(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220420BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220420BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20220420BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/1391
H01M4/36 B
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2019521303
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018020988
(87)【国際公開番号】W WO2018221664
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2017108035
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】漁師 一臣
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良広
(72)【発明者】
【氏名】大下 寛子
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513392(JP,A)
【文献】特開2009-146739(JP,A)
【文献】特開平09-115515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Li
aNi
1-x-yCo
xM
yO
2+α(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0.95≦a≦1.10、0≦α≦0.2、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物と、ホウ素化合物とを含む正極活物質であって、
前記ホウ素化合物の少なくとも一部は、Li
3BO
3およびLiBO
2の形態で、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在し、Li
3BO
3とLiBO
2との質量比(Li
3BO
3/LiBO
2)が0.005以上10以下であり、
ホウ素が、正極活物質全量に対して0.011質量%以上0.6質量%以下含まれる、非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
ニッケル複合水酸化物又はニッケル複合酸化物と、リチウム化合物と、リチウムと反応可能な第1のホウ素化合物とを、前記第1のホウ素化合物中のホウ素量Aが正極活物質全量に対して、0.001質量%以上0.1質量%以下となるように、混合して、リチウム混合物を得ることと、
リチウム混合物を酸素雰囲気中にて700℃以上800℃以下で焼成して第1のリチウムニッケル複合酸化物を得ることと、
第1のリチウムニッケル複合酸化物と、リチウムと反応可能な第2のホウ素化合物とを、第2のホウ素化合物中のホウ素量Bが正極活物質全量に対して0.01質量%以上0.5質量%以下となるように、かつ、前記第1のホウ素化合物のホウ素量Aと前記第2のホウ素化合物のホウ素量Bとの比(A/B)が0.005以上10以下となるように、混合して、第2のリチウムニッケル複合酸化物を得ることと、を備え、
前記第1
のホウ素化合物、及び、前記第2のホウ素化合物は、同一、または、異なる化合物であり、
前記第2のリチウムニッケル複合酸化物は、一般式Li
aNi
1-x-yCo
xM
yO
2+α(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0.95≦a≦1.10、0≦α≦0.2、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、かつ、その表面にLi
3BO
3およびLiBO
2が存在する、
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記第1のホウ素化合物がH
3BO
3、B
2O
3及びLiBO
2のうちの少なくとも一つを含む、請求項2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記第2のホウ素化合物がH
3BO
3及びB
2O
3のうちの一方又は両方を含む、請求項2又は請求項3に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池用正極合材ペースト。
【請求項6】
正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極は、請求項1に記載の正極活物質を含む非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリッド自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池については、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0004】
このうちリチウムコバルト複合酸化物を用いた電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発はこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に高価なコバルト化合物を用いるため、このリチウムコバルト複合酸化物を用いる電池の容量あたりの単価は、ニッケル水素電池より大幅に高くなり、適用可能な用途はかなり限定されている。したがって、携帯機器用の小型二次電池についてだけではなく、電力貯蔵用や電気自動車用などの大型二次電池についても、正極活物質のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることに対する期待は大きく、その実現は、工業的に大きな意義があるといえる。
【0005】
リチウムイオン二次電池用活物質の新たなる材料としては、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる、このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、特に電気自動車向けとして開発が盛んに行われている。しかし、特許文献1などに挙げられるリチウムニッケル複合酸化物を用いて作製した電池を搭載した電気自動車においても、ガソリン車に匹敵する航続距離を実現することは困難であり、更なる高容量化が求められていた。
