(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/248 20060101AFI20220419BHJP
H01J 37/06 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01J37/248 A
H01J37/06
(21)【出願番号】P 2020570238
(86)(22)【出願日】2019-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2019004023
(87)【国際公開番号】W WO2020161795
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須賀 亜之瑠
(72)【発明者】
【氏名】藪 修平
(72)【発明者】
【氏名】石澤 輝
(72)【発明者】
【氏名】波田野 道夫
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-32561(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0355264(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/248
H01J 37/06
H01J 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線装置であって、
フィラメントから前記荷電粒子線を照射する荷電粒子線源、
前記フィラメントに対して供給する電圧を昇圧する昇圧回路、
前記フィラメントを正常に使用することができる残り時間を推定する制御部、
を備え、
前記昇圧回路は、第1電流が流れる低電圧側回路と、第2電流が流れる高電圧側回路とを備え、
前記昇圧回路は、前記低電圧側回路に印加される第1電圧を前記高電圧側回路に印加される第2電圧へ昇圧するとともに、前記第2電圧を前記フィラメントに対して印加し、
前記制御部は、前記第1電流の測定値または前記第1電圧の測定値を用いて前記残り時間を推定する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記フィラメントを正常に使用することができる総使用可能時間と、前記フィラメントを通電しているときにおける前記第1電流または前記第1電圧との間の対応関係を記述したデータを格納する記憶部を備え、
前記制御部は、前記第1電流の測定値または前記第1電圧の測定値を用いて前記データを照会することにより、前記残り時間を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記昇圧回路が前記フィラメントに対して供給する電圧を変更した場合は、前記第1電流の測定値または前記第1電圧の測定値を用いて前記データを照会することに代えて、前記第1電流の時間微分または前記第1電圧の時間微分を用いて前記総使用可能時間の終端時点に至るまでの時間を算出することにより、前記残り時間を推定する
ことを特徴とする請求項2記載の荷電粒子線装置。
【請求項4】
前記データは、前記フィラメントを使用し始める時点における前記第1電流の値と、前記総使用可能時間の終端時点における前記第1電流の値とを記述しており、
前記制御部は、前記第1電流の時間微分を算出するとともに、その算出時点における前記第1電流の測定値を取得し、
前記制御部は、前記算出時点における前記第1電流の測定値と、前記フィラメントに対して供給する電圧を変更した後の前記終端時点における前記第1電流の想定値との間の差分を、前記第1電流の時間微分によって除算することにより、前記残り時間を推定する
ことを特徴とする請求項3記載の荷電粒子線装置。
【請求項5】
前記データは、前記フィラメントを使用し始める時点における前記第1電圧の値と、前記総使用可能時間の終端時点における前記第1電圧の値とを記述しており、
前記制御部は、前記第1電圧の時間微分を算出するとともに、その算出時点における前記第1電圧の測定値を取得し、
前記制御部は、前記算出時点における前記第1電圧の測定値と、前記フィラメントに対して供給する電圧を変更した後の前記終端時点における前記第1電圧の想定値との間の差分を、前記第1電圧の時間微分によって除算することにより、前記残り時間を推定する
ことを特徴とする請求項3記載の荷電粒子線装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記フィラメントに対して供給する電圧を変更した後の前記終端時点における前記第1電流の想定値を、前記フィラメントの電気抵抗値にしたがって算出する
ことを特徴とする請求項4記載の荷電粒子線装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記フィラメントに対して供給する電圧を変更した後の前記終端時点における前記第1電圧の想定値を、前記フィラメントの電気抵抗値にしたがって算出する
ことを特徴とする請求項5記載の荷電粒子線装置。
【請求項8】
前記荷電粒子線装置は、前記残り時間を提示するインターフェースを備える
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記インターフェースは、前記荷電粒子線装置が備える表示装置によって構成されている
ことを特徴とする請求項8記載の荷電粒子線装置。
