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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】p53分解誘導分子及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/54 20170101AFI20220422BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20220422BHJP
   C07K 5/062 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
A61K47/54
A61K45/00
A61K38/05
C07K5/062
A61P35/00
A61P43/00 107
A61P25/00
A61P9/00
A61P3/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018551619
(86)(22)【出願日】2017-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2017040781
(87)【国際公開番号】W WO2018092725
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2016222681
(32)【優先日】2016-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】宮本 悦子
(72)【発明者】
【氏名】小沢 正晃
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-149524(JP,A)
【文献】特開2013-177444(JP,A)
【文献】国際公開第2012/003281(WO,A1)
【文献】特開2008-081508(JP,A)
【文献】特表2008-533986(JP,A)
【文献】伊野部智由,プロテアソームによる蛋白質分解の分子機構,公益財団法人アステラス病態代謝研究会 平成24年度 第44回助成研究報告集,2012年,全文
【文献】BELL, S. et al.,p53 Contains Large Unstructured Regions in its Native State,J Mol Biol,2002年,Vol.322,p.917-27,ISSN 0022-2836,Abstract、等
【文献】LONG, M.J. et al.,Inhibitor Mediated Protein Degradation,Chem Biol,2012年,Vol.19,p.629-37,ISSN 1074-5521,Abstract、第630頁左欄下から第13-12行、Discussion、Significance等
【文献】SHI, Y. et al.,Boc3Arg-Linked Ligands Induce Degradation by Localizing Target Proteins to the 20S Proteasome,ACS Chem Biol,2016年10月05日,Vol.11,p.3328-37,ISSN 1554-8937,Abstract、Figures、等
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 45/00
A61K 31/00
C07K 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有するp53親和性分子と、プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しないタンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートであって、前記p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能であり、
前記タンパク質分解誘導タグが、下記式(I)で表される構造を有するか、プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造を有するか、又はプロテアソーム活性化剤の構造を有するp53分解誘導分子。
【化1】
(式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルコキシ基を示す。)
【請求項2】
前記プロテアソーム阻害活性が、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性から選ばれる少なくとも1種に対する阻害活性である請求項に記載のp53分解誘導分子。
【請求項3】
下記式で表される請求項又は請求項に記載のp53分解誘導分子。
【化2】
【請求項4】
p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有するp53親和性分子と、プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しないタンパク質分解誘導タグ(ただし、下記式で表されるタグを除く。)とのコンジュゲート(ただし、融合タンパク質を除く。)を設計することを含む、前記p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能なp53分解誘導分子の設計方法。
【化3】
(式中、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を示す。)
【請求項5】
p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有するp53親和性分子と、プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しないタンパク質分解誘導タグ(ただし、ポリユビキチン鎖、ユビキチン様ドメイン、及び下記式で表されるタグを除く。)とのコンジュゲートを設計することを含む、前記p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能なp53分解誘導分子の設計方法。
【化4】
(式中、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を示す。)
【請求項6】
p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有するp53親和性分子と、プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しないタンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートを設計することを含む、前記p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能なp53分解誘導分子の設計方法であって、
前記タンパク質分解誘導タグが、下記式(I)で表される構造を有するか、プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造を有するか、又はプロテアソーム活性化剤の構造を有する設計方法。
【化5】
(式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルコキシ基を示す。)
【請求項7】
下記式で表される化合物。
【化6】
【請求項8】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のp53分解誘導分子を含む医薬組成物。
【請求項9】
p53タンパク質が仲介する疾患又は症状の予防又は治療に用いられる請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記p53タンパク質が仲介する疾患又は症状が、癌、細胞老化、神経疾患、神経細胞死、糖尿病、又は心機能障害である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記p53タンパク質が仲介する疾患又は症状が細胞老化である請求項10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、p53分解誘導分子及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
p53タンパク質は、細胞老化、細胞周期の停止、アポトーシスの誘導等に関連するタンパク質であり、DNA損傷を引き起こすストレス(活性酸素、放射線等)などに応答して活性化される。
【0003】
従来、アルツハイマー病、パーキンソン病等の神経疾患、又は脳卒中等の虚血性障害において、p53タンパク質の発現が亢進し、神経細胞死が誘導されることが知られている。また、p53タンパク質の発現亢進が、心臓における血管新生能を低下させること等により、心機能障害の発症を促進することが知られている。また、p53タンパク質の発現亢進が、膵β細胞におけるミトコンドリア機能を低下させること等により、インスリン分泌能を低下させ、糖尿病の発症を促進することが知られている。
更に、再生医療において用いられる多能性幹細胞(例えば、iPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell))の作製において、p53遺伝子の発現を抑制する必要があることが知られている。
このため、種々の疾患の治療及び再生医療において、p53タンパク質の量(発現)を減少させる方法論が検討されている。
【0004】
また、p53タンパク質が活性化することにより、癌化した細胞の増殖抑制及びアポトーシスの誘導が惹起され、癌が抑制されると考えられている。しかし、ヒトの癌においては、50%以上の割合でp53タンパク質が変異しており、癌細胞の増殖抑制及びアポトーシスの誘導といった機能が低下していることが知られている。
このため、癌治療において、変異型p53タンパク質の量(発現)を減少させる方法論が検討されている。
【0005】
これまで、標的タンパク質の量をRNAレベルで操作する技術として、siRNA(small interfering RNA)を用いて標的タンパク質のmRNAを分解するRNAi(RNA interference)技術が知られている。
【0006】
また、標的タンパク質の量をタンパク質レベルで操作する技術として、標的タンパク質に結合する分子とユビキチンリガーゼ(E3)に結合する分子とを連結した複合体を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1~2、非特許文献1~3参照)。この技術は、上記複合体を介して標的タンパク質とユビキチンリガーゼとを結び付け、標的タンパク質を特異的にユビキチン化してプロテアソームによる分解へと導くものである。上記複合体は、SNIPER(Specific and Nongenetic IAP-dependent Protein ERaser)、PROTAC(PROteolysis TArgeting Chimera)等と称されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-056837号公報
【文献】米国特許第7208157号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Itoh, Y. et al., "Development of target protein-selective degradation inducer for protein knockdown.", Bioorg. Med. Chem., 2011, 19, 3229-3241
【文献】Demizu, Y. et al., "Design and synthesis of estrogen receptor degradation inducer based on a protein knockdown strategy.", Bioorg. Med. Chem. Lett., 2012, 15, 1793-1796
【文献】Hines, J. et al., "Posttranslational protein knockdown coupled to receptor tyrosine kinase activation with phosphoPROTACs.", Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2013, 110(22), 8942-8947
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、RNAi技術は、オフターゲット効果の問題があり、標的タンパク質の量を特異的にコントロールすることは困難である。また、RNAi技術は、siRNAのデリバリーが困難であり、医薬への応用には課題が多い。
【0010】
一方、標的タンパク質に結合する分子とユビキチンリガーゼに結合する分子とを連結した複合体を用いる技術は、RNAi技術に比べて医薬への応用が容易である。しかし、標的タンパク質をユビキチン化する方法には、下記のような問題点がある。
(1)ユビキチンリガーゼには多数の種類があり、標的特異性がある。このため、特定の標的タンパク質をユビキチン化するためには、例えば、標的タンパク質に合わせて分子を設計するなど、個々に対応する必要がある。
(2)ユビキチン化シグナルのコントロールが困難である。例えば、タンパク質のユビキチン化は、タンパク質の分解以外に、分化、癌化等のシグナルに関連することが知られている。また、タンパク質のユビキチン化には、組織特異性及び時間特異性があることが知られている。このため、標的タンパク質のユビキチン化が、標的タンパク質の分解ではなく、その他のシグナルとなるケースがあると推定される。
