(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】熱電変換材料の製造方法及び熱電変換材料
(51)【国際特許分類】
H01L 35/24 20060101AFI20220421BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20220421BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
H01L35/24
H01L35/34
C08G61/12
(21)【出願番号】P 2018088068
(22)【出願日】2018-05-01
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】今榮 一郎
(72)【発明者】
【氏名】播磨 裕
(72)【発明者】
【氏名】片岡 裕貴
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122808(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/034258(WO,A1)
【文献】特開2010-107299(JP,A)
【文献】特開2000-299504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/24
H01L 35/34
C08G 61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される電解質を含有する溶液に、
チオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3-プロピルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-オクタデシルチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-クロロチオフェン、3-ヨードチオフェン、3-シアノチオフェン、3-フェニルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-ヘキシルオキシチオフェン、3-ヘプチルオキシチオフェン、3-オクチルオキシチオフェン、3-デシルオキシチオフェン、3-ドデシルオキシチオフェン、3-オクタデシルオキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、3,4-ジオクチルオキシチオフェン、3,4-ジデシルオキシチオフェン、3,4-ジドデシルオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-ブチレンジオキシチオフェン、3-メチル-4-メトキシチオフェン、3-メチル-4-エトキシチオフェン、ピロール、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-n-プロピルピロール、3-ブチルピロール、3-オクチルピロール、3-デシルピロール、3-ドデシルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジブチルピロール、3-ヒドロキシピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール、3-ブトキシピロール、3-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール、アニリン、2-メチルアニリン、及び、3-イソブチルアニリンからなる群から選択されるπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを溶解させて
電解酸化重合、又は、化学酸化重合によって重合する、
【化1】
(式1中、R
1、R
3及びR
4はそれぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、R
2は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基、Xは
-SO
3
H、-SO
3
Na、-SO
3
K、-COOH、-COONa、又は、-COOK、nは
100~10000の整数を表す。)
ことを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体モノマーとして、チオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3-アルキルチオフェン、ピロール又はアニリンを用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項3】
前記式1で表される電解質として、ポリプロピルスルホン酸メチルシロキサンを用いる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項4】
式2で表される電解質と
ポリチオフェン、ポリ-3-メチルチオフェン、ポリ-3-エチルチオフェン、ポリ-3-プロピルチオフェン、ポリ-3-ブチルチオフェン、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、ポリ-3-ヘプチルチオフェン、ポリ-3-オクチルチオフェン、ポリ-3-デシルチオフェン、ポリ-3-ドデシルチオフェン、ポリ-3-オクタデシルチオフェン、ポリ-3-ブロモチオフェン、ポリ-3-クロロチオフェン、ポリ-3-ヨードチオフェン、ポリ-3-シアノチオフェン、ポリ-3-フェニルチオフェン、ポリ-3,4-ジメチルチオフェン、ポリ-3,4-ジブチルチオフェン、ポリ-3-ヒドロキシチオフェン、ポリ-3-メトキシチオフェン、ポリ-3-エトキシチオフェン、ポリ-3-ブトキシチオフェン、ポリ-3-ヘキシルオキシチオフェン、ポリ-3-ヘプチルオキシチオフェン、ポリ-3-オクチルオキシチオフェン、ポリ-3-デシルオキシチオフェン、ポリ-3-ドデシルオキシチオフェン、ポリ-3-オクタデシルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジヒドロキシチオフェン、ポリ-3,4-ジメトキシチオフェン、ポリ-3,4-ジエトキシチオフェン、ポリ-3,4-ジプロポキシチオフェン、ポリ-3,4-ジブトキシチオフェン、ポリ-3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジオクチルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジデシルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジドデシルオキシチオフェン、ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン、ポリ-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、ポリ-3,4-ブチレンジオキシチオフェン、ポリ-3-メチル-4-メトキシチオフェン、ポリ-3-メチル-4-エトキシチオフェン、ポリピロール、ポリ-N-メチルピロール、ポリ-3-メチルピロール、ポリ-3-エチルピロール、ポリ-3-n-プロピルピロール、ポリ-3-ブチルピロール、ポリ-3-オクチルピロール、ポリ-3-デシルピロール、ポリ-3-ドデシルピロール、ポリ-3,4-ジメチルピロール、ポリ-3,4-ジブチルピロール、ポリ-3-ヒドロキシピロール、ポリ-3-メトキシピロール、ポリ-3-エトキシピロール、ポリ-3-ブトキシピロール、ポリ-3-ヘキシルオキシピロール、ポリ-3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール、ポリアニリン、ポリ-2-メチルアニリン、及び、ポリ-3-イソブチルアニリンからなる群から選択されるπ共役系導電性高分子とが静電相互作用で結合している、
【化2】
(式2中、R
1、R
3及びR
4はそれぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、R
2は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基、Yは
-SO
3
H、-SO
3
Na、-SO
3
K、-COOH、-COONa、又は、-COOKであって、
-SO
3
H、-SO
3
Na、又は、-SO
3
Kの場合には少なくとも一部が
-SO
3
-
を有し、
-COOH、-COONa、又は、-COOKの場合には少なくとも一部が
-COO
-
を有し
、nは
100~10000の整数を表す。
)
ことを特徴とする熱電変換材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料の製造方法及び熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換素子は、ゼーベック効果を利用して熱を電気に変換する素子であり、化石燃料を使用した際に生じる排熱などを電気に変換するエネルギー回収技術として注目されている。この素子に用いられる熱電変換材料として、これまで無機材料が中心に検討されてきた。しかしながら、200℃以下の中低温域の熱エネルギーを電気エネルギーに効率よく変換可能な材料が乏しいこと、希少元素や毒性元素を使用すること、柔軟性に欠けることなどの問題が指摘されている。
【0003】
上記の問題を鑑みて、近年では熱電変換材料として有機材料が注目されている(例えば、特許文献1~4)。
【0004】
熱電変換材料の有望な有機材料として、導電性高分子がある。これは、ポリチオフェンやポリピロールなどのπ共役系高分子を化学的或いは電気化学的に酸化或いは還元することにより、高分子内に正電荷或いは負電荷が注入されたものである。また、電気的中性を維持するために、対イオンがドーパントとして導入されている。すなわち、π共役系高分子を酸化した場合、分子内に正電荷が注入されるため、負電荷をもつ対アニオンがドーパントとして導入される。一方、π共役系高分子を還元した場合、分子内に負電荷が注入されるため、正電荷をもつ対カチオンがドーパントとして導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-98299号公報
【文献】特開2003-332638号公報
【文献】特開2000-323758号公報
【文献】国際公開第2014/034258号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでの熱電変換材料は、柔軟性に欠け、自立性膜としての特性に難があった。即ち、支持体等の表面に熱電変換材料を直接合成して作製し、その支持体等とともに利用しなければならないという制約があった。
【0007】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自立性膜として利便性に優れる熱電変換材料の製造方法及び熱電変換材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る熱電変換材料の製造方法は、
式1で表される電解質を含有する溶液に、
チオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3-プロピルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-オクタデシルチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-クロロチオフェン、3-ヨードチオフェン、3-シアノチオフェン、3-フェニルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-ヘキシルオキシチオフェン、3-ヘプチルオキシチオフェン、3-オクチルオキシチオフェン、3-デシルオキシチオフェン、3-ドデシルオキシチオフェン、3-オクタデシルオキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、3,4-ジオクチルオキシチオフェン、3,4-ジデシルオキシチオフェン、3,4-ジドデシルオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-ブチレンジオキシチオフェン、3-メチル-4-メトキシチオフェン、3-メチル-4-エトキシチオフェン、ピロール、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-n-プロピルピロール、3-ブチルピロール、3-オクチルピロール、3-デシルピロール、3-ドデシルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジブチルピロール、3-ヒドロキシピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール、3-ブトキシピロール、3-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール、アニリン、2-メチルアニリン、及び、3-イソブチルアニリンからなる群から選択されるπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを溶解させて
電解酸化重合、又は、化学酸化重合によって重合する、
【化1】
(式1中、R
1、R
3及びR
4はそれぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、R
2は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基、Xは
-SO
3
H、-SO
3
Na、-SO
3
K、-COOH、-COONa、又は、-COOK、nは
100~10000の整数を表す。)
ことを特徴とする。
【0009】
また、前記前駆体モノマーとして、チオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3-アルキルチオフェン、ピロール又はアニリンを用いることが好ましい。
【0010】
また、前記式1で表される電解質として、ポリプロピルスルホン酸メチルシロキサンを用いることが好ましい。
【0011】
本発明の第2の観点に係る熱電変換材料は、
式2で表される電解質と
ポリチオフェン、ポリ-3-メチルチオフェン、ポリ-3-エチルチオフェン、ポリ-3-プロピルチオフェン、ポリ-3-ブチルチオフェン、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、ポリ-3-ヘプチルチオフェン、ポリ-3-オクチルチオフェン、ポリ-3-デシルチオフェン、ポリ-3-ドデシルチオフェン、ポリ-3-オクタデシルチオフェン、ポリ-3-ブロモチオフェン、ポリ-3-クロロチオフェン、ポリ-3-ヨードチオフェン、ポリ-3-シアノチオフェン、ポリ-3-フェニルチオフェン、ポリ-3,4-ジメチルチオフェン、ポリ-3,4-ジブチルチオフェン、ポリ-3-ヒドロキシチオフェン、ポリ-3-メトキシチオフェン、ポリ-3-エトキシチオフェン、ポリ-3-ブトキシチオフェン、ポリ-3-ヘキシルオキシチオフェン、ポリ-3-ヘプチルオキシチオフェン、ポリ-3-オクチルオキシチオフェン、ポリ-3-デシルオキシチオフェン、ポリ-3-ドデシルオキシチオフェン、ポリ-3-オクタデシルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジヒドロキシチオフェン、ポリ-3,4-ジメトキシチオフェン、ポリ-3,4-ジエトキシチオフェン、ポリ-3,4-ジプロポキシチオフェン、ポリ-3,4-ジブトキシチオフェン、ポリ-3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジオクチルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジデシルオキシチオフェン、ポリ-3,4-ジドデシルオキシチオフェン、ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン、ポリ-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、ポリ-3,4-ブチレンジオキシチオフェン、ポリ-3-メチル-4-メトキシチオフェン、ポリ-3-メチル-4-エトキシチオフェン、ポリピロール、ポリ-N-メチルピロール、ポリ-3-メチルピロール、ポリ-3-エチルピロール、ポリ-3-n-プロピルピロール、ポリ-3-ブチルピロール、ポリ-3-オクチルピロール、ポリ-3-デシルピロール、ポリ-3-ドデシルピロール、ポリ-3,4-ジメチルピロール、ポリ-3,4-ジブチルピロール、ポリ-3-ヒドロキシピロール、ポリ-3-メトキシピロール、ポリ-3-エトキシピロール、ポリ-3-ブトキシピロール、ポリ-3-ヘキシルオキシピロール、ポリ-3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール、ポリアニリン、ポリ-2-メチルアニリン、及び、ポリ-3-イソブチルアニリンからなる群から選択されるπ共役系導電性高分子とが静電相互作用で結合している、
【化2】
(式2中、R
1、R
3及びR
4はそれぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、R
2は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基、Yは
-SO
3
H、-SO
3
Na、-SO
3
K、-COOH、-COONa、又は、-COOKであって、
-SO
3
H、-SO
3
Na、又は、-SO
