(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】画像処理装置、異物検査装置、画像処理方法、および異物検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20220426BHJP
G01N 23/18 20180101ALN20220426BHJP
【FI】
G01N23/04
G01N23/18
(21)【出願番号】P 2018065911
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】加集 功士
【審査官】佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-236637(JP,A)
【文献】特開2008-170325(JP,A)
【文献】特開2010-217119(JP,A)
【文献】特開2013-253832(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0282285(US,A1)
【文献】特開2005-147751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
G01N 23/00-G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異物を含む検査対象物を透過した電磁波の画像に対して画像処理を行う画像処理装置において、
上記画像を構成する多数の画素それぞれに対応した第1画素値を記憶する記憶部と、
上記各画素において、上記各第1画素値と上記異物を含まない検査対象物による減衰後の第1画素値に相当する背景値との差に比例する、上記各画素の第2画素値を算出する画素値演算部と、
特定の連続領域に属する画素群の各第2画素値
の積算
値を求める画素値積算部と、
を備え
、
上記積算値は、上記異物における上記画素群に対応する部分の体積に応じた値であり、上記異物の一部又は全部の体積を推定することができる値であり、
上記各画素の第2画素値は、上記各画素における、上記各第1画素値と上記背景値との差の、当該背景値に対する比率である画像処理装置。
【請求項2】
上記画素値積算部は、上記多数の画素それぞれを注目画素とし、当該注目画素を包含する上記連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する請求項
1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
上記画素値積算部は、閾値よりも減衰量が大きい値を示す第2画素値を有し、かつ、連続領域をなす複数の画素それぞれの第2画素値を積算する請求項1
または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の画像処理装置を備える異物検査装置。
【請求項5】
異物を含む検査対象物を透過した電磁波の画像に対して画像処理を行う画像処理方法において、
上記画像を構成する多数の画素それぞれに対応した第1画素値を記憶する記憶工程と、
上記各画素において、上記各第1画素値と上記異物を含まない検査対象物による減衰後の第1画素値に相当する背景値との差に比例する、上記各画素の第2画素値を算出する画素値演算工程と、
特定の連続領域に属する画素群の各第2画素値
の積算
値を求める画素値積算工程と、
を含
み、
上記積算値は、上記異物における上記画素群に対応する部分の体積に応じた値であり、上記異物の一部又は全部の体積を推定することができる値であり、
上記各画素の第2画素値は、上記各画素における、上記各第1画素値と上記背景値との差の、当該背景値に対する比率である画像処理方法。
【請求項6】
上記画素値積算工程にて、上記多数の画素それぞれを注目画素とし、当該注目画素を包含する上記連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する請求項
5に記載の画像処理方法。
【請求項7】
上記画素値積算工程にて、閾値よりも減衰量が大きい値を示す第2画素値を有し、かつ、連続領域をなす複数の画素それぞれの第2画素値を積算する請求項
5または6に記載の画像処理方法。
【請求項8】
請求項
5から7のいずれか1項に記載の画像処理方法を含む異物検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、異物検査装置、画像処理方法、および異物検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、パーソナルコンピュータ、携帯電話、および携帯情報端末等の電池として広く使用されている。とりわけ、リチウムイオン二次電池は、従前の二次電池と比較して、CO2の排出量を削減し、省エネに寄与する電池として、注目されている。
【0003】
従来、非水電解液二次電池用セパレータがコアに対して捲回されてなるセパレータ捲回体の開発が進められている。併せて、このセパレータ捲回体に付着した異物を検出する異物検査が検討されている。
【0004】
上記異物検査への適用が可能な検査の一例として、特許文献1に開示されている技術が挙げられる。特許文献1に開示されている技術においては、検査対象物の画像データから、各画素の濃度値を積算して積算値を算出し、この積算値を所定の閾値と比較することにより、欠陥を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-265467号公報(2005年9月29日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術においては、欠陥である異物の有無を検出し、さらに当該異物に対応する範囲に基づいて当該異物の平面的なサイズを推定することができるが、当該異物の立体的なサイズを推定することが困難であるという問題が発生する。
