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特許7060772炭素質材料及びその製造方法、並びに、含フッ素有機化合物除去材、浄水用フィルター及び浄水器
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  • 特許-炭素質材料及びその製造方法、並びに、含フッ素有機化合物除去材、浄水用フィルター及び浄水器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】炭素質材料及びその製造方法、並びに、含フッ素有機化合物除去材、浄水用フィルター及び浄水器
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/336 20170101AFI20220419BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20220419BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20220419BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220419BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C01B32/336
C02F1/28 G
B01J20/20 Z
B01J20/28 Z
B01J20/30
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022507412
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2021038008
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2020177898
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】石田 修一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 清人
(72)【発明者】
【氏名】花本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉延 寛枝
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220413(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199717(WO,A1)
【文献】特開2003-290654(JP,A)
【文献】特開昭60-137811(JP,A)
【文献】Hisashi Tamai et al.,“Synthesis of Extremely Large Mesoporous Activated Carbon and Its Unique Adsorption for Giant Molec,Chemistry of Materials,米国,1996年,8,pp.454-462
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
C02F
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼン吸着量が30~60%であり、ビタミンB12吸着量が50.0mg/g超であり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.13~0.30cm/gである、炭素質材料。
【請求項2】
窒素吸着等温線からBET法で算出した比表面積が1200~2000m/gである、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
窒素吸着等温線から算出した平均細孔径が1.85~1.90nmである、請求項1または2に記載の炭素質材料。
【請求項4】
荷重12kNにおける粉体抵抗測定による導電率が3~9S/cmである、請求項1~3のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項5】
植物系の炭素質前駆体に由来する、請求項1~4のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項6】
植物系の炭素質前駆体がヤシ殻である、請求項5に記載の炭素質材料。
【請求項7】
以下の測定条件により得られる含フッ素有機化合物の除去性能がBed Volumeで12000以上である、請求項1~6のいずれかに記載の炭素質材料。
測定条件:炭素質材料を充填した直径6.2mm、高さ25.4mm、内容積0.77mLのステンレス製カラムに、PFOA濃度50±10ppt、PFOS濃度50±10pptに調整した水(TOC1.2ppmを含有)を試験水として用い、7.2mL/分、空間速度(SV)=560hr-1の条件にて、アップフローで通水し除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる、通水開始時から破過点までの通水量(Bed Volume)を除去性能とする。
【請求項8】
流動炉を用いた炭素質材料の製造方法であって、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度が0.004~1容量%となるように流動炉に導入することを特徴とする、請求項1~7に記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項9】
前記炉床から導入する流動ガス中の水蒸気濃度が10~40容量%である、請求項8に記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項10】
前記流動炉が、流動ガスの流れ主方向Zでみて流動炉内の上流側にガス分散部を備えており、
前記方向Zにおけるガス分散部の上流端位置を0(m)、下流端位置をt1(m)とし、前記酸素含有ガスを導入する位置をt2(m)としたとき、0.5t1≦t2の関係を満たすように、前記酸素含有ガスを導入する、請求項8又は9に記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料と繊維状バインダーを含む浄水用フィルターであって、前記繊維状バインダーのCSF値が10~150mLであり、炭素質材料100質量部に対して、繊維状バインダーを4~10質量部含む、浄水用フィルター。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料を含む、浄水器。
【請求項13】
請求項11に記載の浄水用フィルターを含む、浄水器。
【請求項14】
