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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】補助翼付オッターボード
(51)【国際特許分類】
   A01K 73/045 20060101AFI20220422BHJP
【FI】
A01K73/045
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017230553
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019097449
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000110882
【氏名又は名称】ニチモウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】胡 夫 祥
(72)【発明者】
【氏名】尤 ▲金▼星
(72)【発明者】
【氏名】熊 沢 泰 生
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-122576(JP,A)
【文献】特開2010-183877(JP,A)
【文献】特開2007-244215(JP,A)
【文献】特開昭49-099881(JP,A)
【文献】特表2010-524484(JP,A)
【文献】米国特許第03308568(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 73/00 - 73/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼弦を規定する前縁及び後縁を有し、前記翼弦に直交する翼厚方向の一側に向けた拡網力を発生させる主翼と、
前記主翼の後縁に対して前記翼厚方向の他側に隙間を空けて配置され、前記主翼の翼弦よりも小さい翼弦を有する補助翼と、を備え、
前記主翼の翼弦及び翼厚方向の両方に直交する翼高さ方向の一側及び/又は他側に配置され、前記主翼及び前記補助翼を前記翼高さ方向から覆う翼端板をさらに備え、
前記翼端板は、前記主翼の前縁側から後縁側へ向けて延び、前記主翼及び前記補助翼の全体を前記翼高さ方向から覆っていることを特徴とすることを特徴とする補助翼付オッターボード。
【請求項2】
前記主翼は、前記翼厚方向の一側に向けて凸に湾曲することを特徴とする請求項1に記載の補助翼付オッターボード。
【請求項3】
前記主翼において前記翼厚方向の一側を向く翼面は、前記前縁の側が前記後縁の側よりも膨出するように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の補助翼付オッターボード。
【請求項4】
前記翼端板は、前記主翼に対して前記翼厚方向の一側へ向けて張り出す湾曲辺部を有し、
前記湾曲辺部は、前記主翼に沿って湾曲することを特徴とする請求項に記載の補助翼付オッターボード。
【請求項5】
前記主翼の前縁から前記補助翼の後縁までの長さが、前記主翼の翼弦及び翼厚方向の両方に直交する翼高さ方向における補助翼付オッターボードの高さよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の補助翼付オッターボード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロール漁法において用いられるオッターボードに関し、詳しくは、主翼と補助翼とを備える補助翼付オッターボードに関する。
【背景技術】
【0002】
トロール漁法において用いられるオッターボードは、トロール網の網口の拡開を促進するための漁具であり、本件出願人は、例えば特許文献1に開示されるオッターボードを以前に提案している。このオッターボードは翼形状の湾曲板を備え、湾曲板の形状を工夫することで拡網力の向上を図る。なお、拡網力とは、網口を水平方向に拡げるための力のことであり、オッターボードの分野では、上述のような翼形状の湾曲板が海水の流れに応じて発生させる揚力のことを拡網力と呼ぶ場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-183877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オッターボードでは、一般的な翼と同様に上述したような湾曲板のサイズを大型化することで拡網力が増加する。