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特許7063327FRP前駆体の製造方法及びFRPの製造方法
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  • 特許-FRP前駆体の製造方法及びFRPの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】FRP前駆体の製造方法及びFRPの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/12 20060101AFI20220426BHJP
   B29C 70/22 20060101ALI20220426BHJP
   B29C 70/28 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
B29B15/12
B29C70/22
B29C70/28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019509998
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012843
(87)【国際公開番号】W WO2018181513
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2017063975
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】彈正原 和俊
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 猛
(72)【発明者】
【氏名】橋本 慎太郎
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/182077(WO,A1)
【文献】特開2016-138205(JP,A)
【文献】国際公開第2016/178399(WO,A1)
【文献】特開2013-209626(JP,A)
【文献】国際公開第2016/178400(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の骨材の一方の表面に熱硬化性樹脂フィルムを大気圧下で貼付することによるFRP前駆体の製造方法であって、
熱硬化性樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+10℃~+35℃の範囲の温度を有する加圧ロールによって、前記フィルムと前記骨材とを加熱圧接する工程を含前記加圧ロールのロール線圧が0.4~1.0MPaであり、前記骨材が織布である、FRP前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記加圧ロールが、熱硬化性樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+20℃~+35℃の範囲の温度を有する、請求項1に記載のFRP前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記骨材がガラス織布である、請求項1又は2に記載のFRP前駆体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法により得られるFRP前駆体を硬化する工程を有する、FRPの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP前駆体の製造方法及びFRPの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP(Fiber Reinforced Plastics;繊維強化プラスチック)は、ファイバー等の弾性率の高い材料を骨材とし、その骨材を、プラスチックのような母材(マトリックス)の中に入れて強度を向上させた複合材料であり、耐候性、耐熱性、耐薬品性及び軽量性を生かし、安価かつ軽量で高耐久性を有する複合材料である。
これらの性能を生かして、FRPは幅広い分野で使用されている。例えば、該FRPは、造型性及び高強度を有することから、住宅機器、船舶、車両及び航空機等の構造材、並びに絶縁性を生かして電子機器等の幅広い分野で使用されている。電子機器に利用されているFRPとしてはプリプレグが挙げられる。硬化前のプリプレグ等のFRPは、特にFRP前駆体と称されることもある。
【0003】
FRPの製造方法としては、(1)骨材を敷き詰めた合わせ型に樹脂を注入する、RTM(Resin Transfer Molding、樹脂トランスファー成形)法、(2)骨材を敷き、樹脂を脱泡しながら多重積層する、ハンドレイアップ法及びスプレーアップ法及び(3)あらかじめ骨材と樹脂とを混合したシート状のものを金型で圧縮成型する、SMC(Sheet Molding Compound)プレス法等が挙げられる。
【0004】
FRPをプリント配線板に用いる場合、プリント配線板用のFRPの厚みは、他の用途のFRPの厚みと比較して薄くすることが要求される。また、プリント配線板用のFRPには、FRPを成型した後の厚みのばらつきの許容範囲が狭いこと、及びボイドが無いこと等、高いスペックが要求される。
そのため、プリント配線板用のFRPの多くが、ハンドレイアップ(Hand Lay-up;HLU)法で製造されている。ハンドレイアップ法は、塗工機を用いて、骨材に、樹脂を溶解したワニスを塗布し、乾燥させて溶剤除去及び熱硬化を行う製造方法である(特許文献1参照)。該ハンドレイアップ法は、予め、骨材に熱硬化性樹脂を塗布しておくと、作業性が向上し、また、周辺の環境にかかる負荷を低減させることができる。
