過率(%)
各樹脂フィルムについて、成形品を分光光度計(U-4100(株式会社日立ハイテクノロジーズ製))で分光スリット(4nm)の条件で、光線波長375nmでの光線透過率の測定を行った。
【0043】
(5)弾性変形領域(%)
株式会社島津製作所製オートグラフ「AG-Xplus」にて、各樹脂フィルムの引張試験を行い、降伏点までを弾性変形領域として測定した。
【0044】
(6)引張破断伸び(%)
各樹脂フィルムについて、JIS K6251に準じて測定した。
【0045】
(7)耐擦傷性
各樹脂フィルムについて、半導体製造工程のうちのダイシング工程を実施し、下記基準で評価した。
○:ブレード屑発生せず
×:ブレード屑が発生、またはフィルムが破断
【0046】
評価結果を下記表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
上記表1から、290℃以上の融点を有する結晶性熱可塑性樹脂である第1の樹脂成分とガラス転移温度が150℃以上である第2の樹脂成分との樹脂複合体であり、第1の樹脂成分の結晶化度が樹脂複合体全体の5.0%超である実施例1~3では、260℃の寸法変化率が低減され、260℃の引張弾性率が1.00×10Pa~1.50×10Paであることから、リフロー工程に好適に使用できることが判明した。また、実施例1~3では、375nm紫外線透過率が3.0%~6.0%と紫外線透過率に優れるので、半導体チップのピックアップ工程に好適に使用できることが判明した。また、実施例1~2では、弾性変形領域が5%、引張破断伸びが150%を維持できたことから、半導体チップのピックアップ時における半導体製造工程用テープのエキスパンド工程に十分に対応できることが判明し、実施例3では、弾性変形領域が5%を維持できたことから、エキスパンド工程に対応できることが判明した。さらに、実施例1~3では、耐擦傷性に優れているので、半導体ウエハをダイシングする工程に好適に使用できることが判明した。
【0049】
一方で、ポリイミド樹脂のみを使用した比較例1では、375nm紫外線透過率と耐擦傷性が得られず、弾性変形領域と引張破断伸びも向上せず、リフロー工程以外の工程に使用できないことが判明した。また、ポリオレフィン樹脂のみを使用した比較例2では、260℃の寸法変化率が大きく、また、260℃の引張弾性率が低く、リフロー工程に使用できないことが判明した。さらに、ポリエチレンテレフタレートのみを使用した比較例3では、耐擦傷性が得られず、ダイシング工程に使用できないことが判明した。また、ポリエチレンナフタレートのみを用いた比較例4では、260℃環境下では融点に近すぎるためフィルムの収縮が発生して260℃の寸法変化率が計測できず、また、フィルムの軟化が過度に進行して260℃の引張弾性率が測定できず、リフロー工程に使用できないことが判明した。また、比較例4では、耐擦傷性が得られず、ダイシング工程に使用できないことが判明した。さらに、比較例5では、MD方向の260℃における耐変形性と375nm紫外線透過率が得られなかった。
【0050】
また、融点が270℃であるポリエチレンナフタレートにタルクを添加した比較例6では、やはり、260℃環境下では融点に近すぎるためフィルムの収縮が発生し寸法変化率は計測不能であった。弾性率についても同様にフィルムの軟化が過度に進行し測定不能であった。
【0051】
次に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)60質量部にポリカーボネート(PC)40質量部を添加した比較例7を成膜し結晶化処理を実施したところ、樹脂フィルムはアニール炉のテンションに耐えることができず延展/破断し結晶化フィルムを採取することができなかった。
【0052】
次に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を実施例1と同様に成膜した比較例8に結晶化処理を実施したところ、樹脂フィルムはアニール炉のテンションに耐えることができず延展/破断し結晶化フィルムを採取することができなかった。