3
Kの場合には少なくとも一部が
-SO
3
-
を有し、
-COOH、-COONa、又は、-COOKの場合には少なくとも一部が
-COO
-
を有し
、nは
100~10000の整数を表す。
)
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、自立性膜として利便性に優れる熱電変換材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(A)~(F)は、それぞれ実施例における電極から剥離した熱電変換材料A~Fを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(熱電変換材料の製造方法)
熱電変換材料の製造方法は、式1で表される電解質を含有する溶液に、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを溶解させて重合する。
【0015】
【0016】
式1で表される電解質は、正電荷或いは負電荷が注入されたπ共役系導電性高分子に導入されるドーパントとして作用する。式1中、R1、R3及びR4はそれぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基である。また、R2は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。上記のアルキル基、アルキレン基は、直鎖状のほか分岐状であってもよい。
【0017】
また、式1中、Xはスルホン酸残基、スルホン酸塩残基、カルボン酸残基、カルボン酸塩残基、又は、第四級アンモニウム塩残基である。また、nは1以上の整数を表し、例えば、100~10000である。
【0018】
スルホン酸残基として、-SO3H、スルホン酸塩残基として、-SO3Na、-SO3K、カルボン酸残基として、-COOH、カルボン酸塩残基として、-COONa、-COOK、第四級アンモニウム塩残基として、-N+(CH3)3・Cl-、-N+(CH3)3・ClO4
-などが挙げられる。
【0019】
式1中、Xがスルホン酸残基、スルホン酸塩残基、カルボン酸残基、又は、カルボン酸塩残基である場合、式1で表される電解質は、負電荷をもつ対アニオン(アニオン性ドーパント)として作用する。酸化重合によってπ共役系導電性高分子を合成する場合、高分子内に正電荷が注入されるので、電気的に不安定な状態となる。これを安定化させるべく、電気的中性を維持させるため、Xがスルホン酸基等である式1で表される電解質(アニオン性ドーパント)を用いる。この電解質として、ポリプロピルスルホン酸メチルシロキサンが挙げられる。
【0020】
一方、式1中、Xが第四級アンモニウム塩残基である場合、式1で表される電解質は、正電荷をもつ対カチオン(カチオン性ドーパント)として作用する。還元重合によってπ共役系導電性高分子を合成する場合、高分子内に負電荷が注入されるので、電気的に不安定な状態となる。これを安定化させるべく、電気的中性を維持させるため、Xが第四級アンモニウム塩残基等である式1で表される電解質(カチオン性ドーパント)を用いる。
【0021】
前駆体モノマーとして、チオフェン系モノマー、ピロール系モノマー、アニリン系モノマーが挙げられる。
【0022】
チオフェン系モノマーとしては、チオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3-プロピルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-オクタデシルチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-クロロチオフェン、3-ヨードチオフェン、3-シアノチオフェン、3-フェニルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-ヘキシルオキシチオフェン、3-ヘプチルオキシチオフェン、3-オクチルオキシチオフェン、3-デシルオキシチオフェン、3-ドデシルオキシチオフェン、3-オクタデシルオキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、3,4-ジオクチルオキシチオフェン、3,4-ジデシルオキシチオフェン、3,4-ジドデシルオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-ブチレンジオキシチオフェン、3-メチル-4-メトキシチオフェン、3-メチル-4-エトキシチオフェン、3-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン、3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェンなどが挙げられる。
【0023】
ピロール系モノマーとしては、ピロール、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-n-プロピルピロール、3-ブチルピロール、3-オクチルピロール、3-デシルピロール、3-ドデシルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジブチルピロール、3-カルボキシピロール、3-メチル-4-カルボキシピロール、3-メチル-4-カルボキシエチルピロール、3-メチル-4-カルボキシブチルピロール、3-ヒドロキシピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール、3-ブトキシピロール、3-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロールなどが挙げられる。
【0024】
アニリン系モノマーとしては、アニリン、2-メチルアニリン、3-イソブチルアニリン、2-アニリンスルホン酸、3-アニリンスルホン酸などが挙げられる。
【0025】
