(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法及びポリビニルアルコール系フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220421BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20220421BHJP
B29C 71/00 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J7/00 A CEX
B29C71/00
(21)【出願番号】P 2021071295
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2020125646
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】網谷 圭二
(72)【発明者】
【氏名】安藤 卓也
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/054487(WO,A1)
【文献】特開2012-133296(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021432(WO,A1)
【文献】特開2017-102438(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052331(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C71/00
C08J 7/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら偏光フィルムを製造する方法であって、
長尺のポリビニルアルコール系フィルムを処理液中に浸漬する浸漬工程を備え、
前記浸漬工程において、前記ポリビニルアルコール系フィルムが前記処理液に浸漬される前後の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が、0.5%以下であ
り、
前記浸漬工程は、前記ポリビニルアルコール系フィルムに対する膨潤処理において行われ、
前記幅変化率は、式(1)によって算出され、
前記変動幅は、式(2)によって算出され、
前記膨潤処理では、前記変動幅が0.5%以下となるように、前記処理液の温度、浸漬時間、及び前記ポリビニルアルコール系フィルムに付与する張力のうちの少なくとも1つを調整する、
偏光フィルムの製造方法。
幅変化率=|(W2-W1)/W1|×100・・・(1)
変動幅=幅変化率の最大値-幅変化率の最小値・・・(2)
(式(1)中、W1[mm]は、前記処理液に浸漬される前の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅を表し、W2[mm]は、前記処理液に浸漬された後の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅を表す。式(2)中、幅変化率の最大値と幅変化率の最小値は、それぞれ前記幅変化率を60秒以上連続的に取得した際における値である)
【請求項2】
前記浸漬工程では、前記処理液への浸漬前後におけるニップロールを利用して一定の張力を付与しながら前記ポリビニルアルコール系フィルムを前記処理液中に浸漬する、
請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記浸漬工程では、前記処理液への浸漬前後におけるニップロールの回転速度比を一定に維持しながら前記ポリビニルアルコール系フィルムを前記処理液中に浸漬する、
請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
原反としての長尺のポリビニルアルコール系フィルムであって、
前記ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら、所定温度および所定浸漬時間を含む条件のもとで、水に浸漬させた場合において、前記浸漬の前後の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が0.5%以下であり、
前記所定温度は、15℃~40℃の範囲から選択された温度であり、
前記所定浸漬時間は、20秒~120秒の範囲から選択された浸漬時間であり、
前記幅変化率は、式(3)によって算出され、
前記変動幅は、式(4)によって算出される、
ポリビニルアルコール系フィルム。
幅変化率=|(W2a-W1a)/W1a|×100・・・(3)
変動幅=幅変化率の最大値-幅変化率の最小値・・・(4)
(式(3)中、W1a[mm]は、前記水に浸漬される前の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅を表し、W2a[mm]は、前記水に浸漬された後の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅を表す。式(4)中、幅変化率の最大値と幅変化率の最小値は、それぞれ前記幅変化率を60秒以上連続的に取得した際における値である)
【請求項5】
前記変動幅(%)は、5N/m~100N/mの範囲から選択された張力を維持した状態で前記ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら、前記所定温度および前記所定浸漬時間を含む条件のもとで、前記水に浸漬させた場合における変動幅である、
請求項
4に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項6】
前記変動幅(%)は、前記水への浸漬前後におけるニップロールの回転速度比を1.1~4.0の範囲内で選択される回転速度比に維持した状態で前記ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら、前記所定温度および前記所定浸漬時間を含む条件のもとで、前記水に浸漬させた場合における変動幅である、
請求項
4に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項7】
前記変動幅(%)が0.3%以下である、
請求項
4~6の何れか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコール系フィルムの長尺方向の長さは、1000m以上である、
請求項
4~7の何れか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項9】
請求項4~8の何れか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら偏光フィルムを製造する方法であって、
前記ポリビニルアルコール系フィルムを処理液中に浸漬する浸漬工程を備え、
前記浸漬工程において、前記ポリビニルアルコール系フィルムが前記処理液に浸漬される前後の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が、0.5%以下であり、
前記浸漬工程は、前記ポリビニルアルコール系フィルムに対する膨潤処理において行われ、
前記浸漬工程における前記幅変化率は、式(5)によって算出され、
