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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】分析装置及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20220421BHJP
【FI】
G01N21/3504
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018183591
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2019066477
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017193619
(32)【優先日】2017-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 享司
(72)【発明者】
【氏名】福城 顕輔
(72)【発明者】
【氏名】太田 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】西村 克美
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-228042(JP,A)
【文献】特開2017-101950(JP,A)
【文献】特開2012-002799(JP,A)
【文献】特開昭53-088778(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090516(WO,A1)
【文献】特表2004-506941(JP,A)
【文献】米国特許第04251727(US,A)
【文献】米国特許第03588497(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第00457624(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルが導入される測定セルにパルス発振された光を照射して、前記サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析装置であって、
パルス発振される光源と、
前記光源により射出されて前記測定セルを通過した光を検出する光検出器と、
前記光検出器により得られた光強度信号から、前記光源のパルス発振の一部分に対応する信号を分離する信号分離部と、を備え、
前記信号分離部により分離された複数の信号を集めることにより1つの光吸収スペクトルとする分析装置。
【請求項2】
サンプルが導入される測定セルにパルス発振された光を照射して、前記サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析装置であって、
互いに異なるタイミングでパルス発振される複数の光源と、
前記光源により射出されて前記測定セルを通過した光を検出する光検出器と、
前記光検出器により得られた光強度信号から、前記光源のパルス発振の一部分に対応する信号を分離する信号分離部と、を備え
前記複数の光源は、順次パルス発振されるものであり、それぞれ異なる測定対象成分に対応した発振波長である、分析装置。
【請求項3】
前記信号分離部は、前記光強度信号から、前記光源のパルス発振の後半部分に対応する信号を分離するものである、請求項1又は2記載の分析装置。
【請求項4】
前記光源は、パルス発振用の駆動電流又は駆動電圧と波長変調用の駆動電流又は駆動電圧とにより、パルス発振されるとともに、発振波長が所定の周波数で変調されるものである、請求項1乃至3の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記信号分離部は、
前記光源のパルス発振の一部分に対応する信号をサンプルホールドするサンプルホールド回路と、
前記サンプルホールド回路により得られた信号をデジタル変換するAD変換器とを備える、請求項1乃至4の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項6】
前記信号分離部は、前記光強度信号から、前記光源のパルスオフ時の信号であるオフセット信号を分離する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項7】
前記複数の光源は、光が互いに重複しないようにパルス発振されるものである、請求項2、又は、請求項2を引用する請求項3乃至6の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記信号分離部は、前記光源毎のパルス発振のタイミングと同期したタイミングで、前記光強度信号から前記光源毎の信号を分離する、請求項2、又は、請求項2を引用する請求項3乃至7の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項9】
