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特許7062087セラミックス焼結体及び半導体装置用基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】セラミックス焼結体及び半導体装置用基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/119 20060101AFI20220422BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
C04B35/119
H01L23/12 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020558756
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044942
(87)【国際公開番号】W WO2020115868
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391039896
【氏名又は名称】NGKエレクトロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】梅田 勇治
(72)【発明者】
【氏名】大上 純史
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208766(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217490(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103465(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/114126(WO,A1)
【文献】特開平06-107454(JP,A)
【文献】特開昭56-140072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01L 23/13
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅板又はアルミニウム板が接合されるセラミックス焼結体であって、
Zrの含有量は、ZrO換算で、17.5質量%以上23.5質量%以下であり、
Hfの含有量は、HfO換算で、0.3質量%以上0.5質量%以下であり、
Alの含有量は、Al換算で、74.3質量%以上80.9質量%以下であり、
Yの含有量は、Y換算で、0.8質量%以上1.9質量%以下であり、
Mgの含有量は、MgO換算で、0.1質量%以上0.8質量%以下であり、
Siの含有量は、SiO換算で、0.1質量%以上1.5質量%以下であり、
Caの含有量は、CaO換算で、0.03質量%以上0.35質量%以下であり、
Na及びKの合計含有量は、Naの含有量をNaO換算とし、Kの含有量をKO換算とした場合、0.01質量%以上0.10質量%以下であり、
残部の含有量は、酸化物換算で、0.05質量%以下であり、
MgのMgO換算の含有量、SiのSiO換算の含有量、CaのCaO換算の含有量、NaのNaO換算の含有量、KのKO換算の含有量、及び残部の含有量の和は、0.3質量%以上2.0質量%以下である、
セラミックス焼結体。
【請求項2】
結晶相として、Al結晶相とZrO結晶相とを含み、
前記ZrO結晶相は、結晶構造として、単斜晶相と正方晶相とを含み、
X線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比は、12%以下である、
請求項1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項3】
結晶相として、Al結晶相とZrO結晶相とを含み、
前記ZrO結晶相は、結晶構造として、単斜晶相と正方晶相とを含み、
X線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比は、7%以下である、
請求項1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項4】
結晶相として、MgAl結晶相を含み、
X線回折パターンにおいて、Alのピーク強度に対するMgAlのピーク強度の比は、4%以下である、
請求項1乃至3のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項5】
結晶相として、MgAl結晶相を含み、
X線回折パターンにおいて、Alのピーク強度に対するMgAlのピーク強度の比は、0.5%以上3.5%以下である、
請求項1乃至3のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項6】
ZrOの平均粒径は、0.6μm以上1.5μm以下である、
請求項1乃至5のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項7】
Alの平均粒径は、1.6μm以上2.5μm以下である、
請求項1乃至6のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項8】