前記浸漬工程における前記変動幅は、式(6)によって算出される、
偏光フィルムの製造方法。
前記浸漬工程における前記幅変化率=|(W2-W1)/W1|×100・・・(5)
前記浸漬工程における前記変動幅=幅変化率の最大値-幅変化率の最小値・・・(6)
(式(5)中、W1[mm]は、前記処理液に浸漬される前の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅を表し、W2[mm]は、前記処理液に浸漬された後の前記ポリビニルアルコール系フィルムの幅を表す。式(6)中、幅変化率の最大値と幅変化率の最小値は、それぞれ前記浸漬工程における前記幅変化率を60秒以上連続的に取得した際における値である)
【請求項10】
前記膨潤処理では、前記浸漬工程における前記変動幅が0.5%以下となるように、前記処理液の温度、浸漬時間、及び前記ポリビニルアルコール系フィルムに付与する張力のうちの少なくとも1つを調整する、
請求項9に記載の偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムの製造方法及びポリビニルアルコール系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムは、特許文献1,2に記載されているように、ポリビニルアルコール系フィルムに、たとえば、膨潤、染色、架橋、延伸、洗浄、乾燥などの処理を施すことによって製造される。上記ポリビニルアルコール系フィルムへの処理において、ポリビニルアルコール系フィルムを処理液に浸漬することがある。たとえば、膨潤処理では、処理液である水にポリビニルアルコール系フィルムを浸漬する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-48382号公報
【文献】特開2017-102438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の偏光フィルムの製造では、フィルムの破断等が生じることがあり、生産工程が安定しないことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、安定した工程で偏光フィルムを製造可能な偏光フィルムの製造方法およびポリビニルアルコール系フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、偏光フィルムの製造の際、上記浸漬の前後における幅変化率の変動幅が大きすぎると、フィルムの破断が生じることを見出した。そこで、以下の偏光フィルムの製造方法を完成させた。
【0007】
本発明の一側面に係る偏光フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら偏光フィルムを製造する方法であって、長尺のポリビニルアルコール系フィルムに上記ポリビニルアルコール系フィルムを処理液中に浸漬する浸漬工程を備え、上記浸漬工程において、上記ポリビニルアルコール系フィルムが上記処理液に浸漬される前後の上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が、0.5%以下である。
【0008】
上記製造方法では、上記浸漬工程においてポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が、0.5%以下である。この場合、上記変動幅が小さいことから、偏光フィルムの製造中にフィルムに破断が生じにくく、安定した工程で偏光フィルムを製造できる。
【0009】
上記浸漬工程では、上記処理液への浸漬前後におけるニップロールを利用して一定の張力を付与しながら上記ポリビニルアルコール系フィルムを上記処理液中に浸漬してもよい。
【0010】
上記浸漬工程では、上記処理液への浸漬前後におけるニップロールの回転速度比を一定に維持しながら上記ポリビニルアルコール系フィルムを上記処理液中に浸漬してもよい。
【0011】
上記浸漬工程は、上記ポリビニルアルコール系フィルムに対する膨潤処理において行われてもよい。膨潤処理は、偏光フィルムの製造の初期段階で実施される。よって、ポリビニルアルコール系フィルムの幅が膨潤処理で変化し易い。そのため、上記浸漬工程で、膨潤処理を実施することが有効である。
【0012】
上記幅変化率は、式(1)によって算出され、上記幅変動幅は、式(2)によって算出されてもよい。
幅変化率=|(W2-W1)/W1|×100・・・(1)
変動幅=幅変化率の最大値-幅変化率の最小値・・・(2)
(式(1)中、W1[mm]は、上記処理液に浸漬される前の上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅を表し、W2[mm]は、上記処理液に浸漬された後の上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅を表す。式(2)中、幅変化率の最大値と幅変化率の最小値は、それぞれ上記幅変化率を60秒以上連続的に算出した際における値である)
【0013】
本発明の他の側面に係るポリビニルアルコール系フィルムは、長尺のポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら、所定温度および所定浸漬時間を含む条件のもとで、水に浸漬させた場合において、上記浸漬の前後の上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が0.5%以下であり、上記所定温度は、15℃~40℃の範囲から選択された温度であり、上記所定浸漬時間は、20秒~120秒の範囲から選択された浸漬時間であり、上記変動幅(%)は、上記幅変化率を60秒以上連続的に取得した際における上記幅変化率の最大値と幅変化率の最小値との差である。
【0014】
上記ポリビニルアルコール系フィルムは、たとえば、偏光フィルムの製造に使用される。偏光フィルムを製造方法は、長尺のポリビニルアルコール系フィルムを処理液中に浸漬する浸漬工程を有する。上記ポリビニルアルコール系フィルムを使用して上記浸漬工程を行う場合、上記ポリビニルアルコール系フィルムが上記処理液に浸漬される前後の上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が、0.5%以下になりやすい。この場合、上記変動幅が小さいことから、偏光フィルムの製造中にフィルムに破断が生じにくく、安定した工程で偏光フィルムを製造できる。
【0015】
上記変動幅(%)は、5N/m~100N/mの範囲から選択された張力を維持した状態で上記ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら、上記所定温度および上記所定浸漬時間を含む条件のもとで、上記水に浸漬させた場合における変動幅であってもよい。
【0016】
上記変動幅(%)は、上記水への浸漬前後におけるニップロールの回転速度比を1.1~4.0の範囲内で選択される回転速度比に維持した状態で上記ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら、上記所定温度および上記所定浸漬時間を含む条件のもとで、上記水に浸漬させた場合における変動幅であってもよい。
【0017】
上記変動幅(%)は0.3%以下でもよい。
【0018】
