(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】表面処理組成物、およびその製造方法、ならびに表面処理組成物を用いた表面処理方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220419BHJP
C11D 7/22 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01L21/304 622Q
H01L21/304 647A
C11D7/22
(21)【出願番号】P 2019504432
(86)(22)【出願日】2018-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2018005779
(87)【国際公開番号】W WO2018163781
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2017042112
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017185150
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石田 康登
(72)【発明者】
【氏名】吉野 努
(72)【発明者】
【氏名】大西 正悟
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 幸信
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-243208(JP,A)
【文献】特開2006-080501(JP,A)
【文献】国際公開第2012/039390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有
し、pKaが3以下であり、下記式(1):
【数1】
で表されるイオン性官能基密度が10%超である高分子化合物と、
濡れ剤と、
水と、
を含有し、
pHが7未満であ
り、
前記濡れ剤は、スルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位と、他の構成単位とを含み、上記式(1)で表されるイオン性官能基密度が10%以下である共重合体を含有し、
前記高分子化合物の含有量は、0.5質量%以上10質量%以下である、表面処理組成物。
【請求項2】
前記高分子化合物は、スルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体を含む、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項3】
前記他の構成単位は、エチレン性不飽和単量体由来の構成単位を含む、請求項2に記載の表面処理組成物。
【請求項4】
前記高分子化合物は、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基およびホスホン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性官能基を有する構成単位のみからなる単独重合体を含む、請求項1から3のいずれか1項記載の表面処理組成物。
【請求項5】
前記高分子化合物は、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項6】
前記スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物は、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール、スルホン酸(塩)基含有ポリスチレン、スルホン酸(塩)基含有ポリ酢酸ビニル、スルホン酸(塩)基含有ポリエステル、(メタ)アクリル基含有単量体-スルホン酸(塩)基含有単量体の共重合体、スルホン酸(塩)基含有ポリイソプレン、スルホン酸(塩)
基含有アリルポリマー、およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の表面処理組成物。
【請求項7】
前記高分子化合物の含有量は、表面処理組成物に含まれるポリマーの総質量に対して50質量%以上である、請求項1から6のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項8】
前記濡れ剤が
、スルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位と、他の構成単位とを含み、pKaが3超である共重合体、カルボン酸(塩)基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種
をさらに含む、請求項
7に記載の表面処理組成物。
【請求項9】
前記濡れ剤は、スルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位と、他の構成単位とを含み、上記式(1)で表されるイオン性官能基密度が10%以下である共重合体であり、
前記濡れ剤の含有量は、0.01質量%以上0.1質量%以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項10】
スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する高分子化合物と、
水と、
を含有し、
pHが7未満であり、
前記高分子化合物は、
スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基およびホスホン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性官能基を有する構成単位のみからなる、単独重合体Dと、
スルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む、共重合体Wと、
を含有し、
前記単独重合体Dの含有割合は、前記単独重合体Dと、前記共重合体Wとの総質量に対して、70質量%以上であり、
前記単独重合体Dは、pKaが3以下であり、
前記共重合体Wは、下記式(1):
【数2】
で表されるイオン性官能基密度が10%以下である、
表面処理組成物。
【請求項11】
前記高分子化合物は、前記単独重合体Dおよび前記共重合体Wからなり、
前記単独重合体Dの含有量は、0.01質量%以上10質量%以下であり、
濡れ剤をさらに含み、前記濡れ剤は、前記共重合体Wを含み、前記濡れ剤の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下である、請求項10に記載の表面処理組成物。
【請求項12】
前記濡れ剤が、カルボン酸(塩)基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項11に記載の表面処理組成物。
【請求項13】
pH値が1以上3未満である、請求項1から
12のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項14】
砥粒を実質的に含有しない、請求項1から
13のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項15】
研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減するのに用いられる、請求項1から
14のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項16】
前記研磨済研磨対象物は、窒化珪素、酸化珪素およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項
15に記載の表面処理組成物。
【請求項17】
前記残渣が有機物残渣である、請求項
15または16に記載の表面処理組成物。
【請求項18】
請求項1から
17のいずれか1項に記載の表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理して、研磨済研磨対象物の表面における有機物残渣を低減する、表面処理方法。
【請求項19】
前記表面処理は、リンス研磨処理または洗浄処理によって行われる、請求項
18に記載の表面処理方法。
【請求項20】
前記高分子化合物と、前記水と、を混合することを含む、請求項1から
19のいずれか1項に記載の表面処理組成物の製造方法。
【請求項21】
研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、
請求項
18または19に記載の表面処理方法によって、研磨済半導体基板の表面における有機物残渣を低減することを含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理組成物、およびその製造方法、ならびに表面処理組成物を用いた表面処理方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、酸化珪素、窒化珪素や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMP工程後の半導体基板表面には、不純物(異物またはディフェクトとも称する)が多量に残留している。不純物としては、CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、更には各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。
【0004】
半導体基板表面がこれらの不純物により汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、CMP工程後に洗浄工程を導入し、半導体基板表面からこれらの不純物を除去することが望ましい。
【0005】
かような洗浄用組成物として、例えば、特開2012-74678号公報(米国特許出願公開第2013/174867号明細書に相当)には、ポリカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸と、スルホン酸型アニオン性界面活性剤と、カルボン酸型アニオン性界面活性剤と、水とを含有する、半導体基板用の洗浄用組成物が開示されており、これによって、基板表面を腐食することなく、異物を除去しうることが開示されている。
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特開2012-74678号公報に開示された技術は、研磨済研磨対象物の洗浄に際しては、異物(残渣)を十分に除去できないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明者らは、研磨済研磨対象物の種類と異物の種類との関係について検討を行った。その結果、半導体基板は残渣が付着しやすく、かような有機物残渣は、半導体デバイスの破壊の原因となりうることを見出した。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去する手段を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を進めた。その結果、pKaおよびイオン性官能基密度が特定の範囲であり、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する高分子化合物を含む表面処理組成物が、研磨済研磨対象物表面の残渣を除去する効果を著しく向上させることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する高分子化合物と、水と、を含有し、pH値が7未満であり、前記高分子化合物は、pKaが3以下であり、かつ下記式(1):
【0011】
【0012】
で表されるイオン性官能基密度が10%超である、表面処理組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0014】
なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。また、本明細書において、化合物の具体名における表記「(メタ)アクリル」は「アクリル」および「メタクリル」を、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」および「メタクリレート」を表すものとする。
【0015】
また、本明細書において、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する高分子化合物を、単に「イオン性官能基含有高分子」とも称する。これらの中で、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、およびホスホン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性官能基を有する高分子化合物を、「酸性官能基含有高分子P」とも称する。さらに、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物を単に「スルホン酸(塩)基含有高分子」とも称し、リン酸(塩)基を有する高分子化合物を単に「リン酸(塩)基含有高分子」とも称し、ホスホン酸(塩)基を有する高分子化合物を単に「ホスホン酸(塩)基含有高分子」とも称し、アミノ基を有する高分子化合物を単に「アミノ基含有高分子」とも称する。
【0016】
<残渣>
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物(以下、「表面処理対象物」、「洗浄対象物」とも称する)の表面に付着した残渣に対して優れた除去効果を示す。
【0017】
本明細書において、残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣としては、特に制限されないが、例えば、後述する有機物残渣、研磨用組成物に含まれる砥粒由来のパーティクル残渣、パーティクル残渣および有機物残渣以外の成分からなる残渣、パーティクル残渣および有機物残渣の混合物等のその他の残渣等が挙げられる。
【0018】
総残渣数とは、種類によらず、全ての残渣の総数を表す。総残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置を用いて測定することができる。残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0019】
本明細書において、有機物残渣とは、研磨済研磨対象物(表面処理対象物)表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。
【0020】
表面処理対象物に付着する有機物残渣は、例えば、後述の研磨工程もしくは任意に設けてもよいリンス研磨工程において使用したパッドから発生するパッド屑、または研磨工程において用いられる研磨用組成物もしくはリンス研磨工程において用いられるリンス研磨用組成物に含まれる添加剤に由来する成分等が挙げられる。
