(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】ケイ素と安定化リチウム金属粉末用の結合剤付きのアノード構造体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220421BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220421BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20220421BHJP
H01M 10/058 20100101ALN20220421BHJP
H01M 4/13 20100101ALN20220421BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/1393
H01M10/058
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2018536251
(86)(22)【出願日】2017-01-04
(86)【国際出願番号】 US2017012192
(87)【国際公開番号】W WO2017123443
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-12-26
(32)【優先日】2016-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ガオ
(72)【発明者】
【氏名】ロパーチン, セルゲイ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】リウ, エリック エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ジョシ, アジェ エム.
(72)【発明者】
【氏名】アイ, クオ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, ジーフイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ, フイ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, ドンハイ
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502006(JP,A)
【文献】特表2007-502002(JP,A)
【文献】国際公開第2012/099264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極構造体を作製する方法であって、
炭化水素溶媒、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びポリスチレン(PS)の結合剤溶液を形成することと、
前記結合剤溶液に安定化リチウム金属粉末を加えてスラリを形成することと、
前記スラリの薄膜を基板上に堆積することと、
前記薄膜及び基板を乾燥工程に供して前記電極構造体を形成することとを含み、
前記結合剤溶液中のSBRの濃度は、前記結合剤溶液の総重量に対して重量で0.1%と5%の間であり、前記結合剤溶液中のPSの濃度は、前記結合剤溶液の総重量に対して重量で0.1%と5%の間である、方法。
【請求項2】
前記薄膜を堆積することは、スロットダイ塗工法を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記安定化リチウム金属粉末を活性化するため、前記基板上の前記薄膜をカレンダー法に供することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基板が、グラファイトアノードである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板は、酸化ケイ素(SiO)アノードである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記炭化水素溶媒はキシレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
20℃における前記結合剤溶液の粘度は2.5センチポアズ(cp)以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記結合剤溶液中のSBRの濃度は、前記結合剤溶液の総重量に対して重量で0.1%と1%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記結合剤溶液中のPSの濃度は、前記結合剤溶液の総重量に対して重量で0.1%と1%の間である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記結合剤溶液中のSBRの濃度は0.5重量%であり、前記結合剤溶液中のPSの濃度は、前記結合剤溶液の総重量に対して0.5重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記安定化リチウム金属粉末の粒子がLi
2CO
3で被覆されている、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記乾燥工程が、前記電極構造体から前記炭化水素溶媒を蒸発させる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の電極構造体を、正極の電極構造体、前記正極の電極構造体と接触している第1の集電体、前記電極構造体と接触している第2の集電体、及び前記正極の電極構造体と前記電極構造体との間に位置するセパレータと連結することを含む、電池の形成方法。
【請求項14】
電極構造体を製造するための方法であって、
結合剤溶液中のSBRの濃度は、前記結合剤溶液の総重量に対して重量で0.1%と1%の間であり、前記結合剤溶液中のPSの濃度は、前記結合剤溶液の総重量に対して重量で0.1%と1%の間であり、かつ、前記結合剤溶液の粘度は、20℃において、2.5センチポアズ(cp)と4.8cpの間である、
スチレンブタジエンゴム(SBR)及びポリスチレン(PS)をキシレン中で溶解させることにより前記結合剤溶液を形成すること、及び
結合剤懸濁液を形成するように、前記結合剤溶液に安定化リチウム金属粉末(SLMP)を添加すること
により形成される
前記結合剤懸濁液を提供することと、
グラファイトアノード上に前記結合剤懸濁液の薄膜を堆積することと、
前記電極構造体を形成するように、前記薄膜及び前記グラファイトアノードを乾燥工程に供することと
を含む、方法。
【請求項15】
前記安定化リチウム金属粉末が、前記結合剤懸濁液の0.5から4重量%の量で存在し、かつ、残りが結合剤溶液である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に対する政府の権利
本発明は、契約番号第DE‐AC02‐05CH11231号に基づき、米国政府の支援を得てなされたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0002】
