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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】受光素子及び近赤外光検出器
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/107 20060101AFI20220422BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
H01L31/10 B
G01J1/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018529815
(86)(22)【出願日】2017-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2017026191
(87)【国際公開番号】W WO2018021127
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2016146578
(32)【優先日】2016-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕一
(72)【発明者】
【氏名】波多野 卓史
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖彦
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0151839(US,A1)
【文献】特開2016-119471(JP,A)
【文献】特開2011-222874(JP,A)
【文献】国際公開第2014/190189(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2007/0152289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/0392,31/08-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層がこの順に積層されており、
前記増幅層が、n型にドープされたn-Si層と、p型にドープされたp-Si層とを前記基板上に少なくともこの順に有しており、
前記吸収層が、真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、かつ、前記i-Ge層と前記増幅層との間に、第2のp-Ge層を有しており、
当該吸収層の層厚Lが、1400~1550nmの波長域の光に対して80%以上を吸収する層厚である受光素子。
【請求項2】
基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層がこの順に積層されており、
前記増幅層が、n型にドープされたn-Si層と、p型にドープされたp-Si層とを前記基板上に少なくともこの順に有しており、
前記吸収層が、真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層と、前記p-Ge層よりも高濃度でp型にドープされたp -Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、
当該吸収層の層厚Lが、1400~1550nmの波長域の光に対して80%以上を吸収する層厚である受光素子。
【請求項3】
前記増幅層が、n-Si層とp-Si層との間に、真性領域であるi-Si層を有する請求項1又は請求項2に記載の受光素子。
【請求項4】
前記吸収層の層厚Lが、7μm以下である請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の受光素子。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の受光素子を備えた近赤外光検出器。
【請求項6】
前記受光素子が1次元又は2次元アレイ状に配列されている請求項に記載の近赤外光検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光素子及び近赤外光検出器に関する。より詳しくは、本発明は、ゲルマニウム(Ge)の吸収層を有し、当該吸収層において受光感度の大きな近赤外光を自由空間から効率的に受光でき、生産性が高く、かつ製造コストの低い受光素子、及び当該受光素子を備えた近赤外光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザーレーダー(ライダー)等の計測機器においては、例えば、アイセーフの観点から波長1550nmの近赤外光を光源から投光し、その光を受光素子により受光することによって対象物の計測が行われている。現在、光源に関しては様々な選択肢があるものの、受光素子については選択肢が限られており、課題も多い。
【0003】
これらの近赤外光に受光感度をもつ従来の受光素子としては、低ノイズであり、かつ応答速度が速いという観点から、例えば、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)といった化合物半導体が用いられることが多い。
しかし、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)を用いる方法は、生産性が非常に悪く、かつ製造コストを要するという問題がある。そこで、生産性が高く、かつ製造コストを抑えられる新しい受光素子が求められている。