【0006】
さらに、リチウムニッケル複合酸化物の欠点として、正極合材ペーストのゲル化が起こりやすいことが挙げられる。非水系電解質二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーや、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶剤とを混合して正極合材ペーストにし、アルミ箔などの集電体に塗布することで形成される。このとき、正極合材ペースト中の正極活物質からリチウムが遊離した場合、バインダーなどに含まれる水分と反応し水酸化リチウムが生成することがある。この生成した水酸化リチウムとバインダーとが反応し、正極合材ペーストがゲル化を起こすと考えられる。正極合材ペーストのゲル化は、操作性の悪さ、歩留まりの悪化を招く。この傾向は、正極活物質におけるリチウムが化学量論比よりも過剰で、且つニッケルの割合が高い場合に顕著となる。
【0007】
正極合材ペーストのゲル化を抑制する試みがいくつかなされている。例えば、特許文献2には、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と、酸性酸化物粒子からなる添加粒子とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。この正極組成物は、バインダーに含まれる水分と正極活物質から遊離したリチウムとが反応して生成した水酸化リチウムが酸性酸化物と優先的に反応し、生成した水酸化リチウムとバインダーとの反応を抑制することにより、正極合材ペーストのゲル化を抑制するとしている。また、酸性酸化物は、正極内で導電剤としての役割を果たし、正極全体の抵抗を下げ、電池の出力特性向上に寄与するとしている。
【0008】
また、特許文献3には、リチウムイオン二次電池製造方法であって、正極活物質として、組成外にLiOHを含むリチウム遷移金属複合酸化物を用意すること;正極活物質1g当たりに含まれるLiOHのモル量Pを把握すること;LiOHのモル量Pに対して、LiOH1モル当たり、タングステン原子換算で0.05モル以上の酸化タングステンを用意すること;および、正極活物質と酸化タングステンとを、導電材および結着剤とともに有機溶媒で混練して正極ペーストを調製することを包含する、リチウムイオン二次電池製造方法が提案されている。
【0009】
また、特許文献4には、リチウム遷移金属複合酸化物等を用いた電極中に、無機酸としてホウ酸等を含有させ、電極ペーストのゲル化を防止する技術が開示されている。リチウム遷移金属複合酸化物の具体例として、ニッケル酸リチウムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平05-242891号公報
【文献】特開2012-28313号公報
【文献】特開2013-84395号公報
【文献】特開平10-79244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の正極活物質を用いた場合でも、電気自動車向けの二次電池として十分ではなく、さらなる高容量化が求められている。また、特許文献2の提案では、酸性酸化物の粒子が残留することによってセパレータの破損およびそれにともなう熱安定性の低下のおそれがある。また、正極合材ペーストのゲル化の抑制が十分であるとはいえない。さらに、酸性酸化物の添加量を増やすことでゲル化の抑制を向上させることができるが、酸性酸化物を添加することによる原料費の増加や、酸性酸化物を添加したことによる重量の増加により単位質量当たりの電池容量が劣化する。
【0012】
また、特許文献3の提案においても、酸性酸化物の残留によるセパレータの破損、さらには、ゲル化の抑制に関する問題点が解消されているとはいえない。また、充放電に寄与しない重元素であるタングステンを添加することにより、重量当たりの電池容量低下が大きい。
【0013】
また、特許文献4の提案においては、ホウ酸などを添加した溶媒中に正極活物質、導電剤、および結着剤を加えて撹拌混合しているが、この方法では正極活物質が十分に分散するまでに局所的にゲル化を生じるおそれがある。
【0014】
本発明の目的はこの問題に鑑みて、正極活物質に用いられた場合に高い電池容量を有し、かつ、正極合材ペーストのゲル化を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられているリチウム金属複合酸化物およびその製造方法に関して鋭意研究を重ねた結果、リチウムニッケル複合酸化物の表面に二種類のホウ素化合物を特定の含有割合で存在させることにより、電池容量が向上され、かつ、正極合材ペーストのゲル化が抑制できる正極活物質が得られるとの知見を得て、本発明を完成させた。
【0016】
本発明の第1の態様では、一般式:LiaNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0.95≦a≦1.10、0≦α≦0.2、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物と、ホウ素化合物とを含む正極活物質であって、ホウ素化合物の少なくとも一部は、Li3BO3およびLiBO2の形態で、リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在し、Li3BO3とLiBO2との質量比(Li3BO3/LiBO2)が0.005以上10以下であり、ホウ素が、正極活物質全量に対して0.011質量%以上0.6質量%以下含まれる、非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
【0017】
