(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】難燃性架橋樹脂成形体及びその製造方法、シランマスターバッチ、マスターバッチ混合物及びその成形体、並びに、難燃性製品
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20220419BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20220419BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20220419BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20220419BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20220419BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20220419BHJP
C08L 25/10 20060101ALI20220419BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20220419BHJP
C08L 23/28 20060101ALI20220419BHJP
C08L 11/00 20060101ALI20220419BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20220419BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20220419BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220419BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20220419BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220419BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C08J3/22 CER
C08J3/22 CEZ
C08L101/02
C08L23/08
C08L23/04
C08L23/10
C08L53/02
C08L25/10
C08L9/00
C08L23/28
C08L11/00
C08L33/06
C08L75/04
C08L67/00
C08L77/00
C08K3/22
C08K5/5415
(21)【出願番号】P 2019509339
(86)(22)【出願日】2018-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2018010766
(87)【国際公開番号】W WO2018180689
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017071256
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】松村 有史
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056634(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056635(WO,A1)
【文献】特開昭49-067927(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077168(WO,A1)
【文献】特開2004-051679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.003~0.3質量部と、
難燃剤成分としてベーマイトと水酸化アルミニウムと
(ただし、水酸化アルミニウムとベーマイトとの複合体を除く)を総量として30~300質量部と、前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト反応部位を有するシランカップリング剤2質量部を越え15.0質量部以下とを、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、前記グラフト反応させてシランマスターバッチを調製する工程(a)と、
前記工程(a)で得られたシランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合した後に成形する工程(b)と、
前記工程(b)で得られた成形体を水分と接触させて架橋させる工程(c)と、
を有し、
前記ベーマイトと前記水酸化アルミニウムとの含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が85:15~
50:50である、
難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が
80:20~50:50である請求項1に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ベーマイトの粒径(D50)が0.5~2.5μmである請求項1又は2に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ベーマイトの粒径(D50)が0.7~2.2μmである請求項1~3のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記水酸化アルミニウムの粒径(D50)が0.8~2.5μmである請求項1~4のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ベース樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ランダム共重合体、(水添)共役ジエン化合物共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ポリウレタン、ポリエステルエラストマー、若しくはポリアミドエラストマー、又はこれらの組み合わせである請求項1~5のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ベース樹脂の一部を前記工程(a)において溶融混合し、前記ベース樹脂の残部を前記工程(b)において混合する、請求項1~6のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記有機過酸化物の含有量が、0.005~0.3質量部である請求項1~7のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
前記シランカップリング剤の含有量が、3~12.0質量部である請求項1~8のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(a)における溶融混合が、密閉型のミキサーを用いて行われる請求項1~9のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.003~0.3質量部と、
難燃剤としてベーマイトと水酸化アルミニウムと
(ただし、水酸化アルミニウムとベーマイトとの複合体を除く)を総量として30~300質量部と、前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト反応部位を有するシランカップリング剤2質量部を越え15.0質量部以下と、シラノール縮合触媒とを混合してなるマスターバッチ混合物の製造に用いられるシランマスターバッチであって、
前記ベーマイトと前記水酸化アルミニウムとの含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が85:15~
50:50であり、
前記ベース樹脂の全部又は一部、前記有機過酸化物、前記ベーマイト、前記水酸化アルミニウム及び前記シランカップリング剤を前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、前記グラフト反応させてなるシランマスターバッチ。
【請求項12】
請求項11に記載のシランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを含有するマスターバッチ混合物。
【請求項13】
請求項11に記載のシランマスターバッチとシラノール縮合触媒とをドライブレンドしてなるマスターバッチ混合物を成形機に導入して成形した成形体。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法により製造された難燃性架橋樹脂成形体。
【請求項15】
前記ベース樹脂が、シラノール結合を介して前記ベーマイト又は前記水酸化アルミニウムと架橋してなる請求項14に記載の難燃性架橋樹脂成形体。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の難燃性架橋樹脂成形体を含む難燃性製品。
【請求項17】
前記難燃性架橋樹脂成形体が、絶縁電線あるいは光ファイバーケーブルの被覆である請求項16に記載の難燃性製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性架橋樹脂成形体及びその製造方法、シランマスターバッチ、マスターバッチ混合物及びその成形体、並びに、難燃性製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の内部配線若しくは外部配線に使用される配線材(例えば、絶縁電線、ケーブル、(電気)コード、光ファイバー心線、光ファイバーコード若しくはケーブル、車両(自動車若しくは鉄道車両等)用電線若しくはケーブル、通信用電線若しくはケーブル、若しくは、電力用電線若しくはケーブル)、又は、自動車車両、鉄道車両、船舶、航空機、産業機材、電子機器若しくは電子部品等に用いられる成形部品には、難燃性、機械特性(例えば、引張特性、伸び)など種々の特性が要求されている。
【0003】
これらの成形部品に使用される材料としては、分子中にハロゲン原子(臭素原子又は塩素原子)を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリオレフィンコンパウンドが主として使用されてきた。しかし、上記材料を用いた成形部品が燃焼すると、ハロゲン系難燃剤からハロゲン系ガス等の腐食性ガスが発生する。近年、この問題が議論されており、腐食性ガスの発生の虞がないノンハロゲン難燃剤を含有する材料が検討されている。このような材料として、種々の樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン系樹脂又はポリエステル系樹脂と、ノンハロゲン難燃剤として、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウム等の金属水和物とを含有する樹脂組成物が挙げられる。また、上記樹脂組成物に用いられるノンハロゲン難燃剤として、水酸化マグネシウムをリン酸エステルで表面処理したもの、又は、耐熱性水酸化アルミニウム(特許文献1)等も挙げられる。
【0004】
一方、上述のような配線材においては、その特性向上のため、被覆層を形成する樹脂を架橋することがある。樹脂の架橋方法としては、電子線架橋法及び化学架橋法等が挙げられる。化学架橋法の中でも、シラン架橋法は、架橋工程にて特殊な設備を要しないため、他の架橋方法に比べて製造上有利である。
ここで、シラン架橋法とは、不飽和基を有するシランカップリング剤をグラフト反応させたシラングラフト樹脂について、シラノール縮合触媒の存在下に前記シラングラフト樹脂を水分と接触させて、架橋させる方法である。
シラン架橋法を応用した例として、例えば、特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂及び無水マレイン酸系樹脂を混合してなる樹脂成分にシランカップリング剤で表面処理した無機フィラー、シランカップリング剤、有機過酸化物及び架橋触媒をニーダーにて十分に溶融混練した後に、単軸押出機にて成形する方法が提案されている。
また、別の方法として、例えば、特許文献3~5には、水添ブロック共重合体と非芳香族系ゴム用軟化剤等と含有する熱可塑性樹脂又はエラストマー組成物を、シラン表面処理された無機フィラーを介して有機過酸化物を用いて部分架橋する方法が、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4614354号公報
【文献】特開2001-101928号公報
【文献】特開2000-143935号公報
【文献】特開2000-315424号公報
【文献】特開2001-240719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ノンハロゲン難燃剤の中でも、水酸化マグネシウムは、比較的高い難燃性向上効果を示すため、広く使用されている。しかし、水酸化マグネシウムを含有する樹脂組成物は酸に対して弱く(耐酸性に劣る)、例えば酸性雨、又は排気ガス中に含まれる窒素酸化物等に暴露されると、その物性が低下する。水酸化マグネシウムをリン酸エステルで表面処理したものも難燃剤として用いられるが、この難燃剤も機械強度の低下を招き、しかも耐酸性の改善効果も十分なものではない。
【0007】
一方、水酸化アルミニウムは分解温度が低く(約200℃)、樹脂組成物の調製時ないしは成形時(押出時)に分解して発泡しやすい。そのため、樹脂組成物の成形体に、外観不良ないしは内部不良(空隙等)が発生して、特性の安定した成形体を得ることができない。この発泡は、特許文献1に記載の耐熱性水酸化アルミニウムを使用しても、十分に抑えることができず、改善の余地があることが分かった。
また、水酸化アルミニウムは、燃焼時に殻(チャー、燃焼によって形成された炭化層))をほとんど形成せず、燃焼物の垂れ落ちが生じやすく、この点においても改善の余地がある。この点を解決するために、難燃剤としてベーマイトを含有する樹脂組成物が提案されているが、その例は多くない。ベーマイトは、分解時の単位質量当たりの吸熱量が小さく、しかも脱水量も低く、ベーマイトを含有する樹脂組成物は燃焼時に延焼しやすくなって十分な難燃性を発揮しないためである。