【0021】
なお、有機物残渣とその他の異物とは色および形状が大きく異なることから、異物が有機物残渣であるか否かの判断は、SEM観察によって目視にて行うことができる。なお、異物が有機物残渣であるか否かの判断は、必要に応じて、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。
【0022】
有機物残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置、およびSEMまたはEDX元素分析を用いて測定することができる。有機物残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0023】
<研磨済研磨対象物>
本明細書において、研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0024】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、窒化珪素、酸化珪素およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含む研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を低減するために用いられることが好ましい。すなわち、本発明の一形態において、研磨済研磨対象物は、窒化珪素、酸化珪素およびポリシリコンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。酸化珪素を含む研磨済研磨対象物としては、例えばオルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化珪素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等が挙げられる。
【0025】
研磨済研磨対象物は、研磨済半導体基板であることが好ましく、CMP後の半導体基板であることがより好ましい。かかる理由は、残渣は半導体デバイスの破壊の原因となりうるため、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合は、半導体基板の洗浄工程としては、残渣をできる限り除去しうるものであることが必要とされるからである。
【0026】
窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む研磨済研磨対象物としては、特に制限されないが、窒化珪素、酸化珪素およびポリシリコンのそれぞれ単体からなる研磨済研磨対象物や、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンに加え、これら以外の材料が表面に露出している状態の研磨済研磨対象物等が挙げられる。ここで、前者としては、例えば、半導体基板である窒化珪素基板、酸化珪素基板またはポリシリコン基板が挙げられる。また、後者については、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンに加え、例えば、タングステン等の他の材料が表面に露出している基板等が挙げられる。かかる研磨済研磨対象物のさらなる具体例としては、タングステン上に窒化珪素膜または酸化珪素膜が形成された構造を有する研磨済半導体基板や、タングステン部分と、窒化珪素膜と、酸化珪素膜とが全て露出した構造を有する研磨済半導体基板等が挙げられる。
【0027】
ここで、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、残渣の種類に関わらず高い除去効果を有するものであるが、特に有機物由来の残渣(有機異物、有機物残渣)に対して極めて高い除去効果を示すことから、有機物残渣を低減するのに用いられることが好ましい。
【0028】
また、本発明の奏する効果の観点から、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、窒化珪素または酸化珪素を含む研磨済研磨対象物の表面における有機物残渣を低減することに用いられることが好ましく、窒化珪素を含む研磨済研磨対象物の表面における有機物残渣を低減することに用いられることがより好ましい。かかる理由は、後述する有機物残渣の除去作用による有機物残渣の除去効果が後述する有機物残渣の再付着抑止作用による有機物残渣の除去効果よりも強力であると推測されるからであり、さらに、後述する酸性条件下における窒化珪素の正電荷の帯電が、酸化珪素の正電荷の帯電よりも強く、イオン性官能基含有高分子による有機物残渣の除去作用がより強力となると推測されるからである。そして、これらの研磨済研磨対象物における、除去対象となる残渣としては、有機物残渣であることが特に好ましい。本発明は、有機物残渣に対して極めて顕著な効果を奏するからである。
【0029】
<表面処理組成物>
本発明の一形態による表面処理組成物は、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する高分子化合物と、水と、を含有し、pHが7未満であり、前記高分子化合物は、pKaが3以下であり、下記式(1):
【0030】
【0031】
で表されるイオン性官能基密度が10%超である。本発明の一形態による表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減するのに好ましく用いられる。そして、本発明の一形態によれば、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去させうる手段が提供される。
【0032】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、洗浄工程において、有機物残渣を選択的に除去するための有機物残渣低減剤として用いることが特に好ましい。
【0033】
本発明者らは、本発明によって上記課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。
【0034】
表面処理組成物は、表面処理組成物に含有される各成分と、表面処理対象物の表面および異物とが化学的に相互作用する結果として、表面処理対象物表面の異物を除去し、または除去を容易にする機能を有する。
【0035】
ここで、表面処理対象物に付着する残渣としては、酸性条件下で正電荷の帯電が生じ易い成分(以下、「正電荷帯電性成分」とも称する)と、酸性条件下で正の帯電が生じ難い疎水性成分(以下、「疎水性成分」とも称する)とが存在しており、これらはそれぞれ別個の機構により除去することが必要となる。
【0036】
以下では、本発明の一例として、イオン性官能基が酸性官能基である酸性官能基含有高分子である場合を表す。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、イオン性官能基が塩基性官能基である塩基性官能基含有高分子を用いた場合であっても良好な残渣除去効果を示す。
【0037】
例えば、表面処理対象物が窒化珪素または酸化珪素を含む場合、酸性条件下において、表面処理対象物表面の窒化珪素部分または酸化珪素部分は正電荷の帯電が生じる。その結果、酸性官能基含有高分子の一部のアニオン化した酸性官能基は、表面処理対象物表面側に向き、当該一部のアニオン化した酸性官能基以外のアニオン化した酸性官能基は表面処理対象物表面側とは反対側に向くことで、酸性官能基含有高分子は、表面処理対象物に静電的に吸着することとなる。また、残渣のうち正電荷帯電性成分は、一般的には酸性条件下において、正電荷の帯電が生じる。その結果、酸性官能基含有高分子の一部のアニオン化した酸性官能基は、正電荷帯電性成分側に向き、当該一部のアニオン化した酸性官能基以外のアニオン化した酸性官能基は正電荷帯電性成分表面側とは反対側に向くことで、酸性官能基含有高分子は、正電荷帯電性成分表面に静電的に吸着することとなる。このとき、表面処理対象物は、表面処理対象物表面側とは反対側に向いたアニオン化した酸性官能基に覆われた状態として負電荷に帯電した状態となり、正電荷帯電性成分は、正電荷帯電性成分表面側とは反対側に向いたアニオン化した酸性官能基に覆われた状態として負電荷に帯電した状態となる。そして、アニオン化した酸性官能基に覆われた表面処理対象物表面とアニオン化した酸性官能基に覆われた正電荷帯電性成分とが静電的に反発することで、正電荷帯電性成分は表面処理対象物表面から除去される。一方、疎水性成分に対して、酸性官能基含有高分子の疎水性構造部位は、疎水性成分表面側に向き、親水性構造部位であるアニオン化した酸性官能基は、疎水性成分表面側とは反対側に向くことで、酸性官能基含有高分子は、疎水性成分表面に疎水性相互作用によって吸着する。このとき、疎水性成分は、疎水性成分表面側とは反対側に向いたアニオン化した酸性官能基に覆われたミセルを形成する。そして、このミセルが表面処理組成物中に溶解または分散することによって、疎水性成分は表面処理対象物表面から除去される。そして、表面処理対象物表面に吸着した酸性官能基含有高分子は、表面処理工程後に容易に除去される。
【0038】
例えば、表面処理対象物がポリシリコンを含む場合は、表面処理対象物表面のポリシリコン部分は、酸性条件下で正電荷の帯電が生じないことから、表面処理対象物が窒化珪素または酸化珪素を含む場合とは異なるメカニズムによって残渣が除去される。ポリシリコンは疎水性であることから、疎水性成分は疎水性相互作用によって表面処理対象物表面に付着し易い状態にあるため、表面処理工程において、表面処理対象物表面から一度除去された疎水性成分の再付着が生じる。ここで、スルホン酸(塩)基含有高分子の疎水性構造部位は、表面処理対象物表面側に向き、親水性構造部位であるアニオン化した酸性官能基は、表面処理対象物表面側とは反対側に向くことで、表面処理対象物表面に疎水性相互作用によって吸着する。その結果、表面処理対象物は、表面処理対象物表面側とは反対側に向いたアニオン化した酸性官能基に覆われた状態として親水性となり、アニオン化した酸性官能基に覆われた表面処理対象物表面と疎水性成分との間では疎水性相互作用が発生しなくなる。これにより、疎水性成分は、表面処理対象物表面への再付着が妨げられる。また、正電荷帯電性成分については、表面処理対象物が窒化珪素または酸化珪素を含む場合と同様に、酸性条件下において、アニオン化した酸性官能基に覆われた表面処理対象物表面とアニオン化した酸性官能基に覆われた正電荷帯電性成分とが静電的に反発することで、正電荷帯電性成分は表面処理対象物表面から除去される。そして、表面処理対象物表面に吸着した酸性官能基含有高分子は、表面処理工程後に容易に除去される。
【0039】
このように、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、酸性官能基含有高分子が正電荷帯電性成分および疎水性成分の両方を除去するように機能するため、残渣を良好に除去しうる。そして、酸性官能基含有高分子のpKa値および酸性官能基密度を特定の範囲とすることにより、残渣の除去効果はより一層向上する。
【0040】
なお、特開2012-74678号公報の技術によって研磨用組成物や各種パッドに由来する残渣を十分に除去できなかった理由は、詳細は不明であるが、具体的に開示されているスルホン酸(塩)基を有する化合物は低分子化合物であり、スルホン酸(塩)基を有する低分子化合物は、本発明に係る酸性官能基含有高分子のように、表面処理対象物表面や正電荷帯電性成分表面への良好な被覆性、残渣を除去するための適切な静電的な反発力、および表面処理工程後の酸性官能基含有高分子の良好な除去性等が得られないからであると考えられる。
【0041】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0042】
以下、本発明の一形態に係る表面処理組成物に含まれる各成分について説明する。
【0043】
[イオン性官能基含有高分子]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する高分子化合物(イオン性官能基含有高分子)を必須に含む。該高分子化合物は、表面処理組成物による残渣の除去に寄与する。
【0044】
本発明の一形態に係る好ましい一例としては、イオン性官能基含有高分子が、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基およびホスホン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性官能基を有する構成単位のみからなる単独重合体(以下、単に「単独重合体D」とも称する)を含むことが挙げられる。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、およびホスホン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性官能基を有する高分子化合物(酸性官能基含有化合物P)を含むことが好ましい。該高分子化合物は、表面処理組成物による残渣の除去に特に顕著な効果を奏する。
【0046】
なお、本明細書において、「スルホン酸(塩)基」とは「スルホン酸基」または「スルホン酸塩基」を表し、「リン酸(塩)基」とは「リン酸基」または「リン酸塩基」を表し、「ホスホン酸(塩)基」とは「ホスホン酸基」または「ホスホン酸塩基」を表す。
【0047】
また、本明細書において、「アミノ基」とは、-NH2基、-NHR基、-NRR’基(R、およびR’はそれぞれ独立して炭化水素基を表す)を表す。そして、「アミノ基を有する高分子化合物」には、当該アミノ基に由来するアンモニウムカチオンや、当該アンモニウムカチオンと他のアニオンとの塩であるアンモニウム化合物やアンモニウム塩も含まれるものとする。
【0048】
イオン性官能基含有高分子は、単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、残渣、特に有機物残渣表面と表面処理対象物表面とを負電荷に帯電させる作用が強いという観点から、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物(スルホン酸(塩)基含有高分子)が特に好ましい。
【0049】
イオン性官能基が塩を形成している場合、イオン性官能基の一部が塩となっている形態(部分塩の形態)であっても、全てが塩となっている形態であってもよい。イオン性官能基含有高分子がイオン性官能基以外の他の官能基を有する場合、当該他の官能基が塩を構成してもよい。当該他の官能基が塩を形成している場合、当該他の官能基の一部が塩となっている形態(部分塩の形態)であっても、全てが塩となっている形態であってもよい。
【0050】
なお、該イオン性官能基含有高分子は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0051】
(スルホン酸(塩)基含有高分子)