本開示の実施形態は、概して大容量のエネルギー貯蔵装置、及びエネルギー貯蔵装置部品に関する。具体的には、安定化リチウム金属粉末(例えば「SLMP」)を利用した処理を用いる、こうした大容量のエネルギー貯蔵装置及びエネルギー貯蔵装置部品の構成、及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、再充電可能な電池の一種であり、リチウムイオンが負極と正極の間を移動する。リチウムイオンは、放電中、電解質を通って負極から正極へと移動する。反対に、再充電中には正極から負極へと移動する。最も一般的には、負極はグラファイトから作られている。グラファイトは、非常に小さい体積の変化で固体電解質界面(SEI)層を形成するため、充放電サイクル中に安定していることから、最も好適である。
【0004】
現行のリチウムイオン電池技術は、携帯用電子デバイス及び電気自動車向け用途用として、エネルギー密度の増大および出力の増大という、需要の高まりに直面している。リチウムイオン電池の性能を向上させる目的で、集中的な取り組みが行われている。シリコン、ゲルマニウム、及びスズといった、高エネルギー密度の、合金型アノード材料を有する次世代のリチウムイオン電池は、大きな注目を集めてきた。これらの材料の制約は、不可逆的容量損失が大きい(セルの化学的構成に応じて20~40%)ことであり、その結果、初期のサイクル中のクーロン効率(CE)が低くなる。
【0005】
高出力の電池を設計しようとする努力の一環として、活物質粒子のサイズをナノスケールの寸法まで縮小することによって、電荷キャリアの拡散距離の短縮と、リチウムイオンの拡散係数の上昇と、その結果としての反応速度の向上とが促進され得る。しかし、ナノスケールの活物質粒子の使用は、典型的には、固体電解質界面(SEI)形成のための反応領域がより大きくなることによって、第1サイクルの不可逆的容量損失の増大につながる。この容量の非効率性を補償するため、余剰のカソード材料のローディングや、リチウム塩の高濃度化、リチウム犠牲塩、リチウムリッチなカソード材料、安定化リチウム金属粉末(「SLMP」)の塗布といった、多くの努力が行われてきた。しかし、高エネルギー貯蔵装置及び、高エネルギー貯蔵装置の形成方法の改良に対する必要性が、依然として存在している。
【発明の概要】
【0006】
本開示の実施形態は、概して大容量のエネルギー貯蔵装置、及びエネルギー貯蔵装置部品に関する。具体的には、安定化リチウム金属粉末(「SLMP」)を利用した処理を用いる、こうした大容量のエネルギー貯蔵装置及びエネルギー貯蔵装置部品の構成、及び製造方法に関する。一実施形態では、電極構造体を作製するための方法が提供される。本方法は、炭化水素溶媒、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びポリスチレン(PS)の結合剤溶液を形成することと、この結合剤溶液に安定化リチウム金属粉末(SLMP)を加えてスラリを形成することと、このスラリの膜を基板上に堆積することと、この膜及び基板を乾燥工程に供して電極構造体を形成することとを含む。
【0007】
別の実施形態では、安定化リチウム金属粉末(SLMP)懸濁液の形成方法が提供される。本方法は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びポリスチレン(PS)をキシレン中で溶解させて結合剤溶液を形成することと、この結合剤溶液にSLMPを加えてSLMP懸濁液を形成することとを含む。
【0008】
さらに別の実施形態では、電池を形成する方法が提供される。本方法は、電極構造体を形成することを含む。電極構造体は、炭化水素溶媒、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びポリスチレン(PS)の結合剤溶液を形成することと、この結合剤溶液に安定化リチウム金属粉末(SLMP)を加えてスラリを形成することと、このスラリの薄膜を基板上に堆積することと、この薄膜及び基板を乾燥工程に供して電極構造体を形成することとによって形成される。本方法は、電極構造体を、正極の電極構造体、正極の電極構造体と接触している第1の集電体、電極構造体と接触している第2の集電体、及び正極の電極構造体と負極の電極構造体との間に位置するセパレータと、連結することをさらに含む。
【0009】
本開示の上記の特徴を詳しく理解し得るように、上記で簡単に要約されている本実施形態のより詳細な説明が、実施形態を参照することによって得られてよい。一部の実施形態は、添付の図面に示されている。しかしながら、本開示は他の等しく有効な実施形態も許容しうるため、添付の図面は、本開示の典型的な実施形態のみを示しており、したがって、本発明の範囲を限定すると見なすべきではないことは、留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本書に記載の実施形態によって形成された電極構造体を有する、Li-ion電池構造体の一実施形態の断面図である。
【
図2】本書に記載の実施形態による電極構造体を形成する方法の一実施形態の概要を表すプロセスのフロー図である。
【
図3A】本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、グラファイト/NMCのフルセルの第1サイクルの電圧プロファイルを表すプロットである。
【
図3B】本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、グラファイト/NMCのフルセルの第1サイクルのサイクリング性能を表すプロットである。
【
図3C】本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、グラファイトのハーフセルの第1サイクルの電圧プロファイルを表すプロットである。
【
図3D】本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、グラファイトのハーフセルの第1サイクルのサイクリング性能を表すプロットである。
【
図3E】本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、NMCのハーフセルの第1サイクルの電圧プロファイルを表すプロットである。
【
図3F】本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP有りと無しの場合の、NMCのハーフセルの第1サイクルのサイクリング性能を表すプロットである。
【
図4A】本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、SiO/NMCのフルセルの第1サイクルの電圧プロファイルを表すプロットである。
【
図4B】本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、SiO/NMCのフルセルの第1サイクルのサイクリング性能を表すプロットである。
【0011】
理解が容易になるよう、可能な場合には、各図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用した。一実施形態の要素及び特徴は、さらなる記述がなくとも、他の実施形態に有益に組み込まれ得ると想定される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の開示で、安定化リチウム金属粉末(「SLMP」)及び、SLMP含有電極の形成方法について記載する。本開示の様々な実施形態を完全に理解させるため、特定の詳細が以下の記載及び
図1~4で提示される。様々な実施形態の記載を不必要に不明確化するのを避けるため、電極及びSLMPの形成にしばしば関連付けられる周知の構造及びシステムを表す他の詳細は、以下の開示では明記しない。
【0013】
