(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】消化器癌の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20220427BHJP
【FI】
G01N33/574 A
(21)【出願番号】P 2018519607
(86)(22)【出願日】2017-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2017019534
(87)【国際公開番号】W WO2017204295
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2016106844
(32)【優先日】2016-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23~26年度 文部科学省 科学技術試験研究委託事業「早期診断マルチバイオマーカー開発(グライコーム解析によるがんの血中糖鎖バイオマーカーの開発)」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(72)【発明者】
【氏名】三善 英知
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】高松 真二
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直也
(72)【発明者】
【氏名】西野 公博
(72)【発明者】
【氏名】木戸脇 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】秋長 歩
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 竜雄
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-042212(JP,A)
【文献】米国特許第04946774(US,A)
【文献】特開2009-168470(JP,A)
【文献】国際公開第2011/089988(WO,A1)
【文献】TAKEDA, Y. et al.,Fucosylated haptoglobin is a novel type of cancer biomarker linked to the prognosis after an operation in colorectal cancer,Cancer,米国,Wiley-Blackwell, Hoboken,2012年06月15日,Vol.118/No.12,pp.3036-3043
【文献】TAKAHASHI, S. et al.,Site-specific and linkage analyses of fucosylated N-glycans on haptoglobin in sera of patients with various types of cancer: possible implication for the differntial diagnosis of cancer,Glycoconjugate Journal,Springer,2016年02月11日,Vol.33/No.3,pp.471-482
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)
血清又は血漿と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2とを接触させて
、抗体1-ヒトハプトグロビン-抗体2の複合体1を形成させ、或いは、
血清又は血漿と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2から選ばれる2つの抗体とを接触させて
、抗体2-ヒトハプトグロビン-抗体2の複合体2を形成させ、
(2)複合体1又は2を測定することを特徴とする、
大腸癌又は膵癌の判定のためのデータを
得る方法。
【請求項2】
(1)
血清又は血漿と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2とを接触させて
、抗体1-ヒトハプトグロビン-抗体2の複合体1を形成させ、或いは、
血清又は血漿と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2から選ばれる2つの抗体とを接触させて
、抗体2-ヒトハプトグロビン-抗体2の複合体2を形成させ、
(2)
血清又は血漿と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1から選ばれる2つの抗体とを接触させて
、抗体1-ヒトハプトグロビン-抗体1の複合体3を形成させ、
(3)複合体1又は2、及び複合体3を測定することを特徴とする、
大腸癌又は膵癌の判定のためのデータを
得る方法。
【請求項3】
さらに、(4)得られた複合体1の測定値と複合体3の測定値の比率、もしくは複合体2の測定値と複合体3の測定値の比率を求めることを特徴とする、請求項2記載の大腸癌又は膵癌の判定のためのデータを得る方法。
【請求項4】
(1)血清又は血漿と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2とを接触させて、抗体1-ヒトハプトグロビン-抗体2の複合体1を形成させ、
(2)血清又は血漿と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1から選ばれる2つの抗体とを接触させて、抗体1-ヒトハプトグロビン-抗体1の複合体3を形成させ、
(3)複合体1及び複合体3を測定することを特徴とする、請求項2記載の大腸癌又は膵癌の判定のためのデータを得る方法。
【請求項5】
さらに、(4)得られた複合体1の測定値と複合体3の測定値の比率を求めることを特徴とする、請求項4記載の大腸癌又は膵癌の判定のためのデータを得る方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
膵癌の罹患数は、年々増加しており、罹患数に対する死亡率が高いという問題がある。画像診断が進歩した今日の医学において肝癌のようにハイリスク群をまずは検体検査で囲い込むことが消化器癌(大腸癌や膵癌)診断においても重要なポイントとなる。しかし、膵癌の早期診断に対する有効な検査方法は現在まだ確立されていない。
一方、フコースによる糖鎖修飾をフコシル化と呼ぶが、癌で増加する代表的な糖鎖変化の一つである。フコシル化糖鎖を持つタンパクの1つであるフコシル化ハプトグロビンは、膵癌や大腸癌等消化器癌のバイオマーカーとして、その測定方法やそれを用いた癌の判定方法が種々検討されている。しかし、消化器癌の検査方法として確立するためには、より確度の高い方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記状況に鑑み、本発明者等は、鋭意検討した結果、β鎖を有し且つS-S結合が切断されていないヒトハプトグロビンを測定することにより、膵癌患者や大腸癌患者と健常者で有意な差が得られることを見出した。更に、α鎖を有するヒトハプトグロビンの測定結果とβ鎖を有し且つS-S結合が切断されていないヒトハプトグロビンの測定結果を比較することにより、膵癌や大腸癌等の消化器癌患者を高い確度で測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0004】
即ち、本発明は、確度の高い消化器癌の判定方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の方法に関する。
「(1)検体と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2とを接触させて複合体1を形成させ、或いは、
検体と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2から選ばれる2つの抗体とを接触させて複合体2を形成させ、
(2)複合体1又は2を測定し、
(3)その測定値に基づいて判定する、消化器癌の判定方法。」
「(1)検体と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2とを接触させて複合体1を形成させ、或いは、
検体と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2から選ばれる2つの抗体とを接触させて複合体2を形成させ、
(2)検体と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1から選ばれる2つの抗体とを接触させて複合体3を形成させ、
(3)複合体1又は2、及び複合体3を測定し、
(4)複合体1又は2の測定結果と複合体3の測定結果を比較することにより判定する、消化器癌の判定方法」
「(1)検体と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2とを接触させて複合体1を形成させ、或いは、
検体と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2から選ばれる2つの抗体とを接触させて複合体2を形成させ、
(2)複合体1又は2を測定することを特徴とする、消化器癌の判定のためのデータを得るための方法」
「(1)検体と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2とを接触させて複合体1を形成させ、或いは、
検体と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体2から選ばれる2つの抗体とを接触させて複合体2を形成させ、
(2)検体と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体1から選ばれる2つの抗体とを接触させて複合体3を形成させ、
(3)複合体1又は2、及び複合体3を測定することを特徴とする、消化器癌の判定のためのデータを得るための方法」
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、より確度の高い消化器癌の判定、特により確度の高い膵癌及び大腸癌の判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実験例1における、抗ヒトハプトグロビンポリクローナル抗体[抗ヒトHpt抗体(Poly)]を用いてヒトハプトグロビン1-1型精製品と2-2型精製品をウエスタンブロッティング法で測定した結果を表す。
【
図2】
図2は、実験例2における、10-7抗体を用いてヒトハプトグロビン1-1型精製品と2-2型精製品をウエスタンブロッティング法で測定した結果を表す。
