IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

特許7064613全固体二次電池用積層部材の製造方法及び全固体二次電池の製造方法
<>
  • 特許-全固体二次電池用積層部材の製造方法及び全固体二次電池の製造方法 図1
  • 特許-全固体二次電池用積層部材の製造方法及び全固体二次電池の製造方法 図2
  • 特許-全固体二次電池用積層部材の製造方法及び全固体二次電池の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】全固体二次電池用積層部材の製造方法及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20220427BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220427BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220427BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220427BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/139
H01M4/66 A
H01M10/0562
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020548343
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2019035316
(87)【国際公開番号】W WO2020059550
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018173571
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】福永 昭人
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-251225(JP,A)
【文献】特開2010-113819(JP,A)
【文献】特開2000-323131(JP,A)
【文献】特開2007-227362(JP,A)
【文献】特開2015-195183(JP,A)
【文献】特開平11-25955(JP,A)
【文献】国際公開第2007/135790(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 4/66
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順に有する積層体と、該積層体の正極活物質層及び負極活物質層の各表面に配された集電体層とを含む全固体二次電池用積層部材の製造において、
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも1つの活物質層と、該活物質層に接する集電体層との積層構造の形成を、活物質を含むスラリーと、集電体層の構成材料を含むスラリーとを用いたウェットオンウェット塗布により行うことを含む、全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項2】
前記全固体二次電池用積層部材が、金属箔からなる第1の集電体層と、正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層と、第2の集電体層とがこの順に積層された構造であり、該正極活物質層と、該固体電解質層と、該負極活物質層と、第2の集電体層との積層構造の形成を、正極活物質を含むスラリーと、固体電解質を含むスラリーと、負極活物質を含むスラリーと、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーの、前記の金属箔からなる第1の集電体層上への同時重層塗布により行う、請求項1に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項3】
前記全固体二次電池用積層部材が、金属箔からなる第1の集電体層と、負極活物質層と、固体電解質層と、正極活物質層と、第2の集電体層とがこの順に積層された構造であり、該負極活物質層と、該固体電解質層と、該正極活物質層と、第2の集電体層との積層構造の形成を、負極活物質を含むスラリーと、固体電解質を含むスラリーと、正極活物質を含むスラリーと、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーの、前記の金属箔からなる第1の集電体層上への同時重層塗布により行う、請求項1に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項4】
前記全固体二次電池用積層部材が、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で積層した積層体と、該積層体の正極活物質層又は負極活物質層に接して配された集電体層とから構成される積層ユニットを、金属箔からなる集電体層上に、集電体層同士が接しないように複数段積み重ねた積層構造であり、
前記の積層ユニットを複数段積み重ねた積層構造の形成を、正極活物質を含むスラリーと、固体電解質を含むスラリーと、負極活物質を含むスラリーと、前記積層ユニットを構成する集電体層の構成材料を含むスラリーの、前記の金属箔からなる集電体層上への同時重層塗布により行う、請求項1に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項5】
前記ウェットオンウェット塗布の後に焼成する工程を含まない、請求項1に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項6】
前記同時重層塗布の後に焼成する工程を含まない、請求項2~4のいずれか1項に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項7】
前記ウェットオンウェット塗布の後に300℃を越える温度に付す工程を含まない、請求項1に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項8】
前記同時重層塗布の後に300℃を越える温度に付す工程を含まない、請求項2~4のいずれか1項に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項9】
ウェットオンウェット塗布により形成される集電体層が粒子状バインダーを含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項10】
前記固体電解質層を構成する固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、請求項1~のいずれか1項に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法により全固体二次電池用積層部材を得て、該全固体二次電池用積層部材を用いて全固体二次電池を得る、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用積層部材の製造方法及び全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電又は過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、安全性と信頼性の更なる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は、負極、電解質及び正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性ないし信頼性を大きく改善することができ、また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した積層構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、各種電子機器、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
全固体二次電池の基本的な層構成は、正極層と固体電解質層と負極層とからなる積層構造である。全固体二次電池の正極は、一般的には、金属箔からなる正極集電体層と正極活物質層とが積層され、正極活物質層が固体電解質層と接する構成をとる。負極も同様に、金属箔からなる負極集電体層と負極活物質層とが積層された形態が一般的であり、負極活物質層が固体電解質層と接する構成をとる。このような構成の正極及び負極では、集電体層となる金属箔と、固体粒子からなる活物質層との間の密着性の向上には制約があり、集電体層と活物質層との間の電子伝導性が十分でなかったり、集電体層と活物質層との間に剥離が生じたりすることがある。
この問題に対処した技術として、特許文献1には、第1集電体層、第1活物質層、電解質層、第2活物質層及び第2集電体層の各機能層のすべてを塗布により形成することが記載されている。特許文献1記載の技術によれば、集電体層と活物質層との間の密着性を高めることができ、特性の良好な電池を製造することができるとされる。
【0004】
全固体二次電池は、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層をこの順で積層した積層体と、この積層体の正極活物質層又は負極活物質層に接して配された集電体層とから構成される積層構造を1ユニットとして、このユニットを、金属箔等の集電体上に、集電体層同士が接しないように複数段積み上げた複数ユニットの構成が知られている。このような複数ユニット構成とすることにより電池の出力を高めることができる。複数ユニット構成にはモノポーラ型とバイポーラ型が知られている。モノポーラ型は、正極集電体層の両側に正極活物質層が配され、負極集電体層の両側には負極集電体が配される。つまり、集電体層の両側に配される活物質層は同種である。他方、バイポーラ型は、正極活物質層と負極活物質層が1つの集電体層の両側に配された構造をとる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-64487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは電池性能のさらなる向上を目的に、上記特許文献1記載の技術について検討を重ねた。その結果、特許文献1に記載されるように、集電体層の構成材料を含む塗布液(スラリー)を調製し、この塗布液を活物質層上に塗布して集電体層を形成した場合でも、集電体層と活物質層との間の密着性を、近年要求される充放電時の低抵抗(充放電時における集電体層と活物質層間の電子伝導性の向上)を十分に満足するレベルまで高めるには至らず、電池性能の向上には制約があることがわかってきた。