【請求項10】
前記荷電粒子線装置は、ユーザが前記荷電粒子線装置を操作するために用いるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)を備え、
前記インターフェースは、前記GUIが表示する画像によって構成されている
ことを特徴とする請求項8記載の荷電粒子線装置。
【請求項11】
前記GUIは、前記フィラメントを交換するように促すメッセージを表示する
ことを特徴とする請求項10記載の荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置の荷電粒子線源としてフィラメントが用いられる。例えば荷電粒子線源が電子である場合、フィラメント両端に電圧を印加し、フィラメントを加熱したときに発生する熱電子を用いる。この原理を用いた電子銃は熱電子銃と呼ばれる。この手法においては、フィラメントは高温化で使用されるので、昇華により使用にともなってフィラメントが損耗し、損耗が激しくなると断線してしまう。熱電子銃のフィラメント寿命時間は、一般的に50から100時間程度と言われている。
【0003】
フィラメントが断線した場合、ユーザは試料の観察画像を急に観察できなくなった場合や、エミッション電流が0Aとなってしまった場合、初めてフィラメントが断線したと気づくことができる。フィラメントが断線した場合、ユーザはフィラメントを交換する必要があり、再度観察試料の視野探しやフォーカス調整などを実施して撮像しなおす必要があるので、装置の利用効率が悪くなってしまう。フィラメントの寿命を予測して、交換が必要となるタイミングを事前に知ることができれば、ユーザは断線の心配をすることなく観察をすることができる。
【0004】
フィラメントの寿命を予測する方法として、フィラメントの積算使用時間を表示して、これまでの経験よりフィラメント寿命を予測する方法がある。この手法は長年の経験が必要であるとともに、フィラメント両端に印加する電圧の大きさによっても、フィラメント寿命が変化してしまうので、初心者が実施するのは困難である。
【0005】
下記特許文献1は、高電圧電源のリップルを測定し、そのリップルの値からフィラメントの加熱温度の品質を管理する方法が開示されている。またフィラメントの寿命を予測する方法として、フィラメントに流れる電流を測定し、測定したフィラメント電流とフィラメント両端に印加する電圧からフィラメントの電気抵抗値を求め、抵抗値の経時変化にしたがってフィラメントの損耗状態を調べる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
荷電粒子線装置はフィラメントに対して数10kV程度の高電圧を印加する。したがってフィラメント電流を測定することによりフィラメント寿命を推定するためには、フローティング測定を用いる必要がある。この場合、フローティング測定のために特殊な回路が必要となる。したがって電圧源の回路構成が複雑となって大型化とコスト増加につながってしまう。また、フィラメントに対して印加する電圧を測定することによりフィラメント電流を測定する場合、数10kV程度の電圧を測定することになるが、これをそのままADコンバータへ入力すると、ADコンバータの分解能が不足する。したがって数10kV程度のフィラメント電圧を直接測定するのは困難である。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、安価かつ簡易な回路構成により荷電粒子線源のフィラメントの寿命を予測することができる荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る荷電粒子線装置は、フィラメントに対して供給する電圧を昇圧する昇圧回路を備え、昇圧回路の低圧側に流れる電流の測定値を用いて、フィラメントの残寿命を予測する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る荷電粒子線装置によれば、安価かつ簡易な回路構成によりフィラメントの寿命時間を正確に予測することができる。これにより、フィラメントが断線する前に交換すべきタイミングを知ることができるので、観察途中でフィラメントが断線してしまうリスクを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係る走査型電子顕微鏡100の構成図である。
【
図3】フィラメント129に対して電流を供給する昇圧回路130の回路図である。
【
図4】フィラメント129の積算使用時間と低圧側133に流れる電流の関係を示すグラフである。
【
図5A】フィラメント129に対する印加電圧を変更する前後における低圧側133に流れる電流とフィラメント使用可能時間の関係を示す図である。
【
図5B】フィラメント129の寿命を推定する手順を説明する模式図である。
【
図5C】フィラメント129に対する印加電圧を変更する前後における使用開始時の低圧側133に流れる電流の差分を示す図である。
【
図6】表示装置103がフィラメント129の寿命を示すアイコン表示の例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る走査型電子顕微鏡100の構成図である。走査型電子顕微鏡100は、鏡筒部101、試料室102、制御部117、を備える。鏡筒部101は、陰極106、ウェーネルト107、陽極109、第1集束レンズ110、第2集束レンズ111、上段偏向コイル112、下段偏向コイル113、対物レンズ114、を有する。試料室102は、真空ポンプ105によって10
