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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】光学素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20220422BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220422BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220422BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/30
B32B7/023
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020519956
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2019019794
(87)【国際公開番号】W WO2019221294
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018096569
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-525394(JP,A)
【文献】特表2014-528597(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194961(WO,A1)
【文献】特表2008-532085(JP,A)
【文献】特表2017-522601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/30
B32B 7/023
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層である第1の光学異方性層と、円盤状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層である第2の光学異方性層とが積層された積層構造の光学異方性層を備え、
前記棒状液晶化合物の光学軸が、前記第1の光学異方性層の面に平行であり、かつ、前記第1の光学異方性層が、該第1の光学異方性層の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶配向パターンであって、前記棒状液晶化合物の光学軸の向きが、連続的に回転変化した第1の液晶配向パターンを有し、前記棒状液晶化合物の前記光学軸の向きが0.5μm~5μmの周期で180°回転しており、
前記円盤状液晶化合物の光学軸が、前記第2の光学異方性層の面に平行であり、かつ、該第2の光学異方性層が、該第2の光学異方性層の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶配向パターンであって、前記円盤状液晶化合物の前記光学軸の向きが、連続的に回転変化した第2の液晶配向パターンを有し、前記円盤状液晶化合物の前記光学軸の向きが0.5μm~5μmの周期で180°回転している光学素子。
【請求項2】
前記第1の光学異方性層の、第1の波長λの光に対する面内リタデーションが、0.36λ~0.64λである請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第2の光学異方性層の、第2の波長λの光に対する面内リタデーションが、0.36λ~0.64λである請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記積層構造の光学異方性層の、波長λの光に対する面内リタデーションが、0.36λ~0.64λである請求項1に記載の光学素子。
【請求項5】
前記第1の光学異方性層において、該第1の光学異方性層の厚み方向に前記棒状液晶化合物が第1の捩れ性に従って捩れ配向している請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記第2の光学異方性層において、該第2の光学異方性層の厚み方向に前記円盤状液晶化合物が第2の捩れ性に従って捩れ配向している請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記第2の光学異方性層において、該第2の光学異方性層の厚み方向に前記円盤状液晶化合物が第2の捩れ性に従って捩れ配向しており、
前記第1の捩れ性と前記第2の捩れ性とが同一の向きであり、前記第1の光学異方性層と前記第2の光学異方性層において、前記棒状液晶化合物の光学軸の捩れ配向と前記円盤状液晶化合物の光学軸の捩れ配向とが連続的な捩れ配向である請求項5に記載の光学素子。
【請求項8】
前記第2の光学異方性層において、該第2の光学異方性層の厚み方向に前記円盤状液晶化合物が第2の捩れ性に従って捩れ配向しており、
前記第1の捩れ性と前記第2の捩れ性とが逆向きである請求項5に記載の光学素子。
【請求項9】
前記第1の光学異方性層における前記棒状液晶化合物と、前記第2の光学異方性層における前記円盤状液晶化合物とが厚み方向に連続的にコレステリック配向している請求項1に記載の光学素子。
【請求項10】
前記第1の光学異方性層において、前記棒状液晶化合物が厚み方向に第1のコレステリック配向し、
前記第2の光学異方性層において、前記円盤状液晶化合物が厚み方向に第2のコレステリック配向している請求項1に記載の光学素子。
【請求項11】
前記第1の光学異方性層の複屈折率Δn1と厚みd1との積で表される面内レタデーションΔn1・d1と、前記第2の光学異方性層の複屈折率Δn2と厚みd2との積で表される面内リタデーションΔn2・d2とが等しい、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、入射光の反射方向を制御可能な光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの光学デバイスあるいはシステムにおいて、偏光が利用されており、偏光の反射、集光および発散などの制御を行うための光学素子が求められている。
【0003】
特表2016-519327号公報(以下において、特許文献1という。)には、異方性配向パターンを備えた幾何学的位相差ホログラムを用いる偏光変換システムが開示されている。
特表2017-522601号公報(以下において、特許文献2という。)には、光学的異方性を有する薄膜の面内で液晶配向パターンを変化させた回折光学素子が開示されている。
【0004】
Kobayashi et al "Planar optics with patterned chiral liquid crystal" Nature Photonics, 2016.66(2016)(以下において、非特許文献1という。)においては、コレステリック液晶により反射される光の位相が螺旋構造の位相によって変化すること、螺旋構造の位相を空間的に制御することによって、反射光の波面を任意に設計できることが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載されているような面内で液晶配向パターンを変化させて光を回折させる素子(以下において液晶回折格子という。)は、ビーム光を任意の方向に曲げるビームステアリングなどの光学部材としての適用が期待される。しかしながら、液晶配向パターンを用いる方式では、ビーム光を回折させる波長以外の光に対して、液晶材料固有の複屈折が発生してしまう問題があった。より具体的には、図20に示すように、可視光Lvをビームステアリングする液晶回折格子1においてその液晶回折格子1の可視光入射面側にセンサ2を設置して、液晶回折格子1越しに赤外線光のセンシングを行う場合、赤外線光LIrが液晶回折格子1に対して斜めに通過することによりリタデーションを生じ、液晶回折格子1に入射する前の赤外線光の偏光方向、例えば直線偏光から異なる偏光状態に変化してしまう。そのために、センシングする光に偏光成分があり、またセンサの検出感度に偏光特性がある場合に、センシングされる光の強度が、液晶回折格子への入射角によって変化し、センシングの誤差が発生する問題があった。
【0006】
本開示は、回折光を得ることができると同時に回折光の波長帯域と異なる波長の光を、複屈折の影響を与えることなく透過させることができる光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の光学素子は、棒状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層である第1の光学異方性層と、第1の光学異方性層に積層された、円盤状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層である第2の光学異方性層とを含み、
棒状液晶化合物の光学軸が、第1の光学異方性層の面に平行であり、かつ、光学異方性層が、第1の光学異方性層の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶配向パターンであって、棒状液晶化合物の光学軸の向きが、連続的に回転変化した液晶配向パターンを有し、棒状液晶化合物の光学軸の向きが0.5μm~5μmの周期で180°回転しており、
円盤状液晶化合物の光学軸が、第2の光学異方性層の面に平行であり、かつ、第2の光学異方性層が、第2の光学異方性層の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶配向パターンであって、円盤状液晶化合物の光学軸の向きが、連続的に回転変化した液晶配向パターンを有し、円盤状液晶化合物の光学軸の向きが0.5μm~5μmの周期で180°回転している光学素子である。
【0008】
本開示の光学素子においては、第1の光学異方性層の、第1の波長λの光に対する厚み方向のリタデーションが、0.36λ~0.64λであってもよい。
【0009】
本開示の光学素子においては、第2の光学異方性層の、第2の波長λの光に対する面内リタデーションが、0.36λ~0.64λであってもよい。
【0010】
本開示の光学素子においては、積層構造の光学異方性層の、波長λの光に対する面内リタデーションが、0.36λ~0.64λであってもよい。
【0011】
本開示の光学素子においては、第1の光学異方性層において、第1の光学異方性層の厚み方向に棒状液晶化合物が第1の捩れ性に従って捩れ配向していることが好ましい。
【0012】
本開示の光学素子においては、第2の光学異方性層において、第2の光学異方性層の厚み方向に円盤状液晶化合物が第2の捩れ性に従って捩れ配向していることが好ましい。
【0013】
本開示の光学素子においては、第2の光学異方性層において、第2の光学異方性層の厚み方向に円盤状液晶化合物が第2の捩れ性に従って捩れ配向しており、
第1の捩れ性と第2の捩れ性とが同一の向きであり、第1の光学異方性層と第2の光学異方性層において、棒状液晶化合物の光学軸の捩れ配向と円盤状液晶化合物の光学軸の捩れ配向とが連続的な捩れ配向であってもよい。
【0014】
本開示の光学素子においては、第2の光学異方性層において、第2の光学異方性層の厚み方向に円盤状液晶化合物が第2の捩れ性に従って捩れ配向しており、
第1の捩れ性と第2の捩れ性とが逆向きであってもよい。
【0015】
あるいは、本開示の光学素子においては、第1の光学異方性層における棒状液晶化合物と、第2の光学異方性層における円盤状液晶化合物とが厚み方向に連続的にコレステリック配向していてもよい。
【0016】
また、本開示の光学素子においては、第1の光学異方性層において、棒状液晶化合物が厚み方向に第1のコレステリック配向し、
第2の光学異方性層において、円盤状液晶化合物が厚み方向に第2のコレステリック配向していてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示の光学素子によれば、回折光を得ることができ、かつ、回折光の波長帯域とは異なる波長の光を、複屈折の影響を与えることなく透過させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態の光学素子の光学異方性層における液晶配向パターンを示す側面模式図である。
