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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】リング状磁石組立体
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/487 20060101AFI20220421BHJP
   G01D 5/245 20060101ALI20220421BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
G01P3/487 Z
G01D5/245 110J
H01F7/02 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017243059
(22)【出願日】2017-12-19
(65)【公開番号】P2019109162
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久保 祐志
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-219193(JP,A)
【文献】特開平11-352201(JP,A)
【文献】特開平8-75500(JP,A)
【文献】実開昭53-157808(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第103883628(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00- 3/80
G01B 7/00- 7/34
G01D 5/00- 5/252
G01D 5/39- 5/62
H01F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状磁石と、非磁性のブッシュから構成され、前記リング状磁石は、内周面の一部に形成された平坦部を有し、前記非磁性のブッシュは、円環状の平板部と、前記平板部の内周面側端部から立設する円筒部と、前記円環状の平板部の一部を折り曲げて立設した一対の係止部と、前記円環状の平板部の外周面側端部の一部から立設する一対の屈曲部を有し、前記リング状磁石の一方の端面と前記ブッシュの平板部が面接触するとともに、前記リング磁石の内周面と前記ブッシュの円筒部の外周面が対向して、前記リング状磁石と前記ブッシュとが同軸に配置され、前記リング状磁石の平坦部と前記ブッシュの係止部とが面接触しており、前記リング状磁石が前記ブッシュの屈曲部によりカシメ固定されていることを特徴とするリング状磁石組立体。
【請求項2】
前記一対の係止部と前記一対の屈曲部は、前記平面部の径方向において直交して配置されていることを特徴とする請求項に記載のリング状磁石組立体。
【請求項3】
前記リング状磁石は、径方向に着磁されており前記屈曲部は前記リング状磁石の極間部に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載のリング状磁石組立体。
【請求項4】
前記リング状磁石はボンド磁石であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載のリング状磁石組立体。
【請求項5】
前記ボンド磁石はNd-Fe-B系であることを特徴とする請求項4に記載のリング状磁石組立体。
【請求項6】
前記ボンド磁石は嫌気性接着剤により表面処理されたものであることを特徴とする請求項5に記載のリング状磁石組立体。
【請求項7】
円環状の平板部と前記平板部の内周面側端部から立設する円筒部と、前記平板部の一部を円筒部側に折り曲げ形成された対向する一対の係止部と、前記対向する係止部の対向方向に対して直交する位置に前記平板部の外周面側端部から立設する一対の屈曲板を有するブッシュに対し、内周面側に対向配置される平坦部を有するリング状ボンド磁石の前記平坦部と前記係止部のそれぞれの一面が接するように、かつ前記ブッシュの前記平板部の円筒部側の面に前記ボンド磁石の一面が面接触するように載置し、さらに前記屈曲板をリング状ボンド磁石側に折り曲げることでカシメ固定してリング状ボンド磁石組立体とし、しかる後前記ボンド磁石組立体を嫌気性接着剤にて含浸処理することを特徴とするリング状磁石組立体の製造方法。

