本発明の第2の態様では、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、ニッケル複合水酸化物又はニッケル複合酸化物と、リチウム化合物と、リチウムと反応可能な第1のホウ素化合物とを、第1のホウ素化合物中のホウ素量Aが正極活物質全量に対して、0.001質量%以上0.1質量%以下となるように、混合して、リチウム混合物を得ることと、リチウム混合物を酸素雰囲気中にて700℃以上800℃以下で焼成して第1のリチウムニッケル複合酸化物を得ることと、第1のリチウムニッケル複合酸化物と、リチウムと反応可能な第2のホウ素化合物とを、第2のホウ素化合物中のホウ素量Bが正極活物質全量に対して0.01質量%以上0.5質量%以下となるように、かつ、第1のホウ素化合物のホウ素量Aと第2のホウ素化合物のホウ素量Bとの比(A/B)が0.005以上10以下となるように、混合して、第2のリチウムニッケル複合酸化物を得ることと、を備え、第1ホウ素化合物、及び、第2のホウ素化合物は、同一、または、異なる化合物であり、第2のリチウムニッケル複合酸化物は、一般式LiaNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0.95≦a≦1.10、0≦α≦0.2、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、かつ、その表面にLi3BO3およびLiBO2が存在する、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0018】
また、第1のホウ素化合物がH3BO3、B2O3及びLiBO2のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。また、第2のホウ素化合物がH3BO3及びB2O3のうちの一方又は両方を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の第3の態様では、非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストが提供される。
【0020】
本発明の第4の態様では、正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、正極は、上記正極活物質を含む非水系電解質二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、二次電池の正極材に用いられた場合に高い電池容量を有し、かつ、正極合材ペーストのゲル化を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。さらに、その製造方法は、容易で工業的規模での生産に適したものであり、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一例を示した図である。
【
図2】
図2は、電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、正極合材ペースト、及び、非水系電解質二次電池について説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0024】
1.非水系電解質二次電池用正極活物質
本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)は、一般式(1):LiaNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0.95≦a≦1.10、0≦α≦0.2、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物と、ホウ素化合物とを含む。ホウ素化合物とは、ホウ素を含む化合物をいう。なお、各元素の含有量は、ICP発光分光法により測定することができる。
【0025】
上記一般式(1)中、コバルト(Co)の含有量を示すxは、0.01≦x≦0.35であり、正極活物質を用いた二次電池の電池容量(充放電容量)をより向上させるという観点から、好ましくは0.01≦x≦0.20である。また、xは、0.05≦x≦0.35であってもよく、0.05≦x≦0.20であってもよい。
【0026】
上記一般式(1)中、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である。Mは、添加元素であり、要求される特性に応じて複数元素から選択できる。Mは、例えば、Alを含むことができる。また、Mの含有量を示すyは、0≦y≦0.10であり、正極活物質を用いた二次電池の電池容量(充放電容量)をより向上させるという観点から、好ましくは0≦y≦0.07であり、より好ましくは0≦y≦0.05である。
【0027】
上記一般式(1)中、ニッケル(Ni)の含有量を示す(1-x-y)は、0.55≦(1-x-y)≦0.95であり、正極活物質を用いた二次電池の電池容量をより向上させるという観点から、好ましくは0.6≦(1-x-y)≦0.95であり、さらに好ましくは0.65≦(1-x-y)≦0.95である。
【0028】
上記一般式(1)中、リチウム(Li)の含有量を示すaの範囲は、0.95≦a≦1.10である。例えば、上記一般式(1)中、リチウム(Li)の含有量を示すaが1<aである場合や、ニッケル(Ni)の含有量が高い場合、正極合材ペーストのゲル化がより生じやすい傾向がある。しかしながら、本実施形態の正極活物質は、特定のホウ素化合物を特定の割合で含むことにより、ゲル化の生じやすい組成であっても、正極合材ペーストのゲル化を抑制し、かつ、高い電池容量を有することができる。
【0029】
ホウ素化合物の少なくとも一部は、Li3BO3およびLiBO2の形態で、リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在する。実施形態に係る正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の表面に、Li3BO3およびLiBO2で示される2種類のリチウムホウ素化合物が存在することにより、二次電池の正極に用いた際、高い電池容量を有し、かつ、正極合材ペーストのゲル化を抑制できる。なお、ホウ素化合物の存在形態は、XRD回折により、確認することができる。本実施形態の正極活物質は、例えば、XRD回折により、Li3BO3およびLiBO2からなるホウ素化合物が検出される。
【0030】
正極活物質中、Li3BO3とLiBO2の質量比(Li3BO3/LiBO2)は、0.005以上10以下であり、好ましくは0.01以上5以下である。質量比(Li3BO3/LiBO2)が0.005未満である場合、後述する正極活物質の製造工程において、第1のリチウムニッケル複合酸化物に、第2のホウ素化合物を多量に添加することが必要となり、リチウムニッケル複合酸化物の結晶内部のリチウムが容易に第2のホウ素化合物中のホウ素と反応して減少し、電池容量が低下することがある。一方、質量比(Li3BO3/LiBO2)が、10を上回る場合は、後述する正極活物質の製造工程において、第1のホウ素化合物あるいは第2のホウ素化合物の添加量が好適な範囲を超えるため、電池特性が低下することがある。なお、質量比(Li3BO3/LiBO2)は、化学分析により求めたLiとBの比により算出することができる。
