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特許7064717非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許-非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220428BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220428BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018093532
(22)【出願日】2018-05-15
(65)【公開番号】P2019200875
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 將大
(72)【発明者】
【氏名】今泉 心
(72)【発明者】
【氏名】長野 晋作
(72)【発明者】
【氏名】金谷 日出和
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-079751(JP,A)
【文献】特開2017-100894(JP,A)
【文献】特開2011-044364(JP,A)
【文献】特開2017-188292(JP,A)
【文献】特開2013-056801(JP,A)
【文献】特開平01-189347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム・ニッケル複合酸化物を含む非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を乾式造粒して前記混合物からなる造粒物を得る造粒工程と、
前記造粒物を焼成してリチウム・ニッケル複合酸化物を得る焼成工程とを含み、
前記造粒工程が、ロールを用いてシート状の造粒物を形成し、前記シート状の造粒物を粗解砕もしくは切断してプレート状の造粒物を形成することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記造粒工程が、前記混合物を4.9kN/cm~10kN/cmのロール線圧でロール間を通過させることにより、前記シート状の造粒物を得ることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム化合物が、水酸化リチウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記プレート状の造粒物の嵩密度が、前記混合物の嵩密度の1.1倍~1.5倍であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程において、前記プレート状の造粒物を、こう鉢内に層厚1mm以上に積載して焼成することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程の後、さらに得られたリチウム・ニッケル複合酸化物を粉砕する粉砕工程を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の焼成工程の後、又は請求項6記載の粉砕工程の後、得られたリチウム・ニッケル複合酸化物を水洗する水洗工程と、該水洗したリチウム・ニッケル複合酸化物を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム・ニッケル複合酸化物は、一般式:LiNi1-x-yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.90≦z≦1.20、MはAl、Mn、Mo、W、Mg、Si、B、Nb、V、Tiから選ばれる一種以上の元素)であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パソコン等の携帯機器の普及にともない、高いエネルギー密度を有する小型かつ軽量な二次電池の開発が強く望まれている。
また、xEVと呼ばれる環境対応自動車においてもハイブリッド車(HEV)から高容量の二次電池を必要とするプラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(BEV)への移行が進んでいる。このBEVは、1回の充電での走行距離がガソリン車に比べ短く、これを改善するため二次電池の高容量化が求められている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池用正極活物質があり、代表的な二次電池としてリチウムイオン二次電池が挙げられる。
このリチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
リチウムイオン二次電池は、現在、研究開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO)や、リチウム・ニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウム・マンガン複合酸化物(LiMn)などを挙げることができる。
【0005】
近年、電気自動車が急速に普及し始めたことにより、駆動用電源として高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池の需要が高まっており、中でも高エネルギー密度とするためにCoと熱的安定性を高めるためにAlを添加したLiNiO(LiNi1-x-yCoAl、NCA)が注目されている。
【0006】
またLiNiOの焼成合成は、リチウム化合物と酸化物や水酸化物等のニッケル化合物を混合した混合粉を、こう鉢等に充填して酸素雰囲気で焼成するもので、このLiNiOの効率的な製造方法として、リチウム化合物とニッケル化合物の混合粉を、水をバインダーとして造粒する技術(特許文献1)が報告されている。