サンプルが導入される測定セルにパルス発振された光を照射して、前記サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析方法であって、
光源をパルス発振させて前記測定セルに光を照射し、光検出器により前記測定セルを通過した光を検出し、前記光検出器により得られた光強度信号から、前記光源のパルス発振の一部分に対応する信号を分離し、分離した複数の信号を集めることにより1つの光吸収スペクトルとする分析方法。
【請求項10】
サンプルが導入される測定セルにパルス発振された光を照射して、前記サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析方法であって、
複数の光源を互いに異なるタイミングで順次パルス発振させて、それぞれ異なる測定対象成分に対応した波長の光を前記測定セルに照射し、光検出器により前記測定セルを通過した光を検出し、前記光検出器により得られた光強度信号から、前記光源のパルス発振の一部分に対応する信号を分離する分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガスの成分分析等に用いられる分析装置及び分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザを用いた分析装置としては、特許文献1に示すように、波長変調方式(または周波数変調方式ともいう)のレーザガス分析計が考えられている。このレーザガス分析計は、半導体レーザへの注入電流を変調させて、半導体レーザの発振波長を掃引し、ガスに含まれる測定対象成分の吸収スペクトルを得て、濃度定量を行う分析手法(TDLAS: Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy)を用いたものである。また、このレーザガス分析計は、その検出感度を上げるために、波長掃引を行う電流変調の周波数よりも十分に高い周波数で小さな振幅の電流変調を加え、その周波数の2倍の周波数でロックイン検出した信号によりスペクトルを取得し、濃度定量を行っている。
【0003】
そして、この分析装置において、半導体レーザとしてパルス発振型のものを用いることにより、疑似連続発振させて分析するもの(疑似連続発振方式)が考えられている。この疑似連続発振方式は、パルス発振型の半導体レーザをなるべく短いパルス幅(例えば数10ns程度)で発振させ、パルス発振の繰り返し周期よりも十分遅く、かつ注入電流の変調周期よりは十分速い応答時間を有する光検出器で受光することによって、結果的に連続発振型の半導体レーザを用いた場合と同様の光強度信号を得て分析するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-47677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この疑似連続発振方式の分析装置においては、例えば数10ns程度の短いパルス幅であっても当該パルス内での過渡的な温度変化による波長変化が起こり、結果的に連続発振型レーザを用いる場合に比べて、得られるスペクトルの波長分解能が低下して分析性能が悪くなってしまう。
【0006】
ここで、疑似連続発振方式において波長分解能の低下を抑制するためには、パルス幅を短くすることが考えられる。ところが、パルス幅を短くすればするほど半導体レーザを駆動させるドライバ基板には高度な技術が必要となってしまい、その分コストも上がってしまう。
【0007】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、例えば疑似連続発振方式の分析装置において、パルス幅を短くすることなく波長分解能の低下を抑制することをその所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る分析装置は、サンプルが導入される測定セルにパルス発振された光を照射して、前記サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析装置であって、パルス発振される光源と、前記光源により射出されて前記測定セルを通過した光を検出する光検出器と、前記光検出器により得られた光強度信号から、前記光源のパルス発振の一部分に対応する信号を分離する信号分離部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る分析方法は、サンプルが導入される測定セルにパルス発振された光を照射して、前記サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析方法であって、光源をパルス発振させて前記測定セルに光を照射し、光検出器により前記測定セルを通過した光を検出し、前記光検出器により得られた光強度信号から、前記光源のパルス発振の一部分に対応する信号を分離することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、光源をパルス発振させて測定セルに光を照射し、光検出器により得られた光強度信号から光源のパルス発振の一部分に対応する信号を分離するので、パルス発振のパルス幅が波長分解能に直接影響を与えず、パルス幅を短くすることなく波長分解能の低下を抑制することができる。