【0031】
また、正極活物質は、電池容量とゲル化抑制とをより高いレベルで両立させるという観点から、質量比(Li3BO3/LiBO2)が、0.05以上2以下であることが好ましく、0.05以上1以下であることがさらに好ましい。
【0032】
本実施形態の正極活物質は、ホウ素を、正極活物質全量に対して0.011質量%以上0.6質量%以下含有する。正極活物質に含まれるホウ素が、正極活物質全量に対して、0.011質量%を下回ると、上記の放電容量向上効果とゲル化抑制効果の両立が困難である。0.6質量%を超える場合、リチウムニッケル複合酸化物表面に多量のLi3BO3およびLiBO2が生成して抵抗が増大し、電池容量が低下するため好ましくない。
【0033】
また、正極活物質は、電池容量とゲル化抑制とをより高いレベルで両立させるという観点から、ホウ素を正極活物質全量に対して0.05質量%以上含むことが好ましく、0.055質量%以上含むことが好ましく、0.1質量%以上含むことがより好ましい。
【0034】
2.正極活物質の製造方法
図1は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質の製造方法」ともいう。)の製造方法の一例を示した図である。以下、
図1を参照して、本実施形態に係る正極活物質の製造方法について説明する。この正極活物質の製造方法により、上述したようなリチウムニッケル複合酸化物とホウ素化合物とを含む正極活物質を工業的規模で生産性よく得ることができる。
【0035】
本実施形態の製造方法は、ニッケル複合水酸化物又はニッケル複合酸化物と、リチウム化合物と、第1のホウ素化合物とを混合してリチウム混合物を得ること(ステップS10)と、得られたリチウム混合物を酸素雰囲気中にて700℃以上800℃以下で焼成して第1のリチウムニッケル複合酸化物を得ること(ステップS20)と、得られた第1のリチウムニッケル複合酸化物と、第2のホウ素化合物とを混合して第2のリチウムニッケル複合酸化物を得ること(ステップS30)と、を備える。得られた第2のリチウムニッケル複合酸化物の表面には、Li3BO3およびLiBO2が存在する。
【0036】
まず、ニッケル複合水酸化物又はニッケル複合酸化物と、リチウム化合物と、第1のホウ素化合物とを混合してリチウム混合物を得る(ステップS10)。
【0037】
第1のホウ素化合物としては、リチウムと反応可能なホウ素化合物を用いることができ、例えば、酸化ホウ素(B2O3)、ホウ酸(H3BO3)、四ホウ酸アンモニウム四水和物((NH4)2B4O7・4H2O)、五ホウ酸アンモニウム八水和物((NH4)2O・5B2O3・8H2O)、LiBO2などが挙げられる。これらの中でも、H3BO3、B2O3及びLiBO2から選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましく、H3BO3、及びB2O3の少なくとも一つを用いることがより好ましい。これらのホウ素化合物は、リチウム塩との反応性が高く、後述する焼成工程(ステップS20)後は、原料として用いたリチウム化合物に由来するリチウムと反応して、主に、Li3BO3を形成すると考えられる。なお、正極活物質の結晶中に含まれるリチウム量を減少させないために、混合工程(ステップS10)において、リチウムニッケル複合酸化物の形成に寄与するリチウム化合物以外に、添加した第1のホウ素化合物中のホウ素がLi3BO3を十分に生成できる量のリチウムを含むリチウム塩を同時に添加してもよい。
【0038】
第1のホウ素化合物は、第1のホウ素化合物中のホウ素量Aが正極活物質全量に対して好ましくは0.001質量%以上0.1質量%以下、より好ましくは0.003質量%以上0.08質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.08質量%以下となるように混合される。ホウ素量Aが上記範囲である場合、得られる正極活物質を二次電池に用いた際、電池容量(放電容量)を向上させることができる。ホウ素量Aが0.001質量%未満の場合、後述するフラックス効果が不十分となり、電池容量を向上させる効果は発現しない。一方、混合するホウ素量Aが0.08質量%を超える場合、得られる正極活物質において、Li3BO3が多量に生成し、抵抗の原因となって容量が低下するため好ましくない。
【0039】
第1のホウ素化合物のホウ素量Aを上記範囲で混合し、得られたリチウム混合物を焼成(ステップS20)した場合、第1のホウ素化合物に由来するホウ素が、第1のリチウムニッケル複合酸化物の表面に存在するLiと反応して、Li3BO3を生成する。焼成工程(ステップS20)において、第1のリチウムニッケル複合酸化物の表面に形成されるLi3BO3は、第1のリチウムニッケル複合酸化物に対してフラックス効果を発揮し、結晶成長を促進することでリチウムニッケル複合酸化物の結晶構造をより完全なものとすることができると考えられる。本実施形態の正極活物質は、Li3BO3を含むことにより、二次電池の正極材料として用いた際、放電容量の向上効果が発現する。
【0040】
ニッケル複合水酸化物、又は、ニッケル複合酸化物としては、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、晶析法によって得られたニッケル複合水酸化物、及び/又は、このニッケル複合水酸化物を酸化焙焼(熱処理)して得られたニッケル複合酸化物を用いることができる。ニッケル複合水酸化物の製造方法としては、バッチ法または連続法のいずれも適用可能である。コスト及び充填性の観点からは、反応容器からオーバーフローしたニッケル複合水酸化物粒子を連続的に回収する連続法が好ましい。また、より均一性の高い粒子を得るという観点からは、バッチ法が好ましい。
【0041】
また、ニッケル複合水酸化物、又は、ニッケル複合酸化物は、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、元素Mの物質量比(モル比)が、Ni:Co:M=(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.10、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されてもよい。なお、ニッケル複合水酸化物、又は、ニッケル複合酸化物中の各元素のモル比は、得られる正極活物質中でも維持されるため、各元素のモル比の好ましい範囲は、上述した正極活物質における一般式(1)中の各元素の範囲と同様である。
【0042】
リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウムなどを用いることができ、これらの中でも水酸化リチウム、炭酸リチウムが好ましく、ホウ素化合物との反応性の観点から、水酸化リチウムがより好ましい。
【0043】
リチウム化合物は、リチウム以外の金属元素の原子数(Me)の合計に対するリチウム(Li)の原子数の比(Li/Me)が0.95以上1.10以下となる量で混合される。Li/Meが0.95未満である場合、得られた正極活物質を用いた二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。また、Li/Meが1.10を超える場合、得られた正極活物質の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。
【0044】
混合工程(ステップS10)において、第1のホウ素化合物と、ニッケル複合水酸化物及び/又はニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とは、これらを十分混合することが好ましい。混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができ、複合酸水化物粒子の形骸が破壊されない程度でリチウム化合物と十分に混合してやればよい。
【0045】
次いで、得られたリチウム混合物を、酸素雰囲気中、700℃以上800℃以下で焼成して、第1のリチウムニッケル複合酸化物を得る(ステップS20)。第1のホウ素化合物を含むリチウム混合物を焼成することで、第1のリチウムニッケル複合酸化物が生成すると同時に、その表面にLi3BO3を生成させることができる。
【0046】
焼成温度は700℃以上800℃以下が好ましく、720℃以上780℃以下であることがさらに好ましい。焼成温度が700℃よりも低い場合、第1のリチウムニッケル複合酸化物の結晶が十分に成長しない。焼成温度が800℃を超えると、第1のリチウムニッケル複合酸化物の分解が起こり、電池特性が低下するため好ましくない。
【0047】
焼成温度での保持時間は、例えば、5時間以上20時間以下、好ましくは5時間以上10時間以下程度である。また、焼成時の雰囲気は、酸素雰囲気であり、例えば、酸素濃度が100容量%の雰囲気とすることが好ましい。
【0048】
なお、混合工程(ステップS10)、及び、焼成工程(ステップS20)における各条件は、第1のホウ素化合物として添加したホウ素の大部分がLi3BO3を形成するように、上述の範囲内で適宜調整することができる。なお、本発明の効果を阻害しない範囲で、ホウ素の一部が、第1のリチウムニッケル複合酸化物内に固溶してもよい。
【0049】
なお、第1のリチウムニッケル複合酸化物の組成は、ホウ素を除いて、一般式(2):LiaNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0.95≦a≦1.10、0≦α≦0.2、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表すことができる。また、一般式中のMは、例えば、Alを含むことができる。第1のリチウムニッケル複合酸化物が上記組成を有する場合、より高い電池容量を有することができる。なお、第1のリチウムニッケル複合水酸化物の各元素のモル比は、得られる正極活物質中でも維持されるため、各元素のモル比の好ましい範囲は、上述した正極活物質における一般式(1)中の各元素の範囲と同様である。
【0050】
次いで、第1のリチウムニッケル複合酸化物と第2のホウ素化合物とを混合して、第2のリチウムニッケル複合酸化物を得る(ステップS30)。本工程では、第1のリチウムニッケル複合酸化物と第2のホウ素化合物とを乾式で混合することで、第1のリチウムニッケル複合酸化物中の余剰リチウムと第2のホウ素化合物とを反応させて、LiBO2を形成させる。これにより、工業的規模でより簡便に生産性よく本実施形態の正極活物質を得ることができる。なお、第2のリチウムニッケル複合水酸化物(正極活物質)の組成及び各元素のモル比は、上述した一般式(1)の通りである。
【0051】
第2のホウ素化合物としては、リチウム化合物以外のリチウムと反応可能なホウ素化合物を用いることができ、例えば、酸化ホウ素(B2O3)、ホウ酸(H3BO3)、四ホウ酸アンモニウム四水和物((NH4)2B4O7・4H2O)、五ホウ酸アンモニウム八水和物((NH4)2O・5B2O3・8H2O)などが挙げられる。これらの中でも、H3BO3、及びB2O3の少なくとも一方を用いることがより好ましく、H3BO3であることがさらに好ましい。これらのホウ素化合物は、水酸化リチウムとの反応性が高く、添加時に速やかに、第1のリチウムニッケル複合酸化物の表面に存在する水酸化リチウムなどの余剰リチウムと反応できる。なお、第2のホウ素化合物は、第1のホウ素化合物と同一であってもよく、又は、異なっていてもよい。
【0052】
第2のホウ素化合物は、粉末であることが好ましく、平均粒径が5μm以上40μm以下であることが好ましい。これにより、得られる正極活物質内でのホウ素の分布を均一化し、さらに、第1のリチウムニッケル複合酸化物中の余剰リチウムと第2のホウ素化合物Bとの反応を促進して、LiBO2をより多く形成させることができる。
【0053】
第2のホウ素化合物は、第2のホウ素化合物中のホウ素量Bが、正極活物質全量に対して0.01質量%以上0.5質量%以下、好ましくは0.03質量%以上0.4質量%以下となる量で混合される。ホウ素量Bが上記範囲である場合、第1のリチウムニッケル複合酸化物表面に存在し、ゲル化の原因となる水酸化リチウム(余剰リチウム)と反応し、LiBO2を生成することにより、ペーストのゲル化を抑制できる。
【0054】
第2のホウ素化合物のホウ素量Bが0.01質量%未満である場合、添加量が小さすぎて、第2のリチウムニッケル複合酸化物の表面に水酸化リチウを含む余剰リチウムが残留し、ゲル化を抑制できない。第2のホウ素化合物のホウ素量Bが0.5質量%を超える場合、リチウムニッケル複合酸化物の結晶内部のリチウムが引き抜かれて、第2のホウ素化合物と反応して、LiBO2を生成するため、リチウムニッケル複合酸化物内のリチウム量が減少して容量が低下することがある。
【0055】