請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料からなる、含フッ素有機化合物除去材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質材料に関する。さらには、前記炭素質材料の製造方法、並びに、前記炭素質材料を用いた、含フッ素有機化合物除去材、浄水用フィルター及び浄水器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水道水の水質に関する安全衛生上の関心が高まってきており、種々の有害物質を除去することが望まれている。
【0003】
含フッ素有機化合物は他の物質では実現できない特異な性質(耐熱、耐薬品性に優れ過酷な条件でも使用可能、光吸収能がない等)を持つため、界面活性剤、乳化剤、撥水剤、消火剤、ワックス、カーペットクリーニング剤、コーティング剤等、様々な用途に用いられてきた。最近も半導体用の表面処理剤や燃料電池構成材料等、機能性材料としての用途が増加している。
【0004】
ところが、数年前から一部の含フッ素有機化合物が環境水や野生生物体内に蓄積していることが米国やカナダの研究者を中心に報告され始めた。その典型がペルフルオロオクタン酸(PFOA:C15COOH)に代表されるペルフルオロアルキルカルボン酸類やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS:C17SOH)に代表されるペルフルオロアルキルスルホン酸類である。その後、欧州や日本の研究者らも環境分析研究に参入した結果、これらの化合物が日本を含めて世界規模で環境中に存在していることが明らかになった。このような状況を受け、含フッ素有機化合物(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物;以下、「PFAS」とも称することがある)の環境リスク低減に向けて、取り組みが始まっている。
【0005】
例えば、75μmのフィルターを通過する粒子が全粒子の90%以上である活性炭と、含フッ素界面活性剤を含有する処理対象水を接触させることによって、処理対象水から含フッ素界面活性剤を除去する方法が報告されている(特許文献1)。
【0006】
特許文献1で提案されている技術のように、これまでにも、活性炭を用いて水から含フッ素有機化合物を除去することについて報告がある。しかしながら、特許文献1記載の技術は主にバッチ用途(工場排水の処理・浄化)で使用される技術である。これまでに報告されている技術はそのようなバッチ用途や浄水場などにおける原水(河川水等)からPFASを除去するための方法であり、浄水器等によって含フッ素有機化合物を除去する手段については、まだあまり研究が進んでいないのが現状である。
【0007】
浄水場などにおける処理と浄水器による処理とでは、処理対象となる水が異なっており(原水と水道水)、さらに処理対象水の処理時間も大幅に異なるため、浄水場でのPFAS除去手段を、例えば家庭用の浄水器等にそのまま適用できるわけではない。
【0008】
したがって、本発明の主な課題は、浄水器用途でも使用できる、PFAS(PFOS、PFOA等)除去性能の高い炭素質材料を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-158662号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成を有する炭素質材料によって上記課題を解決できることを見出し、その知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の一局面に関する炭素質材料は、ベンゼン吸着量が30~60%であり、ビタミンB12吸着量が50.0mg/g超であり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.13~0.30cm/gであることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の局面に関する炭素質材料の製造方法は、流動炉を用いることと、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度が0.004~1容量%となるように流動炉に導入することを特徴とする。
【0013】
本発明のさらに他の局面に関する浄水用フィルターは、上述したような炭素質材料と繊維状バインダーを含むこと、繊維状バインダーのCSF値が10~150mLであること、及び、炭素質材料100質量部に対して、繊維状バインダーを4~10質量部含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態における、流動炉を用いた炭素質材料の製造方法を説明するための模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態における、流動炉を用いた炭素質材料の製造方法を説明するための模式図である。
図3図3は、本発明の実施例及び比較例における、PFOSおよびPFOAの除去率とBed Volumeとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0016】
[炭素質材料]
本発明の一実施形態に係る炭素質材料は、ベンゼン吸着量が30~60%であり、ビタミンB12吸着量が50.0mg/g超であり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.13~0.30cm/gであることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、浄水器用途でも使用できる、PFAS(PFOS、PFOA等)除去性能の高い炭素質材料を提供することができる。
【0018】
(ベンゼン吸着量)
ベンゼン吸着量は、炭素質材料の賦活の進行度合いを示す指標である。本実施形態に係る炭素質材料は、ベンゼン吸着量が30~60%の範囲であることによって、PFASの吸着に適している。
【0019】
優れたPFAS吸着性能を有するという観点から、炭素質材料のベンゼン吸着量は、30~60%の範囲にあり、上限は、好ましくは58%以下、より好ましくは56%以下、さらに好ましくは55%以下であり、下限は、好ましくは40%以上、より好ましくは42%以上、さらに好ましくは44%以上である。
【0020】
炭素質材料のベンゼン吸着量は、後述の[ベンゼン吸着量の測定]に記載の方法により測定することができる。
【0021】
(ビタミンB12吸着量)
ビタミンB12(シアノコバラミン)は分子量が約1355と大きく、ビタミンB12吸着量は、分子サイズの大きい物質に対する吸着特性の指標となる。本実施形態に係る炭素質材料は、ビタミンB12吸着量が50mg/g超であることにより、PFASの吸着に適した炭素質材料となる。
【0022】