図面に示す詳細、寸法、角度、及び他の特徴の多くは、具体的な実施形態の単なる例示に過ぎない。したがって、他の実施形態が、本開示の主旨及び範囲から逸脱することなく、他の詳細、構成要素、寸法、角度、及び特徴を有することが可能である。加えて、以下に記載の詳細のうちのいくつかがなくても、本開示のさらなる実施形態を実施することが可能である。
【0014】
SLMPは、典型的にはリチウム塩(例えばLi2CO3)の薄い層で被覆された、リチウム金属粒子である。この薄いリチウム塩の保護被覆によって、SLMPを乾燥した室内雰囲気中で扱うことが可能になり、それによって大いにSLMPの用途が拡張される。SLMPは、典型的には3600mAhg-1という非常に高い容量を有し、プレリチオ化効果を通じて、第1サイクルの容量損失を効果的に補償することが可能である。加えて、SLMPはいくつかの魅力的な用法を有している。第1に、SLMPはアノード電極、特に合金化アノードまたはナノスケールアノードをプレリチオ化して、SEI形成中のカソードからのリチウム損失を補償し、高エネルギー密度と高出力密度の電池を実現することができる。第2に、SLMPプレリチオ化は、Li‐ion電池の製造において、荷電形成プロセスに代替することができる。電池の性能にとって重大である良好的なSEI層を形成するためには、荷電形成プロセスが重大であることは、よく知られている。しかし、荷電形成プロセスは、エネルギーと時間の両方がかかるプロセスである。SLMPのローディングと活性化、及び48時間の静置のみを必要とするSLMPプレリチオ化プロセス中に、高品質のSEI層を形成することができる。第3に、SLMPは、還元された酸化グラフェン/Fe2O3化合物、V6O13、MnO2、及びBiF3といった金属フッ化物といった、高い比容量(specific capacity)を有する非リチオ化カソード材料中で、独立したリチウム源の役割を果たすことができる。これらの非リチオ化カソード材料は、非リチウム供与カソードであり、これらのうちのあるものは、Li-ion装置内でSLMPプレリチオ化アノードと連結されたときの、重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度が非常に高い。
【0015】
SLMPはLi-ion装置の用途において費用効率が良いことが証明されているが、アノード表面上におけるSLMPの取り扱いと塗布は、困難なものであり得る。SLMPプレリチオ化を実現するためには、SLMP表面上のリチウム塩保護層を破壊して、リチウム金属を露出し、リチウムとアノードの間の電気的接触を可能にする必要がある。したがって、SLMPの圧力活性化の実現性についてもまた考慮に入れる必要がある。かつてSLMPの効率的な活性化が研究され、グラファイト/NMCのフルセルで、第1サイクルの高いクーロン効率と、優れた長期サイクリング性能とが達成された。しかし、SLMP研究の必要性は、SLMPのプレリチオ化効果のメカニズムと潜在的な用途の研究にのみ限定されているのではなく、Li-ion装置用のより安全でより安価で且つスケーラブルなプロセスの実現にもまた該当するのである。SLMP塗工用のスプレー法は、典型的には、SLMPの分散を向上するために界面活性剤を用いる。この界面活性剤は、望ましくない副反応につながり得る。
【0016】
本開示のある実施形態では、溶液処理されたスロットダイ塗工法が提供され、この方法によって、アノード表面への均一でスケーラブルなSLMP塗工が達成される。ある実施形態では、より長期の処理時間中にわたって均一なSLMPの分散を支援且つ維持し、SLMPをアノード表面に固着させる結合剤の役割を果たすために、塗工溶液中にポリマー結合剤が取り入れられる。本書に記載の実施形態のうちのいくつかを用いることで、電極表面上に制御可能で均一なSLMP塗工が形成される。これらのSLMP塗工は、カレンダー圧力を印加することによって容易に活性化される。本開示のいくつかの実施形態によって達成されるSLMPのプレリチオ化効果は、グラファイト/NMCのフルセル、及びSiO/NMCのフルセルの、両方の電気化学的性能を通して実証される。
【0017】
図1は、本開示の実施形態によって形成された負極の電極構造体140を有する、Li-ion電池構造体100の一実施例を示す。Li-ion電池構造体100は、正極の集電体110、正極の電極構造体120、セパレータ130、負極の電極構造体140、及び負極の集電体150を有する。
図1で、集電体は、スタックを越えて伸びる必要はないが、スタックを越えて伸びるように示されており、スタックを越えて伸びている部分はタブとして使用され得るということは、留意されたい。
【0018】
正極の電極構造体120と負極の電極構造体上140にそれぞれ存在する集電体110と150は、同じ電子伝導体であり得るか、または異なる電子伝導体であり得る。集電体110、150を構成し得る金属の例は、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、スズ(Sn)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、これらの合金、及びこれらの組み合わせを含む。一実施形態では、集電体110、150のうちの少なくとも1つは、穿孔されている。さらに、集電体は、任意のフォームファクタ(例えば金属フォイル、シート、またはプレート)、形状、及びミクロ/マクロ構造のものでありうる。概して、角柱状セルでは、タブは、集電体と同一の材料で形成されており、スタックの製造中に形成され得るか、または後で付加され得る。集電体110及び150を除くすべての構成要素が、リチウムイオン電解質を含有している。
【0019】
負極の電極構造体140即ちアノードは、本書に記載の実施形態にしたがって形成される。負極の電極構造体140は、372mAh/g以上、好ましくは700mAh/g以上、最も好ましくは1000mAh/g以上のエネルギー容量を有していてよい。負極の電極構造体140は、炭素(例えばコークス、グラファイト)、ケイ素(例えば酸化ケイ素)、またはこれらの組み合わせを含み得る。負極の電極構造体140は、リチウム、ニッケル、銅、スズ、インジウム、それらの酸化物、またはそれらの組み合わせといった材料をさらに含み得る。負極の電極構造140は、本書で開示の1つ以上の実施形態による、SLMPを含む膜で塗工されている。
【0020】
正極の電極構造体120即ちカソードは、アノードと適合する任意の材料であってよく、層間(intercalation)化合物、挿入化合物、または電子化学的に活性があるポリマーを含んでいてよい。適切なインターカレーション材料の例は、例えば、リチウム含有金属酸化物、MoS2、FeS2、MnO2、TiS2、NbSe3、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、V6O13、V2O5、BiF3、及びFe2O3を含む。適切なポリマーは、例えば、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、及びポリチオフェンを含む。正極の電極構造体120即ちカソードは、コバルト酸リチウムといった層状酸化物、リン酸鉄リチウムといった橄欖石、またはマンガン酸リチウムといったスピネルからできていてよい。例示的なリチウム含有酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)といったように層状になっていてよいか、LiNixCo1-2xMnO2、LiNiMnCoO2(“NMC”)、LiNi0.5Mn1.5O4、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O2、LiMn2O4といったように混合金属酸化物であってよいか、またはドープされたリチウムリッチ層の層状材料であってよく、式中、xは0または非0の数である。例示的なリン酸塩は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、及び(LiFe(1-x)MgxPO4といった)その変種、LiMoPO4、LiCoPO4、LiNiPO4、Li3V2(PO4)3、LiVOPO4、LiMP2O7、またはLiFe1.5P2O7であってよく、式中、xは0または非0の数である。例示的なフルオロリン酸塩は、LiVPO4F、LiAlPO4F、Li5V(PO4)2F2、Li5Cr(PO4)2F2、Li2CoPO4F、またはLi2NiPO4Fであってよい。例示的なケイ酸塩は、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、またはLi2VOSiO4であってよい。例示的な非リチウム化合物は、Na5V2(PO4)2F3であってよい。