また、第2のホウ素化合物は、第1のホウ素化合物のホウ素量Aと第2のホウ素化合物のホウ素量Bとの比A/B(以下、「ホウ素質量比A/B」ともいう。)が0.005以上10以下、好ましくは0.01以上5以下となるように、混合する。ホウ素質量比A/Bが上記範囲である場合、その表面に適切な割合でLi3BO3およびLiBO2を有する第2のリチウムニッケル複合酸化物を得ることができる。上記のように第1のホウ素化合物は、Li3BO3を形成して、リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造の成長に寄与し、第2のホウ素化合物Bは、LiBO2を形成して、第1のリチウムニッケル複合酸化物表面に存在する水酸化リチウムなどの余剰リチウムによる正極合材ペーストのゲル化の抑制に寄与すると考えられる。
【0056】
ホウ素質量比A/Bが0.005未満である場合、結晶構造が十分に成長していない第1のリチウムニッケル複合酸化物に、多量の第2のホウ素化合物Bを添加(混合)することとなり、第1のリチウムニッケル複合酸化物の結晶内部のリチウムが容易にホウ素と反応して減少し、電池容量が低下することがある。一方、ホウ素質量比A/Bが10を超える場合、第1のホウ素化合物あるいは第2のホウ素化合物の添加量が上記範囲を超えるため、好ましくない。
【0057】
混合工程(ステップS30)では、第1のリチウムニッケル複合酸化物と第2のホウ素化合物とを、第1のリチウムニッケル複合酸化物の形骸が破壊されない程度に十分混合する。混合中に第1のリチウムニッケル複合酸化物中の水酸化リチウムを含む余剰リチウムと第2のホウ素化合物とが反応し、LiBO2が形成される。その結果、得られる第2のリチウムニッケル複合酸化物の表面に、焼成工程(ステップS20)で形成されたLi3BO3と、混合工程(ステップS30)で形成されたLiBO2とが存在する。
【0058】
混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができる。また、混合時間は、特に限定されず、第1のリチウムニッケル複合酸化物と、第2のホウ素化合物が十分に混合され、LiBO2が形成されればよいが、例えば、3分以上1時間以下程度とすることができる。
【0059】
なお、この混合工程(ステップS30)におけるLiBO2の形成は、例えば、X線回折により確認することができる。また、混合は、得られた正極活物質では、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した場合、第2のホウ素化合物Bの形状を示す粉末が観察されない程度に混合することが好ましい。
【0060】
得られた本実施形態の正極活物質は、二次電池に用いられた場合に高い電池容量を有し、かつ、正極合材ペーストのゲル化を抑制できる。本実施形態の正極活物質は、例えば、ホウ素化合物を含有せず、ホウ素以外は同様の組成を有する正極活物質と比較して、より高い初期放電容量を有することができる。本実施形態の正極活物質は、例えば、実施例に記載する安定性評価において、正極合材ペーストのゲル化を抑制できる。
【0061】
3.非水系電解質二次電池
本実施形態に係る非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、上述した正極活物質を正極材料含む正極を備える。非水系電解質二次電池は、従来公知の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成されることができ、例えば、正極、負極、及び非水系電解液を備える。また、二次電池は、例えば、正極、負極、及び固体電解液を備えてもよい。
【0062】
なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0063】
(正極)
前述のように得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、粉末状の正極活物質、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60~95質量部とし、導電材の含有量を1~20質量部とし、結着剤の含有量を1~20質量部とすることが望ましい。
【0064】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0065】
正極の作製に当たって、導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0066】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸を用いることができる。
【0067】
必要に応じ、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0068】
(負極)
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0069】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0070】
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0071】
(非水系電解質)
非水系電解質としては、非水電解液を用いることができる。非水系電解液は、例えば、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いてもよい。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状を示す塩をいう。
【0072】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0074】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0075】
無機固体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が用いられる。
【0076】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン電導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等が挙げられる。
【0077】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン電導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等が挙げられる。
【0078】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0079】
有機固体電解質としては、イオン電導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。なお、固体電解質を用いる場合は、電解質と正極活物質の接触を確保するため、正極材中にも固体電解質を混合させてもよい。