【0005】
しかし、骨材として、カレンダー処理の無いアラミド不織布、薄いガラスペーパー又は薄い織布等を用いる場合、これらは骨材としての強度が低いため、ワニスを塗布し、溶剤除去、乾燥及び熱硬化を行う際に、自重が骨材の耐荷重を上回って切れてしまったり、塗布する樹脂量を調整するためにコーターのギャップを狭くした際に千切れてしまったりするなど、作業性が悪い。
【0006】
また、プリント配線板用のFRPでは、積層後の厚みの高精度性と、内層回路パターンへの樹脂の充填性(成型性)とを両立させる必要がある。このため、骨材に付着させた樹脂量が数質量%異なるもの、熱硬化性樹脂の硬化時間を変えたもの、及びそれらを組合せたものなど、1種類の骨材で複数種類のFRP前駆体を製造しなければならず、製造条件は煩雑である。さらに、各々塗工条件を変えて製造するために、製造に用いる材料のロスも大きい。
【0007】
そのため、骨材に熱硬化性樹脂を直接塗布するのではなく、予め熱硬化性樹脂をフィルム状にした樹脂フィルムを作製しておき、減圧条件下で骨材と該樹脂フィルムとを接合した後に加熱処理する工程を有するFRP前駆体の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平01-272416号公報
【文献】特開2011-132535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2に記載の方法では、骨材と樹脂フィルムとの接合を減圧条件下で行うと、トラブル発生時の対応が容易ではなく、且つ骨材の端部からの樹脂噴出しに対応する必要があり、また、減圧条件下ではそもそも作業性等の効率が良くない。
そこで、上記問題を回避するために、骨材と樹脂フィルムとの接合を大気圧下で行う方法が考えられるが、本発明者らの検討によると、ただ単に大気圧下で実施した場合、骨材への樹脂の充填性が悪く、ボイドが発生する場合があることが判明した。
そこで、本発明の課題は、作業性が良好であり、且つ骨材の端部からの樹脂噴出しを抑制できる、骨材へ樹脂フィルムを大気圧下で貼付する方法において、骨材の嵩空隙への樹脂充填性に優れるFRP前駆体の製造方法、及びFRPの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、骨材へ樹脂フィルムを大気圧下で貼付した後、特定条件にてそれらをロールで圧接することにより上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、係る知見に基づいて完成したものである。
【0011】
本発明は下記[1]~[7]に関する。
[1]シート状の骨材の一方の表面に熱硬化性樹脂フィルムを大気圧下で貼付することによるFRP前駆体の製造方法であって、
熱硬化性樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+5℃~+35℃の範囲の温度を有する加圧ロールによって、前記フィルムと前記骨材とを加熱圧接する工程を含む、FRP前駆体の製造方法。
[2]前記加圧ロールのロール線圧が0.2~1.0MPaである、上記[1]に記載のFRP前駆体の製造方法。
[3]前記加圧ロールのロール線圧が0.4~1.0MPaである、上記[1]又は[2]に記載のFRP前駆体の製造方法。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法により得られるFRP前駆体を硬化する工程を有する、FRPの製造方法。
[5]シート状の骨材の一方の表面に熱硬化性樹脂フィルムを大気圧下で貼付することによるFRP前駆体の製造方法であって、
加圧ロールによってロール線圧0.4~1.0MPaで前記フィルムと前記骨材とを加熱圧接する工程を含む、FRP前駆体の製造方法。
[6]前記加圧ロールが有する温度が、前記熱硬化性樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+5℃未満の温度である、上記[5]に記載のFRP前駆体の製造方法。
[7]上記[5]又は[6]に記載の製造方法により得られるFRP前駆体を硬化する工程を有する、FRPの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作業性が良好であり、且つ骨材の端部からの樹脂噴出しを抑制でき、さらに、骨材の嵩空隙への樹脂充填性に優れるFRP前駆体の製造方法、及びFRPの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るFRP前駆体の製造方法の一態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[FRP前駆体の製造方法]
本発明の一態様は、シート状の骨材の一方の表面に熱硬化性樹脂フィルム(以下、樹脂フィルムと称することがある。)を大気圧下で貼付することによるFRP前駆体の製造方法であって、
熱硬化性樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+5℃~+35℃の範囲の温度を有する加圧ロールによって、前記フィルムと前記骨材とを加熱圧接する工程を含む、FRP前駆体の製造方法である。
また、本発明の別の一態様は、シート状の骨材の一方の表面に熱硬化性樹脂フィルムを大気圧下で貼付することによるFRP前駆体の製造方法であって、
加圧ロールによってロール線圧0.4~1.0MPaで前記フィルムと前記骨材とを加熱圧接する工程を含む、FRP前駆体の製造方法である。
【0015】