ZrのZrO換算の含有量に対するYのY換算の含有量の割合は、4.5%以上7.9%以下である、
請求項1乃至7のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項9】
電子部品を実装するための半導体装置用基板であって、
セラミックス焼結体と、
前記セラミックス焼結体に接合される銅板又はアルミニウム板と、
を備え、
前記セラミックス焼結体において、
Zrの含有量は、ZrO換算で、17.5質量%以上23.5質量%以下であり、
Hfの含有量は、HfO換算で、0.3質量%以上0.5質量%以下であり、
Alの含有量は、Al換算で、74.3質量%以上80.9質量%以下であり、
Yの含有量は、Y換算で、0.8質量%以上1.9質量%以下であり、
Mgの含有量は、MgO換算で、0.1質量%以上0.8質量%以下であり、
Siの含有量は、SiO換算で、0.1質量%以上1.5質量%以下であり、
Caの含有量は、CaO換算で、0.03質量%以上0.35質量%以下であり、
Na及びKの合計含有量は、Naの含有量をNaO換算とし、Kの含有量をKO換算とした場合、0.01質量%以上0.10質量%以下であり、
残部の含有量は、酸化物換算で、0.05質量%以下であり、
MgのMgO換算の含有量、SiのSiO換算の含有量、CaのCaO換算の含有量、NaのNaO換算の含有量、KのKO換算の含有量、及び残部の含有量の和は、0.3質量%以上2.0質量%以下である、
半導体装置用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体及び半導体装置用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタモジュールなどに用いる半導体装置用基板として、セラミックス焼結体の表面に銅板を備えたDBOC基板(Direct Bonding of Copper Substrate)や、セラミックス焼結体の表面にアルミニウム板を備えたDBOA基板(Direct Bonding of Aluminum Substrate)が知られている。
【0003】
特許文献1には、アルミナと部分安定化ジルコニアとマグネシアとを含むセラミックス焼結体が開示されている。特許文献1に記載のセラミックス焼結体において、部分安定化ジルコニアの含有量は1~30wt%であり、マグネシアの含有量は0.05~0.50wt%であり、部分安定化ジルコニアにおけるイットリアのモル分率は0.015~0.035であり、セラミックス焼結体に含まれるジルコニア結晶のうち80~100%が正方晶相である。特許文献1に記載のセラミックス焼結体によれば、機械的強度を向上させてセラミックス焼結体と銅板又はアルミニウム板との接合界面にクラック及びボイド(部分的な剥離又は浮き上がり)が生じることを抑制できるとされている。
【0004】
特許文献2には、アルミナとジルコニアとイットリアとを含むセラミックス焼結体が開示されている。特許文献2に記載のセラミックス焼結体において、ジルコニアの含有量は2~15重量%であり、アルミナの平均粒径は2~8μmである。特許文献2に記載のセラミックス焼結体によれば、熱伝導率を向上させることができるとされている。
【0005】
特許文献3には、アルミナ、安定化成分、ハフニア及びジルコニアを含むセラミック基板が開示されている。特許文献3に記載のセラミックス基板において、ハフニア及びジルコニアのアルミナに対する重量比は7~11重量比であり、アルミナの平均粒径は1.0~1.5μmであり、ジルコニアの平均粒径は0.3~0.5μmである。特許文献3に記載のセラミックス焼結体によれば、熱伝導率を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許4717960号公報
【文献】特表2015-534280号公報
【文献】国際公開第2016-208766号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のセラミックス焼結体では、Zr、Mg、Si及び残部それぞれの含有量が最適化されていないため、接合界面に生じるクラック及びボイドを抑制するにも余地が残されている。
【0008】
特許文献2に記載のセラミックス焼結体はMgを含有しておらず、特許文献3に記載のセラミック基板はNa又はKを含有していないため、機械的強度の向上に限界がある。また、特許文献2に記載のセラミック焼結体及び特許文献3に記載のセラミック基板では、MgAl(スピネル)結晶が生成されないため、銅板又はアルミニウム板をセラミックス焼結体に接合する際に接合界面に生成されるCu-O共晶液相との濡れ性が低下してボイドが発生しやすいという問題がある。
【0009】