【0007】
本発明は、全固体二次電池の構成部材として用いることにより、充放電時の抵抗を十分に抑えた全固体二次電池を得ることができる全固体二次電池用積層部材の製造方法を提供することを課題とする。また本発明は、充放電時の抵抗を十分に抑えた全固体二次電池を得ることができる全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順に有する積層体と、この積層体の正極活物質層及び負極活物質層の各表面に配された集電体層とを含む全固体二次電池用積層部材の作製において、正極活物質層又は負極活物質層と、それに接する集電体層との積層構造の形成をウェットオンウェット塗布により行い、得られた全固体二次電池用積層部材を全固体二次電池に適用することにより、抵抗を十分に抑えた全固体二次電池が提供できることを見出した。本発明はこの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
〔1〕
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順に有する積層体と、この積層体の正極活物質層及び負極活物質層の各表面に配された集電体層とを含む全固体二次電池用積層部材の製造において、
上記正極活物質層及び上記負極活物質層の少なくとも1つの活物質層と、この活物質層に接する集電体層との積層構造の形成をウェットオンウェット塗布により行うことを含む、全固体二次電池用積層部材の製造方法。
〔2〕
上記全固体二次電池用積層部材が、金属箔からなる第1の集電体層と、正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層と、第2の集電体層とがこの順に積層された構造であり、正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層と、第2の集電体層との積層構造の形成を、上記の金属箔からなる第1の集電体層上への同時重層塗布により行う、〔1〕に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
〔3〕
上記全固体二次電池用積層部材が、金属箔からなる第1の集電体層と、負極活物質層と、固体電解質層と、正極活物質層と、第2の集電体層とがこの順に積層された構造であり、負極活物質層と、固体電解質層と、正極活物質層と、第2の集電体層との積層構造の形成を、上記の金属箔からなる第1の集電体層上への同時重層塗布により行う、〔1〕に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
〔4〕
上記全固体二次電池用積層部材が、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で積層した積層体と、この積層体の正極活物質層又は負極活物質層に接して配された集電体層とから構成される積層ユニットを、金属箔からなる集電体層上に、集電体層同士が接しないように複数段積み重ねた積層構造であり、
上記の積層ユニットを複数段積み重ねた積層構造の形成を、上記の金属箔からなる集電体層上への同時重層塗布により行う、〔1〕に記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
〔5〕
ウェットオンウェット塗布により形成される集電体層が粒子状バインダーを含有する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
〔6〕
上記固体電解質層を構成する固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法。
〔7〕
〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の全固体二次電池用積層部材の製造方法により全固体二次電池用積層部材を得て、この全固体二次電池用積層部材を用いて全固体二次電池を得る、全固体二次電池の製造方法。
【0010】
本発明の説明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の全固体二次電池用積層部材の製造方法によれば、全固体二次電池の構成部材として用いることにより、充放電時の抵抗を十分に抑えた全固体二次電池を得ることができる全固体二次電池用積層部材を提供することができる。また、本発明の全固体二次電池の製造方法によれば、充放電時の抵抗を十分に抑えた全固体二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、モノポーラ型の全固体二次電池における層構成を模式化して示す縦断面図である。
図2図2は、バイポーラ型の全固体二次電池における層構成を模式化して示す縦断面図である。
図3図3は、全固体二次電池の基本的な構成を模式化して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の全固体二次電池用積層部材の製造方法及び全固体二次電池の製造方法について、好ましい実施形態を説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外は、これらの形態に限定されるものではない。
【0014】
[全固体二次電池用積層部材の製造方法]
本発明の全固体二次電池用積層部材の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称す。)は、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順に有する積層体と、この積層体の正極活物質層及び負極活物質層の各表面に配された集電体層とを含む全固体二次電池用積層部材(以下、「本発明の積層部材」とも称す。)を得るための方法である。
本発明の製造方法では、上記正極活物質層及び上記負極活物質層の少なくとも1つの活物質層と、この活物質層に接する集電体層との積層構造の形成を、ウェットオンウェット塗布により行うことを含む。
本発明において「ウェットオンウェット塗布」とは、複数の塗膜を乾燥させることなく(すなわち湿潤状態で)塗り重ねる塗布方式を意味する。より詳細には、形成した塗膜の残留溶媒量が5質量%以上の状態で、この塗膜上に別の塗膜を形成することを意味する。例えば逐次塗布による塗布方法では、形成した塗膜が一定程度乾燥しても、この塗膜の残留溶媒量が5質量%以上の状態で、その上に別の塗膜を形成する場合、「ウェットオンウェット塗布」である。また、異なる層を形成するための複数の塗布液(スラリー)を、塗布工程の段階から同時に塗布装置に供給して、積層した複数の塗布液を同時に基材上に塗布する同時重層塗布も「ウェットオンウェット塗布」の一形態である。
【0015】
本発明の積層部材が採り得る好ましい積層構造として、下記(a)~(c)の積層構造を挙げることができる。
【0016】
(a)金属箔からなる第1の集電体層/正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層/第2の集電体層 をこの順に有する積層構造。
(b)金属箔からなる第1の集電体層/負極活物質層/固体電解質層/正極活物質層/第2の集電体層 をこの順に有する積層構造。
(c)正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で積層した積層体と、この積層体の正極活物質層又は負極活物質層に接して配された集電体層とから構成される積層ユニットを、金属箔からなる集電体層上に、集電体層同士が接しないように複数段積み重ねた積層構造。
【0017】
上記(a)において、金属箔からなる第1の集電体層は、塗膜の形成の際の基材となる。例えば、正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層/第2の集電体層を同時重層塗布により形成する場合、金属箔からなる第1の集電体層上に同時重層塗布が行われる。このことは(b)についても同様である。上記(a)及び(b)の積層構造は、後述する図3に示す全固体二次電池の層構成に対応している。
【0018】
上記(c)において、1つの積層ユニットにおいて、積層ユニットを構成する集電体層は、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で積層した積層体の、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか一方の層に接して配されている。集電体層を有しない活物質層の表面には、この表面に接する別の積層ユニットの集電体層が配される。
すなわち、積層ユニットの複数段の積み重ねは、積層ユニットの集電体同士が接しない形態とし、ある積層ユニットの集電体層表面には、別の積層ユニットの活物質層が配される形態とする。
積層ユニットを複数段の積み重ねた積層構成として、モノポーラ型の積層構成と、バイポーラ型の積層構成がある。モノポーラ型の積層構成では、積層ユニットが積み重ねられた形態において、積層ユニットを構成する集電体層の両面に同種の活物質層が配される。つまり、1つの集電体層の片面に正極活物質層が配される場合、他方の面にも正極活物質層が配される。同様に、1つの集電体層の片面に負極活物質層が配される場合、他方の面にも負極活物質層が配される。
モノポーラ型の積層構成の一例を図1に示す。このモノポーラ型の積層構成(積層部材101)は、2種類の積層ユニットから構成される。すなわち、正極活物質層2と固体電解質層3と負極活物質層4とをこの順で積層した積層体の、正極活物質層2に接して集電体層5が設けられたユニット(図1中のB)と、正極活物質層2と固体電解質層3と負極活物質層4とをこの順で積層した積層体の、負極活物質層4に接して集電体層5が設けられたユニット(図1中のA)とを、集電体層同士が接しないように、集電体層(金属箔)1上に複数段積み重ねた構造(図1は3段積み重ねた構造)とすることにより、モノポーラ型の積層構成とすることができる。
他方、バイポーラ型の積層構成では、積層ユニットが積み重ねられた形態において、積層ユニットを構成する集電体層の両面に互いに異種の活物質層が配される。すなわち、1つの集電体層の片面に正極活物質層が配される場合、他方の面には負極活物質層が配される。
バイポーラ型の積層構成の一例を図2に示す。このバイポーラ型の積層構成(積層部材102)は、1種類の積層ユニットから構成される。すなわち、正極活物質層2と固体電解質層3と負極活物質層4とをこの順で積層した積層体の、負極活物質層4に接して集電体層5が設けられたユニット(図2中のA)を、集電体層同士が接しないように、集電体層(金属箔)1上に複数段積み重ねた構造(図2は3段積み重ねた構造)とすることにより、バイポーラ型の積層構成とすることができる。また、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で積層した積層体の、正極活物質層に接して集電体層が設けられたユニットを、集電体層同士が接しないように、集電体層(金属箔)上に複数段積み重ねた構造とすることによっても、バイポーラ型の積層構成とすることができる。