【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ等に使用される磁石組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石により発生する磁界を用い、回転角や回転速度を測定する技術が知られている。
その際、回転時のヨークやブッシュと磁石のずれ(空回り)等を防ぐ種々の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-168046
【文献】特開2013-162740
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、厚さ方向が着磁方向であるリング磁石をバックヨークに接着固定するとともに、接着不良が発生した場合の空回り対策として、リング磁石外周面に設けた平面部と環状の保持部材に設けた爪片を面接触させて、リング状磁石とバックヨークを固定する技術を開示している。
この方法では、リング磁石はバックヨークに接着固定する必要があり、製造工程が複雑となることで、コストアップとなる。
特許文献2には、厚さ方向に着磁されたリング磁石の外周面側に複数の突起収容溝を設けるとともに、プレートに設けたベンディング突起を当該突起収容溝に折り曲げることで、接着なしにリング磁石をプレートに固定する技術を開示している。
この方法では、リング磁石の外周面に溝を設ける必要があり当該溝部に欠けが発生する虞があるとともに製造コストが増加する。
さらには、外周側に形成した溝は磁界を発生する部分としては使用できないため、リング磁石の半径方向の中心付近のみを使用することとなり、外周側の磁石は無駄となる。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、低い製造コストで磁石の回り止めをすることができる磁石組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リング状磁石と、非磁性のブッシュから構成され、前記リング状磁石は、内周面の一部に形成された一対の平坦部を有し、前記非磁性のブッシュは、円環状の平板部と、前記平板部の内周面側端部から立設する円筒部と、前記円環状の平板部の一部を折り曲げて立設した一対の係止部と、前記円環状の平板部の外周面側端部の一部から立設する屈曲部を有し、前記リング状磁石の一方の端面と前記ブッシュの平板部が面接触するとともに、前記リング磁石の内周面と前記ブッシュの円筒部の外周面が対向して、前記リング状磁石と前記ブッシュとが同軸に配置され、前記リング状磁石の平坦部と前記ブッシュの係止部とが面接触しており、前記リング状磁石が前記ブッシュの屈曲部によりカシメ固定されていることを特徴とするリング状磁石組立体である。
【0007】
本発明によれば、リング状磁石は非磁性のブッシュにカシメ固定のみで固定されるため、接着のみを目的とした工程は不要であり、工数がかからず、同時にブッシュに設けた係止部との間で回り止めを行えるので磁石組立体の信頼性が向上する。
【0008】
本発明は、前記一対の係止部と前記一対の屈曲部は、前記平面部の径方向において直交して配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、前記一対の係止部と前記一対の屈曲部は直交して配置されているので、回転時のバランスを保つことができる。
【0010】
本発明は、前記リング状磁石は、径方向に着磁されており前記屈曲部は前記リング状磁石の極間部に位置することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、屈曲部(カシメ部)はリング状磁石の極間部に位置するので、カシメ固定のためだけに磁石の部位を使用していない。よって磁石素材の無駄が発生しない。
【0012】
本発明は、リング状磁石としてボンド磁石を使用することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、リング状磁石としてボンド磁石を使用することで価格が安く、軽量な磁石組立体を提供することができる。
【0014】
本発明は、前記ボンド磁石はNd-Fe-B系であることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、前記ボンド磁石はNd-Fe-B系であることから高い磁気特性を有し、より小型で高性能な磁石組立体を提供することができる。
【0016】
本発明は、前記ボンド磁石は嫌気性樹脂により表面処理されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、前記ボンド磁石は嫌気性樹脂により表面処理されているので、低コストで必要な耐食性を得ることができる。