【0021】
本開示のある実施形態によると、リチウムは、例えば負極の電極構造体140にあるカーボングラファイト(LiC6)及び正極の電極構造体120にあるLiNiMnCoO2(「NMC」)の結晶構造の原子層内に含まれているが、ある実施形態では、負極の電極構造体140は、ケイ素、スズなどといったリチウム吸収材料もまた含んでいてよい。Li-ion電池構造体100は、平面構造体として示されているが、層のスタックを巻回することによって円筒形に形成されていてもよく、さらに、他のセル構成(例えば角柱状セル、ボタン状セル)も形成されてよい。
【0022】
一実施形態では、セパレータ130は、多孔性ポリマーイオン伝導性のポリマー基板である。ある実施形態では、多孔性ポリマー基板は、多層のポリマー基板である。ある実施形態では、セパレータ130は、任意の市販のポリマー微多孔膜(例えば単層または多層)、例えばPolypore(ノースカロライナ、シャーロットのCelgard LLC)の製品、東レ東燃の製品(バッテリーセパレータフィルム(BSF))、SKエネルギーの製品(リチウムイオンバッテリセパレータ(LiBS))、Evonikインダストリーズの製品(セラミックセパレータ膜のSEPARION(登録商標))、旭化成の製品(ポリオレフィンフラットフィルム膜のHipore(商標))、DuPontの製品(Energain(登録商標))などからなる。
【0023】
セル構成要素120、130、及び140内に注入された電解質は、液体/ゲルまたは固体のポリマーからなっていることができ、互いに異なっていてよい。ある実施形態では、電解質は、主として塩及び媒質を含む(例えば液体の電解質中ではこの媒質は溶媒と呼ばれてよく、ゲルの電解質中ではこの媒質はポリマーマトリクスと呼ばれてよい)。塩は、リチウム塩であってよい。リチウム塩は、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO3)3、LiBF6、及びLiClO4、BETTE電解質(ミネソタ州ミネアポリスの3M社から市販されている)、並びにこれらの組み合わせを含み得る。溶媒は、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、EC/PC、2‐MeTHF(2‐メチルテトラヒドロフラン)/EC/PC、EC/DMC(ジメチルカーボネート)、EC/DME(ジメチルエタン)、EC/DEC(ジエチルカーボネート)、EC/EMC(エチルメチルカーボネート)、EC/EMC/DMC/DEC、EC/EMC/DMC/DEC/PE、PC/DME、及びDME/PCを含み得る。ポリマーマトリクスは、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVDF:THF(PVDF:テトラヒドロフラン)、PVDF:CTFE(PVDF:クロロトリフルオロエチレン)、PAN(ポリアクリロニトリル)及びPEO(ポリエチレンオキシド)を含み得る。
【0024】
図2は、本書に記載の実施形態による電極構造体を形成する方法200の一実施形態の概要を表すプロセスのフロー図である。ある実施形態では、方法200によって形成される電極構造体は、
図1に示す負極の電極構造体140である。
【0025】
工程210において、結合剤溶液が形成される。ある実施形態では、結合剤溶液は、溶媒系中に溶解している1つ以上のポリマーを含む。一実施形態では、1つ以上のポリマーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリスチレン(PS)、及びこれらの組み合わせの中から選択される。一実施形態では、溶媒系は、キシレン、トルエン、またはこれらの組み合わせといった、炭化水素溶媒を含む。ある実施形態では、結合剤溶液は、キシレン中に溶解したスチレンブタジエンゴム(SBR)及びポリスチレン(PS)を含む。
【0026】
一実施形態では、結合剤溶液中のSBRの濃度は、結合剤溶液の総重量に対して約0.1重量%と約5重量%の間(例えば、約0.1重量%と約1重量%の間、約0.2重量%と約0.8重量%の間、約0.3重量%と約0.7重量%の間、約0.4重量%と約0.6重量%の間、または約0.5重量%と約1重量%の間)である。一実施形態では、結合剤溶液中のPSの濃度は、結合剤溶液の総重量に対して約0.1重量%と約5重量%の間(例えば、約0.1重量%と約1重量%の間、約0.2重量%と約0.8重量%の間、約0.3重量%と約0.7重量%の間、約0.4重量%と約0.6重量%の間、または約0.5重量%と約1重量%の間)である。一実施形態では、結合剤溶液中のSBRの濃度は約0.5重量%であり、結合剤溶液中のPSの濃度は、結合剤溶液の総重量に対して約0.5重量%である。一実施形態では、結合剤溶液中のSBRの濃度は約0.1重量%と約1重量%の間であり、結合剤溶液中のPSの濃度は、結合剤溶液の総重量に対して約0.1重量%と約1重量%の間である。一実施形態では、結合剤溶液中のPSとSBRの合計濃度は、結合剤溶液の総重量に対して約1重量%を超過しない。
【0027】
一実施形態では、20°Cにおける結合剤溶液の粘度は約2.5センチポアズ(cp)以上である。別の実施形態では、20°Cにおける結合剤溶液の粘度は約3.6センチポアズ(cp)以上である。さらに別の実施形態では、20°Cにおける結合剤溶液の粘度は約4.8センチポアズ(cp)以上である。さらに別の実施形態では、20°Cにおける結合剤溶液の粘度は、約2.5センチポアズ(cp)と約4.8cpの間である(例えば、20°Cにおいて約2.5cpと約3.6cpの間であるか、または20°Cにおいて約3.6cpと約4.8cpの間である)。
【0028】
工程220では、この結合剤溶液に安定化リチウム金属粉末が添加され、結合剤の懸濁液またはスラリが形成される。一実施形態では、安定化リチウム金属粉末は、リチウム塩の薄い層によって被覆されている。リチウム塩の例は、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、リン酸リチウム、またはこれらの任意の2つ以上の組み合わせを含む。ある実施形態では、安定化リチウム金属粒子上の被覆は、約10nmから約200nmの厚さである。ある実施形態では、安定化リチウム金属粒子の粒子サイズは、約150μm未満である。ある実施形態では、安定化リチウム金属粒子の粒子サイズは、約125μm、約100μm、約75μm、約50μm、約30μm、約20μm、約10μm、約5μm、約1μm、約100nm、または、これらの値のうちの任意の2つの間の任意の範囲であるか、もしくはこれらの値の任意のものよりも小さい。ある実施形態では、安定化リチウム金属粒子の粒子サイズは、約5μmと約150μmの間(例えば、約5μmから約50μm、または約100μmから約150μm)である。
