(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】質量分析装置及び質量分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220428BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20220428BHJP
G01N 30/86 20060101ALN20220428BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/26
G01N30/86 D
(21)【出願番号】P 2018135559
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2017142235
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐久田 昌博
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0085141(US,A1)
【文献】特開2007-010509(JP,A)
【文献】特表2013-545449(JP,A)
【文献】特開2010-054406(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051468(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62 - G01N 27/70
G01N 30/00 - G01N 30/96
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物質を含む試料を分析すると共に、表示部を備えた質量分析装置であって、
前記測定物質の質量スペクトルの領域につき、計算で求めた理論ピークを記憶する記憶部と、
前記領域内における前記試料の質量スペクトルと、前記理論ピークとがそれぞれ有する複数のピークから一致の度合いを示す一致度を算出する一致度算出部と、
前記表示部に、前記一致度を表示させる一致度表示制御部と、
前記表示部に、前記試料の前記質量スペクトルと前記理論ピークとを質量電荷比を揃えて重畳表示させる重畳表示制御部と、
をさらに備え、
前記一致度算出部は、さらに、前記理論ピークと同一の質量電荷比における前記試料の質量スペクトルの強度を合計し、その強度合計値を算出し、
前記一致度表示制御部は、前記表示部に前記合計値を表示させることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記一致度表示制御部は、前記一致度と所定の第1閾値とを比較して、前記測定物質の存在の有無を前記表示部に表示させることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記一致度表示制御部は、前記強度合計値と所定の第2閾値とを比較して、前記測定物質の存在の有無の信頼度を前記表示部に表示させる請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記一致度算出部は、前記理論ピークの所定幅の範囲内の前記試料の前記質量スペクトルの強度の平均値に基づき、前記一致度を算出する請求項1~3のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記重畳表示制御部は、前記理論ピークのうち最大ピークの強度と、前記試料の前記質量スペクトルのうち前記最大ピークと同一の質量電荷比における強度と、を一致させて前記表示部に重畳表示させる請求項1~4のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記一致度算出部は、相関係数を用いて前記一致度を算出する請求項1~5のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項7】
測定物質を含む試料を分析する質量分析方法であって、
前記測定物質の質量スペクトルの領域につき、計算で求めた理論ピークを記憶する記憶過程と、
前記領域内における前記試料の質量スペクトルと、前記理論ピークとがそれぞれ有する複数のピークから一致の度合いを示す一致度を算出する一致度算出過程と、
表示部に、前記一致度を表示させる一致度表示制御過程と、
前記表示部に、前記試料の前記質量スペクトルと前記理論ピークとを質量電荷比を揃えて重畳表示させる重畳表示制御過程と、
をさらに有し、