【0018】
本発明による磁石組立体の製造方法は、
円環状の平板部と前記平板部の内周面側端部から立設する円筒部と、前記平板部の一部を円筒部側に折り曲げ形成された対向する一対の係止部と、前記対向する係止部の対向方向に対して直交する位置に前記平板部の外周面側端部から立設する一対の屈曲板を有するブッシュに対し、内周面側に対向配置される平坦部を有するリング状ボンド磁石の前記平坦部と前記係止部の一面が接するように、かつ前記ブッシュの前記平板部の円筒部側の面に前記ボンド磁石の一面が面接触するように載置し、さらに前記屈曲板をリング状ボンド磁石側に折り曲げることでカシメ固定してリング状ボンド磁石組立体とし、しかる後に前記ボンド磁石組立体を嫌気性接着剤にて含浸処理することを特徴とするリング状磁石組立体の製造方法である。
【0019】
本発明によれば、リング状ボンド磁石組立体とした後に、嫌気性接着剤にて表面処理するので、高耐食性であり、かつカシメ固定に加え接着によりリング磁石とブッシュの固着が行われるため信頼性が高まる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低い製造コストで磁石の周り止めをすることができるリング磁石組立体を提供することができる。
また、カシメはリング磁石の磁極面の上をカシメ固定するので、カシメ固定のためだけに磁石の部位を使用することなく、磁石素材の無駄が発生しない。
また磁石の表面処理と磁石とブッシュの接着を同時に行うことも可能であり、表面処理だけの特別の工程が不要であるため製造工数の低減を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の磁石組立体の斜視図である。
図2】本発明の磁石組立体を組み立てる工程を示す斜視図である。
図3】本発明の磁石組立体を組み立てる工程を示す斜視図である。
図4】本発明の磁石組立体の平面図である。
図5図4のA-A断面図である。
図6図4のB-B断面図である。
図7】従来の磁石組立体を示す斜視図である。
図8】従来の磁石組立体を組み立てる工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図7は従来のリング状磁石組立体の斜視図、図8は従来のリング状磁石組立体を組み立てる様子を示した斜視図である。1は磁石組立体であり、リング状の磁石2とブッシュ5からなる。
ブッシュ5は円環状の平板部3と、平板部3の内周面側端部から立設する円筒部4からなる。
リング状の磁石2の一方の端面とブッシュ5の平面部3とが面接触するとともに、リング状の磁石2の内周面とブッシュ5の円筒部4の外周面が対向して、リング状の磁石2とブッシュ5とが同軸に配置される。
リング状の磁石2はブッシュ5の平面部3と接着剤等によって固定される。
従来の磁石組立体では、接着によって磁石をブッシュに固定するため、接着工程に時間がかかりコストアップとなる。
【0023】
次に本発明の磁石組立体の構造及び組立方法について図を用いて説明する。
図1は、本発明の磁石組立体の斜視図、図2及び図3は磁石組立体を組み立てる工程を示す斜視図である。
図4はリング状磁石組立体の平面図、図5図4のA-A断面図であり、図6図4のB-B断面図である。
磁石組立体13は、リング状の磁石6とブッシュ8で構成されている。
リング状の磁石6は、内周面に、軸方向に平行な平坦部7を2か所有している。
2か所の(一対の)平坦部7は、径方向に対向する位置に配置され互いに平行となっている。
ブッシュ8は円環状の平面部9と、平面部の内周側端部から立設する円筒部10を有している。
平面部9には、平面部9の一部を略90度折り曲げて立設した係止部11が2か所形成されている。2か所の係止部11は、径方向に対向する位置に互いにその面が平行となるようにしてある。2か所の係止部11はそれぞれ、折り曲げられた平面部9の一部の一方面(折り曲げる前の平坦部9の上面)は、円筒部10の外周面に接触または近接している。折り曲げられた平面部9の一部の他方面(折り曲げる前の平坦部9の下面)は、円筒部10の軸方向に平行となっている。
さらに、平面部9には、平面部9の外周面側端部の一部から立設する屈曲部12(屈曲板12)が2か所形成されている。2か所の屈曲部12は、径方向に対向する位置に互いにその面が平行となるように形成されている。2か所の屈曲部12は、円筒部10が立設している方向と同じ方向に立設している。2か所(一対の)の屈曲部12は、平面部9に形成された2か所(一対の)の係止部11と径方向に直交する(一対の屈曲部12を結ぶ軸と一対の形成部11を結ぶ軸とが直交する)位置に配置されている。なお、屈曲部12は屈曲板12を折り曲げた状態を指すものであるが、便宜上、折り曲げる前の屈曲板12も屈曲板12と称し、屈曲部と屈曲板は同じ符号12で示す。