【0029】
一実施形態では、安定化リチウム金属粒子は結合剤の懸濁液またはスラリの総重量の約0.1重量%から約5重量%の量で存在しており、典型的には、結合剤溶液がその残り(例えば、結合剤の懸濁液またはスラリの総重量の約95重量%から約99重量%の量)を占めている。一実施形態では、安定化リチウム金属粒子は、結合剤の懸濁液またはスラリの総重量の約0.5重量%から約4重量%の量で存在している。安定化リチウム金属粒子は、結合剤の懸濁液またはスラリの総重量に対して、約0.1重量%、0.2重量%、0.5重量%、約1重量%、約1.2重量%、約1.4重量%、約1.6重量%、約1.8重量%、約2重量%、約2.2重量%、約2.4重量%、約2.6重量%、約2.8重量%、約3重量%、約3.2重量%、約3.4重量%、約3.6重量%、約3.8重量%、約4重量%、約4.2重量%、約4.4重量%、約4.6重量%、約4.8重量%、約5.0重量%、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の任意の範囲の量で存在していてよい。
【0030】
一実施形態では、結合剤溶液は、結合剤の懸濁液またはスラリの総重量の約95重量%から約99.9重量%の量で存在している。結合剤溶液は、結合剤の懸濁液またはスラリの総重量に対して、約95.0重量%、約95.2重量%、約95.5重量%、約96重量%、約96.2重量%、約96.4重量%、約96.6重量%、約96.8重量%、約97重量%、約97.2重量%、約97.4重量%、約97.6重量%、約97.8重量%、約98重量%、約98.2重量%、約98.4重量%、約98.6重量%、約98.8重量%、約99.0重量%、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の任意の範囲の量で存在していてよい。
【0031】
一実施形態では、PS及びSBRが結合剤溶液の総重量に対して合わせて約1%の量で存在していて残りが溶媒であり、安定化リチウム金属粒子が結合剤の懸濁液またはスラリの総重量の約0.5重量%から約4重量%の量で存在していて残りが結合剤溶液である。
【0032】
工程230では、結合剤の懸濁液またはスラリが基板上に堆積され、基板表面上にフィルムが形成される。一実施形態では、結合剤の懸濁液またはスラリは、ドクターブレード法、浸漬塗工、スロットダイ塗工法、及び/またはグラビア塗工法を使用して堆積される。ある実施形態では、スラリは撹拌されて均一混合物となる。ある実施形態では、結合剤の懸濁液またはスラリは、基板上に堆積される前は、持続的に撹拌されている。ある実施形態では、結合剤の懸濁液またはスラリが堆積機構から放出される箇所とスラリが堆積される基板表面との間の距離は、100μmよりも大きい(例えば、約100μmから約500μm、約100μmから約300μm、または約200μmから約400μm)。
【0033】
工程240で、フィルムは乾燥工程に供される。フィルムは、結合剤溶液及び/または堆積工程から、残存している全ての溶媒を除去するために、乾燥工程に供され得る。一実施形態では、乾燥工程が、電極構造体から炭化水素溶媒を蒸発させる。乾燥工程は、限定しないが、例えば空気乾燥処理、多孔層の加熱窒素への暴露、赤外線乾燥処理、またはアニーリング処理といった乾燥工程を含み得る。
【0034】
工程250で、フィルムはSLMPを活性化する圧縮工程に供される。理論に束縛されるものではないが、圧縮工程によってSLMP上の保護リチウム塩被覆が破壊されることで、SLMPが活性化されることが確信されている。粒子が導電性基板上に堆積された後、層の表面を平坦化しながら圧縮粒子の所望の正味密度を達成するため、この粒子は、例えばカレンダー法といった物理的な圧縮技法を使用して圧縮されてよい。SLMPを十分に活性化し得る、任意の圧縮技法が使用されてよい。
【0035】
オプションで、電極構造体の形成後に、電極構造体をセパレータ及びカソード構造体と組み合わせることによって、電池が形成されてよい。本開示の実施形態による電極構造体を有するリチウムイオン電池は、
図1に概略的に示すLi-ion電池構造体100といった電池を形成するために、正極の電極構造体、セパレータ、及び集電体と組み合わされてよい。電極構造体の他の電池構成要素への組み込みは、電極構造体の製造に使用されるのと同じ製造設備内で行われてもよく、電極構造体が出荷され、組み込みが他の場所で行われてもよい。
【0036】
一実施形態では、電池の製造工程は、概して以下のように進行する。セパレータ、負極の電極構造体、及び正極の電極構造体が提供される。セパレータ、負極の電極構造体、及び正極の電極構造体が、セル用に所望のサイズのシートになるよう個別に裁断される。正極の電極構造体及び負極の電極構造体の裁断されたシートにタブが付け加えられる。正極の電極構造体及び負極の電極構造体の裁断されたシート、並びにセパレータが組み合わされて、電池セルが形成される。電池セルが巻回されるかまたは積層されて、所望の電池セル構成が形成され得る。電池セルは、巻回または積層後に缶内に置かれ、缶内から気体・液体が抜かれ、缶内が電解質で充填されて密封される。
【0037】
上記の電極構造体は、主に高エネルギーの充電式リチウム電池用に設計されているが、他の電池システムで使用されてもよい。
【0038】
実施例
【0039】
以下の非限定的な実施例は、本明細書に記載の実施形態をさらに説明するために設けられている。しかし、実施例は全てを包含することを意図しておらず、本書に記載の実施形態の範囲を限定することも意図していない。
【0040】
材料及び電極の製造
【0041】
グラファイトアノード混合物は、グラファイト(Conoco Phillipsから入手可能なCGP-G8グラファイト粉末)、カーボンブラック(デンカ株式会社から入手可能な「デンカブラック」)、及びポリフッ化ビニリデン(クレハアメリカから入手可能なPVDF)を含む。SiOアノードは、炭素被覆SiO(Hydro-Quebecから入手可能)、及びポリ(9,9‐ジオクチフルオレン‐コ‐フルオレン‐コ‐メチル安息香酸エステル)(本発明者らによって合成されたPFM)を含む。安定化リチウム金属粉末(SLMP(登録商標))は、FMCコーポレーションから入手した。リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)カソードは、Umicoreから入手した。N-メチル‐2‐ピロリドン(NMP)(無水、99.5%)、クロロベンゼン、トルエン、及びキシレンは、Sigma-Aldrich(登録商標)から入手した。ポリ(スチレン‐コ‐ブタジエン)(SBR)は、Sigma-Aldrich(登録商標)から入手した。分子量2,000,000のポリスチレン(PS)は、Alfa Aesarから入手した。
【0042】
アノードスラリは、89重量%のCGP-G8グラファイト粉末と、8重量%のPVDFと、3重量%のアセチレンブラック(AB)とからなっており、積層前にPolytron(登録商標)PT10-35ホモジナイザーを用いて均質化を行った。次に、グラファイトスラリが、ヨシミツ精機の真空塗工機上でミツトヨのドクターブレードを用いて塗工された。集電体は、18μm厚のバッテリーグレードの銅板であった。活物質の典型的な質量負荷は、6.5mg/cm2であった。NMPが乾燥した後、電極は、SLMPのローディング前に、真空オーブン内で130°Cで16時間、さらに乾燥された。クロロベンゼン中の95重量%のSiO粉末と5%のPFM導電性結合剤によってできているSiO積層に対しても、同一の撹拌手順及び塗工手順が適用された。SiOの典型的な質量負荷は、1.2mg/cm2であった。CGP-G8グラファイト用のカソード積層体は、85重量%のLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、8重量%のPVDF、及び7重量%のABであった。SiO用のカソード積層体は、90重量%のNCM-622、5重量%のPVDF(Solvayから入手可能なSolef(登録商標)5130)、及び5重量%のカーボンブラック(TIMCAL SUPER C45カーボンブラック)で、アルゴンヌ国立研究所によって作成された。