(3)ユビキチン又はユビキチン化酵素に不具合があるケースがある。例えば、変異等により、ユビキチンやユビキチン化酵素が正常に機能しない(マルファンクションとなっている)場合があり、それが疾患の原因である場合も多い。このため、標的タンパク質のユビキチン化が、標的タンパク質の分解を誘導しないケースがあると推定される。
【0011】
現在、一般的には、医薬品として阻害剤、活性化剤等が設計される。しかし、p53タンパク質は、アンドラッガブルターゲットとして有名な転写因子であり、未だに創薬に至っていない。
【0012】
本開示は、上記のような事情に鑑み、p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能なp53分解誘導分子、及びそのp53分解誘導分子を含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有するp53親和性分子と、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しないタンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートであり、前記p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能なp53分解誘導分子。
【0014】
<2> ユビキチン非依存的に前記p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能な<1>に記載のp53分解誘導分子。
【0015】
<3> 前記タンパク質分解誘導タグが、プロテアーゼ阻害剤のプロテアーゼ阻害活性を失活させた構造を有する<1>又は<2>に記載のp53分解誘導分子。
【0016】
<4> 前記プロテアーゼがプロテアソームである<1>~<3>のいずれか1項に記載のp53分解誘導分子。
【0017】
<5> 前記タンパク質分解誘導タグが、プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造を有する<4>に記載のp53分解誘導分子。
【0018】
<6> 前記プロテアソーム阻害活性が、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性から選ばれる少なくとも1種に対する阻害活性である<5>に記載のp53分解誘導分子。
【0019】
<7> <1>~<6>のいずれか1項に記載のp53分解誘導分子を含む医薬組成物。
【0020】
<8> p53タンパク質が仲介する疾患又は症状の予防又は治療に用いられる<7>に記載の医薬組成物。
【0021】
<9> 前記p53タンパク質が仲介する疾患又は症状が、癌、細胞老化、神経疾患、神経細胞死、糖尿病、又は心機能障害である<8>に記載の医薬組成物。
【0022】
<10> 前記p53タンパク質が仲介する疾患又は症状が細胞老化である<9>に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能なp53分解誘導分子、及びそのp53分解誘導分子を含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】TIBC-CANDDY_MLNを添加したHCT116細胞における内在の野生型p53タンパク質及びMDM2タンパク質の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した結果を示す図である。
図2】TIBC-CANDDY_MLNを添加したHeLa細胞における内在の野生型p53タンパク質の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した結果を示す図である。
図3】マウス個体にTIBC-CANDDY_MLNを投与した場合の肝臓における野生型p53タンパク質及びMDM2タンパク質の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した結果を示す図である。
図4】TIBC-CANDDY_MLNを添加した老化関連酸性β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)誘導TIG3細胞における抗老化作用について、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)解析により評価した結果を示す図である。
図5A】プロテアソームの触媒サブユニットβ1に対する、TMP-CANDDY_DMT及びMG-132の阻害活性を示す図である。
図5B】プロテアソームの触媒サブユニットβ2に対する、TMP-CANDDY_DMT及びMG-132の阻害活性を示す図である。
図5C】プロテアソームの触媒サブユニットβ5に対する、TMP-CANDDY_DMT及びMG-132の阻害活性を示す図である。
図6】HeLa細胞において強制発現させたecDHFRタンパク質のTMP-CANDDY_DMTを介した分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した結果を示す図である。
図7A】HeLa細胞において強制発現させたecDHFRタンパク質のTMP-CANDDY_DMTを介した分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した結果を示す図である。
図7B】HeLa細胞において強制発現させたecDHFRタンパク質のTMP-CANDDY_DMTを介した分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した結果を示す図である。
図8A】プロテアソームの触媒サブユニットβ1に対する、TMP-CANDDY_ALLN及びALLNの阻害活性を示す図である。
図8B】プロテアソームの触媒サブユニットβ2に対する、TMP-CANDDY_ALLN及びALLNの阻害活性を示す図である。
図8C】プロテアソームの触媒サブユニットβ5に対する、TMP-CANDDY_ALLN及びALLNの阻害活性を示す図である。
図9】HeLa細胞において強制発現させたecDHFRタンパク質のTMP-CANDDY_ALLNを介した分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書においてアミノ酸は、本技術分野で周知の一文字表記(例えば、グリシンであれば「G」)又は三文字表記(例えば、グリシンであれば「Gly」)で表記する。
【0026】
<p53分解誘導分子>
本開示のp53分解誘導分子は、p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有するp53親和性分子と、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しないタンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートであり、p53タンパク質又はp53複合体の分解を誘導可能である。本開示のp53分解誘導分子によれば、p53タンパク質又はp53複合体のユビキチン化を介することなく(すなわち、ユビキチン非依存的に)、p53タンパク質又はp53複合体をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能となる。
【0027】
なお、テトラユビキチン鎖(Ub)等のポリユビキチン鎖又はユビキチン様ドメイン(UbL)は、タンパク質分解誘導タグとして機能する可能性があるが、ポリユビキチン鎖又はユビキチン様ドメインをタンパク質分解誘導タグとした場合、p53親和性分子を介してp53タンパク質又はp53複合体が間接的にユビキチン化されることになる。本明細書では、このようなp53タンパク質又はp53複合体の間接的なユビキチン化も、p53タンパク質又はp53複合体のユビキチン化に含まれるものとする。
【0028】
(p53親和性分子)
本開示のp53分解誘導分子を構成するp53親和性分子は、p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有する分子である。
【0029】
p53複合体としては、p53/MDM2複合体(p53タンパク質とMDM2タンパク質との複合体。以下同様)、p53/E6複合体、p53/HDM2複合体、p53/AICD複合体、p53/RUNX2複合体、p53/RUNX3複合体等の、p53タンパク質と相互作用することが知られている公知の分子との複合体が特に制限なく挙げられる。
【0030】
ここで、p53複合体に対して親和性を有する分子には、p53タンパク質と複合体を形成する分子(MDM2タンパク質等)に対して親和性を有する分子、及び、形成された複合体に対して親和性を有する分子が含まれる。
【0031】
p53タンパク質は、野生型であっても変異型であってもよい。変異型としては、例えば、R175H変異型(N末端から175番目のアミノ酸残基のアルギニン(R)からヒスチジン(H)への変異。以下同様)、R110L及びR248W変異型、V157F変異型、S166Y変異型、L194F変異型、R213Q及びM237H変異型、G245V変異型、G245S変異型、R248Q変異型、R248W変異型、I254D変異型、L264L変異型、R273H及びP309S変異型、R273C変異型、R280K変異型、R282W変異型、R273H変異型、S176Y及びR248W変異型、V173A変異型、R249S変異型、Y220C変異型、V272M変異型、G266Q変異型、G175E変異型、S241F変異型等が挙げられる。
【0032】
従来、アルツハイマー病、パーキンソン病等の神経疾患、又は脳卒中等の虚血性障害において、p53タンパク質の発現が亢進し、神経細胞死が誘導されることが知られている。
また、心機能障害、糖尿病等の疾患において、心組織、膵臓組織等におけるp53タンパク質の発現量が増加していることが知られており、これらの疾患は、p53タンパク質に対する阻害剤の投与により改善することが知られている。
また、p53タンパク質は、老化因子として、生活習慣病に起因する動脈硬化、代謝異常等との関連も指摘されている。
更に、再生医療において用いられる多能性幹細胞(例えば、iPS細胞)の作製において、p53遺伝子の発現を抑制する必要があることが知られている。
【0033】
そこで、好ましいp53親和性分子の一例としては、野生型(正常型)p53タンパク質又は野生型(正常型)p53複合体(野生型p53タンパク質と、野生型p53タンパク質に親和性を有する分子との複合体)に親和性を有するものが挙げられる。p53親和性分子が野生型p53タンパク質又は野生型p53複合体に親和性を有することにより、この野生型p53タンパク質又は野生型p53複合体をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能となる。結果として、野生型p53タンパク質又は野生型p53複合体に親和性を有するp53親和性分子を含むp53分解誘導分子は、神経疾患(脳卒中等による神経細胞死を含む)、心機能障害、糖尿病等の種々の疾患の予防又は治療、及び前述の多能性幹細胞の作製に有用であると考えられる。
【0034】
また、ヒトの癌ではp53タンパク質が高頻度に変異しており、変異型p53タンパク質が野生型p53タンパク質の働きを阻害し、野生型p53タンパクによる癌細胞の増殖抑制及びアポトーシスの誘導を阻害することが知られている。
【0035】
そこで、好ましいp53親和性分子の他の例としては、変異型p53タンパク質又は変異型p53複合体(変異型p53タンパク質と、変異型p53タンパク質に親和性を有する分子との複合体)に親和性を有するものが挙げられる。p53親和性分子が変異型p53タンパク質又は変異型p53複合体に親和性を有することにより、この変異型p53タンパク質又は変異型p53複合体をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能となる。結果として、変異型p53タンパク質又は変異型p53複合体に親和性を有するp53親和性分子を含むp53分解誘導分子は、癌等の種々の疾患の予防又は治療に有用であると考えられる。
【0036】
なお、前述した標的タンパク質をユビキチン化する方法では、p53複合体を構成する1つのタンパク質のみがユビキチン化され、p53複合体が各タンパク質に分かれた後に、ユビキチン化されたタンパク質のみが分解されると考えられる。これに対して、p53複合体に親和性を有するp53親和性分子を含むp53分解誘導分子は、p53複合体自体を分解可能である点で非常に有用である。
【0037】
本明細書において「p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有する」とは、例えば、p53タンパク質又はp53複合体に対して共有結合、水素結合、疎水結合、ファンデルワールス力等により結合可能であることを意味する。p53タンパク質又はp53複合体と相互作用することが知られている他の分子(タンパク質、ペプチド、抗体、DNA、RNA、代謝物、低分子化合物等)とp53タンパク質又はp53複合体との相互作用がある分子によって濃度依存的に影響を受ける場合、その分子は、p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有すると判断することができる。
【0038】
p53親和性分子としては、低分子化合物、天然物、ペプチド、抗体等が挙げられる。なお、本開示において、抗体には、2本のH鎖と2本のL鎖とを含む、いわゆる免疫グロブリン(Ig)以外に、IgのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント等の抗体における可変部位を含むフラグメントなどが含まれる。p53親和性分子の分子量は、低分子化合物では、例えば、50~5000の範囲が好ましい。