上記ポリビニルアルコール系フィルムの長尺方向の長さは、たとえば、1000m以上である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、安定した工程で、偏光フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る偏光フィルムの製造方法を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、偏光フィルムの製造方法が備える浸漬工程を説明するための図面である。
【
図3】
図3は、幅変化率および変動幅の取得方法の一例を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0022】
(第1実施形態)
第1実施形態として、偏光フィルムの製造方法を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの製造方法の一例を説明する模式図である。
【0023】
第1実施形態では、長尺のポリビニルアルコール系フィルム2(以下、単に「フィルム2」と称す)を搬送しながら、搬送中のフィルム2に、膨潤処理、染色処理、架橋処理、延伸処理及び乾燥処理を施すことにより、偏光フィルム4を製造する。延伸処理は、何れかの一つの処理(例えば架橋処理)中、又は、複数の処理を施しながら並行してフィルム2に施されてもよい。
【0024】
フィルム2の材料は、偏光フィルムの製造に使用される公知のポリビニルアルコール系樹脂であればよく、ケン化されたポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましい。ケン化度の範囲は、80.0~100.0モル%であることが好ましく、90.0~99.5モル%であることがより好ましく、93.0~99.5モル%であることがさらに好ましい。ケン化度とは、式:ケン化度(モル%)=(水酸基の数)/(水酸基の数+酢酸基の数)×100で定義される数値であり、JIS K 6726(1994)で規定されている方法で求めることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、100~10000が好ましく、1000~10000がより好ましい。平均重合度は、JIS K 6726(1994)によって定められた方法によって求められる数値である。
【0025】
フィルム2の長尺方向の長さは、たとえば、1000m以上である。フィルム2の長尺方向の長さが1000m以上である場合、フィルム2の長尺方向の長さは、たとえば、30000m以下であり、好ましくは20000m以下である。フィルム2の幅方向(長尺方向に直交する方向)の長さの例は、1300mm~5000mmである。フィルム2の厚さの例は、10μm~100μmである。
【0026】
フィルム2は、特に限定されず、溶融押出法、溶剤キャスト法等の公知の方法により製造され得る。例えば、フィルム2は、熱可塑性樹脂(ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等)から構成された基材フィルム上にポリビニルアルコール系樹脂溶液を塗工し、該樹脂溶液を乾燥させることによりフィルム成形を行い、得られたフィルム2を基材フィルムより剥離することにより得ることができる。
【0027】
上記基材フィルムは、必要に応じプライマー層を設けることができる。基材フィルムの厚さは、適宜に決定し得るが、1μm~500μmが好ましく、1μm~300μmがより好ましい。基材フィルムの幅及び長さは、目的とするフィルム2のサイズに応じて、適宜に決定し得る。
【0028】
ポリビニルアルコール系樹脂溶液は、上述のポリビニルアルコール系樹脂を水、アルコール等で溶解することにより得ることができる。該溶液の粘度は、500cps~10000cpsが好ましく、1000cps~7000cpsがより好ましく、1000cps~5000cpsが更に好ましい。
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂溶液の塗工は、グラビアコーテイング等のロールコーティング法;ダイコーティング法;などの公知の方法から適宜選択することができる。塗工するポリビニルアルコール系樹脂の溶液の膜厚は、例えば、50μm~1000μmとすることができる。
【0030】
上記乾燥は、樹脂の温度が通常30℃~200℃であり、乾燥時間が2分~24時間にて実施することができる。塗工するポリビニルアルコール系樹脂溶液の膜厚が厚い場合には、80℃以上の熱風で1分~10分乾燥させてある程度の水分を一旦除去した後、30℃~50℃未満の熱風で乾燥させることもできる。
【0031】
上記ポリビニルアルコール系樹脂溶液の塗工、乾燥及び基材フィルムからのフィルム2の剥離は、基材フィルムを搬送しながら、連続的に行うことができる。
【0032】
上記乾燥において、基材フィルムに対して、基材フィルムの搬送方向(基材フィルムの長尺方向)に、基材フィルムの幅方向の長さ1m当たり45N以上の張力を与えてもよい。上記乾燥において、乾燥前後の基材フィルムの長尺方向の寸法変化率が0%を超えて延伸されてもよく、すなわち、塑性変形が起こるように、長尺方向に張力を加えてもよい。寸法変化率は、0.01%以上であってもよく、0.1%以上であってもよい。また、乾燥工程における寸法変化率は5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0033】
得られたフィルム2の厚さは、5μm~100μmであることができる。また乾燥後のポリビニルアルコール系樹脂層(フィルム2)の幅は、400mm~5000mmであることができる。
【0034】
図1では、フィルム2を原反ロール6として準備し、原反ロール6から繰り出されたフィルム2に各処理を施して偏光フィルム4を得る場合を図示している。フィルム2が上記方法(溶融押出法、溶剤キャスト法等)で製造される場合、例えば、上記方法(溶融押出法、溶剤キャスト法等)によって製造されたフィルム2を連続的に搬送して、その搬送中に上述の各処理を実施してもよい。
【0035】
図1に示した形態に基づいて、偏光フィルム4の製造方法の一例を説明する。まず、偏光フィルム4の製造装置10の概略を説明する。製造装置10は、複数のニップロール11と、複数のガイドロール12と、膨潤処理部13
1と、染色処理部13
2と、架橋処理部13
3と、洗浄処理部13
4と、乾燥処理部13
5とを備える。
【0036】
複数のニップロール11及び複数のガイドロール12は、フィルム2の搬送機構を構成する。複数のニップロール11及び複数のガイドロール12が適宜配置されることによって、フィルム2の搬送経路が構成されている。
【0037】
膨潤処理部131は、フィルム2に膨潤処理を行う部分である。膨潤処理部131は、膨潤処理のための処理液が貯留された処理槽を有する。膨潤処理部131が有する処理液にフィルム2を浸漬することによって、フィルム2に膨潤処理が行われる。第1実施形態では、フィルム2が処理液に浸漬される前及び後に配置されたニップロール11および2つのガイドロール12によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。
【0038】