その結果、従来の疑似連続発振方式に比べ、波長分解能を大きく向上させることができる。また、波長分解能の低下を防ぐために、短いパルス幅にする必要がないため、光源を駆動させるドライバ基板に必要な技術の難度が下がり、その分コストも下がる。
【0011】
光源として用いられる半導体レーザでは、パルス発振させた場合に温度変化が生じ、波長変化が生じる。この過渡的な温度変化(波長変化)はパルス発振の後半になるほど緩やかになるため、この部分の信号を分離することにより、波長分解能が向上する。このため、前記信号分離部は、前記光強度信号から、前記光源のパルス発振の後半部分に対応する信号を分離することが望ましい。この構成であれば、パルス発振のパルス幅を比較的広くし(例えば100ns程度)、サンプリングポイントをできるだけパルスの後ろの時間に設定することで(例えば、パルス発振後の85~95ns時点)、従来の疑似連続発振方式に比べ、波長分解能を大きく向上させることができる。
【0012】
前記光源は、パルス発振用の駆動電流又は駆動電圧と波長変調用の駆動電流又は駆動電圧とにより、パルス発振されるとともに、発振波長が所定の周波数で変調されるものであることが望ましい。具体的に光源は、疑似連続発振されるとともに、電流変調による温度変化を発生させて発振波長が掃引されるものであることが望ましい。この構成であれば、疑似連続発振は連続発振に比べて光源の消費電力が小さく排熱処理も容易となり、さらに光源の長寿命化もできる。
【0013】
信号分離部を簡単な構成により実現するためには、前記信号分離部は、前記光源のパルス発振の一部分に対応する信号をサンプルホールドするサンプルホールド回路と、前記サンプルホールド回路により得られた信号をデジタル変換するAD変換器とを備えることが望ましい。ここで、サンプルホールド回路によりパルス発振の一部分に対応する信号を分離しているので、AD変換器は処理速度の遅いものであってもよい。
【0014】
前記信号分離部は、前記光強度信号から、前記複数の光源のパルスオフ時の信号であるオフセット信号を分離することが望ましい。この構成であれば、光検出器のオフセット信号もパルス発振とほぼ同時に取得することができるので、外乱によるオフセット信号の変化を捉えることができ、精度の良い分析が可能となる。また、オフセット信号を取得するためにパルス発振型レーザなどの光源を停止させたり、光検出器に入る光を遮断するための遮光構造を設けたりする必要もない。
【0015】
複数の分析を短時間で行うためには、分析装置は、互いに異なるタイミングでパルス発振される複数の光源を備えており、前記複数の光源は、順次パルス発振されるものであることが望ましい。具体的には、1つの光源の1周期の間に、その他の光源それぞれの1パルスが含まれることが考えられる。
【0016】
信号分離部による信号の分離を容易にするためには、前記複数の光源は、パルス発振されたレーザ光が互いに重複しないようにパルス発振されるものであることが望ましい。
【0017】
信号分離部による信号の分離を容易にするためには、前記信号分離部は、前記光源毎のパルス発振のタイミングと同期したタイミングで、前記光強度信号から、前記光源毎の信号を分離することが望ましい。
【0018】
多成分同時計測を可能にするとともに、その信号処理を容易にするためには、前記複数の光源は、それぞれ異なる測定対象成分に対応したものであることが望ましい。具体的には、複数の光源は、それぞれ異なる測定対象成分に対応した発振波長を有するものである。
【発明の効果】
【0019】
以上に述べた本発明によれば、光源をパルス発振させて測定セルに光を照射し、光検出器により得られた光強度信号光源のパルス発振の一部分に対応する信号を分離しているので、パルス幅を短くすることなく波長分解能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る分析装置の全体模式図である。
図2】同実施形態における信号処理装置の機能ブロック図である。
図3】同実施形態における駆動電流(電圧)及び変調信号を示す図である。
図4】同実施形態におけるレーザ発振波長の変調方法を示す模式図である。
図5】疑似連続発振による測定原理を示す模式図である。
図6】同実施形態における複数の半導体レーザのパルス発振タイミング及び光強度信号の一例を示す模式図である。