【0039】
p53親和性分子の構造は、p53タンパク質又はp53複合体に対して親和性を有する限り、特に制限されない。p53親和性分子としては、p53タンパク質に対して親和性を有するp53阻害剤又はp53活性化剤、p53/MDM2複合体に対して親和性を有するMDM2阻害剤、p53/MDM2複合体のPPI(タンパク質間相互作用)阻害剤等を使用することができる。また、p53親和性分子は、候補分子の中からスクリーニングによって得ることもできる。
【0040】
p53親和性分子の一例を以下の表1~表7に示す。ただし、本開示のp53分解誘導分子に使用可能なp53親和性分子がこれらの例に限定されるものではない。p53親和性分子については、必要に応じて、既存のデータベース(Binding DB(https://www.bindingdb.org/bind/index.jsp)、PCI DB(http://www.tanpaku.org/pci/pci_home.html)、ProtChemSI(http://pcidb.russelllab.org/)等)の情報を参照することができる。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
【表7】
【0048】
(タンパク質分解誘導タグ)
本開示のp53分解誘導分子を構成するタンパク質分解誘導タグは、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない分子である。以下では、このタンパク質分解誘導タグをCiKD(Chemical interactions and KnockDown)タグ又はCANDDY(Chemical AffiNities and Degradation DYnamics)タグとも称する。
【0049】
プロテアーゼとしては特に制限されず、プロテアーゼ活性を有するあらゆる分子が挙げられる。例えば、プロテアソームのような複合体型プロテアーゼであってもよく、プロテアソーム以外のプロテアーゼであってもよい。また、プロテアーゼ活性を有する限り、プロテアソームの一部分であってもよい。
【0050】
プロテアソームとしては、例えば、26Sプロテアソーム、免疫プロテアソーム、及び胸腺プロテアソームが挙げられる。
26Sプロテアソームは、20Sプロテアソームに19Sプロテアソームが2つ結合したものである。20Sプロテアソームは、α1~α7の7つのサブユニットから構成されるαリングと、β1~β7の7つのサブユニットから構成されるβリングとが、αββαの順に積み重なった筒状構造をしており、β1、β2、及びβ5がそれぞれカスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性という触媒活性を発揮する。
免疫プロテアソームは、触媒サブユニットβ1、β2、及びβ5がそれぞれβ1i、β2i、及びβ5iに置き換わったものである(Science, 1994, 265, 1234-1237)。
胸腺プロテアソームは、β1i及びβ2iとともに、胸腺皮質上皮細胞(cTEC)特異的に発現するβ5tが組み込まれたものである(Science, 2007, 316, 1349-1353)。
【0051】
また、プロテアソーム以外のプロテアーゼとしては、β-セクレターゼ、γ-セクレターゼ、アミノペプチダーゼ、アンジオテンシン変換酵素、ブロメライン、カルパインI、カルパインII、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、カルボキシペプチダーゼY、カスパーゼ1、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ5、カスパーゼ6、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ13、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンD、カテプシンG、カテプシンL、キモトリプシン、クロストリパイン、コラゲナーゼ、補体C1r、補体C1s、補体B因子、補体D因子、ジペプチジルペプチダーゼI、ジペプチジルペプチダーゼII、ジペプチジルペプチダーゼIV、ディスパーゼ、エラスターゼ、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼGlu-C、エンドプロテイナーゼLys-C、フィシン、グランザイムB、カリクレイン、ロイシンアミノペプチダーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、パパイン、ペプシン、プラスミン、プロカスパーゼ3、プロナーゼE、プロテイナーゼK、レニン、サーモリシン、トロンビン、トリプシン、細胞質アラニルアミノペプチダーゼ、エンケファリナーゼ、ネプリライシン等が挙げられる。
【0052】
本明細書において「プロテアーゼに対して親和性を有する」とは、例えば、プロテアーゼに対して共有結合、水素結合、疎水結合、ファンデルワールス力等により結合可能であることを意味する。ある分子の存在下においてプロテアーゼの熱安定性が変化する場合、その分子は、プロテアーゼに対して親和性を有すると判断することができる。
【0053】
また、本明細書において「プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない」とは、例えば、プロテアーゼの分解活性サイトに共有結合しないことを意味する。ある分子の存在下においてもプロテアーゼによってタンパク質が分解され、更にプロテアーゼ阻害剤を共存させるとタンパク質の分解が阻害される場合、その分子は、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しないと判断することができる。
【0054】
タンパク質分解誘導タグとしては、低分子化合物、天然物、ペプチド、抗体等が挙げられる。タンパク質分解誘導タグの分子量は、例えば、50~200000の範囲が好ましい。タンパク質分解誘導タグが低分子化合物である場合、タンパク質分解誘導タグの分子量は、例えば、50~5000の範囲が好ましい。
【0055】
タンパク質分解誘導タグの構造は、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しないものである限り、特に制限されない。タンパク質分解誘導タグは、例えば、候補分子の中からスクリーニングによって得ることができる。また、プロテアーゼ阻害剤(例えば、プロテアソーム阻害剤)のプロテアーゼ阻害活性(例えば、プロテアソーム阻害活性)を失活させることにより製造することもできる。
【0056】
ある態様では、タンパク質分解誘導タグは、例えば、下記式(I)で表される構造とすることができる。下記式(I)で表される化合物は、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しないことが確認されている(例えば、後述する参考例1~4を参照)。
【0057】
【化1】
【0058】
式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、又はハロゲノ基を示す。
【0059】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、これらの組み合わせ等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、アリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~20のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7~20のアリールアルキル基;トリル基、キシリル基等の炭素数7~20のアルキルアリール基;等が挙げられる。
ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。
【0060】
別の態様では、タンパク質分解誘導タグは、プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造とすることができる。プロテアソーム阻害活性としては、より具体的には、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性から選ばれる少なくとも1種に対する阻害活性が挙げられる。
【0061】
ここで、「プロテアソーム阻害活性を失活させた構造」には、プロテアソーム阻害活性を完全に消失させた構造に加え、プロテアソーム阻害活性を減弱させた構造も含まれる。ある態様では、タンパク質分解誘導タグは、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性から選ばれる少なくとも1種に対する50%阻害濃度(IC50)が、元のプロテアソーム阻害剤の50%阻害濃度(IC50)の2倍以上である。
【0062】
プロテアソーム阻害剤としては、プロテアソーム阻害活性を有するあらゆる化合物を使用することができる。プロテアソーム阻害剤は、プロテアソーム(複合体型プロテアーゼ)に対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害する化合物である。したがって、プロテアソーム阻害剤の活性部位を他の構造部分に置き換えてプロテアソーム阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
プロテアソーム阻害剤は、抗癌剤等として研究が進んでおり、医薬品として認可済みの化合物及び臨床試験中の化合物が数多く存在する。また、プロテアソーム阻害剤は、分子量が比較的小さく、疎水性が低いものが多く、細胞膜透過性、細胞毒性等の問題も生じ難い。このため、プロテアソーム阻害剤を基にタンパク質分解誘導タグを合成することは、非常に合理的且つ効率的である。
【0063】
プロテアソーム阻害剤の一例を以下の表8及び表9に示す。表8及び表9に示すプロテアソーム阻害剤は、いずれも20Sプロテアソームの活性中心部に対して親和性を有する20Sプロテアソーム阻害剤である。また、表8及び表9に示すプロテアソーム阻害剤は、当然に26Sプロテアソームに対しても親和性を有する。ただし、タンパク質分解誘導タグの製造に使用可能なプロテアソーム阻害剤がこれらの例に限定されるものではない。
【0064】
【表8】
【0065】
【表9】
【0066】
例えば、ボロン酸型プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ(Bortezomib)は、下記式に示すように、活性部位であるボロニル基が20Sプロテアソームの分解活性サイトと共有結合することで、プロテアソーム活性を阻害することが知られている(Kisselev, A.F. et al., Chemistry & Biology, 2012, 19, 99-115)。
【0067】
【化2】
【0068】
また、ボロン酸型プロテアソーム阻害剤であるMLN9708及びMLN2238は、下記式に示すように、活性部位であるボロン酸エステル部位又はボロニル基が20Sプロテアソームの分解活性サイトと共有結合することで、プロテアソーム活性を阻害することが知られている(Kisselev, A.F. et al., Chemistry & Biology, 2012, 19, 99-115)。
【0069】
【化3】
【0070】
このため、ボルテゾミブ、MLN9708、及びMLN2238の活性部位であるボロニル基又はボロン酸エステル部位を他の構造部分(カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等)に置き換えてプロテアソーム阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0071】
なお、CEP-18770等の他のボロン酸型プロテアソーム阻害剤についても、活性部位を他の構造部分(カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等)に置き換えることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0072】
また、アルデヒド型プロテアソーム阻害剤であるALLNは、下記式に示すように、活性部位であるホルミル基が20Sプロテアソームの分解活性サイトと共有結合することで、プロテアソーム活性を阻害することが知られている(Kisselev, A.F. et al., Chemistry & Biology, 2012, 19, 99-115)。
【0073】
【化4】
【0074】
このため、ALLNの活性部位であるホルミル基を他の構造部分(カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等)に置き換えてプロテアソーム阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0075】
なお、MG-132、BSc-2118、PSI等の他のアルデヒド型プロテアソーム阻害剤についても、活性部位であるホルミル基を他の構造部分(カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等)に置き換えることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0076】
プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造を有するタンパク質分解誘導タグの一例を以下の表10及び表11に示す。表中のRで表される1価の基としては、カルボキシ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0077】