しかしながら、オッターボードは大型化によって海洋環境に対する影響を増大させ得ることから、そのサイズに規制が課されることがある。例えばオッターボードが海底に着底した際には、海底に対するオッターボードの接触面積が大きいほど、海底環境に対する影響が大きくなり、海底に存在する生物種に対する影響が大きくなり得る。例えばこのような生物種の保護の観点から、特定の海域においてはオッターボードのサイズを規制する場合があった。
【0005】
ところが、上述のようなサイズ規制が課される場合には、オッターボードにおいて望ましい拡網力を確保できず、漁獲率の低下が生じることがあった。そのため、サイズ規制を満足しつつも、望ましい拡網力を確保可能なオッターボードが望まれていた。また、従来のオッターボードでは着底時に拡網力が大幅に落ちる傾向があり、この点を改善することも望まれていた。
【0006】
本件発明者は上記の事情に鑑みて、サイズに制約が課される場合あるいは着底時にあっても拡網力を可能な限り大きく確保可能なオッターボードを提供するべく鋭意の研究を行った。そしてオッターボード周りに生じ得る流れの剥離を効果的に抑制することで、コンパクトでありながらも拡網力を大きく確保し得る構造を知見した。
【0007】
本発明は上記の知見に基づくものであり、コンパクトでありながらも拡網力を大きく確保することができる補助翼付オッターボードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、翼弦を規定する前縁及び後縁を有し、前記翼弦に直交する翼厚方向の一側に向けて拡網力を発生させる主翼と、前記主翼の後縁に対して前記翼厚方向の他側に隙間を空けて配置され、前記主翼の翼弦よりも小さい翼弦を有する補助翼と、を備えることを特徴とする補助翼付オッターボードである。
【0009】
本発明に係る補助翼付オッターボードは、船及び袋状の網の網口側のそれぞれにロープ等を介して連結され、主翼の前縁が進行方向側に向くように曳航されることにより、水の流れに伴い翼厚方向の一側へ向けて移動可能であり、これにより、網口を水平方向の一側へ向けて拡開させることができる。この際、主翼と補助翼との間の隙間を通過し、主翼の拡開側の翼面と同じ側の補助翼の翼面に沿って流れる流れが、主翼の拡開側の翼面で生じ得る剥離を後縁側にずらすようにオッターボード周りの流れを整流させる。これにより、主翼の拡開側の翼面において生じ得る剥離が抑制され、主翼の拡開側の翼面とその反対側の翼面(反拡開側の翼面)との間の圧力差の低下が抑制されることで、剥離に起因する拡網力の低下が抑制される。
これにより、主翼を大型化せずに拡網力を大きく確保し得るため、コンパクトでありながらも拡網力を大きく確保することができる。
【0010】
前記主翼は、翼厚方向の一側に向けて凸に湾曲していてもよく、この構成では、主翼が平板状である場合等に比べて拡網力を大きく確保することができる。
【0011】
また、前記主翼において前記翼厚方向の一側を向く翼面は、前記前縁の側が前記後縁の側よりも膨出するように形成されていてもよい。
【0012】
この構成では、主翼の拡開側の翼面の前縁の側が後縁の側よりも膨出することで、当該翼面で生じ得る剥離が後縁側にずれるようにオッターボード周りの流れが変化し、これにより、当該翼面で生じ得る剥離の発生が抑制される。その結果、主翼の拡開側の翼面と反拡開側の翼面との間の圧力差が剥離によって低下することを効果的に抑制することが可能となるため、拡網力を増大させることができる。
【0013】
また、本発明に係る補助翼付オッターボードは、前記主翼の翼弦及び翼厚方向の両方に直交する翼高さ方向の一側及び/又は他側に配置され、少なくとも前記主翼を前記翼高さ方向から覆う翼端板をさらに備えていてもよい。
【0014】
この構成では、翼端板が、主翼の拡開側の翼面と反拡開側の翼面との間の圧力差に起因して反拡開側の翼面から拡開側の翼面に向けて流れようとする流れを遮る。この場合も、拡開側の翼面と反拡開側の翼面との間の圧力差の低下が抑制されるため、拡網力を増大させることができる。
【0015】
また、前記翼端板は、前記主翼の前縁側から後縁側へ向けて延び、前記主翼及び前記補助翼の全体を前記翼高さ方向から覆っていてもよい。
