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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】ボンド磁石用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20220420BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20220420BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220420BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20220420BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20220420BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220420BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20220420BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220420BHJP
   H01F 1/055 20060101ALI20220420BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20220420BHJP
   H01F 1/06 20060101ALI20220420BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20220420BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220420BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20220420BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220420BHJP
【FI】
H01F1/059 160
B22F1/16 100
B22F3/00 F
C08K3/10
C08L23/12
C08L23/26
C08L71/12
C22C33/02 G
H01F1/055 120
H01F1/055 180
H01F1/057 120
H01F1/057 180
H01F1/06 110
H01F1/08 130
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
C22C38/00 303D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019081875
(22)【出願日】2019-04-23
(62)【分割の表示】P 2018127536の分割
【原出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2019176160
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017140843
(32)【優先日】2017-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】山中 智詞
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-68316(JP,A)
【文献】特開2013-69926(JP,A)
【文献】特開平9-223624(JP,A)
【文献】特開2008-130630(JP,A)
【文献】特開2004-72005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
B22F 1/16
B22F 3/00
C08K 3/10
C08L 23/12
C08L 23/26
C08L 71/12
C22C 33/02
H01F 1/055
H01F 1/057
H01F 1/06
H01F 1/08
H01F 41/02
B22F 1/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性基を含む被覆層を有する希土類鉄窒素系磁性粉末と、酸変性のポリプロピレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂と、ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂と、数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂とを準備することと、
前記塩基性基を含む被覆層を有する希土類鉄窒素系磁性粉末と、前記酸変性のポリプロピレン樹脂と、前記ポリプロピレン樹脂と、前記ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂と、前記数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂とを混練することにより、混練物を得ることとを含み、
前記希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して、前記酸変性のポリプロピレン樹脂が、3.5重量部以上10.4重量部未満であって、前記ポリプロピレン樹脂及び前記非晶性樹脂の合計が、0.35重量部以上3.88重量部未満であるボンド磁石用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記酸変性のポリプロピレン樹脂において、ポリプロピレンに対する酸変性の比率が0.1重量%以上5重量%以下である請求項1に記載のボンド磁石用組成物の製造方法
【請求項3】
前記ポリプロピレン樹脂及び前記非晶性樹脂の表面に、前記数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂が存在する請求項1または2に記載のボンド磁石用組成物の製造方法
