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特許7064213食品素材、食品素材の製造方法及び血圧上昇抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】食品素材、食品素材の製造方法及び血圧上昇抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/40 20160101AFI20220427BHJP
   A61K 35/618 20150101ALI20220427BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220427BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20220427BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20220427BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220427BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20220427BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220427BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20220427BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A23L17/40 C
A61K35/618
A61P9/12
A61P43/00 116
A61P43/00 111
A61K35/744
A61K35/742
A61K35/74 G
A61K35/747
A23L33/10
C12N1/14 A
C12N1/20 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018072316
(22)【出願日】2018-04-04
(65)【公開番号】P2019180266
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】595078792
【氏名又は名称】ブルドックソース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090402
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 法明
(72)【発明者】
【氏名】濱田 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】藤村 優志
(72)【発明者】
【氏名】川上 瑞規
(72)【発明者】
【氏名】志村 茉莉子
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106490511(CN,A)
【文献】特表2007-529206(JP,A)
【文献】特開平06-197786(JP,A)
【文献】特開平07-289281(JP,A)
【文献】特開2008-133251(JP,A)
【文献】鮑肝を利用した新規発酵調味料の製造と機能性に関する研究,第61回日本食品保蔵科学会大会講演要旨集,2012年,p.41
【文献】北海道大學水産學部研究彙報,1965年,16(2),pp.114-119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P,C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/BIOSIS/MEDLINE/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アワビの肝を乳酸菌を用いて発酵させて得られた発酵物からなり、該乳酸菌がLactobacillus casei、Lactobacillus pentosus又はPediococcus pentosaceusからなり、該発酵物がアンジオテンシン変換酵素(以下「ACE」という。)阻害活性を有する成分を含んでいることを特徴とする食品素材。
【請求項2】
前記乳酸菌が、乳酸菌単独、或いは乳酸菌と納豆菌及び/又は麹菌との組合せで用いられていることを特徴とする請求項1に記載の食品素材。
【請求項3】
アワビの肝を乳酸菌を用いて発酵させて発酵物を得る発酵工程を備え、該乳酸菌がLactobacillus casei、Lactobacillus pentosus又はPediococcus pentosaceusからなり、該発酵物がACE阻害活性を有する成分を含んでいることを特徴とする食品素材の製造方法
【請求項4】
前記乳酸菌が、乳酸菌単独、或いは乳酸菌と納豆菌及び/又は麹菌との組合せで用いられていることを特徴とする請求項3に記載の食品素材の製造方法
【請求項5】
前記アワビの肝の濃度が10~20 wt%であることを特徴とする請求項3に記載の食品素材の製造方法。
【請求項6】
アワビの肝を乳酸菌を用いて発酵させて得た発酵物の水抽出物からなり、該乳酸菌がLactobacillus casei、Lactobacillus pentosus又はPediococcus pentosaceusからなり、該水抽出物がACE阻害活性を有する成分を含んでいることを特徴とする血圧上昇抑制剤
【請求項7】