以下、図1を参照して、本発明に係るFRP前駆体の製造方法及び該製造方法に使用し得るFRP前駆体の製造装置1の実施形態について説明する。なお、FRP前駆体の製造装置1は、一対の樹脂フィルム(熱硬化性樹脂フィルム)54を、それぞれ、シート状の骨材40の両面に貼付する装置として説明するが、1つの樹脂フィルム54をシート状の骨材40の一方の表面にのみ貼付する装置としてもよい。この場合、図1において、骨材40より下側(又は上側)にある、一方の樹脂フィルム送出装置3、保護フィルム剥がし機構4、及び、保護フィルム巻取装置5は不要である。
FRP前駆体の製造装置1は、大気圧下におかれる。本発明に係るFRP前駆体の製造方法は、FRP前駆体の製造装置1を使用して行うことができる。ここで、本明細書中、「大気圧下」は「常圧下」と同義である。大気圧下でFRP前駆体を製造する場合、例えば真空ラミネーター等を採用した場合に生じ易い作業性の問題を避けられる。
【0016】
FRP前駆体の製造装置1は、骨材送出装置2と、一対の樹脂フィルム送出装置3及び3と、シート加熱圧接装置6と、FRP前駆体巻取装置8と、を備える。FRP前駆体の製造装置1は、さらに、シート加圧冷却装置7と、一対の保護フィルム剥がし機構4及び4と、一対の保護フィルム巻取装置5及び5と、を備えることが好ましい。
【0017】
骨材送出装置2は、シート状の骨材40が巻かれたロールを巻き方向とは反対方向に回転させて、ロールに巻かれた骨材40を送り出す装置である。図1において、骨材送出装置2は、骨材40をロールの下側からシート加熱圧接装置6に向けて送り出している。
【0018】
一対の樹脂フィルム送出装置3及び3は、保護フィルム付き樹脂フィルム50が巻かれたロールと、送り出される保護フィルム付き樹脂フィルム50に所定の張力を付与させながらロールを回転可能に支持する支持機構とを有し、保護フィルム付き樹脂フィルム50が巻かれたロールを巻き方向とは反対方向に回転させて、ロールに巻かれた保護フィルム付き樹脂フィルム50を送り出す装置である。保護フィルム付き樹脂フィルム50は、樹脂フィルム54と、樹脂フィルム54の片方の骨材側フィルム表面(樹脂フィルム54の両表面のうち、骨材40側の表面)54aに積層された保護フィルム52とを含むシート状のフィルムである。
【0019】
一対の樹脂フィルム送出装置3及び3は、それぞれ、送り出された骨材40の表面40a側及び裏面40b側に位置する。
一方の樹脂フィルム送出装置3は、送り出された骨材40の表面40a側に位置し、保護フィルム52が、送り出された骨材40側になるように、一方の保護フィルム付き樹脂フィルム50をロールの下側から一方の保護フィルム剥がし機構4に向けて送り出す装置である。
同様に、他方の樹脂フィルム送出装置3は、送り出された骨材40の裏面40b側に位置し、保護フィルム52が、送り出された骨材40側になるように、他方の保護フィルム付き樹脂フィルム50をロールの上側から他方の保護フィルム剥がし機構4に向けて送り出す装置である。
【0020】
一対の保護フィルム剥がし機構4及び4は、それぞれ、送り出された骨材40の表面40a側及び裏面40b側に位置する転向ロールである。
一方の保護フィルム剥がし機構4は、一方の樹脂フィルム送出装置3から送り出され、一方の保護フィルム剥がし機構4に向けて進む保護フィルム付き樹脂フィルム50を、回転する転向ロールの表面で受け、一方の保護フィルム付き樹脂フィルム50のうち一方の樹脂フィルム54をシート加熱圧接装置6に向けて進ませると共に、一方の保護フィルム52を一方の保護フィルム巻取装置5に向けて進ませることにより、一方の保護フィルム付き樹脂フィルム50から一方の保護フィルム52を剥がす機構である。これにより、一方の樹脂フィルム54の骨材側フィルム表面54aが露出する。
同様に他方の保護フィルム剥がし機構4は、他方の樹脂フィルム送出装置3から送り出され、他方の保護フィルム剥がし機構4に向けて進む他方の保護フィルム付き樹脂フィルム50を、回転する転向ロールの表面で受け、他方の保護フィルム付き樹脂フィルム50のうち他方の樹脂フィルム54をシート加熱圧接装置6に向けて進ませると共に、他方の保護フィルム52を他方の保護フィルム巻取装置5に向けて進ませることにより、他方の保護フィルム付き樹脂フィルム50から他方の保護フィルム52を剥がす機構である。これにより、他方の樹脂フィルム54の骨材側フィルム表面54aが露出する。
【0021】
一対の保護フィルム巻取装置5及び5は、それぞれ、送り出された骨材40の表面40a側及び裏面40b側に位置し、一対の保護フィルム剥がし機構4及び4で剥がされた、保護フィルム52及び52を巻き取る巻取装置である。
【0022】
シート加熱圧接装置6は、一対の加圧ロールと、一対の加圧ロールに圧縮力を付与する機構(図示せず)とを有する。該一対の加圧ロールは、所定の設定された温度で加熱ができるよう、内部に加熱体を有する。
【0023】
シート加熱圧接装置6は、入り込んだ骨材40に樹脂フィルム54及び54を回転する一対の加圧ロールで圧接させてシート状のFRP前駆体60を形成する(フィルム圧接工程)と共に、FRP前駆体60をシート加圧冷却装置7に向けて送り出す。具体的には、骨材送出装置2から送り出された骨材40の表面40a及び裏面40bに、それぞれ、一対の保護フィルム剥がし機構4及び4から送り出された樹脂フィルム54及び54が積層するように、骨材送出装置2から送り出された骨材40と、一対の保護フィルム剥がし機構4及び4からそれぞれ送り出された樹脂フィルム54及び54とが、一対の加圧ロールの間に入り込む。
このとき、一方の樹脂フィルム54の骨材側フィルム表面54a側が骨材40の表面40a側に接着するように、一方の樹脂フィルム54が骨材40に積層し、また、他方の樹脂フィルム54の骨材側フィルム表面54a側が骨材40の裏面40b側に接着するように、他方の樹脂フィルム54が骨材40に積層してFRP前駆体60が形成される。シート加熱圧接装置6から送り出されたFRP前駆体60は高温状態である。