【請求項4】
前記数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂は、変性していないポリプロピレン樹脂を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のボンド磁石用組成物の製造方法
【請求項5】
前記希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して、前記数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂が0.01重量部以上3.5重量部以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のボンド磁石用組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石用組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルーム内で使用される高性能小型モータやアクチュエータには、極めて高い磁力や耐熱性、耐食性など多くの性能を高いレベルで備えることが求められるため、希土類焼結磁石が主に使用されてきた。しかし、近年の軽量化、低コスト化のニーズに伴い、希土類焼結磁石よりも安価な素材であり、優れた形状自由度や寸法安定性をもつ、製造コストにも優れた希土類ボンド磁石への置き換えが加速している。特に、希土類磁性粉末の中でも、希土類鉄窒素系磁性粉末は窒化物であり、これを樹脂中に分散させた希土類ボンド磁石は、耐食性に優れるという特長がある。このため、熱水浸漬や高温高湿度等の過酷な条件下で使用される小型モータやアクチュエータへの応用が期待されている。
【0003】
希土類鉄窒素系ボンド磁石の樹脂バインダとしては、主として12ナイロン樹脂(以下PA12樹脂)またはポリフェニレンサルファイド樹脂(以下PPS樹脂)が使用されている。PA12樹脂は、機械強度や流動性、磁粉の充填性や耐リサイクル性に優れる等、幅広い特性を有していることから、最も普及したバインダである。しかし、構造中のアミド基に起因して吸水性が比較的高く、熱水中での浸漬といった厳しい環境下では、吸水による寸法変化、加水分解による強度低下が起こる。PPS樹脂は、PA12樹脂と比べて機械強度や磁粉の充填性に劣るものの、極めて優れた耐熱性、耐水性を有しており、過酷な環境下で使用されるボンド磁石のバインダとして使用されている。しかし、融点が約280℃と高く、磁性粉末との混練では300℃を超える高温を必要とする。希土類鉄窒素系磁性粉末は表面活性が高いため、高温下におけるPPS樹脂との混練時に酸化劣化が起こり、長期的な磁力安定性(耐減磁性)の低下が見られる。
【0004】
PA12樹脂やPPS樹脂に代わる樹脂として、ポリプロピレン樹脂が挙げられる。ポリプロピレン樹脂は、耐水性を有するものの、低極性であるため、磁粉との密着性が劣り、磁粉の充填性や機械強度が低くなる。また、ポリプロピレン樹脂はガラス転移温度が低く(Tg=約0℃)、高温になるほど分子運動が活発化して耐水性が悪化する課題があり、例えば100℃以上の熱水浸漬や高温高湿雰囲気といった過酷な条件下での使用は困難であった。
【0005】
これら課題に関連して、希土類鉄窒素系磁性粉末のボンド磁石ではないが、特許文献1では、酸変性ポリオレフィン等から成る熱接着樹脂層と二軸延伸ポリエチレンナフタレート等から成る耐熱性樹脂層とを積層したシート状の包材により永久磁石素体の表面を被覆する永久磁石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-149911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一態様は、耐熱水性に優れたボンド磁石を得るためのボンド磁石用組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本発明は以下の態様を包含する。
第一の態様は、希土類鉄窒素系磁性粉末と酸変性のポリプロピレン樹脂とを混練することにより、第一混練物を得る工程と、
前記第一混練物と、ポリプロピレン樹脂及びガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを混練することにより、第二混練物を得る工程とを含み、
前記希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して、前記酸変性のポリプロピレン樹脂が、3.5重量部以上10.4重量部未満であって、前記ポリプロピレン樹脂及び前記非晶性樹脂の合計が、0.35重量部以上3.88重量部未満であるボンド磁石用組成物の製造方法である。
【0009】
第二の態様は、塩基性基を含む被覆層を有する希土類鉄窒素系磁性粉末と、酸変性のポリプロピレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂と、ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを準備することと、
前記塩基性基を含む被覆層を有する希土類鉄窒素系磁性粉末と、前記酸変性のポリプロピレン樹脂と、前記ポリプロピレン樹脂と、前記ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを混練することにより、混練物を得ることとを含み、
前記希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して、前記酸変性のポリプロピレン樹脂が、3.5重量部以上10.4重量部未満であって、前記ポリプロピレン樹脂及び前記非晶性樹脂の合計が、0.35重量部以上3.88重量部未満であるボンド磁石用組成物の製造方法である。
【0010】
第三の態様は、希土類鉄窒素系磁性粉末と、酸変性のポリプロピレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂と、ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを有し、