本発明は、クラック及びボイドを抑制可能なセラミックス焼結体及び半導体装置用基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るセラミックス焼結体には、銅板又はアルミニウム板が接合される。本発明に係るセラミックス焼結体において、Zrの含有量は、ZrO換算で、17.5質量%以上23.5質量%以下であり、Hfの含有量は、HfO換算で、0.3質量%以上0.5質量%以下であり、Alの含有量は、Al換算で、74.3質量%以上80.9質量%以下であり、Yの含有量は、Y換算で、0.8質量%以上1.9質量%以下であり、Mgの含有量は、MgO換算で、0.1質量%以上0.8質量%以下であり、Siの含有量は、SiO換算で、0.1質量%以上1.5質量%以下であり、Caの含有量は、CaO換算で、0.03質量%以上0.35質量%以下であり、Na及びKの合計含有量は、Naの含有量をNaO換算とし、Kの含有量をKO換算とした場合、0.01質量%以上0.10質量%以下であり、残部の含有量は、酸化物換算で、0.05質量%以下であり、MgのMgO換算の含有量、SiのSiO換算の含有量、CaのCaO換算の含有量、NaのNaO換算の含有量、KのKO換算の含有量、及び残部の含有量の和は、0.3質量%以上2.0質量%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クラック及びボイドを抑制可能なセラミックス焼結体及び半導体装置用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
図2】実施形態に係る半導体装置用基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3】実施例に係る半導体装置用基板サンプルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るセラミックス焼結体及びそれを用いた半導体装置用基板の構成について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(半導体装置1の構成)
図1は、実施形態に係る半導体装置1の断面図である。半導体装置1は、自動車、空調機、産業用ロボット、業務用エレベータ、家庭用電子レンジ、IH電気炊飯器、発電(風力発電、太陽光発電、燃料電池など)、電鉄、UPS(無停電電源)などの様々な電子機器においてパワーモジュールとして用いられる。
【0015】
半導体装置1は、半導体装置用基板2、第1接合材5、第2接合材5’、半導体チップ6、ボンディングワイヤ7及びヒートシンク8を備える。
【0016】
半導体装置用基板2は、いわゆるDBOC基板(Direct Bonding of Copper Substrate)である。半導体装置用基板2は、セラミックス焼結体3、第1銅板4及び第2銅板4’を備える。
【0017】
セラミックス焼結体3は、半導体装置用基板2用の絶縁体である。セラミックス焼結体3は、平板状に形成される。セラミックス焼結体3は、半導体装置用基板2の基板である。セラミックス焼結体3の構成については後述する。
【0018】
第1銅板4は、セラミックス焼結体3の表面に接合される。第1銅板4には、電送回路が形成されている。第2銅板4’は、セラミックス焼結体3の裏面に接合される。第2銅板4’は、平板状に形成される。
【0019】
なお、半導体装置用基板2は、第1及び第2銅板4,4’に代えて、第1及び第2アルミニウム板を用いた、いわゆるDBOA基板(Direct Bonding of Aluminum Substrate)であってもよい。銅板よりも柔らかいアルミニウム板が用いられるDBOA基板では、内部に発生する熱応力を更に緩和させることができる。
【0020】
半導体装置用基板2の作製方法は特に制限されないが、例えば次のように作製することができる。まず、セラミックス焼結体3の表裏面に第1及び第2銅板4,4’を配置した積層体を形成する。次に、積層体を1070℃~1075℃の窒素雰囲気条件下で10分程度加熱する。これによって、セラミックス焼結体3と第1及び第2銅板4,4’とが接合する界面(以下、「接合界面」と総称する。)にCu-O共晶液相が生成され、セラミックス焼結体3の表裏面が濡れる。次に、積層体を冷却することによってCu-O共晶液相が固化されて、セラミックス焼結体3に第1及び第2銅板4,4’が接合される。
【0021】
なお、半導体装置用基板2では、電送回路が形成された第1銅板4がセラミックス焼結体3の表面に接合されているが、電送回路は、サブトラクティブ法又はアディティブ法によって形成されてもよい。
【0022】
第1接合材5は、第1銅板4と半導体チップ6との間に配置される。半導体チップ6は、第1接合材5を介して第1銅板4に接合される。ボンディングワイヤ7は、半導体チップ6と第1銅板4とを接続する。
【0023】
第2接合材5’は、第2銅板4’とヒートシンク8との間に配置される。ヒートシンク8は、第2接合材5’を介して第2銅板4’に接合される。ヒートシンク8は、例えば銅などによって構成することができる。
【0024】
(セラミックス焼結体3の構成)
セラミックス焼結体3は、Zr(ジルコニウム)と、Hf(ハフニウム)と、Al(アルミニウム)と、Y(イットリウム)と、Mg(マグネシウム)と、Si(ケイ素)と、Ca(カルシウム)と、Na(ナトリウム)及びK(カリウム)の少なくとも一方と、これら以外の残部とを含む。
【0025】
セラミックス焼結体3の構成元素の含有量は、以下の通りである。
【0026】
・Zr:ZrO換算で、17.5質量%以上23.5質量%以下
・Hf:HfO換算で、0.3質量%以上0.5質量%以下
・Al:Al換算で、74.3質量%以上80.9質量%以下
・Y:Y換算で、0.8質量%以上1.9質量%以下
・Mg:MgO換算で、0.1質量%以上0.8質量%以下
