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特許7064821非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法
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  • 特許-非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法 図1
  • 特許-非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20220428BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220428BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220428BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20220428BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/139
H01M10/052
H01M50/409
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2016106490
(22)【出願日】2016-05-27
(65)【公開番号】P2017212175
(43)【公開日】2017-11-30
【審査請求日】2019-03-25
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】栗原 好治
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光国
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】土屋 知久
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-103065(JP,A)
【文献】特開2011-34861(JP,A)
【文献】特開2014-78360(JP,A)
【文献】特開2012-221756(JP,A)
【文献】特開2003-2660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系電解質二次電池の正極材料の抵抗評価を行う非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法であって、
前記非水系電解質二次電池の評価用電池を作製後に、少なくとも該評価用電池の正極膜に電解液が完全に浸透するまで該評価用電池を所定時間静置する工程と、
前記所定時間を静置後に定電流充電する工程と、
前記定電流充電後に前記評価用電池を休止してから定電流放電をする工程と、
前記定電流放電後に前記評価用電池を休止してから定電流定電圧充電を行う工程と、
前記定電流定電圧充電後に交流インピーダンス法により前記正極材料の抵抗測定を行う工程と、を含むことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法。
【請求項2】
前記評価用電池を作製後に静置する前記所定時間は、少なくとも4時間以上であることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法。
【請求項3】
前記非水系電解質二次電池は、リチウムを含む遷移金属酸化物の正極と、金属リチウム又はリチウムを主成分とする金属からなる負極とがセパレータを挟んで向かい合うように配置されたリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法。
【請求項4】
前記セパレータは、主成分をSiOとするガラス繊維からなることを特徴とする請求項3に記載の非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法。
【請求項5】
前記正極は、多孔質の正極膜から構成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法。
【請求項6】
前記正極膜は、正極活物質、導電材、結着剤を混合し、加圧成型することで形成され、又は、正極活物質、導電材、結着剤、溶媒をスラリー混合し集電体に塗布することで形成されることを特徴とする請求項5に記載の非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水系電解質二次電池の正極材料の抵抗評価を行う非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等の携帯機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型かつ軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、XEVと呼ばれる環境対応自動車においても小型、軽量、高容量、高出力などの高性能化や低コスト化が求められている。さらに、環境対応自動車における1回の充電当たりの走行距離の向上や小型化の必要性が増し、更なる高容量化が求められている。
【0003】
このような高容量の二次電池として、非水系電解質二次電池がある。非水系電解質二次電池の代表的な電池としてはリチウムイオン二次電池があり、リチウムイオン二次電池の正極材料には、リチウム金属複合酸化物が正極活物質として使用される。リチウムイオン二次電池に使用される各材料に対する要求、とりわけ、例えば、LiCoO、LiNiOまたはLiMnO4等の正極材料に対する高性能化の開発要求は、ますます高まっている。これらの開発を迅速かつ低コストで進めるためには評価手段が重要な一つであり、リチウムイオン二次電池正極材の開発における評価方法の重要性は、益々高まっている。