優れたPFAS吸着性能を実現する観点から、炭素質材料のビタミンB12吸着量は、50mg/g超であり、好ましくは60mg/g以上、より好ましくは70mg/g以上、さらに好ましくは80mg/g以上である。ビタミンB12吸着量の上限は、特に限定はされないが、ベンゼン吸着量等の他の物性値とのバランスから、通常、500mg/g以下であることが好ましく、より好ましくは460mg/g以下、さらに好ましくは420mg/g以下である。
【0023】
炭素質材料のビタミンB12吸着量は、後述の[ビタミンB12吸着量の測定]に記載の方法により測定することができる。
【0024】
(メソ孔容積)
炭素質材料が有する細孔は、その直径に応じて、ミクロ孔(直径2nm未満)、メソ孔(直径2~50nm)、マクロ孔(直径50nm超)に分類することができる(括弧内はIUPACの分類基準を示す)。メソ孔はミクロ孔に比して大きく、メソ孔の容積は、主として、分子サイズの大きい物質の吸着特性の指標となり得る。本実施形態に係る炭素質材料は、メソ孔容積が0.130~0.30cm/gの範囲であり、それによりPFASの吸着により適した炭素質材料となる。
【0025】
優れたPFAS吸着性能を実現する観点から、炭素質材料のメソ孔容積は、0.130~0.300cm/gの範囲にあり、下限は、好ましくは0.140cm/g以上、より好ましくは0.145cm/g以上である。また、上限は、好ましくは0.280cm/g以下、より好ましくは0.250cm/g以下である。
【0026】
炭素質材料のメソ孔容積は、窒素吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法を用いて算出することができる。窒素吸着等温線の測定及びメソ孔容積の算出は、後述の[窒素吸着等温線の測定]及び[BJH法によるメソ孔細孔容積の測定]に記載の方法により実施することができる。
【0027】
以上、本実施形態におけるベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及び、メソ孔細孔容積の各々について技術的意義の説明を試みたが、炭素質材料(吸着媒)の構造と吸着質に対する吸着特性の関係は複雑であり、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及び、メソ孔細孔容積は別個独立に吸着質に対する吸着特性と直ちに相関しない場合もある。PFASを効率よく除去することが可能な炭素質材料を実現するには、これらベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及び、メソ孔容積のバランスが重要であることと考えられる。後述のとおり、本実施形態においては、流動炉を用いた特定の製造方法によって、上記特性を兼ね備えた炭素質材料の製造に成功した。
【0028】
本実施形態の炭素質材料は、上述したようにベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及び、メソ孔細孔容積がそれぞれ上記範囲となっていれば、その他の特性について特に限定はないが、より確実に本発明の効果を得るためには、後述の特性も備えていることが好ましいと考えられる。
【0029】
(比表面積)
炭素質材料は、浄水器に求められる吸着除去性能を高いレベルで実現する観点から、比表面積が1200~2000m/gの範囲にあることが好ましい。比表面積の下限は、より好ましくは1300m/g以上、又は1400m/g以上であり、上限は、より好ましくは1900m/g以下、又は1800m/g以下である。
【0030】
炭素質材料の比表面積は、窒素吸着等温線からBET法を用いて算出することができる。窒素吸着等温線の測定及び比表面積の算出は、後述の[窒素吸着等温線の測定]及び[比表面積の測定]に記載の方法により実施することができる。
【0031】
(平均細孔径)
より優れたPFAS吸着性能を実現する観点から、炭素質材料は、平均細孔径が1.85~1.90nmの範囲にあることが好ましい。平均細孔径の下限は、より好ましくは1.86nm以上又は1.87nm以上であり、上限は、好ましくは1.89nm以下又は1.88nm以下である。
【0032】
炭素質材料の平均細孔径は、窒素吸着等温線から算出することができる。窒素吸着等温線の測定及び平均細孔径の算出は、後述の[窒素吸着等温線の測定]及び[全細孔容積・平均細孔径の測定]に記載の方法により実施することができる。
【0033】
(導電率)
本実施形態に係る炭素質材料は、荷重12kNにおける粉体抵抗測定による導電率が3~9S/cmの範囲にあることが好ましい。導電率がこの範囲にあると、詳細には、導電率が前記範囲にあるような構造を有すると、炭素質材料は、浄水器に求められる吸着除去性能を高いレベルで実現し得る。導電率の上限は、好ましくは8.7S/cm以下、より好ましくは8.3S/cm以下、さらに好ましくは8S/cm以下であり、下限は、好ましくは5.3S/cm以上、より好ましくは5.6S/cm以上、さらに好ましくは6S/cm以上である。
【0034】
炭素質材料の上記導電率は、後述の[導電率の測定]に記載の方法により測定することができる。
【0035】
炭素質材料の形状は、特に限定されず、例えば、粒子状、繊維状(糸状、織り布(クロス)状、フェルト状)などのいずれの形状でもよく、具体的使用態様に応じて適宜選択できるが、単位体積当たりの吸着性能が高いため、粒子状が好ましい。粒子状の炭素質材料である場合、その寸法は特に限定されず、具体的使用態様に応じて適宜粒度等を調整すればよい。
【0036】
炭素質材料の原料(炭素質前駆体)は、特に限定されない。例えば植物系の炭素質前駆体(例えば、木材、鉋屑、木炭、ヤシ殻やクルミ殻などの果実殻、果実種子、パルプ製造副生成物、リグニン、廃糖蜜などの植物由来の材料)、鉱物系の炭素質前駆体(例えば、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残渣、石油ピッチなどの鉱物由来の材料)、合成樹脂系の炭素質前駆体(例えば、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂などの合成樹脂由来の材料)、天然繊維系の炭素質前駆体(例えば、セルロースなどの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維などの天然繊維由来の材料)などが挙げられる。中でも、家庭用品品質表示法で規定される除去対象物質の吸着性能に優れる炭素質材料とし易いことから、植物系の炭素質前駆体が好ましい。したがって好適な一実施形態において、炭素質材料は、植物系の炭素質前駆体に由来する。PFASをより一層効率よく除去し得る炭素質材料を実現し得る観点から、ヤシ殻を原料とすることが好ましい。したがって特に好適な一実施形態において、植物系の炭素質前駆体として、ヤシ殻を用いる。
【0037】