【0024】
本発明のリング状磁石組立体は次のような手順で組み立てる。
図2に示すように、リング状の磁石6の内周面に形成された一対の平坦部7とブッシュ8の平面部9に形成された一対の係止部11の周方向の位置が一致する様に、さらに磁石6の中心軸と、ブッシュ8の中心軸が一致する様に、磁石6をブッシュ8に配置する。この時、平坦部7と前記係止部11の前記他方面とを面接触させる。これによってリング状の磁石6を回り止めすることができる。
そして、図3に示すように屈曲板12を磁石6の端面に沿って折り曲げる(屈曲板を折り曲げて屈曲部12となす)。これによってリング状磁石6を物理的に(カシメ固定により)ブッシュ8に固定する。
【0025】
リング状の磁石6の着磁は、磁石単体でもブッシュに固定した後でも良いが、屈曲部12に磁極の中間部が来るように、言い換えると磁石内周面側の2か所の平坦部の外周面側に磁極がくるように着磁を行う。
着磁の一例は例えば図4に示すように径方向の2極着磁(図中右側がS極、左側がN極)を行えばよい。
本発明によればリング状磁石をブッシュに特別な接着工程を有しないでも固定することができるので、磁石組立体のコストダウンができる。また磁極間を非磁性体(屈曲部)でカシメ固定するので、磁極面で発する磁界への影響は少なく、回転体やセンサー用の磁石組立体として使用できる。
【0026】
本明細書においては径方向2極着磁のリング状磁石で説明したが、径方向2極にこだわる必要は無く、4極着磁を行っても良い。
その場合には、極間部の少なくとも2か所を屈曲部にて固定すればよい。
また屈曲部は本明細書では2ケ所としたが2ケ所以上の屈曲部を有していても良い。
【0027】
本発明に用いられるボンド磁石は例えばNdFeB系合金の磁性粉末に2%程度の樹脂を混合させた磁性粉末コンパウンドから製造される。その磁性粉末は急冷法で形成され粒径100μmであり形状は鱗片状をなしている。
ボンド磁石の成形は公知の金型を用い、公知の方法にて行えばよい。
【0028】
希土類系磁性粉末コンパウウンドを用いた場合の成形体の表面処理について説明する。
成形体の表面処理は、加圧含浸法を用いて、低粘度の嫌気性接着剤を染み込ませて放置する。放置後余分な接着剤を洗浄にて除去する。
言いかえると嫌気性接着剤を表面処理剤として使用する。
接着剤として嫌気性接着剤を使用しているので、磁石表層部近傍の接着剤のみが硬化するため、それ以外の空気に触れた余分な接着剤は洗浄にて容易かつ迅速に除去できる。
2%程度の樹脂を混合させた磁性粉末コンパウウンドを用いて成形体を作成した場合、樹脂量が少ないため成形体の表面に錆が発生する場合がある。よって、嫌気性接着剤にて表面処理を行うのが望ましい。
【0029】
前述の嫌気性接着剤による表面処理は、本発明のリング状磁石組立体を組み立てた後に行っても良い。
リング状磁石の一面はブッシュの平板部と接触しているため、接触部分の隙間に加圧含浸により入った嫌気性接着剤は硬化し、リング状磁石とブッシュの接着にも寄与する。
よってリング状磁石組立体を組み立てたのちに、嫌気性接着剤にて表面処理を行った場合には、リング状磁石は屈曲部によるカシメ固定に合わせ、接着によりブッシュに固着されるので回り止めの効果を高めることができる。
【0030】
磁性粉末としては、希土類系磁性粉末の他に、フェライト系磁性粉末あるいはSmFeN系磁性粉末等を使用することができる。
フェライト系磁性粉末やSmFeN系磁性粉末を用いリング状磁石を作製する場合には防錆のための表面処理を必ずしも施す必要は無い。
【0031】
なお開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0032】
1:磁石組立体(従来)
2:磁石(従来)
3:平板部(ブッシュ従来)
4:円筒部(ブッシュ従来)
5:ブッシュ(従来)
6:磁石(本発明)
7:平坦部(本発明)
8:ブッシュ(本発明)
9:平面部(本発明ブッシュ)
10:円筒部(本発明ブッシュ)
11:係止部(本発明ブッシュ)
12:屈曲板(屈曲部)(本発明ブッシュ)
13:磁石組立体(本発明)



























図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8