【
図3】
図3は、実験例3における、3-1抗体を用いてヒトハプトグロビン1-1型精製品と2-2型精製品(S-S結合未切断)をウエスタンブロッティング法で測定した結果を表す。
【
図4】
図4は、実験例3における、3-5抗体を用いてヒトハプトグロビン1-1型精製品と2-2型精製品(S-S結合未切断)をウエスタンブロッティング法で測定した結果を表す。
【
図5】
図5は、実験例3における、3-1抗体を用いてヒトハプトグロビン1-1型精製品と2-2型精製品(S-S結合切断)をウエスタンブロッティング法で測定した結果を表す。
【
図6】
図6は、実験例3における、3-5抗体を用いてヒトハプトグロビン1-1型精製品と2-2型精製品(S-S結合切断)をウエスタンブロッティング法で測定した結果を表す。
【
図7】
図7は、実施例1における、健常者(正常者)、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、10-7抗体と3-1抗体で得た複合体の濃度(Hpt濃度1)の分布図を表す。
【
図8】
図8は、実施例2における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、10-7抗体と3-5抗体で得た複合体の濃度(Hpt濃度2)の分布図を表す。
【
図9】
図9は、実施例3における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-1抗体で得た複合体の濃度(Hpt濃度3)の分布図を表す。
【
図10】
図10は、実施例4における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-5抗体で得た複合体の濃度(Hpt濃度4)の分布図を表す。
【
図11】
図11は、実施例5における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、3-1抗体と3-1抗体で得た複合体の濃度(Hpt濃度5)の分布図を表す。
【
図12】
図12は、実施例6における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、3-1抗体と3-5抗体で得た複合体の濃度(Hpt濃度6)の分布図を表す。
【
図13】
図13は、実施例7における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、10-7抗体と3-1抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図14】
図14は、実施例8における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、10-7抗体と3-5抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図15】
図15は、実施例9における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-1抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図16】
図16は、実施例10における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-5抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図17】
図17は、実施例11における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、3-1抗体と3-1抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図18】
図18は、実施例12における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、3-1抗体と3-5抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図19】
図19は、実施例13における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、10-7抗体と3-1抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と抗ヒトHpt抗体(Poly)で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図20】
図20は、実施例14における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、10-7抗体と3-5抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と抗ヒトHpt抗体(Poly)で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図21】
図21は、実施例15における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-1抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と抗ヒトHpt抗体(Poly)で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図22】
図22は、実施例16における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-5抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と抗ヒトHpt抗体(Poly)で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図23】
図23は、実施例17における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、3-1抗体と3-1抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と抗ヒトHpt抗体(Poly)で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図24】
図24は、実施例18における、健常者、大腸癌患者及び膵癌患者の血清を用いて、3-1抗体と3-5抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と抗ヒトHpt抗体(Poly)で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図25】
図25は、ステージの異なる大腸癌患者及び健常者の血清を用いて、10-7抗体と3-1抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図26】
図26は、ステージの異なる大腸癌患者及び健常者の血清を用いて、抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-1抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【
図27】
図27は、ステージの異なる大腸癌患者及び健常者の血清を用いて、抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-5抗体で得た複合体の濃度と、抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体で得た複合体の濃度の比率の分布図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の消化器癌の判定方法は、検体中の、β鎖を有し且つS-S結合が切断されていないヒトハプトグロビンを測定し、その測定結果に基づいて判定することによりなされる(本発明の消化器癌の判定方法1)。また、(1)検体中の、β鎖を有し且つS-S結合が切断されていないヒトハプトグロビンを測定し、(2)同検体中のα鎖を有するヒトハプトグロビンを測定し、(3)(1)と(2)で得られた測定結果を比較し、その比較結果を判定することによってもなされる(本発明の消化器癌の判定方法2)。何れの方法も、消化器癌、特に膵癌及び大腸癌の判定方法に有用な方法であるが、本発明の消化器癌の判定方法2は、本発明の消化器癌の判定方法1よりも高い確度で消化器癌を判定することができ、特に大腸癌においては、本発明の消化器癌の判定方法2による判定方法が有用である。
【0009】
1.本発明の消化器癌の判定方法1
ヒトハプトグロビンは、α鎖及びβ鎖の2つのサブユニットから構成され、ハプトグロビン1-1型、2-1型及び2-2型の3つの型に分類される。また、ヒトハプトグロビンは、下記図のように、S-S結合を介してα鎖とβ鎖が連結されている。
【0010】
【0011】
本発明の消化器癌の判定方法1においては、上記のS-S結合が切断されていないβ鎖を有するヒトハプトグロビンを測定し、その測定値に基づいて癌の判定を行えばよい。また、本発明の方法は、このようにS-S結合が切断されていないβ鎖を有するヒトハプトグロビンを測定することを特徴とする、消化器癌の判定のためのデータを得るための方法も含む。
【0012】
[本発明に係るS-S結合が切断されていないβ鎖を有するヒトハプトグロビン]
本発明に係るS-S結合が切断されていないβ鎖を有するヒトハプトグロビン(以下、本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptと略記する場合がある)は、上記模式図で示すように、S-S結合が切断されていないβ鎖を有するヒトハプトグロビン、即ち、α鎖とβ鎖がS-S結合で連結されたヒトハプトグロビンであればいずれでもよい。
【0013】
[本発明に係る検体]
本発明に係る検体としては、ヒト由来の、膵臓組織、血漿、血清、膵液、唾液、リンパ液、髄液等の組織又は体液、或いはこれらから調製されたもの等が挙げられる。中でも、血清、血漿が好ましい。
【0014】
[消化器癌]
本発明に係る消化器癌としては、具体的には食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、膵癌等が挙げられ、大腸癌、膵癌が好ましく、大腸癌がより好ましい。
【0015】
[本発明に係るS-S結合β鎖含有Hpt の測定方法]