【0019】
本発明において「積層ユニット」との表現は、積層構造の層構成を特定するために便宜上用いている。すなわち、「積層ユニットを」「複数段積み重ねた積層構造」とは、あらかじめ積層ユニットを複数作製して、これら複数の積層ユニットを実際に積み重ねた形態を意図したものではない。金属箔からなる集電体層上に、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層及び集電体層の各層形成用スラリーを、一層ずつ繰り返し重層塗布して、あるいは、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層及び集電体層の順序の繰り返しになるように同時重層塗布して、最終的にできあがる全体の積層構造が、「積層ユニットを」「複数段積み重ねた積層構造」全体と同じ積層構造であれば、上記(c)の積層構造に含まれる。
【0020】
本発明の製造方法において、上記(a)の積層構造を有する積層部材を形成する場合、負極活物質層と、この負極活物質層に接する集電体層により形成される積層構造の形成をウェットオンウェット塗布により行う。例えば、金属箔からなる第1の集電体層/正極活物質層/固体電解質層 の3層構造の積層体の固体電解質上に、負極活物質層の構成材料を含むスラリーを塗布して塗膜を形成し、この塗膜の残留溶媒量が5質量%以上の状態で、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーを塗布する。塗布後、乾燥し、上記(a)の積層構造を有する積層部材を得ることができる。上記の固体電解質層上に、負極活物質層の構成材料を含むスラリーと第2の集電体層の構成材料を含むスラリーとを同時重層塗布することもできる。
また、金属箔からなる第1の集電体層/正極活物質層 の2層構造の積層体の正極活物質層上に、固体電解質層の構成材料を含むスラリーと、負極活物質層の構成材料を含むスラリーと、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーとを、ウェットオンウェット塗布により逐次に、又は同時に重層塗布することもできる。
また、金属箔からなる第1の集電体層上に、正極活物質層の構成材料を含むスラリーと、固体電解質層の構成材料を含むスラリーと、負極活物質層の構成材料を含むスラリーと、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーとを、ウェットオンウェット塗布により逐次に、又は同時に重層塗布することもできる。
量産化を考慮した場合、金属箔からなる第1の集電体層上に、正極活物質層の構成材料を含むスラリーと、固体電解質層の構成材料を含むスラリーと、負極活物質層の構成材料を含むスラリーと、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーとを、同時重層塗布することが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、上記(b)の積層構造を有する積層部材を形成する場合、正極活物質層と、この正極活物質層に接する集電体層により形成される積層構造の形成をウェットオンウェット塗布により行う。例えば、金属箔からなる第1の集電体層/負極活物質層/固体電解質層 の3層構造の積層体の固体電解質上に、正極活物質層の構成材料を含むスラリーを塗布して塗膜を形成し、この塗膜の残留溶媒量が5質量%以上の状態で、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーを塗布する。塗布後、乾燥し、上記(b)の積層構造を有する積層部材を得ることができる。上記の固体電解質上に、正極活物質層の構成材料を含むスラリーと第2の集電体層の構成材料を含むスラリーとを同時重層塗布することもできる。
また、金属箔からなる第1の集電体層/負極活物質層 の2層構造の積層体の負極活物質層上に、固体電解質層の構成材料を含むスラリーと、正極活物質層の構成材料を含むスラリーと、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーとを、ウェットオンウェット塗布により逐次に、又は同時に重層塗布することもできる。
また、金属箔からなる第1の集電体層上に、負極活物質層の構成材料を含むスラリーと、固体電解質層の構成材料を含むスラリーと、正極活物質層の構成材料を含むスラリーと、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーとを、ウェットオンウェット塗布により逐次に、又は同時に重層塗布することもできる。
量産化を考慮した場合、金属箔からなる第1の集電体層上に、負極活物質層の構成材料を含むスラリーと、固体電解質層の構成材料を含むスラリーと、正極活物質層の構成材料を含むスラリーと、第2の集電体層の構成材料を含むスラリーとを、同時重層塗布することが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法において、上記(c)の積層構造を有する積層部材を形成する場合、積層ユニットが複数段に積み重ねられた積層構造における少なくとも1つの活物質層と、この活物質層に接する集電体層との積層構造の形成を、ウェットオンウェット塗布により行う。より好ましくは、各積層ユニットを構成する各層を、各層の構成材料を含むスラリーを逐次に又は同時に、金属箔からなる集電体層上に重層塗布して形成し、次いで乾燥して、積層ユニットが複数段に積み重ねられた構成の積層構造を形成する。
量産化を考慮した場合、各積層ユニットを構成する各層を、各層の構成材料を含むスラリーを金属箔からなる集電体層上に同時重層塗布して形成し、次いで乾燥して、積層ユニットが複数段に積み重ねられた構成の積層構造を形成することが好ましい。この場合、積層構造の形成を1ステップで行うことができ、モノポーラ型又はバイポーラ型の積層部材の生産効率を大きく高めることができる。
【0023】
上記の各層を形成するためのスラリーそれ自体は、常法により調製することができる。具体的には、少なくとも後述する各層の構成材料と分散媒とを混合し、調製することができる。この混合は、各種の混合機を用いて行うことができる。例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ―、ブレードミキサ―、ロールミル、ニーダー、ディスクミル等が挙げられる。スラリー中の、各層の構成材料の含有量は、所望の機能を発現する塗膜を形成できれば特に制限されず、膜厚、分散性等を考慮して適宜に設定される。
【0024】
スラリーに用いる分散媒として、例えば、アルコール化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、アミド化合物溶媒、アミノ化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、脂肪族化合物溶媒、及びニトリル化合物溶媒が挙げられる。
アルコール化合物溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ブタンジオール、及び1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0025】
エーテル化合物溶媒としては、例えば、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等)、テトラヒドロフラン、及びジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)が挙げられる。
【0026】
アミド化合物溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、2-ピロリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、及びヘキサメチルホスホリックトリアミドが挙げられる。
【0027】
アミノ化合物溶媒としては、例えば、トリエチルアミン、及びトリブチルアミンが挙げられる。
【0028】
ケトン化合物溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、及びジイソブチルケトンが挙げられる。
【0029】
エステル化合物溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、酪酸ペンチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸ブチル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、及びカプロン酸ブチル等が挙げられる。
【0030】
芳香族化合物溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びメシチレンが挙げられる。
【0031】
脂肪族化合物溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、オクタン、ペンタン、シクロペンタン、及びシクロオクタンが挙げられる。
【0032】
ニトリル化合物溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピロニトリル、及びブチロニトリルが挙げられる。
【0033】
上記の各スラリーの製膜のための塗布方法は、特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、逐次重層塗布の場合、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等の通常の塗布方法によって行うことができる。
また、同時重層塗布についても塗布それ自体は、常法により行うことができる。例えば、特開2005-271283号公報及び特開2006-247967号公報を参照することができる。また、例えば、特開2018-122283号公報に記載されたダイ(重層専用ギーサー)を用いて同時重層塗布をすることもできる。
また、ウェットオンウェット塗布を行った後の、塗布膜の乾燥温度は特に制限されず、好ましくは30℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。また、乾燥温度は300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。
【0034】
続いて、本発明の積層部材の各層の構成材料について説明する。