-3~10
-4Paの真空度に保たれる。試料室102は、試料115、試料台116、検出器104、を有する。
【0013】
制御部117は、走査型電子顕微鏡100が備える各部を制御する機能部であり、高電圧制御回路119、集束レンズ制御回路120、偏向制御回路121、対物レンズ制御回路122、信号処理回路123、表示装置103、を有する。高電圧制御回路119は、電子銃118に対して印加する電圧を制御する。集束レンズ制御回路120は、第1集束レンズ110と第2集束レンズ111を制御する。偏向制御回路121は、上段偏向コイル112と下段偏向コイル113を制御する。対物レンズ制御回路122は、対物レンズ114を制御する。記憶部150は例えばハードディスクなどの記憶装置によって構成することができる。
【0014】
1次電子ビーム108は、第1集束レンズ110と第2集束レンズ111によって集束された後、対物レンズ114によって試料115上に集束される。試料115上に集束される1次電子ビーム108は同時に、上段偏向コイル112と下段偏向コイル113によって試料115上に対する照射位置を走査される。1次電子ビーム108の照射にともなって、試料115からは試料115の形状や組成などによって決まる信号電子が放出される。検出器104はその信号電子を検出する。検出された信号電子は、増幅器124により増幅される。信号処理回路123は、信号電子の検出結果を用いて試料115の観察画像を生成し、表示装置103はその観察画像を表示する。
【0015】
図2は、電子銃118の構成図である。電子銃118としては、熱電子銃、ショットキー電子銃、冷陰極電界放出型の電子源などを用いることができる。本実施形態1においては熱電子銃を採用した。陰極106が有するフィラメント129に対して電流を流し、フィラメント129の両端に電圧を印加して加熱すると、陽極109に向かって1次電子ビーム108が照射される。
【0016】
電子銃118はさらに、加熱電源125、バイアス電源126、加速電源127を備える。加熱電源125は熱電子銃としての加熱を供給する。加速電源127は1次電子ビーム108の加速電圧を供給する。バイアス電源126は1次電子ビーム108のビーム電流を制御する。高電圧制御回路119は、これら電源の動作を制御することにより、電子銃118を制御する。
【0017】
図3は、フィラメント129に対して電流を供給する昇圧回路130の回路図である。昇圧回路130は、電子銃118の一部として構成することもできるし、電子銃118に対して接続することもできる。
図3においては記載の便宜上、電子銃118とは別の回路として構成した例を示した。昇圧回路130は走査型電子顕微鏡100内の任意箇所に配置することができる。
【0018】
昇圧回路130は、低圧側133と高圧側132を有する。低圧側133は電圧源135を有し、高圧側132にはフィラメント129が接続されている。電圧源135が供給する電圧はトランス131によって昇圧され、高圧側132に対して供給される。これによりフィラメント129に対して電流を供給することができる。電流計134は低圧側133に流れる電流を測定する。
図3においては記載簡単のため高電圧を印加する回路を省略した。
【0019】
フィラメント129に流れる電流を正確に測定するためには、高圧側132に電流計134を設置するのが望ましい。しかし高電圧による回路故障などを抑制する必要があるので、高圧側132に電流計134を配置する場合は、フローティング測定を用いる必要がある。そうすると電流測定のための回路規模が大きくなり、昇圧回路130の大型化やコスト増加につながる。一方で
図3のように低圧側133で電流を測定する場合、フィラメント129に流れる電流値を知るためには、トランス131の特性を考慮して低圧側133で測定した電流値を高圧側132に流れる電流値へ変換する必要がある。他方でこれによりフローティング測定などの特別な回路構成は不要なので、安価で小さな回路構成によりフィラメント電流を測定できる利点がある。
【0020】
<実施の形態1:フィラメント寿命を予測する方法>
低圧側133に流れる電流値を用いて、フィラメント129の寿命を予測する方法について説明する。電子銃118においてフィラメント129は高温に加熱されて使用されるので、フィラメント129は昇華して使用とともにその線径は細くなる。これによりフィラメント129の抵抗値は大きくなるので、フィラメント129の抵抗値を測定することにより、フィラメント129の線径がどれだけ細くなったかを予測することができる。フィラメント129の線径はフィラメント129の寿命を表しているので、以上の手法によりフィラメント129の寿命を予測することができる。
【0021】
図4は、フィラメント129の積算使用時間と低圧側133に流れる電流の関係を示すグラフである。フィラメント129の電気抵抗値を測定するためには、フィラメント129に流れる電流を計測するのが最も直接的であるが、本実施形態1においてはこれに代えて低圧側133に流れる電流を測定することとした。そこで本実施形態1においては、フィラメント129の積算使用時間と低圧側133に流れる電流の関係をあらかじめ測定して