0015 本発明に係るS-S結合β鎖含有Hpt を測定する方法は、具体的には例えばS-S結合が切断されていないβ鎖を有するヒトハプトグロビンに対して親和性を有する物質、より具体的には、ヒトハプトグロビンのβ鎖に対して親和性を有し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンに対しては親和性を有さない物質等を用いた方法が挙げられる。該親和性を有する物質としては、具体的には例えば抗体、レクチン、多糖類、DNA、酵素基質、タンパク質、各種受容体、各種リガンド等が挙げられ、抗体が特に好ましい。また、上記親和性を有する物質は適宜組みあわせて用いてもよい。当該親和性を有する物質を用いた方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、簡易イムノクロマトグラフィーによる測定法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法、質量分析法、免疫比ろう法、免疫比濁法等の免疫凝集法に準じた測定法、イムノブロット法等が挙げられ、中でも酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫比ろう法、免疫比濁法が好ましく、酵素免疫測定法(EIA)がより好ましい。これらの測定原理としては、例えばサンドイッチ法、競合法、二抗体法等が挙げられ、サンドイッチ法が好ましい。
【0016】
[サンドイッチ法を用いた本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定方法]
上記本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定方法における、サンドイッチ法を用いた方法としては、具体的には例えば検体と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗ヒトハプトグロビン抗体(以下、抗体1と略記する場合がある)と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、且つS-S結合が切断されたヒトハプトグロビンを認識しない抗ヒトハプトグロビン抗体(以下、抗体2と略記する場合がある)とを接触させ、抗体1-ヒトハプトグロビン-抗体2の複合体(以下、複合体1と略記する場合がある)を形成させ、当該複合体1を測定する方法が挙げられる。また、例えば検体と、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体(以下、抗体2と略記する場合がある)から選ばれる2つの抗体とを接触させて複合体2を形成させ、複合体2を測定する方法が挙げられる。ここで抗体2における2つの抗体は、認識部位が同じ抗体であっても、認識部位が異なる抗体であってもよい。具体的には、検体と2つの同じ抗体2を接触させ、抗体2-ヒトハプトグロビン-抗体2の複合体2を形成させ、当該複合体2を測定する方法や、抗体2と、この抗体2とは別のヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、且つS-S結合が切断されたヒトハプトグロビンを認識しない抗ヒトハプトグロビン抗体(抗体2’)を検体と接触させ、抗体2-ヒトハプトグロビン-抗体2’の複合体2を形成させ、当該複合体2を測定する方法等が挙げられる。
本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定方法としては、上記の如く複合体1を形成し複合体1を測定する方法と複合体2を形成し複合体2を測定する方法が挙げられるが、複合体2を形成し複合体2を測定する方法は、Hpt濃度の感度が高いため好ましい。
【0017】
上記抗体1としては、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識するものであればよく、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよく、F(ab')2、Fab'、或いはFabであってもよい。具体的には、α鎖を認識するポリクローナル抗体、α鎖を認識するモノクローナル抗体が好ましい。
【0018】
上記抗体2としては、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、且つS-S結合が切断されたヒトハプトグロビンを認識しない抗ヒトハプトグロビン抗体であればよく、糖鎖の有無に関係なくβ鎖を認識するものが好ましく、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよく、F(ab')2、Fab'、或いはFabであってもよい。
【0019】
上記抗体1及び抗体2は、常法を用いて上記の抗原を動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。尚、抗原となるヒトハプトグロビンについては、常法により、例えば抗ハプトグロビン抗体カラムを用いる方法により、癌細胞株の培養液又は培養上清から抽出することにより得ることができ、市販のものを用いても構わない。また、抗体1及び2は、市販のものを用いてもよい。
【0020】
上記サンドイッチ法を用いた方法において、抗体1及び/又は抗体2は、標識物質等で標識されているものが好ましい。例えば抗体1が標識物質で標識された抗体1(標識抗体1)である場合、標識抗体1の標識物質量に基づいて複合体1を測定すればよく、例えば抗体2が標識物質で標識された抗体2(標識抗体2)である場合、標識抗体2の標識物質量に基づいて複合体1又は2を測定すればよい。複合体1を測定する場合には、抗体2が標識物質で標識されたものであるのが好ましい。
本発明に係る抗体1又は抗体2を標識するために用いられる標識物質としては、例えば通常の免疫測定法等において用いられるペルオキシダーゼ,マイクロペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類、例えば放射免疫測定法(Radioimmunoassay、RIA)で用いられる99mTc,131I,125I,14C,3H、32P,35S等の放射性同位元素、例えば蛍光免疫測定法(Fluoroimmunoassay、FIA)で用いられるフルオレセイン,ダンシル,フルオレスカミン,クマリン,ナフチルアミン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、ローダミンXイソチオシアネート、スルフォローダミン101、ルシファーイエロー、アクリジン、アクリジンイソチオシアネート、リボフラビンあるいはこれらの誘導体等の蛍光性物質、例えばルシフェリン,イソルミノール,ルミノール,ビス(2,4,6-トリフロロフェニル)オキザレート等の発光性物質、例えばフェノール,ナフトール,アントラセンあるいはこれらの誘導体等の紫外部に吸収を有する物質、例えば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル,3-アミノ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル,2,6-ジ-t-ブチル-α-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシル等のオキシル基を有する化合物に代表されるスピンラベル化剤としての性質を有する物質等の標識物質、例えばHiLyte Fluor 647、HiLyte Fluor 488、HiLyte
Fluor 555、HiLyte Fluor 680、HiLyte Fluor 750等のHiLyte系色素〔何れもハイライトバイオサイエンス社(HiLyte Bioscience, Inc.)商品名〕、例えばAlexa Fluor Dye 350、Alexa Fluor Dye 430、Alexa Fluor Dye 488、Alexa Fluor Dye 532、Alexa Fluor Dye
546、Alexa Fluor Dye 555、Alexa Fluor Dye 568、Alexa Fluor Dye 594、Alexa Fluor
Dye 633、Alexa Fluor Dye 647、Alexa Fluor Dye 660、Alexa Fluor Dye 680、Alexa Fluor Dye 700、Alexa Fluor Dye 750等のAlexa系色素〔何れもモレキュラープローブス社(Molecular Probes)商品名〕、例えばCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7等のCyDye系色素〔何れもアマシャムバイオサイエンス社(Amersham Biosciences)商品名〕、例えばクーマシーブリリアントブルーR250,メチルオレンジ等の色素等、通常この分野で用いられている標識物質が全て挙げられ、中でも、ペルオキシダーゼ,マイクロペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類が好ましく、ペルオキシダーゼがより好ましい。
また、上記した如き標識物質を本発明に係る抗体1又は抗体2に結合させる(標識する)には、例えば自体公知のEIA、RIA、FIA等の免疫測定法等において一般に行われている自体公知の標識方法を適宜利用して行えばよい。
【0021】
上記の如く抗体1及び/又は抗体2を標識する場合、遊離の標識物質で標識された抗体(標識抗体)と複合体とを分離する必要がある。そのため、例えば複合体1を形成する場合、抗体1と抗体2のいずれかの抗体を標識物質で標識し、標識しない残りの抗体1又は抗体2を不溶性担体に固定化するのが好ましい。この場合、抗体1を不溶性担体に固定し、抗体2を標識物質で標識するのが好ましい。また、例えば複合体2を形成する場合、何れか一方の抗体2を標識し、他方の抗体2を不溶性担体に固定化するのが好ましい。遊離の標識抗体と複合体の分離は、公知のB/F分離法により分離することができる。
本発明に係る抗体1又は抗体2を固定化する不溶性担体としては、例えば通常の免疫学的測定法等で用いられるものであれば何れも使用可能である。具体的には例えばポリスチレン,ポリプロピレン,ポリアクリル酸,ポリメタクリル酸,ポリアクリルアミド,ポリグリシジルメタクリレート,ポリ塩化ビニール,ポリエチレン,ポリクロロカーボネート,シリコーン樹脂,シリコーンラバー等の合成高分子化合物、例えば多孔性ガラス,スリガラス,セラミックス,アルミナ,シリカゲル,活性炭,金属酸化物等の無機物質等が挙げられる。また、これら不溶性担体は、マイクロタイタープレート、ビーズ、チューブ、多数のチューブが一体成形された専用のトレイ、ディスク状片、微粒子(ラテックス粒子)、等多種多様の形態で使用し得る。なかでもマイクロプレートやビーズは、洗浄の容易さおよび多数の検体(試料)を同時処理する際の操作性等の点から好ましい。本発明に係る抗体1又は抗体2を不溶性担体に固定化させる方法は、通常この分野で利用される方法に準じてなされればよい。