【0004】
ところで、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)を用いずに、波長1550nm付近の近赤外線領域に受光感度をもつ受光素子としては、ゲルマニウム(Ge)を吸収層に用いた受光素子が知られている。
【0005】
このような受光素子としては、真性半導体として、ゲルマニウム(Ge)やシリコン(Si)-ゲルマニウム(Ge)を用いることで、近赤外線領域の波長の光を吸収し、光通信等の用途で好適に使用できる光学素子が開示されている(特許文献1)。特許文献1では、pドープ領域、真性領域及びnドープ領域を有し、pドープ領域及びnドープ領域の少なくとも一方がアレイ状に配置されたアバランシェフォトダイオード(APD:avalanche photodiode)が開示されている。
【0006】
また、他の受光素子の例としては、シリコン(Si)層上にゲルマニウム(Ge)を成長させることで、ゲルマニウム(Ge)を吸収層、シリコン(Si)を増幅層としたアバランシェフォトダイオード(APD)の構成が開示されている(非特許文献1)。非特許文献1の受光素子によれば、ゲルマニウム(Ge)はノイズが多いことが知られているものの、シリコン(Si)を増幅層とすることで、低ノイズであり、かつ上述した近赤外線領域の波長に感度を持つセンサーを製造することができることが記載されている。
【0007】
これらの光学素子は光通信用の用途に用いることを想定したものであるため、低消費電力であり、かつ応答速度が速くなるように構成されている。そのため、通常、導波路状に形成された吸収層を用いて光を伝播、吸収する構成となっている(図10参照)。導波路状の吸収層は、層厚を薄くしても、光を吸収するための相互作用長(図10のL2)を長くとることができるので、暗電流等に起因するノイズを抑え、応答速度が速くすることができる。また、印加電圧を抑えられるため、消費電力も抑えることができる。
【0008】
しかし、これらの光学素子は、光通信用の用途に用いることを想定したものであり、自由空間からの光を受光する用途に用いることは難しい。光通信用の用途に用いられる受光素子は、上述したように、吸収層が薄くなっているため、自由空間からの光の受光するための受光素子に用いる場合には、光を吸収するための相互作用長(図3のL1)が短くなり、吸収層において、十分に光を吸収することができないという問題が生じる。
また、ゲルマニウム(Ge)からなる吸収層は、ノイズが非常に大きいため、単に吸収層の層厚を厚くしただけでは、応答速度が遅くなるとともに、ノイズが非常に大きくなるため、自由空間からの光を受光する用途に用いることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-107562号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Nature Photonics,2010,4,527-534.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ゲルマニウム(Ge)の吸収層を有し、当該吸収層の受光領域である近赤外光を自由空間から効率的に受光でき、生産性が高く、かつ製造コストの低い受光素子、及び当該受光素子を備えた近赤外光検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基板上に、増幅層及び吸収層を順に有し、前記増幅層は少なくともp-Si層及びn-Si層を有し、前記吸収層は少なくともp-Ge層を有し、当該吸収層の層厚Lが所定の厚さである受光素子とすることによって、当該吸収層の受光感度の大きい近赤外光を自由空間から効率的に受光できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層がこの順に積層されており、
前記増幅層が、n型にドープされたn-Si層と、p型にドープされたp-Si層とを前記基板上に少なくともこの順に有しており、
前記吸収層が、真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、かつ、前記i-Ge層と前記増幅層との間に、第2のp-Ge層を有しており、
当該吸収層の層厚Lが、1400~1550nmの波長域の光に対して80%以上を吸収する層厚である受光素子。
【0016】
2.基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層がこの順に積層されており、
前記増幅層が、n型にドープされたn-Si層と、p型にドープされたp-Si層とを前記基板上に少なくともこの順に有しており、
前記吸収層が、真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層と、前記p-Ge層よりも高濃度でp型にドープされたp -Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、
当該吸収層の層厚Lが、1400~1550nmの波長域の光に対して80%以上を吸収する層厚である受光素子。
【0017】
.前記増幅層が、n-Si層とp-Si層との間に、真性領域であるi-Si層を有する第1項又は第2項に記載の受光素子。
【0018】
.前記吸収層の層厚Lが、7μm以下である第1項から第項までのいずれか一項に記載の受光素子。
【0019】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の受光素子を備えた近赤外光検出器。