本実施形態に係る炭素質材料は、PFASの吸着に適しており、特に浄水器用途において優れた効果を発揮する。したがって、本実施形態の炭素質材料は、浄水するための炭素質材料(浄水用炭素質材料)として好適に使用することができ、水道水を浄水するための炭素質材料(水道水の浄水用炭素質材料)としてより好適に使用することができる。
【0038】
特に、本実施形態の炭素質材料は、以下の測定条件により得られる含フッ素有機化合物の除去性能がBed Volumeで12000以上であることが好ましい。
【0039】
(測定条件)
炭素質材料を充填した直径6.2mm、高さ25.4mm、内容積0.77mLのステンレス製カラムに、PFOA濃度50±10ppt、PFOS濃度50±10pptに調整した水(TOC1.2ppmを含有)を試験水として用い、7.2mL/分、空間速度(SV)=560hr-1の条件にて、アップフローで通水し除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる、通水開始時から破過点までの通水量(Bed Volume)を除去性能とする。それにより、優れた前記除去効果をより確実に得ることができると考えられる。
【0040】
本実施形態の炭素質材料は、含フッ素有機化合物を効率よく吸着できるので、含フッ素有機化合物除去材として好適に使用できる。よって、本発明には、上述した炭素質材料からなる含フッ素有機化合物除去材も包含される。
【0041】
[炭素質材料の製造方法]
本発明の一実施形態に係る炭素質材料は、先述の炭素質前駆体を賦活することによって製造される。なお、賦活に先立ち、炭化を必要とする場合、通常、酸素又は空気を遮断して、例えば、400~800℃(好ましくは500~800℃、さらに好ましくは550~750℃)で炭化すればよい。この場合、炭素質前駆体の炭化により得られた原料炭を賦活して炭素質材料を製造する。
【0042】
ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔細孔容積(さらに、必要に応じて、任意で満たすとよい、比表面積、平均細孔径、導電率等の特性)が特定範囲にある炭素質材料を実現するにあたって、賦活の方法が重要である。本実施形態に係る炭素質材料の製造方法(以下、単に「本実施形態の製造方法」ともいう。)は、賦活炉として流動炉(流動賦活炉)を用い、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを流動炉に導入することを特徴とする。これにより、賦活炉としてロータリーキルンを用いる従来法や、流動炉に専ら流動ガスを炉床から導入する従来法では実現困難であった、ベンゼン吸着量が40~60%であり、かつ、ビタミンB12吸着量が50mg/g超である、炭素質材料を実現することができる。
【0043】
流動ガスは、原料炭を流動賦活する作用を有する限り特に限定されず、従来公知のものを用いてよい。例えば、流動ガスとしては、水蒸気および/または二酸化炭素を含有するガスが挙げられる。工業的には、水蒸気や二酸化炭素を適度に含むことから、炭化水素(例えば、メタン、プロパン、ブタン等の軽質ガス、軽油、灯油、重油等の液体燃料)の燃焼ガスが好ましく用いられる。
【0044】
原料炭を効率よく賦活し得る観点から、流動ガス中の水蒸気濃度は、10~40容量%であることが好ましい。上限は、より好ましくは35容量%以下、又は30容量%以下であり、下限は、より好ましくは12容量%以上、14容量%以上、又は15容量%以上である。また、流動ガス中に二酸化炭素を含有する場合、流動ガス中の二酸化炭素濃度は、15容量%以下であることが好ましい。上限は、より好ましくは14容量%以下、又は13容量%以下であり、下限は、より好ましくは8容量%以上、9容量%以上、又は10容量%以上である。
【0045】
本実施形態の製造方法において、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスが流動炉に導入される。酸素含有ガスは、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度が0.004~1容量%となるように流動炉に導入される。PFASをより一層効率よく除去し得る炭素質材料を得る観点から、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度は、好ましくは0.005容量%以上、0.01容量%以上、0.02容量%以上、0.03容量%以上、0.04容量%以上、又は0.05容量%以上である。該酸素濃度の上限は、好ましくは0.95容量%以下、0.9容量%以下、0.85容量%以下、又は0.8容量%以下である。本実施形態において、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度は、流動ガスの組成と導入量、酸素含有ガスの組成と導入量に基づき算出される仕込み換算の濃度である。
【0046】
酸素含有ガスは、酸素を含有する限りにおいて特に限定されず、例えば、空気、及び、空気を他のガス(例えば、窒素等の不活性ガス)で希釈したガスを用いることができる。酸素含有ガス中の酸素濃度は、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度が0.004~1容量%の範囲となる限りにおいて特に限定されないが、好ましくは20容量%以下、より好ましくは15容量%以下、10容量%以下、8容量%以下、6容量%以下、5容量%以下、4容量%以下、3容量%以下、又は2容量%以下である。酸素含有ガス中の酸素濃度の下限は、通常、0.1容量%以上、0.2容量%以上などとすることができる。なお、炉床から導入する流動ガス中に酸素が含まれていてもよいが、流動ガスに燃焼ガスを用いる場合、燃焼ガス中の微量の酸素濃度を制御することは一般的に困難であるため、酸素含有ガス由来の酸素により、酸素濃度を制御することが好適である。
【0047】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態の製造方法を説明する。
【0048】
図1に、本実施形態の製造方法に用いられる流動炉(流動賦活炉)100の模式図を示す。なお、以下の説明において、各符号はそれぞれ、1 流動ガス入口、2 酸素含有ガス入口、3 ガス出口、4 ガス分散層、5 原料炭、6 原料炭(流動賦活時)、7 流動ガス、8 酸素含有ガス、9 排出ガス、10 ガス分散部、20 流動床部、100 流動炉(流動賦活炉)を示す。
【0049】
流動炉100は、流動ガス入口1、酸素含有ガス入口2、ガス出口3、ガス分散層4を含む。流動ガス入口1は、一般に炉床に配置され、流動炉100に導入された流動ガス(図示せず)は、ガス分散層4を通過して、原料炭5と接触し原料炭の流動賦活に供される。その後、流動ガスは、一般に炉天井に配置されるガス出口3から炉外に排出される。図1では、前記流動ガスの流れ主方向(すなわち、炉床から炉天井への流れ方向)を方向Zとして表している。