【0008】
さらに、架橋の観点からは、上記特許文献2~5に記載の方法を含めて、水酸化アルミニウムを用いる従来のシラン架橋法においては、製造条件等によっては、水酸化アルミニウムとの溶融混合中に発泡して、外観不良を引き起こし、さらには機械強度が低下することが分かった。
また、特許文献2に記載された方法では、ニーダー等での溶融混練中に樹脂が架橋することがある。さらに、無機フィラーを表面処理しているシランカップリング剤以外のシランカップリング剤が揮発し、又は、互いに縮合することがある。そのため、得られる成形体に外観不良を引き起こすことがあった。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決し、優れた外観、機械強度及び耐酸性を有する難燃性架橋樹脂成形体及びその製造方法を提供することを、課題とする。
また、本発明は、この難燃性架橋樹脂成形体を形成可能な、シランマスターバッチ、マスターバッチ混合物及びその成形体を提供することを、課題とする。
さらに、本発明は、上記の難燃性架橋樹脂成形体を含む難燃性製品を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、シラン架橋法において、ベース樹脂と、シランカップリング剤と、難燃剤として、特定の総量及び含有量の質量比の水酸化アルミニウムとベーマイトとを、特定の割合で、溶融混合して調製したシランマスターバッチと、シラノール縮合触媒とを特定の混合態様で混合する特定の製造方法により、調製時や成形時の発泡を抑制して、優れた外観、機械強度及び耐酸性を有する難燃性架橋樹脂成形体を製造できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
〔1〕ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.003~0.3質量部と、難燃剤成分としてベーマイトと水酸化アルミニウムと(ただし、水酸化アルミニウムとベーマイトとの複合体を除く)を総量として30~300質量部と、前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト反応部位を有するシランカップリング剤2質量部を越え15.0質量部以下とを、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、前記グラフト反応させてシランマスターバッチを調製する工程(a)と、
前記工程(a)で得られたシランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合した後に成形する工程(b)と、
前記工程(b)で得られた成形体を水分と接触させて架橋させる工程(c)と、
を有し、
前記ベーマイトと前記水酸化アルミニウムとの含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が85:15~50:50である、
難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔2〕前記含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が80:20~50:50である〔1〕に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔3〕前記ベーマイトの粒径(D50)が0.5~2.5μmである〔1〕又は〔2〕に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔4〕前記ベーマイトの粒径(D50)が0.7~2.2μmである〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔5〕前記水酸化アルミニウムの粒径(D50)が0.8~2.5μmである〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔6〕前記ベース樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ランダム共重合体、(水添)共役ジエン化合物共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ポリウレタン、ポリエステルエラストマー、若しくはポリアミドエラストマー、又はこれらの組み合わせである〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔7〕前記ベース樹脂の一部を前記工程(a)において溶融混合し、前記ベース樹脂の残部を前記工程(b)において混合する、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔8〕前記有機過酸化物の含有量が、0.005~0.3質量部である〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔9〕前記シランカップリング剤の含有量が、3~12.0質量部である〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔10〕前記工程(a)における溶融混合が、密閉型のミキサーを用いて行われる〔1〕~〔9〕のいずれか1つに記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
〔11〕ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.003~0.3質量部と、難燃剤としてベーマイトと水酸化アルミニウムと(ただし、水酸化アルミニウムとベーマイトとの複合体を除く)を総量として30~300質量部と、前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト反応部位を有するシランカップリング剤2質量部を越え15.0質量部以下と、シラノール縮合触媒とを混合してなるマスターバッチ混合物の製造に用いられるシランマスターバッチであって、
前記ベーマイトと前記水酸化アルミニウムとの含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が85:15~50:50であり、
前記ベース樹脂の全部又は一部、前記有機過酸化物、前記ベーマイト、前記水酸化アルミニウム及び前記シランカップリング剤を前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、前記グラフト反応させてなるシランマスターバッチ。
〔12〕〔11〕に記載のシランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを含有するマスターバッチ混合物。
〔13〕〔11〕に記載のシランマスターバッチとシラノール縮合触媒とをドライブレンドしてなるマスターバッチ混合物を成型機に導入して成形した成形体。
〔14〕〔1〕~〔10〕のいずれか1つに記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法により製造された難燃性架橋樹脂成形体。
〔15〕前記ベース樹脂が、シラノール結合を介して前記ベーマイト又は前記水酸化アルミニウムと架橋してなる〔14〕に記載の難燃性架橋樹脂成形体。
〔16〕〔14〕又は〔15〕に記載の難燃性架橋樹脂成形体を含む難燃性製品。
〔17〕前記難燃性架橋樹脂成形体が、絶縁電線あるいは光ファイバーケーブルの被覆である〔16〕に記載の難燃性製品。
【0012】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、難燃性架橋樹脂成形体は、燃焼物の垂れ落ち及び燃焼時の延焼のない高度の難燃性を示し、機械強度、耐酸性、及び外観にも優れている。本発明の製造方法は、上記特性を有する難燃性架橋樹脂成形体を、特定のシラン架橋法により、調製時ないしは成形時の発泡を抑制して、外観不良ないしは内部不良(特性低下の要因となり得る空隙等)の発生を抑制して製造できる。
本発明により、優れた難燃性、機械強度、耐酸性、及び外観を有する難燃性架橋樹脂成形体及びその製造方法を提供できる。また、この難燃性架橋樹脂成形体を形成可能な、シランマスターバッチ、マスターバッチ混合物及びその成形体を提供できる。さらには、上記難燃性架橋樹脂成形体を含む難燃性製品を提供できる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、下記の記載からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明において用いる各成分について説明する。
【0015】
〈ベース樹脂〉
本発明に用いられるベース樹脂としては、シランカップリング剤のグラフト反応部位と、有機過酸化物の存在下で、グラフト反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有する樹脂が用いられる。グラフト反応可能な部位としては、例えば、炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子が挙げられる。
このような樹脂として、例えば、置換基を有していてもよいエチレン構成成分を有する樹脂(例えばポリオレフィン樹脂)が挙げられる。他にも、重合成分として、各種ゴム又はエラストマーも挙げられる。
樹脂成分は、1種でも2種以上でもよい。
【0016】
本発明において、ベース樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ランダム共重合体、(水添)共役ジエン化合物共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロプレンゴム、アクリルゴム(これらをまとめてポリオレフィン樹脂ということがある。)、ポリウレタン、ポリエステルエラストマー、若しくはポリアミドエラストマー、又はこれらの組み合わせが好ましい。
【0017】
本発明において、環境ないし人体への安全性の点では、ベース樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ランダム共重合体、(水添)共役ジエン化合物共重合体、アクリルゴム、ポリウレタン、ポリエステルエラストマー、若しくはポリアミドエラストマー、又はこれらの組み合わせがより好ましい。
【0018】
上記本発明の効果の点では、ベース樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体(ゴム)、ポリウレタン、ポリエステルエラストマー、若しくはポリアミドエラストマー、又はこれらの組み合わせがより好ましい。
高度な難燃性が求められる場合、ベース樹脂として、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を少なくとも含むことが好ましい。
【0019】
エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体からなる樹脂ないしはゴムとしては、特に限定されず、通常のものを用いることができる。
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、炭素数1~8のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0020】
エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、以下のように、より高度の難燃性を発揮しうる点において、好ましい。
すなわち、これらの共重合体に含まれるCOOR型官能基(Rは水素原子又は置換基を示す。置換基は特に限定されない。)が、燃焼による熱分解時に脱炭酸反応を起こし、CO2ガスを発生する。つまり燃焼エネルギーを発散することなく不燃性ガスを発生させ、より高度の難燃性を発揮しうる。また、上記COOR型官能基が親水性であるため、上記共重合体とベーマイト及び水酸化アルミニウムとの界面強度が高くなる。さらに、上記各共重合体における、エチレンと共重合するコモノマーがバルキーであるため、ベーマイト及び水酸化アルミニウムの受容性が高くなる。よって、本発明の難燃性架橋樹脂成形体の物性低下を抑えつつ、ベーマイト及び水酸化アルミニウムを大量に含有させて、より高度の難燃性を付与することができる。
【0021】
エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体においては、いずれも、そのメルトマスフローレート(MFR)(JIS K 7210(1999)、温度190℃、荷重2.16kg)は、特に限定されない。難燃性架橋樹脂成形体の機械特性と成形性の点において、上記MFR(190℃、2.16kg)は、50g/10分以下が好ましく、より好ましくは0.05~30g/10分、さらに好ましくは0.1~10g/10分である。
【0022】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されないが、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等が挙げられる。
ランダムポリプロピレンとしては、α-オレフィン(炭素数2~4のオレフィンが好ましい。)とプロピレンとのランダム共重合体からなる樹脂が挙げられ、ブロックポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンとエチレン-α-オレフィン(例えばプロピレン)共重合体とを含む組成物が挙げられる。本発明においては、ブロックポリプロピレンはリアクターTPOを包含する。リアクターTPOは、結晶性ポリプロピレン系樹脂とエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムとを含む組成物であって、一般にエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムの含有率が高いものをいう。結晶性ポリプロピレン系樹脂とエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムとの含有率は、耐熱性とタック性の点からは、好ましくは、結晶性ポリプロピレン系樹脂20~70質量%であり、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム30~80質量%である。リアクターTPOに含有されるエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-ブテン共重合体ゴム、エチレン-ヘキセン共重合体ゴム又はエチレン-オクテン共重合体ゴムが挙げられる。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、特に限定されず、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン又はアタクチックポリプロピレンのいずれでもよい。立体規則性の低いアタクチックポリプロピレンが好ましく、曲げ弾性率が800MPa以下のアタクチックポリプロピレンが、混練時の発泡抑制の点、また押出時の温度を低く設定できる点、さらには、内部に水分を保持しやすい点において、より好ましい。