前記一致度算出過程は、さらに、前記理論ピークと同一の質量電荷比における前記試料の質量スペクトルの強度を合計し、その強度合計値を算出し、
前記一致度表示制御過程は、前記表示部に前記合計値を表示させることを特徴とする質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置及び質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ臭素化ジフェニルエーテル類の一種であるデカブロモジフェニルエーテル(以下DBDE)は臭素含有率が高く、難燃材として使用されているが、近年、規制対象物質となっている。そのため、樹脂等の試料中にDBDEが含まれているか否かを分析することが必要となる。
DBDEは揮発性成分であるので、従来公知の発生ガス分析(EGA;Evolved Gas Analysis)を適用して分析することができる。この発生ガス分析は、試料を加熱して発生したガス成分を、ガスクロマトグラフや質量分析等の各種の分析装置で分析するものである。
そして、臭素系難燃剤であるテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)を質量分析し、2つのピーク強度比で判定する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、試料中の他物質(試料に含有されている他の成分)等由来の信号がノイズとして、測定物質であるDBDEの質量スペクトル領域に重なり、DBDEの質量分析が困難になるという問題がある。
そこで、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、測定物質の存在の有無を視覚的に明瞭に認識することが可能な質量分析装置及び質量分析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の質量分析装置は、測定物質を含む試料を分析すると共に、表示部を備えた質量分析装置であって、前記測定物質の質量スペクトルの領域につき、計算で求めた理論ピークを記憶する記憶部と、前記領域内における前記試料の質量スペクトルと、前記理論ピークとがそれぞれ有する複数のピークから一致の度合いを示す一致度を算出する一致度算出部と、前記表示部に、前記一致度を表示させる一致度表示制御部と、前記表示部に、前記試料の前記質量スペクトルと前記理論ピークとを質量電荷比を揃えて重畳表示させる重畳表示制御部と、をさらに備え、前記一致度算出部は、さらに、前記理論ピークと同一の質量電荷比における前記試料の質量スペクトルの強度を合計し、その強度合計値を算出し、前記一致度表示制御部は、前記表示部に前記合計値を表示させることを特徴とする。
【0006】
この質量分析装置によれば、試料の質量スペクトルと、測定物質の理論ピークとの一致度を算出して表示する。又、試料の質量スペクトルと測定物質の理論ピークとを重畳表示する。これらにより、質量分析が困難な状況にあっても、測定物質の存在の有無を視覚的に明瞭に認識することができる。
そして、理論ピークを用いて試料の質量スペクトルとの一致度を表示することで、例えば質量スペクトル自体の波形がノイズを含んで明瞭でないとしても、理論ピークとの一致度で判定すればよいので、測定物質の存在の有無の判定を確実に行うことができる。
また、この質量分析装置によれば、一致度に加え、理論ピークと同一の質量電荷比における試料の質量スペクトルの強度合計値を表示部に表示するので、測定物質の存在の有無をより確実に判断する材料を提供することができる。
【0007】
本発明の質量分析装置において、前記一致度表示制御部は、前記一致度と所定の第1閾値とを比較して、前記測定物質の存在の有無を前記表示部に表示させてもよい。
【0008】
この質量分析装置によれば、一致度と第1閾値とを比較し、前記測定物質の存在の有無をシステム側が表示させるので、作業者が判断しなくても測定物質の存在の有無を認識できる。特に、測定物質毎に第1閾値が異なる場合に、個々の一致度の値と存在の有無を判断するには経験が必要であるが、これをシステム上で容易に行える。
【0010】
本発明の質量分析装置において、前記一致度表示制御部は、前記強度合計値と所定の第2閾値とを比較して、前記測定物質の存在の有無の信頼度を前記表示部に表示させてもよい。
この質量分析装置によれば、強度合計値と第2閾値とを比較し、前記測定物質の存在の有無の信頼度をシステム側が表示させるので、測定物質の存在の有無をより確実に判断できる。
【0011】
