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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】ポリマー膜のための表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20220420BHJP
   B29C 59/14 20060101ALI20220420BHJP
   H05H 1/24 20060101ALN20220420BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20220420BHJP
【FI】
C08J7/00 302
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
B29C59/14
H05H1/24
H05H1/46 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020571786
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2018067433
(87)【国際公開番号】W WO2020001774
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】モリソン, ニール
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/062100(WO,A1)
【文献】特開2012-229309(JP,A)
【文献】特開2017-018881(JP,A)
【文献】米国特許第8951428(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00
B29C 59/14
H05H 1/24
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー膜のための表面処理方法であって、
少なくとも前記ポリマー膜に関する情報を表面処理デバイスへと提供することと、
前記情報に基づいて、荷電粒子の放出、及び前記表面処理デバイス内の前記ポリマー膜の滞留時間のうちの少なくとも1つを前記表面処理デバイスにおいて調節することと、
前記表面処理デバイス内での前記ポリマー膜の前記滞留時間の間、前記荷電粒子の放出を前記ポリマー膜の表面に適用し、表面処理されたポリマー膜を得ること
を含み、少なくとも前記ポリマー膜に関する情報を表面処理デバイスへと提供することが、材料密度及び表面原子密度のうちの少なくとも1つを提供することを含む、表面処理方法。
【請求項2】
前記ポリマー膜の前記表面の少なくとも一部が、ポリマーコーティングを含む、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記ポリマーコーティングが、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、及びポリシロキサンのうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
材料密度及び表面原子密度のうちの少なくとも1つを提供することが、前記ポリマー膜の材料密度、前記ポリマー膜の表面原子密度、前記ポリマーコーティングの材料密度、及び前記ポリマーコーティングの表面原子密度のうちの少なくとも1つを提供することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
材料密度及び表面原子密度のうちの少なくとも1つを提供することが、アルゴリズムを用いて、前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つに関する情報に基づいて、前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの表面原子密度を計算することをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記情報に基づいて、荷電粒子の放出、及び前記表面処理デバイス内の前記ポリマー膜の滞留時間のうちの少なくとも1つを前記表面処理デバイスにおいて調節することが、
アルゴリズムを用いて、放電電流、電極領域、及び前記滞留時間のうちの少なくとも1つに基づいて、前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの処理のための荷電粒子量を計算することと、