ポリプロピレン系樹脂のMFR(JIS K 7210(1999)、温度230℃、荷重2.16kg)は、特に限定されない。難燃性架橋樹脂成形体の特性(機械強度、衝撃性又は耐熱性)及び成形性の点において、上記MFR(230℃、2.16kg)は、30g/10分以下が好ましく、より好ましくは0.05~25g/10分、さらに好ましくは0.1~10g/10分である。
【0024】
ポリエチレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、及び、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体としては、エチレン構成成分を有する重合体からなる樹脂ないしはゴムであれば、特に限定されない。例えば、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)又は直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が挙げられる。強度が高い点、また水酸化アルミニウム等を大量に用いることができる点において、シングルサイト触媒(メタロセン触媒)により重合された直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0025】
エチレン-α-オレフィン共重合体及びエチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体におけるα-オレフィンとしては、特に限定されないが、炭素数2~8のα-オレフィンが好ましい。
また、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体におけるジエンは、共役ジエンであっても非共役ジエンであってもよく、非共役ジエンが好ましい。共役ジエンの具体例としては、後述する共役ジエン化合物が挙げられる。非共役ジエンの具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等が挙げられ、エチリデンノルボルネンが好ましい。
【0026】
エチレン-α-オレフィン共重合体、及び、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体又はエチレン-1-オクテン共重合体等が挙げられる。
【0027】
ポリエチレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、及び、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体は、それぞれ、密度が0.865~0.935g/cm3であるものが好ましい。
また、ポリエチレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、及び、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体において、MFR(JIS K 7210(1999)、温度190℃、荷重2.16kg)は、特に限定されない。難燃性架橋樹脂成形体の機械特性と成形性の点において、上記MFR(190℃、2.16kg)は、30g/10分以下が好ましく、より好ましくは0.05~25g/10分である。
【0028】
(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ランダム共重合体、及び、(水添)共役ジエン化合物共重合体について、説明する。
【0029】
(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を主体とする重合体ブロックAの少なくとも1個と、共役ジエン化合物に由来する構成成分を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体、又は、その水添物であり、樹脂でもゴムでもよい。例えば、A-B、A-B-A、B-A-B-A、A-B-A-B-A等の構造を有するブロック共重合体又はその水添物が挙げられる。
【0030】
芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を主体とする重合体ブロックAは、好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する構成成分のみからなるか、又は、芳香族ビニル化合物に由来する構成成分50質量%以上、好ましくは70質量%以上と、任意成分、例えば共役ジエン化合物に由来する構成成分との共重合体ブロックである。
また、共役ジエン化合物に由来する構成成分を主体とする重合体ブロックBは、好ましくは共役ジエン化合物に由来する構成成分のみからなるか、又は、共役ジエン化合物に由来する構成成分50質量%超、好ましくは70質量%以上と、任意成分、例えば芳香族ビニル化合物に由来する構成成分との共重合体ブロックである。
上記ブロック共重合体は、例えば、芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を、ブロック共重合体の全構成成分を100質量%としたときに、5~60質量%、好ましくは20~50質量%含むものが好ましい。
【0031】
また、上記重合体ブロックA及び上記重合体ブロックBは、それぞれ、分子鎖中の共役ジエン化合物に由来する構成成分又は芳香族ビニル化合物に由来する構成成分の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿って構成成分の含有量が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合あせからなっていてもよい。上記重合体ブロックA又は上記重合体ブロックBがそれぞれ2個以上ある場合には、各重合体ブロックはそれぞれが同一構造であっても異なっていてもよい。
【0032】
芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルトルエン及びp-第3ブチルスチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、特に限定されないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン及び2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0033】
上記(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)、部分水添スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)等を挙げることができる。
【0034】
上記ブロック共重合体の水添物は、上記重合体ブロックAと上記重合体ブロックBとからなるブロック共重合体に水素添加して得られる水添ブロック共重合体であって、水素添加により生じるエチレン構成成分と直鎖α-オレフィン構成成分とのモル比が2以下であるものであってもよい。この場合、芳香族ビニル化合物に由来する構成成分の含有量は、50質量%以下、好ましくは5~35質量%である。50質量%を超えるとJIS硬度で硬度54Dより硬度が高くなり、成形時に発泡しやすくなり、成形性が損なわれやすくなる。
【0035】
上記(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ランダム共重合体としては、共役ジエン化合物に由来する構成成分と芳香族ビニル化合物に由来する構成成分とのランダム共重合体であり、樹脂でもゴムでもよい。このランダム共重合体は、数平均分子量が、好ましくは5,000~1,000,000であり、より好ましくは10,000~350,000であり、多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)の値が10以下であり、かつ、その共役ジエンに由来する構成成分の、1,2結合又は3,4結合等のビニル結合含有量が5%以上であり、好ましくは20~90%である。5%未満では得られる成形体硬度が高くなりすぎることがある。
ここで、芳香族ビニル化合物に由来する構成成分の含有量は、40質量%以下、好ましくは5~35質量%である。
【0036】
芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物は、(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体におけるものと同義であり、好ましいものも同じである。
【0037】
芳香族ビニル化合物に由来する構成成分と共役ジエン化合物に由来する構成成分は、ランダムに結合しており、コルソフ[I.M.Kolthoff,J.Polymer Sci.,Vol. 1p.429 (1946)]の方法により、ブロック状の芳香族ビニル化合物に由来する構成成分の含有量が全結合芳香族ビニル化合物に由来する構成成分中10質量%以下、好ましくは5質量%以下であるのが好ましい。また、上記共重合体は、共役ジエン化合物に由来する構成成分に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0038】
上記(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ランダム共重合体の具体例としては、(水添)スチレン-ブタジエンランダム共重合体が挙げられ、水添SBR(ダイナロン1820P(商品名、JSR社製))等を挙げることができる。
【0039】
上記(水添)共役ジエン化合物の共重合体は、共役ジエン化合物に由来する構成成分を有する共重合体であって、上記(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及び上記(水添)芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ランダム共重合体以外の共重合体であればよく、樹脂でもゴムでもよい。共重合される構成成分は、上記芳香族ビニル化合物以外であれば特に限定されないが、炭素-炭素二重結合を有する化合物が挙げられ、具体的にはα-オレフィン、共役ジエン化合物の水素化物が挙げられる。この共重合体は、例えば、ブタジエンのブロック共重合体を水素添加して得られる結晶性エチレンブロックと、非晶性エチレン-ブテンブロックを有するブロック共重合体(CEBC)等が挙げられる。本発明においては、共役ジエン化合物の共重合体の水素添加物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。共役ジエン化合物共重合体の水素添加物の具体例としては、ダイナロン6100P(商品名、JSR社製)等が挙げられる。
【0040】
上記塩素化ポリエチレンとしては、塩素含有量20~45質量%の塩素化ポリエチレンが好ましい。これらの塩素化ポリエチレンを選択することにより、JIS硬度で20A以上、54D以下に設定することが可能となるに加え、成形性に優れた材料を有することが可能となる。この硬さを示す塩素化度は、例えば塩素化度20~45質量%である。
上記塩素化ポリエチレンのMFR(JIS K 7210(1999)、温度180℃、荷重2.16kg)は、特に限定されない。難燃性架橋樹脂成形体の特性(機械強度、低温性又は衝撃性)及び成形性の点において、上記MFR(180℃、2.16kg)は、25g/10分以下が好ましく、より好ましくは0.05~20g/10分、さらに好ましくは0.1~10g/10分である。
【0041】
上記クロロプレンゴムとしては、通常のクロロプレンゴムの他、フッ素ゴムとの共重合体等が挙げられる。
クロロプレンゴムのムーニー粘度(ML1+4(100℃))としては、20~130が好ましく、40~110がより好ましい。クロロプレンゴムの市販品として、スカイプレン(商品名、東ソー社製)、デンカクロロプレン(商品名、デンカ社製)、ショープレン(商品名、昭和電工社製)等が挙げられる。
クロロプレンゴムの結晶性は、低い方が好ましいが、高いものでも用いることができる。
【0042】
上記アクリルゴムは、単量体成分としてアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルと、少量の各種官能基を有する単量体とを共重合させて得られるゴム弾性体である。共重合させる上記単量体としては、2-クロルエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル又はブタジエン等が挙げられる。アクリルゴムとしては、具体的には、Nipol AR(商品名、日本ゼオン社製)、JSR AR(商品名、JSR社製)等が挙げられる。
アクリル酸アルキルとしては、アクリル酸メチルが好ましく、エチレンとの2元共重合体、これにさらにカルボキシ基を側鎖に有する不飽和炭化水素を共重合させた3元共重合体が特に好適である。上記2元共重合体としては、例えばベイマックDP(商品名、デュポン社製)が挙げられる。3元共重合体としては、例えばベイマックG、ベイマックHG又はベイマックGLS(商品名、いずれもデュポン社製)が挙げられる。
ベース樹脂がアクリルゴムを含有すると、酸素指数が高くなり、難燃性をさらに向上させることができる。
本発明において、アクリルゴムのムーニー粘度等は、特に限定されない。
【0043】
ポリウレタン、ポリエステルエラストマー及びポリアミドエラストマーとしては、それぞれ、通常のものを特に制限されることなく、用いることができる。