【0004】
具体的な評価方法としては、組成分析やXRD、SEM EDX、XPS等のいわゆる分析評価方法による正極材料の組成、粒度分布、粒子形状、結晶構造、構成元素の配置等と電池性能との相関評価があるが、電池を実際に作製して電池特性の評価を行うことは、不可欠である。また、電池特性の評価においては、充放電容量特性と出力特性が重要となり、特に、車載用電池では、出力特性の評価が不可欠となる。
【0005】
電池の出力特性の評価方法には、直流法と交流法があり、直流法では、作製した電池を所定の充電深度の充電状態として短時間電流を印可し、その時間の電圧降下量(V)と印可した電流値(A)から抵抗を算出する方法(特許文献1参照)や、作製した電池について、定電流定電圧充電を行い、一定時間休止の後、所定の電池電圧まで定電流で放電させ、このとき一定時間休止後の開回路電圧(OCV)、及び放電開始一定短時間後の閉回路電圧(CCV)、放電開始一定短時間後の放電電流(I)から、当該電池の直流抵抗(R)を算出する方法(算出式は、R=(OCV-CCV)/Iである)(特許文献2参照)等がある。一方、交流法は、電池に微小な電流を重畳印可し、周波数を変化させることで抵抗を分離する交流インピーダンス法が用いられている。前者は、電池全体の抵抗(出力)評価となり、電池メーカー等で利用されることが多い。後者は、正極、負極などの各抵抗成分の分離ができることから、正極活物質や負極活物質の解析に用いられ、研究機関や正極、負極、電解液のメーカー等で利用されている。
【0006】
出力特性を評価する電池作製において、負極にカーボンを用いる場合は、カーボン粒子をバインダー(結着剤ともいう。)と共に溶媒を使ってスラリー化し混練、塗工、乾燥する作製方法が一般的であるが、工程が煩雑となる。また、均一な分散、塗工膜厚や空隙構造が求められるため、金属リチウムシートを所望のサイズに切り抜いたものを使用する方法が簡易で経済的である。しかし、電極にかかる圧力や電極間の電解液量、正、負極のサイズ、サイズ比等により負極表面のデンドライトの生成状態が変化することから、特に、電池の状態に過敏に反応する交流インピーダンス法等では、再現性のあるデータを得ることが難しいといった問題もある。
【0007】
正極の作製方法は、正極活物質を導電材、結着材、溶媒と共に混練、塗工、乾燥し、所望のサイズに打ち抜く方法や、同様の部材を乾式混合し、ロールプレス等を使ってシートを作製し、所望のサイズに打ち抜く方法があるが、前者の塗工法は、塗工厚みを薄くすることが可能である。リチウムイオンの拡散が律速となるリチウムイオン二次電池において塗工厚みを薄く、リチウムの拡散距離を短くすることで、高レートでの充放電が可能となり、直流法による抵抗評価が可能なリチウムイオン二次電池を得ることができるが、負極作製と同様に工程が煩雑で、研究開発などの少量多品種の評価が必要な開発用電池作製には適当ではない。後者の乾式混合によるシート法では、塗工による電極作製法と比べ、手早く電極が作製できるメリットがあるが電極が厚くなることから高レートを印可する直流法による抵抗評価は難しい。
【0008】
このような電極が厚い電池の場合は、印可する電流が微小な交流インピーダンス法による抵抗評価が好ましい。交流インピーダンス法による抵抗評価として、特許文献3には、集電体上に電極活物質層が形成された電極の抵抗を交流インピーダンス法で簡便、かつ精度よく検査する電極の検査方法が開示されている。また、特許文献4には、電池を組み立てることなく、電極の状態で組立後の電池の特性を直接的に反映し得る電極の評価方法として、電極の抵抗を交流インピーダンス法で評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2015/182560号
【文献】特開2015-167118号公報
【文献】特開2014-025850号公報
【文献】特開2013-110082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
出荷前検査等に作製される二次電池のセパレータには、厚み数十ミクロンのポリプロプレン、又はポリエチレン製多孔膜を用いることが一般的である。これらのセパレータは、短絡の際、発生する熱により収縮し、細孔を閉じることで電池としての機能を停止することが出来、これにより電池としての安全性を向上させることができる。しかし、これらのセパレータは、安全性の面では、メリットがあるものの、電解液の保液性や濡れ性が悪く、電極間の電解液量が安定せず、測定再現性が不安定になるという問題もある。特に、セルの小さな抵抗変化に敏感に反応する交流インピーダンス法においては、測定再現性の面で評価用セルとして用いるのは難しい。
【0011】