本発明の質量分析装置において、前記一致度算出部は、前記理論ピークの所定幅の範囲内の前記試料の前記質量スペクトルの強度の平均値に基づき、前記一致度を算出してもよい。
質量スペクトルは時間によって変動することがあり、その場合は理論ピークとの一致度の値が不安定になる。そこで、理論ピークの質量電荷比の方向に所定幅の範囲内の質量スペクトルの強度の平均値を求め、この平均値に基づいて一致度を算出することで、測定物質の存在の有無をさらに確実に判断することができる。
【0012】
本発明の質量分析装置において、前記表示制御部は、前記理論ピークのうち最大ピークの強度と、前記試料の前記質量スペクトルのうち前記最大ピークと同一の質量電荷比における強度と、を一致させて前記表示部に重畳表示させてもよい。
この質量分析装置によれば、試料の質量スペクトルと理論ピークを比較して見やすくなる。
【0013】
本発明の質量分析装置において、前記一致度算出部は、相関係数を用いて前記一致度を算出するとよい。
【0014】
本発明の質量分析方法は、測定物質を含む試料を分析する質量分析方法であって、前記測定物質の質量スペクトルの領域につき、計算で求めた理論ピークを記憶する記憶過程と、前記領域内における前記試料の質量スペクトルと、前記理論ピークとがそれぞれ有する複数のピークから一致の度合いを示す一致度を算出する一致度算出過程と、表示部に、前記一致度を表示させる一致度表示制御過程と、前記表示部に、前記試料の前記質量スペクトルと前記理論ピークとを質量電荷比を揃えて重畳表示させる重畳表示制御過程と、をさらに有し、前記一致度算出過程は、さらに、前記理論ピークと同一の質量電荷比における前記試料の質量スペクトルの強度を合計し、その強度合計値を算出し、前記一致度表示制御過程は、前記表示部に前記合計値を表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定物質の存在の有無を視覚的に明瞭に認識することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る質量分析装置を含む発生ガス分析装置の構成を示す斜視図である。
【
図6】発生ガス分析装置によるガス成分の分析動作を示すブロック図である。
【
図7】測定物質とDBDEを含む試料の質量スペクトルガスを示す図である。
【
図8】DBDEの質量スペクトルの理論ピークを示す図である。
【
図9】質量スペクトルと、理論ピークとの一致度を算出する方法を示す模式図である。
【
図10】理論ピークの所定幅の範囲内の試料の質量スペクトルの強度の平均値に基づき、一致度を算出する方法を示す模式図である。
【
図11】試料の質量スペクトルと理論ピークとを質量電荷比を揃えて重畳表示する態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係るに係る質量分析計(質量分析装置)110を含む発生ガス分析装置200の構成を示す斜視図であり、
図2はガス発生部100の構成を示す斜視図、
図3はガス発生部100の構成を示す軸心Oに沿う縦断面図、
図4はガス発生部100の構成を示す軸心Oに沿う横断面図、
図5は
図4の部分拡大図である。
発生ガス分析装置200は、筐体となる本体部202と、本体部202の正面に取り付けられた箱型のガス発生部取付け部204と、全体を制御するコンピュータ(制御部)210とを備える。コンピュータ210は、データ処理を行うCPUと、コンピュータプログラムやデータを記憶する記憶部215と、液晶モニタ等の表示部220と、キーボード等の入力部222等を有する。
【0018】
ガス発生部取付け部204の内部には、円筒状の加熱炉10と、試料ホルダ20と、冷却部30と、ガスを分岐させるスプリッタ40と、イオン源50と、不活性ガス流路19fとがアセンブリとして1つになったガス発生部100が収容されている。又、本体部202の内部には、試料を加熱して発生したガス成分を分析する質量分析計110が収容されている。
【0019】
なお、
図1に示すように、ガス発生部取付け部204の上面から前面に向かって開口204hが設けられ、試料ホルダ20を加熱炉10外側の排出位置(後述)に移動させると開口204hに位置するので、開口204hから試料ホルダ20に試料を出し入れ可能になっている。又、ガス発生部取付け部204の前面には、スリット204sが設けられ、スリット204sから外部に露出する開閉ハンドル22Hを左右に動かすことにより、試料ホルダ20を加熱炉10の内外に移動させて上述の排出位置にセットし、試料を出し入れするようになっている。