【0044】
本発明において、上述の重合体成分は、いずれも、酸変性されたものを包含する。酸変性された重合体成分としては、例えば、不飽和カルボン酸で変性された樹脂、より具体的には、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、アクリル酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなる樹脂ないしはゴムが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸又は無水フマル酸が挙げられる。カルボン酸による変性量は、重合体成分に対して0.5~15質量%が好ましい。
【0045】
なお、ベース樹脂は、他の成分、例えば、後述する各種添加剤、溶媒等を含有していてもよい。
【0046】
〈有機過酸化物〉
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤の樹脂成分へのラジカル反応によるグラフト反応(シランカップリング剤のグラフト反応部位とベース樹脂のグラフト反応可能な部位との結合反応)を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤の反応部位が例えばエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基と樹脂成分とのラジカル反応(樹脂成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はなく、例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4、R5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0047】
このような有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド等を挙げることができる。これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0048】
有機過酸化物の分解温度は、80~195℃が好ましく、125~180℃が特に好ましい。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0049】
〈水酸化アルミニウム〉
水酸化アルミニウムとしては、特に限定されず、難燃性架橋樹脂成形体に通常用いられるものが挙げられる。水酸化アルミニウムは、その表面に、シランカップリング剤の反応部位と水素結合若しくは共有結合等、又は分子間結合により、化学結合しうる部位(例えば、酸素原子)を有している。
本発明において、水酸化アルミニウムは、シランカップリング剤を保持し、フィラー又は難燃剤として作用する。
水酸化アルミニウムの粒径は、特に限定されないが、頻度50%径(粒径(D50)という。)として、0.8~2.5μmが好ましく、0.8~2.0μmがより好ましい。水酸化アルミニウムの粒径(D50)が0.8~2.5μmであると、ベーマイトの共存下において水酸化アルミニウムの分解がさらに抑制され、難燃性架橋樹脂成形体用組成物の調製時(ベース樹脂との混練時)又は成形時の発泡をより効果的に抑制できる。また、燃焼時の殻形成能を維持して、燃焼時の難燃性架橋樹脂成形体の落下を抑制でき、難燃性をより向上させることができる。さらには機械特性も維持できる。
水酸化アルミニウムの粒径(D50)の測定は、次の方法により行うことができる。100mL容量のビーカーにエタノール50mLを採り、約0.2gの水酸化アルミニウム粉末を入れ、得られた混合物に3分間の超音波処理を施して分散液を調製する。この分散液についてレーザー回折法-粒度分布計 Microtrac HRA Model 9320-X100(商品名、日機装社製)を用いて、体積基準で粒子径分布を求め、累積分布50質量%の時の粒径(D50)[μm]を得る。
【0050】
水酸化アルミニウムは、表面処理した表面処理水酸化アルミニウムを使用しても良い。表面処理の例としては、脂肪酸処理、又はシランカップリング剤処理が挙げられる。
【0051】
水酸化アルミニウムとしては、例えば、BF013(商品名、日本軽金属社製)、ハイジライトH42M、H43M(いずれも商品名、昭和電工社製)、OL-104LEO、OL-107LEO(いずれも商品名、ヒューバー社製)、C301N(商品名、住友化学社製)等が挙げられる。
【0052】
〈ベーマイト〉
ベーマイトとは、酸化アルミニウムの一水和物(Al2O3・H2O)をいう。ベーマイトは、その表面に、シランカップリング剤の反応部位と水素結合若しくは共有結合等、又は分子間結合により、化学結合しうる部位(例えば、酸素原子)を有している。
本発明において、ベーマイトは、シランカップリング剤を保持し、フィラー又は難燃剤として作用する。
ベーマイトの粒径は、特に限定されないが、粒径(D50)として、0.5~2.5μmが好ましく、さらには0.7~2.2μmが好ましい。ベーマイトの粒径(D50)が0.5~2.5μmであると、水酸化アルミニウムの共存下において、混練負荷を効果的に低減させることができ、調製時又は成形時の発泡を効果的に防止することができる。また、難燃性架橋樹脂成形体に十分な伸びを付与することができる。さらに、難燃性架橋樹脂成形体の難燃性をより向上させることができ、難燃性架橋樹脂成形体の垂れ落ちを効果的に防止することができる。
ベーマイトの粒径(D50)は、水酸化アルミニウムの粒径(D50)と同様にして測定できる。
【0053】
ベーマイトは、表面処理した表面処理ベーマイトを使用することができる。
表面処理の例としては、脂肪酸処理、リン酸処理、リン酸エステル処理、又はチタネート処理が挙げられる。中でも、絶縁特性の観点から、脂肪酸処理、リン酸処理又はリン酸エステル処理が好ましく、脂肪酸処理又はリン酸エステル処理がより好ましく、リン酸エステル処理がさらに好ましい。
脂肪酸としては、無機フィラーの表面処理に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、炭素数10~22の飽和脂肪酸及び炭素数10~22の不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、飽和脂肪酸として、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、ベヘン酸が挙げられ、不飽和脂肪酸として、例えば、オレイン酸、リノレン酸、リノール酸が挙げられる。
リン酸エステルとしては、無機フィラーの表面処理に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、ステアリルアルコールリン酸エステル又はその金属塩、及びラウリルアルコールリン酸エステル又はその金属塩等が挙げられる。
チタネートとしては、無機フィラーの表面処理に通常用いられるものであれば特に限定されない。
ベーマイトの表面処理量は、特に限定されないが、例えば、ベーマイト100質量%に対して、0.05~3.0質量%であることが好ましい。
【0054】
ベーマイトは、通常の方法により、製造することができる。例えば、オートクレーブ等を用いて水酸化アルミニウムを加圧水熱処理することにより、製造することができる。このときの条件も特に限定されず、通常の条件を採用することができる。原料である水酸化アルミニウムの粒径や水熱処理時間等を適宜に設定することにより、ベーマイトの粒径(D50)、さらには形状等を設定することができる。
ベーマイトとしては、市販品を使用することもできる。例えば、APYRAL AOH30、APYRAL AOH60(いずれも商品名、ナバルテック社製)、BMM、BMB-1(いずれも商品名、河合石灰工業社製)等が挙げられる。
【0055】
〈シランカップリング剤〉
本発明に用いられるシランカップリング剤は、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で樹脂成分にグラフト反応しうるグラフト反応部位(基又は原子)と、ベーマイト又は水酸化アルミニウムの化学結合しうる部位と反応し、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解して生成する部位を含む。例えばシリルエステル基等)とを、少なくとも有するものであればよい。このようなシランカップリング剤として、従来、シラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
【0056】
このようなシランカップリング剤としては、例えば下記の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0057】
【0058】
一般式(1)中、Ra11はエチレン性不飽和基を含有する基、Rb11は脂肪族炭化水素基、水素原子又はY13である。Y11、Y12及びY13は加水分解しうる有機基である。Y11、Y12及びY13は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0059】
Ra11は、グラフト反応部位であり、エチレン性不飽和基を含有する基が好ましい。エチレン性不飽和基を含有する基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基又はp-スチリル基を挙げることができる。中でも、ビニル基が好ましい。
【0060】
Rb11が採り得る脂肪族炭化水素基としては、脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1~8の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。Rb11は、好ましくは後述のY13である。
【0061】
Y11、Y12及びY13は、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解しうる有機基)であり、例えば、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~10のアリールオキシ基、炭素数1~4のアシルオキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。加水分解しうる有機基としては、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、アシルオキシ等を挙げることができる。この中でも、シランカップリング剤の反応性の点から、メトキシ又はエトキシがさらに好ましく、メトキシが特に好ましい。
【0062】
シランカップリング剤としては、好ましくは、加水分解速度の速いシランカップリング剤であり、より好ましくは、Rb11がY13であり、かつY11、Y12及びY13が互いに同じであるシランカップリング剤、又は、Y11、Y12及びY13の少なくとも1つがメトキシ基である加水分解性シランカップリング剤である。
【0063】
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシシランを挙げることができる。
上記シランカップリング剤の中でも、末端にビニル基とアルコキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0064】
シランカップリング剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、そのままで用いても、溶媒等で希釈して用いてもよい。
【0065】
〈シラノール縮合触媒〉
シラノール縮合触媒は、樹脂成分にグラフトしたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、樹脂成分同士が架橋される。その結果、上述の優れた特性を有する難燃性架橋樹脂成形体が得られる。
【0066】
本発明に用いられるシラノール縮合触媒としては、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。一般的なシラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ナフテン酸鉛、硫酸鉛、硫酸亜鉛、有機白金化合物等が用いられる。これらの中でも、特に好ましくは、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物である。
【0067】
〈キャリア樹脂〉
シラノール縮合触媒は、所望により樹脂又はゴムに混合されて、用いられる。このような樹脂又はゴム(キャリア樹脂ともいう)としては、特に限定されないが、ベース樹脂で説明した樹脂成分を用いることができる。キャリア樹脂は、エチレンゴムが好ましい。
【0068】
〈添加剤〉
難燃性架橋樹脂成形体等は、上記成形部品、絶縁電線、電気ケーブル、電気コード等の各種配線材、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。
例えば、ベーマイト及び水酸化アルミニウムの分散性を向上させるため、亜鉛、マグネシウム、カルシウムから選ばれる少なくとも1種の脂肪酸金属塩を含有することができる。脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等があり、ステアリン酸が好ましい。
また、脂肪酸金属塩以外の添加剤としては、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、又は、上記ベーマイト及び水酸化アルミニウム以外の充填剤(難燃(助)剤を含む。)、滑剤等が挙げられる。
添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲に設定される。
【0069】
上記酸化防止剤としては、4,4’-ジオクチル-ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィド、2-メルカプトベンゾイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリル-チオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
【0070】