【0020】
.前記受光素子が1次元又は2次元アレイ状に配列されている第項に記載の近赤外光検出器。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記手段により、ゲルマニウム(Ge)の吸収層を有し、当該吸収層において受光感度の大きな近赤外光を自由空間から効率的に受光でき、生産性が高く、かつ製造コストの低い受光素子及び近赤外光検出器を提供することができる。
上記効果の作用機構は、以下のとおりである。
【0022】
本発明の受光素子は、基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層及びゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層がこの順に積層されている。
本発明の受光素子は、吸収層が、p型にドープされたp-Ge層を少なくとも有している。p-Ge層は、キャリアの移動は遅いもののノイズが少ないので、例えば、p-Ge層の割合を多くして吸収層を厚く設けることで、受光感度(量子効率)を向上させるとともに、ノイズも抑えることができる。
また、本発明に係る吸収層は、受光対象とする1400~1550nmの波長域の光に対して80%以上を吸収する層厚である。これにより、自由空間からの光を吸収する際に、その多くを吸収することができる。そのため、受光感度の高い受光素子とすることができる。
【0023】
また、本発明の受光素子は、シリコン(Si)を含有する増幅層を有しているので、吸収層から移動したキャリアの移動を増幅させ、より大きな電流を流すことができる。また、Siを増幅層とすることで、ゲルマニウム(Ge)の吸収波長の光に感度を有しつつ、低ノイズであるセンサーとすることができる。
【0024】
また、本発明の受光素子は、シリコン(Si)層にゲルマニウム(Ge)を積層した受光素子であるため、ウエハサイズの大きなシリコンウエハを用いて生産することができる。そのため、ウエハサイズの小さいシリコンインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)を用いる方法よりも、生産性が高く、かつ製造コストを低くおさえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】光学素子がアレイ状に配列された近赤外光検出器の概略構成を示す平面図
図2図1の近赤外光検出器のII-II部分の断面図
図3】光学素子の吸収層で自由光を吸収する様子を模式的に示した断面図
図4】受光素子の層構成を示す断面図
図5図4の受光素子の層構成におけるバンドギャップ図
図6】受光素子の層構成の他の例を示す断面図
図7】受光素子の層構成の他の例を示す断面図
図8】吸収層の層厚と光の吸収率の関係を示したグラフ
図9】反射防止層の有無と光反射率の関係を示したグラフ
図10】導波路状の吸収層を有する従来例に係る光学素子において、吸収層で光を吸収する様子を模式的に示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の受光素子は、基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層がこの順に積層されており、前記増幅層が、n型にドープされたn-Si層と、p型にドープされたp-Si層とを前記基板上に少なくともこの順に有しており、前記吸収層が、真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、当該吸収層の層厚Lが、1400~1550nmの波長域の光に対して80%以上を吸収する層厚であることを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0027】
また、本発明の実施態様としては、応答速度を速くする観点から、前記吸収層が、前
i-Ge層と前記増幅層との間に、第2のp-Ge層を有することが好ましい。
【0028】
また、本発明の実施態様としては、前記吸収層が、前記p-Ge層よりも高濃度でp型にドープされたp-Ge層を有し、前記p-Ge層上に前記p-Ge層が積層されていることが好ましい。これにより、キャリアの移動度を向上させ、応答速度を速くすることができる。また、バンド構造で、p-Ge層とp-Ge層でフェルミ準位が異なるためバンド間で傾きが生じ、電極から電子を取り出しやすくなる。また、p-Ge層上にp-Ge層が積層されていると、電子を増幅層側に導入しやすくできることが期待できる。さらに、電極との接触抵抗を下げることもできる。
【0029】
また、本発明の実施態様としては、増幅層をpin構造とすることでより大きな増幅作用を得る観点から、前記増幅層が、n-Si層とp-Si層との間に、真性領域であるi-Si層を有することが好ましい。
【0030】
また、本発明の実施態様としては、計測用のデバイスに使用する際に十分な応答速度を得る観点からは、前記吸収層の層厚Lが、7μm以下であることが好ましい。
【0031】
また、本発明の受光素子は、例えば、自由空間からの光を吸収するための近赤外光検出器に、好適に用いることができる。また、近赤外光検出器は、当該受光素子が1次元又は2次元アレイ状に配列されていることが好ましい。
【0032】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0033】
[近赤外光検出器]