【0024】
シート加圧冷却装置7は、一対の冷却加圧ロールと、一対の冷却加圧ロールに圧縮力を付与する機構(図示せず)とを有する。一対の冷却加圧ロールは、シート加熱圧接装置6から送り出された、高温のFRP前駆体60を回転する一対の冷却加圧ロールで圧縮すると共に冷却し、FRP前駆体巻取装置8に送り出す。
【0025】
FRP前駆体巻取装置8は、シート加圧冷却装置7から送り出されたシート状のFRP前駆体60を巻き取るロールと、ロールを回転させる駆動機構(図示せず)とを有する。
【0026】
以上のFRP前駆体の製造装置1は、以下のように動作する。
【0027】
先ず、骨材送出装置2からシート状の骨材40を、シート加熱圧接装置6に向けて送り出す。このとき、骨材40の表面40a及び裏面40bは、露出している。
【0028】
他方、保護フィルム52が、送り出された骨材40側になるように、一方の保護フィルム付き樹脂フィルム50を一方の樹脂フィルム送出装置3のロールの下側から一方の保護フィルム剥がし機構4に向けて送り出している。また、保護フィルム52が、送り出された骨材40側になるように、他方の保護フィルム付き樹脂フィルム50を他方の樹脂フィルム送出装置3のロールの上側から他方の保護フィルム剥がし機構4に向けて送り出している。
【0029】
次に、送り出された一方の保護フィルム付き樹脂フィルム50は、一方の保護フィルム剥がし機構4である転向ロールに架けられ転向する際に、骨材側フィルム表面54aが露出するように、一方の保護フィルム付き樹脂フィルム50から一方の保護フィルム52を剥がして一方の樹脂フィルム54をシート加熱圧接装置6に向けて進ませる。これにより、一方の樹脂フィルム54の骨材側フィルム表面54aが露出する。同様に、送り出された他方の保護フィルム付き樹脂フィルム50は、他方の保護フィルム剥がし機構4である転向ロールに架けられ転向する際に、骨材側フィルム表面54aが露出するように、他方の保護フィルム付き樹脂フィルム50から他方の保護フィルム52を剥がして他方の樹脂フィルム54をシート加熱圧接装置6に向けて進ませる。これにより、他方の樹脂フィルム54の骨材側フィルム表面54aが露出する。
剥がされた一対の保護フィルム52及び52は、それぞれ、一対の保護フィルム巻取装置5及び5で巻き取られる。
【0030】
骨材送出装置2から送り出された骨材40に、樹脂フィルム54及び54がそれぞれ積層するように、骨材送出装置2から送り出された骨材40と、一対の保護フィルム剥がし機構4及び4からそれぞれ送り出された樹脂フィルム54及び54とが一対のロールの間に入り込む。さらに、常圧下において、一対の樹脂フィルム54及び54を、骨材40にシート加熱圧接装置6で圧接させてFRP前駆体60を得る(フィルム圧接工程)。このとき、シート加熱圧接装置6が有する一対の加圧ロールの内部にある加熱体の温度制御をすることにより、一対の加圧ロールを所定の温度に維持し、フィルム圧接工程をする際に加熱しながら加圧をする。
【0031】
ここで、本発明の一態様においては、骨材に樹脂フィルムを加熱圧着する際、加圧ロールの温度は、樹脂充填性の観点から、樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+5℃~+35℃の範囲の温度が好ましく、樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+8℃~+32℃がより好ましく、樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+10℃~+30℃がさらに好ましい。なお、樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度は、レオメータを用いて測定した値であり、より詳細には、実施例に記載の方法に従って測定した値である。加圧ロールの温度がこの条件のとき、加圧ロールのロール線圧は、樹脂充填性の観点から、好ましくは0.2~1.0MPa、より好ましくは0.4~1.0MPa、さらに好ましくは0.4~0.6MPaである。
【0032】
また、本発明の別の一態様においては、骨材に樹脂フィルムを加熱圧着する際、加圧ロールの温度がたとえ樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度の+5℃未満であったとしても、加圧ロールのロール線圧が0.4~1.0MPaであれば、十分な樹脂充填性が得られる。この場合のロール線圧は、0.4~0.8MPaであってもよく、0.4~0.7MPaであってもよく、0.4~0.6MPaであってもよい。
【0033】
本発明において、樹脂フィルムの最低溶融粘度を示す温度は、樹脂フィルムの素材によって異なるが、FRP前駆体の生産性の観点からは、60~150℃が好ましく、80~140℃がより好ましく、100~140℃がさらに好ましく、120~140℃が特に好ましい。
【0034】
シート加熱圧接装置6から送り出されたFRP前駆体60を、シート加圧冷却装置7により、さらに加圧し、また、冷却する。
シート加圧冷却装置7から送り出されたFRP前駆体60を、FRP前駆体巻取装置8により、巻き取る。
【0035】
[FRPの製造方法]
本発明は、前記FRP前駆体の製造方法により得られるFRP前駆体を硬化(Cステージ化)する工程を有する、FRPの製造方法も提供する。
FRP前駆体を硬化する条件に特に制限はないが、好ましくは160~250℃で15~60分間加熱することによって硬化させる。
なお、プリント配線板用のFRPの製造の場合、FRP前駆体1枚又は2~20枚重ねたものに金属箔を配置し、これを温度100~250℃、圧力0.2~10MPa、加熱時間0.1~5時間の条件で積層成形することで、FRPを含有する積層体を形成することができる。このように、必ずしもFRP前駆体を単独で硬化させる必要はなく、金属箔や、各種樹脂フィルムと積層させた状態でFRP前駆体を硬化させてもよい。