【0016】
この構成では、翼端板が、反拡開側の翼面から拡開側を向く翼面に向けて流れようとする流れを広範囲にわたって遮ることが可能となる。これにより、拡開側の翼面と反拡開側の翼面との間の圧力差の低下が効果的に抑制されるため、拡網力を効果的に増大させることができる。
【0017】
また、前記翼端板は、前記主翼に対して前記翼厚方向の一側へ向けて張り出す湾曲辺部を有し、前記湾曲辺部は、前記主翼に沿って湾曲していてもよい。
【0018】
この構成では、反拡開側の翼面から拡開側を向く翼面に向けて流れようとする流れを翼端板のサイズを過度に大きくせずに好適に遮ることが可能となる。これにより、拡開側の翼面と反拡開側の翼面との間の圧力差の低下が効果的に抑制されるため、拡網力を効果的に増大させることができる。
【0019】
また、前記主翼の前縁から前記補助翼の後縁までの長さは、前記主翼の翼弦及び翼厚方向の両方に直交する翼高さ方向における補助翼付オッターボードの高さよりも大きくなっていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる補助翼付オッターボードによれば、コンパクトでありながらも拡網力を大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態にかかる補助翼付オッターボードの使用状態の一例を示す図である。
図2】同実施の形態にかかる補助翼付オッターボードの側面図である。
図3図2のIII-III線に沿う同実施の形態にかかる補助翼付オッターボードの断面図である。
図4】同実施の形態にかかる補助翼付オッターボードの主翼と補助翼との詳細形状を説明するための図である。
図5図2の矢印V方向に見た、同実施の形態にかかる補助翼付オッターボードの上面図である。
図6図2の矢印VI方向に見た、同実施の形態にかかる補助翼付オッターボードの図である。
図7】同実施の形態にかかる補助翼付オッターボードの揚力係数と、従来のオッターボードの揚力係数とを比較するためのグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
(補助翼付オッターボードの使用状態)
まず、本発明の一実施の形態にかかる補助翼付オッターボード1,1’の使用状態の一例について説明する。なお、以下の説明においては、補助翼付オッターボードのことを単にオッターボードと呼ぶ。図1に示されるように、オッターボード1,1’は、一対で使用されるものであり、同時に使用される一対のオッターボード1,1’は、いわゆる勝手違いの関係、つまり、互いに鏡像関係となるように構成された上で、船100に搭載されるようになっている。
【0024】
各オッターボード1,1’はそれぞれ、ワープ(引き綱)101を介して船100に連結されるとともに、オッターペンネント102及びハンドロープ103を介してトロール網104に連結され、この状態で、船100から海中に投入される。なお、図1には、オッターボード1,1’が海中に投入された後の状態が示されている。
【0025】
オッターペンネント102はロープ状の部材であり、その一端をオッターボード1又はオッターボード1’に連結させるとともに、その他端をハンドロープ103に連結させている。ハンドロープ103は、その一端をオッターペンネント102の前記他端に連結させるとともに、その他端をトロール網104の網口105の周縁部に連結させており、詳しくは、オッターボード1に対応するハンドロープ103の他端は、網口105の周縁部における互いに対向する部分の一方に連結されており、オッターボード1’に対応するハンドロープ103の他端は、上記の互いに対向する部分の他方に連結されている。
【0026】
オッターボード1,1’は、上述のように海中に投入された後、船100によって曳航され、この際、曳航に伴う海水の流れによって船100の針路Rに直交する水平方向において一側又は他側に向けた拡網力(揚力)を発生させ、これにより、互いに離間する方向へ移動する。このようなオッターボード1,1’の移動に伴い、図1に示すように、各ハンドロープ103が水平方向において互いに逆側へ向けて網口105を引き、これにより、網口105が拡開される。オッターボード1,1’は、以上のように使用されることで網口105の拡開を促進させるようになっている。