なお、例えばコンピュータ210で制御されるステッピングモータ等により、移動レール204L(後述)上で試料ホルダ20を移動させれば、試料ホルダ20を加熱炉10の内外に移動させる機能を自動化できる。
【0020】
次に、
図2~
図6を参照し、ガス発生部100の各部分の構成について説明する。
まず、加熱炉10は、ガス発生部取付け部204の取付板204aに軸心Oを水平にして取り付けられ、軸心Oを中心に開口する略円筒状をなす加熱室12と、加熱ブロック14と、保温ジャケット16とを有する。
加熱室12の外周に加熱ブロック14が配置され、加熱ブロック14の外周に保温ジャケット16が配置されている。加熱ブロック14はアルミニウムからなり、軸心Oに沿って加熱炉10の外部に延びる一対のヒータ電極14a(
図4参照)により通電加熱される。
なお、取付板204aは、軸心Oに垂直な方向に延びており、スプリッタ40及びイオン化部50は、加熱炉10に取り付けられている。さらに、イオン化部50は、ガス発生部取付け部204の上下に延びる支柱204bに支持されている。
【0021】
加熱炉10のうち開口側と反対側(
図3の右側)にはスプリッタ40が接続されている。又、加熱炉10の下側にはキャリアガス保護管18が接続され、キャリアガス保護管18の内部には、加熱室12の下面に連通してキャリアガスCを加熱室12に導入するキャリアガス流路18fが収容されている。又、キャリアガス流路18fには、キャリアガスCの流量F1を調整する制御弁18vが配置されている。
そして、詳しくは後述するが、加熱室12のうち開口側と反対側(
図3の右側)の端面に混合ガス流路41が連通し、加熱炉10(加熱室12)で生成したガス成分Gと、キャリアガスCとの混合ガスMが混合ガス流路41を流れるようになっている。
【0022】
一方、
図3に示すように、イオン化部50の下側には不活性ガス保護管19が接続され、不活性ガス保護管19の内部には、不活性ガスTをイオン化部50に導入する不活性ガス流路19fが収容されている。又、不活性ガス流路19fには、不活性ガスTの流量F4を調整する制御弁19vが配置されている。
【0023】
試料ホルダ20は、ガス発生部取付け部204の内部上面に取り付けられた移動レール204L上を移動するステージ22と、ステージ22上に取り付けられて上下に延びるブラケット24cと、ブラケット24cの前面(
図3の左側)に取り付けられた断熱材24b、26と、ブラケット24cから加熱室12側に軸心O方向に延びる試料保持部24aと、試料保持部24aの直下に埋設されるヒータ27と、ヒータ27の直上で試料保持部24aの上面に配置されて試料を収容する試料皿28と、を有する。
ここで、移動レール204Lは軸心O方向(
図3の左右方向)に延び、試料ホルダ20はステージ22ごと、軸心O方向に進退するようになっている。又、開閉ハンドル22Hは、軸心O方向に垂直な方向に延びつつステージ22に取り付けられている。
【0024】
なお、ブラケット24cは上部が半円形をなす短冊状をなし、断熱材24bは略円筒状をなしてブラケット24c上部の前面に装着され、断熱材24bを貫通してヒータ27の電極27aが外部に取り出されている。断熱材26は略矩形状をなして、断熱材24bより下方でブラケット24cの前面に装着される。又、ブラケット24cの下方には断熱材26が装着されずにブラケット24cの前面が露出し、接触面24fを形成している。
ブラケット24cは加熱室12よりやや大径をなして加熱室12を気密に閉塞し、試料保持部24aが加熱室12の内部に収容される。
そして、加熱室12の内部の試料皿28に載置された試料が加熱炉10内で加熱され、ガス成分Gが生成する。
【0025】
冷却部30は、試料ホルダ20のブラケット24cに対向するようにして加熱炉10の外側(
図3の加熱炉10の左側)に配置されている。冷却部30は、略矩形で凹部32rを有する冷却ブロック32と、冷却ブロック32の下面に接続する冷却フィン34と、冷却フィン34の下面に接続されて冷却フィン34に空気を当てる空冷ファン36とを備える。
そして、試料ホルダ20が移動レール204L上を軸心O方向に
図3の左側に移動して加熱炉10の外に排出されると、ブラケット24cの接触面24fが冷却ブロック32の凹部32rに収容されつつ接触し、冷却ブロック32を介してブラケット24cの熱が奪われ、試料ホルダ20(特に試料保持部24a)を冷却するようになっている。
【0026】
図3、
図4に示すように、スプリッタ40は、加熱室12と連通する上述の混合ガス流路41と、混合ガス流路41に連通しつつ外部に開放された分岐路42と、分岐路42の出側に接続されて分岐路42から排出される混合ガスMの排出圧力を調整する背圧調整機構42aと、自身の内部に混合ガス流路41の終端側が開口される筐体部43と、筐体部43を囲む保温部44とを備えている。