【0036】
以下、FRP前駆体の製造に用いる骨材及び樹脂フィルムについて具体的に説明する。
〔骨材〕
骨材としては、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている周知のものが使用できる。骨材の材質としては、紙、コットンリンターのような天然繊維;ガラス繊維及びアスベスト等の無機物繊維;アラミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、テトラフルオロエチレン及びアクリル等の有機繊維;これらの混合物などが挙げられる。これらの中でも、難燃性の観点から、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維基材としては、Eガラス、Cガラス、Dガラス、Sガラス等を用いた織布又は短繊維を有機バインダーで接着したガラス織布;ガラス繊維とセルロース繊維とを混沙したものなどが挙げられる。より好ましくは、Eガラスを使用したガラス織布である。
これらの骨材は、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット又はサーフェシングマット等の形状を有する。なお、材質及び形状は、目的とする成形物の用途や性能により選択され、1種を単独で使用してもよいし、必要に応じて、2種以上の材質及び形状を組み合わせることもできる。
【0037】
〔樹脂フィルム〕
本発明の製造方法に用いる樹脂フィルムは、熱硬化性樹脂フィルムであり、熱硬化性樹脂組成物をフィルム状に形成したものである。
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含有する。該熱硬化性樹脂の他に、必要に応じて、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材、有機充填材、カップリング剤、レベリング剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、揺変性付与剤、増粘剤、チキソ性付与剤、可撓性材料、界面活性剤、光重合開始材等が挙げられ、これらから選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。
以下、熱硬化性樹脂組成物が含有する各成分について順に説明する。
【0038】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和イミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコーン樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。また、特にこれらに制限されず、公知の熱硬化性樹脂を使用できる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。これらの中でも、作業性、成形性及び製造コストの観点から、エポキシ樹脂が好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールT型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニル型エポキシ樹脂、テトラフェニル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、エチレン性不飽和基を骨格に有するエポキシ樹脂、脂環式型エポキシ樹脂;多官能フェノールのジグリシジルエーテル化物;これらの水素添加物等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、絶縁信頼性及び耐熱性の観点から、2種以上を併用してもよい。
エポキシ樹脂の市販品としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂である「EPICLON(登録商標)N-660」(DIC株式会社製)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である、「EPICLON(登録商標)840S」(DIC株式会社製)、「jER828EL」、「YL980」(以上、三菱ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0040】
ここで、エポキシ樹脂としては、特に制限されるわけではないが、柔軟性を付与する観点から、1分子中に2個以上のエポキシ基を有すると共に、アルキレン基の炭素数3以上のアルキレングリコールに由来する構造単位を主鎖に有するエポキシ樹脂であってもよい。また、柔軟性をより向上させる観点からは、アルキレン基の炭素数3以上のアルキレングリコールに由来する構造単位は、2個以上連続して繰り返していてもよい。
アルキレン基の炭素数3以上のアルキレングリコールとしては、アルキレン基の炭素数4以上のアルキレングリコールが好ましい。アルキレン基の炭素数の上限は、特に限定されないが、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。
また、エポキシ樹脂として、難燃性の観点から、ハロゲン化エポキシ樹脂を用いてもよい。
【0041】
(硬化剤)