金属不活性剤としては、N,N’-ビス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、2,2’-オキサミドビス-(エチル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
【0071】
難燃(助)剤ないしは充填剤としては、ベーマイト及び水酸化アルミニウム以外の無機フィラー等が挙げられ、具体的には、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボン等が挙げられる。
【0072】
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系等の各種滑剤が挙げられる。中でも、ワックスE、ワックスOP(いずれも商品名、Hoechst社製)等の内部滑性と外部滑性を同時に示すエステル系、アルコール系、金属石けん系等の滑剤が挙げられる。その中でも、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムは、絶縁抵抗の向上の効果があり、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムは、目やにを防ぐ効果がある。また、滑剤として脂肪酸アミドを併用することにより、導体との密着性を制御することが可能となる。
【0073】
次に、本発明の製造方法を具体的に説明する。
本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法は、下記工程(a)~工程(c)を行う。
本発明のシランマスターバッチは下記工程(a)により製造され、本発明のマスターバッチ混合物は下記工程(a)及び工程(b)により製造される。
【0074】
工程(a):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.003~0.3質量部と、ベーマイトと水酸化アルミニウムとを総量として30~300質量部と、前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト反応部位を有するシランカップリング剤2質量部を越え15.0質量部以下とを、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合(溶融混練、混練りともいう)して、前記グラフト反応させてシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):工程(a)で得られたシランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合した後に成形する工程
工程(c):工程(b)で得られた成形体を水分と接触させて架橋させる工程
上記において、前記ベーマイトと前記水酸化アルミニウムとの含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が85:15~15:85である。
ここで、混合するとは、均一な混合物を得ることをいう。
【0075】
工程(a)において、有機過酸化物の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.003~0.3質量部であり、0.005~0.3質量部が好ましく、0.005~0.1質量部がより好ましい。有機過酸化物の配合量が0.003質量部未満では、グラフト反応が進行せず、未反応のシランカップリング剤同士が縮合又は未反応のシランカップリング剤が揮発して、耐熱性を十分に得ることができないことがある。一方、0.3質量部超であると、副反応によって樹脂成分の多くが直接的に架橋してブツを形成し、外観不良が生じることがある。また、押し出し性に優れたシランマスターバッチ等が得られないことがある。すなわち、有機過酸化物の配合量をこの範囲内にすることにより、適切な範囲でグラフト反応を行うことができ、ブツも発生することなく押し出し性に優れたシランマスターバッチ等を得ることができる。
【0076】
ベーマイトと水酸化アルミニウムとの配合量は、ベーマイト及び水酸化アルミニウムの総量(合計含有量)として、ベース樹脂100質量部に対して30~300質量部である。さらに、この合計含有量の範囲において、ベーマイトと水酸化アルミニウムとの含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が、ベーマイトと水酸化アルミニウムとの含有量(質量)の合計を100としたときに、85:15~15:85の範囲にある。
合計含有量が多すぎると、成形時に発泡することがあり、強度や伸びが低下することがある。一方、合計含有量が少なすぎると、十分な、耐酸性及び難燃性を示さないことがある。本発明において、合計含有量は、難燃性、耐酸性、機械特性及び発泡抑制特性をより高い水準で兼ね備える点において、30~250質量部が好ましく、30~200質量部がより好ましく、30~160質量部が特に好ましい。
【0077】
ベーマイトと水酸化アルミニウムとの含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]は、ベーマイトと水酸化アルミニウムとの含有量の合計を100としたときに、85:15~15:85である。水酸化アルミニウムの含有量の質量比が大きすぎると、上記の優れた特性を損なうことがあり、とりわけ、上述の殻形成が抑制されて難燃性が低下することがある。一方、ベーマイトの含有量の質量比が大きすぎると、上記の優れた特性を損なうことがあり、とりわけ、延焼しやすくなって難燃性が低下することがある。上記の優れた特性をバランスよく兼ね備え、特に高度の難燃性を示す点において、上記含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]は、85:15~30:70が好ましく、80:20~35:65がより好ましく、60:40~40:60が特に好ましい。
【0078】
ベーマイト及び水酸化アルミニウムそれぞれの含有量は、上記合計含有量及び含有量の質量比を満たす限り、特に限定されない。例えば、ベーマイトの含有量は、10~250質量部が好ましく、20~150質量部がより好ましく、30~100質量部が特に好ましい。また、水酸化アルミニウムの含有量は、10~250質量部が好ましく、20~150質量部がより好ましく、30~80質量部が特に好ましい。
【0079】
シランカップリング剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、2.0質量部を超え15.0質量部以下である。シランカップリング剤の配合量が2.0質量部以下では、架橋反応が十分に進行せず、優れた耐熱性を発揮しないことがある。また、シラノール縮合触媒とともに成形する際に、外観不良やブツを生じ、また押出機を止めた際にブツが多く生じることがある。一方、15.0質量部を超えると、無機難燃剤(以下、ベーマイトと水酸化アルミニウムとを併せて無機難燃剤ということがある)表面にシランカップリング剤が吸着しきれず、シランカップリング剤は溶融混合中に揮発してしまい、経済的でない。また、吸着しないシランカップリング剤が縮合してしまい、成形体に架橋ゲルブツや焼けが生じて外観が悪化するおそれがある。
上記観点により、このシランカップリング剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、3~12.0質量部が好ましく、4~12.0質量部がより好ましい。
【0080】
シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されず、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0001~0.5質量部、より好ましくは0.001~0.2質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上述の範囲内にあると、シランカップリング剤の縮合反応による架橋反応がほぼ均一に進みやすく、難燃性架橋樹脂成形体の耐熱性、外観及び物性が優れ、生産性も向上する。すなわち、シラノール縮合触媒の配合量が少なすぎると、シランカップリング剤の縮合反応による架橋が進みにくくなり、難燃性架橋樹脂成形体の難燃性又は耐熱性がなかなか向上せずに生産性が低下し、又は架橋が不均一になることがある。一方、多すぎると、シラノール縮合反応が非常に速く進行し、部分的なゲル化が生じて、外観が低下することがある。また、難燃性架橋樹脂成形体(樹脂)の物性が低下することがある。
【0081】
本発明において、「ベース樹脂に対して、有機過酸化物、ベーマイト、水酸化アルミニウム及びシランカップリング剤を溶融混合する」とは、溶融混合する際の混合順を特定するものではなく、どのような順で混合してもよいことを意味する。工程(a)における混合順は特に限定されない。本発明においては、ベーマイト及び水酸化アルミニウムは、シランカップリング剤と混合して用いることが好ましい。すなわち、本発明においては、上記各成分を、下記工程(a-1)及び(a-2)により、(溶融)混合することが好ましい。
工程(a-1):少なくともベーマイトと水酸化アルミニウム及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a-2):工程(a-1)で得られた混合物と、ベース樹脂の全部又は一部とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶融混合する工程
【0082】
上記工程(a-2)においては、「ベース樹脂の全量(100質量部)が配合される態様」と、「ベース樹脂の一部が配合される態様」とを含む。工程(a-2)において、ベース樹脂の一部が配合される場合、ベース樹脂の残部は、好ましくは工程(b)で配合される。
工程(a-2)でベース樹脂の一部を配合する場合、工程(a)及び工程(b)におけるベース樹脂の配合量100質量部は、工程(a-2)及び工程(b)で混合されるベース樹脂の合計量である。
ここで、工程(b)でベース樹脂の残部が配合される場合、ベース樹脂は、工程(a-2)において、好ましくは55~99質量%、より好ましくは60~95質量%が配合され、工程(b)において、好ましくは1~45質量%、より好ましくは5~40質量%が配合される。
【0083】
本発明においては、シランカップリング剤は、上記のように、無機難燃剤と前混合等されることが好ましい(工程(a-1))。
無機難燃剤とシランカップリング剤とを混合する方法としては、特に限定されないが、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。具体的には、アルコールや水等の溶媒に無機難燃剤を分散させた状態でシランカップリング剤を加える湿式処理、無処理の無機難燃剤中に、又は予めステアリン酸やオレイン酸、リン酸エステル若しくは一部をシランカップリング剤で表面処理した無機難燃剤中に、シランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理、及び、その両方が挙げられる。本発明においては、無機難燃剤、好ましくは乾燥させた無機難燃剤中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理が好ましい。
このようにして前混合されたシランカップリング剤は、無機難燃剤の表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部が無機難燃剤に吸着又は結合する。これにより、後の溶融混合の際にシランカップリング剤の揮発を低減できる。また、無機難燃剤に吸着又は結合しないシランカップリング剤が縮合して溶融混合が困難になることも防止できる。さらに、押出成形の際に所望の形状を得ることもできる。
【0084】
このような混合方法として、好ましくは、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは室温(25℃)で無機難燃剤とシランカップリング剤を、数分~数時間程度、乾式又は湿式で混合(分散)した後に、この混合物と樹脂とを、有機過酸化物の存在下で、溶融混合させる方法が挙げられる。この混合は、好ましくは、バンバリーミキサーやニーダー等のミキサー型混合機で行われる。このようにすると、樹脂成分同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観が優れたものとなる。
この混合方法においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、樹脂が存在していてもよい。この場合、樹脂とともに金属酸化物及びシランカップリング剤を上記温度で混合(工程(a-1))した後に溶融混合することが好ましい。
【0085】
有機過酸化物を混合する方法としては、特に限定されず、上記混合物とベース樹脂とを溶融混合する際に、存在していればよい。有機過酸化物は、例えば、無機難燃剤等と同時に混合されても、また無機難燃剤とシランカップリング剤との混合段階のいずれにおいて混合されてもよく、無機難燃剤とシランカップリング剤との混合物に混合されてもよい。例えば、有機過酸化物は、シランカップリング剤と混合した後に無機難燃剤と混合されてもよいし、シランカップリング剤と分けて別々に無機難燃剤に混合されてもよい。生産条件によっては、シランカップリング剤のみを無機難燃剤に混合し、次いで有機過酸化物を混合してもよい。
また、有機過酸化物は、他の成分と混合させたものでもよいし、単体でもよい。
【0086】
無機難燃剤とシランカップリング剤との混合方法において、湿式混合では、シランカップリング剤と無機難燃剤との結合力が強くなるため、シランカップリング剤の揮発を効果的に抑えることができるが、シラノール縮合反応が進みにくくなることがある。一方、乾式混合では、シランカップリング剤が揮発しやすいが、無機難燃剤とシランカップリング剤の結合力が比較的弱くなるため、効率的にシラノール縮合反応が進みやすくなる。
【0087】
本発明の製造方法においては、次いで、得られた混合物とベース樹脂の全部又は一部と、工程(a-1)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら、溶融混合する(工程(a-2))。
【0088】