・Si:SiO換算で、0.1質量%以上1.5質量%以下
・Ca:CaO換算で、0.03質量%以上0.35質量%以下
・Na及びK:Naの含有量をNaO換算とし、Kの含有量をKO換算とした場合の合計含有量が、0.01質量%以上0.10質量%以下
・残部:酸化物換算で、0.05質量%以下
・添加物:MgのMgO換算の含有量、SiのSiO換算の含有量、CaのCaO換算の含有量、NaのNaO換算の含有量、KのKO換算の含有量、及び残部の含有量の和は、0.3質量%以上2.0質量%以下
【0027】
このようにセラミックス焼結体3の構成元素の種類及び含有量を至適化することによって、銅板接合時のCu-O共晶液相との濡れ性を高めることができるため、銅板接合時において、接合界面にボイド(部分的な剥離又は浮き上がり)が生じることを抑制できるとともに、セラミックス焼結体3の機械的強度を高めることができるため、セラミックス焼結体3に熱サイクルがかかったとしても、接合界面にクラックが生じることを抑制することができるものと考えられる。含有量も含めた、それぞれの構成元素の組み合わせによりかかる効果が生まれているものと考えられ、その具体的な作用は定かではないが、個々の構成元素の主な作用及び効果は以下のように考えられる。
【0028】
Zrの含有量をZrO換算で17.5質量%以上とすることによって、セラミックス焼結体3の線熱膨張係数が過小になることを抑制でき、セラミックス焼結体3と第1及び第2銅板4,4’との線熱膨張係数差を小さくできると考えられる。その結果、接合界面に生じる熱応力を小さくでき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0029】
Zrの含有量をZrO換算で23.5質量%以下とすることによって、銅板接合時の接合界面における反応が過剰になることを抑制でき、接合界面にボイドが生じることを抑制できると考えられる。これは、AlとZrOの銅板接合時のCu-O共晶液相との濡れ性が違うためである。
【0030】
Hfの含有量をHfO換算で0.3質量%以上とすることによって、セラミックス焼結体3の耐熱性が上がって、内部に気孔が形成されることを抑制でき、セラミックス焼結体3の機械的強度の低下の抑制に寄与するものと考えられる。
【0031】
Hfの含有量をHfO換算で0.5質量%以下とすることによって、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミックス焼結体3を焼結させられ、Al粒子及びZrO粒子の粒径が大きくなること(すなわち、粗大化)を抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0032】
Yの含有量をY換算で0.8質量%以上とすることによって、後述するZrO結晶相のうち単斜晶相のピーク強度比が過大になることを抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0033】
Yの含有量をY換算で1.9質量%以下とすることによって、単斜晶相のピーク強度比が過小になることを抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0034】
Mgの含有量をMgO換算で0.1質量%以上とすることによって、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミックス焼結体3を焼結させられ、Al粒子及びZrO粒子の粗大化を抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。また、セラミックス焼結体3中に十分な量のMgAl結晶(以下、「スピネル結晶」という。)を生成でき、銅板接合時におけるCu-O共晶液相との濡れ性を向上させることができると考えられる。その結果、接合界面にボイドが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0035】
Mgの含有量をMgO換算で0.8質量%以下とすることによって、機械的強度が低いスピネル結晶が過剰に形成されることを抑制でき、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上できると考えられる。その結果、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0036】
Siの含有量をSiO換算で0.1質量%以上とすることによって、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミックス焼結体3を焼結させられ、Al粒子及びZrO粒子の粗大化を抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0037】
Siの含有量をSiO換算で1.5質量%以下とすることによって、セラミックス焼結体3中にスピネル結晶相が生成されやすくなり、銅板接合時におけるCu-O共晶液相との濡れ性を向上させることができると考えられる。その結果、接合界面にボイドが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0038】