また、出荷前検査用電池の各部分の作製において、常に安定した品質を維持し、電池の組立精度を高く保つことは、当然必要とされるが、組立後の温度制御や通電によるコンディショニングは、抵抗測定のために重要である。この中でも特に負極上のLiデンドライトを一様に形成することが困難であり課題となっている。このように従来の電池作製及び測定方法では、開発の評価や生産品の出荷前検査を目的とした場合、安定性、作業性、即応性そしてコスト的に優れているとは言い難い。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、非水系電解質二次電池の正極材料の抵抗評価をより迅速、高精度かつ低コストで容易に行うことの可能な、新規かつ改良された非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前述した本発明の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、非水系電解質二次電池の正極材料の交流抵抗を測定する場合に、充電及び放電を行った後に所定の充電深度まで充電することを交流抵抗測定前のコンディショニングとし、その後に交流抵抗測定を行うことで、高精度で安定した測定結果を得ることができること、また、かかるコンディショニングが初期充放電容量測定を兼ねることで効率的な電池評価ができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の一態様は、非水系電解質二次電池の正極材料の抵抗評価を行う非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法であって、前記非水系電解質二次電池の評価用電池を作製後に、少なくとも該評価用電池の正極膜に電解液が完全に浸透するまで該評価用電池を所定時間静置する工程と、前記所定時間を静置後に定電流充電する工程と、前記定電流充電後に前記評価用電池を休止してから定電流放電をする工程と、前記定電流放電後に前記評価用電池を休止してから定電流定電圧充電を行う工程と、前記定電流定電圧充電後に交流インピーダンス法により前記正極材料の抵抗測定を行う工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様によれば、負極表面に形成されるデンドライトの形成量のばらつきが低減されて負極表面が安定するようになるので、交流インピーダンス法で正極材料の抵抗評価値の精度が向上する。
【0016】
このとき、本発明の一態様では、前記評価用電池を作製後に静置する前記所定時間は、少なくとも4時間以上であることとしてもよい。
【0017】
このようにすれば、評価用電池の正極膜に電解液が完全に浸透するようになるので、その後の交流インピーダンス法による正極材料の抵抗評価値の精度が向上する。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記非水系電解質二次電池は、リチウムを含む遷移金属酸化物の正極と、金属リチウム又はリチウムを主成分とする金属からなる負極とがセパレータを挟んで向かい合うように配置されたリチウムイオン二次電池であり、特に、前記セパレータは、主成分をSiOとするガラス繊維からなることとしてもよい。
【0019】
このようにすれば、特に、リチウムイオン二次電池における交流インピーダンス法による正極材料の抵抗評価値の精度が向上する。
【0020】
また、本発明の一態様では、前記正極は、多孔質の正極膜から構成されることとしてもよい。
【0021】
このようにすれば、正極膜の孔部に電解液が完全に浸透するようになるので、その後の交流インピーダンス法による正極材料の抵抗評価値の精度が向上する。
【0022】
また、本発明の一態様では、前記正極膜は、正極活物質、導電材、粉末バインダーを混合し、加圧成型することで形成され、又は、正極活物質、導電材、結着材、溶媒をスラリー混合し、集電体に塗布することで形成されることとしてもよい。
【0023】
このようにすれば、リチウムイオン二次電池の正極材料として好適な正極膜を効率的に形成できる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明によれば、リチウムイオン二次電池等の非水系電解質二次電池の電池材料開発や生産品の出荷前検査における抵抗評価の観点から、非水電解質二次電池の正極活物質の抵抗評価を迅速、高精度かつ低コストで容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法で適用される評価用非水系電解質二次電池の構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の抵抗評価方法の概略を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0027】
本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極材料の容量評価方法で適用される非水系電解質二次電池は、正極、負極及び非水系電解液等からなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池を2032型コイン電池に適用した例について、図面を使用しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極材料の容量評価方法で適用される評価用非水系電解質二次電池の構成を示す断面図である。
【0028】
本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池1は、2032型コイン電池であり、ケース2と、ケース2内に収容された電極3とから構成される。ケース2は、図1(B)に示すように、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成される。電極3は、正極3a、セパレータ3c、及び負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bがウェーブワッシャー4を介して、負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容される。
【0029】
なお、ケース2は、図1に示すように、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が電気的に絶縁状態を維持するように固定される。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封して、ケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0030】