本発明の近赤外光検出器100には、近赤外光を受光して電気に変換する受光素子10が配置されている。また、近赤外光検出器100は、受光素子10が1次元又は2次元アレイ状に配列されていることが好ましい。図1にはその一例として、2行×5列の計10個の受光素子10がアレイ状に配列された構成を示す。また、図2には、図1のII-II部分の断面図を示す。
近赤外光検出器100の各受光素子10は、ゲルマニウム(Ge)の吸収層40を有しているため、自由空間からの近赤外光を受光し検出する用途に好適に用いることができる。
【0034】
近赤外光検出器100は、例えば、SOI(Silicon on Insulator)ウエハに、公知の方法を用いてパターニングすることによって製造することができる。
具体的には、例えば、米国特許第6812495号明細書、米国特許第6946318号明細書に記載されているように、シリコン(Si)の基板20上に、公知のUHV-CVD法を用いてゲルマニウム(Ge)を成長させることにより製造することができる。
【0035】
[受光素子]
本発明の受光素子10は、基板20上に、シリコン(Si)を含有する増幅層30、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層40がこの順に積層されており、増幅層30が、n型にドープされたn-Si層31と、p型にドープされたp-Si層33とを基板20上に少なくともこの順に有しており、吸収層40が、真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、当該吸収層40の層厚Lが、1400~1550nmの波長域の光に対して80%以上を吸収する層厚であることを特徴とする
【0036】
受光素子10の層構成としては、具体的には、以下の例を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、以下の例に示すように、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層40は、屈折率が非常に大きいため、吸収層40の上面には、反射防止層50が積層されていることが好ましい。
(i) 基板/n-Si層/p-Si層/p-Ge層/反射防止層
(ii) 基板/n-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(iii) 基板/n-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(iv) 基板/n-Si層/p-Si層/p-Ge層/i-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(v) 基板/n-Si層/p-Si層/p-Ge層/i-Ge層/p-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(vi) 基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/p-Ge層/反射防止層
(vii) 基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(viii)基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(ix) 基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/p-Ge層/i-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(x) 基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/p-Ge層/i-Ge層/p-Ge層/p-Ge層/反射防止層
【0037】
また、以下に一例を示すように、基板20の底面側(吸収層40が設けられた側とは反対側)に、さらに光反射層60が積層された構成とすることも好ましい。
(xi)光反射層/基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/p-Ge層/反射防止層
【0038】
図4には、一例として、上記(viii)の層構成である、基板20上に、n-Si層31、i-Si層32及びp-Si層33から形成される増幅層30と、i-Ge層41、p-Ge層42及びp-Ge層43から形成される吸収層40と、反射防止層50とがこの順で積層された受光素子10を示した。
また、図4に示すように、例えば、n-Si層31に接する箇所と、吸収層40の上面に、それぞれ電極70,71が設けられている。これらの電極70,71は図示しない配線等により回路を形成しており、電極間に電位差を生じさせることができるとともに、吸収層40が光を吸収することによって生じた電子を取り出すことができるようになっている。
なお、電極70,71を設ける位置は、上述したように、電位差を生じさせることができ、光を吸収することによって生じた電子を取り出すことができれば、適宜変更可能である。
【0039】
また、図5には、図4に示した上記(viii)の層構成とした受光素子10について、逆バイアスの電圧を印加した際のバンド構造を示した。
【0040】
基板20としては、本発明の効果が得られるものであれば特に限られないが、例えば、シリコン基板が用いられる。
【0041】
増幅層30は、n型にドープされたn-Si層31と、p型にドープされたp-Si層33とを基板20上に少なくともこの順に有しており、吸収層40から移動したキャリアの移動を増幅させ、より大きな電流を流させる機能を果たしている。