図4のようなデータとして記述し、記憶部150に格納しておく。低圧側133に流れる電流はフィラメント129の使用時間とともに小さくなっていき、フィラメント129に流れる電流をある程度反映していると考えられる。制御部117は、電流計134が測定した電流値を取得し、その電流値を用いて
図4のデータを照会することにより、フィラメント129の寿命を推定することができる。
【0022】
図4下段は、フィラメント129の残寿命を10分割してパーセント表示する場合の例である。各残寿命に対応するフィラメント電流をあらかじめ特定しておき、電流計134による測定結果と比較することにより、フィラメント129の残寿命をパーセント表示で得ることができる。その結果を例えば表示装置103上で提示することにより、ユーザに対して残寿命を知らせることができる。
【0023】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る走査型電子顕微鏡100は、フィラメント129に対して供給する電圧を昇圧する昇圧回路130を備え、低圧側133に流れる電流の測定値を用いて、フィラメント129の残寿命を予測する。これにより、フィラメント電流を直接測定するための特別な回路構成は必要ないので、簡易な回路構成によってフィラメント129の残寿命を推定することができる。
【0024】
<実施の形態2>
実施形態1においては、低圧側133に流れる電流を用いてフィラメント129の寿命を予測する手法を説明した。この手法は、フィラメント129に対して印加する電圧が一定であり、したがって
図4で説明した関係が変化しないことを前提としている。しかし実際の走査型電子顕微鏡100においては、フィラメント129に対して印加する電圧を変えながら使用する場合がある。
【0025】
フィラメント129に対して印加する電圧を変化させるとフィラメント129の加熱温度も変化するので、抵抗値の経時変化特性も変わってしまう。そうすると、
図4で説明した関係をそのまま用いることはできない。そこで本発明の実施形態2では、フィラメント129に対して印加する電圧を変えた場合において、
図4で説明した関係を利用してフィラメント129の寿命を推定する手法を説明する。走査型電子顕微鏡100の構成は実施形態1と同様である。
【0026】
図5Aは、フィラメント129に対する印加電圧を変更する前後における低圧側133に流れる電流とフィラメント使用可能時間の関係を示す図である。例えば印加電圧を下げた場合、フィラメント129に流れる電流は減少するので、フィラメント129の寿命は延びる。したがって
図4で説明した関係は、
図5Aの点線のように変化する。
図5A点線の関係は、あらかじめ測定していなければ分からない。ただしフィラメント129が使用時間にともなって次第に細くなるという特性を考慮すると、使用開始時と寿命終端時それぞれにおいて低圧側133に流れる電流の差分は、印加電圧を変更する前後において変わらないと想定される(
図5Aの矢印)。本実施形態2においては、この原理を利用してフィラメント129の寿命を推定する。
【0027】
図5Bは、フィラメント129の寿命を推定する手順を説明する模式図である。記載の便宜上、
図5Aのうち点線部分のみを転記した。フィラメント129に対する印加電圧を変更した以後の適当な時点(例えば変更した時点)において、低圧側133に流れる電流の時間微分(ΔIL/Δt)を求める。低圧側133の電流が積算使用時間にともなって線形的に減少すると仮定した場合、低圧側133の電流の現在値IL(t)と、寿命終端時点における電流値IL
0’との間の差分を、求めた時間微分で除算することにより、寿命終端時点までの残時間を算出することができる。すなわち、残時間=(IL(t)-IL
0’)/(ΔIL/Δt)(式1)である。
【0028】
図5Cは、フィラメント129に対する印加電圧を変更する前後における使用開始時の低圧側133に流れる電流の差分を示す図である。印加電圧変更前において低圧側133に流れる使用開始時電流をIL
100とし、印加電圧変更後において低圧側133に流れる使用開始時電流をIL
100’とする。フィラメント129に対する印加電圧とフィラメント129に流れる電流がフィラメント129の電気抵抗を基準とした線形関係にあると仮定した場合、印加電圧を変更する前後においてフィラメント129に流れる電流の差分をその電気抵抗と線形関係にしたがって計算することができる。したがって低圧側133に流れる電流もその電気抵抗と線形関係に基づき計算することができる。すなわち、IL
100とIL
100’の差分を計算することができる。この差分は終端時電流IL
0とIL
0’の差分とも等しい。
【0029】
IL0とIL0’の差分(すなわちIL100とIL100’の差分)をDIFF0とすると、IL(t)-IL0’=IL(t)-(IL0-DIFF0)(式2)と計算することができる。式2を式1に代入することにより、フィラメント129の残寿命を計算することができる。
【0030】
図5A~
図5Cはフィラメント129に対する印加電圧を下げた例を示したが、印加電圧を上げた場合、IL
100’はIL
100よりも大きく、IL
0’もIL
0より大きい。したがって式2は、IL(t)-IL
0’=IL(t)-(DIFF0-IL
0)となることを付言しておく。
【0031】
特に寿命終端付近において、低圧側133の電流が積算使用時間にともなって非線形的に減少するとみなす場合は、式1と式2によって求められる値を適宜補正してもよい。例えば、