また、上述の如く、本発明に係る抗体1又は2を固定化した不溶性担体は、自体公知の免疫比濁法や免疫比ろう法にも用いることができる。
【0022】
不溶性担体に固定化しない場合で遊離の標識抗体と複合体とを分離する方法としては、例えばクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法、例えばLiBASys(島津製作所(株)製)等の自動免疫分析装置を用いた方法等が挙げられる。その具体的な条件は、得られた複合体1及び2と、複合体を形成しなかった遊離の(標識)抗体1及び/又は抗体2を分離できるように設定すればよく、その他の条件は、自体公知の方法に準ずればよい。例えばHPLCを用いて分離する場合、Anal.Chem.65,5,613-616(1993)や特開平9-301995号に記載の方法に準じて行えばよく、キャピラリー電気泳動法を用いる場合には、J.Chromatogr. 593
253-258 (1992)、Anal.Chem. 64 1926-1932 (1992)、WO2007/027495等に記載の方法に準じて行えばよい。また、自動免疫分析装置として例えばLiBASysを用いる場合、生物試料分析22巻4号303-308(1999)に記載されている方法に準じて行えばよい。
【0023】
記標識抗体1又は2を用いて複合体中の標識量を測定する方法としては、標識物質の種類により異なるが、標識物質が有している何らかの方法により検出し得る性質に応じて、それぞれ所定の方法に従い実施すればよい。例えば、標識物質が酵素の場合には免疫測定法の常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、51~63,共立出版(株)、1987)等に記載された方法に準じて測定を行えばよく、標識物質が放射性物質の場合には、例えばRIAで行われている常法に従い、該放射性物質の出す放射線の種類および強さに応じて液浸型GMカウンター、液体シンチレーションカウンター、井戸型シンチレーションカウンター、HPLC用カウンター等の測定機器を適宜選択して使用し、測定を行えばよい(例えば医化学実験講座、第8巻、山村雄一監修、第1版、中山書店、1971等参照)。また、標識物質が蛍光性物質の場合には、例えば蛍光光度計等の測定機器を用いるFIAで行われている常法、例えば「図説 蛍光抗体、川生明著、第1版、(株)ソフトサイエンス社、1983」等に記載された方法に準じて測定を行えばよく、標識物質が発光性物質の場合にはフォトカウンター等の測定機器を用いる常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、252~263、共立出版(株)、1987)等に記載された方法に準じて測定を行えばよい。さらに、標識物質が紫外部に吸収を有する物質の場合には分光光度計等の測定機器を用いる常法によって測定を行えばよく、標識物質がスピンの性質を有する場合には電子スピン共鳴装置を用いる常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、264~271、共立出版(株)、1987)等に記載された方法に準じてそれぞれ測定を行えばよい。
【0024】
例えば標識物質が酵素である場合は、これを発色試薬と反応させて発色反応に導き、その結果生成する色素量を分光光度計等により測定する方法等の自体公知の方法が挙げられる。尚、発色反応を停止させるために、例えば反応液に1~6Nの硫酸等の酵素活性阻害剤や、キットに添付の反応停止剤を添加する等、通常この分野で行われている反応停止方法を利用してもよい。
上記発色試薬としては、例えばテトラメチルベンジジン(TMB)、o-フェニレンジアミン、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、N-エチル-N-スルホプロピル-m-アニシジン(ADPS)、p-ニトロフェニルリン酸等、通常この分野で用いられる発色試薬が挙げられる。また、これらの使用濃度は、通常この分野で用いられる濃度範囲から適宜設定すればよい。
【0025】
本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定法の具体例として、標識物としてペルオキシダーゼ(POD)を用い、不溶性担体に固定化した本発明に係る抗体1と、PODで標識した本発明に係る抗体2を用いて、検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptを測定する場合の方法を以下に記載する。
【0026】
すなわち、検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptを、本発明に係る抗体1を固定化した不溶性担体(本発明に係る抗体1を0.1ng~0.1mg含有)と接触させ、4~40℃で3分~20時間反応させて不溶性担体上に、抗体1と本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの複合体を生成させる。次に、PODで標識した本発明に係る抗体2を含有する溶液50~100μL(本発明に係る抗体2を0.1ng~0.1mg含有)と4~40℃で3分~20時間反応させて、固定化抗体1-本発明に係るS-S結合β鎖含有Hpt-標識抗体2の複合体を不溶性担体上に生成させる。続いて、例えば適当な濃度のTMB溶液を添加した後、一定時間反応させ、1Mリン酸等の反応停止液を加えて反応を停止させ、450nmの吸光度を測定する。一方、濃度既知の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptについて上記と同じ試薬を用い同様の操作を行って測定値と濃度の検量線を作成する。上記測定で得られた測定値を、当該検量線にあてはめることにより、本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの量を求める。
【0027】
尚、本発明は、用手法に限らず、自動分析装置を用いた測定系にも十分利用可能であり、容易にかつ迅速に測定を行う事が出来る。なお、用手法又は自動分析装置を用いて測定を行う場合の試薬類等の組み合わせ等については、特に制約はなく、適用する自動分析装置の環境、機種に合わせて、或いは、他の要因を考慮にいれて最も良いと思われる試薬類等の組み合わせを適宜選択して用いればよい。
【0028】
[判定方法]
本発明の消化器癌の判定法1における消化器癌の判定方法は、検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptを上記測定方法により測定し、その測定結果に基づいて判定される。
【0029】
すなわち、例えば予め基準値を設定しておき、本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定結果(測定値)がその基準値より多い場合には、検体を提供した被験者は消化器癌(例えば膵癌や大腸癌)のおそれがある又は被験者は消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれが高い等の判定が可能である。また、当該検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの量又はその量的範囲に対応させて複数の判定区分を設定し[例えば(1)消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれはない、(2)消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれは低い、(3)消化器癌(膵癌や大腸癌)の兆候がある、(4)消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれが高い等]、測定結果がどの判定区分に入るかを判定することも可能である。
【0030】
上記基準値は、消化器癌(膵癌や大腸癌)患者と非消化器癌(非膵癌や非大腸癌)患者の検体を用いて上記測定方法により検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptを測定し、その値の境界値等を元に設定されればよい。
【0031】
また、本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定結果(測定値)が、非消化器癌(非膵癌や非大腸癌)患者の検体を用いた基準値(例えば平均値)より多い場合には、検体を提供した被験者は消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれがある、又は消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれが高い等の判定が可能である。また、当該本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定値又はその測定値の範囲に対応させて複数の判定区分を設定し[例えば(1)消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれはない、(2)消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれは低い、(3)消化器癌(膵癌や大腸癌)の兆候がある、(4)消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれが高い等]、測定結果がどの判定区分に入るかを判定することも可能である。
【0032】
更にまた、同一被験者の検体を用いて、ある時点で測定された被験者由来検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定結果と、異なる時点での本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定結果とを比較し、測定結果(測定値)の増減及び/又は増減の程度を評価することによって、消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれがでてきた、又は消化器癌(膵癌や大腸癌)のおそれが高くなった等の判定が可能である。また、当該本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定値の変動が認められないという場合には、消化器癌(膵癌や大腸癌)の可能性又は病態に変化はないとの判定が可能である。
【0033】
2.本発明の消化器癌の判定方法2