硬化剤としては、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合は、フェノール系硬化剤、シアネートエステル系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、活性エステル基含有化合物等のエポキシ樹脂用硬化剤などが挙げられる。なお、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂以外の樹脂である場合、その熱硬化性樹脂用の硬化剤として公知のものを用いることができる。硬化剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記フェノール系硬化剤としては、特に制限されないが、クレゾールノボラック型硬化剤、ビフェニル型硬化剤、フェノールノボラック型硬化剤、ナフチレンエーテル型硬化剤、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤等が好ましく挙げられる。
フェノール系硬化剤の市販品としては、KA-1160、KA-1163、KA-1165(いずれもDIC株式会社製)等のクレゾールノボラック型硬化剤;MEH-7700、MEH-7810、MEH-7851(いずれも明和化成株式会社製)等のビフェニル型硬化剤;フェノライト(登録商標)TD2090(DIC株式会社製)等のフェノールノボラック型硬化剤;EXB-6000(DIC株式会社製)等のナフチレンエーテル型硬化剤;LA3018、LA7052、LA7054、LA1356(いずれもDIC株式会社製)等のトリアジン骨格含有フェノール系硬化剤などが挙げられる。これらの中でも、クレゾールノボラック型硬化剤が好ましい。
【0043】
前記シアネートエステル系硬化剤としては、特に制限はないが、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート(オリゴ(3-メチレン-1,5-フェニレンシアネート)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルフェニルシアネート)、4,4’-エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2-ビス(4-シアネート)フェニルプロパン、1,1-ビス(4-シアネートフェニルメタン)、ビス(4-シアネート-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,3-ビス(4-シアネートフェニル-1-(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4-シアネートフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアネートフェニル)エーテル等が挙げられる。
前記酸無水物系硬化剤としては、特に制限はないが、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
前記アミン系硬化剤としては、特に制限はないが、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の脂肪族アミン;メタフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の芳香族アミンなどが挙げられる。
また、硬化剤としては、ユリア樹脂等も用いることができる。
【0044】
熱硬化性樹脂組成物が硬化剤を含有する場合、その含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは20~150質量部、より好ましくは20~100質量部、さらに好ましくは40~100質量部である。
なお、エポキシ樹脂用硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量1に対して、硬化剤の反応基当量比が0.3~1.5当量となる量が好ましい。エポキシ樹脂硬化剤の配合量が前記範囲内であると、硬化度の制御が容易であり、生産性が良好になる。
【0045】
(硬化促進剤)
硬化促進剤としては、前記熱硬化性樹脂の硬化に用いられる一般的な硬化促進剤を使用することができる。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、硬化促進剤としては、イミダゾール化合物及びその誘導体;リン系化合物;第3級アミン化合物;第4級アンモニウム化合物等が挙げられる。硬化反応の促進の観点から、イミダゾール化合物及びその誘導体が好ましい。
イミダゾール化合物及びその誘導体の具体例としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-1-メチルイミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、4-エチル-2-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-エチル-4'-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン等のイミダゾール化合物;イソシアネートマスクイミダゾール、エポキシマスクイミダゾール等の変性イミダゾール化合物;1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート等の、前記イミダゾール化合物とトリメリト酸との塩;前記イミダゾール化合物とイソシアヌル酸との塩;前記イミダゾール化合物と臭化水素酸との塩などが挙げられる。これらの中でも、変性イミダゾール化合物が好ましく、イソシアネートマスクイミダゾールがより好ましい。イミダゾール化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