さらに、本例では、分岐路42と背圧調整機構42aとの間に、混合ガス中の夾雑物等を除去するフィルタ42b、流量計42cが配置されている。背圧調整機構42a等の背圧を調整する弁等を設けず、分岐路42の端部が剥き出しの配管のままであってもよい。
【0027】
図4に示すように、上面から見たとき、混合ガス流路41は、加熱室12と連通して軸心O方向に延びた後、軸心O方向に垂直に曲がり、さらに軸心O方向に曲がって終端部41eに至るクランク状をなしている。又、混合ガス流路41のうち軸心O方向に垂直に延びる部位の中央付近は拡径して分岐室41Mを形成している。分岐室41Mは筐体部43の上面まで延び、分岐室41Mよりやや小径の分岐路42が嵌合されている。
混合ガス流路41は、加熱室12と連通して軸心O方向に延びて終端部41eに至る直線状であってもよく、加熱室12やイオン源50の位置関係に応じて、種々の曲線や軸心Oと角度を有する線状等であってもよい。
【0028】
図3、
図4に示すように、イオン化部50は、筐体部53と、筐体部53を囲む保温部54と、放電針56と、放電針56を保持するステー55とを有する。筐体部53は板状をなし、その板面が軸心O方向に沿うと共に、中央に小孔53cが貫通している。そして、混合ガス流路41の終端部41eが筐体部53の内部を通って小孔53cの側壁に臨んでいる。一方、放電針56は軸心O方向に垂直に延びて小孔53cに臨んでいる。
【0029】
さらに、
図4、
図5に示すように、不活性ガス流路19fは筐体部53を上下に貫通し、不活性ガス流路19fの先端は、筐体部53の小孔53cの底面に臨み、混合ガス流路41の終端部41eに合流する合流部45を形成している。
そして、終端部41eから小孔53c付近の合流部45に導入された混合ガスMに対し、不活性ガス流路19fから不活性ガスTが混合されて総合ガスM+Tとなって放電針56側に流れ、総合ガスM+Tのうち、ガス成分Gが放電針56によってイオン化される。
【0030】
イオン化部50は公知の装置であり、本実施形態では、大気圧化学イオン化(APCI)タイプを採用している。APCIはガス成分Gのフラグメントを起こし難く、フラグメントピークが生じないので、クロマトグラフ等で分離せずとも測定対象を検出できるので好ましい。
イオン化部50でイオン化されたガス成分Gは、キャリアガスC及び不活性ガスTと共に質量分析計110に導入されて分析される。
なお、イオン化部50は、保温部54の内部に収容されている。
【0031】
図6は、発生ガス分析装置200によるガス成分の分析動作を示すブロック図である。
試料Sは加熱炉10の加熱室12内で加熱され、ガス成分Gが生成する。加熱炉10の加熱状態(昇温速度、最高到達温度等)は、コンピュータ210の加熱制御部212によって制御される。
ガス成分Gは、加熱室12に導入されたキャリアガスCと混合されて混合ガスMとなり、スプリッタ40に導入され、混合ガスMの一部が分岐路42から外部に排出される。
イオン化部50には、混合ガスMの残部と、不活性ガス流路19fからの不活性ガスTが総合ガスM+Tとして導入され、ガス成分Gがイオン化される。
【0032】
コンピュータ210の検出信号判定部214は、質量分析計110の検出器118(後述)から検出信号を受信する。
流量制御部216は、検出信号判定部214から受信した検出信号のピーク強度が閾値の範囲外か否かを判定する。そして、範囲外の場合、流量制御部216は、制御弁19vの開度を制御することにより、スプリッタ40内で分岐路42から外部へ排出される混合ガスMの流量、ひいては混合ガス流路41からイオン源50へ導入される混合ガスMの流量を調整し、質量分析計110の検出精度を最適に保つ。
【0033】
質量分析計110は、イオン化部50でイオン化されたガス成分Gを導入する第1細孔111と、第1細孔111に続いてガス成分Gが順に流れる第2細孔112、イオンガイド114、四重極マスフィルター116と、四重極マスフィルター116から出たガス成分Gを検出する検出器118とを備える。
四重極マスフィルター116は、印加する高周波電圧を変化させることにより、質量走査可能であり、四重極電場を生成し、この電場内でイオンを振動運動させることによりイオンを検出する。四重極マスフィルター116は、特定の質量範囲にあるガス成分Gだけを透過させる質量分離器をなすので、検出器118でガス成分Gの同定および定量を行うことができる。
【0034】