【0035】
<固体電解質層>
本発明の積層部材を構成する固体電解質層は、全固体二次電池において固体電解質層に用いられる通常の構成材料で形成することができる。本発明において固体電解質層は、好ましくは、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質を有し、さらに、必要によりバインダーを含有する。本発明の全固体二次電池を構成する固体電解質層は、例えば、上記無機固体電解質とバインダーと、上述したこれらの分散媒とを含む固体電解質組成物(スラリー)を塗布し、形成することができる。固体電解質組成物の各成分含有量は、目的に応じて適宜に調整できる。例えば、固体電解質組成物の固形分中、無機固体電解質の含有量を50質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0036】
(無機固体電解質)
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンが解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、LiFSI、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば特に制限されず電子伝導性を有しないものが一般的である。
【0037】
本発明において、無機固体電解質は、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有する。無機固体電解質は、この種の製品に適用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は、(i)硫化物系無機固体電解質と、(ii)酸化物系無機固体電解質が代表例として挙げられ、高いイオン伝導度と粒子間界面接合の容易さの点で、硫化物系無機固体電解質が好ましい。
本発明の全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池である場合、無機固体電解質はリチウムイオンのイオン伝導度を有することが好ましい。
【0038】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0039】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(I)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性硫化物系無機固体電解質が挙げられる。

a1b1c1d1e1 式(I)

式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0040】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合比を調整することにより制御できる。
【0041】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0042】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0043】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-HS、LiS-P-HS-LiCl、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0044】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0045】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccc zcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0046】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の粒径は特に制限されない。イオン伝導度、更には加工性及び界面形成性の点では、無機固体電解質の粒径は、0.01μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。また、無機固体電解質の粒径は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、4μm以下がさらに好ましく、2μm以下が特に好ましい。
無機固体電解質粒子の粒径は平均粒径を意味し、以下の通り決定することができる。
無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0047】
(バインダー)
上記固体電解質層に含まれる上記バインダーは、各種の有機高分子化合物(ポリマー)で構成することができる。バインダーは、無機固体電解質粒子間の結着性を高めて、機械強度、イオン伝導性等の向上に寄与する。バインダーを構成する有機高分子化合物は、粒子状のものを含んでもよいし、非粒子状のものを含んでもよい。イオン伝導性をより高める観点からは、粒子状バインダーが好ましい。粒子状バインダーは、一次粒径(体積平均粒子径)が10~1000nmが好ましく、20~750nmがより好ましく、30~500nmがさらに好ましく、50~300nmがさらに好ましい。
【0048】
バインダーは、例えば、以下に述べる有機高分子化合物で構成することができる。
【0049】
-含フッ素樹脂-
含フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)、ポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)が挙げられる。
【0050】
-炭化水素系熱可塑性樹脂-
炭化水素系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレンが挙げられる。
【0051】
-(メタ)アクリル樹脂-
(メタ)アクリル樹脂としては、各種の(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、及びこれらモノマーの2種以上の共重合体が挙げられる。
また、その他のビニル系モノマーとの共重合体(コポリマー)も好適に用いられる。例えば、(メタ)アクリル酸メチルとスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとアクリロニトリルとの共重合体、(メタ)アクリル酸ブチルとアクリロニトリルとスチレンとの共重合体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本願明細書において、コポリマーは、統計コポリマー及び周期コポリマーのいずれでもよく、ランダムコポリマーが好ましい。
【0052】
-その他の樹脂-
その他の樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース誘導体樹脂等が挙げられる。
【0053】
固体電解質組成物がバインダーを含む場合、固体電解質組成物固形分中、バインダーの含有量は1~20質量%とすることができ、2~15質量%が好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。
【0054】
上記の中でも、含フッ素樹脂、炭化水素系熱可塑性樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びセルロース誘導体樹脂が好ましく、無機固体電解質との親和性が良好であり、また、樹脂自体の柔軟性が良好で、固体粒子とのより強固な結着性を示し得る点で、(メタ)アクリル樹脂又はポリウレタン樹脂が特に好ましい。
上記各種の樹脂は、市販品を用いることができる。また、常法により調製することもできる。
バインダーを構成する高分子の数平均分子量は、固体粒子間の結着性向上の観点から、1000~1000000であることが好ましく、10000~500000がより好ましい。
なお、上記で説明した有機高分子化合物は一例であり、本発明におけるバインダーはこれらの形態に限定されるものではない。
【0055】
(リチウム塩)
固体電解質含有層は、リチウム塩(支持電解質)を含有してもよい。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。
固体電解質含有層がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、無機固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0056】
(イオン液体)
固体電解質含有層は、イオン伝導度をより向上させるため、イオン液体を含有してもよい。イオン液体としては、特に限定されないが、イオン伝導度を効果的に向上させる観点から、上述したリチウム塩を溶解するものが好ましい。例えば、下記のカチオンと、アニオンとの組み合わせよりなる化合物が挙げられる。
【0057】
<正極活物質層、負極活物質層>
本発明の積層部材を構成する正極活物質層及び負極活物質層は、全固体二次電池において用いられる通常の構成材料で形成することができる。正極活物質層には正極活物質が含まれ、負極活物質層には負極活物質が含まれる。正極活物質層及び負極活物質層は、活物質を含むこと以外は、上述した固体電解質層の構成と同じであることが好ましい。
すなわち、本発明において正極活物質層、及び負極活物質層は、上述した固体電解質組成物に、対応する活物質を含有させた組成物(正極形成用組成物及び負極形成用組成物。これらをまとめて電極形成用組成物とも称す。)を調製し、これを基材に塗布して形成することができる。電極形成用組成物中の各成分含有量は、目的に応じて適宜に調整できる。例えば、電極形成用組成物の固形分中、活物質の含有量を20~95質量%とすることができ、30~90質量%がより好ましい。
【0058】
(活物質)
活物質の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。また、活物質の粒径は、上記粒径比を満足する限り、特に制限されない。活物質の粒径は、分散性向上、固体粒子間の接触面積向上、界面反応性低減の点で、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましい。また、活物質の粒径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。活物質の粒径は平均粒径を意味し、無機固体電解質の粒径と同様にして決定することができる。活物質の粒径が粒径測定装置の測定限界以下の場合は、必要により活物質を乾固した後に、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により粒径を測定する。
【0059】