上記膨潤処理は、フィルム2の表面の異物除去、フィルム2中の可塑剤除去、後工程での易染色性の付与、フィルム2の可塑化などの目的で行われる。膨潤処理の条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつフィルム2の極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定され得る。膨潤処理部131では、フィルム2を、例えば、温度10℃~50℃、好ましくは15℃~40℃の処理液に浸漬することにより、膨潤処理が行われる。膨潤処理の時間(浸漬時間)は、5秒~300秒程度であり、好ましくは20秒~120秒程度である。膨潤処理部131における処理液の例は水である。そのため、膨潤処理は、フィルム2の水洗処理も兼ねることができる。
【0039】
染色処理部132は、フィルム2に染色処理を行う部分である。染色処理部132は、染色処理のための処理液が貯留された処理槽を有する。染色処理部132が有する処理液にフィルム2を浸漬することによって、フィルム2に染色処理が行われる。第1実施形態では、フィルム2が処理液に浸漬される前及び後に配置されたニップロール11および2つのガイドロール12によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。
【0040】
第1実施形態における染色処理部132が有する処理液は、二色性色素の水溶液であり、染色処理では、フィルム2を二色性色素で染色する。通常の二色性色素による染色処理は、フィルム2に二色性色素を吸着させるなどの目的で行われる。処理条件はこのような目的が達成できる範囲で、かつフィルム2の極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で所望の光学特性に応じて決定される。染色に使用される二色性色素の例は、ヨウ素及び二色性染料である。
【0041】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、例えば10℃~50℃、好ましくは15℃~40℃の温度で、かつ、水100重量部に対して、ヨウ素を0.003重量部~0.2重量部及びヨウ化カリウムを 0.1重量部~10重量部含む水溶液中に、10秒~600秒間、好ましくは30秒~300秒間、フィルム2を浸漬することにより、染色処理が行われる。ヨウ化カリウムに代えて他のヨウ化物、例えば、ヨウ化亜鉛を用いてもよい。他のヨウ化物をヨウ化カリウムと併用してもよい。さらに、ヨウ化物以外の化合物、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルトなどを共存させてもよい。水100重量部に対し、ヨウ素を0.003重量部以上含んでいる処理液であれば、染色用の処理液とみなすことができる。
【0042】
二色性色素として二色性染料を用いる場合は、例えば20℃~80℃、好ましくは30℃~60℃の温度で、かつ、水100重量部に対して二色性染料を0.001重量部~0.1重量部含む水溶液中に、10秒~600秒間、好ましくは20秒~300秒間、フィルム2を浸漬することにより、染色処理が行われる。使用する二色性染料の水溶液は、染色助剤などを含有していてもよく、硫酸ナトリウムの如き無機塩、界面活性剤などを含有していてもよい。二色性染料は1種類だけ用いてもよいし、所望される色相に応じて2種類以上の二色性染料を併用することもできる。
【0043】
架橋処理部133は、フィルム2に架橋処理を行う部分である。架橋処理部133は、架橋処理のための処理液が貯留された処理槽を有する。架橋処理部133が有する処理液にフィルム2を浸漬することによって、フィルム2に架橋処理が行われる。第1実施形態では、フィルム2が処理液に浸漬される前及び後に配置されたニップロール11および2つのガイドロール12によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。
【0044】
架橋処理は、架橋による耐水化や色相調整(フィルム2が青味がかるのを防止する等)などの目的で行う処理である。
【0045】
架橋処理部133で使用する処理液は、例えば、水100重量部に対してホウ酸を約1重量部~10重量部含有する水溶液である。染色処理で使用した二色性色素がヨウ素の場合、架橋処理部133で使用する処理液は、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましく、その量は、水100重量部に対して、例えば1重量部~30重量部である。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。ヨウ化物以外の化合物、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を共存させてもよい。
【0046】
架橋処理部133での架橋処理においては、その目的によって、ホウ酸及びヨウ化物の濃度、並びに処理液の温度を適宜変更することができる。
【0047】
例えば、架橋処理の目的が架橋による耐水化であり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、膨潤処理、染色処理及び架橋処理をこの順に施す場合、処理液の架橋剤含有液は、例えば、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=3~10/1~20/100の水溶液である。必要に応じ、ホウ酸に代えてグリオキザール又はグルタルアルデヒド等の他の架橋剤を用いてもよく、ホウ酸と他の架橋剤を併用してもよい。フィルム2を浸漬するときの処理液の温度は、通常50℃~70℃程度であり、好ましくは53℃~65℃であり、フィルム2の浸漬時間は、通常10秒~600秒程度、好ましくは20秒~300秒、より好ましくは20秒~200秒である。膨潤処理前に予め延伸したフィルム2に対して染色処理及び架橋処理をこの順に施す場合、処理液の温度は、通常50℃~85℃程度、好ましくは55℃~80℃である。
【0048】
架橋処理の目的が色相調整であり、例えば、二色性色素としてヨウ素を用いた場合、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=1~5/3~30/100の架橋剤含有液を処理液として使用できる。フィルム2を浸漬するときの処理液の温度は、通常10~45℃程度であり、フィルム2の浸漬時間は、通常1~300秒程度、好ましくは2~100秒である。
【0049】
洗浄処理部134は、架橋処理後のフィルム2に洗浄処理を行う部分である。洗浄処理部134は、洗浄処理のための処理液が貯留された処理槽を有する。洗浄処理部134が有する処理液にフィルム2を浸漬することによって、フィルム2に洗浄処理が行われる。第1実施形態では、フィルム2が処理液に浸漬される前及び後に配置されたニップロール11および2つのガイドロール12によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。洗浄処理における処理液としては、水、ヨウ化カリウムを含む水溶液、ホウ酸を含む水溶液が挙げられる。処理液の温度は、通常2℃~40℃程度であり、処理時間(浸漬時間)は、通常2秒~120秒程度である。
【0050】
乾燥処理部13
5は、フィルム2に乾燥処理を行う部分である。第1実施形態において乾燥処理部13
5は、乾燥装置である。乾燥処理部13
5には、洗浄処理部13