次に、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の抵抗評価方法のフローについて、図面を使用しながら説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の抵抗評価方法の概略を示すフロー図である。
【0031】
本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の抵抗評価方法は、リチウムイオン二次電池等の非水系電解質二次電池の開発評価や、生産品の出荷前検査における正極材料の抵抗評価を行う際に適用される。本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の抵抗評価方法は、図2に示すように、評価用電池作製工程S11、静置工程S12、定電流充電工程S13、休止工程S14、定電流放電工程S15、休止工程S16、定電流定電圧充電工程S17、及び交流インピーダンス測定工程S18を含む。
【0032】
評価用電池作製工程S11では、非水系電解質二次電池の評価用電池を作製する。本実施形態では、前述した図1(A)及び(B)に示すようなリチウムイオン二次電池として2032型コイン電池を評価用電池として、露点-30℃未満のグローブボックス又はドライルームの中で作成する。具体的には、リチウムを含む遷移金属酸化物の正極と、金属リチウム又はリチウムを主成分とする金属からなる負極とがセパレータを挟んで向かい合うように配置されたリチウムイオン二次電池を評価用電池として作製する。
【0033】
本実施形態では、負極を構成する負極板は、例えば、金属リチウム又はリチウムを主成分とする合金からなる直径14mm、厚み1.0mmのものを打ち抜いて作製される。正極を構成する正極膜は、正極活物質、導電材、及び粉末バインダーを任意の割合で均一に混合し、秤量した後に金型へ流し込み加圧成型することで作製される。具体的には、例えば、リチウムニッケル複合酸化物の粉末75wt%と、導電材となるカーボン粉末と結着剤となる例えばポリテトラフルオロエチレンを2対1で混ぜ合わせたものを25wt%とを混ぜ合わせた物からなる直径11mm、厚さ0.5mm前後、重さ10mg前後の多孔質の正極膜を効率的に作製する。なお、多孔質な正極膜は、スラリー混合し集電体に塗布する湿式混合によっても効率的に形成できる。
【0034】
セパレータは、電解液の吸液性が高いガラス繊維を用いることで、短時間に電極内部または電極間に十分な電解質の供給が可能となり、安定した電池評価をすることができるため好ましい。また、セパレータの厚みが厚くなると、正極と負極の間の距離が広くなるため、20~1000μmであることが好ましく、50~800μmであることがより好ましい。さらに、ガラス繊維の主成分をSiOとするものが好ましい。アルカリ成分が含まれると、条件によっては、電解液中に溶け出して電池の耐久性に影響する可能性があるために、出来れば含まれないことが好ましい。
【0035】
非水系電解液としては、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることが好ましい。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等、及びそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0036】
評価用電池を作製したら、当該評価用電池を所定時間静置する(静置工程S12)。本実施形態では、評価用電池を作製後に静置する所定時間として、評価用電池の正極膜に電解液が完全に浸透させることによって、交流インピーダンス法による正極材料の抵抗評価値の精度を向上させるために、少なくとも4時間以上静置することを特徴とする。
【0037】
前述したように、正極膜は、多孔質であることから、正極膜への浸透具合がばらつくと正極材料のインピーダンス測定結果もばらつくため、電解液が完全に孔部へ入り込む浸透が必要となる。また、静置工程S12における静置時間が4時間未満では、電解液の正極膜への浸透が安定せず、一方、18時間以上とすると操業効率の観点から問題がある。静置時間は長い方が電解液を確実に浸透させることができるので、8時間以上がより好ましく、12時間以上が更に好ましい。このため、本実施形態では、交流インピーダンス法による正極材料の抵抗評価値の精度を高めるために、より確実に正極膜に電解液を完全に浸透させた上で評価方法の操業効率を鑑みて、評価用電池作製工程S11が終了した後の静置工程S12の静置時間を少なくとも4時間以上としている。
【0038】
作製した評価用電池を4時間静置した後に、評価用電池の定電流充電を行う(定電流充電工程S13)。本実施形態では、0.4mAで4.3Vまで定電流充電を行う。その後、評価用電池を1時間の休止の後(休止工程S14)、定電流放電を行う(定電流放電工程S15)。本実施形態では、3.0Vまで定電流放電を行う。このようにして、本実施形態では、定電流充電工程S13、休止工程S14,及び定電流放電工程S15のサイクルを1サイクル行う。
【0039】
その後、評価用電池を1時間休止後(工程S16)、定電流定電圧充電を行う(定電流定電圧充電工程S17)。本実施形態では、4.0Vまで1.6mA―0.2mAの電流で定電流定電圧充電を行う。そして、定電流定電圧充電工程S17で4.0Vに充電された評価用電池の正極材料の抵抗測定を交流インピーダンス法にて行う(交流インピーダンス測定工程S18)。
【0040】