【0007】
本発明の一態様は、異物の立体的なサイズを推定することを可能とする、画像処理装置、異物検査装置、画像処理方法、および異物検査方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る画像処理装置は、異物を含む検査対象物を透過した電磁波の画像に対して画像処理を行う画像処理装置において、上記画像を構成する多数の画素それぞれに対応した第1画素値を記憶する記憶部と、上記各画素において、上記各第1画素値と上記異物を含まない検査対象物による減衰後の第1画素値に相当する背景値との差に比例する、上記各画素の第2画素値を算出する画素値演算部と、特定の連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する画素値積算部と、を備える。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る画像処理方法は、異物を含む検査対象物を透過した電磁波の画像に対して画像処理を行う画像処理方法において、上記画像を構成する多数の画素それぞれに対応した第1画素値を記憶する記憶工程と、上記各画素において、上記各第1画素値と上記異物を含まない検査対象物による減衰後の第1画素値に相当する背景値との差に比例する、上記各画素の第2画素値を算出する画素値演算工程と、特定の連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する画素値積算工程と、を含む。
【0010】
特に、本発明の一態様に係る画像処理装置および画像処理方法において、上記各画素の第2画素値は、上記各画素における、上記各第1画素値と上記背景値との差の、当該背景値に対する比率である。
【0011】
上記の構成によれば、第2画素値が、異物における画素に対応する部分の厚みに応じた値となる。そして、特定の連続領域に属する複数の画素それぞれの第2画素値を積算した値が、異物における当該複数の画素に対応する部分の体積に応じた値となる。従って、異物の一部又は全部の体積を推定することができるため、ある一定以上の体積を有する異物の有無を判定することができる。つまり、上記の構成によれば、異物の立体的なサイズを推定することが可能となる。
【0012】
本発明の一態様に係る画像処理装置において、上記画素値積算部は、上記多数の画素それぞれを注目画素とし、当該注目画素を包含する上記連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する。
【0013】
本発明の一態様に係る画像処理方法は、上記画素値積算工程にて、上記多数の画素それぞれを注目画素とし、当該注目画素を包含する上記連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する。
【0014】
上記の構成によれば、検出下限値として設定する異物の体積に概ね対応した連続領域を設定し、当該異物に対応する積算値を閾値として用いることにより、検出下限値以上の体積を有する異物を選択的に検出することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る画像処理装置において、上記画素値積算部は、閾値よりも減衰量が大きい値を示す第2画素値を有し、かつ、連続領域をなす複数の画素それぞれの第2画素値を積算する。
【0016】
本発明の一態様に係る画像処理方法は、上記画素値積算工程にて、閾値よりも減衰量が大きい値を示す第2画素値を有し、かつ、連続領域をなす複数の画素それぞれの第2画素値を積算する。
【0017】
上記の構成によれば、閾値よりも減衰量が大きい値を示す第2画素値を有し、かつ、連続領域をなす複数の画素は、1つの独立した異物に対応するものとみなすことができる。従って、1つの独立した異物の体積を推定することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る異物検査装置は、上記画像処理装置を備える。
【0019】
本発明の一態様に係る異物検査方法は、上記画像処理方法を含む。
【0020】
上記の構成によれば、上記異物検査装置および上記異物検査方法は、それぞれ、上記画像処理装置および上記画像処理方法と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、異物の立体的なサイズを推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一態様に係る異物検査装置の概略構成を示す図である。
【
図3】複数の参照画素の設定例を示す平面図である。
【
図4】画像処理装置による画像処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】記憶部によって記憶された各第1画素値を、
図2に示した多数の画素それぞれと対応付けて示している。
【
図6】
図5に示した各第1画素値、および各画素について設定された背景値に基づいて、画素値演算部によって算出された各第2画素値を、
図2に示した多数の画素それぞれと対応付けて示している。
【
図7】
図6に示した各第2画素値に基づいて、画素値積算部によって積算された各積算値を、
図2に示した多数の画素それぞれと対応付けて示している。
【
図8】電磁波発生源における電磁波の発生部分の中心と、ある1画素の四隅とによって構成される四角錐を示す斜視図である。
【
図9】
図1に示す異物検査装置の第1変形例の概略構成を示す図である。
【
図10】
図1に示す異物検査装置の第2変形例の概略構成を示す図である。
【
図11】回転機構による検査対象物の回転を説明する図である。
【