本発明の消化器癌の判定方法2においては、(1)検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptを測定し、(2)同検体中のα鎖を有するヒトハプトグロビン(以下、本発明に係るα鎖含有Hptと略記する場合がある)を測定し、(3)(1)と(2)で得られた測定結果を比較し、その比較結果を判定することによって癌の判定を行えばよい。また、本発明の方法は、このように、検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptを測定し、同検体中の本発明に係るα鎖含有Hptを測定することを特徴とする、消化器癌の判定のためのデータを得るための方法も含む。
【0034】
[本発明に係るS-S結合β鎖含有Hpt及び本発明に係るα鎖含有Hpt]
本発明の消化器癌の判定方法2において測定される、本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptは、上記本発明の消化器癌の判定方法1の項で記載したものと同じである。
本発明の消化器癌の判定方法2において測定される、本発明に係るα鎖含有Hptは、α鎖を有するヒトハプトグロビンであればいずれでもよく、S-S結合が切断されているもの及び切断されていないもの全てを含む。
【0035】
[本発明に係る検体]
上記本発明の消化器癌の判定方法1の項で記載したものと同じものが挙げられる。
【0036】
[消化器癌]
上記本発明の消化器癌の判定方法1の項で記載したものと同じものが挙げられる。
【0037】
[本発明に係る本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定方法]
上記本発明の消化器癌の判定方法1の項で記載したものと同じ方法により、本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptは測定される。
【0038】
[本発明に係るα鎖含有Hptの測定方法]
本発明に係るα鎖含有Hptを測定する方法は、例えば、α鎖含有Hptに対して親和性を有する物質、ヒトハプトグロビンのα鎖に対して親和性を有する物質等を用いた方法が挙げられ、該親和性を有する物質としては、具体的には例えば抗体、レクチン、多糖類、DNA、酵素基質、タンパク質、各種受容体、各種リガンド等が挙げられ、抗体が特に好ましい。また、上記親和性を有する物質は適宜2~3種を組みあわせて用いてもよい。当該親和性を有する物質を用いた方法としては、上記本発明の消化器癌の判定方法1の[本発明に係るS-S結合が切断されていないβ鎖を有するハプトグロビンの測定方法]の項で記載した方法と同じものが全て挙げられ、好ましい方法も同じである。
【0039】
[サンドイッチ法を用いた本発明に係るα鎖含有Hptの測定方法]
本発明に係るα鎖含有Hptを測定する方法は、サンドイッチ法の測定原理を用いた方法が好ましい。該サンドイッチ法の具体的な方法としては、例えば検体と、ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体(抗体1)から選ばれる2つの抗体とを接触させて複合体3を形成させ、当該複合体3を測定する方法が挙げられる。ここで用いられる2つの抗体は、認識部位が同じ抗体であっても異なる抗体であってもよいが、認識部位が異なる抗体が好ましい。具体的には、検体と2つの同じ抗体1を接触させ、抗体1-ヒトハプトグロビン-抗体1の複合体3を形成させ、当該複合体3を測定する方法や、抗体1と、この抗体1とは別のヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗ヒトハプトグロビン抗体(抗体1’)を検体と接触させ、抗体1-ヒトハプトグロビン-抗体1’の複合体3を形成させ、当該複合体3を測定する方法等が挙げられ、後者の方法が好ましい方法として挙げられる。
【0040】
上記サンドイッチ法を用いた方法における抗体1は、標識物質等で標識されているものが好ましい。この場合、抗体1のいずれか一方を標識物質で標識し、その標識抗体1の標識物質量に基づいて複合体3を測定すればよい。
【0041】
上記抗体1を標識するために用いられる標記物質及びその結合方法としては、上記本発明の消化器癌の判定方法1の[サンドイッチ法を用いた本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定方法]の項で記載したものと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0042】
抗体1を標識する場合、遊離の標識物質で標識された抗体(標識抗体)と複合体とを分離する必要がある。そのため、2つの抗体1のいずれかの抗体を標識物質で標識し、標識しない残りの抗体1を不溶性担体に固定化するのが好ましい。遊離の標識抗体と複合体の分離は、公知のB/F分離法により分離することができる。この場合の抗体1を固定化する不溶性担体及びその固定化方法としては、上記[サンドイッチ法を用いた本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定方法]の項で記載したそれらと同じものが挙げられる。また、不溶性担体に固定化しない場合の遊離の標識抗体と複合体とを分離する方法や標識抗体1を用いて複合体中の標識量を測定する方法も、上記[サンドイッチ法を用いた本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定方法]の項で記載したそれらと同じものが挙げられる。
【0043】
本発明に係るα鎖含有Hptの測定法の具体例として、標識物としてペルオキシダーゼ(POD)を用い、不溶性担体に固定化した本発明に係る抗体1と、PODで標識した本発明に係る抗体1を用いて、生体由来試料中の本発明に係るα鎖含有Hpt量を測定する場合、以下の如くなされる。
すなわち、検体を、本発明に係る抗体1を固定化した不溶性担体(本発明に係る抗体1を0.1ng~0.1mg含有)と接触させ、4~40℃で3分~20時間反応させて不溶性担体上に抗体1と本発明に係るα鎖含有Hptの複合体を生成させる。次に、PODで標識した本発明に係る抗体1を含有する溶液50~100μL(本発明に係る抗体1を0.1ng~0.1mg含有)と4~40℃で3分~16時間反応させる。尚、POD標識する抗体1は、不溶性担体に固定化した抗体1とは異なるものであることが好ましい。反応により、固定化抗体1-本発明に係るα鎖含有Hpt-標識抗体1の複合物を不溶性担体上に生成させる。続いて、例えば適当な濃度のTMB溶液を添加した後、一定時間反応させ、1Mリン酸等の反応停止液を加えて、反応を停止させる。450nmの吸光度を測定する。一方、濃度既知の本発明に係るα鎖含有Hptについて上記と同じ試薬を用い同様の操作を行って測定値と濃度の検量線を作成する。上記測定で得られた測定値を、当該検量線にあてはめることにより、本発明に係るα鎖含有Hpt量を求める。
尚、本発明は、用手法に限らず、自動分析装置を用いた測定系にも十分利用可能であり、容易にかつ迅速に測定を行う事が出来る。なお、用手法又は自動分析装置を用いて測定を行う場合の試薬類等の組み合わせ等については、特に制約はなく、適用する自動分析装置の環境、機種に合わせて、或いは、他の要因を考慮にいれて最も良いと思われる試薬類等の組み合わせを適宜選択して用いれば良い。
【0044】
[判定方法]
本発明の消化器癌の判定方法2における判定方法は、検体中の本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptを上記測定方法により測定し、また、検体中の本発明に係るα鎖含有Hptを上記測定方法により測定し、それらの測定値の比率に基づいて判定される。
【0045】
すなわち、先ず本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定値に対する本発明に係るα鎖含有Hptの測定値の比率、又は本発明に係るα鎖含有Hptの測定値に対する本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定値の比率を求め、次いで当該比率の基準値を設定しておき、求めた比率がその基準値より多い又は少ない場合には、検体を提供した被験者は消化器癌(例えば膵癌、大腸癌等)のおそれがある又は被験者は消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれが高い等の判定が可能である。また、当該検体における前記比率(求めた比率)又はその比率の範囲に対応させて複数の判定区分を設定し[例えば(1)消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれはない、(2)消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれは低い、(3)消化器癌(膵癌、大腸癌等)の兆候がある、(4)消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれが高い等]、測定結果がどの判定区分に入るかを判定することも可能である。
【0046】
上記基準値は、消化器癌(膵癌、大腸癌等)患者と非消化器癌(非膵癌、非大腸癌等)患者の検体を用いて上記測定方法により検体中の前記比率を求め、その値の境界値等を元に設定されればよい。当該比率は、本発明に係るα鎖含有Hptの測定結果に対する、本発明に係るS-S結合β鎖含有Hptの測定結果に基づいて判定するのが好ましい。
【0047】
また、前記比率が、非消化器癌(膵癌、大腸癌等)患者の検体を用いて求めた比率(例えば平均値)より多い又は少ない場合には、検体を提供した被験者は消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれがある、又は消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれが高い等の判定が可能である。また、前記比率又はその比率の範囲に対応させて複数の判定区分を設定し[例えば(1)消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれはない、(2)消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれは低い、(3)消化器癌(膵癌、大腸癌等)の兆候がある、(4)消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれが高い等]、求めた比率がどの判定区分に入るかを判定することも可能である。
【0048】
更にまた、同一被験者の検体を用いて、ある時点で測定された被験者由来検体における前記比率と、異なる時点での前記比率とを比較し、比率の増減及び/又は増減の程度を評価することによって、消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれがでてきた又は消化器癌(膵癌、大腸癌等)のおそれが高くなった等の判定が可能である。また、前記比率の変動が認められないという場合には、消化器癌(膵癌、大腸癌等)の可能性又は病態に変化はないとの判定が可能である。