図2】第1の実施形態の光学素子の第1の光学異方性層における液晶配向パターンを示す平面模式図である。
図3】第1の実施形態の光学素子の第2の光学異方性層における液晶配向パターンを示す平面模式図である。
図4】光学異方性層が回折格子として機能する原理を説明するための図である。
図5】回折格子における回折現象を模式的に示した図である。
図6】第1の実施形態の光学素子の設計変更例の積層構造を示す側面模式図である。
図7】第1の実施形態の光学素子にランダム偏光の入射光が入射した場合の出射光を示す図である。
図8】第1の実施形態の光学素子の他の設計変更例の積層構造を示す側面模式図である
図9】光学素子のさらに他の設計変更例における水平回転配向パターンを示す平面模式図で
図10】第2の実施形態の光学素子の側面模式図である。
図11】第3の実施形態の光学素子の光学異方性層における液晶配向パターンを示す側面模式図である。
図12】第4の実施形態の光学素子の光学異方性層における液晶配向パターンを示す側面模式図である。
図13】第5の実施形態の光学素子の光学異方性層における液晶配向パターンを示す側面模式図である。
図14】第5の実施形態の光学素子にランダム偏光の入射光が入射した場合の反射光および透過光を示す図である。
図15】第6の実施形態の光学素子の光学異方性層における液晶配向パターンを示す側面模式図である。
図16】配向膜に対して干渉光を照射する露光装置の概略構成図である。
図17】光学装置の一例であるヘッドマウントディスプレイの概略構成図である。
図18】透過型光学素子についての光強度の測定方法を説明するための図である。
図19】反射型光学素子についての光強度の測定方法を説明するための図である。
図20】従来の液晶回折格子の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の光学素子の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、角度について「直交」および「平行」とは、厳密な角度±10°の範囲を意味するものとする。
【0020】
図1は、第1の実施形態の光学素子10における液晶配向パターンを示す側面模式図であり、図2は、図1に示す光学素子10の第1の光学異方性層13の液晶配向パターンを示す平面模式図である。また、図3は、光学素子10の第2の光学異方性層14の液晶配向パターンを示す平面模式図である。なお、図においては、シート状の光学素子10のシート面をx-y面、厚み方向をz方向として定義している。
【0021】
光学素子10は、棒状液晶化合物40を含む液晶組成物の硬化層である第1の光学異方性層13と円盤状液晶化合物20を含む液晶組成物の硬化層である第2の光学異方性層14とを備えている。すなわち、光学素子10は、第1の光学異方性層13と第2の光学異方性層14との積層構造の光学異方性層16を備えている。
【0022】
図2に示すように、第1の光学異方性層13においては、棒状液晶化合物40の光学軸42が、第1の光学異方性層13の面に平行であり、かつ、第1の光学異方性層13の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶パターンであって、棒状液晶化合物40の光学軸42の向きが、回転変化した第1の液晶配向パターンを有する。そして、第1の液晶配向パターンを構成する棒状液晶化合物40の光学軸42の向きは0.5μm~5μmの周期で180°回転している。
【0023】
図3に示すように、第2の光学異方性層14においては、円盤状液晶化合物20の光学軸22が、第2の光学異方性層14の面に平行であり、かつ、第2の光学異方性層14の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶パターンであって、円盤状液晶化合物20の光学軸22の向きが、回転変化した第2の液晶配向パターンを有する。そして、液晶配向パターンを構成する円盤状液晶化合物20の光学軸22の向きは、0.5μm~5μmの周期で180°回転している。
【0024】
棒状液晶化合物40における光学軸42は遅相軸であり、円盤状液晶化合物20における光学軸22は進相軸である。光学素子10においては、棒状液晶化合物40の面内遅相軸と円盤状液晶化合物20の面内遅相軸とは平行になっている。
【0025】
本実施形態の光学素子10は、波長λの光に対する、積層構造の光学異方性層16の面内のリタデーションR(=Δn・d)が、0.36λ~0.64λであることが好ましい。面内リタデーションRは0.4λ~0.6λが好ましく、0.45λ~0.55λがより好ましく、0.5λであることが特に好ましい。Δnは光学異方性層16の複屈折率、dは光学異方性層16の厚みである。例えば、550nmの光を入射光として想定する場合には、550nmの光に対する面内リタデーションRが198nm~352nmの範囲であればよく、275nmであることが特に好ましい。このようなリタデーションRを有するので、光学異方性層16は、一般的なλ/2板としての機能、すなわち、入射光の直交する直線偏光成分の間に180°(=π=λ/2)の位相差を与える機能を呈する。なお、面内リタデーションは、λ/2に近いほど回折効率が向上して好ましいが、面内リタデーションは上記範囲に限定されるものではない。
【0026】
本光学素子10は、透過型の回折格子として機能する。回折格子として機能する原理について説明する。
【0027】
図1および図2に示すように、第1の光学異方性層13において、棒状液晶化合物40が、一方向(図2中の軸Aに沿った方向)に連続的に回転変化した液晶配向パターンで固定化されている。すなわち、棒状液晶化合物40の光学軸42として定義される棒状液晶化合物40の長軸が、面に平行に配向されており、かつ軸Aに沿って配列されている棒状液晶化合物40の光学軸42の軸Aとなす角度が回転変化するように棒状液晶化合物40が配向されている。
【0028】
図1および図3に示すように、第2の光学異方性層14において、円盤状液晶化合物20が、その円盤面が光学異方性層14の面に垂直な方向(z軸方向)に立ち上がった状態で、一方向(図2中の軸Aに沿った方向)に連続的に回転変化した液晶配向パターンで固定化されている。すなわち、円盤状液晶化合物20の光学軸22として定義される円盤状液晶化合物20の短軸(異常光の軸:ダイレクタ)が、面に平行に配向されており、かつ軸Aに沿って配列されている円盤状液晶化合物20の光学軸22の軸Aとなす角度が回転変化するように円盤状液晶化合物20が配向されている。
【0029】
光学軸42の向きが回転変化した液晶配向パターンとは、軸Aに沿って配置されている棒状液晶化合物40の光学軸42と軸Aとのなす角度が、軸A方向の位置によって異なっており、軸Aに沿って光学軸42と軸Aとのなす角度がφからφ+180°あるいはφ-180°まで徐々に変化するように配向され固定化されたパターンである。
同様に、光学軸22の向きが回転変化した液晶配向パターンとは、軸Aに沿って配置されている円盤状液晶化合物20の光学軸22と軸Aとのなす角度が、軸A方向の位置によって異なっており、軸Aに沿って光学軸22と軸Aとのなす角度がφからφ+180°あるいはφ-180°まで徐々に変化するように配向され固定化されたパターンである。以下において、図2、3に示すような、光学異方性層において、液晶化合物の光学軸が光学異方性層の面に平行であり、かつ光学軸の向きが一定である局所領域(単位領域)が、一方向に配列されている複数の局所領域間で光学軸の向きが一方向に連続的に回転変化するように配置されているパターンを水平回転配向と称する。
【0030】
なお、連続的に回転変化するとは、図1図3に示す通り、30°刻みなどの一定の角度の領域が隣接して0°から180°(=0°)まで回転するものであってもよい。単位範囲の光学軸の向きの平均値が一定の割合で線形に変化していれば徐々に変化していることになる。ただし、軸A方向に隣接して異なる傾きを有する領域の光学軸の傾きの変化は45°以下とする。隣接する領域の傾きの変化は、より小さいことが好ましい。
【0031】
A軸方向において、光学軸22のA軸となす角度がφからφ+180°あるいはφ-180°(すなわち、元に戻る)まで変化する距離が180°回転の周期p(以下において、回転周期pという。)である。この光学軸の向きの回転周期pは、既述の通り0.5μm~5μmである。なお、この回転周期pは、光学素子への入射光の波長および所望の出射角に応じて定めればよい。
図1に示す光学素子10においては、第1の光学異方性層13における水平回転配向の回転周期と第2の光学異方性層14における水平回転配向の回転周期とはほぼ同一であるが、両者の回転周期は異なっていてもよい。
【0032】
本光学素子10は、上記の光学異方性層16の構成により、入射光に対してλ/2の位相差を与え、入射角0°で入射した、すなわち垂直入射した入射光を出射角θで出射させる。すなわち、図1に示すように、光学異方性層16の一方の面に垂直に(面の法線に沿って)右円偏光Pの光L(以下において、入射光Lという。)を入射させると、光学異方性層16の他方の面から法線方向と角度θをなす方向に左円偏光Pの光L(以下において、出射光Lという。)が出射される。光学素子10は、所定の波長の光を入射させる場合、光学異方性層16における回転周期pが小さいほど、出射光Lの出射角が大きくなる。
【0033】
図4は、光学素子10に垂直入射した入射光Lが、所定の出射角θで出射される原理を模式的に示す図である。以下、図4を参照して説明する。
【0034】
まず、入射光Lとして、波長λの右円偏光Pを用いた場合について説明する。
右円偏光Pである入射光Lは、光学異方性層16を通過することにより、λ/2の位相差が与えられて左円偏光Pに変換される。また光学異方性層16中において、入射光Lは、面内の個々の領域における棒状液晶化合物40の光学軸42および円盤状液晶化合物20の光学軸22により絶対位相が変化する。ここで、光学軸42および光学軸42,22の向きがA軸方向(本例ではx軸方向)に回転して変化しているため、入射光が入射する光学異方性層16の面(x-y面)のx座標における光学軸42,22の向きに応じて絶対位相の変化量が異なる。図4中の破線で示す領域には、その絶対位相の変化量がx座標によって異なる様子を模式的に示している。図4に示すように光学異方性層16を通過する際の絶対位相のずれにより、光学異方性層の面に対して角度を有する絶対位相の等位相面24が形成される。これによって、法線方向から入射した入射光Lに対して、等位相面24に垂直な方向に屈曲力が与えられ、入射光Lの進行方向が変化する。すなわち、右円偏光Pである入射光Lは、光学異方性層16を通過した後には左円偏光Pとなり、かつ、法線方向と所定の角度θをなす方向に進行する出射光Lとして光学異方性層16から出射される。
【0035】
以上のようにして、光学素子10においては、光学素子10の面に対して垂直に法線方向に沿って入射した入射光Lは、法線方向とは異なる方向に出射光Lとして出射される。
【0036】
光学異方性層16中の液晶配向パターンにおける光学軸の向きの回転周期pを変化させることにより、出射角の傾きを変化させることができる。回転周期pを小さくするほど入射光に大きな屈曲力を与えることができるので、傾きを大きくすることができる。
【0037】
このように、光学異方性層16における液晶配向パターンによって、絶対位相の変化量を変化させて入射光の波面を変化させることができる。
【0038】
光学素子10が、一方向のみに一様な回転周期pの液晶配向パターンを有している場合、上記のような原理に基づく入射光Lの出射光Lへの変換は、透過回折として説明できる。入射光Lに対し光学異方性層16は透過回折格子として機能し、光学異方性層16に垂直入射した入射光Lは、所定の回折角θの透過回折光Lとして透過回折される。この場合、一般的な光の回折の式である下記式(1)を満たす。
sinθ-nsinθ=mλ/p 式(1)