【0043】
SLMP塗工手順
【0044】
結合剤溶液は、キシレン中にSBRとPSを種々の重量比で溶解させることによって作成された。次に、SLMPが添加され結合剤溶液中で十分に分散されて、SLMPの重量比が0.5%(グラファイト用)及び2.0%(SiO用)であるSLMP懸濁液が形成された。ロードする量は、溶液中のSLMPの量を変更することによって制御された。次に、SLMP懸濁液を、ドクターブレード法によってアノード積層体に塗工した。積層体表面へのSLMPのローディングを制御するため、ドクターブレードの間隙もまた、調節可能であった。キシレンが乾燥した後、SLMP塗工された電極は、SLMPを活性化するため、回転押圧機(MTIコーポレーションから入手可能なEQ-MR100A)によってカレンダー加工された。次に、セルの組立てのため、積層が穿孔された。
【0045】
セル組立て及び試験
【0046】
BR2325型のコインセルを作製することによって、SLMPのプレリチオ化効果がテストされた(部品はカナダ国立研究機構より)。アルゴンが充填された、酸素混合率が0.2ppm未満のグローブボックス内で、SLMPがロードされたセルが組み立てられた。圧力活性化されたSLMP‐グラファイトとSLMP‐SiOが、アノードとして使用された。ハーフセル用の対電極は、11/16’’ODのリチウム金属ディスク(リチウム箔は、FMC-リチウム社から)であった。グラファイトのハーフセル用及びフルセル用の電解質は、BASFから購入した、体積比1:1のエチルカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)中の1MのLiPF6の溶液からなっていた。SiOのハーフセル用及びフルセル用の電解質は、BASFから購入した、フ30重量%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含む、重量比3:7のエチルカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)中の1MのLiPF6の溶液からなっていた。Celgard(登録商標)2400セパレータを、Celgard(登録商標)から入手した。Maccor,Inc.から入手可能なシリーズ4000セルテスターで、定電流サイクリング試験が実施された。グラファイトのハーフセルとSiOのハーフセルで、電圧ウインドウは0.01~1.0Vであった。サイクリングによってプレリチオ化が均衡に達する前に、圧力活性化されたSLMPを含むセルが、一定期間(2日間)開回路上で静置された。フルセルでは、カソードとアノードの容量面積の比率は、1:1であった。セルの容量は、カソードに基づいて計算された。
【0047】
材料の特性評価
【0048】
電極表面の形態が、ローレンス・バークレー国立研究所の分子工場(Molecular Foundry)の国立電子顕微鏡センター(NCEM)で、走査型電子顕微鏡JSM-7500Fを用いて、特性評価された。粘度は、Brookfield製のDV-E粘度計を介してテストされた。この試験は、23°Cの室温で実施された。
【0049】
結果
【0050】
溶液処理法用の溶媒
【0051】
本開示のある実施形態では、溶媒とSLMPとの間の適合性が重要である。過去の報告によると、SLMPは、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)といった、いくつかの極性溶媒と不適合である。ヘキサン、トルエン、及びキシレンといった炭化水素溶媒のみが、リチウム金属に対して安定性を有する。SLMPスラリ用の結合剤の選択に関しては、SLMPの研究で、ポリ(スチレン-コ-ブタジエン)(SBR)が使用されてきた。したがって、まず、SLMPのスラリ用の結合剤として、SBRが選択された。SBRとPSはどちらも、トルエン及びキシレン中で溶解して均一な溶液を形成することができる。結合剤溶液が、長期間にわたってSLMP懸濁液の均一性を維持する能力は、非常に重要である。したがって、より粘度の高い溶媒が好まれる。25°Cにおけるトルエンとキシレンの粘度は、それぞれ0.55cP及び0.61cPである。このことは、キシレンの方がトルエンよりもSLMPスラリを持続させる点でより良いはずであることを表している。しかし、純粋のトルエンとキシレンは、どちらもスラリ中のSLMPの分散を維持するのには十分に粘度が高くない。SLMPの密度が極端に低く、溶液の粘度が低かったため、SLMP粒子は、溶液の表面を浮遊しがちであった。加えて、SLMPがアノード表面に堆積した後、溶液が蒸発してから、SLMPは飛散してしまった。なぜならば、ポリマー結合剤が存在していないため、SLMPと積層表面との間に付着力が全く存在していなかったからである。こうして、溶液処理法にポリマー結合剤が取り入れられ、SLMP塗工に対するその効果がさらに調査された。
【0052】
SLMP懸濁液用の結合剤溶液の濃度/粘度
【0053】
SLMP塗工の溶液処理方法にポリマーが取り入れられたことによって、結合剤溶液の粘度が大きく上昇した。こうして、十分に分散されたSLMP懸濁液では、長い取扱時間にわたって均一な分散が維持されることが示された。取り入れられたポリマーが、溶媒が蒸発した後もSLMPをアノード表面に固着させる、結合剤の役割を果たすのである。結合剤として、SBR及びPSが選択された。SBRは、強力な粘着力を有しており、その粘着力でSLMPとアノード表面との間に良好な接着を提供する。種々のSBR濃度(0%、0.5%、1%、3%、及び5%)のポリマー溶液の、SLMP塗工に対する特性が、研究された。20°Cにおいて、0.5%、1%、3%、及び5%のSBR溶液の粘度は、それぞれ1.02cP、2.52cP、15.00cP、及び36.90cPであった。SLMPスラリに対する各結合剤溶液の持続性を実証するため、各SBR溶液中に同量のSLMPが分散された。スラリが撹拌され、0秒、30秒、及び120秒という種々の期間にわたってそれぞれ静置された後、写真画像が撮られた。ポリマー結合剤を添加することによって、溶液の粘度が効果的に上昇し、スラリ中のSLMPの均一な分散が維持されることが実証された。ポリマー結合剤溶液の濃度が高ければ高いほど、スラリ中のSLMPの分布の持続性が高まることも、また実証された。
【0054】