しかし、バインダーとして水を用いるため、焼成時の酸素分圧を下げてしまい、リチウム化合物とニッケル化合物の反応を阻害してしまうという課題があった。また、バインダーの水を添加する際に通常はノズル等を使用するが、ノズルの劣化等によるコンタミネーションを引き起こす懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-72446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
NCA等のLiNiO(以降、まとめて「リチウム・ニッケル複合酸化物」とすることもある。)を効率的に大量生産するためには、こう鉢により多くの混合粉を充填し、焼成する方法が考えられるが、リチウム・ニッケル複合酸化物の合成には酸素が関わるため、こう鉢内の混合粉の層厚を厚くすると、こう鉢内部の混合粉と酸素が接触する機会が減少して反応が完全に完了する前に焼成が終了し、製品品質を低下させてしまうことがあった。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を鑑みなされたもので、その目的は焼成にて所望の結晶構造を有する化合物を生産性よく製造することができ、且つ化学量論組成近くで純度の高いリチウム・ニッケル複合酸化物系層状岩塩構造の物質を容易に製造することができる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造に好適なリチウム・ニッケル複合酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の発明は、リチウム・ニッケル複合酸化物を含む非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を乾式造粒して前記混合物からなる造粒物を得る造粒工程と、前記造粒物を焼成してリチウム・ニッケル複合酸化物を得る焼成工程とを含み、前記造粒工程が、ロールを用いてシート状の造粒物を形成し、前記シート状の造粒物を粗解砕もしくは切断してプレート状の造粒物を形成することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0011】
本発明の第2の発明は、第1の発明における造粒工程が、前記混合物を4.9kN/cm~10kN/cmのロール線圧でロール間を通過させることにより、前記シート状の造粒物を得ることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0012】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明におけるリチウム化合物が、水酸化リチウムであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0013】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明におけるプレート状の造粒物の嵩密度が、前記混合物の嵩密度の1.1倍~1.5倍であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0014】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明における焼成工程において、前記プレート状の造粒物を、こう鉢内に層厚1mm以上に積載して焼成することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0015】
本発明の第6の発明は、第1から第5の発明における焼成工程の後、さらに得られたリチウム・ニッケル複合酸化物を粉砕する粉砕工程を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0016】
本発明の第7の発明は、第1から第5の発明のいずれかの発明における焼成工程の後、又は第6の発明における粉砕工程後、得られたリチウム・ニッケル複合酸化物を水洗する水洗工程と、該水洗したリチウム・ニッケル複合酸化物を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0017】
本発明の第8の発明は、第1から第7の発明におけるリチウム・ニッケル複合酸化物が、一般式:LiNi1-x-yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.90≦z≦1.20、MはAl、Mn、Mo、W、Mg、Si、B、Nb、V、Tiから選ばれる一種以上の元素)であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、非水系電解質二次電池用正極活物質を生産性よく容易に製造することができる。特に、非水系電解質二次電池用正極活物質として好適に用いられる化学量論組成に近いリチウム・ニッケル複合酸化物を、高い純度で、工業的規模において容易に製造することが可能であり、その工業的価値が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例1の焼成合成物のXRD測定によるプロファイルを示すグラフである。
図2】比較例1の焼成合成物のXRD測定によるプロファイルを示すグラフである。
図3】電池評価に用いたコイン型電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法]