【0049】
3.消化器癌を判定するためのキット
本発明は、本発明に係る抗体1(ヒトハプトグロビンのα鎖を認識する抗体)と、本発明に係る抗体2(ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体)とを含む試薬、或いは、本発明に係る抗体2から選ばれる2つの抗体を含む試薬、を含む消化器癌を判定するためのキット(本発明のキット1)を含む。
【0050】
更に、本発明は、(1)本発明に係る抗体1と本発明に係る抗体2とを含む試薬、或いは、本発明に係る抗体2から選ばれる2つの抗体を含む試薬、並びに(2)本発明に係る抗体1から選ばれる2つの抗体とを含む試薬を含む、消化器癌を判定するためのキット(本発明のキット2)を含む。
【0051】
上記本発明のキット1及び2における抗体1及び2は、本発明の消化器癌の判定方法1で述べたものと同じであり、好ましいものも同じである。本発明のキット1における本発明に係る抗体2から選ばれる2つの抗体は、同じ抗体であっても、異なる抗体であってもよいが、異なる抗体が好ましい。本発明のキット2における本発明に係る抗体1から選ばれる2つの抗体は、同じ抗体であっても、異なる抗体であってもよいが、異なる抗体が好ましい。具体的には、α鎖を認識するポリクローナル抗体とα鎖を認識するモノクローナル抗体の組み合わせが好ましい。
【0052】
また、上記本発明のキット1及び2における試薬中の抗体1及び抗体2の濃度は、測定方法に応じて、通常この分野で使用される範囲で適宜設定されればよい。また、これら試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、反応促進剤、糖類、タンパク質、塩類、界面活性剤等の安定化剤、防腐剤等を含んでいてもよい。これらは、共存する試薬の安定性を阻害せず、本発明に係る抗体1及び抗体2の反応を阻害しないものである。また、これらの濃度は、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0053】
本発明のキット1及び2は、さらに、検量線作成用のハプトグロビンの標準品を組み合わせたキットとしてもよい。該標準品は、市販の標準品を用いても、公知の方法に従って、製造されたものを用いても何れでもよい。
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0055】
実験例1 抗ヒトハプトグロビンポリクロナール抗体(ウサギ)の認識部位
50 mMりん酸緩衝液を用い、Haptoglobin,Phenotype 1-1 (Hpt1-1、シグマアルドリッチ社製)及びHaptoglobin,Phenotype 2-2 (Hpt2-2、シグマアルドリッチ社製)をそれぞれ100
μg/mLになるように調整し、試料用緩衝液1 ( 0.25 M Tris-HCl pH 6.8, 8 % SDS, 40% グリセロール, 0.02 % BPB, 20 % 2-メルカプトエタノール)と3:1で混合し試料とした。
【0056】
次いで、試料4 μLを12.5 %ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。得られた泳動ゲルを、Bio-Rad社のブロッティングシステムを用いて、セミドライでPVDF膜にプロトコールに従いブロッティングした。転写後のPVDF膜は、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル株式会社製)4 %を含むりん酸緩衝液によりブロッキングした。
抗ヒトハプトグロビンポリクロナール抗体(ウサギ)[抗ヒトHpt抗体(Poly)、Immunology Consultants Laboratory社製]を、ブロックエース4 %を含むりん酸緩衝液で500倍希釈した溶液に当該膜を浸漬し室温で1時間反応させた。次いで、反応後の当該膜を0.05 %ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート (Tween20)を含むりん酸緩衝液で3回洗浄した。
更に、ペルオキシダーゼ(POD)標識抗ウサギIg抗体(ヤギ)(Dako社製)を、ブロックエース4 %を含むりん酸緩衝液で500倍希釈した液に当該膜を浸漬し室温で1時間反応させた。次いで、0.05 % Tween20を含むりん酸緩衝液で3回洗浄した。洗浄後、当該膜を3,3'-ジアミノベンジジン四塩酸塩 (DAB) 発色剤(和光純薬工業(株)製) 10 mg及び30 %過酸化水素水10 μLを溶解したトリス緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.6)50 mLに10~30 分浸漬して発色させた。尚、発色後、精製水で当該膜を洗浄して反応を停止させた。
【0057】
試料用緩衝液1で調製した試料を用いた結果を
図1に示す。尚、図中レーン1は試料としてHpt1-1を用いた結果を、レーン2は試料としてHpt2-2を用いた結果を表す。
図1より、Hpt1-1のα1鎖(10KDa近辺のバンド)
、Hpt2-2のα2鎖(18KDa近辺
のバンド)、Hpt1-1及びHpt2-2のβ鎖(39kDa近辺のバンド)が認められた。その結果、抗ヒトHpt抗体(Poly)はα鎖(α1鎖、α2鎖)及びβ鎖に反応性を有する抗体であることが分かった。
尚、ヒトハプトグロビンをコードする遺伝子は16q22.3に存在し、2つのアレル(遺伝子座)Hpt1とHpt2が知られている。ヒトハプトグロビン遺伝子はα鎖(軽鎖)とβ鎖(重鎖)をコードしており、Hpt2ではα鎖の遺伝子内重複が生じている。このためHpt1とHpt2ではβ鎖が共通だが、Hpt2のα鎖はHpt1より長くなっている。遺伝子型としてはHpt1/Hpt1、Hpt1/Hpt2、Hpt2/Hpt2の3種類が存在する。これらに対応した3種類の蛋白Hpt1-1,Hpt2-1,Hpt2-2が産生され、血中に検出される。それぞれαβの二量体(αβ)
2を形成し、β鎖は39kDa、Hpt1のα鎖(α1鎖)は10kDa、Hpt2のα鎖(α2鎖)は18kDaであるため、分子量は計算上98~114kDaとなる。(文献:FEBS Journal 275 (2008) 5648-5656)。
【0058】
実験例2 α鎖に反応性を有する抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体(10-7抗体)の取得
(1)ハプトグロビンの作製
ヒト大腸癌細胞株 HCT116(ATCC)を、10 % fetal bovine serum (FBS; Biological Industries, Israel), 100 U/mL penicillin,及び100 μg/mL streptomycinを添加したRPMI with L-glutamine and NaHCO3(シグマアルドリッチ社製)で37 ℃、5 % CO2条件下培養した。培養用プレートはIWAKI 培養用プレート10 cmおよび15 cm (IWAKI, Tokyo, Japan) を用いた。得られた培養液を2つに分け、一方は、フコースを含有しないハプトグロビン(Hpt (-))を取得するために非フコース培養し、他方は、フコースを含有するハプトグロビン(Hpt (+))を取得するためにフコースを添加して培養した。即ち、一方は、培養上清回収する際にFBSを添加していないRPMIを用いて細胞を96時間培養した後、回収した。他方は、培養上清を回収する際にFBSを添加していないRPMIにさらに1mMのL-フコースを添加し、細胞を96時間培養した後、回収した。
上記それぞれの培養上清をPERISTA bio-mini-pump(ATTO, Japan, Tokyo)を用いてヒトハプトグロビン抗体カラムにアプライした(0.5 mL/min、4 ℃、一晩)。尚、ヒトハプトグロビン抗体カラムは、抗ヒトハプトグロビンポリクロナール抗体 (Dako社製) 7.5 mgをHi-Trap-NHS-activated HP (GEヘルスケア社製) にカップリングさせて作成した。次いで、Column Washing Buffer (50 mM Na2HPO4, 50 mM NaH2PO4, 0.5 M NaCl, pH 7.4)を1.0 mL/minで15分、抗体カラムにアプライし、非特異的なタンパクを除去した。更に、Elution buffer ( 0.1 M Glycine, pH 2.7)を0.5 mL/minで20分、抗体カラムにアプライし、Hpt(-)、又はHpt(+))を抗体カラムから溶出した。さらにNeutralization buffer (2M Tris-HCl, pH8.0)を1.0 mL加えて溶出液を中和した。溶出液をAmicon Column(Millipore, Massachusetts, U.S.A)を用いて約200倍に濃縮し、さらに脱塩を行い精製した。上記処理はすべて4 ℃で行った。
【0059】
(2)抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体の作製
上記で作製したHpt(+) 200 μgをフロイント完全アジュバンドとともにBALB/cマウスに免疫し、2週間間隔でHpt(+) 50 μg 2回免疫し、最後にHpt(+) 100 μgを免疫した。その後、摘出した脾臓細胞とミエローマ細胞(SP2/0)とをポリエチレングリコールを用いる常法(特開平5-244983に記載)により融合させ、これをGIT培地(和光純薬工業(株)製)で培養した。
【0060】
(3)抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体の一次スクリーニング
抗マウスIgG抗体(ウサギ)(シグマアルドリッチ社製)をマイクロプレート1ウェルあたり0.25 μg固相した。その後、牛血清アルブミン(BSA)やカゼイン等で、ブロッキングした。
次に、細胞培養液の上清あるいは培養液50 μLをウェルに加えて60分間静置した。その後、PBSに0.1 % Tween20を添加した洗浄液(PBS-Tween)でウェルを3回洗浄した。
更に、250 ng/mL となるようにPBSに溶解したHpt(+)あるいはHpt(-) 50 μLをウェルに加え、60分間静置した。その後、PBS-Tweenでウェルを3回洗浄した。
次に、POD標識抗ハプトグロビンポリクロナール抗体[ポリクローナル抗体はDAKO社より購入し、常法(石川栄治著、「酵素標識法」、学会出版センター,1991年、p.62の方法)によりPODで標識した]を加えて、30分間静置した。その後、PBS-Tweenでウェルを3回洗浄した。