種々のSBR濃度によるSLMP塗工の形態及び分布が、SEMを用いて研究された。低倍率画像と高倍率画像のどちらにおいても、種々の濃度の間で顕著な差異が観察された。0.5%のSBRによる塗工に関しては、アノード表面に塗工されたSLMPはごくわずかであったことが観察された。これは、0.5%SBR溶液の粘度が低すぎる(1.02cP)ことと、リチウムとキシレンとの間の密度差が大きい(リチウムの密度が0.534g/cm3である一方、キシレンの密度は0.87g/cm3である)こととによる。その結果、SLMPのほとんどは、塗工プロセス中に塗工用懸濁液の表面に浮遊し、ドクターブレードの適用中にドクターブレードによって除去されたのである。SBR濃度が1%に引き上げられたとき、粘度は2.52cPに上昇し、SLMPの分布はスラリ中で120秒間持続して、アノード表面への均一なSLMP塗工が達成された。SBR濃度が3%及び5%に引き上げられると、SLMP塗工は均一であったが、積層表面に塗工されるSMLPの数は、1%のSBR溶液で塗工を実施した場合と比較して、大きく増加しなかった。こうして、SLMPスラリを持続させる能力が粘度の上昇とともに増大し、結合剤溶液の粘度が2.5cPよりも高いときに均一なSLMP塗工が達成されることが発見された。したがって以下の検討では、結合剤濃度は1%に設定される。均一な塗工と平易な圧力活性化を達成することに重点をおいて、さらなる取り組みが行われた。他のポリマー結合剤が使用されるときには、微調整が行われ得る。
【0055】
高効率の圧力/カレンダー活性化用の結合剤の種類
【0056】
本処理方法にポリマー結合剤が取り入れられたとき、活性化の実現可能性及び活性化プロセスの効率性が再評価された。5%のSBR結合剤によるSLMPのSEM画像を用いて、SLMP表面上のポリマーシェルが観察された。これに対して、1%の結合剤溶液ではポリマーシェルは全く観察されず、3%のSBRで塗工されたSLMPでは、ごくわずかのシェルが観察された。1つの懸念は、薄いポリマーシェルが圧力活性化のプロセスにマイナスの影響を与えるかどうかであった。したがって、SLMP塗工されたアノードのSEMの形態が、電解質の添加前と添加後とで研究され、このポリマーシェルの効果を実証するために、3%濃度のポリマー結合剤が使用された。
【0057】
SLMP塗工されたアノードに十分な圧力を印加することによって、SLMPのLi2CO3塗工の大部分が破砕されることが実証された。圧力活性化され、SLMP塗工されたアノードを電解質に48時間浸漬した後、このプレリチオ化されたアノードを、再びSEMで観察した。破砕されたSLMPは全て、画像表示から消失した。しかし、高倍率のSEM画像を通じてもっとよく見てみると、少数の未反応SLMP粒子が発見された。観察された偏円形の形態から、これらの粒子が圧力に曝されていたが、リチウムは電極と直接電気的に接触しておらず、リチウムはアノード及び電解質と反応しなかったということが示唆された。SBRは弾性が高いことで知られているため、シェルは、加圧下であっても有効に破壊されなかった。SLMP表面上のこのSBRシェルによって、リチウムコア、アノード、及び電解質間の電気的接触が防止され、不十分なSLMPの圧力活性化につながった。
【0058】
ポリマー結合剤シェルによって生じる非効率な活性化をなくすためには、2つの方法が存在した。第1に、結合剤濃度がより低いときには、完全なシェルを形成するチャンスはより少なかった。しかし、結合剤濃度がより低いことによって、SLMP分散の不均一性、持続性能の低さ、及びアノード表面への付着性の悪さなどといった、他の問題に帰結し得るのであった。第2に、この用途への代替物として、より弾性の低いポリマー結合剤が選択された。こうして、ポリスチレン(PS)が取り入れられた。転移温度(Tg)は、PSについては95°C、SBRについては‐65°Cである。このことは、PSの方がSBRと比べてより脆性が高くて破壊しやすく、それによって圧力活性化プロセスが助長され得ることを示している。さらに、高分子量のPSを利用することができるため、同じ濃度のSBR溶液と比べてより粘度の高いPS溶液を得ることが可能である。
【0059】
結合剤の組成を向上させて圧力活性化を容易にするため、3組の結合剤溶液(1重量%のPS、1重量%のSBR、及び0.5重量%のPS+0.5重量%のSBR)が導入された。グラファイト表面にSLMPをロードしたSEM画像について、カレンダー加工前、カレンダー加工後、並びに1%のPS、1%のSBR、及び0.5%のPS+0.5%のSBRの結合剤溶液で48時間、電解質に浸漬した後のものが得られた。1%のSBRの結合剤溶液で塗工したSLMPと、0.5%のPS+0.5%のSBRの結合剤溶液で塗工したSLMPについて、均一なSLMP塗工が観察された。SLMPは、カレンダー加工によってグラファイト表面上で破砕され、種々の結合剤溶液による複数のアノードは、同様の形態となった。カレンダー加工された電極が48時間にわたって電解質に浸漬された後、破砕されたSLMP粒子は、全てSEMの画像表示から消失した。1%のPS溶液で塗工したSLMPと、0.5%のPS+0.5%のSBR溶液で塗工したSLMPについては、高倍率のSEMで観察したところ、残留SLMPはほとんど観察されなかった。1%のSBR溶液については、2つの残留SLMPのみが観察された。このことから、ポリマー結合剤としてPSを部分的または全体的に使用した改良後の結合剤溶液は、高い圧力活性化効率を達成するために、プラスの効果を有することが示された。
【0060】
結合剤溶液によるSLMP塗工の均一性
【0061】
3つの結合剤溶液の持続性を調査するために、それぞれ1%のPSの溶液、1%のSBRの溶液、及び0.5%のPS+0.5%のSBRで、SLMPのスラリが作製された。1%のPSの結合剤溶液、1%のSBRの結合剤溶液、及び0.5%のPS+0.5%のSBRの結合剤溶液の粘度は、20°Cで、それぞれ4.83cP、2.52cP、及び3.60cPである。これによって、高分子量のPSがより高い粘度につながり得るという、さらなる証拠が提供された。0秒、30秒、及び120秒という種々の時間経過後の、SLMP懸濁液の写真画像が撮影された。3つの溶媒の全てにおいて、120秒よりも長く、SLMPが均一に分散していることが観察された。SLMPスラリの相分離は、5~6分後に観察可能になり始めた。これによって、ポリマー結合剤のこの組成が、均一に分散しているSLMP懸濁液を連続塗工手順で処理するための十分な時間を与えるということが示された。
【0062】
結合剤溶液(キシレン中の1%のPS、1%のSBR、0.5%のPS+0.5%のSBR)中でSLMPの塗工を実施するために、ドクターブレード法が実施された。種々の結合剤溶液を用いてSLMP塗工されたグラファイトアノードの写真画像が、均一なSLMP塗工と良好なSLMP付着を達成する能力を示すために使われた。3つの結合剤溶液が用いられたが、SLMPスラリの持続性は同程度であり、溶媒の蒸発前のSLMP塗工の外観は同様のものであった。1%のPSの結合剤溶液によるSLMP塗工は、電極表面への貧弱な付着を示した。溶液の蒸発後には、SLMP粒子のほとんどは、アノード表面に付着する代わりに端面に浮上しがちであった。しかし、1%のSBRの結合剤溶液と、0.5%のPS+0.5%のSBRの結合剤溶液では、溶媒の蒸発後に、均一なSLMP塗工とアノード表面へのSLMPの良好な付着が達成された。理論に束縛されるものではないが、この差異の原因は、PSの転移温度(Tg)が95°Cであり、SBRの転移温度が‐65°Cであることであると確信されている。ガラス転移点温度とは、それを下回る温度ではポリマーがガラス相であり、ポリマー構造が剛性を有するという温度である。したがって、室温(25°C)では、PSは脆性の高いガラス状態であり、柔らかい糊(glue)としての機能を果し得なかったが、SBRは柔らかく柔軟性のあるゴム状態であり、SLMPをアノード表面に固着させる良好な糊として機能し得た。SBRの化学構造が柔軟性に富んでいることが、SBR結合剤を用いたSLMPの良好な付着に寄与していると、確信されている。SBRを使用しない1%のPSの場合には、SLMPの付着が貧弱だったのは、PSの構造が剛性であったことによって生じたと確信された。この知識に基づいて、2つのポリマーが組み合わされ、混合結合剤溶液が形成された。柔軟性を持つSBRによって良好なSLMPの付着の達成が助長され得る一方、剛性を持つPSによって、より平易な圧力活性化が助長され得る。したがって、長く持続するSLMPスラリ、均一なSLMP塗工、SLMPの良好な付着、及び平易な活性化を実現するというのを全体的に考慮すると、結合剤と溶媒の組み合わせの最善の組成は、本処理方法による、キシレン中に0.5%のPS+0.5%のSBR結合剤を入れた溶液であることが確信され、また優れた塗工効果が観察された。