図12】電磁波としてX線を用いた異物検査装置における、画素値積算部の有効性について検証を行った結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一態様に係る異物検査装置100の概略構成を示す図である。
図2は、イメージセンサ3の主面31の平面図である。
【0024】
異物検査装置100は、検査対象物1に付着した異物13を検出するものである。検査対象物1は、非水電解液二次電池用セパレータ12がコア11に対して捲回されてなるセパレータ捲回体である。但し、検査対象物1は、非水電解液二次電池用セパレータ12以外のフィルムがコア11に対して捲回されてなるものであってもよいし、フィルムがコア11に対して捲回されてなるものでなくてもよい。異物検査装置100は、電磁波発生源2、イメージセンサ3、および画像処理装置4を備えている。
【0025】
電磁波発生源2は、検査対象物1の側面の一方に対して電磁波21を照射する。電磁波21は、検査対象物1および異物13を透過して、検査対象物1の側面の他方から出る。検査対象物1のそれぞれの側面とは、非水電解液二次電池用セパレータ12の幅方向端部それぞれによって構成された面である。非水電解液二次電池用セパレータ12の幅方向とは、非水電解液二次電池用セパレータ12の面に沿った方向であって、非水電解液二次電池用セパレータ12の製造工程において非水電解液二次電池用セパレータ12が搬送される方向に対して垂直な方向である。ここでは、電磁波21として、電磁波発生源2から放射状に出射されるX線を適用している。
【0026】
イメージセンサ3は、主面31を有している。主面31には、検査対象物1および異物13を透過した電磁波21を受け、この電磁波21の画像を構成する多数の画素32が設けられている。図示の便宜上、
図2においては、多数の画素32のうち、15行15列の行列状に配置された225個の画素32を抜粋して示している。ここでは、イメージセンサ3として、X線イメージセンサを適用している。
【0027】
多数の画素32が構成する画像は、検査画像において背景をなす検査対象物1と、背景に対してコントラストのある異物13とを撮影した画像であると言える。
【0028】
本実施形態では、異物13は、例えば金属異物など、透過するX線を、検査対象物1よりもより大きく減衰させる材質であるものとして説明する。この場合、多数の画素32が構成する画像は、異物13を含む検査対象物1を透過し、検査対象物1よりも検査対象物1に付着した異物13によってより大きく減衰された電磁波21の画像であるとも言える。
【0029】
なお、異物13は、逆に、例えば検査対主物1内に形成された空洞欠陥(気泡)等、透過するX線を、検査対象物1よりもより小さく減衰させる材質であってもよい。この場合、多数の画素32が構成する画像は、異物13を含む検査対象物1を透過し、検査対象物1よりも検査対象物1に付着した異物13によってより小さく減衰された電磁波21の画像であるとも言える。
【0030】
いずれも場合であっても、多数の画素32が構成する画像は、検査画像において背景をなす検査対象物1と、背景に対してコントラストのある異物13とを撮影した画像である。
【0031】
画像処理装置4は、多数の画素32が構成する画像に対して画像処理を行うものである。画像処理装置4は、記憶部41、画素値演算部42、背景値設定部43、および画素値積算部44を備えている。
【0032】
記憶部41は、例えば周知の記憶媒体によって構成されている。記憶部41は、画像処理装置4が画像処理を行う上記の画像を構成する、多数の画素32それぞれに対応した画素値を記憶する。以下では、記憶部41が記憶する画素値を、第1画素値と呼ぶ。本願明細書において、第1画素値および後述する背景値は、対応する画像が明るい程大きい値になるものとしているが、当該画像の明るさに対する大小関係は反転していてもよい。
【0033】
図3は、複数の参照画素34の設定例を示す平面図である。
図3において複数の参照画素34は、網掛けで図示された複数の画素32である。参照画素34は、後述するとおり、対応する注目画素33の背景値を設定するために必要な画素32である。
【0034】
画素値演算部42は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはハードウェアロジックによって構成されている。以下では、一例として、
図3に示す注目画素33について説明を行う。注目画素33は、後述するとおり、対応する複数の参照画素34により、その背景値が設定される画素32である。画素値演算部42は、多数の画素32それぞれを注目画素33とし、記憶部42に記憶された第1画素値に基づいて、当該注目画素33の第2画素値を算出する。換言すれば、画素値演算部42は、各画素32の第2画素値を算出する。
【0035】
ここで、注目画素33および上記各画素32のそれぞれに関し、第2画素値は、第1画素値と背景値との差の、当該背景値に対する比率である。当該背景値は、検査対象物1による電磁波21の減衰量に相当する値であると言える。つまり、注目画素33および上記各画素32のそれぞれに関し、第2画素値は、「(第1画素値-背景値)/背景値」である。第2画素値の演算結果は、当該背景値に対する当該差の比率を求めることから、相対濃度とも呼ばれる。
【0036】
背景値設定部43は、例えばCPUまたはハードウェアロジックによって構成されている。背景値設定部43は、各注目画素33に関し、注目画素33の近傍に位置し、かつ、注目画素33に対して予め定められた位置関係にある参照画素34の第1画素値に基づき背景値とみなす値を定め、その値を注目画素33の背景値として設定する。ここで言う各注目画素33は、上記各画素32に相当する。
【0037】
画素値積算部44は、特定の連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する。
【0038】