図7】同実施形態の信号分離部の構成を示す模式図である。
図8】同実施形態のサンプルホールド回路の一例を示す図である。
図9】同実施形態における変調信号、光検出器の出力信号、測定結果の一例を示す時系列グラフである。
図10】変形実施形態の濃度計算を示すフローチャートである。
図11】変形実施形態の分析装置の要部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る分析装置100について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
この分析装置100は、排ガスなどのサンプルガス中に含まれる測定対象成分(ここでは、例えばCO、CO、NO、NO、NO、HO、SO2、CH、NHなど)の濃度を測定する濃度測定装置であり、図1に示すように、サンプルガスが導入される測定セル1と、当該測定セル1にレーザ光を照射する光源たる複数の半導体レーザ2と、測定セル1を透過したレーザ光の光路上に設けられて該レーザ光を受光する光検出器3と、当該光検出器3の出力信号である光強度信号を受信し、その値に基づいて測定対象成分の濃度を算出する信号処理装置4とを備えている。
【0023】
各部を説明する。
前記セル1は、前記測定対象成分の吸収波長帯域において光の吸収がほとんどない石英、フッ化カルシウム、フッ化バリウムなどの透明材質で光の入射・出射口が形成されたものである。このセル1には、図示しないが、ガスを内部に導入するためのインレットポートと、内部のガスを排出するためのアウトレットポートが設けられており、前記サンプルガスは、このインレットポートから当該セル1内に導入されて封入される。
【0024】
半導体レーザ2は、ここでは半導体レーザ2の一種である量子カスケードレーザ(QCL: Quantum Cascade Laser)であり、中赤外(4μm~10μm)のレーザ光をパルス発振するパルス発振型半導体レーザである。この半導体レーザ2は、与えられた電流(又は電圧)によって、発振波長を変調(変える)ことが可能なものである。なお、パルス発振が可能であり、発振波長が可変でさえあれば、他のタイプのレーザを用いてよく、発振波長を変化させるために、温度を変化させるなどしても構わない。
【0025】
光検出器3は、例えば、応答性がよいHgCdTe、InGaAs、InAsSb、PbSeなどの量子型光電素子を用いている。
【0026】
信号処理装置4は、バッファ、増幅器などからなるアナログ電気回路と、CPU、メモリなどからなるデジタル電気回路と、それらアナログ/デジタル電気回路間を仲立ちするADコンバータ、DAコンバータなどとを具備したものである。そして、信号処理装置4は、前記メモリの所定領域に格納した所定のプログラムに従ってCPUやその周辺機器が協働することによって、図2に示すように、半導体レーザ2の出力を制御する光源制御部5、光検出器3により得られた光強度信号から半導体レーザ2毎の信号を分離する信号分離部6、及び、信号分離部6により分離された半導体レーザ2毎の信号を受信し、その値を演算処理して測定対象成分の濃度を算出する信号処理部7等としての機能を発揮する。
【0027】
以下に各部5~7を詳述する。
光源制御部5は、複数の半導体レーザ2それぞれをパルス発振させるとともに、レーザ光の発振波長を所定の周波数で変調させるものである。また、光源制御部5は、複数の半導体レーザ2がそれぞれ異なる測定対象成分に対応した発振波長となるように制御するものであり、互いに同じ発振周期で且つそれらの発振タイミングが互いに異なるようにパルス発振する。
【0028】
具体的に光源制御部5は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって各半導体レーザ2の電流源(又は電圧源)を制御して、電流源(又は電圧源)の駆動電流(駆動電圧)をパルス発振させるための所定のしきい値以上とする。本実施形態の光源制御部5は、図3に示すように、各半導体レーザ2を、所定の周期(例えば0.5~5MHz)で繰り返される所定のパルス幅(例えば10~100ns、Duty比5%)のパルス発振で疑似連続発振(疑似CW)させるものである。
【0029】
また、光源制御部5は、図3に示すように、電流源(又は電圧源)の駆動電流(駆動電圧)を前記パルス発振用のしきい値未満である波長掃引用の値で所定周波数で変化させることにより温度変化を発生させてレーザ光の発振波長の掃引を行うものである。各半導体レーザにおけるレーザ光の発振波長は、図4に示すように、測定対象成分の光吸収スペクトルのピークを中心にして変調される。駆動電流を変化させる変調信号としては、三角波状、鋸波状又は正弦波状で変化するとともに、その周波数が例えば100~10kHzの信号である。なお、図3には、変調信号が三角波状で変化する例を示している。
【0030】