アルゴリズムを用いて、前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの処理のための荷電粒子エネルギーを計算することと、
アルゴリズムを用いて、流れ方向での前記表面処理デバイスの少なくとも1つの寸法、及び流れ方向でのポリマー膜搬送速度に基づいて、前記表面処理デバイス内の前記ポリマー膜の前記滞留時間を計算することと、
処理ガスを選択すること
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記ポリマー膜が、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、及びポリシロキサンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項8】
前記ポリオレフィンが、ポリエチレン及びポリプロピレンのうちの少なくとも1つを含むか、前記ポリエステルが、少なくともポリエチレンテレフタレートを含むか、又は前記ポリアクリレートが、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、及びポリアクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、請求項3又はに記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記ポリマー膜の処理された表面を分析すること、及び処理されたポリマーコーティングを分析することのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項10】
前記処理ガスが、無機性である、請求項6に記載の表面処理方法。
【請求項11】
前記処理ガスが、アルゴン、酸素、窒素、ヘリウム、及びネオンのうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の表面処理方法。
【請求項12】
前記表面処理デバイスが、プラズマ処理デバイスの電子処理デバイスである、請求項1から11のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項13】
前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの処理のための荷電粒子量が、4×1014から6×1015の荷電粒子/cm 含む、請求項に記載の表面処理方法。
【請求項14】
前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの処理のための荷電粒子エネルギーが、100eVから9000eVを含む、請求項に記載の表面処理方法。
【請求項15】
ポリマー膜のための表面処理方法であって、
前記ポリマー膜及びポリマーコーティングのうちの少なくとも1つに関する情報を表面処理デバイスへと提供することと、
アルゴリズムを用いて、前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つに関する前記情報に基づいて、前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの表面原子密度を計算することと、
アルゴリズムを用いて、流れ方向での前記表面処理デバイスの少なくとも1つの寸法、及び流れ方向でのポリマー膜搬送速度に基づいて、前記表面処理デバイス内の前記ポリマー膜の滞留時間を計算することと、
アルゴリズムを用いて、放電電流、電極領域、及び前記滞留時間のうちの少なくとも1つに基づいて、前記ポリマー膜及び前記ポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの処理のための荷電粒子量を計算することと、
前記情報に基づいて、荷電粒子の放出、及び前記表面処理デバイス内の前記ポリマー膜の前記滞留時間のうちの少なくとも1つを前記表面処理デバイスにおいて調節することと、
前記表面処理デバイス内での前記ポリマー膜の前記滞留時間の間、前記荷電粒子の放出を前記ポリマー膜の表面に適用し、表面処理されたポリマー膜を得ること
を含む表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、ポリマー膜のための表面処理方法に関する。本開示のさらなる実施形態は、具体的には、包装材料、特に食品包装の製造における表面処理されたポリマー膜の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
研究と開発の結果、ポリマーは、過去数十年間で最も急速に成長している材料の分野であり、益々多くの用途において数百ものポリマーが使用されている。例えば、こうした用途のうちの1つには、様々な製品(特に食品)を包装するポリマー膜の製造においてポリマーを使用することが含まれる。