【表10】
【0078】
【表11】
【0079】
プロテアソーム阻害剤の他の例を以下の表12~表17に示す。これらのプロテアソーム阻害剤についても、上記と同様にしてプロテアソーム阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0080】
【表12】
【0081】
【表13】
【0082】
【表14】
【0083】
【表15】
【0084】
【表16】
【0085】
【表17】
【0086】
別の態様では、タンパク質分解誘導タグは、プロテアーゼ阻害剤(前述したプロテアソーム阻害剤を除く)のプロテアーゼ阻害活性を失活させた構造とすることができる。
【0087】
ここで、「プロテアーゼ阻害活性を失活させた構造」には、プロテアーゼ阻害活性を完全に消失させた構造に加え、プロテアーゼ阻害活性を減弱させた構造も含まれる。ある態様では、タンパク質分解誘導タグは、プロテアーゼ阻害剤の阻害対象となるプロテアーゼに対する50%阻害濃度(IC50)が、元のプロテアーゼ阻害剤の50%阻害濃度(IC50)の2倍以上である。
【0088】
プロテアーゼ阻害剤としては、プロテアーゼ阻害活性を有するあらゆる化合物を使用することができる。プロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害する化合物である。したがって、プロテアーゼ阻害剤の活性部位を他の構造部分に置き換えてプロテアーゼ阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0089】
プロテアーゼ阻害剤の一例を以下の表18~表85に示す。これらのプロテアーゼ阻害剤の活性部位を他の構造部分に置き換えてプロテアーゼ阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。ただし、タンパク質分解誘導タグの製造に使用可能なプロテアーゼ阻害剤がこれらの例に限定されるものではない。プロテアーゼ及びプロテアーゼ阻害剤については、必要に応じて、既存のデータベース(MEROPS-the peptidase database(http://merops.sanger.ac.uk/index.shtml)等)の情報を参照することができる。
【0090】
【表18】
【0091】
【表19】
【0092】
【表20】
【0093】
【表21】
【0094】
【表22】
【0095】
【表23】
【0096】
【表24】
【0097】
【表25】
【0098】
【表26】
【0099】
【表27】
【0100】
【表28】
【0101】
【表29】
【0102】
【表30】
【0103】
【表31】
【0104】
【表32】
【0105】
【表33】
【0106】
【表34】
【0107】
【表35】
【0108】
【表36】
【0109】
【表37】
【0110】
【表38】
【0111】
【表39】
【0112】
【表40】
【0113】
【表41】
【0114】
【表42】
【0115】
【表43】
【0116】
【表44】
【0117】
【表45】
【0118】
【表46】
【0119】
【表47】
【0120】
【表48】
【0121】
【表49】
【0122】
【表50】
【0123】
【表51】
【0124】
【表52】
【0125】
【表53】
【0126】
【表54】
【0127】
【表55】
【0128】
【表56】
【0129】
【表57】
【0130】
【表58】
【0131】
【表59】
【0132】
【表60】
【0133】
【表61】
【0134】
【表62】
【0135】
【表63】
【0136】
【表64】
【0137】
【表65】
【0138】
【表66】
【0139】
【表67】
【0140】
【表68】
【0141】
【表69】
【0142】
【表70】
【0143】
【表71】
【0144】
【表72】
【0145】
【表73】
【0146】
【表74】
【0147】
【表75】
【0148】
【表76】
【0149】
【表77】
【0150】
【表78】
【0151】
【表79】
【0152】
【表80】
【0153】
【表81】
【0154】
【表82】
【0155】
【表83】
【0156】
【表84】
【0157】
【表85】
【0158】
なお、以上の説明では、便宜上、プロテアソーム阻害剤とプロテアソーム阻害剤以外のプロテアーゼ阻害剤とを区別したが、プロテアソームとプロテアソーム以外のプロテアーゼとの両者の活性を阻害可能な化合物も知られている。したがって、このような化合物を用いることで、プロテアソームとプロテアソーム以外のプロテアーゼとの両者に対して親和性を有するタンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0159】
プロテアソームとプロテアソーム以外のプロテアーゼとの両者の活性を阻害可能な化合物の一例を以下の表86に示す。ただし、プロテアソームとプロテアソーム以外のプロテアーゼとの両者の活性を阻害可能な化合物がこれらの例に限定されるものではない。
【0160】
【表86】
【0161】
別の態様では、タンパク質分解誘導タグとして、プロテアソーム活性化剤を使用することができる。プロテアソーム活性化剤は、プロテアソーム(複合体型プロテアーゼ)に対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない化合物であり、タンパク質分解誘導タグとして使用することができる。
【0162】
プロテアソーム活性化剤の一例を以下の表87~表89に示す。ただし、タンパク質分解誘導タグの製造に使用可能なプロテアソーム活性化剤がこれらの例に限定されるものではない。
【0163】
【表87】
【0164】
【表88】
【0165】
【表89】
【0166】
以上のとおり例示したタンパク質分解誘導タグの中でも、特に、26Sプロテアソームに親和性を有するものが好ましい。細胞内のプロテアソームは、通常、20Sプロテアソームに19Sプロテアソームが2つ結合した26Sプロテアソームの状態で存在する。このため、26Sプロテアソームに親和性を有するタンパク質分解誘導タグを用いることで、細胞内のp53タンパク質又はp53複合体をより効率的に分解へと導くことが可能となる。
【0167】
(p53親和性分子とタンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートの様式)
p53親和性分子とタンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートの様式は、p53親和性分子のp53タンパク質又はp53複合体との親和性、及びタンパク質分解誘導タグのプロテアーゼとの親和性が維持される限り、特に制限されない。なお、p53親和性分子及びタンパク質分解誘導タグがいずれもタンパク質である場合、両者を融合した融合タンパク質を合成することが可能であるが、このような融合タンパク質は「コンジュゲート」には含まれない。
【0168】
p53分解誘導分子は、例えば、少なくとも1つのp53親和性分子と少なくとも1つのタンパク質分解誘導タグとが連結された構造とすることができる。p53分解誘導分子は、1つのp53親和性分子と1つのタンパク質分解誘導タグとが連結された構造であってもよく、1つのp53親和性分子と複数のタンパク質分解誘導タグとが連結された構造であってもよく、複数のp53親和性分子と1つのタンパク質分解誘導タグとが連結された構造であってもよく、複数のp53親和性分子と複数のタンパク質分解誘導タグとが連結された構造であってもよい。ある態様では、p53分解誘導分子は、1つのp53親和性分子と1つのタンパク質分解誘導タグとが連結された構造である。
【0169】
p53親和性分子におけるタンパク質分解誘導タグとの連結位置は、p53タンパク質又はp53複合体との親和性が維持される限り、特に制限されない。
一方、タンパク質分解誘導タグにおけるp53親和性分子との連結位置は、プロテアーゼとの親和性が維持される限り、特に制限されない。例えば、タンパク質分解誘導タグが、前述のように、プロテアーゼ阻害剤(例えば、プロテアソーム阻害剤)の活性部位を他の構造部分に置き換えた構造である場合、この置き換えた他の構造部分においてp53親和性分子と連結することができる。具体的に、プロテアーゼ阻害剤の活性部位をカルボキシ基に置き換えた場合、カルボキシ基を介してp53親和性分子と連結することができる。
【0170】
なお、p53親和性分子及びタンパク質分解誘導タグは、相互に連結可能な構造であってもよい。p53親和性分子とタンパク質分解誘導タグとを直接連結することが困難な場合には、相互に連結可能とする構造を、p53親和性分子及びタンパク質分解誘導タグの少なくとも一方に導入することも考えられる。
例えば、p53親和性分子としては、p53タンパク質又はp53複合体に親和性を有する既知の分子を使用することができるが、この既知の分子とタンパク質分解誘導タグとを直接連結することが困難な場合も想定される。このような場合には、タンパク質分解誘導タグと連結可能な構造を当該既知の分子に導入し、p53親和性分子として使用してもよい。
【0171】
<医薬組成物>
本開示の医薬組成物は、本開示のp53分解誘導分子を含むものである。前述したとおり、本開示のp53分解誘導分子によれば、p53タンパク質又はp53複合体のユビキチン化を介することなく(すなわち、ユビキチン非依存的に)、p53タンパク質又はp53複合体をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能となる。したがって、p53分解誘導分子を含む本開示の医薬組成物は、p53タンパク質が仲介する疾患又は症状の予防又は治療に用いることができる。本開示によれば、p53分解誘導分子を含む医薬組成物を投与することを含む、p53タンパク質が仲介する疾患又は症状の予防又は治療方法もまた提供される。
【0172】
なお、複合体を標的とした薬剤の設計は困難である場合が多いが、本開示の医薬組成物は、p53複合体を標的として分解することもできる点で非常に有用である。
【0173】
p53タンパク質が仲介する疾患又は症状としては、p53タンパク質又はp53複合体の分解により予防効果又は治療効果を期待し得るものであれば特に制限されない。p53タンパク質が仲介する疾患又は症状の一例を以下の表90に示す。ただし、p53タンパク質が仲介する疾患又は症状がこれらの例に限定されるものではない。
【0174】
【表90】
【0175】
ある態様では、本開示の医薬組成物は、細胞老化、脂肪老化、神経疾患(神経細胞死)、糖尿病、心機能障害等の予防又は治療に用いられる。
【0176】
従来、テロメア短縮又はDNA損傷により、細胞増殖が抑制され細胞老化が起こることが知られている。その一方で、早老症候群のマウスモデル(Zmpste24プロテアーゼ欠損マウス)においてp53遺伝子を欠失させたところ、β-ガラクトシダーゼアッセイ等により老化形質の改善が確認され、寿命の延長も認められた旨の報告がある(Nature, 2005, 437, 564-568)。本開示の医薬組成物によれば、p53タンパク質又はp53複合体を分解することにより、同様に細胞老化の予防又は改善及び寿命の延長が可能になると推測される。
【0177】
なお、細胞老化は、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患等の種々の疾患の原因ともなることが知られている(Nature, 2017, 16, 718-735)。本開示の医薬組成物によれば、p53タンパク質又はp53複合体を分解することにより、細胞老化が関係する疾患又は症状の予防又は治療が可能になると推測される。
【0178】
また、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、Angelman症候群等の神経疾患においては、p53タンパク質が高発現しており、神経細胞死を誘導する主要な因子となっていることが報告されている(Biochemical and Biophysical Research Communications, 1997, 17, 418-21; The FASEB Journal, 2005, 19, 255-257; The Journal of Neuroscience, 2006, 26, 6377-6385; The Journal of Biological Chemistry, 2002, 277, 50980-58984; Journal of Neurochemistry, 2007, 100, 1626-1635; Nature Cell Biology, 2009, 11, 1370-1375; Neurobiology of Disease, 2000, 7, 613-622; Neuron, 1998, 21, 799-811)。また、脳卒中等の虚血性障害においては、再灌流後の酸化ストレスにより、ミトコンドリアマトリックスにp53タンパク質が蓄積し、そのp53タンパク質がシクロフィリンDと複合体を形成することにより、ミトコンドリア膜透過性遷移孔が開口し、神経細胞死が誘導されることが報告されている(Cell, 2012, 149, 1536-1548)。本開示の医薬組成物によれば、p53タンパク質又はp53複合体を分解することにより、神経疾患(神経細胞死)の予防又は治療が可能になると推測される。
【0179】
また、心不全の非代償期(症状が進行している時期)においては、DNA損傷、テロメア短縮、低酸素等によりp53遺伝子が活性化する。p53遺伝子が活性化すると、HIF-1(血管新生因子の誘導に重要な転写因子)活性及び血管新生因子の発現が低下し、心機能不全が誘導される。その一方で、p53ノックアウトマウスにおいては、横大動脈狭窄(TAC)により作製した心臓圧付加モデルにおいて、血管数が増加し、心機能が保たれたという報告がある(Nature, 2007, 446, 444-448)。本開示の医薬組成物によれば、p53タンパク質又はp53複合体を分解することにより、同様に心機能障害の予防又は治療が可能になると推測される。