【0063】
グラファイト/NMCのフルセルにおけるプレリチオ化効果
【0064】
本書に記載の溶液処理法を使用して塗工されたSLMPのプレリチオ化効果を実証するために、2種類のセルの化学構造が使用された。これら2種類のセルの化学構造は、グラファイト/NMCのフルセルと、高エネルギー密度のSiO/NMCのフルセルを含む。グラファイト/NMCのフルセル及びグラファイトのハーフセルにおけるSMLPのプレリチオ化効果が、
図3A~
図3Fでプロットされている。
図3Aは、SLMPのプレリチオ化有りと無しの、グラファイト/NMCのフルセルに関する第1サイクルの電圧プロファイルを表すプロットである。3.5Vを下回る電圧領域では、SLMPのプレリチオ化無しのセルは充電容量を示している。これは、第1サイクルでSEIが形成されるグラファイトアノードのリチオ化に相当する。SLMPのプレリチオ化有りのセルでは、サイクリング前のプレリチオ化プロセスでSEIが形成されており、グラファイトは既に部分的にリチオ化されている。したがって、開回路電圧は3.5Vからスタートし、3.5Vよりも下では容量はほとんど示されない。SEI形成中のフルセル内のリチウムイオン損失は、SLMPを添加し、それによって第1サイクルのクーロン効率が87.8%にまで上昇することによって補償され得る。
図3Bから計算されるとおり、この87.8%の第1サイクルクーロン効率は、SLMPプレリチオ化無しのグラファイト/NMCセルの場合の82.35%よりも高い。加えて、SLMPのプレリチオ化によって、グラファイト/NMCのフルセルのサイクル安定性が大きく向上し得る。これは、フルセル内の不可逆的なリチウム損失の故障メカニズムが、SLMPから追加のリチウムイオンが加わることによって部分的に補償され得ることを示している。
【0065】
アノード上のSLMPのプレリチオ化効果は、
図3Cに示すように、グラファイトのハーフセルの電圧プロファイルでも観察することが可能である。SLMPプレリチオ化無しのハーフセルで見られる0.7~0.8Vにおける電圧プラトーは、リチオ化プロセスの開始時におけるSEIの形成を示している。
図3Cで実証されているように、SLMPプレリチオ化されたハーフセルの開始電圧は既に0.3Vよりも下に到達している。このことは、SLMPのプレリチオ化プロセスにおいてSEIの形成が実現していることのさらなる証明である。グラファイトのハーフセルとNMCのハーフセルのサイクル性能が、それぞれ
図3Dと
図3Fに示されている。併せて、
図3Eに示すように、参照用としてNMCのハーフセルの電圧プロファイルが示されている。
【0066】
SiO/NMCのフルセルにおけるプレリチオ化効果
【0067】
図4Aは、本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、SiO/NMCのフルセルの第1サイクルの電圧プロファイルを表すプロットである。
図4Bは、本開示の1つ以上の実施形態による、SLMP無しと有りの場合の、SiO/NMCのフルセルの第1サイクルのサイクリング性能を表すプロットである。SLMPのプレリチオ化は、40%~50%にも至る第1サイクルのクーロン損失によって、SiまたはSiOなどといった高エネルギー密度のアノードで、決定的に重要になっている。SLMPのプレリチオ化効果は、本書に記載の溶液処理法を使用して塗工されたSiO/NMCのフルセルによって実証されている。SiOアノードは、SiOナノ粒子(95重量%)と、導電性結合剤(PFM、5重量%)からなる。
図4Bに示すように、SLMPプレリチオ化されたフルセルにおいて、顕著な改善が観察された。本書に記載の処理方法によると、第1サイクルCEは、56.78%(SLMPプレリチオ化無し)から88.12%(SLMPプレリチオ化有り)へと上昇した。これは、フルセルの設計では、カソード内のリチウムイオンが、アノードの容量に合致するように正確に計算されており、余剰のリチウムイオンが多くは存在しないからである。最初の2~3サイクルにおけるSEIの形成で、余剰のリチウムイオンのほとんどは消費されてしまい、リチウムイオンの損失によって長期のサイクル性能が不利益を被る。加えて、SEI形成中のリチウムイオン消費は、グラファイトアノードよりもSiOアノードにおいてずっと大きい。したがって、SLMPのプレリチオ化が無い場合には、SiO/NMCのフルセルは、約110mAhg
-1の容量でスタートできるに過ぎず、100サイクル後には約80mAhg
-1まで低下した(カソード重量に基づく)。その一方、SLMPのプレリチオ化が有る場合には、SiO/NMCのフルセルは、100サイクルを超えて、約130mAhg
-1の可逆容量を維持した。したがって、フルセルのアノードにSLMP塗工がなされている場合、計算された量のリチウムイオンがシステムに加えられ、SEI形成中のリチウムイオン損失に対する補償が行われる。こうして、SiO/NMCのフルセルにおいて、サイクル実行可能性の顕著な向上が観察され得る。
【0068】
要するに、本開示のいくつかの実施形態によって、リチウムイオン電池のプレリチオ化のためにアノード表面に大面積で均一なSLMP塗工を実現する、簡便な溶液処理法が提供されるのである。本書に記載の結合剤溶液は、塗工処理を実施するためにスラリの均一な分布を持続させることが可能である。加えて、ポリマー結合剤を添加することによって、活性化前の移送を容易にするために、アノード表面にSLMPを固着することが可能になる。持続性、及び塗工性能、SLMPの付着、及び活性化の平易性を考慮すると、結合剤と溶媒の組み合わせの最善の組成は、本処理方法による、キシレン中に0.5%のPS+0.5%のSBRの結合剤を入れた溶液であり、卓越した塗工効果を得ることが可能である。本方法によるプレリチオ化効果は、グラファイトのハーフセルとグラファイト/NMCのフルセル、及びSiOのハーフセルとSiO/NMCのフルセル、のどちらにも適用され、SLMPのプレリチオ化が無い場合の各対応セルと比較して、サイクル性能の向上と第1サイクルのクーロン効率の向上が生じた。これらの結果は、本開示の方法がプラスの効果を有し、異なるセルの化学構造を有する種々のアノードシステムに対して広い適用可能性を有していることを実証している。
【0069】
本開示の要素または本開示の実施形態の例示的態様を紹介する際の冠詞“a”、“an”、“the”、及び“said”は、要素が1つまたは1つよりも多く存在することを意味することを意図している。
【0070】
「備える」「含む」及び「有する」という用語は、包含的であることを意図しており、列挙された要素以外にも追加的な要素があり得ることを意味する。
【0071】
全ての量、比率、割合、及び他の測定値は、別様の記載がない限り、重量によるものである。全てのパーセンテージは、別様の記載がない限り、本開示の実施に従った全組成物に対する重量パーセントを表す。
【0072】
以上の記述は本開示の実施形態を対象としているが、本開示の基本的な範囲から逸脱することなく本開示の他の実施形態及びさらなる実施形態が考案されてよく、本開示の範囲は、下記の特許請求の範囲によって決定される。