ここで、nは回折格子(ここでは光学異方性層)の入射面側の媒質1の屈折率、θは入射角、nは回折格子(ここでは光学異方性層)の出射面側の媒質2の屈折率、θは回折角(出射角)、λは波長、pは回転周期、mは回折の次数である。ここでは、m=1で最大の回折効率が得られるように設定する。また、ここで、入射角θ=0°であるので、式(1)は、
sinθ=λ/p 式(2)
となる。
【0039】
図5は、式(2)で示される回折現象を模式的に示す図である。
媒質nと媒質nとの間に回折格子としての光学異方性層16が配置されている。屈折率nである媒質1側から光学異方性層16に法線方向から入射した光Lは、光学異方性層16による回折作用により回折されて、屈折率nである媒質2側に出射される。このとき出射角θで出射される出射光Lは、回折角θの透過回折光Lと言い換えることができる。
【0040】
このように、光学異方性層16は回折格子として機能する。一方、第1の光学異方性層13および第2の光学異方性層14は、それぞれ単独でも回折格子として機能する。上記説明において、光学異方性層16を第1の光学異方性層13あるいは第2の光学異方性層14と置き換えることができる。
【0041】
本発明者らは、棒状液晶化合物40が水平回転配向して固定化された第1の光学異方性層13および円盤状液晶化合物20が水平回転配向して固定化された光学異方性層14が積層されてなる光学異方性層16を備えた光学素子10は、従来の棒状液晶化合物が水平回転配向して固定化された光学異方性層のみを用いた回折格子、および円盤状液晶化合物が水平回転配向して固定化された光学異方性層のみを用いた回折格子と比較して、回折効率を保ったまま、回折光と異なる波長に対しては複屈折の影響を与えることなく透過させることができることを見出した。
【0042】
光学素子10が、従来の棒状液晶化合物が水平回転配向して固定化された光学異方性層一層のみを用いた回折格子および円盤状液晶化合物が水平回転配向して固定化された光学異方性層一層のみを用いた回折格子と比較して、回折光と異なる波長に対しても複屈折の影響がない特性が得られる理由は、以下の通りと推測される。
【0043】
回折対象とする光(以下において、回折光という。)の波長域とは異なる波長帯域の光が液晶回折格子に入射した場合、回折の影響を受けず直進して透過する。例えば可視光で回折するように設計した液晶回折格子は赤外光に対しては回折の影響を与えない。そのため、回折光と異なる波長が斜め方位からの入射するときには液晶回折格子を斜めに直進して透過する。しかし、棒状液晶化合物の水平回転配向によって構成される回折格子は面内で遅相軸が回転しているので、面内の屈折率が厚さ方向の屈折に比べて大きくなる。よって近似的に負のCプレート(nx=ny>nz)として作用する。したがって、斜めの光はリタデーションを受けることになる。同様に、円盤状液晶化合物の水平回転配向によって構成される回折格子は面内で進相軸が回転しているので、面内の屈折率が厚さ方向の屈折に比べて小さくなる。よって近似的に正のCプレート(nx=ny<nz)として作用する。したがって、斜めの光はリタデーションを受けることになる。
【0044】
しかし、光学素子10は、棒状液晶化合物の水平回転配向によって構成される回折格子と円盤状液晶化合物の水平回転配向によって構成される回折格子を積層しているので、近似的に負と正のCプレートが相互補償して、斜め方向のリタデーションを解消すると考えられる。これによって、回折光と異なる波長に複屈折の影響を与えることなく、透過させることができる光学素子を提供できる。このような光学素子を用いれば、図1に示すように、光学素子10の回折光を出射する面側から斜め入射する光、例えば、回折光が可視光である場合、その回折光の波長帯域とは異なる波長帯域の光である赤外光LIrは、光学素子10で回折の影響を受けず、かつ複屈折の影響を受けず透過する。したがって、光学素子10の一方の面側に配置された検出センサ2によって、赤外光LIrを小さい検出誤差で検出することができる。
【0045】
なお、第1の光学異方性層と第2の光学異方性層とにより斜め入射光に対するリタデーションが生じないように相互補償できていれば、第1の光学異方性層と第2の光学異方性層とはそれぞれ1層ずつに限らない。例えば、図6に設計変更例の光学素子11として示すように、2層の第1の光学異方性層13a、13bで第2の光学異方性層14を挟む積層構造の光学異方性層17としてもよい。さらに、第1の光学異方性層と第2の光学異方性層が交互に複数層ずつ積層されていてもよい。
【0046】
本開示の光学素子により回折作用を生じさせる光の波長λは、紫外から赤外、さらには、電磁波レベルであってもよい。同一の回転周期pに対し、入射光の波長が大きいほど回折角が大きく、入射光の波長が小さいほど回折角が小さくなる。波長λが380nmである場合、回転周期p(μm)は0.5<p<1の範囲で棒状液晶化合物と比べて高い回折効率を得ることができる。また、波長λが1100nmである場合、回転周期p(μm)は2<p<5の範囲で棒状液晶化合物と比べて高い回折効率を得ることができる。
なお、回折作用を生じる光の波長帯域と異なる波長帯域としては、回折作用を生じる光の中心波長をλとした場合、1.0λのときに1次の回折効率が最大になり、例えば、1.5λ以上、あるいは0.6λ以下の波長域であれば、回折作用が小さくなる。
【0047】
既述の通り、図1に示すように、光学素子10の表面の法線に沿って右円偏光Pの光Lを入射させると、法線方向と角度θをなす方向に左円偏光Pの光Lが出射される。一方、光学素子10に左円偏光を入射光として入射させた場合には、入射光は光学異方性層16において右円偏光に変換されると共に図1とは逆向きの屈曲力を受けて進行方向が変化される。
【0048】
図7に示すように、光学素子10に対して、ランダム偏光(すなわち、非偏光)の入射光L21を入射させた場合、入射光L21のうち、右円偏光Pは液晶配向パターンによって屈曲力を受けて進行方向が変化し、光学異方性層を透過して第1の透過回折光L22として出射される。この右円偏光Pは光学異方性層16を通過することにより左円偏光Pに変換されて出射される。入射光L21のうちの左円偏光Pは、右円偏光から左円偏光に変換された光とは逆向きの屈曲力を受けて進行方向が変化した状態で光学異方性層16を透過して光学素子10の反対の面から第2の透過回折光L23として出射される。この左円偏光Pは光学異方性層16で右円偏光Pに変換されて出射される。第1の光学異方性層と第2の光学異方性層における水平回転配向の周期が同一であれば、第1の透過回折光L22と第2の透過回折光L23の進行方向は法線に対して略線対称の関係となる。
【0049】
なお、図8に示すように、光学素子10は、支持体12上に配向膜12aを備え、その上に光学異方性層16を備えた構成とすることができる。
【0050】
本開示の光学素子においては、光学異方性層における上記180°回転周期は全面に亘って一様である必要はない。また、光学異方性層の面内の少なくとも一方向(軸A)に光学軸の向きが回転している液晶配向パターンを一部に有していればよく、光学軸の向きが一定の部分を備えていてもよい。
【0051】
上記説明では入射光を光学異方性層に対して垂直に入射する例を示したが、入射光が斜めになった場合も同様に透過回折の効果が得られる。斜め入射の場合には、入射角θを考慮に入れて上記式(1)を満たすように、所望の回折角θを得られるように回転周期の設計をすればよい。
【0052】
図1から図3に示した光学素子10の光学異方性層16のように、面に平行な光学軸が面内の一方向に一定の180°回転周期で回転変化している液晶配向パターンを面内に一様に備えている場合には、出射方向が一方向に定まる。
一方、液晶配向パターンにおいて、光学軸が回転変化する方向は一方向に限らず、二方向あるいは複数の方向であってもよい。所望の反射光の向きに応じた液晶配向パターンを備えた光学異方性層16を用いることにより、入射光を所望の方向に反射させることができる。
【0053】
図9は、光学素子の設計変更例における光学異方性層34の平面模式図である。光学異方性層34における液晶配向パターンは、上記実施形態の光学異方性層16における液晶配向パターンと異なる。図9においては、光学軸22のみを示している。図9の光学異方性層34は、光学軸22の向きが中心側から外側の多方向、例えば、軸A、A、A…に沿って徐々に回転して変化している液晶配向パターンを有している。図9に示す液晶配向パターンによって、入射光は光学軸22の向きが異なる局所領域間では、異なる変化量で絶対位相が変化する。図9に示すような放射状に光学軸が回転変化する液晶配向パターンを備えれば、発散光もしくは集束光として反射させることができる。すなわち、光学異方性層中の液晶配向パターンによって凹レンズあるいは凸レンズとしての機能を実現できる。
【0054】
上記第1の実施形態においては、第1の光学異方性層と第2の光学異方性層とが積層された光学異方性層の全体として面内リタデーションR(=Δn・d)が、0.36λ~0.64λであることが好ましいと述べた。しかしながら、第1の光学異方性層と第2の光学異方性層は、互いに異なる波長λ、λに対して回折格子として機能するように設計されていてもよい。そのような場合には、第1の光学異方性層における面内リタデーションと第2の光学異方性層における面内リタデーションとは独立に設定される。
【0055】
図10は、第2の実施形態の光学素子210の側面模式図である。
光学素子210は、棒状液晶化合物40を含む液晶組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層213と円盤状液晶化合物20を含む液晶組成物の硬化層からなる第2の光学異方性層214とが積層された積層構造の光学異方性層216を備えている。
【0056】
第1の光学異方性層213および第2の光学異方性層214は、上記第1の実施形態の光学素子10における第1の光学異方性層13および第2の光学異方性層14と同様の水平回転配向の液晶配向パターンを有している。但し、第1の光学異方性層213と第2の光学異方性層214とは、それぞれが異なる波長λ、λに対して回折格子として機能する。
【0057】
第1の光学異方性層213は、第1の波長λの光に対する面内のリタデーションR(=Δn・d)が、0.36λ~0.64λであってもよい。面内リタデーションRは0.4λ~0.6λが好ましく、0.45λ~0.55λがより好ましく、0.5λであることが特に好ましい。Δnは第1の光学異方性層213の複屈折率、dは第1の光学異方性層213の厚みである。例えば、550nmの光を入射光として想定する場合には、550nmの光に対する面内リタデーションRが198nm~352nmの範囲であればよく、275nmであることが特に好ましい。このようなリタデーションRを有するので、第1の光学異方性層213は、一般的なλ/2板としての機能、すなわち、入射光の直交する直線偏光成分の間に180°(=π=λ/2)の位相差を与える機能を呈する。
【0058】
第2の光学異方性層214は、第2の波長λの光に対する面内のリタデーションR(=Δn・d)が、0.36λ~0.64λであることが好ましい。面内リタデーションRは0.4λ~0.6λが好ましく、0.45λ~0.55λがより好ましく、0.5λであることが特に好ましい。Δnは第2の光学異方性層214の複屈折率、dは第2の光学異方性層214の厚みである。例えば、550nmの光を入射光として想定する場合には、550nmの光に対する面内リタデーションRが198nm~352nmの範囲であればよく、275nmであることが特に好ましい。このようなリタデーションRを有するので、第2の光学異方性層214は、一般的なλ/2板としての機能、すなわち、入射光の直交する直線偏光成分の間に180°(=π=λ/2)の位相差を与える機能を呈する。
【0059】
なお、この際、第1の光学異方性層213における水平回転配向パターンの回転周期、および第2の光学異方性層214における水平回転配向パターンの回転周期はそれぞれ、波長λ、λに対して回折させたい角度に応じて定めればよい。
【0060】
図11は、本発明の第3の実施形態の光学素子310の構成を示す側面模式図である。