スルホン酸(塩)基含有高分子は、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物であり、スルホン酸(塩)基を複数有するものであれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。スルホン酸(塩)基含有高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物をスルホン化して得られる高分子化合物や、スルホン酸(塩)基含有単量体を(共)重合して得られる高分子化合物等が挙げられる。
【0052】
より具体的には、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール(スルホン酸変性ポリビニルアルコール)、スルホン酸(塩)基含有ポリスチレン(好ましくは、ポリスチレンスルホン酸またはその塩、より好ましくはポリスチレンスルホン酸)、スルホン酸(塩)基含有ポリ酢酸ビニル(スルホン酸変性ポリ酢酸ビニル)、スルホン酸(塩)基含有ポリエステル、スルホン酸(塩)基含有(メタ)アクリル酸誘導体の(共)重合体、(メタ)アクリル基含有単量体-スルホン酸(塩)基含有単量体の共重合体、スルホン酸(塩)基含有ポリイソプレン、スルホン酸(塩)基含有アリルポリマーおよびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。
【0053】
スルホン酸系(共)重合体は、スルホン酸(塩)基を有する構成単位とともに、他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位としては、スルホン酸(塩)基を有する単量体(スルホン酸(塩)基含有単量体)以外の他の単量体を共重合することで導入されたものであっても、スルホン酸(塩)基導入の際にスルホン酸(塩)基に変換されなかった官能基を残存させることで導入されたものであってもよい。スルホン酸(塩)基含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、特に制限されないが、エチレン性不飽和単量体であることが好ましく、ビニル系単量体であることがより好ましい。スルホン酸(塩)基含有単量体と共重合可能な単量体は、例えば、ヒドロキシ基またはグリシジル基含有ビニル単量体、N-ビニル系単量体、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミドまたはその塩、芳香族モノまたはジビニル化合物等が挙げられる。
【0054】
スルホン酸(塩)基含有高分子のさらに詳細な具体例を挙げれば、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)の単独重合体、(メタ)アクリル酸とアクリルアミドt-ブチルスルホン酸との共重合体等が挙げられる。
【0055】
スルホン酸(塩)基含有高分子としては、スルホン酸(塩)基含有モノマーの単独重合体、スルホン酸(塩)基含有ポリスチレンまたは(メタ)アクリル基含有モノマー-スルホン酸(塩)基含有モノマーの共重合体が好ましく、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸の単独重合体もしくはその塩、ポリスチレンスルホン酸もしくはその塩、または(メタ)アクリル酸とアクリルアミドt-ブチルスルホン酸との共重合体もしくはその塩がより好ましく、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸の単独重合体、ポリスチレンスルホン酸または(メタ)アクリル酸とアクリルアミドt-ブチルスルホン酸との共重合体がさらに好ましく、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸の単独重合体もしくはその塩またはポリスチレンスルホン酸もしくはその塩がよりさらに好ましく、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸の単独重合体またはポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0056】
スルホン酸(塩)基含有高分子が有しうるスルホン酸塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのなかでも、入手容易性の観点から、ナトリウム塩であることが好ましい。
【0057】
また、スルホン酸(塩)基含有高分子がスルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコールである場合は、溶解性の観点から、鹸化度が80%以上であることが好ましく、85%以上であることが好ましい(上限100%)。
【0058】
イオン性官能基含有高分子がスルホン酸(塩)基含有高分子を2種以上含む場合、スルホン酸(塩)基含有高分子としては、少なくとも1種はスルホン酸(塩)基含有ポリスチレンが好ましく、ポリスチレンスルホン酸またはその塩がより好ましく、ポリスチレンスルホン酸がさらに好ましい。
【0059】
(リン酸(塩)基含有高分子)
リン酸(塩)基含有高分子は、リン酸(塩)基を有する高分子化合物であり、リン酸(塩)基を複数有する重合体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。リン酸(塩)基含有高分子を構成する主鎖は、ビニル系単量体の重合体または共重合体、ポリエーテル、ポリエステル、およびこれらの共重合体からなる群より選択されるものが好ましい。
【0060】
リン酸(塩)基含有高分子の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、(i)リン酸(塩)基含有単量体を重合する方法、(ii)リン酸(塩)基含有単量体と他の共重合可能な単量体とを共重合する方法、(iii)1つ以上のヒドロキシ基を有する重合体とリン酸(塩)基を有する化合物とをエステル化する方法、等が挙げられる。
【0061】
リン酸(塩)基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート、フェニル-2-アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0062】
また、他の共重合可能な単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン等の芳香族ビニル化合物;ヒドロキシスチレン、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルプロペニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニル単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0063】
また、ポリリン酸、ヘキサメタリン酸等もリン酸(塩)基含有高分子として例示することができる。
【0064】
本発明の一形態によれば、リン酸(塩)基含有高分子は、リン酸(塩)基および2価の(ポリ)オキシ炭化水素基を有する構成単位Aを含む(共)重合体またはその塩(以下、単に「リン酸系(共)重合体」とも称する)であることが好ましい。ここで、「2価の(ポリ)オキシ炭化水素基」とは、(-O-R’’-)または(-R’’-O-)(ここで、R’’は2価の炭化水素基を表す)で表される2価のオキシ炭化水素基、および2以上の2価の炭化水素基がエーテル結合で連結した2価のポリオキシ炭化水素基の少なくとも一方を意味する。
【0065】
本発明の一形態による表面処理組成物は、構成単位Aが、リン酸(塩)基と2価の(ポリ)オキシ炭化水素基とが直接結合している構造を有していることが好ましく、構成単位Aが、下記一般式(1)で表されることがより好ましい。なお、これらの構成単位Aにおいて、「2価の(ポリ)オキシ炭化水素基」中の2価の炭化水素基は、より高い残渣の除去性を得るとの観点から、炭素数1~18の炭化水素基が好ましく、炭素数1~12の炭化水素基がより好ましく、炭素数1~10の炭化水素基がさらに好ましく、炭素数1~6の炭化水素基が特に好ましく、炭素数2の炭化水素基が最も好ましい。また、「2価の(ポリ)オキシ炭化水素基」中の2価の炭化水素基は、直鎖構造でも分岐鎖構造でも環状構造でもよく、アルキレン基、アルケニレン基、フェニレン基、またはシクロアルキレン基が好ましく、アルキレン基がより好ましい。
【0066】
【0067】
(上記一般式(1)中、R1は水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、R2は、炭素数1~18の炭化水素基であり、nは1~10である)。
【0068】
一般式(1)中のR1は、より高い残渣の除去性を得るとの観点から、水素原子または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0069】
一般式(1)中のR2は、炭素数1~12の炭化水素基が好ましく、炭素数1~10の炭化水素基がより好ましく、炭素数1~6の炭化水素基がさらに好ましく、炭素数2の炭化水素基が特に好ましい。また、R2である炭化水素基の種類としては、直鎖構造でも分岐鎖構造でも環状構造でもよく、アルキレン基、アルケニレン基、フェニレン基、またはシクロアルキレン基が好ましく、アルキレン基がより好ましい。
【0070】
なお、リン酸系(共)重合体は、主鎖の両末端が水素原子であることが好ましい。
【0071】
一般式(1)で表される構成単位Aを提供する単量体の好ましい具体例としては、メタクリロイルオキシメチルリン酸、メタクリロイルオキシエチルリン酸、メタクリロイルオキシプロピルリン酸、メタクリロイルオキシブチルリン酸、メタクリロイルオキシペンチルリン酸、メタクリロイルオキシヘキシルリン酸、メタクリロイルオキシオクチルリン酸、メタクリロイルオキシデシルリン酸、メタクリロイルオキシラウリルリン酸、メタクリロイルオキシステアリルリン酸、メタクリロイルオキシ-1,4-ジメチルシクロヘキシルリン酸等およびこれらの塩等が挙げられる。これらの中でも、より高い残渣の除去性を得るとの観点から、メタクリロイルオキシメチルリン酸、メタクリロイルオキシエチルリン酸、メタクリロイルオキシプロピルリン酸またはこれらの塩が好ましく、メタクリロイルオキシエチルリン酸またはその塩がより好ましい。なお、メタクリロイルオキシエチルリン酸は下記一般式(2)に示す構造を有する構成単位を提供する。
【0072】
【0073】
リン酸系(共)重合体としては、酸の形態、塩の形態、または酸の一部が塩となっている形態(部分塩の形態)のいずれでも使用可能である。リン酸系(共)重合体が塩である場合は、構成単位Aに含まれるリン酸基が塩を形成していても、後述する他の構成単位が塩を形成していても、これらの両方が塩を形成していてもよい。リン酸系(共)重合体の塩としては、少なくとも構成単位Aに含まれるリン酸基が塩を形成していることが好ましい。
【0074】
構成単位Aに含まれるリン酸(塩)基が塩を形成している場合、リン酸(塩)基の一部が塩となっている形態(部分塩の形態)であっても、全てがリン酸塩となっている形態であってもよいが、部分塩の形態であることがより好ましい。
【0075】
リン酸塩の種類としては、特に限定されず、例えば、金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。なお、塩の種類は、単独で、または2以上を組み合わせて用いることができる。金属塩を構成する対イオンとしては、例えば、周期律表(長周期)第1族、第11族、第2族、第12族、第3族、第13族、第4族、第6族、第7族または第8族に属する金属が挙げられる。金属塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩等が挙げられる。アミン塩を構成する対イオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性の観点から、ナトリウム塩であることが好ましい。
【0076】
なお、構成単位Aは、単独で、または2以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
リン酸系(共)重合体が共重合体の場合、構成単位Aとともに、他の構成単位を含む。他の構成単位としては、リン酸(塩)基を有する単量体(リン酸(塩)基含有単量体)以外の他の単量体を共重合することで導入されたものであっても、リン酸(塩)基導入の際にリン酸(塩)基に変換されなかった官能基を残存させることで導入されたものであってもよい。他の構成単位を提供する単量体としては、特に制限されないが、エチレン性不飽和単量体であることが好ましく、ビニル系単量体であることがより好ましい。リン酸(塩)基含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、ヒドロキシ基またはグリシジル基含有ビニル単量体、N-ビニル系単量体、不飽和カルボン酸またはその塩、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミドまたはその塩、芳香族モノまたはジビニル化合物等が挙げられる。なお、他の構成単位は、単独で、または2以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
他の構成単位が塩である場合、塩としては、部分塩の形態であっても、塩を形成しうる基の全てが塩となっている形態であってもよい。ここで、塩の種類、塩を構成する対イオンの種類は、特に制限されず、例えば、上記の塩で挙げたものであってもよい。
【0079】
リン酸系(共)重合体が共重合体の場合、各構成単位の繰り返し形態は、ランダム、ブロック、またはグラフトのいずれであってもよい。
【0080】
リン酸系(共)重合体の製造方法は、特に制限されないが、例えば、単量体の(共)重合法が挙げられる。単量体の(共)重合法は、公知の塊状重合、溶液重合等の重合法を用いることができる。この際、重合溶媒は、水に対する溶解度(20℃)が10質量%以上であることが好ましい。重合溶媒の例としては、例えば、水、アルコール系、ケトン系、エーテル系等が挙げられる。重合溶媒は、単独で、または2以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の例としては、公知のラジカル開始剤が用いられる。重合に際しては、必要に応じて公知の連鎖移動剤を使用し、例えば、窒素ガス気流下、40~300℃で溶剤還流させて原料化合物の溶液重合を行う等で、リン酸系(共)重合体を得ることができる。
【0081】
(ホスホン酸(塩)基含有高分子)
ホスホン酸(塩)基含有高分子は、ホスホン酸(塩)基を有する高分子化合物であり、ホスホン酸(塩)基を複数有する重合体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ホスホン酸(塩)基含有高分子は、特に限定されるものではなく、ホスホン酸(塩)基含有単量体の単独重合体、ホスホン酸(塩)基含有単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体、およびこれらの塩のいずれでもよいが、共重合体またはその塩が好ましい。