又、本例では、分岐路42より下流側で混合ガス流路41に不活性ガスTを流すことで、質量分析計110へ導入される混合ガスMの流量を抑える流路抵抗となり、分岐路42から排出される混合ガスMの流量を調整する。具体的には、不活性ガスTの流量が多いほど、分岐路42から排出される混合ガスMの流量も多くなる。
これにより、ガス成分が多量に発生してガス濃度が高くなり過ぎたときには、分岐路から外部へ排出される混合ガスの流量を増やし、検出手段の検出範囲を超えて検出信号がオーバースケールして測定が不正確になることを抑制している。
【0035】
次に、
図7~
図11を参照し、本発明の特徴部分について説明する。なお、DBDEを「測定物質」とする。
図7は、DBDEを含む試料(例えばABS樹脂)の質量スペクトルである。DBDEの質量スペクトルは、質量電荷比(m/z)が約950~970の領域Rに現れる。なお、DBDEと別の物質の質量スペクトルMが領域Rを外れた位置に現れている。
【0036】
図8は、領域Rを含むDBDEの質量スペクトルの理論ピークTを示す。本例では、理論ピークTを次のようにして算出する。まず、DBDEは臭素を10個含み、各臭素は2つの同位体
79Brと
81Brをほぼ同じ比率で含んでいる。臭素が1個の場合、同位体
79Brと
81Brの2つであるから、質量スペクトルは強度比1:1の2つのピークからなる。臭素が2個の場合、2個とも
79Br、
79Brと
81Brが1個ずつ、2個とも
81Brの4通りあり、このうち
79Brと
81Brが1個ずつの場合が2通りあるので、質量スペクトルは強度比1:2:1の3つのピークからなる。このようにして、ピークの相対強度の理論値(理論ピークT)は2項分布で計算して求めることができ、
図8に示すように、DBDEは11個のピークからなる。
【0037】
なお、
図8では見かけ上、9本のピークしか見えないが、実際には11本あるところ、
図8の横軸の両端のピークは強度が最大ピークの0.4%程度しかなく、ほとんど見えていない。但し、両端のピークの強度がほとんど無いことも重要な情報ではあり、以下の一致度の算出ではこの情報も用いている。
【0038】
次に、領域R内における質量スペクトルNと、理論ピークTとがそれぞれ有する複数のピークを比較し、これら複数のピークの一致の度合いを示す一致度を算出する。具体的には、
図9に示すように、同一の質量電荷比Cにおける質量スペクトルNの強度P1と、理論ピークTの強度P2とを比較し、P1がP2とどれだけ類似するかを、理論ピークTを構成する11個のピークのそれぞれについて、P1とP2との相関係数を求めて一致度を算出する。
特に、x
iを理論ピークTのi番目のピーク強度、y
iを質量スペクトルNのi番目のピーク強度、nをピークの個数としたとき、ピアソンの線形相関係数は定義より次式1のように計算される。この数値は一致度の指標として使うことができる。
【数1】
式1において、
【数2】
は、それぞれ変数x
i およびy
i の平均値である。すなわち、
【数3】
である。
これにより、質量スペクトルN自体の波形がノイズを含んで明瞭でないとしても、理論ピークTの個々のピークで示される特徴部分との一致度を判定すればよいので、一致度の算出を確実に行うことができる。
【0039】
なお、
図9の破線に示すように、質量スペクトルNは時間によって変動することがあり、その場合は理論ピークTとの一致度の値が不安定になる。
そこで、
図10に示すように、理論ピークTの個々のピークの質量電荷比の方向に所定幅Wの範囲内の質量スペクトルNの強度の平均値を求め、この平均値に基づいて一致度を算出することが好ましい。この場合、所定幅Wの範囲内で質量スペクトルNの強度を異なる質量電荷比でP11~P14の複数個(
図10では4個)取得し、その平均値Pavと、P2との相関係数を求めればよい。
【0040】
このようにして、
図11に示すように、一致度(本例では96.8%)を表示部220(例えば所定のボックス220a)に表示する。さらに、表示部220の例えば所定の領域220dに、試料の質量スペクトルNと理論ピークTとを質量電荷比を揃えて重畳表示する。
このとき、理論ピークTのうち最大ピークの強度Pmaxと、試料の質量スペクトルNのうち最大ピークと同一の質量電荷比C1における強度Nmaxと、を一致させて重畳表示させると、試料の質量スペクトルNと理論ピークTを比較して見やすくなる。
【0041】
以上のように、表示部220に、試料の質量スペクトルNと、DBDEの理論ピークTとの一致度を表示すると共に、質量スペクトルNと理論ピークTとを重畳表示するので、質量分析が困難な状況でもDBDEの存在の有無を視覚的に明瞭に認識することができる。