前記希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して前記酸変性のポリプロピレン樹脂が、3.5重量部以上10.4重量部未満であって、前記ポリプロピレン樹脂及び前記非晶性樹脂の合計が、0.35重量部以上3.88重量部未満であるボンド磁石用組成物である。
【発明の効果】
【0011】
上記態様によれば、耐熱水性に優れたボンド磁石を得るためのボンド磁石用組成物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1および実施例9、比較例1~4にかかるプレッシャークッカーテスト(121℃-2atm)の暴露時間と減磁率の関係を示す図である。
図2】本発明の実施例1~7にかかる数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂の添加量とプレッシャークッカーテスト(121℃-2atm-450hr)後の減磁率の関係を示す図である。
図3】本発明の実施例1にかかる酸変性のポリプロピレン樹脂の無水マレイン酸変性比率とプレッシャークッカーテスト(121℃-2atm-200hr)後の減磁率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、本発明を以下のものに特定するものではない。なお、本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
(第1の実施形態に係るボンド磁石用組成物の製造方法)
本実施形態の製造方法は、希土類鉄窒素系磁性粉末と酸変性のポリプロピレン樹脂とを混練することにより、第一混練物を得る工程と、第一混練物と、ポリプロピレン樹脂及びガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを混練することにより、第二混練物を得る工程とを含む。希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して、酸変性のポリプロピレン樹脂が、3.5重量部以上10.4重量部未満であって、ポリプロピレン樹脂及び非晶性樹脂の合計が、0.35以上3.88重量部未満である。
【0015】
ポリプロピレン樹脂は、耐水性を有するものの、低極性のため金属との密着性が悪く、耐熱性も不十分であった。また、非晶性樹脂は、結晶性樹脂と比べて成形収縮が小さいことからボンド磁石用組成物として適しているものの、粘度が高いためボンド磁石用組成物製造時の混練温度を溶融が開始するガラス転移温度よりも高く設定する必要があり、樹脂によっては希土類鉄窒素系磁性粉末の酸化劣化が起こるおそれがあった。そこで、本実施形態では、希土類鉄窒素系磁性粉末と酸変性のポリプロピレン樹脂とを混練して第一混練物を得る工程を有することにより、ポリプロピレン樹脂による耐水性と併せて酸変性部分により磁性粉末との密着性を高めることができる。続いて、第一混練物と、磁性粉末に対して特定の割合でポリプロピレン樹脂とガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを混練して第二混練物を得る工程を有することにより、ポリプロピレン樹脂及び非晶性樹脂に起因する耐熱水性をボンド磁石に付与することができる。また、ポリプロピレン樹脂と非晶性樹脂を一緒に混錬することにより粘度が低減するため、ボンド磁石用組成物製造の混錬温度を非晶性樹脂のもつガラス転移温度付近にすることができる。つまりは、ガラス転移温度が120℃以上の非晶性樹脂を用いると、120℃の環境下においても非晶性樹脂が熱安定性を有するため、ポリプロピレンの耐水性と併せて耐熱水性をボンド磁石に対して付与することができると考えられる。また、ガラス転移温度が250℃以下の非晶性樹脂用いると、ボンド磁石用組成物製造時の混錬温度を磁性粉末の酸化劣化が起こりにくい250℃以下とすることができるため、ボンド磁石の耐熱水性が向上すると考えられる。
【0016】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0017】
<第一混練物を得る工程>
【0018】
第一混練物は、希土類鉄窒素系磁性粉末と酸変性のポリプロピレン樹脂とを210~250℃にて加熱しながら、混練することにより得ることができる。混練機としては特に制限はなく、単軸及び、特殊単軸スクリュー押出機、ニーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、噛み合わせ型二軸スクリュー押出機、非噛み合わせ型二軸スクリュー押出機等を使用することができる。
〔希土類鉄窒素系磁性粉末〕
希土類鉄窒素系磁性粉末としては、残留磁束密度と固有保磁力に優れたSmFeN磁性粉末が挙げられる。SmFeN磁性粉末は、一般式 SmFe100-x-y で表される希土類金属Smと鉄Feと窒素Nからなる窒化物であり、希土類金属Smの原子%x値は、3~30%の範囲に、Nの原子%yは、5~15(原子%)の範囲に、残部が主としてFeとされる。ここに、Smを3~30原子%と規定するのは、3原子%未満では、α-Fe相が分離して窒化物の保磁力が低下し、実用的な磁石ではなくなり、30原子%を越えると、Smが析出し、合金粉末が大気中で不安定になり、残留磁化が低下するからである。他方、窒素Nを5~15(原子%)の範囲と規定するのは、5原子%未満では、ほとんど保磁力が発現せず、15原子%を越えるとSm、鉄及びアルカリ金属自体の窒化物が生成するからである。
【0019】
SmFeN磁性粉末は、例えば特許第3698538号で示された方法で製造することができ、平均粒径が2μm~5μmであり、粒度分布の標準偏差が1.5以内のものを使用することができる。
【0020】
本実施形態に使用する磁性粉末は、以下に示す耐酸化性、耐水性、樹脂との濡れ性改善、耐薬品性を改善する目的で表面処理が施されていることが好ましい。なお、これらの処理は必要に応じて組み合わせて用いることが可能である。表面処理方法は、必要に応じて選択されるが、基本的には湿式、ミキサーなどの乾式で行われる。
【0021】