図4は、画像処理装置4による画像処理の流れを示すフローチャートである。
【0039】
多数の画素32が電磁波21の画像を構成すると、まず、記憶部41は、多数の画素32それぞれに対応した第1画素値を記憶する。この処理は、
図4のステップS1に相当する。
図5には、記憶部41によって記憶された各第1画素値を、
図2に示した多数の画素32それぞれと対応付けて示している。
図5は、上述した225個の画素32のうち、中央の5×5=25個の画素32が、検査対象物1および異物13によって減衰された電磁波21の画像を構成しており、その他の画素32が、検査対象物1によって減衰された電磁波21の画像を構成している例を示している。当該中央の25個の画素32は、画素群37に対応する。
図5中、A1およびA2の定義は、以下のとおりである。
【0040】
A1:検査対象物1による電磁波21の減衰量に対応する第1画素値
A2:検査対象物1および異物13による電磁波21の減衰量に対応する第1画素値
続いて、背景値設定部43は、各画素32について、背景値を設定する。この処理は、
図4のステップS2に相当する。背景値設定部43が背景値を設定することによって、異物検査装置100においては、以下の効果を奏する。
【0041】
すなわち、上記の構成によれば、注目画素33の近傍に位置する参照画素34の第1画素値に基づき背景値を設定する。これにより、例えばX線による透過検査において、透過率が多少のバラツキを有するものの相対的に高い検査対象物1と、その検査対象物1に含まれ、透過率が相対的に低い異物13を検出する場合において、当該バラツキの影響を低減した第2画素値を得ることができる。そして、第2画素値を参照して異物13を検出することによって、高精度の異物検査が可能となる。
【0042】
すなわち、上記の構成によれば、検査対象物1における透過率の分布をキャンセルすることができる。例えば、当該分布に対応する、検査対象物1内の位置に対する透過率の傾斜における等高線が直線でなくとも、その等高線の曲率が低ければ、背景値を概ね正確に、すなわちわずかの誤差で、設定することができ、ひいては正しい第2画素値を算出することができる。
【0043】
ところで、本実施形態においては、電磁波発生源2は、電子を金属板に当てることでX線を発生させるが、電子が当たる場所が加熱されるため、電子を当てる当該金属板の場所を変えるべく当該金属板が振動される。これにより、電磁波発生源2は、当該X線を、点状ではなく面状で発生させる。この結果、電磁波発生源2が電磁波21として当該X線を照射する場合、撮影の度に、電磁波21の画像の明るさの分布にバラツキが生じ得る。また、電磁波21の画像に生じるノイズに起因して、撮影の度に、電磁波21の画像の明るさの分布にバラツキが生じ得る。このような場合であっても、上記の構成によれば、上記バラツキの影響を低減した第2画素値を得ることができる。
【0044】
第1画素値が極端に大きい画素32、および第1画素値が極端に小さい画素32を避けて参照画素34を設定することによって、背景値が所望の値から著しく離れることを防ぐことができる。結果、上記バラツキの影響を低減した第2画素値を得ることができる。
【0045】
参照画素34は、少なくとも1つ設定されていればよいが、
図3に示すように複数であることが好ましい。これにより、背景値とみなす値を定めるため使用可能な第1画素値の数が増えるため、背景値の設定方法の選択肢を広げることができる。当該選択肢について、以下に説明する。
【0046】
図3に示すように、複数の参照画素34は、対応する注目画素33を取り囲むように配置された複数の画素32であることが好ましい。
【0047】
上記の構成によれば、背景値を設定するための値として相応しくない第1画素値を有する不適画素35が、ある参照画素34およびその近傍に集中して位置している場合に、複数の参照画素34に占める不適画素35の割合を小さくすることができる。従って、不適画素35の第1画素値が、背景値の設定に悪影響を及ぼす虞を低減することができる。
【0048】
すなわち、
図3において、斜線が付された各画素32を不適画素35とすると、図中左上に複数の不適画素35が集中している。上記の構成によれば、不適画素35に該当する参照画素34も存在するが、不適画素35に該当しない参照画素34が多数存在している。このように、複数の参照画素34に占める不適画素35の割合を小さくすることができる。
【0049】
なお、不適画素35の一例として、検査対象物1に貼られたテープまたはラベル14を透過した電磁波21の画像を構成する画素32が挙げられる。これらの画素32にて得られる第1画素値は、検査対象物1そのものを透過した電磁波21の画像であって、影の無い画像を構成する画素32にて得られる第1画素値と比較して、極端に小さい値となる傾向がある。
【0050】
図3に示すように、複数の参照画素34は、対応する注目画素33からみて、行方向及び列方向に対称に配置された複数の画素32であることが好ましい。なお、当該行方向および当該列方向は、それぞれ、
図3中「行方向」および「列方向」に対応する。
【0051】
また、
図3に示す複数の参照画素34は、注目画素33を中心として、画素群36を4回回転対称に配置したものであると言える。このように、複数の参照画素34は、対応する注目画素33を中心として、n(nは2以上の整数)回回転対称に配置された複数の画素32であることが好ましい。
【0052】
上記の構成によれば、不適画素35が、注目画素33に対していずれの方向に集中して位置している場合であっても、複数の参照画素34に占める不適画素35の割合を小さくすることができる。従って、不適画素35の第1画素値が、背景値の設定に悪影響を及ぼす虞を低減することができる。
【0053】
すなわち、