本発明は、リチウム・ニッケル複合酸化物を含む非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であり、少なくともニッケルを含むニッケル化合物とリチウム化合物とを所定量で混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を乾式造粒して造粒物を得る造粒工程と、前記造粒物を焼成してリチウム・ニッケル複合酸化物を得る焼成工程とを含むことを特徴とする。また必要に応じて、焼成後のリチウム・ニッケル複合酸化物を解砕する解砕工程と、解砕後のリチウム・ニッケル複合酸化物を洗浄してろ過する水洗工程と、水洗されたリチウム・ニッケル複合酸化物を乾燥する乾燥工程を備えていてもよい。
【0021】
上記の工程を経ることで得られたリチウム・ニッケル複合酸化物は、層状構造の結晶構造を有し、通常は一次粒子が凝集した二次粒子の形態である。リチウム・ニッケル複合酸化物は、少なくともLi(リチウム)とNi(ニッケル)を含み、Co(コバルト)、及びAl(アルミニウム)、Mn(マンガン)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、Si(ケイ素)、B(ホウ素)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、Ti(チタン)から選ばれる一種以上の元素を含んでいてもよい。
さらに、リチウム・ニッケル複合酸化物は、一般式:LiNi1-x-yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.90≦z≦1.20、MはAl、Mn、Mo、W、Mg、Si、B、Nb、V、Tiから選ばれる一種以上の元素)とするのが好ましく、より好ましくは一般式:LiNi1-x-yCoAl(ただし、0.03≦x≦0.10、0.03≦y≦0.10、0.93<z<1.03)とする。このようなリチウム・ニッケル複合酸化物は非水系電解質二次電池用正極活物質に好適に用いられる。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0022】
(混合工程)
混合工程は、少なくともニッケルを含み、必要に応じてコバルトやアルミニウム等を含むニッケル化合物と、水酸化リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム化合物を所定量計量後混合し、混合粉とする工程である。
混合には一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェイカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。またこの混合は、ニッケル化合物及びリチウム化合物の形骸が破壊されない程度で、十分に混合されればよい。
【0023】
ニッケル化合物とリチウム化合物の配合比は、ニッケル化合物中の金属元素(Me)に対するリチウム化合物中のLi元素の比(Li/Me比)が0.90~1.20の範囲となるように配合して混合するのが好ましい。混合が十分でない場合には個々の粒子間でLi/Me比がばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じる可能性がある。
【0024】
リチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム又はこれらの混合物を用いることができるが、後述する乾式造粒の観点から結着性が強い水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0025】
ニッケル化合物は、酸化物や水酸化物等を用いることができるが、リチウムとの反応性の観点から、酸化物を用いることが好ましい。以下に少なくともニッケルを含み、必要に応じてコバルトやアルミニウム等を含むニッケル複合酸化物やニッケル複合水酸化物について、さらに詳しく説明する。
【0026】
ニッケル複合酸化物は、後述するニッケル複合水酸化物を酸化することで得られる。酸化物にすることで、焼成工程時に発生する水蒸気の量が減少し、格段に反応が進みやすくなり、焼成時間が大幅に短縮される。
ニッケル複合水酸化物の酸化は、酸化焙焼(熱処理)により行うことができる。酸化焙焼は、例えば、600℃以上800℃以下、0.5時間以上3.0時間以下で行うことが好ましい。酸化焙焼の温度が600℃未満の場合、水分が残留して酸化が十分に進まない場合がある。
【0027】
一方、酸化焙焼の温度が、800℃を超える場合、複合酸化物同士が結着して粗大粒子が形成される場合がある。また、多くのエネルギーを使用するため、コストの観点から、工業的に適当ではない。酸化焙焼の時間が、0.5時間未満の場合は、ニッケル複合水酸化物の酸化が十分に進まず、3.0時間を超えると、エネルギーコストが大きくなり、工業的に適当ではない。
【0028】
ニッケル複合水酸化物は、少なくともニッケルを含み、必要に応じてコバルトやアルミニウム等を含んでいる。さらにマンガン、モリブデン、タングステン、マグネシウム、ケイ素、ホウ素、ニオブ、バナジウム、チタン等を含んでもよい。このニッケル複合水酸化物の製造方法は特に限定されないが、例えば、晶析法を用いることができる。
この晶析法によって得られるニッケル複合水酸化物は、粒子全体で組成が均一となり、最終的に得られるリチウム・ニッケル複合酸化物の組成も均一になる。ニッケル複合水酸化物に含まれる各金属元素の比率は、ニッケル複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物まで継承されるので、ニッケル複合水酸化物の組成は、最終的に得ようとするリチウム・ニッケル複合酸化物のリチウム以外の金属の組成と同様にすることができる。
【0029】