第3の実施形態の光学素子310は、棒状液晶化合物40を含む液晶組成物の硬化層である第1の光学異方性層313と、円盤状液晶化合物20を含む液晶組成物の硬化層である第2の光学異方性層314とを備えている。すなわち、光学素子310は、第1の光学異方性層313と第2の光学異方性層314との積層構造の光学異方性層316を備えている。
【0061】
本実施形態の光学素子310についても、支持体上に形成された配向膜上に光学異方性層が形成される構成を有していてもよい。なお、第3の実施形態の光学素子310の第1の光学異方性層313および第2の光学異方性層314の面内における液晶配向パターンは第1の実施形態の光学異方性層13および14と略同じであり、それぞれの平面模式図はそれぞれ図2および図3に示した第1の実施形態のものと同様である。
【0062】
光学素子310は、光学異方性層313、314における厚み方向の液晶配向パターンが第1の実施形態の光学異方性層13、14と異なる。光学異方性層313、314は、厚み方向に棒状液晶化合物40および円盤状液晶化合物20がそれぞれ第1の捩れ性および第2の捩れ性に従って捩れ配向している。「厚み方向に棒状液晶化合物40が捩れ配向している」とは、光学異方性層313の一面から他面に向かう厚み方向に配列されている複数の棒状液晶化合物40間で光学軸の向きが相対的に変化し一方向に捩れて配向している状態をいう。「厚み方向に円盤状液晶化合物20が捩れ配向している」とは、光学異方性層314の一面から他面に向かう厚み方向に配列されている複数の円盤状液晶化合物20の光学軸の向きが相対的に変化し一方向に捩れて配向している状態をいう。捩れ性には、右捩れ性および左捩れ性があるが、回折させたい光の偏光に応じて適用すればよい。
【0063】
後述の第5の実施形態の光学素子510は、厚み方向にコレステリック配向しており、特定の円偏光の特定の選択波長域の光のみを選択的に反射する反射型の回折格子として機能する。コレステリック配向は、円盤状液晶化合物20もしくは棒状液晶化合物40が厚み方向に回転した螺旋配向であり、厚み方向に1回転以上回転している。これに対し、光学異方性層313、314において、厚み方向における円盤状液晶化合物あるいは棒状液晶化合物の捩れは1回転未満、すなわち捩れ角は360°未満である。例えば、図11の例では、厚み方向(z方向)において、一方の面側から他方の面側までの間に棒状液晶化合物40、円盤状液晶化合物20の光学軸は略60°回転している。厚み方向における棒状液晶化合物40、円盤状液晶化合物20の捩れ角は45°から90°程度が好ましい。コレステリック配向の場合には、特定の波長域の特定の円偏光を反射するものとなるが、捩れ配向の場合は、反射性は生じない。
【0064】
図11に示す例の光学異方性層313および314では、棒状液晶化合物40および円盤状液晶化合物20が厚み方向に光の入射側から出射側、すなわち、紙面において下から上に向かって左捩れとなるように配向されている。本構成では、第1の光学異方性層313から第2の光学異方性層314において、それぞれの液晶化合物の光学軸の回転が連続的なものとなっている。円盤状液晶化合物20および棒状液晶化合物40が面内で水平回転配向し、かつ、厚み方向に左捩れ配向していることから、図11に破線矢印で示す方向に光学軸の向きが同等の領域が存在する配向パターンを有する。
【0065】
波長λに対する光学異方性層316の面内のリタデーションがR(=Δn・d)が、0.36λ~0.64λであることが好ましい。面内リタデーションRは0.4λ~0.6λが好ましく、0.45λ~0.55λがより好ましく、0.5λであることが特に好ましい。Δnは光学異方性層316の複屈折率、dは光学異方性層316の厚みである。すなわち、第1の実施形態の光学異方性層16の場合と同様に、λ/2板として機能する。
【0066】
厚み方向における円盤状液晶化合物の捩れが1回転未満である光学素子310は、第1の実施形態の光学素子10と同様に、透過型の回折格子として機能する。すなわち、光学素子310は、一面からの入射した光を斜めに屈曲させ、他面から回折光として出射させる。
【0067】
図11に示すように、光学素子310の一方の面に右円偏光Pの光L31(以下において、入射光L31という。)を入射した場合、入射光L31は円盤状液晶化合物の水平回転配向の作用により一方の方向に屈曲され、また、λ/2板の作用により、他方の面から左円偏光Pの光L32が出射される。この際、第1の実施形態の光学異方性層16のように、液晶化合物の光学軸の向きが厚み方向には変化していない場合、斜め方向に屈曲された入射光L31は絶対位相の変化量が異なる箇所を通過することになる。入射光L31が当初の絶対位相の変化量と異なる変化量となる箇所を通過そのために光の進行方向にずれが生じて回折ロスとなる。一方、本光学異方性層316においては、破線矢印で示す方向に円盤状液晶化合物の光学軸の向きが同等である領域が存在する。そして、屈曲された入射光L71の進行方向に光学軸の向きが同等な領域が存在することで、回折ロスを低減し、回折効率をより高めることが可能となる。なお、破線矢印で示す方向と、屈曲された入射光L71の進行方向が一致していることが好ましい。しかしながら、両者の方向は完全に一致している必要はない。同等の絶対位相の領域が存在する方向が、厚み方向から傾きを有し、厚み方向よりも屈曲した光の進行方向に近い方向であれば回折効率向上の効果を奏する。
【0068】
なお、光学素子310に対して、ランダム偏光の入射光を入射させた場合、入射光のうち、右円偏光Pは液晶配向パターンによって屈曲力を受けて進行方向が変化し、光学異方性層316を透過して第1の透過回折光として出射される。またこの際、光学異方性層316において左円偏光Pに変換される。他方、入射光のうちの左円偏光Pは、面内方向における水平回転配向と、厚み方向における捩れ配向とにより、屈曲力が相殺されて、左円偏光Pは、円盤状液晶化合物の配向パターンによる影響を受けず直進して出射光L83として出射される。また、左円偏光Pに対しては、光学異方性層はλ/2の作用を生じず、そのまま左円偏光Pとして出射する。すなわち、光学素子310は、右円偏光Pに対してのみ回折格子およびλ/2板として作用する。
【0069】
なお、図11の光学異方性層316における捩れ性とは逆の右捩れ性を有する光学異方性層の場合、左斜め上方向に液晶化合物の光学軸の向きが同等な領域が存在する配向パターンが形成される。そのため、光学素子310とは逆に、左円偏光Pが入射された場合には、入射光は屈曲されて紙面において左斜め上方向に進行し、λ/2板の作用を受けて、右円偏光Pの透過回折光として出射される。また、この場合、右円偏光Pが入射された場合には、回折およびλ/2の作用を受けることなく、右円偏光Pのまま直進して出射される。
【0070】
図12は、本発明の第4の実施形態の光学素子410の構成を示す側面模式図である。
第4の実施形態の光学素子410は、棒状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層である第1の光学異方性層413と、円盤状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層である第2の光学異方性層414とを備えている。すなわち、光学素子410は、第1の光学異方性層413と第2の光学異方性層414とが積層されてなる光学異方性層416を備えている。第1の光学異方性層413および第2の光学異方性層414は、上記第1の実施形態の光学素子10における第1の光学異方性層13および第2の光学異方性層14と同様に、水平回転配向の液晶配向パターンを有している。
【0071】
第1の光学異方性層413、第2の光学異方性層414は、第3の実施形態の光学素子310の光学異方性層313,314と同様に、厚み方向の捩れ配向を有している。第1の光学異方性層413は、その厚み方向に第1の円盤状液晶化合物が第1の捩れ性に従って捩れ配向している。第2の光学異方性層414は、その厚み方向に第2の円盤状液晶化合物が第2の捩れ性に従って捩れ配向している。第2の光学異方性層414における第2の捩れ性は第1の光学異方性層413における第1の捩れ性と逆向きである。
【0072】
第1の光学異方性層413は、第1の波長λの光に対する面内のリタデーションR(=Δn・d)が、0.36λ~0.64λであってもよい。面内リタデーションRは0.4λ~0.6λが好ましく、0.45λ~0.55λがより好ましく、0.5λであることが特に好ましい。Δnは第1の光学異方性層413の複屈折率、dは第1の光学異方性層413の厚みである。
【0073】
第2の光学異方性層414は、第2の波長λの光に対する面内のリタデーションR(=Δn・d)が、0.36λ~0.64λであることが好ましい。面内リタデーションRは0.4λ~0.6λが好ましく、0.45λ~0.55λがより好ましく、0.5λであることが特に好ましい。Δnは第2の光学異方性層414の複屈折率、dは第2の光学異方性層414の厚みである。
【0074】
第1の波長λと第2の波長λとは異なっていてもよいし、同一であってもよい。本例においては、同一であり、それぞれλ/2板として機能するものとする。この場合、第1の光学異方性層413、第2の光学異方性層414はそれぞれ単独で偏光回折格子として同一波長λに対して作用する。
【0075】
第1の光学異方性層413は、左円偏光Pである入射光に対しては、回折格子として機能し、かつλ/2板として機能する。他方、右円偏光Pである入射光に対しては、回折格子およびλ/2板として機能しない。
【0076】
第2の光学異方性層414は、右円偏光Pである入射光に対しては、回折格子として機能し、かつλ/2板として機能する。他方、左円偏光Pである入射光に対しては、回折格子およびλ/2板として機能しない。
【0077】
光学異方性層416は、上記第1の光学異方性層413および第2の光学異方性層414の積層であり、両者の特性を備えている。したがって、右円偏光Pに対しては、第1の光学異方性層413が作用し、左円偏光Pに対しては、第2の光学異方性層414が作用する。そのため、光学異方性層416の一方の面から垂直入射した右円偏光Pの入射光は右斜めに回折され、他方の面から左円偏光Pとして出射される。光学異方性層416の一方の面から垂直入射した左円偏光Pの入射光は左斜めに回折されて右円偏光Pとして出射される。
【0078】
図12に示すように、光学異方性層416の一方の面に対して垂直にランダム偏光の入射光L41を入射させて場合について説明する。この場合、入射光L41のうちの右円偏光P成分は、第1の光学異方性層413を通過し、その後、第2の光学異方性層414において屈曲力を受けて進行方向が変化され、光学異方性層416の他方の面から第1の透過回折光L42として出射される。なお、入射光L41のうちの右円偏光P成分は第2の光学異方性層414を通過することにより左円偏光Pに変換されて出射される。
【0079】
他方、入射光L41のうちの左円偏光P成分は、第2の光学異方性層413において屈曲力を受けて進行方向が変化された状態で第2の光学異方性層414から出射し、その回折状態を保ったまま第2の光学異方性層414を通過して光学異方性層416の他方の面から第2の透過回折光L43として出射される。なお、入射光L41のうちの左円偏光P成分は第1の光学異方性層413で右円偏光Pに変換されており、その状態を保ったまま第2の光学異方性層414を通過して出射される。本例においては、第1の光学異方性層413と第2の光学異方性層414とは、厚み方向における捩れ性が互いに逆であるが、水平回転配向の配向ピッチが同等であることから、第1の透過回折光L42と第2の透過回折光L43の進行方向は法線に対して略線対称の関係となる。
【0080】
このように、互いの膜厚方向における捩れ性が逆向きである第1の光学異方性層と第2の光学異方性層とを備えることにより、右円偏光Pおよび左円偏光Pのいずれをも高い回折効率で回折させることが可能である。
【0081】
第4の実施形態の光学素子410のように、第1の光学異方性層413と第2の光学異方性層414を備える場合には、第1の光学異方性層413における棒状液晶化合物の水平回転配向の180°回転の周期と、第2の光学異方性層414における円盤状液晶化合物の水平回転配向の180°回転の周期とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。両光学異方性層の水平回転配向の回転周期が異なる場合、左円偏光と右円偏光とで異なる回折角の回折光を得ることができる。