【0180】
また、テロメレース欠損マウスの脂肪組織においては、脂肪の老化(β-ガラクトシダーゼ陽性)、p53遺伝子の活性化、悪玉アディポカイン(TNFα等)産生の増加が起こる。悪玉アディポカインが増加するとインスリン抵抗性となり、血糖値が下がりにくくなることにより、糖尿病が発症する。その一方で、脂肪組織のp53遺伝子の欠失により、悪玉アディポカインの産生が低下し、インスリン抵抗性が改善したという報告がある(Nature Medicine, 2009, 15, 996-997; Nature Medicine, 2009, 15, 1082-1088)。本開示の医薬組成物によれば、p53タンパク質又はp53複合体を分解することにより、同様に糖尿病の予防又は治療が可能になると推測される。
【0181】
更に、MDM2欠損マウスは胎生致死を示すが、p53遺伝子の欠損によりレスキューできることが知られている。例えば、p53遺伝子及びMDM2遺伝子のダブルノックアウトマウスは正常に発生する(Nature, 1995, 378, 203-206; Nature, 1995, 378, 206-208)。本開示の医薬組成物を母体に与えてp53タンパク質又はp53複合体を分解することにより、MDM2が欠損した胎児の胎生致死を回避できると推測される。
【0182】
これらの用途に用いるための本開示の医薬組成物としては、野生型(正常型)p53タンパク質又は野生型(正常型)p53複合体に対して親和性を有するp53親和性分子とタンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートであるp53分解誘導分子を含む医薬組成物が好ましい。
【0183】
別の態様では、本開示の医薬組成物は、癌の予防又は治療に用いられる。
【0184】
従来、p53タンパク質が変異型である癌は、化学療法及び放射線治療に対して抵抗性を示すことが知られている。また、多くの癌でp53タンパク質の変異が知られている。p53遺伝子は癌抑制遺伝子であるため、これまで、野生型p53遺伝子を活性化する薬剤の設計がなされてきた。しかし、p53遺伝子が変異すると、癌抑制遺伝子であるはずのp53遺伝子が癌化に有利となる。よって、変異型p53タンパク質を分解することは、次世代の癌の治療に寄与することが期待できる。
また、癌の放射線治療時に野生型p53タンパク質の機能を回復することにより、治療効果が改善することが知られている。放射線治療と本開示の医薬組成物を用いた治療とを併用することにより、変異型p53タンパク質を有する癌における放射線治療の効果が改善することも期待できる。
【0185】
これらの用途に用いるための本開示の医薬組成物としては、変異型p53タンパク質又は変異型p53複合体に対して親和性を有するp53親和性分子とタンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートであるp53分解誘導分子を含む医薬組成物が好ましい。なお、p53親和性分子としては、野生型p53タンパク質又は野生型p53複合体よりも変異型p53タンパク質又は変異型p53複合体に対する親和性が高いものを用いてもよい。
【0186】
医薬組成物は、p53分解誘導分子以外の成分を含んでいてもよい。例えば、医薬組成物は、製剤素材として慣用の有機又は無機の担体を含んでいてもよい。この担体は、固形製剤においては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等として、液状製剤においては、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤等として配合される。また、医薬組成物は、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を含んでいてもよい。
【0187】
医薬組成物の剤形は特に制限されない。医薬組成物の剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、フィルム剤等の経口剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)、点眼剤等の非経口剤;などが挙げられる。
【0188】
医薬組成物の投与量は、投与対象、投与経路、対象疾患、症状等に応じて適宜決定される。
【実施例
【0189】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び参考例において、室温とは20℃~30℃の範囲を示す。
【0190】
以下の実施例及び参考例で使用される化合物等の略称は以下のとおりである。
H-Gly-OtBu・HCl:L-Glycine t-butyl ester hydrochloride
DMF:N,N-Dimethylformamide
DIPEA:N,N-Diisopropylethylamine
PyBOP:1H-Benzotriazol-1-yloxy-tri(pyrrolidino)phosphonium hexafluorophosphate
TFA:Trifluoroacetic acid
H-Leu-OtBu・HCl:L-Leucine t-butyl ester hydrochloride
D-MEM:Dulbecco's modified eagle's medium
DMSO:Dimethyl sulfoxide
PBS:Phosphate buffered saline
EDTA:Ethylenediamine tetraacetic acid
SDS:Sodium dodecyl sulfate
PAGE:Polyacrylamide gel ectrophoresis
BPB:Bromophenol blue
PVDF:Polyvinylidene difluoride
TBS:Tris buffered saline
GAPDH:Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase
PMSF:Phenylmethylsulfonyl fluoride
DTT:Dithiothreitol
DEPC:Diethylpyrocarbonate
SA-β-gal:Senescence-associated beta-galactosidase
FITC:Fluorescein isothiocyanate
ec:Escherichia coli
DHFR:Dihydrofolate reductase
TMP:Trimethoprim
DMT-MM:4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium chloride n-hydrate
AMC:7-Amino-4-methylcoumarin
HA:Hemagglutinin
GFP:Green fluorescent protein
DsRed:Discosoma sp. red fluorescent protein
FBS:Fetal bovine serum
【0191】
<実施例1>
実施例1では、p53親和性分子とタンパク質分解誘導タグとを連結することにより、p53分解誘導分子であるTIBC-CANDDY_MLNを合成した。
【0192】
p53親和性分子としては、下式で表されるTIBC-NHを用いた。TIBC-NHは、下式で表されるTIBCに、HN-(CH-COOHを付加させた化合物である。TIBCは、p53/MDM2複合体に対して親和性を有する。
【0193】
【化5】
【0194】
タンパク質分解誘導タグとしては、プロテアソーム阻害剤であるMLN9708及びMLN2238の活性部位(ボロン酸エステル部位又はボロニル基)をカルボキシ基に置き換えた化合物(CANDDY_MLN)を用いた。
【0195】
TIBC-CANDDY_MLNの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0196】
(CANDDY_MLNの合成)
下記合成スキームに従ってCANDDY_MLNを合成した。
【0197】
【化6】
【0198】
まず、枝付きナスフラスコにH-Gly-OtBu・HCl(286.8 mg, 1.69 mmol, 1 eq)を仕込み、窒素置換した。窒素気流下で脱水DMF10mLとDIPEA5mLとを加え、室温にて撹拌した。2,5-ジクロロ安息香酸(309.3 mg, 1.62 mmol, 1 eq)を1mLの脱水DMF及び1mLのDIPEAに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて20分間撹拌した。PyBOP(1.02 g, 1.96 mmol, 1.2 eq)を1mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて3時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチル/ヘキサン(=4/1)で2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/1~0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物S1(531.0 mg, 1.75 mmol, 103%)を得た。
【0199】
次いで、ナスフラスコに化合物S1(212.4 mg, 0.70 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを5mL加え、室温にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物S2(190.7 mg, quant.)を得た。
【0200】
次いで、枝付きナスフラスコに化合物S2(190.7 mg, 0.77 mmol, 1 eq)及びH-Leu-OtBu・HCl(175.8 mg, 0.79 mmol, 1 eq)を仕込み、窒素置換した。窒素気流下で脱水DMF5mLとDIPEA5mLとを加え、室温にて20分間撹拌した。PyBOP(886.7 mg, 1.70 mmol, 2.2 eq)を1.5mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて3時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチル/ヘキサン(=4/1)で2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/1~0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物S3(244.2 mg, 0.58 mmol, 76%)を得た。
【0201】
次いで、ナスフラスコに化合物S3(240.8 mg, 0.58 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを5mL加え、室温にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、CANDDY_MLN(214.7 mg, 0.59 mmol, 100%)を得た。
【0202】
(TIBC-CANDDY_MLNの合成)
下記合成スキームに従ってTIBC-CANDDY_MLNを合成した。
【0203】
【化7】
【0204】
ナスフラスコにCANDDY_MLN(21.7 mg, 0.06 mmol, 1 eq)及び別途合成したTIBC-NH(29.3 mg, 0.06 mmol, 1 eq)を仕込み、脱水DMFを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DIPEAを5mL加え、溶液を中性にした。室温にて20分間撹拌した後、PyBOP(46.8 mg, 0.09 mmol, 1.5 eq)を反応溶液に直接加え、室温にて16時間撹拌した。冷却下で飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、有機層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を集め、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=20/1~4/1, gradient)を用いた分離精製処理により、TIBC-CANDDY_MLN(10.8 mg, 0.013 mmol, 22%, isolated yield)を得た。得られたTIBC-CANDDY_MLNは、分取用薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1)を用いて、更に精製処理を行った。
TIBC-CANDDY_MLNの物性データを以下に示す。
HRMS-FAB (m/z): [M+H]+ calcd for C37H42Cl2N4O5I, 819.1577; found, 819.1577.
【0205】
<実施例2>
実施例2では、TIBC-CANDDY_MLNを添加したHCT116細胞(ヒト大腸癌細胞)における内在の野生型p53タンパク質及びMDM2タンパク質の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0206】
(細胞播種)
HCT116細胞を8×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートに播種した後、37℃、5体積% COの条件下で16時間培養した。