そして、理論ピークを用いて試料の質量スペクトルとの一致度を算出することで、質量スペクトル自体の波形がノイズを含んで明瞭でないとしても、理論ピークとの一致度を算出すればよいので、DBDEの存在の有無の判定を確実に行うことができる。
【0042】
さらに、
図11に示すように、一致度と所定の第1閾値とを比較し、DBDEの存在の有無を表示部220(例えば所定のボックス220b)に表示してもよい。
このように、DBDEの存在の有無をシステム側が表示させるので、作業者が判断しなくてもDBDEの存在の有無を容易に認識できる。特に、測定物質毎に第1閾値が異なる場合に、個々の一致度の値と存在の有無を判断するには経験が必要であるが、これをシステム上で容易に行える。
なお、本例では、DBDEの存在の有無の表示は、一致度が第1閾値以上の場合にDBDEが存在すると判定して表示「×」としている。これは、DBDEが規制物質として試料に含まれるのが好ましくないからであり、表示方法はこれに限定されない。
【0043】
さらに、理論ピークTと同一の質量電荷比における試料の質量スペクトルNの強度を合計し、その強度合計値を算出して表示部220(例えば所定のボックス220e)に表示してもよい。
この際、第2の閾値を設定し、強度合計値と第2閾値とを比較して、DBDEの存在の有無の信頼度を表示部220(例えば所定のボックス220c)に表示しても良い。
これにより、一致度に加え、理論ピークTと同一の質量電荷比における試料の質量スペクトルNの強度合計値を表示するので、作業者が理論ピークと試料の質量スペクトルとの一致の有無をより確実に判断する材料を提供することができる。
又、DBDEの存在の有無の信頼度をシステム側が表示させることで、DBDEの存在の有無をより確実に判断できる。なお、本例では、強度合計値が第2閾値以上の場合、測定が確からしいとして、信頼度を高く表示する。
【0044】
なお、質量スペクトルNの強度を求める方法は、理論ピークTと完全に同一の質量電荷比における強度でもよいが、上述の
図9、
図10に示したように、理論ピークTの所定幅Wの範囲内の質量スペクトルNの強度の平均値を採用し、これらを合計することが好ましい。
【0045】
次に、
図6を参照し、上述の処理について説明する。
理論ピークT、第1閾値、第2閾値は、ハードディスク等の記憶部215に予め記憶されている。まず、コンピュータ210の一致度算出部217は、検出信号判定部214から、
図7の領域R内における試料の質量スペクトルNを取得し、理論ピークTとの一致度を算出する。さらに、一致度算出部217は、必要に応じて上記した質量スペクトルNの強度合計値を算出する。
そして、コンピュータ210の一致度表示制御部219aは、算出した一致度(及び強度合計値)を表示部220(例えばそれぞれボックス220a、220e)に表示させる。
【0046】
また、重畳表示制御部219bは、表示部220に、質量スペクトルNと理論ピークTとを質量電荷比を揃えて重畳表示させる。
さらに、好ましくは、一致度表示制御部219aは、第1閾値を記憶部215から読み出し、算出した一致度と比較して、DBDEの存在の有無を表示部220(例えばボックス220b)に表示させる。
さらに、好ましくは、一致度表示制御部219aは、第2閾値を記憶部215から読み出し、算出した強度合計値と比較して、DBDEの存在の有無の信頼度を表示部220(例えばボックス220c)に表示させる。
【0047】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
測定物質及び特定の副成分は上記実施形態に限定されない。
理論ピークの計算方法、一致度の算出方法も上記実施形態に限定されない。
【0048】
質量分析装置に試料を導入する方法は、上述の加熱炉で試料を熱分解してガス成分を発生する方法に限らず、例えばガス成分を含む溶媒を導入し、溶媒を揮発させつつガス成分を発生させる溶媒抽出型のGC/MS又はLC/MS等であってもよい。
又、一致度を算出する際には相関係数を用いるのが好ましく、特にピアソンの線形相関係数を用いるのが好ましい。
【符号の説明】
【0049】
110 質量分析計(質量分析装置)
217 一致度算出部
215 記憶部
219a 一致度表示制御部
219b 重畳表示制御部
220 表示部
T 理論ピーク
N 領域内における試料の質量スペクトル
S 試料
W 理論ピークの所定幅
Pmax 理論ピークのうち最大ピークの強度
Nmax 試料の質量スペクトルのうち最大ピークと同一の質量電荷比における強度