前記乳酸菌が、乳酸菌単独、或いは乳酸菌と納豆菌及び/又は麹菌との組合せで用いられていることを特徴とする請求項6に記載の血圧上昇抑制剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アワビの内臓(「アワビの肝」或いは「アワビ肝」ともいう。)を微生物を用いて発酵させてなる食品素材、食品素材の製造方法及び血圧上昇抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アワビはミミガイ科の大型の巻貝の総称である。アワビには、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビ、エゾアワビ、トコブシ、ミミガイなどの種類がある。アワビは水深5m~20m程度の岩礁に棲息し、主に、アラメ、ワカメ、コンブなどの褐藻類を食べて生きている。
【0003】
アワビは高級食材であるが、近年、養殖が盛んに行われ、市場に出回っている量も多く、安価になってきているので、かなりの量が消費されている。アワビは主として肉の部分が食用に供され、肝(内臓)の部分はあまり食用に供されない。アワビの肝の部分の割合は、貝殻を除く全重量の約15wt%?34wt%と、かなり大きい。このため、利用されていないアワビの肝の部分の量もかなりの量になる。
【0004】
アワビの肝の部分は、タンパク質やアミノ酸等を豊富に含んでいるので、工夫すれば食品、健康食品又は医薬品等の原料として有効に利用することができるはずである。また、アワビの肝の部分を有効に利用することができれば、アワビの肝の部分の廃棄等の処理費用も節約できるはずである。しかし、アワビの肝の部分は、現状では、一部肥料としての利用はあるが、殆どが有効に利用されることなく廃棄されている。
【0005】
本発明の発明者等は、アワビの肝を有効に利用する方法を鋭意研究し、アワビの肝を微生物を用いて発酵させれば、発酵によって得られた発酵物中に健康増進成分が生成され、アワビの肝の付加価値が高くなり、アワビの肝が有効に利用されるようになるのではないかと考え、本発明を成すに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-285873号公報
【文献】特開平7-285874号公報
【文献】特開2005-68038号公報
【文献】特開2002-88098号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】エゾアワビの肝臓における抗酸化酵素と熱ショック蛋白の遺伝子発現に対する食餌由来亜鉛の効果Effect of dietary zinc on gene expression of antioxidant enzymes and heat shock proteins in hepatopancreas of abalone Haliotis discus hannai ; (WU Chenglong et. al. Comp Biochem Physiol Toxicol Phamacol, Vol. 154, No.1, P1-6, 2011.06)
【文献】アワビ肝醤油の香気改善への発酵条件の影響(QI Meng, 菅原悦子:日本家政学会大会研究発表要旨集、Vol. 68th, p53, 2016.5.1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、アワビの肝を微生物を用いて発酵させることにより健康増進に寄与する成分を発酵物中に作らせて、アワビの肝の付加価値を高めさせ、また、廃棄されるアワビの肝の量を減らして、アワビの肝の廃棄費用を節減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アワビの肝を微生物を用いて発酵させ、この発酵によって得られた発酵物中にアンジオテンシン変換酵素(以下「ACE」という。)阻害活性を有する成分を生成させ、アワビの肝の付加価値を高めたことを最も主要な特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明に係る食品素材は、アワビの肝を微生物によって発酵させて得られた発酵物からなり、該発酵物がACE阻害活性を有する成分を含んでいることを特徴とする。また、本発明に係る食品素材の製造方法は、アワビの肝を微生物によって発酵させて発酵物を得る発酵工程を備え、該発酵物がACE阻害活性を有する成分を含んでいることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る血圧上昇抑制剤は、アワビの肝を微生物によって発酵させて得られた発酵物の水抽出物からなり、該水抽出物がACE阻害活性を有する成分を含んでいることを特徴とする。この血圧上昇抑制剤は、アワビの肝を微生物によって発酵させて発酵物を得る発酵工程と、該発酵工程で得られた発酵物からACE阻害活性を有する成分を水等で抽出する抽出工程とを備えた方法により製造される。
【0012】
ここで、微生物としては乳酸菌、納豆菌及び/又は麹菌を使用することができる。これらの菌は歴史的に長期に亘って安全に食されている実績があり、食品の発酵に使用する菌としての安全性が高いからである。なお、使用する微生物としては、乳酸菌単独、或いは乳酸菌と納豆菌及び/又は麹菌との組合せが好ましい。
【0013】