このように1つの半導体レーザ2を疑似連続発振させて光検出器3により得られる光強度信号は、図5のようになる。このようにパルス列全体で光吸収スペクトル(吸収信号)を取得することができる。
【0031】
また、光源制御部5は、複数の半導体レーザ2を互いに異なるタイミングでパルス発振する。具体的には、図6に示すように、複数の半導体レーザ2が順次パルス発振し、1つの半導体レーザ2におけるパルス発振の1周期内にその他の半導体レーザ2それぞれの1パルスが含まれる。つまり、1つの半導体レーザ2の互いに隣り合うパルス内にその他の半導体レーザ2それぞれの1パルスが含まれる。このとき、複数の半導体レーザ2のパルスは、互いに重複しないように発振される。
【0032】
信号分離部6は、光検出器3により得られた光強度信号から、複数の半導体レーザ2それぞれの信号を分離するものである。本実施形態の信号分離部6は、図7に示すように、複数の半導体レーザ2それぞれに対応して設けられた複数のサンプルホールド回路61と当該サンプルホールド回路61により分離された光強度信号をデジタル変換するAD変換器62とを有している。なお、サンプルホールド回路61及びAD変換器62は、複数の半導体レーザ2に共通の1つのものとしても良い。
【0033】
サンプルホールド回路61は、対応する半導体レーザ2の電流(又は電圧)制御信号と同期されたサンプリング信号により、半導体レーザ2のパルス発振のタイミングと同期したタイミングで、光検出器3の光強度信号から、対応する半導体レーザ2の信号を分離して保持する。サンプルホールド回路61の一例を図8に示すが、これに限られない。ここで、サンプルホールド回路61は、半導体レーザ2のパルス発振の後半部分に対応する信号を分離して保持するように構成されている。具体的には、サンプルホールド回路61のスイッチSWの開閉タイミングが、半導体レーザ2のパルス発振のタイミングと同期してパルス発振の後半部分に対応する信号を保持する。また、サンプルホールド回路61は、図6に示すように、前記後半部分(例えば80~90ns時点)における所定のサンプリングポイントで信号を分離する。この信号分離部6により分離された各半導体レーザ2の複数の信号を集めることにより1つの光吸収スペクトルとなり、1つの半導体レーザ2を疑似連続発振させた場合に得られる光吸収スペクトルよりも波長分解能の良いスペクトルを得ることができる。各半導体レーザ2ごとに得られた複数の光吸収スペクトルを時間平均して用いても良い。ここで、サンプルホールド回路61によりパルス発振の一部分に対応する信号を分離しているので、AD変換器62は処理速度の遅いものであってもよい。
【0034】
このように信号分離部6により分離された各半導体レーザ2の吸収スペクトルを用いて信号処理部7は、各半導体レーザ2に対応する測定対象成分の濃度を算出する。
【0035】
具体的に信号処理部7は、第1算出部71、周波数成分抽出部72、第2算出部73等からなる。
第1算出部71は、サンプルガスが封入され、その中の測定対象成分による光吸収が生じる状態での測定セル1を透過したレーザ光(以下、測定対象光ともいう。)の光強度と、光吸収が実質的にゼロ状態での測定セル1を透過したレーザ光(以下、参照光ともいう。)の光強度との比の対数(以下、強度比対数ともいう。)を算出するものである。
【0036】
より詳細に説明すると、前者、後者いずれの光強度も光検出器3により測定され、その測定結果データはメモリの所定領域に格納されるところ、第1算出部71は、この測定結果データを参照して強度比対数を算出する。
【0037】
しかして、前者の測定(以下、サンプル測定ともいう。)は、当然のことながら、サンプルガスごとに都度行われる。後者の測定(以下、参照測定ともいう。)は、サンプル測定の前後にいずれかに都度行ってもよいし、適宜のタイミングで、例えば1回だけ行い、その結果をメモリに記憶させて各サンプル測定に共通に用いてもよい。なお、サンプル測定及び参照測定では、いずれも上述した光源制御部5及び信号分離部6により各半導体レーザ2の吸収スペクトルが取得されて、各半導体レーザ2の強度比対数が算出される。
【0038】
なお、この実施形態においては、光吸収が実質的にゼロとなる状態とするために、測定対象成分の光吸収がみられる波長帯域において、光吸収が実質的にゼロとなるゼロガス、例えばNガスを測定セル1に封入しているが、その他のガスでもよいし、測定セル1内を真空にしても構わない。
【0039】
周波数成分抽出部72は、第1算出部71が算出した強度比対数(以下、吸光度信号ともいう。)を、変調周波数のn倍(nは1以上の整数)の周波数を有する参照信号でロックイン検波して、当該強度比対数から参照信号の有する周波数成分を抽出するものである。なお、ロックイン検波は、デジタル演算で行ってもよいし、アナログ回路による演算で行ってもよい。また、周波数成分の抽出は、ロックイン検波のみならず、例えばフーリエ級数展開といった方式を用いても構わない。
【0040】