-正極活物質-
正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素や硫黄と金属の複合物などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素M(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素M(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P又はBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Mの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0060】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn(LMO)、LiCoMnO、LiFeMn、LiCuMn、LiCrMn及びLiNiMnが挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO及びLiFe(PO等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP等のピロリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類並びにLi(PO(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、LiFePOF等のフッ化リン酸鉄塩、LiMnPOF等のフッ化リン酸マンガン塩及びLiCoPOF等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、LiFeSiO、LiMnSiO及びLiCoSiO等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0061】
正極活物質を所望の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。
【0062】
上記正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0063】
-負極活物質-
負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫等の金属酸化物、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体及びリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、並びに、Sn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が信頼性の点から好ましく用いられる。また、金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能であることが好ましい。その材料は、特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0064】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー並びに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0065】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましく用いられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。
【0066】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBiの1種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、並びにカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga、SiO、GeO、SnO、SnO、PbO、PbO、Pb、Pb、Pb、Sb、Sb、SbBi、SbSi、Bi、SnSiO、GeS、SnS、SnS、PbS、PbS、Sb、Sb及びSnSiSが好ましく挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、LiSnOであってもよい。
【0067】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはLiTi12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0068】
本発明においては、Si系の負極を適用することもまた好ましい。一般的にSi負極は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
【0069】
負極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機や分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル及び旋回気流型ジェットミルや篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては特に限定はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。
【0070】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0071】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0072】
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。また、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
また、本発明において、正極活物質層や負極活物質層は、導電助剤を含有してもよい。導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体など導電性高分子を用いてもよい。
【0073】
本発明の積層部材において、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の各層厚は特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10μm~500μmが好ましく、20~400μmがより好ましく、20~200μmがさらに好ましい。また、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の各層は、単層であってもよく、複層としてもよい。複層の場合、複層全体の厚さを上記の好ましい範囲内とすることが好ましい。
【0074】
本発明の積層部材は、上述した負極活物質層をリチウム金属層とすることができる。リチウム金属層としては、リチウム金属の粉末を堆積又は成形してなる層、リチウム箔及びリチウム蒸着膜等が挙げられる。リチウム金属層の厚さは、上記負極活物質層の上記厚さにかかわらず、例えば、1~500μmとすることができる。
【0075】
<集電体層>
本発明の積層部材に用いる集電体層は、電子伝導体が好ましい。本発明の積層部材に用いる集電体層のうち少なくとも1つは金属箔からなることが好ましい。この金属箔上に、各層形成用のスラリーが逐次、又は同時に塗布されることが好ましい。
この金属箔を正極集電体層として使用する場合、その構成材料は、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどが挙げられる。また、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)も好ましい。その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
また、上記金属箔を負極集電体層として使用する場合、その構成材料は、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどが挙げられる。また、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面をカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀で処理したものも好ましい。なかでも負極集電体層の構成材料は、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0076】
金属箔からなる集電体層の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
【0077】
本発明の積層部材が、例えば、上記(a)及び(b)の積層構造の場合、上述したように、第2の集電体層は第2の集電体層の構成材料を含有するスラリーを用いて形成される。このスラリーは、第2の集電体層の構成材料の粉末を含有する形態とすることができる。上記(a)の積層構造では、第2の集電体層は負極集電体層であり、導電材料として、例えばアルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの粉末(粒子)を含有するスラリーを塗布して、第2の集電体層を形成することができる。また、上記(b)の積層構造では、第2の集電体層は正極活物質層であり、導電材料として、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの粉末を含有するスラリーを用いて第2の集電体層を形成することができる。
また、第2の集電体層は、導電材料としてカーボンブラックを含有する構成することもできる。すなわち、カーボンブラックと分散媒とを混合してなるスラリーを用いて集電体層を塗布形成することも好ましい。
本発明の積層部材が上記(c)の積層構造の場合、好ましくは、基材とする金属箔からなる集電体層以外の集電体層のすべてが、集電体層の構成材料を含有するスラリーを用いてウェットオンウェット塗布により形成される。集電体層の構成材料は、モノポーラ型、バイポーラ型等の形態を考慮し、例えば、上述した構成材料から適宜に選択することができる。
集電体層を形成するためのスラリーは、バインダーを含むことも好ましい。バインダーの好ましい形態は、上述したバインダーと同じである。バインダーを含むことにより、集電体層の構成材料の結着性が高まり、また活物質層との密着性も高めることができ、電池の充放電時の抵抗をより低く抑えることができる。