処理剤としては、第一に、P-O結合を有するリン化合物が挙げられる。リン酸処理薬としては、例えば、オルトリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム等のリン酸塩系、次亜リン酸系、次亜リン酸塩系、ピロリン酸、ポリリン酸系等の無機リン酸、有機リン酸が適用可能である。これらのリン酸源を基本的には水中、またはIPAなどの有機溶媒中に溶解させ、必要に応じて硝酸イオン等の反応促進剤、Vイオン、Crイオン、Moイオン等の結晶微細化剤を添加したリン酸浴中に磁性粉を投入し、粉表面にP-O結合を有する不動態膜を形成させる。
【0022】
このリン酸塩皮膜に加えて、湿式、乾式により、シリカ、アルミナ、チタニア膜等の無機酸化物膜をサブミクロン、ナノオーダーの粒子を用いて、磁性粉末表面に吸着させて膜を形成させる処理法や、有機金属を用いたゾルゲル法、磁性粉末表面に膜を形成させる無機酸化物処理膜形成処理が適用できる。
【0023】
次に、カップリング剤による磁性粉末の被覆処理について述べる。樹脂と磁性粉末を混練し複合化するにあたって、樹脂との馴染みや結合力を付与するために、磁性粉末の表面処理膜の最も外側にはカップリング剤により被覆層が形成される。酸変性のポリプロピレン樹脂の酸変性部との結合力を付与する点より、塩基性基を有するカップリング剤を用いて被覆層を形成することが好ましい。塩基性基としては、エポキシ基やアミノ基等が挙げられるが、結合力の点でアミノ基をもつカップリング剤を使用することが好ましい。アミノ基をもつシランカップリング剤としては、たとえば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、N-β(アミノエチル)-γ-}アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン等が挙げられる。本発明においては、樹脂と連結した酸無水物基との反応性に優れるカップリング剤の使用が好ましく、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランを使用することが好ましい。
【0024】
また、良好な特性をもつ磁石成形体を得るために、磁性粉末の単位表面積あたりのカップリング剤由来のアミノ基重量が0.5~5mg/mであることがより好ましい。0.5mg/m未満では上記の粒子間の絶縁は不十分であり、一方5mg/mを超えると磁性粒子同士の親和性が高くなりすぎて粒子同士が凝集してしまい磁気特性、耐水性とも低下するおそれがある。
【0025】
〔酸変性のポリプロピレン樹脂〕
希土類鉄窒素系磁性粉末との密着性を上げるために、酸変性のポリプロピレン樹脂を使用することが好ましい。酸としては、飽和又は不飽和のカルボン酸及び無水カルボン酸が挙げられる。具体的には例えばマレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、無水マレイン酸、無水コハク酸が挙げられ、中でも希土類磁性粉末との結合力の点で、無水マレイン酸が好ましい。無水マレイン酸変性のポリプロピレン樹脂としては、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン樹脂等が挙げられる。無水マレイン酸基は、磁性粉最表面のカップリング剤先端の塩基性基と化学的に結合することにより、更に密着性を上げることができ、特にアミノ基を有するものが密着力を上げることができる。無水マレイン酸の変性ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂をマレイン酸又は無水マレイン酸によって変性処理されたものであり、この変性処理は、従来から知られている方法によって行なうことができ、例えば、単軸混練押出機または二軸混練押出機を用いて、ポリプロピレン樹脂に無水マレイン酸を過酸化物とともに加えて混練し、グラフト反応を行なうことにより得ることができる。本実施形態に係るボンド磁石に用いられる無水マレイン酸変性のポリプロピレン樹脂としては、市販のポリプロピレン樹脂に、上記の手法を用いて酸無水物変性してもよいし、市販品の無水マレイン酸変性のポリプロピレン樹脂を用いてもよい。
【0026】
ポリプロピレンに対する酸変性の比率は、例えば0.1重量%以上5重量%以下の範囲において耐熱水性が向上し、0.2重量%以上2.8重量%以下の範囲であることが好ましく、0.35重量%以上1.4重量%以下の範囲であることがより好ましく、特に0.7重量%以上1.25重量%以下が好ましい。
【0027】
酸変性のポリプロピレン樹脂の数平均分子量としては、20,000以上90,000以下の範囲であることが好ましい。数平均分子量が200,00よりも小さいと、ボンド磁石の機械強度が低下し、90,000よりも大きいと粘度が高くなる。
【0028】
酸変性のポリプロピレン樹脂の割合は、例えば希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して3.5重量部以上10.4重量部未満の範囲であり、4重量部以上9.3重量部未満が好ましく、特に5重量部以上7重量部以下が好ましい。3.5重量部より小さいと希土類鉄窒素系磁性粉末との密着力が低下し、10.4重量部以上では耐熱水性が低下する。
【0029】
<第二混練物を得る工程>
【0030】
第二混練物は、第一混練物とポリプロピレン樹脂及びガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを210~250℃にて加熱しながら、混練することにより得ることができる。
【0031】
〔ポリプロピレン樹脂〕
ポリプロピレン樹脂は変性していないポリプロピレン樹脂であって、数平均分子量としては、20,000以上90,000以下の範囲であることが好ましい。数平均分子量が20,000よりも小さいと、ボンド磁石の機械強度が低下し、90,000よりも大きいと粘度が高くなる。
【0032】
ポリプロピレン樹脂の割合は、例えば希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して0.05重量部以上0.65重量部未満の範囲において耐熱水性が向上し、0.2重量部以上0.5重量部以下が好ましい。