【0050】
ガス分散層4は、流動ガス入口1から導入された流動ガスの流れを分散させて原料炭5に均一に流動ガスを接触させる機能を有する限り特に限定されず、従来公知のものを使用してよい。例えば、孔空き板を用いて流動ガスを分散させる場合、炉床から孔空き板までの緩衝領域を含めてガス分散層4と称する。図1に示すように、ガス分散層4は、流動ガスの流れ主方向Zでみて、流動炉内の上流側に配置される。本実施形態において、ガス分散層4からなる領域をガス分散部10と称する。したがって、流動炉100は、流動ガスの流れ主方向Zでみて流動炉内の上流側にガス分散部10を備える。
【0051】
流動炉100はまた、流動ガスの流れ主方向Zでみて流動炉内の下流側に、流動床部20を備える。流動床部20において、原料炭5と流動ガスとが接触して原料炭5の流動賦活が行われる。
【0052】
先述のとおり、本実施形態の製造方法は、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを流動炉に導入することを特徴とする。そしてベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量が特定範囲にある炭素質材料を実現するにあたって、酸素含有ガスの導入位置が重要である。すなわち、流動ガスの流れ主方向Zにおけるガス分散部の上流端位置を0(m)、下流端位置をt1(m)とし(t1>0である。)、酸素含有ガスを導入する位置をt2(m)としたとき、0.5t1≦t2の関係を満たすことが好ましい。0.5t1>t2の場合、ベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量が特定範囲にある本実施形態に係る炭素質材料を実現することは困難である。好ましくは0.7t1≦t2、より好ましくは0.8t1≦t2、0.9t1≦t2、又はt1≦t2、特に好ましくはt1<t2、1.2t1≦t2、1.4t1≦t2、又は1.5t1≦t2である。t2の上限は、酸素含有ガスが流動賦活中の原料炭と接触し得る限り特に限定されず、炉天井までの任意の位置とし得るが、方向Zでみて流動床部20の高さ(厚さ)をT(m)とした場合(すなわち、T=(炉天井高さ-t1))、t2≦0.8T、t2≦0.7T、t2≦0.6T、又はt2≦0.5Tであることが好ましい。なお、酸素含有ガスの導入位置t2とは、方向Zでみて酸素含有ガス入口2が幅(厚さ)を有する場合、その幅(厚さ)の中心位置を指す。
【0053】
図2に、図1記載の流動炉を用いて原料炭を流動賦活する様子を表す模式図を示す。図2において、図1と同じ符号で表した部材・部分は図1と同じ部材・部分を表す。
【0054】
図2において、炉床から流動ガス7が、炉側部から酸素含有ガス8がそれぞれ流動炉100に導入される。流動ガス7は、ガス分散層4からなるガス分散部10を通過して、流動床部20において原料炭と接触し原料炭の流動賦活に供される。また、酸素含有ガス8(詳細には、ガス中の酸素)は、流動賦活中の原料炭6と接触し原料炭の局所的な賦活に供される。このような酸素含有ガスによる原料炭の局所的な賦活によりミクロ孔を保ったまま局所的にメソ孔を発達させることが可能となり、その結果、ベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量が特定範囲にある炭素質材料が有利に製造されると推察される。
【0055】
原料炭の賦活の条件は、流動ガスとは別に酸素含有ガスを導入する点を除いて、従来公知の条件を採用してよい。例えば、賦活時の温度は700~1000℃(好ましくは800~1000℃、さらに好ましくは850~950℃)であってよく、賦活の時間は所期のベンゼン吸着量(所期の賦活の進行度合い)が達成される任意の時間としてよい。
【0056】
本実施形態の製造方法では、流動ガスとは別に導入した酸素含有ガスの作用によって、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔細孔容積が特定範囲にある所期の炭素質材料を製造できることは先述のとおりである。ここで、流動ガス中の水蒸気や二酸化炭素による原料炭の賦活が吸熱反応であるのに対し、酸素含有ガス中の酸素による原料炭の賦活は急激な発熱反応である。したがって、流動賦活中の原料炭に酸素含有ガスを接触させる本実施形態の製造方法では、原料炭の賦活を維持するのに必要となる外部からの熱供給を減少させることができ、エネルギーバランスの観点からも、極めて有利である。
【0057】
原料炭の賦活に供された後、流動ガス7と酸素含有ガス8は、ガス出口より炉外に排出される(図2における排出ガス9)。排出ガスの一部または全部を循環したり、熱交換したりすることより、排出ガスの熱エネルギーを再利用してもよい。
【0058】
図1及び図2には、流動ガス入口1、酸素含有ガス入口2、ガス出口3をそれぞれ1つ備えた流動炉を示したが、図1及び図2は模式図にすぎず、流動炉は、流動ガス入口1、酸素含有ガス入口2、ガス出口3をそれぞれ複数備えてもよい。酸素含有ガス入口2を複数備える場合、流動ガスの流れ主方向Zでみて、互いに同じ位置(高さ)に配置してもよく、異なる位置(高さ)に配置してもよい。
【0059】
賦活後の炭素質材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属などの不純物を含むヤシ殻などの植物系の炭素質前駆体や鉱物系の炭素質前駆体を用いた場合、灰分や薬剤を除去するために洗浄する。したがって一実施形態において、本発明の製造方法は、賦活後の炭素質材料を洗浄する工程を含んでもよい。その場合、洗浄には鉱酸や水が用いられ、鉱酸としては洗浄効率の高い塩酸が好ましい。塩酸等の鉱酸を用いて炭素質材料を洗浄(酸洗)する場合には、酸洗後に水洗等を行い、脱酸処理をすることが好ましい。
【0060】
洗浄の後、得られた炭素質材料に対して乾燥、必要に応じて粉砕・篩分を実施して、炭素質材料の製品を得ることができる。
【0061】
[浄水用フィルター]
炭素質材料を用いて浄水用フィルターを製造することができる。以下に、好適な実施形態に係る浄水用フィルターを説明する。
【0062】
好適な一実施形態において、浄水用フィルターは、上述したような本実施形態に係る炭素質材料と繊維状バインダーを含む。
【0063】
繊維状バインダーは、フィブリル化させることによって、炭素質材料を絡めて賦形できるものであれば、特に限定されず、合成品、天然品を問わず幅広く使用可能である。このような繊維状バインダーとしては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、パルプなどが挙げられる。繊維状バインダーの繊維長は4mm以下であることが好ましい。
【0064】
繊維状バインダーは2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に好ましくは、ポリアクリロニトリル繊維又はパルプをバインダーとして使用することである。それにより、成型体密度及び成型体強度をさらに上げ、性能低下を抑制することができる。