また、本発明で使用することができる乳酸菌として、例えばLactobacillus casei、Lactobacillus pentosus又はPediococcus pentosaceusを挙げることができるが、本発明で使用することができる乳酸菌はこれらの乳酸菌に限定されるものではなく、ACE阻害活性を有する成分を効率的に産生することができる乳酸菌であれば、上記乳酸菌以外の乳酸菌を使用してもよい。また、乳酸菌を用いてアワビの肝を発酵させる場合、培地中のアワビの肝の濃度は10~20 wt%とするのが好ましい。
【0014】
また、本発明で使用することができる納豆菌として、例えばBacillus subtilis var. nattoを挙げることができるが、本発明で使用することができる納豆菌はこれらの納豆菌に限定されるものではなく、ACE阻害活性を有する成分を効率的に産生することができる納豆菌であれば、上記納豆菌以外の納豆菌を使用してもよい。
【0015】
また、本発明で使用することができる麹菌として、例えばAspergillus luchuensis、Aspergillus kawachii、Aspergillus oryzaeを列挙することができるが、本発明で使用することができる麹菌はこれらの麹菌に限定されるものではなく、ACE阻害活性を有する成分を効率的に産生することができる麹菌であれば、上記麹菌以外の麹菌を使用してもよい。
【0016】
また、ACE阻害活性とはACEの働きを阻害する活性をいう。ACEの働きを阻害すると、アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIが生成され難くなる。アンジオテンシンIIは、血管を収縮させたり、腎臓でのナトリウムや水分の排出を抑えて血液量を増やし、血圧を上昇させる働きがある。従って、ACEの働きを阻害して、アンジオテンシンIIの生成を阻害すると、アンジオテンシンIIに起因する血圧の上昇が抑制されることになる。
【0017】
また、本発明にかかる食品素材からは、例えば調味料、ドレッシング又は健康食品等の加工食品を作ることができるが、本発明にかかる食品素材から作ることができる加工食品はこれらのものに限定されるものではなく、飲食摂取することができるものであれば如何なるものでもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、アワビの肝を微生物を用いて発酵させることによってACE阻害活性を有する成分を発酵物中に産生させるので、あまり利用価値が無かったアワビの肝を付加価値の高い食品素材、食品又は医薬品等の原料として使用することができるという利点がある。
【0019】
また、本発明は、あまり利用価値が無かったアワビの肝を付加価値の高い食品素材、食品又は医薬品等の原料として利用することができるので、アワビの肝を大量に廃棄しなくて済み、従って、アワビの肝の廃棄費用を節約することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は発酵アワビ肝及び未発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性のIC50値(μg/ml)を示すグラフである。
図2図2は発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害率(%)を発酵に使用した乳酸菌毎に示すグラフである。
図3図3は各種乳酸菌による発酵で得た発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性のIC50値(μg/ml)及び未発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性のIC50値(μg/ml)を示すグラフである。
図4図4は麹菌Aspergillus oryzaeによる発酵で得た発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性のIC50値(μg/ml)と培地のアワビ肝の濃度との関係を示すグラフである。
図5図5は乳酸菌Lactobacillus pentosusによる発酵で得た発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性のIC50値(μg/ml)と培地のアワビ肝の濃度との関係を示すグラフである。
図6図6は乳酸菌Lactobacillus caseiによる発酵で得た発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性のIC50値(μg/ml)と培地のアワビ肝の濃度との関係を示すグラフである。
図7図7は乳酸菌Lactobacillus pentosusの培養日数とACE阻害率(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
アワビの肝の付加価値を高めてアワビの肝を有効に活用させるという目的を、アワビの肝を微生物を用いて発酵させるという簡単な手段で、発酵物中に有害な成分を作らせることなく実現した。
【実施例1】
【0022】
(1)アワビ肝粉末の作製
-80℃で保管していたオーストラリア産の冷凍アワビ肝を真空凍結乾燥させ、この真空凍結乾燥によって得られた乾燥状態のアワビ肝を家庭用ミキサーで粉砕し、アワビ肝の乾燥粉末を作製した。
【0023】
(2)アワビ肝の発酵
(イ)乳酸菌
ILS培地を用いて乳酸菌Lactobacillus pentosus(L.pentosus)を37℃の温度条件で1日、静置した状態で前培養し、前培養液(乳酸菌)を得た。
【0024】
次に、フラスコに、10 wt%量のアワビ肝の乾燥粉末と、2 wt%量のグルコースと、蒸留水を入れ、pHを6.8に調整し、121℃で15分間、加熱・滅菌し、常温に冷却し、滅菌状態の乳酸菌用のアワビ肝培地を得た。