Caの含有量をCaO換算で0.03質量%以上0.35質量%以下とすることによって、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミックス焼結体3を焼結させられ、Al粒子及びZrO粒子の粗大化を抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0039】
Naの含有量をNaO換算とし、Kの含有量をKO換算とした場合の合計含有量を0.01質量%以上とすることによって、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミックス焼結体3を焼結させられ、Al粒子及びZrO粒子の粗大化を抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0040】
Naの含有量をNaO換算とし、Kの含有量をKO換算とした場合の合計含有量を0.10質量%以下とすることによって、焼成温度を過剰に高くしていないにも関わらずセラミックス焼結体3が過剰に焼結してしまうことを抑制でき、セラミックス焼結体3の気孔率を小さくできると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0041】
残部の含有量を酸化物換算で0.05質量%以下とすることによって、焼成温度を過剰に高くしていないにも関わらずセラミックス焼結体3が過剰に焼結してしまうことを抑制でき、セラミックス焼結体3の気孔率を小さくできると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0042】
MgのMgO換算の含有量、SiのSiO換算の含有量、CaのCaO換算の含有量、NaのNaO換算の含有量、KのKO換算の含有量、及び残部の含有量の和を0.3質量%以上2.0質量%以下とすることによって、後述するM相率を好適な範囲に入れることができ、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上できると考えられる。その結果、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0043】
本実施形態において、セラミックス焼結体3の構成元素の含有量は、上記のとおり酸化物換算にて算出されるが、セラミックス焼結体3の構成元素は、酸化物の形態で存在していてもよいし、酸化物の形態で存在していなくてもよい。例えば、Y、Mg及びCaのうち少なくとも1種は、酸化物の形態で存在せず、ZrO中に固溶していてもよい。
【0044】
セラミックス焼結体3の構成元素の酸化物換算での含有量は、以下のように算出される。まず、蛍光X線分析装置(XRF)、又は、走査型電子顕微鏡(SEM)に付設のエネルギー分散型分析器(EDS)を用いて、セラミックス焼結体3の構成元素を定性分析する。次に、この定性分析により検出された各元素につき、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析を行う。次に、この定量分析により測定された各元素の含有量を酸化物に換算する。
【0045】
なお、残部に含まれる元素は、意図的に添加する元素であってもよいし、不可避的に混入する元素でもよい。残部に含まれる元素は特に制限されないが、例えば、Fe(鉄)、Ti(チタン)、Mn(マンガン)などが挙げられる。
【0046】
ZrのZrO換算の含有量に対するYのY換算の含有量の割合は、4.5%以上7.9%以下であることが好ましい。これにより、ZrOの安定性を適度な状態に保つことができ、セラミックス焼結体3の機械的強度の低下の抑制に寄与するものと考えられる。
【0047】
セラミックス焼結体3は、結晶相として、Al結晶相とZrO結晶相とを含むことができる。ZrO結晶相は、結晶構造として、単斜晶相(monoclinic相)と正方晶相(tetragonal相)とを含んでいてもよい。この場合、X線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比(以下、「M相率」という。)は、12%以下であることが好ましい。これにより、Al粒子及びZrO粒子の粗大化を抑制できる。また、セラミックス焼結体3が加熱された際に単斜晶相から正方晶相への相転移が抑制されるため、セラミックス焼結体3の体積収縮を抑制できる。これらの結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上させることができるため、セラミックス焼結体3に熱サイクルがかかったとしても、接合界面にクラックが生じることを抑制することができる。
【0048】
M相率は、7%以下であることがより好ましい。これにより、セラミックス焼結体3の機械的強度をより向上させることができるため、接合界面にクラックが生じることをより抑制できる。
【0049】
M相率は、セラミックス焼結体3の外表面をX線回折装置(XRD:リガク社製、MiniFlexII)で解析して得られるX線回折パターンを用いて、以下の式(1)から求めることができる。式(1)において、M1は単斜晶(111)面のピーク強度であり、M2は単斜晶(11-1)面のピーク強度であり、T1は正方晶(111)面のピーク強度であり、T2は立方晶(111)面のピーク強度である。
【0050】