図4に示す関係はあらかじめ分かっているので、これを横軸方向(時間方向)に伸長することにより、印加電圧変更後の関係を近似的に求めることができる。この近似関係を用いて残寿命を計算してもよい。
【0032】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る走査型電子顕微鏡100は、フィラメント129に対する印加電圧を変更した場合、式1で説明した関係にしたがって、低圧側133に流れる電流の時間微分を用いて、寿命終端時点までに至る残時間を算出する。これにより、
図4に示す関係が変更された場合であっても、フィラメント129の寿命を正確に求めることができる。
【0033】
本実施形態2に係る走査型電子顕微鏡100は、フィラメント129に対する印加電圧を変更した場合、フィラメント129の電気抵抗にしたがって、フィラメント129に対する印加電圧とフィラメント129に流れる電流の線形関係に基づき、印加電圧変更前後における低圧側133の電流の差分を求める。これにより、式2で説明した関係にしたがって、印加電圧変更後における使用開始時電流と寿命終端時電流を求めることができる。すなわち、印加電圧変更後における低圧側133の電流と積算使用時間の関係をあらかじめ測定していない場合であっても、計算によりこれを推定することができる。
【0034】
<実施の形態3>
図6は、表示装置103がフィラメント129の寿命を示すアイコン表示の例である。実施形態1ではフィラメント129の寿命予測方法について説明した。現在のフィラメント129の寿命をユーザに対して知らせる方法として、表示装置103上で適当なアイコンなどによって寿命を示唆することができる。例えば初心者でも視覚的に容易に寿命を把握できるように、パーセント表示136、時間表示137、メータ表示138、電池表示139、信号表示140、カウント表示141、LEDランプ表示142などを用いることができる。これらの表示により、ユーザはフィラメント129の交換時期を容易に知ることができる。
【0035】
図6のような表示は、表示装置103が表示するグラフィカルユーザインターフェース(GUI)として提供することもできるし、走査型電子顕微鏡100本体が備える表示デバイスによって提供することもできる。例えばLEDランプ表示142は、走査型電子顕微鏡100本体にLEDランプを設けてこれにより提供することができる。その他態様についても同様である。
【0036】
図6の表示に代えてまたはこれに加えて、フィラメント129を交換するように促すメッセージを提示してもよい。例えば残寿命が所定閾値以下になると、その旨を通知するメッセージを提示することができる。
【0037】
<本発明の変形例について>
以上の実施形態において、低圧側133に流れる電流を電流計134によって測定し、これを用いてフィラメント129の寿命を推定することを説明した。これに代えて、低圧側133に印加される電圧を用いることもできる。すなわち、低圧側133に印加される電圧とフィラメント129の総使用可能時間との間の関係を
図4と同様にあらかじめ測定してその関係を記述したデータを記憶部150に格納しておく。制御部117は低圧側133の電圧を取得してその電圧によりデータを照会すればよい。実施形態2で説明した手法についても同様である。
【0038】
以上の実施形態においては、低圧側133に流れる電流を用いてフィラメント129の寿命を推定することを説明したが、これに代えてまたはこれと並行して、フィラメント129の積算使用時間を用いることもできる。例えば標準的な印加電圧の下におけるフィラメント129の総使用可能時間をあらかじめ記憶部150に記録しておき、フィラメント129に通電した時間を積算して総使用可能時間と比較することにより、残寿命を推定することができる。低圧側133に流れる電流を併用する場合は、例えば2つの手法を用いて推定した結果をそれぞれ表示装置103上に提示し、いずれを用いるかをユーザに委ねることができる。
【0039】
以上の実施形態において、昇圧回路130としてトランス131を用いる構成を例示したが、低圧側133の電圧を高圧側132の電圧へ昇圧することができれば、昇圧回路130の構成は任意である。すなわち、低圧側133に流れる電流を計測することができればよい。
【0040】
以上の実施形態において、制御部117は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアを演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0041】
以上の実施形態において、走査型電子顕微鏡100を例示したが、その他タイプの荷電粒子線装置においても、本発明を適用することができる。すなわち、フィラメント129を荷電粒子線源として用いる荷電粒子線装置であれば、本発明を用いてフィラメント129の寿命を推定することができる。
【符号の説明】
【0042】
100:走査型電子顕微鏡
101:鏡筒部
102:試料室
103:表示装置
104:検出器
105:真空ポンプ
106:陰極
107:ウェーネルト
108:電子ビーム
109:陽極
110:第1集束レンズ
111:第2集束レンズ
112:上段偏向コイル
113:下段偏向コイル
114:対物レンズ
115:試料
116:試料台
117:制御部
118:電子銃
119:高電圧制御回路
120:集束レンズ制御回路
121:偏向制御回路
122:対物レンズ制御回路
123:信号処理回路
124:増幅器
129:フィラメント