【0082】
ホスホン酸基含有単量体としては、例えば、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェート、アリルホスホン酸、モノアリルホスフェート、3-ブテニルホスホン酸、モノ-3-ブテニルホスフェート、4-ビニルオキシブチルホスフェート、ホスホンオキシエチルアクリレート、ホスホンオキシエチルメタクリレート、モノ(2-ヒドロキシ-3-ビニルオキシプロピル)ホスフェート、(1-ホスホンオキシメチル-2-ビニルオキシエチル)ホスフェート、モノ(3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)ホスフェート、モノ-2-(アリルオキシ-1-ホスホンオキシメチルエチル)ホスフェート、2-ヒドロキシ-4-ビニルオキシメチル-1,3,2-ジオキサホスホール、2-ヒドロキシ-4-アリルオキシメチル-1,3,2-ジオキサホスホール等が挙げられる。なお、これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0083】
また、ホスホン酸(塩)基含有高分子が共重合体の場合、ホスホン酸(塩)基を有する構成単位とともに、他の構成単位を含む。他の構成単位としては、ホスホン酸(塩)基を有する単量体(ホスホン酸(塩)基含有単量体)以外の他の単量体を共重合することで導入されたものであっても、ホスホン酸(塩)基導入の際にホスホン酸(塩)基に変換されなかった官能基を残存させることで導入されたものであってもよい。ホスホン酸基含有単量体と共重合可能な単量体としては、特に制限されないが、上記リン酸(塩)基含有高分子の項で説明した、構成単位A以外の他の構成単位を提供する単量体が挙げられる。なお、他の構成単位は、単独で、または2以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
これらホスホン酸(塩)基含有高分子が有するホスホン酸基の少なくとも一部は、塩の形態であってもよい。塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのなかでも、入手容易性の観点から、ナトリウム塩であることが好ましい。
【0085】
(アミノ基含有高分子)
アミノ基含有高分子は、アミノ基を有する高分子化合物であり、アミノ基を複数有する重合体、または当該重合体に由来するアンモニウムカチオンや、当該アンモニウムカチオンと他のアニオンとの塩であるアンモニウム化合物やアンモニウム塩である。アミノ基含有高分子は、特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
【0086】
アミノ基含有高分子は、特に限定されるものではなく、アミノ基含有単量体の単独重合体、アミノ基含有単量体、もしくはアミノ基含有単量体と共重合可能な単量体との共重合体、またはこれらのアンモニウムカチオン、アンモニウム化合物、もしくはアンモニウム塩のいずれでもよいが、共重合体、またはそのアンモニウムカチオン、アンモニウム化合物、もしくはアンモニウム塩が好ましい。
【0087】
ここで、アミノ基とは、前述のように-NH2基、-NHR’’’基、-NR’’’R’’’’基を表し、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して置換または非置換の炭化水素基である。ここで、炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アリール基等が挙げられる。アルキル基としては、炭素原子数1~20個のアルキル基が好ましい。また、アリール基としては、炭素原子数1~20個のアリール基が好ましい。また、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して、置換基としてアミノ基を構成するN原子と直接結合しない部位として、炭化水素基以外の基、例えばエステル基、エーテル基、アミド基、イミド基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルフィニル基、スルホニル基等を含んでいてよく、R’’’とR’’’’とを構成する炭化水素基が環状構造を形成していてもよい。
【0088】
アミノ基含有単量体としては、例えば、ビニルアミン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。なお、これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0089】
また、アミノ基含有高分子が共重合体の場合、アミノ基を有する構成単位とともに、他の構成単位を含む。他の構成単位としては、アミノ基含有単量体以外の単量体を共重合することで導入されたものであっても、アミノ基導入の際にアミノ基に変換されなかった官能基を残存させることで導入されたものであってもよい。アミノ基含有単量体と共重合可能な単量体としては、特に制限されないが、エチレン性不飽和単量体であることが好ましく、ビニル系単量体であることがより好ましい。アミノ基含有単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、ヒドロキシ基またはグリシジル基含有ビニル単量体、N-ビニル系単量体、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミドまたはその塩、芳香族モノまたはジビニル化合物等が挙げられる。なお、他の構成単位は、単独で、または2以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
これらアミノ基含有高分子が有するアミノ基の少なくとも一部は、アンモニウムカチオンの形態であってもよい。アンモニウムカチオンの例としては、アミノ基のN原子と水素原子とが結合したカチオン、またはアミノ基のN原子と置換若しくは非置換の炭素数1~20の1価の炭化水素基とが結合したカチオン等が挙げられる。また、これらのアンモニウムカチオンの少なくとも一部は、アンモニウム化合物またはアンモニウム塩の形態であってもよい。塩または化合物の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩等が挙げられる。これらのなかでも、入手容易性の観点から、ナトリウム塩であることが好ましい。
【0091】
(イオン性官能基含有高分子として(共)重合体を用いる場合の好ましい態様)
本発明の一形態に係るイオン性官能基含有高分子は、スルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体(以下、単に「共重合体W」とも表す)を含むことが好ましい。イオン性官能基含有高分子が少なくとも1種の共重合体Wを含むことによって、残渣の除去効果がより向上する。
【0092】
この理由は以下のように推測している。静電的にまたは疎水性相互作用によって表面処理対象物または残渣に対してイオン性官能基含有高分子が吸着する際に、他の構成単位の存在によってこれらの表面の濡れ性がより向上する。その結果、表面処理組成物と残渣との間に水が入り込みやすい状態となり、表面処理対象物と残渣との間の吸着力がより低減され、残渣の除去がより容易な状態となる。なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0093】
本明細書において、スルホン酸(塩)基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体を、単にスルホン酸(塩)基含有共重合体とも表し、アミノ基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体を、単にアミノ基含有共重合体とも表す。
【0094】
共重合体Wによる残渣除去効果の向上は、これを含む本発明の一形態に係る表面処理組成物をリンス研磨処理に用いた際に顕著となる。また、共重合体Wによって残渣が除去されやすい状態となるため、当該表面処理組成物を用いたリンス研磨処理に加え、後洗浄処理をさらに行うことで、残渣除去効果の向上はより顕著となる。
【0095】
また、共重合体Wによる残渣除去効果の向上は、表面処理組成物が窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む場合に顕著となり、窒化珪素またはポリシリコンを含む場合により顕著となり、窒化珪素を含む場合にさらに顕著となる。
【0096】
共重合体Wの種類は、特に制限されず、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。これらの中でもグラフト共重合体が好ましい。
【0097】
共重合体Wに含まれうる他の構成単位は、スルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1つのイオン性官能基を有する単量体以外の他の単量体を共重合することで導入されたものであってもよい。また、他の構成単位としては、スルホン酸(塩)基またはアミノ基の導入の際にこれらの基に変換されなかった官能基を残存させることで導入されたものであってもよい。
【0098】
共重合体Wに含まれうる他の構成単位は、エチレン性不飽和単量体由来の構成単位であることが好ましく、ビニル系単量体由来の構成単位であることがより好ましい。
【0099】
ここで、「単量体由来の構成単位」とは、当該単量体を直接共重合することで共重合体が合成される場合における、当該単量体由来の構成単位のみを表すものではない。「単量体由来の構成単位」とは、当該単量体を直接共重合することができると仮定した際に共重合体が合成されうる場合における、当該単量体由来の構成単位をも含むものとする。例えば、-CH2-CH(OH)-からなる構成単位については、ビニルアルコール(CH2=CH(OH))は単量体としては不安定なため、ビニルアルコールを単量体として用いて、直接共重合によって共重合体を合成することは困難である。しかしながら、高分子化合物が結果として当該構成単位を有していれば、当該構成単位はビニルアルコール由来の構成単位として表されるものとする。
【0100】
他の構成単位を構成するエチレン性不飽和単量体としては、特に制限されないが、例えば、ビニルアルコール:スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン等のスチレン系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等のビニルエステル系単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等のビニルケトン系単量体;N-ビニルインドール、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン等の前述のアミノ基含有単量体以外のN-ビニル系単量体;ビニルナフタレン、ビニルピリジン等のビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸誘導体等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルとを含む総称であり、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとを含む総称である。
【0101】
これらの中でも、ビニル系単量体、すなわちビニル基を有する単量体であることが好ましく、ビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリル酸、前述のアミノ基含有単量体以外のN-ビニル化合物であることがより好ましく、ビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリル酸、N-ビニルインドール、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドンであることがさらに好ましく、ビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリル酸、N-ビニルピロリドンであることがよりさらに好ましく、アクリル酸、酢酸ビニル、ビニルアルコールであることが特に好ましく、アクリル酸、ビニルアルコールであることが極めて好ましく、アクリル酸であることが最も好ましい。
【0102】
なお、他の構成単位がエチレン性不飽和単量体由来の構成単位である場合、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基含有単量体由来の構成単位は、エチレン性不飽和単量体由来の構成単位であることが好ましく、ビニル系単量体由来の構成単位であることがより好ましい。
【0103】
共重合体Wの中でも、スルホン酸(塩)基含有共重合体が好ましく、スルホン酸(塩)基含有共重合体であるスルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール、または(メタ)アクリル基含有モノマー-スルホン酸(塩)基含有モノマーの共重合体がより好ましく、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール、または(メタ)アクリル酸とアクリルアミドt-ブチルスルホン酸との共重合体がさらに好ましく、(メタ)アクリル酸とアクリルアミドt-ブチルスルホン酸との共重合体が最も好ましい。
【0104】
また、本発明の一形態に係るイオン性官能基含有高分子が共重合体Wを含む場合、イオン性官能基含有高分子がスルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基およびホスホン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性官能基を有する構成単位のみからなる単独重合体(単独重合体D)をさらに含むことが好ましい。単独重合体Dをさらに含むことで、残渣の除去効果が顕著に向上する。なお、部分塩は単独重合体に含まれるものとする。
【0105】
単独重合体Dとしては、特に制限されないが、例えば、前述のスルホン酸(塩)基含有高分子、リン酸(塩)基含有高分子およびホスホン酸(塩)基含有高分子の説明でそれぞれ例示した単独重合体が挙げられる。
【0106】
単独重合体Dの中でも、スルホン酸(塩)基含有単独重合体が好ましく、スルホン酸(塩)基含有ポリスチレンがより好ましく、ポリスチレンスルホン酸またはその塩がさらに好ましく、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0107】