【0025】
次に、この乳酸菌用のアワビ肝培地に1 wt%量の前培養液(乳酸菌)を添加し、37℃で2日間、静置培養し、培養液(乳酸菌)を得た。
【0026】
(ロ)納豆菌
SP培地を用いて納豆菌Bacillus subtilis var. natto(B.subtilis var. natto)を30℃の温度条件で1日、前培養して前培養菌(納豆菌)を得た。
【0027】
次に、バッフル付きフラスコに蒸留水と5 wt%量のアワビ肝粉末を入れ、121℃で15分間、加熱・滅菌し、常温に冷却し、滅菌状態の納豆菌用のアワビ肝培地を得た。
【0028】
次に、この納豆菌用のアワビ培地に1wt%量の前培養菌(納豆菌)を植菌し、30℃、6日、160rpmで振盪培養し、培養液(納豆菌)を得た。
【0029】
(ハ)麹菌
PDB培地を用いて麹菌Aspergillus oryzae(A.oryzae)を28℃の温度条件で1日、前培養して前培養菌(麹菌)を得た。
【0030】
バッフル付きフラスコに蒸留水と1wt%量のアワビ肝粉末を入れ、121℃で15分間、加熱して滅菌し、常温に冷却し、滅菌状態の麹菌用のアワビ肝培地を得た。
【0031】
この麹菌用のアワビ肝培地に1wt%量の前培養菌(麹菌)を植菌し、28℃、6日、160rpmで振盪培養し、培養液(麹菌)を得た。
【0032】
(3)ACE阻害活性成分の水抽出
上記の発酵培養液、未発酵培養液(アワビ肝培地)を-20℃で凍結させ、真空凍結乾燥させ、発酵アワビ肝試料、未発酵アワビ肝試料を得た。
【0033】
次に、発酵アワビ肝試料、未発酵アワビ肝試料について、蒸留水を添加し、50℃の恒温槽中で30分間振盪し、遠心分離し、上清を回収した。
【0034】
この上清の回収操作を3回繰り返し、3回分の上清をまとめ、発酵アワビ肝の水抽出物、未発酵アワビ肝の水抽出物とした。
【0035】
(4)ACE阻害活性の測定
ACE Kit-WST(製品名、同仁化学研究所)を用いて発酵アワビ肝の水抽出物と未発酵アワビ肝の水抽出物の吸光度を求め、得られた吸光度を以下の式に入れて発酵アワビ肝の水抽出物と未発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害率(%)を求めた。
【0036】
コントロールには各抽出物の代わりに蒸留水を用いた。
各抽出物のブランクにはEnzyme working solutionの代わりに蒸留水を用いた。
ACE阻害率(%)=〔[(C-Cb)-(S-Sb)]/(C-Cb)〕×100
C:コントロールの吸光度、
Cb:コントロールのブランクの吸光度、
S:各抽出物の吸光度、
Sb:各抽出物のブランクの吸光度
【0037】
そして、ACE阻害率50%のときの発酵アワビ肝の水抽出物と未発酵アワビ肝の水抽出物の濃度(μg/ml)すなわちIC50(μg/ml)を求めた。
【0038】
発酵アワビ肝及び未発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性のIC50値(μg/ml)は図1に示す通りであった。
【0039】
(5)考察
(イ)発酵アワビ肝の水抽出物は、乳酸菌、納豆菌、麹菌のいずれの菌による発酵に由来するものでも、未発酵アワビ肝の水抽出物と比較して、かなりのACE阻害活性を有することが判る。ここで、IC50値(μg/ml)は小さければ小さいほどACE阻害活性が高い。
【0040】
(ロ)乳酸菌による発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性は他の菌(納豆菌、麹菌)による発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性よりかなり高いことが判る。
【実施例2】
【0041】
実施例1で使用したアワビ肝粉末と同じアワビ肝粉末を下記の乳酸菌で、実施例1と同様の条件で発酵させ、得られた培養液を実施例1と同様の方法で水抽出し、得られた水抽出物のACE阻害率(%)を実施例1と同様の方法によって得た。得られたACE阻害率(%)は図2に示す通りであった。
【0042】
Lactobacillus plantarum(L. plantarum)
Lactobacillus acidophilus(L. acidophilus)
Lactobacillus brevis(L. brevis)
Lactobacillus casei(L. casei)
Lactobacillus helveticus(L. helveticus)
Lactobacillus gasseri(L. gasseri)
Pediococcus pentosaceus(P. pentosaceus)
Enterococcus faecalis(E. faecalis)
Streptococcus thermophilus(S. thermophilus)
Lactococcus lactis(L. lactis)
Leuconostoc mesenteroides(L. mesenteroides)
Lactobacillus kefiri(L. kefiri)
Lactobacillus zeae(L. zeae)
Lactobacillus pentosus(L. pentosus)
【0043】