【0027】
(補助翼付オッターボードの構成)
一対のオッターボード1,1’は、上述したように、勝手違いの関係(互いに鏡像関係)となるため、以下では、図2乃至図6を用いてオッターボード1の構造について詳述し、オッターボード1’の説明は省略する。図2乃至図6では、オッターボード1が海中で曳航された際のオッターボード1の向きを基準として、上下方向が定められている。したがって、例えば図1における上側は、オッターボード1が海中で曳航されている際に海面側を向く方向に対応し、図1における下側は、オッターボード1が海中で曳航されている際に海底側を向く方向に対応する。
【0028】
本実施の形態にかかるオッターボード1は、翼弦S1を規定する前縁11及び後縁12を有し、翼弦S1に直交する翼厚方向T1の一側(図3の翼厚方向T1を示す矢印に沿って紙面上側)に向けて拡網力を発生させる主翼10と、主翼10の後縁12に対して翼厚方向T1の他側(図3の翼厚方向T1を示す矢印に沿って紙面下側)に隙間Gを空けて配置され、主翼10の翼弦S1よりも小さい翼弦S2を有する補助翼20と、主翼10及び補助翼20の翼高さ方向Hの一方側及び他方側に配置された翼端板に対応する天板30及び底板40と、を備えている。なお、翼高さ方向Hとは、翼弦S1及び翼厚方向T1の両方に直交する方向のことを意味する。
【0029】
本実施の形態では、主翼10が翼厚方向T1の一側に向けて凸に湾曲しており、例えば剛性部材である金属又は強化プラスチックから形成された湾曲状の板部材からなる。主翼10は、翼厚方向T1で互いに対向して位置する第1翼面13と第2翼面14とを有し、第1翼面13側の流れの圧力が第2翼面14側の流れの圧力よりも小さくなることで、翼厚方向T1の一側へ向けた揚力、すなわち拡網力を発生させるように構成されている。主翼10が拡網力を発生させた際には、オッターボード1が翼厚方向T1の一側へ移動する。この際、図1に示されるオッターボード1の使用状態においては、オッターボード1が、船100の針路Rに直交する水平方向において一側(紙面の上側)へ向けて移動することになる。
【0030】
主翼10の第1翼面13は、図4に示されるように、翼弦S1の中央を通って翼厚方向T1に延びる主翼境界線L1を挟んで前縁11の側に位置する前半面13Aと、後縁12の側に位置する後半面13Bと、を有しており、主翼境界線L1に関して後半面13Bと線対称となる後半面13Bの仮想輪郭線IM1(二点鎖線で示す。)を描画した際に、前半面13Aは、後半面13Bの仮想輪郭線IM1よりも翼厚方向T1の一側へ向けて膨出している。
【0031】
本実施の形態における前半面13Aは、前縁11の側に位置する円弧状の湾曲面部13Rと、湾曲面部13Rから後縁12の側に延びる平面部13Pと、を有し、平面部13Pは、湾曲面部13Rの端部における接線上を延びている。なお、本実施の形態で言う「湾曲する」という用語で特定される形状は、滑らかに連続して湾曲する形状のことを意味し、湾曲面部13R及び平面部13Pのような円弧面と平坦面とが連なる場合でも、連結部分に角部が生じず、全体として弓形に延びるような形状となる場合には、その形状は、「湾曲する」形状の概念に含まれるものとする。
【0032】
また、図示の主翼10の反り比は20%となっている。すなわち、翼弦S1の長さに対する、翼弦S1の中央から当該中央を通って翼厚方向T1に延びる主翼境界線L1が主翼10に交差する点までの長さ、の割合が20%となっている。本件発明者の鋭意の研究では、拡網力の確保の観点においては、主翼10の反り比が15%以上25%以下であることが好ましい。
【0033】
補助翼20は、図3に示されるように、翼弦S2を規定する前縁21及び後縁22を有し、主翼10と同様に、翼厚方向T1の一側に向けて凸に湾曲し、例えば剛性部材である金属又は強化プラスチックから形成された湾曲状の板部材からなる。ここで、補助翼20は、上述したように、主翼10の翼厚方向T1において一側へ向けて凸に湾曲する形状となるが、このような形状は、補助翼20の翼弦S2に直交する翼厚方向T2が主翼10の翼厚方向T1に対して-50度よりも大きく50度未満の角度θ1(図4参照)をなす形状のことを意味する(図4参照)。
【0034】