更に、基質溶液(o-フェニレンジアミン(OPD)(和光純薬工業(株)製))50μLを加えて、30分間発色させ、1M 硫酸溶液100μLを添加し、反応停止させた。その後、吸光度計(492nm)を用いて得られた溶液の吸光度を測定した。この結果より、Hpt(+)で発光しHpt(-)で発光しなかった抗ヒトハプトグロビン抗体を選別した。
【0061】
(4)抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体の二次スクリーニング
(3)で得られた数種類の抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体を用いて、下記ウエスタンブロッティングを行い、その中からヒトハプトグロビンα鎖に反応性を有する抗体を選別した。
即ち、まず、50 mMりん酸緩衝液を用い、Hpt1-1及びHpt2-2をそれぞれ100μg/mLとなるように調整し、実験例1と同じ試料用緩衝液1と3:1で混合し試料とした。
次いで、当該試料4 μLを12.5 %ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。得られた泳動ゲルを、Bio-Rad社のブロッティングシステムを用いて、セミドライでPVDF膜にプロトコールに従いブロッティングした。転写後のPVDF膜は、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル株式会社製)4 %を含むりん酸緩衝液によりブロッキングした。POD標識した抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体を、ブロックエース4 %を含むりん酸緩衝液で200倍希釈した液に該膜を浸漬し室温で1時間反応させた。反応後の当該膜を0.05 % Tween20を含むりん酸緩衝液で3回洗浄した。洗浄後、当該膜をDAB 発色剤 (和光純薬工業(株)製) 10 mg及び30 %過酸化水素水10 μLを溶解したトリス緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.6)50 mLに10~30 分浸漬して発色させた。尚、発色後、精製水で該膜を洗浄して反応を停止させた
【0062】
この結果より、Hpt1-1のα1鎖(10KDa近辺のバンド)及びHpt2-2のα2鎖(18KDa近辺のバンド)の両方と反応性を有する抗体(10-7抗体)を選定した。即ち、α鎖に結合能を有する抗体を取得した。10-7抗体を用いた時の泳動結果を
図2に示す。尚、
図2中レーン1は試料としてHpt1-1を用いた結果を、レーン2は試料としてHpt2-2を用いた結果を表す。
【0063】
実験例3 β鎖に反応性を有するがS-S結合が切断されたヒトハプトグロビンには反応しな
い抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体(3-1抗体及び3-5抗体)の取得
実験例2(3) で得られた数種類の抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体を用いて、下記ウエスタンブロッティングを行い、β鎖に反応性を有するがS-S結合が切断されたヒトハプトグロビンには反応しない抗体を選別した。
即ち、まず50 mMリン酸緩衝液を用い、Hpt1-1及びHpt2-2をそれぞれ100 μg/mLになるように調整し、試料用緩衝液2( 0.25 M Tris-HCl pH 6.8, 8 % SDS, 40 % グリセロール,
0.02 % BPB)と3:1で混合し試料とした。また、同様に、100 μg/mLになるように調整したHpt1-1及びHpt2-2を、実験例1と同じ試料用緩衝液1 と3:1で混合し試料とした。
【0064】
次いで、試料用緩衝液2で調製した試料4 μLそれぞれを7.5 %ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。得られた泳動ゲルを、Bio-Rad社のブロッティングシステムを用いて、セミドライでPVDF膜にプロトコールに従いブロッティングした。転写後のPVDF膜は、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル株式会社製)4 %を含むりん酸緩衝液によりブロッキングした。
その後、POD標識した抗ハプトグロビンモノクロナール抗体を、ブロックエース4 %を含むりん酸緩衝液で200倍希釈した液に当該膜を浸漬し室温で1時間反応させた。反応後の当該膜を0.05 %Tween20を含むりん酸緩衝液で3回洗浄した。
洗浄後、当該膜をDAB 発色剤10 mg及び30 %過酸化水素水10 μLを溶解したトリス緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 7.6)50 mLに10~30 分浸漬して発色させた。尚、発色後、精製水で該膜を洗浄して反応を停止させた。また、試料用緩衝液1で調製した試料4 μLと12.5 %ポリアクリルアミドゲルを用いて、同様に実験した。
【0065】
試料用緩衝液2で調製した試料を用いた結果のうち3-1抗体及び3-5抗体を用いた時の結果を、
図3及び
図4に、試料用緩衝液1で調製した試料を用いた結果のうち、3-1抗体及び3-5抗体を用いた時の結果を、
図5及び
図6に示す。尚、図中レーン1は試料としてHpt1-1を用いた結果を、レーン2は試料としてHpt2-2を用いた結果を表す。
図3及び
図4より、3-1抗体及び3-5抗体を用いた場合は何れも、Hpt1-1で100KDa近辺にバンドが見られ、Hpt2-2で135KDa以上に複数のバンドが見られた。また
、図5及び図6より、試料用緩衝液
1では3-1抗体、3-5抗体でバンドが見られなかった。
試料用緩衝液2はS-S結合が切断されていないが、試料用緩衝液1は、還元剤(2-メルカプトエタノール)の作用によりS-S結合が切断されている。
従って、この結果より、S-S結合を有する構造を認識するが、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンを認識しない抗体として3-1抗体及び3-5抗体を選定した。
【0066】
実験例4 3-1抗体及び3-5抗体の認識部位
実験例3で得られた3-1抗体及び3-5抗体の認識部位を特定するため、3-1抗体または3-5抗体自身の競合評価を行った。対照としてα鎖を認識する10-7抗体自身の競合評価を行った。
【0067】
(1) 3-1抗体の競合評価
3-1抗体0.6 μgをポリスチレンビーズ1個に固相した。その後、BSAやカゼインでブロッキングし、抗体ビーズとした。また、3-1抗体を用いPODで標識し、2 %BSAを含むMES 衝液で希釈し、酵素標識3-1抗体液(0.2 nmol/L)とした。5 mmol/Lルミノールを含む溶液を基質液とし、0.02 %過酸化水素を含む溶液を過酸化水素液とした。また、2 %BSAを含むMOPS緩衝液を用い、Hpt1-1、Hpt2-2をそれぞれ1 μg/mLに希釈し試料とした。また、2 %BSAを含むMOPS緩衝液はコントロールとして使用した。
測定には自動化学発光酵素免疫分析装置SphereLight Wakoを使用し、以下の如く測定した。即ち、抗体ビーズ1個入った反応槽に試料10 μLと2 %BSAを含むMOPS緩衝液130 μLを加え、37 ℃で約7分間反応させ、りん酸緩衝液で洗浄した。次に酵素標識3-1抗体液を140 μL加え37 ℃で約7分間反応させ、りん酸緩衝液で洗浄した。更に基質液70μLと過酸化水素液70 μLを加え、発光量を測定した。各試料を用いた時の結果を表1に示した。
【0068】
(2)3-5抗体の競合評価
3-5抗体0.6 μgをポリスチレンビーズ1個に固相した。その後、BSAやカゼインでブロッキングし、抗体ビーズとした。また、3-5抗体を用いPODで標識し、2%BSAを含むMES 衝液で希釈し、酵素標識3-5抗体液(2.4 nmol/L)とした。
上記の抗体ビーズと酵素標識3-5抗体液を用いた以外は、上記(1)記載の方法と同様にして発光量を測定した。各試料を用いた時の結果を、(1)の結果と合わせて表1に示した。
【0069】
(3)10-7抗体の競合評価
10-7抗体0.6 μgをポリスチレンビーズ1個に固相した。その後、BSAやカゼインでブロッキングし、抗体ビーズとした。また、10-7抗体を用いPODで標識し、2%BSAを含むMES 衝液で希釈し、酵素標識10-7抗体液(8.2 nmol/L)とした。
上記抗体ビーズと酵素標識10-7抗体液を用いた以外は、上記(1)記載の方法と同様にして発光量を測定した。各試料を用いた時の結果を、(1)(2)の結果と合わせて表1に示した。
【0070】
【0071】
3-1抗体自身及び3-5抗体自身を組み合わせた結果については、コントロール(緩衝液)の値と比較して、Hpt1-1及びHpt2-2の発光量が上昇したが、10-7抗体自身の組み合わせた結果については、発光量の上昇が見られなかった。この結果より、近接する2量体以上のHptにおいては、α鎖を認識する2つの抗体が結合しにくいことが示唆された。これは、Hpt1-1及びHpt2-2は、α鎖が結合した複合体であるためと考えられた(下記Hpt1-1モデル及びHpt2-2モデル参照:表中の数字は個数を表す)。
尚、10-7抗体自身の競合反応において、Hpt1-1の濃度を5μg/mL、50μg/mLとした場合、発光量は3124、14944であり、Hpt2-2の濃度を5μg/mL、50μg/mLとした場合、発光量は121512、1522718であった。即ち、10-7抗体は競合により結合量は低下しているが、結合していることは確認された。
一方、3-1抗体自身、または3-5抗体自身の競合評価では、Hpt1-1、Hpt2-2ともに発光量が大きく上昇したため、α鎖を認識していないことが分かった。即ち、これら抗体はβ鎖を認識していると示唆された。
更に、3-1抗体、3-5抗体ともにHpt1-1よりもHpt2-2の発光量が大きかった。Hpt1-1は(αβ)2 で抗体は2つまでしか結合しないが(下記Hpt1-1モデル参照)、Hpt2-2は(αβ)nでβ鎖であれば抗体は複数個結合することができる(下記Hpt2-2モデル参照)。よって3-1抗体、3-5抗体ともにHpt1-1よりもHpt2-2の発光量が上昇することと一致する。
従って、実験例3と4の結果より、3-1抗体及び3-5抗体の認識部位は、S-S結合を有するβ鎖であると断定された。即ち、3-1抗体及び3-5抗体は、β鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体であると断定された。
【0072】
【0073】
実施例1-6 2種の抗体を用いたHptの測定