【0065】
好適な一実施形態において、繊維状バインダーの通水性は、CSF値で10~150mL程度である。本実施形態において、CSF値はJIS P8121「パルプの濾水度試験方法」カナダ標準ろ水度法に準じて測定した値である。また、CSF値は、例えば繊維状バインダーをフィブリル化させることによって調整できる。繊維状バインダーのCSF値が10mL未満となると、通水性が得られず、成型体の強度が低くなり、圧力損失も高くなるおそれがある。一方で、前記CSF値が150mLを超える場合は、粉末状の活性炭を十分に保持することができず、成型体の強度が低くなる上、吸着性能に劣る可能性がある。
【0066】
浄水用フィルターは、除去対象物質の除去性能、成型性などの点から、炭素質材料100質量部に対して、繊維状バインダーを好ましくは4~10質量部、より好ましくは4.5~6質量部含む。したがって、好適な一実施形態において、浄水用フィルターは、本実施形態に係る炭素質材料と繊維状バインダーを含み、繊維状バインダーのCSF値が10~150mLであり、炭素質材料100質量部に対して、繊維状バインダーを4~10質量部含む。なお、浄水用フィルターが、後述する他の機能性成分を含む場合、フィルター組成についていう「炭素質材料100質量部に対して」は「炭素質材料と他の機能性成分の合計100質量部に対して」と読み替えて適用すればよい。
【0067】
浄水用フィルターは、本発明の効果が阻害されない限りにおいて、他の機能性成分を含んでもよい。他の機能性成分としては、例えば、溶解性鉛を吸着除去できるチタノシリケートやゼオライト系粉末などの鉛吸着材やイオン交換樹脂又はキレート樹脂、あるいは抗菌性を付与するために銀イオン及び/又は銀化合物を含んだ各種吸着材などが挙げられる。
【0068】
本実施形態に係る浄水用フィルターは、本実施形態に係る炭素質材料を含むことから、PFASを効率よく除去することが可能である。通水条件は特に限定されないが、圧力損失が極度に大きくならないように300~6500/hrの空間速度(SV)で実施される。原水及び透過水中の除去対象物質の濃度から計算される各除去率と、通水開始から流した水量(L)と浄水カートリッジの容積(mL)の比(累積透過水量L/mL)との関係をプロットすることにより、浄水用フィルターの性能を確認することができる。
【0069】
[浄水器]
炭素質材料又は浄水用フィルターを用いて浄水器を製造することができる。好適な実施形態において、浄水器は、上述したような本実施形態に係る炭素質材料又は浄水用フィルターを含む。
【0070】
好適な一実施形態において、浄水器は浄水用カートリッジを備え、その浄水用カートリッジが、本実施形態に係る炭素質材料又は浄水用フィルターを用いて構成される。例えば、本実施形態に係る炭素質材料をハウジングに充填して浄水用カートリッジを構成してもよく、また、本実施形態に係る浄水用フィルターをハウジングに充填して浄水用カートリッジを構成してもよい。浄水用カートリッジは、本実施形態に係る炭素質材料又は浄水用フィルターに加えて、公知の不織布フィルター、各種吸着材、ミネラル添加材、セラミック濾過材、中空糸膜などを組合せて含んでもよい。
【0071】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0072】
すなわち、本発明の一局面に関する炭素質材料は、ベンゼン吸着量が30~60%であり、ビタミンB12吸着量が50.0mg/g超であり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.13~0.30cm/gであることを特徴とする。
【0073】
このような構成により、PFAS(PFOS、PFOA等)除去性能の高い、浄水器用途にも使用可能な炭素質材料を提供することができる。
【0074】
さらに、前記炭素質材料において、窒素吸着等温線からBET法で算出した比表面積が1200~2000m/gであることが好ましい。このような構成により、浄水器に求められる吸着除去性能を高いレベルで実現することができると考えられる。
【0075】
さらに、前記炭素質材料において、窒素吸着等温線から算出した平均細孔径が1.85~1.90nmであることが好ましい。それにより、PFASをより一層効率よく除去できると考えられる。
【0076】
さらに、前記炭素質材料において、荷重12kNにおける粉体抵抗測定による導電率が3~9S/cmであることが好ましい。それにより、浄水器に求められる吸着除去性能を高いレベルで実現できると考えられる。
【0077】
また、前記炭素質材料が植物系の炭素質前駆体に由来することが好ましい。それにより、家庭用品品質表示法で規定される除去対象物質の吸着性能に優れる炭素質材料としやすいと考えられる。さらに、前記植物系の炭素質前駆体がヤシ殻であることが好ましく、それによりPFASをより一層効率よく除去し得る炭素質材料を実現できると考えられる。
【0078】
さらに、前記炭素質材料は、以下の測定条件により得られる含フッ素有機化合物の除去性能がBed Volumeで12000以上であることが好ましい。
測定条件:炭素質材料を充填した直径6.2mm、高さ25.4mm、内容積0.77mLのステンレス製カラムに、PFOA濃度50±10ppt、PFOS濃度50±10pptに調整した水(TOC1.2ppmを含有)を試験水として用い、7.2mL/分、空間速度(SV)=560hr-1の条件にて、アップフローで通水し除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる、通水開始時から破過点までの通水量(Bed Volume)を除去性能とする。それにより、上述したような効果をより確実に得ることができると考えられる。
【0079】
本発明の他の局面に関する炭素質材料の製造方法は、流動炉を用いることと、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度が0.004~1容量%となるように流動炉に導入することを特徴とする。このような構成により、上述したような優れた炭素質材料を得ることができる。
【0080】
また、前記製造方法において、前記炉床から導入する流動ガス中の水蒸気濃度が10~40容量%であることが好ましい。それにより、原料炭を効率よく賦活し得ると考えられる。
【0081】
さらに、前記製造方法において、前記流動炉が、流動ガスの流れ主方向Zでみて流動炉内の上流側にガス分散部を備えており、前記方向Zにおけるガス分散部の上流端位置を0(m)、下流端位置をt1(m)とし、酸素含有ガスを導入する位置をt2(m)としたとき、0.5t1≦t2の関係を満たすように、前記酸素含有ガスを導入することが好ましい。それにより、上述したような優れた炭素質材料をより確実に得ることができると考えられる。