このような角度θ1は、オッターボード1を図4のように上方から見た際に、補助翼20の翼厚方向T2が主翼10の翼厚方向T1に対して時計回り側に傾く場合をプラスとし、補助翼20の翼厚方向T2が主翼10の翼厚方向T1に対して反時計回り側に傾く場合をマイナスとした場合に、本実施の形態では、30度であるが、本件発明者の鋭意の研究では、00度以上50度以下であることが拡網力の確保の観点で好ましく、0度以上40度以下であることが拡網力の確保の観点で特に好ましいことが知見されている。
【0035】
一方で、図4に示されるように、上記隙間Gの寸法Daは、主翼10の前縁11と補助翼20の後縁22とを結ぶ直線Lsに直交する方向における、主翼10の後縁12と補助翼20との間の距離によって規定されている。本実施の形態では、主翼10の翼弦S1の長さをS1mとした際に,Da/S1m=0.05となる関係が成立している。本件発明者の鋭意の研究では,Da/S1mは,0.05以上0.3以下であることが拡網力の確保の観点で好ましいことが知見されている。なお、本実施の形態では、Da/S1m=0.05であるが、Da/S1m=0.1であることが拡網力の確保の観点で特に好ましい。
【0036】
また、補助翼20は、主翼10の前縁11と補助翼20の後縁22とを結ぶ直線Lsが延びる方向において、主翼10の後縁12を前縁11の側に越えて延びている。補助翼20がこの直線Lsの方向で主翼10の後縁12を越える距離をA1とし、補助翼20の翼弦S2の長さをSm2とした際に、A1/Sm2は、0.1以上0.5以下であることが好ましい。ここで、補助翼20の翼弦S2の長さSm2は主翼10の翼弦S1の長さSm1よりも小さいが、Sm2/Sm1は、0.2以上0.5以下の範囲とすることが好ましい。
【0037】
また、図示の補助翼20の反り比は10%となっている。すなわち、翼弦S2の長さに対する、翼弦S2の中央から当該中央を通って翼厚方向T2に延びる直線が補助翼20に交差する点までの長さ、の割合が10%となっている。本件発明者の鋭意の研究では、補助翼20の反り比は主翼10の反り比よりも小さいことが好ましく、5%以上15%以下であることが拡網力の確保の観点で好ましいことが知見されている。
【0038】
次に天板30は、図2及び図5に示されるように、主翼10の翼弦S1及び翼厚方向T1の両方に直交する翼高さ方向Hの一側(図2の上側)において主翼10の端部と補助翼20の端部とに跨がり、主翼10と補助翼20とを一体化している。天板30は、主翼10の前縁11側から後縁12側へ向けて延びる翼形状に形成され、主翼10及び補助翼20の全体を翼高さ方向Hから覆っている。天板30は板部材からなり、例えば剛性部材である金属又は強化プラスチックから形成されてもよい。なお、本実施の形態では天板30が主翼10及び補助翼20の全体を翼高さ方向Hから覆うが、天板30は主翼10のみを覆う構成でもよい。ただし、この場合、天板30は主翼10の全体を覆うことが好ましい。
【0039】
天板30は、主翼10に対して翼厚方向T1の一側(図5の翼厚方向T1を示す矢印に沿って紙面上側)へ向けて張り出し、主翼10に沿って湾曲する湾曲辺部31と、主翼10に対して翼厚方向T1の他側(図5の翼厚方向T1を示す矢印に沿って紙面下側)に位置し且つ主翼10の前縁11と補助翼20の後縁22とを結ぶ直線Ls(図4参照)に沿って延びる内側辺部32と、を有している。
【0040】
湾曲辺部31は、主翼10の前縁11の側に位置する前端部31Fと、主翼10の後縁12の側に位置する後端部31Rとを有し、湾曲辺部31の前端部31Fは、内側辺部32に略直交する方向に延びる辺部を介して内側辺部32と接続し、湾曲辺部31の後端部31Rも、内側辺部32に略直交する方向に延びる辺部を介して内側辺部32と接続している。
【0041】
また湾曲辺部31は、前端部31Fと後端部31Rとを結んだ直線の中央を通って当該直線に直交する天板中央線L2を挟んで前端部31Fの側に位置する前半辺部31Aと、後端部31Rの側に位置する後半辺部31Bと、を有しており、天板中央線L2に関して後半辺部31Bと線対称となる後半辺部31Bの仮想輪郭線IM2(二点鎖線で示す。)を描画した際に、前半辺部31Aは、後半辺部31Bの仮想輪郭線IM2よりも翼厚方向T1の一側へ膨出する。
【0042】
また湾曲辺部31は、主翼10の前縁11と補助翼20の後縁22とを結ぶ直線Lsに直交する方向において、主翼10の翼弦S1の長さの10%程度の長さだけ主翼10に対して張り出すことが好ましい。すなわち、図5における符号B1は、直線Lsに直交する方向における主翼10と湾曲辺部31との間の距離を示すが、この距離B1は、翼弦S1の長さの10%程度となっていることが好ましい。