ニッケル複合水酸化物は、例えば、ニッケル、コバルト、アルミニウム等を含む水溶液を攪拌しながら、アルカリ水溶液を用いて中和する、晶析反応を行うことで製造することができる。
ニッケル等の水溶液を調整する際に用いられる金属塩としては、硫酸塩、塩化物、硝酸塩等とすることができる。また、必要に応じて、アンモニウムイオン供給体など錯化剤の存在下で晶析反応を行ってもよい。
晶析法により得られたニッケル複合水酸化物は、一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、このニッケル複合水酸化物粒子から得られるリチウム・ニッケル複合酸化物も一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたものとなる。
【0030】
なお、晶析法としては、特に限定されず、例えば、連続晶析法、バッチ法などを用いることができる。
連続晶析法は、例えば、反応容器からオーバーフローしたニッケル複合水酸化物を連続的に回収する方法であり、組成が等しいニッケル複合水酸化物を大量にかつ簡便に作製できる。また、連続晶析法で得られたニッケル複合酸化物は、広い粒度分布を有するため、これを用いて得られるリチウム・ニッケル複合酸化物の充填密度を向上させることができる。
【0031】
さらに、ニッケル複合水酸物の粒径は、例えば、1μm以上、50μm以下である。
バッチ法は、より均一な粒径を有し、粒度分布の狭いニッケル複合水酸物を得ることができる。バッチ法で得られたニッケル複合水酸化物を用いて得られるリチウム・ニッケル複合酸化物は、焼成の際、より均一にリチウム化合物と反応することができる。また、バッチ法で得られたニッケル複合水酸化物は、二次電池に用いられた際にサイクル特性や出力特性を低下させる原因の一つとなる微粉の混入を減少させることができる。
【0032】
(造粒工程)
造粒工程は、前記混合物を、バインダーを用いず乾式で造粒する工程であり、例えば、圧力を印加した2つのロール間に、上記混合粉を通し、圧密することにより混合物を乾式造粒することで混合物からなる造粒物とすることが好ましい。
この工程においては、水や樹脂などのバインダーを用いた場合と比較し、焼成時に反応効率を下げずに造粒可能である。すなわち、バインダーを用いると、従来の焼成よりもガス発生が多くなり、混合物表面の酸素分圧が上昇し反応性が低下してしまう。
一方、本発明では、リチウム化合物の結着性を利用するロールを用いるので、バインダーを一切用いない乾式造粒であっても圧密することができ、コンタミネーションや反応性の低下を引き起こさない。
【0033】
また、造粒することにより、混合物の嵩密度を増大させた状態でも、造粒物間の通気性の維持が保たれ、焼成時の合成反応を、こう鉢全体で良好なものとすることができ、反応性を確保することができる。
さらに、混合物が接触していた、こう鉢との接触面積を小さくできるため、割れなどの容器の破損問題の頻度を低減することができ、製品へのコンタミネーションを低減する。
【0034】
また、リチウム塩とニッケル塩は、比重や粒子形状が異なるため、混合しても振動等を加えると分離してしまい、局所的に化学量論組成がずれてしまう可能性があるが、本発明では造粒することで原料粒子の流動性を著しく制限するため、ハンドリングや搬送時に局所的な組成のずれが起きることはなく、製品品質を向上させることができる。
【0035】
その造粒に際しては、この混合物を、ロール線圧を4.9kN/cm~10kN/cmとしたロール間に通過させることにより造粒物を得ることが好ましい。
ロール間に4.9kN/cm以上のロール線圧を印加することで、焼成時にも造粒状態を維持させることができる。しかし、ロール線圧が10kN/cmを超えると、混合物中のニッケル化合物の粒子にクラックが入り、二次電池に用いられた際にサイクル特性や出力特性が低下してしまうことがある。
【0036】
得られた造粒物はシート状であり、その厚さは1mm以上とするのが好ましい。上限については特に限定されないが、ハンドリング時に造粒物が崩れないようにするのが好ましく、100mm以下とするのが好ましい。また造粒物はシート状であるので、ハンドリングを容易にし、後述する焼成工程でこう鉢に充填しやすくするために、粗解砕もしくは切断してプレート状とし、取扱いしやすい大きさとするのが好ましい。
プレート状とした造粒物の平面(ロールにより平となった面)の幅は、少なくとも5mm以上とするのが好ましい。プレート状の造粒物の平面の幅を少なくとも1mm以上とすることで、焼成工程でのこう鉢への充填量を高めることができる。この平面の幅の上限については、使用するこう鉢の形状、大きさに応じて適宜調整すればよい。
【0037】
このように本発明では、ロールを用いてシート状の造粒物をまず形成し、それを粗解砕もしくは切断でプレート状とするため、成形機を用いてプレート状の造粒物を形成するよりも生産性が高く造粒物を作製することができる。
【0038】
また、プレート状の造粒物の嵩密度は造粒前の混合物の嵩密度の1.1倍~1.5倍とするのが好ましい。造粒物の嵩密度が、造粒前の混合物の嵩密度の1.1倍未満では、圧密が不十分でハンドリング時に造粒物が崩れてしまうことがある。造粒物の嵩密度が、造粒前の混合物の嵩密度の1.5倍を超えると、ロールで圧密した時に、混合物中のニッケル化合物の粒子にクラックが入ることがある。
【0039】
(焼成工程)
焼成工程は、前記造粒物を焼成してリチウム・ニッケル複合酸化物を得る工程である。
焼成工程では、前記プレート状の造粒物(混合物)を、こう鉢内に層厚1mm以上に積載して焼成することが好ましい。これにより、従来の焼成よりもこう鉢あたりに充填できる混合物量を増やすことができるため、生産性を向上させることができる。
【0040】