イオン性官能基含有高分子が共重合体Wと、単独重合体Dとを含む場合、単独重合体Dの含有割合は、共重合体Wと単独重合体Dとの総質量に対して、50質量%以上であることが好ましい。この範囲であると、単独重合体Dによる静電的な吸着効果および疎水性相互作用による吸着効果、ならびに静電的な顕著な反発効果がより向上する。同様の観点から、単独重合体Dの含有割合は、共重合体Wと単独重合体Dとの総質量に対して、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、単独重合体Dの含有割合は、共重合体Wと単独重合体Dとの総質量に対して、99質量%以下であることが好ましい。この範囲であると、共重合体Wによる濡れ性の向上効果がより向上する。同様の観点から、単独重合体Dの含有割合は、共重合体Wと単独重合体Dとの総質量に対して、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。なお、共重合体Wと単独重合体Dとが共に必須成分であるイオン性官能基含有高分子(すなわち、イオン性官能基密度が10%超であって、pKaが3以下のもの、またはその好ましい態様のもの。後述する濡れ剤に分類されるものを除く)であるときに、単独重合体Dの含有割合が上記範囲を満たすことが極めて好ましい。
【0108】
(イオン性官能基含有高分子のイオン性官能基密度)
本発明において、表面処理組成物に必須に含まれる(必須成分である)イオン性官能基含有高分子の下記式(1)で表されるイオン性官能基密度は10%超である。
【0109】
【0110】
なお、上記式(1)におけるイオン性官能基とは、本発明の一形態に係るイオン性官能基含有高分子が有する、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を表す。
【0111】
本発明の好ましい一形態は、表面処理組成物に必須に含まれる(必須成分である)イオン性官能基含有高分子が酸性官能基含有高分子Pであって、上記式(1)が下記式(2)で表される。
【0112】
【0113】
なお、上記式(2)における酸性官能基とは、本発明の一形態に係る酸性官能基含有高分子Pが有する、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基およびホスホン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性官能基を表す。
【0114】
イオン性官能基密度が10%以下である場合、イオン性官能基含有高分子単独では有機物残渣の除去効果が十分に得られないか、または低下する場合もありうる。これより、必須成分であるイオン性官能基含有高分子のイオン性官能基密度は、20%以上が好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく。80%以上であることがよりさらに好ましく、100%であることが特に好ましい(上限100%)。イオン性官能基密度の下限値が上記範囲で良好な残渣の除去効果が得られることの理由は、表面処理対象物や正電荷帯電性成分を覆う際の被覆性がより良好となり、表面処理対象物表面からの残渣の除去作用または表面処理対象物表面への残渣の再付着抑止作用がより向上するからであると推測される。
【0115】
該イオン性官能基密度は、例えば、イオン性官能基含有高分子を製造する際のイオン性官能基を有する単量体(スルホン酸(塩)基含有単量体、リン酸(塩)基含有単量体、ホスホン酸(塩)基含有単量体、アミノ基含有単量体)の使用量により制御することができる。また、該イオン性官能基密度は、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)、原子吸光分光法等により測定することができる。
【0116】
なお、前述のスルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体であって、イオン性官能基密度が10%以下のものは、後述する濡れ剤として表面処理組成物にさらに含まれていてもよい。
【0117】
(イオン性官能基含有高分子のpKa)
本発明において、表面処理組成物に必須に含まれる(必須成分である)イオン性官能基含有高分子のpKaは3以下である。当該pKaが3を超える場合、表面処理対象物表面や正電荷帯電性成分表面への良好な被覆性、残渣を除去するための適切な静電的な反発力、および表面処理工程後のイオン性官能基含有高分子の良好な除去性等が得られない。当該pKaは、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下である。また、正電荷帯電成分表面への良好な被覆性の観点から、当該pKaは、0.8以上が好ましい。なお、当該pKaは、以下の方法により算出することができる。
【0118】
イオン性官能基含有高分子の酸解離定数(pKa)は、酸性度の指標であり、イオン性官能基含有高分子の解離定数(Ka)の逆数に常用対数をとったものである。すなわち、イオン性官能基含有高分子の酸解離定数(pKa)は、希薄水溶液条件下で、酸解離定数Ka=[H3O+][B-]/[BH]を測定し、pKa=-logKaにより求められる。なお、上記式において、BHは、イオン性官能基含有高分子を表し、B-はイオン性官能基含有高分子の共役塩基を表す。pKaの測定方法は、pHメーターを用いて水素イオン濃度を測定し、該当物質の濃度と水素イオン濃度とから算出することができる。
【0119】
なお、イオン性官能基含有高分子が共重合体である場合、第一の解離定数を便宜上pKaと呼ぶこととする。
【0120】
なお、アミノ基含有高分子のpKaとは、共役酸である有機アンモニウムイオンのpKaを表すものとする。
【0121】
また、イオン性官能基含有高分子が塩の形態である場合、pKaとは、塩を構成する酸のpKaの値を表す。例えば、イオン性官能基含有高分子がスルホン酸塩基含有高分子、すなわちスルホン酸基含有高分子の塩の形態である場合、イオン性官能基含有高分子のpKaとしては、スルホン酸基含有高分子のpKaの値が用いられるものとする。
【0122】
なお、前述のスルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体であって、pKaが3を超えるものは、後述する濡れ剤として表面処理組成物にさらに含まれていてもよい。
【0123】
(イオン性官能基含有高分子の重量平均分子量)
本発明において、必須成分であるイオン性官能基含有高分子(すなわち、イオン性官能基密度が10%超であって、pKaが3以下のもの、またはその好ましい態様のもの。後述する濡れ剤に分類されるものを除く)の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましい。重量平均分子量が1,000以上であると、残渣の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、表面処理対象物や正電荷帯電性成分を覆う際の被覆性がより良好となり、表面処理対象物表面からの残渣の除去作用または表面処理対象物表面への残渣の再付着抑止作用がより向上するからであると推測される。同様の観点から、重量平均分子量は、2,000以上であることがより好ましく、8,000以上であることがさらに好ましく、9,000以上であることがよりさらに好ましく、10,000以上であることが特に好ましい。また、必須成分であるイオン性官能基含有高分子(すなわち、イオン性官能基密度が10%超であって、pKaが3以下のもの、またはその好ましい態様のもの。後述する濡れ剤に分類されるものを除く)の重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が100,000以下であると、残渣の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、表面処理工程後の必須成分であるイオン性官能基含有高分子の除去性がより良好となるからであると推測される。同様の観点から、重量平均分子量は、50,000以下であることがより好ましく、25,000以下であることがさらに好ましい。なお、イオン性官能基含有高分子の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0124】
必須成分であるイオン性官能基含有高分子(すなわち、イオン性官能基密度が10%超であって、pKaが3以下のもの、またはその好ましい態様のもの。後述する濡れ剤に分類されるものを除く)の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。必須成分であるイオン性官能基含有高分子の含有量がこの範囲であると、残渣の除去効果がより向上する。かかる理由は、必須成分であるイオン性官能基含有高分子が、表面処理対象物および正電荷帯電性成分を被覆する際に、より多くの面積で被覆がなされるからであると推測される。また、イオン性官能基の数が増加することで、静電的な吸着または反発効果をより強く発現させることができるからであると推測される。同様の観点から、必須成分であるイオン性官能基含有高分子の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましく、0.1質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。また、必須成分であるイオン性官能基含有高分子(すなわち、イオン性官能基密度が10%超であって、pKaが3以下のもの、またはその好ましい態様のもの。後述する濡れ剤に分類されるものを除く)の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましい。必須成分であるイオン性官能基含有高分子の含有量がこの範囲であると、残渣の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、表面処理工程後の必須成分であるイオン性官能基含有高分子の除去性がより良好となるからであると推測される。同様の観点から、必須成分であるイオン性官能基含有高分子の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることがよりさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0125】
また、必須成分であるイオン性官能基含有高分子(すなわち、イオン性官能基密度が10%超であって、pKaが3以下のもの、またはその好ましい態様のもの。後述する濡れ剤に分類されるものを除く)の含有量は、表面処理組成物に含まれる高分子化合物(ポリマー)の総質量(必須成分であるイオン性官能基含有高分子と、その他の分子量1000以上の高分子化合物と、の合計質量)に対して50質量%以上であることが好ましい(上限100質量%)。必須成分であるイオン性官能基含有高分子の含有量がこの範囲であると、残渣の除去効果がより向上する。かかる理由は、表面処理工程後における残渣の原因となりうる必須成分であるイオン性官能基含有高分子以外のポリマーの量が低減するからである。また、イオン性官能基含有高分子が表面処理対象物および正電荷帯電性成分を被覆する際に、イオン性官能基含有高分子以外の高分子化合物によって被覆が妨げられることが低減されるからであると推測される。さらに、必須成分であるイオン性官能基含有高分子による静電的な吸着効果または反発効果の発現が、必須成分であるイオン性官能基含有高分子以外の高分子化合物によって妨げられることが低減されるからであると推測される。同様の観点から、必須成分であるイオン性官能基含有高分子の含有量は、表面処理組成物に含まれる高分子化合物の総質量に対して80質量%超であることがより好ましく、95質量%超であることがさらに好ましく、表面処理組成物に含まれる高分子化合物の総質量に対して100質量%、すなわち表面処理組成物に含まれる高分子化合物が必須成分であるイオン性官能基含有高分子のみであることがさらに好ましい。特に、必須成分であるイオン性官能基含有高分子の含有量は、表面処理組成物に含まれる高分子化合物の総質量に対して95質量%超とした場合に、残渣の除去効果は著しく向上する。
【0126】
[濡れ剤]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、濡れ剤をさらに含んでいてもよい。本明細書において、濡れ剤とは、表面処理対象物の表面の濡れ性を向上させ、残渣除去効果を向上させる機能を有する水溶性高分子を表す。
【0127】
濡れ剤として用いられうる高分子化合物は、例えば、前述の共重合体Wであって、イオン性官能基密度が10%以下のものが挙げられる。また、例えば、前述の共重合体Wであって、pKaが3を超えるものが挙げられる。ここで、濡れ剤としての共重合体Wを構成する、スルホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位、および他の構成単位の説明についても、前述のイオン性官能基含有高分子についての各構成単位の説明を参照することができる。
【0128】
また、濡れ剤として用いられうる他の高分子化合物は、例えば、カルボン酸(塩)基を有する構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体(以下、単にカルボン酸(塩)基含有共重合体とも称する)が挙げられる。なお、本明細書では、カルボン酸(塩)基を有する構成単位を含み、かつスルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する構成単位をさらに含む共重合体は、カルボン酸(塩)基含有共重合体ではなく、前述のイオン性官能基含有高分子として取り扱われるものとする。ここで、カルボン酸(塩)基を有する構成単位を構成するカルボン酸(塩)基含有単量体としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。また、他の構成単位を構成する他の単量体としては、特に制限されないが、例えば、前述の共重合体Wについての説明で挙げられた他の構成単位を構成するエチレン性不飽和単量体(カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体除く)を挙げることができる。これらエチレン性不飽和重合体の中でも、ビニル系単量体が好ましい。なお、カルボン酸(塩)基含有共重合体の種類は、特に制限されず、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。カルボン酸(塩)基を有する単量体由来の構成単位数の含有割合は、特に制限されないが、カルボン酸(塩)基含有共重合体を構成する全ての単量体由来の構成単位数に対して、1モル%以上99モル%以下であることが好ましい。カルボン酸(塩)基が塩を形成している場合、カルボン酸(塩)基の一部が塩となっている形態(部分塩の形態)であっても、全てが塩となっている形態であってもよい。カルボン酸(塩)基含有共重合体がカルボン酸(塩)基以外の他の官能基を有する場合、当該他の官能基が塩を構成してもよい。当該他の官能基が塩を形成している場合、当該他の官能基の一部が塩となっている形態(部分塩の形態)であっても、全てが塩となっている形態であってもよい。塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのなかでも、入手容易性の観点から、ナトリウム塩であることが好ましい。