【0082】
なお、第2の実施形態および第3の実施形態の光学素子のように、厚み方向における捩れ配向を有する光学異方性層を備えることにより、回折可能な入射光の波長を広帯域化させることができる。
【0083】
なお、広帯域化は、厚み方向に捩れ配向を有する光学異方性層とすること以外にも、光学異方性層を、複屈折率が逆分散となる液晶材料を用いて構成することでも実現することができる。したがって、光学異方性層は、複屈折率が逆分散となる液晶材料を用いて構成されていることが好ましい。また、異なる位相差層を積層することにより、入射光の波長に対して光学異方性層を実質的に広帯域にすることも好ましい。
【0084】
図13は、本発明の第5の実施形態の光学素子510の構成を示す側面模式図である。なお、第2の実施形態の光学素子の光学異方性層における液晶配向パターンの平面模式図は図2に示した第1の実施形態のものと同様である。
【0085】
第5の実施形態の光学素子510は、棒状液晶化合物40を含む液晶組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層513と円盤状液晶化合物20を含む液晶組成物の硬化層からなる第2の光学異方性層514とを備えている。すなわち、光学素子510は、第1の光学異方性層513と第2の光学異方性層514との積層構造の光学異方性層516を備えている。
【0086】
本実施形態の光学素子510についても、支持体上に形成された配向膜上に光学異方性層が形成される構成を有していてもよい。なお、第5の実施形態の光学素子510の第1の光学異方性層513および第2の光学異方性層514の面内における液晶配向パターンは第1の実施形態の光学異方性層13および14と同様の水平回転配向を有し、平面模式図はそれぞれ図2および図3に示した第1の実施形態のものと同様である。
【0087】
光学素子510は、光学異方性層513、514における厚み方向の液晶配向パターンが第1の実施形態の光学異方性層13、14と異なる。光学異方性層513、514は、厚み方向において、棒状液晶化合物40および円盤状液晶化合物20がコレステリック配向している。第1の光学異方性層513と第2の光学異方性層514とで、厚み方向において、連続的な1つのコレステリック配向を形成している。
【0088】
光学異方性層516は、特定の円偏光(右円偏光もしくは左円偏光)の所定の選択波長域の光のみを選択的に反射する機能を奏する。選択的に反射される光の中心波長はコレステリックの螺旋ピッチおよび膜厚dにより定められ、いずれの円偏光を反射するかは、螺旋の回転方向により定められる。
【0089】
本光学素子510における光学軸の面内方向における変化は図2および図3に示した第1の実施形態の光学素子10の場合と同等であるため、光学素子10と同様の作用を生じる。従って、光学素子510は、第1の実施形態の光学素子10と同様に、入射した光に対して絶対位相を変化させて斜めに屈曲させる作用を生じる。また、同時に、厚み方向にコレステリック相を有するので、光学異方性層に入射する光のうち、特定の円偏光の選択波長域の光を選択的に反射する。
【0090】
光学異方性層516においてコレステリック相は所定の中心波長を有する右円偏光を反射するよう設計されている。そのため、図13に示すように、本光学素子510の光学異方性層516の一方の面に垂直に、すなわち法線に沿って右円偏光Pである所定の中心波長の光L51を入射させると、法線方向に対して傾きを有する方向に進行する反射光L52が生じる。すなわち、光学異方性層516は、光L51に対して反射型回折格子として機能する。
なお、所定の選択波長域以外の光、および左円偏光は光学異方性層516を透過する。
【0091】
従って、図14に示すように、所定の中心波長を有するランダム偏光L61を光学異方性層516に垂直入射させた場合、右円偏光L62のみが反射回折され、左円偏光L63は、光学異方性層516を透過する。
【0092】
本実施形態の光学素子510についても、第1の実施形態の光学素子10と同様に、第1の光学異方性層が近似的に負のCプレートとして作用し、第2の光学異方性層が近似的に正のCプレートとして作用して、斜め方向のリタデーションを抑制することができる。したがって、回折光と異なる波長に与える複屈折を与えることなく、透過させることができる光学素子を提供することができる。
【0093】
なお、光学素子において、異なる選択波長領域のコレステリック相の複数の光学異方性層を組み合わせて備えてもよい。
【0094】
図15は、本発明の第6の実施形態の光学素子610の構成を示す側面模式図である。
第6の実施形態の光学素子610は、棒状液晶化合物40を含む液晶組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層613と円盤状液晶化合物20を含む液晶組成物の硬化層からなる第2の光学異方性層614とを備えている。すなわち、光学素子610は、第1の光学異方性層613と第2の光学異方性層614との積層構造の光学異方性層616を備えている。
【0095】
第6の実施形態の光学素子610の第1の光学異方性層613および第2の光学異方性層614の面内における液晶配向パターンは第1の実施形態の光学異方性層13および14と同様の水平回転配向を有し、平面模式図はそれぞれ図2および図3に示した第1の実施形態のものと同様である。
【0096】
一方、第1の光学異方性層613において、棒状液晶化合物40が厚み方向に第1の第1のコレステリック配向し、第2の光学異方性層614において、円盤状液晶化合物20が厚み方向に第2のコレステリック配向している。すなわち、第1の光学異方性層613と第2の光学異方性層614は、独立にコレステリック配向しており、第1の光学異方性層613と第2の光学異方性層614は、それぞれ単独で特定の円偏光(右円偏光もしくは左円偏光)の所定の選択波長域の光のみを選択的に反射する機能を奏する。
【0097】
例えば、第1の光学異方性層613が第1の波長域の光(たとえば、青色光)を反射するように、そのコレステリック配向のピッチおよび膜厚dが調整されており、第2の光学異方性層614が第2の波長域の光(たとえば、緑色光)を反射するように、そのコレステリック配向のピッチおよび膜厚dが調整されている。
【0098】
これにより、光学素子610においては、例えば、ランダム偏光の白色光L71を光学異方性層616の一方の面に入射した場合、そのうちの第1の波長域の光であって、特定の円偏光、ここでは右円偏光の光L72(λ)および第2の波長域の光であって、右円偏光の光L72(λ)が反射回折光として反射される。なお、この場合、左円偏光の光L73、および選択波長以外の右円偏光は光学素子610を透過する。
【0099】
本実施形態の光学素子610についても、第1の実施形態の光学素子10と同様に、第1の光学異方性層が近似的に負のCプレートとして作用し、第2の光学異方性層が近似的に正のCプレートとして作用して、斜め方向のリタデーションを抑制することができる。したがって、回折光と異なる波長に与える複屈折を与えることなく、透過させることができる光学素子を提供することができる。
【0100】
なお、上記した各実施形態において、棒状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層と、円盤状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層からなる第2の光学異方性層とは、両層を積層することにより、いずれか一方の光学異方性層を単独で用いた場合よりも斜め方向のリタデーションを抑制することができればよい。光学素子における斜め方向のリタデーションを抑制することにより、回折光の波長域とは異なる波長域の光が光学素子を透過する際の強度低下を抑制することができる。両層を積層することにより、斜め方向のリタデーションを相互補償して完全にキャンセルすることが特に好ましい。
【0101】
以下、本発明の光学素子の構成要素の詳細について説明する。
【0102】
<光学異方性層>
光学異方性層を形成するための、円盤状液晶化合物を含む液晶組成物は、円盤状液晶化合物の他に、レベリング剤、配向制御剤、重合開始剤および配向助剤などのその他の成分を含有していてもよい。支持体上に配向膜を形成し、その配向膜上に液晶組成物を塗布、硬化することにより、液晶組成物の硬化層からなる、所定の液晶配向パターンが固定化された光学異方性層を得ることができる。
【0103】
-棒状液晶化合物-
棒状液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性分子だけではなく、高分子液晶性分子も用いることができる。
【0104】
棒状液晶化合物を重合によって配向を固定することがより好ましく、重合性棒状液晶化合物としては、Makromol. Chem., 190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開第95/22586号、同95/24455号、同97/00600号、同98/23580号、同98/52905号、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、および、特開2001-328973号公報などに記載の化合物を用いることができる。さらに棒状液晶化合物としては、例えば、特表平11-513019号公報および特開2007-279688号公報に記載のものも好ましく用いることができる。
【0105】
-円盤状液晶化合物-
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報および特開2010-244038号公報に記載のものを好ましく用いることができる。
【0106】
-その他の成分-
なお、配向制御剤、重合開始剤、および配向助剤などのその他の成分については、いずれも公知の材料を利用することができる。なお、第3および第4の実施形態の光学異方性層、すなわち厚み方向に捩れ配向を形成する場合には、カイラル剤を添加する。また、第5および第6の実施形態の光学異方性層を形成するためには、厚み方向にコレステリック液晶相を得るためにもカイラル剤を添加する。
【0107】
--カイラル剤(光学活性化合物)--
カイラル剤はコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する機能を有する。カイラル剤は、化合物によって誘起する螺旋の捩れ方向または螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
カイラル剤としては、特に制限はなく、公知の化合物(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(twisted nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)、イソソルビド、および、イソマンニド誘導体等を用いることができる。
カイラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もカイラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。カイラル剤は、重合性基を有していてもよい。カイラル剤と液晶化合物とがいずれも重合性基を有する場合は、重合性カイラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、カイラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性カイラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であるのが好ましい。従って、カイラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であるのが好ましく、不飽和重合性基であるのがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であるのがさらに好ましい。