工程(a-2)において、上記成分を溶融混合する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25~110)℃の温度である。この分解温度は樹脂成分が溶融してから設定することが好ましい。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なシラングラフト反応が工程(a-2)において十分に進行する。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置は、例えば無機難燃剤の配合量に応じて適宜に選択される。混合装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。樹脂成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等のうち、密閉型のミキサーが好ましい。
また、通常、このような無機難燃剤が、ベース樹脂100質量部に対して100質量部を超える量で混合される場合、連続混合機、加圧式ニーダー、バンバリーミキサー等の密閉型ミキサーで溶融混合するのがよい。
ベース樹脂の混合方法は、特に限定されない。例えば、ベース樹脂をそのまま混合してもよく、各成分、例えば塩素化ポリエチレン等の樹脂成分、オイル又は可塑剤それぞれを別々に混合してもよい。
【0089】
本発明において、上記各成分を一度に溶融混合する場合、溶融混合の条件は、特に限定されないが、工程(a-2)の条件を採用できる。
この場合、溶融混合時にシランカップリング剤の一部又は全部が無機難燃剤に吸着又は結合する。
【0090】
工程(a)、特に工程(a-2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を溶融混合することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a-2)において、シラノール縮合触媒は、ベース樹脂100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0091】
工程(a)においては、上記成分の他に用いることができる他の樹脂や上記添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。
工程(a)において、上記添加剤、特に酸化防止剤や金属不活性剤は、いずれの工程で又は成分に混合されてもよいが、無機難燃剤に混合されたシランカップリング剤の樹脂へのグラフト反応を阻害しない点で、キャリア樹脂に混合されるのがよい。
工程(a)、特に工程(a-2)において、架橋助剤は実質的に混合されないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混合中に有機過酸化物により樹脂成分同士の架橋反応が生じにくく、外観が優れたものになる。また、シランカップリング剤の樹脂へのグラフト反応が生じにくく、耐熱性が優れたものになる。ここで、実質的に混合されないとは、不可避的に存在する架橋助剤をも排除するものではなく、上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。
【0092】
このようにして、工程(a)を行い、有機過酸化物から発生したラジカルによって、シランカップリング剤のグラフト反応部位とベース樹脂のグラフト反応可能な部位とをグラフト反応させ、マスターバッチ混合物の製造に用いられるシランマスターバッチ(シランMBともいう)が調製される。このシランMBは、後述の工程(b)により成形可能な程度にシランカップリング剤がベース樹脂にグラフトしたシラン架橋性樹脂を含有している。
【0093】
本発明の製造方法において、次いで、工程(a)で得られたシランMBとシラノール縮合触媒とを混合した後に成形する工程(b)を行う。
工程(b)においては、上記工程(a-2)でベース樹脂の一部を溶融混合した場合、ベース樹脂の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合し、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を調製して、用いることが好ましい。なお、ベース樹脂の残部に加えて他の樹脂を用いることもできる。
【0094】
キャリア樹脂としての上記ベース樹脂の残部とシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(a)における上記配合量を満たすように、設定される。
混合は、均一に混合できる方法であればよく、ベース樹脂の溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a-2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、80~250℃、より好ましくは100~240℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
このようにして調製される触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリア樹脂、所望により添加されるフィラーの混合物である。
【0095】
一方、工程(a-2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合、工程(b)では、シラノール縮合触媒そのもの、又は、他の樹脂とシラノール縮合触媒との混合物を用いる。他の樹脂とシラノール縮合触媒との混合方法は、上記触媒MBと同様である。
他の樹脂の配合量は、工程(a-2)においてグラフト反応を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい点で、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは1~60質量部、より好ましくは2~50質量部、さらに好ましくは2~40質量部である。
【0096】
本発明の製造方法においては、シランMBと、シラノール縮合触媒(シラノール縮合触媒そのもの、触媒MB、又は、シラノール縮合触媒と他の樹脂との混合物)とを混合する。
混合方法は、上述のように均一な混合物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。例えば、混合は、工程(a-2)の溶融混合と基本的に同様である。DSC等で融点が測定できない樹脂成分、例えばエラストマーもあるが、少なくともベース樹脂が溶融する温度で溶融混合する。溶融温度は、ベース樹脂又はキャリア樹脂の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~240℃である。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
工程(b)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
【0097】
工程(b)においては、シランMBとシラノール縮合触媒とを混合すればよく、シランMBと触媒MBとを溶融混合するのが好ましい。
【0098】
本発明においては、シランMBとシラノール縮合触媒とを溶融混合する前に、ドライブレンドすることができる。ドライブレンドの方法及び条件は、特に限定されず、例えば、工程(a-1)での乾式混合及びその条件が挙げられる。このドライブレンドにより、シランMBとシラノール縮合触媒とを含有するマスターバッチ混合物が得られる。
【0099】
工程(b)において、無機難燃剤を用いてもよい。この場合、無機難燃剤の配合量は、特には限定されないが、キャリア樹脂100質量部に対し、350質量部以下が好ましい。無機難燃剤の配合量が多すぎるとシラノール縮合触媒が分散しにくく、架橋が進行しにくくなるためである。一方、無機難燃剤の配合量が少なすぎると、成形体の架橋度が低下して、十分な耐熱性が得られない場合がある。
【0100】
本発明において、上記工程(a)及び工程(b)の混合は、同時又は連続して行うことができる。
【0101】
工程(b)においては、このようにして得られた混合物を成形する。
この成形工程は、混合物を成形できればよく、本発明の難燃性製品の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、本発明の難燃性製品が絶縁電線又は光ファイバーケーブルである場合に、好ましい。
【0102】
工程(b)において、成形工程は、上記混合工程と同時に又は連続して、行うことができる。すなわち、混合工程における溶融混合の一実施態様として、溶融成形の際、例えば押出成形の際に、又は、その直前に、成形原料を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温又は高温で混ぜ合わせて成形機に導入(溶融混合)してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして成形機に導入してもよい。より具体的には、シランMBとシラノール縮合触媒との混合物(成形材料)を被覆装置内で溶融混合し、次いで、導体等の外周面に押出被覆して、所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
このようにして、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とをドライブレンドしてマスターバッチ混合物を調製し、マスターバッチ混合物を成形機に導入して成形した、耐熱性架橋性塩素含有樹脂組成物の成形体が得られる。
【0103】
ここで、マスターバッチ混合物の溶融混合物は、架橋方法の異なるシラン架橋性樹脂を含有する。このシラン架橋性樹脂において、シランカップリング剤の反応部位は、無機難燃剤と結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性樹脂は、無機難燃剤と結合又は吸着したシランカップリング剤がベース樹脂に、グラフトした架橋性樹脂と、無機難燃剤と結合又は吸着していないシランカップリング剤がベース樹脂にグラフトした架橋性樹脂とを少なくとも含む。また、シラン架橋性樹脂は、無機難燃剤が結合又は吸着したシランカップリング剤と、無機難燃剤が結合又は吸着していないシランカップリング剤とを有していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分を含んでいてもよい。
上記のように、シラン架橋性樹脂は、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(b)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られる難燃性架橋性樹脂組成物について、少なくとも成形時の成形性が保持されたものとする。
工程(b)により得られる成形体は、上記混合物と同様に、一部架橋は避けられないが、工程(b)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明の難燃性架橋樹脂成形体は、工程(c)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0104】
本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法においては、工程(b)で得られた成形体を水と接触させる工程(c)を行う。これにより、シランカップリング剤の反応部位が加水分解されてシラノールとなり、成形体中に存在するシラノール縮合触媒によりシラノールの水酸基同士が縮合して架橋反応が起こる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋した難燃性架橋樹脂成形体を得ることができる。
この工程(c)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合は、常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(c)において、成形体を水に積極的に接触させる必要はない。
この架橋反応を促進させるために、成形体を水分と接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0105】
このようにして、本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法が実施され、難燃性架橋樹脂成形体が製造される。この難燃性架橋樹脂成形体は、(シラン架橋性)樹脂がシラノール結合(シロキサン結合)を介して縮合した架橋樹脂を含んでいる。このシラン架橋樹脂成形体の一形態は、シラン架橋樹脂と無機難燃剤とを含有する。ここで、無機難燃剤はシラン架橋樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、ベース樹脂が、シラノール結合を介して無機難燃剤と架橋してなる態様を含む(すなわち、ベース樹脂が、シラノール結合を介してベーマイトと架橋してなる態様と、シラノール結合を介して水酸化アルミニウムと架橋してなる態様とを含む)。具体的には、このシラン架橋樹脂は、複数の架橋樹脂がシランカップリング剤により無機難燃剤に結合又は吸着して、無機難燃剤及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋樹脂と、上記架橋性樹脂にグラフトしたシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋した架橋樹脂とを少なくとも含む。また、シラン架橋樹脂は、無機難燃剤及びシランカップリング剤を介した結合(架橋)と、シランカップリング剤を介した架橋とが混在していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分及び/又は架橋していないシラン架橋性樹脂を含んでいてもよい。
【0106】
上記本発明の製造方法は、以下のように、表現できる。
下記工程(A)、工程(B)及び工程(C)を有する難燃性架橋樹脂成形体の製造方法であって、工程(A)が下記工程(A1)~工程(A4)を有する難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(A):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.003~0.3質量部と、ベーマイトと水酸化アルミニウムとを総量として30~300質量部と、シランカップリング剤2質量部を越え15.0質量部以下と、シラノール縮合触媒とを混合して混合物を得る工程