【0003】
ポリマー膜は、その物理的、電気的、及び化学的特性(例えば、熱安定性、熱膨張率、靭性、誘電率、散逸率、溶媒吸収、及び耐薬品性)に基づいて、所与の用途のために選択される。ポリマー膜の全ての表面が、良好な接着のために必要とされる物理的及び/又は化学的特性を有するわけではないが、接着特性がポリマー膜の選択の基準となることはめったにない。したがって、所与の用途のためのポリマー膜は、まず接着特性以外の特性に基づいて選択される。そうして初めて、ポリマー膜の接着特性に着目することができる。特に、ポリマー膜が、(例えば、ポリマー又は金属から製作された)他の膜又はコーティングと共に用いられる用途において着目される。この点に関して、ポリマー膜の接着特性が、前述の用途にポリマー膜を使用可能にするのに適さない場合、ポリマー表面の表面処理が1つの選択肢であり得る。しかしながら、最適な表面処理条件を見つけるために必要な幾つかの試行錯誤プロセスのゆえに、ポリマー膜の表面処理は時間がかかる。
【0004】
上記を考えると、プロセスパラメータがまだ知られていない場合、長時間にわたる高価な試行錯誤プロセスを回避し、ポリマー膜の表面処理を促進する、ポリマー膜の表面処理方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、ポリマー膜のための表面処理方法に関する。本開示のさらなる実施形態は、包装材料、特に食品包装の製造における表面処理されたポリマー膜の使用に関する。本開示は、特に、少なくともポリマー膜に関する情報を表面処理デバイスへと提供することを含む表面処理方法に従うことにより、ポリマー膜の接着を改善することを目指している。具体的には、本開示は、表面処理方法を提供することを目指しており、ポリマー膜の表面処理のための最適なイオン投入量は、単純に、ポリマー膜に関する情報(例えば、ポリマー膜の材料密度)を提供することによって計算することができる。さらに、本開示は、表面処理デバイス内のポリマー膜の滞留時間を減少させ、ひいては、表面処理されたポリマー膜の生成を促進することを目指している。
【0006】
本開示のさらなる態様、利点、及び特徴は、特許請求の範囲、明細書、及び添付図面から明らかである。
【0007】
本開示の一態様によれば、ポリマー膜の表面処理方法が提供される。表面処理方法は、少なくともポリマー膜に関する情報を表面処理デバイスへと提供することと、当該情報に基づいて、荷電粒子の放出、及び表面処理デバイス内のポリマー膜の滞留時間のうちの少なくとも1つを表面処理デバイスにおいて調節することと、表面処理デバイス内でのポリマー膜の滞留時間の間、荷電粒子の放出をポリマー膜の表面に適用し、表面処理されたポリマー膜を得ることを含む。
【0008】
本開示のさらなる態様によれば、表面処理されたポリマー膜の使用が提供される。当該使用は、包装材料、特に食品包装の製造における表面処理されたポリマー膜を使用することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示の上記の特徴を詳細に理解することができるように、実施形態を参照することによって、以上で簡単に概説した本開示のより具体的な説明を得ることができる。添付の図面は、本開示の実施形態に関し、以下において説明される。
図1】本明細書に記載された実施形態に係る、ポリマー膜のための表面処理方法のフロー図を示す。
図2】本明細書に記載された実施形態に係る、表面処理デバイスの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、本開示の様々な実施形態が詳細に参照されることになり、その1つ又は複数の実施例が図面に図示される。図面についての以下の説明において、同じ参照番号は同じ構成要素を表わす。概して、個々の実施形態に関する相違のみが説明される。各実施例は、本開示の説明のために提供されるが、本開示を限定することを意図しているわけではない。さらに、ある実施形態の一部として図示且つ説明されている特徴は、他の実施形態において用いてもよく、又は、他の実施形態と共に用いてもよく、それにより、さらに別の実施形態が生じる。本記載にこのような修正例及び変形例が含まれることが意図されている。
【0011】
日常においてポリマー膜の使用(例えば、食品包装)が増えるにつれて、ポリマー膜の生成の改善に対する関心が近年重要性を増している。
【0012】
所与の用途のためのポリマー膜は、まず接着特性以外の特性に基づいて選択される。そうして初めて、ポリマー膜の接着特性に着目することができる。特に、ポリマー膜が、(例えば、ポリマー又は金属から製作された)他の膜又はコーティングと共に用いられる用途において着目される。