また、カイラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0108】
カイラル剤が光異性化基を有する場合には、塗布、配向後に活性光線などのフォトマスク照射によって、発光波長に対応した所望の反射波長のパターンを形成することができるので好ましい。光異性化基としては、フォトクロッミック性を示す化合物の異性化部位、アゾ基、アゾキシ基、または、シンナモイル基が好ましい。具体的な化合物として、特開2002-80478号公報、特開2002-80851号公報、特開2002-179668号公報、特開2002-179669号公報、特開2002-179670号公報、特開2002-179681号公報、特開2002-179682号公報、特開2002-338575号公報、特開2002-338668号公報、特開2003-313189号公報、および、特開2003-313292号公報等に記載の化合物を用いることができる。
【0109】
-溶媒-
液晶組成物の溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N、N-ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1、2-ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0110】
<支持体>
支持体としては、透明支持体が好ましく、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリル系樹脂フィルム、セルローストリアセテート等のセルロース系樹脂フィルム、およびシクロオレフィンポリマー系フィルム[例えば、商品名「アートン」、JSR社製、商品名「ゼオノア」、日本ゼオン社製]等を挙げることができる。支持体は、可撓性のフィルムに限らず、ガラス基板等の非可撓性の基板であってもよい。
【0111】
<光学異方性層形成用の配向膜>
光学異方性層形成用の配向膜としては、例えば、ポリマー等の有機化合物からなるラビング処理膜あるいは無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、あるいはω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチルの如き有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB膜を累積させた膜などがあげられる。配向膜としては、ポリマー層の表面をラビング処理して形成されたものが好ましい。ラビング処理は、ポリマー層の表面を紙や布で一定方向に数回こすることにより実施される。配向膜に使用するポリマーの種類は、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-97377号公報、特開2005-99228号公報、および特開2005-128503号公報記載の直交配向膜等を好ましく使用することができる。なお、直交配向膜とは、重合性棒状液晶化合物の分子の長軸を、直交配向膜のラビング方向と実質的に直交するように配向させる配向膜を意味する。配向膜の厚さは配向機能を提供できれば厚い必要はなく、0.01~5μmであることが好ましく、0.05~2μmであることがさらに好ましい。
また、光配向性の素材に偏光又は非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜も用いることもできる。即ち、支持体上に、光配光材料を塗布して光配向膜を作製してもよい。偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向又は斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0112】
本開示の光学素子に利用可能な光配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号、特許第4151746号に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報、特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/又はアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号、特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報、特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、ポリアミド、又はエステル、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、WO2010/150748号公報、特開2013-177561号公報、特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物、クマリン化合物が好ましい例として挙げられる。特に好ましくは、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、ポリアミド、エステル、シンナメート化合物、カルコン化合物である。
本開示の光学素子においては、光配向膜を用いることが好ましい。
【0113】
配向膜を支持体上に塗布して乾燥させた後、配向膜をレーザ露光して配向パターンを形成する。配向膜の露光装置の模式図を図16に示す。露光装置50は、半導体レーザ52を備えた光源54と、半導体レーザ52からのレーザ光70を2つに分離するビームスプリッター56と、分離された2つの光線72A、72Bの光路上にそれぞれ配置されたミラー58A、58Bおよびλ/4板60A、60Bを備える。λ/4板60Aおよび60Bは互いに直交する光学軸を備えており、λ/4板60Aは、直線偏光Pを右円偏光Pに、λ/4板60Bは直線偏光Pを左円偏光Pに変換する。
【0114】
配向膜82を備えた支持体80が露光部に配置され、2つの光線72A、72Bを配向膜82上で交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜82に照射して露光する。この際の干渉により、配向膜82に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これによって、配向状態が周期的に変化する配向パターンが得られる。露光装置50において、2つの光72Aおよび72Bの交差角βを変化させることにより、配向パターンの周期を変化させることができる。配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する配向膜上に後述の光学異方性層を形成することにより、この周期に応じた液晶配向パターンを備えた光学異方性層を形成することができる。
【0115】
<光学異方性層の形成>
光学異方性層は、配向膜上に液晶組成物を多層塗布することにより形成することができる。多層塗布とは、配向膜の上に液晶組成物を塗布し、加熱し、さらに冷却した後に紫外線硬化を行って1層目の液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱し、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことをいう。光学異方性層を上記のように多層塗布して形成することにより、光学異方性層の総厚が厚くなった場合でも配向膜の配向方向を、光学異方性層の下面から上面にわたって反映させることができる。
【0116】
第1の実施形態の光学異方性層と第2の実施形態の光学異方性層とでは液晶組成物が異なるだけで、同様の形成方法を採用することができる。
【0117】
次に、本開示の光学素子を備えた光学装置の一例を説明する。図17は光学装置の一例であるヘッドマウントディスプレイ90の要部構成を示す図である。
図17に示すように、ヘッドマウントディスプレイ90は、光源の一態様である液晶表示装置92と、液晶表示装置92から出力された光を導光する導光部材94とを備えており、導光部材94の一部に、本発明の第5の実施形態の光学素子510A,510Bが備えられている。液晶表示装置92と導光部材94とは、液晶表示装置92からの光が導光部材94に対して垂直に入射するように配置されており、光学素子510Aが導光部材94に入射した光が光学素子510Aの表面に垂直に入射する位置に配置されている。他方、光学素子510Bは、導光部材94中を全反射して導光された光が入射される位置に配置されている。
【0118】
光学素子510Aは光学異方性層516Aを備え、光学異方性層516Aに垂直に入射する所定の中心波長の特定の円偏光を斜め方向に反射するように構成されている。光学素子510Bは光学異方性層516Bを備え、光学異方性層516Bに斜め方向から入射する所定の中心波長の特定の円偏光を垂直方向に反射するように構成されている。
【0119】
このように、本開示の光学素子を用いれば、入射光の反射方向を所望の方向とすることができ、反射素子と光路変更のための素子を別途に設ける必要がないため、光学装置の小型化を図ることができる。
【0120】
本開示の光学素子は、上記のようなヘッドマウントディスプレイ90への適用に限らず、光を入射角とは異なる方向に反射させる光反射素子として、AR投影装置へも適用可能である。また、光を集光また発散するマイクロミラー、あるいはマイクロレンズとして、センサ用集光ミラーあるいは、光を拡散させる反射スクリーン等への適用が可能である。また、本開示の光学素子は、ビームステアリング光学部材として用いることができ、その際に、光学素子を介して、回折光とは異なる波長域の光を検出するセンサと組み合わせて利用することができる。本開示の光学素子は、回折光とは異なる波長域の光に対する複屈折による影響を抑制したものであるので、上記のセンサと組み合わせた場合、従来の光学素子よりも小さい検出誤差で光検出が可能である。
【実施例
【0121】
以下、本発明の光学素子の実施例および比較例について説明する。
まず、透過型回折格子として機能する第1の実施形態の光学素子の実施例1および比較例1、第3の実施形態の光学素子の実施例2および比較例2について説明する。
【0122】
「比較例1」
支持体上に配向膜を形成し、配向膜上に棒状状液晶化合物を含む液晶組成物D1の硬化層からなる光学異方性層A-1を形成して、比較例1の光学素子を作製した。光学異方性層A-1は、棒状液晶化合物が水平回転配向された液晶配向パターンとした。
【0123】
[比較例1の光学素子の作製]
支持体として、市販されているトリアセチルセルロースフィルム「Z-TAC」(富士フイルム社製)を用いた。
【0124】
(支持体の鹸化)
支持体を、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させて、支持体表面温度を40℃に昇温した。その後、支持体の片面に、バーコーターを用いて下記に示すアルカリ溶液を塗布量14mL/mで塗布し、支持体を110℃に加熱し、さらに、(株)ノリタケカンパニーリミテド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下を、10秒間搬送した。続いて、同じくバーコーターを用いて、支持体表面上に純水を3mL/m塗布した。次いで、ファウンテンコーターによる水洗およびエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンを10秒間搬送して支持体を乾燥させ、アルカリ鹸化処理した支持体を得た。
【0125】
<アルカリ溶液>
水酸化カリウム 4.70質量部
水 15.80質量部
イソプロパノール 63.70質量部
界面活性剤
SF-1:C1429O(CHCHO)OH 1.0 質量部
プロピレングリコール 14.8 質量部
【0126】
(下塗り層の形成)
下記の下塗り層形成用塗布液を#8のワイヤーバーで連続的に上記アルカリ鹸化処理した支持体上に塗布した。塗膜が形成された支持体を60℃の温風で60秒間、さらに100℃の温風で120秒間乾燥し、下塗り層を形成した。