4で洗浄処理されたフィルム2が搬入され、フィルム2が乾燥処理部13
5内を通過する間に、フィルム2を乾燥させる。第1実施形態では、乾燥処理部13
5の前後に配置されたニップロール11によって、処理液にフィルム2を浸漬するフィルムの搬送経路が形成されている。乾燥処理部13
5内に、フィルム2を支持及び搬送するために、ガイドロール12が適宜配置されてもよい。乾燥処理部13
5による乾燥は、約40℃~100℃の温度に保たれた乾燥処理部13
5の中で、約30秒~約600秒行われる。
図1では、乾燥処理部13
5を模式的に示している。乾燥処理部13
5は、フィルム2に付着した水分を乾燥できれば特に限定されず、偏光フィルムの製造において、通常、使用される公知のものでよい。
【0051】
製造装置10においては、複数のニップロール11における少なくとも2つのニップロール11(上流側のニップロール11と下流側のニップロール11)の回転速度差を利用してフィルム2を一軸延伸処理する延伸処理を実施する。この場合、上記一軸延伸処理に寄与する2つのニップロール11は延伸処理部として機能する。
【0052】
例えば、架橋処理部133の前に配置されたニップロール11と架橋処理部133の後に配置されたニップロール11との回転速度差を利用して一軸延伸処理する延伸処理を行ってもよい。この場合、架橋処理と並行して延伸処理が行われるため、架橋処理部133も、延伸処理部として機能する。延伸処理は、フィルム2でのシワの発生を抑制するためにも有効である。
【0053】
一つの処理部(例えば上述した架橋処理部133)の前後に配置された2つのニップロール11を利用して主に延伸処理を行うことに加えて、他のニップロール11を利用して徐々に延伸処理を更に施してもよい。
【0054】
製造装置10は、延伸処理を行うための延伸処理部を別途有してもよい。この場合、延伸処理部は、例えば、架橋処理部133の後段(例えば、架橋処理部133と洗浄処理部134の間)に配置される。
【0055】
製造装置10は、膨潤処理部131、染色処理部132、架橋処理部133、洗浄処理部134及び乾燥処理部135のうち少なくとも一つの処理部を複数有してもよい。例えば、製造装置10は、架橋処理部133を複数備えてもよい。製造装置10が延伸処理部を備えてもよい。
【0056】
上記製造装置10を用いた偏光フィルム4の製造方法の一例を説明する。まず、原反ロール6からフィルム2を繰り出す。繰り出されたフィルム2を、複数のニップロール11及び複数のガイドロール12で形成される搬送経路に沿って、フィルム2の長尺方向に搬送する。搬送速度の例は、1m/分~60m/分であってもよく、1.5m/分~50m/分でもよい。フィルム2の搬送経路には、原反ロール6側から、膨潤処理部131、染色処理部132、架橋処理部133、洗浄処理部134及び乾燥処理部135が設けられている。更に、前述したように少なくとも2つのニップロール11は延伸処理部としての機能も有する。そのため、搬送経路に沿ってフィルム2を搬送することによって、フィルム2に、膨潤処理、染色処理、架橋処理、洗浄処理及び乾燥処理が施されるとともに、延伸処理が施される。これによって、フィルム2に直線偏光特性が付与され、偏光フィルム4が得られる。
【0057】
上記膨潤処理、染色処理、架橋処理および洗浄処理は、フィルム2を処理液に浸漬させることによって実施される。したがって、偏光フィルム4の製造方法は、複数の浸漬工程(フィルム2を処理液に浸漬する工程)を有する。換言すれば、上記複数の浸漬工程において、膨潤処理、染色処理、架橋処理および洗浄処理が実施される。第1実施形態の偏光フィルム4の製造方法は、膨潤処理、染色処理、架橋処理および洗浄処理に対応する複数の浸漬工程のうち少なくとも一つの浸漬工程を、
図2を利用して説明する浸漬工程(以下、説明の便宜のため、「浸漬工程A」と称す)として実施する。
【0058】
図2は、浸漬工程Aを説明するための模式図である。
図2では、処理槽内に処理液8が貯留されており、処理液8にフィルム2が搬送されながら浸漬される状態を模式的に示している。処理液8は、膨潤処理、染色処理、架橋処理および洗浄処理のうち浸漬工程Aにおいて実施する処理に対応した処理液である。
図1に示した各処理部と同様に、フィルム2の搬送路は、処理液8の前後におけるニップロール11と、2つのガイドロールとによって形成されている。搬送経路において、処理液8に浸漬される前のフィルム2が通過するニップロール11をニップロール11
UPと称し、フィルム2が処理液8に浸漬された後のフィルム2が通過するニップロール11をニップロール11
DOWNとも称す。
【0059】
浸漬工程Aでは、フィルム2に付与された張力を保持しながらフィルム2を処理液に浸漬することができる。
【0060】
浸漬工程Aにおける張力は、通常3N/m~2000N/mであり、好ましくは5N/m~1500N/mである。浸漬工程が膨潤工程である場合、より好ましくは3N/m~200N/m、更に好ましくは5N/m~100N/mである。
【0061】
浸漬工程Aでは、たとえば、
図2に示したニップロール11
UPおよびニップロール11
DOWNを用いて一定の張力をフィルム2に付与してもよい。たとえば、ニップロール11
UPの回転速度とニップロール11
DOWNにおける回転速度とを調整することによって一定の張力を付与できる。このように、一定の張力を付与することで、張力を保持しながらフィルム2を処理液8に浸漬できる。
【0062】
張力を調整するために、たとえば、張力検出器によって張力を検出してもよい。張力検出器としては、通常市販されているものが使用できる。たとえば、差動トランス方式、歪ゲージ式などの原理で張力が検出される。張力検出器によって張力は連続モニターされている。たとえば、検出された張力値は、制御システムに送られる。制御システムでは、検出された張力値が設定値を外れた場合にその量を測定し、ニップロール11DOWNを駆動させる駆動装置(例えばサーボモーターなど)に信号を送って駆動を制御し、張力値が一定に保たれるようにする。
【0063】
浸漬工程Aでは、処理液8への浸漬前後におけるニップロールの回転速度比を一定に維持しながらフィルム2を処理液中に浸漬させてもよい。上記回転速度比は、処理液8に浸漬される前のニップロール11UPの回転速度と、処理液8に浸漬された後のニップロール11DOWNの回転速度の比である。このように、上記回転速度比を一定に維持しながらフィルム2を処理液中に浸漬させることで、張力を保持しながらフィルム2を処理液に浸漬できる。
【0064】
浸漬工程Aでは、次の条件αを満たす。
<条件α>
フィルム2が処理液8に浸漬される前後のフィルム2の幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が0.5%以下である。
【0065】
一実施形態において、幅変化率および変動幅は、式(1)および式(2)によって算出される。
幅変化率=|(W2-W1)/W1|×100・・・(1)
変動幅=幅変化率の最大値-幅変化率の最小値・・・(2)
式(1)中、W1[mm]は、処理液8に浸漬される前のフィルム2の幅を表し、W2[mm]は、処理液8に浸漬された後のフィルム2の幅を表す。
式(2)中、幅変化率の最大値と幅変化率の最小値は、それぞれ幅変化率をたとえば一定期間連続的に取得した際における値である。