【0080】
(電池の形状、構成)
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータ、及び非水系電解質や、正極、負極、及び固体電解質で構成される本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0081】
非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例は、以下の装置及び方法を用いた測定結果により評価した。
【0083】
[粒子全体組成]
得られた正極活物質を硝酸で溶解した後、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS-8100)で測定した。
【0084】
[化合物種同定]
得られた正極活物質をX線回折装置(商品名X‘Pert PRO、パナリティカル製)により評価した。
【0085】
[電池特性の評価]
評価用コイン電池型の作成
図2は、評価用のコイン型電池CBAを模式的に示す図である。コイン型電池CBAは、
図6に示すように、電極ELと、この電極ELを内部に収納するケースCAと、から構成されている。電極ELは、正極PE、セパレータSE1及び負極NEとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極PEが正極缶PCの内面に接触し、負極NEが負極缶NCの内面に接触するようにケースCAに収容されている。コイン型電池CBAは、以下のようにして製作した。
【0086】
得られた正極活物質70質量%に、アセチレンブラック20質量%及びPTFE10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレットを作製し、正極PEとした。負極NEとしてリチウム金属を用い、電解液として、1MのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業製)を用い、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、2032型のコイン型電池CBAを作製した。製造したコイン型電池CBAの性能を評価した。
【0087】
初期放電容量は、コイン型電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの放電容量を測定し、初期放電容量とした。
【0088】
[正極合材ペースト安定性の評価方法]
正極合材ペーストは、非水系電解質二次電池用正極活物質20.0g、導電助材としてカーボン粉末2.35g、結着剤としてKFポリマーL#7208(固形分8質量%)14.7g、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)5.1gを自転公転ミキサーにより混合して作製した。正極合材ペースト安定性は、密閉容器に入れて室温で7日管保管し目視観察して評価した。ゲル化しなかったものを○、ゲル化したものを×として評価した。
【0089】
(実施例1)
平均粒径13μmのニッケル複合水酸化物(組成式Ni0.88Co0.09Al0.03(OH)2)に、第1のホウ素化合物としてH3BO3(和光純薬製)を得られる正極活物質に対してホウ素量Aが0.03質量%となる量添加し、Li/(Ni+Co+Al)=1.03となるように水酸化リチウムを混合して混合物を形成した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。得られたこの混合物を酸素気流中(酸素:100容量%)にて750℃で8時間焼成し、冷却した後に解砕した。X線回折ではニッケル酸リチウムとLi3BO3のピークが検出され、ICP測定結果と合わせて表面にLi3BO3が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。さらに、第2のホウ素化合物としてH3BO3を得られる正極活物質に対してホウ素量Bが0.3質量%となる量添加し、シェーカーミキサー装置を用いて混合した。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3、LiBO2のピークが検出され、表面にLi3BO3およびLiBO2が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0090】
(実施例2)
実施例2では、第1のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Aが正極活物質に対して0.005質量%、第2のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Bが0.05質量%となるように加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3、LiBO2のピークが検出され、表面にLi3BO3およびLiBO2が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0091】
(実施例3)
実施例3では、第1のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Aが正極活物質に対して0.08質量%、第2のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Bが0.5質量%となるように加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3、LiBO2のピークが検出され、表面にLi3BO3およびLiBO2が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0092】
(実施例4)
実施例4では、第1のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Aが正極活物質に対して0.002質量%、第2のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Bが0.2質量%となるように加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3、LiBO2のピークが検出され、表面にLi3BO3およびLiBO2が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0093】
(実施例5)