前駆体モノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
重合方法について、前駆体モノマーを重合可能であればその方法は問わず、電解酸化重合や電解還元重合、化学酸化重合など、種々の重合方法で行うことができる。
【0027】
例えば、電解酸化重合では、まず、溶媒に電解質を溶解させた溶液を調製する。溶媒として、電解質及び前駆体モノマーが溶解し、重合反応が可能であればどのような溶媒を用いてもよく、例えば、水、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、ジクロロメタン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0028】
この溶液に前駆体モノマーを溶解させる。そして、作用極としてITO(Indium Tin Oxide)、FTO(Fluorine-doped Tin Oxide)、白金或いはステンレス板、対極として白金線、参照極としてAg/Ag+或いはAg/AgClを用いて、通電することにより、作用電極の表面にて重合反応が生じ、膜状の熱電変換材料が生成する。
【0029】
なお、溶媒、電解質、及び、前駆体モノマーの配合比は特に限定されるものではなく、例えば、溶媒100質量部に対し、電解質を1~10質量部、前駆体モノマーを1~10質量部添加して行えばよい。
【0030】
(化学酸化重合)
上述した溶媒、電解質、前駆体モノマーを含有する溶液に、塩化鉄、スルホン酸鉄、パラトルエンスルホン酸鉄、ペルオキソ二硫酸塩などの酸化剤を加え、化学酸化重合することで、熱電変換材料を製造してもよい。
【0031】
上述の製造方法によって得られる熱電変換材料は、式2で表される電解質(ドーパント)の主鎖にそって、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェンなどのπ共役系導電性高分子が静電相互作用によって結合した形態をとる。なお、式2中、R1~R4及びnは上述した式1と同義である。また、Yはスルホン酸残基、スルホン酸塩残基、カルボン酸残基、カルボン酸塩残基又は第四級アンモニウム塩残基であって、スルホン酸残基又はスルホン酸塩残基の場合には少なくとも一部が式3で表される構造を有し、カルボン酸残基又はカルボン酸塩残基の場合には少なくとも一部が式4で表される構造を有し、第四級アンモニウム塩残基の場合には少なくとも一部が式5で表される構造を有している。式5中、R5~R7はそれぞれ独立して置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又はアリール基を表す。
【0032】
【0033】
【0034】
より具体的には、合成の過程において、式1で表される電解質のスルホン酸残基、スルホン酸塩残基、カルボン酸残基、カルボン酸塩残基、又は、第四級アンモニウム塩残基が一部カチオン化、又は、アニオン化する。このため、式2で表されるドーパントのシロキサン結合で延びる主鎖に式3、式4又は式5で表される構造を有しており、これらとπ共役系導電性高分子の正電荷又は負電荷を帯びた部位とが静電相互作用により結合している。例えば、ポリチオフェンの場合では正電荷を帯びた硫黄原子に式3又は式4のアニオンが静電相互作用で結合している。
【0035】
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などのπ共役系導電性高分子では、重合度が6~13程度など、オリゴマーになりやすい性質がある。このため、主鎖が長くなりにくく、短いセグメントに分かれており、製膜性が乏しいという問題が生じる。この問題を克服するために、従来では、低分子系電解質の代わりにC-C結合からなる主鎖が長い高分子電解質(例えば、ポリスチレンスルホン酸など)を用いてきた。しかしながら、C-C結合は、強固である一方、主鎖が動きにくく、柔軟性に劣るという特性を有する。このため、ポリスチレンスルホン酸などの主鎖がC-C結合からなる電解質を用いて得られる熱電変換材料では、柔軟性をもった自立性膜になり難い。
【0036】
一方、上述の製造方法によって得られる熱電変換材料は、主鎖がシロキサン結合(Si-O結合)からなる電解質を用いている。シロキサン結合では、C-C結合に比べ、主鎖が動きやすく柔軟性に優れている。このため、得られる熱電変換材料は、柔軟性に優れており、自立性膜としての特性を備えることになる。
【0037】
熱電変換材料の具体例として、式11~13で表される構造を有するものが挙げられる。なお、式11~13中、mは1以上の整数を表し、nは式1中のnと同義である。
【0038】
【実施例】
【0039】
(ポリプロピルスルホン酸メチルシロキサン(PSiPS)の合成)
2つ口フラスコに亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)(1.64g(13mmol))、蒸留水(14ml)、及び、エタノール(3ml)を加えた。
この溶液に(3-クロロプロピル)ジエトキシメチルシラン(2.32g(11mmol))を加えた。
80~90℃で24時間攪拌した後、室温まで冷却し、反応溶液をろ過した。
ろ液をエバポレーターで濃縮し、真空乾燥させて白色固体を得た。
この白色固体を蒸留水80mlに溶解させた溶液に、pHメーターを用いて溶液のpHをモニタリングしながら、陽イオン交換樹脂(Muromac C-501-H、室町ケミカル株式会社)を加えた。
pHが変化しなくなるまで陽イオン交換樹脂を加えた後、ろ過により陽イオン交換樹脂を除去した。
ろ液を90℃で24時間加熱して濃縮し、重合反応を促進させ、褐色透明粘性液体のPSiPSを得た。
【0040】
得られたPSiPSのNMRデータは以下のとおりである。
1H NMR (500 MHz, D2O) δ/ppm: 0.12 (m, 3H), 0.72 (br, 2H), 1.78 (br, 2H), 2.89 (t, 7.94 Hz, 2H).