図3において、注目画素33から図中左上に向かう方向に、複数の不適画素35が集中している。上記の構成によれば、不適画素35に該当する参照画素34も存在するが、不適画素35に該当しない参照画素34が多数存在している。このように、複数の参照画素34に占める不適画素35の割合を小さくすることができる。
【0054】
例えば、異物検査装置100において検査対象物1を撮影する向きを変化させる必要がある場合、これに伴い、複数の不適画素35が集中する位置も変化することとなる。異物検査装置100において検査対象物1の向きを十分に制御することが難しいことに起因して、やむを得ず検査対象物1の向きが変わってしまう場合についても同様に、複数の不適画素35が集中する位置が変化することとなる。異物検査装置100によれば、検査対象物1を撮影する向きの変化前および変化後の両方において、複数の参照画素34に占める不適画素35の割合を小さくすることができる。従って、異物検査装置100は、検査対象物1を撮影する向きに対する依存性が小さいものであると言える。
【0055】
なお、複数の参照画素34は、
図3において、互いに離れることなく注目画素33を取り囲むように配置された複数の画素32であるが、これに限定されない。すなわち、少なくとも1つの参照画素34が、他の参照画素34から離れて配置されていてもよい。例えば、各参照画素34が点在していてもよい。また、複数の参照画素34が複数のブロックに分かれており、各ブロックが点在しており、同一のブロックを構成する各参照画素34が互いに隣接していてもよい。
【0056】
背景値設定部43は、複数の参照画素34それぞれの第1画素値の中央値、又は最大値及び最小値を除いた値のうち予め定められた順位にある値を背景値として設定する。当該中央値は、複数の参照画素34それぞれの第1画素値の総数が2p(pは自然数)個である場合、p番目に大きい第1画素値とp+1番目に大きい第1画素値との平均値であり、当該総数が2p+1個である場合、p+1番目に大きい第1画素値である。また、当該最大値及び最小値を除いた値のうち予め定められた順位は、ノイズ等の特性に応じ、本来の背景値を求めやすい順位であることが好ましい。当該順位として好ましい値は、当該総数の半分にできるだけ近い値であることが多いが、検査対象物1の形状および/または配置によっては、例えば最頻値の考え方を用いて当該順位を決定することが好ましい場合もある。これは、複数の参照画素34について明るさのヒストグラムを求め、出現頻度の高さに基づいて当該予め定められた順位を決定する(例えば、最も出現頻度が高い明るさに対応する順位を採用する)方法である。
【0057】
上記の構成によれば、複数の参照画素34それぞれの第1画素値のうち、極端に大きな値または極端に小さな値が、背景値として設定されることを容易に防ぐことができる。つまり、背景値が、不当なまでに極端に明るい背景、または不当なまでに極端に暗い背景を示すことを防ぐことができる。また、このことの影響により、背景値が本来の値から大きくかい離することを容易に防ぐことができる。従って、撮影された画像により適合した背景値を設定することができる。
【0058】
例えば、ある参照画素34が構成する画像にノイズが含まれている場合、当該参照画素34の第1画素値は、極端に大きい値または極端に小さい値となり得る。異物検査装置100は、このようなノイズに起因してその値が乱れた第1画素値が、背景値として適用される虞を低減したものであると言える。
【0059】
背景値設定部43は、電磁波21を検査対象物1および異物13にて反射させる異物検査において、検査対象物1による電磁波21の減衰量に相当する背景値を設定する場合においても適用可能である。
【0060】
続いて、画素値演算部42は、各画素32の第2画素値を算出する。この処理は、
図4のステップS3に相当する。
図6には、
図5に示した各第1画素値、および各画素32について設定された背景値に基づいて、画素値演算部42によって算出された各第2画素値を、
図2に示した多数の画素32それぞれと対応付けて示している。
図6中、B1およびB2の定義は、以下のとおりである。
【0061】
B1:B1=(A1-対応する画素32の背景値)/対応する画素32の背景値
B2:B2=(A2-対応する画素32の背景値)/対応する画素32の背景値
なお、理想的には、A1は対応する画素32の背景値と同じであり、B1は0となる。各第2画素値は、異物13における画素32に対応する部分の厚みに応じた値となる。
【0062】
続いて、画素値積算部44は、特定の連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する。この処理は、
図4のステップS4に相当する。
【0063】
図7には、
図6に示した各第2画素値に基づいて、画素値積算部44によって積算された各積算値を、
図2に示した多数の画素32それぞれと対応付けて示している。
図7では、多数の画素32それぞれを注目画素33とし、注目画素33を中心として3行3列に設けられた計9つの画素32を連続領域とし、当該連続領域に属する画素群38に対応する当該9つの画素32の各第2画素値を積算する例を示している。
図7中、C1~C7の定義は、以下のとおりである。
【0064】
C1:C1=9*B1
C2:C2=8*B1+1*B2
C3:C3=7*B1+2*B2
C4:C4=6*B1+3*B2
C5:C5=5*B1+4*B2
C6:C6=3*B1+6*B2
C7:C7=9*B2
上述したとおり、電磁波発生源2は、X線を、点状ではなく面状で発生させる。この結果、電磁波発生源2が電磁波21として当該X線を照射する場合、電磁波21の画像にボケが生じる。そのため、画像上の異物13の像では、ある画素32に本来反映されるべき減衰量の一部がその画素32の周辺の画素32へ反映されてしまう。
【0065】
また、X線は、可視光とは異なり、レンズを用いて、スポット径を絞ったり平行光へ変換したりすることが難しい。このため、可視光を用いる場合と比べて、画像に含まれる異物13の像にボケが生じやすい。