実験例1で認識部位を特定した抗ヒトHpt抗体(Poly)、並びに実施例2-4で得られた抗ヒトハプトグロビンモノクロナール抗体3種類(10-7抗体、3-1抗体、3-5抗体)を用いて、各抗体を組み合わせることにより、癌の判定の可否を検討した。具体的には、下記抗体の組み合わせにより、大腸癌及び膵癌の判定を行った。
【0074】
組み合わせ1:10-7抗体又は抗ヒトHpt抗体(Poly)と、3-1抗体又は3-5抗体の組み合わせ
組み合わせ2:3-1抗体又は3-5抗体と、3-1抗体又は3-5抗体の組み合わせ
【0075】
まず、10-7抗体をポリスチレンビーズ1個に0.6 μgを固相した後、BSAやカゼインでブロッキングし抗体ビーズを得た。同様に、抗ヒトHpt抗体(Poly)をポリスチレンビーズ1個に0.3 μgを固相した後、BSAやカゼインでブロッキングし抗体ビーズを得た。また、 3-1抗体をポリスチレンビーズ1個に0.6 μgを固相した後、BSAやカゼインでブロッキングし抗体ビーズを得た。
一方、3-1抗体及び3-5抗体はPOD標識し、2% BSAを含むMES 緩衝液で希釈し、酵素標識3-1抗体液(0.2 nmol/L)、酵素標識3-5抗体液(2.4 nmol/L)をそれぞれ得た。
次いで、5 mmol/Lルミノールを含む溶液を基質液とし、0.02% 過酸化水素を含む溶液を過酸化水素液とした。また、2% BSAを含むMOPS緩衝液を用い大腸癌患者、膵癌患者、健常者の血清を51~1071倍に希釈して試料とした。
【0076】
測定には自動化学発光酵素免疫分析装置SphereLight Wakoを使用し、以下の如く測定した。
10-7抗体、抗ヒトHpt抗体(Poly)、3-1抗体いずれかの抗体ビーズ1個が入った反応槽に試料10 μLと2% BSAを含むMOPS緩衝液130 μLを加え、37 ℃約7分間反応させ、りん酸緩衝液で洗浄した。次に酵素標識3-1抗体液または酵素標識3-5抗体液を140 μL加え37℃で約7分間反応させ、りん酸緩衝液で洗浄した。更に、基質液70 μLと過酸化水素液70 μLを加え、発光量を測定した。
一方、Hpt2-2を用い2%BSAを含むMOPS緩衝液で0、0.05、0.1、0.5、1、5、10 μg/mLに希釈して、上記方法と同様に測定し検量線を作成した。当該検量線に上記測定結果を当てはめ複合体1のヒトハプトグロビン(Hpt)濃度を算出した。
【0077】
これらの結果をグラフにしたものを
図7-12に示した。実施例と図、図の内容及び用いた抗体の関係は以下の通りである。尚、実施例1~6で得られたヒトハプトグロビン濃度をそれぞれHpt濃度1~6とした。
実施例1:
図7:Hpt濃度1の分布図:10-7抗体と3-1抗体
実施例2:
図8:Hpt濃度2の分布図:10-7抗体と3-5抗体
実施例3:
図9:Hpt濃度3の分布図:抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-1抗体
実施例4:
図10:Hpt濃度4の分布図:抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-5抗体
実施例5:
図11:Hpt濃度5の分布図:3-1抗体と3-1抗体
実施例6:
図12:Hpt濃度6の分布図:3-1抗体と3-5抗体
【0078】
また、実施例1~6に関し、これらの測定結果を表2に、大腸癌患者と健常者の有意差検定の結果、膵臓癌患者と健常者の有意差検定の結果、及び膵癌患者と大腸癌患者の有意差検定の結果を表3に示す。なお、有意差検定は、Steel-Dwass検定により行った、すべてのペアのノンパラメトリックな比較を表す。
【0079】
【0080】
【0081】
実施例1~6の結果から、10-7抗体又は抗ヒトHpt抗体(Poly)と、3-1抗体又は3-5抗体の組み合わせ、並びに3-1抗体と、3-1抗体又は3-5抗体の組み合わせでHptの濃度を測定すると、健常者と大腸癌患者、健常者と膵癌患者で有意差が認められることが分かった。また、各Hpt濃度は全て、健常者より大腸癌患者及び膵癌患者が高値となり、この結果より癌の判定が可能であることが分かった。
【0082】
実施例7~18 濃度比率による癌の判定
抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体を用いて複合体濃度(Hpt濃度7)を測定し、上記実施例1~6で得たHpt濃度1~6とHpt濃度7の比率を算出し、大腸癌及び膵癌の判定を行った。また、同様に、抗ヒトHpt抗体(Poly)と抗ヒトHpt抗体(Poly)を用いて複合体濃度(Hpt濃度8)を測定し、Hpt濃度1~6とHpt濃度8の比率を算出し、大腸癌及び膵癌の判定を行った。具体的には以下の如く実験を行った。
【0083】
(1) Hpt濃度7及びHpt濃度8の測定
抗ヒトHpt抗体(Poly)をポリスチレンビーズ1個に0.3μgを固相した後、BSAやカゼインでブロッキングし抗体ビーズを得た。
一方、10-7抗体及び抗ヒトHpt抗体(Poly)をPODで標識し、2% BSAを含むMES緩衝液で希釈し、酵素標識10-7抗体液(4.0 nmol/L)、酵素標識Hpt(Poly)抗体液(0.2 nmol/L)を得た。
次いで、5mmol/Lルミノールを含む溶液を基質液とし、0.02 %過酸化水素を含む溶液を過酸化水素液とした。また、2%BSAを含むMOPS緩衝液を用い大腸癌患者、膵癌患者、健常者の血清を51~1071倍に希釈して試料とした。
【0084】
測定には自動化学発光酵素免疫分析装置SphereLight Wakoを使用し、以下の如く測定した。
抗体ビーズ1個が入った反応槽に試料10 μLと2% BSAを含むMOPS緩衝液130 μLを加え、37 ℃で約7分間反応させ、りん酸緩衝液で洗浄した。次に、酵素標識10-7抗体液又は酵素標識Hpt(Poly)抗体液を140 μL加え37 ℃で約7分間反応させ、りん酸緩衝液で洗浄した。次に基質液70 μLと過酸化水素液70 μLを加え、発光量を測定した。
一方、Hpt2-2を用い、2% BSAを含むMOPS緩衝液で0、0.05、0.1、0.5、1、5、10 μg/mLに希釈して、上記方法と同様に測定し検量線を作成した。当該検量線に上記測定結果を当てはめHpt濃度を算出した。
ここで算出した抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体を用いて得た複合体の濃度(Hpt濃度)をHpt濃度7とし、抗ヒトHpt抗体(Poly)と抗ヒトHpt抗体(Poly) を用いて得た複合体の濃度(Hpt濃度)をHpt濃度8とした。
【0085】
(2) Hpt濃度1~6
Hpt濃度1~6は、上記実施例1~6で算出した濃度を用いた。
【0086】
(3) Hpt濃度1~6とHpt濃度7及び8の比率
Hpt濃度1~6を上記(1)で算出したHpt濃度7及びHpt濃度8で割り、それぞれの比率を算出した。
これらの結果をグラフにしたものを
図13-24に示した。実施例と図の関係は下記表4の通りである。
【0087】
【0088】
これら実施例の測定結果のまとめを表5に示す。また各実施例の結果に関して、大腸癌患者と健常者の有意差検定の結果、膵臓癌患者と健常者の有意差検定の結果、及び膵癌患者と大腸癌患者の有意差検定の結果を表6に示す。なお、有意差検定は、Steel-Dwass検定により行った、すべてのペアのノンパラメトリックな比較を表す。
【0089】
【0090】
【0091】
これらの結果から、10-7抗体又は抗ヒトHpt抗体(Poly)と、3-1抗体又は3-5抗体の組み合わせにより得られた複合体1の濃度、或いは、3-1抗体又は3-5抗体と、3-1抗体又は3-5抗体の組み合わせにより得られた複合体2の濃度と、3-1抗体又は3-5抗体と、3-1抗体又は3-5抗体の組み合わせにより得られた複合体3の濃度を比較すると、健常者と膵癌患者、または健常者と大腸癌患者の間に有意差が認められることが分かった。また、複合体1の濃度1/複合体3の濃度の比率、又は複合体2の濃度/複合体3の濃度の比率は、健常者より大腸癌患者と膵癌患者の方が上昇するため、癌の判定が可能であることが分かった。
【0092】
実施例19 各種実験結果の診断効率
実施例1~6で得られたHpt濃度、及び実施例7~18で得られたHpt濃度の比率のうち、健常者と膵癌患者の結果を用いて、ROC曲線によるAUC値、cutoff値、感度、特異度、及び診断効率を算出した。その結果を表7に示した。
【0093】
【0094】
膵癌の判定において、実施例1~6で得られたHpt濃度と実施例7~11で得られたHpt比率は、AUC値が0.8以上であり、良好な値であった。従って、膵癌の判定においては、Hpt濃度1~6を用いることにより、或いは、Hpt濃度1~6とHpt濃度7(抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体)との比率を用いることにより、高い精度で癌を判定できることが分かった。
また、実施例1~6で得られたHpt濃度は、感度0.600~0.640、特異度0.923~1、診断効率81.3~85.9%と特異度が高く、膵癌の判定に特に有用であることが分かった。
【0095】
(2) 健常者と大腸癌患者
実施例1~6で得られたHpt濃度、及び実施例7~18で得られたHpt濃度の比率のうち、健常者と膵癌患者の結果を用いROC曲線によるAUC値、cutoff値、感度、特異度、診断効率を表8に示した。
【0096】
【0097】
大腸癌の判定において、実施例1及び3~6で得られたHpt濃度と、実施例7~13で得られたHpt比率は、AUC値が0.8以上であり、良好な値であった。
これらの中でも、実施例7~11で得られたHpt比率は、診断効率80%以上と良好であった。従って、大腸癌の判定においては、Hpt濃度だけで判定するよりも、Hpt濃度7(抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体を用いて得たHpt濃度)を用いて比率を算出した結果の方が、診断効率が高いことが分かった。
さらにHpt比率で抗体の一方が3-1抗体であるHpt濃度1、3とHpt濃度7の組み合わせ(実施例7、9)や、抗体の一方が抗ヒトHpt抗体(Poly)であるHpt濃度3、4とHpt濃度7の組み合わせ(実施例9、10)は、特異度が良好なだけでなく(0.795~0.821)、感度(0.878~1)が特異度よりも高く、診断効率は85.0~90.0%と特に良好であった。
特に、Hpt濃度3(抗ヒトHpt抗体(Poly)と3-1抗体)とHpt濃度7(抗ヒトHpt抗体(Poly)と10-7抗体)の組み合わせである実施例9の比率が最も良好で、診断効率は90.0%であった。
尚、上記実施例7、9、10における大腸癌のステージ別分布図を
図25~27に示した。その結果、大腸癌のステージに関わらず検出が可能であり、早期大腸癌の検出にも有用であることが分かった。