【0043】
一方で、底板40は、図2及び図6に示されるように、主翼10の翼弦S1及び翼厚方向T1の両方に直交する翼高さ方向Hの他側(図2の下側)において主翼10の端部と補助翼20の端部とに跨がり、主翼10と補助翼20とを一体化している。底板40も、主翼10の前縁11側から後縁12側へ向けて延びる翼形状に形成され、主翼10及び補助翼20の全体を翼高さ方向Hから覆っている。底板40も板部材からなり、例えば剛性部材である金属又は強化プラスチックから形成されてもよい。また、天板30と同様に、本実施の形態では底板40が主翼10及び補助翼20の全体を翼高さ方向Hから覆うが、底板40は主翼10のみを覆う構成でもよい。ただし、この場合も、底板40は主翼10の全体を覆うことが好ましい。
【0044】
底板40は、主翼10に対して翼厚方向T1の一側へ向けて張り出し、主翼10に沿って湾曲する湾曲辺部41と、主翼10に対して翼厚方向T1の他側に位置し且つ主翼10の前縁11と補助翼20の後縁22とを結ぶ直線Ls(図4参照)に沿って延びる内側辺部42と、を有している。
【0045】
湾曲辺部41は、主翼10の前縁11の側に位置する前端部41Fと、主翼10の後縁12の側に位置する後端部41Rとを有し、湾曲辺部41の前端部41Fは、内側辺部42に略直交する方向に延びる辺部を介して内側辺部42と接続し、湾曲辺部41の後端部41Rも、内側辺部42に略直交する方向に延びる辺部を介して内側辺部42と接続している。
【0046】
また湾曲辺部41は、前端部41Fと後端部41Rとを結んだ直線の中央を通って当該直線に直交する底板中央線L3を挟んで前端部41Fの側に位置する前半辺部41Aと、後端部41Rの側に位置する後半辺部41Bと、を有しており、底板中央線L3に関して後半辺部41Bと線対称となる後半辺部41Bの仮想輪郭線IM3(二点鎖線で示す。)を描画した際に、前半辺部41Aは、後半辺部41Bの仮想輪郭線IM3よりも翼厚方向T1の一側へ膨出している。
【0047】
また湾曲辺部41は、天板30の場合と同様に、主翼10の前縁11と補助翼20の後縁22とを結ぶ直線Lsに直交する方向において、主翼10の翼弦S1の長さの10%程度の長さだけ主翼10に対して張り出すことが好ましい。すなわち、図6における符号B2は、直線Lsに直交する方向における主翼10と湾曲辺部41との間の距離を示すが、この距離B2は、翼弦S1の長さの10%程度となっていることが好ましい。
【0048】
次にオッターボード1の全体的な形状について説明すると、図2に示すように、本実施の形態にかかるオッターボード1では、主翼10の前縁11から補助翼20の後縁22までの長さXが、オッターボード1の翼高さ方向Hにおける高さYよりも大きくなっている。具体的に本実施の形態では、高さY/長さXが、一例として0.5となっており、オッターボード1は横長の形状を呈している。なお、本実施の形態に係るオッターボード1は横長の形状となるが、このような形状は特に限られるものではなく、縦長であってもよいし、高さY/長さXが1となる、正方形状となっていても構わない。
【0049】
また、オッターボード1は、図2及び図3に示されるように、主翼10の第2翼面14の翼高さ方向Hにおける中間位置に固定されて翼厚方向T1の他側に張り出し、前縁11から後縁12まで延びる中板51をさらに備えている。中板51には、翼高さ方向Hに沿って延びる板状のワープ取付板52が固定され、ワープ取付板52には、その板面法線方向に貫通する複数の取付孔52Aが設けられている。ワープ取付板52は、主翼境界線L1(図4参照)よりも前縁11側に位置しており、取付孔52Aにワープ101を結びつけることで、ワープ101とオッターボード1とを連結することができる。
【0050】
また、オッターボード1は、天板30の後半辺部31Bの側の底面に固定された複数の上側取付リング61と、底板40の後半辺部41Bの側の上面に固定された複数の下側取付リング62と、を備えている。上側取付リング61及び下側取付リング62は、オッターペンネント102を結びつけることが可能であり、これにより、オッターペンネント102とオッターボード1とを連結することができる。