【0033】
〔非晶性樹脂〕
非晶性樹脂は、酸変性のポリプロピレン樹脂およびポリプロピレン樹脂の低い熱安定性を補う目的で、ポリプロピレン樹脂と相溶性がよく、ガラス転移点が120℃以上の樹脂を使用する。また、希土類鉄窒素系磁性粉末を酸化劣化させないために成形温度を低く抑える目的に従い、250℃以下の樹脂を使用する。ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリスルホン樹脂(PSU)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリアリレート樹脂(PAR)等が挙げられ、単独で用いても良いし、複数組み合わせても良い。中でも200℃を超えるガラス転移温度をもち、極めて低い吸水率を備えるポリフェニレンエーテルが好ましい。ポリフェニレンエーテルは、変性したものを用いても良い。
【0034】
非晶性樹脂の割合は、例えば希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して0.1重量部以上3.23重量部未満の範囲において耐熱水性が向上し、0.3重量部以上2.5重量部以下が好ましく、特に0.7重量部以上2重量部以下が好ましい。
【0035】
ポリプロピレン樹脂及び非晶性樹脂の合計の割合は、例えば希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して0.35重量部以上3.88重量部未満の範囲において耐熱水性が向上し、0.5重量部以上2.5重量部以下が好ましい。
【0036】
〔ポリマーアロイ〕
酸変性のポリプロピレン樹脂との相溶性を良くする目的で、ポリプロピレン樹脂及びガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂を含むポリマーアロイを使用するほうが好ましい。
【0037】
非晶性樹脂とポリプロピレン樹脂のポリマーアロイ樹脂の作製は、従来から知られている方法によって行なうことができ、作製方法は特に限定されない。例えば、非晶性樹脂としてポリフェニレンエーテルを使用する場合に、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン樹脂それぞれ別々に過酸化物、無水マレイン酸を加えて単軸混練押出機または二軸混練押出機を用いて溶融混練し、酸無水物をグラフト変性したそれぞれの樹脂にジアミンを混ぜて再び混練し、構成成分をグラフト反応により結合させる手法や、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレンアロイ樹脂に相溶化剤を添加して混練する方法が利用できる。後者の場合の相溶化剤としては、水添ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体、エチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体等が使用できる。ポリマーアロイ中に含まれるポリプロピレン樹脂の含有量は、例えば10質量%以上20質量%以下の範囲となるように調整され、非晶性樹脂の含有量は、例えば50質量%以上70質量%以下となるように調整される。また、ポリマーアロイ樹脂としては、市販品を用いてもよい。例えば、ザイロンEV103、ザイロンT0702(旭化成ケミカルズ)、レマロイPX603Y(三菱化学)等が挙げられる。
【0038】
ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジイソプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジフェニル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-クロロ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-クロロエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-メトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジ(p-フルオロフェニル)-1,4-フェニレン)エーテル等が挙げられる。
【0039】
ポリマーアロイの割合は、例えば、希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して0.5重量部以上5.38重量部未満の範囲において耐熱水性が向上し、1重量部以上5重量部以下が好ましい。
【0040】
<第三混練物を得る工程>
【0041】
本実施形態では、第二混練物と数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂とを混練することにより、第三混練物を得る工程を更に有することが好ましい。第三混練物は、第二混練物と数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂とを210~250℃にて加熱しながら、混練することにより得ることができる。
【0042】
〔数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂〕
数平均分子量9,000以下の低分子量ポリプロピレン樹脂を使用することにより更に耐熱水性が向上する。このような低分子量ポリプロピレン樹脂としては、ハイワックス(三井化学)、ユーメックス、ビスコール(三洋化成工業)、LicocenePP(クラリアント)などが挙げられる。
【0043】
数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂の割合は、例えば希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して0.01重量部以上3.5重量部以下の範囲において耐熱水性が向上し、0.08重量部以上3重量部以下が好ましく、特に0.7重量部以上2.5重量部以下が好ましい。
【0044】