【0013】
幾つかの用途でポリマー膜を選択するにあたって、接着特性が二次的な役割を有する理由としては、他の膜又はコーティングに比べてポリマー膜の接着特性を改善するために、近年開発されたポリマー膜の表面を改質する種々の代替案の存在が挙げられる。
【0014】
このようなポリマー膜の表面を改質する代替案の例には、プラズマ処理装置を用いたポリマー膜の表面処理がある。プラズマは、イオン化された気相物質であり、イオン、電子、並びに電荷的中性を大幅に維持する中性原子及び/又は分子を含み得る。プラズマは、プラズマと電子との間の境界領域を除いて、同量の正電荷と負電荷を含む。さらに、プラズマ中の荷電粒子は、外部電磁界に集合的に応答する。
【0015】
プラズマ処理装置を用いたポリマー膜の表面処理では、プラズマ中で生成されたエネルギー粒子(例えば、イオン及び/又は電子)は、通常、フリーラジカル化学を介して、ポリマー膜の表面と強く相互作用する。概して、ポリマー膜の表面に対するプラズマの4つの主な効果が通常観察される。各効果は、常にある程度存在しているが、ポリマー膜、処理ガス、プラズマ処理装置、及びプロセスパラメータに応じて、これらの効果のうち1つが他の効果よりも好ましいことがある。
【0016】
すなわち、4つの主な効果とは、以下の通りである。(A)表面洗浄、すなわち、ポリマー膜の表面からの有機汚染物の除去、(b)ポリマー膜の表面からの材料のアブレーション又はエッチング(これにより、弱い境界層が除去され、表面領域が増大し得る)、(c)表面近傍のポリマー分子の架橋又は分岐(これにより、ポリマー膜の表面が凝集的に強化され得る)、並びに(d)ポリマー膜の表面化学構造の改変(これは、プラズマ処理装置自体を用いたポリマー膜の表面処理の間、及びポリマー膜の処理された部分を空気へと再曝露するときに生じ得る)(この時点で、残留フリーラジカルが、大気中の酸素又は水蒸気と反応し得る)。
【0017】
さらに、ポリマー膜の表面処理中、プラズマ中の電子及びイオンは、拡散又は再結合によって消失し得る。安定したプラズマを維持するためには、より多くの電子及びイオンを生成するために外部励起が必要とされ、電子及びイオンの生成速度がそれらの消失速度とバランスをとることができる。ほとんどのプラズマ生成方法は、中性原子又は分子をイオン及び電子に分解するように電子に十分なエネルギーを与えることに依存する。このようなプラズマ生成法を応用した幾つかのプラズマ源には、グロー放電、コロナ放電、容量結合放電、誘導結合放電、及び電子サイクロトロン共鳴(electron cyclotron resonance:ECR)が挙げられる。
【0018】
具体的には、ポリマー膜の接着特性の改善に使用される1つのプラズマ処理装置は、コロナ処理装置である。コロナ処理装置は、表面の特性に変化を与えるために低温コロナ放電プラズマを使用する。例えば、コロナ処理装置は、コーティング(例えば、インクや接着剤)の接着の改善を可能にするため、ポリマー膜及び紙の表面エネルギーを増加させるように設計されている。結果として、表面処理されたポリマー膜は、改善されたプリンティング品質と接着品質、及び積層強度を示す。
【0019】
コロナ処置装置は、2つの主な構成要素を含み得る。その2つとは、高周波電力発生器と高圧変圧器を備えた電源、並びに少なくとも電極及びトリータ接地ロール(treater ground roll)を有するプラズマ源を備えた処理ステーションである。コロナ処理装置の電源は、標準的な50/60Hzの用役電力を受け入れ、それを単相の、より高い周波数(名目上10から30kHz)の電力に変換し、処理ステーションに供給する。処理ステーションは、高電位の一対の電極及び材料を支持するグラウンド電位のロールを介して、空隙を通して、この電力を材料の表面(例えば、ポリマー膜)に印加する。処理ステーションの高電位電極に面する材料の側面だけが表面張力の増加を示すはずである。
【0020】
具体的には、ポリマー膜の表面に対するプラズマの効果は、主に様々なプロセスパラメータ(例えば、プラズマ源圧力、プラズマ出力供給、処理ガスの種類、処理ガス流量、処理時間(又は処理速度)、及びプラズマから基板表面への距離)を変えることによって制御することができる。したがって、このようなプロセスパラメータを制御することによって、上述の効果のうちの幾つかを単一のプロセスステップで達成することができる。しかしながら、決定されたポリマー膜の処理に関するプロセスの知識を習得し、ポリマー膜の表面に対して特定の効果を達成する最適条件を見つけるためには、長きにわたって費用のかかる試行錯誤プロセスを行わなければならない。