上記一定期間は、たとえば60秒以上であり、好ましくは1時間以上、より好ましくは24時間以上である。一定期間の上限は、フィルム2の全長に対して浸漬工程Aを実施した場合の時間であり、フィルム2の全長および搬送速度で決定され得る。たとえば、上限は、200時間である。
【0066】
フィルム2が処理液8に浸漬される前のフィルム2の幅W1は、たとえば、
図2に示したように、位置x1におけるフィルム2の幅である。
図2において、位置x1は、フィルム2がニップロール11
UPを通過した後の位置である。フィルム2が処理液8に浸漬された後のフィルム2の幅W2は、たとえば、
図2に示した位置x2におけるフィルム2の幅である。位置x2は、フィルム2がニップロール11
DOWNを通過した後の位置を示している。
【0067】
上記幅変化率および変動幅を取得(または算出)するために、製造装置10は、浸漬工程Aを実施する処理槽に対して、
図3に示した2つの幅測定器30と、算出部40を有してもよい。
【0068】
幅測定器30と、算出部40を用いた幅変化率および変動率の取得方法の一例を説明する。以下、幅W1及び幅W2の測定から幅変化率および変動率の取得までの一連の工程を総称して、「監視工程」と称することがある。
【0069】
2つの幅測定器30それぞれは、フィルム2の幅を連続的に測定する装置である。2つの幅測定器30のうちの一方は、フィルム2が処理液8に浸漬される前のフィルム2の幅W1を測定する幅測定器(以下、「幅測定器30UP」と称す)であり、2つの幅測定器30のうちの他方は、フィルム2が処理液8に浸漬された後のフィルム2の幅W2を測定する測定器(以下、「幅測定器30DOWN」と称す)である。
【0070】
幅測定器30UPおよび幅測定器30DOWNそれぞれは、2つの端部検出部31を有する。2つの端部検出部31の一方は、フィルム2の幅方向における一方の端部2aを検出する検出部であり、他方は、フィルム2の幅方向における他方の端部2b(上記端部2aと反対側の端部)を検出する検出部である。各端部検出部31は、たとえば、光学的に且つ非接触で、フィルム2の端部を検出する。各端部検出部31は、検出すべき端部およびその近傍の画像を取得可能に構成されていればよい。たとえば、端部検出部31は、カメラなどの撮像部を有し得る。
【0071】
算出部40は、幅測定器30UPが有する2つの端部検出部31の検出結果に基づいて、幅W1を算出するとともに、幅測定器30DOWNが有する2つの端部検出部31の検出結果に基づいて、幅W2を算出する。たとえば、算出部40は、幅測定器30UPが有する2つの端部検出部31の検出結果(たとえば、画像データ)に基づいて、端部2a,2bの位置を特定することによって、幅W1および幅W2を算出する。
【0072】
算出部40は、幅W1、幅W2および式(1)より幅変化率を算出するとともに、式(2)より変動幅を算出する。
【0073】
第1実施態様において、位置x1にて幅W1を測定し、その後、幅W1を測定したフィルム箇所が位置x2に搬送された時点で幅W2を測定してもよいし、位置x1での幅W1の測定と位置x2での幅W2とを同じタイミングで(すなわち同時に)測定してもよい。「同じタイミング」は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で若干のズレが生じていてもよい。搬送速度にもより、特に限定されないが、上記位置x1での測定時と位置x2の測定時との時間差は、1分以内程度であってもよく、30秒以内であってもよく、20秒以内であってもよく、10秒以内であってもよい。
【0074】
監視工程は、自動化(オートメーション化)して実施することが好ましい。第1実施形態では、自動化を効率的に実施する上で、位置x1での幅W1の測定と位置x2での幅W2とを同じタイミングで測定することが好ましい。
【0075】
上記条件αは、たとえば、処理液8の温度、浸漬時間(処理時間)、フィルム2に付与する張力などを調整することによって実現され得る。
【0076】
監視工程における監視において、変動幅が0.5%を超えた場合には、監視工程を実施している処理に応じて各処理条件等を調節することにより、上記条件αを満たすように幅変動率を調整することができる。たとえば、上記条件αを満たすように、処理液8の温度、浸漬時間(処理時間)、フィルム2に付与する張力などを調整してもよいし、或いは、偏光フィルム4の製造に使用していたフィルム2をとりかえてもよい。より具体的には、膨潤処理時での監視工程では、幅変化率が小さい場合は、処理液の温度を上げる、張力を下げる、処理時間を長くする等の手段により変動幅を小さくすることができ、一方、幅変化率が大きい場合は、処理液の温度を下げる、張力を上げる、処理時間を短くする、等の手段により変動幅を小さくすることができる。架橋工程におけるフィルム2の処理液への浸漬を浸浸漬工程Aとして実施するとともに監視工程を実施する場合、上記の製造条件(温度、張力、処理時間)に加え、架橋剤の含有量やガイドロールの配置等によっても、変動幅を調整することができる。
【0077】
偏光フィルム4の製造方法は、上記条件αを満たす浸漬工程Aを有する。そのため、浸漬工程Aにおいて、フィルム2が処理液8に浸漬されても、フィルム2の幅変化率の変動幅が0.5%以下である。この場合、フィルム2の変動率が小さいことから、たとえば、浸漬工程A中或いは浸漬工程Aより後の工程において、フィルム2が破断しにくい。その結果、偏光フィルム4を安定して製造できる。フィルム2の変動率が小さいことから、幅変化に起因した欠陥、外観不良を低減できる。その結果、品質のよい偏光フィルム4を製造できる。
【0078】
浸漬工程Aが、膨潤処理において実施されることは有効である。膨潤処理は、
図1に示したように、フィルム2に対して順に実施される複数の処理のうち、上流側(製造工程における初期段階)で実施される処理である。よって、膨潤処理において、フィルム2の幅が変化し易いことから、上記浸漬工程Aが膨潤処理で実施されることで、製造された偏光フィルム4の品質の向上が図れる。更に、膨潤処理中およびそれ以降の処理において、フィルム2が破断しにくい。浸漬工程Aが膨潤処理で実施される場合、処理液(たとえば水)の温度はたとえば15℃~40℃が好ましく、浸漬時間は、20秒~120秒が好ましい。
【0079】
前述したように、条件αを満たす浸漬工程Aは、膨潤処理、染色処理、架橋処理および洗浄処理に対応する複数の浸漬工程のうち少なくとも一つの浸漬工程において実施されていればよい。
【0080】
(第2実施形態)
第2実施形態として、長尺のポリビニルアルコール系フィルム2を説明する。第2実施形態でもポリビニルアルコール系フィルム2を単に「フィルム2」と称す。第2実施形態に係るフィルム2の材料、長さおよび厚さの例は、第1実施形態の場合と同様である。
【0081】
フィルム2は、以下の条件βを満たすフィルムである。
<条件β>
前記ポリビニルアルコール系フィルムを搬送しながら、所定温度および所定浸漬時間でフィルム2を水に浸漬させた場合において、浸漬の前後のフィルム2の幅方向の幅変化率(%)の変動幅(%)が0.5%以下であるフィルムである。
フィルム2を用いて製造した偏光フィルムの色ムラを一層抑制する観点から条件βにおける上記変動幅(%)は、好ましくは0.3%以下である。
【0082】
上記所定温度は、15℃~40℃の範囲から選択された温度であり、上記所定浸漬時間は、20秒~120秒の範囲から選択された浸漬時間である。