【0082】
本発明のさらに他の局面に関する浄水用フィルターは、上述したような炭素質材料と繊維状バインダーを含むこと、繊維状バインダーのCSF値が10~150mLであること、及び、炭素質材料100質量部に対して、繊維状バインダーを4~10質量部含むことを特徴とする。また、本発明には、上述したような炭素質材料を含む浄水器、上述したような炭素質材料からなる含フッ素有機化合物除去材、並びに、前記浄水用フィルターを含む浄水器も包含される。
【実施例
【0083】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0084】
<評価方法>
実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。
【0085】
[ベンゼン吸着量の測定]
実施例及び比較例で調製した炭素質材料を、115℃の恒温乾燥器中で3時間乾燥した後、乾燥剤としてシリカゲルを使用したデシケーター中で室温まで放冷した。次いで、20℃の恒温槽内において、炭素質材料に、飽和濃度の1/10の濃度のベンゼンを含む乾燥空気を通した。吸着平衡に達した炭素質材料の質量と、吸着前の炭素質材料の質量(すなわち、乾燥・放冷後の炭素質材料の質量)から、次の式(1)に従いベンゼン吸着量(質量%)を求めた。
[式(1)]
ベンゼン吸着量(質量%)=[{(ベンゼン吸着後の試料質量)-(ベンゼン吸着前の試料質量)}/(ベンゼン吸着前の試料質量)]×100
【0086】
[ビタミンB12吸着量の測定]
実施例及び比較例で調製した炭素質材料を、炭素質材料の体積基準の累積分布の50%粒子径(D50)が9~11μm程度になるように粉砕し、115℃の恒温乾燥器中で3時間乾燥した後、乾燥剤としてシリカゲルを使用したデシケーター中で室温まで放冷した。なお、粉砕した炭素質材料の粒径はレーザー回折測定法により測定した。すなわち、測定対象である炭素質材料を界面活性剤と共にイオン交換水中に入れ、超音波振動を与え均一分散液を作製し、マイクロトラック・ベル(株)製のMicrotrac MT3200を用いて測定した。界面活性剤には、富士フイルム和光純薬(株)製の「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用いた。分析条件を以下に示す。
【0087】
(分析条件)
測定回数:1回
測定時間:30秒
分布表示:体積
粒径区分:標準計算モード:MT3000
溶媒名:WATER
測定上限:1408μm、測定下限:0.265μm
残分比:0.00
通過分比:0.00
残分比設定:無効
粒子透過性:透過
粒子屈折率:1.81
粒子形状:非球形
溶媒屈折率:1.333DV値:0.0100~0.0500
透過率(TR):0.750~0.920
流速:50%
【0088】
得られた炭素質材料0.050gに、約300ppmに調整したビタミンB12(C63H88N14O14PCo:分子量1355.4)水溶液100mLを加え、25℃で24時間撹拌した。その後、炭素質材料をろ過したろ液と、吸着試験に用いた約300ppmのビタミンB12試験水について、330nmにおける吸光度を測定し、予め作成しておいた検量線に基づいてビタミンB12の濃度を算出した。得られたビタミンB12の濃度から、以下の式(2)によって炭素質材料1gあたりのビタミンB12の吸着量を算出した。
[式(2)]
ビタミンB12吸着量(mg/g)={吸着前のビタミンB12濃度(ppm)-吸着処理後のビタミンB12濃度(ppm)}×0.1/炭素質材料の質量(g)
【0089】
[窒素吸着等温線の測定]
マイクロトラック・ベル(株)製のBELSORP-miniを使用し、炭素質材料を窒素気流下(窒素流量:50mL/分)にて300℃で3時間加熱した後、77Kにおける炭素質材料の窒素吸脱着等温線を測定した。
【0090】
[比表面積の測定]
上記方法により得られた窒素吸着等温線からBET式により多点法による解析を行い、得られた曲線の相対圧P/P0=0.01~0.1の領域での直線から比表面積を算出した。
【0091】
[全細孔容積・平均細孔径の測定]
上記方法により得られた窒素吸着等温線における相対圧P/P0=0.99での窒素吸着量からGurvish法により全細孔容積を算出した。平均細孔径に関しては、全細孔容積及び先に記載したBET法から求めた比表面積より、以下の式(3)に基づいて算出した。
[式(3)]
平均細孔径(nm)=全細孔容積(cm/g)/比表面積(m/g)×4000
【0092】
[BJH法によるメソ孔細孔容積の測定]
上記方法により得られた窒素吸着等温線に対し、BJH法を適用し、メソ孔の細孔容積を算出した。なお、BJH法での解析にあたってはマイクロトラック・ベル(株)から提供された基準曲線『NGCB-BEL.t』を用いた。
【0093】
[導電率の測定]
粉体抵抗率測定ユニット((株)三菱ケミカルアナリテック製、MCP-PD51)を使用し、炭素質材料の導電率を測定した。導電率の測定には、測定試料の粒径が大きく影響するため、炭素質材料の体積基準の累積分布の50%粒子径(D50)が5~8μm程度になるように粉砕し、荷重を12kNかけた際の炭素質材料ペレットの導電率を測定した。なお、粉砕した炭素質材料の粒径はレーザー回折測定法により測定した。炭素質材料の粒径の測定手順・分析条件は、先の[ビタミンB12吸着量の測定]において記載したとおりである。
【0094】
<実施例1>
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を30mesh(0.5mm)から60mesh(0.25mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭1kgを900℃に加熱した流動賦活炉に投入し、炉床から水蒸気15容量%、二酸化炭素11容量%の流動ガス50L/分、炉側部から酸素0.5容量%、窒素99.5容量%の酸素含有ガス5L/分を導入し、ベンゼン吸着量が約53.3重量%となるまで賦活処理を行った(流動賦活炉に導入する合計ガス中の酸素濃度は約0.045容量%)。流動賦活炉には、流動ガスの流れ主方向Zでみて炉内の上流側にガス分散層を備える炉を用いた。また、方向Zにおける酸素含有ガスの導入位置t2とガス分散層の下流端t1とはt1<t2の関係を満たした。すなわち、酸素含有ガスは流動賦活炉の流動床部に導入した。
【0095】
得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。
【0096】
<実施例2>
賦活処理時に導入する酸素含有ガスの濃度を、酸素1.0容量%、窒素99.0容量%に変更し、ベンゼン吸着量が45.7重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。
【0097】
<実施例3>