【0021】
本明細書に記載された実施形態によれば、ポリマー膜の表面処理が改善され、具体的には、ポリマー膜は、(例えば、ポリマー又は金属から作製された)他の膜又はコーティングと共に諸用途において使用され、したがって、ポリマー膜の特定の接着特性が要求されることになる。
【0022】
ポリマー膜の表面を処理する最適な条件を探すために、長きにわたって費用のかかる試行錯誤のプロセスがあるので、より単純で製造時間が短縮された、ポリマー膜の表面処理方法が求められてきた。
【0023】
したがって、本開示は、包装材料、特に食品包装の製造における、ポリマー膜のための表面処理方法、及び当該方法に係る表面処理されたポリマー膜の使用に関する。ポリマー膜の表面処理方法は、少なくともポリマー膜に関する情報を表面処理デバイスへと提供することと、当該情報に基づいて、荷電粒子の放出、及び表面処理デバイス内のポリマー膜の滞留時間のうちの少なくとも1つを表面処理デバイスにおいて調節することと、表面処理デバイス内でのポリマー膜の滞留時間の間、荷電粒子の放出をポリマー膜の表面に適用し、ポリマー膜の処理された表面を得ることを含む。
【0024】
本明細書に記載された他の実施形態と組み合わせることができる本開示の実施形態によれば、ポリマー膜は、電子又はイオンなどの荷電粒子で処理することができる。電子は、例えば、プラズマ、熱電子放出、又は電子の電界放出を利用して、電子源で発生させることができる。本明細書に記載されるように、イオンは、イオン源内で生成され得る。イオンはより容易な表面改変に有益であり得るので、以下ではイオンについて言及する。
【0025】
本開示の様々な実施形態をさらに詳細に説明する前に、本明細書で使用される幾つかの用語及び表現に関する幾つかの態様を説明する。
【0026】
「ポリマーコーティング」という用語は、押出/分散及び溶液塗布などの数々の様々な技法を用いて、基板又は材料に加えられたポリマー材料から作製された薄い層(例えば、ポリマー膜)のことを指す。
【0027】
「ポリマー膜」という用語は、100μm未満、典型的には、50μm未満、より典型的には、20μmの厚さを有する、ポリマーで作られた材料片のことを指していると理解するべきである。さらに、ポリマー膜は、1m以上、典型的には、2m以上の幅を有してもよい。ロールツーロール(R2R)処理における長さは、数百メートルから数キロメートルまで変動し得る。「表面」という用語は、材料片の外部範囲又は領域のことを指す。
【0028】
「プラズマ」という用語は、通常、イオン、電子、及び中性種から構成された、部分的にイオン化されたガスのことを表す。さらに、「プラズマ」という用語は、例えば、温度を上昇させることによって、且つ/又は特定の周波数で高電圧を印加することによって、物質にエネルギーが連続的に供給される場合に生成される、電子と正に帯電したイオンとの混合物のことを指し得る。「イオンの放電」という表現は、例えば、温度を上昇させることによって、且つ/又は特定の周波数で高電圧を印加することによって、物質にエネルギーが連続的に供給されるときに生成される、一群の正に帯電したイオンのことを指す。さらに、「イオンの放電」という表現は、プラズマの一部である一群の正に帯電したイオンのことを指す。
【0029】
「電源」という用語は、電流又は電圧をプラズマ源に供給する電気デバイスとして理解するべきである。「プラズマ源」という用語は、処理ガスに電界又は電子及び光子のビームを印加することによって、プラズマを生成するプラズマ処理デバイスの一部のことを指す。
【0030】
図1は、本明細書に記載された実施形態に係る、ポリマー膜のための表面処理方法100のフロー図を示す。開始101で始まる方法100は、少なくともポリマー膜に関する情報を表面処理デバイスへと提供すること102と、当該情報に基づいて、荷電粒子の放出、及び表面処理デバイス内のポリマー膜の滞留時間のうちの少なくとも1つを表面処理デバイスにおいて調節すること103と、表面処理デバイス内でのポリマー膜の滞留時間の間、イオンの放出をポリマー膜の表面に適用し、表面処理されたポリマー膜を得ること104を含む。方法100は、終了105で終わる。
【0031】