上記幅変化率(%)は、たとえば、上記式(1)と同様にして算出され得る。上記条件βに関する記載内の水が、第1実施形態の浸漬工程Aにおける処理液8に相当する。
上記変動幅(%)は、上記幅変化率を60秒以上連続的に取得した際における幅変化率の最大値と幅変化率の最小値との差である。
上記条件βにおいて、前記ポリビニルアルコール系フィルムは、通常、張力を一定にした状態又は水への浸漬前後におけるニップロールの回転速度比を一定にした状態で搬送される。上記ポリビニルアルコール系フィルムを、張力を一定にした状態で搬送する場合、通常、5N/m~100N/mの範囲から選択された張力を維持した状態とする。上記ポリビニルアルコール系フィルムを水への浸漬前後における回転速度比を一定にした状態で搬送する場合、通常、1.1~4.0の範囲内で選択される回転速度比に維持した状態とする。上記回転速度比は、水に浸漬される前のニップロールの回転速度と、水に浸漬された後のニップロールの回転速度との比である。
【0083】
たとえば
図2を使用して説明した浸漬工程Aにおいて、処理液8を水とし、上記所定温度および所定浸漬時間でフィルム2を処理液8に浸漬し、浸漬工程Aの場合と同様にして、幅変化率(%)の変動幅(%)を算出することによって、フィルム2が条件βを満たすフィルムか否かが検証され得る。前述したように、張力を一定にした状態又は水への浸漬前後における上記回転速度比を一定にした状態でフィルム2を搬送する場合、張力を一定にする方法または水への浸漬前後における上記回転速度比を一定にする方法は、浸漬工程Aの場合と同様とし得る。
【0084】
上記フィルム2は、たとえば、上記条件βを満たすように製造条件を調整することによって、たとえば溶融押出法、溶剤キャスト法等によって製造され得る。なお、上記フィルム2が、上述のポリビニルアルコール系樹脂溶液を塗工及び乾燥する工程を含む方法で調製した場合、上記条件βを満たすフィルムを調製しやすくなる点で、30℃以上、50℃未満の温度で、30分以上の間、乾燥させることが好ましい。
【0085】
条件βを満たすフィルム2を使用して偏光フィルム4を製造する場合において、たとえば、条件αを満たす浸漬工程(浸漬工程A)を行うことにより膨潤処理を行うと、品質のよい偏光フィルムを得ることができる。更に、偏光フィルム4の製造中にフィルム2が破断しにくいので、安定して偏光フィルム4を製造できる。
【0086】
この点を、実施例1、実施例2および比較例1に基づいて具体的に説明する。実施例1、実施例2および比較例1ではポリビニルアルコール系フィルムを製造する。説明の便宜のため、実施例1とともに実施例2および比較例1においても製造されたポリビニルアルコール系フィルムを「フィルム2」と称す。
【0087】
[実施例1]
<フィルム2の製造>
(基材フィルムの作製)
プロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学株式会社製「住友ノーブレン(登録商標)FLX80E4」、融点Tm=163℃)に、高密度ポリエチレンからなる造核剤を1重量%配合して、造核剤入りポリプロピレンを作製した。これと、エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体「住友ノーブレン(登録商標) W151」とから、多層押出成形機を用いた共押出成形により、「住友ノーブレン(登録商標) W151」からなる樹脂層の両側に、上の造核剤入りポリプロピレンからなる樹脂層が配置された3層構造の長尺のポリプロピレン系積層フィルムを作製し、基材フィルムとした。この基材フィルムの合計厚さは100μmであり、各層の厚さ比(造核剤入りポリプロピレン/W151/造核剤入りポリプロピレン)は3/4/3であった。
【0088】
(塗工液の調整)
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業株式会社製「Z-200」、平均分子量1100、平均ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調整した。得られた水溶液に架橋剤(住友化学株式会社製「スミレーズレジン(登録商標)650」)をポリビニルアルコール2重量部に対して1重量部混合してプライマー層形成用の塗工液を調整した。
【0089】
また、ポリビニルアルコール粉末(株式会社クラレ製「PVA124」、平均重合度2400、平均ケン化度98.0~99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液であるポリビニルアルコール系樹脂層形成用の塗工液を調整した。
【0090】
(塗工及び乾燥)
基材フィルムを長尺方向に連続的に搬送しながら、その片面にコロナ処理を施した。ついでコロナ処理された面にマイクログラビアコーターを用いて上記プライマー層用塗工液を連続的に塗工し、60℃で3分間乾燥させることにより厚さ0.2μmのプライマー層を片面に形成した。引き続きフィルムを長尺方向に搬送しながら各プライマー層上にカンマコーターを用いて上記ポリビニルアルコール系樹脂層形成用の塗工液を連続的に塗工し、80℃の熱風を用いて5分乾燥させた。その後、30℃の熱風を用いて完全乾燥させることにより、プライマー層上に平均厚さ30μmのポリビニルアルコール系樹脂層を形成し、軸に巻き取って、基材フィルムと基材フィルムに積層されたフィルム2を有する積層フィルムの原反ロールを得た。原反ロールに巻かれた積層フィルムの長さは5000mであり、積層フィルムの幅は800mmであった。原反ロールを構成する積層フィルムは、基材フィルムにフィルム2が積層されることによって形成されていた。そのため、表1に示したように、幅800mm、厚さ(平均厚さ)30μmおよび長さ5000mのフィルム2が得られた。
【表1】
【0091】
<偏光フィルムの製造>
上記積層フィルムから基材フィルムを剥離しながらフィルム2を繰り出し、膨潤処理(膨潤工程)として、30℃の純水が入った膨潤処理槽に10N/mの張力をかけながら30秒間浸漬させた。次に、染色処理としてヨウ素とヨウ化カリウムを含む30℃の水溶液が入った染色処理槽に60秒間浸漬させつつ、2.2倍まで一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で12/4.4/100の55℃の水溶液が入ったホウ酸処理槽に浸漬させて耐水化処理しつつ、原反ロールからの積算延伸倍率が5.5倍になるまで一軸延伸を行った。続いて、40℃のホウ酸水溶液が入った槽に浸漬させた後、12℃の純水が入った洗浄処理槽に浸漬させ、その後乾燥炉にて70℃で3分間乾燥して偏光フィルムを製造した。
【0092】
実施例1では、フィルム2を搬送しながら上記膨潤工程の前後においてフィルム2の幅をフィルム2の全長にわたって連続して測定した。フィルム2の幅は、上記膨潤処理槽の前後に設けられたニップロールが有するロール上に搬送されたフィルム2について(
図2の例では、位置x1及び位置x2の位置において)、フィルム両端部にLED光を照射し、フィルム2及び上記ロールにおける反射光の輝度差からフィルム両端部の位置を測定し、その測定された位置より算出した。上記膨潤処理槽の前後における幅の測定タイミングは同じであった。なお、