このように本実施形態では、まず、評価用電池の組み立て後に4時間以上静置することにより、電解液を多孔質状である正極の電極膜に浸透させる。その後にインピーダンス測定を行う充電状態まで充電してからインピーダンス測定をする場合、正極活物質LiNiOからLiが負極のLi金属表面に到達するようになる。このとき、負極の表面にLiデンドライトが斑状に形成されるが、この形成量には、ばらつきがあるため、負極表面の状態が安定しない状態となる。
【0041】
このため、本実施形態では、正極材料の初期評価として、充放電容量とインピーダンスを測定するが、充放電を1サイクル実施した後、インピーダンスを測定する充電状態まで充電すると、正極からLiを引き出して負極のLi金属表面にLiが到達する量が2度の充電をすることによって、前述の2倍以上になり、Li金属の表面に形成されるLiデンドライトを一様にしている。充放電のサイクル数を1回増やして2回にすると、時間、コストがかかる上に、負極のLi金属表面にLiが到達する量が更に増えて、Liデンドライトの結晶が成長して、セパレータを突き抜けることによるショートの危険性が高まる。
【0042】
通常は、1サイクルすることで評価結果の精度を向上させることができるが、最適なサイクル数は、充放電条件や負極板の大きさも考慮して、実験等で適宜最適な回数を決めることができる。この結果、インピーダンスが安定して測定できるようになる。このようにして、本実施形態では、負極表面に形成されるデンドライトの形成量のばらつきが低減されて負極表面が安定するようになるので、交流インピーダンス法で正極材料の抵抗評価値の精度が向上するようになる。
【実施例
【0043】
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料の抵抗評価方法について実施例により詳しく説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
電池評価に使用する負極板として厚み1.0mmの金属リチウムを直径14mmに打ち抜いた物を用い、正極材としては、ニッケル酸リチウムの粉末75wt%と、導電材となるカーボン粉末としてアセチレンブラック粉末を、結着剤であるポリテトラフルオロエチレンとで2対1で混ぜ合わせたもの25wt%とを混ぜ合わせた直径11mm重さ75mgを用いる。この正極膜の活物質重量物は、52.5mg相当である。セパレータは、JIS P 3801の保留粒子系0.3mであり、厚さ0.20mmであるガラス繊維製のフィルタを直径16mmに切り取ったものを用いた。
【0045】
電解液は、電解質LiClO、1モル/Lを含有するエチレンカーボネート(EC)とジエチルメチルカーボネート(DEC)の等量混合液を用いた。これらの材料を用いて露点-30℃未満のグローブボックス又はドライルームの中で2032型コイン電池を2個作製した。
【0046】
抵抗評価は、作製した電池を4時間静置し、0.4mAで4.3Vまで定電流充電を行い、1時間の休止の後、3.0Vまで放電するサイクルを1サイクル行い、1時間休止後に4.0Vまで1.6mA―0.2mAの電流で定電流定電圧充電を行った。4.0Vに充電された電池を交流インピーダンス法にて測定を行い、コールコールプロットにて得られた曲線に対し、等価回路を用いて正極の界面抵抗を計算した。
【0047】
(比較例1)
実施例1と同等の電池構成で作製した電池を1時間静置した後に、4.0Vまで1.6mA―0.2mAの電流で定電流定電圧充電をおこなった。4.0Vに充電された電池を交流インピーダンス法にて測定を行ったことを除いて実施例1と同様に実施した。
【0048】
(比較例2)
実施例1と同等の電池構成で作製した電池を12時間静置した後に、4.0Vまで1.6mA―0.2mAの電流で定電流定電圧充電を行った。4.0Vに充電された電池を交流インピーダンス法にて測定を行ったことを除いて実施例1と同様に実施した。
【0049】
これら実施例1、比較例1、及び比較例2の抵抗評価結果を以下の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1の抵抗評価結果では、電池2個の正極界面抵抗の値のばらつき(2個の電池の正極界面抵抗値の差異)が1個目の測定値の約2.0%であり、ばらつきの小さな、安定した抵抗評価結果が得られることが分かった。一方、比較例1では、電池2個の正極界面抵抗のばらつきが1個目の測定値の約40%であり、比較例2では、電池2個の正極界面抵抗のばらつきが1個目の測定値の25%であった。以上の結果から、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料の抵抗評価方法を用いることによって、リチウムイオン二次電池の抵抗評価結果のばらつきを小さくして、精度を向上させることができることが分かった。
【0052】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0053】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、非水系電解質二次電池の構成、非水系電解質二次電池用正極材料の抵抗評価方法の動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 非水系電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)、2 ケース、2a 正極缶、2b 負極缶、2c ガスケット、3 電極、3a 正極(正極膜)、3b 負極、3c セパレータ、4 ウェーブワッシャー、S11 評価用電池作製工程、S12 静置工程、S13 定電流充電工程、S14 休止工程、S15 定電流放電工程、S16休止工程、S17 定電流定電圧充電工程、S18 交流インピーダンス測定工程
図1
図2