単斜晶相の比=100×(M1+M2)/(T1+T2+M1+M2) ・・・(1)
【0051】
セラミックス焼結体3は、結晶相として、スピネル結晶相を含んでいてもよい。この場合、X線回折パターンにおいて、Alのピーク強度に対するMgAlのピーク強度の比(以下、「スピネル相率」という。)は、4%以下であることが好ましい。これにより、銅板接合時の接合界面における反応が過剰になることを抑制できるため、接合界面にボイドが生じることを抑制できる。なお、スピネル相率は0%であってもよい。
【0052】
スピネル相率は、0.5%以上3.5%以下であることがより好ましい。これにより、銅板接合時におけるセラミックス焼結体3とCu-O共晶液相との濡れ性を向上させることができるとともに、銅板接合時の接合界面における反応が過剰になることをより抑制できるため、接合界面にボイドが生じることを更に抑制できる。
【0053】
スピネル相率は、セラミックス焼結体3の表面をXRDで解析して得られるX線回折パターンを用いて、以下の式(2)から求めることができる。式(2)において、A1はスピネル相(311)面のピーク強度であり、B1はアルミナ相(104)面のピーク強度である。
【0054】
MgAlの比(%)=100×A1/(A1+B1) ・・・(2)
【0055】
ZrOの平均粒径は特に制限されないが、0.6μm以上1.5μm以下であることが好ましい。これにより、結晶変態の界面エネルギーの低下によるM相率の増化とそれに伴う機械的強度の低下とを抑制できるとともに、内部に気孔が形成されることを抑制できるため、セラミックス焼結体3の機械的強度の低下を抑制できる。
【0056】
Alの平均粒径は特に制限されないが、1.6μm以上2.5μm以下であることが好ましい。Alの平均粒径を1.6μm以上とすることによって、内部に気孔が形成されることを抑制でき、Alの平均粒径を2.5μm以下とすることによって、破壊強度の抵抗となる結晶粒界の減少を抑制できるため、セラミックス焼結体3の機械的強度の低下を抑制できる。
【0057】
ZrO及びAlそれぞれの平均粒径は、以下のように算出される。まず、セラミックス焼結体3の外表面を走査型電子顕微鏡で撮像した場合に、撮像画像全体に500~1000個程度の結晶粒子が写るように倍率を調整する。次に、画像処理ソフトを用いて、撮像画像から無作為に選出した100個の結晶粒子の平均円相当径を平均粒径として算出する。平均円相当径とは円相当径の平均値であり、円相当径とは粒子と同じ面積を有する円の直径である。
【0058】
(セラミックス焼結体3の製造方法)
図2を参照しながらセラミックス焼結体3の製造方法について説明する。図2は、セラミックス焼結体3の製造方法を示すフローチャートである。
【0059】
ステップS1において、以下の粉体材料を調合する。
【0060】
・17.5質量%以上23.5質量%以下のZrO
・0.3質量%以上0.5質量%以下のHfO
・74.3質量%以上80.9質量%以下のAl
・0.8質量%以上1.9質量%以下のY
・0.1質量%以上0.8質量%以下のMgO
・0.1質量%以上1.5質量%以下のSiO
・0.03質量%以上0.35質量%以下のCaO
・合計で0.01質量%以上0.10質量%以下のNaO及びK
・0.05質量%以下の残部
・MgのMgO換算の含有量、SiのSiO換算の含有量、CaのCaO換算の含有量、NaのNaO換算の含有量、KのKO換算の含有量、及び残部の含有量の和は、0.3質量%以上2.0質量%以下
【0061】
なお、ZrO、HfO、Yのそれぞれは単独の粉体材料でもいいが、予めYで部分安定化されたZrO-HfO粉体でもいい。また、Mg、Ca、及びアルカリ金属(Na及びK)は、酸化物粉体であってもよく、炭酸塩粉体であってもよい。また、残部にFe及びMnが含まれる場合、これらは、酸化物粉体であってもよく、炭酸塩粉体であってもよい。
【0062】
ステップS2において、調合した粉体材料を、例えばボールミルなどにより粉砕混合する。
【0063】
ステップS3において、粉砕混合した粉体材料に、有機質バインダー(例えば、ポリビニルブチラール)、溶剤(キシレン、トルエンなど)及び可塑剤(フタル酸ジオクチル)を添加してスラリー状物質を形成する。
【0064】
ステップS4において、所望の成形手段(例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、射出成形、ドクターブレード法、押し出し成型法など)によって、スラリー状物質を所望の形状に成形してセラミックス成形体を作製する。
【0065】
ステップS5において、セラミックス成形体を、酸素雰囲気又は大気雰囲気で焼成(1580℃~1620℃、0.7時間~1.0時間)する。
【実施例
【0066】
図3に示すように、実施例1~19及び比較例1~17に係る半導体装置用基板サンプル10を作製して、銅板を接合したときに接合界面に生じるボイドと、熱サイクルをかけたときに接合界面に生じるクラックとを観察した。
【0067】
(半導体装置用基板サンプル10の作製)
まず、表1に示す組成物を調合した粉体材料を、ボールミルで粉砕混合した。
【0068】
次に、粉砕混合した粉体材料に、有機質バインダーとしてのポリビニルブチラールと、溶剤としてのキシレンと、可塑剤としてのフタル酸ジオクチルとを添加してスラリー状物質を形成した。