スラリー中の、集電体層の構成材料の含有量は、目的に応じて適宜に調整すればよい。例えば、スラリーの固形分中、導電材料の含有量を50質量%以上とすることができ、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。また、スラリーがバインダーを含む場合、導電材料/バインダー(質量比)を3/1~50/1とすることが好ましく、5/1~30/1とすることがより好ましく、7/1~20/1とすることがさらに好ましい。
【0078】
集電体層の厚みは、特に制限されないが、1~500μmが好ましく、2~300μmがより好ましく、2~200μmがさらに好ましい。
【0079】
本発明の製造方法において、固体電解質層、正極活物質層、負極活物質層、及び集電体層を形成するためのスラリーに用いる分散媒の種類は同じであることが好ましい。
【0080】
[全固体二次電池の製造方法]
本発明の全固体二次電池の製造方法は、上述した本発明の製造方法により本発明の積層部材を得て、この積層部材を用いて全固体二次電池を得る方法である。本発明の全固体二次電池の製造方法には、本発明の積層部材を用いること以外は、通常の全固体二次電池の製造工程を適用すればよい。本発明の積層部材は、そのままでも二次電池として作動するが、通常は、本発明の積層部材を適当なハウジングに収めて(筐体に封入したり、コインケース等に収めたりして)、加圧状態として全固体二次電池とする。
上記筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0081】
<初期化>
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化することが好ましい。初期化は、特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【0082】
以下に、図3を参照して、本発明の全固体二次電池の製造方法で得られる全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)の一実施形態について説明する。図3は、この全固体二次電池を模式化して示す断面図であり、筐体等の記載は省略し、本発明の積層部材(上記(a)及び(b)の積層構造に対応)の構成を示すものである。全固体二次電池103は、負極側からみて、負極集電体層11、負極活物質層12、固体電解質層13、正極活物質層14、正極集電体層15を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e)が供給され、そこにリチウムイオン(Li)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li)が正極側に戻され、作動部位16に電子が供給される。図示した例では、作動部位16に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0083】
本発明の製造方法で得られる全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に限定はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車(電気自動車等)、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例
【0084】
以下に、実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0085】
[硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス)の合成]
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235及びA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
【0086】
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42kg、五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度>99%)3.90kgをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳鉢を用いて、5分間混合した。なお、LiS及びPはモル比でLiS:P=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、上記硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)に容器をセットし、温度25℃、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行い、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス、「LPS」とも称する。)6.20gを得た。
【0087】
[固体電解質層形成用スラリーの調製]
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを130個投入し、LPSを3.0g、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR、平均一次粒径100nm、以下同様)を0.09g、分散媒としてトルエンを9.0g投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)に容器をセットし、温度25℃、回転数100rpmで30分混合し、粒径2.0μmのLPSを含有する、固体電解質層を形成するための固体電解質層形成用スラリーを調製した。
【0088】
[正極活物質層形成用スラリーの調製]
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLPSを2.8g、バインダーとしてSBRを0.1g、分散媒としてトルエン12.3gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)に容器をセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合した。その後、活物質としてNMC(LiNi0.33Co0.33Mn0.33(アルドリッチ社製))7.0g、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ(株)製)を0.2g容器に投入し、同様に、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数100rpmで10分間混合を続け、正極活物質層形成用スラリーを調製した。
【0089】
[負極活物質層形成用スラリーの調製]
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLPS系ガラス2.8g、バインダーとしてSBSを0.2g、分散媒としてヘプタン12.3gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合した。その後、活物質として黒鉛7.0gを容器に投入し、同様に、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数200rpmで15分間混合を続け負極活物質層形成用スラリーを調製した。
【0090】
[集電体層形成用スラリーの調製]
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、カーボンブラックを6.0g、バインダーとしてSBRを0.06g、分散媒としてヘプタンを4.0g投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合し、集電体層形成用スラリーを調製した。
【0091】
[全固体二次電池用積層部材の作製]
<実施例1>
上記で調製した正極活物質層形成用スラリーを、アルミ箔(正極集電体、厚さ20μm)上に、アプリケータ(商品名:SA-201ベーカー式アプリケータ、テスター産業社製)により30mg/cmの目付量となるように塗布し、アルミ箔からなる正極集電体層上に塗膜(正極活物質層前駆塗膜)を形成した。
正極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、正極活物質層前駆塗膜上に固体電解質層形成用スラリーを上記アプリケータにより8mg/cmの目付量となるように塗布し、正極活物質層前駆塗膜上に塗膜(固体電解質層前駆塗膜)を形成した。
固体電解質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、固体電解質層前駆塗膜上に負極活物質層形成用スラリーを上記アプリケータにより20mg/cmの目付量となるように塗布し、固体電解質層前駆塗膜上に塗膜(負極活物質層前駆塗膜)を形成した。
負極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、負極活物質層前駆塗膜上に集電体層形成用スラリーを上記アプリケータにより10mg/cmの目付量となるように塗布し、負極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第2集電体層前駆塗膜)を形成した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で1時間加熱して分散媒を除去し、上述した(a)の積層構造を有する実施例1の全固体二次電池用積層部材を得た。
実施例1の全固体二次電池用積層部材において、正極活物質層の厚さは100μm、固体電解質層の厚さは20μm、負極活物質層の厚さは80μm、第2集電体層の厚さは20μmであった。
【0092】
<実施例2>
アルミ箔(正極集電体、厚さ20μm)上に、正極活物質層形成用スラリー、固体電解質層形成用スラリー、負極活物質層形成用スラリー、及び集電体層形成用スラリーを、この順に塗膜が積層されるように重層専用ギーサーを用いて同時重層塗布した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、上述した(a)の積層構造を有する実施例2の全固体二次電池用積層部材を得た。
実施例2の全固体二次電池用積層部材において、正極活物質層の厚さは100μm、固体電解質層の厚さは20μm、負極活物質層の厚さは80μm、第2集電体層の厚さは20μmであった。
【0093】
<実施例3>