【0051】
(作用)
次に、本実施の形態にかかるオッターボード1,1’の作用について説明する。
【0052】
オッターボード1を使用する際には、まず、オッターボード1のワープ取付板52にワープ101が連結されるとともに、オッターボード1の上側取付リング61及び下側取付リング62にオッターペンネント102が連結される。一方、オッターペンネント102は、ハンドロープ103を介してトロール網104にも連結され、これにより、オッターボード1とトロール網104とが連結された状態となる。オッターボード1’も、オッターボード1と同様の手順で、トロール網104に連結される。
【0053】
その後、オッターボード1,1’は、所望の位置で海中に投入された後、曳航される。ここで、オッターボード1,1’は、曳航に伴う海水の流れによって互いに逆向きの拡網力を発生させ、これにより、互いに離間する方向へ移動する。このオッターボード1,1’の移動に伴い、各ハンドロープ103が水平方向において互いに逆側へ向けて網口105を引くことで、トロール網104の網口105を拡開することができる。
【0054】
この際、本実施の形態にかかるオッターボード1では、主翼10に加えて補助翼20が設けられる。これにより、主翼10と補助翼20との間の隙間Gを通過し、主翼10の拡開側(網を拡開する側)の翼面である第1翼面13と同じ側の補助翼20の翼面に沿って流れる流れが、主翼10の第1翼面13で生じ得る剥離を後縁12側にずらすようにオッターボード1周りの流れを整流させる。これにより、主翼10の拡開側の翼面である第1翼面13において生じ得る剥離が抑制され、第1翼面13とその反対側の第2翼面14との間の圧力差の低下が抑制されることで、剥離に起因する網口に対する拡網力の低下が抑制される。
【0055】
これにより、本実施の形態にかかるオッターボード1,1’によれば、主翼10を大型化せずに拡網力を大きく確保し得るため、コンパクトでありながらも拡網力を大きく確保することができる。特に本実施の形態では、主翼10が翼厚方向T1の一側に向けて凸に湾曲するため、主翼10が平板状である場合等に比べて拡網力を大きく確保することが可能となる。
【0056】
また、主翼10において翼厚方向T1の一側を向く第1翼面13は、前縁11の側が後縁12の側よりも膨出するように形成されている。詳しくは、第1翼面13は、当該主翼10の翼弦S1の中央を通って翼厚方向T1に延びる主翼境界線L1を挟んで前縁11の側に位置する前半面13Aと、後縁12の側に位置する後半面13Bと、を有しており、主翼境界線L1に関して後半面13Bと線対称となる後半面13Bの仮想輪郭線LM1を描画した際に、前半面13Aは、後半面13Bの仮想輪郭線LM1よりも翼厚方向T1の一側へ膨出する。
【0057】
このように主翼10の拡開側の第1翼面13の前縁11の側が後縁12の側よりも膨出することで、当該翼面で生じ得る剥離が後縁12側にずれるようにオッターボード周りの流れが変化し、これにより、当該翼面で生じ得る剥離の発生が抑制される。その結果、主翼10の拡開側の翼面である第1翼面13と反拡開側の翼面である第2翼面14との間の圧力差が剥離によって低下することを効果的に抑制することが可能となるため、拡網力を増大させることができる。
【0058】
また、オッターボード1は、主翼10の翼弦S1及び翼厚方向T1の両方に直交する翼高さ方向Hの一側及び他側に配置され、主翼10を翼高さ方向Hから覆う翼端板である天板30及び底板40をさらに備えている。これにより、天板30及び底板40が、主翼10の拡開側の第1翼面13と反拡開側の第2翼面14との間の圧力差に起因して第2翼面14から第1翼面13に向けて流れようとする流れを遮る。この場合も、第1翼面13と第2翼面14との間の圧力差の低下が抑制されるため、拡網力を増大させることができる。
【0059】
特に本実施の形態では、天板30及び底板40が主翼10の前縁11側から後縁12側へ向けて延び、主翼10及び補助翼20の全体を翼高さ方向Hから覆っている。これにより、天板30及び底板40が、第2翼面14から第1翼面13に向けて流れようとする流れを広範囲にわたって遮ることが可能となる。これにより、第1翼面13と第2翼面14との間の圧力差の低下が効果的に抑制されるため、拡網力を効果的に増大させることができる。
【0060】