また、増幅層30は、増幅量を増やす観点から、n-Si層31と、p型にドープされたp-Si層33との間に、真性領域であるi-Si層32を有する構成とし、pin構造によって形成されていることが好ましい。
【0042】
n-Si層31やp-Si層33のドープ領域は、例えば、公知のイオン注入法や熱拡散法による方法によって、形成することができる。
【0043】
増幅層30の厚さは、印加電圧に応じて適宜変更可能であり、用途に応じて十分な増幅効果を得られれば、特に制限はない。
【0044】
吸収層40は、p型にドープされたp-Ge層42を少なくとも有しており、ゲルマニウム(Ge)の吸収波長の光を吸収する機能を果たしている。本発明の吸収層40では、特に近赤外線領域である波長1400~1550nmの範囲内の光を吸収するのに適している。
【0045】
また、吸収層40は、使用用途に応じて求められるノイズレベルや応答速度によって、以下のように適宜層構成を変更して用いることが好ましい。
例えば、ノイズを小さくすることが求められる場合には、吸収層40のうち、p-Ge層42の占める割合を大きくすることが好ましく、すべてをp-Ge層42によって形成してもよい。
また、応答速度を速くすることが求められる場合には、吸収層40が、真性領域であるi-Ge層41を有する構成とし、具体的には、増幅層30上に、i-Ge層41、p-Ge層42がこの順に積層された構成とすることが好ましい。i-Ge層41は、p-Ge層42とp-Si層33の間に位置しているため、p-Ge層42とp-Si層33のフェルミ準位の差によって、逆バイアスの電圧をかけると、バンド構造では図5に示すような傾きが生じる。したがって、i-Ge層41において、キャリアの移動速度を速め、応答速度を速くすることができる。
【0046】
また、吸収層40が、i-Ge層41と増幅層30との間に、第2のp-Ge層44を有する構成とすることもできる(図6)。
【0047】
また、p-Ge層42の上に、p-Ge層42よりも高濃度でp型にドープされたp-Ge層43を有する構成とすることが好ましい。これにより、キャリアの移動度を向上させ、応答速度を速くすることができる。また、バンド構造で、p-Ge層42とp-Ge層43でフェルミ準位が異なるためバンド間で傾きが生じるため、電極71から電子を取り出しやすくなる。また、p-Ge層42上にp-Ge層43が積層されていると、電子を増幅層30側に導入しやすくできることが期待できる。さらに、電極71との接触抵抗を下げることもできる。
また、本明細書でいうp-Ge層43とは、上述したように、p-Ge層42よりも高濃度でp型にドープされたGe層であると定義している。
【0048】
p-Ge層42やp-Ge層43のドープ領域は、例えば、公知のイオン注入法や熱拡散法による方法によって、形成することができる。
【0049】
吸収層40は、例えば、基板20及び増幅層30を600℃程度に加熱をして、ゲルマニウム(Ge)の原料ガスであるGeHを用いて、エピタキシャル成長によってGeを増幅層30上に堆積することによって形成することができる。
【0050】
吸収層40の層厚Lは、受光対象とする1400~1550nmの波長域の光に対して80%以上を吸収する層厚である
【0052】
また、吸収層40の厚さが200nm、500nm、3μm(3000nm)、5μm(5000nm)である場合について、複素屈折率の虚部にk=0.123を使用して、吸収波長(nm)と吸光度の関係を計算した結果を図8に示す。図8からわかるように、例えば、1550nmの光の吸収を計算すると、3μmの厚さで、90%を超え、100%近くの光を吸収することができる。
以上より、光を十分に吸収し受光感度を向上させる観点からは、吸収層40の厚さLが、3μm以上であることが好ましい。
【0053】
ところで、仮に吸収層40のすべてをp-Ge層42とした場合、吸収層40に電界をかけない場合には、電子は拡散速度で吸収層40を移動することとなる。この場合、電子が正孔と再結合して消滅するまで平均時間(いわゆる少数キャリア寿命)の間、電子が拡散速度で移動するとした場合、移動距離は約7μm程度となる。したがって、吸収層40から増幅層30に電子にキャリアを移動させやすくする観点からは、吸収層40の厚さが7μm以下であることが好ましい。また、吸収層40の厚さを7μm以下とすることで、計測用のデバイスに使用する際に十分な応答速度を得ることができる。
【0054】
反射防止層50としては、吸収層40表面での反射を効率的に抑える観点から、反射防止層50を形成する材料の屈折率が、1.2~3.5の範囲内であることが好ましく、1.4~3.0の範囲内であることが特に好ましい。
ここで、反射防止層50の有無と光反射率の関係を示したグラフを図9に示す。反射防止層50を設けなかった場合の吸収層40での光反射率は、図9の(a)に示すとおり、約36%である。また、屈折率が、それぞれ(b)1.2、(c)1.4、(d)2.0、(e)3.0、(f)3.5の材料からなり、厚さが最適化された反射防止層50を設けた場合の光反射率(%)をそれぞれ図9に示す。図9の(d)からわかるとおり、屈折率2.0の材料からなる反射防止層50では、波長約1550nmの光の反射率をほぼ0程度に抑えることができ、吸収層40表面での反射を効率的に抑えることができる。また、屈折率が1.2~3.5の材料によって形成された反射防止層50を設けた場合には、本発明に係る吸収層40に適した波長1400~1550nmの範囲内の光の反射を好適に抑えることができる。