図2に示された結果から、Lactobacillus casei、Lactobacillus pentosusおよびPediococcus pentosaceusによる発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害率(%)が、他の乳酸菌よる発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害率(%)より高いことが判る。
【実施例3】
【0044】
実施例2で得られたACE阻害率(%)から下記の乳酸菌による発酵アワビ肝の水抽出物と未発酵アワビ肝の水抽出物のACE阻害活性のIC50値を求めた。
【0045】
Lactobacillus casei (L.casei)
Pediococcus pentosaceus (P.pentosaceus)
Lactobacillus pentosus (L.pentosus )
【0046】
ACE阻害活性のIC50値(μg/ml)は図3に示す通りであった。図3に示されたIC50値(μg/ml)から、Lactobacillus casei (L.casei)による発酵アワビ肝の水抽出物が最もACE阻害活性が高いことが判った。
【実施例4】
【0047】
実施例1と同様の条件で麹菌(Aspergillus oryzae)を前培養した。そして、蒸留水に1wt%、3wt%、5wt%、20wt%量のアワビ肝粉末を添加し、121℃で15分間、加熱・滅菌し、常温まで冷却し、滅菌した状態の麹菌用のアワビ肝培地を各々得た。
【0048】
次に、この麹菌用の各アワビ肝培地に1 wt%量の前培養菌(麹菌)を植菌し、28℃で6日間、160rpmで振盪培養し、培養液を得た。
【0049】
次に、この培養液について実施例1と同様にしてACE阻害活性のIC50値(μg/ml)を求めた。ACE阻害活性のIC50値(μg/ml)は図4に示す通りであった。
【0050】
図4に示された結果から、アワビ内臓の濃度1 wt%で発酵させたものが最もIC50値(μg/ml)が小さく、ACE阻害活性が最も高いことが判る。
【実施例5】
【0051】
実施例1と同様の条件で乳酸菌Lactobacillus pentosusを前培養した。
【0052】
また、フラスコに蒸留水と2 wt%、5 wt%、10 wt%量のアワビ肝粉末と、2 wt%量のグルコースを入れ、121℃で15分間、加熱・滅菌し、常温に冷却し、滅菌状態の乳酸菌用のアワビ肝培地を各々得た。
【0053】
次に、この乳酸菌用の各アワビ肝培地に1 wt%量の前培養液(乳酸菌)を添加し、30℃で1日間、静置培養し、培養液を得た。
【0054】
次に、この培養液について実施例1と同様にしてACE阻害活性のIC50値(μg/ml)を求めた。ACE阻害活性のIC50値(μg/ml)は図5に示す通りとなった。
【0055】
図5に示された結果から、アワビ内臓濃度2 wt%、5 wt%、10 wt%の中では10 wt%で発酵させたものが最も高いACE阻害活性を示すことが判る。
【実施例6】
【0056】
実施例1と同一の条件で乳酸菌(Lactobacillus casei)を前培養した。
【0057】
また、各蒸留水に5 wt%、10 wt%、15 wt%、20 wt%量のアワビ肝粉末と2 wt%量のグルコースをそれぞれ入れ、121℃で15分間、加熱・滅菌し、常温に冷却し、乳酸菌用のアワビ肝培地を各々得た。
【0058】
次に、乳酸菌用の各アワビ肝培地に1 wt%量の前培養液(乳酸菌)を添加し、30℃で、1日間、静置培養し、培養液を得た。
【0059】
次に、培養液について実施例1と同様にしてACE阻害活性のIC50値(μg/ml)を求めた。ACE阻害活性のIC50値(μg/ml)は図6に示す通りとなった。
【0060】
アワビの内臓濃度5 wt%、10 wt%、15 wt%、20 wt%の中では20 wt%で発酵させたものが最も高いACE阻害活性を有することが判った。但し、10 wt%、15 wt%、20 wt%で発酵させたものの中ではあまり顕著な差がみられなかった。
【0061】
実施例5及び実施例6の結果から、乳酸菌を用いてアワビ肝を発酵させる場合は、培地中のACE阻害活性を有する成分を高めるために、培地中のアワビ肝の濃度を10~20 wt%とするのが好ましいと思われる。
【実施例7】
【0062】
実施例1と同様の条件で乳酸菌(Lactobacillus pentosus)を前培養した。
【0063】
蒸留水に10 wt%量のアワビ肝粉末と2 wt%量のグルコースを入れ、pHを6.8に調整し、121℃で15分間、加熱・滅菌し、常温に冷却し、乳酸菌用のアワビ肝培地を各々得た。
【0064】
このアワビ肝培地に1 wt%量の前培養液(乳酸菌)を添加し、30℃で7日間、静置培養し、前培養液(乳酸菌)添加後0、1、2、3、4、5、6、7日目の各培養液をサンプリングし、各日毎の培養液とした。
【0065】
次に、各日毎の培養液について実施例1と同様にしてACE阻害率(%)を求めた。ACE阻害率(%)は図7に示す通りであった。
【0066】
図7に示された結果によれば、乳酸菌による培養では、ACE阻害率(%)は、培養1日目に大きく上昇し、培養5日目に最高値をとった。
【0067】
本実施例では、培養5日目でACE阻害率(%)が最高値となっているが、培養2日目でも十分に高いACE阻害率(%)が得られているので、実際の事業としてアワビ肝を培養する場合は2日程度でも十分である。そして、2日程度というのは、実施例1に記載されているように、納豆菌や麹菌の培養に要する日数6日(実施例1、4参照)と比べるとかなり短い期間であり、培養日数としては効率的な日数と思われる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7