【0207】
(HCT116細胞へのTIBC-CANDDY_MLN又はTIBCの添加)
細胞播種から16時間後に、以下のようにして、HCT116細胞にTIBC-CANDDY_MLN又はTIBCを添加した。培地としては、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))に1質量% L-グルタミン溶液(Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L-グルタミン溶液は使用直前に添加した。TIBC-CANDDY_MLN又はTIBCを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、各ウェル当たり500μL添加して、37℃、5体積% COの条件下で培養した。コントロールとしてはDMSOを用いた。
【0208】
(TIBC-CANDDY_MLNを介した内在の野生型p53タンパク質及びMDM2タンパク質の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析))
TIBC-CANDDY_MLN又はTIBCの添加48時間後、培地を除去し、PBSを添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free, Roche)との混合溶液を各ウェル当たり27μL添加した。4℃にて15分間静置した後、ピペットチップを用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。融解後、遠心分離(13800rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0209】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS-PAGEゲルは、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2-メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。電気泳動は160Vで65分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0210】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、2時間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS-T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS-T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗p53抗体(DO-1, SantaCruz, 1500倍希釈)、抗MDM2抗体(SMP14, SantaCruz, 500倍希釈)、及び抗GAPDH抗体(6C5, SantaCruz, 20000倍希釈)を用いた。4℃にて一晩振盪させた後、メンブレンをTBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS-T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, Bethyl, 20000倍希釈)を用いた。室温にて45分間振盪させた後、メンブレンをTBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0211】
ウェスタンブロット解析結果を図1に示す。図1に示すとおり、TIBC-CANDDY_MLNを添加した場合には、内在の野生型p53タンパク質及びMDM2タンパク質の量が減少した。一方、TIBCを添加した場合には、内在の野生型p53タンパク質及びMDM2タンパク質の量は減少しなかった。
【0212】
<実施例3>
実施例3では、TIBC-CANDDY_MLNを添加したHeLa細胞(ヒト子宮頸癌細胞)における内在の野生型p53タンパク質の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。同時に、プロテアソーム阻害剤(MLN2238)によるp53タンパク質分解のレスキューを評価した。
【0213】
(細胞播種)
HeLa細胞を4×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートに播種した後、37℃、5体積% COの条件下で16時間培養した。
【0214】
(HeLa細胞へのTIBC-CANDDY_MLNの添加)
細胞播種から16時間後に、以下のようにして、HeLa細胞にTIBC-CANDDY_MLNを添加した。培地としては、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))に1質量% L-グルタミン溶液(Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L-グルタミン溶液は使用直前に添加した。TIBC-CANDDY_MLNを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、各ウェル当たり500μL添加して、37℃、5体積% COの条件下で培養した。コントロールとしてはDMSOを用いた。また、TIBC-CANDDY_MLNを含有するDMSO溶液を添加する実験群のほかに、TIBC-CANDDY_MLN及びMLN2238の両方、又はMLN2238を含有するDMSO溶液を添加する実験群も準備した。
【0215】
(TIBC-CANDDY_MLNを介した内在の野生型p53タンパク質の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析))
TIBC-CANDDY_MLN又はMLN2238の添加24時間後、培地を除去し、PBSを添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free, Roche)との混合溶液を各ウェル当たり27μL添加した。4℃にて15分間静置した後、ピペットチップを用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。融解後、遠心分離(13800rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0216】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS-PAGEゲルは、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2-メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。電気泳動は160Vで65分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0217】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、2時間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS-T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS-T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗p53抗体(DO-1, SantaCruz, 1000倍希釈)、及び抗GAPDH抗体(6C5, SantaCruz, 10000倍希釈)を用いた。4℃にて一晩振盪させた後、メンブレンをTBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS-T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, Bethyl, 10000倍希釈)を用いた。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0218】
ウェスタンブロット解析結果を図2に示す。図2に示すとおり、TIBC-CANDDY_MLNを添加した場合には、内在の野生型p53タンパク質の量が減少した。また、TIBC-CANDDY_MLN及びMLN2238の両方を添加した場合には、コントロール(DMSO)よりも野生型p53タンパク質の量が増加した。この結果は、TIBC-CANDDY_MLNによって、野生型p53タンパク質がプロテアソームによる分解へと導かれていることを裏付けるものである。
【0219】
<実施例4>
実施例4では、TIBC-CANDDY_MLNを投与したマウス個体における内在の野生型p53タンパク質及びMDM2タンパク質の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0220】
(マウスへのTIBC-CANDDY_MLNの投与)
投与の直前に、TIBC-CANDDY_MLNをDMSOに溶解した後、DMSOの濃度が10体積%となるようにトウモロコシ油(Code No. 25606-55, Nacalai Tesque)に溶解し、50mg/kg体重又は100mg/kg体重の投与量で、C57BL/6J野生型マウス(7~8週齢、雄)(日本クレア(株))に腹腔内投与した(n=3)。コントロールとしては、注射液の担体(10体積% DMSOを含有するトウモロコシ油)を用いた。マウスは、餌及び水が自由摂取できる環境下で飼育した。投与48時間後に、ソムノペンチル(共立製薬(株))による深麻酔下でマウスを解剖した。開腹してから肝臓を摘出し、液体窒素で瞬間凍結させた。液体窒素で凍結後の組織は、-80℃のディープフリーザーにて保管した。
【0221】
(マウス組織のウェスタンブロット解析)
凍結した組織(0.04g)を粉砕した後、980μLの1×TKM組織溶解バッファー(50 mM トリエタノールアミン(pH 7.8), 50 mM KCl, 5 mM MgCl2, 0.25 M sucrose, 1 mM PMSF, protein inhibitors cocktail-EDTA free(Code No.03969-21, Nacalai Tesque), 1 mM DTT,Recombinant RNase inhibitor 5ul/ml (40 U/μl, Cat No. 2313A, Lot No. K8402DA, TAKARA Bio))を加え、15分間回転(1rpm、25℃)して溶解させた。その後、遠心分離(3000rpm×15分間、4℃)し、上清(組織抽出物)を回収した。組織抽出物をDEPC処理水により20倍希釈したものを用いて、分光光度計で組織抽出物におけるタンパク質濃度を定量した。
【0222】
回収した組織抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS-PAGEゲルは、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2-メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で5分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、GAPDHの検出用においては50μg/ウェルずつアプライし、それ以外の検出用においては100μg/ウェルずつアプライした。電気泳動は160Vで60分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0223】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、1.5時間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS-T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS-T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗p53抗体(MAB1355, R&D Systems, Inc., 500倍希釈)、抗MDM2抗体(sc-965, SantaCruz, 500倍希釈)及び抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz, 20000倍希釈)を用いた。室温にて60分間振盪させた後、メンブレンをTBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、1%スキムミルク/TBS-T中で二次抗体反応を行った。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で10分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。検出されたバンドの定量には、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いた。
【0224】
ウェスタンブロット解析結果を図3に示す。図3に示すとおり、TIBC-CANDDY_MLNを50mg/kg体重又は100mg/kg体重でマウスに投与した場合には、投与48時間後の肝臓における内在の野生型p53タンパク質及びMDM2タンパク質の量が減少した。
【0225】
<実施例5>
実施例5では、TIBC-CANDDY_MLNを添加した老化関連酸性β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)誘導TIG3細胞(ヒト胎児繊維芽細胞)における抗老化作用について、FACS解析により評価した。
【0226】