【0127】
<塗り層形成用塗布液>
下記変性ポリビニルアルコール 2.40質量部
イソプロピルアルコール 1.60質量部
メタノール 36.00質量部
水 60.00質量部
【0128】
【化1】

【0129】
(配向膜P-1の形成)
上記の下塗り層を形成した支持体上に下記の配向膜P-1形成用塗布液を#2のワイヤーバーで連続的に塗布した。この配向膜P-1形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を60℃の温風で60秒間乾燥し、配向膜P-1を形成した。
【0130】
<配向膜P-1形成用塗布液>
下記光配向用素材 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
【0131】
-光配向用素材-
【化2】

【0132】
(配向膜P-1の露光)
図16に示した露光装置50を用いて配向膜を露光した。露光装置50において、半導体レーザ52として波長(405nm)のレーザ光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を100mJ/cmとした。なお、2つのレーザ光の干渉により形成されるパターンの180°回転周期は2つの光の交差角βを変化させることによって制御した。
【0133】
(光学異方性層A-1の形成)
まず、下記の液晶組成物D1を準備した。
<液晶組成物D1>
―――――――――――――――――――――――――――――――――
棒状液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 296.50質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0134】
棒状液晶化合物L-1
【化3】

【0135】
-レベリング剤T-1-
【化4】

【0136】
なお、液晶組成物D1の硬化層の複素屈折率Δnは、0.15であった。複素屈折率Δnは、液晶組成物D1を別途に用意したリタデーション測定用の配向膜付き支持体上に塗布し、棒状液晶化合物の光学軸が基材に水平となるよう配向させた後に紫外線照射して固定化して得た液晶固定化層(硬化層)のリタデーション値および膜厚を測定して求めた。リタデーション値を膜厚で除算することによりΔnを算出できる。リタデーション値はAxometrix 社のAxoscanで550nmの波長で測定し、膜厚は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて測定した。
【0137】
<光学異方性層A-1の塗布形成>
光学異方性層A-1は、液晶組成物D1を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。多層塗布とは、先ず配向膜の上に1層目の液晶組成物D1を塗布、加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことを指す。多層塗布により形成することにより、液晶層の総厚が厚くなった時でも配向膜の配向方向が液晶層の下面から上面にわたって反映される。
【0138】
先ず1層目は、配向膜P-1上に下記の液晶組成物D1を塗布した塗膜をホットプレート上で110℃に加熱し、その後、60℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cmの照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の固定化された液晶層(1層の液晶固定化層)の膜厚は0.2μmであった。
【0139】
2層目以降の液晶固定化層は、先に形成された液晶固定化層に液晶組成物D1を重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って形成した。このようにして、総厚が所望の膜厚になるまで重ね塗りを繰り返し光学異方性層A-1を得た。最終的に液晶の複屈折率が275nm(=λ/2)になり、かつ周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。
【0140】
「比較例2」
比較例1に対し、棒状液晶化合物に代えて円盤液晶化合物を含む液晶組成物E1の硬化層からなる光学異方性層A-2を備えた光学素子とした。すなわち、比較例2の光学素子は円盤状液晶化合物が水平回転配向された液晶配向パターンを有する。
【0141】
(光学異方性層A-2の形成)
下記の組成物の液晶組成物E1を準備した。
<液晶組成物E1>
―――――――――――――――――――――――――――――――――
円盤状液晶化合物L-2 80.00質量部
円盤状液晶化合物L-3 20.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
5.00質量部
メガファックF444(DIC製) 0.50質量部
メチルエチルケトン 300.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0142】
円盤状液晶化合物L-2
【化5】

【0143】
円盤状液晶化合物L-3
【化6】

【0144】
なお、液晶組成物E1の硬化層の複素屈折率Δnは、0.15であった。複素屈折率Δnは、液晶組成物D1の場合と同様の方法で求めた。
【0145】
<光学異方性層A-2の塗布形成>
先ず1層目は、配向膜P-1上に上記液晶組成物E1を塗布した塗膜をホットプレート上で110℃に加熱し、その後、60℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cmの照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の固定化された液晶層(1層の液晶固定化層)の膜厚は0.2μmであった。
【0146】
2層目以降の液晶固定化層は、先に形成された液晶固定化層に液晶組成物E1を重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って形成した。このようにして、総厚が所望の膜厚になるまで重ね塗りを繰り返し光学異方性層A-2を得た。最終的に液晶の複屈折率が275nm(=λ/2)になり、かつ周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。
【0147】
「実施例1」
まず、支持体上に配向膜を形成し、配向膜上に棒状液晶化合物を含む液晶組成物D1の硬化層からなる光学異方性層A-1(以下において、第1の光学異方性層A-1)を形成した。その後、円盤状液晶化合物を含む液相組成物E1の硬化層からなる光学異方性層A-2(以下において、第2の光学異方性層A-2)を形成して実施例1の光学素子を作製した。
すなわち、1層目は棒状液晶化合物を含む液晶組成物D1の硬化層からなる第1の光学異方性層A-1、2層目は円盤状液晶化合物を含む液晶組成物E1の硬化層からなる第2の光学異方性層A-2の2層構造とした。
【0148】
実施例1の光学素子は、比較例1と同様にして、支持体上に配向膜を形成し、配向膜上に第1の光学異方性層A-1を形成した後、比較例2において配向膜上に形成した光学異方性層A-2と同様にして、光学異方性層A-1の上に光学異方性層A-2を形成した。この際、各々の光学異方性層A-1、A-2を、それらの積層構造全体での面内レタデーションΔnd(=Δn+Δn)が275nmになるよう塗布量を調整し、それ以外は比較例1および比較例2と同様にして作製した。ここで、Δnは第1の光学異方性層の複屈折率、dは第1の光学異方性層の厚み、Δnは第2の光学異方性層の複屈折率、dは第2の光学異方性層の厚みである。
なお、Δn、Δnは、いずれも0.15であった。複素屈折率Δnは、液晶組成物D1の場合と同様の方法で求めた。
【0149】
実施例1の光学素子の断面SEMから水平回転配向を有する液晶配向パターンが2層重なっていることを確認した。また、Axometrix 社のAxoscanでの測定により、1層目の第1の光学異方性層は棒状液晶化合物が配向したものであり、2層目の第2の光学異方性層は円盤状液晶化合物が配向したものであることを確認した。作製した光学素子は2層重なった構成であり、第1の光学異方性層面内レタデーションΔn=138nm、捩れ角は0度で、第2の光学異方性層の面内レタデーションΔn=137nm、捩れ角は0度であった。
【0150】
「実施例2」
実施例1と同様に、第1の光学異方性層と第2の光学異方性層との2層構造の光学素子とした。実施例1の積層順と同様に、支持体、配向膜の順で積層し、その上に第1の光学異方性層、その上に第2の光学異方性層が積層された構造になっている。1層目は棒状液晶化合物を含む液晶組成物D21の硬化層からなる第1の光学異方性層、2層目は円盤状液晶化合物を含む液晶組成物E21の硬化層からなる第2の光学異方性層の2層構造とした。第1の光学異方性層と第2の光学異方性層とは、それぞれ厚み方向において、互いに逆向きの捩れ性を有する液晶配向パターンを有するものとした。
液晶組成物D21は、実施例1で用いた液晶組成物D1に対してカイラル剤Ch-2が添加されている。液晶組成物E21は、実施例1で用いた液晶組成物E1に対してカイラル剤Ch-3が添加されている。カイラル剤Ch-2と、Ch-3とは厚み方向において、互いに逆向きの捩れ性を付与するものである。
【0151】
実施例2の光学素子は、第1の光学異方性層と第2の光学異方性層との、各々面内レタデーションΔnおよびΔnがそれぞれ275nmになるよう塗布量を調整し、それ以外は実施例1と同様に作製した。
【0152】
<液晶組成物D21>
―――――――――――――――――――――――――――――――――
棒状液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
カイラル剤Ch-2 0.12質量部
メチルエチルケトン 296.50質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0153】
-カイラル剤Ch-2-
【化7】


【0154】
<液晶組成物E21>
―――――――――――――――――――――――――――――――――
円盤状液晶化合物L-2 80.00質量部
円盤状液晶化合物L-3 20.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
5.00質量部
メガファックF444(DIC製) 0.50質量部
カイラル剤Ch-3 0.14質量部
メチルエチルケトン 300.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0155】
-カイラル剤Ch-3-
【化8】


【0156】
実施例2の光学素子の断面SEMから水平回転配向を有し、かつ厚み方向に互いに逆向きの捩れを有する液晶配向パターンが2層重なっていることを確認した。また、Axometrix 社のAxoscanでの測定により、1層目の第1の光学異方性層は棒状液晶化合物が配向したものであり、2層目の第2の光学異方性層は円盤状液晶化合物が配向したものであることを確認した。実施例2の光学素子において第1の光学異方性層の面内レタデーションΔn=275nm、捩れ角は75度であり、第2の光学異方性層の面内レタデーションΔn=275nm、捩れ角は-75度であった。
【0157】
[評価]
-回折角の測定-
実施例1、2および比較例1、2の各光学素子について、光学素子の支持体を通して光学異方層の表面に垂直に光を入射させ、その透過回折光の回折角を測定した。具体的には、550nmに出力の中心波長をもつ右円偏光としたレーザ光を、光学素子の一方の面に、法線方向に50cmの離れた位置から垂直入射させ、透過回折光のスポットを光学素子の他方の面から50cmの距離に配置したスクリーンで捉えて、回折角を算出した。
【0158】
-光強度の測定-
光強度の測定方法を、図18を参照して説明する。実施例および比較例の光学素子10Sは、支持体12Sの表面に備えられた配向膜12aS上に1層もしくは2層構造の光学異方性層16Sを備えている。この光学異方性層16Sの一方の面である配向膜12aS側の面と対向する他方の面に、支持体12Sとほぼ同一の屈折率の第2の支持体18を接着させて測定用試料とした。