第2算出部73は、周波数成分抽出部72による検波結果に基づいて、測定対象成分の濃度を算出するものである。
【0041】
次に、各部の詳細説明を兼ねて、この分析装置100の動作の一例を説明する。
【0042】
まず、光源制御部5が、前述したように、複数の半導体レーザ2を制御し、前記変調周波数で、かつ測定対象成分の吸収スペクトルのピークを中心に、レーザ光の波長を変調する。
【0043】
次に、オペレータにより又は自動的に、セル1内にゼロガスが封入されると、これを検知した第1算出部71は、参照測定を行う。
具体的には、ゼロガスがセル1に封入された状態での光検出器3からの出力信号を受信し、信号分離部6が各半導体レーザ2の信号に分離して、信号処理部7は、その値をメモリに格納する。この参照測定における各半導体レーザ2による信号の値、すなわち参照光強度を時系列グラフで表すと、図9(a)のようになる。すなわち、レーザの駆動電流(電圧)の変調による光出力の変化のみが光検出器3の出力信号に表れている。
【0044】
そこで、オペレータにより又は自動的にセル1内にサンプルガスが封入されると、第1算出部71は、サンプル測定を行う。具体的には、サンプルガスがセル1に封入された状態での光検出器3からの出力信号を受信し、信号分離部6が各半導体レーザ2の信号に分離して、信号処理部7は、その値を測定結果データ格納部に格納する。その値をメモリの所定領域に格納する。このサンプル測定における各半導体レーザ2による信号の値、すなわち測定対象光強度を時系列グラフで表すと、図9(b)のようになる。変調の半周期ごとに吸収によるピークが現れることがわかる。
【0045】
次に、第1算出部71は、各測定データを変調周期に同期させ、測定対象光の光強度と、参照光の光強度との強度比対数を算出する。具体的には、以下の式(数1)と均等な演算を行う。
【0046】
【数1】
ここで、D(t)は測定対象光強度、D(t)は参照光強度、A(t)は強度比対数(吸光度信号)である。この吸光度信号を時間を横軸にとってグラフに表すと図9(c)のようになる。
【0047】
なお、強度比対数の求め方としては、測定対象光強度と参照光強度との比を算出してからその対数を求めてもよいし、測定対象光の対数及び参照光強度の対数をそれぞれ求め、それらを差し引いても構わない。
【0048】
次に、周波数成分抽出部72が、強度比対数を変調周波数の2倍の周波数を有する参照信号でロックイン検波、すなわち、変調周波数の2倍の周波数成分を抽出し、そのデータ(以下、ロックインデータともいう。)を、メモリの所定領域に格納する。なお、測定対象光の対数と参照光強度の対数とをそれぞれロックイン検波したものを差し引くことによりロックインデータを得ても良い。
【0049】
このロックインデータの値が、測定対象成分の濃度に比例した値となり、第2算出部73が、当該ロックインデータの値に基づいて、測定対象成分の濃度を示す濃度指示値を算出する。
【0050】
しかして、このような構成によれば、何らかの要因でレーザ光強度が変動したとしても前述した強度比対数には、一定のオフセットが加わるだけで、波形は変化しない。したがって、これをロックイン検波して算出された各周波数成分の値は変化せず、濃度指示値は変化しないため、精度のよい測定が期待できる。
【0051】
その理由を詳細に説明すると以下のとおりである。
一般的に、吸光度信号A(t)をフーリエ級数展開すると、次式(数2)で表される。
なお、式(数2)におけるaが測定対象成分の濃度に比例する値であり、この値aに基づいて前記第2算出部73が測定対象成分の濃度を示す濃度指示値を算出する。
【0052】
【数2】
ここで、fは変調周波数であり、nは変調周波数に対する倍数である。
【0053】
一方、A(t)は、前記式(数1)とも表される。
【0054】
次に、測定中に何らかの要因でレーザ光強度がα倍変動した場合の、吸光度信号A’(t)は、以下の式(数3)のように表される。
【0055】
【数3】
【0056】
この式(数3)から明らかなように、A’(t)は、レーザ光強度の変動のない場合の吸光度信号A(t)に一定値である-ln(α)が加わるだけとなり、レーザ光強度が変化しても各周波数成分の値aは変化しないことがわかる。
【0057】
よって、変調周波数の2倍の周波数成分の値に基づいて決定している濃度指示値には影響はでない。
以上が、サンプルガスに測定対象成分以外の干渉成分が含まれていない場合の分析装置100の動作例である。
【0058】
次に、測定対象成分のピーク光吸収波長に光吸収を有する1又は複数の干渉成分(例えばHO)がサンプルガスに含まれている場合の本分析装置100の動作例について説明する。
【0059】
まず、原理を説明する。
測定対象成分と干渉成分の光吸収スペクトルは形状が違うため、それぞれの成分が単独で存在する場合の吸光度信号は波形が異なり、各周波数成分の割合が異なる(線形独立)。このことを利用し、測定された吸光度信号の各周波数成分の値と、あらかじめ求めた測定対象成分と干渉成分の吸光度信号の各周波数成分との関係を用いて、連立方程式を解くことにより、干渉影響が補正された測定対象成分の濃度を得ることができる。