図2では、浸漬工程の説明のための模式図であることから、位置x2の位置ではフィルム2はロールから離れているが、実施例1では上記のように膨潤処理に続けて染色処理を実施することから、位置x2でもフィルムはロールに一部かかっていた。更に、このように連続して測定されたフィルム2の幅に応じて順次算出された幅変動率のうちの最大値と最小値の差として変動幅を算出した。変動幅の算出結果は、表2のとおりであった。表2には、膨潤工程での条件も示している。幅変動率および変動幅は、式(1)および式(2)を利用して算出した。
【0093】
実施例1における上記偏光フィルムの製造においては、表2に示したように、フィルム2の破断は生じなかった。
【0094】
<色ムラの評価>
製造された偏光フィルムを暗室内で直線偏光フィルタに対してクロスニコル状態に配置した。その後、6000cd/m2のバックライトを、上記直線偏光フィルタを介して偏光フィルムに照射し、偏光フィルムの色ムラを目視観察した。そして、目視による官能検査で色ムラのレベル(強度)を「1」、「2」、「3」の3段階で判定した。評価「1」は最もムラが弱いことを示しており、評価「3」は最もムラが強いことを示しており、評価「2」は、評価「1」と評価「3」の中間を示している。上記官能検査では、色ムラのレベル(強度)に応じて定められたレベル見本サンプルと比較することによって色ムラを上記のように3段階で評価した。実施例1で製造した偏光フィルムは評価「1」であった。
【0095】
[実施例2]
実施例2では、実施例1の場合と同様にして、基材フィルムと基材フィルムに積層されたフィルム2とを有する積層フィルムの原反ロールを製造した。実施例2で得られたフィルム2の幅、厚さおよび長さは、上記表1に示したとおり、実施例1のフィルム2の幅、厚さおよび長さと同じであった。実施例2では、上記積層フィルムから基材フィルムを剥離しながらフィルム2を繰り出し、膨潤処理(膨潤工程)として、35℃の純水が入った膨潤処理槽に15N/mの張力をかけながら20秒間浸漬させた以外は実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。
【0096】
実施例2における上記偏光フィルムの製造においては、表2に示したように、フィルム2の破断は生じなかった。
【0097】
<色ムラの評価>
製造した偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。実施例2で製造した偏光フィルムの評価結果は「2」であった。
【0098】
実施例2でも、実施例1と同様に、膨潤工程の前後においてフィルム2の幅を測定し、変動幅を算出した。変動幅の算出結果は、表2のとおりであった。
【0099】
[比較例1]
比較例1では、上記ポリビニルアルコール系樹脂層形成用の塗工液を100℃の熱風を用いて15分乾燥させた以外は実施例1と同様にしてフィルム2を製造した。具体的には基材フィルムと基材フィルムに積層されたフィルム2とを有する積層フィルムの原反ロールを製造した。比較例1で得られたフィルム2の幅、厚さおよび長さは、上記表1に示したとおり、実施例1のフィルム2の幅、厚さおよび長さと同じであった。このように製造された原反ロールから基材フィルムを剥離しながらフィルム2を繰り出し、実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した。
【0100】
比較例1における上記偏光フィルムの製造においては、表2に示したように、フィルム2の破断が生じた。比較例1では、フィルム2に一度破断が生じた後、同じ原反ロールからフィルム2を再度繰り出しながら、偏光フィルムの製造を行った。比較例2では、フィルム2を2000m使用するまでに2回の破断が生じた。
【0101】
<色ムラの評価>
製造した偏光フィルムの色ムラを実施例1と同様にして評価した。比較例1で製造した偏光フィルムの評価結果は「3」であった。
【0102】
比較例1でも、実施例1と同様に、膨潤工程の前後においてフィルム2の幅を測定し、変動幅を算出した。変動幅の算出結果は、表2のとおりであった。表2には、膨潤工程での条件も表記している。表2の0.69(%)は1回目の破断が生じるまでの変動幅であり、0.75%は2回目の破断が生じるまでの変動幅であった。
【0103】
【0104】
実施例1および実施例2では、前述したように、フィルム2の全長に渡って膨潤処理の前後のフィルム2の幅を連続的に測定し、変動幅を算出した。したがって、実施例1および実施例2の変動幅は、幅変化率を60秒以上連続的に取得した際における幅変化率の最大値と幅変化率の最小値との差であった。前述したように膨潤処理では純水を使用した。そのため、上記膨潤処理における純水へのフィルム2の浸漬は条件βにおけるフィルム2の浸漬に相当する。表2に示したように、実施例1および実施例2の膨潤工程の条件および幅の測定結果から算出された変動幅(%)より、実施例1および実施例2で製造されたフィルム2は条件βを満たしていた。更に、実施例1および実施例2の膨潤工程は条件αを満たす浸漬工程Aに相当した。一方、比較例1の膨潤工程の条件および幅の測定結果から算出された変動幅(%)より、比較例1で製造されたフィルム2は条件βを満たしておらず、且つ、比較例1の膨潤工程は条件αを満たしていなかった。
【0105】
そして、条件αを満たす浸漬工程Aを行うことにより膨潤処理を行った実施例1および実施例2では、偏光フィルムの製造中にフィルム2が破断しにくいので、安定して偏光フィルムを製造できる。実施例1および実施例2では、フィルム2は条件βを満たすことから、浸漬工程Aを実施し易い。
【0106】
表2に示した実施例1,2の結果より、変動幅(%)が0.3%以下であることによって、色ムラが一層抑制されることが理解され得る。
【0107】
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される範囲が含まれることが意図されるとともに、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0108】
偏光フィルムの製造方法が、
図1に示したように洗浄処理部13
4における洗浄処理を有する場合、洗浄処理では、処理液をシャワーとして噴霧する方法、或いは、浸漬と噴霧を併用する方法などによってフィルム2の洗浄を行ってもよい。
【0109】
フィルム2の幅の測定方法は、例示した方法に特に限定されない。例えば、レーザ式変位計、LED式変位計などの測定機器で幅を測定してもよい。フィルム2全体をカメラなどで撮影し、得られた画像より幅を算出してもよい。
図3に示したように、フィルム2の端部2a,2bの位置を取得する方法では、フィルム2の端部2a,2bそれぞれに端部2a,2bの位置を測定する装置を配置すればよいので、設置スペースや機器管理(保守点検等)の観点で好ましい。
【0110】
延伸処理部における延伸処理は、湿式の延伸方法に限らず、乾式の延伸方法が採用されてもよい。上述の実施形態において、偏光フィルムを製造するために例示した処理の順番は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更または組み合わされてもよい。各処理部が有する処理槽の数は、一つでもよいし、複数でもよい。
【0111】
上記実施形態及び種々の変形例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0112】
2…フィルム(ポリビニルアルコール系フィルム)、4…偏光フィルム、8…処理液、11…ニップロール。