熱硬化性樹脂組成物が硬化促進剤を含有する場合、その含有量は、熱硬化性樹脂組成物の保存安定性及び物性の観点から、熱硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.1~10質量部、さらに好ましくは0.5~6質量部である。
【0047】
(無機充填材)
無機充填材により、不透過性及び耐摩耗性が向上し、熱膨張率を低下させることができる。
無機充填材としては、シリカ、酸化アルミニウム、ジルコニア、ムライト、マグネシア等の酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸化物;窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素等の窒化系セラミックス;タルク、モンモリロナイト、サポナイト等の天然鉱物;金属粒子、カーボン粒子等が挙げられる。これらの中でも、酸化物、水酸化物が好ましく、シリカ、水酸化アルミニウムがより好ましく、水酸化アルミニウムがさらに好ましい。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物が無機充填材を含有する場合、その含有量は、添加目的によっても異なるが、熱硬化性樹脂組成物の固形分中、0.1~65体積%が好ましい。着色及び不透過目的では0.1体積%以上であれば十分効果を発揮できる傾向にある。一方、増量目的で添加するときは、65体積%以下に抑えることによって、接着力が低下するのを抑制できる傾向にあり、且つ、樹脂成分配合時の粘度が高くなり過ぎず、作業性が低下するのを抑制し易い傾向にある。同様の観点から、無機充填材の含有量は、より好ましくは5~50体積%、さらに好ましくは10~40体積%である。
ここで、本明細書における固形分とは、水分、後述する有機溶剤等の揮発する物質以外の組成物中の成分のことをいう。すなわち、固形分は、25℃付近の室温で液状、水飴状及びワックス状のものも含み、必ずしも固体であることを意味するものではない。
【0049】
(カップリング剤)
カップリング剤を含有させることにより、無機充填材及び有機充填材の分散性の向上、及び補強基材への密着性の向上効果がある。カップリング剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤が好ましい。シラン系カップリング剤としては、アミノシラン系カップリング剤[例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等]、エポキシシラン系カップリング剤[例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等]、フェニルシラン系カップリング剤、アルキルシラン系カップリング剤、アルケニルシラン系カップリング剤[例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン系カップリング剤など]、アルキニルシラン系カップリング剤、ハロアルキルシラン系カップリング剤、シロキサン系カップリング剤、ヒドロシラン系カップリング剤、シラザン系カップリング剤、アルコキシシラン系カップリング剤、クロロシラン系カップリング剤、(メタ)アクリルシラン系カップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、イソシアヌレートシラン系カップリング剤、ウレイドシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、スルフィドシラン系カップリング剤及びイソシアネートシラン系カップリング剤等が挙げられる。これらの中でも、エポキシシラン系カップリング剤が好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
また、シラン部位がチタネートに置き換わった、いわゆるチタネート系カップリング剤を用いることもできる。
【0050】
熱硬化性樹脂組成物がカップリング剤を含有する場合、その含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.1~4質量部、さらに好ましくは0.5~3質量部である。0.01質量部以上であると、骨材の表面及び充填材の表面を十分に被覆できる傾向にあり、5質量部以下であると、余剰のカップリング剤の発生を抑制できる傾向にある。
【0051】
(有機溶剤)
取り扱いを容易にする観点から、樹脂組成物へさらに有機溶剤を含有させてもよい。本明細書では、有機溶剤を含有する樹脂組成物を、樹脂ワニスと称することがある。樹脂フィルムを形成する際には、作業性の観点から、樹脂ワニスとして使用することが好ましい。
該有機溶剤としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ブタノン、シクロヘキサノン、4-メチル-2-ペンタノン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の窒素原子含有溶剤;ジメチルスルホキシド等の硫黄原子含有溶剤などが挙げられる。これらの中でも、溶解性及び塗布後の外観の観点から、ケトン系溶剤が好ましく、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがより好ましく、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンがさらに好ましい。
有機溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
有機溶剤の含有量は、塗布容易性の観点から、例えば、樹脂組成物の固形分が好ましくは20~85質量%、より好ましくは40~80質量%となるように有機溶剤の使用量を調節する。
【0053】