本明細書に記載された他の実施形態と組み合わせることができる幾つかの実施形態では、ポリマー膜は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、及びポリシロキサンのうちの少なくとも1つを含み得る。さらに、ポリマー膜の表面の少なくとも一部は、ポリマーコーティングを含み得る。ポリマーコーティングは、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、及びポリシロキサンのうちの少なくとも1つを含み得る。具体的には、ポリオレフィンは、ポリエチレン及びポリプロピレンのうちの少なくとも1つを含み得る。さらに、ポリエステルは、少なくともポリエチレンテレフタレートを含み得る。さらに、ポリアクリレートは、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、及びポリアクリルアミドのうちの少なくとも1つを含み得る。以後、さらなる実施形態においてポリマーコーティングについて言及しないかもしれない。しかしながら、本明細書に記載された実施形態では、ポリマーコーティングが、ポリマー膜の表面の少なくとも一部に設けられ得る。
【0032】
さらに、少なくともポリマー膜に関する情報を表面処理デバイスへと提供すること102は、ポリマー膜の材料密度及びポリマー膜の表面原子密度のうちの少なくとも1つを提供することをさらに含み得る。さらに、少なくともポリマー膜に関する情報を表面処理デバイスへと提供することは、ポリマーコーティングの材料密度及びポリマーコーティングの表面原子密度のうちの少なくとも1つを提供することを含む、ポリマーコーティングに関する情報を表面処理デバイスへと提供することをさらに含み得る。
【0033】
したがって、「材料密度」という用語は、ポリマー膜又はポリマーコーティングの単位体積当たりのポリマー膜又はポリマーコーティングに含まれるポリマーの質量のことを指す。本開示における材料密度は、ISO12154:2014に準拠したガス比重計の使用により決定され得る。さらに、ポリマーの材料密度は、例えば、ポリマー膜又はポリマーコーティングに含まれるポリマーのうちの少なくとも1つに関する情報を含むデータベース又はデータシートにおいて見出すことができる。
【0034】
さらに、「表面原子密度」という用語は、ポリマー膜又はポリマーコーティングの単位面積当たりのポリマー膜又はポリマーコーティングの表面上のポリマーの原子の数として理解するべきである。
【0035】
本明細書に記載された他の実施形態と組み合わせることができる幾つかの実施形態によれば、表面処理方法は、溶剤拭き取り及び/又は化学処理のさらなる処理を含み得る。したがって、溶剤拭き取りは、溶剤をポリマー膜の表面に塗布し、溶剤を任意の溶質(例えば、ワックス、油、及び/又は任意の他の低分子量汚染物質)と共にポリマー膜の表面から拭き取り除去することによって行われ得る。
【0036】
さらに、化学処理は、ポリマー膜の表面からの任意の汚染物質及び/又はポリマー膜と反応する化学物質をポリマー膜の表面に施すことによって行われ得る。化学処理の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むポリマー膜の表面上のエッチング処理、ポリエステルを含むポリマー膜の表面への苛性ソーダの添加、及びポリスチレンを含むポリマー膜の表面への硫酸の添加が含まれ得る。
【0037】
本明細書に記載された実施形態によれば、ポリマー膜及び/又はポリマーコーティングの表面原子密度を提供することができる。ポリマー膜の材料密度及びポリマー膜の表面原子密度、並びに/又はポリマーコーティングの材料密度及びポリマーコーティングの表面原子密度のうちの少なくとも1つは、アルゴリズムを用いて、ポリマー膜及びポリマーコーティングのうちの少なくとも1つに関する情報に基づいて、ポリマー膜及びポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの表面原子密度を計算することよって提供された情報によって得ることができる。したがって、本開示におけるポリマー膜及び/又はポリマーコーティングの表面原子密度は、材料密度に対して算術演算(例えば、加算、減算、除算、又は乗算)を適用することによって計算することができる。
【0038】
本明細書に記載された他の実施形態と組み合わせることができる幾つかの実施形態では、表面処理デバイスが調整される(図1のボックス103参照)。この調整は、情報に基づいて、イオンの放出、及び表面処理デバイス内でのポリマー膜の滞留時間のうちの少なくとも1つに基づき得る。調整は、アルゴリズムを用いて、ポリマー膜及び/又はポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの処理のためのイオン線量を計算することのうちの少なくとも1つをさらに含み得る。計算は、少なくとも放電電流、電極領域、及び滞留時間に基づき得る。さらなる計算は、ポリマー膜及びポリマーコーティングのうちの少なくとも1つの処理のためのイオンエネルギーを得るためのアルゴリズムによって実現し得る。さらに、調整は、追加的に又は代替的に、流れ方向での表面処理デバイスの少なくとも1つの寸法、及び流れ方向でのポリマー膜搬送速度に基づいて、表面処理デバイス内のポリマー膜の滞留時間を計算することと、処理ガスを選択することとを含む。