【0129】
さらに、濡れ剤として用いられうるその他の高分子化合物は、具体的には、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリセリン、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドエーテル、ポリビニルピロリドン(PVP)等の水溶性高分子が例示できる。
【0130】
これらの中でも、イオン性官能基密度が10%以下である共重合体W、pKaが3を超える共重合体W、カルボン酸(塩)基含有共重合体、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される、少なくとも1種であることが好ましい。また、イオン性官能基密度が10%以下であるスルホン酸(塩)基含有共重合体、pKaが3を超えるスルホン酸(塩)基含有共重合体、およびカルボン酸(塩)基含有共重合体からなる群より選択される、少なくとも1種であることがより好ましい。そして、イオン性官能基密度が10%以下であるスルホン酸(塩)基含有共重合体およびpKaが3を超えるスルホン酸(塩)基含有共重合体からなる群より選択される、少なくとも1種であることがさらに好ましい。なお、共重合体Wの好ましい構造は、前述のイオン性官能基含有高分子における説明と同様である。これらの中でも、イオン性官能基密度が10%以下であるスルホン酸(塩)基含有共重合体であることが特に好ましい。
【0131】
イオン性官能基密度が10%以下であるスルホン酸(塩)基含有共重合体の中でも、スルホン酸(塩)基含有共重合体が好ましく、スルホン酸(塩)基含有共重合体であるスルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコールがより好ましい。なお、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコールは、スルホン酸(塩)基を有する構成単位と、ビニルアルコール由来の構成単位または酢酸ビニル由来の構成単位とから構成されるものであることが特に好ましく、スルホン酸(塩)基を有する構成単位と、ビニルアルコール由来の構成単位とから構成されるものであることが最も好ましい。なお、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコールの鹸化度は、特に制限されないが、溶解性の観点から、80%以上であることが好ましく、85%以上であることが好ましい(上限100%)。
【0132】
なお、イオン性官能基密度が10%以下である共重合体Wにおいて、スルホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種のイオン性官能基を有する単量体由来の構成単位の含有割合は、特に制限されないが、共重合体Wを構成する全ての単量体由来の構成単位に対して、1%以上10%以下であることが好ましく。3%以上6%以下であることがより好ましい。
【0133】
また、ポリビニルアルコールの鹸化度は、特に制限されないが、溶解性の観点から、80%以上であることが好ましく、85%以上であることが好ましい(上限100%)。
【0134】
濡れ剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、1,000以上であることが好ましい。この範囲であると、この範囲であると、残渣の除去効果がより向上する。かかる理由は、表面処理対象物の表面への濡れ性がより向上するからであると推測している。同様の観点から、5,000以上であることがより好ましい。また、濡れ剤の重量平均分子量は、1,000,000以下であることが好ましい。この範囲であると、残渣の除去効果がより高まる。かかる理由は、表面処理工程後の濡れ剤の除去性がより良好となるからであると推測している。同様の観点から、50,000以下であることがより好ましい。濡れ剤の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)等によって測定することができる。重量平均分子量の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0135】
濡れ剤による残渣除去効果の向上効果は、これを含む本発明の一形態に係る表面処理組成物をリンス研磨処理に用いた際により良好となる。また、当該共重合体によって残渣が除去されやすい状態となるため、当該表面処理組成物を用いたリンス研磨処理に加え、後洗浄処理をさらに行うことで、残渣除去効果の向上効果はさらに良好となる。
【0136】
これら濡れ剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0137】
また、濡れ剤による残渣除去効果の向上効果は、表面処理対象物がポリシリコンを含む場合により良好となる。濡れ剤の含有量は、特に制限されないが、表面処理対象物がポリシリコンを含む場合、表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。この範囲であると、残渣の除去効果が向上する。かかる理由は、表面処理対象物の表面への濡れ性がより向上するからであると推測している。同様の観点から、濡れ剤の含有量は、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、濡れ剤の含有量は、特に制限されないが、表面処理対象物がポリシリコンを含む場合、表面処理組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましい。この範囲であると、残渣の除去効果がより高まる。かかる理由は、表面処理工程後の濡れ剤の除去性がより良好となるからであると推測している。同様の観点から、濡れ剤の含有量は、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0138】
一方、表面処理対象物が窒化珪素、酸化珪素を含む場合、濡れ剤は異物(残渣)の原因となりうるため、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、濡れ剤を実質的に含有しないことがより好ましく、全く含有しないことが最も好ましい。ここで、「濡れ剤を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物全体に対する濡れ剤の含有量が0.01質量%以下である場合をいう。
【0139】
[水]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、分散媒(溶媒)として水を必須に含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒は、水のみであることがより好ましい。また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0140】
水は、表面処理対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0141】
[酸]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、酸を含むことが好ましい。なお、本明細書において、イオン性官能基含有高分子は、ここで述べる添加剤としての酸とは異なるものとして取り扱う。酸は、表面処理対象物の表面および正電荷帯電性成分の表面を正電荷で帯電させる役割を担うと推測され、表面処理組成物による残渣の除去に寄与しうる。
【0142】
酸は無機酸または有機酸のいずれを用いてもよい。無機酸としては、特に制限されないが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等が挙げられる。有機酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等が挙げられる。
【0143】
これらの中でも、表面処理対象物の表面および正電荷帯電性成分の表面を正電荷で帯電させる効果がより良好となるとの観点から、マレイン酸または硝酸であることがより好ましく、マレイン酸であることがさらに好ましい。
【0144】
なお、酸は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0145】
酸の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.05質量%以上であることが好ましい。酸の含有量が0.05質量%以上であると、残渣の除去効果がより向上する。かかる理由は、窒化珪素または酸化珪素を含む表面処理対象物の表面および正電荷帯電性成分の表面を正電荷で帯電させる効果がより良好となるからであると推測される。同様の観点から、酸の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。また、酸の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましい。酸の含有量が10質量%以下であると、低pH起因の装置へのダメージをより減らすことができる。同様の観点から、酸の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0146】
[pH値]
本発明の一形態に係る表面処理組成物のpH値は、7未満であることを必須とする。pH値が7以上であると、表面処理対象物の表面または正電荷帯電性成分の表面を正電荷で帯電させる効果が得られず、残渣の除去効果を十分に得られない。残渣除去効果の観点から、pH値が4未満であることがより好ましく、3未満であることがさらに好ましく、2.5以下であることが特に好ましい。また、pH値は、1以上であることが好ましい。pH値が1以上であると、低pHに調整するための酸の添加量を削減でき、コストを削減するという観点から好ましい。以上から、表面処理組成物のpH値は、1以上3未満であることが好ましい。
【0147】
なお、表面処理組成物のpH値は、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))により確認することができる。
【0148】
pH値を調整する場合は、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、異物の原因となりうるためできる限り添加しないことが望ましい。これより、酸およびイオン性官能基含有高分子のみで調整することが好ましい。しかしながら、これらのみによって所望のpH値を得ることが困難である場合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、任意に添加されうるアルカリ等の他の添加剤を用いて調整してもよい。
【0149】
[他の添加剤]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、異物(残渣)の原因となりうるためできる限り添加しないことが望ましいため、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。他の添加剤としては、例えば、アルカリ、防腐剤、溶存ガス、還元剤、酸化剤、イオン性官能基含有高分子以外の高分子化合物、およびアルカノールアミン類等が挙げられる。
【0150】
異物除去効果のさらなる向上のため、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、砥粒を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物全体に対する砥粒の含有量が0.01質量%以下である場合をいう。
【0151】
<表面処理組成物の製造方法>
本発明の一形態に係る表面処理組成物の製造方法は、好ましくは、イオン性官能基含有高分子と、水とを混合することを含む。例えば、イオン性官能基含有高分子と、水と、必要に応じて他の成分とを、攪拌混合することにより得ることができる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0152】
<表面処理方法>
本発明の他の好ましい一形態は、上記表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理することを含む、表面処理方法である。本明細書において、表面処理方法とは、研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する方法をいい、広義の洗浄を行う方法である。
【0153】
本発明の一形態に係る表面処理方法によれば、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去することができる。すなわち、本発明の他の一形態によれば、上記表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理する、研磨済研磨対象物の表面における残渣低減方法が提供される。
【0154】
本発明の一形態に係る表面処理方法は、本発明の一形態に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。
【0155】
表面処理方法としては、主として、(I)リンス研磨処理による方法、(II)洗浄処理による方法が挙げられる。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理は、リンス研磨処理または洗浄処理によって行われると好ましい。リンス研磨処理および洗浄処理は、研磨済研磨対象物の表面上の異物(パーティクル、金属汚染、有機物残渣、パッド屑など)を除去し、清浄な表面を得るために実施される。上記(I)および(II)について、以下、説明する。
【0156】
(I)リンス研磨処理
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、リンス研磨処理において好適に用いられる。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、リンス研磨用組成物として好ましく用いることができる。リンス研磨処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨対象物の表面上の異物の除去を目的として、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる。このとき、本発明の一形態に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。その結果、研磨済研磨対象物表面の異物は、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。異物のなかでも、特にパーティクルや有機物残渣は、物理的な作用により除去されやすい。したがって、リンス研磨処理では、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦を利用することで、パーティクルや有機物残渣を効果的に除去することができる。