【0066】
しかし、上記の構成によれば、特定の連続領域に属する画素群の第2画素値を積算することから、その連続領域の大きさを、検出対象とする異物13の大きさよりも大きく設定しておくことにより、その異物13に起因して生じたX線の減衰量の総和を算出することができる。このため、画像に含まれる異物13の像を検出することができる。その結果、異物13の検出漏れの発生リスクを低減することができる。また、画像にボケが生じた場合であっても、異物13の検出漏れの発生リスクを低減することができるという利点を活用し、画像撮影における露光時間を従来よりも短縮することも可能である。なお、画素値積算部44が、各第2画素値の替わりに、記憶部41が記憶した各第1画素値を積算する構成であっても、これらの効果を得ることは可能である。
【0067】
以上のことをまとめると、特定の連続領域は、少なくとも、検査対象物1および異物13によって減衰された電磁波21の画像を構成する全ての画素32を包含する領域より大きい領域とする。
【0068】
また、当該特定の連続領域は、当該画像における異物13のボケに対応する全ての画素32をさらに包含する領域より大きい領域とすることがより好ましい。これによると、より確実に、上記画像に含まれる異物13の像を検出することができる。
【0069】
なお、上記特定の連続領域は、画像における異物13のボケに対応する画素が少なくとも包含される程度に適宜調整してもよい。
【0070】
また、特定の連続領域に属する複数の画素32それぞれの第2画素値の積算値が、異物13における当該複数の画素32に対応する部分の体積に応じた値となる。従って、異物13の一部又は全部の体積を推定することができるため、ある一定以上の体積を有する異物13の有無を判定することができる。つまり、上記の構成によれば、異物13の立体的なサイズを推定することが可能となる。
【0071】
X線である電磁波21の減衰量と、異物13の体積との関係について、詳細に説明する。異物13の体積は、異物13の立体的なサイズに相当する。以下では、異物13のサイズが微小であるものとして説明を行う。具体的に、微小な異物13のサイズは、例えば直径0.05mm以上かつ直径0.3mm以下の球に収まる程度のサイズである。
【0072】
電磁波21の透過率Tは、下記の数式(1)によって求められる。なお、数式(1)において、aは電磁波21が透過する物質の吸収係数であり、zは電磁波21が当該物質を透過する長さの合計である。なお、電磁波21の当該物質への入射が1回である場合、zは電磁波21透過方向に沿った当該物質の厚みである。電磁波21の当該物質への入射が複数回である場合の一例としては、当該物質の内部に空洞があったり、当該物質が湾曲している場合が挙げられる。
【0073】
【0074】
また、電磁波21が異物13を透過することに起因して、電磁波21の画像がどの程度暗くなるのかについては、1-Tで表すことができる。この1-Tを遮蔽率と呼ぶ。
【0075】
図8は、電磁波発生源2における電磁波21の発生部分の中心22と、ある1つの画素32の四隅とによって構成される四角錐23を示す斜視図である。四角錐23の中で、異物13について遮蔽率を積分する計算を、下記の数式(2)に示している。数式(2)の演算結果が、当該画素32における異物13に起因する電磁波21の強度の減衰率となる。なお、数式(2)中、xに対応するx方向およびyに対応するy方向は、いずれも異物13の厚み方向に対して垂直であり、かつ互いに垂直である。
【0076】
【0077】
ここで、異物13のサイズが微小である場合、異物13周辺において、画素32の面と略平行な四角錐23の断面寸法がほぼ一定である。このことから、異物13周辺において、四角錐23は、直方体に近似することができる。また、zが0とほぼ等しいとき、下記の数式(3)が成立する。
【0078】
【0079】
これらにより、画素32における異物13に起因する電磁波21の強度の減衰率は、下記の数式(4)によって近似することができる。
【0080】
【0081】
そして、数式(4)の演算結果は、上記直方体と異物13とが重なり合う部分の体積に相当する。以上のことから、X線である電磁波21の減衰量と、異物13の体積との間に、相関性があることが分かる。つまり、多数の画素32毎に、上述した相対濃度に基づいて、対応する上記直方体と重なり合う異物13の体積を求めることができる。
【0082】
ここからは、相対濃度(先に定義したB1およびB2)またはその積算値(先に定義したC1~C7)を、異物13の体積に変換するメカニズムについて補足する。検査対象物1による電磁波21の減衰量に対応する第1画素値(理想的には、背景値と等しい)をLとする。Lに異物13によるTを乗じたものLTが、実際の第1画素値となる。Lは電磁波21内における位置に応じて異なる値である。言い換えると、Lはx、yの関数L(x,y)である。第2画素値は、(LT-L)/L=(T-1)で表されるため、これに-1を乗じてx、yについて積分したもの、すなわち数式(2)は、数式(4)と近似的に一致する。数式(2)で求めた値を比例係数aで除すれば、異物13の体積が求まる。なお、第1画素値と背景値との差の積算値を用いた場合、(T-1)がL(T-1)になる。この場合、異物13の体積を推定するためには、Lが定数であることが必要である。換言すれば、検査対象物1が異物13を含まないことは、当該差の積算値を用いても推定可能である。
【0083】
画素値積算部44は、多数の画素32それぞれを注目画素33とし、注目画素33を包含する特定の連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算する。
【0084】