数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂は、変性していないポリプロピレン樹脂を使用することが更に好ましい。変性していない数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂を使用した場合、更に耐熱水性が向上する。
【0045】
(添加剤)
各混練物を得る際に、必要に応じて滑剤、酸化防止剤、重金属不活性化剤、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、離型剤など種々の添加剤を添加することができる。この中で、混練やボンド磁石成形中、または実使用中に曝される高温や高湿などの過酷な雰囲気、紫外線や活性な金属による触媒作用、せん断、摩擦などの外力から樹脂分子へのダメージを緩和する目的で、フェノール系やリン系の酸化防止剤や重金属不活性化剤が好適に使用される。
【0046】
(第2の実施形態に係るボンド磁石用組成物の製造方法)
本実施形態の製造方法は、塩基性基を含む被覆層を有する希土類鉄窒素系磁性粉末と、酸変性のポリプロピレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂と、ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを準備することと、塩基性基を含む被覆層を有する希土類鉄窒素系磁性粉末と、酸変性のポリプロピレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂と、ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを混練することにより、混練物を得ることとを含み、希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して、酸変性のポリプロピレン樹脂が、3.5重量部以上10.4重量部未満であって、ポリプロピレン樹脂及び非晶性樹脂の合計が、0.35重量部以上3.88重量部未満であるボンド磁石用組成物の製造方法である。
【0047】
第二の実施形態では、塩基性基を含む被覆層を有する希土類鉄窒素系磁性粉末と酸変性のポリプロピレン樹脂とを一緒に混練することにより、ポリプロピレン樹脂による耐水性と併せて、塩基性基と酸変性部分との結合にて磁性粉末との密着性を高めることができる。また、更にポリプロピレン樹脂及び非晶性樹脂も一緒に混練することにより、第一の実施形態と同様にポリプロピレン樹脂及び非晶性樹脂からの耐熱水性をボンド磁石に付与することができると考えられる。
【0048】
第二の実施形態における混練物は、塩基性基を含む被覆層を有する希土類鉄窒素系磁性粉末と、酸変性のポリプロピレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂と、ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂と210~250℃にて加熱しながら、混練することにより得ることができる。混練機としては特に制限はなく、単軸及び、特殊単軸スクリュー押出機、ニーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、噛み合わせ型二軸スクリュー押出機、非噛み合わせ型二軸スクリュー押出機等を使用することができる。ここで希土類鉄窒素系磁性粉末、各樹脂およびそれら割合等については、第一の実施形態にて説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0049】
第二の実施形態における混練物は、予め準備した数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂を更に有することが好ましい。数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂およびそれら割合等については、第一の実施形態にて説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0050】
第二の実施形態におけるボンド磁石用組成物は、上述の混練物を冷却後適当な大きさに切断することで得ることができる。
【0051】
(第3の実施形態に係るボンド磁石用組成物)
本実施形態に係るボンド磁石用組成物は、希土類鉄窒素系磁性粉末と、酸変性のポリプロピレン樹脂と、ポリプロピレン樹脂と、ガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂とを有し、希土類鉄窒素系磁性粉末100重量部に対して、酸変性のポリプロピレン樹脂が、3.5重量部以上10.4重量部未満であって、ポリプロピレン樹脂及び非晶性樹脂の合計が、0.35以上3.88重量部未満である。
【0052】
第三の実施形態では、酸変性のポリプロピレン樹脂を有することにより希土類鉄窒素系磁性粉末との密着力が高まり、また磁性粉末に対して特定の割合にてポリプロピレン樹脂とガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂を有することにより、ポリプロピレン樹脂からの耐水性と非晶性樹脂からの耐熱性を付与することができるため、全体として耐熱水性が向上する。
【0053】
また第三の実施形態では、ボンド磁石用組成物の内部において、磁性粉末に対する酸変性のポリプロピレン樹脂の酸変性基との密着性により磁性粉末の表面に存在しやすく、ポリプロピレン樹脂とガラス転移温度が120℃以上250℃以下の非晶性樹脂が、酸変性のポリプロピレン樹脂の表面に存在しやすい。酸変性のポリプロピレン樹脂の酸変性基部分は、極性を有するため水分と結合するおそれがあるが、酸変性のポリプロピレン樹脂の表面にポリプロピレン樹脂と非晶性樹脂が存在することにより、耐熱水性を付与することができる。ここで希土類鉄窒素系磁性粉末、各樹脂およびそれら割合等については、第一の実施形態にて説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0054】