【0060】
測定対象成分、干渉成分のそれぞれが単独で存在する場合の単位濃度当たりの吸光度信号をそれぞれA(t)、A(t)とし、それぞれの吸光度信号の各周波数成分をanm、aniとすると、以下の式(数4、数5)が成り立つ。
【0061】
【数4】
【0062】
【数5】
【0063】
測定対象成分、干渉成分の濃度がそれぞれC、Cで存在する場合の吸光度信号値A(t)は、各吸光度の線形性により、以下の式(数6)で表される。
【0064】
【数6】
【0065】
ここで、A(t)のfと2fの周波数成分をそれぞれa、aとすれば、上式(数6)より、以下の連立方程式(数7)が成り立つ。
【0066】
【数7】
【0067】
測定対象成分、干渉成分のそれぞれが単独で存在する場合の各周波数成分anm、ani(nは自然数、ここではn=1,2)は、あらかじめ、各スパンガスを流して求めておくことができるので、上式(数7)の連立方程式を解くという簡単かつ確実な演算により、干渉影響が取り除かれた測定対象ガスの濃度Cを決定することができる。
【0068】
上述した原理に基づいて分析装置100は動作する。
すなわち、この場合の分析装置100は、メモリの所定領域に、例えば事前にスパンガスを流して予め測定するなどして、測定対象成分及び干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの吸光度信号の周波数成分a1m、a2m、a1i、a2i(単独周波数成分)を記憶している。具体的には、前例同様、測定対象成分及び干渉成分それぞれにおいて、測定対象光強度と参照光強度とを測定して、それらの強度比対数(吸光度信号)を算出し、該強度比対数からロックイン検波するなどして前記周波数成分a1m、a2m、a1i、a2iを求め、これらを記憶する。なお、前記周波数成分ではなく、単位濃度当たりの吸光度信号A(t)、A(t)(単独対数強度比)を記憶して、前記式(数4)から周波数成分a1m、a2m、a1i、a2iを算出するようにしてもよい。
【0069】
そして、該分析装置100は、オペレータからの入力などによって、測定対象成分及び干渉成分を特定する。
【0070】
次に、前記第1算出部71が、前記式(数1)に従って強度比対数A(t)を算出する。
その後、周波数成分抽出部72が、強度比対数を前記変調周波数f及びその2倍の周波数2fを有する参照信号でロックイン検波して、各周波数成分a、a(ロックインデータ)を抽出し、メモリの所定領域に格納する。
【0071】
そして、第2算出部73が、前記ロックインデータの値a、a及びメモリに記憶された周波数成分a1m、a2m、a1i、a2iの値を前記式(数7)に当てはめ、あるいはこれと均等な演算を行って、干渉影響が取り除かれた測定対象ガスの濃度を示す濃度(又は濃度指示値)Cを算出する。このとき、各干渉成分の濃度(又は濃度指示値)Cを算出してもよい。
【0072】
なお、干渉成分が2以上存在すると想定し得る場合でも、干渉成分の数だけ、より高次の周波数成分を追加して、成分種の数と同じ元数の連立方程式を解くことで、同様に干渉影響が取り除かれた測定対象成分の濃度を決定することができる。
【0073】
すなわち、一般に測定対象成分と干渉成分を合わせてn種のガスが存在する場合、k番目のガス種のi×fの周波数成分を、aik、k番目のガス種の濃度をCとすると、以下の式(数8)が成り立つ。
【0074】
【数8】
【0075】
この式(数8)で表されるn元連立方程式を解くことで、測定対象成分及び干渉成分の各ガスの濃度を決定することができる。
【0076】
またnより大きい次数の高調波成分も追加して、ガス種の数より大きい元数の連立方程式を作り、最小二乗法で、各ガス濃度を決定してもよく、こうすることで、より測定ノイズに対しても誤差の小さい濃度決定が可能となる。
【0077】
ここで、測定対象成分と干渉成分を合わせてn種のガスについて各ガスの濃度を計算し、それら各ガスの濃度に所定の閾値以下の閾値以下成分がある場合には、当該閾値以下成分を除くガスについて各ガスの濃度を再計算することが考えられる。
【0078】
具体的には、図10に示すように、第2算出部73は、上記の式(数8)で表されるn元連立方程式を解いて、n種それぞれの濃度を計算する(S1)。そして、信号処理部7に設けられた判断部によって、各ガスの濃度に所定の閾値以下の閾値以下成分があるか否かを判断する(S2)。閾値以下成分がj種類ある場合には、第2算出部73は、当該閾値以下成分を除く(n-j)種類のガスについて上記の式(数8)と同様の考えた方に基づいて表される(n-j)元連立方程式各ガスの濃度を再計算する(S3)。これにより、存在するガス種について精度良くその濃度を計算することができる。これらの計算は、閾値以下成分が検出されなくなるまで又は所定回数、測定対象成分の濃度算出を繰り返す。