上記の構成によれば、検出下限値として設定する異物13の体積に概ね対応した連続領域を設定し、異物13に対応する積算値を閾値として用いることにより、検出下限値以上の体積を有する異物13を選択的に検出することができる。
【0085】
画素値積算部44は、閾値よりも減衰量が大きい値を示す第2画素値を有し、かつ、連続領域をなす複数の画素32それぞれの第2画素値を積算することが好ましい。当該閾値は、多数の画素32毎に、電磁波21の画像に生じるノイズやボケに左右されることなく、電磁波21が異物13によって減衰されていることを明確に把握することができるような値とすることが好ましい。
【0086】
閾値よりも減衰量が大きい値を示す第2画素値を有し、かつ、連続領域をなす複数の画素32は、1つの独立した異物13に対応するものとみなすことができる。従って、1つの独立した異物13の体積を推定することができる。
【0087】
また、画素値積算部44は、積算対象である少なくとも2つの第2画素値に対して重み付けを行ってもよい。
【0088】
例えば、異物13が球体である場合、異物13の中央から縁に向かう程、電磁波21と重なり合う異物13の体積が小さいため、画像が明るくなることが予想される。そして、異物13に対応して得られる値を最大化することを目的として、当該重み付けの一例として、異物13の縁に近い位置に対応する第2画素値ほど積算値への寄与が小さくなるように、積算に際し各第2画素値を重み付けすることが考えられる。
【0089】
このように、画素値積算部44は、検出対象としている異物13が想定される形状(例えば、球体、多面体等)に応じて、各第2画素値それぞれに対して重み付けを行って積算値を得ることで、より、画像における異物13の像を漏れなく検出することができる。
【0090】
異物検査装置100は、X線イメージセンサであるイメージセンサ3と、画像処理装置4とを備え、記憶部41は、当該X線イメージセンサにより取得された画像の画素値を第1画素値として記憶する。
【0091】
但し、電磁波21は、X線に限定されるものではない。X線以外の電磁波21の一例として、可視光、赤外線等、周知の各種の電磁波が挙げられる。これに伴い、イメージセンサ3についても、電磁波21の種類に適したものを適宜選択可能である。X線イメージセンサ以外のイメージセンサ3の具体例として、FPD(Flat Panel Detector:フラットパネルディテクタ)が挙げられる。
【0092】
また、第2画素値として、上述した相対濃度の替わりに、第1画素値と背景値との差が用いられてもよい。但し、異物13の体積を推定するためには、第2画素値として当該相対濃度を用いることが好適である。
【0093】
また、異物検査装置100においては、画像処理装置4がイメージセンサ3の外部に設けられている構成である。しかしながら、画像処理装置4がイメージセンサ3の内部に設けられている構成であってもよい。
【0094】
図9は、
図1に示す異物検査装置100の第1変形例である異物検査装置101の概略構成を示す図である。なお、以下、説明の便宜上、先に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。異物検査装置101は、異物検査装置100の構成に加え、移動機構5を備えている。
【0095】
検査対象物1は、電磁波21の入射側に対応する電磁波発生源2側の側面と、電磁波21の出射側に対応するイメージセンサ3側の側面との間に、厚みを有するものであると言える。なお、当該厚みの方向は、
図9中「MZ方向」に対応する。移動機構5は、検査対象物1を、MZ方向に対して略垂直な方向に平行移動させるものである。具体的には、移動機構5は、検査対象物1を、電磁波発生源2とイメージセンサ3との間を横断するように、MZ方向に対して略垂直な面に沿ったある1方向に移動させるものである。なお、検査対象物1の移動方向と平行な方向は、
図9中「MY方向」に対応する。
【0096】
また、イメージセンサ3は、TDI(Time Delay Integration)センサである。イメージセンサ3がTDIセンサである異物検査装置101においては、下記の要領で検査対象物1に付着した異物13を検出する。
【0097】
まず、上述したように検査対象物1を移動機構5により平行移動させつつ、移動機構5により平行移動されている検査対象物1に対して電磁波21を照射する。そして、検査対象物1を透過した電磁波21をイメージセンサ3の多数の画素32が受け、多数の画素32が構成した電磁波21の画像から異物13を検出する。多数の画素32は、複数のタイミングについて電磁波21の画像を構成し、これにより、検査段毎に、検査対象物1における同一箇所の画像を構成する。なお、各検査段は、
図3において列方向に並んだ複数の画素32からなる。当該複数のタイミングは、換言すれば、検査対象物1が互いに異なる位置にある複数の状態である。そして、当該検査段毎に構成した、検査対象物1における同一箇所の画像を重ね合わせることにより、異物13を顕在化させた画像を得、異物13を検出する。
【0098】
異物検査装置101によると、厚みを有する検査対象物1を移動させながら行う検査において、ボケによる検査能力の低下を抑制して、検査の高効率化を図り、かつ、異物の検出漏れの発生リスクを低減することができる。
【0099】
図10は、
図1に示す異物検査装置100の第2変形例である異物検査装置102の概略構成を示す図である。
図11は、回転機構6による検査対象物1の回転を説明する図である。異物検査装置102は、異物検査装置100の構成に加え、回転機構6を備えている。
【0100】
回転機構6は、検査対象物1を、電磁波21の入射側から電磁波21の出射側へと向かう方向、すなわちMZ方向と平行な方向に伸びる軸15に従って回転させるものである。
図11に示すように、軸15は、検査対象物1の中心軸に相当する。
【0101】