【0039】
よって、「放電電流」という用語は、電源によってプラズマ処理デバイスのプラズマ源に供給される電流のことを指す。「電極領域」という用語は、プラズマ源の一部であって、プラズマを生成するために使用される電極の領域のことを指す。「滞留時間」という用語は、ポリマー膜が表面処理デバイス内に留まる時間として理解するべきである。具体的には、「滞留時間」という用語は、プラズマが、表面処理デバイス内のポリマー膜又はポリマーコーティングの表面に印加される時間期間のことを指す。
【0040】
さらに、「イオン線量」という用語は、ポリマー膜又はポリマーコーティングの面積当たりにポリマー膜又はポリマーコーティングに印加されるプラズマからの正に帯電したイオンの数のことを指す。「イオンエネルギー」という用語は、プラズマからの正に帯電したイオンのエネルギーが、電子の電位が1ボルトずつ増加したときに電子が得るエネルギーと等価な量であると理解するべきである。「流れ方向での表面処理デバイスの寸法」という表現は、特にポリマー膜が表面処理デバイスへと流れる、基板の移動方向におけるプラズマ源の線形延長のことを指す。「流れ方向でのポリマー膜搬送速度」という表現は、ポリマー膜が表面処理デバイスへと流れる方向に、ポリマー膜が表面処理デバイスにおいて搬送される速度であると理解するべきである。
【0041】
本開示でポリマー膜及び/又はポリマーコーティングに印加されるイオン線量は、例えば、放電電流、電極領域、及び滞留時間のうちの少なくとも1つに対して算術演算(例えば、加算、減算、除算、又は乗算)を適用することによって計算することができる。同様に、本開示における表面処理デバイス内のポリマー膜の滞留時間は、流れ方向での表面処理デバイスの少なくとも1つの寸法、及び流れ方向でのポリマー膜搬送速度に対して、算術演算(例えば、加算、減算、除算、又は乗算)を適用するアルゴリズムを用いて計算することができる。
【0042】
したがって、ポリマー膜及び/又はポリマーコーティングの少なくとも1つの処理のためのイオン線量は、4×1014から6×1015イオン/cm、典型的には、6×1014から4×1015イオン/cm、より典型的には、8×1014から2×1015イオン/cmを含む。さらに、ポリマー膜及び/又はポリマーコーティングの少なくとも1つの処理のためのイオンエネルギーは、100eVから9000eV、典型的には、200eVから7000eV、より典型的には、400eVから5000eVを含む。
【0043】
表面処理デバイスは、プラズマ処理デバイスであり得る。プラズマ処理デバイスは、少なくとも電源及び処理ステーションを含み得る。さらに、処理ステーションは、少なくとも電極及びトリータ接地ロールを有するプラズマ源を備え得る。さらに、電源は、プラズマ処理デバイスのプラズマ源に電流を供給し得る。電源は、単極又は双極であってもよい。「単極」という用語は、正と負の2つの出力端子を有する電源のことを指す。「双極」という用語は、正、接地、及び負の3つの出力端子を有する電源のことを指す。
【0044】
さらに、電流は、低周波RF、高周波RF、MF、DC、及びACのうちの少なくとも1つであってもよい。「AC」及び「DC」という用語は、電源によってプラズマ源に印加される電流のことを指す。「AC」という用語は、交流電流のことを指し、電流の流れる方向は、時間に対して変化する。「DC」という用語は、直流電流のことを指し、電源を用いたプラズマ源への電流のすべての印加の間、電流は一定であり、電流の流れの方向は恒久的に定まる。「電流」という用語は、導体を通って移動する電子の連続的な流れのことを指し、導体の2つの異なって帯電した端部にわたる電位差によって生成され得る。
【0045】
さらに、「高周波」という用語は、電源を用いてプラズマ源に印加される電圧又は電流の振動変化のことを指す。さらに、「高周波」という用語は、「AC」という用語に関連する。「RF」という用語は、高周波のことを指し、100kHz超及び915MHz未満、典型的には、1MHz超及び900MHz未満の周波数に関する。「MF」という用語は、中周波のことを指し、16kHz超及び100kHz未満、典型的には、20kHz超及び50kHz未満の周波数に関する。
【0046】