屈折率が1.2~3.5の範囲内となる材料としては、例えば、屈折率約2.0の窒化ケイ素(SiN)や屈折率約1.5の二酸化ケイ素(SiO)、屈折率約3.5のケイ素(Si)を用いることが好ましい。
【0055】
また、反射防止層50としては、吸収層40表面での反射を効率的に抑える観点から、微細な凹凸構造51が形成されることも好ましい。微細な凹凸構造51としては、例えば、吸収層40に近づくにつれて実質的な屈折率が上昇する形状を有することが好ましく、このような凹凸構造51として、モスアイ構造を用いることが好ましい。
モスアイ構造としては、図7に模式図を示すように、例えば、錐体形状の凸部を複数設けることにより形成することができる。
また、モスアイ構造における錐体形状は、特に限定されるものではなく、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状、釣鐘形状、楕円錐台形状など、反射防止機能を有する錐体形状であれば適宜選択可能である。
【0056】
モスアイ構造における実質的な屈折率は、モスアイ構造を形成する材料の材質、錐体形状の厚さ方向における構造体と空間の割合の変化率、凹凸のピッチ及び深さなどにより決定されるため、これらを適宜調節することで、屈折率を上述した1.2~3.5の範囲内となるように調整すればよい。凹凸のピッチは、例えば、1000~1600nmであることが好ましく、凹凸の深さは、ピッチの0.5~5倍であることが好ましく、1~3倍であることがさらに好ましい。
【0057】
また、反射防止層50としては、反射防止性能を向上させることで受光感度を向上させる観点から、複数の反射防止層50が積層された多層構造を有する構成とすることが好ましい。
また、吸収層40表面での反射を効率的に抑える観点からは、受光対象となる光の波長をλとしたとき、光学層厚が(λ/4)の奇数倍の反射防止層50が、一層又は複数層積層されていることが好ましい。これにより、反射防止層50に設けた各層における上面及び下面で反射した光が打消しあうため、光の反射を効果的に防止することができる。
【0058】
(反射率とSN比の関係について)
光学素子に逆バイアスをかけてアバランシェフォトダイオード(APD)として動作させる際に、SN比を以下式(A1)によって計算することができる。
【0059】
【数1】
【0060】
上記式(A1)において、S:信号、N:ノイズ、q:電荷、η:量子効率、Popt:入射光のパワー、h:プランク定数、ν:光周波数、I:ショットノイズ電流、I:背景光ノイズ電流、I:暗電流、F(M):ノイズファクター、B:帯域、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、Req:負荷抵抗、M:増倍率を表す。
なお、シリコン(Si)によって構成される増幅層30でのノイズは、ゲルマニウム(Ge)によって構成される吸収層40のノイズの1/100以下であるため、上記計算では無視している。
【0061】
本発明の受光素子10では、図9に示したように、反射防止層50を設けない場合には、吸収層40における波長1550nmの光の反射率は約36%程度であり、屈折率約2.0の窒化ケイ素(SiN)により形成された反射防止層50を設けた場合の反射率は、ほぼ0%とすることができる。
このとき、上記式(A1)によって、SN比が1となる入射光のパワー(W)を計算すると、反射率が仮に40%の場合は100nW程度であり、反射率が仮に0%の場合は20nWとなる。また、反射率40%と反射率0%では、吸収層40に入光する光の強さは、(1.0-0.4):(1.0-0)=3:5となる。ここで、SN比には、入射光のパワーが(Popt)2乗で効果があるため、反射防止層50によって反射率を40%から0%にした場合には、受光感度は5/3倍、すなわち約2.8倍程度向上することができる。
【0062】
光反射層60は、基板20の下面(吸収層40が設けられた側とは反対側)に設けられており、吸収層40を通過した光があった場合に、基板20を通過した光の少なくとも一部を反射させて再度吸収層40を通過できるようにしている。これにより、吸収層40における吸収率を向上させることができる。
光反射層60としては、受光対象となる近赤外光の少なくとも一部を反射することができれば特に限られず、無機、有機いずれの材料を用いて形成しても良く、形成方法も特に限定されない。
具体的には、例えば、無機材料としてはITO(酸化インジウムスズ)やATO(アンチモンドープ酸化スズ)等を、また、有機材料としてはポリカーボネート樹脂等を用いることができる。
【0063】
以上で説明した本発明の実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。すなわち、本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の受光素子は、自由空間からの光を効率的に受光することができ、生産性が高く、かつ製造コストが低いため、レーザーレーダー(ライダー)等の計測機器に用いられる受光素子として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 受光素子
20 基板
30 増幅層
31 n-Si層
32 i-Si層
33 p-Si層
40 吸収層
41 i-Ge層
42 p-Ge層
43 p-Ge層
44 第2のp-Ge層
50 反射防止層
51 凹凸構造
60 光反射層
100 近赤外光検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10