【0157】
すなわち、本願明細書において、リンス研磨処理、リンス研磨方法およびリンス研磨工程とは、それぞれ、研磨パッドを用いて表面処理対象物の表面における残渣を低減する処理、方法および工程をいう。
【0158】
具体的には、リンス研磨処理は、研磨工程後の研磨済研磨対象物表面を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと研磨済半導体基板とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物(リンス研磨用組成物)を供給しながら研磨済研磨対象物と研磨パッドとを相対摺動させることにより行うことができる。
【0159】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0160】
リンス研磨処理は、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いても行うことができる。また、上記研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加え、リンス研磨用組成物の吐出ノズルを備えていることが好ましい。研磨装置のリンス研磨処理時の稼働条件は特に制限されず、当業者であれば適宜設定可能である。
【0161】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、リンス研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0162】
リンス研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、それぞれ10rpm以上100rpm以下であることが好ましく、研磨済研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下であることが好ましい。研磨パッドにリンス研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常にリンス研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、リンス研磨用組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0163】
本発明の一形態に係る表面処理組成物によるリンス研磨処理の後、表面処理対象物は、当該表面処理組成物をかけながら引き上げられ、取り出されることが好ましい。
【0164】
(II)洗浄処理
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、洗浄処理において好適に用いられる。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、洗浄用組成物として好ましく用いることができる。洗浄処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、上記リンス研磨処理を行った後、または本発明の表面処理組成物以外のリンス研磨用組成物を用いた他のリンス研磨処理を行った後、研磨済研磨対象物(洗浄対象物)の表面上の異物の除去を目的として行われることが好ましい。なお、洗浄処理と、上記リンス研磨処理とは、これらの処理を行う場所によって分類され、洗浄処理は、研磨定盤(プラテン)上ではない場所で行われる表面処理であり、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外した後に行われる表面処理であることが好ましい。洗浄処理においても、本発明の一形態に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させて、当該対象物の表面上の異物を除去することができる。
【0165】
洗浄処理を行う方法の一例として、(i)研磨済研磨対象物を保持した状態で、洗浄ブラシを研磨済研磨対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら洗浄対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法、(ii)研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。かかる方法において、研磨済研磨対象物表面の異物は、洗浄ブラシによる摩擦力または超音波処理や攪拌によって発生する機械的力、および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。
【0166】
上記(i)の方法において、表面処理組成物の研磨済研磨対象物への接触方法としては、特に限定されないが、ノズルから研磨済研磨対象物上に表面処理組成物を流しながら研磨済研磨対象物を高速回転させるスピン式、研磨済研磨対象物に表面処理組成物を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。
【0167】
短時間でより効率的な汚染除去ができる点からは、洗浄処理は、スピン式やスプレー式を採用することが好ましく、スピン式であることがさらに好ましい。
【0168】
このような洗浄処理を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の研磨済研磨対象物を同時に表面処理するバッチ式洗浄装置、1枚の研磨済研磨対象物をホルダーに装着して表面処理する枚葉式洗浄装置などがある。洗浄時間の短縮等の観点からは、枚葉式洗浄装置を用いる方法が好ましい。
【0169】
さらに、洗浄処理を行うための装置として、研磨定盤(プラテン)から研磨済研磨対象物を取り外した後、当該対象物を洗浄ブラシで擦る洗浄用設備を備えている研磨装置が挙げられる。このような研磨装置を用いることにより、研磨済研磨対象物の洗浄処理を、より効率よく行うことができる。
【0170】
かような研磨装置としては、研磨済研磨対象物を保持するホルダー、回転数を変更可能なモータ、洗浄ブラシ等を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。なお、CMP工程の後、リンス研磨工程を行う場合、当該洗浄処理は、リンス研磨工程にて用いた研磨装置と同様の装置を用いて行うことが、より効率的であり好ましい。
【0171】
洗浄ブラシとしては、特に制限されないが、好ましくは、樹脂製ブラシを使用する。樹脂製ブラシの材質は、特に制限されないが、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を使用するのが好ましい。そして、洗浄ブラシとしては、PVA製スポンジを用いることが特に好ましい。
【0172】
洗浄条件にも特に制限はなく、表面処理対象物(洗浄対象物)の種類、ならびに除去対象とする残渣の種類および量に応じて、適宜設定することができる。例えば、洗浄ブラシの回転数は10rpm以上200rpm以下であることが、洗浄対象物の回転数は10rpm以上100rpm以下であることが、それぞれ好ましい。研磨パッドに表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、洗浄ブラシおよび洗浄対象物の表面が常に表面処理組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。洗浄時間も特に制限されないが、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。このような範囲であれば、異物をより効果的に除去することが可能である。
【0173】
洗浄の際の表面処理組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0174】
上記(ii)の方法において、浸漬による洗浄方法の条件については、特に制限されず、公知の手法を用いることができる。
【0175】
上記(I)、(II)の方法による表面処理を行う前において、水による洗浄を行ってもよい。
【0176】
(後洗浄処理)
また、表面処理方法としては、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いた前記(I)または(II)の表面処理の後、研磨済研磨対象物をさらに洗浄処理することが好ましい。本明細書では、この洗浄処理を後洗浄処理と称する。後洗浄処理としては、特に制限されないが、例えば、単に表面処理対象物に水を掛け流す方法、単に表面処理対象物を水に浸漬する方法等が挙げられる。また、上記説明した(II)の方法による表面処理と同様に、表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に水を供給しながら表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法、表面処理対象物を水中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。これらの中でも、表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に水を供給しながら表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法であることが好ましい。なお、後洗浄処理の装置および条件としては、前述の(II)の表面処理の説明を参照することができる。ここで、後洗浄処理に用いる水としては、特に脱イオン水を用いることが好ましい。
【0177】
本発明の一形態に係る表面処理組成物で表面処理を行うことによって、残渣が極めて除去されやすい状態となる。このため、本発明の一形態の表面処理に係る表面処理組成物で表面処理を行った後、水を用いてさらなる洗浄処理を行うことで、残渣が極めて良好に除去されることとなる。
【0178】
また、表面処理後または後洗浄後の研磨済研磨対象物(表面処理対象物)は、スピンドライヤ等により表面に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。また、エアブロー乾燥により表面処理対象物の表面を乾燥させてもよい。
【0179】
<半導体基板の製造方法>
本発明の一形態に係る表面処理方法は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であるとき、好適に適用される。すなわち、本発明の他の一形態によれば、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、当該研磨済半導体基板を、上記表面処理方法によって研磨済半導体基板の表面における残渣を低減することを含む、半導体基板の製造方法もまた提供される。
【0180】
かかる製造方法が適用される半導体基板の詳細については、上記表面処理組成物によって表面処理される研磨済研磨対象物の説明の通りである。
【0181】
また、半導体基板の製造方法としては、研磨済半導体基板の表面を、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いて表面処理する工程(表面処理工程)を含むものであれば特に制限されない。かかる製造方法として、例えば、研磨済半導体基板を形成するための研磨工程および洗浄工程を有する方法が挙げられる。また、他の一例としては、研磨工程および洗浄工程に加え、研磨工程および洗浄工程の間に、リンス研磨工程を有する方法が挙げられる。以下、これらの各工程について説明する。
【0182】
[研磨工程]
半導体基板の製造方法に含まれうる研磨工程は、半導体基板を研磨して、研磨済半導体基板を形成する工程である。
【0183】
研磨工程は、半導体基板を研磨する工程であれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)工程であることが好ましい。また、研磨工程は、単一の工程からなる研磨工程であっても複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物を用いた表面処理工程は、上記仕上げ研磨工程後に行われると好ましい。
【0184】
研磨用組成物としては、半導体基板の特性に応じて、公知の研磨用組成物を適宜使用することができる。研磨用組成物としては、特に制限されないが、例えば、砥粒、分散媒、および酸を含むもの等を好ましく用いることができる。かかる研磨用組成物の具体例としては、スルホン酸修飾コロイダルシリカ、水およびマレイン酸を含む研磨用組成物等が挙げられる。
【0185】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。
【0186】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0187】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、それぞれ10rpm以上100rpm以下であることが好ましく、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下であることが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、研磨用組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0188】
[表面処理工程]
表面処理工程とは、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する工程をいう。半導体基板の製造方法において、リンス研磨工程の後、表面処理工程としての洗浄工程が行われてもよいし、リンス研磨工程のみ、または洗浄工程のみが行われてもよい。
【0189】
(リンス研磨工程)
リンス研磨工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程および洗浄工程の間に設けられてもよい。リンス研磨工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(リンス研磨処理方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0190】
研磨装置および研磨パッド等の装置、ならびに研磨条件については、研磨用組成物を供給する代わりに本発明の一形態に係る表面処理組成物を供給する以外は、上記研磨工程と同様の装置および条件を適用することができる。
【0191】
リンス研磨工程で用いられるリンス研磨方法の詳細は、上記リンス研磨処理に係る説明に記載の通りである。
【0192】
(洗浄工程)