【0069】
次に、ドクターブレード法によって、スラリー状物質をシート状に成形してセラミックス成形体を作製した。
【0070】
次に、セラミックス成形体を、大気雰囲気において表1に示す焼成温度で0.8時間焼成してセラミックス焼結体3を作製した。セラミックス焼結体3のサイズは、厚み0.32mm、縦39mm、横45mmであった。
【0071】
次に、JIS C1020に準拠した無酸素銅からなる第1及び第2銅板4,4’(それぞれ、0.40mm厚み)を大気中で300℃に加熱することによって、第1及び第2銅板4,4’それぞれの外表面を酸化させた。
【0072】
次に、セラミックス焼結体3を第1及び第2銅板4,4’で挟んだ積層体を、Mo(モリブデン)からなるメッシュ材11上に載置し、窒素(N)雰囲気中において1070℃で10分加熱した。
【0073】
次に、積層体を冷却することによって、セラミックス焼結体3に第1及び第2銅板4,4’を接合するとともに、第2銅板4’にメッシュ材11を接合した。
【0074】
(M相率)
実施例1~19及び比較例1~17に係るセラミックス焼結体3の外表面をXRD(リガク社製、MiniFlexII)で解析して得たX線回折パターンを用いて、上記式(1)から、M相率を算出した。算出したM相率を表1にまとめて示す。
【0075】
(スピネル相率)
実施例1~19及び比較例1~17に係るセラミックス焼結体3の外表面をXRD(リガク社製、MiniFlexII)で解析して得たX線回折パターンを用いて、上記式(2)からスピネル相率を算出した。算出したスピネル相率を表1にまとめて示す。
【0076】
(抗折強度)
実施例1~19及び比較例1~17に係るセラミックス焼結体3の抗折強度(機械的強度)を、試料サイズ(15×45×厚み0.32mm)、スパン30mmの3点曲げ強度試験を行った。
【0077】
表1では、実施例1~19及び比較例1~17について、10ピースずつの測定値の算術平均値が抗折強度(MPa)として記載されている。
【0078】
(ボイド発生率)
実施例1~19及び比較例1~17に係る半導体装置用基板サンプル10を水中に浸漬し、セラミックス焼結体3と第1及び第2銅板4,4’との接合界面を超音波顕微鏡で観察して、直径2.0mm以上のボイドの有無を確認した。
【0079】
表1では、実施例1~19及び比較例1~17について、100ピースのうちボイドが観察されたものの割合がボイド発生率(%)として記載されている。表1では、ボイド発生率(%)が0.2未満のサンプルが「◎」と評価され、0.2以上0.3未満のサンプルが「○」と評価され、0.3以上0.5未満のサンプルが「△」と評価され、0.5以上のサンプルが「×」と評価されている。
【0080】
(クラック発生率)
実施例1~19及び比較例1~17に係る半導体装置用基板サンプル10について、セラミックス焼結体3にクラックが発生するまで、「-40℃×30分→25℃×5分→125℃×30分→25℃×5分」のサイクルを繰り返した。
【0081】
表1では、実施例1~19及び比較例1~17について、10ピースのいずれかにクラックが発生したサイクル数がクラック発生サイクル数として記載されている。表1では、クラック発生サイクル数(回)が101以上のサンプルが「◎」と評価され、51以上100以下のサンプルが「○」と評価され、31以上50以下のサンプルが「△」と評価され、30以下のサンプルが「×」と評価されている。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、セラミックス焼結体3における構成元素の含有量を以下の通り至適化した実施例1~19では、接合界面におけるボイドを抑制できるとともに、接合界面にクラックが生じることを抑制することができた。
【0084】
・Zr:ZrO換算で、17.5質量%以上23.5質量%以下
・Hf:HfO換算で、0.3質量%以上0.5質量%以下
・Al:Al換算で、74.3質量%以上80.9質量%以下
・Y:Y換算で、0.8質量%以上1.9質量%以下
・Mg:MgO換算で、0.1質量%以上0.8質量%以下
・Si:SiO換算で、0.1質量%以上1.5質量%以下
・Ca:CaO換算で、0.03質量%以上0.35質量%以下
・Na及びK:Naの含有量をNaO換算とし、Kの含有量をKO換算とした場合の合計含有量が、0.01質量%以上0.10質量%以下
・残部:酸化物換算で、0.05質量%以下
・添加物:MgのMgO換算の含有量、SiのSiO換算の含有量、CaのCaO換算の含有量、NaのNaO換算の含有量、KのKO換算の含有量、及び残部の含有量の和は、0.3質量%以上2.0質量%以下
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、セラミックス焼結体におけるクラック及びボイドを抑制することができるため、本発明に係るセラミックス焼結体及び半導体装置用基板は、種々の電子機器において利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1…半導体装置
2…半導体装置用基板
3…セラミックス焼結体
4,4’…銅板
5,5’…接合材
6…半導体チップ
7…ボンディングワイヤ
8…ヒートシンク
10…半導体装置用基板サンプル
11…メッシュ材
図1
図2
図3