実施例1において、第2集電体層前駆塗膜を形成した後、第2集電体層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、正極活物質層形成用スラリーを、上記アプリケータにより30mg/cmの目付量となるように塗布し、第2集電体層前駆塗膜上に塗膜(第2正極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第2正極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第2正極活物質層前駆塗膜上に固体電解質層形成用スラリーを上記アプリケータにより8mg/cmの目付量となるように塗布し、第2正極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第2固体電解質層前駆塗膜)を形成した。
第2固体電解質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第2固体電解質層前駆塗膜上に負極活物質層形成用スラリーを上記アプリケータにより20mg/cmの目付量となるように塗布し、第2固体電解質層前駆塗膜上に塗膜(第2負極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第2負極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第2負極活物質層前駆塗膜上に集電体層形成用スラリーを上記アプリケータにより10mg/cmの目付量となるように塗布し、第2負極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第3集電体層前駆塗膜)を形成した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、積層ユニットを2段積み重ねた積層構造(上述した(c)の積層構造の一形態)を有する実施例3の全固体二次電池用積層部材を得た。実施例3の全固体二次電池用積層部材はバイポーラ型である。
実施例3の全固体二次電池用積層部材において、各層の厚さは実施例1と同じである。
【0094】
<実施例4>
実施例3において、第3集電体層前駆塗膜を形成した後、第3集電体層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、正極活物質層形成用スラリーを、上記アプリケータにより30mg/cmの目付量となるように塗布し、第3集電体層前駆塗膜上に塗膜(第3正極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第3正極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第3正極活物質層前駆塗膜上に固体電解質層形成用スラリーを上記アプリケータにより8mg/cmの目付量となるように塗布し、正極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第3固体電解質層前駆塗膜)を形成した。
第3固体電解質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第3固体電解質層前駆塗膜上に負極活物質層形成用スラリーを上記アプリケータにより20mg/cmの目付量となるように塗布し、第3固体電解質層前駆塗膜上に塗膜(第3負極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第3負極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第3負極活物質層前駆塗膜上に集電体層形成用スラリーを上記アプリケータにより10mg/cmの目付量となるように塗布し、第3負極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第4集電体層前駆塗膜)を形成した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、積層ユニットを3段積み重ねた積層構造(上述した(c)の積層構造の一形態)を有する実施例4の全固体二次電池用積層部材を得た。実施例3の全固体二次電池用積層部材はバイポーラ型である。
実施例4の全固体二次電池用積層部材において、各層の厚さは実施例1と同じである。
【0095】
<実施例5>
実施例4において、第4集電体層前駆塗膜を形成した後、第4集電体層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、正極活物質層形成用スラリーを、上記アプリケータにより30mg/cmの目付量となるように塗布し、第4集電体層前駆塗膜上に塗膜(第4正極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第4正極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第4正極活物質層前駆塗膜上に固体電解質層形成用スラリーを上記アプリケータにより8mg/cmの目付量となるように塗布し、正極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第4固体電解質層前駆塗膜)を形成した。
第4固体電解質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第4固体電解質層前駆塗膜上に負極活物質層形成用スラリーを上記アプリケータにより20mg/cmの目付量となるように塗布し、第4固体電解質層前駆塗膜上に塗膜(第4負極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第4負極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第4負極活物質層前駆塗膜上に集電体層形成用スラリーを上記アプリケータにより10mg/cmの目付量となるように塗布し、第4負極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第5集電体層前駆塗膜)を形成した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、積層ユニットを4段積み重ねた積層構造(上述した(c)の積層構造の一形態)を有する実施例5の全固体二次電池用積層部材を得た。実施例3の全固体二次電池用積層部材はバイポーラ型である。
実施例5の全固体二次電池用積層部材において、各層の厚さは実施例1と同じである。
【0096】
<実施例6>
実施例1において、集電体層形成用スラリーに用いたバインダー(SBR、粒子状、0.06g)を、バインダー(S-SBR(溶液重合スチレンブタジエンゴム)、0.06g)に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例6の全固体二次電池用積層部材を得た。S-SBRはヘプタンに溶解性である。
【0097】
<実施例7>
実施例1において、LPSを、酸化物系無機固体電解質であるLLZ:LiLaZr12(ランタンジルコン酸リチウム 平均粒径5.0μm 豊島製作所社製)
に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例8の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0098】
<実施例8>
上記で調製した負極活物質層形成用スラリーを、銅箔(負極集電体、厚さ20μm)上に、アプリケータ(商品名:SA-201ベーカー式アプリケータ、テスター産業社製)により20mg/cmの目付量となるように塗布し、銅箔からなる負極集電体層上に塗膜(負極活物質層前駆塗膜)を形成した。
負極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、負極活物質層前駆塗膜上に固体電解質層形成用スラリーを上記アプリケータにより8mg/cmの目付量となるように塗布し、負極活物質層前駆塗膜上に塗膜(固体電解質層前駆塗膜)を形成した。
固体電解質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、固体電解質層前駆塗膜上に正極活物質層形成用スラリーを上記アプリケータにより30mg/cmの目付量となるように塗布し、固体電解質層前駆塗膜上に塗膜(正極活物質層前駆塗膜)を形成した。
正極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、正極活物質層前駆塗膜上に集電体層形成用スラリーを上記アプリケータにより10mg/cmの目付量となるように塗布し、正極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第2集電体層前駆塗膜)を形成した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、上述した(b)の積層構造を有する実施例8の全固体二次電池用積層部材を得た。
実施例8の全固体二次電池用積層部材において、塗布形成した各層の厚さは実施例1と同じである。
【0099】
<実施例9>
銅箔(負極集電体、厚さ20μm)上に、負極活物質層形成用スラリー、固体電解質層形成用スラリー、正極活物質層形成用スラリー、及び集電体層形成用スラリーを、この順に塗膜が積層されるように重層専用ギーサーを用いて同時重層塗布した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、上述した(b)の積層構造を有する実施例9の全固体二次電池用積層部材を得た。
実施例9の全固体二次電池用積層部材において、塗布形成した各層の厚さは実施例8と同じである。
【0100】
<実施例10>
実施例8において、第2集電体層前駆塗膜を形成した後、第2集電体層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、負極活物質層形成用スラリーを、上記アプリケータにより20mg/cmの目付量となるように塗布し、第2集電体層前駆塗膜上に塗膜(第2負極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第2負極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第2負極活物質層前駆塗膜上に固体電解質層形成用スラリーを上記アプリケータにより8mg/cmの目付量となるように塗布し、第2負極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第2固体電解質層前駆塗膜)を形成した。