焼成温度は所望のリチウム・ニッケル複合酸化物の組成等に応じて公知の条件とすればよく、例えばニッケルとコバルトとアルミニウムを含むNCAでは650℃以上、850℃以下とすることができる。また、酸化性雰囲気中において焼成することが好ましい。これにより、ニッケル化合物とリチウム化合物の反応性を向上させ、短い焼成時間とすることができ、生産性をより高いものとすることができる。
【0041】
なお、ニッケル化合物は特定化学物質でありまたリチウム化合物はアルカリ性塩であることから取扱いに注意が必要であり、粉体で使用するとこう鉢への充填時などの際に粉塵が発生し、作業環境を悪化させてしまうことになるが、本発明では上記混合物を造粒するために、それ以降のハンドリング、作業環境を著しく向上させることができる。さらに、焼成時に導入する雰囲気ガスにより粉体で使用すると焼成炉内で飛散し炉内の壁面等に付着することもあるが、造粒物とすることで焼成時の飛散も抑えることができる。
【0042】
(粉砕工程)
焼成工程後、得られたリチウム・ニッケル複合酸化物は凝集や軽度の焼結ネッキングが生じていることもあるため、凝集や軽度の焼結ネッキングをほぐす操作として粉砕する粉砕工程を、さらに備えることが好ましい。粉砕工程は、公知の技術を用いることができる。
【0043】
(水洗工程、及び乾燥工程)
焼成後、もしくは粉砕したリチウム・ニッケル複合酸化物には不純物等が残留し、この不純物が電池特性に影響を与える場合には、リチウム・ニッケル複合酸化物を水洗する水洗工程を、さらに備えることが好ましい。水洗工程は、公知の技術を用いることができ、例えば純水で洗浄することができる。さらに水洗後は水分を除去するための乾燥処理を行う乾燥工程を備える。乾燥工程も、公知の技術を用いることができる。
【実施例
【0044】
以下、本発明での実施例を比較例と共に説明する。
【実施例1】
【0045】
組成のモル比がNi:Co:Al=88:9:3のニッケル複合水酸化物を酸化焙焼して得られた平均粒子径11μmの酸化ニッケル粉と、平均粒子径300μm以下の水酸化リチウムを容器に入れ混合した(混合工程)。
混合物のみを乾式造粒するために、乾式造粒機(ローラーコンパクター)に投入し、装置内の2本のロールでバインダーを用いず圧密後、粗解砕し、約10mm角で、厚さ約1mmのプレート状造粒物を得た。
なお、2本のロール間のロール線圧は4.9kN/cmに設定した(造粒工程)。圧密、振動を加えないように容積90000mLの容器に造粒物を入れて嵩密度を測定したところ、造粒前の混合物の嵩密度の1.2倍だった。
【0046】
得られたプレート状造粒物を、セラミック製こう鉢に入れ、酸化性雰囲気の焼成炉で温度765℃の条件で焼成して焼成合成物を得た。なお、こう鉢への盛り量は、嵩密度見合いで後述する比較例1(造粒工程なし)の1.2倍とした(焼成工程)。
【0047】
得られた焼成合成物を解砕処理後、該焼成合成物のXRD(X線回折)プロファイルをCuのKα線を用いて測定したところ、図1に示す通り、層状岩塩構造を有するリチウム・ニッケル複合酸化物が得られていることが確認できた。
図1、2の下部にある棒線グラフは、同定対象物である「LiNi0.9Co0.1」のプロフィールである。
【0048】
このリチウム・ニッケル複合酸化物を用い、図3に示す2032型のコイン型電池1を作製し電池特性を測定した。
コイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0049】
なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0050】
上記のようなコイン型電池1は、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。作製した正極3aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、上述したコイン型電池1を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ3cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0051】
その製造したコイン型電池1の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
得られたコイン型電池1を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電して、その時の容量を充電容量とした。1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
測定した結果、充電容量は229mAh/g、放電容量は210mAh/gであった。
【0052】
(比較例1)
造粒工程を実施しなかった以外は実施例1と同様の条件で焼成合成物を得た。
実施例1と同様にXRDプロファイルを測定すると図2に示す通り、層状岩塩構造を有するリチウム・ニッケル複合酸化物が得られていることが確認できた。またこのリチウム・ニッケル複合酸化物を用いて実施例1と同様にコイン型電池1を作製し電池特性を測定したところ、充電容量は229mAh/g、放電容量は208mAh/gとなった。
【0053】
実施例1と比較例1を対比すると、実施例1は従来の製造方法で作製した比較例1と同様に目的とする層状岩塩構造を有するリチウム・ニッケル複合酸化物が得られ、これを用いて作製した電池の電池特性も同等であることを示した。一方、焼成工程では、実施例1で造粒工程を備えたことで、こう鉢への盛り量が1.2倍となり、造粒物とすることで焼成工程の生産性が1.2倍となることが示された。
【符号の説明】
【0054】
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ
図1
図2
図3