また、イメージセンサ3は、TDIセンサである。イメージセンサ3がTDIセンサである異物検査装置102においては、下記の要領で検査対象物1に付着した異物13を検出する。
【0102】
まず、上述したように検査対象物1を回転機構6により回転させつつ、回転機構6により回転されている検査対象物1に対して電磁波21を照射する。そして、検査対象物1を透過した電磁波21をイメージセンサ3の多数の画素32が受け、その後異物13を検出するまでの要領は、異物検査装置101と異物検査装置102とで同様である。
【0103】
検査対象物1を平行移動または回転させながら検査を行うことによって、検査の高効率化を図ることができる。一方、厚みを有する検査対象物1を平行移動または回転させながら行う検査において、異物13の像がボケることが問題となる。すなわち、TDIセンサであるイメージセンサ3を用いて上記いずれかの要領で検査対象物1に付着した異物13を検出する場合、各検査段が構成した画像において、異物13がMY方向にボケるケースがある。特に、検査対象物1の厚みが大きい場合、この傾向が顕著である。
【0104】
異物検査装置101および異物検査装置102のそれぞれは、画像処理装置4、特に画素値積算部44を備えているため、異物検査装置100と同様の原理で、異物13の検出漏れの発生リスクを低減することができる。画像撮影における露光時間を従来よりも短縮することも可能であることについても、異物検査装置100と同様である。
【0105】
以下では、電磁波21としてX線を用いた異物検査装置100における、画素値積算部44の有効性について検証を行った。
図12は、当該検証の結果を示す表である。
【0106】
まず、異物13を含む検査対象物1の画像を4回撮影し、それぞれ
図12中「異物画像1」~「異物画像4」とした。また、異物13を含まない検査対象物1の画像を13回撮影し、それぞれ
図12中「異物無画像1」~「異物無画像13」とした。
【0107】
これらの画像のそれぞれについて、ある注目画素33に関し、下記に定義される手法1~手法7のそれぞれに従って、濃度値を求めた。このうち、手法3~手法7に関しては、各第2画素値の平均値を求める段階で、各第2画素値の積算値を用いることになる。
【0108】
手法1:注目画素33を中心として3行3列に設けられた計9つの画素32の各第2画素値のうち、3番目に小さい値を、濃度値とする
手法2:注目画素33を中心として3行3列に設けられた計9つの画素32の各第2画素値のうち、最も小さい値と、2番目に小さい値と、3番目に小さい値との平均値を、濃度値とする
手法3:注目画素33を中心として3行3列に設けられた計9つの画素32の各第2画素値の平均値を、濃度値とする
手法4:注目画素33を中心として4行4列に設けられた計16つの画素32の各第2画素値の平均値を、濃度値とする
手法5:注目画素33を中心として5行5列に設けられた計25つの画素32の各第2画素値の平均値を、濃度値とする
手法6:注目画素33を中心として5行5列に設けられた計25つの画素32の各第2画素値について、所定の正規分布に従って重み付けを行った値の平均値を、濃度値とする
手法7:注目画素33を中心として5行5列に設けられた計25つの画素32の各第2画素値について、手法6とは別の(具体的には、重み付けに用いるガウス重みの分散を変更した)正規分布に従って重み付けを行った値の平均値を、濃度値とする
そして、手法1~手法7のそれぞれについて、下記に定義される最悪S、最悪N、および最悪S/最悪N比を求めた。
【0109】
最悪S:「異物画像1」~「異物画像4」それぞれの濃度値のうち、最も0%に近いもの
最悪N:「異物無画像1」~「異物無画像13」それぞれの濃度値のうち、最も0%から遠いもの
最悪S/最悪N比:最悪Nに対する最悪Sの比率
なお、最悪S/最悪N比が1より大きければ、「異物画像1」~「異物画像4」それぞれと、「異物無画像1」~「異物無画像13」それぞれとが適切に区別されているとみなせるため、虚報(異物13が無いにも拘らず、異物13を検知したものとしてしまう現象)が無い状態における異物13の検出漏れが十分に抑制されていると言える。また、最悪S/最悪N比が大きい程、当該区別がより明確であるとみなせるため、虚報が無い状態における異物13の検出漏れの抑制効果が高いと言える。
【0110】
図12によれば、手法3~手法7のそれぞれにおいて、最悪S/最悪N比が1より大きいため、虚報が無い状態における異物13の検出漏れが十分に抑制されていることが分かる。一方、
図12によれば、手法1および手法2のそれぞれにおいて、最悪S/最悪N比が1より小さいため、虚報が無い状態における異物13の検出漏れが十分に抑制されていないことが分かる。特に、手法3、手法4、手法5と移るにつれ、換言すれば、第2画素値を積算する対象の画素32の数が多くなるにつれ、最悪S/最悪N比が大きくなるため、虚報が無い状態における異物13の検出漏れの抑制効果が高くなると言える。
【0111】
以上の結果から、注目画素33を包含する連続領域に属する画素群の各第2画素値を積算することにより、虚報が無い状態における異物13の検出漏れを抑制する効果が向上するということが分かったため、異物検査装置100における画素値積算部44の有効性が分かった。
【0112】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0113】
1 検査対象物
11 コア
12 非水電解液二次電池用セパレータ
13 異物
14 テープまたはラベル
15 軸
2 電磁波発生源
21 電磁波
22 電磁波の発生部分の中心
23 四角錐
3 イメージセンサ
31 主面
32 画素
33 注目画素
34 参照画素
35 不適画素
36~38 画素群
4 画像処理装置
41 記憶部
42 画素値演算部
43 背景値設定部
44 画素値積算部
5 移動機構
6 回転機構
100、101、102 異物検査装置