(細胞播種)
正常細胞であるTIG3細胞を8×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートに播種した後、37℃、5体積% COの条件下で16時間培養した。
【0227】
(TIG3細胞へのドキソルビシンの添加によるSA-β-galの誘導)
細胞播種から16時間後に、ドキソルビシンを各ウェル当たり150nMとなるように添加し、細胞老化を誘導した。培地としては、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))に1質量% L-グルタミン溶液(Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L-グルタミン溶液は使用直前に添加した。ドキソルビシンの添加後、37℃、5体積% COの条件下で24時間培養した。
【0228】
(老化誘導したTIG3細胞へのTIBC-CANDDY_MLNの添加)
老化誘導から24時間後に、以下のようにして、TIG3細胞にTIBC-CANDDY_MLNを添加した。培地としては、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))に1質量% L-グルタミン溶液(Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L-グルタミン溶液は使用直前に添加した。TIBC-CANDDY_MLNを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、各ウェル当たり500μL添加して、37℃、5体積% COの条件下で48時間培養した。コントロールとしてはDMSOを用いた。
【0229】
(TIBC-CANDDY_MLNによる老化抑制作用の評価(FACS解析))
老化マーカーであるSA-β-galの定量には、市販のキット(Cellular Senescence Detection Kit-SPiDER-βGal((株)同仁化学研究所))を用いた。
【0230】
TIBC-CANDDY_MLNの添加48時間後、培地を除去し、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))を1mL添加して細胞を洗浄した。キットに付属のBafilomycin A1 working solutionを各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1時間培養した。次いで、キットに付属のSPiDER-βGal working solutionを各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で30分間培養した。溶液の除去後、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))を1mL添加して細胞を洗浄した。培地を除去し、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1分間培養した。培養後、D-MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(和光純薬工業(株))に10質量% FBS及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり300μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0231】
フローサイトメトリーにはBD FACSCanto II(BD Biosciences)を用い、FITC標識されたSA-β-galを検出した。FACS解析の直前に、細胞溶液を孔径32μmのメッシュに通し、FACSチューブへと移した。解析ソフトFlowJo(トミーデジタルバイオロジー(株))によりFITC強度のヒストグラムを作成し、ヒストグラムのシフトから、TIBC-CANDDY_MLNによる老化抑制作用を評価した。
【0232】
FACS解析結果を図4に示す。図4に示すとおり、ドキソルビシン(150nM)を添加した場合には、ドキソルビシンを添加しない場合と比較して、SA-β-gal(老化マーカー)陽性へのシフトが観察された。一方、ドキソルビシン(150nM)を添加した後、TIBC-CANDDY_MLN(50μM)を添加した場合には、SA-β-gal(老化マーカー)陽性へのシフトがほぼ観察されなかった。この結果から、TIBC-CANDDY_MLNの細胞老化抑制作用(約80%)が確認できた。
【0233】
<参考例1>
参考例1では、タンパク質親和性分子とタンパク質分解誘導タグとを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CANDDY_DMTを合成した。
【0234】
タンパク質親和性分子としては、ecDHFRタンパク質と結合するジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤であるTMPにアミノ基を含む官能基を導入したTMP誘導体(TMP-NH)を用いた。
また、タンパク質分解誘導タグとしては、前述した式(I)においてR及びRをいずれもメトキシ基とした化合物(DMT)を用いた。DMTは、プロテアソーム阻害剤に由来しないものの、プロテアソームに対して親和性を有する化合物である。
【0235】
TMP-CANDDY_DMTの合成方法の詳細は下記合成スキームのとおりである。
【0236】
【化8】
【0237】
ナスフラスコにTMP-NH(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(31.7 mg, 0.073 mmol)を仕込み、脱水DMFを0.3mL加えた。室温で10分間撹拌した後、DIPEAを0.1mL加え、室温で10分間撹拌した。DMT-MM(33.6 mg, 0.12 mmol, 1.6 eq, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて18時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、クロロホルムで5回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=92/8)を用いた分離精製処理により、TMP-CANDDY_DMT(25.8 mg, 0.045 mmol, 62%, isolated yield)を得た。
【0238】
<参考例2>
参考例2では、TMP-CANDDY_DMTのプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性を評価した。ポジティブコントロールとしては、プロテアソーム阻害剤であるMG-132を用いた。
【0239】
評価には、20S Proteasome StressXpress Assay Kit Gold(Bioscience)を用い、20Sプロテアソームのβ5(キモトリプシン様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ1(カスパーゼ様活性)の各βサブユニットに特異的なAMC結合プロテアソーム蛍光基質のC末端が切断されることにより生成するAMCをMulti-Detection Microplate Reader(Synergy HT, BIO-TEK)により測定した。測定波長は、励起光(Ex.)を360nm、蛍光(Em.)を460nmとした。
【0240】
β1(カスパーゼ様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ5(キモトリプシン様活性)の各プロテアソーム活性を図5A図5Cに示す。
図5A図5Cに示すとおり、TMP-CANDDY_DMTは、MG-132と比較して、プロテアソーム阻害活性が著しく低いことが確認できた。また、β1、β2、及びβ5のいずれに対しても、TMP-CANDDY_DMTの濃度依存的に阻害活性が高まることから、TMP-CANDDY_DMTがプロテアソームと穏やかな親和性を有していることが示唆された。すなわち、DMTは、プロテアソームと親和性を有するものの、分解を阻害しないと評価された。
【0241】
<参考例3>
参考例3では、HeLa細胞において強制発現させたecDHFRタンパク質のTMP-CANDDY_DMTを介した分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0242】
(プラスミドの準備)
ecDHFRタンパク質を発現するプラスミド(pMIR-DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(QIAGEN)で精製した。
【0243】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質であるecDHFRタンパク質(詳細には、HAタグを介したecDHFRタンパク質とGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedタンパク質を一過的に過剰発現させた。
【0244】
HeLa細胞へのプラスミド導入は、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(和光純薬工業(株))を用いて常法により行った。プラスミド導入後のHeLa細胞を6×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートに播種した後、37℃、5体積% COの条件下で40時間培養した。
【0245】
(HeLa細胞へのTMP-CANDDY_DMTの添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CANDDY_DMTを添加した。培地としては、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))に1質量% L-グルタミン溶液(Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用い、各ウェル当たり297μL添加した。なお、L-グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CANDDY_DMTを含有するDMSO溶液を各ウェル当たり3μL添加して、37℃、5体積% COの条件下で培養した。コントロールとしては、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0246】
(TMP-CANDDY_DMTを介したecDHFRタンパク質の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析))
TMP-CANDDY_DMTの添加24時間後、培地を除去し、PBSを添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1分間培養した。培養後、D-MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(和光純薬工業(株))に10質量% FBS及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり500μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0247】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、4℃のFACSバッファー(1質量% FBS/PBS)を500μL添加し、氷上に静置した。
【0248】
フローサイトメトリーにはBD FACSCanto II(BD Biosciences)を用い、細胞中におけるGFP及びDsRedタンパク質の発現を定量した。FACS解析の直前に、細胞溶液を孔径32μmのメッシュに通し、FACSチューブへと移した。解析ソフトFlowJo(トミーデジタルバイオロジー(株))により細胞1個当たりのGFP/DsRed比を算出し、グラフのシフトから、TMP-CANDDY_DMTによるecDHFRタンパク質の分解(ノックダウン)を確認した。
【0249】
FACS解析結果を図6に示す。図6に示すとおり、TMP-CANDDY_DMTを添加した場合には、濃度依存的にグラフが左にシフトしており、TMP-CANDDY_DMTによってecDHFRタンパク質の分解が誘導されていることが確認できた。一方、TMPを添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、ecDHFRタンパク質が分解されていないことが確認できた。
【0250】
<参考例4>
参考例4では、HeLa細胞において強制発現させたecDHFRタンパク質のTMP-CANDDY_DMTを介した分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0251】
(プラスミドの準備)
参考例3と同様にして、ecDHFRタンパク質を発現するプラスミドを作製した。
【0252】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
参考例3と同様にして、HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内にecDHFRタンパク質又は比較用のDsRedタンパク質を一過的に過剰発現させた。プラスミド導入後のHeLa細胞は、4×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートに播種した後、37℃、5体積% COの条件下で40時間培養した。
【0253】