ボンド磁石用組成物では、耐熱水性の点から数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂を更に有することが好ましい。数平均分子量が9000以下の場合、分子量が小さいため、組成物の最表面にブリードアウトしてスキン層を形成しやすい成分であり、ポリプロピレン樹脂及び非晶性樹脂の表面に存在しやすい。これにより耐熱水性を高めることができる。数平均分子量9000以下のポリプロピレン樹脂およびそれら割合等については、第一の実施形態にて説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0055】
上述のボンド磁石用組成物を用いることにより、耐熱水性の優れたボンド磁石を製造することができる。具体的には例えば、ボンド磁石用組成物を熱処理しながら配向磁場で磁化容易磁区を揃え(配向工程)、次いで着磁磁場でパルス着磁する(着磁工程)ことにより、ボンド磁石を得ることができる。
【0056】
配向工程における熱処理温度は、例えば90℃以上250℃以下であることが好ましく、150℃~230℃であることがより好ましい。配向工程における配向磁場の大きさは、例えば720kA/mとすることができる。また、着磁工程における着磁磁場の大きさは、例えば1500~2500kA/mとすることができる。
(実施例)
【0057】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、各材料の詳細及び試験方法、評価方法例示するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらに限定されるものでは無い。
【0058】
1.使用原料の準備
1-1.希土類鉄窒素系磁性粉末
<表面処理方法>
SmFeN系異方性磁性粉末3000gをミキサーに投入し、窒素置換した後、混合しながらシランカップリング剤(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)12g、エタノール12gとアンモニア水6gの混合溶液を噴霧添加して1分間混合した後、窒素フローしながら120℃で5時間乾燥し、シリカ膜上にカップリング剤皮膜が形成されたSm2Fe17N3粉末((以下磁性粉末(A))を得た。
平均粒径: 約2.8μm(FSSS法により測定)
磁気特性: 残留磁束密度(Br) 12.5kG
固有保磁力(iHc) 16kOe
角型性(Hk) 7kOe
1-2.酸変性のポリプロピレン樹脂(以下樹脂(A))
ポリプロピレン樹脂:
無水マレイン酸変性比率:1重量%
数平均分子量(Mn):約4万
1-3.ポリプロピレン樹脂(以下樹脂(B))および非晶性樹脂(以下樹脂(C))
ポリプロピレン樹脂:
酸変性:なし
数平均分子量(Mn):約2万
非晶性樹脂:ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル樹脂(Tg約214℃)
ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン/ポリプロピレン複合アロイ樹脂
<作製方法>
樹脂(C)とポリスチレン樹脂を3:1の割合で混練して得られた相溶性樹脂100重量部に樹脂(B)15重量部、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(スチレン含有量53%、比重0.97)10重量部を加えて二軸押出機で混練することで、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン/ポリプロピレン複合アロイ樹脂(以下アロイ樹脂(D))を得た。
1-4.樹脂(E)
ポリプロピレン樹脂(E-1):
無水マレイン酸変性割合:0重量%
数平均分子量(Mn):3,000
ポリプロピレン樹脂(E-2):
無水マレイン酸変性割合:0重量%
数平均分子量(Mn):4,000
ポリプロピレン樹脂(E-3):
無水マレイン酸変性割合:0重量%
数平均分子量(Mn):9,000
ポリプロピレン樹脂(E-4):
無水マレイン酸変性割合:約0.3重量%
数平均分子量(Mn):3,500
【0059】
(実施例1)
<ボンド磁石用組成物の製造>
磁性粉末100重量部に対して樹脂(A)が7.36重量部、アロイ樹脂(D)が3.15重量部、酸化防止剤が0.3重量部となるように、磁性粉末(A)と樹脂(A)とアロイ樹脂(D)と酸化防止剤とを二軸混練機に投入し、220℃にて混練して混練物を得た。得られた混練物を冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石用組成物を得た。
【0060】
<成形工程>
得られたボンド磁石用組成物を240℃のシリンダー内で溶解させ、90℃に調温した金型内に9kOe配向磁場を印加しながら射出成形することで、φ10-t7の円柱状ボンド磁石を得た。磁石の磁気特性は60kOeの着磁磁場でパルス着磁した。
【0061】
<耐熱水性の評価>
着磁したボンド磁石を耐圧力容器内に水とともに封入し、121℃-2atm-450時間までのプレッシャークッカーテスト(PCT)により、耐熱水性を評価した。
耐熱水性の評価は、PCT試験前後のボンド磁石をフラックスメーターにて全磁束量を測定し、不可逆的減磁率(450時間PCT試験後のボンド磁石の全磁束量/450時間PCT試験前のボンド磁石の全磁束量×100)として評価した。
【0062】
(実施例2)
<ボンド磁石用組成物の製造>
磁性粉末100重量部対して樹脂(A)が7.29重量部、アロイ樹脂(D)が3.15重量部、樹脂(E-1)が0.08重量部、酸化防止剤が0.3重量部となるように、磁性粉末(A)と樹脂(A)とアロイ樹脂(D)と樹脂(E-1)と酸化防止剤とを二軸混練機に投入し、220℃にて混練して混練物を得た。得られた混練物を冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石用組成物を得た。
【0063】
<成形工程>
実施例1と同様にしてボンド磁石を作製し、耐熱水性について評価した。
【0064】
(比較例1)