(熱硬化性樹脂フィルムの製造方法)
まず、前記溶媒中に、前記熱硬化性樹脂及び必要に応じてその他の成分を加えた後、各種混合機を用いて混合・攪拌することにより、樹脂ワニスとする。混合機としては、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式及び自転公転式分散方式等の混合機が挙げられる。得られた樹脂ワニスをキャリアフィルムに塗布し、不要な有機溶剤を除去し、次いで半硬化(Bステージ化)させることにより、熱硬化性樹脂フィルム(樹脂フィルム)を製造することができる。
前記キャリアファルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレン、ポリビニルフルオレート、ポリイミド等の有機フィルム;銅、アルミニウム、これら金属の合金のフィルム;これらの有機フィルム又は金属フィルムの表面に離型剤で離型処理を行ったフィルムなどが挙げられる。
なお、製造した樹脂フィルムをローラで巻き取る際、熱硬化性樹脂組成物を塗布して半硬化させた面にキャリアフィルムを配し、熱硬化性樹脂組成物を挟んだ状態で巻き取ると作業性が良く好ましい。
【0054】
なお、前記樹脂フィルムの厚みに特に制限はなく、骨材の厚みより薄い樹脂フィルムを用いる場合は、樹脂フィルムを骨材の一方の面に対して2枚以上貼付してもよい。また、樹脂フィルムを2枚以上使用する場合、樹脂フィルムの熱硬化度又は配合組成等が異なるものを組み合わせて使用してもよい。
FRP前駆体は、必要に応じて任意のサイズに切断し、必要に応じて所定の物と接着してから、熱硬化を行ってもよい。また、FRP前駆体は、予めロールに巻き取っておき、ロール・ツー・ロールによって使用することもできる。
【実施例
【0055】
次に、下記の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
なお、以下の実施例で得られたFRP前駆体について、以下の方法で樹脂充填性を測定した。
【0056】
(1.樹脂充填性)
ラミネート後の支持体が付いているFRP前駆体の表面写真を、光学顕微鏡で、任意の倍率で観察、撮影し、樹脂充填箇所と未充填箇所の面積を算出し、樹脂充填箇所の面積比率を用いて、下記評価基準に従って評価した。評価Aが最も樹脂充填性に優れており、評価Dが樹脂充填性に乏しい。評価C以上であることが好ましく、評価B又は評価Aであることがより好ましい。
A:樹脂充填率が95%以上である。
B:樹脂充填率が90%以上95%未満である。
C:樹脂充填率が85%以上90%未満である。
D:樹脂充填率が85%未満である。
【0057】
[製造例1]樹脂フィルム1の製造
(熱硬化性樹脂ワニス1の調製)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON(登録商標)N-660」(DIC株式会社製)100質量部、クレゾールノボラック樹脂「フェノライト(登録商標)KA-1165」(DIC株式会社製)60質量部へ、シクロヘキサノン15質量部及びメチルエチルケトン130質量部を加え、良く撹拌して溶解した。そこへ、水酸化アルミニウム「CL-303」(住友化学株式会社製)180質量部、カップリング剤「A-187」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)1質量部、イソシアネートマスクイミダゾール「G8009L」(硬化促進剤、第一工業製薬株式会社製)2.5質量部を加え、撹拌して溶解及び分散させ、固形分70質量%の熱硬化性樹脂ワニス1を調製した。
(樹脂フィルム1の製造)
上記で得た熱硬化性樹脂ワニス1を580mm幅のPETフィルム(G-2;帝人デュポンフィルム株式会社製)に、塗布幅540mm、乾燥後の厚みが15μmになるように塗布し、100℃で3分乾燥させることによって樹脂フィルム1を作製した。作製した樹脂フィルム1の最低溶融粘度温度を、レオメータ「AR-200ex」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、φ20mm冶具)を用いて昇温速度3℃/分の条件で測定したところ、最低溶融粘度温度は130℃であった。
【0058】
[実施例1~7及び比較例1~6]FRP前駆体の製造
製造例1で作製した樹脂フィルム1を、骨材であるガラス織布(坪量12.5g/m、IPC#1017、基材幅550mm、日東紡績株式会社製)の両面に当て、表1又は表2に記載の条件にて加熱加圧ロールで挟み込むことによって、骨材に熱硬化性樹脂を加圧含浸させ、その後、冷却ロールで冷却し、巻取りを行い、FRP前駆体を作製した。得られたFRP前駆体を用いて、樹脂充填性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1から、実施例により得られたFRP前駆体は、骨材の嵩空隙への樹脂充填性に優れており、条件を組み合わせる事によって更に樹脂充填性の向上をする事ができている。一方、表2から、比較例により得られたFRP前駆体には、樹脂充填性が良好なものがない。
したがって、本発明の製造方法によれば、樹脂充填性が良好なFRP前駆体が得られる。
【符号の説明】
【0062】
1 FRP前駆体の製造装置
2 骨材送出装置
3 樹脂フィルム送出装置
4 保護フィルム剥がし機構
5 保護フィルム巻取装置
6 シート加熱圧接装置(フィルム圧接手段)
7 シート加圧冷却装置
8 FRP前駆体巻取装置
40 骨材
40a 骨材の表面(骨材の一方の表面、骨材両表面の一方)
40b 骨材の裏面(骨材の他方の表面、骨材両表面の他方)
50 保護フィルム付き樹脂フィルム
52 保護フィルム
54 樹脂フィルム(フィルム)
54a 樹脂フィルムの骨材側の表面(骨材側フィルム表面)
60 FRP前駆体
図1