(HeLa細胞へのTMP-CANDDY_DMTの添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CANDDY_DMTを添加した。培地としては、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))に1質量% L-グルタミン溶液(Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L-グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CANDDY_DMTを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、各ウェル当たり300μL添加して、37℃、5体積% COの条件下で培養した。また、TMP-CANDDY_DMTを含有するDMSO溶液を添加する実験群のほかに、TMP-CANDDY_DMT及びボルテゾミブ(Bortezomib)を含有するDMSO溶液を添加する実験群も準備した。TMP-CANDDY_DMTの添加12時間後に、タンパク質合成阻害剤であるシクロへキシミドを50μg/mLの濃度となるように培地中に添加した。なお、コントロールとしては、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0254】
(TMP-CANDDY_DMTを介したecDHFRタンパク質の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析))
TMP-CANDDY_DMTの添加24時間後、培地を除去し、PBSを添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free, Roche)との混合溶液を各ウェル当たり55μL添加した。4℃にて15分間静置した後、ピペットチップを用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13000rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0255】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS-PAGEゲルは、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2-メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。電気泳動は150Vで50分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0256】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、40分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を1000倍希釈して用いた。室温にて1時間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0257】
次に、同一のメンブレンを用いて、コントロールであるGAPDHの検出反応を行った。メンブレンをTBS-T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)で洗浄し、5%スキムミルク/TBS-T中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS-T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗GAPDH抗体(6C5, SantaCruz, 20000倍希釈)を用いた。室温にて60分間振盪させた後、メンブレンをTBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS-T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, Bethyl)を20000倍希釈して用いた。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。検出されたバンドの定量には、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いた。
【0258】
ウェスタンブロット解析結果を図7A及び図7Bに示す。図7A及び図7Bに示すとおり、TMP-CANDDY_DMTを添加した場合には、ecDHFRタンパク質の量が減少したが、TMPを添加した場合には、ecDHFRタンパク質の量が減少しなかった。また、TMP-CANDDY_DMT及びボルテゾミブの両方を添加した場合には、TMP-CANDDY_DMTを添加した場合と比較してecDHFRタンパク質の分解が阻害された。この結果は、TMP-CANDDY_DMTによって、ecDHFRタンパク質がプロテアソームによる分解へと導かれていることを裏付けるものである。
【0259】
<参考例5>
参考例5では、タンパク質親和性分子とタンパク質分解誘導タグとを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CANDDY_ALLNを合成した。
【0260】
タンパク質親和性分子としては、参考例1と同様にTMP-NHを用いた。
また、タンパク質分解誘導タグとしては、プロテアソーム阻害剤であるALLNの活性部位(ホルミル基)をカルボキシ基に置き換えた化合物(CANDDY_ALLN)を用いた。
【0261】
TMP-CANDDY_ALLNの合成方法の詳細は下記合成スキームのとおりである。
【0262】
【化9】
【0263】
(CANDDY_ALLNの合成)
ナスフラスコにALLN(87.2 mg, 0.23 mmol, 1 eq, Code No. 07036-24, ナカライテスク(株))を仕込み、脱水DMFを2mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、Oxone(212.1 mg, 0.69 mmol, 3 eq, Code No. 228036, Sigma-Aldrich)を反応溶液に直接加え、室温にて5時間撹拌した。反応溶液を水で希釈した後、クロロホルムで3回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=20/1~10/1, gradient)を用いた分離精製処理により、CANDDY_ALLN(27.0 mg, 0.068 mmol, 30%)を得た。
【0264】
(TMP-CANDDY_ALLNの合成)
ナスフラスコにCANDDY_ALLN(26.8 mg, 0.067 mmol, 1 eq)及び別途合成したTMP-NH(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(26.0 mg, 0.060 mmol, 0.9 eq)を仕込み、脱水DMFを2mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DIPEAを0.1mL加え、溶液を中性にした。室温にて5分間撹拌した後、DMT-MM(30.0 mg, 0.11 mmol, 1.6 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて2時間撹拌した。冷却下で10mLの10質量%食塩水/0.1N 塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出した。0.5N 塩酸水溶液、次いで食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=10/1)を用いた分離精製処理により、TMP-CANDDY_ALLN(8.2 mg, 0.010 mmol, 15%, isolated yield)を得た。
【0265】
<参考例6>
参考例6では、参考例2と同様にして、TMP-CANDDY_ALLNのプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性を評価した。
【0266】
β1(カスパーゼ様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ5(キモトリプシン様活性)の各プロテアソーム活性を図8A図8Cに示す。
図8A図8Cに示すとおり、β2及びβ5の活性に対して、TMP-CANDDY_ALLNでは、ALLN単独と比較して阻害活性が弱まり、ALLNの阻害活性が失活していることが確認できた。β1については、ALLNではあまり阻害されないことが報告されており(Kaiser, M. et al., Chem. Bio. Chem., 2004, 5, 1256-1266)、この報告と矛盾しない結果であった。
また、β1、β2、及びβ5のいずれに対しても、TMP-CANDDY_ALLNの濃度依存的に阻害活性が高まることから、TMP-CANDDY_ALLNとプロテアソームとの親和性が確認された。
【0267】
<参考例7>
参考例7では、HeLa細胞において強制発現させたecDHFRタンパク質のTMP-CANDDY_ALLNを介した分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0268】
(プラスミドの準備)
参考例3と同様にして、ecDHFRタンパク質を発現するプラスミド(pMIR-DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を準備した。
【0269】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
参考例3と同様にして、HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内にecDHFRタンパク質又は比較用のDsRedタンパク質を一過的に過剰発現させた。プラスミド導入後のHeLa細胞は、4×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートに播種した後、37℃、5体積% COの条件下で40時間培養した。
【0270】
(HeLa細胞へのTMP-CANDDY_ALLNの添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CANDDY_ALLNを添加した。培地としては、D-MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyruvate)(和光純薬工業(株))に1質量% L-グルタミン溶液(Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用い、各ウェル当たり300μL添加した。なお、L-グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CANDDY_ALLNを含有するDMSO溶液を各ウェル当たり3μL添加して、37℃、5体積% COの条件下で培養した。コントロールとしては、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0271】
(TMP-CANDDY_ALLNを介したecDHFRタンパク質の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析))
TMP-CANDDY_ALLNの添加24時間後、培地を除去し、PBSを添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1分間培養した。培養後、D-MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(和光純薬工業(株))に10質量% FBS及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり300μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0272】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、4℃のFACSバッファー(1質量% FBS/PBS)を500μL添加し、氷上に静置した。
【0273】
フローサイトメトリーにはBD FACSCanto II(BD Biosciences)を用い、細胞中におけるGFP及びDsRedタンパク質の発現を定量した。FACS解析の直前に、細胞溶液を孔径32μmのメッシュに通し、FACSチューブへと移した。解析ソフトFlowJo(トミーデジタルバイオロジー(株))により細胞1個当たりのGFP/DsRed比を算出し、グラフのシフトから、TMP-CANDDY_ALLNによるecDHFRタンパク質の分解(ノックダウン)を確認した。
【0274】
FACS解析結果を図9に示す。図9に示すとおり、TMP-CANDDY_ALLNを添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較してグラフが大きく左にシフトしており、TMP-CANDDY_ALLNによってecDHFRタンパク質の分解が誘導されていることが確認できた。一方、TMPを添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、ecDHFRタンパク質が分解されていないことが確認できた。
【0275】
2016年11月15日に出願された日本出願2016-222681の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的且つ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9