さらに天板30及び底板40は、主翼10に対して翼厚方向T1の一側へ向けて張り出す湾曲辺部31,41を有し、湾曲辺部31,41は、主翼10に沿って湾曲する。これにより、第2翼面14から第1翼面13に向けて流れようとする流れを天板30及び底板40のサイズを過度に大きくせずに好適に遮ることが可能となる。これにより、第1翼面13と第2翼面14との間の圧力差の低下が効果的に抑制されるため、拡網力を効果的に増大させることができる。
【0061】
より詳しくは、本実施の形態では、天板30の湾曲辺部31及び底板40の湾曲辺部41が、直線Lsに直交する方向において、主翼10の翼弦S1の長さの10%程度の長さだけ主翼10に対して張り出す。これにより、第2翼面14から第1翼面13に向けて流れようとする流れを天板30及び底板40のサイズを過度に大きくせずに効果的に遮ることができる。本件発明者の鋭意の研究では、図5及び図6に示した距離B1及び距離B2が、翼弦S1の長さの8%~12%となっている場合に、流れの遮蔽効果とサイズのバランスが好適であり、距離B1及び距離B2が翼弦S1の長さの10%である場合が特に良好であることが確認されている。なお、距離B1及び距離B2は、主翼10の前縁11から後縁12にわたって翼弦S1の長さの8%~12%となっていることが良く、特に主翼10の中央部分に対しては、天板30の湾曲辺部31及び底板40の湾曲辺部41が翼弦S1の長さの10%だけ張り出すのが良い。
【0062】
(揚力係数の演算例)
次に、上述の実施の形態にかかるオッターボード1の揚力係数と、従来のオッターボードの揚力係数とに関する演算例を説明する。なお、本演算例では、翼に生じる揚力を演算する際に一般的に用いられる演算式を用いて、揚力係数を演算するため、上述した拡網力のことを揚力と称しているが、以下で言う揚力は、拡網力に相当する値として解釈されて差し障り無い。この演算例では、実施の形態にかかるオッターボード1の揚力と、従来のオッターボードの揚力とを計測し、これら計測した揚力から、迎角に応じたオッターボード1の揚力係数及び従来のオッターボードの揚力係数を求めた。図7には、各揚力係数の演算結果が示されている。
【0063】
なお、ここでは、従来のオッターボードとして、拡開のための揚力を発生させる翼部分が単一の平板であり、縦横比が0.5(縦寸法:横寸法=1:2)であるものが使用された。また、上記の迎角とは、実施の形態にかかるオッターボード1においては、主翼10の翼弦S1が流れとなす角度のことを意味し、従来のオッターボードにおいては、平板の平面部分が流れとなす角度のことを意味する。
【0064】
また、揚力の計測においては、回流水槽において、六分力検力計にオッターボードを取り付け、流水中においてオッターボードにかかる揚力を計測した。
【0065】
オッターボードの揚力は、次式(1)により定義される。
L=(1/2)CρSV・・・(1)
【0066】
式(1)において、Lは、揚力(N)である。Cは、揚力係数(無次元量)であり、オッターボードに固有に定められる係数である。ρは、水の密度(kg/m)である。Sは、オッターボードの投影面積(m)である。Vは、流速(m/s)である。
【0067】
式(1)において揚力の計測値を代入することで、揚力係数が求められる。揚力は、拡網力と同義であるが、揚力は、揚力係数に比例する。よって、揚力係数が大きいほど、拡網力が大きくなる。
【0068】
図7においては、縦軸が揚力係数を示し、横軸が迎角を示す。図7に示されるように、実施の形態にかかるオッターボード1の揚力係数は、従来のオッターボードの揚力係数に比較して広範囲の迎角にわたって2倍以上大きい値となっている。
【0069】
このような演算例からも、本発明のオッターボードの有用性について確認することができた。また、本件発明者らは、本発明にかかるオッターボードの性能を実際の海洋試験においても検証したが、この試験においても、本発明にかかるオッターボードは迅速に網口を開口させることが可能であることが確認されている。
【符号の説明】
【0070】
1,1'…オッターボード
10…主翼
11…前縁
12…後縁
13…第1翼面
13A…前半面
13B…後半面
14…第2翼面
20…補助翼
21…前縁
22…後縁
30…天板
40…底板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7