【0079】
また、閾値以下成分がないと判断された後の動作としては、例えば、算出された濃度に異常値があるか否かを判断する態様が挙げられる(S4)。S4において、異常値が含まれている場合は、第2算出部73が1つ前に計算した濃度に戻り(S5)、その1つ前に計算した濃度に異常値があるか否かを判断する。異常値が含まれていない場合には、その異常値が含まれていない濃度を出力する(S6)。
【0080】
本実施形態の分析装置によれば、複数の半導体レーザ2を互いに異なるタイミングでパルス発振させて測定セル1にレーザ光を照射し、光検出器3により得られた光強度信号から半導体レーザ2毎の信号を分離しているので、複数の半導体レーザ2を用いた複数の測定対象成分の分析を、1つの分析装置100により効率良く行うことができる。
【0081】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、半導体レーザ2の発振波長を変調するものであったが、半導体レーザ2の発振波長を固定したものであってもよい。
【0082】
また、前記実施形態では、半導体レーザ2を疑似連続発振させるものであったが、単にパルス発振させるものであってもよい。
【0083】
さらに、前記実施形態では、信号分離部6をアナログ電気回路(サンプルホールド回路61)を用いて構成したが、デジタル電気回路から構成してもよい。この場合、光検出器3からの光強度信号をAD変換器でデジタル信号にした後に、当該デジタル信号から各半導体レーザ2のパルス発振に同期したサンプル信号によりサンプリングして分離することが考えられる。
【0084】
その上、信号分離部6は、前記実施形態に加えて、光検出器3の光強度信号から、複数の半導体レーザ2のパルスオフ時の信号であるオフセット信号を分離するものであってもよい。そして、信号処理部7は、このオフセット信号を用いて、参照測定及びサンプル測定において光検出器3の光強度信号を補正する。このようなものであれば、光検出器3のオフセット信号もパルス発振とほぼ同時に取得することができるので、外乱によるオフセット信号の変化を捉えることができ、精度の良い分析が可能となる。また、オフセット信号を取得するために半導体レーザ2を停止させたり、光検出器3に入る光を遮断するための遮光構造を設けたりする必要もない。
【0085】
また、前記実施形態では、複数の光源は互いに同じ発振周期でパルス発振されるものであったが、それら光源の発振周期が互いに異なるものであってもよい。
【0086】
前記実施形態では、複数の半導体レーザを用いてサンプルガスに含まれる複数の測定対象成分の濃度を測定するものであったが、複数の半導体レーザを用いて、測定対象成分の濃度に加えてその他の測定項目を測定するものであってもよい。
【0087】
前記実施形態では複数の光源を備えるものであったが、1つの光源のみを有する構成であってもよい。この場合であっても信号分離部は1つの光源のパルス発振に同期して信号を分離する。
【0088】
また、サンプルガスは、排ガスのみならず大気などでもよいし、液体や固体でも構わない。その意味では、測定対象成分もガスのみならず液体や固体でも本発明を適用可能である。また、測定対象を貫通透過した光の吸光度のみならず、反射による吸光度算出にも用いることができる。
【0089】
同一の測定対象成分に対して互いに発振波長の異なる光源を用いて分析するようにしても良い。これにより情報量を増やして干渉影響をより一層低減することができる。
【0090】
光源も、半導体レーザに関わらず、他のタイプのレーザでもよいし、測定精度を担保するに十分な半値幅をもつ単波長光源であって、波長変調さえできるものなら、どのような光源を用いてもよい。
【0091】
前記実施形態ではサンプルホールド回路とAD変換器を有するものであったが、AD変換器がサンプルホールド機能を有するものであれば、サンプルホールド回路を設けない構成としても良い。
【0092】
前記実施形態では1つの光検出器によりサンプル測定及び参照測定を行っているが、図11に示すように、2つの光検出器31、32を用いて、一方の光検出器31をサンプル測定用とし、他方の光検出器32を参照測定用としても良い。この場合、ハーフミラ33により光源2からの光を分岐させる。また、参照測定の光路上に参照セルを配置しても良い。なお、参照セルには、ゼロガス又は濃度既知の基準ガスを封入することが考えられる。
【0093】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0094】
100・・・分析装置
1 ・・・測定セル
2 ・・・光源(半導体レーザ)
3 ・・・光検出器
6 ・・・信号分離部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11