洗浄工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程の後に設けられてもよいし、リンス研磨工程の後に設けられてもよい。洗浄工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(洗浄方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0193】
洗浄工程で用いられる洗浄方法の詳細は、上記洗浄処理に係る説明に記載の通りである。
【0194】
[後洗浄工程]
本発明の一形態に係る半導体基板の製造方法は、後洗浄工程を設けてもよい。後洗浄工程で用いられる後洗浄方法の詳細は、上記後洗浄処理に係る説明に記載の通りである。
【実施例】
【0195】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0196】
(比較例1)
[表面処理組成物a-1の調製]
有機酸としての固形分濃度30質量%のマレイン酸水溶液を0.5質量部添加し(マレイン酸の添加量は0.15質量部)、イオン性官能基含有高分子(酸性官能基含有高分子P)としてアクリル酸-アクリルアミドt-ブチルスルホン酸共重合体(アクリル酸とアクリルアミドt-ブチルスルホン酸との共重合体、重量平均分子量7,000、イオン性官能基(酸性官能基:スルホン酸(塩)基)密度10%、pKa2~3、下記表1では共重合体WAと称する)を0.25質量部添加し、さらに組成物の合計が100質量部となるように残部の水(脱イオン水)を添加し、攪拌混合することにより、表面処理組成物a-1を調製した。得られた表面処理組成物a-1(液温:25℃)のpH値は、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))により確認したところ、2.1であった。
【0197】
(参考例1~4)
[表面処理組成物A-1~A-4の調製]
イオン性官能基含有高分子を、下記に示す種類に変更したこと以外は、上記表面処理組成物a-1の調製と同様にして、各表面処理組成物を調製した:
・表面処理組成物A-1に使用:アクリル酸-アクリルアミドt-ブチルスルホン酸共重合体のナトリウム塩、重量平均分子量10,000、イオン性官能基(酸性官能基:スルホン酸(塩)基)密度40%、pKa0~1、下記表1では共重合体WBと称する
・表面処理組成物A-2に使用:アクリル酸-アクリルアミドt-ブチルスルホン酸共重合体、重量平均分子量9,000、イオン性官能基(酸性官能基:スルホン酸(塩)基)密度60%、pKa0~1、下記表1では共重合体WCと称する
・表面処理組成物A-3に使用:アクリル酸-アクリルアミドt-ブチルスルホン酸共重合体、重量平均分子量10,000、イオン性官能基(酸性官能基:スルホン酸(塩)基)密度40%、pKa0~1、下記表1では共重合体WDと称する
・表面処理組成物A-4に使用:アクリルアミドt-ブチルスルホン酸単独重合体、重量平均分子量9,000、イオン性官能基(酸性官能基:スルホン酸(塩)基)密度100%、pKa<0、下記表1では重合体DEと称する。
【0198】
(比較例2~3)
[表面処理組成物b-1の調製]
有機酸としての固形分濃度30質量%のマレイン酸水溶液を組成物中0.55質量%の添加量となるよう(マレイン酸の添加量は組成物中0.165質量%)、濡れ剤としてポリビニルアルコール(重量平均分子量15,000、鹸化度99%)を組成物中0.1質量%の添加量となるよう、それぞれ水(脱イオン水)中へ添加し、攪拌混合することにより、表面処理組成物b-1を調製した。得られた表面処理組成物b-1(液温:25℃)のpH値は、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))により確認したところ、2.1であった。
【0199】
(参考例5~8)
[表面処理組成物B-1~B-4の調製]
攪拌混合前に、イオン性官能基含有高分子として、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量10,000、イオン性官能基(酸性官能基:スルホン酸(塩)基)密度100%、pKa=1.0)を下記表2に示す組成物中の添加量となるよう、水(脱イオン水)中へさらに添加した以外は、上記表面処理組成物b-1の調製と同様にして、各表面処理組成物を調製した。
【0200】
(参考例9、ならびに実施例10~12および13~15)
[表面処理組成物B-5~B-8の調製]
濡れ剤であるポリビニルアルコールを、イオン性官能基含有高分子であるスルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール(重量平均分子量10,000、イオン性官能基密度6%、pKa=1.0)に変更し、下記表2に示す組成物中の添加量としたこと以外は、上記表面処理組成物B-1の調製と同様にして、各表面処理組成物を調製した。
【0201】
ここで、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコールは、下記式で表される、構成単位としてスルホン酸(塩)基を有する構成単位と、ポリビニルアルコール由来の構成単位とを含む共重合体を用いた。ここで、当該共重合体は、高分子化合物の全単量体由来の構成単位数に対する、スルホン酸(塩)基を有する単量体由来の構成単位数の割合が6%、鹸化度が99.9%であった。なお、スルホン酸(塩)基はナトリウム塩の形態であった。
【0202】
【0203】
[重量平均分子量の測定]
各アクリル酸-アクリルアミドt-ブチルスルホン酸共重合体、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸単独重合体、ポリスチレンスルホン酸、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いた。重量平均分子量は、下記の装置および条件によって測定した:
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII)
カラム:VP-ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、N2GAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0204】
また、濡れ剤として使用したポリビニルアルコールの重量平均分子量(Mw)は、ポリビニルアルコールの重量平均分子量を求める際の公知のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定方法に従い、以下の条件で求めた値である:
カラム:Shodex(登録商標) OHpak SB-806 HQ + SB-803 HQ (8.0mmI.D. x 300mm each)(昭和電工株式会社製)
移動相:0.1M NaCl 水溶液
流量:1.0mL/min
検出器:Shodex(登録商標) RI(昭和電工株式会社製)
カラム温度:40℃。
【0205】
<表面処理対象物の準備>
下記の化学的機械的研磨(CMP)工程によって研磨された後の研磨済窒化珪素基板および研磨済ポリシリコン基板を、研磨済研磨対象物(表面処理対象物とも称する)として準備した。
【0206】
[CMP工程]
半導体基板である窒化珪素基板およびポリシリコン基板について、研磨用組成物M(組成;スルホン酸修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で作製、平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)4質量%、濃度30質量%のマレイン酸水溶液0.018質量%、溶媒:水)を使用し、それぞれ下記の条件にて研磨を行った。ここで、窒化珪素基板およびポリシリコン基板は、それぞれ300mmウェーハを使用した。
【0207】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1400
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒間。
【0208】
[洗浄工程(表面処理工程)]
上記CMP工程によって窒化珪素基板を研磨した後、当該窒化珪素基板を研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、上記で調製した表面処理組成物a-1およびA-1~A-4を用いて、洗浄ブラシであるポリビニルアルコール(PVA)製スポンジで圧力をかけながら、下記条件で研磨済研磨対象物(研磨済窒化珪素基板)をこする洗浄方法によって、研磨済研磨対象物を洗浄した:
(洗浄装置および洗浄条件)
装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
洗浄ブラシ回転数:100rpm
洗浄対象物(研磨済研磨対象物)回転数:100rpm
洗浄液の流量:1000mL/分
洗浄時間:30秒間。
【0209】
[リンス研磨工程(表面処理工程)]
上記CMP工程によって窒化珪素基板、ポリシリコン基板をそれぞれ研磨した後、研磨済窒化珪素基板、研磨済ポリシリコン基板を研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、上記で調整した表面処理組成物b-1およびB-1~B-8を用いて、研磨済窒化珪素基板、研磨済ポリシリコン基板を研磨定盤(プラテン)上にそれぞれ再度取り付けて、下記条件でリンス研磨処理を行った。
【0210】
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1400
研磨圧力:1.0psi
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
研磨用組成物の種類:表面処理組成物b-1およびB-1~B-8
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:60秒間。
【0211】
[後洗浄処理工程]
リンス研磨処理の後に、前記リンス研磨工程によって研磨された後の研磨済窒化珪素
基板、研磨済ポリシリコン基板に表面処理組成物をかけながら、研磨済窒化珪素基板、研磨済ポリシリコン基板をそれぞれ引き上げて取り出した。続いて、リンス研磨工程によって研磨された後の研磨済窒化珪素基板および研磨済ポリシリコン基板について、水(脱イオン水)を用いて、洗浄ブラシであるポリビニルアルコール(PVA)製スポンジで圧力をかけながら下記条件で各研磨済研磨対象物をこする洗浄方法によって、各研磨済研磨対象物を洗浄した。
【0212】
装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
洗浄ブラシ回転数:100rpm
研磨済研磨対象物回転数:50rpm
洗浄用組成物の種類:水(脱イオン水)
洗浄用組成物供給量:1000mL/分
洗浄時間:60秒間。
【0213】
<評価>
上記洗浄工程、または上記リンス研磨工程および後洗浄工程によって表面処理された後の各研磨済研磨対象物について、下記項目について測定し評価を行った。
【0214】
[総残渣数の評価]
各表面処理組成物を用いて、上記に示す洗浄条件、または上記リンス研磨工程および後洗浄工程で研磨済研磨対象物を洗浄した後、0.09μm以上の異物数(総残渣数)を測定した。異物数の測定には、KLA TENCOR社製ウェーハ欠陥検査装置SP-2を使用した。測定は、洗浄済基板の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分について測定を行った。
【0215】
[有機物残渣数の評価]
また、表面処理組成物a-1およびA-1~A-4を用いて、上記に示す洗浄条件で研磨済研磨対象物(研磨済窒化珪素基板)を洗浄した後の有機物残渣の数を、株式会社日立製作所製Review SEM RS6000を使用し、SEM観察によって測定した。まず、SEM観察にて、研磨済研磨対象物の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分に存在する異物を100個サンプリングした。次いで、サンプリングした100個の異物の中からSEM観察にて目視にて有機物残渣を判別し、その個数を確認することで、異物中の有機物残渣の割合(%)を算出した。そして、上述の異物数の評価にてKLA TENCOR社製SP-2を用いて測定した0.09μm以上の異物数(個)と、SEM観察結果より算出した異物中の有機物残渣の割合(%)との積を、有機物残渣数(個)として算出した。
【0216】
[パッド屑への吸着量]
比較例1、参考例1および参考例2に含まれるイオン性官能基含有高分子のパッド屑への吸着量を測定した。
【0217】
具体的には、研磨装置であるFREX300E(株式会社荏原製作所製)に3M社製ダイヤモンドパッドコンディショナーA165を取り付け、脱イオン水を供給しながら、研磨パッドであるIC1400(ニッタ・ハース株式会社製、硬質ポリウレタンパッド)を5lbf(34.47kPa)でコンディショニングし、回収した廃液をパッド屑分散液とした。パッド屑分散液にイオン性官能基含有高分子を所定の量で添加して吸着反応を開始させ、60秒経過後にサンプリングした。サンプリングしたものをろ過し、パッド屑分散液およびろ過した水溶液について、株式会社島津製作所製のTOC計(全有機体炭素計)で全炭素濃度を測定して、ろ過した水溶液の測定値からパッド屑分散液の測定値を引いた差分を、イオン性官能基含有高分子のパッド屑への吸着量とした。
【0218】
表面処理組成物a-1およびA-1~A-4の構成、ならびに有機物残渣数およびパッド屑への吸着量の評価結果を、下記表1に示す。
【0219】
また、表面処理組成物b-1およびB-1~B-8の構成、ならびに総残渣数の評価結果を、下記表2および表3に示す。
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
上記表1から明らかなように、参考例の表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面の有機物残渣数を有意に低減できることがわかった。また、比較例1と、参考例1および2とのパッド屑への吸着量の測定データの比較から、実施例の表面処理組成物に含まれるイオン性官能基含有高分子は、パッド屑へよく吸着し、表面処理工程の際にパッド屑を除去する性能が高いことが示唆された。
【0224】
また、上記表2および表3から明らかなように、実施例および参考例の表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面の総残渣数を有意に低減できることがわかった。
【0225】
本出願は、2017年3月6日に出願された日本特許出願番号2017-42112号および2017年9月26日に出願された日本特許出願番号2017-185150号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として組み入れられている。