磁性粉末(A)と12ナイロン(PA12)樹脂(重量平均分子量Mw:12000)を磁性粉末100重量部に対して、PA12樹脂が8.3重量部を、酸化防止剤が0.3重量部を、二軸混練機を用いて210℃で加熱して混練し、冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石用組成物を得た。
【0065】
<成形工程>
得られたボンド磁石用組成物を230℃のシリンダー内で溶解させ、90℃に調温した金型内に9kOe配向磁場を印加しながら射出成形することで、φ10-t7の円柱状ボンド磁石を得た。磁石の磁気特性は60kOeの着磁磁場でパルス着磁した。
【0066】
<耐熱水性の評価>
得られたボンド磁石を実施例1と同様の方法で、耐熱水性を評価した。
【0067】
(比較例2)
磁性粉末(A)とポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂(リニア型、重量平均分子量Mw:20000)を磁性粉末100重量部に対して、PPS樹脂が14重量部を、二軸混練機を用いて300℃で加熱して混練し、冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石用組成物を得た。
【0068】
<成形工程>
得られたコンパウンドを320℃のシリンダー内で溶解させ、150℃に調温した金型内に9kOe配向磁場を印加しながら射出成形することで、φ10-t7の円柱状ボンド磁石を得た。磁石の磁気特性は60kOeの着磁磁場でパルス着磁した。
【0069】
<耐熱水性の評価>
得られたボンド磁石を実施例1と同様の方法で、耐熱水性を評価した。
【0070】
(実施例3~13、比較例3、4)
磁性粉末(A)100重量部に対して、樹脂(A)、アロイ樹脂(D)を表1に示す割合にて用い、樹脂(E)については、表1に示す樹脂の種類と磁性粉末(A)100重量部に対する割合にて用いた以外は実施例1又は実施例2と同様の方法でボンド磁石を作製し、耐熱水性を評価した。また、実施例13および比較例4については、前述と同じ方法にて表1に示す割合に調整したアロイ樹脂(D)を用いた。
【0071】
【表1】
【0072】
(実施例14)
<第一混練物を得る工程>
磁性粉末(A)と樹脂(A)と酸化防止剤を磁性粉末(A)100重量部に対して、樹脂(A)が6.62重量部、酸化防止剤が0.3重量部になるように二軸混練機の第一のフィーダ-より投入し、220℃にて混練して第一混練物を得ることができる。
【0073】
<第二混練物を得る工程>
磁性粉末(A)100重量部に対して、アロイ樹脂(D)が3.15重量部(磁性粉末(A)対して、樹脂(B)0.38重量部、樹脂(C)1.89重量部)になるようにアロイ樹脂(D)を二軸混練機の第二のフィーダ-より投入し、220℃にて第一混練物と混錬して第二混練物を得ることができる。
【0074】
<第三混練物を得る工程>
磁性粉末(A)100重量部に対して樹脂(E-3)が0.75重量部になるように樹脂(E-3)を二軸混練機の第三のフィーダ-より投入し、220℃にて第二混練物と混錬して第三混練物を得ることができる。得られる第三混練物を冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石用組成物を得ることができる。
【0075】
<成形工程及び耐熱水性の評価>
実施例1と同様にしてボンド磁石を作製し、耐熱水性について評価することができる。
【0076】
以上より得られた各ボンド磁石の配合と減磁率の関係を表1に示す。また、PCT試験時間経過のおける減磁率の関係を図1に示す。図1より、比較例1は、PCT試験1時間後における減磁(以下初期減磁)は小さいが、最終的に大幅に減磁した。これは、吸湿しやすいPA樹脂を用いているため、時間の経過にともない磁石内部に侵入した水分との反応で磁粉が劣化したためと考えられる。比較例2は、初期減磁が大きく、時間の経過とともに減磁し、最終的に大幅に減磁した。これは、PPS樹脂の粘度が高く、混錬温度およびボンド磁石成形温度を300℃とする必要があったためであり、高温で磁性粉末が酸化劣化したと考えられる。比較例3は、初期減磁は小さいものの最終的には大幅な減磁がみられ、12ナイロン磁石と同じ傾向を示した。これは、酸変性のポリプロピレン樹脂のみであったことから、耐熱性が不足し、高温域で軟らかくなることで磁石内部への水の侵入と拡散を許したためと考えられる。比較例4は、アロイ樹脂に対する酸変性ポリプロピレン樹脂が少なかったため、耐水性が不足し、磁石内部への水の侵入と拡散を許したためと考えられる。一方、各実施例1~13は、初期減磁も最終的な減磁も抑制された。これは、混練温度と成形温度を240℃に抑えることができたことと、各樹脂を特定の割合で配合したことによりボンド磁石に適度な耐熱水性が付与されたためと考えられる。また、実施例14は、実施例9と同じ配合であり、第一の実施形態の説明のとおり実施例9の減磁率と同等もしくはそれより小さいことが期待できる。
【0077】
図2には、樹脂(E―1)添加量と不可逆減磁率(プレッシャークッカー:121℃-2atm-450hr後)のグラフを示す。結果として、磁石の減磁率を効果的に低減できる樹脂(E-1)の添加量は0.2重量部以上であることがわかった。特に0.75重量部以上1.75重量部以下の範囲において減磁率を低減できることがわかった。
【0078】
また、実施例1の無水マレイン酸変性のポリプロピレン樹脂中の変性比率を0~2.8重量%(0、0.14、0.35、0.7、1、1.4、1.75、2.8重量%)の範囲で変化させたものを樹脂(A)と置き換えてボンド磁石を作製し、無水マレイン酸変性比率と不可逆減磁率(プレッシャークッカー:121℃-2atm-200hr後)のグラフを図3示す。結果として、0.2重量%以上2.8重量%以下の範囲であることが好ましく、0.35重量%以上1.4重量%以下の範囲であることがより好ましく、特に0.7重量%以上1.25重量%以下が好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によると、高温かつ高湿度雰囲気や熱水に曝されるモータ、センサ、アクチュエータ用磁石部品に好適に使用することができるボンド磁石用組成物を提供することができる。
図1
図2
図3