本明細書に記載された他の実施形態と組み合わせることができる幾つかの実施形態によれば、プラズマ処理デバイスは、プラズマ源をみ得る。プラズマ源は、例えば、DC若しくはAC電流、高周波電流、マイクロ波放電、又は電子及び光子のビームを処理ガスに印加することで、電界を加えることによってプラズマを生成する。プラズマ処理デバイスは、グロー放電、二極マグネトロン、容量結合放電、誘導結合放電、マイクロ波放電、及び電子サイクロトロン共鳴のうちの少なくとも1つによってプラズマを生成するプラズマ源を含み得る。
【0047】
したがって、「グロー放電」という用語は、電流(典型的には、DC又は低周波RF)が処理ガスを通過することによってプラズマを生成するプラズマ源のことを指す。「グロー放電」という用語は、処理ガスを含む2つの電極間に電圧を印加することによってプラズマを発生させるプラズマ源のことも指す。「二極マグネトロン」という用語は、同一の電源(AC)に接続された2つのマグネトロンを使用することによって、プラズマを生成するプラズマ源のことを指し、この2つのマグネトロンは、それぞれ交互にカソードとアノードとして機能するように、互いに180°位相をずらしてパルス化され得る。「容量結合放電」という用語は、電流、典型的には、高周波RF、より典型的には、13.56MHzの電流が処理ガスを通過することによってプラズマを生成するプラズマ源であると理解するべきである。「誘導結合放電」という用語は、処理ガスを含む2つの電極の間に電圧を印加することによってプラズマを生成するプラズマ源のことを指しており、電極は、プラズマが形成されるチャンバの周囲に巻かれたコイルであり得る。
【0048】
さらに、「マイクロ波放電」という用語は、石英窓を通して処理ガスにマイクロ波放射を印加することによってプラズマを生成するプラズマ源のことを指しており、プラズマ源は、マグネトロンを含み得る。「電子サイクロトロン共鳴」という用語は、伝送線路を介した周波数2.45GHz及び0.0875Tの磁界強度のマイクロ波を処理ガスに印加することによって、プラズマを発生させるプラズマ源のことを指す。
【0049】
さらに、プラズマ処理デバイスは、真空プラズマ処理デバイス又は大気圧プラズマ処理デバイスであってもよい。真空プラズマ処理デバイスは、バッチ処理で使用することができる。真空プラズマ処理デバイスは、組み立てライン処理で使用することができる。「真空」という用語は、大気圧未満、典型的には、10torr未満の圧力のことを指す。
【0050】
処理ガスは、無機又は有機であってもよい。例として、無機処理ガスは、アルゴン、酸素、窒素、ヘリウム、及びネオンのうちの少なくとも1つ、典型的には、アルゴン、酸素、窒素、ヘリウムのうちの少なくとも1つ、より典型的には、アルゴン、酸素、及び窒素のうちの少なくとも1つを含み得る。例示的な有機処理ガスには、シラン、飽和炭化水素と不飽和炭化水素、及び芳香族化合物が含まれる。
【0051】
表面処理方法は、ポリマー膜の処理された表面を分析すること、及び/又は処理されたポリマーコーティングを分析することをさらに含み得る。したがって、ポリマー膜の処理された表面を分析すること、及び/又は処理されたポリマーコーティングを分析することは、ISO29862:2007に準拠する接着強度測定のためのテープ試験、フーリエ変換赤外線、紫外線、及びX線光電子分光法などの分光法、並びに接触角又は湿潤性の測定のうちの1つを使用することを含み得る。
【0052】
本開示に係る、表面処理されたポリマー膜は、ロールツーロール用途(R2R用途)に使用することができる。例えば、用途には、包装材料の製造、具体的には、食品包装、タッチパネルの用途、可撓性電子デバイスの用途、バリア膜の用途、超高バリア膜の用途、及び光学層(例えば、光学層スタック)の用途が含まれ得る。
【0053】
図2は、本明細書に記載された実施形態に係る、表面処理デバイス200の概略図を示す。
【0054】
本明細書に記載された他の実施形態と組み合わせることができる幾つかの実施形態によれば、表面処理デバイス200は、コンピュータ201、コントローラユニット202、電源203、及び処理ステーション204を含み得る。さらに、少なくともポリマー膜207に関する情報は、コンピュータ201を通して表面処理デバイスに供給され得る。コントローラユニット202は、少なくとも電源203を制御することができる。表面処理デバイス200は、プラズマ処理デバイスであり得る。プラズマ処理デバイスは、プラズマ源205を含み得る。電源は、プラズマ源205に電流を供給することができる。ポリマー膜207は、表面処理デバイス200を通して、流れ方向208(例えば、ローラー206上)で導かれ得る。
【0055】
以上の記述は、本開示の実施形態を対象としているが、本開示の基本的な範囲から逸脱することなく、本開示の他の実施形態及びさらなる実施形態が考案されてよく、本開示の範囲は、下記の特許請求の範囲によって決定される。
図1
図2