【0041】
上記の合成の化学反応式を以下に示す。
【0042】
【0043】
(熱電変換材料の作製)
ピロール(0.1M)、及び、PSiPS(0.1M)を含有する水溶液(20mL)を、二電極セル(作用電極、対電極いずれもステンレス箔)に入れた。
そして、定電流(2mAcm-2)で15分間の電解酸化重合を行った。
重合終了後、作用電極上に析出した導電性高分子膜を蒸留水、エタノールで洗浄し、真空乾燥した。この導電性高分子膜を熱電変換材料A(式11で表される構造)と記す。
【0044】
また、上記ピロールの代わりにアニリン(50mM)を用い、また、三角波法による通電を行う以外、上記と同様の手順により、導電性高分子膜を合成した。この導電性高分子膜を熱電変換材料B(式12で表される構造)と記す。
【0045】
また、上記ピロールの代わりに3,4-エチレンジオキシチオフェン(50mM)を用いる以外、上記と同様の手順により、導電性高分子膜を合成した。この導電性高分子膜を熱電変換材料C(式13で表される構造)と記す。
【0046】
また、比較例として、PSiPSの代わりにポリスチレンスルホン酸(PSS)(0.1M)を用いる以外、上記と同様の手順により、導電性高分子膜を合成した。この導電性高分子膜を熱電変換材料Dと記す。
【0047】
また、比較例として、PSiPSの代わりにPSS(0.1M)、ピロールの代わりにアニリン(50mM)を用いる以外、上記と同様の手順により、導電性高分子膜を合成した。この導電性高分子膜を熱電変換材料Eと記す。
【0048】
また、比較例として、PSiPSの代わりにPSS(0.1M)、ピロールの代わりに3,4-エチレンジオキシチオフェン(50mM)を用いる以外、上記と同様の手順により、導電性高分子膜を合成した。この導電性高分子膜を熱電変換材料Fと記す。
【0049】
表1に、熱電変換材料A~Fの前駆体モノマー、及び、電解質の組み合わせを示す。
【0050】
【0051】
(膜の評価)
それぞれ作製した熱電変換材料A~Fを電極から剥離した。
図1に、電極から剥離した写真を示している。ドーパントとしてPSiPSを用いて作製した熱電変換材料A~Cでは、膜の形状を維持しており、自立性膜としての特性を備えていることがわかる。
【0052】
一方のPSSを用いて作製した熱電変換材料D~Fについて、熱電変換材料Dでは、丸まってしまった。また、熱電変換材料Eでは、ちぎれてしまった。また、熱電変換材料Fでは、剥離すると粉々になってしまった。このように、熱電変換材料D~Fでは、電極から剥離すると、いずれも自身の形状を維持できず、自立性膜としての特性がないことがわかる。
【0053】
続いて、電極から剥離した熱電変換材料A~Cについて、JIS K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル))に準拠して、マンドレル屈曲試験を行った。熱電変換材料A~Cそれぞれの試験片のサイズは約1cm2である。マンドレルの直径を5mm、4mm、3mm、2mmとし、5mmから2mmの順に試験を行った。
【0054】
その結果、熱電変換材料A~Cは、いずれの直径のマンドレルで行った場合でも、破断、ひび割れなどはなかった。以上の結果から、柔軟性も備えていることがわかる。
【0055】
(熱電変換特性の評価)
熱電変換材料A~Cの熱電変換特性を検証した。熱電変換材料の電気伝導度は、室温で抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP MCP-T610型、プローブ:QPP)を使用した四端針法により評価した。
一方、導電性高分子膜のゼーベック係数は、試験片の一端を加熱し、両端に生じる温度差と電位差をアルメル-クロメル熱電対で計測することで算出した。
導電性高分子膜のパワーファクター(PF)は以下の式から求めた。
PF=σS2(σ:電気伝導度[S/cm]、S:ゼーベック係数[μV/K])
【0056】
その結果を表2に示す。熱電変換材料A~Cはいずれも、熱電変換特性を備えていることがわかる。
【0057】
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、柔軟性に優れ、自立性膜としての特性を備える熱電変換材料が得られるため、ウエアラブルデバイスなど、柔軟性及び低温での熱電変換特性が要求される種々のデバイスへの利用が期待される。