半導体レーザ30から出射した波長550nmの半導体レーザ光を直線偏光子31、およびλ/4板32を透過させて右円偏光Pの光Lとした。この光Lを支持体12に垂直入射させることにより、光Lを光学異方性層14の一方の面に垂直入射させた。この場合、光学異方性層14による回折作用により回折角θの回折光Lが光学異方性層14の他方の面から出力される。この回折光Ltは、光学異方性層14の他方の面に接続されている第2の支持体18中を進行し、試料の表面から大気中に出射される。この出射光Lt1の光強度を光検出器35で測定した。なお、試料と大気との界面において、屈折率差があるため回折光Ltは屈曲されて出射角θ22で出射する出射光Lt1と第2の支持体18内部に反射する反射光Lt2が生じる。光検出器35で検出した光強度と、フレネル則から内部反射した光Lt2の光強度を求め、回折光Lの光強度を算出した。
そして、回折光Lの光強度と光Lの光強度との比をとり、回折光Lの入射光に対する相対光強度値を求めた。
【0159】
上記のようにして求めた相対光強度値について、下記の基準で評価した。
A:比較例1に対する向上率が15%以上
B:比較例1に対する向上率が2%以上、15%未満
C:比較例1に対する向上率が2%未満
【0160】
-回折光以外の波長の透過率の測定-
回折光以外の波長に対する液晶回折素子の影響を評価するために以下の方法で透過率を測定した。光学素子を平行配置の偏光板で挟み、偏光軸の方位から45°方位で極角60°における赤外光(波長940nm)の透過率を測定した。回折光以外の波長を有する光の一例として、波長940nmの赤外光を用いた。この赤外光の透過率が大きいほど光学素子による斜めリタデーションの影響が小さく望ましい。
【0161】
上記のようにして求めた、回折光以外の波長の透過率について、下記の基準で評価した。
A:比較例1に対する向上率が20%以上
B:比較例1に対する向上率が10%以上、20%未満
C:比較例1に対する向上率が5%以上、10%未満
D:比較例1に対する向上率が5%未満
【0162】
表1に実施例1~3および比較例1~3の光学素子の構成および評価結果を纏めて示す。
【表1】

【0163】
表1に示すように、棒状液晶化合物を含む第1の光学異方性層と円盤状液晶化合物を含む第2の光学異方性層との積層構造を有する実施例が、円盤状液晶化合物を含む光学異方性層のみまたは棒状液晶化合物を含む光学異方性層のみの比較例に比べて、回折光強度を保ちつつ回折光以外の波長の透過率が高いことが確認できた。
【0164】
次に、反射型回折格子として機能する第3の実施形態の光学素子の実施例11および比較例11~12について説明する。
【0165】
「比較例11」
支持体上に配向膜を形成し、配向膜上に棒状液晶化合物を含む液晶組成物D2の硬化層からなる光学異方性層A-3を形成して、比較例11の光学素子を作製した。光学異方性層は、円盤状液晶化合物が水平回転配向され、かつ厚み方向にコレステリック相を有する液晶配向パターンとした。
【0166】
[比較例11の光学素子の作製]
液晶組成物D1を液晶組成物D2としてコレステリック相を有する液晶配向パターンを持つ光学異方性層を形成した以外は、比較例1と同様にして、実施例11の光学素子を作製した。光学素子の断面SEMからコレステリック相を有する液晶配向パターンであることを確認し、また、Axometrix 社のAxoscanでの測定により、液晶配向パターンは円盤状液晶化合物が配向したものであることを確認した。
【0167】
<液晶組成物D2>
―――――――――――――――――――――――――――――――――
棒状液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
カイラル剤Ch-1 5.45質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 268.20質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0168】
-カイラル剤Ch-1-
【化9】

【0169】
(光学異方性層A-3の形成)
光学異方性層A-3は、液晶組成物D2を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。
【0170】
先ず1層目は、配向膜P-1上に下記の液晶組成物D2を塗布した塗膜をホットプレート上で95℃に加熱し、その後、25℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cmの照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の固定化された液晶層(1層の液晶固定化層)の膜厚は0.2μmであった。
【0171】
2層目以降の液晶固定化層は、先に形成された液晶固定化層に液晶組成物D2を重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って形成した。このようにして、総厚が所望の膜厚(ここでは、4.5μm)になるまで重ね塗りを繰り返し光学異方性層A-3を得た。また、周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡およびSEMで確認した。
【0172】
「比較例12」
比較例11対し棒状液晶化合物に代えて円盤状液晶化合物を含む液晶組成物E2の硬化層からなる光学異方性層A-4を備えた光学素子とした。すなわち、比較例12の光学素子において、光学異方性層は、円盤状液晶化合物が水平回転配向され、かつ厚み方向にコレステリック相を有する液晶配向パターンとした。
【0173】
[比較例12の光学素子の作製]
液晶組成物D2を液晶組成物E2として光学異方性層A-4を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例12の光学素子を作製した。
【0174】
(光学異方性層A-4の形成)
下記の組成物の液晶組成物E2を準備した。
<液晶組成物E2>
―――――――――――――――――――――――――――――――――
円盤状液晶化合物L-2 80.00質量部
円盤状液晶化合物L-3 20.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
5.00質量部
カイラル剤Ch-2 3.79質量部
メガファックF444(DIC製) 0.50質量部
メチルエチルケトン 255.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0175】
<光学異方性層A-4の塗布形成>
光学異方性層は、比較例11において、液晶組成物D2を用いるかわりに液晶組成物E2を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。
【0176】
先ず1層目は、配向膜P-1上に下記の液晶組成物E2を塗布した塗膜をホットプレート上で95℃に加熱し、その後、25℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cmの照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の固定化された液晶層(1層の液晶固定化層)の膜厚は0.2μmであった。
【0177】
2層目以降の液晶固定化層は、先に形成された液晶固定化層に液晶組成物E2を重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って形成した。このようにして、総厚が所望の膜厚(ここでは、4.5μm)になるまで重ね塗りを繰り返し光学異方性層A-4を得た。また、周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡およびSEMで確認した。
【0178】
「実施例11」
支持体上に配向膜を形成し、配向膜上に棒状液晶化合物を含む液晶組成物D2の硬化層からなる光学異方性層A-3(以下において、第1の光学異方性層A-3)を形成し、円盤状液晶化合物を含む液相組成物E2の硬化層からなる光学異方性層A-4(以下において、第2の光学異方性層A-4)を形成して実施例11の光学素子を作製した。
すなわち、1層目は棒状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層からなる第1の光学異方性層A-3、2層目は円盤状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層からなる第2の光学異方性層A-4の2層構造とした。
【0179】
実施例11の光学素子は、比較例11と同様にして、支持体上に配向膜を形成し、配向膜上に光学異方性層A-3を形成した後、比較例12において配向膜上に形成した光学異方性層A-4と同様にして、光学異方性層A-3上に光学異方性層A-4を形成した。この際、全体の膜厚が比較例12の光学異方性層の膜厚と同じになるよう、各々の光学異方性層A-3、A-4の膜厚をそれぞれ2.25μmとし、2層合せて4.5μmになるよう塗布量を調整し、それ以外は比較例11および比較例12と同様にして作製した。実施例11の光学素子は、厚み方向において、第1の光学異方性層A-3と第2の光学異方性層A-4の2層で連続的な1つのコレステリック配向が形成されてなる。コレステリック配向は選択反射中心波長が550nmとなるように設計した。また、周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡およびSEMで確認した。
【0180】
[評価]
-回折角の測定-
実施例11および比較例11、12の各光学素子について、光学素子の支持体を通して光学異方層の表面の垂直に光を入射させ、その反射回折光の回折角を測定した。具体的には、550nmに出力の中心波長をもつ右円偏光としたレーザ光を、光学素子の一方の面、すなわち光学異方性層の一方の面に、法線方向に50cmの離れた位置から垂直入射させ、反射回折光のスポットを光学素子の一面から50cmの距離に配置したスクリーンで捉えて、回折角を算出した。
【0181】
-光強度の測定-
光強度の測定方法を、図19を参照して説明する。実施例および比較例の光学素子110Sは、支持体112Sの表面に備えられた配向膜112aS上に1層もしくは2層構造の光学異方性層116Sを備えている。
半導体レーザ30から出射した波長550nmの半導体レーザ光を直線偏光子31、およびλ/4板32を透過させて右円偏光Pの光Lとした。この光Lを光学異方性層116Sの表面に垂直入射させた。この場合、光学異方性層116Sによる回折作用および選択反射作用により、回折角θで反射回折された回折光Lrの光強度を光検出器35で測定した。そして、回折光Lrの光強度と入射光Lの光強度との比をとり、回折光Lrの入射光Lに対する相対光強度値を求めた。
【0182】
上記のようにして求めた相対光強度値について、下記の基準で評価した。
A:比較例11に対する向上率が15%以上
B:比較例11に対する向上率が2%以上、15%未満
C:比較例11に対する向上率が2%未満
【0183】
-回折光以外の波長の透過率の測定-
回折光以外の波長の透過率の測定は実施例1と同様の方法で行った。但し、評価は、比較例1に代えて比較例11を基準とした。
【0184】
表2に実施例11および比較例11~12の光学素子の構成および評価結果を纏めて示す。
【表2】

【0185】
表2に示すように、反射型光学素子についても、棒状液晶化合物を含む第1の光学異方性層と円盤状液晶化合物を含む第2の光学異方性層との積層構造を有する実施例が、円盤状液晶化合物を含む光学異方性層のみまたは棒状液晶化合物を含む光学異方性層のみの比較例に比べて、回折光強度を保ちつつ回折光以外の波長の透過率が高いことが確認できた。
【0186】
2018年5月18日に出願された日本国特許出願2018-096569号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20