実施例5では、第1のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Aが正極活物質に対して0.1質量%、第2のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Bが0.01質量%となるように加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3、LiBO2のピークが検出され、表面にLi3BO3およびLiBO2が存在し、組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
(実施例6)
実施例6では、第1および第2のホウ素化合物としてB2O3を用いた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3、LiBO2のピークが検出され、表面にLi3BO3およびLiBO2が存在し、組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0094】
(比較例1)
比較例1では、第1のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Aが正極活物質に対して0.0005質量%、第2のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Bが0.05質量%となるように加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、LiBO2のピークが検出され、表面にLiBO2が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0095】
(比較例2)
比較例2では、第1のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Aが正極活物質に対して0.005質量%、第2のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Bが0.005質量%加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3、LiBO2のピークが検出され、表面にLi3BO3およびLiBO2が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0096】
(比較例3)
比較例3では、第1のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Aが正極活物質に対して0.002質量%、第2のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Bが0.5質量%となるように加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3、LiBO2のピークが検出され、表面にLi3BO3およびLiBO2が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0097】
(比較例4)
比較例4では、第1及び第2のホウ素化合物を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウムのピークが検出され、組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0098】
(比較例5)
比較例5では、第1のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Aが正極活物質に対して0.03質量%となるように添加し、第2のホウ素化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、Li3BO3のピークが検出され、表面にLi3BO3が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0099】
(比較例6)
比較例6では、第1のホウ素化合物を添加せず、第2のホウ素化合物としてH3BO3をホウ素量Bが正極活物質に対して0.3質量%となるように加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。X線回折ではニッケル酸リチウム、LiBO2のピークが検出され、表面にLiBO2が存在する組成式Li1.03Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが確認された。
【0100】
【0101】
実施例、比較例で得られた正極活物質を用いてコイン型電池CBAを作製し、初期放電容量を測定した結果、および正極合材ペーストの安定性評価結果を表1に示す。
【0102】
実施例1~6では、適切な量のホウ素化合物が添加されており、第1及び第2のホウ素化合物を添加しなかった比較例4と比較して、正極合材ペーストのゲル化が抑制され、かつ、初期放電容量(電池容量)も増加した。一方、比較例1では、第1のホウ素化合物の添加量(ホウ素量A)が少なく、得られた正極活物質を用いた電池評価では電池容量が向上しなかった。比較例2の正極活物質では、第2のホウ素化合物の添加量(ホウ素量B)が少なかったため、正極合材ペーストのゲル化を抑制できなかった。比較例3では、第1のホウ素化合物の添加量(ホウ素量A)に対して第2のホウ素化合物の添加量(ホウ素量B)が少なかったため、電池評価では電池容量の低下が見られた。比較例5では第2のホウ素化合物を添加しなかったため、正極合材ペーストのゲル化を抑制できなかった。比較例6では第1のホウ素化合物を添加しなかったため、得られた正極活物質を用いた電池評価では容量が向上しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、二次電池の正極材に用いられた場合に電池の容量が増加し、かつ、正極合材ペーストのゲル化が抑制でき、特にハイブリッド自動車や電気自動車用電源として使用されるリチウムイオン二次電池の正極活物質として好適である。
【0104】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、日本特許出願である特願2017-108035、及び、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0105】
CBA……コイン型電池
CA……ケース
PC……正極缶
NC……負極缶
GA……ガスケット
EL……電極
PE……正極
NE……負極
SE……セパレータ