賦活処理時に導入する酸素含有ガスの濃度を、酸素3.0容量%、窒素97.0容量%に変更し、ベンゼン吸着量が52.6重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0098】
<比較例1>
ベンゼン吸着量が約34.4重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0099】
<比較例2>
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を30mesh(0.5mm)から60mesh(0.25mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭5gを内径42mmの石英管をセットした横型電気管状炉に投入した。酸素0.5容量%、窒素99.5%のガス1L/minで水をバブリングすることで、水蒸気を炉内に導入し、900℃に加熱して、ベンゼン吸着量が32.3重量%となるまで賦活処理を行った。得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0100】
<比較例3>
賦活処理時に導入する酸素含有ガスの濃度を、酸素0.1容量%、窒素99.9容量%に変更し、ベンゼン吸着量が46.6重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。
【0101】
<比較例4>
賦活処理時に導入する酸素含有ガスの濃度を、酸素10.0容量%、窒素90.0容量%に変更し、ベンゼン吸着量が53.0重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。
【0102】
<比較例5>
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を10mesh(1.7mm)から30mesh(0.5mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭1kgを900℃に加熱したロータリーキルンに投入し、水蒸気15容量%、二酸化炭素11容量%の賦活ガス10L/分と酸素0.5容量%、窒素99.5容量%の追加ガス1L/分を導入し、ベンゼン吸着量が約62.3重量%となるまで賦活処理を行った。
【0103】
得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0104】
<比較例6>
塩化カルシウム0.28gとクエン酸0.96gを18.8mLのイオン交換水に溶解した水溶液に、Evoqua社製粒状活性炭AquaCarb1240C 10gを浸漬し、12時間静置した。その後、吸引ろ過により水溶液を取り除き、得られたカルシウム/クエン酸含浸活性炭の約半量をWet状態のまま、アルミナボートに投入したものを、内径42mmの石英管をセットした横型電気管状炉に投入した。酸素0.5容量%、窒素99.5%のガス1L/minで水をバブリングすることで、水蒸気を炉内に導入し、900℃に加熱して、にてベンゼン吸着量が56.0重量%になるまで賦活処理を行った。
【0105】
得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0106】
<比較例7>
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を10mesh(1.7mm)から30mesh(0.5mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭1kgを900℃に加熱したロータリーキルンに投入し、水蒸気15容量%、二酸化炭素11容量%の賦活ガス10L/分と酸素0.5容量%、窒素99.5容量%の追加ガス1L/分を導入し、ベンゼン吸着量が約31.0 重量%となるまで賦活処理を行った。
得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
[炭素質材料のろ過能力評価]
実施例1~3及び比較例1~7で調製した炭素質材料を直径6.2mm、高さ25.4mm、内容積0.77mLのステンレス製カラムに充填し、ASTM D6586-03(2014)に規定されたthe Prediction Of Contaminant Adsorption On GAC In Aqueous Systems Using Rapid Small-Scale Column Testsに準拠して、下記に示す手順に従い、PFOA+PFOSのろ過能力試験を実施した。なお、本試験に用いた炭素質材料については、120mesh(125μm)~200mesh(74μm)に粒度調製した後に本試験を実施した。
【0109】
[PFOA+PFOSろ過能力試験]
PFOA濃度50±10ppt、PFOS濃度50±10pptに調整した水(TOC1.2ppmを含有)を試験水に用い、7.2mL/分、空間速度(SV)=560hr-1の条件にて、アップフローで通水し、除去率80%を下回った点を破過点として、ろ過能力試験を実施した。本試験では、ろ過能力が12000(Bed Volumes)以上であるものを合格とした。通水試験条件及び結果を表2及び図3に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
(考察)
表2及び図3の結果から明らかなように、本発明に関する実施例の炭素質材料はいずれも、浄水器用途として使用でき、優れたPFAS除去能を有することが確認できた。特に、平均細孔径が1.85nm以上の実施例1および3では、より優れた除去能を示すこともわかった。
【0112】
これに対し、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔細孔容積の少なくともいずれかが本発明の規定を満たしていない比較例1~7では、PFASを十分に除去できなかった。とりわけ、ビタミンB12吸着量及びメソ孔細孔容積のいずれも本発明の規定を満たしていない比較例2及び比較例7では、通水開始の時点から除去率が80%を大きく下回っており、PFAS除去能は0を示した。
【0113】
この出願は、2020年10月23日に出願された日本国特許出願特願2020-177898を基礎とするものであり、その内容は、本発明に含まれるものである。
【0114】
本発明を表現するために、前述において具体的な実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の炭素質材料は特に含フッ素有機化合物の除去に有用である。よって、本発明は、浄水用フィルター、浄水器等の浄水技術において幅広い産業上の利用可能性を有する。
【要約】
本発明の一局面は、ベンゼン吸着量が30~60%であり、ビタミンB12吸着量が50.0mg/g超であり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.13~0.30cm/gである、炭素質材料に関する。
図1
図2
図3