工程(B):工程(A)で得られた混合物を成形して成形体を得る工程
工程(C):工程(B)で得られた成形体を水と接触させて難燃性架橋樹脂成形体を得る工程
工程(A1):少なくともベーマイト、水酸化アルミニウム及びシランカップリング剤を混合する工程
工程(A2):工程(A1)で得られた混合物とベース樹脂の全部又は一部を有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、ベース樹脂にシランカップリング剤をグラフト反応させることにより、反応組成物を得る工程
工程(A3):シラノール縮合触媒とキャリア樹脂としてベース樹脂と異なる樹脂又はベース樹脂の残部とを混合する工程
工程(A4):工程(A2)で得られた溶融混合物としての反応組成物と、工程(A3)で得られた混合物とを混合する工程
上記方法において、前記ベーマイトと前記水酸化アルミニウムとの含有量の質量比[ベーマイトの含有量:水酸化アルミニウムの含有量]が85:15~15:85である。
上記方法において、工程(A)は、上記工程(a)及び工程(b)の混合までに対応し、工程(B)は上記工程(b)の成形工程に対応し、工程(C)は上記工程(c)に対応する。また、工程(A1)は上記工程(a-1)に、工程(A2)は上記工程(a-2)に、工程(A3)及び工程(A4)は上記工程(b)の混合までに、それぞれ、対応する。
【0107】
本発明の製造方法における反応機構の詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。
すなわち、樹脂成分を、有機過酸化物の存在下、ベーマイト、水酸化アルミニウム及びシランカップリング剤とともに有機過酸化物の分解温度以上で加熱混練すると、有機過酸化物が分解してラジカルを発生し、樹脂成分に対してシランカップリング剤のグラフト反応が起こる。
【0108】
工程(a-2)の加熱により、部分的には、シランカップリング剤と無機難燃剤の表面での水酸基等の化学結合しうる部位との共有結合による化学結合の形成反応も起きる。
本発明では、工程(c)で、最終的な架橋反応を行うこともあり、ベース樹脂にシランカップリング剤を上述のように特定量配合すると、成形時の押し出し加工性を損なうことなく無機難燃剤を多量に配合することが可能になり、優れた難燃性を確保しながらも、機械特性、さらに耐熱性等を併せ持つことができる。
【0109】
また、本発明の上記プロセスの作用のメカニズムはまだ定かではないが次のように推定される。
すなわち、ベース樹脂との混練り前及び/又は混練り時に、無機難燃剤及びシランカップリング剤を用いることにより、シランカップリング剤は、化学結合しうる基で無機難燃剤と結合して、保持される。又は、無機難燃剤と結合することなく、無機難燃剤の穴や表面に物理的又は化学的に吸着して、保持される。このように、無機難燃剤に対して強い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、無機難燃剤表面の水酸基等との化学結合の形成が考えられる)と弱い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷若しくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が考えられる)を形成できる。この状態で、有機過酸化物を加えて混練りを行うと、後述するようにシランカップリング剤がほとんど揮発することなく、無機難燃剤との結合が異なるシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応したシラン架橋性樹脂が形成される。
【0110】
上述の混練りにより、シランカップリング剤のうち無機難燃剤と強い結合を有するシランカップリング剤は、無機難燃剤との結合が保持され、かつ、架橋基であるグラフト反応しうる基が樹脂成分の架橋部位とグラフト反応する。特に、1つの無機難燃剤粒子の表面に複数のシランカップリング剤が強い結合を介して結合した場合、この無機難燃剤粒子を介して樹脂成分が複数結合する。これらの反応又は結合により、この無機難燃剤を介した架橋ネットワークが広がる。すなわち、無機難燃剤に結合しているシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応してなるシラン架橋性樹脂が形成される。
無機難燃剤と強い結合を有するシランカップリング剤は、このシラノール縮合触媒による水存在下での縮合反応が生じにくく、無機難燃剤との結合が保持される。無機難燃剤とシランカップリング剤の結合エネルギーが高く、シラノール縮合触媒下にあっても縮合反応が起こらないと考えられる。このように、樹脂成分と無機難燃剤の結合が生じ、シランカップリング剤を介した樹脂成分の架橋が生じる。これにより樹脂成分と無機難燃剤の密着性が強固になり、機械強度が高く、さらには耐摩耗性及び傷付性を備えた成形体が得られる。特に、1つの無機難燃剤粒子表面に複数のシランカップリング剤を複数結合でき、高い機械強度を得ることができる。このように、無機難燃剤に対して強い結合で結合したシランカップリング剤は、高い機械特性、場合によっては耐摩耗性、耐傷付性等に寄与すると考えられる。
【0111】
一方、シランカップリング剤のうち無機難燃剤と弱い結合を有するシランカップリング剤は、無機難燃剤の表面から離脱して、樹脂成分にグラフト反応する。これにより、シラノール縮合可能な反応部位が遊離したシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応したシラン架橋性樹脂が形成される。このシランカップリング剤は、その後、シラノール縮合触媒により、水分と接触して縮合反応(架橋反応)が生じる。この架橋反応により得られた難燃性架橋樹脂成形体は、柔軟性が高く、さらには耐熱性も向上する。このように、無機難燃剤に対して弱い結合で結合したシランカップリング剤は、無機難燃剤を介しない架橋による柔軟性の発現、さらには架橋度(耐熱性)の向上に寄与すると考えられる。
本発明において、無機難燃剤以外の無機フィラーを併用する場合には、この無機フィラーも無機難燃剤と同様に作用して、架橋性樹脂の機械強度向上又は柔軟性の向上に寄与すると考えられる。
【0112】
特に、本発明では、工程(c)における、水存在下でのシラノール縮合触媒を使用した縮合による架橋反応を、成形体を形成した後に行う。これにより、従来の最終架橋反応後に成形体を形成する方法と比較して、成形体形成までの工程での作業性が優れる
【0113】
本発明において、難燃剤として、ベーマイトと水酸化アルミニウムを用いると、燃焼物の垂れ落ち及び燃焼時の延焼のない高度の難燃性を示し、耐酸性にも優れ、かつ、調製時ないしは成形時に発泡を抑制できる。
ベーマイトは熱伝導性が高く、樹脂粘度を向上させる働きがあるため、樹脂及び水酸化アルミニウムとともに混合すると、熱を外部に逃がしつつ粘調な混合物を形成する。そのため、工程(a)及び(b)の混合、及び混合(b)の成形を、発泡を抑えて行うことができると考えられる。
しかも、上述したように、シランカップリング剤の揮発、ベース樹脂又はシランカップリング剤同士の架橋反応も抑えることができる。さらに、水酸化アルミニウムとベーマイトとの併用により、水酸化アルミニウムの分解温度が高温側にシフトし、溶融混合及び/又は成形の際の、水酸化アルミニウムの分解による水分の発生が低減されていると考えられる。そのため、工程(a)及び(b)の混合、及び混合(b)の成形を、縮合反応によるブツの発生を抑制して行うことができると考えられる。
このように、特定の混合態様で上述のベース樹脂とシランカップリング剤とを溶融混合するシラン架橋法において、ベーマイトと水酸化アルミニウムとシランカップリング剤とを併用することにより、難燃性と外観と耐酸性とを高い水準で兼ね備えたものとなる。
また、難燃性架橋樹脂成形体の燃焼時に水酸化アルミニウムとベーマイトが混ざり合って1つの固まりを形成して、殻が形成されると考えられる。また、水酸化アルミニウム及びベーマイトが協働して延焼抑止性能を発揮する。さらに加えて、水酸化アルミニウムとベーマイトとを含有するため、上記高度の難燃性及び発泡抑止性能を損なうことなく、難燃性架橋樹脂成形体に耐酸性を付与できる。
これらの作用機能は、ベーマイトと水酸化アルミニウムとを上記合計含有量の範囲内において上記含有量の質量比となる割合を満たして併用することにより、より効果的にバランスよく発揮され、上述の優れた特性を示すと考えられる。
【0114】
上記発泡は、水酸化アルミニウム又はベーマイトの粒径を後述する範囲に設定することにより、効果的に抑制できる。
また、上記構成を有する本発明の難燃性架橋樹脂成形体は、上記特性に加えて、柔軟性をも兼ね備えることができる。本発明において、難燃剤としてベーマイトと水酸化アルミニウムを用いると、シランカップリング剤は、ベーマイトと弱く結合する傾向が強く、水酸化アルミニウムと強く結合する傾向が強い。したがって、ベーマイトと弱く結合するシランカップリング剤と、水酸化アルミニウムと強く結合するシランカップリング剤との存在比が、難燃剤としてベーマイト及び水酸化アルミニウム以外の金属水和物等を用いたときに対して、変化する。これにより、必要により十分な柔軟性を発現すると考えられる。
また、上記構成を有する本発明の難燃性架橋樹脂成形体は、上記特性に加えて、耐薬品性及び耐熱性をも兼ね備えることができる。耐薬品性は、酸性雨及び排気ガス中に含まれる窒素酸化物等による物性低下を抑制する特性をいう。
【0115】
本発明の製造方法は、難燃性又は耐酸性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、難燃性又は耐酸性が要求される製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。また、柔軟性が要求される製品、強度が求められる製品、ゴム材料等の製品等にも適用することができる。したがって、本発明の難燃性製品は、このような製品とされる。このとき、難燃性製品は、難燃性架橋樹脂成形体を含む製品でもよく、難燃性架橋樹脂成形体のみからなる製品でもよい。
本発明の難燃性製品として、例えば、電子機器の内部配線若しくは外部配線に使用される配線材(例えば、絶縁電線、ケーブル、(電気)コード、光ファイバー心線、光ファイバーコード若しくはケーブル、車両(自動車若しくは鉄道車両等)用電線若しくはケーブル、通信用電線若しくはケーブル、又は、電力用電線若しくはケーブル)、自動車車両、鉄道車両、船舶、航空機、産業機材、電子機器又は電子部品等が挙げられる。
中でも、難燃性と耐酸性とがより高い水準で求められる成形部品、例えば、配線材、又は、自動車車両若しくは鉄道車両の成形部品等に、好適に用いることができる。本発明の難燃性樹脂組成物は、配線材に用いることがさらに好適であり、特に、上述の優れた特性を十分に活用できる点において、配線材の中でも、屋外用配線材又は工場内敷設用配線材に、好適に用いられる。
成形部品は、上述の用途に用いられるものであり、その形状又は構造等は特に限定されず、用途に応じて、適宜に設定される。このような製品として、上述の配線材の他に、例えば、チューブ材、シート部材等が挙げられる。
配線材は、難燃性架橋樹脂成形体の被覆層を有する。よって、配線材は、難燃性架橋樹脂成形体と同様の優れた特性を示す。
配線材は、上記した通りであるが、絶縁電線又はケーブルが好ましく、特に、酸性雨ないしは窒素酸化物等に暴露されうる、屋外用、車両用又は工場内敷設用の絶縁電線又はケーブルが好ましい。
【0116】
絶縁電線は、導体と、この導体の周囲(外周面)に、本発明の難燃性架橋樹脂成形体の被覆層とを有する。絶縁電線は、上記構成を有していれば、その他の形態は特に限定されず、導体の数及び被覆層の数等は、それぞれ、1でも2以上でもよい。また、断面形状も特に限定されず、円形、楕円形、矩形又は眼鏡形などが挙げられる。
導体としては、絶縁電線に通常用いられるものを特に限定されることなく用いることができる。例えば、軟銅若しくは銅合金、又は、アルミニウム等の単線若しくは撚線等の金属導体が挙げられる。また、導体としては、裸線の他に、錫メッキしたもの、エナメル被覆層を有するもの等を用いることもできる。被覆層が複層構造を有する場合、少なくとも1層が本発明の難燃性架橋樹脂成形体により形成されていればよい。この場合、他の層、例えば中間層は、絶縁電線に通常用いられる樹脂又はその組成物で形成することができる。
絶縁電線及び導体の外径は、用途などに応じて、適宜に決定される。被覆層、特に本発明の難燃性樹脂組成物により形成された被覆層の厚さは、用途などに応じて、適宜に決定されるが、本発明の難燃性架橋樹脂組成物が有する優れた特性を発揮する点において、0.15~1mmが好ましい。
【0117】
ケーブルは、導体と、この導体若しくは光ファイバーの周囲に被覆層を有する絶縁電線を複数束ね又は拠り合わせ、これらを一括して被覆する被覆層(シース)を有する。このケーブルにおいて、導体若しくは光ファイバーの周囲の被覆層及びシースのいずれか、又は、両方を本発明の難燃性樹脂成形体で形成する。
【0118】
光ファイバー又は光ファイバーケーブルは、上記絶縁電線及びケーブルにおいて、導体に代えて光ファイバー素線等を採用した構成とすることができる。すなわち、光ファイバーは、光ファイバー素線と、光ファイバー素線の周囲(外周面)に被覆層とを有する。光ファイバー又は光ファイバーケーブルの好ましい態様等は、上記絶縁電線又はケーブルの好ましい態様と同様である。
【0119】
本発明の製造方法は、上記製品の中でも、特に絶縁電線及び光ファイバーケーブルの製造に好適に適用され、これらの被覆(絶縁体、シース)を製造することができる。
本発明の難燃性製品が絶縁電線又は光ファイバーケーブル等の押出成形体である場合、好ましくは、成形材料を押出機(押出被覆装置)内で溶融混合して難燃性架橋性樹脂組成物を調製しながら、この難燃性架橋性樹脂組成物を導体等の外周に押し出して導体等を被覆し、次いで架橋反応させる方法等により、製造できる。この方法においては、ベーマイト及び水酸化アルミニウムを大量に加えても難燃性架橋性樹脂組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体の周囲に、又は抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表1及び表2において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。