第2固体電解質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第2固体電解質層前駆塗膜上に正極活物質層形成用スラリーを上記アプリケータにより30mg/cmの目付量となるように塗布し、第2固体電解質層前駆塗膜上に塗膜(第2正極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第2正極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第2正極活物質層前駆塗膜上に集電体層形成用スラリーを上記アプリケータにより10mg/cmの目付量となるように塗布し、第2正極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第3集電体層前駆塗膜)を形成した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、積層ユニットを2段積み重ねた積層構造(上述した(c)の積層構造の一形態)を有する実施例10の全固体二次電池用積層部材を得た。実施例10の全固体二次電池用積層部材はバイポーラ型である。
実施例10の全固体二次電池用積層部材において、各層の厚さは実施例8と同じである。
【0101】
<実施例11>
実施例10において、第3集電体層前駆塗膜を形成した後、第3集電体層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、負極活物質層形成用スラリーを、上記アプリケータにより20mg/cmの目付量となるように塗布し、第3集電体層前駆塗膜上に塗膜(第3負極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第3負極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第3負極活物質層前駆塗膜上に固体電解質層形成用スラリーを上記アプリケータにより8mg/cmの目付量となるように塗布し、第3負極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第3固体電解質層前駆塗膜)を形成した。
第3固体電解質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第3固体電解質層前駆塗膜上に正極活物質層形成用スラリーを上記アプリケータにより30mg/cmの目付量となるように塗布し、第3固体電解質層前駆塗膜上に塗膜(第3正極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第3正極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第3正極活物質層前駆塗膜上に集電体層形成用スラリーを上記アプリケータにより10mg/cmの目付量となるように塗布し、第3正極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第4集電体層前駆塗膜)を形成した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、積層ユニットを3段積み重ねた積層構造(上述した(c)の積層構造の一形態)を有する実施例11の全固体二次電池用積層部材を得た。実施例11の全固体二次電池用積層部材はバイポーラ型である。
実施例11の全固体二次電池用積層部材において、各層の厚さは実施例8と同じである。
【0102】
<実施例12>
実施例11において、第4集電体層前駆塗膜を形成した後、第4集電体層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、負極活物質層形成用スラリーを、上記アプリケータにより20mg/cmの目付量となるように塗布し、第4集電体層前駆塗膜上に塗膜(第4負極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第4負極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第4負極活物質層前駆塗膜上に固体電解質層形成用スラリーを上記アプリケータにより8mg/cmの目付量となるように塗布し、第4負極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第4固体電解質層前駆塗膜)を形成した。
第4固体電解質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第4固体電解質層前駆塗膜上に正極活物質層形成用スラリーを上記アプリケータにより30mg/cmの目付量となるように塗布し、第4固体電解質層前駆塗膜上に塗膜(第4正極活物質層前駆塗膜)を形成した。
第4正極活物質層前駆塗膜の残留溶媒量が5質量%の状態で、第4正極活物質層前駆塗膜上に集電体層形成用スラリーを上記アプリケータにより10mg/cmの目付量となるように塗布し、第4正極活物質層前駆塗膜上に塗膜(第5集電体層前駆塗膜)を形成した。
こうしてウェットオンウェット塗布により得られた積層体を120℃で2時間加熱して分散媒を除去し、積層ユニットを4段積み重ねた積層構造(上述した(c)の積層構造の一形態)を有する実施例5の全固体二次電池用積層部材を得た。実施例12の全固体二次電池用積層部材はバイポーラ型である。
実施例12の全固体二次電池用積層部材において、各層の厚さは実施例8と同じである。
【0103】
<実施例13>
実施例1において、集電体層形成用スラリーに用いたカーボンブラック6.0gを、銅粉末(林純薬工業社製)6.0gに代えた以外は、実施例1と同様にして実施例13の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0104】
<比較例1>
実施例1において、負極活物質層前駆塗膜上に、第2集電体層前駆塗膜の形成に代えて銅箔(厚さ20μm)を密着させたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0105】
<比較例2>
比較例1の全固体二次電池用積層部材を2つ用意し、1つ目の積層部材の銅箔上に、2つ目の積層部材のアルミ箔を積み重ねて、比較例2の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0106】
<比較例3>
比較例1の全固体二次電池用積層部材を3つ用意し、1つ目の積層部材の銅箔上に、2つ目の積層部材のアルミ箔側が接するように2つ目の積層部材を積み重ね、2つ目の積層部材の銅箔上に、3つ目の積層部材のアルミ箔側が接するように3つ目の積層部材を積み重ねて、比較例3の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0107】
<比較例4>
比較例1の全固体二次電池用積層部材を4つ用意し、1つ目の積層部材の銅箔上に、2つ目の積層部材のアルミ箔側が接するように2つ目の積層部材を積み重ね、2つ目の積層部材の銅箔上に、3つ目の積層部材のアルミ箔側が接するように3つ目の積層部材を積み重ね、3つ目の積層部材の銅箔上に、4つ目の積層部材のアルミ箔側が接するように4つ目の積層部材を積み重ねて、比較例4の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0108】
<比較例5>
実施例1において、負極活物質層前駆塗膜上への集電体層形成用スラリーの塗布を、負極活物質層前駆塗膜を形成後に120℃で120分間乾燥して負極活物質層前駆塗膜から分散媒を除去した後に行ったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0109】
<比較例6>
実施例3において、負極活物質層前駆塗膜上への集電体層形成用スラリーの塗布を、負極活物質層前駆塗膜を形成後に120℃で120分間乾燥して負極活物質層前駆塗膜から分散媒を除去した後に行い、また、第2負極活物質層前駆塗膜上への集電体層形成用スラリーの塗布を、第2負極活物質層前駆塗膜を形成後に120℃で120分間乾燥して第2負極活物質層前駆塗膜から分散媒を除去した後に行ったこと以外は、実施例3と同様にして、比較例6の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0110】
<比較例7>
比較例5において、集電体層形成用スラリーに用いたカーボンブラック6.0gを、銅粉末(林純薬工業社製)6.0gに代えた以外は、比較例5と同様にして比較例7の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0111】
<比較例8>
比較例5において、集電体層形成用スラリーに用いたカーボンブラック6.0gを、焼結用ステンレス鋼粉体6.0gに代えた以外は、実施例1と同様にして比較例8の全固体二次電池用積層部材を得た。
【0112】
[全固体二次電池の作製]
上記で得られた全固体二次電池用積層部材を、50MPaで10秒間加圧した。その後、直径15mmの円形に切り出した。切り出したサンプルを2032型コインケース内に入れて、600MPaで加圧後、コインケースをかしめ、全固体二次電池を作製した。
【0113】
[電池性能の評価]
全固体二次電池の電池性能を、東洋システム社製の充放電評価装置「TOSCAT-3000」(商品名)を用いて評価した。具体的には、全固体二次電池を電池電圧が4.2Vになるまで電流値0.2mAで充電した後、電池電圧が3.0Vになるまで電流値2.0mAで放電した。放電開始10秒後の電池電圧を以下の基準で読み取り、下記評価基準に当てはめ評価した。放電開始10秒後の電池電圧が高いほど、抵抗が低いことを意味する。
<評価基準>
AA:4.10V以上
A: 4.05V以上4.10V未満
B: 4.00V以上4.05V未満
C: 3.90V以上4.00V未満
D: 3.90V未満
結果を下表に示す。
【0114】
【表1-1】
【0115】
【表1-2】
【0116】
上記表に示されるように、積層部材の集電体をすべて金属箔で形成した場合、得られる全固体二次電池は電池抵抗が高く性能に劣る結果となった(比較例1~4)。また、積層部材の集電体層をスラリーで形成した場合であっても、集電体層形成用スラリーの塗布方法がウェットオンドライ塗布である場合には、やはり電池抵抗が高く性能に劣る結果となった(比較例5~8)。
これに対し、集電体層を、集電体層形成用スラリーを用いてウェットオンウェットで形成した場合には、電池抵抗を十分に抑制でき、電池性能に優れた全固体二次電池を得ることができた(実施例1~13)。
【0117】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0118】
本願は、2018年9月18日に日本国で特許出願された特願2018-173571に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0119】
101、102 全固体二次電池用積層部材
1 集電体層(金属箔)
2 正極活物質層
3 固体電解質層
4 負極活物質層
5 集電体層
A 積層ユニット
B 積層ユニット
103 全固体二次電池
11 負極集電体
12 負極活物質層
13 固体電解質層
14 正極活物質層
15 正極集電体層
図1
図2
図3