【0121】
実施例1、2、5~14、参考例3、4、及び比較例1~4は、下記成分を用いて、それぞれの諸元を表1及び表2に示す条件に設定して実施し、表1及び表2に後述する評価結果を併せて示した。
【0122】
表1及び表2中に示す各化合物の詳細を以下に示す。
〈ベース樹脂〉
エチレン-酢酸ビニル共重合体:エバフレックスV5274R(商品名、酢酸ビニル含有量17質量%、MFR(190℃、2.16kg)0.8g/10分、三井・デュポンポリケミカル社製)
エチレン-アクリル酸エチル共重合体:NUC6510(商品名、EA含有量23質量%、MFR(190℃、2.16kg)0.5g/10分、日本ユニカー社製)
直鎖状低密度ポリエチレン:ユメリット0540F(商品名、メタロセン触媒LLDPE、MFR(190℃、2.16kg)4.0g/10分、密度0.92g/cm3、宇部丸善ポリエチレン社製)
ランダムポリプロピレン:PB222A(商品名、エチレン-プロピレンランダム共重合体、MFR(230℃、2.16kg)1.0g/10分、サンアロマー社製)
エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体:ノーデル3745P(商品名、ムーニー粘度45(ML1+4(100℃))、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネンゴム、密度0.880g/cm3、ダウ・ケミカル社製)
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体:フサボンドE226Y(商品名、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、MFR(190℃、2.16kg)1.75g/10分、密度0.93g/cm3、デュポン社製)
【0123】
ベーマイト及び水酸化アルミニウムの粒径(D50)は上記方法により測定した値である。
〈ベーマイト〉
ベーマイト1:粒径(D50)1.05μm、ステアリン酸処理0.6質量%
APYRAL AOH30(商品名、粒径(D50)1.8μm、ナバルテック社製)
APYRAL AOH60(商品名、粒径(D50)0.9μm、ナバルテック社製)
BMT-33(商品名、粒径(D50)3μm、河合石灰工業社製)
ベーマイト2:粒径(D50)3μm
ベーマイト3:粒径(D50)0.4μm、ステアリン酸処理0.6質量%
ベーマイト4:粒径(D50)2μm
ベーマイト1は、原料の水酸化アルミニウムとしてC-301N(商品名、住友化学社製)を使用し、下記の方法で調製した。
30L容量のポリエチレン製容器に、水酸化アルミニウム粉末を4kg秤量して投入し、そこへ純水を16L加えて攪拌し水酸化アルミニウムのスラリーを調製した。このスラリーをハステロイ(登録商標)C-276製の接液部を有するオートクレーブ内に流し込み、攪拌下で180℃、12時間程度の水熱処理を行ってベーマイトを合成した。室温まで冷却された水熱処理後のベーマイトのスラリーを攪拌しながら70℃になるまで加温した。その後、70℃で、5質量%に調製したステアリン酸ナトリウム水溶液を、ベーマイト固形分質量に対しステアリン酸換算量として0.6質量%となるように添加した。得られた混合物を70℃で1時間攪拌し、水酸化アルミニウムを湿式法により表面処理して、真空ろ過した。固形分を水洗(ベーマイト固形分質量に対し5倍容量以上)し、乾燥し、粉砕して、表面処理ベーマイトの粉末を得た。
ベーマイト2は、原料の水酸化アルミニウムとしてC-303N(商品名、住友化学社製)を使用したこと、及び表面処理をしなかったこと以外は、ベーマイト1と同様にして調製した。
ベーマイト3は、原料の水酸化アルミニウムとしてC-301N(商品名、住友化学社製)を粉砕し、粒径(D50)を0.5μmにしたものを使用した以外は、ベーマイト1と同様にして調製した。
ベーマイト4は、原料の水酸化アルミニウムとしてOL-104LEO(商品名、ヒューバー社製)を使用したこと、及び表面処理をしなかったこと以外は、ベーマイト1と同様にして調製した。
〈水酸化アルミニウム〉
ハイジライトH42M(商品名、粒径(D50)1.0μm、無処理、昭和電工社製)
ハイジライトH42S(商品名、粒径(D50)1.0μm、脂肪酸処理、昭和電工社製)
ハイジライトH42H(商品名、粒径(D50)1.0μm、シランカップリング剤処理、昭和電工社製)
【0124】
〈充填剤〉
水酸化マグネシウム:マグシーズX-6(商品名、神島化学社製、表面無処理の水酸化マグネシウム、粒径(D50)1μm)
炭酸カルシウム:ソフトン1200(商品名、白石カルシウム社製)
〈シランカップリング剤〉
KBM1003(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
〈有機化酸化物〉
Perkadox BC-FF:(商品名、化薬アクゾ社製、ジクミルパーオキサイド)
〈シラノール縮合触媒〉
有機スズ:アデカスタブOT-1商品名)、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウリレート
〈酸化防止剤〉
イルガノックス1010(商品名)、BASF社製、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
【0125】
(実施例1、2、5~14、参考例3、4、及び比較例1~4)
実施例1、2、5~14、参考例3、4、及び比較例1~4において、ベース樹脂を構成する樹脂成分の内、直鎖状低密度ポリエチレンを触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
【0126】
まず、ベーマイト、水酸化アルミニウム、及び/又はこれら以外の無機フィラー(充填剤)と、シランカップリング剤を、表1又は表2のシランMB欄に示す質量比で、東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入し、室温(25℃)で5分混合して、粉体混合物を得た。
次に、このようにして得られた粉体混合物と、表1又は表2のシランMB欄に示す樹脂成分と、有機過酸化物とを、表1又は表2に示す質量比で、日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度、具体的には200℃において5分混練りし、シランMBを得た。得られたシランMBは、樹脂成分にシランカップリング剤がグラフト反応したシラン架橋性樹脂を含有している。
【0127】
一方、キャリア樹脂とシラノール縮合触媒と酸化防止剤とを、表1又は表2の触媒MB欄に示す質量比で、180℃でバンバリーミキサーにて溶融混合、触媒MBを得た。この触媒MBは、キャリア樹脂及びシラノール縮合触媒の混合物である。
【0128】
次いで、シランMBと触媒MBを密閉型のリボンブレンダーに投入し、室温(25℃)で3分ドライブレンドしてドライブレンド物(マスターバッチ混合物)を得た。このとき、シランMBと触媒MBとの混合比は、表1又は表2に示す質量比である。
【0129】
次いで、得られたドライブレンド物を、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24、スクリュー直径40mmのスクリューを備えた押出機(送り出し部スクリュー温度160℃、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度190℃、スクリュー回転数:20rpm)に投入した。この押出機内でドライブレンド物を溶融混合しながら(溶融混合時間5分)、1/0.8A(導体径0.8mm)の外周に被覆厚さ0.8mmとなるように線速20m/分で押し出して、導体の周囲に難燃性架橋性樹脂組成物の押出成形体を有する、外径2.4mmの被覆導体を得た(工程(c)及び工程(2))。
【0130】
得られた被覆導体を60℃、湿度95%の雰囲気下で48時間放置して絶縁電線を製造した。
このようにして、上記被覆導体から、難燃性架橋樹脂成形体の被覆層を備えた絶縁電線を製造した。この難燃性架橋樹脂成形体は上述のシラン架橋樹脂を有している。
【0131】
〈絶縁電線等の評価〉
製造した絶縁電線について、下記特性を評価した。その結果を表1及び表2に示す。
【0132】
〈発泡試験1〉
上記方法により得られた絶縁電線における被覆層の表面(外観)及び内部(絶縁電線の軸線に垂直な平面で切断したときの被覆層の切断面)を観察し、下記評価基準にて、評価した。
A:被覆層の表面及び内部に発泡を確認できなかったもの
D:被覆層の表面又は内部に発泡を確認できたもの
本試験において、評価「A」が合格レベルである。
〈外観試験1〉
上記方法により得られた各絶縁電線において、押出機からドライブレンド物を押出後20分経過した部分の外観を観察した。下記評価基準にて評価した。
A:絶縁電線の外観が優れているもの
B:絶縁電線の外観は製品上問題ないが、電線表面に多少のブツが発生、又は肌荒れしたもの
D:電線表面に多少のブツが発生し、又は肌荒れがあり、絶縁電線として外観に問題があるもの
評価が「B」以上であることが本試験の合格レベルである。
【0133】
〈発泡試験2〉
上記絶縁電線の製造において、押出機のスクリュー回転数を50rpmに変更したこと以外は、上記絶縁電線と同様にして、発泡試験2用絶縁電線を、それぞれ、製造した。製造した絶縁電線について、発泡試験1と同様にして、被覆層の表面及び内部を評価した。この試験は参考試験である。
〈外観試験2〉
上記絶縁電線の製造において、押出機のスクリュー回転数を50rpmに変更したこと以外は、上記絶縁電線と同様にして、外観試験2用絶縁電線を、それぞれ、製造した。得られた各絶縁電線において、外観試験1と同様にして、絶縁電線の外観を評価した。この試験は参考試験である。
【0134】
〈引張試験(機械特性)〉
JIS C 3005に準拠して、標線間50mm、引張速度200mm/分の条件により、絶縁電線管状片の引張試験を行った。絶縁電線管状片は、上記各絶縁電線から導体を抜き取って作製した。下記評価基準にて評価した。
引張強さ
A:10MPa以上
B:8MPa以上10MPa未満
D:8MPa未満
(切断時)伸び
A:300%以上
B:200%以上300%未満
D:200%未満
【0135】
〈60度傾斜難燃試験〉
上記の各絶縁電線について、3本の試験体を準備した。各試験体を用いて、JIS C 3005に準拠して、着火時間を4秒に固定し60度傾斜難燃試験を行った。各試験体から炎を取り去った後、自己消火時間が60秒以内において、自然消火したものを、合格とした。
60度傾斜難燃試験の評価は、下記評価基準にて評価した。
A:各絶縁電線において、3本の試験体のうち1本でも合格したもの
D:3本すべてが合格しなかったもの
【0136】
〈シート難燃試験〉
上記絶縁電線の製造において得られた各ドライブレンド物を用いて、厚さ1.2mmのB5判(182mm×257mm)のシート状試験体を、それぞれ、作製した。得られた各シート状試験体を45°傾斜に保持した。シート状試験体の下面(燃焼面)中心の垂直下方25.4mm(1インチ)の位置に燃料容器の底の中心がくるように、燃料容器を配置した。この燃料容器は、熱伝導率の低い材質(コルク)製の台上に載置した。燃料容器に純エチルアルコール0.5mlを入れて着火し、燃料が燃え尽きるまで放置した。本試験は、一般財団法人日本鉄道所領機械技術協会における鉄道車両用材料燃焼性試験のご案内(平成28年度新方式)に準じて行った。
その後、シート状試験体の難燃性を、下記基準により、評価した。
A:燃焼時にシート状試験体に穴が開かず、シート状試験体に着火又は残炎が残らなかったもの
B:燃焼時にシート状試験体に穴が開かず、シート状試験体に残炎があったが全焼しなかったもの
C:燃焼時にシート状試験体に穴が開かず、シート状試験体に残炎があり全焼したもの
D:燃焼時にシート状試験体に穴が開いてしまい、全焼したもの
本試験において、評価「A」~「C」が合格レベルである。
【0137】
【0138】
【0139】
表1及び2の結果から、以下のことが分かる。
水酸化マグネシウムを使用した参考例は、外観試験1、2、発泡試験1、2、引張試験、60度傾斜及びシート難燃性試験に合格していた。しかし、参考例は水酸化マグネシウムを使用しているため耐酸性に劣る。
水酸化アルミニウムを含有しない比較例1は、60度傾斜難燃試験に不合格であった。ベーマイトの含有量が少なすぎる比較例2は、発泡試験1及び2に不合格であり、引張強さ及びシート難燃性に劣った。ベーマイトと水酸化アルミニウムとの合計量が多すぎる比較例3は、機械特性(引張強さ及び伸び)に劣った。さらに、ベーマイトを含有しない比較例4は、シート難燃性に劣った。
これに対して、ベーマイトと水酸化アルミニウムとを上記合計含有量の範囲内において上記含有量の質量比となる割合を満たして併用した実施例1、2、5~14、参考例3、4は、いずれも、外観試験1、2、発泡試験1、引張試験、及び60度傾斜及びシート難燃性試験に合格しており、また、ベーマイトと水酸化アルミニウムとを含有することにより、優れた耐酸性を示すことも理解できる。すなわち、本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法は、高度の難燃性を示し、機械特性及び耐酸性にも優れた難燃性架橋樹脂成形体を、調製時ないしは成形時に発泡を抑制して、シラン架橋法により、製造できることが分かる。また、本発明の難燃性架橋樹脂成形体は、外観及び内部不良が抑制され、さらには、難燃性、機械特性及び耐酸性のいずれにも優れることが分かった。また、ベーマイトの含有量と水酸化アルミニウムの含有量の質量比を85:15~30:70とすると、スクリュー回転数がより高い条件下においても、発泡やブツを高度に抑制できることが分かった。
特に、粒径(50)が0.5~2.5μmのベーマイトを用いると、難燃性及び耐酸性を損なうことなく、調製時ないしは成形時の発泡が高度に抑制されることが分かった。
【0140】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0141】
本願は、2017年3月31日に日本国で特許出願された特願2017-71256に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。